説明

表面被覆材およびそれを用いた予防保全工法

【課題】 コンクリート構造物の高寿命化を実現する表面被覆材およびそれを用いた予防保全工法を提供する。
【解決手段】 セメント、高炉水砕スラグ微粉末、γ-2CaO・SiO2、ポリマーおよび繊維質物質を含有する表面被覆材。前記表面被覆材をコンクリートの表層材として用いることを特徴とする予防保全工法。前記表面被覆材を吹付けまたはコテ塗りによりコンクリート表面に塗りつけることを特徴とする予防保全工法。前記表面被覆材をコンクリートに被覆後、その表面を炭酸化処理することを特徴とする予防保全工法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築業界において適用されるコンクリート構造物の表面被覆材およびそれを用いた予防保全工法に関する。
【0002】
なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【背景技術】
【0003】
近年、鉄筋コンクリート構造物の耐久性が大きくクローズアップされている。特に、鉄筋コンクリート構造物中への塩化物イオンの浸透によってもたらされる鉄筋の腐食現象、いわゆる塩害や中性化が問題視されている。
【0004】
劣化したコンクリート構造物からコンクリート片が剥落する事故が相次いでいる。このような第三者被害を未然に防止する目的で剥落防止工が行われている。しかしながら、従来の剥落防止工に用いられる表面被覆材は、物質遮断性を有するものではなく、すなわち、塩化物イオンや二酸化炭素の透過を抑止するものではなく、コンクリート構造物の劣化防止の観点から延命化を図れるものではなかった。そのため、剥落防止工を施工する際に、コンクリート構造物の耐久性を飛躍的に向上させる表面被覆材や予防保全工法の開発が強く求められている。
【0005】
一方、海洋・港湾構造物を中心に予防保全計画が進められている。これは、重要構造物のライフサイクルを考慮し、劣化する前に予防処置を施すという考え方に基づいている。予防保全のための手法はまだ確立していないが、既存のコンクリート構造物に表面被覆材を施工する方法により構造物の延命化が図れれば非常に有益である。
【0006】
また、水硬性を持たないγ-2CaO・SiO2に着目し、セメント混和材としての用途が検討されている(特許文献1)。
【特許文献1】国際公開第03/016234号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、コンクリート構造物の予防保全工法について数々の実験を通して検討を加えた結果、特定の表面被覆材を使用することにより、処理後のコンクリート構造物の長寿命化が可能となることを知見し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、セメント、高炉水砕スラグ微粉末、γ-2CaO・SiO2、ポリマーおよび繊維質物質を含有する表面被覆材であり、セメント30〜80部および高炉水砕スラグ微粉末20〜70部からなる結合材100部に対して、γ-2CaO・SiO210〜200部、ポリマーを固形分換算で1〜20部、繊維質物質0.1〜3部を含有する前記表面被覆材であり、前記表面被覆材をコンクリートの表層材として用いることを特徴とする予防保全工法であり、前記表面被覆材を吹付けまたはコテ塗りによりコンクリート表面に塗りつけることを特徴とする予防保全工法であり、さらに、前記表面被覆材をコンクリートに被覆後、その表面を炭酸化処理することを特徴とする予防保全工法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の表面被覆材をコンクリート構造物の予防保全工法に使用することにより、コンクリート構造物の高寿命化を実現できるなどの効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のセメントとは、普通、早強、超早強、低熱、および中庸熱などの各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、またはシリカを混合した各種混合セメント、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰などを原料として製造された廃棄物利用セメント、いわゆるエコセメント(R)、および石灰石粉末や高炉徐冷スラグ微粉末などを混合した各種フィラーセメントなどが挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上が使用可能である。中でも、普通、早強、超早強、低熱、および中庸熱などの各種ポルトランドセメントの使用が好ましい。
【0011】
本発明の高炉水砕スラグ微粉末とは、製鉄業界から副産する副産物の1種を微粉末化したものである。高炉水砕スラグは、銑鉄を得る際に高炉から副生する副産物である。その化学成分は、SiO2、CaO、Al2O3、MgOを主成分とし、TiO2、Fe2O3、S、Na2O、K2Oなどの微量成分を含んでいる。また、高炉水砕スラグは多量の水で急冷され、非晶質化しており、そのガラス化率は80%以上であり、多くの場合に90%以上である。
高炉水砕スラグを粉砕処理して得られる高炉水砕スラグ微粉末は、JISにも制定されており、工業的に容易に入手可能である。
【0012】
本発明のγ-2CaO・SiO2とは、CaOとSiO2を主成分とするダイカルシウムシリケートの1種である。ダイカルシウムシリケートには、α型、α‘型、β型およびγ型が存在する。α型、α‘型、β型は水硬性を持つが、γ型は水硬性を持たない。また、これらは結晶構造や密度も異なる。よって、これらのダイカルシウムシリケートは化学成分の上では酷似しているが、全く異なる化合物と見なせる。本発明では、γ型のダイカルシウムシリケートを用いる。γ型でないと、本発明の効果が得られない。
【0013】
本発明のポリマーとは、特に限定されるものではないが、ポリマーは大別すると、水性ポリマーディスパージョン、水溶性ポリマー、液状ポリマー、再乳化型粉末樹脂の4種類となる。その具体例としては、水性ポリマーディスパージョンとしては、天然ゴムラテックス、合成ゴムラテックス、樹脂エマルジョン、混合ディスパージョンが分類される。この中には、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、メタクリル酸メチルブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ポリアクリル酸エステル、エチレン酢酸ビニル、スチレンアクリル酸エステル、ポリプロピオン酸ビニル、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、アスファルト、パラフィン、混合ラテックス、混合エマルジョンなどが挙げられる。水溶性ポリマーとしては、例えば、メチルセルロースヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリル酸カルシウム、アクリル酸マグネシウムなどが挙げられる。液状ポリマーとしては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂などが挙げられる。再乳化型粉末樹脂としては、例えば、スチレンブタジエンゴム、エチレン酢酸ビニル、酢酸ビニルビニルバーサテート、スチレンアクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0014】
本発明では、繊維質物質を配合することがひび割れ抵抗性を向上させる観点から好ましい。本発明で言う繊維質物質とは、特に限定されるものではないが、その具体例としては、ビニロン繊維、セルロース繊維、アクリル繊維などの有機系繊維、炭素繊維、スチールファイバー、ワラストナイト繊維、ガラス繊維などの無機系繊維などが挙げられる。本発明ではこれらのうちの1種または2種以上が使用可能である。
【0015】
本発明の表面被覆材の各成分の配合割合は、特に限定されるものではないが、通常、セメントと高炉水砕スラグ微粉末からなる結合材100部中、セメント30〜80部、高炉水砕スラグ微粉末20〜70部が好ましく、セメント40〜70部、高炉水砕スラグ微粉末30〜60部がより好ましい。セメントが30部未満であったり、高炉水砕スラグ微粉末が70部を超えると、中性化に対する抵抗性が十分に得られない場合がある。逆に、セメントが80部を超えたり、高炉水砕スラグ微粉末が20部未満の場合には、塩化物イオンの浸透抵抗性が十分に得られない場合がある。
【0016】
本発明のγ-2CaO・SiO2(以下、γ-C2Sという)の配合割合は、特に限定されるものではないが、通常、セメントと高炉水砕スラグ微粉末からなる結合材100部に対して、10〜200部が好ましく、20〜100部がより好ましい。10部未満では、中性化や塩化物イオンの浸透に対する抑制効果が十分に得られない場合があり、200部を超えると、混練水量が増加する傾向にあり、十分な強度発現性が得られにくい場合がある。
【0017】
本発明のポリマーの配合割合は、特に限定されるものではないが、通常、セメントと高炉水砕スラグ微粉末からなる結合材100部に対して、固形分換算で1〜20部が好ましく、3〜15部がより好ましい。1部未満では、付着強度の改善効果、物質遮断性およびひび割れ抵抗性が十分に得られない場合があり、20部を超えて使用すると、凝結遅延や初期強度発現性が悪くなる場合がある。
【0018】
本発明の繊維質物質の配合割合は、特に限定されるものではないが、通常、セメントと高炉水砕スラグ微粉末からなる結合材100部に対して、0.1〜3部が好ましく、0.3〜2部がより好ましい。0.1部未満では、ひび割れ抵抗性が十分に得られない場合があり、3部を超えて使用しても更なる効果の増進が期待できず、また、繊維物質の分散性が悪くなる場合がある。
【0019】
本発明において水の配合割合は、特に限定されるものではないが、通常、水結合材比で30〜60%が好ましく、40〜50%がより好ましい。30%未満では作業性が悪くなる場合があり、60%を超えると耐久性が確保しにくくなる場合がある。
【0020】
本発明では、表面被覆材のコンクリートへの被覆の方法は、特に限定されるものではないが、通常、吹付けやコテ塗りで行われる。
【0021】
本発明では、表面被覆材でコンクリートの表面被覆処理をした後に炭酸化処理すると、さらに本発明の効果が顕著となる。
炭酸化処理の方法は、特に限定されるものではないが、その具体例としては、炭酸成分と接触させる方法が挙げられる。炭酸成分とは、CO2成分、CO32-やHCO3-などを供給可能な物質を総称するものであり、特に限定されるものではない。例えば、炭酸ガス、超臨界二酸化炭素、ドライアイス、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸鉄などの炭酸塩、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸鉄等の重炭酸塩、および炭酸水などが挙げられる。なお、炭酸化処理の際には適度な湿分が必要である。また、温度も20℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましい。
【0022】
炭酸化処理のタイミングは、打設した表面被覆材が十分に硬化した後に行うのが好ましい。具体的には、表面被覆材の圧縮強度が20N/mm2以上に達した時点以降に炭酸化処理を行うことが好ましく、表面被覆材の圧縮強度が30N/mm2以上に達した時点以降に炭酸化処理を行うことがより好ましい。
【0023】
さらに、炭酸化深さは、表面被覆材の施工厚みの範疇で十分である。具体的には、1〜3mm以下で十分である。
換言すれば、本発明の予防保全工法は、鉄筋の腐食保護の観点からは十分なアルカリ性領域を確保できる範囲で炭酸化させるにもかかわらず、塩化物イオンや炭酸ガスなどの劣化因子の硬化体中への透過抑制を効果的になし得ることが特徴である。
【0024】
本発明では、細骨材、石灰石微粉末、高炉徐冷スラグ微粉末、膨張材、急硬材、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤や凝結調整剤、ベントナイトなどの粘土鉱物やハイドロタルサイトなどのアニオン交換体など、これらの中から1種または2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0025】
本発明において、各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、あらかじめ一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
【0026】
混合装置としては、既存のいかなる装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、およびナウタミキサなどの使用が可能である。
【0027】
以下、実施例で詳細に説明する。
【実施例】
【0028】
「実験例1」
セメント60部、高炉水砕スラグ微粉末40部からなる結合材100部に対して、ポリマーAを固形分換算で10部、およびγ-C2Sを表1に示す割合で配合し、さらに繊維質物質を1部配合して表面被覆材を調製した。この表面被覆材を水結合材比50%で練り混ぜて、コンクリート表面に厚さ2mmコテで塗りつけた。なお、比較のために、γ-C2Sの代わりに石灰石微粉末を用いた表面被覆材についても同様に行った。
表面被覆材の促進中性化(JIS A 1153に準拠)による中性化深さ、および擬似海水浸漬(JIS A 6205に準拠)による塩化物イオンの浸透深さを調べた。結果を表1に併記する。
【0029】
<使用材料>
セメント:市販の普通ポルトランドセメント、ブレーン比表面積3000cm2/g
γ-C2S:2モルの炭酸カルシウムと1モルの二酸化ケイ素を配合して1450℃で焼成して合成、比重3.01、ブレーン比表面積1800cm2/g
高炉水砕スラグ微粉末:ブレーン比表面積5000cm2/g、市販品
ポリマーA:スチレンブタジエンゴム、電気化学工業社製(商品名RIS211S)
繊維質物質:ビニロン繊維、長さ6mm、太さ25μm、市販品
石灰石微粉末:新潟県青海鉱山産の石灰石の粉砕物、比重2.71、ブレーン比表面積1500cm2/g
水:水道水
【0030】
<測定方法>
中性化深さ:供試体断面にフェノールフタレインの1%濃度のアルコール溶液を噴霧して赤変しなかった部分を炭酸化深さと見なした。
塩化物イオン浸透深さ:硝酸銀-フルオロセイン法により測定した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1より、本発明の表面被覆材は、中性化と塩化物イオン浸透が抑制されることが判る。
【0033】
「実験例2」
結合材100部中のセメントと高炉水砕スラグ微粉末の配合割合を表2に示すように変化したこと以外は、実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0034】
【表2】

【0035】
表2より、本発明の表面被覆材は、中性化と塩化物イオン浸透が抑制されることが判る。
【0036】
「実験例3」
結合材100部に対するポリマーの種類と使用量を表3に示すように変化し、付着強度を測定したこと以外は、実験例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0037】
<使用材料>
ポリマーB:ポリアクリル酸エステル、クラリアント社製(商品名AP200)
【0038】
<測定方法>
付着強度:JIS A 1171に準じて測定した。
【0039】
【表3】

【0040】
表3より、本発明の表面被覆材は、付着強度が良好で中性化と塩化物イオン浸透が抑制されることが判る。
【0041】
「実験例4」
セメント60部、高炉水砕スラグ40部からなる結合材100部に対して、ポリマーA10部、およびγ-C2S50部からなる表面被覆材(実験No.1-4の配合)を使用し、炭酸化処理の効果について調べた。表面被覆材を施工後、材齢5日より表面を炭酸化処理した。材齢5日の時点で供試体の圧縮強度は約20N/mm2であった。炭酸化処理の条件は、表面被覆材が塗布された表面を水で濡らした後、ドライアイスを押しつけながら炭酸化させた。炭酸化処理後に中性化深さを調べたところ、平均値で約0.5mmであった。
このような処理を施した後、実験例1と同様に表面被覆材の促進中性化による中性化深さおよび、擬似海水浸漬による塩化物イオンの浸透深さを調べた。結果を表4に併記する。
【0042】
【表4】

【0043】
表4より、本発明の表面被覆材は、炭酸化処理により、中性化と塩化物イオン浸透が著しく抑制されることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の表面被覆材をコンクリート構造物の予防保全工法に使用することにより、コンクリート構造物の高寿命化を実現できるため、土木および建築用途で広範に適用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、高炉水砕スラグ微粉末、γ-2CaO・SiO2、ポリマーおよび繊維質物質を含有する表面被覆材。
【請求項2】
セメント30〜80部および高炉水砕スラグ微粉末20〜70部からなる結合材100部に対して、γ-2CaO・SiO210〜200部、ポリマーを固形分換算で1〜20部、繊維質物質0.1〜3部を含有する表面被覆材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の表面被覆材をコンクリートの表層材として用いることを特徴とする予防保全工法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の表面被覆材を吹付けまたはコテ塗りによりコンクリート表面に塗りつけることを特徴とする予防保全工法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の表面被覆材をコンクリートに被覆後、その表面を炭酸化処理することを特徴とする予防保全工法。

【公開番号】特開2006−232602(P2006−232602A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48663(P2005−48663)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】