説明

表面被覆メタリック顔料、それを含む水性塗料およびそれが塗布された塗装物

【課題】本発明の目的は、水性塗料中に用いた場合に、水性塗料の保存安定性に優れるとともに塗膜の耐湿性にも優れる表面被覆メタリック顔料を提供することにある。
【解決手段】本発明の表面被覆メタリック顔料は、基体粒子と、該基体粒子表面に形成された1層または2層以上の被覆層とを含み、該被覆層の最外層は、1個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーを1種または2種以上重合させてなる第一化合物により構成され、該最外層の表面は、1種または2種以上の表面改質剤が結合しており、該表面改質剤は、9〜12個の炭素原子を含む橋かけ環構造を有するとともに、1個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面被覆メタリック顔料、それを含む水性塗料およびそれが塗布された塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題についての関心が高まり、有機溶剤を使用しない低公害型の水性塗料が注目を集めている。また、水性塗料の目覚ましい技術的進歩により、従来、溶剤型塗料でしか達し得なかった高級な仕上り外観が、水性塗料でも実現可能な状況になってきた。
【0003】
しかし、メタリック調を呈する基体粒子として金属顔料を用いた場合、特にそのような金属顔料としてアルミニウムフレーク顔料(アルミニウム粒子)等を用いた場合、それを水性塗料に配合すると、アルミニウムフレーク顔料等が塗料中の水と反応して黒変したり、水素ガスを発生したりする場合があり、水性塗料の保存安定性が低下するという問題があった。
【0004】
このような水性塗料として使用した場合の保存安定性の低下(すなわち耐水性の低下)の問題を解決するために、金属顔料を、燐酸または燐酸エステル系添加剤により処理する方法(特開昭63−054475号公報(特許文献1)、特開昭61−047771号公報(特許文献2)、特開平07−133440号公報(特許文献3)等)、Mo(モリブデン)化合物により処理する方法(特開平06−057171号公報(特許文献4))、シリカ等の酸化皮膜で被覆する方法(特開2003−041150号公報(特許文献5)、特開2004−131542号公報(特許文献6)、特開2004−124069号公報(特許文献7))等の技術が開発されている。しかし、水性塗料の保存安定性、延いては塗膜の耐湿性を充分に満足する水準に達したメタリック顔料は、未だ提供されていない現状にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−054475号公報
【特許文献2】特開昭61−047771号公報
【特許文献3】特開平07−133440号公報
【特許文献4】特開平06−057171号公報
【特許文献5】特開2003−041150号公報
【特許文献6】特開2004−131542号公報
【特許文献7】特開2004−124069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、水性塗料中に用いた場合に、水性塗料の保存安定性に優れるとともに塗膜の耐湿性にも優れる表面被覆メタリック顔料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の表面被覆メタリック顔料は、基体粒子と、該基体粒子表面に形成された1層または2層以上の被覆層とを含み、該被覆層の最外層は、1個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーを1種または2種以上重合させてなる第一化合物により構成され、該最外層の表面は、1種または2種以上の表面改質剤が結合しており、該表面改質剤は、9〜12個の炭素原子を含む橋かけ環構造を有するとともに、1個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーであることを特徴とする。
【0008】
ここで、上記橋かけ環構造は、置換基を有していてもよいジシクロペンタニル基、置換基を有していてもよいジシクロペンテニル基、置換基を有していてもよいイソボルニル基、または置換基を有していてもよいアダマンチル基のいずれかであることが好ましく、上記表面改質剤は、基体粒子100質量部に対して0.005〜10質量部の割合で含まれることが好ましい。
【0009】
また、上記第一化合物は、2種以上のモノマーまたはオリゴマーを重合させてなり、そのうち少なくとも1種は、9〜12個の炭素原子を含む橋かけ環構造を有するとともに、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーであることが好ましい。この場合の上記橋かけ環構造は、置換基を有していてもよいジシクロペンタニル基であることが好ましい。
【0010】
また、上記第一化合物は、2種以上のモノマーまたはオリゴマーを重合させてなり、そのうち、9〜12個の炭素原子を含む橋かけ環構造を有するとともに、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーの割合が10〜70質量%であることが好ましい。
【0011】
また、上記基体粒子は、基材と、該基材表面に付着された無機顔料および/または有機顔料とを含む構造とすることができる。あるいは、上記基体粒子は、基材と、該基材表面に形成された干渉作用を有する無機化合物層または金属層を1層以上含む構造とすることができる。
【0012】
さらに、本発明は、上記のいずれかに記載の表面被覆メタリック顔料を少なくとも1種含む水性塗料にも係り、その水性塗料が塗布された塗装物にも係る。
【発明の効果】
【0013】
本発明の表面被覆メタリック顔料は、水性塗料中に用いた場合に、水性塗料の保存安定性に優れるとともに塗膜の耐湿性にも優れるという優れた効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<表面被覆メタリック顔料>
本発明の表面被覆メタリック顔料は、基体粒子と、該基体粒子表面に形成された1層または2層以上の被覆層とを含む構造を有する。該被覆層は、基体粒子の表面の全面を被覆するようにして形成されていることが好ましいが、基体粒子の表面の一部が該被覆層により被覆されていない場合であっても、上記のような効果を示す限り本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0015】
このような本発明の表面被覆メタリック顔料は、金属やプラスチックの塗装に用いられるメタリック系塗料などに配合されて用いられる。特に、水性塗料として使用した場合に、優れた保存安定性(耐水性)を示し、それが塗布された塗膜は、優れた耐湿性を示す。
【0016】
<基体粒子>
本発明の表面被覆メタリック顔料に含まれる基体粒子としては、この種のメタリック顔料の基体粒子として用いられるものであれば従来公知の基体粒子をいずれも用いることができ、特に限定されるものではない。このような基体粒子としては、たとえば金属粒子または無機化合物粒子を使用することができる。金属粒子としては、アルミニウム、亜鉛、銅、ブロンズ、ニッケル、チタン、ステンレスなどの金属粒子およびこれらの金属の合金粒子が挙げられる。これらの金属粒子の中でもアルミニウム粒子は金属光沢に優れ、安価な上に比重が小さいため取り扱いやすく、特に好適である。一方、無機化合物粒子としては、ガラス、マイカ、セラミックス粒子(アルミナまたはチタニアなど)等を挙げることができる。
【0017】
以下、基体粒子として特に好適なアルミニウム粒子について説明する。
まず、このようなアルミニウム粒子の形状は、特に限定されず、たとえば、粒状、板状、塊状、フレーク状(鱗片状)、などの種々の形状を採用し得るが、塗膜に優れた光輝感を与えるためには、フレーク状であることが好ましい。また、アルミニウム粒子の平均粒径は、通常1〜100μm程度が好ましく、より好ましくは3〜60μmである。アルミニウム粒子の平均粒径が1μm未満の場合には、本発明の表面被覆メタリック顔料の製造工程における取り扱いが難しく、しかも凝集しやすくなる傾向を示す。一方、該平均粒径が100μmを超えると、塗膜表面が荒れて、好ましい意匠を実現できない場合がある。
【0018】
また、このようなアルミニウム粒子の形状がフレーク状である場合、その平均厚みは、特に限定されるものではないが、0.005μm以上であることが好ましく、特に0.02μm以上であることがより好ましい。また、該平均厚みは、5μm以下であることが好ましく、特に3μm以下であることがより好ましい。アルミニウム粒子の平均厚みが0.005μm未満の場合には、本発明の表面被覆メタリック顔料の製造工程における取り扱いが難しく、しかも凝集しやすくなる傾向を示す。一方、該平均厚みが5μmを超えると、塗膜の粒子感(凹凸)が目だったり、隠蔽力が不足して、好ましい意匠を実現できない場合がある。
【0019】
上記のようなアルミニウム粒子の平均粒径は、レーザー回折法、マイクロメッシュシーブ法、コールターカウンター法などの公知の粒度分布測定法により測定された粒度分布より体積平均を算出して求められる。また平均厚みについては、アルミニウム粒子の隠蔽力と密度とにより算出することができる。
【0020】
また、上記のようなフレーク状のアルミニウム粒子は、たとえば、原料となるアルミニウム粉末をボールミル等により磨砕することにより得ることができる。このようにして得られたフレーク状のアルミニウム粒子(アルミニウムフレークともいう)の表面には、磨砕時に添加する磨砕助剤が吸着していてもよい。磨砕助剤としては、たとえばオレイン酸やステアリン酸などの脂肪酸の他、脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族アルコール、エステル化合物などが挙げられる。これらはアルミニウム粒子表面の不必要な酸化を抑制し、光沢を改善する効果を有する。磨砕助剤の吸着量は、アルミニウム粒子100質量部に対し2質量部未満であることが好ましい。2質量部未満である場合、表面光沢の低下が抑制できるとともに、被覆層が付着しやすい点で有利である。
【0021】
一方、本発明で用いる基体粒子は、基材と、該基材表面に付着された無機顔料および/または有機顔料とを含む構造とすることができる。あるいは、上記基体粒子は、基材と、該基材表面に形成された干渉作用を有する無機化合物層または金属層を1層以上含む構造とすることができる。ここで、基材とは、上記で説明した各基体粒子が該当し、特にアルミニウム粒子を用いることが好ましい。すなわち、上記のアルミニウム粒子は、その表面に無機顔料および/または有機顔料を付着させた着色アルミニウム粒子とすることができ、あるいは、アルミニウム粒子の表面に干渉作用を示す無機化合物層または金属層を1層以上有する干渉色アルミニウム粒子とすることもできる。このような着色アルミニウム粒子(着色基体粒子)または干渉色アルミニウム粒子(干渉色基体粒子)を用いることで、独特の意匠性を有する塗膜を形成することが可能となる。
【0022】
ここで、上記無機顔料または有機顔料は、特に限定されるものではないが、たとえば、キナクリドン、ジケトピロロピロール、イソインドリノン、インダンスロン、ペリレン、ペリノン、アントラキノン、ジオキサジン、ベンゾイミダゾロン、トリフェニルメタンキノフタロン、アントラピリミジン、黄鉛、パールマイカ、透明パールマイカ、着色マイカ、干渉マイカ、フタロシアニン、ハロゲン化フタロシアニン、アゾ顔料(アゾメチン金属錯体、縮合アゾなど)、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、銅フタロシアニン、縮合多環類顔料、などが挙げられる。このような無機顔料または有機顔料は、たとえば、当該顔料を分散剤で被覆した後、非極性溶媒中でアルミニウム粒子(基体粒子)と撹拌混合することにより、アルミニウム粒子(基体粒子)の表面に付着させることができる。
【0023】
一方、干渉作用を示す無機化合物層または金属層を1層以上形成する方法としては、特に限定するものではないが、たとえば、ゾルゲル法、溶液析出法、無電解めっき法、化学蒸着法または物理蒸着法などが使用できる。そして、その際に用いられる化学物質としては、特に限定されるものではないが、たとえば、金、銀、銅、ニッケル、コバルト、チタン、アルミニウム、珪素などの金属またはこれらの金属の合金からなる金属質(金属層となる)または該金属または合金の酸化物(無機化合物層となる)などが挙げられる。無機化合物層または金属層の層数は特に限定されず、一層のみであってもよいし、複数の層であってもよい。なお、このような無機化合物層または金属層の厚みは、5〜200nmとすることが好ましく、10〜150nmとすることがより好ましい。
【0024】
さらに、使用用途によっては、上記着色アルミニウム粒子においてはアルミニウム粒子の表面に無機顔料または有機顔料を付着させる前に、あるいは、干渉色アルミニウム粒子においてはアルミニウム粒子の表面に干渉作用を示す無機化合物層または金属層を形成させる前に、前処理としてアルミニウム粒子の表面に、各種の機能性を付与する無機質層または有機質層を予め設けてもよい。
【0025】
<被覆層>
本発明の被覆層は、基体粒子表面に形成され、1層または2層以上の層により構成される。そして、このような被覆層の最外層は、1個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーを1種または2種以上重合させてなる第一化合物により構成され、該最外層の表面は、1種または2種以上の表面改質剤が結合しており、該表面改質剤は、9〜12個の炭素原子を含む橋かけ環構造を有するとともに、1個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーであることを特徴とする。本発明の被覆層が1層のみで構成される場合は、その層が最外層となる。
【0026】
本発明の被覆層は、上記のような構成を有することにより、基体粒子として水と反応性の高いもの、すなわちたとえば基体粒子としてアルミニウム粒子を用いた場合でも、そのような基体粒子が水と接触して水と反応してしまうことを、極めて有効に防止する作用を有したものとなる。
【0027】
このような被覆層の被覆量は、基体粒子の比表面積にもよるが、基体粒子100質量部に対して3〜40質量部とすることが好ましく、さらに好ましくは5〜20質量部とすることが好適である。当該被覆量が40質量部を超えると、基体粒子の金属光沢を損なう傾向を示す場合があり、また3質量部未満では、基体粒子と水との反応を十分に抑制できない場合がある。
【0028】
なお、このような被覆層が2層以上の層を有する場合における最外層以外の層としては、たとえば、基材表面に形成された干渉作用を有する無機化合物層または金属層を保護するための樹脂被覆層、あるいは無機顔料および/または有機顔料を付着せしめた基材粒子のその顔料付着状態を物理的に保護するための樹脂被覆層等を挙げることができる。
【0029】
<最外層>
本発明の最外層は、被覆層の表面を構成する層であって、1個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーを1種または2種以上重合させてなる第一化合物により構成される。
【0030】
このような第一化合物としては、上記の構成を有する限り特に限定されるものではないが、たとえば1個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーとしては、不飽和カルボン酸(たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸等)、不飽和カルボン酸のエステル(たとえば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、イタコン酸エステル、フマル酸エステル等)、不飽和カルボン酸のニトリル(たとえば、アクリル酸ニトリル、メタクリル酸ニトリル等)、リン酸エステル(たとえば、2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジ−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、トリ−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジ−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、トリ−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジブチル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、2−メタクリロイロキシプロピルアッシドフォスフェート、ビス(2−クロロエチル)ビニルホスホネート、ジアリルジブチルホスホノサクシネート等)等を挙げることができる。
【0031】
また、このようなモノマーまたはオリゴマーを2種以上用いる場合は、少なくともその1種として分子内に2個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーを使用することが好ましく、これにより第一化合物の架橋構造が緻密となるため好適である。このような分子内に2個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーとしては、たとえば、ジビニルベンゼン、アリルベンゼン、ジアリルベンゼン、エポキシ化1,2−ポリブタジエン、(メタ)アクリル変性ポリエステル、(メタ)アクリル変性ポリエーテル、(メタ)アクリル変性ウレタン、(メタ)アクリル変性エポキシ、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。なお、本発明においては、当該技術分野において常用されているように、「(メタ)アクリル」とは、アクリルまたはメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0032】
さらに、本発明の第一化合物としては、2種以上のモノマーまたはオリゴマーを重合させてなり、そのうち少なくとも1種は、9〜12個の炭素原子を含む橋かけ環構造を有するとともに2個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーであることが好ましい。この場合の上記橋かけ環構造は、置換基を有していてもよいジシクロペンタニル基であることが特に好ましい。なお、上記第一化合物を構成する全モノマーまたはオリゴマーのうち、9〜12個の炭素原子を含む橋かけ環構造を有するとともに2個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーの割合が10〜70質量%であることが好ましい。この割合は、より好ましくは30〜50質量%である。第一化合物をこのような構成とすることにより、最外層の疎水性が向上し、基体粒子と水との反応をより十分に抑制することができるため好ましい。このような優れた効果は、第一化合物をこのような構成とすることにより、後述の表面改質剤との相乗作用が生じ、この相乗作用により達成されるものと推測される。
【0033】
なお、上記割合を10質量%以上とすることにより、このような効果が有効に示され、該割合が70%質量を超えると架橋構造において分子の結合が緻密になりにくく、水分子が最外層を透過する傾向を示し上記の効果が低下する場合がある。
【0034】
ここで、このような9〜12個の炭素原子を含む橋かけ環構造を有するとともに2個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーとしては、たとえばトリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート等を挙げることができる。
【0035】
<表面改質剤>
本発明の最外層の表面には、1種または2種以上の表面改質剤が結合している。そして、この表面改質剤は、9〜12個の炭素原子を含む橋かけ環構造を有するとともに、1個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーであることを特徴とする。
【0036】
ここで、上記橋かけ環構造は、置換基を有していてもよいジシクロペンタニル基、置換基を有していてもよいジシクロペンテニル基、置換基を有していてもよいイソボルニル基、または置換基を有していてもよいアダマンチル基のいずれかであることが好ましく、このような表面改質剤は、基体粒子100質量部に対して0.005〜10質量部の割合、より好ましくは0.1〜5質量部の割合で含まれることが好適である。
【0037】
本発明の最外層は、その表面にこのような表面改質剤が結合することにより、高い疎水性を示し、基体粒子が水と接触することを極めて有効に防止することができる。これにより、本発明の表面被覆メタリック顔料は、水性塗料中に用いた場合に、水性塗料の保存安定性に優れるとともに塗膜の耐湿性にも優れるという極めて優れた効果が示される。なお、上記表面改質剤の割合が10質量部を超えると、基体粒子の金属光沢を損なう傾向を示す場合があり、0.005質量部未満では十分な疎水性効果を発現し難く上記の効果が示されない場合がある。
【0038】
このような本発明の表面改質剤は、最外層(すなわち第一化合物)と結合することにより層を形成していてもよいし、層を形成せずに最外層の最表面部に点在的に結合するものであってもよい。また、このような表面改質剤は、最外層と結合するとともに、表面改質剤同士が結合していてもよい。したがって、最外層の表面が、このような表面改質剤からなる層状の網目構造により被覆されるような構成をとることもできる。なお、最外層と表面改質剤との結合および表面改質剤同士の結合は、化学結合がメインになるものと推測されるが、吸着等の物理的結合を排除するものではない。
【0039】
ここで、9〜12個の炭素原子を含む橋かけ環構造を有するとともに1個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーとしては、たとえば
置換基を有していてもよいジシクロペンタニル基を有する化合物であるジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート;
置換基を有していてもよいジシクロペンテニル基を有する化合物であるジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート;
置換基を有していてもよいイソボルニル基を有する化合物であるイソボルニル(メタ)アクリレート;
置換基を有していてもよいアダマンチル基を有する化合物である1−アダマンチル(メタ)アクリレート、2−メチル2−アダマンチル(メタ)アクリレート、1,3−アダマンタンジメタノールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。なお、本発明において、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、イソボルニル基、アダマンチル基等における他の官能基との結合部位ならびに置換基を有する場合の置換位置は、任意であり、特に限定されるものではない。
【0040】
なお、上記の置換基としては、たとえばメチル基、エチル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシルメチル基、アミノ基等を挙げることができるが、これらのみに限られるものではない。本発明における「置換基を有していてもよい」という表現は、このような置換基を含まない態様が包含されることを意味する。
【0041】
<製造方法>
本発明の表面被覆メタリック顔料は、次のようにして製造することができる。
【0042】
まず、基体粒子を有機溶剤中に分散させ、加温し、撹拌する。次いで、該撹拌下、第一化合物を構成することになる1個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーを少なくとも1種該分散液に添加するとともに、さらに重合開始剤を添加する。これにより、これらのモノマーまたはオリゴマーを重合させるとともに基体粒子の表面に付着させ、基体粒子表面に被覆層(すなわち最外層)が形成される。
【0043】
なお、上記有機溶剤としては基体粒子に対して不活性なものを用いることが好ましく、たとえばヘキサン、ヘプタン、オクタン、ミネラルスピリット等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等の芳香族炭化水素、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類等を例示できる。
【0044】
また、上記有機溶剤の使用量は、基体粒子100質量部に対して、300〜3000質量部の範囲とすることが好ましく、500〜1500質量部の範囲とすることがより好ましい。300質量部未満では上記分散液の粘度が高くなりすぎ、基体粒子の表面に均一に最外層を形成することが難しく、3000質量部を超えると重合時間が長くなりすぎる傾向にある。
【0045】
また、上記重合開始剤としては、特に限定されず、一般にラジカル発生剤として知られているものを用いることができ、具体的にはベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイドなどのパーオキサイド類、およびAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)のようなアゾ化合物等を挙げることができる。
【0046】
また、重合開始剤の配合量は、最外層となる第一化合物100質量部に対して、0.5〜20質量部とすることが好ましい。重合開始剤の配合量が0.5質量部未満の場合、重合反応が進まず所望量の最外層が形成されない場合があり、重合開始剤の配合量が20質量部を超えると重合が急激に進み基体粒子の凝集が生じることから得られる色調が悪くなる場合がある。
【0047】
また、当該重合を行なうための温度は重合開始剤の半減期が20時間以下となるような温度とすることが好ましく、特に半減期が10時間以下となるような温度がより好ましい。たとえばAIBNを重合開始剤として用いる場合は、70〜90℃が好ましい温度範囲となる。なお、この重合工程(最外層形成工程)は、重合収率を高めるために酸素を遮断し、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で実施することが有利である。
【0048】
次に、上記のようにして形成された最外層の表面に対して、表面改質剤を結合させる。これは、上記の重合が完了する段階で表面改質剤を添加する方法による。
【0049】
すなわち、この表面改質剤は、上記の分散液にこれを添加するだけで上記最外層形成工程の重合終了段階に残存したラジカルによって最外層と結合するが、この際、さらに重合開始剤を添加すると、その結合を確実に進行させられるという点で有利である。なお、この際の反応時間は、0.5〜2時間程度とすることが好ましく、この反応期間を通して上記の分散液は加温および撹拌が継続される。
【0050】
そして、最外層への表面改質剤の結合が終了した後、フィルターを通して本発明の表面被覆メタリック顔料と有機溶剤を固液分離することにより、粉末状の表面被覆メタリック顔料または適当な固形分濃度を有するペースト状の表面被覆メタリック顔料を得ることができる。この際、固液分離時またはペースト化等の湿潤に用いる有機溶剤は特に限定されないが、上記分散液の有機溶剤を親水性の有機溶剤に置換することによって水性塗料に分散するための親和性を付与しても良い。
【0051】
このような親水性の有機溶剤としては、たとえばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、アセトン等を挙げることができる。
【0052】
<水性塗料および塗装物>
本発明の表面被覆メタリック顔料は、水性塗料に好適に用いられる。したがって、本発明は、この表面被覆メタリック顔料を少なくとも1種含む水性塗料にも関し、さらに上記水性塗料が塗布された塗装物にも関する。
【0053】
本発明の水性塗料に配合される表面被覆メタリック顔料の量は、塗料用バインダー100質量部に対して0.1〜50質量部、より好ましくは1〜30質量部の範囲とすることが好適である。表面被覆メタリック顔料の含有量が0.1質量部以上であれば、目的とする意匠性が良好に得られ、50質量部以下であれば塗膜が良好な鮮映性を有する。
【0054】
ここで、上記塗料用バインダーとしては特に限定されないが、たとえば熱硬化型アクリル樹脂/メラミン樹脂、熱硬化型アクリル樹脂/CAB(セルロースアセテートブチレート)/メラミン樹脂、熱硬化型ポリエステル(アルキド)樹脂/メラミン樹脂、熱硬化型ポリエステル(アルキド)/CAB/メラミン樹脂、イソシアネート硬化型ウレタン樹脂/常温硬化型アクリル樹脂、水希釈型アクリルエマルジョン/メラミン樹脂等を挙げることができる。
【0055】
また、上記水性塗料は適当な溶剤を含む。この溶剤としては、水が好適であるが、アルコール系、グリコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系、炭化水素系等の有機溶媒も使用され得る。
【0056】
また、上記水性塗料は、必要に応じて、顔料分散剤、消泡剤、沈降防止剤、硬化触媒等の添加剤や、他の着色顔料としてたとえば有機着色顔料、無機着色顔料、パールマイカ、アルミナフレーク、板状酸化鉄、シリカフレーク等を配合しても良い。
【0057】
また、このような水性塗料のタイプとしては、特に限定されるものではないが常温硬化型とすることが好ましい。この場合、常温硬化型水性塗料としては、1液性タイプのものが含まれるとともに、2液以上を混合して用いるものも含まれる。また、このような常温硬化型水性塗料は、反応を伴うものであっても良い。
【0058】
このような常温硬化型水性塗料に用いられるエマルジョンあるいは水溶性バインダーとしては、天然あるいは合成のポリマーとしてアクリル系、アルキッド系、ポリエステル系、ウレタン系、酢酸ビニル系、シリコン系等の各種ポリマー、またはオリゴマー、プレポリマー等を使用することが可能である。
【0059】
一方、このような水性塗料が塗布される被塗装物としては、たとえばポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリウレタン樹脂、ABS樹脂、PET樹脂などのプラスチックや木材、金属等を挙げることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
<実施例1>
まず、基体粒子としてアルミニウム粒子を用いた。このアルミニウム粒子は、それを含むペースト(商品名「7640NS」、アルミニウム粒子の平均粒径17μm、ペースト化剤:ミネラルスピリット、東洋アルミニウム(株)製)をミネラルスピリットで洗浄し、次いで濾過することにより、ペースト状の形態を有するものであった。濾過後のペーストの不揮発成分(アルミニウム粒子)は67質量%(残部はミネラルスピリット)であった。
【0062】
このペースト447.8g(不揮発成分は300g)とミネラルスピリット1400gとを3リットルのセパラブルフラスコに添加した後、撹拌することによりスラリーとした。該撹拌を継続しつつ、系内に窒素ガスを導入して窒素雰囲気とした。その後、80℃まで昇温した。以下の操作は、特に断りのない限り本条件を維持したまま行なった。
【0063】
次いで、第一化合物を構成するモノマーとしてアクリル酸2.17g、エポキシ化1,2−ポリブタジエン8.66g(ただしミネラルスピリットで50質量%に希釈したもの)、トリメチロールプロパントリアクリレート13.00g、ジビニルベンゼン23.83g、および重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.67gを上記のスラリーに添加し、これらのモノマーを重合させることにより基材粒子表面に最外層を形成した。
【0064】
続いて、上記AIBNを投入した3時間後に、表面改質剤としてイソボルニルメタクリレート(共栄社化学(株)製、商品名「ライトエステルIB−X」)2.10gと追加の重合開始剤としてAIBN0.5gとを更に添加し、さらに重合反応を5時間継続した後冷却し反応を終了させることにより、最外層表面に表面改質剤を結合させた。
【0065】
引き続き、上記のスラリーを濾過し、少量のミネラルスピリットで洗浄した後、更にプロピレングリコールモノメチルエーテルにてミネラルスピリットを洗浄置換することにより、本発明の表面被覆メタリック顔料をペースト状で得た。この実施例1の表面被覆メタリック顔料では、表面改質剤の含有量が基体粒子100質量部に対し0.7質量部である。
【0066】
<実施例2>
表面改質剤として、実施例1におけるイソボルニルメタクリレートに代えてジシクロペンタニルメタクリレート(日立化成工業(株)製、商品名「ファンクリルFA−513M」)を2.10g使用したことを除き、他は全て実施例1と同様にして本発明の表面被覆メタリック顔料をペースト状で得た。この実施例2の表面被覆メタリック顔料では、表面改質剤の含有量が基体粒子100質量部に対し0.7質量部である。
【0067】
<実施例3>
表面改質剤として、実施例1におけるイソボルニルメタクリレートに代えてジシクロペンテニルアクリレート(日立化成工業(株)製、商品名「ファンクリルFA−511AS」)を2.10g使用したことを除き、他は全て実施例1と同様にして本発明の表面被覆メタリック顔料をペースト状で得た。この実施例3の表面被覆メタリック顔料では、表面改質剤の含有量が基体粒子100質量部に対し0.7質量部である。
【0068】
<実施例4>
まず、基体粒子としてアルミニウム粒子を用いた。このアルミニウム粒子は、それを含むペースト(商品名「7640NS」、アルミニウム粒子の平均粒径17μm、ペースト化剤:ミネラルスピリット、東洋アルミニウム(株)製)をミネラルスピリットで洗浄し、次いで濾過することにより、ペースト状の形態を有するものであった。濾過後のペーストの不揮発成分(アルミニウム粒子)は67質量%(残部はミネラルスピリット)であった。
【0069】
このペースト447.8g(不揮発成分は300g)とミネラルスピリット1400gとを3リットルのセパラブルフラスコに添加した後、攪拌することによりスラリーとした。該撹拌を継続しつつ、系内に窒素ガスを導入して窒素雰囲気とした。その後、80℃まで昇温した。以下の操作は、特に断りのない限り本条件を維持したまま行なった。
【0070】
次いで、第一化合物を構成するモノマーとしてアクリル酸2.17g、エポキシ化1,2−ポリブタジエン8.66g(ただしミネラルスピリットで50質量%に希釈したもの)、トリメチロールプロパントリアクリレート10.83g、ジビニルベンゼン13.00g、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(共栄社化学(株)製、商品名「ライトエステルDCP−M」)13.00g、および重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.67gを上記のスラリーに添加し、これらのモノマーを重合させることにより基体粒子表面に最外層を形成した。
【0071】
続いて、上記AIBNを投入した3時間後に、表面改質剤としてイソボルニルメタクリレート(共栄社化学(株)製、商品名「ライトエステルIB−X」)2.10gと追加の重合開始剤としてAIBN0.5gとを更に添加し、さらに重合反応を5時間継続した後冷却し反応を終了させることにより、最外層表面に表面改質剤を結合させた。
【0072】
引き続き、上記のスラリーを濾過し、少量のミネラルスピリットで洗浄した後、更にプロピレングリコールモノメチルエーテルにてミネラルスピリットを洗浄置換することにより、本発明の表面被覆メタリック顔料をペースト状で得た。
【0073】
この実施例4の表面被覆メタリック顔料では、表面改質剤の含有量が基体粒子100質量部に対し0.7質量部である。また、この表面被覆メタリック顔料の最外層(第一化合物)を構成するモノマーのうち、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(9〜12個の炭素原子を含む橋かけ環構造を有するとともに2個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーに相当)の割合は、30質量%である。
【0074】
<実施例5>
表面改質剤として、実施例4におけるイソボルニルメタクリレートに代えてジシクロペンタニルメタクリレート(日立化成工業(株)製、商品名「ファンクリルFA−513M」)を2.10g使用したことを除き、他は全て実施例4と同様にして本発明の表面被覆メタリック顔料をペースト状で得た。この実施例5の表面被覆メタリック顔料では、表面改質剤の含有量が基体粒子100質量部に対し0.7質量部である。
【0075】
<比較例1>
まず、基体粒子としてアルミニウム粒子を用いた。このアルミニウム粒子は、それを含むペースト(商品名「7640NS」、アルミニウム粒子の平均粒径17μm、ペースト化剤:ミネラルスピリット、東洋アルミニウム(株)製)をミネラルスピリットで洗浄し、次いで濾過することにより、ペースト状の形態を有するものであった。濾過後のペーストの不揮発成分(アルミニウム粒子)は67質量%(残部はミネラルスピリット)であった。
【0076】
このペースト447.8g(不揮発成分は300g)とミネラルスピリット1400gとを3リットルのセパラブルフラスコに添加した後、攪拌することによりスラリーとした。該撹拌を継続しつつ、系内に窒素ガスを導入して窒素雰囲気とした。その後、80℃まで昇温した。
【0077】
次いで、第一化合物を構成するモノマーとしてアクリル酸2.17g、エポキシ化1,2−ポリブタジエン8.66g(ただしミネラルスピリットで50質量%に希釈したもの)、トリメチロールプロパントリアクリレート13.00g、ジビニルベンゼン23.83g、および重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.67gを上記のスラリーに添加し、これらのモノマーを重合させることにより基体粒子表面に最外層を形成した(すなわち、以上の操作は実施例1と同じである)。
【0078】
続いて、上記AIBNを投入した8時間後に冷却し反応を終了させた。引き続き、上記のスラリーを濾過し、少量のミネラルスピリットで洗浄した後、更にプロピレングリコールモノメチルエーテルにてミネラルスピリットを洗浄置換することにより、比較例の表面被覆メタリック顔料をペースト状で得た。この表面被覆メタリック顔料は、本発明の表面被覆メタリック顔料(実施例1の表面被覆メタリック顔料)に対して最外層に表面改質剤が結合していない構造に相当する。
【0079】
<比較例2>
表面改質剤として、実施例1におけるイソボルニルメタクリレートに代えてシクロヘキシルメタクリレート(共栄社化学(株)製、商品名「ライトエステルCH」)を2.10g使用したことを除き、他は全て実施例1と同様にして比較例の表面被覆メタリック顔料をペースト状で得た。この表面被覆メタリック顔料は、本発明における表面改質剤とは異なる化合物が最外層に結合したものに相当する。
【0080】
<比較例3>
表面改質剤として、実施例1におけるイソボルニルメタクリレートに代えてベンジルメタクリレート(共栄社化学(株)製、商品名「ライトエステルBZ」)を2.10g使用したことを除き、他は全て実施例1と同様にして比較例の表面被覆メタリック顔料をペースト状で得た。この表面被覆メタリック顔料は、本発明における表面改質剤とは異なる化合物が最外層に結合したものに相当する。
【0081】
<比較例4>
表面改質剤として、実施例1におけるイソボルニルメタクリレートに代えてn−ラウリルメタクリレート(共栄社化学(株)製、商品名「ライトエステルL」)を2.10g使用したことを除き、他は全て実施例1と同様にして比較例の表面被覆メタリック顔料をペースト状で得た。この表面被覆メタリック顔料は、本発明における表面改質剤とは異なる化合物が最外層に結合したものに相当する。
【0082】
<比較例5>
第一化合物を構成するモノマーとしてトリシクロデカンジメタノールジメタクリレートに代えてイソボルニルメタクリレート13.00gを使用し、かつ表面改質剤を用いなかったことを除き、他は全て実施例4と同様にして比較例の表面被覆メタリック顔料をペースト状で得た。この表面被覆メタリック顔料は、第一化合物を構成するモノマーとして、9〜12個の炭素原子を含む橋かけ環構造を有するとともに1個の重合性二重結合を有するモノマーを含むが、最外層に表面改質剤が結合していないものに相当する。
【0083】
<水性塗料の調製>
上記で得られた実施例および比較例の各表面被覆メタリック顔料をそれぞれ用いることにより、表面被覆メタリック顔料を含む水性塗料を次のようにして調製した。
【0084】
(レオロジーコントロール剤の調製)
ポリアマイド系レオロジーコントロール剤(楠本化成(株)製、商品名「ディスパロンAQ600」)19.5質量部、ブチルセロソルブ6質量部、イオン交換水106.5質量部を混合し、1時間撹拌することによりレオロジーコントロール剤(以下「組成物1」とも記す)を調製した。
【0085】
(樹脂溶液の調製)
アクリルコポリマー(Neuplex社製、商品名「Setaqua 6802」)を27.9質量部、ポリウレタンディスパージョンA(Bayer Material Science 製、商品名「Bayhydrol XP 2621」)を16.8質量部、ポリウレタンディスパージョンB(Bayer Material Science 製、商品名「Bayhydrol PT241」)を4.1質量部、メラミン樹脂溶液(三井サイテック社製、商品名「Cymel327」)を1.9質量部、ブチルセロソルブ5.3質量部、消泡レベリング剤(楠本化成(株)製、商品名「AQ7120」)を0.3質量部、イオン交換水を12.4質量部の割合で混合し、30分以上撹拌することにより樹脂溶液(以下「組成物2」とも記す)を調製した。
【0086】
(メタリックベースの調製)
不揮発分が4.4質量部に相当する実施例または比較例で作製した表面被覆メタリック顔料に、分散剤(楠本化成(株)製、商品名「AQ320」)0.4質量部と残部としてブチルセロソルブを加えて15.00質量部とし、これを10分間撹拌混合することによりメタリックベース(以下「組成物3」とも記す)を調製した。
【0087】
(水性ベースメタリック塗料の調製)
上記樹脂溶液(「組成物2」)96.2質量部に上記メタリックベース(「組成物3」)10.5質量部を加えて10分以上撹拌混合した。次に、レオロジーコントロール剤(「組成物1」)12.3質量部をこの混合液に徐々に加えた後、更に10分間撹拌混合した。
【0088】
その後、上記混合物のpHが8.3±0.1となるように10質量%のジメチルエタノールアミン水溶液を上記混合物に加え、さらに10分以上撹拌混合した。そして、最後に粘度が基準値(Ford cup No.4にて25秒)になるように適量のイオン交換水を加え、10分以上撹拌混合することにより、水性ベースメタリック塗料(水性塗料)を調製した。
【0089】
(クリアーコート用塗料の調製)
ポリアクリレート(Bayer Material Science 製、商品名「Desmophen A870BA」)51.15g、添加剤A(Borchers社製、商品名「Baysilone Paint Additive OL17」の10%キシレン溶液)0.53g、添加剤B(Monsanto社製、商品名「Modaflow」の1%キシレン溶液)0.53g、添加剤C(Ciba Spezialitatenchemie Lampertheim社製、商品名「Tinuvin292」の10%キシレン溶液)5.3g、添加剤D(Ciba Spezialitatenchemie Lampertheim社製、商品名「Tinuvin1130」の10%キシレン溶液)10.7g、希釈溶剤A(1−メトキシプロピルアセテート:ソルベントナフサ=1:1)10.17g、希釈溶剤B(ブチルグリコールアセテート)2.13gを混合し、30分以上撹拌した。
【0090】
その後、イソシアヌレート(住化バイエルウレタン社製、商品名「スミジュールN3300」)と混合溶剤(ブチルアセテート:ソルベントナフサ=1:1)とを、9:1で希釈したものを上記混合物に19.49g加え、30分間以上混合撹拌することにより、クリアーコート用塗料を調製した。
【0091】
<塗板の作製方法>
上記のようにして調製した水性ベースメタリック塗料を金属板にスプレー塗装した。得られたスプレー塗板を5分以上常温(20℃)でセッティングした後、該スプレー塗板を80℃にて3分間乾燥した。
【0092】
その後、該スプレー塗板を10分以上常温でセッティングした後、該スプレー塗板に対してさらにクリアーコート用塗料をスプレーにて塗布した。クリアーコート用塗料を塗布後10分以上常温にてセッティングした後、130℃にて30分間焼き付けを行なうことによりスプレー塗装された塗板を得た。
【0093】
この塗板における塗膜の厚みは、水性ベースメタリック塗料による塗膜が14〜18μm、クリアーコート用塗料による塗膜が35〜40μmになるように、上記スプレー塗装を行なう際の塗装条件を調整した。
【0094】
<塗膜耐湿性試験>
上記の「塗板の作製方法」により得られた塗板を、40℃で湿度98%以上に保持された耐湿試験機にて10日間保管した。その保管前後の該塗板の塗膜の光沢保持率および色差、ならびに密着性を評価した。
【0095】
(1) 光沢保持率
塗膜の光沢は、光沢計(日本電色工業(株)製、商品名「Gloss Meter VG2000」)を用いて20度光沢を測定した。耐湿試験機にて10日間保管する前の塗膜の20度光沢の測定値をG1、耐湿試験機にて10日間保管後の塗膜の20度光沢の測定値をG2とし、光沢保持率Rを下式によって求めた。
【0096】
R(%)=(G2/G1)×100
評価としては、Rが95%以上の場合を「優」、Rが90%以上〜95%未満の場合を「良」、Rが90%未満の場合を「不可」とした。すなわち、「優」と評価される塗膜において、最も耐湿性が優れていることを示す。
【0097】
(2) 色差
上記の「塗板の作製方法」により得られた塗板の塗膜について、多角度測色計(X-Rite社製、商品名「X−Rite MA−68II」)を用いて、観測角が45度(塗膜法線方向にて受光)における、該塗膜の、L*45、a*45、b*45の値をそれぞれ測定し、耐湿試験機にて10日間保管前後における塗膜の色差ΔE*45を求めた。
【0098】
評価としては、ΔE*45が3未満の場合を「優」、ΔE*45が3以上〜7未満の場合を「良」、ΔE*45が7以上の場合を「不可」とした。すなわち、「優」と評価される塗膜において、最も耐湿性が優れていることを示す。
【0099】
(3) 密着性
上記の「塗板の作製方法」により得られた塗板の塗膜について、上記の耐湿試験機にて10日間保管後の塗板の塗膜上に幅2cm、長さ2cmにわたって2mm間隔で碁盤目状に切れ目を入れ、その部分にセロテープ(登録商標:ニチバン(株)製、「CT−24」)を密着させ、45度の角度で引っ張り、該塗膜の上記碁盤目状部分の剥離度合いを目視で観察した。
【0100】
評価としては、剥離が観察されなかった場合を「優」、剥離が少し観察された場合を「良」、多数の剥離が観察された場合を「不可」とした。すなわち、「優」と評価される塗膜において、最も耐湿性が優れていることを示す。
【0101】
<塗料のガス発生試験>
上記により作製した水性ベースメタリック塗料の保存安定性を確認するために、該塗料のガス発生試験を実施した。
【0102】
試験条件は、該塗料をガラス製ボトルに200g採取し、40℃に設定した恒温水槽の中で1週間静置し、その1週間の間に発生するガス(表面被覆メタリック顔料において、基体粒子と水性塗料中の水分とが反応すると水素ガスが発生する)の量を測定した。
【0103】
評価としては、塗料200gあたりのガス発生量が4ml未満の場合を「優」、4ml以上8ml未満の場合を「良」、8ml以上の場合を「不可」とした。すなわち、「優」と評価される塗料において、最も保存安定性に優れていることを示す。
【0104】
<評価結果>
以上の評価結果を、各表面被覆メタリック顔料の構成と合わせて表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
表1より明らかなように、本発明の構成を有する各実施例の表面被覆メタリック顔料は、水性塗料中に用いた場合に、水性塗料の保存安定性に優れるとともに塗膜の耐湿性にも優れるという優れた効果を示すことが確認された。
【0107】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0108】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体粒子と、該基体粒子表面に形成された1層または2層以上の被覆層とを含む表面被覆メタリック顔料であって、
前記被覆層の最外層は、1個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーを1種または2種以上重合させてなる第一化合物により構成され、
前記最外層の表面は、1種または2種以上の表面改質剤が結合しており、
前記表面改質剤は、9〜12個の炭素原子を含む橋かけ環構造を有するとともに、1個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーである、表面被覆メタリック顔料。
【請求項2】
前記橋かけ環構造は、置換基を有していてもよいジシクロペンタニル基、置換基を有していてもよいジシクロペンテニル基、置換基を有していてもよいイソボルニル基、または置換基を有していてもよいアダマンチル基のいずれかである、請求項1記載の表面被覆メタリック顔料。
【請求項3】
前記表面改質剤は、前記基体粒子100質量部に対して0.005〜10質量部の割合で含まれる、請求項1または2に記載の表面被覆メタリック顔料。
【請求項4】
前記第一化合物は、2種以上のモノマーまたはオリゴマーを重合させてなり、そのうち少なくとも1種は、9〜12個の炭素原子を含む橋かけ環構造を有するとともに、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーである、請求項1〜3のいずれかに記載の表面被覆メタリック顔料。
【請求項5】
前記橋かけ環構造は、置換基を有していてもよいジシクロペンタニル基である、請求項4に記載の表面被覆メタリック顔料。
【請求項6】
前記第一化合物は、2種以上のモノマーまたはオリゴマーを重合させてなり、そのうち、9〜12個の炭素原子を含む橋かけ環構造を有するとともに、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーの割合が10〜70質量%である、請求項4または5に記載の表面被覆メタリック顔料。
【請求項7】
前記基体粒子は、基材と、該基材表面に付着された無機顔料および/または有機顔料とを含む構造を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の表面被覆メタリック顔料。
【請求項8】
前記基体粒子は、基材と、該基材表面に形成された干渉作用を有する無機化合物層または金属層を1層以上含む、請求項1〜6のいずれかに記載の表面被覆メタリック顔料。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の表面被覆メタリック顔料を少なくとも1種含む、水性塗料。
【請求項10】
請求項9記載の水性塗料が塗布された、塗装物。

【公開番号】特開2010−270281(P2010−270281A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125585(P2009−125585)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】