説明

表面防汚性複合フィルムの製造方法

【課題】
表面防汚性複合樹脂フィルムの製造方法に関するものであり、防汚性表面層の厚さが5ミクロン以下の場合であって、アクリル系樹脂等のフィルムにコートした場合であっても、防汚性表面層の性能が長期間安定して持続する防汚性複合樹脂フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】
樹脂フィルムとその表面にシリコーン化合物及び/又はその縮合物と溶媒からなるコーティング材組成物をコートして形成される防汚性表面層からなる防汚性複合樹脂フィルムの製法において、溶媒として水及有機溶媒の混合溶媒を用いることを特徴とする防汚性複合樹脂フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面防汚性複合樹脂フィルムの製造方法に関するものであり、防汚性表面層の厚さが5ミクロン以下の場合であって、アクリル系樹脂等のフィルムにコートした場合であっても、防汚性表面層の性能が長期間安定して持続する防汚性複合樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
防汚性表面層を樹脂フィルムの表面にコーティングした防汚性複合樹脂フィルムは従来から提案されている。例えば、特開平成2004−14261号公報には、コーティング材の硬化被膜が、表面で超親水性を発現し、屋外構造物の汚れ防止、特に透明部材の光透過率あるいは光反射率の維持に有効であることを開示している。
【特許文献1】2004−14261(特許請求
【0003】
しかしながら、これらシリコーン系化合物を樹脂フィルムの表面にコーティングした場合、ポリカーボネイト、アクリル樹脂などの表面に直接コーティングすると、コーティング材中の溶媒により基材の樹脂フィルムが影響を受け、長期間の安定した防汚性を得ることが難しい傾向があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は表面防汚性複合樹脂フィルムの製造方法に関するものであり、防汚性表面層の厚さが1ミクロン以下の場合であって、アクリル系樹脂等のフィルムにコートした場合であっても、防汚性表面層の性能が長期間安定して持続する防汚性複合樹脂フィルムの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、樹脂フィルムとその表面にシリコーン化合物及び/又はその縮合物と溶媒からなるコーティング材組成物をコートして形成される防汚性表面層からなる防汚性複合樹脂フィルムの製造方法において、
(a)防汚性表面層の厚さが5ミクロン以下であること、(b)溶媒がコーティング材組成物と樹脂フィルムの間の密着性を阻害することがないこと、及び(c)溶媒が樹脂フィルムを溶解して防汚性表面層の防汚性を阻害することがないこと
、を特徴とする防汚性複合樹脂フィルムの製造方法に関する。
また、本発明は、樹脂フィルムとその表面にシリコーン化合物及び/又はその縮合物と溶媒からなるコーティング材組成物をコートして形成される防汚性表面層からなる防汚性複合樹脂フィルムの製法において、溶媒として水及有機溶媒の混合溶媒を用いることを特徴とする防汚性複合樹脂フィルムの製造方法に関する。
本発明では、防汚性表面層の厚さが5ミクロン以下と薄い場合であっても、溶媒がコーティング材組成物と樹脂フィルムの間の密着性を阻害することがない程度の樹脂フィルムの溶解度を有するように調整し、かつ、溶媒が樹脂フィルムを溶解して防汚性表面層の防汚性を阻害することがな程度に、溶媒の樹脂フィルムの溶解度を低くする必要がある。このように両方がバランスする範囲の溶媒を対象とする樹脂フィルムごとに選定することとなる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば表面防汚性複合樹脂フィルムの製造方法に関するものであり、防汚性表面層の厚さが5ミクロン以下の場合であって、アクリル系樹脂等のフィルムにコートした場合であっても、防汚性表面層の性能が長期間安定して持続する防汚性複合樹脂フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の表面防汚性複合樹脂フィルムは、樹脂フィルムの最表面に、シリコーン化合物及び/又はその縮合物をバインダー成分とするコーティング材組成物をコーティングして、乾燥被膜を形成することによって得られるものである。
【0008】
本発明に使用されるシリコーン化合物は、シロキサン結合を有する珪素化合物であるか、あるいはフィルム状物を形成する過程において、新たにシロキサン結合を有することとなり得る珪素化合物である。
【0009】
シリコーン化合物としては一般式X−Si(−X)(−X)−X(式中、置換基X、X、XおよびXは水素、ハロゲン、1価の炭化水素基、OR(Rは1価の炭化水素基)で表されるアルコキシ基およびOHで表される水酸基から選択される基であり、少なくとも2つは、それぞれアルコキシ基および水酸基から選択される基である。)で表される珪素化合物であり、これらの珪素化合物の少なくとも1つのアルコキシル基が加水分解されているものであってもよい。
【0010】
また、シリコーン化合物の縮合物は、上記一般式の化合物の1種またはそれ以上が加水分解した後、縮合することによって生成するポリシロキサン化合物である。
【0011】
これらの珪素化合物、(ポリ)シロキサン化合物は、アルコキシル基を有する場合、アルコキシル基が加水分解して生成する水酸基を有することができる。これらの珪素化合物および(ポリ)シロキサン化合物は、コーティング材組成物を塗布して乾燥するに際して、少なくとも部分的に縮合して架橋し、多孔質のマトリクスを形成できるものである。従って、この縮合に際しては、生成する全ての水酸基が縮合に関与するとは限らず、一般的には、一部分の水酸基は、そのままの状態で残り得るものである。
【0012】
これら珪素化合物および(ポリ)シロキサン化合物は、架橋して膜を形成するが、置換基の水酸基、または置換基がアルコキシ基の場合はそれが加水分解して生成する水酸基は、珪素化合物同士の縮合によって架橋すると共に、架橋に関与せずに残存するものは、親水性基として機能してコーティング基材等への密着性を向上させることができるものである。
【0013】
このような珪素化合物の分子量は通常40なしい300程度である。また、(ポリ)シロキサン化合物は重量平均分子量が約200なし2000が通常である。しかし場合によっては、その重量平均分子量が約2000以上である場合もある。
【0014】
珪素化合物、(ポリ)シロキサン化合物は、それによって形成されるフィルム状物が親水性となるものが用いられる。一般にこれらをコートした後、100?で熱処理した後の膜の表面水滴接触角が40°以下、好ましくは20°以下、より好ましくは10°以下となるようなフィルム状物を形成できるのが好ましい。
【0015】
コーティング材組成物には、珪素化合物及び/又は(ポリ)シロキサン化合物の他に微粒子を含有させることも行われる。微粒子としては、シリカ系微粒子を用いるのが好ましい。
微粒子の好ましい外径は5〜2000nmである。シリカ系微粒子は、中空のものが好適であり、その外殻の材料は問わないが、好ましい材料として金属酸化物、シリカ等がある。
【0016】
微粒子の外殻の材料としては、SiO、SiOx、TiO、TiOx、SnO、CeO、Sb、ITO、ATO、Al等がある。
【0017】
コーティング材組成物中の微粒子の割合は特に制限はないが、一般的には、微粒子の重量の珪素化合物及び/又は(ポリ)シロキサン化合物の量に対する重量比として、20/70ないし95/5が好ましい。
コーティング材組成物には、必要に応じて触媒を配合してもよい。
触媒としては、特に限定されないが、部分加水分解物及び/あるいは加水分解物が2次元架橋構造になりやすく、加水分解に要する時間を短縮する点から、酸触媒が好ましい。このような酸性触媒としては、有機酸(例えば酢酸、クロロ酢酸、クエン酸)、無機酸(例えば塩酸、硝酸、ハロゲン化シラン等)がある。
アルコキシドの加水分解のため加温してもよく、特に40〜100?の条件下で2〜100時間かけて加水分解反応を促進させると、未反応アルコキシド基を限りなく少なくすることができる。
【0018】
コーティング材組成物は、水または水と他の液体、例えば有機溶媒との混合物を含むのが好ましい。この有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール(IPA)、n−ブタノール、イソブタノール等の低級脂肪族アルコール類、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコール誘導体、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコール誘導体、及びジアセトンアルコール等の親水性有機溶媒を挙げることができ、これらからなる群より選ばれる1種あるいは2種以上を使用することができる。更に、これらの親水性有機溶媒と併用して、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトオキシム等の1種あるいは2種以上のものを使用することができる。
【0019】
水と有機溶媒からなる混合溶媒を用いる場合の水と有機溶媒の比率(重量)は、50対50ないし90対10である。
コーティング材組成物は、ベースとなる樹脂フィルムの表面に塗布して塗膜を乾燥することにより防汚性表面層を形成させることができる。
【0020】
なお、コーティング材組成物には、必要に応じてレベリング材や粘度調整剤を添加することもできる。
【0021】
本発明で用いられるベースとなる樹脂フィルムは、特に限定されないが、ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂系、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂系、トリアセチルセルロース、ポリイミド、PVA系が例示される。なかでも、本発明においては、アクリル樹脂系のフィルムであっても、長期間安定して防汚性の機能を発揮することができる。これら樹脂フィルムの厚さは、1μmないし1ミリメール程度が通常である。
【0022】
コーティング材組成物を樹脂フィルムの表面に塗布する方法としては、浸漬(ディップコート)、ロールコート、グラビアコート、マイクログラビアコート、フローコート、カーテンコート等が例示される。樹脂フィルムに塗布されたコーティング材組成物はこれを乾燥させた後、熱処理することが好ましい。熱処理により被膜の機械的な強度が向上する。
【0023】
樹脂スフィルムの表面に形成される防汚性表面層の膜厚は、通常0.01ないし5μmである。
【0024】
実施例を以下に示す。
【0025】
比較例1及び2及び実施例
親水性無機コーティング液(松下電工製フレッセラR)を表1に示す樹脂フィルムの表面にコート後、乾燥させて防汚性表面層(比較例)を設けた。なお、このコート溶媒は、イソプロピルアルコールとプロピレングリコールモノプロピルエーテル(重量比80対20)から構成されている。
一方、親水性無機コーティング液(松下電工製フレッセラR)の溶媒をイソプロピルアルコールのみに調製した後に、同様にして軟質アクリル板にコートして防汚性表面層(実施例1)を設けた。
さらに、親水性無機コーティング液(松下電工製フレッセラR)の溶媒をイソプロピルアルコールと水の混合溶媒(重量比50対50)とする調製をした後に、同様にして軟質アクリル板にコートして防汚性表面層(実施例2)を設けた。
これらの防汚性表面層を設けたアクリル板をウエザオメータ(雰囲気23℃、50%R.H.)に2週間保管後、その表面の水接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

比較例の防汚性表面層の水接触角は40度と比較的高かったが、実施例の防汚性表面層の接触角は15度以下であった。
このように、本発明の製造方法によれば、防汚性の機能を長期間安定して発揮させることができる。
本発明では、防汚性表面層の厚さが5ミクロン以下と薄い場合であっても、溶媒がコーティング材組成物と樹脂フィルムの間の密着性を阻害することがない程度の樹脂フィルムの溶解度を有するように調整し、かつ、溶媒が樹脂フィルムを溶解して防汚性表面層の防汚性を阻害することがな程度に、溶媒の樹脂フィルムの溶解度を低くする必要がある。このように両方がバランスする範囲の溶媒を、対象とする樹脂フィルムごとに選定することとなる。
本実施例では、対象の樹脂が軟質アクリル系の場合に溶媒をIPAとするか、IPAと水の等量(重量)の混合溶媒とすることにより、このバランスをとることができる。一方、IPAにPNPを20重量%配合した混合溶媒では、溶解度が高くなり上記のバランスが保たれていないため、水接触角も高くなったものと考えら得る。
を特徴とする防汚性複合樹脂フィルムの製造方法に関する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の製法によれば、表面防汚性複合樹脂フィルムの防汚性の機能を長期間安定して発揮させることができ、このような表面防汚性複合フィルムは、屋外、トンネル内等において長期間利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムとその表面にシリコーン化合物及び/又はその縮合物と溶媒からなるコーティング材組成物をコートして形成される防汚性表面層からなる防汚性複合樹脂フィルムの製法において、溶媒として水及有機溶媒の混合溶媒を用いることを特徴とする防汚性複合樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
防汚性表面層が、コーティング及びその後の乾燥から形成されることを特徴とする請求項1に記載の表面防汚性複合樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
樹脂フィルムがアクリル系樹脂からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
水及び有機溶媒の比率(重量)が、50対50ないし10対90であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−308560(P2008−308560A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156906(P2007−156906)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000220099)東セロ株式会社 (177)
【Fターム(参考)】