説明

表面銀固定化ハイドロキシアパタイト

【課題】ニトリル化合物を水和して対応するアミド化合物を得る反応において触媒として有用な新規な化合物である表面銀固定化ハイドロキシアパタイトを提供する。
【解決手段】本発明に係る表面銀固定化ハイドロキシアパタイトは、ハイドロキシアパタイト表面に0価のAgを固定化して得られる。さらに、触媒として用いられる表面銀固定化ハイドロキシアパタイト、およびハイドロキシアパタイト表面に0価のAgを固定化した表面銀固定化ハイドロキシアパタイトの存在下、ニトリル化合物を水和して対応するアミド化合物を製造するアミド化合物の製造方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化合物である表面銀固定化ハイドロキシアパタイト、及び該表面銀固定化ハイドロキシアパタイトを使用したアミド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトリルを完全に加水分解するとカルボン酸とアミンを与えるが、適当な反応条件を選択することによって、中間体のアミド化合物を得ることができる。このようにして得られたアミド化合物は、エンジニアリングプラスチック、合成洗剤、潤滑油などの原料や、中間体などとして有用である。
【0003】
上記のように有用なアミド化合物の製造方法としては、例えば、中性加水分解法、酸性加水分解法、アルカリ加水分解法、生物触媒を使用した方法などが知られている。中性加水分解法は、ニトリルのジクロロメタン溶液を活性二酸化マンガンと室温で撹拌することによってアミド化合物を得る方法である(例えば、特許文献1)。しかしながら、その収率は未だ十分に満足のできるものではなかった。
【0004】
酸性加水分解法は、ニトリルを塩酸、硫酸、ポリリン酸などと加温することによってアミド化合物を得る方法である。しかしながら、一般に、芳香族ニトリルの加水分解反応が遅いことが問題であった。また、アルカリ加水分解法では、反応がカルボン酸まで進みやすく、中間のアミド化合物を得ることが難しいことが問題であった。
【0005】
生物触媒を使用した方法としては、酵素活性を持つ微生物を利用してアミド化合物を合成する方法が挙げられる。この方法によれば、反応条件が穏和であるため反応プロセスが簡略化できること、あるいは副生物が少ないことによる反応生成物の純度が高いこと等の利点があるため、近年、多くの化合物の製造に用いられている(例えば、特許文献2)。しかしながら、微生物を利用して製造したアミド化合物の水溶液は、高純度の反応液が得られるにも拘らず、反応液中のアミド化合物が高濃度であるほど発泡し易くなり、後の工程、例えば、濃縮や蒸留、晶析工程あるいは、ポリマー化工程等がある場合にはトラブルの原因となることがあるため問題であった。さらに、微生物は反応条件が限定されるため、微生物を利用したアミド化合物の製造においてはその収率の点で、十分に満足できるものではなかった。その上、微生物は何度も繰り返して使用することができないことも問題であった。
【0006】
すなわち、簡易に、且つ、効率よくニトリル化合物を水和して対応するアミド化合物を製造することのできる触媒が望まれていた。
【0007】
一方、バルクと単量体金属種の間のサイズ範囲で存在する金属ナノ粒子(NP)は、電子装置、光学装置、および磁気装置から、最新式の触媒物質までの広範な技術に適用されている。現在、金属NP触媒は、液相条件下での有機合成における使用のために非常に大きな注目を集めている。例えば、金NPは、多くの有機反応において触媒作用を促進することが示されてきた。他方、エチレンの気相エポキシ化を例外として、他の有機反応のためのAg NPの卓越した触媒活性についての研究は非常に少なかった。
【0008】
【特許文献1】特開平9−104665号公報
【特許文献2】特開平11−123098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、触媒として有用な新規な化合物である表面銀固定化ハイドロキシアパタイトを提供することにある。
本発明の他の目的は、表面銀固定化ハイドロキシアパタイトを使用して、簡易かつ効率よくアミド化合物の製造を行うアミド化合物の製造方法を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、金属ナノ粒子である銀を固定化したハイドロキシアパタイトを提供することにある。
本発明の他のさらなる目的は、金属ナノ粒子である銀を固定化したハイドロキシアパタイトを使用して、簡易かつ効率よくアミド化合物の製造を行うアミド化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ハイドロキシアパタイト表面に、Agを固定化した表面銀固定化ハイドロキシアパタイトが、高い触媒活性を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0011】
さらに、本発明者らは、Ag NPの触媒としての潜在能力に着目し、そして固定化Ag NPがアルコールの脱水素化のための高い触媒活性、および液相条件下での水を用いるシランからシラノールへの選択的酸化を示すことを見い出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、ハイドロキシアパタイト表面に0価のAgを固定化した表面銀固定化ハイドロキシアパタイトを提供する。
【0013】
前記表面銀固定化ハイドロキシアパタイトは、触媒として用いられることが好ましい。
【0014】
本発明は、また、ハイドロキシアパタイト表面に0価のAgを固定化した表面銀固定化ハイドロキシアパタイトの存在下、ニトリル化合物を水和して対応するアミド化合物を製造するアミド化合物の製造方法を提供する。
【0015】
さらに本発明は、ハイドロキシアパタイト表面に金属ナノ粒子である0価のAgを固定化した表面銀固定化ハイドロキシアパタイトを提供する。
【0016】
さらに本発明は、ハイドロキシアパタイト表面に金属ナノ粒子である0価のAgを固定化した表面銀固定化ハイドロキシアパタイトの存在下、ニトリル化合物を水和して対応するアミド化合物を製造するアミド化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の表面銀固定化ハイドロキシアパタイトは、簡易に製造することが出来、ニトリル化合物を水和して対応するアミド化合物を製造する反応に対して高い活性を示す。さらに、本発明の表面銀固定化ハイドロキシアパタイトは、固体であることから、容易に再利用可能であり、特に再生処理を必要とせずに、高い活性を保持したまま繰り返し再利用することができる。
【0018】
本発明の方法によれば、簡易な操作によりニトリル化合物を水和して対応するアミド化合物を高収率で得ることができる。
【0019】
本願発明は、ハイドロキシアパタイト(HAP)固定化Ag NP(AgHAP)が水中のニトリルを水和してアミドにする反応を高効率で触媒可能であることを実証する。対応するアミドへのニトリルの水和は、有機合成において非常に大きな重要性を有する。なぜなら、アミドは、医薬品、ポリマー、界面活性剤、潤滑剤、および薬物安定剤の製造において使用される多用途な合成中間体であるからである。しかし、従来の触媒系は、均質である強力な酸および塩基触媒の存在下で、有機溶媒を必要とし、このことにより、アミドの過度の加水分解が起こり、望ましくないカルボン酸を生じ、触媒の中和後に、大量の塩の形成が起きる。それゆえに、ニトリルの水和のための有効な金属触媒の開発のために相当多くの労力が費やされてきた。溶媒として水を使用する中性条件下で再利用可能であるAg触媒を使用するこの水和法は、環境への配慮の面からより良好であり、かつ工業的に受け入れ可能であるプロセスを確立するために十分に貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[表面銀固定化ハイドロキシアパタイト]
本発明に係る表面銀固定化ハイドロキシアパタイトは、ハイドロキシアパタイト表面に0価のAgが固定化されている。
【0021】
上記ハイドロキシアパタイトは、例えば、下記式(1)
Ca10-Z(HPO4Z(PO46-Z(OH)2-Z・nH2O (1)
(式中、Zは0≦Z≦1を満たす数である。nは0〜2.5の数である)
で表される化合物である。
【0022】
ハイドロキシアパタイトは、例えば、湿式合成法により調製することができる。前記湿式合成法は、具体的にはカルシウム溶液とリン酸溶液を10:6の割合のモル濃度比でpHを7.4以上の所定値に維持したバッファー液中に長時間にわたり順次滴下することにより、上記バッファー液中にハイドロキシアパタイトが析出し、析出したハイドロキシアパタイトを捕集する方法である。
【0023】
本発明において好適に使用できるハイドロキシアパタイトの例としては、例えば、和光純薬工業株式会社製、商品名「りん酸三カルシウム」が挙げられる。
【0024】
ハイドロキシアパタイト表面に0価のAgを固定化する方法としては、例えば、銀化合物の溶液とハイドロキシアパタイトとを混合し、撹拌することによりハイドロキシアパタイト表面に銀化合物を吸着させ、還元処理を施す方法等が挙げられる。銀化合物としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の銀塩の他、銀錯体等を使用することもできる。
【0025】
溶媒としては、銀化合物を溶解できればよく、例えば、水、アセトン、アルコール類等を例示することができる。Agの固定化処理を行う際の銀化合物の溶液の濃度は特に制限されず、例えば、0.1〜1000mMの範囲から選択することができる。撹拌時の温度は、例えば20〜150℃の範囲から選択することができるが、通常室温で行うことができる。表面銀固定化ハイドロキシアパタイトのAg含有率は特に制限されないが、例えば、ハイドロキシアパタイト1gに対して0.01〜10mmol、好ましくは0.05〜0.5mmolの範囲から選択することができる。撹拌時間は撹拌時の温度によっても異なるが、例えば1〜360分間、好ましくは5〜90分間の範囲から選択することができる。撹拌終了後は、必要に応じて水や有機溶媒等で洗浄し、乾燥し、さらに還元処理を施すことにより本発明の表面銀固定化ハイドロキシアパタイトを調製することができる。
【0026】
還元処理を施す還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化ホウ素リチウム(LiBH4)又は水素化ホウ素カリウム(KBH4)等の水素化ホウ素錯化合物、ヒドラジン、水素(H2)、トリメチルシラン等のシラン化合物、ヒドロキシ化合物などが挙げられる。ヒドロキシ化合物としては第1級アルコール、第2級アルコール等のアルコール化合物が含まれる。また、ヒドロキシ化合物は、複数のヒドロキシル基を有していてもよく、1価アルコール、2価アルコール、多価アルコール等の何れであってもよい。
【0027】
本発明における還元剤としては、なかでも水素化ホウ素錯化合物が好ましく、特に水素化ホウ素カリウム(KBH4)が好ましい。水素化ホウ素カリウム(KBH4)で還元することにより得られた表面銀固定化ハイドロキシアパタイトは、固定化したAg粒子の平均粒径がより小さくなる傾向があり、それにより、比表面積を増大することができ、触媒活性を著しく向上させることができる。
【0028】
本発明における表面銀固定化ハイドロキシアパタイトは、触媒として使用することができる。触媒活性を有する反応としては、例えば、ニトリル化合物を水和して対応するアミド化合物を合成する反応、シラン化合物の酸化によりシラノール化合物を合成する反応等が挙げられる。
【0029】
[アミド化合物の製造]
本発明に係るアミド化合物の製造方法は、上述の本発明に係るハイドロキシアパタイト表面にAgを固定化した表面銀固定化ハイドロキシアパタイトの存在下、ニトリル化合物を水和して対応するアミド化合物を製造することを特徴とする。本発明の方法によって、ニトリル化合物を水和して対応するアミド化合物を高収率で製造することができる。
【0030】
本発明におけるニトリル化合物は、一般式(2)
【化1】

(式中、Rは有機基を示す)
で表される。
【0031】
Rにおける有機基としては、本反応を阻害しないような基(例えば、本方法における反応条件下で非反応性の基)であればよく、例えば、炭化水素基、複素環式基などが挙げられる。前記炭化水素基及び複素環式基には、置換基を有する炭化水素基及び複素環式基も含まれる。
【0032】
Rにおける炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの結合した基が含まれる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、デシル、ドデシル基などの炭素数1〜20(好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜3)程度のアルキル基;ビニル、アリル、1−ブテニル基などの炭素数2〜20(好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜3)程度のアルケニル基;エチニル、プロピニル基などの炭素数2〜20(好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜3)程度のアルキニル基などが挙げられる。
【0033】
脂環式炭化水素基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル基などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜8員)程度のシクロアルキル基;シクロペンテニル、シクロへキセニル基などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜8員)程度のシクロアルケニル基;パーヒドロナフタレン−1−イル基、ノルボルニル、アダマンチル、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン−3−イル基などの橋かけ環式炭化水素基などが挙げられる。芳香族炭化水素基としては、フェニル、ナフチル基などの炭素数6〜14(好ましくは6〜10)程度の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0034】
脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した炭化水素基には、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、2−シクロヘキシルエチル基などのシクロアルキル−アルキル基(例えば、C3-20シクロアルキル−C1-4アルキル基など)などが含まれる。また、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した炭化水素基には、アラルキル基(例えば、C7-18アラルキル基など)、アルキル置換アリール基(例えば、1〜4個程度のC1-4アルキル基が置換したフェニル基又はナフチル基など)、アリール置換C2-10アルケニル基(例えば、2−フェニルビニル基)などが含まれる。
【0035】
Rにおける炭化水素基としては、C1-10アルキル基、C2-10アルケニル基、アリール置換C2-10アルケニル基、C2-10アルキニル基、C3-15シクロアルキル基、C6-14芳香族炭化水素基、C3-15シクロアルキル−C1-4アルキル基、C7-14アラルキル基、1〜4個程度のC1-4アルキル基が置換したフェニル基又はナフチル基等が好ましい。
【0036】
前記炭化水素基は、種々の置換基、例えば、ハロゲン原子、オキソ基、ヒドロキシル基、置換オキシ基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基など)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基(アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基など)、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、アシル基、置換又は無置換アミノ基、スルホ基、複素環式基などを有していてもよい。前記ヒドロキシル基やカルボキシル基は有機合成の分野で慣用の保護基で保護されていてもよい。また、脂環式炭化水素基や芳香族炭化水素基の環には芳香族性又は非芳香属性の複素環が縮合していてもよい。
【0037】
前記Rにおける複素環式基を構成する複素環には、芳香族性複素環及び非芳香族性複素環が含まれる。このような複素環としては、例えば、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、フラン、テトラヒドロフラン、オキサゾール、イソオキサゾール、γ−ブチロラクトン環などの5員環、4−オキソ−4H−ピラン、テトラヒドロピラン、モルホリン環などの6員環、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、4−オキソ−4H−クロメン、クロマン、イソクロマン環などの縮合環、3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オン環、3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オン環などの橋かけ環)、ヘテロ原子としてイオウ原子を含む複素環(例えば、チオフェン、チアゾール、イソチアゾール、チアジアゾール環などの5員環、4−オキソ−4H−チオピラン環などの6員環、ベンゾチオフェン環などの縮合環など)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール、ピロリジン、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール環などの5員環、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン環などの6員環、インドール、インドリン、キノリン、アクリジン、ナフチリジン、キナゾリン、プリン環などの縮合環など)などが挙げられる。上記複素環式基には、前記炭化水素基が有していてもよい置換基のほか、アルキル基(例えば、メチル、エチル基などのC1-4アルキル基など)、シクロアルキル基、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル基など)などの置換基を有していてもよい。
【0038】
好ましいRには、炭化水素基(C6-14芳香族炭化水素基、C7-14アラルキル基、1〜4個程度のC1-4アルキル基が置換したフェニル基又はナフチル基、アリール置換C2-10アルケニル基、C2-10アルケニル基等)、ヘテロ原子として酸素原子、硫黄原子、窒素原子を含む芳香族性複素環などが挙げられる。
【0039】
本発明におけるニトリル化合物としては、例えば、ベンゾニトリル、p−シアノトルエン、m−シアノトルエン、o−シアノトルエン、p−クロロベンゾニトリル、m−クロロベンゾニトリル、o−クロロベンゾニトリル、3−フェニルアクリロニトリル、3−シアノピリジン、2−シアノチオフェン、2−クロロ−3−シアノピリジン、2−シアノピラジン、2−シアノフラン、2−シアノ−5−メチルフラン、3−シアノキノリン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブタンニトリル、ヘキサンニトリル、2−ナフトニトリル、p−ニトロベンゾニトリル、p−アセチルベンゾニトリル、p−フルオロベンゾニトリル等を挙げることができる。
【0040】
上記ニトリル化合物を表面銀固定化ハイドロキシアパタイトの存在下、水和することにより対応するアミド化合物を製造することができる。水和反応のための水の使用量としては、例えば、ニトリル化合物1molに対して水1〜10mol程度である。水を大過剰量使用してもよい。
【0041】
反応は、例えば、上記ニトリル化合物と表面銀固定化ハイドロキシアパタイトを混合撹拌することにより行うことができる。表面銀固定化ハイドロキシアパタイトの使用量は特に制限されないが、例えば、ニトリル化合物1molに対して、銀が0.001〜1mol、好ましくは0.001〜0.1mol、特に好ましくは0.01〜0.1molとなるような範囲から選択することができる。反応は、液相で行ってもよく、気相で行うこともできる。作業性などを考慮して、本発明においては液相で反応を行うことが好ましい。
【0042】
反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行うことができる。溶媒としては反応を阻害しないものであれば特に制限されず、公知慣用の溶媒から適宜選択して使用することができる。例えば、水;トリフルオロトルエン、フルオロベンゼン、フルオロヘキサンなどのフッ素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ニトロベンゼンなどの芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素;1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル等のエーテル類;アセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル;これらの混合物等が挙げられる。本発明においては、なかでも、極性溶媒が好ましく、特に高い極性を有する水を好適に使用することができる。
【0043】
反応は常圧、又は加圧下において行うことができる。反応温度は、原料として使用するニトリル化合物の種類や溶媒の種類に応じて選択することができ、特に制限されないが例えば、0〜250℃、好ましくは60〜200℃、特に好ましくは100〜200℃の範囲から選択することができる。
【0044】
反応時間は、原料として使用するニトリル化合物の種類や溶媒の種類、反応温度等に応じて適宜選択することができ特に制限されないが、例えば0.1〜200時間、好ましくは0.1〜50時間の範囲から選択することができる。反応は、回分式、半回分式、連続式等の慣用の方式で行うことができる。反応終了後、反応生成物は、例えば、ろ過、濃縮、蒸溜、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0045】
本発明に係る表面銀固定化ハイドロキシアパタイトは、銀がハイドロキシアパタイト表面に強固に固定化されているため、反応溶液中への銀の溶出がない。そのため、反応終了後、表面銀固定化ハイドロキシアパタイトは、ろ過や遠心分離等の操作により回収し、そのまま、又は必要に応じて水や有機溶媒などにより洗浄後、繰り返しニトリル化合物の水和反応に触媒として使用することができる。表面銀固定化ハイドロキシアパタイトを繰り返し使用して反応を行った場合であっても、触媒活性は低下せず、高い収率で対応するアミド化合物を製造することができる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0047】
製造例1
200mLのナスフラスコにAgNO3(1.0ミリモル)を加え、水(150mL)を加えて銀水溶液を作製し、そこにハイドロキシアパタイト(りん酸三カルシウム、和光純薬工業株式会社製)2.0gを加え、空気雰囲気下、室温(25℃)で6時間撹拌した。撹拌後、吸引濾過し、脱イオン水(1L)で洗浄し、24時間真空乾燥させてAg(I)/ハイドロキシアパタイト触媒(Agとして、0.3ミリモル/g)を得た。
200mLのナスフラスコにKBH4(9ミリモル)を加え、水(150mL)を加えて溶解し、そこに得られたAg(I)/ハイドロキシアパタイト触媒(1.8g)を加え、アルゴン雰囲気下、室温(25℃)で1時間撹拌した。撹拌後、吸引濾過し、脱イオン水(1L)で洗浄し、24時間真空乾燥させてAg(0)/ハイドロキシアパタイト触媒(Agとして、0.3ミリモル/g)を得た。
【0048】
製造例2
製造例1と同様にして、Ag(I)/ハイドロキシアパタイト触媒を得た。
200mLのナスフラスコにヒドラジン(9ミリモル)を加え、水(150mL)を加えて溶解し、そこに得られたAg(I)/ハイドロキシアパタイト触媒(1.8g)を加え、アルゴン雰囲気下、60℃で1時間撹拌した。撹拌後、吸引濾過し、脱イオン水(1L)で洗浄し、24時間真空乾燥させてAg(0)/ハイドロキシアパタイト触媒(Agとして、0.3ミリモル/g)を得た。
【0049】
製造例3
200mLのナスフラスコにAgNO3(1.0ミリモル)を加え、水(150mL)を加えて溶解して得た溶液に、フルオロアパタイト(和光純薬工業株式会社製:商品名『アパタイトFAP、六方晶』)2.0gを加え、室温(25℃)で6時間撹拌後、脱イオン水で洗浄し、さらに室温(25℃)にて24時間真空乾燥することにより、Ag(I)/フルオロアパタイト触媒を得た。
200mLのナスフラスコにKBH4(9ミリモル)を加え、水(150mL)を加えて溶解し、そこに得られたAg(I)/フルオロアパタイト触媒(1.8g)を加え、アルゴン雰囲気下、室温(25℃)で1時間撹拌した。撹拌後、吸引濾過し、脱イオン水(1L)で洗浄し、24時間真空乾燥させてAg(0)/フルオロアパタイト触媒(Agとして、0.1ミリモル/g)を得た。
【0050】
製造例4
200mLのナスフラスコにAgNO3(1.0ミリモル)を加え、水(150mL)を加えて溶解して得た溶液に、γ−ZrP(第一稀元素化学工業社製:商品名『CZP−200』)1.5gを加え、室温(25℃)で6時間撹拌後、脱イオン水で洗浄し、さらに室温(25℃)にて24時間真空乾燥することにより、Ag(I)/γ−ZrP触媒を得た。
200mLのナスフラスコにKBH4(9ミリモル)を加え、水(150mL)を加えて溶解し、そこに得られたAg(I)/γ−ZrP触媒(1.8g)を加え、アルゴン雰囲気下、室温(25℃)で1時間撹拌した。撹拌後、吸引濾過し、脱イオン水(1L)で洗浄し、24時間真空乾燥させてAg(0)/γ−ZrP触媒(Agとして、0.5ミリモル/g)を得た。
【0051】
製造例5
200mLのナスフラスコにAgNO3(1.0ミリモル)を加え、水(150mL)を加えて溶解して得た溶液に、HT(富田製薬株式会社製:商品名『トミタAD500NS』)2.0gを加え、室温(25℃)で6時間撹拌後、脱イオン水で洗浄し、さらに室温(25℃)にて24時間真空乾燥することにより、Ag(I)/HT触媒を得た。
200mLのナスフラスコにKBH4(9ミリモル)を加え、水(150mL)を加えて溶解し、そこに得られたAg(I)/HT触媒(1.8g)を加え、アルゴン雰囲気下、室温(25℃)で1時間撹拌した。撹拌後、吸引濾過し、脱イオン水(1L)で洗浄し、24時間真空乾燥させてAg(0)/HT触媒(Agとして、0.2ミリモル/g)を得た。
【0052】
実施例1
ガラス製耐圧反応管に、製造例1で得られたAg(0)/ハイドロキシアパタイト触媒0.1g(Ag:0.03ミリモル)、水3mL、ベンゾニトリル0.1g(1.0ミリモル)を加え、空気雰囲気下、140℃で2時間撹拌した。転化率93%、収率90%で、ベンズアミドを得た。
【0053】
実施例2
ガラス製耐圧反応管に、製造例2で得られたAg(0)/ハイドロキシアパタイト触媒0.1g(Ag:0.03ミリモル)、水3mL、ベンゾニトリル0.1g(1.0ミリモル)を加え、空気雰囲気下、140℃で2時間撹拌した。転化率59%、収率60%で、ベンズアミドを得た。
【0054】
原料となるニトリル化合物、及び、反応温度を変えたこと以外は実施例1と同様にして実施例3〜19を行った。結果を下記表1、2にまとめて示す。
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
実施例20
実施例1の反応終了後、反応溶液をろ過して使用後のAg(0)/ハイドロキシアパタイト触媒を回収し、回収されたAg(0)/ハイドロキシアパタイト触媒を水を使用して洗浄し、再生−Ag(0)/ハイドロキシアパタイト触媒を得た。
再生−Ag(0)/ハイドロキシアパタイト触媒を使用した以外は実施例1と同様にして、収率88%で、ベンズアミドを得た。
【0057】
実施例21
実施例21の反応終了後、反応溶液をろ過して使用後の再生−Ag(0)/ハイドロキシアパタイト触媒を回収し、回収された再生−Ag(0)/ハイドロキシアパタイト触媒を水を使用して洗浄し、再再生−Ag(0)/ハイドロキシアパタイト触媒を得た。
再再生−Ag(0)/ハイドロキシアパタイト触媒を使用した以外は実施例1と同様にして、収率87%で、ベンズアミドを得た。
【0058】
比較例1
ガラス製耐圧反応管に、ハイドロキシアパタイト(りん酸三カルシウム、和光純薬工業株式会社製)0.1g、水3mL、ベンゾニトリル0.1g(1.0ミリモル)を加え、空気雰囲気下、140℃で2時間撹拌したが、ベンズアミドは得られなかった。
【0059】
比較例2
ガラス製耐圧反応管に、製造例3で得られたAg(0)/フルオロアパタイト触媒0.1g(Ag:0.01ミリモル)、水3mL、ベンゾニトリル0.1g(1.0ミリモル)を加え、空気雰囲気下、140℃で2時間撹拌した。転化率39%、収率32%で、ベンズアミドを得た。
【0060】
比較例3
ガラス製耐圧反応管に、製造例4で得られたAg(0)/γ−ZrP触媒0.1g(Ag:0.05ミリモル)、水3mL、ベンゾニトリル0.1g(1.0ミリモル)を加え、空気雰囲気下、140℃で2時間撹拌した。転化率18%、収率11%で、ベンズアミドを得た。
【0061】
比較例4
ガラス製耐圧反応管に、製造例5で得られたAg(0)/HT触媒0.1g(Ag:0.02ミリモル)、水3mL、ベンゾニトリル0.1g(1.0ミリモル)を加え、空気雰囲気下、140℃で2時間撹拌した。転化率46%、収率40%で、ベンズアミドを得た。
【0062】
実施例22−水中でニトリルを選択的に水和してアミドを得るための固定化銀ナノ粒子触媒
AgHAPは以下のようにして合成した:2.0gのCa5(PO43(OH)(HAP)を150mLのAgNO3(6.7×10-3M)水溶液中に浸漬し、室温で6時間攪拌した。得られるスラリーを濾過し、洗浄し、そして真空中で室温にて乾燥した。HBH4の水溶液を用いて還元して、AgHAPを得た(Ag3.3重量%)。AgHAPのX線回折(XRD)ピーク位置は親のHAPのピーク位置と同様であり、透過型電子顕微鏡(TEM)分析は、7.6nmの平均直径および狭いサイズ分布(1.8nmの標準偏差)を有するAgNPがHAP基材の表面上で形成したことを示した。
【0063】
異なる支持体上で形成されたAg0 NPの触媒活性は、有機溶媒を含まない水性条件下でのベンゾニトリル(1)の水和のために試験した。AgHAPは、有効な触媒であって、ベンズアミドを唯一の生成物として99%の収率で与えた(表3、番号1)。AgHAPの代わりにAg/TiO2を使用すると、1の比較的高い転換を示したが;しかし、ベンズアミドの過度の加水分解を経由して、副産物として安息香酸が形成した。Ag/MgO、AgSiO2、およびAg/Cは、有意に活性が低かった。水和反応は、HAPおよびAg+HAPを使用しても、還元処理なしでは進行しなかった。1の40%転換時において、AgHAPを含む反応混合物の濾過後に、140℃、3時間で濾液をさらに攪拌しても、さらなる生成物は全く生じず、そしてAg種は、誘導結合プラズマスペクトル測定(ICP)分析によって濾液中で検出されなかった。これらの結果は、HAPとのAg0 NPの組み合わせが効率的な水和のために必須であり、この水和がHAPの表面上のAg NPにおいて進行することを示す。AgHAPによって触媒される水和のためのニトリル反応基の範囲を調べた。表3に例示されるように、AgHAPは、アルキルニトリルを例外として、ニトリルの水和のために効率的であった(番号14および15)。種々のベンゾニトリル誘導体は、対応するアミドについて、99%を超える選択性で高い収率で水和した(番号1〜12)。反応速度に対するオルト置換ニトリルの立体効果を観察した(番号2および9)。シンナモニトリルの水和が進行し、無傷のC=C二重結合を有するシンナムアミドを与えた(番号13)。次に、表4に要約されるように、種々のヘテロ芳香族ニトリルの水和を、AgHAP触媒を使用して実行した。顕著なことに、窒素原子、酸素原子、および硫黄原子を含むヘテロ芳香族ニトリルの多くは、わずか1時間以内で対応するアミドに効率的に転換され、付随するカルボン酸は検出されなかった。例えば、2−シアノピリジン、2−フランカルボニトリル、および2−チオフェンカルボニトリルの水和は、定量的な収率で対応するアミドを生じた(番号1、5、および7)。3−キノリンカルボニトリルなどの非常に水不溶性であるニトリルさえもまた、95%の収率で3−キノリンカルボキシアミドに水和された(番号4)。ピラジンカルボニトリル(2)はわずか10分間以内に水和され、結核用の医薬品として使用される対応するピラジンカルボキシアミドが99%収率で得られ(番号8)、さらに2は40℃においてさえ定量的に転換された(番号9)ことが注目される。AgHAP触媒系は、スケールアップした条件のためにもまた適用可能であった;2(100mmol;10.5g)はアミドに首尾よく転換され(97%単離収率;12.0g)そして代謝回転数(TOP)は10000以上に達した(番号10)。本発明者が知り得る限り、他のニトリルと比較して、ヘテロ芳香族ニトリルのこのような特異的に増強された反応性は報告されていなかった。
【0064】
さらに、AgHAPは、2の水和後に遠心分離によって容易に分離され、そして触媒活性および選択性の損失なしで、2の水和のために4回再利用することができた(番号11〜14)。AgHAP表面とニトリルの間の相互作用は、フーリエ変換赤外(FTIR)スペクトル測定を使用して試験した。1,2−シアノピリジンおよびヘキサンニトリルは、AgHAPでそれぞれ処理し、吸着したニトリルのC≡N伸縮振動に割り当てた各吸収バンドは、それらの液体型に関して、より高い周波数にシフトした。このことは、Ag NP上のニトリル基のサイドオン配位を示す。さらに、AgHAPに吸着したニトリルは、298Kの水蒸気に暴露も行った。時間分解IRスペクトルは、3のニトリルバンドの強度が次第に減少することを示し、これはC=O伸縮振動を示す新たなバンドの増加を伴った。アミドの製造は、質量スペクトル分析によってもまた確認されたが、1のニトリルIRバンドの強度はわずかに減少し、そして4のニトリルIRバンドの強度はほとんど変化しなかった。吸着したニトリルの水蒸気との反応性の順番は、3>1>4であり、これは、表3および4に示されるように、AgHAPを使用するニトリルの触媒的水和の結果と一致している。
【0065】
本発明は理論によって限定されることはないが、ここで、AgHAP表面上での水および芳香族ニトリルの配位を含む可能なメカニズムを提案する。芳香族ニトリルは、シアノ基および芳香族基の二重活性化を通して、AgHAPのAgNP上で強力に活性化される。その後、Ag表面上で生成する、H2Oからの求核性OH−は、近位のニトリル炭素原子を容易に攻撃し、イミノール遷移状態を通して対応するアミドを形成する。
【0066】
結論として、ニトリルからアミドへの選択的水和のためのAgNPの新たな触媒特性を発見した。HAP固定化Ag NPは、水中の芳香族ニトリルの水和のための高度に活性かつ再利用可能な固体触媒として働く。
【0067】
表3.AgHAP触媒性水和のためのニトリルの範囲a
【表3】

a反応条件:反応基(1mmol)、AgHAP(0.1g、Ag;0.03mmol)、水(3mL)、140℃。
b括弧内の値は、単離された収率である。c180℃の場合。d160℃の場合。
【0068】
表4.AgHAPを使用する種々の複素環式芳香族ニトリルの水和a
【表4】

a反応条件:反応基(1mmol)、AgHAP(0.1g、Ag;0.03mmol)、H2O(3mL)、140℃。
b括弧内の値は、単離された収率である。c反応基(0.5mmol)、40℃。d反応基(100mmol)、AgHAP(0.03g、Ag;0.009mmol)、H2O(35mL)。
e1回再利用、f2回再利用、g3回再利用、h4回再利用。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロキシアパタイト表面に0価のAgを固定化した表面銀固定化ハイドロキシアパタイト。
【請求項2】
触媒として用いられる請求項1に記載の表面銀固定化ハイドロキシアパタイト。
【請求項3】
ハイドロキシアパタイト表面に0価のAgを固定化した表面銀固定化ハイドロキシアパタイトの存在下、ニトリル化合物を水和して対応するアミド化合物を製造するアミド化合物の製造方法。
【請求項4】
Agが金属ナノ粒子である、請求項1または2に記載の表面銀固定化ハイドロキシアパタイト。
【請求項5】
Agが金属ナノ粒子である、請求項3に記載のアミド化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−233653(P2009−233653A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2848(P2009−2848)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】