説明

表面被覆材

【課題】 初期ひび割れの抑制に優れ、耐水性、塩害抑制、中性化抑制の効果を有する表面被覆材を提供すること。
【解決手段】 セメントとγ-2CaO・SiO2と硬化促進剤とを含有してなる表面被覆材。セメントがポゾランを含有する前記被覆材。硬化促進剤のpHが7以上であることが好ましい。前記表面被覆材は、セメント100部に対して、γ-2CaO・SiO2を25〜100部、硬化促進剤を0.1〜5部含有することが好ましく、セメント100部に対して、セメント混和用ポリマーディスパージョンを固形分で5〜30部を含有してなることが好ましい。さらに、前記表面被覆材で補修したコンクリート構造物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築業界においてコンクリート構造物の補修時に使用されるセメント系の表面被覆材である。
【0002】
なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【背景技術】
【0003】
近年、山陽新幹線のトンネルなどにおけるコンクリート片の剥落を契機に、コンクリート構造物の中性化、硫酸侵食、アルカリ骨材反応、塩害などの化学的耐久性、移動荷重による疲労、地震による衝撃荷重などに対する物理的耐久性の必要性が要求されている。
【0004】
一般にコンクリートの化学的耐久性とは、表面から塩化物イオン、硫酸イオン、炭酸イオンなどの劣化因子が侵入し、コンクリートの劣化に伴う鉄筋の腐食に対するものであり、コンクリート表面を保護することは、これら劣化因子の侵入を抑制する上で非常に重要である。
【0005】
そのため、コンクリート構造物に耐久性を持たせるためには、コンクリートの表面被覆を行うことが重要であり、新設、既設のコンクリート構造物に関らず、表面被覆が施工可能な唯一の手段である。
【0006】
これまで、コンクリートの中性化抑制、塩害の抑制、付着強度などの向上のため、表面被覆材として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタンなどの有機系の表面被覆材が主に使用されてきた(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平05-058869号公報
【0007】
しかしながら、有機系樹脂は、施工時にホルムアルデヒドなどのVOCを多く含み、大気中に拡散しやすいため、人の健康を害し易い物質であると共に、土壌・地下水の汚染に関わる物質であるため、11物質が環境省により環境基準に定められている。また、厚生労働省により有機系樹脂の14物質について室内濃度指針値が定められている。さらに、コンクリート構造物を解体するときに、有機系樹脂の建設廃材は、分割して処分するため余分な手間が掛かり、不経済である。
【0008】
今後、少子高齢化社会を迎えるに当たり、より安価で省力施工ができ、LCC(ライフサイクルコスト)の観点からみて優れている材料が必要であり、そのためにはセメント系材料で優れた耐久性を有する表面被覆材の開発が望まれている。
【0009】
また、コンクリート構造物の表面被覆としてポリマーセメントモルタルが普及しているが、ポリマーディスパージョンは、防水性、遮塩性、中性化に対する抵抗性を向上させると云われているものの、ポリマーディスパージョンは、界面活性効果を有するために多くの空気を連行するだけでなく、ポリマーディスパージョンの種類により中性化抑制効果はまちまちであり、余り期待できないものである。
【0010】
一方、γ-2CaO・SiO2とポリマーディスパーションを用いることにより、従来のポリマーセメントモルタルよりも中性化抵抗性が向上すると報告されている(特許文献2参照)。
【特許文献2】特開2004−051423号公報
【0011】
しかしながら、コンクリートを表面被覆材で補修する際、母材であるコンクリート構造物にポリマーセメントモルタルの水分を吸収されるドライアウトや、風による水分の逸散などにより、モルタルにひび割れが生じる場合がある。このためにモルタルの硬化時間を早め、ドライアウト、水分逸散を抑える必要がある。
【0012】
特に水分逸散によるひび割れの発生は、初期の強度が発現していない時期に起こるものであり、ひび割れが発生した場合には、構造物の補修した意味がなくなる場合がある。そのため、初期の強度発現を早める必要がある。
【0013】
従来、建築物の表面被覆材でポリマーセメントモルタルに塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウムなどの硬化促進剤を混入することが報告されている(特許文献3参照)。しかしながら、耐久性の改善が十分には行われていなかった。
【特許文献3】特開2000−005696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者は種々検討を重ねた結果、セメントとγ-2CaO・SiO2と硬化促進剤とを含有した表面被覆材、さらに、ポリマーディスパーションを含有した該表面被覆材が初期ひび割れの抑制に優れ、耐水性、塩害抑制、中性化抑制の効果を有する表面被覆材となることを見いだし、発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明は、セメントとγ-2CaO・SiO2と硬化促進剤とを含有してなる表面被覆材であり、さらに、セメントがポゾランを含有する前記被覆材である。硬化促進剤のpHが7以上である前記表面被覆材であることが好ましい。また、前記表面被覆材は、セメント100部に対して、γ-2CaO・SiO2を25〜100部、硬化促進剤を0.1〜5部含有してなることが好ましく、セメント100部に対して、セメント混和用ポリマーディスパージョンを固形分で5〜30部を含有してなることが好ましい。さらに、前記表面被覆材で補修したコンクリート構造物である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の表面被覆材は、作業性が良好で、コンクリートに被覆した後に発生するドライアウト、水分の逸脱によるひび割れの発生が抑えられ、塩化物イオンの浸透抑制効果と中性化抑制効果が得られるため、コンクリート構造物の耐久性を飛躍的に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明で使用するセメントは、特に限定されないが、ポルトランドセメントを含有するセメントを用いることが好ましく、例えば、普通、早強、超早強、低熱、超微粒子又は中庸熱などの各種ポルトランドセメントや、ポルトランドセメントに高炉水砕スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、あるいは、ポルトランドセメントに石灰石微粉末などを混合した石灰石フィラーセメントなどが挙げられる。さらに、エコセメントやアルミナセメントなどが挙げられる。
また、ポゾランを併用するとさらに中性化抑制効果が向上する。
【0018】
本発明ではセメントにポゾランを併用すると効果的である。ポゾランの種類は、特に限定されるものではなく、いかなるものでも使用可能である。その具体例としては、高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、及び珪藻土などが挙げられ、本発明では、これらポゾランのうちの1種又は2種以上を併用することが可能である。
【0019】
また、ポゾランの粒度は特に限定されないが、通常、ブレーン比表面積で3000〜2000000cm2/gのものがある。その中で、4000〜200000cm2/gの範囲にあるものが好ましい。4000cm2/g未満では表面仕上げが悪くなる場合があり、200000cm2/gを超えるとこて離れが悪くなる場合がある。
【0020】
ポゾランの配合量は、通常、セメント及びポゾランからなる結合材100部中、10〜50部が好ましく、10〜30部がより好ましい。10部未満では塩害抑制効果が十分ではなく、50部を超えると中性化抑制効果が低下する場合がある。
【0021】
本発明で使用するγ-2CaO・SiO2は、2CaO・SiO2で表されている化合物のうち、低温相として知られているものであり、高温相として知られるα-2CaO・SiO2及びβ-2CaO・SiO2とは異なるものである。これらはいずれも2CaO・SiO2で同じ化学組成を有するが、結晶構造は異なっている。セメントクリンカ中に存在する2CaO・SiO2はβ-2CaO・SiO2であり、γ-2CaO・SiO2は全く含まれない。β-2CaO・SiO2は水硬性を有するが、本発明のγ-2CaO・SiO2のような中性化抑制効果を示さない。
【0022】
本発明では、γ-2CaO・SiO2として、γ-2CaO・SiO2を含有する物質を使用することができる。すなわち、γ-2CaO・SiO2単味の合成品の他に、γ-2CaO・SiO2を含有する各種スラグ、具体例としては、転炉スラグ、電気炉還元期スラグ、ステンレススラグ、溶銑予備処理スラグなどが挙げられる。
ただし、これら転炉スラグ、電気炉還元期スラグ、ステンレススラグ、溶銑予備処理スラグでもあっても、γ-2CaO・SiO2を含有していないものについては本発明の効果が得られない。
【0023】
これらのスラグの主な成分としてはSiO2、CaO、Al2O3、及びMgOなどで、その他、TiO2、MnO、Na2O、S、P2O5、及びFe2O3などが微量成分として存在する。
【0024】
また、化合物としては、γ-2CaO・SiO2を主体とし、トライカルシウムシリケート3CaO・SiO2、ランキナイト3CaO・2SiO2、及びワラストナイトCaO・SiO2などのカルシウムシリケート、2CaO・Fe2O3などのカルシウムフェライト、12CaO・7Al2O3などのカルシウムアルミネート類、ゲーレナイト2CaO・Al2O3・SiO2とアケルマナイト2CaO・MgO・SiO2の混晶であるメリライト、メルビナイト3CaO・MgO・SiO2、モンチセライトCaO・MgO・SiO2、リュ-サイト(K2O、Na2O)・Al2O3・SiO2、スピネルMgO・SiO2、マグネタイトFe3O4、並びに、硫化カルシウムCaS、硫化鉄FeSなどの硫化物を含む場合がある。
【0025】
γ-2CaO・SiO2の粒度は、ブレーン比表面積で2000〜8000cm2/gの範囲のものが好ましい。2000cm2/g以下であると中性化抵抗性が顕著でない場合があり、8000cm2/g以上であるとこて仕上げ時に多くの水を必要とし、結果的に中性化抑制効果、塩害抑制効果、付着強度などの物性が大きく低下する場合がある。
【0026】
γ-2CaO・SiO2の配合量は、セメント100部に対して、25〜100部程度が好ましく、50〜75部がより好ましい。25部未満であると、中性化抑制効果が顕著でない場合があり、100部を超えると施工性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0027】
本発明で使用する硬化促進剤は、ケイ酸塩、塩素化合物、硫酸塩、硝酸塩、チオ硫酸塩、チオシアン酸塩、アミン類、ギ酸、酢酸、アクリル酸などがある。例えば、ケイ酸ソーダ、芒硝、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、チオ硫酸カルシウムなどが挙げられる。これら硬化促進剤は、pHが7以上のものが好ましい。pHが7未満である場合には硬化後のモルタルが中性化を受けやすくなるためである。
【0028】
硬化促進剤の配合量は、セメント100部に対して、0.1〜5部が好ましい。0.1部未満であると、セメントの凝結促進が十分でない場合があり、5部を超えると硬化時間が早まり作業性が悪くなる場合がある。
また、硬化促進剤には液状や粉状のものがあり、特に限定されるものではないが、粉状のものは前もってセメントなどに混合できる。
【0029】
本発明で使用するポリマーディスパージョン(以下、ポリマーという)は特に限定されるものではないが、JIS A 6203に規定されているセメント混和剤ポリマーディスパージョン、例えば、アクリロ二トリル・ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、及び天然ゴムなどのゴムラテックスや、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸エステル、酢酸ビニルビニルバーサテート系共重合体、及びスチレン・アクリル酸エステル共重合体やアクリロニトル・アクリル酸エステルに代表されるアクリル酸エステル系共重合体の樹脂エマルジョンなどが挙げられる。
【0030】
ポリマーの配合量は、セメント100部に対して、固形分換算で5〜30部が好ましく、8〜20部がより好ましい。5部未満では耐水性や付着強度などのポリマー添加効果が顕著でない場合があり、30部を超えると作業性が悪化する場合がある。
【0031】
本発明の表面被覆材は、セメントとγ-2CaO・SiO2と硬化促進剤を含有するものであるが、中性化抵抗性や遮塩性は、硬化体の圧縮強度と深い関連があり、強度が高いほど中性化抑制効果や塩害抑制効果が大きくなる傾向を示す。
【0032】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。
【実施例】
【0033】
実施例1
10×10×40cmのコンクリート柱側面に、表1に示す配合の表面被覆材をこてで1回(厚さ約2mm)塗布を行った。表面被覆材の練混ぜ、供試体の養生方法は、JISA 1171に従い、温度20℃、2日間の型枠養生(相対湿度60%)を行い、さらに5日間の水中養生と21日間の気中養生(相対湿度60%)を行った。養生後、コンクリート柱を促進中性化槽(30℃相対湿度60%)に移動させ、28日間放置した。その後、促進中性化槽から取り出しコンクリート片をコンクリートカッターで切り出して乾燥させた後に、フェノールフタレイン1%溶液を噴霧し中性化深さを測定した。結果を表1に示す。
また、硬化促進剤のpHは、固形分換算で5倍に水で希釈したものをpHメーターで測定した。
【0034】
表面被覆材の作業性については、練混ぜ状態、コテ仕上げの状態を相対的に評価し、練混ぜ状態とこて仕上げ共に良いものを○、練混ぜ状態、こて仕上げどちらかが悪いものに関しては△、両方とも悪いもの関しては×とした。結果を表1に示す。
【0035】
<使用材料>
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品、密度3.16g/cm3、比表面積3600cm2/g
γ-2CaO・SiO2:試薬1級の炭酸カルシウム2モルと二酸化珪素1モルを配合して混合粉砕した後、電気炉において1450℃で3時間焼成し、炉外に取り出して自然放冷して合成した。このときにダスティング後、ブレーン比表面積4000cm2/gまでさらに粉砕した。
ポリマー:エチレン酢酸ビニル系樹脂エマルジョン、市販品
7号珪砂:市販品
硬化促進剤A:珪酸ナトリウム(SiO228%、Na2O 29%)、粉状、pH14、市販品
凝結調整剤:クエン酸、粉状、市販品
消泡剤:旭電化社製B-115F
水:水道水
【0036】
【表1】

【0037】
表1より、本発明の表面被覆材を用いることにより、著しい中性化抑制効果が得られることが判る。
【0038】
実施例2
ポリマーの配合量を表2に示すように変化させ、実施例1と同様に表面被覆材を作製し、JIS A 1171に記載されている建研式付着力試験を行った。表面被覆材の供試体寸法は4×4×2cm、母材のコンクリートの寸法は8×10×1cmでJISA 1171に規定されている二次製品を使用した。養生は実施例1と同様の方法で行った。また、圧縮強度試験はJIS R 5201に準拠して行った。
【0039】
【表2】

【0040】
表2より、本発明の表面被覆材を用いることにより、優れた圧縮強度発現と付着強度が得られることが判る。
【0041】
実施例3
硬化促進剤の種類と配合量を表2に示すように変化させ、コンクリート柱に表面被覆材を塗布した後、5℃、相対湿度40%の恒温恒湿槽に入れ、7日間を経過した後のひび割れ発生状況を調べたこと以外は、実施例1と同様に行った。また、凝結性状はJISR 5201のセメントの凝結試験方法に従った。結果を表3に示す。
【0042】
<使用材料>
硬化促進剤A:珪酸ナトリウム(SiO228%、Na2O 29%)、pH14、粉状、市販品
硬化促進剤B:硫酸ナトリウム、pH7、粉状、市販品
硬化促進剤C:チオ硫酸カルシウム、pH7、粉状、市販品
硬化促進剤D:硫酸アルミニウム、pH3、液状、市販品
【0043】
【表3】

【0044】
表3より、本発明の表面被覆材は、凝結時間が短く、ひび割れし難く耐久性に優れていることが判る。
【0045】
実施例4
表4に示すように、ポゾランとして高炉水砕スラグを配合し、塩化物イオンの浸透深さを測定した以外は、実施例1と同様に行った。
【0046】
減水剤を適量添加して15打フロー値が180±5mmとなるように調整し、その他の条件は実施例1と同様に行い表面被覆材(4×4×16cm)を作製した。その後、(社)日本コンクリート工学協会 コンクリート構造物の腐食・防食に関する試験方法ならび基準(案)pp.61991に準じて、人工海水中に28日間浸漬し、浸漬期間終了後、硝酸銀-フルオロセイン法を用いて塩化物イオンの浸透深さを測定した。また、圧縮強度試験はJIS R5201に準拠して行った。
【0047】
<使用材料>
高炉水砕スラグ:市販品、密度2.9g/cm3、比表面積4000cm2/g
【0048】
【表4】

【0049】
表4より、本発明の表面被覆材を用いることにより、圧縮強度発現が良好で、著しい塩化物イオンの浸透抑制効果と中性化抑制効果が得られることが判る。

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の表面被覆材は、作業性が良好で、コンクリートに被覆した後に発生するドライアウト、水分の逸脱によるひび割れの発生が抑えられ、塩化物イオンの浸透抑制効果と中性化抑制効果が得られるため、コンクリート構造物の耐久性を飛躍的に向上させることができるため、産業上非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントとγ-2CaO・SiO2と硬化促進剤とを含有してなる表面被覆材。
【請求項2】
セメントがポゾランを含有することを特徴とする請求項1に記載の表面被覆材。
【請求項3】
硬化促進剤のpHが7以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面被覆材。
【請求項4】
セメント100部に対して、γ-2CaO・SiO2を25〜100部、硬化促進剤を0.1〜5部含有してなる請求項1〜3のいずれか1つに記載の表面被覆材。
【請求項5】
セメント100部に対して、セメント混和用ポリマーディスパージョンを固形分で5〜30部を含有してなる請求項1〜4のいずれか1つに記載の表面被覆材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の表面被覆材で補修したコンクリート構造物。

【公開番号】特開2006−143482(P2006−143482A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−331494(P2004−331494)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】