説明

被エッチング部品の製造時の脱水工程に用いる脱水ロール

【課題】 被エッチング部品の製造時の脱水工程に用いた場合に、ヌメリの発生が抑制でき、被エッチング部品の不良率を低減することができる脱水ロールの提供。
【解決手段】 本発明の脱水ロールはポリウレタン多孔質体に銀系抗菌剤が配合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被エッチング部品の製造時の脱水工程に用いる脱水ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスチックフィルムや紙等の帯状シートの巻取機や巻出機で用いる帯状シートの搬送用の案内ローラとしては、銀系抗菌剤を混ぜたゴム又は合成樹脂で胴部の外周面を形成したものが提案されている(特許文献1参照)。また、写真現像機等の水洗槽にて使用されるローラとしては、少なくとも最外部を形成するエラストマー又は合成樹脂にチアゾリン系抗菌剤が配合されたローラが提案されている(特許文献2参照)。このように、種々の製品の製造工程にゴム、エラストマー又は合成樹脂に抗菌剤を配合したローラ(またはロール)が用いられている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−203754号公報
【特許文献2】特開2004−99249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、プリント配線板、リードフレーム、シャドウマスク等エッチングに供される部品(以下、「被エッチング部品」という)を製造する際にも、従来から、ゴム、エラストマー又は合成樹脂からなる脱水用のロールが用いられているが、本発明者らの検討によれば、従来のロールを用いた場合、1週間程で該ロールにヌメリが発生し、このヌメリが被エッチング部品に付着すると、製造された被エッチング部品に種々の不良が生じることが分かった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、被エッチング部品の製造時の脱水工程に用いた場合に、ヌメリの発生が抑制でき、被エッチング部品の不良率を低減することができる脱水ロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 被エッチング部品の製造時の脱水工程に用いる脱水ロールであって、ポリウレタン多孔質体に銀系抗菌剤が配合されている脱水ロール、
〔2〕 被エッチング部品がプリント配線板である、前記〔1〕に記載の脱水ロール。
【発明の効果】
【0007】
本発明の脱水ロールによれば、ポリウレタン多孔質体に銀系抗菌剤が配合されているので、被エッチング部品の製造時の脱水工程に用いた場合、ヌメリの発生が抑制されるとともに、被エッチング部品の不良率を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の脱水ロールは、被エッチング部品の製造時の脱水工程に用いるものであって、ポリウレタン多孔質体に銀系抗菌剤が配合されていることを特徴とする。
【0009】
本発明において「被エッチング部品」とは、例えば、プリント配線板、リードフレーム、シャドウマスク等エッチングに供される部品をいう。「被エッチング部品の製造時の脱水工程」は特に限定されず、例えば、プリント配線板の製造時の脱水工程を例示すれば、基材(銅張り積層板)へのドライフィルムのラミネート前、基材(銅張り積層板)へのソルダーレジストの塗布工程前、基材(銅張り積層板)の防錆処理工程前などが挙げられる。
【0010】
本発明において使用される脱水ロールは、ポリウレタン多孔質体に銀系抗菌剤が配合されている。該脱水ロールはポリウレタン樹脂と銀系抗菌剤を混練し、常法にしたがって、化学的発泡法または物理的発泡法により製造することができる。
【0011】
ポリウレタン樹脂は、ポリオール、鎖長剤及びイソシアネート等の原料を重合して得られるものであれば特に限定されない。例えば、ポリオールとしては、通常のポリウレタンの製造に使用され、分子中にヒドロキシル基を2個以上有するものであれば特に限定されず、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0012】
鎖長剤としては、通常のポリウレタンの製造に使用され、分子中にヒドロキシル基を2個以上有する短鎖ジオール化合物であれば特に限定されず、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチルペンタンジオール、ノナンジオール、オクタンジオール、ジメチロールヘプタン等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0013】
イソシアネートとしては、通常のポリウレタンの製造に使用され、末端にイソシアネート基を2個以上有するものであれば特に限定されず、例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート及びその水素添加物;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環族ポリイソシアネート;テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0014】
ポリウレタン樹脂は公知の方法で製造することができ、分子内に活性水素基を含まない有機溶剤の存在下、又は非存在下で、ポリオールと鎖長剤とイソシアネートとを、ワンショット法または多段法により、20〜150℃で2〜10時間反応させる方法等が挙げられる。ここで、各成分の添加順序は特に限定されない。また、反応終点は、粘度でモニターするのが好ましい。
【0015】
前記有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチルピロリドン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられる。
【0016】
銀系抗菌剤としては市販のものを用いればよく、例えば、ノバロンAG300(東亜合成株式会社製)が好適である。
【0017】
化学的発泡法により脱水ロールを製造する場合、ポリウレタン樹脂に銀系抗菌剤および微孔形成用の多孔化剤を混練したものを押出成形などで中空ロールに成形し、次いで溶媒を用いて前記中空ロールに含まれる多孔化剤を抽出除去する方法を例示することができる。多孔化剤としては、化学的発泡法に用いられる公知のものであれば特に限定されず、例えば、ショ糖、デキストリン、ペンタエリスリトール、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、尿素などが上げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。また、溶媒としては、多孔化剤を溶解可能なものであれば特に限定されず、通常は水その他の水系溶媒が用いられる。
【0018】
物理的発泡法により脱水ロールを製造する場合、ポリウレタン樹脂に銀系抗菌剤および公知の発泡剤(例えば、炭酸ガス、フロンなど)を混練したものを押出成形などで中空ロールに成形する方法を例示することができる。
【0019】
得られた脱水ロールは、微細な連続気泡を有するポリウレタン多孔質体に銀系抗菌剤が配合されている。脱水ロールは、被エッチング部品の製造時の脱水工程に用いられるが、該脱水ロールを製造工程に組み込む場合、該脱水ロールにシャフトを圧入接着した状態で用いられる。脱水ロールの使用形態は任意であるが、その一例として、図1に示すように、2本の脱水ロール1,1の胴部外周面が互いに接するように脱水ロールを製造ラインに装着し、搬送されてきた被脱水物2(例えば、水洗後の基材)を脱水ロール1,1の間を通すようにして脱水する方法を挙げることができる。
【0020】
本発明の脱水ロールを用いれば、ヌメリの発生を長期間(例えば、3週間)抑制することができる。そして、これにより被エッチング部品の不良率が低減される。また、定期的に行われる脱水ロールの洗浄作業についても、洗浄周期(サイクル)を延長することができるとともに洗浄時間も短縮される。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【0022】
(脱水ロールの製造例1)
ポリウレタン樹脂(HILACK MP−1051T25,トーヨーポリマー株式会社製)100重量部と銀系抗菌剤(ノバロンAG300,東亜合成株式会社製)0.5重量部を混練したものに炭酸ガスを圧入し、押出成形にて中空ロール状の多孔質体を得た。そして、得られた多孔質体に塩化ビニル製のシャフト(長さ720mm)を圧入接着し、研磨加工することにより、外形60mm,長さ700mmの真円状の脱水ロール(本発明品)を得た。
【0023】
(脱水ロールの製造例2)
銀系抗菌剤を混練しないこと以外は上記「脱水ロールの製造例1」と同様にして脱水ロール(比較品)を製造した。
【0024】
(基材の脱水試験の概要)
基材(銅張り積層板)の表裏面にドライフィルムをラミネートしたプリント配線板用シート(以下、「シート」という)の製造ラインにおいて、図2に示す水洗部と乾燥部の間に2本の脱水ロールを上下に対向して装着した。そして、水洗工程を経た基材を脱水ロールの間を通すように搬送させた後、乾燥工程とラミネート工程を経てシートを製造した。得られたシートは、別ラインにて露光工程およびエッチング工程に供され、プリント配線板を製造した。製造されたプリント配線板は外観検査装置を用いて全数を検査した。不良品のうちパターニング不良(欠け、断線または銅残り)の個数を集計し、脱水工程が原因の不良率を求めた。なお、上記シートの製造ラインは24時間稼動で、シートの製造能力は300,000〜400,000シート/月である。
【0025】
(脱水試験1:不良率の測定1)
脱水試験に当たっては、複数の同一設計からなるシート製造ラインのうち、2つの製造ラインA,Bを使用し、まず比較品を製造ラインA,Bに装着して2ヶ月間連続でシートを製造し、得られたシートを用いてプリント配線板を製造した。表1に不良率の結果を示す。この間、通常通り7日ごとに比較品を取り出し、1本当たり30分間比較品を手洗浄した。
【0026】
(脱水試験:不良率の測定2)
製造ラインAに本発明品を装着するとともに、製造ラインBに比較品を装着して21日間連続でシートを製造し、得られたシートを用いてプリント配線板を製造した。この間、上記「脱水試験:不良率の測定1」とは異なり、脱水ロールの洗浄は行わなかった。表1に不良率の結果を示す。
【0027】
(脱水試験:ヌメリの発生状況)
製造ラインAに本発明品を装着するとともに、製造ラインBに比較品を装着して21日間連続でシートを製造した。この間、7日ごとに本発明品および比較品を取り出し、ヌメリの発生状況を手で調べた。表2に結果を示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
まず、表2の結果から、本発明品を使用した場合、21日経過時点でもヌメリが発生しなかったのに対し、比較品を使用した場合、7日経過するとヌメリが発生することが確認された。このことから、本発明品を使用することにより、脱水ロールの洗浄サイクルを従来の7日/回から21日/回と3倍に延ばすことが可能となった。また、21日経過時点で本発明品を手洗浄したところ、洗浄時間を30分/本(比較品)から5分/本(本発明品)へと短縮できることが分かった。これは、21日/回の洗浄サイクルで本発明品を洗浄した場合、本発明品にヌメリが発生していないことによる。
【0031】
さらに、表1の脱水試験2の結果から、本発明品を使用した場合、パターニング不良が有意に減少することが分かった。また、製造ラインBについての脱水試験1,2の結果から、比較品の洗浄サイクルを7日/回から21日/回と延長すると不良率が有意に悪化することが分かった。これは、表2の比較品の結果と併せて考えると、脱水ロールにヌメリが発生している状況下で基材を脱水したことが原因と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、被エッチング部品の製造時の脱水工程に用いる脱水ロールとして広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】脱水ロールの使用形態の一例を示す外観斜視図である。
【図2】プリント配線板用シートの製造工程図である。
【符号の説明】
【0034】
1 脱水ロール
2 被脱水物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被エッチング部品の製造時の脱水工程に用いる脱水ロールであって、ポリウレタン多孔質体に銀系抗菌剤が配合されている脱水ロール。
【請求項2】
被エッチング部品がプリント配線板である、請求項1に記載の脱水ロール。





【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−313528(P2007−313528A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144522(P2006−144522)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(000222417)トーヨーポリマー株式会社 (9)
【出願人】(000236931)株式会社トッパンNECサーキットソリューションズ (54)