説明

表面被覆粉体及びその製造方法

【課題】 無機粉体の表面上に抗酸化剤を多量に且つ安定に被覆した表面被覆粉体を提供する。
【解決手段】 無機粉体の表面上にチオタウリン及び/又はヒポタウリンが被覆されていることを特徴とする表面被覆粉体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面被覆粉体及びその製造方法、特に無機粉体に対する抗酸化機能の付与に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料の分野においては、着色や紫外線防御、さらには撥水・撥油等の様々な目的に応じて粉体成分が配合されている。特に最近では、化粧料において、より一層の高機能化が求められており、配合されるべき粉体成分の機能についても多様化・高機能化が求められ、現在までに様々な機能性粉体の開発が試みられている。機能性の化合物を被覆した高機能性粉体としては、例えば、表面に加水分解コラーゲンを被覆した無機顔料(特許文献1)、ケラチンポリマーを複合化した粉体(特許文献2)、シリコーン化ペプチドを結合した改質粉体(特許文献3)等が報告されている。
【0003】
一方、従来、多くの抗酸化作用(活性酸素除去作用)を有する物質が知られており、例えば、ビタミンE(トコフェロール)、ビタミンC(アスコルビン酸)、BHT(ブチルヒドロキシトルエン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)等が、代表的な抗酸化性成分として化粧料に配合して用いられている。さらに近年では、天然のポリフェノール類が優れた抗酸化作用を有することが次々と明らかになっており、これら様々な種類のポリフェノール類が、医薬品や健康食品として、あるいは化粧品に配合されて用いられている。
【0004】
【特許文献1】特開昭62−12709号公報
【特許文献2】特開平8−92035号公報
【特許文献3】特開平11−279435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、これらの抗酸化性物質を、化粧料に通常用いられる無機粉体の表面上に導入することができたとすれば、無機粉体に対して抗酸化機能を付与することができると考えられる。特に最近では、酸化ストレスによる皮膚の老化(シミ、シワ、タルミ等)等が指摘されていることもあって、抗酸化機能を高めた皮膚化粧料に注目が集まっている。また、化粧料には油脂、ロウ類やこれらの誘導体、さらには界面活性剤や香料といった、酸化により変質を生じる成分が多く配合されていることから、これらの配合成分の酸化劣化を防ぐという意味でも、抗酸化機能を有する粉体の配合は非常に有用であると考えられる。
【0006】
しかしながら、従来一般的に用いられている抗酸化性物質を無機粉体の表面上に直接被覆しようとしても、通常の場合は、非常に少量しか被覆することができない。また、無機粉体表面上の抗酸化性物質が、経時によって剥離してしまうという問題もあった。
本発明は、前述のような従来技術の課題に鑑みて行なわれたものであり、その目的は、無機粉体の表面上に抗酸化剤を多量に且つ安定に被覆した表面被覆粉体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達するために、本発明者らが鋭意研究を行った結果、抗酸化作用を有するチオタウリン及び/又はヒポタウリンを用いた場合、他の抗酸化剤と比較して、無機粉体の表面上に多量に被覆することが可能であり、さらに無機粉体上に被覆されたチオタウリン及び/又はヒポタウリンが長時間安定であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明にかかる表面被覆粉体は、無機粉体の表面上にチオタウリン及び/又はヒポタウリンが被覆されていることを特徴とする。
また、本発明にかかる表面被覆粉体の製造方法は、無機粉体とチオタウリン及び/またはヒポタウリンとを混合し、該チオタウリン及び/又はヒポタウリンを無機粉体の表面上に被覆する粉体表面被覆工程を備えることを特徴とする。
また、本発明にかかる化粧料は、前記表面被覆粉体を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる表面被覆粉体は、無機粉体の表面上にチオタウリン及び/又はヒポタウリンが多量且つ安定に被覆されていることにより、無機粉体に対して優れた抗酸化機能を付与することができ、例えば、化粧料に配合する粉体成分として非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳述する。
なお、本発明にかかる表面被覆粉体は、無機粉体の表面上にチオタウリン及び/又はヒポタウリンが被覆されていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明において用いられる無機粉体の種類は、特に限定されるものではなく、例えば、平均粒径0.01〜10μm程度の任意の無機化合物を用いることができる。具体的には、例えば、シリカ(無水ケイ酸)、タルク、カオリン、雲母、絹雲母(セリサイト)、白雲母、金雲母、合成雲母、紅雲母、黒雲母、リチア雲母、パーミキュライト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸ストロンチウム、タングステン酸金属塩、ゼオライト、硫酸バリウム、焼成硫酸カルシウム(焼セッコウ)、リン酸カルシウム、フッ素アパタイト、ヒドロキシアパタイト、セラミックパウダー、窒化ホウ酸等が挙げられる。また、本発明においては、これらの無機粉体の中から1種又は2種以上を任意に選択して用いることができる。また、本発明において用いられる無機粉体としては、特にシリカゲルが好ましい。
【0012】
本発明において用いられるチオタウリン及びヒポタウリンは、メチオニン、システインといった含硫アミノ酸の代謝産物であり、哺乳類の生体内にも存在する安全性に優れた公知物質である。チオタウリンの構造を下記一般式(1)に、ヒポタウリンの構造を下記一般式(2)に示す。
NCHCHSOSH (1)
NCHCHSOH (2)
また、本発明においては、市販のチオタウリン及びヒポタウリンを用いてもよい。市販のチオタウリン及びヒポタウリンとしては、例えば、相互薬工(株)より市販されているものを用いることができる。
【0013】
本発明にかかる表面被覆粉体は、前記無機粉体と、前記チオタウリン及び/又はヒポタウリンとを混合し、チオタウリン及び/又はヒポタウリンを無機粉体の表面上に被覆することによって得られる。例えば、チオタウリン及び/又はヒポタウリンを、エタノール、メタノール、2−プロパノール等の水溶液あるいは単独溶液中に溶解し、この溶液中に無機粉体を分散させる。無機粉体とチオタウリン及び/又はヒポタウリンとの混合割合は、被覆させたい量に応じて適宜設定すればよいが、無機粉体への機能性付与の観点から、チオタウリン及び/又はヒポタウリンを無機粉体に対する質量比で20%以上用いることが好ましい。また、通常の場合は、無機粉体とチオタウリン及び/又はヒポタウリンとの懸濁液を加温した状態で混合する。温度条件は用いられる溶媒の沸点によっても制限されるが、できるだけ高い方が好ましく、特に50℃〜80℃とすることが好ましい。一方、懸濁液中のpHはむしろ調整しない方が好ましい。被覆に要する時間は温度条件によっても異なるが、例えば50℃前後の場合には1時間程度で充分であり、それ以上置いても収量は増加しない。一定時間経過の後、得られた粉体をよく洗浄する。洗浄用の溶媒は、遊離のチオタウリン及び/又はヒポタウリンが溶解するものであれば特に限定されるものではない。得られた粉体を遠心分離あるいはろ過により回収し、チオタウリン及び/又はヒポタウリンが検出されなくなるまで洗浄を繰り返す。洗浄後、得られた粉体を乾燥する。乾燥の方法についても特に限定されるものではないが、特に減圧下で乾燥を行なうことが、粉体をパウダー状にするという点で好ましい。
【0014】
また、本発明にかかる化粧料は、以上のようにして得られる表面被覆粉体を含有することを特徴とするものである。表面被覆粉体の配合量は、化粧料全量中0.1質量%以上であることが好ましく、特に1〜10質量%であることが好ましい。配合量が1質量%未満では本発明の効果が得られない場合がある。
【0015】
本発明にかかる化粧料においては、上記表面被覆粉体の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、通常化粧料に用いられる水、油分、粉体(未処理)、界面活性剤、フッ素化合物、樹脂、粘剤、防腐剤、香料、紫外線吸収剤、保湿剤、生理活性成分、塩類、溶媒、酸化防止剤、キレート剤、中和剤、pH調整剤等の成分を配合することができる。
【0016】
また、本発明にかかる化粧料の形態は、特に限定されるものではないが、例えば、ファンデーション、白粉、口紅、アイシャドウ、チーク、マスカラ、アイライナー等のメイクアップ化粧料や、サンスクリーン剤、下地クリーム、ヘアクリーム等が挙げられる。
【実施例1】
【0017】
以下に本発明の実施例を挙げてさらに詳しい説明を行なうが、本発明はこれらに限定されるものではない。
無機粉体表面上への抗酸化性物質の被覆
本発明者らは、抗酸化性物質であるチオタウリン、テトラヒドロクルクミン、及びカテキンを用い、これらをシリカゲル表面上に被覆した表面被覆粉体の調製を行ない、それぞれの比較、検討を行なった。
【0018】
実施例1:チオタウリン被覆シリカゲル
10mLの70%エタノール水溶液中にチオタウリン200mgを溶解した溶液を準備し、この中にシリカゲル1gを添加して、50℃の水浴中で50分間振とう攪拌した。ガラスフィルターを用いて粉体をろ集し、その際、70%エタノール水溶液を10回以上流して、粉体上に被覆していないチオタウリンを洗い流した。ろ集した粉体を凍結乾燥機により一晩乾燥し、チオタウリン被覆シリカゲルを得た。
【0019】
比較例1:テトラヒドロクルクミン被覆シリカゲル
チオタウリンに代えてテトラヒドロクルクミン200mgを用いたほかは、上記実施例1と同様の操作を行ない、テトラヒドロクルクミン被覆シリカゲルを得た。
【0020】
比較例2:カテキン被覆シリカゲル
チオタウリンに代えてカテキン200mgを用いたほかは、上記実施例1と同様の操作を行ない、テトラヒドロクルクミン被覆シリカゲルを得た。
【0021】
以上のようにして得られた実施例1及び比較例1,2の表面被覆粉体について、抗酸化性物質(チオタウリン,テトラヒドロクルクミン,及びカテキン)の被覆量をモル、質量のそれぞれにより算出した。結果を下記表1及び図1にまとめて示す。また、被覆量はいずれも粉体100g当たりの数値である。
【0022】
【表1】

【0023】
上記表1及び図1の結果より、抗酸化剤としてチオタウリンを用いた実施例1においては、シリカゲルの表面上にチオタウリンが多量に被覆されていることが確認された。これに対して、テトラヒドロクルクミン及びカテキンを用いた比較例1及び2においては、テトラヒドロクルクミン及びカテキンともに非常に少量しか被覆されていないことがわかった。
また、実施例1のチオタウリン−シリカゲルは、長時間保存した場合においても、無機粉体上のチオタウリンが、剥離することなく安定であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明にかかる実施例1及び比較例1,2の表面被覆粉体(実施例1:チオタウリン−シリカゲル,比較例1:テトラヒドロクルクミン−シリカゲル,比較例2:カテキン−シリカゲル)における抗酸化性物質被覆量(モル,質量)の評価結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉体の表面上にチオタウリン及び/又はヒポタウリンが被覆されていることを特徴とする表面被覆粉体。
【請求項2】
無機粉体とチオタウリン及び/又はヒポタウリンとを混合し、該チオタウリン及び/又はヒポタウリンを無機粉体の表面上に被覆する粉体表面被覆工程を備えることを特徴とする表面被覆粉体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の表面被覆粉体を含有することを特徴とする化粧料。

【図1】
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【公開番号】特開2007−2001(P2007−2001A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180347(P2005−180347)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】