説明

表面温度分布検知装置とこれを利用した配管の減肉検知方法

【課題】迅速且つ精度良く温度分布を検知できる表面温度分布検知装置と、これを利用した配管の減肉検知方法を提供する。
【解決手段】高温流体が流動する金属配管1の表面温度分布を検知する。配管1の表面に、配管1を一方の電極とし、誘電層およびもう一方の電極となる金属電極を備えるセンサ部10により構成されたマクロストリップ線路と、ETDR11と、インピーダンス計測装置12と、表示装置13を有する。センサ部10の一つの形態は、温度に応じて抵抗率が変化するサーミスタ層と、サーミスタ層よりも幅狭な金属電極とからなる。配管1の減肉部の表面が他の部位より優先的に高温となると、当該高温部位におけるサーミスタ層の一部の抵抗率も他の部位より優先的に変化する。温度変化に基づき、他の部位より優先的に変化するインピーダンス分布の観測により、配管減肉の状態および位置を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱影響を受ける構造物、特に内部を高温流体が流動する配管の表面温度分布を検知する表面温度分布検知装置と、これを利用した配管の減肉検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所や原子力発電所などでは、内部を高温流体が流動する金属製の配管が設けられている。当該配管は、内部流体による腐食や磨耗等によって周壁の一部が内面から浸食されることで局所的に薄肉となった減肉部が生じることがある。配管の減肉が進行すると、最終的には配管の一部に開口が生じ、そこから内部の高温流体が漏洩して極めて危険である。したがって、配管の減肉状況を診断できる技術が従来から求められている。
【0003】
従来では、配管の減肉状況を診断できる技術として、例えば下記特許文献1や特許文献2のように、光ファイバによる光学的時間領域反射法(Optical Time Domain Reflectometry:OTDR)を利用した温度分布測定装置によって、配管表面の温度分布を検知する方法が提案されている。当該光ファイバを利用した温度分布測定装置は、光ファイバにパルスレーザ光を入射し、当該入射パルスレーザ光によって光ファイバ中の各点で生じるラマン散乱光強度を検出するものである。ここで、配管の一部が減肉すると、当該減肉部の表面温度は他の部位に比べて優先的に上昇する。そこで、この温度分布測定装置は、ラマン散乱光が散乱光発生箇所の温度に敏感に依存することを利用して、ラマン散乱光強度の検出結果から散乱光発生箇所の温度を演算して温度を検知するものである。散乱光発生箇所は、光ファイバ中の光の伝播時間からファイバ中のどの位置において発生した散乱光か判断できる。これにより、配管のどの部位において減肉部が発生しているかを特定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−156315号公報
【特許文献2】特開平10−207534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、光ファイバによるOTDRを利用した温度分布測定方法は、細かくても数十cm間隔でしか温度変化を検知できず距離分解能が低い。これでは、正確に減肉部を特定できず、検知精度に課題が残る。また、光ファイバによるOTDR法を利用した温度分布測定方法では、測定結果を得るのに1時間程度もかかり測定に長時間を要するという問題もある。測定に長時間を必要とする場合、流体の温度変化が減肉部の温度変化として現れても、その時間変化としては平均化されてしまい温度分布を的確に検出できない可能性がある。したがって、温度変化から減肉部を検出する場合には、流体の温度変化が減肉部の温度変化として現れるような短時間の温度変化を捉えることが必須となる。
【0006】
そこで本発明者らは、光ファイバによるOTDRを利用した温度分布測定方法よりも、より的確に配管の温度分布を検知して減肉の発生を検知できないかと鋭意検討の結果、配管の表面温度分布を電気的時間領域反射法を利用したインピーダンス分布として間接的に検知することで、温度変化に対する高い距離分解能と優れた応答速度を両立できることを知見し、本発明を完成するに至った。温度変化に対する高い距離分解能と優れた応答速度は、内部を高温流体が流動する配管のみならず、熱影響を受ける構造物全般において求められる。そこで、本発明は、配管も含めて熱影響を受ける構造物の表面温度分布を的確に検知できる表面温度分布検知装置と、これを利用した配管の減肉検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、大きく分けて2つの形態(方法)により解決できる。先ず、内部を高温流体が流動する金属製の配管など、熱影響を受ける構造物の表面温度分布を検知する、表面温度分布検知装置の第1の形態では、構造物の表面に設けられ、該構造物を一方の電極として使用するセンサ部と、該センサ部の一端から電気パルス波を入射し、その反射波を検知する電気的時間領域反射装置(Electrical Time Domain Reflectometer、以下、ETDRと略称することがある)と、該電気的時間領域反射装置によって検知された検知信号から、前記センサ部のインピーダンスを計測するインピーダンス計測装置とを有する。ここで、前記センサ部は、前記構造物の表面に接合される誘電層と、該誘電層上に積層され、温度に応じて抵抗率が変化するサーミスタ層と、該サーミスタ層上に積層された金属電極とからなり、前記金属電極は、前記サーミスタ層よりも幅が狭いライン状に形成されて、他方の電極を構成する。そして、前記熱影響に起因した構造物の表面温度分布を、前記サーミスタ層の抵抗率変化に基づく前記センサ部のインピーダンス分布として検知できることを特徴とする。サーミスタ層としては、温度上昇に伴い抵抗率が減少するNTC(Negative Temperature Coefficient)サーミスタでもよいし、温度上昇に伴い抵抗率が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスタでもよい。
【0008】
ETDRは、電子回路で間欠的に発信したマイクロパルス波を、伝送ライン、例えばマイクロストリップ線路を媒体として伝播させ、その反射マイクロパルス波を受信する装置であり、インピーダンス計測装置によって測定対象のインピーダンス分布(インピーダンスと位置の関係)を測定するものである。1回のパルス波の送信に対し僅かな時間領域のみ受信を行うことからタイムドメインと呼ばれる。マイクロストリップ線路とは、上下又は左右に対向配置された2つの電極間に、誘電層が挟まれた構造をいう。マイクロストリップ線路は、同軸ケーブル等と同様の分布定数回路を構成し、あるインピーダンス分布を持つ。後述の第2の形態も含めて本発明では、測定対象である構造物をマイクロストリップ線路における一方の電極として使用しながら、センサ部のインピーダンスをインピーダンス計測装置によって計測する構成となっている。すなわち、構造物を一方の電極として使用するセンサ部はマイクロストリップ線路の一部を構成し、センサ部の金属電極がマイクロストリップ線路における他方の電極を構成する。分布定数回路(マイクロストリップ線路)上にインピーダンスの異なる特異点(不連続点)が存在していると、入射したパルス波がその位置に到達した時点でその一部が反射して入射端に戻る、という現象を利用している。
【0009】
上述のように、本発明においては、マイクロストリップ線路における一方の電極としての構造物と、他方の電極としての金属電極との間に誘電層が存在することになる。そのうえで、第1の形態では、センサ部を構成する誘電層と金属電極との間に、サーミスタ層が設けられている点に特徴がある。構造物の表面温度が上昇すると、これに伴い当該サーミスタ層の抵抗率も変化する。構造物の表面温度が一律に上昇すれば、これに応じてサーミスタ層の抵抗率も全体的に均一に変化する。一方、構造物の表面温度に場所による差異(分布)が生じていれば、その温度分布に応じてサーミスタ層の抵抗率にも場所による差異(分布)が生じる。例えば、構造物としての配管の一部が減肉して、当該減肉部の表面温度が他の部位に比べて優先的に昇温すると、当該減肉部上にあるサーミスタ層の一部も他の部位に優先して抵抗率が変化することになる。この意味において、サーミスタ層は温度感受層ということもでき、金属電極と共にマイクロストリップ線路における他方の電極を構成し得る。
【0010】
例えばサーミスタ層がNTCサーミスタ層であれば、構造物の表面温度上昇に応じてサーミスタ層の抵抗率が低下すると、当該サーミスタ層もマイクロストリップ線路における他方の電極として機能し得るようになり、センサ部の見掛けの電極面積が金属電極のみならずサーミスタ層にも拡がることになる。これにより、センサ部の静電容量が増加するため、センサ部のインピーダンスが低下する。逆に、サーミスタ層がPTCサーミスタ層であれば、構造物の表面温度上昇に応じてサーミスタ層の抵抗率が上昇するので、センサ部の見掛けの電極面積は、当初サーミスタ層から金属電極のみに減少することになる。これにより、センサ部の静電容量が減少するため、センサ部のインピーダンスが上昇する。なお、前記サーミスタ層は、当該サーミスタ特性を有する材料のバルク材(焼結体)とすることもできるが、温度に応じて抵抗率が変化する(サーミスタ特性を有する)多数のセラミック粒子を樹脂中に分散した複合層(コンポジット)とすることが好ましい。
【0011】
このような作用を有する第1の形態の表面温度分布検知装置は、配管の減肉検知方法へ利用できる。具体的には、内部を高温流体が流動する配管の減肉を検知する配管の減肉検知方法であって、前記配管の表面に、該配管を一方の電極とし、前記配管側から誘電層と、温度に応じて抵抗率が変化するサーミスタ層と、他方の電極を構成する金属電極とがこれの順で積層されたセンサ部を設け、前記配管の一部に生じた減肉部の表面が前記高温流体によって他の部位より優先的に高温となると、当該高温部位における前記サーミスタ層の一部の抵抗率も他の部位より優先的に変化して前記センサ部における見掛けの電極面積が変化することを利用して、前記センサ部の一端から電気的時間領域反射装置によって電気パルス波を入射し、その反射波からインピーダンス計測装置によって前記センサ部のインピーダンスを計測して、他の部位より優先的にインピーダンスが変化する部位の存在により配管の減肉を検知することができる。
【0012】
また、表面温度分布検知装置の第2の形態は、構造物の表面に設けられ、該構造物を一方の電極として使用するセンサ部と、該センサ部の一端から電気パルス波を入射し、その反射波を検知する電気的時間領域反射装置(ETDR)と、該電気的時間領域反射装置によって検知された検知信号から、前記センサ部のインピーダンスを計測するインピーダンス計測装置とを有する。ここでの前記センサ部は、前記構造物の表面に接合される誘電層と、該誘電層上に積層され、他方の電極となる金属電極とからなる。前記誘電層には、温度に応じて比誘電率が変化する誘電体材料が使用されている。そして、前記熱影響に起因した構造物の表面温度分布を、前記誘電層の比誘電率変化に基づく前記センサ部のインピーダンス分布として検知できることを特徴とする。
【0013】
当該第2の形態の表面温度分布検知装置では、配管などの構造物の表面温度上昇に応じて誘電層の比誘電率が変化すれば、センサ部の静電容量も比例して変化するので、インピーダンス変化として検知することができる。この意味において、第2の形態における誘電層は、温度感受層ということもできる。ここでの誘電層も、誘電材料からなるバルク板材とすることもできるが、多数の誘電体材料粒子を樹脂中に分散した複合層(コンポジット)とすることが好ましい。
【0014】
このような作用を有する第2の形態の表面温度分布検知装置も、配管の減肉検知方法へ利用できる。具体的には、内部を高温流体が流動する配管の減肉を検知する配管の減肉検知方法であって、前記配管の表面に、該配管を一方の電極とし、温度に応じて比誘電率が変化する誘電体材料を含む誘電層と、該誘電層上に積層され他方の電極となる金属電極とからなるセンサ部を設け、前記配管の一部に生じた減肉部の表面が前記高温流体によって他の部位より優先的に高温となると、当該高温部位における前記誘電層の一部の比誘電率も他の部位より優先的に変化することを利用して、前記センサ部の一端から電気的時間領域反射装置によって電気パルス波を入射し、その反射波からインピーダンス計測装置によって前記センサ部のインピーダンスを計測して、他の部位より優先的にインピーダンスが変化する部位の存在により配管の減肉を検知することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の表面温度分布検知装置によれば、配管などの熱影響を受ける構造物の表面温度分布をインピーダンス分布として検知するので、温度変化に対する高い距離分解能と優れた応答速度を有し、OTDRを利用した温度分布測定よりも迅速且つ的確に検知できる。詳しくは、構造物の表面温度分布をセンサ部の温度感受層として機能するサーミスタ層や誘電層によって感受し、これに基づくインピーダンスを計測する構成となっている。センサ部のインピーダンスはほぼリアルタイムで計測することができるので、計測(検知)時間を大幅に短縮できる。しかも、インピーダンス分布はミリオーダーで計測可能なので、距離分解能も高い。
【0016】
したがって、このような表面温度分布検知装置を利用した配管の減肉検知方法によれば、OTDRを利用した減肉検知方法よりも迅速且つ的確に減肉状況を検知診断できる。温度感受層としてのサーミスタ層や誘電層を、樹脂中にセラミック粒子を分散した複合層としていれば、例えばバルク板材とするよりも可撓性が良好なので、構造物表面への設置が容易であると共に、構造物の形状に追従させ易い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】表面温度分布検知装置を設置した配管の一部破断斜視図である。
【図2】第1の形態の表面温度分布検知装置を設置した配管の要部拡大断面図である。
【図3】第1の形態の表面温度分布検知装置を設置した配管と減肉部温度分布の模式図である。
【図4】第1の形態の表面温度分布検知装置において、温度上昇に伴うインピーダンス分布の変化を示すグラフである。
【図5】第1の形態の表面温度分布検知装置において、センサ部上の特定部位における温度変化とインピーダンス変化率との関係を示すグラフである。
【図6】第2の形態の表面温度分布検知装置を設置した配管の要部拡大断面図である。
【図7】第2の形態の表面温度分布検知装置において、温度上昇に伴うインピーダンス分布の変化を示すグラフである。
【図8】第2の形態の表面温度分布検知装置において、センサ部上の特定部位における温度変化とインピーダンス変化率との関係を示すグラフである。
【図9】減肉部を有する配管における温度上昇に伴うインピーダンス分布の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照しながら本発明に係る表面温度分布検知装置とこれを利用した配管の減肉検知方法の実施の形態について説明するが、これに限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。特に、表面温度分布検知装置を配管に設けた形態を代表例として説明するが、本発明の表面温度分布検知装置は、熱影響を受けて温度が上昇するものである限り、種々の構造物へ適用可能である。
【0019】
[第1の形態]
先ず、表面温度分布検知装置(以下、温度分布検知装置と略す)の構成について説明する。温度分布検知装置は、火力発電所や原子力発電所等において、内部を100〜250℃程度の高温流体が流動する配管に設置される。配管は、炭素鋼などの金属製であり、長尺な円筒形に形成されている。そのうえで、温度分布検知装置は、図1に示されるように、配管1の表面に設けられるセンサ部10と、当該センサ部10の一端から電気パルス波を入射し、その反射波を検知する電気的時間領域反射装置(ETDR)11と、当該ETDR11によって検知された検知信号から、センサ部10のインピーダンスを計測するインピーダンス計測装置12と、当該インピーダンス計測装置12による計測結果を表示する表示装置13とを有する。センサ部10は、配管1の長手方向に沿ってライン状に設けられ、当該センサ部10の長手方向一端に固定されたコネクタ14を介してETDR11から電気パルス波が入射される。インピーダンス計測装置12としては、例えばデジタイジングオシロスコープを使用できる。表示装置13の代表例としてはモニタであり、一般的にはインピーダンス計測装置12へ一体的に設けられている。なお、図1には配管1の表面に1本のセンサ部10を設けた状態で図示しているが、配管1の長手方向に沿って配されるセンサ部10を複数本並設してもよい。この場合、各センサ部10は、周方向へ等間隔で配すことが好ましい。各センサ部10は、1つのETDR11に接続することができる。
【0020】
図2に示されるように、センサ部10は、配管1の表面に接合される誘電層15と、当該誘電層15上に積層されるサーミスタ層16と、当該サーミスタ層16上に積層される金属電極17とから成る。また、センサ部10は配管1を一方の電極として使用する。すなわち、センサ部10は、対向配置された2つの電極間に誘電層が挟まれた構造からなるマイクロストリップ線路の一部として構成される。当該マイクロストリップ線路は、マイクロストリップ線路における一方の電極(以下、図2を基準として下部電極と称す)としての配管1と、マイクロストリップ線路における他方の電極(以下、図2を基準として上部電極と称す)としての金属電極17と、両電極1・17の間に配された誘電層15とによって構成される。サーミスタ層16は、配管1の表面温度分布に応じてセンサ部10の見掛けの面積を増減させる温度感受性の電極として機能する。
【0021】
誘電層15としては、コンデンサの電極間挿入材料として使用される公知の樹脂やセラミック等を使用できるが、中でも熱的安定性に優れ、誘電損失が低く、且つ誘電損失の温度依存性も小さい材料が好ましい。このような材料としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂や、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂等を例示できる。本温度分布検知装置は、内部を100〜250℃程度の高温流体が流動する配管1の表面温度の分布を検知する装置なので、誘電層15にも一定の熱的安定性(耐熱性)が要求されるが、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂やポリイミド樹脂、シリコーン樹脂等であれば、当該温度範囲でも物性が安定している。誘電損失が低く且つ誘電損失の温度依存性も小さければ、マイクロストリップ線路を長くすることができ、長尺な配管1の長手方向に沿った広い範囲の温度分布を検知できる。なお、誘電層15とサーミスタ層16とを積層させていると、配管1の表面温度によってサーミスタ層16が低抵抗となっても誘電層15で直流成分が遮断されるので、誘電損失は増加しない。誘電層15は長尺な薄板状を呈し、配管1の表面に、これの長手方向に沿って接着される。サーミスタ層16には、誘電層15を介して配管1の表面温度が伝達される。したがって、誘電層15の厚みはできるだけ小さいことが好ましい。誘電層15の厚みの目安としては、0.01〜0.5mm程度である。少なくとも、サーミスタ層16の厚み以下としておくことが好ましい。また、誘電層15の厚みを小さくすると、センサ部10におけるマイクロストリップ線路の伝送損失の一種である放射損の抑制にも有効である。
【0022】
サーミスタ層16は、温度によって抵抗率が変化する(抵抗率の温度依存性を有する)多数のセラミック粒子が樹脂基材中に分散された複合層となっている。サーミスタ層16が複合層となっていれば、一定の可撓性を有するので配管1の形状に的確に追従させることができる。したがって、センサ部10の設置が容易であると共に、配管1との接合状態が良好なので温度分布感受性も向上する。当該サーミスタ特性を有するセラミックとしては、温度上昇に伴い抵抗率が減少するNTC特性を有するセラミック(NTCセラミック)でもよいし、温度上昇に伴い抵抗率が増大するPTC特性を有するセラミック(PTCセラミック)でもよい。NTCセラミックには、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)などの酸化物を混合して焼結したものを使用できる。中でも、抵抗率の温度依存性が大きく、且つ抵抗率が低いMnNiCo系酸化物が好ましい。MnNiCo系酸化物としては、例えばMn:Ni:Co=2:1:1のMn1.5Ni0.75Co0.754や、Mn:Ni:Co=2:3:1のMn1.0Ni1.5Co0.54などを例示できる。PTCセラミックには、チタン酸バリウム(BaTiO3)に添加物を加えたものを使用できる。これは、チタン酸バリウムがキュリー温度付近で急激に電気抵抗が増大する性質を利用している。なお、PTC材料には低融点のポリマー中にカーボンブラックやニッケル等の導電性粒子を分散させたポリマーPTCもあるが、耐熱性が要求される本発明には不向きである。NTCサーミスタとPTCサーミスタとの比較においては、温度に対する抵抗率の変化が比例的(線形的)であるNTCサーミスタが好ましい。
【0023】
サーミスタ層16の母材(セラミック粒子の分散媒体)となる樹脂(高分子)には、成形したときにある程度の可撓性を有し、且つ耐熱性の良好な材料を使用する。好ましくは、250℃以上の耐熱性を有する樹脂とする。このような耐熱性樹脂としては、アラミド(芳香族ポリアミド)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリベンゾイミダゾールおよびポリアリレート等を例示できる。セラミック粒子の粒径は特に限定されないが、製造容易性及び樹脂基材中への分散性を考慮して0.01〜500μm程度とすればよい。好ましくは0.1〜250μm程度である。セラミック粒子はサーミスタ層16の機能を発揮するメイン材料なので、樹脂基材中にはできるだけ多く分散させることが好ましい。具体的には、サーミスタ層16中のセラミック粒子の割合を50〜95vol%、好ましくは60〜90vol%とする。サーミスタ層16中のセラミック粒子の割合が低いと配管1の表面温度の感受性が低下し、延いては温度分布検知装置の検知精度が低下する。一方、サーミスタ層16中のセラミック粒子の割合が多すぎると、機械的強度や可撓性が低下してしまう。
【0024】
サーミスタ層16の長さは誘電層15と同じ長さとする。サーミスタ層16はセンサ部10における温度感受層として機能する層であり、サーミスタ層16が誘電層15や金属電極17より短いと、実質的にセンサ部10による温度分布検知範囲が短くなるからである。サーミスタ層16の幅は、後述のように金属電極17より大きければ特に限定されないが、誘電層15と同じ幅とすればよい。サーミスタ層16の幅が誘電層15の幅を超えると、高温でサーミスタ層16が低抵抗となった場合に、配管1表面と金属電極17が短絡されてしまうためである。一方、サーミスタ層16の幅が誘電層15よりも狭い場合には、サーミスタ層16の幅の領域が伝送ラインとして機能する。すなわち、サーミスタ層16の面積と誘電層15との面積は同じにすることが好ましい。サーミスタ層16の厚みは、0.1〜1.0mm程度とすればよい。
【0025】
金属電極17は、導電性が良好なCu(抵抗率1.72×10-8Ωm)やAg(抵抗率1.62×10-8Ωm)などの金属からなり、センサ部10の長手方向両端に亘ってライン状に形成されている。金属電極17の導電率が高いほど、センサ部10におけるマイクロストリップ線路の伝送損失(特に導体損)を低減できる。金属電極17は、サーミスタ層16上に接着、印刷、塗布、溶射等によって積層できる。金属電極17はサーミスタ層16の幅方向中央に設ける。金属電極17がサーミスタ層16上において幅方向のいずれかの方向にズレていると、サーミスタ層16による見掛けの上部電極面積増減にバラツキが生じ、正確な温度分布を検知できなくなる。また、金属電極17の幅はサーミスタ層16の幅より小さくする。サーミスタ層16による上部電極面積増減効果を確実に担保するためである。したがって、金属電極17の幅とサーミスタ層16の幅との差は、可能な限りより大きくすることが好ましい。具体的には、金属電極17の幅をサーミスタ層16の幅の少なくとも1/2以下とする。好ましくは金属電極17の幅をサーミスタ層16の幅の1/10以下とし、より好ましくは1/20以下とする。金属電極17の幅とサーミスタ層16の幅との差が大きいほど(金属電極17の幅が狭いほど)、温度変化に対するインピーダンス変化量も顕著になる。なお、金属電極17と誘電層15との関係は特に限定されないが、金属電極17の厚さを誘電層15の厚さの1.5〜2.5倍程度とすれば、導体損の低減に有利である。
【0026】
次に、本温度分布検知装置を使用して、配管1の表面温度分布を検知する機構(作用)について説明する。配管1内を高温流体が流動しておらず、配管1の表面温度が上昇していない未昇温状態では、センサ部10の温度感受層たるサーミスタ層16も温度が上昇していない。この未昇温状態においては、サーミスタ層16がNTCサーミスタ層であれば初期抵抗率が高く、センサ部10の実質的な電極面積は金属電極17の面積に等しい。一方、サーミスタ層16がPTCサーミスタ層であれば初期抵抗率は低く、センサ部10の実質的な電極面積はサーミスタ層16の面積に等しい。このとき、ETDR11からコネクタ14を介してセンサ部10に電気パルス波が入射され、その反射パルス波がETDR11によって検知される。すると、ETDR11からの検知信号に基づいて、インピーダンス計測装置12が所定のプログラムによってセンサ部10のインピーダンスを計測し、その結果が表示装置13に表示される。このときのインピーダンス分布は、配管1の表面温度が均一(室温)なのでサーミスタ層16の抵抗率分布は均一であり、入射パルス波の伝搬において特異な反射を示す領域がないため均一なインピーダンス分布が観測される。
【0027】
一方、配管1の内部を高温流体が流動して配管1の表面温度が上昇し、その温度がサーミスタ層16に伝達されて当該サーミスタ層16も昇温すると、NTCサーミスタ層であれば抵抗率が低下して導電性が発現し、センサ部10の実質的な電極面積がサーミスタ層16の面積に等しくなる。すなわち、センサ部10の見掛け上の電極面積が拡大することで静電容量が増加し、センサ部10のインピーダンスが低下する。一方、PCTサーミスタ層であれば昇温に伴い抵抗率が増加することで、センサ部10の見掛け上の電極面積は金属電極17の面積に減少する。これにより、センサ部10の静電容量が低下するので、当該センサ部10のインピーダンスが増加する。なお、配管1に減肉部が生じておらず、配管1の表面温度がほぼ均一に昇温すれば、これに伴うセンサ部10のインピーダンス分布も、長手方向全体に亘ってほぼ均一に増減する。
【0028】
これに対し、配管1の一部に減肉部1Eが生じていれば(図1参照)、配管1の正常部と減肉部とでは表面温度変化に差異(分布)が生じる。詳しい機構は後述するが、これによりセンサ部10のインピーダンス分布に特異点(不連続点)が存在すると、入射パルス波の一部は当該特異点で反射して入射端に戻る。この特異点におけるインピーダンスの変化量が大きいほど、反射パルス波の振幅も大きい。また、電気パルス波は一定の伝搬速度を有するため、電気パルス波を入射してから反射パルス波が戻るまでには時間的な遅れが生じる。この遅延時間を計測することにより、速度×時間という単純な関係から電気パルス波が反射した位置を同定することもできる。すなわち、1つの測定結果によって得られる反射パルス波の振幅と遅延時間から表面温度変化量の分布を位置の関数として診断でき、その表面温度変化の分布から減肉部1Eを検出することができる。
【0029】
これを前提として、配管1の減肉検知方法について説明する。配管1の内部を高温流体が流動すると、配管1は熱されながら内部流体による腐食や磨耗を受ける。この状態が繰り返しないし継続されると、配管1の周壁が内面から浸食されて、図1に示すように、配管1の一部には、減肉した減肉部1Eが生じることがある。減肉部1Eが存在している状態において再度配管1内に高温流体を流動させると、図3の斜線で示すように、減肉部1Eの表面温度が他の部位より先んじて(優先して)昇温し易い。これに伴い、当該高温部位におけるサーミスタ層16の一部の抵抗率も他の部位より優先的に変化して、センサ部10の見掛けの電極面積が変化する。具体的には、サーミスタ層16がNTCサーミスタであれば、図3の斜線部分の範囲において抵抗率が低下し、センサ部10の見掛けの電極面積が当該斜線部分で示すような面積となり、減肉部1Eに相当する当該部分のインピーダンスのみが他の部位に比べて大きく低下することになる。一方、サーミスタ層16がPTCサーミスタ層であれば、図3の斜線部分の範囲の抵抗率が他の部位に優先して上昇し、当該部分においてはセンサ部10の見掛けの電極面積が金属電極17の面積となる。これにより、減肉部1Eに相当する当該部分のインピーダンスのみが、他の部位に比べて大きく上昇することになる。そして、このように特異なセンサ部10のインピーダンス分布を表示装置13によって監視することで、又は、定常状態の基準インピーダンス分布と対比してインピーダンス分布が変化したことを演算処理装置が検知ときに警告が表示装置13に表示されたり警報が鳴ることで、減肉部の位置及び進行状況を検知診断することができる。
【0030】
次に、第1形態の温度分布検知装置を使用した検知試験について説明する。本検知試験では、サーミスタ層として好適なNTCサーミスタを例として使用した。模擬配管として、長さ80mm、幅10mm、厚み1mmのSUS430製金属板からなる試験片を使用した。誘電層としては、市販のPTFEフィルム(日東電工社製、ニトフロン、902UL、厚み0.1mm)を使用し、試験片と同じ面積に切断した。サーミスタ層には、高純度化学社製のMn34(99.9%)、NiO(99.9%)、Co34(99.9%)の粉体をMn:Ni:Co=2:1:1となるように混合焼成して得られたMnNiCo系酸化物を粉砕し、その粉末をガラス転移温度Tgが295℃と耐熱性に優れるポリイミド樹脂(新日本理化社製、リカコートSN−20)へ80vol%の割合で分散させた複合体を作成した。サーミスタ層としての複合体は、PTFEフィルムと同じ面積で厚み0.3mmに成形した。最後に、金属電極として幅1mmのCuラインを複合体上の幅方向中央部に積層して、誘電層、NTCサーミスタ複合層、及びCu電極からなるセンサ部とし、これを試験片の上面にエポキシ樹脂(コニシボンド社製、E−209)で接着した。この試験片及びセンサ部の一端にSMAコネクタを設置し、パルス波を入射させる入射端とした。この入射端の反対側に位置する終端は開放とした。
【0031】
センサ部を接合した試験片の終端から約3cmの区間をホットプレート上に載せて加熱可能にした。残りの区間には、冷却ユニットにて氷点付近に保持されている金属板に接触させた。センサ部の一端にはSMAコネクタを介して同軸ケーブルを固定し、ETDRユニット(Agilent Technology社製、54754A)を組み込んだデジタイジングオシロスコープ(Agilent Technology社製、54750A)に接続し、計測されたインピーダンス分布を計測プログラム(HP社製、VEE Pro)によって取り込んだ。このインピーダンス分布の温度依存性を評価するために、ホットプレートの温度を40℃から240℃まで20℃間隔で段階的に昇温させた。このときのインピーダンス変化率分布を図4に示す。インピーダンス変化率は、温度変化時のインピーダンス変化量ΔZを初期状態でのインピーダンスZ0で除した値である。図4のグラフにおける横軸は、センサ部における電気パルス波入射端からの距離位置である。このグラフにおいて、5〜8cmの区間が加熱区間である。また、センサ部の入射端から7.5mmの位置における温度変化とインピーダンス変化率との関係を図5に示す。
【0032】
図4の結果から、試験片の一部のみ(グラフ中横軸の5〜8cmの区間)が他の部位に比して優先的に昇温すると、これに伴い当該部位に相当するインピーダンスも他の部位に比して優先的に変化する分布となることがわかる。これは、昇温に伴いNTCサーミスタ層の抵抗率が低下して、センサ部の見掛け電極面積(マイクロストリップ線路における見掛けの上部電極面積)が増大したことに起因する。これにより、配管の一部に減肉部が生じ、当該減肉部の表面温度が他の部位に優先して昇温すると、当該部位のインピーダンスも他の部位に優先して大きく変動したインピーダンス分布となり、当該特異点の有無や程度によって配管の減肉状況を検知診断できることが確認できた。なお、この各インピーダンス分布の計測はいずれも10秒以内で完了しており、高速な計測が可能である。また、図5の結果を見ると、上記のような構成のセンサ部とすれば、100℃の温度変化に対して約8%ものインピーダンス変化率があり、且つ温度に対してインピーダンスが線形的に変化しているので、温度分布センサとして、延いては温度分布検知装置として好適であることも確認できた。
【0033】
[第2の形態]
上記第1の形態では、温度変化に応じてセンサ部10の抵抗率を変化させたが、比誘電率を変化させる構成とすることもできる。以下に、センサ部の比誘電率を変化させる構成(第2の形態)の温度分布検知装置とこれを利用した配管の減肉検知方法について説明する。
【0034】
本第2形態の温度分布検知装置も、配管1の表面にこれの長手方向に沿ってライン状に設けられたセンサ部20と、当該センサ部20の一端からコネクタ14を介して電気パルス波を入射し、その反射波を検知する電気的時間領域反射装置(ETDR)11と、当該ETDR11によって検知された検知信号から、センサ部20のインピーダンスを計測するインピーダンス計測装置12と、当該インピーダンス計測装置12による計測結果を表示する表示装置13とを有する点は、先の第1の形態と同様である(図1参照)。また、センサ部20も、配管1をマイクロストリップ線路における下部電極として使用する。しかし、本第2の形態では、図6に示すように、センサ部20は、配管1の表面に接合される誘電層25と、当該誘電層25上に積層される金属電極27とによって構成されている。つまり、第2の形態では、第1の形態のようなサーミスタ層は無い。したがって、センサ部20の金属電極27が、そのままマイクロストリップ線路における上部電極となる。
【0035】
誘電層25は、温度に応じて比誘電率が変化する誘電体材料粒子を樹脂基材中に分散した複合層(コンポジット)とされている。これにより、誘電層25が一定の可撓性を有し、配管1の形状に的確に対応させられる。誘電層25を複合層とした詳しい効果は、第1形態のサーミスタ層16と同様である。
【0036】
誘電体材料の分散媒体となる樹脂には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や四フッ化エチレン−エチレン共重合樹脂(ETFE)などのフッ素樹脂や、シリコーン樹脂を使用できる。PTFEやETFE等のフッ素樹脂は、高温領域においても誘電特性が安定している。PTFEより高い成形加工性を持つ点において、ETFEの方が好ましい。シリコーン樹脂は誘電損失が小さく、且つ比誘電率等の高温領域での安定性も良い。樹脂成形品とした際の可撓性が高い点において、フッ素樹脂よりもシリコーン樹脂が好ましい。また、シリコーン樹脂は、厳密に言えば温度上昇に伴い比誘電率が下がる傾向があるが、当該傾向は発明の本質に合致しているので、この点においても好ましい。シリコーン樹脂としては、メチル系シリコーンレジン(信越シリコーン社製 KR-242A)やメチルフェニル系シリコーンレジン(信越シリコーン社製 KR-271)を使用できる。メチル系シリコーンレジンの方が比較的粘度が低く、分散媒体として好適である。なお、先の第1の形態で使用したポリイミドは、高温で高い誘電損失を有するので、比誘電率の温度依存性を利用する第2の形態では使用できない。
【0037】
誘電体材料は、常誘電性であっても強誘電性であってもよい。誘電体材料としては、BaTiO3、SrTiO3、CaTiO3、Ba(Ti,Zr)O3、Ba(Ti,Sn)O3、(Ba,Ca)TiO3、(Sr,Ca)TiO3、(Na,Cd)NbO3、(Na,Sr)NbO3、(Sr,Ba)Nb26、Ba(In,Nb)O3、(Ba,Na)3(Nb,Ti)515、PdTiO3、PdZrO3、PdHfO3、Pd(Sc,Nb)O3、Pd(Zn,Nb)O3、(Sr,Pd)TiO3、(Ba,Pd)TiO3、KNbO3、K(Ta,Nb)O3、などが挙げられる。中でも、キュリー温度125℃付近にて大きな比誘電率変化を示すBaTiO3や、比誘電率が後述の樹脂基材の比誘電率に近いSrTiO3が好ましい。さらには、比誘電率が低く温度依存性の線形性が高いSrTiO3がより好ましい。誘電体材料の比誘電率が低ければ、樹脂と複合化させた場合でも温度に対する誘電率変化の低下が小さく、また、センサ部20の誘電損を低下させられる。セラミック粒子の粒径は特に限定されない。粒径の目安としては先の第1の形態と同様である。複合体(誘電層25)中の誘電体材料の体積割合は、80vol%以下、好ましくは60vol%以下とする。この分散割合については、誘電層25の温度感受性が最も高くなる体積割合を選ぶことができるが、ある体積割合を超えると複合体の可撓性が失われるためである。一方、誘電層25中の誘電体材料の割合が低すぎると、温度変化に対するインピーダンス変化率が悪化するので、20vol%以上とすることが好ましい。
【0038】
金属電極27は、第1の形態の金属電極17と同様である。また、誘電層25及び金属電極27の形状・寸法も第1の形態と同様である。
【0039】
次に、第2の形態の温度分布検知装置を使用して、配管1の表面温度分布を検知する機構(作用)について説明する。ETDR11やインピーダンス計測装置12の機能、及びセンサ部10における電気パルス波の反射機構等は、第1の形態と同様である。配管1の表面温度上昇に伴い誘電層25も昇温すると、誘電体材料の特性によって誘電層25の比誘電率が変化し、静電容量も変化する。これにより、センサ部10のインピーダンスが変化する。配管1の表面温度に場所による分布(特異点)があると、これに伴いインピーダンス分布も不均一になる点も、第1の形態と同様である。これを前提として、配管1の減肉検知方法について説明する。配管1の一部に減肉部1Eが存在している状態において高温流体を流動させ、減肉部1Eの表面温度が他の部位より優先して昇温すると、当該高温部位における誘電層25の一部の比誘電率も他の部位より優先的に変化して、減肉部1Eに相当する当該部分のインピーダンスのみが他の部位に比べて大きく変化する。その他の条件や作用効果、及び検知診断操作なども第1の形態と同様なので、その説明は省略する。
【0040】
次に、第2形態の温度分布検知装置を使用した検知試験について説明する。模擬配管として、長さ80mm、幅10mm、厚み1mmのSUS430製金属板からなる試験片を使用した。誘電層は、SrTiO3粉末を、30vol%の割合でメチル系シリコーンレジン(信越シリコーン社製、KR-242A)へ分散させた複合体とした。このSrTiO3は温度上昇に対して比誘電率の低下をもたらすため、この誘電層も同様の温度依存性を示し温度上昇に対して静電容量の低下およびインピーダンスの増加をもたらすことが予想される。この誘電層は試験片と同じ外形寸法で、厚みを0.2mmとした。金属電極として、幅1mmのAgラインを誘電層上の幅方向中央部に積層した。このようなセンサ部を、試験片の上面にエポキシ樹脂(コニシボンド社製、E−209)で接着した。この試験片及びセンサ部の一端にSMAコネクタを設置し、パルス波を入射させる入射端とした。この入射端の反対側に位置する終端は開放とした。この試験片を第1の形態の検知試験で使用した同じ装置に設置し、インピーダンス分布の温度依存性を評価するために、ホットプレートの温度を20℃から240℃まで20℃間隔で段階的に昇温させた。このときのインピーダンス変化率分布を図7に示す。図7のグラフにおける横軸も、センサ部における電気パルス波入射端(SMAコネクタ側)からの距離位置である。このグラフにおいて、5〜8cmの区間が加熱区間である。また、センサ部の入射側端から7.5mmの位置における温度変化とインピーダンス変化率との関係を図8に示す。
【0041】
図7の結果から、試験片の一部のみ(グラフ中横軸の5〜8cmの区間)が他の部位に比して優先的に昇温すると、これに伴い当該部位に相当するインピーダンスも他の部位に比して優先的に増加する分布となることがわかる。これは、昇温に伴い誘電層の比誘電率が低下したことに起因する。これにより、配管の一部に減肉部が生じ、当該減肉部の表面温度が他の部位に優先して昇温すると、当該部位のインピーダンスも他の部位に優先して大きく変動したインピーダンス分布となり、当該特異点の有無や程度によって配管の減肉状況を検知診断できることが確認できた。なお、この各インピーダンス分布の計測はいずれも10秒以内で完了しており、高速な計測が可能である。また、図8の結果を見ると、上記のような構成のセンサ部とすれば、100℃の温度変化に対して約6%インピーダンスが変化しており、且つ温度に対してインピーダンスが線形的に変化しているので、温度分布センサとして、延いては温度分布検知装置として好適であることも確認できた。
【0042】
次に、実際に配管の一部に減肉部がある場合を想定した検知試験を行った。長さ300mm、外径20mm、内径10mm(肉厚5mm)のSUS製四角管を試験用配管として、その長手方向中央部に長さ25mmの区間に肉厚0.5mmの減肉部を形成させた。その配管表面に、上記第1の形態の試験で使用したセンサ部と同じ構成で長さ280mmのセンサ部を、配管長手方向のほぼ中央に設置した。まず、試験用配管内に20℃のシリコンオイルを流通させた状態を初期状態として、そのシリコンオイルを150℃に加熱したものに切り替え、その後の温度の経時変化とともに20秒毎にインピーダンス分布を計測した。配管内の流体を高温オイルに切り替えた後、配管表面の温度は110℃程度まで上昇した。
【0043】
センサ部の長さの半分(約140mm)の位置に減肉部が存在する。その減肉部とその他の正常肉厚部の温度差は、高温オイルに切り替えてから徐々に拡がり、約120秒経過した時点で最大約20℃の温度差となった後、その後は時間の経過とともに温度差が縮小した。この温度分布の差が僅か20℃であったため、図4などの単純なインピーダンス変化率では、センサの温度感受性の位置によるバラツキの範囲との区別が困難であった。そこで、このセンサの均熱状態におけるインピーダンス分布(センサのバラツキ)を計測し、その分布でそのインピーダンス変化率を割ることで規格化したインピーダンス変化率を得た。なお、その均熱状態のインピーダンス分布とは、高温流体に切り替えた後、1800秒保持してほぼ均熱とした状態のインピーダンス分布である。その結果を図9に示す。
【0044】
図9では、時間の経過と共に減肉部が他の部位に優先して昇温すると、これに伴い減肉部に相当する部位(140mmの位置)のインピーダンスも、他の部位に比べて優先的に大きく上昇していることがわかる。また、そのインピーダンス分布の減肉部での増加は、温度差が最大となる120秒経過時点で最も大きくなり、その後、温度上昇が飽和気味となって正常部の温度が減肉部の温度に近付いて配管全体の表面温度が均一になるにしたがい、インピーダンス分布も均一になる傾向も読み取れる。このように、減肉部における温度変化に対応したインピーダンス分布の応答性が得られたことにより、このETDRを使用して、減肉部における温度分布変化をインピーダンス分布変化として間接的に検知し、減肉の発生を確実に検知診断できることが確認できた。
【符号の説明】
【0045】
1 配管
1E 減肉部
10・20 センサ部
11 電気的時間領域反射装置(ETDR)
12 インピーダンス計測装置
13 表示装置
15・25 誘電層
16 サーミスタ層
17・27 金属電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱影響を受ける構造物の表面温度分布を検知する、表面温度分布検知装置であって、
前記構造物の表面に設けられ、該構造物を一方の電極として使用するセンサ部と、該センサ部の一端から電気パルス波を入射し、その反射波を検知する電気的時間領域反射装置と、該電気的時間領域反射装置によって検知された検知信号から、前記センサ部のインピーダンスを計測するインピーダンス計測装置とを有し、
前記センサ部は、前記構造物の表面に接合される誘電層と、該誘電層上に積層され、温度に応じて抵抗率が変化するサーミスタ層と、該サーミスタ層上に積層された金属電極とからなり、
前記金属電極は、前記サーミスタ層よりも幅が狭いライン状に形成されて、他方の電極を構成し、
前記熱影響に起因した構造物の表面温度分布を、前記サーミスタ層の抵抗率変化に基づく前記センサ部のインピーダンス分布として検知できることを特徴とする、表面温度分布検知装置。
【請求項2】
前記サーミスタ層は、温度に応じて抵抗率が変化するセラミック粒子が樹脂中に分散された複合層となっている、請求項1に記載の表面温度分布検知装置。
【請求項3】
内部を高温流体が流動する金属配管の減肉を検知する配管の減肉検知方法であって、
前記配管の表面に、該配管を一方の電極とし、前記配管側から誘電層と、温度に応じて抵抗率が変化するサーミスタ層と、他方の電極を構成する金属電極とがこれの順で積層されたセンサ部を設け、
前記配管の一部に生じた減肉部の表面が前記高温流体によって他の部位より優先的に高温となると、当該高温部位における前記サーミスタ層の一部の抵抗率も他の部位より優先的に変化して前記センサ部における見掛けの電極面積が変化することを利用して、前記センサ部の一端から電気的時間領域反射装置によって電気パルス波を入射し、その反射波からインピーダンス計測装置によって前記センサ部のインピーダンスを計測して、他の部位より優先的にインピーダンスが変化する部位の存在により配管の減肉を検知する、配管の減肉検知方法。
【請求項4】
熱影響を受ける構造物の表面温度分布を検知する、表面温度分布検知装置であって、
前記構造物の表面に設けられ、該構造物を一方の電極として使用するセンサ部と、該センサ部の一端から電気パルス波を入射し、その反射波を検知する電気的時間領域反射装置と、該電気的時間領域反射装置によって検知された検知信号から、前記センサ部のインピーダンスを計測するインピーダンス計測装置とを有し、
前記センサ部は、前記構造物の表面に接合される誘電層と、該誘電層上に積層され、他方の電極となる金属電極とからなり、
前記誘電層には、温度に応じて比誘電率が変化する誘電体材料が使用されており、
前記熱影響に起因した構造物の表面温度分布を、前記誘電層の比誘電率変化に基づく前記センサ部のインピーダンス分布として検知できることを特徴とする、表面温度分布検知装置。
【請求項5】
前記誘電層は、誘電体材料粒子が樹脂中に分散された複合層となっている、請求項4に記載の表面温度分布検知装置。
【請求項6】
内部を高温流体が流動する金属配管の減肉を検知する配管の減肉検知方法であって、
前記配管の表面に、該配管を一方の電極とし、温度に応じて比誘電率が変化する誘電体材料を含む誘電層と、該誘電層上に積層され他方の電極となる金属電極とからなるセンサ部を設け、
前記配管の一部に生じた減肉部の表面が前記高温流体によって他の部位より優先的に高温となると、当該高温部位における前記誘電層の一部の比誘電率も他の部位より優先的に変化することを利用して、前記センサ部の一端から電気的時間領域反射装置によって電気パルス波を入射し、その反射波からインピーダンス計測装置によって前記センサ部のインピーダンスを計測して、他の部位より優先的にインピーダンスが変化する部位の存在により配管の減肉を検知する、配管の減肉検知方法。
【請求項7】
前記構造物が、内部を高温流体が流動する金属製の配管である、請求項1,2,4,5のいずれかに記載の表面温度分布検知装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−237065(P2010−237065A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85950(P2009−85950)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】