表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板並びにこれを利用した熱間プレス成形部品及びその製造方法
本発明の一側面は表面から深さ1μm以内に、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の表面拡散層を含む素地鋼板と、上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の表面拡散層上に形成されたAlを30重量%以上含むAl濃化層と、上記Al濃化層上に形成された亜鉛めっき層を含み、上記表面拡散層と上記Al濃化層の間には平均厚さが150nm以下の焼鈍酸化物が不連続的に分布し、上記素地鋼板の表面から深さ1μm以内に上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の含量が0.1重量%以上である表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板を提供することで、焼鈍前に酸素親和力の少ない金属を有効な厚さにコーティングし、鋼板表面に焼鈍酸化物が生成することを抑制して均一な亜鉛めっき層を形成し、プレス加工熱処理時に亜鉛めっき層の合金化が促進されて亜鉛めっき層の溶融温度が短時間内に上昇することで、めっき層の劣化を防止することができ、熱間プレス成形後に形成された内部酸化物の発生を最小化することができる。
また、本発明の他の一側面によると、熱間プレス加熱時にめっき層の表面に亜鉛めっき層の劣化を防止することができる酸化物層を形成させ、めっき層内のZn、Fe及び金属の3元相を形成させて亜鉛めっき層を安定的に保持することができ、表面状態を良好に確保してリン酸塩処理性に優れ、別途のリン酸塩処理をしなくても電着塗装時に塗装性及び途膜密着性を確保することができ、熱間プレス成形時に素地鋼板にクラックが発生することを防止して加工性を向上させることができる。
また、本発明の他の一側面によると、熱間プレス加熱時にめっき層の表面に亜鉛めっき層の劣化を防止することができる酸化物層を形成させ、めっき層内のZn、Fe及び金属の3元相を形成させて亜鉛めっき層を安定的に保持することができ、表面状態を良好に確保してリン酸塩処理性に優れ、別途のリン酸塩処理をしなくても電着塗装時に塗装性及び途膜密着性を確保することができ、熱間プレス成形時に素地鋼板にクラックが発生することを防止して加工性を向上させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱間プレス成形用亜鉛めっき鋼板に関し、より詳細には熱間プレス成形時のめっき層の劣化を防止し、安定しためっき層を確保することができる表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板、これを利用した熱間プレス成形部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近では、環境規制により、自動車燃費を減少させる目的で、高強度鋼板に対する需要が急増している。自動車鋼板が高強度化するにつれ、プレス成形時に磨耗、破断などが発生しやすく、複雑な製品成形が困難となる。従って、このような問題点を解決するため、鋼板を加熱して熱間状態で成形加工する熱間プレス工程による製品生産が大幅に増加している。
【0003】
熱間プレス鋼板は、通常、800〜900℃で加熱した状態でプレス加工が行われるが、加熱の際、鋼板表面が酸化してスケールが生成される。従って、製品成形後にスケールを除去するショットブラストのような別途の工程が必要となり、製品の耐食性もめっき材より劣る。
【0004】
従って、このような問題点を解決するために、特許文献1のように鋼板表面にAl系めっきを施し、加熱炉でめっき層が保持されて鋼板表面の酸化反応を抑制し、Alの不動態皮膜形成を利用して耐食性を増大させる製品が開発され、商用化されている。
【0005】
しかし、上記Alめっき材の場合、高温での耐熱性は優れるが、犠牲陽極法のZnめっきより耐食性が劣り、また、製造単価が増加するという短所がある。
【0006】
しかし、ZnはAlに比べて高温での耐熱性が大きく劣るため、通常の方法で作製されたZnめっき鋼板は、800〜900℃の高温でZn層の合金化及び高温酸化によりめっき層が不均一に形成され、めっき層のZn比率が30%未満に下がり、耐腐食性の側面からめっき材としての機能が縮小されるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許6296805号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一側面は、亜鉛めっきを利用しためっき材の熱間プレス成形時の亜鉛めっき層の劣化を防止し、熱間プレス成形後、めっき層の表面に形成される酸化物の発生を最小化することができる表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板、これを利用した熱間プレス成形部品及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、表面から深さ1μm以内に、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の表面拡散層を含む素地鋼板と、上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の表面拡散層上に形成されたAlを30重量%以上含むAl濃化層と、上記Al濃化層上に形成された亜鉛めっき層とを含み、上記表面拡散層と上記Al濃化層の間には、平均厚さが150nm以下の焼鈍酸化物が不連続的に分布し、上記素地鋼板の表面から深さ1μm以内に上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の含量が0.1重量%以上である、表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0010】
上記亜鉛めっき層は、Fe:15.0重量%以下、上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属:0.01〜2.0重量%、残りはZn及びその他不可避な不純物を含むことが好ましい。
【0011】
上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属は、Ni、Fe、Co、Cu、Sn、Sbからなる群より選択された1種以上であることがより好ましい。
【0012】
上記Al濃化層の厚さは0.1〜1μmで、EPMA分析時に上記Al濃化層と上記表面拡散層中の上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の含量が5重量%以上である部分とが重なる面積が、上記表面拡散層及びAl濃化層に対して10%以下であることが好ましい。
【0013】
上記素地鋼板は、重量%で、C:0.1〜0.4%、Si:2.0%以下(0%は除外)、Mn:0.1〜4.0%、残部Fe及びその他不可避な不純物からなることが好ましい。
【0014】
上記素地鋼板は、N:0.001〜0.02%、B:0.0001〜0.01%、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.1%、Cr:0.001〜1.0%、Mo:0.001〜1.0%、Sb:0.001〜0.1%及びW:0.001〜0.3%からなる群より選択された1種以上をさらに含むことがより好ましい。
【0015】
本発明の他の一側面は、素地鋼板と、上記素地鋼板上に形成された酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属が0.008重量%以上固溶されているFe−Zn相を含む亜鉛めっき層と、上記亜鉛めっき層上に形成された平均厚さが0.01〜5μmである酸化物層とを含む熱間プレス成形部品を提供する。
【0016】
上記酸化物層は、SiO2及びAl2O3からなる群より選択された1種以上の酸化物からなる平均厚さが10〜300nmの連続的な皮膜を含むことが好ましい。
【0017】
上記酸化物層はZnOを含み、MnO、SiO2及びAl2O3からなる群より選択された1種以上の酸化物を0.01〜50重量%含むことが好ましい。
【0018】
上記連続的な皮膜上にZnO及びMnOを含む酸化物が形成され、上記MnOの含量はZnOより小さいことが好ましい。
【0019】
上記酸化物層は、FeOが10重量%以下であることが好ましい。
【0020】
上記素地鋼板の上部に亜鉛拡散相が不連続的に存在することが好ましい。
【0021】
上記亜鉛拡散相の平均厚さは5μm以下であることがより好ましい。
【0022】
上記亜鉛めっき層のZn含量は30重量%以上であることが好ましい。
【0023】
上記亜鉛めっき層の厚さは、熱間プレス成形前の厚さの1.5倍以上であることが好ましい。
【0024】
上記亜鉛めっき層内のFe含量が60重量%以上である合金相の比率が、上記亜鉛めっき層全体に対して70重量%以上であることが好ましい。
【0025】
上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属は、Ni、Fe、Co、Cu、Sn、Sbからなる群より選択された1種以上であることが好ましい。
【0026】
上記素地鋼板は、重量%で、C:0.1〜0.4%、Si:2.0%以下(0%は除外)、Mn:0.1〜4.0%、残部Fe及びその他不可避な不純物からなることが好ましい。
【0027】
上記素地鋼板は、N:0.001〜0.02%、B:0.0001〜0.01%、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.1%、Cr:0.001〜1.0%、Mo:0.001〜1.0%、Sb:0.001〜0.1%及びW:0.001〜0.3%からなる群より選択された1種以上をさらに含むことが好ましい。
【0028】
本発明のさらに他の一側面は、鋼板に酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属をコーティングする段階と、上記金属がコーティングされた鋼板を700〜900℃で焼鈍熱処理する段階と、上記焼鈍熱処理された鋼板をAl:0.05〜0.5重量%、残部Zn及びその他不可避な不純物を含み、430〜500℃の温度範囲を有する溶融亜鉛めっき浴に浸漬して亜鉛めっきする段階と、上記亜鉛めっきされた鋼板を酸化性雰囲気で、2〜10℃/秒の昇温速度で750〜950℃まで加熱した後、10分以下保持する段階と、上記加熱後保持された鋼板を600〜900℃の温度範囲でプレス成形する段階とを含む熱間プレス成形部品の製造方法を提供する。
【0029】
上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属をコーティングする段階は、Ni、Fe、Co、Cu、Sn及びSbからなる群より選択された1種以上を平均厚さ1〜1000nmでコーティングすることが好ましい。
【0030】
上記亜鉛めっきする段階後に600℃以下の温度範囲で合金化熱処理する段階をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の一側面によると、焼鈍前に酸素親和力の小さい金属を有効な厚さでコーティングして鋼板表面に焼鈍酸化物が生成することを抑制することで、均一な亜鉛めっき層を形成し、プレス加工熱処理時に亜鉛めっき層の合金化が促進され、亜鉛めっき層の溶融温度が短時間で上昇することで、めっき層の劣化を防止することができ、熱間プレス成形後に形成される内部酸化物の発生を最小化することができる。
【0032】
また、本発明の他の一側面によると、熱間プレス加熱時にめっき層の表面に亜鉛めっき層の劣化を防止することができる酸化物層を形成させ、めっき層内にZn、Fe及び酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギーの減少量がCrより小さい金属の3元相を形成させて亜鉛めっき層を安定的に保持することができ、良好な表面状態を確保してリン酸塩処理性に優れ、別途のリン酸塩処理をしなくても、電着塗装時に塗装性及び途膜密着性が確保でき、熱間プレス成形時に素地鋼板にクラックが発生することを防止することで、加工性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】発明例の一例による溶融亜鉛めっき鋼板の熱間プレス成形後の断面を観察した写真である。
【図2】比較例の一例による溶融亜鉛めっき鋼板の熱間プレス成形後の断面を観察した写真である。
【図3】発明例の他の一例により製造された熱間プレス成形部品の断面を示したものである。
【図4】比較例の他の一例により製造された熱間プレス成形部品の断面を示したものである。
【図5】比較例の他の一例により製造された熱間プレス成形部品の加工部位の断面を観察した写真である。
【図6】発明例の他の一例により製造された熱間プレス成形部品の加工部位の断面を観察した写真である。
【図7】発明例の他の一例による成形部品の一例の断面を示した概路図である。
【図8】(a)は本発明の他の一例による溶融亜鉛めっき鋼板の一例の断面を撮った写真で、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)は各成分毎にEPMAマッピング(mapping)分析をした写真である。
【図9】上記EPMAマッピング(mapping)分析の写真のうち、Al、Ni写真を拡大したものである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0035】
[亜鉛めっき鋼板]
以下、本発明の亜鉛めっき鋼板について詳しく説明する。
【0036】
本発明の一側面は、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の表面拡散層を表面から深さ1μm以内に含む素地鋼板と、上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の表面拡散層上に形成されたAlを30重量%以上含むAl濃化層と、上記Al濃化層上に形成された亜鉛めっき層とを含み、上記表面拡散層と上記Al濃化層の間には平均厚さが150nm以下の焼鈍酸化物が不連続的に分布し、上記素地鋼板の表面から深さ1μm以内に上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の含量が0.1重量%以上である表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0037】
上記素地鋼板は熱延鋼板や冷延鋼板の両方を対象とすることができ、上記焼鈍酸化物は、上記溶融亜鉛めっき層と鋼板の構成元素であるFe、Mnなどの合金化を防ぐ拡散障壁としての役割をする。本発明では、上記焼鈍酸化物の厚さを150nm以下にすることで、溶融亜鉛めっき層の合金化を促進し、耐熱性及びプレス成形後のめっき密着性を向上させることができる。上記焼鈍酸化物は上記表面拡散層上に不連続的に分布し、一部はAl濃化層に含まれてもよい。
【0038】
上記焼鈍酸化物の厚さは150nm以下であることが好ましい。上記焼鈍酸化物は、下記の製造工程で示したように、金属コーティングを施した後、焼鈍熱処理を行う過程で形成される。上記焼鈍酸化物の厚さが150nmを超えると、焼鈍酸化物の影響によりめっきがうまく行われず、未めっき現象が発生することがあり、熱間プレス加熱の初期にめっき層の合金化が遅延し、高温加熱時に十分な耐熱性が確保できなくなる。このとき、焼鈍酸化物の厚さは素地鋼板のSi、Mnなどの含量により変わってもよいが、上記焼鈍酸化物の厚さが150nm以下でないと、めっき性及び耐熱性は確保できない。
【0039】
上記焼鈍酸化物の厚さを100nm以下に制御することが好ましい。より好ましくは、上記焼鈍酸化物の厚さを50nm以下に制御することで、めっき性及び耐熱性を極大化させることができる。
【0040】
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の表面拡散層が鋼板表面から1μm以内に存在し、上記素地鋼板の表面から深さ1μm以内に上記金属の含量が0.1重量%以上であることが好ましい。
【0041】
上記金属は、コーティング後焼鈍熱処理を行う過程で母材に拡散されて表面の濃度が低くなるが、研究したところ、表面から深さ1μm以内に上記金属の含有量が0.1重量%以上でなければ、亜鉛めっき時にめっき浴中のAlを上記金属と反応させてさらに多量のAlを上記表面拡散層上に濃化させることができない。上記濃化されたAlは、プレス加熱工程で表層部に拡散された後、選択酸化されて緻密、且つ薄いAl2O3酸化皮膜を形成することで、Znの揮発及び酸化物の成長を抑制する役割をするため、上記のように、表面拡散層を通じてAl濃化量を増加させることが好ましい。
【0042】
即ち、上記のように、金属をコーティングすることで亜鉛めっき層が高温で分解することを防止し、亜鉛めっき層の耐熱性を確保するためには、鋼板表面から1μm以内に、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属が0.1重量%以上なければならない。1.0重量%以上に含まれると、亜鉛めっき層の劣化を効果的に防止することができるため好ましく、3.0重量%以上であると、亜鉛めっき層の耐熱性の確保にさらに寄与するため、より好ましい。
【0043】
このとき、上記亜鉛めっき層はFe:15.0重量%以下、上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属:0.01〜2.0重量%、残りはZn及びその他不可避な不純物を含むことが好ましい。上記溶融亜鉛めっき層に含まれた酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属は、熱間プレス加熱時にめっき層内に拡散されてめっき層に含まれる。特に、熱間プレス加熱時、上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属がFe−Znに固融されて3元相を形成し、これによりプレス加熱時に素地鋼板のFeなどがめっき層内に拡散されることを低減させて亜鉛めっき層が分解されずに単一のめっき層を形成するのに核心的な役割をする。従って、亜鉛めっき鋼板において、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属が0.01重量%未満でめっき層に含まれると、プレス加熱時に上記3元相の量が僅かで、適した耐熱性を確保することが困難であるという短所があり、経済的な側面から、上限は2.0重量%にすることが好ましい。
【0044】
本発明の亜鉛めっき鋼板の種類は特に制限されず、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、プラズマによる乾式亜鉛めっき鋼板、高温液状Znスプレーによる亜鉛めっき鋼板などを含んでよい。
【0045】
また、上記亜鉛めっき層には、Feが15.0重量%以下添加されることが好ましい。これはFeが亜鉛めっき層に十分に拡散されてFe−Zn合金相を形成させることでZnの融点を上昇させるためであり、耐熱性の確保のための極めて重要な構成である。Feが5.0重量%以下添加されると、めっき層に発生する可能性のある微細クラックをさらに低減させることができるため、より好ましい。
【0046】
上記金属は、酸素1モール当たりの金属の酸化物の形成において、ギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属であって、代表的にはNiがある。その他にもFe、Co、Cu、Sn、Sbなどを適用してもよい。Niは酸素親和力がFeより小さい元素で、Ni表面拡散層が鋼板表面に被覆されている場合、コーティング後の焼鈍過程で酸化されず、鋼板表面の親酸化性元素であるMn、Siなどの酸化を抑制する役割をする。上記Fe、Co、Cu、Sn、Sbも金属表面に被覆されると、類似する特性を示す。このとき、Feは単独で用いるよりはNiなどとの合金状態で用いることがより好ましい。
【0047】
また、上記Al濃化層の厚さは0.1〜1μmで、EPMA分析時、上記Al濃化層と上記表面拡散層のうち上記金属の含量が5重量%以上の部分が重なる面積が、上記表面拡散層及びAl濃化層に対して、10%以下であることが好ましい。Alが含有された亜鉛めっき浴に浸漬すると、上記表面拡散層上にAl濃化層が0.1〜1.0μmの厚さで形成されるが、これはAlの含有量により調節することができる。特に、上記表面拡散層が形成されると、Alが界面反応を通じて上記表面拡散層上にさらに多くのAlが濃化されるため、上記表面拡散層はこのようなAl濃化層の形成に重要な影響を及ぼす。
【0048】
図7は、本発明の成形部品の断面図を概略的に示したもので、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属が素地鋼板の最上部に拡散されて表面拡散層を形成する。そして、図7には省略されているが、上記表面拡散層上に焼鈍酸化物が不連続的に分布しており、その上にAl濃化層が、上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属との界面反応を通じてさらに多く形成される構造を有する。
【0049】
上記濃化層に含まれたAlは、プレス加熱工程において表層部に拡散された後、選択酸化されて緻密、かつ薄いAl2O3酸化皮膜を形成することで、Znの揮発及び酸化物の成長を抑制する役割をする。従って、本発明の熱間プレス成形部品の表面状態を得るためには、めっき浴後、上記Al濃化層を形成させる過程が必須である。Al濃化層の厚さが0.1μm未満では、上記酸化皮膜を連続的に形成するのに量が少なすぎて、上記厚さが1.0μmを超えると、上記酸化皮膜が過度に厚くなる恐れがあるため、0.1〜1.0μmに限定することが好ましい。
【0050】
また、EPMA分析時、上記Al濃化層と上記表面拡散層のうち上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の含量が5重量%以上の部分が重なる面積が、全体表面拡散層及びAl濃化層に対して、10%以下であることが好ましい。ここで、上記重なる部分とは上記金属とAlが合金反応を起こして合金相を形成したことを意味する。このようにAlが上記金属と合金状態で存在すると、プレス加熱時、めっき層の表面への拡散が容易でない。そのため、合金状態で存在する部分が多いと、上記Al2O3の連続的な酸化皮膜の形成に寄与できるAlの量が実質的に減少する。よって、EPMA分析から、上記重なる部分が10%以下でなければ、合金状態でないAlが上記濃化層に十分に位置しないため、Al2O3酸化皮膜が効果的に形成されない。
【0051】
一方、上記素地鋼板は、重量%で、C:0.1〜0.4%、Si:2.0%以下(0%は除外)、Mn:0.1〜4.0%、残部Fe及びその他不可避な不純物からなることが好ましい。
【0052】
C:0.1〜0.4%
Cは、鋼板の強度を増加させる核心元素で、オーステナイト及びマルテンサイトの硬質相を生成させる。Cの含量が0.1%未満では、オーステナイト単相域で熱間プレスを行っても目標とする強度を確保することが困難であるため、Cの含量を0.1%以上添加することが好ましい。Cの含量が0.4%を超えると、靭性及び溶接性の低下が発生する可能性が高くなり、強度が高くなりすぎて焼鈍及びめっき工程で通板性を阻害するなど製造工程で不利な点があるため、Cの上限は0.4%以下に制限する。
【0053】
Mn:0.1〜4.0%
Mnは固溶強化元素で、強度の上昇に大きく寄与するだけでなく、オーステナイトからフェライトへの変態を遅延させるのに重要な役割をする。Mnの含量が0.1%未満では、オーステナイトからフェライトへの変態温度(Ae3)が高くなり、鋼板をオーステナイト単相でプレス加工するためには、その分だけ高い熱処理温度が必要である。一方、Mnの含量が4.0%を超えると、溶接性、熱間圧延性などが劣化する恐れがあるため好ましくない。このとき、Mnによるフェライトへの変態温度(Ae3)の低減及び焼入性を十分に確保するためには、Mnの含量を0.5%以上とすることがより好ましい。
【0054】
Si:2%以下(0%は除外)
Siは脱酸の目的で添加される成分で、上記Siの含量が2%を超えると、熱延板の酸洗が困難で、熱延鋼板の未酸洗及び未酸洗酸化物によるスケール性表面欠陥を誘発することがある上、焼鈍時に鋼の表面にSiO2酸化物が生成され、未めっきが発生することがあるため、Siの上限は2%に限定することが好ましい。
【0055】
また、上記素地鋼板は、N:0.001〜0.02%、B:0.0001〜0.01%、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.1%、Cr:0.001〜1.0%、Mo:0.001〜1.0%、Sb:0.001〜0.1%及びW:0.001〜0.3%からなる群より選択された1種以上をさらに含むことがより好ましい。
【0056】
N:0.001〜0.02%
Nは0.001%未満では、製鋼過程でNを制御するための製造費用が大きく上昇する恐れがあるため、その下限を0.001%とする。N含有量が0.02%を超えると、製造工程上、鋼板を溶解及び連鋳し難いため、製造費用が上昇することがあり、AlNによるスラブ亀裂が発生しやすい。よって、その上限を0.02%とする。
【0057】
B:0.0001〜0.01%
Bはオーステナイトからフェライトへの変態を遅延させる元素で、その含量が0.0001%未満では、その効果を十分に果たすことが困難で、Bの含量が0.01%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、熱間加工性を低下させるため、その上限を0.01%に制限することが好ましい。
【0058】
Ti、NbまたはV:0.001〜0.1%
Ti、Nb及びVは鋼板の強度上昇、粒径微細化及び熱処理性を向上させるのに有効な元素である。上記含量が0.001%未満では、上記効果が十分に得られず、0.1%を超えると、製造費用の上昇及び炭窒化物が生成しすぎて、所望する強度及び降伏強度上昇の効果が期待できないため、上限を0.1%に限定することが好ましい。
【0059】
CrまたはMo:0.001〜1.0%
CrとMoは硬化能を大きくするだけでなく、熱処理型鋼板の靭性を増加させるため、高い衝突エネルギー特徴が求められる鋼板に添加すると、その効果がさらに大きく、上記含量が0.001%未満では、上記の効果が十分に得られず、1.0%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、製造費用が上昇するため、その上限を1.0%と制限することが好ましい。
【0060】
Sb:0.001〜0.1%
Sbは熱間圧延時に粒界の選択酸化を抑制することで、スケールの生成を均一とし、熱間圧延材の酸洗性を向上させる役割をする元素である。Sb含量が0.001%未満では、その効果を果たすことが困難で、Sb含量が0.1%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、製造費用が上昇して熱間加工時に脆性を起こすことがあるため、その上限を0.1%に制限することが好ましい。
【0061】
W:0.001〜0.3%
Wは鋼板の熱処理硬化能を向上させる元素であると同時に、W含有析出物が強度確保に有利に作用する元素で、その含量が0.001%未満では、上記効果が十分に得られず、上記含量が0.3%を超えると、上記効果が飽和するだけでなく、製造費用の高くなるという問題点がある。よって、上記含量は0.001〜0.3%に制限することが好ましい。
【0062】
上記亜鉛めっき層の厚さは3μm以上でなければ、高温での耐熱特性が確保できない。上記厚さが3μm未満では、めっき層の厚さが不均一となったり、耐食性が低下する恐れがある。5μm以上であることが効果的であるため、より好ましい。また、めっき層が厚くなるほど、耐食性の確保には有利であるが、30μm程度であれば、十分な耐食性が得られるため、経済性の側面から亜鉛めっき層の厚さの上限は30μmとすることが好ましく、より好ましくは、めっき層の厚さを15μm以内に制御し、熱間プレス工程後のめっき層内のFeが60重量%以上となる合金相の比率を高く確保することで、プレス加工時に表面に発生し得るクラックを最大限抑制することも可能である。
【0063】
[熱間プレス成形部品]
以下、本発明の熱間プレス成形部品について詳しく説明する。
【0064】
本発明のさらに他の一側面は、素地鋼板と、上記素地鋼板上に形成された酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属が0.008重量%以上固溶されているFe−Zn相を含む亜鉛めっき層と、上記亜鉛めっき層上に形成された平均厚さが0.01〜5μmである酸化物層を含む熱間プレス成形部品を提供する。
【0065】
上記熱間プレス成形後の溶融亜鉛めっき層は、Fe−Zn相内に上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属が0.008重量%以上固溶されることが好ましい。即ち、上記熱間プレスの前に、めっき層に酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属が0.01重量%以上含まれ、熱間プレス加熱により上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属がFe−Zn相に固溶されることで、3元相内に酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属が0.008重量以上に含まれる場合、素地鋼板の成分のめっき層への拡散を防止するとともに、亜鉛めっき層のZnが素地鋼板に拡散することを抑制することができる。
【0066】
上記酸化物層の厚さは0.01〜5μm以下であることが好ましい。上記溶融亜鉛めっき層の表面に形成される酸化物層の厚さが5μmを超えると、酸化物が砕けやすく、成長応力が集中して酸化物が表面から剥離しやすいため、製品成形後にショットブラストのような酸化物除去工程が必要である。よって、上記酸化物層の厚さを5μm以下に管理する必要がある。但し、上記厚さが0.01μm未満では、上記めっき層内のZnの揮発が抑制できないという問題があるため、上記厚さの下限は0.01μmに限定することが好ましい。
【0067】
このとき、上記酸化物層はSiO2及びAl2O3からなる群より選択された1種以上の酸化物からなる平均厚さが10〜300nmである連続的な皮膜を含むことが好ましい。特に、Al2O3酸化物が主に形成され、Al2O3酸化物が単独で形成されることも、一部SiO2酸化物が含まれることもできる。このような酸化物層は緻密で、且つ化学的に非常に安定的であるため、極めて薄い皮膜形態でも高温でめっき層の表面を保護する役割をする。特に、Znの揮発を防止してめっき層を保護する役割を効果的に行うためには、上記酸化物の皮膜が連続的な形態で形成されることが好ましく、不連続的な部分があれば、その部分でめっき層の酸化が急激に起こる可能性があり、めっき層をうまく保護できないという問題が生じ得る。
【0068】
また、本発明者は、上記のような酸化物層に連続皮膜が形成される場合、めっき層の耐熱性だけでなく、電着塗装処理時に塗装性及び途膜密着性が非常に向上することを見出した。従来は、電着塗装処理時に塗装性が良くなかったり、形成された途膜が剥離する現象によりリン酸塩処理を施さなければならなかった。しかし、本発明のように、めっき層上に連続皮膜を含む酸化物層が形成されると、別途のリン酸塩処理を施さなくても電着塗装性及び途膜密着性を確保することができ、経済性及び製造効率の側面で大きく向上する。
【0069】
また、上記SiO2及びAl2O3からなる群より選択された1種以上の酸化物は連続的で、且つその厚さが10〜300nmであることが好ましい。上記厚さが10nm未満では、薄すぎて上記連続的な皮膜を形成することが困難である上、Znの揮発を防止する役割を十分に果たすことが困難であり、上記厚さが300nmを超えると、厚すぎて溶接性が劣化するなどの問題が生じるため、上記厚さは10〜300nmに制限することが好ましい。
【0070】
また、上記酸化物層はZnOを含み、MnO、SiO2及びAl2O3からなる群より選択された1種以上の酸化物を0.01〜50重量%含むことが好ましい。ZnOからなる酸化物は高温で内部拡散速度が速くて、速く成長するため、めっき層を保護することができない。よって、ZnOの他にMnO、SiO2、Al2O3からなる酸化物が0.01重量%以上含まれることで、酸化物層の成長を抑制し、めっき層を保護することができる保護的な酸化皮膜として機能するようになる。但し、上記含量が50重量%を超えると、溶接性が阻害する恐れがあるため、上限は50重量%に制限することが好ましい。
【0071】
このとき、上記連続的な皮膜上にZnO及びMnOを含む酸化物が形成され、上記MnO含量はZnOより少ないことがより好ましい。MnO酸化物は、Mn成分が素地鋼板からめっき層に拡散された後にめっき層の表面に形成されたものである。ZnO酸化物よりMnO酸化物が多く形成されると、その分だけ拡散が過多に起きて表層酸化物が急激に生成される。また、ZnOは電気伝導性に優れ、電着塗装及びリン酸塩処理に有利であるため、MnOの含量はZnOより少ないことが好ましい。
【0072】
また、上記酸化物層はFeOが10重量%以下であることが好ましい。酸化物層のFeOの比率が10%を超えると、多量のFeが素地鋼板からめっき層に拡散し表面に出て酸化物を形成する。これによると、Zn含量が30%以上の均一なめっき層が形成されない恐れがあり、Al2O3又はSiO2で表面に形成される保護的な酸化皮膜の連続性がFeの拡散により途切れる恐れがある。従って、本発明で得られる熱間プレス成形部品の表面に形成される酸化物のうちFeOの比率が10%未満であることがよい。FeOの量は少ないほど良いため、下限に対する規制は特にない。
【0073】
一方、上記素地鋼板の上部に亜鉛拡散相が不連続的に存在することが好ましい。一般的に溶融亜鉛めっき鋼板を熱間プレス加熱炉に適用すると、上記めっき層に含まれた亜鉛が素地鋼板に拡散されて素地鋼板の上部に所定厚さの亜鉛拡散相が連続的に形成される。このとき、過度の合金化によりめっき層内のZn含量が十分でなく、耐熱性が良くないため、亜鉛めっき層が耐食性の効果をうまく発揮することができなくなる。よって、耐熱性及び耐食性を確保するためには上記亜鉛拡散相が不連続的に形成されることが好ましい。
【0074】
本発明によると、めっき層と素地鋼板の界面にZn、Fe及び酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の3元相が形成され、素地鋼板の成分のめっき層への拡散を防止するとともに、めっき層に含まれたZnが素地鋼板に拡散されることを抑制するため、上記亜鉛拡散相が不連続的に形成される。このとき、めっき層内のZnの離脱防止が良好で、これにより優れた耐食性を確保することができる。
【0075】
また、上記亜鉛拡散相の平均厚さが5μm以下であることが好ましい。亜鉛拡散相が厚すぎると、上記連続的な亜鉛拡散相と同様に、めっき層に含まれた亜鉛の相当量が熱間プレス加熱により素地鋼板に拡散される。この場合、優れた耐熱性及び耐食性の確保には限界がある。即ち、熱間プレス成形部品の耐熱性及び耐食性を確保するためには、上記亜鉛拡散相の平均厚さが5μm以下に制御される必要がある。亜鉛拡散相は、素地鋼板の表面に沿って1000μm以上が連続的に形成されていないことが好ましい。ここで、平均厚さとは、2000μm以上の表面の一定距離内で観察される合金相の厚さの平均のことである。
【0076】
溶融亜鉛めっきされた鋼板において、亜鉛が含まれた相は亜鉛めっき層と亜鉛拡散相にあり、上記鋼板をインビヒターを添加したHCl溶液のような酸性溶液に浸漬させた時、上記酸により溶解されずに素地鋼板の表面にZnを含んで残っている部分が亜鉛拡散相となる。従って、上記のように、亜鉛めっきされた鋼板を酸性溶液で溶解させて残る亜鉛拡散相の厚さまたはそれに含まれたZn含量などを測定することで、亜鉛拡散相の存在及びその構成を確認することができる。
【0077】
本発明における亜鉛拡散相に含まれたZnの含量は、30重量%未満である。Zn含量が30重量%以上の部分は亜鉛めっき層の一部を構成するため、多量のFeが拡散され、Zn含量が30重量%未満の部分が亜鉛拡散相となるため、亜鉛めっき層と素地鋼板の区別が不明確となる。
【0078】
上記により本発明の熱間プレス成形後の溶融亜鉛めっき層のZn含量を30重量%以上確保し、亜鉛めっき層を安定的に保持することができる。即ち、上記のように熱間プレス成形後に形成された3元相及び酸化物層によって亜鉛めっき層のZn消失を抑制することができるため、亜鉛めっき層が安定的に保持され、めっき層のZn含量が30%以上を満たすことができる。上記めっき層のZn含量が30%未満では、均一なめっき層の形成が不可能で、めっき層の犠牲陽極特性が悪化し、耐食性が劣化しやすい。
【0079】
このとき、上記熱間プレス成形後の溶融亜鉛めっき層の厚さは、熱間プレス成形前の1.5倍以上であることがより好ましい。一般的に、熱間プレス工程において加熱により素地鋼板のFe拡散がさらに起きて熱間プレス工程を行う前よりめっき層が厚くなる。特に、本発明は熱間プレスが完了した鋼板の表面からめっき層におけるZn含量が30%以上の地点までを亜鉛めっき層の厚さとするとき、十分な耐食性を確保するために上記厚さがプレス成形前の1.5倍以上となるように制御している。
【0080】
結局、プレス加熱の初期には上記素地鋼板の最上部にある金属表面拡散層上に不連続的に分布された酸化物の平均厚さを150nm以下に制御して合金化を促進することで、亜鉛めっき層の融点を急激に上昇させ、耐熱性を確保することが好ましく、プレス加熱が進行し続けて750℃以上となるときには、上記のように金属がZn−Fe相に濃化されて3元相を形成し、過度な合金化を防止することで、亜鉛めっき層を安定的に保持する。即ち、プレス加熱の初期には合金化が速く進行されることが有利で、750℃以上になると、逆に合金化を抑制することが亜鉛めっき層を保持するのに好ましい。本発明は両者を制御して耐熱性を確保している。
【0081】
一方、上記亜鉛めっき層内のFe含量が60重量%以上である合金相の比率が、上記亜鉛めっき層全体に対して、70重量%以上であることが好ましい。本発明者らは、めっき層内のFe−rich相が十分でないと、Zn量が多すぎてFe−Zn合金化による融点上昇の効果がわずかで、これにより熱間プレス加熱時に亜鉛めっき層に液状で存在するZnが発生し、結局、熱間プレス加工時に素地鋼板に液状のZnが流れ、素地鋼板の表面にクラックを発生させ得ることに着目し、長年に渡る研究の末、Fe含量が60重量%以上のFe−rich合金相が、全体めっき層に対して、70重量%に達しないと、上記のように熱間プレス加工時に素地鋼板の表面にクラックが発生することを発見した。
【0082】
結局、クラック発生を防止するためには、十分な加工量を加えることができず加工性が低下するという問題が生じることから、本発明者らは上記Fe含量が60重量%以上のFe−rich相をめっき層内に70重量%以上含ませることで、上記クラック発生の問題を効果的に防止し、加工性に優れた熱間プレス成形部品を発明するに至った。
【0083】
上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属は、Ni、Fe、Co、Cu、Sn、Sbからなる群より選択された1種以上であることが好ましい。また、上記素地鋼板は、重量%で、C:0.1〜0.4%、Si:2.0%以下(0%は除外)、Mn:0.1〜4.0%、残部Fe及びその他不可避な不純物からなることが好ましい。また、上記素地鋼板は、N:0.001〜0.02%、B:0.0001〜0.01%、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.1%、Cr:0.001〜1.0%、Mo:0.001〜1.0%、Sb:0.001〜0.1%及びW:0.001〜0.3%からなる群より選択された1種以上をさらに含むことがより好ましい。
【0084】
[熱間プレス成形部品の製造方法]
以下では、本発明の亜鉛めっき鋼板及び熱間プレス成形部品の製造方法について詳しく説明する。
【0085】
本発明の他の一側面は、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属を鋼板にコーティングする段階と、上記コーティングされた鋼板を700〜900℃で焼鈍熱処理する段階と、上記焼鈍熱処理された鋼板をAl:0.05〜0.5重量%、残部Zn及びその他不可避な不純物を含み、430〜500℃の温度範囲を有する溶融亜鉛めっき浴に浸漬して亜鉛めっきする段階と、上記亜鉛めっきされた鋼板を酸化性雰囲気で、2〜10℃/秒の昇温速度で750〜950℃まで加熱してから10分以下保持する段階と、上記加熱後保持された鋼板を600〜900℃の温度範囲でプレス成形する段階とを含む熱間プレス成形部品の製造方法を提供する。
【0086】
本発明の亜鉛めっき鋼板及び熱間プレス成形部品の製造における亜鉛めっき法の種類は、特に制限されない。即ち、溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、プラズマを利用した乾式めっきまたは高温液状Znスプレー法による亜鉛めっきを適用してもよく、本発明の一側面は、上記亜鉛めっき方法の一例として溶融亜鉛めっき法を提示して説明する。
【0087】
まず、本発明は熱間プレス成形用鋼板に対し、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属をコーティングする。上述のように、Znの溶融温度は420℃で、800〜900℃の熱間プレス加熱炉では液化してめっき層が無くなる恐れがある。従って、加熱炉で初期鋼板の温度が上昇する間、Zn層に鋼板の構成元素であるFe、Mnなどが速く合金化されてZn層の溶融温度を上昇させる必要がある。
【0088】
また、鋼板が高すぎる温度に露出されたり、長期間高温に露出される場合、めっき層が酸化してめっき層の表面に厚いZnOが生成されると、めっき層の消耗が酷くなり、めっき層のZnと鋼板の素地成分との相互拡散が活発で、めっき層内のZn含量が少なくなるため、耐食性が低下する恐れがある。従って、めっき層の表面の酸化物成長を最小化し、めっき層内のZn含量を一定量以上に保持しなければならない。
【0089】
上記目的を達成するため、鋼板を焼鈍炉に装入する前に鋼板の表面に酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属をコーティングする必要がある。上記コーティングの役割は、焼鈍炉において冷延鋼板の表面に生成される焼鈍酸化物の生成を最小化することである。焼鈍酸化物は、Znめっき層と鋼板の構成元素であるFe、Mnの合金化を防ぐ拡散障壁としての役割をするが、上記金属をコーティング処理して焼鈍酸化物の形成を最小化すると、Zn層へのFe、Mnの合金化が促進されてめっき層が加熱炉内で耐熱性を有することができる。
【0090】
上記焼鈍熱処理は、窒素と水素が混合された混合ガス雰囲気で、700〜900℃の温度範囲で行うことが好ましい。上記雰囲気の露点温度は−10℃以下であることが好ましい。上記混合ガスは、水素(H2)ガスの比率が3〜15体積%で、残りが窒素(N2)ガスの混合ガスであることが好ましい。H2の比率が3%未満では雰囲気ガスの還元力が低下し、酸化物の生成が容易で、H2の比率が15%を超えると、還元力はよくなるが、還元力の増加に比べて製造費用の増加が酷くて経済的に不利である。
【0091】
上記焼鈍熱処理温度が700℃未満では、焼鈍温度が低すぎて鋼の材質特性を確保することが困難で、上記温度が900℃を超えると、酸化物の成長速度が速くなり、本発明で鋼板と溶融亜鉛めっき層との間に薄い酸化皮膜を形成することが困難となる。また、上記雰囲気の露点温度が−10℃を超える場合も同様に、酸化物の成長速度が速くなる。
【0092】
また、上記溶融亜鉛めっきは、上記焼鈍された鋼板に対して、Alが0.05〜0.5重量%、残りはZn及び不可避な不純物を含み、430〜500℃の温度範囲を有するめっき浴に浸漬して行うことがより好ましい。上記Alの含量が0.05%未満では、めっき層が不均一に形成されやすく、Alの含量が0.5%を超えると、Znめっき層の界面にインヒビション(inhibition)層が厚く形成され、熱間プレス加熱炉での反応初期にZn層内へのFe、Mnなどの拡散速度が低下して加熱炉内での合金化が遅延されるため、Al量を0.5%以下に制限する。より好ましくは、0.25%以下に制御することが合金化の遅延防止にさらに効果的である。
【0093】
その他の上記めっき条件は通常の方法によるが、めっき浴は430〜500℃の温度範囲内でめっき作業を行うことが好ましい。上記めっき浴温度が430℃未満では、めっき浴が十分な流動性を有することができず、逆に、めっき浴温度が500℃を超えると、めっき浴内のドロス発生が頻繁となって生産効率が低下するため、上記めっき浴温度は430〜500℃に制御することが好ましい。上記温度が460℃以上であると、めっき層と素地鋼板の界面にCrより酸化性の弱い金属とAlを十分に濃化させるのにより効果的であるため、より好ましい。
【0094】
上記溶融亜鉛めっきは5〜30μmの厚さになるように行う。上記溶融亜鉛めっき層の厚さが5μm未満では、熱間プレス加熱炉でめっき層内の合金化が過度に行われ、熱間プレス加工後のめっき層中のZn量が著しく低下し、上記めっき層の厚さが30μmを超えると、熱間プレス加熱炉でめっき層の合金化が遅延され、めっき層の表面に酸化物が速く成長し、また、製造費用の側面でも不利であるため、30μm以内に制限する。
【0095】
このとき、上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属をコーティングする段階は、Ni、Fe、Co、Cu、Sn及びSbからなる群より選択された1種以上を平均厚さ1〜1000nmにコーティングすることが好ましい。上記コーティングに適用される金属は、酸素1モール当たりの金属の酸化物を形成するにおいて、ギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属で構成されなければならない。ギブス自由エネルギー減少量がCrより大きいと、上記コーティングされた金属自体が酸化して改善効果がない。上記金属としては、代表的にNi、Feが適用される。その他にもCo、Cu、Sn、Sbなどを適用してよく、これらの混合又は合金化された状態で塗布されてもよいが、Feは合金状態で塗布されることがより好ましい。
【0096】
このとき、上記金属のコーティング厚さは1〜1000nmにすることが好ましい。コーティング厚さが1nm未満では、焼鈍酸化物の抑制機能が十分でなく、コーティング厚さが1000nmを超えると、金属コーティングによる酸化物の抑制はできるが、製造単価が上昇して経済的に不利であるため、1000nm以内に限定する。従って、上記厚さを1〜1000nmに制御することが好ましい。10〜200nmに制御すると、酸化物形成の抑制効果がさらに向上するととも経済性の側面でもより好ましい。
【0097】
また、上記溶融亜鉛めっき浴に浸漬する段階後に600℃以下の温度範囲で合金化熱処理する段階をさらに含んでもよい。めっき後に合金化熱処理を行う場合、合金化熱処理の温度は600℃以下に制限する。600℃を超えると、めっき層の合金化が進行し、熱間プレス加熱炉で耐熱性が増加するが、めっき層の脆化により亀裂が発生する恐れがあり、加熱炉内でめっき層の表面へのスケール成長が増加するため、合金化熱処理温度を600℃以下に制限する。 好ましくは、500℃以下に制限し、めっき層内のFeを5重量%以下に抑制することで、めっき層内の微細クラック発生を効果的に防止することもできる。また、上記温度を450℃以下に抑制すると、微細クラックの発生を抑制するのにより好ましい。
【0098】
上記溶融亜鉛めっき鋼板を製造してから熱間プレス工程を行う。まず、溶融亜鉛めっき鋼板を熱処理する。上記熱処理する段階は、2〜10℃/秒の昇温速度で、酸化性雰囲気で750〜950℃で加熱し、10分以下保持することが好ましい。上記昇温速度が2℃/秒未満では、加熱炉での在炉時間が長すぎてめっき層が劣化しやすく、昇温速度が10℃/秒を超えると、亜鉛めっき層の合金化が十分に行われない状態でめっき層の温度が過度に上昇し、亜鉛めっき層が劣化する危険性がある。
【0099】
加熱時の最高温度は750〜950℃で、最高温度での保持時間は10分以内であることが好ましい。上記最高温度が750℃未満では、鋼の微細組織がオーステナイト領域に十分に変態されないため、強度確保が容易でなく、経済性の側面では、上限を950℃に限定することが好ましい。また、上記温度での保持時間が長すぎると、めっきの表面品質が低下する恐れがあるため、30分を超えてはならず、10分以内に制限することがより好ましい。
【0100】
特に、酸化性雰囲気で750〜950℃に加熱すると、鋼板の表面にAl2O3層が形成され、めっき層のZnが揮発することを抑制する保護層として作用する。このような保護層が連続的にうまく形成されるためには、加熱雰囲気中の酸素分圧が10−40atm以上であることが有利で、10−5atm以上の場合、上記保護層がさらに円滑に形成されるため、より好ましい。
【0101】
上記熱処理後に600〜900℃の温度範囲でプレス成形を行い、熱間プレス成形部品を製造する。上記温度が600℃未満では、オーステナイトがフェライトに変態して熱間プレスを行っても十分な強度を確保することが困難で、経済性の側面では、上限を900℃に限定することが好ましい。
【0102】
以下では、実施例を通じて本発明を詳しく説明するが、これは本発明をより完全に説明するためのもので、下記の実施例により本発明の権利範囲が制限されるものではない。
【0103】
(実施例1)
まず、金属コーティング有無による焼鈍熱処理後の焼鈍酸化物の厚さを調べるために、重量%で、0.24C−0.04Si−2.3Mn−0.008P−0.0015S−0.025Alの組成を有する鋼板にNiコーティングをするか、しない後、785℃で焼鈍熱処理を行って亜鉛めっきを施してから素地鋼板内の金属表面拡散層上に形成される焼鈍酸化物の平均厚さを特定し、その結果を表1に示した。焼鈍酸化物の厚さはGOEDS分析とTEM断面分析により測定し、上記焼鈍酸化物の厚さは酸素の含量が10重量%まで落ちる地点までと判断し、めっき性を評価した。それから、上記溶融亜鉛めっき鋼板をHPF工程に適用した後、めっき層の保持有無を確認した。
【0104】
【表1】
【0105】
測定の結果、発明例1から4は、Niコーティングにより焼鈍酸化物を150nm以下に制御し、めっき性に優れ、HPF後のめっき層が安定的に保持された。特に、焼鈍酸化物を50nm以下に制御した発明例3及び4は、めっき性が非常に良好であった。
【0106】
これに対し、比較例1は、Niコーティングを行わず、焼鈍酸化物が非常に厚く形成されたため、めっきされず、HPF工程後のめっき層が安定的に保持されなかった。
【0107】
(実施例2)
表2に金属コーティング量、Zn層の初期厚さ、Zn浴中のAl濃度、合金化温度など素材の製造方法と、熱間プレス後のめっき層の厚さ、めっき層上に形成される酸化物の厚さ、めっき層のZn含量の構成比率を示した。めっき層のZn含量の比率はGOEDS分析時にめっき層のZnの構成比で示した。
【0108】
【表2】
【0109】
上記試験結果によると、本発明の範囲にある発明鋼は、熱間プレス後めっき層中のZnが30%以上で、熱間プレス後の酸化物層の厚さが5μm以内と薄く、めっき層が安定的に形成される。特に、酸化物層の厚さが1.5μm未満である発明鋼1から5は、めっき層内のZn比率が37重量%以上で、より好ましく耐熱性が確保されたことが分かる。これに対し、比較鋼は、Niめっきを行っていないため、めっき層のZn比率が低かったり、熱間プレス後に酸化物層が厚すぎるなど、本発明の目的から外れている。
【0110】
図1は、発明鋼1の溶融亜鉛めっき鋼板を熱間プレス成形した後の断面を観察した写真である。図1に示されているように、亜鉛めっき層の表面の酸化物層の厚さが5μm以下で、めっき層が均一に形成されていることが分かる。
【0111】
一方、図2は比較鋼1の溶融亜鉛めっき鋼板を熱間プレス成形した後の断面を観察した写真である。図2から、Zn合金層の境界が明らかでなく、この層のZn含量は30%未満で、酸化物層の厚さも5μmを超えて厚いことが確認できる。
【0112】
(実施例3)
まず、表3に記載された組成を有する鋼材を冷間圧延した鋼板を対象に実験した。
【0113】
【表3】
【0114】
そして、焼鈍前の鋼板の表面に下表4に示した条件で所定金属を塗布してから焼鈍処理を行い、Znめっき処理をして溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。GOEDS分析を通じて上記金属塗布層の厚さ、表面から1μm深さまで濃化された金属量及びZnめっき層の厚さなどを測定し、データの正確性を高めるため、試片の断面のSEM、TEM観察、湿式分析及び電子分光化学分析法(ESCA)により比較して検証した。
【0115】
次いで、上記溶融亜鉛めっき鋼板に対して熱間プレス工程を実施した。熱間プレス加熱炉の温度は750〜950℃で、加熱炉の雰囲気は大気中であった。熱間プレス工程が終了した後、試片の断面分析を通じてめっき層の厚さを測定した。参考までに、上記めっき層の厚さは熱間プレス後のめっき層の表面から垂直方向にめっき層内のZn含量が30重量%以上の地点までの長さとし、上記各実験条件や測定結果は下表4に示した。
【0116】
【表4】
【0117】
発明例1から8は、金属塗布により表層直下に金属を濃化させることで、熱間プレス加熱後にもめっき層が安定的に保持されていることが確認できる。また、本発明の成分系及び組成範囲を満たす鋼1から8を使用し、成形部品の引張強度及び伸び率も非常に優れていることが分かる。
【0118】
これに対し、比較例1は、Ni塗布により表層直下にNiを濃化させたが、素地鋼板にSiが過度に添加されている鋼9を使用したため、焼鈍後にSiO2酸化物が表面に多く形成され、未めっき現象が発生した。これにより、熱間プレス工程処理を行うことができなかった。
【0119】
また、比較例2及び3は、本発明の組成範囲を満たす鋼1及び2を使用したが、亜鉛めっき前に金属を塗布する処理をしなかったため、表層直下に金属が濃化されなかった。これにより、熱間プレス成形後にめっき層が全て消失され、耐熱性の確保が不可能であったことが分かる。
【0120】
(実施例4)
まず、表5に記載された組成を有する鋼材を冷間圧延した鋼板を対象に実験した。
【0121】
【表5】
【0122】
焼鈍前の鋼板の表面に所定金属を200nm以内で塗布した後、785℃の温度で焼鈍処理を行ってZnめっき処理をし、溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。GOEDS分析を通じて上記金属塗布層の厚さ、表面から1μm深さまで濃化された金属量及びZnめっき層の厚さなどを測定し、データの正確性を高めるため、試片の断面のSEM、TEM観察、湿式分析及び電子分光化学分析法(ESCA)により比較検証した。
【0123】
次いで、上記溶融亜鉛めっき鋼板に対して熱間プレス工程を実施した。熱間プレス加熱炉の温度は750〜950℃で、加熱炉の雰囲気は大気中であった。熱間プレス工程が終了した後のめっき層は、XRD、GOEDS分析を通じて表面に形成された酸化物とめっき層内の合金相を分析し、試片の断面分析を通じてめっき層の厚さと亜鉛拡散相の連続性及び厚さなどを測定した。参考までに、上記めっき層の厚さは、めっき層の表面から垂直方向にめっき層内のZn含量が30重量%以上の地点までの長さとし、上記各実験条件や測定結果は下表6に示した。
【0124】
【表6】
【0125】
まず、発明例1から4は、Niコーティングにより熱間プレス加熱時にめっき層にFe−Zn−Niの3元相を形成させることで、Znが素地鋼板に拡散することを抑制し、亜鉛拡散相が不連続的な形態で現れ、亜鉛拡散相の厚さも3μm以下と薄く抑制した。従って、耐熱性が確保されてZnめっき層が安定的に保持されるため、加熱後にめっき層がさらに厚くなった。これによりめっき層の耐食性も優れる。
【0126】
これに対し、比較例1から3は、Niコーティングをしなかったため、熱間プレス加熱時にめっき層のZnが素地鋼板に急速に拡散して亜鉛拡散相が連続的、かつ厚く形成された。これにより、プレス加熱後にZnめっき層が全て消失され、耐熱性が確保できず、亜鉛めっき鋼材を利用した目的である耐食性の確保が不可能であったことが分かる。
【0127】
また、上記比較をより明確にするために、発明例1により製造された熱間プレス成形部品の断面及び各地点での成分をEDSで分析した結果を図3及び表7に、比較例1により製造された熱間プレス成形部品の断面及び各地点での成分をEDSで分析した結果を図4及び表8に示した。
【0128】
【表7】
【0129】
【表8】
【0130】
まず、図3を参照すると、素地鋼板の上部に亜鉛拡散相が殆ど形成されず、めっき層と素地鋼板が明確に区別されることが分かる。即ち、熱間プレス加熱後にもめっき層が消失されずに安定的に保持された。表7からも、(1)、(2)及び(3)地点は、Znの比率が30重量%を超え、安定しためっき層内の地点であることが分かる。(4)地点は素地鋼板の上部であるが、Znが殆ど現れず亜鉛拡散相の形成が極めてわずかであることが分かる。従って、めっき層の耐熱性が良好に確保され、これにより、耐食性も効果的に発現されることができる。なお、表7、表8、図3、図4における符号
【数1】
は、本明細書中においては、便宜上(1)、(2)、(3)、(4)と表記することにする。
【0131】
これに対し、図4を参照すると、亜鉛拡散が過度に起き、実際にめっき層と素地鋼板が区別し難いことが分かる。即ち、めっき層のZnの大部分が素地鋼板に消失され、耐熱性が確保できなかった。表8からも、プレス加熱前にめっき層内の地点であった(1)及び(2)地点におけるZn含量が20重量%にも及ばず、実質的に耐食性を発揮するめっき層とみることができない。結局、亜鉛めっき層の大部分が消失され、素地鋼板の一部に拡散して入ったとみることができる。
【0132】
(実施例5)
まず、表9に記載された組成を有する鋼材を冷間圧延した鋼板を対象に実験した。
【0133】
【表9】
【0134】
そして、下表10に示した条件で焼鈍前の鋼板の表面に所定金属を塗布してからZnめっき処理をして溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。GOEDS分析を通じて上記金属塗布層の厚さ、表面から1μm深さまで濃化された金属量及びZnめっき層の厚さなどを測定し、データの正確性を高めるため、試片の断面のSEM、TEM観察、湿式分析及び電子分光化学分析法(ESCA)により比較検証した。
【0135】
次いで、上記溶融亜鉛めっき鋼板に対して熱間プレス工程を実施した。熱間プレス加熱炉の温度は750〜950℃で、加熱炉の雰囲気は大気中であった。熱間プレス工程が終了した後のめっき層は、XRD、GOEDS分析を通じて表面に形成された酸化物とめっき層内の合金相を分析し、試片の断面分析を通じてめっき層の厚さとめっき層内のFeが60重量%以上である相(Fe−rich相)の比率を測定した。
【0136】
参考までに、上記めっき層の厚さは、熱間プレス後のめっき層の表面から垂直方向にめっき層内のZn含量が30重量%以上の地点までの長さとし、加工部クラックを調査するために、曲率半径12mmに加工された部位の断面を切断して素地鋼板の方向に発生したクラックの深さを測定した。上記各実験条件や測定結果は下表10に示した。
【0137】
【表10】
【0138】
まず、発明例1から7は、亜鉛めっき層の厚さが15μmを越えないようにして熱間プレス工程後のめっき層内のFe−rich相の比率を、全体めっき層に対し、70重量%以上に制御することで、加工部クラックを抑制することが可能であった。
【0139】
特に、発明例1から5は、金属表面拡散層を通じて素地鋼板とめっき層の間に焼鈍酸化物を薄く制御し、素地鋼板のFeを亜鉛めっき層に十分に拡散させて合金化させたため、熱間プレス加熱後にもめっき層のZnが消失されずにめっき層が厚く保持され、耐熱性及び耐食性も良好に確保されたことが確認できる。
【0140】
但し、比較例1は、Niコーティング量が多すぎて表層1μm内の濃化金属量も多く、これにより焼鈍酸化物が薄すぎるため、合金化が極めて速く進み、めっき層の厚さが18μmとなった。従って、熱間プレス工程後のめっき層内のFe−rich相の比率が45重量%と低くて、加工部クラックが最大460μmまで発生した。これはめっき層に含まれたFe−rich相に比べて、Zn−rich相が多すぎてZnが液状で存在し、これが素地鋼板にクラックを発生させるのに影響を与えたと分析することができる。
【0141】
また、めっき層内のFe−rich相の比率による加工部クラックの発生有無をより明確に把握するために、比較例1により製造された熱間プレス成形部品の断面を図5に、発明例4により製造された熱間プレス成形部品の断面を図6に示した。その結果、Fe含量が60重量%以上であるFe−rich相が、全体めっき層に対して70重量%を越えない図5では、加工部に素地鋼板に沿ってクラックが深く発生したが、上記Fe−rich相が70重量%を越えた図6では、加工部にクラックが殆ど現れず加工性が極めて良好であることが確認できる。
【0142】
(実施例6)
まず、表11に記載された組成を有する鋼材を冷間圧延した鋼板を対象に実験した。
【0143】
【表11】
【0144】
そして、下表12に示した条件で焼鈍前の鋼板の表面に所定金属を塗布した後、800℃の温度で焼鈍処理し、Alが0.21重量%含まれた亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。GOEDS分析を通じて上記金属塗布層の厚さ、表面から1μm深さまで濃化された金属量及びZnめっき層の厚さなどを測定し、データの正確性を高めるため、試片の断面のSEM、TEM観察、湿式分析及び電子分光化学分析法(ESCA)により比較検証した。
【0145】
次いで、上記溶融亜鉛めっき鋼板に対して熱間プレス工程を実施した。熱間プレス加熱炉の温度は750〜950℃で、加熱炉の雰囲気は大気中であった。熱間プレス工程が終了した後のめっき層は、XRD、GOEDS分析を通じて表面に形成された酸化物とめっき層内の合金相を分析し、試片の断面分析を通じてめっき層の厚さとめっき層の状態を測定した。
【0146】
参考までに、上記めっき層の厚さは、熱間プレス後のめっき層の表面から垂直方向にめっき層内のZn含量が30重量%以上の地点までの長さとし、上記各実験条件や測定結果は下表12に示した。
【0147】
【表12】
【0148】
まず、発明例1から7は、金属塗布により表層内の金属を濃化させることで、熱間プレス加熱後にもめっき層が安定的に保持されていることが確認できる。特に、熱間プレス後のめっき層内の濃化金属量が十分に存在し、3元相の形成を通じて亜鉛めっき層のZn消失を効果的に防止したと分析できる。
【0149】
これに対し、比較例1から5は、金属塗布を省略し表層内の金属を濃化させなかったため、熱間プレス加熱後にめっき層が消失されたことが分かる。特に、熱間プレス後のめっき層内の濃化金属量がなくて、Znの素地鋼板への消失を防止することができる3元相が形成されなかったと分析できる。
【0150】
また、本発明者は、めっき層上に形成されたAl2O3酸化皮膜と上記めっき層の厚さや状態との関係を確認し、さらには上記酸化皮膜が塗装性に及ぼす影響を確認するため、以下の実験を行った。GOEDSを利用して深さ方向に元素の分布を測定してAl2O3酸化皮膜の連続性及び厚さを測定し、FIBで試片の表面を加工して透過電子顕微鏡(TEM)で観察した。Al2O3酸化皮膜の上層部酸化物の厚さはGOEDSを利用して測定した。また、上記表面に塗装処理をして塗装性も共に評価し、その結果を表13に示した。
【0151】
【表13】
【0152】
まず、発明例1から7は、Al2O3酸化皮膜が連続的に40〜100nmで形成され、上層部酸化物の厚さは5μmを超えず、そのZnO含量も50重量%を超えている。従って、このような酸化物層の厚さ及び構造により亜鉛めっき層のZnの劣化が抑制され、上記表12に示したように、亜鉛めっき層の安定的保持に寄与したことが分かる。
【0153】
また、Al2O3酸化皮膜が連続的に形成されることにより、電着塗装処理時の塗装性も良好であることが分かる。
【0154】
これに対し、比較例1から5は、Al2O3酸化皮膜が不連続的に形成され、上層部酸化物の厚さも非常に厚く形成された。従って、表12に示したように亜鉛めっき層のZnが容易く劣化するため、亜鉛めっき層が安定的に保持されないことが分かる。
【0155】
また、Al2O3酸化皮膜が不連続的に形成されることにより、電着塗装処理時の塗装性が不良であると把握することができる。
【0156】
次いで、本発明者は、発明例1及び2に対して、リン酸塩処理をしたものと、リン酸塩処理をしなかったものをそれぞれ実験し、電着塗装処理をしてから試片の対角線に横切ってX字に電着塗装層を切断した後、CCT10サイクルテスト後に切れ目の周りのめっき層の剥離幅の平均及び最大値を測定した。そして、比較例1及び2は塗装性が落ちるため、リン酸塩処理を行ってから塗装処理をして上記実験を行った。その結果は表14に示した。
【0157】
【表14】
【0158】
まず、リン酸塩の付着量は、発明例1及び2が比較例1及び2に比べて、著しく高い。これにより上記Al2O3酸化皮膜が連続的に形成されることで、リン酸塩処理付着量も向上することが分かる。
【0159】
また、CCT後の剥離幅は、発明例1及び2が比較例1及び2に比べて、著しく小さいため、上記Al2O3酸化皮膜が連続的に形成されて途膜密着性も非常に向上することが分かる。特に、発明例の場合、上記Al2O3酸化皮膜の連続性によりリン酸塩処理をしなくても殆ど類似する剥離幅値を有し、途膜密着性に非常に優れることが分かる。従って、発明例は、リン酸塩処理有無に関わらず塗装性及び途膜密着性が良好であった。
【0160】
図8は、発明例3により製造された溶融亜鉛めっき鋼板の断面を撮影したもので、このうち、AlとNiの分布写真をみると、Niは素地鋼板の表面の直下に形成され、その直上にAlが濃化された層が存在することが分かる。即ち、Niが濃化された部分が金属表面拡散層で、その上にAl濃化層が存在する形態となる。そのうちNiは熱間プレス加熱時にめっき層内に拡散されてZn−Feとともに3元相を形成し、亜鉛めっき層のZnが素地鋼板に拡散することを抑制し、上記Alはめっき層上に拡散されてAl2O3酸化皮膜を形成する。
【0161】
図9はAl、Niの分布写真を拡大したもので、点線を基準にAlがNiの直上に濃化され、図面上に赤で表示した部分が各濃化量が多い所であり、Ni写真ではNiを5重量%以上含有し、Al写真ではAlを30重量%以上含有している部分に該当する。即ち、上記Al写真上の赤い部分とNi写真上の赤い部分において、両部分が重なる面積が10%以下であることが分かる。
【技術分野】
【0001】
本発明は熱間プレス成形用亜鉛めっき鋼板に関し、より詳細には熱間プレス成形時のめっき層の劣化を防止し、安定しためっき層を確保することができる表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板、これを利用した熱間プレス成形部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近では、環境規制により、自動車燃費を減少させる目的で、高強度鋼板に対する需要が急増している。自動車鋼板が高強度化するにつれ、プレス成形時に磨耗、破断などが発生しやすく、複雑な製品成形が困難となる。従って、このような問題点を解決するため、鋼板を加熱して熱間状態で成形加工する熱間プレス工程による製品生産が大幅に増加している。
【0003】
熱間プレス鋼板は、通常、800〜900℃で加熱した状態でプレス加工が行われるが、加熱の際、鋼板表面が酸化してスケールが生成される。従って、製品成形後にスケールを除去するショットブラストのような別途の工程が必要となり、製品の耐食性もめっき材より劣る。
【0004】
従って、このような問題点を解決するために、特許文献1のように鋼板表面にAl系めっきを施し、加熱炉でめっき層が保持されて鋼板表面の酸化反応を抑制し、Alの不動態皮膜形成を利用して耐食性を増大させる製品が開発され、商用化されている。
【0005】
しかし、上記Alめっき材の場合、高温での耐熱性は優れるが、犠牲陽極法のZnめっきより耐食性が劣り、また、製造単価が増加するという短所がある。
【0006】
しかし、ZnはAlに比べて高温での耐熱性が大きく劣るため、通常の方法で作製されたZnめっき鋼板は、800〜900℃の高温でZn層の合金化及び高温酸化によりめっき層が不均一に形成され、めっき層のZn比率が30%未満に下がり、耐腐食性の側面からめっき材としての機能が縮小されるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許6296805号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一側面は、亜鉛めっきを利用しためっき材の熱間プレス成形時の亜鉛めっき層の劣化を防止し、熱間プレス成形後、めっき層の表面に形成される酸化物の発生を最小化することができる表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板、これを利用した熱間プレス成形部品及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、表面から深さ1μm以内に、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の表面拡散層を含む素地鋼板と、上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の表面拡散層上に形成されたAlを30重量%以上含むAl濃化層と、上記Al濃化層上に形成された亜鉛めっき層とを含み、上記表面拡散層と上記Al濃化層の間には、平均厚さが150nm以下の焼鈍酸化物が不連続的に分布し、上記素地鋼板の表面から深さ1μm以内に上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の含量が0.1重量%以上である、表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0010】
上記亜鉛めっき層は、Fe:15.0重量%以下、上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属:0.01〜2.0重量%、残りはZn及びその他不可避な不純物を含むことが好ましい。
【0011】
上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属は、Ni、Fe、Co、Cu、Sn、Sbからなる群より選択された1種以上であることがより好ましい。
【0012】
上記Al濃化層の厚さは0.1〜1μmで、EPMA分析時に上記Al濃化層と上記表面拡散層中の上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の含量が5重量%以上である部分とが重なる面積が、上記表面拡散層及びAl濃化層に対して10%以下であることが好ましい。
【0013】
上記素地鋼板は、重量%で、C:0.1〜0.4%、Si:2.0%以下(0%は除外)、Mn:0.1〜4.0%、残部Fe及びその他不可避な不純物からなることが好ましい。
【0014】
上記素地鋼板は、N:0.001〜0.02%、B:0.0001〜0.01%、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.1%、Cr:0.001〜1.0%、Mo:0.001〜1.0%、Sb:0.001〜0.1%及びW:0.001〜0.3%からなる群より選択された1種以上をさらに含むことがより好ましい。
【0015】
本発明の他の一側面は、素地鋼板と、上記素地鋼板上に形成された酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属が0.008重量%以上固溶されているFe−Zn相を含む亜鉛めっき層と、上記亜鉛めっき層上に形成された平均厚さが0.01〜5μmである酸化物層とを含む熱間プレス成形部品を提供する。
【0016】
上記酸化物層は、SiO2及びAl2O3からなる群より選択された1種以上の酸化物からなる平均厚さが10〜300nmの連続的な皮膜を含むことが好ましい。
【0017】
上記酸化物層はZnOを含み、MnO、SiO2及びAl2O3からなる群より選択された1種以上の酸化物を0.01〜50重量%含むことが好ましい。
【0018】
上記連続的な皮膜上にZnO及びMnOを含む酸化物が形成され、上記MnOの含量はZnOより小さいことが好ましい。
【0019】
上記酸化物層は、FeOが10重量%以下であることが好ましい。
【0020】
上記素地鋼板の上部に亜鉛拡散相が不連続的に存在することが好ましい。
【0021】
上記亜鉛拡散相の平均厚さは5μm以下であることがより好ましい。
【0022】
上記亜鉛めっき層のZn含量は30重量%以上であることが好ましい。
【0023】
上記亜鉛めっき層の厚さは、熱間プレス成形前の厚さの1.5倍以上であることが好ましい。
【0024】
上記亜鉛めっき層内のFe含量が60重量%以上である合金相の比率が、上記亜鉛めっき層全体に対して70重量%以上であることが好ましい。
【0025】
上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属は、Ni、Fe、Co、Cu、Sn、Sbからなる群より選択された1種以上であることが好ましい。
【0026】
上記素地鋼板は、重量%で、C:0.1〜0.4%、Si:2.0%以下(0%は除外)、Mn:0.1〜4.0%、残部Fe及びその他不可避な不純物からなることが好ましい。
【0027】
上記素地鋼板は、N:0.001〜0.02%、B:0.0001〜0.01%、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.1%、Cr:0.001〜1.0%、Mo:0.001〜1.0%、Sb:0.001〜0.1%及びW:0.001〜0.3%からなる群より選択された1種以上をさらに含むことが好ましい。
【0028】
本発明のさらに他の一側面は、鋼板に酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属をコーティングする段階と、上記金属がコーティングされた鋼板を700〜900℃で焼鈍熱処理する段階と、上記焼鈍熱処理された鋼板をAl:0.05〜0.5重量%、残部Zn及びその他不可避な不純物を含み、430〜500℃の温度範囲を有する溶融亜鉛めっき浴に浸漬して亜鉛めっきする段階と、上記亜鉛めっきされた鋼板を酸化性雰囲気で、2〜10℃/秒の昇温速度で750〜950℃まで加熱した後、10分以下保持する段階と、上記加熱後保持された鋼板を600〜900℃の温度範囲でプレス成形する段階とを含む熱間プレス成形部品の製造方法を提供する。
【0029】
上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属をコーティングする段階は、Ni、Fe、Co、Cu、Sn及びSbからなる群より選択された1種以上を平均厚さ1〜1000nmでコーティングすることが好ましい。
【0030】
上記亜鉛めっきする段階後に600℃以下の温度範囲で合金化熱処理する段階をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の一側面によると、焼鈍前に酸素親和力の小さい金属を有効な厚さでコーティングして鋼板表面に焼鈍酸化物が生成することを抑制することで、均一な亜鉛めっき層を形成し、プレス加工熱処理時に亜鉛めっき層の合金化が促進され、亜鉛めっき層の溶融温度が短時間で上昇することで、めっき層の劣化を防止することができ、熱間プレス成形後に形成される内部酸化物の発生を最小化することができる。
【0032】
また、本発明の他の一側面によると、熱間プレス加熱時にめっき層の表面に亜鉛めっき層の劣化を防止することができる酸化物層を形成させ、めっき層内にZn、Fe及び酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギーの減少量がCrより小さい金属の3元相を形成させて亜鉛めっき層を安定的に保持することができ、良好な表面状態を確保してリン酸塩処理性に優れ、別途のリン酸塩処理をしなくても、電着塗装時に塗装性及び途膜密着性が確保でき、熱間プレス成形時に素地鋼板にクラックが発生することを防止することで、加工性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】発明例の一例による溶融亜鉛めっき鋼板の熱間プレス成形後の断面を観察した写真である。
【図2】比較例の一例による溶融亜鉛めっき鋼板の熱間プレス成形後の断面を観察した写真である。
【図3】発明例の他の一例により製造された熱間プレス成形部品の断面を示したものである。
【図4】比較例の他の一例により製造された熱間プレス成形部品の断面を示したものである。
【図5】比較例の他の一例により製造された熱間プレス成形部品の加工部位の断面を観察した写真である。
【図6】発明例の他の一例により製造された熱間プレス成形部品の加工部位の断面を観察した写真である。
【図7】発明例の他の一例による成形部品の一例の断面を示した概路図である。
【図8】(a)は本発明の他の一例による溶融亜鉛めっき鋼板の一例の断面を撮った写真で、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)は各成分毎にEPMAマッピング(mapping)分析をした写真である。
【図9】上記EPMAマッピング(mapping)分析の写真のうち、Al、Ni写真を拡大したものである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0035】
[亜鉛めっき鋼板]
以下、本発明の亜鉛めっき鋼板について詳しく説明する。
【0036】
本発明の一側面は、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の表面拡散層を表面から深さ1μm以内に含む素地鋼板と、上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の表面拡散層上に形成されたAlを30重量%以上含むAl濃化層と、上記Al濃化層上に形成された亜鉛めっき層とを含み、上記表面拡散層と上記Al濃化層の間には平均厚さが150nm以下の焼鈍酸化物が不連続的に分布し、上記素地鋼板の表面から深さ1μm以内に上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の含量が0.1重量%以上である表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0037】
上記素地鋼板は熱延鋼板や冷延鋼板の両方を対象とすることができ、上記焼鈍酸化物は、上記溶融亜鉛めっき層と鋼板の構成元素であるFe、Mnなどの合金化を防ぐ拡散障壁としての役割をする。本発明では、上記焼鈍酸化物の厚さを150nm以下にすることで、溶融亜鉛めっき層の合金化を促進し、耐熱性及びプレス成形後のめっき密着性を向上させることができる。上記焼鈍酸化物は上記表面拡散層上に不連続的に分布し、一部はAl濃化層に含まれてもよい。
【0038】
上記焼鈍酸化物の厚さは150nm以下であることが好ましい。上記焼鈍酸化物は、下記の製造工程で示したように、金属コーティングを施した後、焼鈍熱処理を行う過程で形成される。上記焼鈍酸化物の厚さが150nmを超えると、焼鈍酸化物の影響によりめっきがうまく行われず、未めっき現象が発生することがあり、熱間プレス加熱の初期にめっき層の合金化が遅延し、高温加熱時に十分な耐熱性が確保できなくなる。このとき、焼鈍酸化物の厚さは素地鋼板のSi、Mnなどの含量により変わってもよいが、上記焼鈍酸化物の厚さが150nm以下でないと、めっき性及び耐熱性は確保できない。
【0039】
上記焼鈍酸化物の厚さを100nm以下に制御することが好ましい。より好ましくは、上記焼鈍酸化物の厚さを50nm以下に制御することで、めっき性及び耐熱性を極大化させることができる。
【0040】
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の表面拡散層が鋼板表面から1μm以内に存在し、上記素地鋼板の表面から深さ1μm以内に上記金属の含量が0.1重量%以上であることが好ましい。
【0041】
上記金属は、コーティング後焼鈍熱処理を行う過程で母材に拡散されて表面の濃度が低くなるが、研究したところ、表面から深さ1μm以内に上記金属の含有量が0.1重量%以上でなければ、亜鉛めっき時にめっき浴中のAlを上記金属と反応させてさらに多量のAlを上記表面拡散層上に濃化させることができない。上記濃化されたAlは、プレス加熱工程で表層部に拡散された後、選択酸化されて緻密、且つ薄いAl2O3酸化皮膜を形成することで、Znの揮発及び酸化物の成長を抑制する役割をするため、上記のように、表面拡散層を通じてAl濃化量を増加させることが好ましい。
【0042】
即ち、上記のように、金属をコーティングすることで亜鉛めっき層が高温で分解することを防止し、亜鉛めっき層の耐熱性を確保するためには、鋼板表面から1μm以内に、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属が0.1重量%以上なければならない。1.0重量%以上に含まれると、亜鉛めっき層の劣化を効果的に防止することができるため好ましく、3.0重量%以上であると、亜鉛めっき層の耐熱性の確保にさらに寄与するため、より好ましい。
【0043】
このとき、上記亜鉛めっき層はFe:15.0重量%以下、上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属:0.01〜2.0重量%、残りはZn及びその他不可避な不純物を含むことが好ましい。上記溶融亜鉛めっき層に含まれた酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属は、熱間プレス加熱時にめっき層内に拡散されてめっき層に含まれる。特に、熱間プレス加熱時、上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属がFe−Znに固融されて3元相を形成し、これによりプレス加熱時に素地鋼板のFeなどがめっき層内に拡散されることを低減させて亜鉛めっき層が分解されずに単一のめっき層を形成するのに核心的な役割をする。従って、亜鉛めっき鋼板において、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属が0.01重量%未満でめっき層に含まれると、プレス加熱時に上記3元相の量が僅かで、適した耐熱性を確保することが困難であるという短所があり、経済的な側面から、上限は2.0重量%にすることが好ましい。
【0044】
本発明の亜鉛めっき鋼板の種類は特に制限されず、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、プラズマによる乾式亜鉛めっき鋼板、高温液状Znスプレーによる亜鉛めっき鋼板などを含んでよい。
【0045】
また、上記亜鉛めっき層には、Feが15.0重量%以下添加されることが好ましい。これはFeが亜鉛めっき層に十分に拡散されてFe−Zn合金相を形成させることでZnの融点を上昇させるためであり、耐熱性の確保のための極めて重要な構成である。Feが5.0重量%以下添加されると、めっき層に発生する可能性のある微細クラックをさらに低減させることができるため、より好ましい。
【0046】
上記金属は、酸素1モール当たりの金属の酸化物の形成において、ギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属であって、代表的にはNiがある。その他にもFe、Co、Cu、Sn、Sbなどを適用してもよい。Niは酸素親和力がFeより小さい元素で、Ni表面拡散層が鋼板表面に被覆されている場合、コーティング後の焼鈍過程で酸化されず、鋼板表面の親酸化性元素であるMn、Siなどの酸化を抑制する役割をする。上記Fe、Co、Cu、Sn、Sbも金属表面に被覆されると、類似する特性を示す。このとき、Feは単独で用いるよりはNiなどとの合金状態で用いることがより好ましい。
【0047】
また、上記Al濃化層の厚さは0.1〜1μmで、EPMA分析時、上記Al濃化層と上記表面拡散層のうち上記金属の含量が5重量%以上の部分が重なる面積が、上記表面拡散層及びAl濃化層に対して、10%以下であることが好ましい。Alが含有された亜鉛めっき浴に浸漬すると、上記表面拡散層上にAl濃化層が0.1〜1.0μmの厚さで形成されるが、これはAlの含有量により調節することができる。特に、上記表面拡散層が形成されると、Alが界面反応を通じて上記表面拡散層上にさらに多くのAlが濃化されるため、上記表面拡散層はこのようなAl濃化層の形成に重要な影響を及ぼす。
【0048】
図7は、本発明の成形部品の断面図を概略的に示したもので、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属が素地鋼板の最上部に拡散されて表面拡散層を形成する。そして、図7には省略されているが、上記表面拡散層上に焼鈍酸化物が不連続的に分布しており、その上にAl濃化層が、上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属との界面反応を通じてさらに多く形成される構造を有する。
【0049】
上記濃化層に含まれたAlは、プレス加熱工程において表層部に拡散された後、選択酸化されて緻密、かつ薄いAl2O3酸化皮膜を形成することで、Znの揮発及び酸化物の成長を抑制する役割をする。従って、本発明の熱間プレス成形部品の表面状態を得るためには、めっき浴後、上記Al濃化層を形成させる過程が必須である。Al濃化層の厚さが0.1μm未満では、上記酸化皮膜を連続的に形成するのに量が少なすぎて、上記厚さが1.0μmを超えると、上記酸化皮膜が過度に厚くなる恐れがあるため、0.1〜1.0μmに限定することが好ましい。
【0050】
また、EPMA分析時、上記Al濃化層と上記表面拡散層のうち上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の含量が5重量%以上の部分が重なる面積が、全体表面拡散層及びAl濃化層に対して、10%以下であることが好ましい。ここで、上記重なる部分とは上記金属とAlが合金反応を起こして合金相を形成したことを意味する。このようにAlが上記金属と合金状態で存在すると、プレス加熱時、めっき層の表面への拡散が容易でない。そのため、合金状態で存在する部分が多いと、上記Al2O3の連続的な酸化皮膜の形成に寄与できるAlの量が実質的に減少する。よって、EPMA分析から、上記重なる部分が10%以下でなければ、合金状態でないAlが上記濃化層に十分に位置しないため、Al2O3酸化皮膜が効果的に形成されない。
【0051】
一方、上記素地鋼板は、重量%で、C:0.1〜0.4%、Si:2.0%以下(0%は除外)、Mn:0.1〜4.0%、残部Fe及びその他不可避な不純物からなることが好ましい。
【0052】
C:0.1〜0.4%
Cは、鋼板の強度を増加させる核心元素で、オーステナイト及びマルテンサイトの硬質相を生成させる。Cの含量が0.1%未満では、オーステナイト単相域で熱間プレスを行っても目標とする強度を確保することが困難であるため、Cの含量を0.1%以上添加することが好ましい。Cの含量が0.4%を超えると、靭性及び溶接性の低下が発生する可能性が高くなり、強度が高くなりすぎて焼鈍及びめっき工程で通板性を阻害するなど製造工程で不利な点があるため、Cの上限は0.4%以下に制限する。
【0053】
Mn:0.1〜4.0%
Mnは固溶強化元素で、強度の上昇に大きく寄与するだけでなく、オーステナイトからフェライトへの変態を遅延させるのに重要な役割をする。Mnの含量が0.1%未満では、オーステナイトからフェライトへの変態温度(Ae3)が高くなり、鋼板をオーステナイト単相でプレス加工するためには、その分だけ高い熱処理温度が必要である。一方、Mnの含量が4.0%を超えると、溶接性、熱間圧延性などが劣化する恐れがあるため好ましくない。このとき、Mnによるフェライトへの変態温度(Ae3)の低減及び焼入性を十分に確保するためには、Mnの含量を0.5%以上とすることがより好ましい。
【0054】
Si:2%以下(0%は除外)
Siは脱酸の目的で添加される成分で、上記Siの含量が2%を超えると、熱延板の酸洗が困難で、熱延鋼板の未酸洗及び未酸洗酸化物によるスケール性表面欠陥を誘発することがある上、焼鈍時に鋼の表面にSiO2酸化物が生成され、未めっきが発生することがあるため、Siの上限は2%に限定することが好ましい。
【0055】
また、上記素地鋼板は、N:0.001〜0.02%、B:0.0001〜0.01%、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.1%、Cr:0.001〜1.0%、Mo:0.001〜1.0%、Sb:0.001〜0.1%及びW:0.001〜0.3%からなる群より選択された1種以上をさらに含むことがより好ましい。
【0056】
N:0.001〜0.02%
Nは0.001%未満では、製鋼過程でNを制御するための製造費用が大きく上昇する恐れがあるため、その下限を0.001%とする。N含有量が0.02%を超えると、製造工程上、鋼板を溶解及び連鋳し難いため、製造費用が上昇することがあり、AlNによるスラブ亀裂が発生しやすい。よって、その上限を0.02%とする。
【0057】
B:0.0001〜0.01%
Bはオーステナイトからフェライトへの変態を遅延させる元素で、その含量が0.0001%未満では、その効果を十分に果たすことが困難で、Bの含量が0.01%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、熱間加工性を低下させるため、その上限を0.01%に制限することが好ましい。
【0058】
Ti、NbまたはV:0.001〜0.1%
Ti、Nb及びVは鋼板の強度上昇、粒径微細化及び熱処理性を向上させるのに有効な元素である。上記含量が0.001%未満では、上記効果が十分に得られず、0.1%を超えると、製造費用の上昇及び炭窒化物が生成しすぎて、所望する強度及び降伏強度上昇の効果が期待できないため、上限を0.1%に限定することが好ましい。
【0059】
CrまたはMo:0.001〜1.0%
CrとMoは硬化能を大きくするだけでなく、熱処理型鋼板の靭性を増加させるため、高い衝突エネルギー特徴が求められる鋼板に添加すると、その効果がさらに大きく、上記含量が0.001%未満では、上記の効果が十分に得られず、1.0%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、製造費用が上昇するため、その上限を1.0%と制限することが好ましい。
【0060】
Sb:0.001〜0.1%
Sbは熱間圧延時に粒界の選択酸化を抑制することで、スケールの生成を均一とし、熱間圧延材の酸洗性を向上させる役割をする元素である。Sb含量が0.001%未満では、その効果を果たすことが困難で、Sb含量が0.1%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、製造費用が上昇して熱間加工時に脆性を起こすことがあるため、その上限を0.1%に制限することが好ましい。
【0061】
W:0.001〜0.3%
Wは鋼板の熱処理硬化能を向上させる元素であると同時に、W含有析出物が強度確保に有利に作用する元素で、その含量が0.001%未満では、上記効果が十分に得られず、上記含量が0.3%を超えると、上記効果が飽和するだけでなく、製造費用の高くなるという問題点がある。よって、上記含量は0.001〜0.3%に制限することが好ましい。
【0062】
上記亜鉛めっき層の厚さは3μm以上でなければ、高温での耐熱特性が確保できない。上記厚さが3μm未満では、めっき層の厚さが不均一となったり、耐食性が低下する恐れがある。5μm以上であることが効果的であるため、より好ましい。また、めっき層が厚くなるほど、耐食性の確保には有利であるが、30μm程度であれば、十分な耐食性が得られるため、経済性の側面から亜鉛めっき層の厚さの上限は30μmとすることが好ましく、より好ましくは、めっき層の厚さを15μm以内に制御し、熱間プレス工程後のめっき層内のFeが60重量%以上となる合金相の比率を高く確保することで、プレス加工時に表面に発生し得るクラックを最大限抑制することも可能である。
【0063】
[熱間プレス成形部品]
以下、本発明の熱間プレス成形部品について詳しく説明する。
【0064】
本発明のさらに他の一側面は、素地鋼板と、上記素地鋼板上に形成された酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属が0.008重量%以上固溶されているFe−Zn相を含む亜鉛めっき層と、上記亜鉛めっき層上に形成された平均厚さが0.01〜5μmである酸化物層を含む熱間プレス成形部品を提供する。
【0065】
上記熱間プレス成形後の溶融亜鉛めっき層は、Fe−Zn相内に上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属が0.008重量%以上固溶されることが好ましい。即ち、上記熱間プレスの前に、めっき層に酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属が0.01重量%以上含まれ、熱間プレス加熱により上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属がFe−Zn相に固溶されることで、3元相内に酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属が0.008重量以上に含まれる場合、素地鋼板の成分のめっき層への拡散を防止するとともに、亜鉛めっき層のZnが素地鋼板に拡散することを抑制することができる。
【0066】
上記酸化物層の厚さは0.01〜5μm以下であることが好ましい。上記溶融亜鉛めっき層の表面に形成される酸化物層の厚さが5μmを超えると、酸化物が砕けやすく、成長応力が集中して酸化物が表面から剥離しやすいため、製品成形後にショットブラストのような酸化物除去工程が必要である。よって、上記酸化物層の厚さを5μm以下に管理する必要がある。但し、上記厚さが0.01μm未満では、上記めっき層内のZnの揮発が抑制できないという問題があるため、上記厚さの下限は0.01μmに限定することが好ましい。
【0067】
このとき、上記酸化物層はSiO2及びAl2O3からなる群より選択された1種以上の酸化物からなる平均厚さが10〜300nmである連続的な皮膜を含むことが好ましい。特に、Al2O3酸化物が主に形成され、Al2O3酸化物が単独で形成されることも、一部SiO2酸化物が含まれることもできる。このような酸化物層は緻密で、且つ化学的に非常に安定的であるため、極めて薄い皮膜形態でも高温でめっき層の表面を保護する役割をする。特に、Znの揮発を防止してめっき層を保護する役割を効果的に行うためには、上記酸化物の皮膜が連続的な形態で形成されることが好ましく、不連続的な部分があれば、その部分でめっき層の酸化が急激に起こる可能性があり、めっき層をうまく保護できないという問題が生じ得る。
【0068】
また、本発明者は、上記のような酸化物層に連続皮膜が形成される場合、めっき層の耐熱性だけでなく、電着塗装処理時に塗装性及び途膜密着性が非常に向上することを見出した。従来は、電着塗装処理時に塗装性が良くなかったり、形成された途膜が剥離する現象によりリン酸塩処理を施さなければならなかった。しかし、本発明のように、めっき層上に連続皮膜を含む酸化物層が形成されると、別途のリン酸塩処理を施さなくても電着塗装性及び途膜密着性を確保することができ、経済性及び製造効率の側面で大きく向上する。
【0069】
また、上記SiO2及びAl2O3からなる群より選択された1種以上の酸化物は連続的で、且つその厚さが10〜300nmであることが好ましい。上記厚さが10nm未満では、薄すぎて上記連続的な皮膜を形成することが困難である上、Znの揮発を防止する役割を十分に果たすことが困難であり、上記厚さが300nmを超えると、厚すぎて溶接性が劣化するなどの問題が生じるため、上記厚さは10〜300nmに制限することが好ましい。
【0070】
また、上記酸化物層はZnOを含み、MnO、SiO2及びAl2O3からなる群より選択された1種以上の酸化物を0.01〜50重量%含むことが好ましい。ZnOからなる酸化物は高温で内部拡散速度が速くて、速く成長するため、めっき層を保護することができない。よって、ZnOの他にMnO、SiO2、Al2O3からなる酸化物が0.01重量%以上含まれることで、酸化物層の成長を抑制し、めっき層を保護することができる保護的な酸化皮膜として機能するようになる。但し、上記含量が50重量%を超えると、溶接性が阻害する恐れがあるため、上限は50重量%に制限することが好ましい。
【0071】
このとき、上記連続的な皮膜上にZnO及びMnOを含む酸化物が形成され、上記MnO含量はZnOより少ないことがより好ましい。MnO酸化物は、Mn成分が素地鋼板からめっき層に拡散された後にめっき層の表面に形成されたものである。ZnO酸化物よりMnO酸化物が多く形成されると、その分だけ拡散が過多に起きて表層酸化物が急激に生成される。また、ZnOは電気伝導性に優れ、電着塗装及びリン酸塩処理に有利であるため、MnOの含量はZnOより少ないことが好ましい。
【0072】
また、上記酸化物層はFeOが10重量%以下であることが好ましい。酸化物層のFeOの比率が10%を超えると、多量のFeが素地鋼板からめっき層に拡散し表面に出て酸化物を形成する。これによると、Zn含量が30%以上の均一なめっき層が形成されない恐れがあり、Al2O3又はSiO2で表面に形成される保護的な酸化皮膜の連続性がFeの拡散により途切れる恐れがある。従って、本発明で得られる熱間プレス成形部品の表面に形成される酸化物のうちFeOの比率が10%未満であることがよい。FeOの量は少ないほど良いため、下限に対する規制は特にない。
【0073】
一方、上記素地鋼板の上部に亜鉛拡散相が不連続的に存在することが好ましい。一般的に溶融亜鉛めっき鋼板を熱間プレス加熱炉に適用すると、上記めっき層に含まれた亜鉛が素地鋼板に拡散されて素地鋼板の上部に所定厚さの亜鉛拡散相が連続的に形成される。このとき、過度の合金化によりめっき層内のZn含量が十分でなく、耐熱性が良くないため、亜鉛めっき層が耐食性の効果をうまく発揮することができなくなる。よって、耐熱性及び耐食性を確保するためには上記亜鉛拡散相が不連続的に形成されることが好ましい。
【0074】
本発明によると、めっき層と素地鋼板の界面にZn、Fe及び酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の3元相が形成され、素地鋼板の成分のめっき層への拡散を防止するとともに、めっき層に含まれたZnが素地鋼板に拡散されることを抑制するため、上記亜鉛拡散相が不連続的に形成される。このとき、めっき層内のZnの離脱防止が良好で、これにより優れた耐食性を確保することができる。
【0075】
また、上記亜鉛拡散相の平均厚さが5μm以下であることが好ましい。亜鉛拡散相が厚すぎると、上記連続的な亜鉛拡散相と同様に、めっき層に含まれた亜鉛の相当量が熱間プレス加熱により素地鋼板に拡散される。この場合、優れた耐熱性及び耐食性の確保には限界がある。即ち、熱間プレス成形部品の耐熱性及び耐食性を確保するためには、上記亜鉛拡散相の平均厚さが5μm以下に制御される必要がある。亜鉛拡散相は、素地鋼板の表面に沿って1000μm以上が連続的に形成されていないことが好ましい。ここで、平均厚さとは、2000μm以上の表面の一定距離内で観察される合金相の厚さの平均のことである。
【0076】
溶融亜鉛めっきされた鋼板において、亜鉛が含まれた相は亜鉛めっき層と亜鉛拡散相にあり、上記鋼板をインビヒターを添加したHCl溶液のような酸性溶液に浸漬させた時、上記酸により溶解されずに素地鋼板の表面にZnを含んで残っている部分が亜鉛拡散相となる。従って、上記のように、亜鉛めっきされた鋼板を酸性溶液で溶解させて残る亜鉛拡散相の厚さまたはそれに含まれたZn含量などを測定することで、亜鉛拡散相の存在及びその構成を確認することができる。
【0077】
本発明における亜鉛拡散相に含まれたZnの含量は、30重量%未満である。Zn含量が30重量%以上の部分は亜鉛めっき層の一部を構成するため、多量のFeが拡散され、Zn含量が30重量%未満の部分が亜鉛拡散相となるため、亜鉛めっき層と素地鋼板の区別が不明確となる。
【0078】
上記により本発明の熱間プレス成形後の溶融亜鉛めっき層のZn含量を30重量%以上確保し、亜鉛めっき層を安定的に保持することができる。即ち、上記のように熱間プレス成形後に形成された3元相及び酸化物層によって亜鉛めっき層のZn消失を抑制することができるため、亜鉛めっき層が安定的に保持され、めっき層のZn含量が30%以上を満たすことができる。上記めっき層のZn含量が30%未満では、均一なめっき層の形成が不可能で、めっき層の犠牲陽極特性が悪化し、耐食性が劣化しやすい。
【0079】
このとき、上記熱間プレス成形後の溶融亜鉛めっき層の厚さは、熱間プレス成形前の1.5倍以上であることがより好ましい。一般的に、熱間プレス工程において加熱により素地鋼板のFe拡散がさらに起きて熱間プレス工程を行う前よりめっき層が厚くなる。特に、本発明は熱間プレスが完了した鋼板の表面からめっき層におけるZn含量が30%以上の地点までを亜鉛めっき層の厚さとするとき、十分な耐食性を確保するために上記厚さがプレス成形前の1.5倍以上となるように制御している。
【0080】
結局、プレス加熱の初期には上記素地鋼板の最上部にある金属表面拡散層上に不連続的に分布された酸化物の平均厚さを150nm以下に制御して合金化を促進することで、亜鉛めっき層の融点を急激に上昇させ、耐熱性を確保することが好ましく、プレス加熱が進行し続けて750℃以上となるときには、上記のように金属がZn−Fe相に濃化されて3元相を形成し、過度な合金化を防止することで、亜鉛めっき層を安定的に保持する。即ち、プレス加熱の初期には合金化が速く進行されることが有利で、750℃以上になると、逆に合金化を抑制することが亜鉛めっき層を保持するのに好ましい。本発明は両者を制御して耐熱性を確保している。
【0081】
一方、上記亜鉛めっき層内のFe含量が60重量%以上である合金相の比率が、上記亜鉛めっき層全体に対して、70重量%以上であることが好ましい。本発明者らは、めっき層内のFe−rich相が十分でないと、Zn量が多すぎてFe−Zn合金化による融点上昇の効果がわずかで、これにより熱間プレス加熱時に亜鉛めっき層に液状で存在するZnが発生し、結局、熱間プレス加工時に素地鋼板に液状のZnが流れ、素地鋼板の表面にクラックを発生させ得ることに着目し、長年に渡る研究の末、Fe含量が60重量%以上のFe−rich合金相が、全体めっき層に対して、70重量%に達しないと、上記のように熱間プレス加工時に素地鋼板の表面にクラックが発生することを発見した。
【0082】
結局、クラック発生を防止するためには、十分な加工量を加えることができず加工性が低下するという問題が生じることから、本発明者らは上記Fe含量が60重量%以上のFe−rich相をめっき層内に70重量%以上含ませることで、上記クラック発生の問題を効果的に防止し、加工性に優れた熱間プレス成形部品を発明するに至った。
【0083】
上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属は、Ni、Fe、Co、Cu、Sn、Sbからなる群より選択された1種以上であることが好ましい。また、上記素地鋼板は、重量%で、C:0.1〜0.4%、Si:2.0%以下(0%は除外)、Mn:0.1〜4.0%、残部Fe及びその他不可避な不純物からなることが好ましい。また、上記素地鋼板は、N:0.001〜0.02%、B:0.0001〜0.01%、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.1%、Cr:0.001〜1.0%、Mo:0.001〜1.0%、Sb:0.001〜0.1%及びW:0.001〜0.3%からなる群より選択された1種以上をさらに含むことがより好ましい。
【0084】
[熱間プレス成形部品の製造方法]
以下では、本発明の亜鉛めっき鋼板及び熱間プレス成形部品の製造方法について詳しく説明する。
【0085】
本発明の他の一側面は、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属を鋼板にコーティングする段階と、上記コーティングされた鋼板を700〜900℃で焼鈍熱処理する段階と、上記焼鈍熱処理された鋼板をAl:0.05〜0.5重量%、残部Zn及びその他不可避な不純物を含み、430〜500℃の温度範囲を有する溶融亜鉛めっき浴に浸漬して亜鉛めっきする段階と、上記亜鉛めっきされた鋼板を酸化性雰囲気で、2〜10℃/秒の昇温速度で750〜950℃まで加熱してから10分以下保持する段階と、上記加熱後保持された鋼板を600〜900℃の温度範囲でプレス成形する段階とを含む熱間プレス成形部品の製造方法を提供する。
【0086】
本発明の亜鉛めっき鋼板及び熱間プレス成形部品の製造における亜鉛めっき法の種類は、特に制限されない。即ち、溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、プラズマを利用した乾式めっきまたは高温液状Znスプレー法による亜鉛めっきを適用してもよく、本発明の一側面は、上記亜鉛めっき方法の一例として溶融亜鉛めっき法を提示して説明する。
【0087】
まず、本発明は熱間プレス成形用鋼板に対し、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属をコーティングする。上述のように、Znの溶融温度は420℃で、800〜900℃の熱間プレス加熱炉では液化してめっき層が無くなる恐れがある。従って、加熱炉で初期鋼板の温度が上昇する間、Zn層に鋼板の構成元素であるFe、Mnなどが速く合金化されてZn層の溶融温度を上昇させる必要がある。
【0088】
また、鋼板が高すぎる温度に露出されたり、長期間高温に露出される場合、めっき層が酸化してめっき層の表面に厚いZnOが生成されると、めっき層の消耗が酷くなり、めっき層のZnと鋼板の素地成分との相互拡散が活発で、めっき層内のZn含量が少なくなるため、耐食性が低下する恐れがある。従って、めっき層の表面の酸化物成長を最小化し、めっき層内のZn含量を一定量以上に保持しなければならない。
【0089】
上記目的を達成するため、鋼板を焼鈍炉に装入する前に鋼板の表面に酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属をコーティングする必要がある。上記コーティングの役割は、焼鈍炉において冷延鋼板の表面に生成される焼鈍酸化物の生成を最小化することである。焼鈍酸化物は、Znめっき層と鋼板の構成元素であるFe、Mnの合金化を防ぐ拡散障壁としての役割をするが、上記金属をコーティング処理して焼鈍酸化物の形成を最小化すると、Zn層へのFe、Mnの合金化が促進されてめっき層が加熱炉内で耐熱性を有することができる。
【0090】
上記焼鈍熱処理は、窒素と水素が混合された混合ガス雰囲気で、700〜900℃の温度範囲で行うことが好ましい。上記雰囲気の露点温度は−10℃以下であることが好ましい。上記混合ガスは、水素(H2)ガスの比率が3〜15体積%で、残りが窒素(N2)ガスの混合ガスであることが好ましい。H2の比率が3%未満では雰囲気ガスの還元力が低下し、酸化物の生成が容易で、H2の比率が15%を超えると、還元力はよくなるが、還元力の増加に比べて製造費用の増加が酷くて経済的に不利である。
【0091】
上記焼鈍熱処理温度が700℃未満では、焼鈍温度が低すぎて鋼の材質特性を確保することが困難で、上記温度が900℃を超えると、酸化物の成長速度が速くなり、本発明で鋼板と溶融亜鉛めっき層との間に薄い酸化皮膜を形成することが困難となる。また、上記雰囲気の露点温度が−10℃を超える場合も同様に、酸化物の成長速度が速くなる。
【0092】
また、上記溶融亜鉛めっきは、上記焼鈍された鋼板に対して、Alが0.05〜0.5重量%、残りはZn及び不可避な不純物を含み、430〜500℃の温度範囲を有するめっき浴に浸漬して行うことがより好ましい。上記Alの含量が0.05%未満では、めっき層が不均一に形成されやすく、Alの含量が0.5%を超えると、Znめっき層の界面にインヒビション(inhibition)層が厚く形成され、熱間プレス加熱炉での反応初期にZn層内へのFe、Mnなどの拡散速度が低下して加熱炉内での合金化が遅延されるため、Al量を0.5%以下に制限する。より好ましくは、0.25%以下に制御することが合金化の遅延防止にさらに効果的である。
【0093】
その他の上記めっき条件は通常の方法によるが、めっき浴は430〜500℃の温度範囲内でめっき作業を行うことが好ましい。上記めっき浴温度が430℃未満では、めっき浴が十分な流動性を有することができず、逆に、めっき浴温度が500℃を超えると、めっき浴内のドロス発生が頻繁となって生産効率が低下するため、上記めっき浴温度は430〜500℃に制御することが好ましい。上記温度が460℃以上であると、めっき層と素地鋼板の界面にCrより酸化性の弱い金属とAlを十分に濃化させるのにより効果的であるため、より好ましい。
【0094】
上記溶融亜鉛めっきは5〜30μmの厚さになるように行う。上記溶融亜鉛めっき層の厚さが5μm未満では、熱間プレス加熱炉でめっき層内の合金化が過度に行われ、熱間プレス加工後のめっき層中のZn量が著しく低下し、上記めっき層の厚さが30μmを超えると、熱間プレス加熱炉でめっき層の合金化が遅延され、めっき層の表面に酸化物が速く成長し、また、製造費用の側面でも不利であるため、30μm以内に制限する。
【0095】
このとき、上記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属をコーティングする段階は、Ni、Fe、Co、Cu、Sn及びSbからなる群より選択された1種以上を平均厚さ1〜1000nmにコーティングすることが好ましい。上記コーティングに適用される金属は、酸素1モール当たりの金属の酸化物を形成するにおいて、ギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属で構成されなければならない。ギブス自由エネルギー減少量がCrより大きいと、上記コーティングされた金属自体が酸化して改善効果がない。上記金属としては、代表的にNi、Feが適用される。その他にもCo、Cu、Sn、Sbなどを適用してよく、これらの混合又は合金化された状態で塗布されてもよいが、Feは合金状態で塗布されることがより好ましい。
【0096】
このとき、上記金属のコーティング厚さは1〜1000nmにすることが好ましい。コーティング厚さが1nm未満では、焼鈍酸化物の抑制機能が十分でなく、コーティング厚さが1000nmを超えると、金属コーティングによる酸化物の抑制はできるが、製造単価が上昇して経済的に不利であるため、1000nm以内に限定する。従って、上記厚さを1〜1000nmに制御することが好ましい。10〜200nmに制御すると、酸化物形成の抑制効果がさらに向上するととも経済性の側面でもより好ましい。
【0097】
また、上記溶融亜鉛めっき浴に浸漬する段階後に600℃以下の温度範囲で合金化熱処理する段階をさらに含んでもよい。めっき後に合金化熱処理を行う場合、合金化熱処理の温度は600℃以下に制限する。600℃を超えると、めっき層の合金化が進行し、熱間プレス加熱炉で耐熱性が増加するが、めっき層の脆化により亀裂が発生する恐れがあり、加熱炉内でめっき層の表面へのスケール成長が増加するため、合金化熱処理温度を600℃以下に制限する。 好ましくは、500℃以下に制限し、めっき層内のFeを5重量%以下に抑制することで、めっき層内の微細クラック発生を効果的に防止することもできる。また、上記温度を450℃以下に抑制すると、微細クラックの発生を抑制するのにより好ましい。
【0098】
上記溶融亜鉛めっき鋼板を製造してから熱間プレス工程を行う。まず、溶融亜鉛めっき鋼板を熱処理する。上記熱処理する段階は、2〜10℃/秒の昇温速度で、酸化性雰囲気で750〜950℃で加熱し、10分以下保持することが好ましい。上記昇温速度が2℃/秒未満では、加熱炉での在炉時間が長すぎてめっき層が劣化しやすく、昇温速度が10℃/秒を超えると、亜鉛めっき層の合金化が十分に行われない状態でめっき層の温度が過度に上昇し、亜鉛めっき層が劣化する危険性がある。
【0099】
加熱時の最高温度は750〜950℃で、最高温度での保持時間は10分以内であることが好ましい。上記最高温度が750℃未満では、鋼の微細組織がオーステナイト領域に十分に変態されないため、強度確保が容易でなく、経済性の側面では、上限を950℃に限定することが好ましい。また、上記温度での保持時間が長すぎると、めっきの表面品質が低下する恐れがあるため、30分を超えてはならず、10分以内に制限することがより好ましい。
【0100】
特に、酸化性雰囲気で750〜950℃に加熱すると、鋼板の表面にAl2O3層が形成され、めっき層のZnが揮発することを抑制する保護層として作用する。このような保護層が連続的にうまく形成されるためには、加熱雰囲気中の酸素分圧が10−40atm以上であることが有利で、10−5atm以上の場合、上記保護層がさらに円滑に形成されるため、より好ましい。
【0101】
上記熱処理後に600〜900℃の温度範囲でプレス成形を行い、熱間プレス成形部品を製造する。上記温度が600℃未満では、オーステナイトがフェライトに変態して熱間プレスを行っても十分な強度を確保することが困難で、経済性の側面では、上限を900℃に限定することが好ましい。
【0102】
以下では、実施例を通じて本発明を詳しく説明するが、これは本発明をより完全に説明するためのもので、下記の実施例により本発明の権利範囲が制限されるものではない。
【0103】
(実施例1)
まず、金属コーティング有無による焼鈍熱処理後の焼鈍酸化物の厚さを調べるために、重量%で、0.24C−0.04Si−2.3Mn−0.008P−0.0015S−0.025Alの組成を有する鋼板にNiコーティングをするか、しない後、785℃で焼鈍熱処理を行って亜鉛めっきを施してから素地鋼板内の金属表面拡散層上に形成される焼鈍酸化物の平均厚さを特定し、その結果を表1に示した。焼鈍酸化物の厚さはGOEDS分析とTEM断面分析により測定し、上記焼鈍酸化物の厚さは酸素の含量が10重量%まで落ちる地点までと判断し、めっき性を評価した。それから、上記溶融亜鉛めっき鋼板をHPF工程に適用した後、めっき層の保持有無を確認した。
【0104】
【表1】
【0105】
測定の結果、発明例1から4は、Niコーティングにより焼鈍酸化物を150nm以下に制御し、めっき性に優れ、HPF後のめっき層が安定的に保持された。特に、焼鈍酸化物を50nm以下に制御した発明例3及び4は、めっき性が非常に良好であった。
【0106】
これに対し、比較例1は、Niコーティングを行わず、焼鈍酸化物が非常に厚く形成されたため、めっきされず、HPF工程後のめっき層が安定的に保持されなかった。
【0107】
(実施例2)
表2に金属コーティング量、Zn層の初期厚さ、Zn浴中のAl濃度、合金化温度など素材の製造方法と、熱間プレス後のめっき層の厚さ、めっき層上に形成される酸化物の厚さ、めっき層のZn含量の構成比率を示した。めっき層のZn含量の比率はGOEDS分析時にめっき層のZnの構成比で示した。
【0108】
【表2】
【0109】
上記試験結果によると、本発明の範囲にある発明鋼は、熱間プレス後めっき層中のZnが30%以上で、熱間プレス後の酸化物層の厚さが5μm以内と薄く、めっき層が安定的に形成される。特に、酸化物層の厚さが1.5μm未満である発明鋼1から5は、めっき層内のZn比率が37重量%以上で、より好ましく耐熱性が確保されたことが分かる。これに対し、比較鋼は、Niめっきを行っていないため、めっき層のZn比率が低かったり、熱間プレス後に酸化物層が厚すぎるなど、本発明の目的から外れている。
【0110】
図1は、発明鋼1の溶融亜鉛めっき鋼板を熱間プレス成形した後の断面を観察した写真である。図1に示されているように、亜鉛めっき層の表面の酸化物層の厚さが5μm以下で、めっき層が均一に形成されていることが分かる。
【0111】
一方、図2は比較鋼1の溶融亜鉛めっき鋼板を熱間プレス成形した後の断面を観察した写真である。図2から、Zn合金層の境界が明らかでなく、この層のZn含量は30%未満で、酸化物層の厚さも5μmを超えて厚いことが確認できる。
【0112】
(実施例3)
まず、表3に記載された組成を有する鋼材を冷間圧延した鋼板を対象に実験した。
【0113】
【表3】
【0114】
そして、焼鈍前の鋼板の表面に下表4に示した条件で所定金属を塗布してから焼鈍処理を行い、Znめっき処理をして溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。GOEDS分析を通じて上記金属塗布層の厚さ、表面から1μm深さまで濃化された金属量及びZnめっき層の厚さなどを測定し、データの正確性を高めるため、試片の断面のSEM、TEM観察、湿式分析及び電子分光化学分析法(ESCA)により比較して検証した。
【0115】
次いで、上記溶融亜鉛めっき鋼板に対して熱間プレス工程を実施した。熱間プレス加熱炉の温度は750〜950℃で、加熱炉の雰囲気は大気中であった。熱間プレス工程が終了した後、試片の断面分析を通じてめっき層の厚さを測定した。参考までに、上記めっき層の厚さは熱間プレス後のめっき層の表面から垂直方向にめっき層内のZn含量が30重量%以上の地点までの長さとし、上記各実験条件や測定結果は下表4に示した。
【0116】
【表4】
【0117】
発明例1から8は、金属塗布により表層直下に金属を濃化させることで、熱間プレス加熱後にもめっき層が安定的に保持されていることが確認できる。また、本発明の成分系及び組成範囲を満たす鋼1から8を使用し、成形部品の引張強度及び伸び率も非常に優れていることが分かる。
【0118】
これに対し、比較例1は、Ni塗布により表層直下にNiを濃化させたが、素地鋼板にSiが過度に添加されている鋼9を使用したため、焼鈍後にSiO2酸化物が表面に多く形成され、未めっき現象が発生した。これにより、熱間プレス工程処理を行うことができなかった。
【0119】
また、比較例2及び3は、本発明の組成範囲を満たす鋼1及び2を使用したが、亜鉛めっき前に金属を塗布する処理をしなかったため、表層直下に金属が濃化されなかった。これにより、熱間プレス成形後にめっき層が全て消失され、耐熱性の確保が不可能であったことが分かる。
【0120】
(実施例4)
まず、表5に記載された組成を有する鋼材を冷間圧延した鋼板を対象に実験した。
【0121】
【表5】
【0122】
焼鈍前の鋼板の表面に所定金属を200nm以内で塗布した後、785℃の温度で焼鈍処理を行ってZnめっき処理をし、溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。GOEDS分析を通じて上記金属塗布層の厚さ、表面から1μm深さまで濃化された金属量及びZnめっき層の厚さなどを測定し、データの正確性を高めるため、試片の断面のSEM、TEM観察、湿式分析及び電子分光化学分析法(ESCA)により比較検証した。
【0123】
次いで、上記溶融亜鉛めっき鋼板に対して熱間プレス工程を実施した。熱間プレス加熱炉の温度は750〜950℃で、加熱炉の雰囲気は大気中であった。熱間プレス工程が終了した後のめっき層は、XRD、GOEDS分析を通じて表面に形成された酸化物とめっき層内の合金相を分析し、試片の断面分析を通じてめっき層の厚さと亜鉛拡散相の連続性及び厚さなどを測定した。参考までに、上記めっき層の厚さは、めっき層の表面から垂直方向にめっき層内のZn含量が30重量%以上の地点までの長さとし、上記各実験条件や測定結果は下表6に示した。
【0124】
【表6】
【0125】
まず、発明例1から4は、Niコーティングにより熱間プレス加熱時にめっき層にFe−Zn−Niの3元相を形成させることで、Znが素地鋼板に拡散することを抑制し、亜鉛拡散相が不連続的な形態で現れ、亜鉛拡散相の厚さも3μm以下と薄く抑制した。従って、耐熱性が確保されてZnめっき層が安定的に保持されるため、加熱後にめっき層がさらに厚くなった。これによりめっき層の耐食性も優れる。
【0126】
これに対し、比較例1から3は、Niコーティングをしなかったため、熱間プレス加熱時にめっき層のZnが素地鋼板に急速に拡散して亜鉛拡散相が連続的、かつ厚く形成された。これにより、プレス加熱後にZnめっき層が全て消失され、耐熱性が確保できず、亜鉛めっき鋼材を利用した目的である耐食性の確保が不可能であったことが分かる。
【0127】
また、上記比較をより明確にするために、発明例1により製造された熱間プレス成形部品の断面及び各地点での成分をEDSで分析した結果を図3及び表7に、比較例1により製造された熱間プレス成形部品の断面及び各地点での成分をEDSで分析した結果を図4及び表8に示した。
【0128】
【表7】
【0129】
【表8】
【0130】
まず、図3を参照すると、素地鋼板の上部に亜鉛拡散相が殆ど形成されず、めっき層と素地鋼板が明確に区別されることが分かる。即ち、熱間プレス加熱後にもめっき層が消失されずに安定的に保持された。表7からも、(1)、(2)及び(3)地点は、Znの比率が30重量%を超え、安定しためっき層内の地点であることが分かる。(4)地点は素地鋼板の上部であるが、Znが殆ど現れず亜鉛拡散相の形成が極めてわずかであることが分かる。従って、めっき層の耐熱性が良好に確保され、これにより、耐食性も効果的に発現されることができる。なお、表7、表8、図3、図4における符号
【数1】
は、本明細書中においては、便宜上(1)、(2)、(3)、(4)と表記することにする。
【0131】
これに対し、図4を参照すると、亜鉛拡散が過度に起き、実際にめっき層と素地鋼板が区別し難いことが分かる。即ち、めっき層のZnの大部分が素地鋼板に消失され、耐熱性が確保できなかった。表8からも、プレス加熱前にめっき層内の地点であった(1)及び(2)地点におけるZn含量が20重量%にも及ばず、実質的に耐食性を発揮するめっき層とみることができない。結局、亜鉛めっき層の大部分が消失され、素地鋼板の一部に拡散して入ったとみることができる。
【0132】
(実施例5)
まず、表9に記載された組成を有する鋼材を冷間圧延した鋼板を対象に実験した。
【0133】
【表9】
【0134】
そして、下表10に示した条件で焼鈍前の鋼板の表面に所定金属を塗布してからZnめっき処理をして溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。GOEDS分析を通じて上記金属塗布層の厚さ、表面から1μm深さまで濃化された金属量及びZnめっき層の厚さなどを測定し、データの正確性を高めるため、試片の断面のSEM、TEM観察、湿式分析及び電子分光化学分析法(ESCA)により比較検証した。
【0135】
次いで、上記溶融亜鉛めっき鋼板に対して熱間プレス工程を実施した。熱間プレス加熱炉の温度は750〜950℃で、加熱炉の雰囲気は大気中であった。熱間プレス工程が終了した後のめっき層は、XRD、GOEDS分析を通じて表面に形成された酸化物とめっき層内の合金相を分析し、試片の断面分析を通じてめっき層の厚さとめっき層内のFeが60重量%以上である相(Fe−rich相)の比率を測定した。
【0136】
参考までに、上記めっき層の厚さは、熱間プレス後のめっき層の表面から垂直方向にめっき層内のZn含量が30重量%以上の地点までの長さとし、加工部クラックを調査するために、曲率半径12mmに加工された部位の断面を切断して素地鋼板の方向に発生したクラックの深さを測定した。上記各実験条件や測定結果は下表10に示した。
【0137】
【表10】
【0138】
まず、発明例1から7は、亜鉛めっき層の厚さが15μmを越えないようにして熱間プレス工程後のめっき層内のFe−rich相の比率を、全体めっき層に対し、70重量%以上に制御することで、加工部クラックを抑制することが可能であった。
【0139】
特に、発明例1から5は、金属表面拡散層を通じて素地鋼板とめっき層の間に焼鈍酸化物を薄く制御し、素地鋼板のFeを亜鉛めっき層に十分に拡散させて合金化させたため、熱間プレス加熱後にもめっき層のZnが消失されずにめっき層が厚く保持され、耐熱性及び耐食性も良好に確保されたことが確認できる。
【0140】
但し、比較例1は、Niコーティング量が多すぎて表層1μm内の濃化金属量も多く、これにより焼鈍酸化物が薄すぎるため、合金化が極めて速く進み、めっき層の厚さが18μmとなった。従って、熱間プレス工程後のめっき層内のFe−rich相の比率が45重量%と低くて、加工部クラックが最大460μmまで発生した。これはめっき層に含まれたFe−rich相に比べて、Zn−rich相が多すぎてZnが液状で存在し、これが素地鋼板にクラックを発生させるのに影響を与えたと分析することができる。
【0141】
また、めっき層内のFe−rich相の比率による加工部クラックの発生有無をより明確に把握するために、比較例1により製造された熱間プレス成形部品の断面を図5に、発明例4により製造された熱間プレス成形部品の断面を図6に示した。その結果、Fe含量が60重量%以上であるFe−rich相が、全体めっき層に対して70重量%を越えない図5では、加工部に素地鋼板に沿ってクラックが深く発生したが、上記Fe−rich相が70重量%を越えた図6では、加工部にクラックが殆ど現れず加工性が極めて良好であることが確認できる。
【0142】
(実施例6)
まず、表11に記載された組成を有する鋼材を冷間圧延した鋼板を対象に実験した。
【0143】
【表11】
【0144】
そして、下表12に示した条件で焼鈍前の鋼板の表面に所定金属を塗布した後、800℃の温度で焼鈍処理し、Alが0.21重量%含まれた亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。GOEDS分析を通じて上記金属塗布層の厚さ、表面から1μm深さまで濃化された金属量及びZnめっき層の厚さなどを測定し、データの正確性を高めるため、試片の断面のSEM、TEM観察、湿式分析及び電子分光化学分析法(ESCA)により比較検証した。
【0145】
次いで、上記溶融亜鉛めっき鋼板に対して熱間プレス工程を実施した。熱間プレス加熱炉の温度は750〜950℃で、加熱炉の雰囲気は大気中であった。熱間プレス工程が終了した後のめっき層は、XRD、GOEDS分析を通じて表面に形成された酸化物とめっき層内の合金相を分析し、試片の断面分析を通じてめっき層の厚さとめっき層の状態を測定した。
【0146】
参考までに、上記めっき層の厚さは、熱間プレス後のめっき層の表面から垂直方向にめっき層内のZn含量が30重量%以上の地点までの長さとし、上記各実験条件や測定結果は下表12に示した。
【0147】
【表12】
【0148】
まず、発明例1から7は、金属塗布により表層内の金属を濃化させることで、熱間プレス加熱後にもめっき層が安定的に保持されていることが確認できる。特に、熱間プレス後のめっき層内の濃化金属量が十分に存在し、3元相の形成を通じて亜鉛めっき層のZn消失を効果的に防止したと分析できる。
【0149】
これに対し、比較例1から5は、金属塗布を省略し表層内の金属を濃化させなかったため、熱間プレス加熱後にめっき層が消失されたことが分かる。特に、熱間プレス後のめっき層内の濃化金属量がなくて、Znの素地鋼板への消失を防止することができる3元相が形成されなかったと分析できる。
【0150】
また、本発明者は、めっき層上に形成されたAl2O3酸化皮膜と上記めっき層の厚さや状態との関係を確認し、さらには上記酸化皮膜が塗装性に及ぼす影響を確認するため、以下の実験を行った。GOEDSを利用して深さ方向に元素の分布を測定してAl2O3酸化皮膜の連続性及び厚さを測定し、FIBで試片の表面を加工して透過電子顕微鏡(TEM)で観察した。Al2O3酸化皮膜の上層部酸化物の厚さはGOEDSを利用して測定した。また、上記表面に塗装処理をして塗装性も共に評価し、その結果を表13に示した。
【0151】
【表13】
【0152】
まず、発明例1から7は、Al2O3酸化皮膜が連続的に40〜100nmで形成され、上層部酸化物の厚さは5μmを超えず、そのZnO含量も50重量%を超えている。従って、このような酸化物層の厚さ及び構造により亜鉛めっき層のZnの劣化が抑制され、上記表12に示したように、亜鉛めっき層の安定的保持に寄与したことが分かる。
【0153】
また、Al2O3酸化皮膜が連続的に形成されることにより、電着塗装処理時の塗装性も良好であることが分かる。
【0154】
これに対し、比較例1から5は、Al2O3酸化皮膜が不連続的に形成され、上層部酸化物の厚さも非常に厚く形成された。従って、表12に示したように亜鉛めっき層のZnが容易く劣化するため、亜鉛めっき層が安定的に保持されないことが分かる。
【0155】
また、Al2O3酸化皮膜が不連続的に形成されることにより、電着塗装処理時の塗装性が不良であると把握することができる。
【0156】
次いで、本発明者は、発明例1及び2に対して、リン酸塩処理をしたものと、リン酸塩処理をしなかったものをそれぞれ実験し、電着塗装処理をしてから試片の対角線に横切ってX字に電着塗装層を切断した後、CCT10サイクルテスト後に切れ目の周りのめっき層の剥離幅の平均及び最大値を測定した。そして、比較例1及び2は塗装性が落ちるため、リン酸塩処理を行ってから塗装処理をして上記実験を行った。その結果は表14に示した。
【0157】
【表14】
【0158】
まず、リン酸塩の付着量は、発明例1及び2が比較例1及び2に比べて、著しく高い。これにより上記Al2O3酸化皮膜が連続的に形成されることで、リン酸塩処理付着量も向上することが分かる。
【0159】
また、CCT後の剥離幅は、発明例1及び2が比較例1及び2に比べて、著しく小さいため、上記Al2O3酸化皮膜が連続的に形成されて途膜密着性も非常に向上することが分かる。特に、発明例の場合、上記Al2O3酸化皮膜の連続性によりリン酸塩処理をしなくても殆ど類似する剥離幅値を有し、途膜密着性に非常に優れることが分かる。従って、発明例は、リン酸塩処理有無に関わらず塗装性及び途膜密着性が良好であった。
【0160】
図8は、発明例3により製造された溶融亜鉛めっき鋼板の断面を撮影したもので、このうち、AlとNiの分布写真をみると、Niは素地鋼板の表面の直下に形成され、その直上にAlが濃化された層が存在することが分かる。即ち、Niが濃化された部分が金属表面拡散層で、その上にAl濃化層が存在する形態となる。そのうちNiは熱間プレス加熱時にめっき層内に拡散されてZn−Feとともに3元相を形成し、亜鉛めっき層のZnが素地鋼板に拡散することを抑制し、上記Alはめっき層上に拡散されてAl2O3酸化皮膜を形成する。
【0161】
図9はAl、Niの分布写真を拡大したもので、点線を基準にAlがNiの直上に濃化され、図面上に赤で表示した部分が各濃化量が多い所であり、Ni写真ではNiを5重量%以上含有し、Al写真ではAlを30重量%以上含有している部分に該当する。即ち、上記Al写真上の赤い部分とNi写真上の赤い部分において、両部分が重なる面積が10%以下であることが分かる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から深さ1μm以内に、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の表面拡散層を含む素地鋼板と、
前記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の表面拡散層上に形成されたAlを30重量%以上含むAl濃化層と、
前記Al濃化層上に形成された亜鉛めっき層と、を含み、
前記表面拡散層と前記Al濃化層の間には、平均厚さが150nm以下の焼鈍酸化物が不連続的に分布し、前記素地鋼板の表面から深さ1μm以内に前記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の含量が0.1重量%以上である、表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記亜鉛めっき層は、Fe:15.0重量%以下、前記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属:0.01〜2.0重量%、残りはZn及びその他不可避な不純物を含む請求項1に記載の表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属は、Ni、Fe、Co、Cu、Sn、Sbからなる群より選択された1種以上である請求項1に記載の表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記Al濃化層の厚さは0.1〜1μmで、EPMA分析時に前記Al濃化層と前記表面拡散層中の前記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の含量が5重量%以上である部分が重なる面積が、前記表面拡散層及びAl濃化層に対して、10%以下である請求項1に記載の表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
前記素地鋼板は、重量%で、C:0.1〜0.4%、Si:2.0%以下(0%は除外)、Mn:0.1〜4.0%、残部Fe及びその他不可避な不純物からなる請求項1から4の何れか1項に記載の表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
前記素地鋼板は、N:0.001〜0.02%、B:0.0001〜0.01%、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.1%、Cr:0.001〜1.0%、Mo:0.001〜1.0%、Sb:0.001〜0.1%及びW:0.001〜0.3%からなる群より選択された1種以上をさらに含む請求項5に記載の表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板。
【請求項7】
素地鋼板と、
前記素地鋼板上に形成された酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属が0.008重量%以上固溶されているFe−Zn相を含む亜鉛めっき層と、
前記亜鉛めっき層上に形成された平均厚さが0.01〜5μmである酸化物層とを含む熱間プレス成形部品。
【請求項8】
前記酸化物層は、SiO2及びAl2O3からなる群より選択された1種以上の酸化物からなる平均厚さが10〜300nmである連続的な皮膜を含む請求項7に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項9】
前記酸化物層はZnOを含み、MnO、SiO2及びAl2O3からなる群より選択された1種以上の酸化物を0.01〜50重量%含む請求項8に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項10】
前記連続的な皮膜上にZnO及びMnOを含む酸化物が形成され、前記MnOの含量はZnOより小さい請求項9に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項11】
前記酸化物層は、FeOが10重量%以下である請求項8に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項12】
前記素地鋼板の上部に亜鉛拡散相が不連続的に存在する請求項7に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項13】
前記亜鉛拡散相の平均厚さが5μm以下である請求項12に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項14】
前記亜鉛めっき層のZn含量が30重量%以上である請求項7に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項15】
前記亜鉛めっき層の厚さは、熱間プレス成形前の厚さの1.5倍以上である請求項14に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項16】
前記亜鉛めっき層内のFe含量が60重量%以上である合金相の比率が、前記亜鉛めっき層全体に対して、70重量%以上である請求項7に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項17】
前記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属は、Ni、Fe、Co、Cu、Sn、Sbからなる群より選択された1種以上である請求項7に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項18】
前記素地鋼板は、重量%で、C:0.1〜0.4%、Si:2.0%以下(0%は除外)、Mn:0.1〜4.0%、残部Fe及びその他不可避な不純物からなる請求項7から17の何れか1項に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項19】
前記素地鋼板は、N:0.001〜0.02%、B:0.0001〜0.01%、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.1%、Cr:0.001〜1.0%、Mo:0.001〜1.0%、Sb:0.001〜0.1%及びW:0.001〜0.3%からなる群より選択された1種以上をさらに含む請求項18に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項20】
鋼板に酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属をコーティングする段階と、
前記金属がコーティングされた鋼板を700〜900℃で焼鈍熱処理する段階と、
前記焼鈍熱処理された鋼板をAl:0.05〜0.5重量%、残部Zn及びその他不可避な不純物を含み、430〜500℃の温度範囲を有する溶融亜鉛めっき浴に浸漬して亜鉛めっきする段階と、
前記亜鉛めっきされた鋼板を酸化性雰囲気で、2〜10℃/秒の昇温速度で750〜950℃まで加熱した後、10分以下保持する段階と、
前記加熱後保持された鋼板を600〜900℃の温度範囲でプレス成形する段階とを含む熱間プレス成形部品の製造方法。
【請求項21】
前記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属をコーティングする段階は、Ni、Fe、Co、Cu、Sn及びSbからなる群より選択された1種以上を平均厚さ1〜1000nmでコーティングする請求項20に記載の熱間プレス成形部品の製造方法。
【請求項22】
前記亜鉛めっきする段階後に600℃以下の温度範囲で合金化熱処理する段階をさらに含む請求項20または21に記載の熱間プレス成形部品の製造方法。
【請求項1】
表面から深さ1μm以内に、酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の表面拡散層を含む素地鋼板と、
前記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の表面拡散層上に形成されたAlを30重量%以上含むAl濃化層と、
前記Al濃化層上に形成された亜鉛めっき層と、を含み、
前記表面拡散層と前記Al濃化層の間には、平均厚さが150nm以下の焼鈍酸化物が不連続的に分布し、前記素地鋼板の表面から深さ1μm以内に前記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の含量が0.1重量%以上である、表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記亜鉛めっき層は、Fe:15.0重量%以下、前記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属:0.01〜2.0重量%、残りはZn及びその他不可避な不純物を含む請求項1に記載の表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属は、Ni、Fe、Co、Cu、Sn、Sbからなる群より選択された1種以上である請求項1に記載の表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記Al濃化層の厚さは0.1〜1μmで、EPMA分析時に前記Al濃化層と前記表面拡散層中の前記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属の含量が5重量%以上である部分が重なる面積が、前記表面拡散層及びAl濃化層に対して、10%以下である請求項1に記載の表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
前記素地鋼板は、重量%で、C:0.1〜0.4%、Si:2.0%以下(0%は除外)、Mn:0.1〜4.0%、残部Fe及びその他不可避な不純物からなる請求項1から4の何れか1項に記載の表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
前記素地鋼板は、N:0.001〜0.02%、B:0.0001〜0.01%、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.1%、Cr:0.001〜1.0%、Mo:0.001〜1.0%、Sb:0.001〜0.1%及びW:0.001〜0.3%からなる群より選択された1種以上をさらに含む請求項5に記載の表面特性に優れた熱間プレス用亜鉛めっき鋼板。
【請求項7】
素地鋼板と、
前記素地鋼板上に形成された酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属が0.008重量%以上固溶されているFe−Zn相を含む亜鉛めっき層と、
前記亜鉛めっき層上に形成された平均厚さが0.01〜5μmである酸化物層とを含む熱間プレス成形部品。
【請求項8】
前記酸化物層は、SiO2及びAl2O3からなる群より選択された1種以上の酸化物からなる平均厚さが10〜300nmである連続的な皮膜を含む請求項7に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項9】
前記酸化物層はZnOを含み、MnO、SiO2及びAl2O3からなる群より選択された1種以上の酸化物を0.01〜50重量%含む請求項8に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項10】
前記連続的な皮膜上にZnO及びMnOを含む酸化物が形成され、前記MnOの含量はZnOより小さい請求項9に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項11】
前記酸化物層は、FeOが10重量%以下である請求項8に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項12】
前記素地鋼板の上部に亜鉛拡散相が不連続的に存在する請求項7に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項13】
前記亜鉛拡散相の平均厚さが5μm以下である請求項12に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項14】
前記亜鉛めっき層のZn含量が30重量%以上である請求項7に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項15】
前記亜鉛めっき層の厚さは、熱間プレス成形前の厚さの1.5倍以上である請求項14に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項16】
前記亜鉛めっき層内のFe含量が60重量%以上である合金相の比率が、前記亜鉛めっき層全体に対して、70重量%以上である請求項7に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項17】
前記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属は、Ni、Fe、Co、Cu、Sn、Sbからなる群より選択された1種以上である請求項7に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項18】
前記素地鋼板は、重量%で、C:0.1〜0.4%、Si:2.0%以下(0%は除外)、Mn:0.1〜4.0%、残部Fe及びその他不可避な不純物からなる請求項7から17の何れか1項に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項19】
前記素地鋼板は、N:0.001〜0.02%、B:0.0001〜0.01%、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.1%、Cr:0.001〜1.0%、Mo:0.001〜1.0%、Sb:0.001〜0.1%及びW:0.001〜0.3%からなる群より選択された1種以上をさらに含む請求項18に記載の熱間プレス成形部品。
【請求項20】
鋼板に酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属をコーティングする段階と、
前記金属がコーティングされた鋼板を700〜900℃で焼鈍熱処理する段階と、
前記焼鈍熱処理された鋼板をAl:0.05〜0.5重量%、残部Zn及びその他不可避な不純物を含み、430〜500℃の温度範囲を有する溶融亜鉛めっき浴に浸漬して亜鉛めっきする段階と、
前記亜鉛めっきされた鋼板を酸化性雰囲気で、2〜10℃/秒の昇温速度で750〜950℃まで加熱した後、10分以下保持する段階と、
前記加熱後保持された鋼板を600〜900℃の温度範囲でプレス成形する段階とを含む熱間プレス成形部品の製造方法。
【請求項21】
前記酸化反応時に酸素1モール当たりのギブス自由エネルギー減少量がCrより小さい金属をコーティングする段階は、Ni、Fe、Co、Cu、Sn及びSbからなる群より選択された1種以上を平均厚さ1〜1000nmでコーティングする請求項20に記載の熱間プレス成形部品の製造方法。
【請求項22】
前記亜鉛めっきする段階後に600℃以下の温度範囲で合金化熱処理する段階をさらに含む請求項20または21に記載の熱間プレス成形部品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8(a)】
【図8(b)】
【図8(c)】
【図8(d)】
【図8(e)】
【図8(f)】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8(a)】
【図8(b)】
【図8(c)】
【図8(d)】
【図8(e)】
【図8(f)】
【図9】
【公表番号】特表2013−515863(P2013−515863A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547008(P2012−547008)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【国際出願番号】PCT/KR2010/009392
【国際公開番号】WO2011/081392
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(592000691)ポスコ (130)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【国際出願番号】PCT/KR2010/009392
【国際公開番号】WO2011/081392
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(592000691)ポスコ (130)
【Fターム(参考)】
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