説明

表面湿潤部材

【課題】高い生産性で得られ、しかも湿潤性の耐久性が高い表面湿潤部材を提供する。
【解決手段】本発明の表面湿潤部材10は、基材11と、基材11の表面に形成された湿潤層12とを有し、湿潤層12が、紫外線硬化樹脂と、湿潤性維持材料とを含有する。本発明の表面湿潤部材10においては、湿潤性維持材料が親水性高分子であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が湿潤する表面湿潤部材に関する。
【背景技術】
【0002】
チューブ等の基材の表面の潤滑性向上を目的として、基材の表面に親水性高分子等を塗布して湿潤性を付与する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、ポリウレタン等の疎水性高分子と、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等の親水性高分子とを、テトラヒドロフラン、アセトン、塩化メチレン等の有機溶媒に溶解させた塗布液を、基材の表面に塗布し、乾燥させて、湿潤性を付与する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2005−129469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、疎水性高分子と親水性高分子とを溶媒に溶解しなければならず、また、乾燥工程を必要としている。したがって、特許文献1に記載の方法は、煩雑である上に、長時間の作業が必要になるため、生産性に優れた方法とは言えなかった。しかも、特許文献1に記載の方法により得た表面湿潤部材では、湿潤性の耐久性が低かった。
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、高い生産性で得られ、しかも湿潤性の耐久性が高い表面湿潤部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] 基材と、該基材の表面に形成された湿潤層とを有し、湿潤層が、紫外線硬化樹脂と、湿潤性維持材料とを含有することを特徴とする表面湿潤部材。
[2] 紫外線硬化樹脂が紫外線硬化型エポキシ樹脂であることを特徴とする[1]に記載の表面湿潤部材。
[3] 湿潤性維持材料が親水性高分子であることを特徴とする[1]または[2]に記載の表面湿潤部材。
[4] 親水性高分子が、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸よりなる群から選ばれる1種以上の高分子であることを特徴とする[3]に記載の表面湿潤部材。
【発明の効果】
【0005】
本発明の表面湿潤部材は、高い生産性で得られ、しかも湿潤性の耐久性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の表面湿潤部材の一実施形態例について説明する。
図1に、本実施形態例の表面湿潤部材を示す。この表面湿潤部材10は、板状の基材11と、基材11の表面に形成された湿潤層12とを有する。
【0007】
(基材)
基材11の材質としては、例えば、金属(例えば、ステンレス等)、樹脂(ナイロン、ポリオレフィン、ポリウレタン、シリコーン樹脂等)、セラミックスなどが挙げられる。
【0008】
(湿潤層)
湿潤層12は、紫外線硬化樹脂および湿潤性維持材料を含有する。
紫外線硬化樹脂としては、例えば、紫外線硬化型エポキシ樹脂、紫外線硬化型アクリル樹脂、紫外線硬化型シリコーン樹脂などが挙げられる。
紫外線硬化型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂等の硬化物が挙げられる。
紫外線硬化型アクリル樹脂としては、例えば、エステルアクリレートオリゴマー(例えば、トリエチレングリコールジメタクリレート等)、ウレタンアクリレートオリゴマー、エポキシアクリレートオリゴマー、メラミンアクリレートオリゴマー、アクリル樹脂アクリレートオリゴマー等の硬化物が挙げられる。
紫外線硬化樹脂の中でも、紫外線硬化型エポキシ樹脂が好ましい。紫外線硬化型エポキシ樹脂は、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンに接着可能である。そのため、基材11がポリオレフィン製である場合にも、基材11に表面処理を施さずに、湿潤層12を形成できるから、生産性を高くできる。
【0009】
湿潤性維持材料としては、本実施形態例では、カルボキシ基、ヒドロキシ基、カルボニル基、スルホ基、エーテル結合、エステル結合等の親水部位を有し、水を保持して湿潤性を維持する材料である親水性高分子を用いるが、親油性高分子でも構わない。
湿潤性維持材料の中でも、水を主成分とする液体中で用いる場合が多いことから、親水性高分子が好ましい。
親水性高分子は親水部位を有する高分子である。親水性高分子の中でも、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、メチルビニルエーテル−マレイン酸共重合体、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸よりなる群から選ばれる1種以上の高分子が好ましい。これらの好ましい高分子は、安価で入手しやすい上に、湿潤性が高い。
さらに、より高い湿潤性が得られることから、ポリビニルピロリドンが特に好ましい。
【0010】
親油性高分子は親油部位を有する高分子である。親油性高分子の中でも、ポリノルボルネン樹脂、スチレン系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、スチレン・ブタジエンブロック共重合体からなる群から選ばれる1種類以上の高分子が好ましい。これらの好ましい高分子は、油分が存在する環境下において高い湿潤性を示す。
【0011】
湿潤性維持材料は、親水性高分子と親油性高分子の両方を含むことができる。湿潤性維持材料が、親水性高分子と親油性高分子の両方を含めば、水分と油分が不均一な割合で混在するような環境下においても、安定した湿潤性を発現することが可能である。
【0012】
湿潤層12における湿潤性維持材料の含有量は、紫外線硬化樹脂と湿潤性維持材料の合計を100質量%とした際の0.1〜50質量%であることが好ましい。湿潤性維持材料の含有量が0.1質量%以上であれば、湿潤層12に湿潤性を充分に付与でき、50質量%以下であれば、湿潤性の耐久性を充分に確保できる。
【0013】
湿潤層12の厚さは、乾燥時で0.1〜200μmであることが好ましい。湿潤層12の厚さが0.1μm以上であれば、湿潤性を充分に付与でき、200μm以下であれば、湿潤層12の剥離を防止できる。
【0014】
(使用方法)
上記表面湿潤部材10は、例えば、医療用器具として使用される。以下、医療用器具としての使用方法の一例について説明する。
すなわち、表面湿潤部材10の湿潤層12に、純水、水道水、生理食塩水、体液等の、水を主成分とする液体を接触させる。これにより、その液体中の水が湿潤性維持材料に吸着するため、湿潤層12が湿潤化する。このように湿潤層12を湿潤させた状態で、表面湿潤部材10を、気管、消化管、尿道、その他の体腔に挿入する。湿潤層12を湿潤させることにより、気管、消化管、尿道、その他の体腔に挿入しやすくなり、また、これらの損傷を防止できるようになる。
【0015】
(製造方法)
上記表面湿潤部材10を製造する方法としては、例えば、基材11の表面に、湿潤層形成用塗布液を塗布し、これにより形成された塗膜に紫外線を照射する方法が挙げられる。
ここで、湿潤層形成用塗布液は、紫外線硬化樹脂の未硬化物と、湿潤性維持材料と、必要に応じて、溶媒と、重合開始剤と、還元剤とを含有する液である。溶媒としては、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、アセトン、塩化メチレンなどを使用することができる。
湿潤層形成用塗布液の塗布方法としては、例えば、ディップコート、スプレーコート、ブレードコート、カーテンコート等を適用することができる。
紫外線を照射する際に用いる光源としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、アーク灯、ガリウムランプ等が挙げられる。
【0016】
以上説明した表面湿潤部材10における湿潤層12は紫外線硬化樹脂を含有する層であり、未硬化の紫外線硬化樹脂を基材11の表面に塗布した後に、紫外線を照射することにより形成できる。したがって、乾燥工程が不要であり、短時間でかつ簡便に形成できるから、生産性が高い。
また、湿潤性維持材料は紫外線硬化樹脂によって物理的に固定化されているため、湿潤層12は湿潤性が高い上に、湿潤性の耐久性にも優れている。
【0017】
なお、本発明は、上記実施形態例に限定されない。例えば、上記実施形態例では、基材が板状であったが、管状であってもよい。基材が管状である場合には、体腔内等に挿入する用途への適用を考慮すると、少なくとも基材の外周面に湿潤層が形成されていることが好ましい。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
30mm角で厚さ1mmのステンレス(SUS304)製の板材の表面をバフ研磨し、略鏡面に仕上げて、基材Aを作製した。
また、イソプロピルアルコール(IPA)中に、ベースポリマーとしてトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA、三菱レイヨン社製)、重合開始剤としてd−カンファーキノン(CQ、ポリマーサイエンス社製)、還元剤として2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(DMAEMA、三菱レイヨン社製)を、質量比率(TEGDMA:CQ:DMAEMA)100:1:2の割合で混合して、硬化性溶液を得た。
次いで、この硬化性溶液中に、ポリビニルピロリドン(PVP、インターナショナル・スペシャルティ・プロダクツ社製プラスドンK−90)を添加し、溶解させて、湿潤層形成用塗布液を得た。その際、湿潤層形成用塗布液における固形分濃度が50質量%になるように調製した。
その湿潤層形成用塗布液を基材Aの片面に、ローラを使用したロールコートにより塗布して塗膜を形成させた後、その塗膜に紫外線を照射して硬化させた。その際の紫外線照射では、セン特殊光源社製紫外線照射システム、高圧水銀灯光源HL−1000DLを使用し、光源から約200mmの位置で2分間照射した。
これにより、基材Aの片面に湿潤層が形成された表面湿潤部材を得た。
【0019】
(比較例1)
30mm角で厚さ1mmのステンレス(SUS304)製の板材(基材A)。
(比較例2)
ポリビニルピロリドンをイソプロピルアルコールに固形分濃度25質量%で溶解させて、湿潤層形成用塗布液を得た。この湿潤層形成用塗布液を基材Aの片面に塗布し、60℃で2時間乾燥させて、基材Aの片面に湿潤層が形成された表面湿潤部材を得た。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例1、比較例1、比較例2の部材について湿潤状態での湿潤性を以下のように評価した。評価結果を表1に示す。
表面湿潤部材の湿潤層を蒸留水に濡らし、湿潤層表面の摩擦係数を測定した。その測定では、直動式摩擦磨耗測定器(新東科学製)を用い、荷重;5g、往復距離;10mm、接触子;直径6mmのアルミナボール、摩擦回数;100往復とした。
【0022】
紫外線硬化樹脂及び親水性高分子を含む湿潤層が形成された実施例1の表面湿潤部材では、湿潤性を有していた。これは、湿潤層に蒸留水を接触させたことにより、ポリビニルピロリドンが蒸留水を吸収し、保持するためである。
また、接触子を1往復させたときの摩擦係数と、100往復させたときの摩擦係数に大きな違いがなく、湿潤性の耐久性に優れていた。これは、ポリビニルピロリドンが紫外線硬化樹脂によって基材に物理的に強固に固定されているためである。
しかも、実施例1では、湿潤層形成用塗布液を塗布した後に、紫外線により塗膜を硬化させるため、時間を要する乾燥工程が不要であり、生産性が高い。
【0023】
これに対し、湿潤層がポリビニルピロリドンからなる比較例2の表面湿潤部材では、接触子を1往復させたときの摩擦係数に比べて、100往復させたときの摩擦係数が大きくなり、測定不能になってしまった。すなわち、湿潤性の耐久性が低かった。また、湿潤層形成用塗布液を塗布した後に、乾燥させる必要があるため、生産性が低かった。
なお、湿潤層を有していない比較例1では、表面湿潤性を全く示さなかった。
【0024】
(実施例2)
ポリオレフィンに接着可能な紫外線硬化樹脂である紫外線硬化性エポキシ樹脂(スリーボンド製3130B)、親水性高分子であるメチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体(VEMA、ダイセル化学工業製)を混合して、湿潤層形成用塗布液を得た。その際、VEMAの量が、紫外線硬化性エポキシ樹脂を100質量%とした際の10質量%になるように混合した。
その湿潤層形成用塗布液を、外径5mm、内径3mm、長さ500mmのポリエチレンチューブ(アズワン製)よりなる基材Bの外周面にディップコートにより塗布して塗膜を形成した後、その塗膜に紫外線を照射して硬化させた。その際の紫外線照射では、セン特殊光源社製紫外線照射システム、高圧水銀灯光源HL−1000DLを使用し、光源から約200mmの位置で、基材Bに対して上方及び下方から別々に2分間照射した。
紫外線硬化後、60℃の温水中に30分間浸漬し、VEMAの無水マレイン酸基を加水分解し、カルボキシ基を形成させて、基材Bの外周面に湿潤層が形成された表面湿潤部材を得た。
【0025】
(比較例3)
外径5mm、内径3mm、長さ500mmのポリエチレンチューブ(基材B)。
(比較例4)
ポリビニルピロリドン(PVP、インターナショナル・スペシャルティ・プロダクツ社製プラスドンK−90)とエーテル型ポリウレタンを3:2の質量比率で混合し、固形分濃度が5質量%になるようにテトラヒドロフラン(THF)に溶解させて、湿潤層形成用塗布液を得た。
この湿潤層形成用塗布液を基材Bに塗布し、乾燥室内にて常温で揮発成分を排気し、6時間乾燥させた。これにより、基材Bの表面に湿潤層を形成させて、表面湿潤部材を得た。
【0026】
実施例2、比較例3、比較例4の部材について湿潤状態での湿潤性を以下のように評価した。評価結果を表2に示す。
本評価においては、図2に示すような、測定用部材Sが挿入されるガイドチューブ21(内径8mm)と、測定用部材Sをガイドチューブ21内に挿脱させる際の力量を測定するフォースゲージ22(イマダ製:DPS−2)とを備える評価装置20を用いた。
この評価装置20を用い、ガイドチューブ21の内部を水で濡らして湿潤環境にすると共に、測定用部材Sを水に濡らし、その状態で測定用部材Sをガイドチューブ21内に挿脱させて、その際の挿脱力量をフォースゲージ22により測定した。挿脱の条件は、挿脱距離;300mm、速度;50mm/秒、挿脱回数;30回とした。
【0027】
【表2】

【0028】
紫外線硬化樹脂及び親水性高分子を含む湿潤層が形成された実施例2の表面湿潤部材では、ガイドチューブの内部に挿脱した際の力量が小さく、高い湿潤性を有していた。しかも、紫外線硬化樹脂がポリオレフィンに接着可能なものであるから、ポリエチレンチューブに強固に接着し、耐久性の高い湿潤層を得ることができた。また、実施例2では、塗布液を塗布した後に、時間を要する乾燥工程が不要であり、簡便であるため、生産性が高い。
比較例3では、ポリエチレンチューブを水に濡らしても、抵抗が大きすぎて、ガイドチューブの内部に挿入できなかった。
湿潤層がポリビニルピロリドンからなる比較例4の表面湿潤部材では、挿脱初期の挿入時に引っ掛かりがあり、円滑な挿入は困難であった。また、10回挿脱後に、急激に挿脱抵抗が大きくなり、挿入不可能になった。表面湿潤部材の表面を目視により観察したところ、湿潤層の脱落が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の表面湿潤部材の一実施形態例を示す断面図である。
【図2】実施例2及び比較例3,4での評価に用いた評価装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0030】
10 表面湿潤部材
11 基材
12 湿潤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の表面に形成された湿潤層とを有し、該湿潤層が、紫外線硬化樹脂と、湿潤性維持材料とを含有することを特徴とする表面湿潤部材。
【請求項2】
前記紫外線硬化樹脂が紫外線硬化型エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の表面湿潤部材。
【請求項3】
前記湿潤性維持材料が親水性高分子であることを特徴とする請求項1または2に記載の表面湿潤部材。
【請求項4】
前記親水性高分子が、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸よりなる群から選ばれる1種以上の高分子であることを特徴とする請求項3に記載の表面湿潤部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−107176(P2009−107176A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280479(P2007−280479)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】