説明

被処理材の処理試験設備

【課題】被処理材を処理液に接触させる処理を終了してから水洗を開始するまでの移行時間を1秒以下にできる処理試験設備を提供する。
【解決手段】被処理材を固定する固定装置(5)と、前記固定装置(5)に固定された被処理材に処理液を噴霧する装置(3)と、前記固定装置に固定された被処理材に水洗液を噴霧する装置(4)と、処理液を収容する処理液タンク(2)と、前記処理液タンク(2)から処理液を導出し、導出した処理液を、前記処理液を噴霧する装置(3)に供給する供給系統(11)と前記処理液タンク(2)に戻して循環する循環系統(10)を有する供給・循環装置と、処理液の噴霧を制御し、水洗液の噴霧を制御し、処理液の噴霧を停止してから水洗液の噴霧を開始するまでの時間を制御し、かつ処理液の噴霧開始と連動して処理液の循環を停止し、処理液の噴霧停止と連動して処理液の循環を開始する制御を行う制御装置(21)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理材を処理液に接触させる処理を行った後水洗する処理を行う処理試験設備に関する。
【背景技術】
【0002】
実製造を行う金属板の表面処理設備における処理を実験室の試験設備でシミュレートすることは、新製品の開発や既存製品の改良等では必須である。表面処理分野では複数の処理液を使用して複数の処理を行うことが多く、この場合、各処理の間で、水洗による洗浄処理を行うのが普通である。実製造設備では、各処理設備が金属板通板方向に連続的に配置され、各処理間の移行時間は1秒以下となる場合が多い。一方、試験設備では、パイロットライン等の大規模な設備を除くと、各処理をバッチ処理する設備が普通である。バッチ処理する試験設備では、各処理間の移行時間を実製造での移行時間に対応する1秒以下にできない。
【0003】
すなわち、通常採用されているバッチ処理する試験設備では、被処理材を処理装置の自動昇降設備に手動でセットし、次いで、自動で、設定した時間だけ処理液に浸漬した後引き出し、引き出した被処理材を手動で自動昇降装置から外す。複数の処理を行うときは、処理液を収容した処理槽と自動昇降設備を各々複数準備し、上記の操作を繰り返す。この処理方法で複数の処理を行うと、各処理の移行時間を3秒以下にできない。また、試験チャンスにより移行時間が変動する問題や、移行時間をできるだけ短くしようとして急いで作業を行おうとすると作業事故を誘発する危険がある。
【0004】
めっき鋼板の表面処理では、処理液との接触により表面状態が変化する場合が多く、この移行時間の間に表面状態が変化する場合も多い。この移行時間の間に表面状態が変化する処理では、試験設備で実製造設備を正確にシミュレーションすることができない。
【0005】
例えば、溶融亜鉛めっき鋼板のめっき表面に無機系酸化皮膜を形成することでめっき鋼板の品質特性を改善する技術が種々提案されている。溶融亜鉛めっき鋼板では、めっき表面にアルミニウムの酸化皮膜が生成している。アルミニウムの酸化皮膜は反応性が劣ることから、めっき表面に所望の品質特性を有する無機系酸化皮膜を安定して形成するには、アルカリ前処理等を施してめっき表面に生成しているアルミニウムの酸化皮膜を除去した後、水洗し、その後めっき表面に無機系酸化物を形成する処理を行う必要がある(例えば特許文献1参照)。アルカリ前処理時間が不十分であると、アルミニウムの酸化皮膜の除去が不十分になり、その後の無機系酸化皮膜形成処理で所望の無機系酸化物皮膜を形成することができない。アルカリ前処理時間が長すぎると表面ムラを発生する問題がある。
【0006】
アルミニウムの酸化皮膜は、十分な量のアルカリ液が供給されるアルカリ前処理工程で除去されるだけでなく、アルカリ前処理工程ののち(アルカリ前処理槽を出たのち)、水洗開始までの間でも除去されると考えられる。実製造設備において上記問題の発生を防止できる条件を、試験設備で検討するには、試験設備において各処理の移行時間を1秒以下にできるようにする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−302812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、被処理材を処理液に接触させる処理を行った後水洗液で水洗する処理を行う際に、被処理材を処理液に接触させる処理を終了してから水洗を開始するまでの移行時間を1秒以下にできる処理試験設備を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の手段は、被処理材を固定する固定装置と、
前記固定装置に固定された被処理材に処理液を噴霧する装置と、
前記固定装置に固定された被処理材に水洗液を噴霧する装置と、
処理液を収容する処理液タンクと、
前記処理液タンクから処理液を導出し、導出した処理液を、前記処理液を噴霧する装置に供給する供給系統と前記処理液タンクに戻して循環する循環系統を有する供給・循環装置と、
処理液の噴霧を制御し、水洗液の噴霧を制御し、処理液の噴霧を停止してから水洗液の噴霧を開始するまでの時間を制御し、かつ処理液の噴霧開始と連動して処理液の循環を停止し、処理液の噴霧停止と連動して処理液の循環を開始する制御を行う制御装置と、
を備えることを特徴とする被処理材の処理試験設備である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被処理材を処理液に接触させる処理工程から水洗液で水洗を行う工程への移行時間を1秒以下にでき、またその移行時間の変動を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る処理試験設備の要部及び制御フローを示す概略図である。
【図2】処理液の噴霧制御、水洗液の噴霧制御のタイムチャートを示す図である。
【図3】三方電磁弁出側の噴霧用配管の弁の開閉と連動させて、前記三方電磁弁出側の循環用配管の弁を、前記噴霧用配管の弁とは開閉動作が逆になるように開閉するスイッチの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の処理試験装置の考え方を説明する。
【0013】
従来の試験設備で各処理間の移行時間が数秒もかかっていたのは、被処理材の移送時間が必要なためである。そこで、本発明では、試験材は移送せずに固定することとした。次に、固定した被処理材に処理液を接触させる方法を検討した。従来の方法は、被処理材を処理槽に浸漬する方法であったが、この方法は、処理液を処理槽に充填する時間と処理槽から排出する時間が必要となり、移行時間の短縮には限界が有る。そこで、浸漬法に代わる方法として、スプレー法を採用することとした。スプレー法では、噴霧開始、終了をほぼ瞬時に行うことが可能となる。水洗も、スプレー法を採用することとした。これによって、水洗開始を瞬時に行うことが可能になる。
【0014】
処理液は、処理液タンクに収容し、処理液タンクの処理液を、ポンプを用いて導出し、処理液の導出系統に三方弁(三方電磁弁)を設け、三方電磁弁出側の処理液の送液系統として、処理液を処理液タンクに戻して循環する循環系統と、処理液を噴霧装置に送液する噴霧系統の2系統を配置する。ポンプは常時作動させる。処理液を噴霧しないときは、三方電磁弁出側の噴霧系統の弁を閉、循環系統の弁を開として処理液を循環させ、処理液を噴霧するときは、三方電磁弁出側の噴霧系統の弁を開き、それに連動して循環系統の弁を閉じて、処理液の噴霧を開始し、それに連動して処理液の循環を停止する。これによって、処理液の噴霧開始と終了を瞬時に行い、また処理液の噴霧開始時の噴霧液量の変動を抑制する。また、処理液の噴霧停止から水洗液の噴霧開始までの時間を設定するタイマーを設け、処理液の噴霧停止から水洗液の噴霧開始までの移行時間を任意の時間に調整できるようにする。タイマーの設定時間を0.1秒の単位で設定可能とすることで、噴霧時間が1秒未満の短時間の噴霧処理を行うことが可能になる。またタイマーの設定時間を0秒とすることで、処理液の噴霧停止とほぼ同時に水洗液の噴霧を開始し、処理液の噴霧工程から水洗工程への移行時間を0秒にすることができるようになる。
【0015】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を詳しく説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る処理試験設備の要部及び制御フローを示す概略図である。図1において、1は処理液、2は処理液タンク、3は処理液を噴霧する噴霧装置、4は水洗液を噴霧する噴霧装置、5は被処理材6を固定する固定装置である。噴霧装置3、4は特に限定されない。通常使用されるスプレー装置を使用できる。固定装置5で被処理材を固定する方法は特に限定されない。処理液1も特に限定されない。アルカリ液、酸液等の各種処理液を用いることができる。
【0017】
7は処理液導出管で、途中にポンプ8と、該ポンプ8の下流に三方弁(三方電磁弁)9を備え、三方電磁弁9の出側は、処理液を処理液タンク2に戻す循環用配管10及び処理液を噴霧装置3に送液する噴霧用配管11に接続されている。これらは、処理液の供給・循環装置を構成する。
【0018】
12は、水洗液を噴霧装置4に供給する水洗液供給管で、途中に弁(電磁弁)13が設置されている。14は固定装置5の下方に配置された受液タンクで、被処理材6に衝突後下方に流下する処理液、水洗液を溜める。
【0019】
20は操作パネル、21は制御装置である。制御装置21は、制御部22、タイマー23〜25を備える。制御部22は、三方電磁弁9、電磁弁13の開閉を制御する。タイマー23は処理液の噴霧時間、タイマー24は処理液の噴霧を停止してから水洗液の噴霧を開始するまでの時間、タイマー25は水洗液の噴霧時間を設定する。各タイマーは、設定時間を0.1秒の単位で任意の時間に設定可能である。
【0020】
本設備を用いて、処理液の噴霧工程、水洗液の噴霧工程を行う方法を説明する。図2は、処理液の噴霧工程、水洗液の噴霧工程のタイムチャートを示す図である。
【0021】
処理液の噴霧工程を行う前に、以下の準備をする。
【0022】
電磁弁13を閉じた状態で、ポンプ8を作動させ、三方電磁弁9出側の噴霧用配管11の弁を閉じ、循環用配管10の弁を開いて、処理液を循環させる。タイマー23に処理液の噴霧時間t1、タイマー24に処理液の噴霧を停止してから水洗液の噴霧を開始するまでの時間t2、タイマー25に水洗液の噴霧時間t3を設定する。固定装置5に被処理材6を固定する。
【0023】
前記準備作業を完了したら、処理液の噴霧工程から水洗液の噴霧工程までの工程を行う。この一連の工程は、操作パネル20に設置されているスタートボタンでスタートさせる。
【0024】
操作パネル20に設置されているスタートボタン(図示なし)を押す。その信号は制御装置21の制御部22に出力される。制御部22は、三方電磁弁9出側の噴霧用配管11の弁を開き、それに連動して循環用配管10の弁を閉じるように制御し、同時にタイマー23に信号を出力する。この制御により、処理液の噴霧工程が開始され、処理液の循環が停止する。
【0025】
タイマー23は、信号が入力された時からの経過時間を計測し、経過時間が設定時間t1になると信号を制御部22に出力する。制御部22は、この信号を受けると、三方電磁弁9出側の噴霧用配管11の弁を閉じ、それに連動して循環用配管10の弁を開くように制御し、同時にタイマー24に信号を出力する。この制御により、処理液の噴霧工程が終了し、同時に処理液の循環が再開される。
【0026】
三方電磁弁9出側の噴霧用配管11の弁を開き、それに連動して循環用配管10の弁を閉じるようにし、また、三方電磁弁9出側の噴霧用配管11の弁を閉じ、それに連動して循環用配管10の弁を開くようにする制御は、例えば、図3に示すように、三方電磁弁出側の循環用配管の弁の開閉を行うスイッチと、噴霧用配管の弁の開閉を行うスイッチを共用し、一方の配管の弁の開閉を行うスイッチをオンにして当該配管の弁を閉じたときに、他方の配管の開閉を行うスイッチがオフになって当該配管の弁が開くように動作する(例えば循環用配管の弁の開閉を行うスイッチの回路が閉になって当該配管の弁が閉じるとき、噴霧用配管の弁の開閉を行うスイッチの回路が開になって当該配管の弁が開くように動作する)スイッチ回路を採用することで容易に実行できる。この制御を行うことで、噴霧装置への送液と循環系統への送液の切り替え、処理液の噴霧、停止を一つの操作で同時にかつ簡単に行うことができる。
【0027】
タイマー24は、信号が入力された時からの経過時間を計測し、経過時間が設定時間t2になると信号を制御部22に出力する。制御部22は、この信号を受けると、水洗液供給管12の電磁弁13を開くように制御し、同時にタイマー25に信号を出力する。この制御により、水洗液の噴霧工程が開始される。
【0028】
タイマー25は、信号が入力された時からの経過時間を計測し、経過時間が設定時間t3になると信号を制御部22に出力する。制御部22はこの信号を受けると電磁弁13を閉じるように制御する。この制御により、水洗液の噴霧工程が終了、すなわち処理液の噴霧工程から水洗液の噴霧工程までの一連の工程が終了する。
【0029】
次いで、被処理材を固定装置から取り外す。取り外した被処理材は、必要に応じて乾燥、その他の処理を施す。本設備を用いて引き続き別の被処理材を処理するときは、前記の操作を繰り返す。
【0030】
本設備によれば、処理液を噴霧する処理を行った後水洗液で水洗する処理を行う一連の処理を、処理液の噴霧工程から洗浄液の噴霧工程に移行する移行時間の変動を抑制しながら確実に行うことができる。また、水洗液の処理液の噴霧を停止してから水洗液の噴霧を開始するまでの時間t2を0秒に設定することで、処理液噴霧停止と同時に水洗液の噴霧を開始することができる。
【0031】
実製造設備が、被処理材を処理液に接触させる処理を行った後水洗液で水洗する処理を行う工程を有し、被処理材を処理液に接触させる処理を終了してから水洗を開始するまでの移行時間が1秒以下である条件を有していても、本発明設備を用いることで、当該実製造設備の条件を的確にシミュレーションすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の設備を用いると、被処理材を処理液に接触させる処理から水洗液での水洗を行う工程への移行時間を1秒以下(0秒を含む)の任意の時間に設定できることから、実製造設備において新製品を開発し、又は既存製品の改良等を行う際に、実施設備の条件をシミュレートできる試験設備として利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 処理液
2 処理液タンク
3、4 噴霧装置
5 固定装置
6 被処理材
7 処理液導出管
8 ポンプ
9 三方弁(三方電磁弁)
10 循環用配管
11 噴霧用配管
12 水洗液供給管
13 弁(電磁弁)
14 受液タンク
20 操作パネル
21 制御装置
22 制御部
23〜25 タイマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理材を固定する固定装置と、
前記固定装置に固定された被処理材に処理液を噴霧する装置と、
前記固定装置に固定された被処理材に水洗液を噴霧する装置と、
処理液を収容する処理液タンクと、
前記処理液タンクから処理液を導出し、導出した処理液を、前記処理液を噴霧する装置に供給する供給系統と前記処理液タンクに戻して循環する循環系統を有する供給・循環装置と、
処理液の噴霧を制御し、水洗液の噴霧を制御し、処理液の噴霧を停止してから水洗液の噴霧を開始するまでの時間を制御し、かつ処理液の噴霧開始と連動して処理液の循環を停止し、処理液の噴霧停止と連動して処理液の循環を開始する制御を行う制御装置と、
を備えることを特徴とする被処理材の処理試験設備。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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