説明

表面被覆用光触媒並びにこれを用いた表面被覆剤及び光触媒性部材

【課題】防汚、脱臭、抗菌作用等という要求を満足できる光触媒機能を保持しながら、光触媒と接触するバインダー、塗膜構成成分や基材の分解、劣化を抑制して各種用途に適用可能とした表面被覆用光触媒、及び該光触媒を用いた表面被覆剤等を提供する。
【解決手段】チタン及び珪素からなる二元系複合酸化物、チタン及びジルコニウムからなる二元系複合酸化物、並びにチタン、珪素及びジルコニウムからなる三元系複合酸化物より選ばれる少なくとも1種の複合酸化物を含有する表面被覆用光触媒であって、該表面被覆用光触媒におけるチタンの含有率が20〜95モル%で、且つX線回折にて測定した一次粒子径が5〜20nmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種用途に適用可能な表面被覆剤に好適なチタン系複合酸化物を含有してなる表面被覆用光触媒及び当該光触媒を含有した塗料等の表面被覆剤、並びに当該表面被覆剤で表面が被覆された光触媒性部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
結晶性酸化チタンにバンドギャップ以上のエネルギーを有する波長の光を当てると、光励起されて電子と正孔ができ、この電子及び正孔により酸化チタン表面にスーパーオキシドや水酸ラジカルが生成し強い酸化力を発現する。この光触媒反応を利用して、酸化チタンに吸着された汚染成分や悪臭成分を酸化分解して無害化したり、さらには油等の有機物を分解して二酸化炭素と水に変えるという所謂防汚効果や殺菌効果を基材に付与することが知られている。
【0003】
ここで、汚染物質や臭気成分とは、窒素酸化物、アンモニア等の無機化合物、有機ハロゲン、アルデヒド類、低級脂肪酸等の有機化合物などが挙げられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように結晶性酸化チタン、特にアナターゼ型の酸化チタンは、光触媒反応に基づいて種々の優れた作用を示すので、バインダー等により基材に光触媒を固定させて、防汚、脱臭、抗菌作用を付与する方法や基材表面に光触媒が含有、分散されている膜(以下、「光触媒性膜」という)を形成した複合材が開発されている。
【0005】
しかし光触媒は、バインダーや塗膜構成成分を、さらには基材がプラスチック板や繊維等の有機化合物の場合には基材自体も、光触媒作用により分解してしまう。バインダーや塗膜構成成分が分解、劣化すると、光触媒性膜はひび割れ、き裂が生じて基材から剥離したり、光触媒が基材自体に作用する場合には、基材自体の劣化脆化を招いてしまう。
【0006】
従って、塗料の白色顔料として使用されている酸化チタンには、光触媒活性が低いルチル型の酸化チタンを使用したり、更には酸化チタンの表面をシリカやアルミナで被覆することにより光触媒作用による樹脂の劣化を防止するような工夫がなされている。そこで、表面被覆剤に関しても同様の手法が考えられる。例えば、特開平10−5598号公報に、光触媒粒子を不活性物質である珪素、アルミニウム、及びジルコニウム等の多孔質壁で内包することによって、酸化チタンの光触媒機能を保持しつつ基材やバインダーに対する影響を減じる方法が開示されている。しかし、このような方法は、やはり表面被覆用光触媒に照射される光量の低下や有害物質との接触阻害を伴うものであるため、光触媒機能の低下は避けられない。
【0007】
また、光触媒機能を低下させることなく、基材への光触媒作用による影響を抑制する方法として基材と光触媒性膜との間に保護膜を介在させる方法も考えられる。例えば、特開平10−329261号公報においては高分子材料よりなる基材の表面に酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等の無機物質薄膜層を少なくとも1層以上設けてから、光触媒層を積層する方法が開示されている。しかしながら、このような方法は工程が複雑であり、コスト高となるばかりか、光触媒層に有機バインダーを使用できないという点においては同様であり、用途が限定され好ましくない。
【0008】
一方、近年、光触媒作用によっても分解されにくいバインダーや塗膜構成成分であるシリコーン樹脂やフッ素系樹脂、けい素含有無機化合物を利用することが提案されている(例えば、特開平7−171408号公報)。しかし、シリコーン樹脂やフッ素系樹脂は他の塗膜構成成分に比べて高価であり、また耐衝撃性も小さいため、耐衝撃性付与のために他の別の樹脂分を混合している(例えば、特開平9−217028号)。フッ素系またはシリコーン系樹脂以外の有機高分子を含む場合には、光触媒作用による樹脂分の分解劣化の問題は依然として残ることとなる。
【0009】
一方、光触媒活性を高める方法に関しても種々の検討がなされている。例えば、特公平5−55184号公報には、チタン及び珪素からなる二元系複合酸化物、チタン及びジルコニウムからなる二元系複合酸化物、チタン、珪素、及びジルコニウムからなる三元系複合酸化物とすることにより、複合酸化物の比表面積を高め、吸着能を高めた光触媒利用の脱臭用触媒が提案されている。また、特開平10−180118号公報に、二酸化チタンの結晶子サイズを限定(5〜30nm)することにより、触媒活性を向上させる方法が提案されている。この公報によれば、二酸化チタンの結晶子サイズを5〜30nmとコントロールすることにより、二酸化チタンの比表面積を増大して、反応活性サイトを増加させて、酸化還元力を増大できるとしている。さらに、特開平9−70532号公報に、酸化物製造時の焼成温度及びチタニアとシリカの混合比率をコントロールすることによって、比表面積を増大させて、触媒活性を高めたチタニア系触媒の製造方法が開示されている。
【0010】
しかし、これらの光触媒活性を高める方法は、いずれも触媒活性を高めることにおいて効果を達成し得ても、基材やバインダー等の有機高分子との関係を考慮していないため、その高められた触媒活性により、バインダー、塗膜構成成分、基材を分解、劣化させるという問題が残ることとなる。
【0011】
また、光触媒機能を基材に付与する方法として表面被覆剤に酸化チタン等の無機酸化物粉体を使用せず、チタニアゾル、チタンアルコキシドやその加水分解物等の酸化チタン前駆体を基材にコーティングした後、熱処理により酸化チタン膜を形成して、光触媒性部材を得ることも提案されている。しかしながら、光触媒活性を有する酸化チタンとするためには、少なくとも300℃以上の高温で熱処理する必要があり、樹脂や繊維等の耐熱性に問題がある基材には適用できない。また、酸化チタン膜が形成された後は光触媒として作用するため、バインダーや基材の劣化を招くという上記と同様の問題点は解決されていない。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、防汚、脱臭、抗菌作用等という要求を満足できる光触媒機能を保持しながら、光触媒と接触するバインダー、塗膜構成成分や基材の分解、劣化を抑制して各種用途に適用可能とした表面被覆用光触媒、及び該光触媒を用いた表面被覆剤等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、光触媒の粒子径及び光触媒における酸化チタンの含有率を特定の範囲にすることにより、必要な光触媒活性を保持しつつ、基材や塗膜成分といった樹脂分の分解、劣化が抑制できることを見い出し、本発明を完成した。
【0014】
即ち、本発明の表面被覆用光触媒は、チタン及び珪素からなる二元系複合酸化物、チタン及びジルコニウムからなる二元系複合酸化物、並びにチタン、珪素及びジルコニウムからなる三元系複合酸化物より選ばれる少なくとも1種の複合酸化物を含有する表面被覆用光触媒であって、該表面被覆用光触媒におけるチタンの含有率が20〜95モル%で、且つX線回折にて測定した一次粒子径が5〜20nmであることを特徴とする。
【0015】
本発明の表面被覆剤は、本発明の表面被覆用光触媒及びバインダーを含有することを特徴とする。前記バインダーは塗膜成分であってもよい。このような表面被覆剤は、前記バインダーの分解及び/又は劣化を抑制できるものである。尚、つまり、本発明にいう表面被覆剤とは、基材表面に塗布等して、特定性能(本発明では主成分となる光触媒活性)を付与するために用いられる被覆剤全般をいい、塗料も含む概念である。
【0016】
本発明の光触媒性部材は、基材に、上記本発明の表面被覆用光触媒が担持されている。基材表面を本発明の表面被覆剤で被覆したものであることが好ましい。このような光触媒性部材は、基材の分解及び/又は劣化が抑制されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の表面被覆用光触媒は、従来の光触媒と同等以上の単位重量あたり触媒活性を示すにも拘わらず、接触する基材やバインダーに対する分解劣化は、従来の光触媒よりも抑制されているので、各種基材の表面被覆剤用に好適である。
【0018】
本発明の表面被覆剤は、各種バインダーを用いることができるので、基材の種類に制限なく、光触媒を基材に固定することができ、しかも含有されている表面被覆用光触媒によるバインダーの分解劣化が抑制されているので、基材に安定に固定し続けることができる。
【0019】
本発明の光触媒性部材は、従来光触媒により分解されるような基材であっても、従来より劣化が抑制されているので、長期間にわたって要求される光触媒作用を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
はじめに、本発明の表面被覆用光触媒について説明する。
【0021】
本発明の表面被覆用光触媒は、チタンと珪素及び/またはジルコニウムの二元系あるいは三元系の複合酸化物よりなる。すなわち、チタン及び珪素からなる二元系複合酸化物;チタン及びジルコニウムからなる二元系複合酸化物;チタン、珪素及びジルコニウムからなる三元系複合酸化物;またはこれらの混合物である。これらのうち、特に多孔質で高表面積の複合酸化物を得ることができるチタンと珪素の二元系複合酸化物が好ましい。
【0022】
本発明の表面被覆用光触媒は、上記のような複合酸化物の結晶形、粒子径、組成比をコントロールすることにより、汚染物質や悪臭成分の分解という光触媒機能と、表面被覆用光触媒と接触する基材やバインダーに含まれる有機化合物の分解、劣化を抑制するという相反する要求をバランスすることが可能である。
【0023】
例えば、焼成温度(横軸)とX線回折による一次粒子径(縦軸)との関係のグラフ(図1)が示しているように、酸化チタン単独(細かい破線)では、複合酸化物系(実線、荒い破線)と比べて、一次粒子径が焼成温度の影響を受けて熱処理による結晶成長が起こりやすく、800℃以上の高温に晒されることによって触媒活性の低いルチル型への転位が認められた。また光触媒活性が高いとされる一次粒子径が小さいものを調製する場合には、熱処理温度が低くなるために酸化チタンの結晶化度が低くなり、十分な光触媒活性能は得られない。一方、珪素を組み合わせた複合酸化物とすることにより、熱処理による結晶成長が抑制されたので、950℃で処理してもルチル型への転位は認められなかった。すなわち、結晶化度を高めても一次粒子径の小さいものを得ることができ、複合酸化物が表面被覆用光触媒として好適であることがわかる。尚、複合酸化物における一次粒子径については、X線回折にて測定した結晶ピークがアナターゼ型酸化チタンとほぼ同じ位置に現れることから確認される。
【0024】
また、複合酸化物として用いることにより、単独酸化物では得られないような効果を期待できる。例えば、チタン及び珪素からなる二元系複合酸化物は、田部浩三(触媒、第17巻、No.3、72頁、1975年)によって知られているように、構成する各々単独の酸化物には見られない強い固体酸性を発現し、高い表面積を有している。同様に、チタンとジルコニウムからなる二元系複合酸化物;チタン、珪素及びジルコニウムよりなる3元系複合酸化物も、酸化チタン単独の場合では得られないような有利な物性が発揮される。
【0025】
本発明の表面被覆用光触媒におけるチタンの含有率は20モル%以上、好ましく50モル%以上で、95モル%以下、好ましくは85モル%以下である。
【0026】
チタンの含有率が95モル%を超えると、二元系または三元系複合酸化物としての結晶粒子サイズのコントロール効果、表面積の増大効果等を期待できないからである。また、表面被覆剤として用いた場合の基材やバインダーへの影響は、チタン含有率が高くなるほど大きくなるので、表面被覆用光触媒とともに用いるバインダーや表面被覆用光触媒で被覆される基材の劣化防止の観点から、チタン含有率は小さいほど好ましいからである。一方、表面被覆用光触媒の単位重量あたりの活性はチタンの含有率に原則として依存するので、所望の防汚作用等の光触媒作用を満足するためには、チタン含有率が20モル%以上必要である。尚、後述するように本発明の表面被覆用光触媒のチタン単位重量あたりの光触媒活性は酸化チタン単独の場合と比較して著しく向上しているので、チタン含有率が上記範囲内であれば、表面被覆用光触媒として要求される光触媒活性を満足することができる。
【0027】
本発明の表面被覆用光触媒のX線回折にて測定した一次粒子径は5nm以上、好ましくは8nm以上であり、20nm以下、好ましくは15nm以下である。光触媒活性は一次粒子径が8〜15nmにおいて極大値を示し、一次粒子径が5nmより小さいと光触媒活性が高いアナターゼ型結晶の形成が不十分であり、一方20nmを超えるとルチル型への相転位が起こりはじめて光触媒としての活性が低下するからである。
【0028】
複合酸化物の一次粒子径は、原料の種類、液濃度、液温、pHや原料の投入方法等の共沈条件や乾燥焼成におけるガス雰囲気、温度や時間等の焼成条件を適宜選択することによって調整することができる。前述のように、複合酸化物は熱処理により粒子成長しにくいので、焼成温度により一次粒子径をコントロールすることが容易である。
【0029】
次に、本発明の表面被覆用光触媒の製造方法について説明する。
【0030】
複合酸化物を形成するために用いられるチタン源としては、塩化チタン、硫酸チタン等の無機系チタン化合物、シュウ酸チタン、テトラフルオロエチレンイソプロピルチタネート等の有機系チタン化合物等が挙げられ、珪素源としてコロイド状シリカ、水ガラス、四塩化珪素等の無機系珪素化合物、テトラエチルシリケート等の有機系珪素化合物等が挙げられる。また、ジルコニウム源としては、塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム等の無機系ジルコニウム化合物、及び酢酸ジルコニウム等の有機系ジルコニウム化合物などが挙げられる。
【0031】
本発明の表面被覆用光触媒における複合酸化物は、上記チタン源、珪素源、ジルコニウム源を用いて、従来より公知の方法により製造することができる。例えば、チタンと珪素からなる二元系複合酸化物を調製する方法としては、以下の(1)〜(3)の方法を例示することができる。
(1)四塩化チタンをシリカゾルと共に混合し、アンモニアを添加して沈殿を生成せしめ、この沈殿を洗浄、乾燥後に焼成する方法
(2)四塩化チタンに珪酸ナトリウム水溶液を添加して沈殿を生成させ、これを洗浄、乾燥後に焼成する方法
(3)四塩化チタンの水−アルコール溶液にテトラエチルシリケ−トを添加し加水分解により沈殿を生成させ、これを洗浄、乾燥後に焼成する方法
上記調製方法にうち、(1)の方法が特に好ましい。(2)の方法では洗浄が不十分な場合に光触媒に悪影響を与えるアルカリが複合酸化物に残留する可能性があり、(3)の方法では原料となるシリケートが他の材料化合物に比べて高価だからである。
【0032】
上記いずれの方法であっても、チタン源、珪素源、及びジルコニウム源のモル比を調整することにより、得ようとする表面被覆用光触媒における複合酸化物のチタン含有率を調整することができる。
【0033】
焼成温度、焼成時間等の焼成条件は、一次粒子径が本発明の範囲内となるように、焼成に供する酸化物原料の大きさ、種類、組成(チタン含有率など)に応じて適宜選択すればよい。
【0034】
具体的には、300℃未満の温度では結晶化が不十分であり、光触媒として有効に利用することができない。よって、300℃以上で焼成することが好ましく、最適な焼成温度はチタン含有率によって異なるが、300〜900℃の範囲であり、チタン含有率が低いほど高温で処理することが好ましい。
【0035】
以上のようにして得られる本発明の表面被覆用光触媒は、表面被覆剤として必要な光触媒機能を有するにも拘わらず、表面被覆剤に含まれるバインダーや表面被覆しようとする基材の分解劣化が、従来の光触媒よりも抑制されている。
【0036】
本発明の表面被覆用光触媒が光触媒機能を維持しながら基材やバインダーの劣化を抑制する理由に関しては不明であるが、以下のことが考えられる。すなわち、本発明の表面被覆用光触媒は複合酸化物におけるチタン含有率、及び一次粒子径を特定の範囲とすることにより、酸化チタンとしての単位重量あたりの光触媒活性が酸化チタン単独の場合と比較して著しく高くなる(市販の光触媒用酸化チタンの3〜5倍)ことが確認されている。従って、例えばチタン/シリカのモル比が20/80の複合酸化物を調製すれば、表面被覆用光触媒としての単位重量あたりの光触媒活性は酸化チタン単独とほぼ同等となる。しかしながら、複合酸化物は均質であるため、バインダーや基材との接触部において光照射により生成する電子や正孔の密度は酸化チタン単独の1/5以下になると考えられ、分解や劣化を抑制する効果が得られると推定される。通常、表面被覆用光触媒は一次粒子が凝集して0.1μm〜数μm程度の二次粒子としてバインダー中に分散されるが、複合酸化物は粒子全体が光触媒として機能し単位重量あたりの光触媒活性が同等であるため、ガスの拡散が律速となる気相の有害成分との反応は問題なく進行すると考えられる。尚、このことは表面被覆用光触媒の二次粒子径を大きくすることによって、基材やバインダーと接触するトータルの面積が小さくなり、基材やバインダーの劣化が更に抑制できることを示唆するものである。以上より、本発明の光触媒が接触する樹脂やバインダーの分解劣化が抑制されることは、チタン以外の成分による単なる希釈によるものではなく、複合酸化物を形成することに基づくと考えられる。
【0037】
以上のように、本発明の表面被覆剤用光触媒は、汚染性有機物質の酸化分解という触媒活性を保持しつつ、一方でバインダーや基材等の有機高分子の分解劣化を抑制できるので、基材に光触媒機能を付与するために用いられる光触媒として好適である。
【0038】
本発明の表面被覆用光触媒は、一般に粉末状であるから、多孔性物質や糸間間隙や繊維間間隙等の空隙を有する基材を用いる場合には、水その他の有機溶剤等に本発明の表面被覆用光触媒を分散させて得られるスラリーに、基材を浸漬等することにより、表面被覆用光触媒を基材に担持することができる。また、基材が粉体を保持できるような空孔等を有していない場合には、本発明の表面被覆剤を用いることにより本発明の表面被覆用光触媒を安定に固定担持できる。
【0039】
次に、本発明の光触媒機能を有する表面被覆剤について説明する。
【0040】
本発明の表面被覆剤は、上記本発明の表面被覆用光触媒、及び該粉体を基材に固着するためのバインダーを含有している。使用するバインダーが基材表面にて塗膜を形成する場合には、表面被覆剤は塗料としても利用できる。
【0041】
上記バインダーとしては、シリカゾル、アルミナゾル、セメント、水ガラス、リン酸塩等の無機系バインダーは勿論、有機系バインダーについても、光触媒により分解されにくいフッ素系樹脂、シリコン系樹脂のほかに、従来、光触媒作用により分解されるとして使用が制限されていたアクリル系樹脂、アルキド系樹脂、ポリビニルアルコール等の有機系バインダーを使用することもできる。表面被覆剤に用いられる本発明の表面被覆用光触媒は、上述のように、光触媒活性を有するにも拘わらず、バインダーとして用いる有機化合物に対する分解作用が抑制されているからである。
【0042】
本発明の表面被覆剤には、上記表面被覆用光触媒及びバインダーの他に、必要に応じて溶剤、また塗料として用いる場合には更に着色剤、その他の充填剤を適宜含有させてもよい。
【0043】
本発明の表面被覆剤は、上記表面被覆用光触媒及びバインダー、更に必要に応じて添加される溶剤等を所定量配合し、攪拌機、ホモジナイザーやボールミル等を用いて攪拌、混合分散させることにより調製することができる。
【0044】
本発明の表面被覆剤はバインダーを含んでいるので、バインダーや溶剤の種類、被覆剤の粘度等に応じて、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、ロールコーティング法等の従来より公知の種々の方法により基材表面に塗布した後、室温乾燥あるいは加熱により硬化させて、基材表面に表面被覆用光触媒を固着させることができる。つまり、有機バインダー(特にアクリル系、ポリビニルアルコール系バインダー)を使用することにより低温で表面被覆用光触媒を基材の表面に固定することができる。
【0045】
このように、本発明の表面被覆剤は、表面被覆用光触媒を基材に固定するためのバインダーに関する制限が実質上なくなるので、換言すると基材に応じて好適なバインダーを選択することができるので、耐熱性に乏しい基材や、光沢性や柔軟性等の理由から商品価値が減じられるとして無機系バインダーを使用することができない基材の表面被覆にも適用できる。
【0046】
本発明の光触媒性部材は、基材に本発明の表面被覆用光触媒が担持されたものである。
【0047】
上記基材としては、ガラス、金属、セラミックス等のように耐熱性に優れ、且つ光触媒作用による酸化分解を受け難い無機系基材はもちろん、繊維、紙、樹脂、フィルム等の有機系基材を挙げることもできる。本発明の表面被覆用光触媒は、従来の光触媒に比して、基材やバインダーに対する分解劣化作用が抑制されているからである。また、基材の形態としては、特に制限なく、光触媒を保持できるような空孔を有する多孔質体や糸間間隙又は繊維間間隙等の空隙を有する織布、編布、不織布;このような空孔や空隙を有しない各種形状の基材などが挙げられる。
【0048】
本発明の表面処理剤にはバインダーが含まれているので、触媒を保持できるような空隙や空孔等を有しない基材に対しても安定に固定担持できるからである。また、本発明の表面被覆剤を使用すれば、従来のように、焼結や高温焼成しなくても、耐熱性に乏しい有機系基材表面にも光触媒を固定できるからである。
【0049】
本発明の光触媒性部材に紫外線照射すると、部材に固定された表面被覆用光触媒が、窒素酸化物(NOx)、有機塩素化合物、VOCやアンモニア等の有害物質や臭気成分と接触して酸化分解し、汚染空気または液体の浄化や防汚作用、抗菌及び殺菌作用を達成できる。一方、基材に担持あるいは表面被覆されている本発明の表面被覆用光触媒は、従来の酸化チタンと比較して基材の分解劣化が抑制されているので、粉末剥離等の不具合が防止され、長期にわたりその効果が持続する。また本来、紫外線により分解劣化を示すような樹脂基材の場合には、表面に固定担持されている表面被覆用光触媒が紫外線を吸収することにより、基材に到達する紫外線が減じられ、結果として、耐光性、耐紫外線性が改善されるという効果が得られる場合もある。
【実施例】
【0050】
〔表面被覆用光触媒の調製〕
実施例1;シリカゾル(日産化学社製NCS‐30)20kgに、アンモニア水300kg(濃度25%)と水400kgを添加して溶液aを得た。
【0051】
次に、硫酸チタニルの硫酸水溶液180リットル(TiO2濃度250g/リットル、全硫酸濃度1100g/リットル)を水250kgで希釈して溶液bを得た。
【0052】
溶液aを攪拌しながら徐々に溶液bを滴下して共沈ゲルを生成させた。15時間静置後、ろ過して共沈ゲルを得、これを水洗後、200℃で10時間乾燥した。乾燥後、550℃で6時間焼成し、この焼成物をハンマーミルにて粉砕して、チタン含有率が85モル%のチタン及び珪素からなる二元系複合酸化物の表面被覆用光触媒を得た。得られた粉体のX線回折による一次粒子径は9nmであった。
【0053】
実施例2;オキシ塩化ジルコニウム45kgを水2000kgに溶解し、このオキシ塩化ジルコニウム液を、硫酸チタニルの硫酸水溶液180リットルと混合して溶液cを得た。溶液cを30℃に維持しつつ、pHが7になるまで、攪拌しながら徐々にアンモニア水を滴下して、共沈ゲルを生成させた。15時間静置後、実施例1と同様にして、チタン含有率が80モル%のチタン/ジルコニウム二元系複合酸化物の表面被覆用光触媒を得た。
【0054】
実施例3〜6、比較例1〜5;シリカゾルと硫酸チタニルとの混合比率、及び焼成温度を表1に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、表面被覆用光触媒を調製した。得られた粉体の一次粒子径は表1に示す通りである。
【0055】
比較例6,7;これらは、いずれも光触媒として市販されているものであり、比較例6は一次粒子径が7nmで比表面積300m2/g、比較例7は一次粒子径が20nmで比表面積50m2/gの酸化チタンの単独酸化物である。
【0056】
〔評価〕
(1)表面被覆用光触媒の光触媒活性
上記実施例、比較例の光触媒活性を以下の方法で調べた。
10リットルの試験容器に、実施例及び比較例で調製した光触媒1gを入れ、初期アセトアルデヒド濃度300ppmとして、ブラックライト照射下(0.3mW/cm2)にける経時的なアセトアルデヒドガス濃度の減衰を測定し、試験条件における表面被覆用光触媒単位重量あたり及びチタン単位重量あたりの各速度定数を求めた。尚、初期の吸着による速度定数の影響を避けるため、濃度減衰が一次反応的に起こっていることを確認してから速度定数を求めた。測定結果を表1に示す。
【0057】
また、実施例又は比較例において、チタン/シリカのモル比が50/50、85/15及び100/0の組成のものについて、焼成温度を変えて一次粒子径を測定した結果を図1に示した。
【0058】
【表1】

【0059】
表1からわかるように、チタン含有率が同じであっても、焼成温度を変えることにより一次粒子径が本発明の範囲外となったものは触媒活性が低く(比較例2〜5)、一次粒子径を本発明の範囲内とした実施例の表面被覆用光触媒は、いずれも酸化チタンあたりのアセトアルデヒドの分解速度定数が高く、触媒活性が高められていた。また、チタン含有率が50モル%を超えるものについては、表面被覆用光触媒あたりの触媒活性についても、市販の光触媒よりも高い活性を示した。
【0060】
また、図1で一次粒子径を測定した各組成のものについて、同様に光触媒活性試験を実施して速度定数を求め、焼成温度に対してプロットした結果を、図2R>2に示す。図2から、チタンの含有率が低い程、光触媒活性の最大値は高温側にシフトしていることがわかる。また、図1及び図2の関係から、表面被覆用光触媒の活性は一次粒子径に依存していることが確認できる。
【0061】
(2)基材に固定された光触媒の光触媒活性
実施例1〜6及び比較例6の表面被覆用光触媒及び水をボールミルで湿式粉砕して水性スラリーを調製した。この水性スラリーにポリエステル繊維の布を浸漬し、取り出して室温で乾燥することにより、表面被覆用光触媒5g/m2が担持された布を得た。
【0062】
この布を20cm角に切り出して試験片を作成し、この試験片を、3リットルの試験容器に入れ初期アセトアルデヒド濃度50ppmとして、ブラックライトを照射(0.3mW/cm2)して、経時的なアセトアルデヒドガス濃度の減衰を測定した。参考のために、光触媒のスラリー液に含浸しなかった試験片についても同様の実験を行った(参考例1)。
【0063】
測定結果を表2に示す。
【0064】
(3)有機系基材に対する光触媒の影響
(2)と同様の方法で作成した試験片を、ブラックライト(3mW/cm2)にて1ヶ月間光照射した。光照射前後の試験片について引張試験を実施し、繊維の強度低下を調べた。比較のために、光触媒のスラリー液に含浸しなかった試験片についても同様の実験を行った。測定結果を表2に示す。
【0065】
また、参考例1、実施例1、比較例6については、光照射日数に対する繊維引張強度の関係を示すグラフを、図3に表わした。
【0066】
【表2】

【0067】
表2から、光触媒が担持されていない試験片は、光照射30分後、3時間後で殆どアセトアルデヒドガス濃度が変化しておらず、光触媒による分解反応が起こっていないことがわかる。尚、光照射30分間で減少しているのは、基材自体によるアセトアルデヒドの吸着と考えられる。
【0068】
本発明実施例の表面被覆用光触媒を担持した試験片は、いずれも光照射時間に比例してアセトアルデヒドを分解できていることがわかる。すなわち、基材に固定された状態であっても、光触媒反応が起こっていることがわかる。
【0069】
一方、比較例6の市販酸化チタンを担持した試験片は、30分後の濃度減衰が実施例のものよりかなり大きいが、3時間後のアセトアルデヒド濃度は実施例と同程度であった。従って、初期の濃度減衰は酸化チタンの比表面積が高いことによる吸着効果と考えられる。
【0070】
また、比較例6の酸化チタンを担持した試験片は、光照射により急激な強度低下が見られ、光触媒作用による繊維の分解劣化が起こっていると考えられる。
【0071】
これに対して、実施例は、いずれも繊維強度の低下が起こってはいるものの、比較例に比べてその低下は少なく、本発明実施例の表面被覆用光触媒では基材の劣化が抑制されていることがわかる。
【0072】
また、光触媒が担持されていない場合(参考例1)でも、繊維強度の低下が起こっていた。これは紫外線照射による繊維の劣化のためである。この点、1ヶ月後では光触媒を担持していない場合よりも実施例の方が繊維引張強度が高くなっている。本発明実施例では、酸化チタンによる紫外線吸収によって、紫外線による繊維劣化も抑制できたと考えられる。
【0073】
(4)バインダーの劣化
(2)で調製した実施例1及び比較例6の各水性スラリーとポリビニルアルコール水溶液を十分に混合して、光触媒固形分濃度2.5wt%、PVA濃度2.5wt%の表面被覆剤を調製した。この表面被覆剤をガラス板に塗布し、常温で乾燥することにより、表面に光触媒性膜を形成した光触媒性部材を作成した。
【0074】
作成した光触媒性部材を、ブラックライト(3mW/cm2)にて1週間光照射し、光照射によるバインダーの劣化を走査顕微鏡写真にて調べた。実施例1の表面被覆用光触媒を使用した部材の光照射前後の表面写真を図4(a),(b)に示す。写真において、白色部分は光触媒粒子を示すが、実施例の光触媒性部材は白色部分にほとんど変化はないことから、バインダーの分解が抑制されていることがわかる。一方、比較例6の酸化チタンを使用した部材の光照射前後の表面写真を図4R>4(c),(d)に示したが、光照射により白色部分が増大し、バインダーであるポリビニルアルコールが分解して光触媒粒子が表面に露出していることが確認される。尚、写真より、比較例6の酸化チタンは、0.5μm以下の微粒子の割合が高く、このことがバインダーの分解を更に促進していると考えられる。
【0075】
(5)塗料の耐候性
アクリル系樹脂50重量部をキシレンに溶解し、さらに実施例1,5,6,又は比較例7の光触媒25重量部と顔料用酸化チタン25重量部を添加して、ペイントシェーカーにて十分に混合、分散して、表面被覆剤としての塗料を調製した。また、参考のために、光触媒を添加せず、顔料用酸化チタン50重量部を添加した塗料を調製した(参考例2)。尚、顔料用酸化チタンとしては、一次粒子径が280nmで、表面がシリカ及びアルミナで被覆された市販のものを使用した。
【0076】
上記にて調製した表面被覆剤(塗料)を、バーコーターを用いて、塗布量30g/m2となるように、アクリル板の片面に塗布し、60℃で1時間乾燥して光触媒性部材の試験片を作成した。
【0077】
作成した光触媒性部材の試験片を、雰囲気温度70℃で紫外線照射を2時間行った後、50℃で湿潤条件下に2時間放置することを1サイクルとして、これを100回繰り返す(400時間)耐候性促進試験を行った。試験前、50サイクル後(200時間後)、100サイクル後(400時間後)に、試験片表面の一部にテープを接着し、剥がした際に、テープに付着した粉末量(粉末剥離量(g/m2)に該当)を測定した。付着した粉末量が多い程、塗膜構成成分としてのアクリル系樹脂の分解が進み、耐候性が劣ると判断できる。
【0078】
測定結果を、塗料組成とともに表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
表3から、顔料用酸化チタンのみを使用した参考例2ではほとんど粉末剥離が起こっていいないことがわかる。このことは、酸化チタン粒子が塗膜構成成分である樹脂に覆われているためと考えられる。このような状態は、顔料としては好ましいが、かかる状態では気相の有害成分との反応も期待できず、光触媒効果として期待される防汚作用等も発揮できないことになる。
【0081】
一方、比較例7の光触媒用酸化チタンを使用した場合は、本発明の実施例と比較して、光照射による粉末剥離量が著しく多くなっている。特に、50サイクル後と100サイクル後との間で粉末剥離量が急激に増大する傾向が見られ、光照射により表面に露出した光触媒粒子によって、塗膜構成成分の分解が加速されていると考えられる。このような状態では、手でさわったり、流水によって塗膜表面から光触媒粒子が消失してしまうことになる。結果として、塗膜本来の機能が損なわれるばかりか、基材表面に留まる光触媒量が減少するために、光触媒効果(有害成分の分解など)の持続性も低減することとなる。
【0082】
これらに対し、実施例では、光照射による樹脂の分解は認められるが、粉末剥離量は少なく、塗膜構成成分の分解が抑制されていることがわかる。特に、光触媒のチタン含有率が小さい程、樹脂の分解を抑制する効果が得られている。また、光照射時間が長くなっても急激な粉末剥離量の増加が見られないことから、光触媒粒子の一部分が表面に露出した状態で塗膜に保持されていると考えられる。すなわち、光触媒粒子は、気相の有害成分と接触できる程度に露出した状態で基材表面に留まり、長期に亘って光触媒本来の作用効果を発揮しつづけることができる。換言すると、光触媒効果を長期に亘って基材に付与し続けることができる。従って、本発明の光触媒は、塗料組成物をはじめとする表面被覆剤用としてに好適であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】焼成温度と得られる表面被覆用光触媒のX線回折による一次粒子径との関係を表わすグラフである。
【図2】焼成温度と表面被覆用光触媒の触媒活性との関係を示すグラフである。
【図3】光照射期間と基材の引張強度の低下との関係を表わすグラフである。
【図4】実施例1の表面被覆用光触媒を用いて形成した光触媒性膜の光照射前(a)、光照射1週間後(b)、比較例6の光触媒を用いて形成した光触媒性膜の光照射前(c)、光照射1週間後(d)の状態を示す走査顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン及び珪素からなる二元系複合酸化物、チタン及びジルコニウムからなる二元系複合酸化物、並びにチタン、珪素及びジルコニウムからなる三元系複合酸化物より選ばれる少なくとも1種の複合酸化物を含有する表面被覆用光触媒であって、該表面被覆用光触媒におけるチタンの含有率が20〜95モル%で、且つX線回折にて測定した一次粒子径が5〜20nmであることを特徴とする表面被覆用光触媒。
【請求項2】
請求項1に記載の表面被覆用光触媒及びバインダーを含有することを特徴とする光触媒機能を有する表面被覆剤。
【請求項3】
前記バインダーは塗膜成分である請求項2に記載の表面被覆剤。
【請求項4】
前記バインダーの分解及び/又は劣化が抑制されている請求項2または3に記載の表面被覆剤。
【請求項5】
基材に、請求項1に記載の表面被覆用光触媒を担持していることを特徴とする光触媒性部材。
【請求項6】
基材表面を、請求項2〜4のいずれかに記載の表面被覆剤で被覆してなることを特徴とする光触媒性部材。
【請求項7】
前記基材の分解及び/又は劣化が抑制されている請求項5または6に記載の光触媒性部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−75835(P2006−75835A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290460(P2005−290460)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【分割の表示】特願平11−60767の分割
【原出願日】平成11年3月8日(1999.3.8)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】