説明

被処理水から放射性物質を除去する方法及び該方法に使用する浄水装置

【課題】海水及び水道水等の放射性物質を含む水から放射性物質を飲料に適する程度にまで除去できる浄水方法及び該方法に使用する浄水装置を提供する。
【解決手段】放射性物質を含む被処理液を、前処理濾過した後、5メガパルス以上の圧力で第1のRO膜を通過させ、通過させた濾液を貯水し、該貯水し濾液を0.8メガパルス以上の圧力で再度第2のRO膜を通過させことにより、飲料水に適する浄水とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放射性物質で汚染された海水、プール、水道水等の被処理水から、放射性物質を飲料に適する程度以上に除去する方法及び該方法に使用する浄水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、原子力発電所からの放射性ヨウ素及びセシウムのような放射性物質とホウ素が海水や水道水を汚染する問題が発生している。特にヨウ素131は、乳児が摂取すると、咽頭がんになる危険性があることから、大変重大な問題となっている。活性炭を使用した市販の浄水器では、ある程度のヨウ素は除去できるが、人体に無害となる程度には到底除去できない。セシウムは市販の浄水器では殆ど除去できない。ホウ素は、多量に摂取すれば死に至ると言われているが、ホウ素は、水よりわずかに分子が大きいだけなので、市販の浄水器では、飲用に適する程度までは、到底除去できない。
【0003】
一方、5メガパスカル以上の超高圧で使用するRO膜は、海水中のナトリウムイオンを除去できることが知られている。本発明者は、放射性ヨウ素及びセシウムのような放射性物質とホウ素を含む海水を、超高圧でこのRO膜を通過させたところ、ナトリウムイオンの全てとある程度の放射性ヨウ素、セシウム及びホウ素を除去できることを見出した。しかしながら、放射性ヨウ素、セシウム及びホウ素等は、飲用に供することができる程度には、到底除去できないのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、請求項1に記載の発明は、海水、プール及び水道水等の放射性物質及びホウ素を含む被処理水から放射性物質及びホウ素を飲料に適する程度に除去できる浄水方法を提供することを目的とする。
【0005】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の浄水方法に使用する浄水装置を提供することを目的とする。
【0006】
更に、請求項6に記載の発明は、請求項2に記載の発明の目的に加えて、本来なら三相200Vの電源が必要であるが、被災地のような電源の全く無い場所でも、5メガパスカル以上の超高圧をRO膜に容易にかけることのできる浄水装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明者は、鋭意研究の結果、ホウ素や放射性物質を含む海水を、圧力5メガパルス以上(高圧)でRO膜を通過させることによって、ナトリウムイオンは全て除去でき、ホウ素や放射性物質も或る程度除去できることがわかったので、濾過した液を更に0.8メガパルス以上の圧力でRO膜を通過させることによって、ホウ素はもとより、放射性ヨウ素及びセシウムも飲料用に支障がない程度以上にほぼ完全に除去できるという事実を見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち本発明は、放射性物質を含む被処理液を、前処理濾過した後、5メガパルス以上の圧力で第1のRO膜を通過させ、通過させた濾液を貯水し、該貯水した濾液を0.8メガパルス以上の圧力で再度第2のRO膜を通過させることを特徴とする(請求項1)。
第2のRO膜を通過させる圧力は、5メガパルスより小さい圧力とするのが、装置が簡略化されることから好ましく(請求項2)、0.8メガパルス以上、特に1.2メガパルス以上で5メガパルスより小さい圧力とするのが好ましい。
【0009】
本発明の浄水装置は、被処理液の前濾過装置と、該前濾過装置で濾過された濾液を圧力5メガパルス以上で導入する第1のRO膜の膜濾過部と、該第1のRO膜の膜濾過部を圧力5メガパルス以上に加圧する超高圧ポンプと、該第1のRO膜の膜濾過部を通過した液を貯水する貯水槽と、該貯水槽内の液を更に圧力0.8メガパルス以上で導入、濾過する第2のRO膜の膜濾過部と、該第2のRO膜の膜濾過部を圧力0.8メガパルス以上に加圧する高圧ポンプ(超高圧ポンプを含む)と、を具備することを特徴とする(請求項3)。
【0010】
前記前濾過装置は、殺菌作用を有する塩素(例えば水道水中の塩素)除去機能を具備するのが好ましい(請求項4)。
【0011】
前記RO膜の膜濾過部は、シート状(平膜)のRO膜を多数回巻きつけた一端が閉鎖した多孔筒体と、該多孔筒体を内装する外筒とを具備し、該外筒には、処理する液体の流入口と、前記多孔筒体からの浄化された浄水の出口と、RO膜の浄化作用により生ずる濃縮水の出口と、を具備するように構成するのが好ましい(請求項5)。
【0012】
ディゼルエンジンの駆動により回転するシャフトと、該シャフトにシャフト同士を連結するように固定された第1のギヤボックスと第2のギヤボックスとを具備し、該シャフトの回転により、前記前濾過装置へ被処理液を移送するポンプの駆動軸を回転させ、前記第1のギヤボックスを介して第1のRO膜の膜濾過部を圧力5メガパルス以上に加圧する超高圧ポンプの駆動軸を回転させると共に、前記第2のギヤボックスを介して該第2のRO膜の膜濾過部を圧力0.8メガパルス以上に加圧するポンプの駆動軸を回転させるようにするのが好ましい(請求項6)。
【0013】
前記シャフトに固定したプーリと前記ポンプの駆動軸に固定したプーリとをベルトで連結して、前記ポンプの駆動軸を回転させるようにするのが好ましい(請求項7)。プーリの代わりに歯車を使用し、歯車同士を歯合させ、ポンプの駆動軸を回転させても良い。
【0014】
シャフトの先端は、設置面に載置されたシャフト支持部材の軸受で、回動自在に嵌合支持するのが好ましい(請求項8)。
【発明の効果】
【0015】
本発明のうち請求項1に記載の発明によれば、RO膜を使用し、2段階濾過することによって、海水、プール及び水道水等のホウ素、放射性物質を含む水からホウ素、放射性物質を飲料に適する以上に除去できる。
【0016】
また請求項6に記載の発明によれば、電源の無い場所でも、1台のディゼルエンジンを使用し、3台のポンプをそれぞれ回転数を変えて回転させることができるから、簡単な装置で海水及び水道水等のホウ素、放射性物質を含む水からホウ素、放射性物質を飲料に適する程度以上に除去できるから、電源の無い被災地で直ちに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の放射能汚染水を飲料水に浄化する一実施例を示すフロー図である。
【図2】本発明の放射能汚染水を飲料水に浄化する浄水装置の一実施例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0018】
1 ディゼルエンジン
2 シャフト
3 第1のギヤボックス
4 第2のギヤボックス
5 シャフト支持部材
6a,6b,6c プーリー
7a,7b,7c プーリー
8a,8b,8c ベルト
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の放射能汚染水を飲料水に浄化する一実施例を示すフロー図である。
【0021】
放射能汚染した海水をインペラーポンプ(P―1)で吸い込んで、殺菌作用のある塩素除去濾過装置(前濾過装置)に供給し、前濾過装置を通過した濾液を濾過水槽に貯水する。濾過水槽の濾液を、超高圧ポンプ(プランジャーポンプ)(P―2)で5メガパルス以上の圧力(5〜6メガパルス)で第1のRO膜濾過部(RO―1)を通過させる。第1のRO膜濾過部を通過した濾液は清水槽に貯水される。この状態でナトリウムイオンの全ては除去され、水の分子は通過する。多少の放射性ヨウ素、セシウム及びホウ素は通過し、この浄水(清水)に含まれる。飲料水としては不合格である。
【0022】
上記殺菌作用を有する塩素除去濾過装置は、水道水中の殺菌作用を有する塩素を除去する機能を有する濾過装置の意味である。殺菌作用を有する塩素を除去する機能を付与するには、現在市販の殺菌作用を有する塩素を除去する機能を有する浄水器と同様にすればよい。このような塩素は、RO膜を傷めるので、除去するようにするのが良い。殺菌作用を有する塩素を除去する機能を有するなら、例えば活性炭濾過装置等、通常の前濾過装置を使用することができる。
【0023】
清水槽中の濾液をポンプ(P―3)によって、1.2メガパルスの圧力で再度第2のRO膜を通過させる。濾過した濾液は、放射性ヨウ素、セシウム及びホウ素の90〜99%が除去される。飲料水として合格である。0.8メガパルス以上であれば同様の結果が得られるが、実用的な流量を得るには、1.2メガパルス以上の圧力とするのが良い。
【0024】
被処理液が海水の場合は、約30%の飲料水が得られ、濃縮水は約70%となる。被処理液が水道水の場合は、約80%の飲料水が得られ、濃縮水は約20%となる。
【0025】
前記RO膜濾過部は、一端が閉鎖した多孔筒体にシート状のRO膜を多数回巻きつけ、これを外筒に内装する。該外筒には、処理する液体の流入口と、多孔筒体からの浄化された清水の出口と、RO膜の浄化作用により生ずる濃縮水の出口とが形成されている。上記外筒には、これ以外の流入口と出口は形成されていない。
【0026】
本発明に使用する第1のRO膜濾過部は、海水の淡水化に使用される超高圧RO膜であり。ナトリウムイオンの全てを除去する能力を有するものであるが、放射性物質、ホウ素は、多少残存する。5メガパルス以上の圧力で濾過されるが、この圧力以下では濾過されないRO膜である。
第2のRO膜濾過装置は、0.8メガパルス以上の圧力で濾過できるものであり、この圧力以下では濾過できないものである。0.8メガパルスより小さい圧力で濾過する(このようなRO膜を使用する)と、ホウ素及び放射線物質は、完全若しくは略完全には除去できない。
【0027】
0.8メガパルス以上の圧力で濾過するということは、0.8メガパルスで濾過できるRO膜を使用し、0.8メガパルスで濾過しても、それ以上の圧力で濾過しても良い意味である。例えば3メガパルスで濾過できるRO膜を使用し、3メガパルスの圧力で濾過しても、それ以上の圧力で濾過しても良いという意味である。
【0028】
図2は、本発明の放射能汚染水を飲料水に浄化する浄水装置の一実施例を示すフロー図である。
【0029】
ディゼルエンジン1の駆動により、シャフト2は回転する。シャフト2には、第1のギヤボックス3と第2のギヤボックス4とが、シャフト2,2同士を連結するように固定されている。尚、ディゼルエンジン1、第1のギヤボックス3と第2のギヤボックス4とは、設置面に載置されている。
【0030】
シャフト2の先端は、設置面に載置されたシャフト支持部材5の軸受に、回動自在に嵌合支持されている。
【0031】
シャフト2には、第1のギヤボックス3の手前と、第1のギヤボックス3と第2のギヤボックス4との間と、第2のギヤボックス4の後方に、プーリー6a,6b,6cが固定されている。インペラーポンプ(P―1)、超高圧ポンプ(P―2)及び高圧ポンプ(P―3)の駆動軸には、プーリー7a,7b,7cが固定されている。プーリー6aと7a,6bと7b,6cと7cとは、ベルト8a,8b,8cで連結されている。従って、シャフト2が回転すれば、プーリー6aと7a,6bと7b,6cと7cは、ベルト8a,8b,8cにより回転して、3台のポンプ(P―1)、(P―2)、(P―3)の駆動軸を回転させる。尚、プーリー6a,6b,6c及びプーリー7a,7b,7cとを歯車とし、歯車同士を歯合させるようにしても勿論良い
【0032】
第1のギヤボックス3でシャフトの回転数を高速回転に変えて、超高圧ポンプ(P―2)を高速で回転させる。尚、超高圧ポンプによっては、高速回転させなくとも、5メガパルス以上の圧力が出せるものもあるので、超高圧ポンプの種類に応じて、回転数を設定すればよい。5メガパルス以上の圧力で濾過水槽中の濾液を第1のRO膜濾過部に送り、5メガパルス以上の圧力でRO膜濾過部を通過させる。
【0033】
第2のギヤボックスでは、0.8メガパルス以上の圧力をポンプが出せるようにするものであるから、この設定圧力に応じて、第2のギヤボックスで回転数を減少させたり、増加させる。
【0034】
濾過水槽、清水槽には、レベルスイッチがついていて、水がある程度以下であると、それを検知して、クラッチが切れ、ポンプ(P―2)、(P―3)は、駆動しないように制御されている。また、濾過水槽の水が満タンになると、インペラーポンプ(P―1)は停止するように、レベルスイッチで制御されている。
【0035】
従って、最初インペラーポンプ(P―1)だけが駆動し、吸い込み口からプール内等の放射能汚染水を吸い込んで、濾過装置に送り、濾過装置を通過して、濾過水槽に貯水される。濾過水槽の水が所定の量になると、レベルスイッチがこれを検知し、クラッチが入って、超高圧ポンプ(P―2)が駆動し、カムシャフトやクランクシャフトにより、プランジャーを往復運動させ、濾過水槽の水を5メガパルス以上の高圧で第1のRO膜濾過部(RO―1)を通過させる。RO膜濾過部(RO―1)を通過した水は清水槽に貯水される。清水槽の水が所定の量になると、同様にクラッチが入って、高圧ポンプ(P―3)が駆動し、清水槽の水を0.8メガパルス以上の圧力で第2のRO膜濾過部(RO―2)を通過させる。
【0036】
本発明に使用する超高圧ポンプ(P―2)、高圧ポンプ(P―3)としては、上記実施例では、プランジャーポンプを使用したが、ダイヤフラムポンプを使用することもでき、所定の高圧にできるポンプであれば、特に限定されない。尚、この明細書で高圧ポンプといった場合は、高圧ポンプと超高圧ポンプを含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、海水、プール及び水道水等の放射性物質及びホウ素を含む被処理水から放射性物質及びホウ素を飲料に適する程度以上に除去できる。また、請求項6に記載の本発明によれば、本来三相、200Vの電源が必要であるが、電源がなくとも使用できる構成としたから、電源の無い被災地で支障なく使用することができる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質を含む被処理液を、前処理濾過した後、5メガパルス以上の圧力で第1のRO膜を通過させ、通過させた濾液を貯水し、該貯水した濾液を0.8メガパルス以上の圧力で再度第2のRO膜を通過させることを特徴とする被処理液から放射性物質を除去する方法。
【請求項2】
前記第2のRO膜を通過させる圧力は、0.8メガパルス以上で5メガパルスより小さい圧力である請求項1に記載の放射性物質を除去する方法。
【請求項3】
被処理液の前濾過装置と、該前濾過装置で濾過された濾液を圧力5メガパルス以上で導入する第1のRO膜の膜濾過部と、該第1のRO膜の膜濾過部を圧力5メガパルス以上に加圧する超高圧ポンプと、該第1のRO膜の膜濾過部を通過した濾液を貯水する貯水槽と、該貯水槽内の液を更に圧力0.8メガパルス以上で導入、濾過する第2のRO膜の膜濾過部と、該第2のRO膜の膜濾過部を圧力0.8メガパルス以上に加圧する高圧ポンプと、を具備することを特徴とする被処理液から放射性物質を除去する浄水装置。
【請求項4】
前記前濾過装置は、殺菌作用を有する塩素除去機能を具備する請求項3記載の放射性物質を除去する浄水装置。
【請求項5】
前記膜濾過部は、シート状のRO膜を多数回巻きつけた一端が閉鎖した多孔筒体と、該多孔筒体を内装する外筒とを具備し、該外筒には、処理する液体の流入口と、前記多孔筒体からの浄化された清水の出口と、RO膜の浄化作用により生ずる濃縮水の出口と、を具備する請求項3又は4記載の放射性物質を除去する浄水装置。
【請求項6】
ディゼルエンジンの駆動により回転するシャフトと、該シャフトにシャフト同士を連結するように固定された第1のギヤボックスと第2のギヤボックスとを具備し、該シャフトの回転により、前記前濾過装置へ被処理液を移送するポンプの駆動軸を回転させ、前記第1のギヤボックスを介して第1のRO膜の膜濾過部を圧力5メガパルス以上に加圧する超高圧ポンプの駆動軸を回転させると共に、前記第2のギヤボックスを介して該第2のRO膜の膜濾過部を圧力0.8メガパルス以上に加圧する高圧ポンプの駆動軸を回転させる請求項3〜5のいずれかに記載の放射性物質を除去する浄水装置。
【請求項7】
前記シャフトに固定したプーリと前記ポンプの駆動軸に固定したプーリとをベルトで連結して前記ポンプの駆動軸を回転させる請求項3〜6のいずれかに記載の放射性物質を除去する浄水装置。
【請求項8】
前記シャフトの先端は、設置面に載置されたシャフト支持部材の軸受で、回動自在に嵌合支持されている請求項3〜7のいずれかに記載の放射性物質を除去する浄水装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−207918(P2012−207918A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71316(P2011−71316)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(511080306)株式会社テクノシステム (5)