表面石張構造物の漏水を補修する補修工法
【課題】低コストであり、かつ止水性能に優れる漏水補修工法を提案する。
【解決手段】表面石張構造物の漏水を補修する補修工法であって、張石間の隙間孔14に軟質PVC製の注入管30を挿入する挿入工程と、挿入した前記注入管30を通じてセメントスラリーSを前記表面石張構造物の内部空隙17へ充填する充填工程とを有し、充填した前記セメントスラリーSにより前記内部空隙17を埋める。
【解決手段】表面石張構造物の漏水を補修する補修工法であって、張石間の隙間孔14に軟質PVC製の注入管30を挿入する挿入工程と、挿入した前記注入管30を通じてセメントスラリーSを前記表面石張構造物の内部空隙17へ充填する充填工程とを有し、充填した前記セメントスラリーSにより前記内部空隙17を埋める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面石張構造物の漏水を補修する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
表面石張構造物の一つに、河川に設けられたえん堤がある。この種の構造物は、経年劣化により、内部に水の通り道が出来て漏水を起こすことがある。通常、表面石張構造物において、漏水を止める工事では、ボーリング機械などの削孔機械を用いて構造部の上部から注入口(削孔)を形成し、そこからセメントスラリーを注入して水の通り道を塞ぐようにしていた。尚、本件に関連する技術文献として下記のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−190181公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記工法は削孔機械を用いるので工事が大掛かりでコスト高であった。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、低コストであり、かつ止水性能に優れる表面石張構造物の漏水補修工法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、表面石張構造物の漏水を補修する補修工法であって、張石間に存在する隙間孔に、軟質又は可撓性を有する材料からなる注入管を挿入する挿入工程と、挿入した前記注入管を通じて水硬性の充填材を前記表面石張構造物の内部空隙へ充填する充填工程とを有し、充填した前記充填材により前記内部空隙を埋める。尚、表面石張構造物とは構造物の表面に石を張り合わせ、内部は低強度のコンクリートとした構造物を意味する。
【0006】
この発明では、隙間孔(自然孔)を使用して充填材を注入する。そのため、充填材を注入する孔を削孔する必要がないことから、作業工程が少なくなり、かつ工事費用が安価となる。また、注入管を、軟質又は可撓性を有する材料としたので、隙間孔に対する挿入性がよい。しかも、注入管を隙間孔の奥まで確実に差し込めるので、充填材を表面石張構造物の内部空隙に確実に充填できる。
【0007】
この発明の実施態様として以下の方法が好ましい。
・注入管を軟質のポリ塩化ビニル製のホースとする。特に一般に市販されている水道用ビニールホースであれば安価である。
【0008】
・前記挿入工程にて、前記隙間孔に対して径の異なる注入管を選択的に挿入する。このようにすれば、隙間孔に対する注入管の挿入性が高まる。
【0009】
・前記隙間孔に挿入された複数の注入管の1つにポンプを介して充填材を注入する注入作業を行うと共に、前記注入作業中の注入管の圧力が閾値に達するか、前記注入作業中の注入管に隣接する注入管から前記充填材の噴き出しがあることを条件に、前記充填材の注入作業を次の注入管に移行する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表面石張構造物の漏水補修工事を低コストで行うことが可能である。また、充填材を、表面石張構造物の内部空隙に確実に充填できるので、止水効果が高い。また、表面石張構造物表面の目視確認できる漏水箇所(水道)および空隙部に直接注入管を挿入することにより、充填材を確実に充填できるので、止水効果が高い。注入作業中の注入管の圧力が注入直後に閾値に達することにより張石背面の空洞が無く健全である確認ができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態1におけるえん堤の縦断面図(補修工事前の状態を示す)
【図2】えん堤の正面図
【図3】えん堤の縦断面図(えん堤を抜水した状態を示す)
【図4】えん堤の縦断面図(注入管を挿入した状態を示す)
【図5】えん堤の正面図(張石間に注入管を挿入した状態を示す)
【図6】えん堤の縦断面図(内部空隙にセメントスラリーを注入した状態を示す)
【図7】えん堤の水平断面図
【図8】えん堤の縦断面図(補修工事後の状態を示す)
【図9】セメントスラリーの配合比を示す表
【図10a】本発明の実施形態2においてグラウトホースに対する注入管の接続構造を示す断面図(直接接続の場合)
【図10b】本発明の実施形態2においてグラウトホースに対する注入管の接続構造を示す断面図(中継管を介して接続する場合)
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1ないし図9によって説明する。
図1は、河川に設けられたえん堤10の断面図である。えん堤10は、前面壁11と後面壁12との間に低強度のコンクリートを充填したコンクリート層15を設けている。前面壁11と後面壁12は、図2に示すように、角型をした石材(以下、張石)13を積み上げた石積み構造である。尚、えん堤10が本発明の「表面石張構造物」の一例である。
【0013】
えん堤10は、経年劣化等によりコンクリート層15に内部空隙(具体的には、コンクリート層の内部を前後に延びるクラックや張石背面の隙間)17が出来て、そこを通り道として漏水を起こす場合がある(図1参照)。本実施形態は、コンクリート層15の内部空隙17をセメントで埋めることによって、漏水を止めるものである。以下、漏水を止める補修工法の説明を行う。
【0014】
補修工法は、図3に示すようにえん堤10を抜水した状態で行われるものであり、目地モルタル除去工程と、張石間の隙間孔(自然孔)14に注入管30を挿入する挿入工程と、注入管30を通じて、セメントスラリーSを注入する注入工程と、注入管30を撤去する撤去工程などから構成されている。
【0015】
<目地モルタル除去工程>
目地モルタル除去工程は、張石13と張石13の間の目地を埋める目地モルタルを除去する工程である。本実施形態ではえん堤10の表面を清掃した後、目地モルタルを一斉除去する。そして、目地モルタル除去工程に続いて挿入工程が行われる。
【0016】
<挿入工程>
挿入工程は、図4に示すように、張石間の各隙間孔14に対して注入管30を挿入する工程である。注入管30は軟質性の材料、具体的には軟質のポリ塩化ビニル(以下、軟質PVC)製であって、内径22mm〜25mmであり、全長は1m50cm程度である。注入管30の挿入深さは20〜30cm程度であり、挿入状態で、注入管30が外側に約1m程度露出する。尚、注入管30は一般に市販されている水道用ビニールホースを用いると安価でよい。
【0017】
係る注入管30は水漏れを起こしている隙間孔14を含め、張石間の隙間孔14に概ね一定ピッチで挿入される。例えば、図5の例であれば、注入管30の挿入ピッチは約2m(張石の2個分)であり、横方向には、張石間の隙間孔14に対して1つおきに、注入管30が挿入される。また、縦方向の挿入ピッチは約1m(張石の1個分)であり、各段ごとに注入管30が挿入される。
【0018】
また、挿入工程では、注入管30の挿入に続いて、各注入管30の周りに速乾性のセメントgが充填される。これにて、注入管30の周りの隙間を埋めることが出来る。また、張石間の隙間孔14のうち、注入管30が挿入されない部分は、目地樹脂モルタルによる目地埋めが行われる。そして、挿入工程が完了すると、次に注入工程が行われる。
【0019】
<注入工程>
注入工程では、挿入工程で挿入した注入管30を通じて、コンクリート層15の内部空隙17にセメントスラリー(本発明の「水硬性の充填材」の一例)Sを注入する。具体的には、注入管30とモルタルポンプ50との間をグラウトホース(ゴム製のホース)40により接続する作業が行われる。そして、ホースの接続作業に続いて、モルタルポンプ50を駆動させる。これにより、セメントスラリーSがグラウトホース40を通じて圧送され、注入管30よりコンクリート層15の内部空隙17に注入される。
【0020】
セメントスラリーSの配合(一例)は、図9に示す通りである。セメントスラリー28リットル当たり、水を17リットルに、セメント(具体的には、ポルトランドセメント(普通))25kgと、防水材(無機質浸透性防水材)1.85kgと、ポリマー混和剤(カチオン性アクリルエマルジョン)2.00kgと、添加剤(市販品で注入用に複数の混和剤を既配合(プレミックス)された製品)0.25kgを混合する。
【0021】
そして、本実施形態では、セメントスラリーSの注入作業を、1段目の注入管30から1本づつ順々に行う。例えば、図5の例であれば、まず、1段目の左端に位置する注入管30aにグラウトホース40を接続して、セメントスラリーSの注入作業を行う。そして、セメントスラリーSの注入作業は、次の条件1、条件2のうちいずれかが成立した時点で終了となる。
【0022】
条件1・・注入作業中の注入管30の圧力が閾値(具体的には0.1〜0.2Mpa)に達した場合である。
条件2・・注入作業中の注入管30に隣接(左右および上部)するゴムホースからセメントスラリーSの噴き出しがあった場合である。
【0023】
尚、注入作業中の注入管30の圧力が閾値に達したかどうかは、グラウトホース40に設置された圧力計55の指示値から読みとることが可能である。また、セメントスラリーSの噴き出しの有無は、注入管30の先端を注視すればよい。
【0024】
図6の例であれば、注入作業中の注入管30aに隣接する注入管30bからセメントスラリーSが噴き出しており、その時点で注入管30aを通じた注入作業は終了する。そして、注入作業が終了したら、その注入管30aは針金等で口止めされ、続いて、注入作業は隣接する注入管30bに移行する。
【0025】
注入管30bを通じたセメントスラリーSの注入作業も、注入管30aの場合と同様に、上記した条件1、2のいずれかを満たすと、その時点で終了し、その後、注入作業は注入管30cに移る。
【0026】
そして、上記の要領で1箇所づつセメントスラリーSの注入作業を行い、1段目についてセメントスラリーSの注入が完了すると、2段目の注入に移る。このような注入作業を繰り返し行い、全段についてセメントスラリーSを注入すると、注入工程は終了する。注入工程の終了時には、図7に示すように、コンクリート層15の内部空隙17がセメントスラリーSで充填された状態となる。その後、充填したセメントスラリーSが固化(水和反応により固化)すると、次に撤去工程が行われる。
【0027】
<撤去工程>
撤去工程では、張石間の隙間孔14に挿入した各注入管30を引き抜いて撤去する作業が行われる。そして、注入管30の引き抜き作業が完了すると、そこに、目地モルタルを充填して目地埋めする作業が行われる。かくして、一連の補修作業は完了する。そして、補修作業の完了時には、図8に示すように、コンクリート層15の内部空隙17、すなわち漏水の原因となる水の通り道が硬化したセメントで塞がれた状態となる。
【0028】
以上説明したように、本補修工法では、張石間の隙間孔14を使用してセメントスラリーSを注入する。そのため、セメントスラリーSを注入する注入孔を削孔する必要がないことから、作業工程が少なくなり、かつ工事費用が安価となる。また、大型の削孔機械を使用しないので足場U等の仮設備が軽微であり、従来工法に比べて、工期が短縮できる。
【0029】
また、セメントスラリーSを注入する注入管30を軟質PVC製のホースとした。軟質PVC製のホースであれば、隙間孔14の形状に合わせて変形するので挿入性がよい。しかも、隙間孔14の奥まで確実に差し込めるので、セメントスラリーSをコンクリート層15の内部空隙17に確実に充填できる。
【0030】
また、本補修工法では、条件1、条件2のいずれかが成立するまでセメントスラリーSの注入作業を行い、条件が成立すると、その注入管30は口止めして、次の注入管30に注入作業を移行する。このような作業手順を踏むことで、コンクリート層15の内部空隙17に対するセメントスラリーSの充填ミスを犯す可能性が少なくなる。
【0031】
というのも、注入作業中の注入管周辺の空隙にセメントスラリーSをしっかりと充填出来ていれば、条件1、2のうちいずれかが成立するからである。
【0032】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を図10によって説明する。
実施形態1では、セメントスラリーSを注入する注入管30を1種だけ使用する例を説明した。実施形態2では、注入管30を径サイズの異なる2組、すなわち通常サイズ(一例として内径22mm)の注入管30Lと小サイズ(一例として内径12mm)の注入管30Sを設けておき、張石間の隙間孔14の大きさに応じて、それに合ったサイズの注入管30を選択使用するものである。2組の注入管を選択使用すれば、小さな隙間孔14でも、注入管を無理なく挿入できるので、作業性の向上が期待できる。
【0033】
尚、径サイズの異なる2組の注入管30L、30Sに対してグラウトホース40を共通接続するには、通常サイズの注入管30Lへはグラウトホース40を直接接続し(図10a参照)、小サイズの注入管30Sへは中継管43を介してグラウトホース40を接続すればよい(図10b参照)。
【0034】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0035】
(1)上記実施形態では、表面石張構造物の一例として「えん堤」を例示したが、本発明の適用対象は「えん堤」に限定されるものではなく、ピア(ゲートを支持する水門柱)に適用することが可能である。また、上記実施形態では、注入管30の一例として、軟質PVC製のホースを例示したが、それ以外にも、軟質または可撓性を有するものであれば使用出来る。例えば、各種ゴム製ホース、シリコンチューブ、ウレタン製軟質ホース・ナイロンチューブ、テフロンチューブ(テフロンは「登録商標」)、ポリエチレンチューブおよびポリプロピレンチューブ等を使用することが可能である。
【0036】
また、内部空隙17に充填する充填材は実施形態にて例示したセメントスラリー(いわゆる普通のセメントスラリー)以外にも、水硬性であれば、次のものが使用出来る。例えば、膨張系セメントスラリー、非膨張系セメントスラリー、ベントナイト、フライアッシュセメントスラリー、骨材を適度に配合した流動性の高いモルタル、および市販品で注入用に既配合(プレミックス)された製品等を使用することが可能である。
【0037】
尚、充填材の主材料となるセメントとしては、実施形態で例示した、ポルトランドセメント(普通)以外にも、次のものを使用することが出来る。例えば、各種ポルトランドセメント(早強、中庸熱、低熱、耐硫酸塩等)、高炉セメント、フライアッシュセメント等が使用できる。また、主材料に混和材を混合させてもよく、混和材としては高炉スラグ粉末・フライアッシュ・シリカヒューム・石灰石粉末・石英粉末・二水石膏・半水石膏および無水石膏等を使用できる。
また実施形態では、混和剤としてポリマー混和剤(カチオン性アクリルエマルジョン)を例示したが、ポリアクリル酸エステル(PAE)・エチレン酢酸ビニル(EVA)およびスチレンブタジエンゴムラテックス(SBR)等を添加することができる。また、ポリマー混和剤以外にも、AE剤・減水剤・AE減水剤・高性能AE減水剤・流動化剤・分離低減剤・起泡剤・発泡剤・凝結硬化調整剤・急結剤・防錆剤防水剤および収縮低減剤等を添加することが出来る。
【符号の説明】
【0038】
10…えん堤(本発明の「表面石張構造物」の一例)
11…前面壁
12…後面壁
13…張石
14…張石間の隙間孔
15…コンクリート層
17…内部空隙
30…注入管
S…セメントスラリー(本発明の「水硬性の充填材」の一例)
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面石張構造物の漏水を補修する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
表面石張構造物の一つに、河川に設けられたえん堤がある。この種の構造物は、経年劣化により、内部に水の通り道が出来て漏水を起こすことがある。通常、表面石張構造物において、漏水を止める工事では、ボーリング機械などの削孔機械を用いて構造部の上部から注入口(削孔)を形成し、そこからセメントスラリーを注入して水の通り道を塞ぐようにしていた。尚、本件に関連する技術文献として下記のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−190181公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記工法は削孔機械を用いるので工事が大掛かりでコスト高であった。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、低コストであり、かつ止水性能に優れる表面石張構造物の漏水補修工法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、表面石張構造物の漏水を補修する補修工法であって、張石間に存在する隙間孔に、軟質又は可撓性を有する材料からなる注入管を挿入する挿入工程と、挿入した前記注入管を通じて水硬性の充填材を前記表面石張構造物の内部空隙へ充填する充填工程とを有し、充填した前記充填材により前記内部空隙を埋める。尚、表面石張構造物とは構造物の表面に石を張り合わせ、内部は低強度のコンクリートとした構造物を意味する。
【0006】
この発明では、隙間孔(自然孔)を使用して充填材を注入する。そのため、充填材を注入する孔を削孔する必要がないことから、作業工程が少なくなり、かつ工事費用が安価となる。また、注入管を、軟質又は可撓性を有する材料としたので、隙間孔に対する挿入性がよい。しかも、注入管を隙間孔の奥まで確実に差し込めるので、充填材を表面石張構造物の内部空隙に確実に充填できる。
【0007】
この発明の実施態様として以下の方法が好ましい。
・注入管を軟質のポリ塩化ビニル製のホースとする。特に一般に市販されている水道用ビニールホースであれば安価である。
【0008】
・前記挿入工程にて、前記隙間孔に対して径の異なる注入管を選択的に挿入する。このようにすれば、隙間孔に対する注入管の挿入性が高まる。
【0009】
・前記隙間孔に挿入された複数の注入管の1つにポンプを介して充填材を注入する注入作業を行うと共に、前記注入作業中の注入管の圧力が閾値に達するか、前記注入作業中の注入管に隣接する注入管から前記充填材の噴き出しがあることを条件に、前記充填材の注入作業を次の注入管に移行する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表面石張構造物の漏水補修工事を低コストで行うことが可能である。また、充填材を、表面石張構造物の内部空隙に確実に充填できるので、止水効果が高い。また、表面石張構造物表面の目視確認できる漏水箇所(水道)および空隙部に直接注入管を挿入することにより、充填材を確実に充填できるので、止水効果が高い。注入作業中の注入管の圧力が注入直後に閾値に達することにより張石背面の空洞が無く健全である確認ができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態1におけるえん堤の縦断面図(補修工事前の状態を示す)
【図2】えん堤の正面図
【図3】えん堤の縦断面図(えん堤を抜水した状態を示す)
【図4】えん堤の縦断面図(注入管を挿入した状態を示す)
【図5】えん堤の正面図(張石間に注入管を挿入した状態を示す)
【図6】えん堤の縦断面図(内部空隙にセメントスラリーを注入した状態を示す)
【図7】えん堤の水平断面図
【図8】えん堤の縦断面図(補修工事後の状態を示す)
【図9】セメントスラリーの配合比を示す表
【図10a】本発明の実施形態2においてグラウトホースに対する注入管の接続構造を示す断面図(直接接続の場合)
【図10b】本発明の実施形態2においてグラウトホースに対する注入管の接続構造を示す断面図(中継管を介して接続する場合)
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1ないし図9によって説明する。
図1は、河川に設けられたえん堤10の断面図である。えん堤10は、前面壁11と後面壁12との間に低強度のコンクリートを充填したコンクリート層15を設けている。前面壁11と後面壁12は、図2に示すように、角型をした石材(以下、張石)13を積み上げた石積み構造である。尚、えん堤10が本発明の「表面石張構造物」の一例である。
【0013】
えん堤10は、経年劣化等によりコンクリート層15に内部空隙(具体的には、コンクリート層の内部を前後に延びるクラックや張石背面の隙間)17が出来て、そこを通り道として漏水を起こす場合がある(図1参照)。本実施形態は、コンクリート層15の内部空隙17をセメントで埋めることによって、漏水を止めるものである。以下、漏水を止める補修工法の説明を行う。
【0014】
補修工法は、図3に示すようにえん堤10を抜水した状態で行われるものであり、目地モルタル除去工程と、張石間の隙間孔(自然孔)14に注入管30を挿入する挿入工程と、注入管30を通じて、セメントスラリーSを注入する注入工程と、注入管30を撤去する撤去工程などから構成されている。
【0015】
<目地モルタル除去工程>
目地モルタル除去工程は、張石13と張石13の間の目地を埋める目地モルタルを除去する工程である。本実施形態ではえん堤10の表面を清掃した後、目地モルタルを一斉除去する。そして、目地モルタル除去工程に続いて挿入工程が行われる。
【0016】
<挿入工程>
挿入工程は、図4に示すように、張石間の各隙間孔14に対して注入管30を挿入する工程である。注入管30は軟質性の材料、具体的には軟質のポリ塩化ビニル(以下、軟質PVC)製であって、内径22mm〜25mmであり、全長は1m50cm程度である。注入管30の挿入深さは20〜30cm程度であり、挿入状態で、注入管30が外側に約1m程度露出する。尚、注入管30は一般に市販されている水道用ビニールホースを用いると安価でよい。
【0017】
係る注入管30は水漏れを起こしている隙間孔14を含め、張石間の隙間孔14に概ね一定ピッチで挿入される。例えば、図5の例であれば、注入管30の挿入ピッチは約2m(張石の2個分)であり、横方向には、張石間の隙間孔14に対して1つおきに、注入管30が挿入される。また、縦方向の挿入ピッチは約1m(張石の1個分)であり、各段ごとに注入管30が挿入される。
【0018】
また、挿入工程では、注入管30の挿入に続いて、各注入管30の周りに速乾性のセメントgが充填される。これにて、注入管30の周りの隙間を埋めることが出来る。また、張石間の隙間孔14のうち、注入管30が挿入されない部分は、目地樹脂モルタルによる目地埋めが行われる。そして、挿入工程が完了すると、次に注入工程が行われる。
【0019】
<注入工程>
注入工程では、挿入工程で挿入した注入管30を通じて、コンクリート層15の内部空隙17にセメントスラリー(本発明の「水硬性の充填材」の一例)Sを注入する。具体的には、注入管30とモルタルポンプ50との間をグラウトホース(ゴム製のホース)40により接続する作業が行われる。そして、ホースの接続作業に続いて、モルタルポンプ50を駆動させる。これにより、セメントスラリーSがグラウトホース40を通じて圧送され、注入管30よりコンクリート層15の内部空隙17に注入される。
【0020】
セメントスラリーSの配合(一例)は、図9に示す通りである。セメントスラリー28リットル当たり、水を17リットルに、セメント(具体的には、ポルトランドセメント(普通))25kgと、防水材(無機質浸透性防水材)1.85kgと、ポリマー混和剤(カチオン性アクリルエマルジョン)2.00kgと、添加剤(市販品で注入用に複数の混和剤を既配合(プレミックス)された製品)0.25kgを混合する。
【0021】
そして、本実施形態では、セメントスラリーSの注入作業を、1段目の注入管30から1本づつ順々に行う。例えば、図5の例であれば、まず、1段目の左端に位置する注入管30aにグラウトホース40を接続して、セメントスラリーSの注入作業を行う。そして、セメントスラリーSの注入作業は、次の条件1、条件2のうちいずれかが成立した時点で終了となる。
【0022】
条件1・・注入作業中の注入管30の圧力が閾値(具体的には0.1〜0.2Mpa)に達した場合である。
条件2・・注入作業中の注入管30に隣接(左右および上部)するゴムホースからセメントスラリーSの噴き出しがあった場合である。
【0023】
尚、注入作業中の注入管30の圧力が閾値に達したかどうかは、グラウトホース40に設置された圧力計55の指示値から読みとることが可能である。また、セメントスラリーSの噴き出しの有無は、注入管30の先端を注視すればよい。
【0024】
図6の例であれば、注入作業中の注入管30aに隣接する注入管30bからセメントスラリーSが噴き出しており、その時点で注入管30aを通じた注入作業は終了する。そして、注入作業が終了したら、その注入管30aは針金等で口止めされ、続いて、注入作業は隣接する注入管30bに移行する。
【0025】
注入管30bを通じたセメントスラリーSの注入作業も、注入管30aの場合と同様に、上記した条件1、2のいずれかを満たすと、その時点で終了し、その後、注入作業は注入管30cに移る。
【0026】
そして、上記の要領で1箇所づつセメントスラリーSの注入作業を行い、1段目についてセメントスラリーSの注入が完了すると、2段目の注入に移る。このような注入作業を繰り返し行い、全段についてセメントスラリーSを注入すると、注入工程は終了する。注入工程の終了時には、図7に示すように、コンクリート層15の内部空隙17がセメントスラリーSで充填された状態となる。その後、充填したセメントスラリーSが固化(水和反応により固化)すると、次に撤去工程が行われる。
【0027】
<撤去工程>
撤去工程では、張石間の隙間孔14に挿入した各注入管30を引き抜いて撤去する作業が行われる。そして、注入管30の引き抜き作業が完了すると、そこに、目地モルタルを充填して目地埋めする作業が行われる。かくして、一連の補修作業は完了する。そして、補修作業の完了時には、図8に示すように、コンクリート層15の内部空隙17、すなわち漏水の原因となる水の通り道が硬化したセメントで塞がれた状態となる。
【0028】
以上説明したように、本補修工法では、張石間の隙間孔14を使用してセメントスラリーSを注入する。そのため、セメントスラリーSを注入する注入孔を削孔する必要がないことから、作業工程が少なくなり、かつ工事費用が安価となる。また、大型の削孔機械を使用しないので足場U等の仮設備が軽微であり、従来工法に比べて、工期が短縮できる。
【0029】
また、セメントスラリーSを注入する注入管30を軟質PVC製のホースとした。軟質PVC製のホースであれば、隙間孔14の形状に合わせて変形するので挿入性がよい。しかも、隙間孔14の奥まで確実に差し込めるので、セメントスラリーSをコンクリート層15の内部空隙17に確実に充填できる。
【0030】
また、本補修工法では、条件1、条件2のいずれかが成立するまでセメントスラリーSの注入作業を行い、条件が成立すると、その注入管30は口止めして、次の注入管30に注入作業を移行する。このような作業手順を踏むことで、コンクリート層15の内部空隙17に対するセメントスラリーSの充填ミスを犯す可能性が少なくなる。
【0031】
というのも、注入作業中の注入管周辺の空隙にセメントスラリーSをしっかりと充填出来ていれば、条件1、2のうちいずれかが成立するからである。
【0032】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を図10によって説明する。
実施形態1では、セメントスラリーSを注入する注入管30を1種だけ使用する例を説明した。実施形態2では、注入管30を径サイズの異なる2組、すなわち通常サイズ(一例として内径22mm)の注入管30Lと小サイズ(一例として内径12mm)の注入管30Sを設けておき、張石間の隙間孔14の大きさに応じて、それに合ったサイズの注入管30を選択使用するものである。2組の注入管を選択使用すれば、小さな隙間孔14でも、注入管を無理なく挿入できるので、作業性の向上が期待できる。
【0033】
尚、径サイズの異なる2組の注入管30L、30Sに対してグラウトホース40を共通接続するには、通常サイズの注入管30Lへはグラウトホース40を直接接続し(図10a参照)、小サイズの注入管30Sへは中継管43を介してグラウトホース40を接続すればよい(図10b参照)。
【0034】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0035】
(1)上記実施形態では、表面石張構造物の一例として「えん堤」を例示したが、本発明の適用対象は「えん堤」に限定されるものではなく、ピア(ゲートを支持する水門柱)に適用することが可能である。また、上記実施形態では、注入管30の一例として、軟質PVC製のホースを例示したが、それ以外にも、軟質または可撓性を有するものであれば使用出来る。例えば、各種ゴム製ホース、シリコンチューブ、ウレタン製軟質ホース・ナイロンチューブ、テフロンチューブ(テフロンは「登録商標」)、ポリエチレンチューブおよびポリプロピレンチューブ等を使用することが可能である。
【0036】
また、内部空隙17に充填する充填材は実施形態にて例示したセメントスラリー(いわゆる普通のセメントスラリー)以外にも、水硬性であれば、次のものが使用出来る。例えば、膨張系セメントスラリー、非膨張系セメントスラリー、ベントナイト、フライアッシュセメントスラリー、骨材を適度に配合した流動性の高いモルタル、および市販品で注入用に既配合(プレミックス)された製品等を使用することが可能である。
【0037】
尚、充填材の主材料となるセメントとしては、実施形態で例示した、ポルトランドセメント(普通)以外にも、次のものを使用することが出来る。例えば、各種ポルトランドセメント(早強、中庸熱、低熱、耐硫酸塩等)、高炉セメント、フライアッシュセメント等が使用できる。また、主材料に混和材を混合させてもよく、混和材としては高炉スラグ粉末・フライアッシュ・シリカヒューム・石灰石粉末・石英粉末・二水石膏・半水石膏および無水石膏等を使用できる。
また実施形態では、混和剤としてポリマー混和剤(カチオン性アクリルエマルジョン)を例示したが、ポリアクリル酸エステル(PAE)・エチレン酢酸ビニル(EVA)およびスチレンブタジエンゴムラテックス(SBR)等を添加することができる。また、ポリマー混和剤以外にも、AE剤・減水剤・AE減水剤・高性能AE減水剤・流動化剤・分離低減剤・起泡剤・発泡剤・凝結硬化調整剤・急結剤・防錆剤防水剤および収縮低減剤等を添加することが出来る。
【符号の説明】
【0038】
10…えん堤(本発明の「表面石張構造物」の一例)
11…前面壁
12…後面壁
13…張石
14…張石間の隙間孔
15…コンクリート層
17…内部空隙
30…注入管
S…セメントスラリー(本発明の「水硬性の充填材」の一例)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面石張構造物の漏水を補修する補修工法であって、
張石間に存在する隙間孔に、軟質又は可撓性を有する材料からなる注入管を挿入する挿入工程と、
挿入した前記注入管を通じて水硬性の充填材を前記表面石張構造物の内部空隙へ充填する充填工程とを有し、
充填した前記充填材により前記内部空隙を埋める表面石張構造物の漏水を補修する補修工法。
【請求項2】
前記注入管は、軟質のポリ塩化ビニル製のホースである請求項1に記載の表面石張構造物の漏水を補修する補修工法。
【請求項3】
前記挿入工程にて、前記隙間孔に対して径の異なる注入管を選択的に挿入する請求項1又は請求項2に記載の表面石張構造物の漏水を補修する補修工法。
【請求項4】
前記隙間孔に挿入された複数の注入管の1つにポンプを介して充填材を注入する注入作業を行うと共に、前記注入作業中の注入管の圧力が閾値に達するか、前記注入作業中の注入管に隣接する注入管から前記充填材の噴き出しがあることを条件に、前記充填材の注入作業を次の注入管に移行する請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の表面石張構造物の漏水を補修する補修工法。
【請求項1】
表面石張構造物の漏水を補修する補修工法であって、
張石間に存在する隙間孔に、軟質又は可撓性を有する材料からなる注入管を挿入する挿入工程と、
挿入した前記注入管を通じて水硬性の充填材を前記表面石張構造物の内部空隙へ充填する充填工程とを有し、
充填した前記充填材により前記内部空隙を埋める表面石張構造物の漏水を補修する補修工法。
【請求項2】
前記注入管は、軟質のポリ塩化ビニル製のホースである請求項1に記載の表面石張構造物の漏水を補修する補修工法。
【請求項3】
前記挿入工程にて、前記隙間孔に対して径の異なる注入管を選択的に挿入する請求項1又は請求項2に記載の表面石張構造物の漏水を補修する補修工法。
【請求項4】
前記隙間孔に挿入された複数の注入管の1つにポンプを介して充填材を注入する注入作業を行うと共に、前記注入作業中の注入管の圧力が閾値に達するか、前記注入作業中の注入管に隣接する注入管から前記充填材の噴き出しがあることを条件に、前記充填材の注入作業を次の注入管に移行する請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の表面石張構造物の漏水を補修する補修工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【公開番号】特開2013−60749(P2013−60749A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200206(P2011−200206)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
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