説明

被加熱物の高周波誘電加熱方法および高周波誘電加熱装置

【課題】冷凍食品等の被加熱物表面への部分的な電界集中を抑制しながら冷凍食品等の被加熱物を均一に且つ急速解凍を可能とする。
【解決手段】対向に配置された電極にて被加熱物を加熱する高周波誘電加熱方法であって、少なくとも一方側の加熱電極が、全体加熱電極と部分加熱電極で構成され、両電極のエアギャップ量を制御することにより、被加熱物表面と内面部への電界強度をコントロールしながら全体加熱と部分加熱を同時に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱物の高周波誘電加熱方法および高周波誘電加熱装置、特に冷凍食品の急速解凍が可能な高周波誘電加熱による被加熱物の加熱方法および加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波誘電加熱による冷凍食品の解凍方法は、高周波誘電加熱の電極構造上、加熱される冷凍食品表面の凹凸によってエアギャップが生じ一部分に電界が集中して解凍ムラが生じることがあり、食品表面への部分的な電界集中を抑制して均一に解凍することが技術的に求められている。その解決策として、解凍中解凍状態検知手段の検知出力を基に、部分加熱可能なスポット電極を上下左右に移動させながら全体加熱を行う方法が提案されている(特許文献1)。また、他の方法として冷凍被加熱物の被挟持面の形状より小さい板面形状の電極を局所的に用いることにより部分加熱を行った後、段階的に電極面積を大きくして全体加熱を行う方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−359064号公報
【特許文献2】特開2007−166952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記提案されている方法のうち、スポット電極を上下左右に移動させながら全体加熱を行う方法は、部分解凍を行うスポット電極を冷凍食品の解凍度合を検出しながら上下左右に移動させることによって、局所的に集中加熱されることを防止できるが、部分的に解凍を行っていくので、解凍に長時間を要し、急速解凍が困難であるという問題点がある。また、部分的に長時間加熱するとドリップが生じ易いという問題点もある。一方、後者の方法でも、同様に部分加熱から全体加熱に段階的に広げていくので、急速加熱が特徴である高周波誘電加熱の特性が発揮されず、急速解凍ができないという問題点がある。
そこで、本発明は、食品表面への部分的な電界集中を抑制しながら食品を均一に且つ急速解凍を可能とする高周波誘電加熱方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明の高周波誘電加熱方法は、対向に配置された電極にて被加熱物を加熱する高周波誘電加熱方法であって、少なくとも片方の電極が全体加熱用電極と部分加熱用電極とからなり、被加熱物と前記全体加熱用電極と前記部分加熱用電極の少なくとも一方の電極との距離を調整しながら、全体加熱と部分加熱を同時に行うことを特徴とするものである。
本発明によれば、被加熱物と全体加熱用電極と部分加熱用電極の少なくとも一方の電極との距離を調整しながら、全体加熱と部分加熱を同時に行うことができるので、被加熱物表面への電界集中を避けることができ、食品の解凍の場合部分的な煮えや褐変を防いでムラなく均一に解凍でき、しかも全体加熱と部分加熱が同時に行われるので、従来と比べて急速解凍が可能となる。
【0006】
また、前記発明において前記被加熱物と電極との距離をエアギャップにより調整して行うことにより、効果的に被加熱物への高周波エネルギーを制御でき、例えば冷凍食品の解凍の場合、部分加熱を一箇所のみ長時間した場合に生じるドリップ発生や焼きや煮え等の過熱を効果的に防ぐことができる。また、被加熱物を誘電損失及び熱伝導率の小さい材料で形成された載置台に載置し加熱することができる。そして、本発明の方法を食品の加熱に適用することよって、従来の高周波誘電加熱よる解凍と比べて急速解凍による均一解凍が可能となる。
【0007】
そして、上記高周波誘電加熱方法を実施する本発明の高周波誘電加熱装置は、対向配置された電極で被加熱物を高周波誘電加熱する加熱装置であって、少なくとも一方の電極が、全体加熱電極と該全体加熱電極に設けられた貫通孔に上下に摺動可能である部分加熱電極からなり、前記全体加熱電極は被加熱物の投影面積よりも大きくかつ前記部分加熱電極は被加熱物の投影面積よりも小さく形成され、前記全体加熱電極と前記部分加熱電極の少なくとも一方の電極が被加熱物との距離の調整を行う手段を設けていることを特徴とするものである。
上記構成を有することによって、請求項1に記載の高周波誘電加熱方法を簡単な装置で確実に行うことができる。
【0008】
また、本発明は、前記全体加熱電極と前記部分加熱電極が電気的に導通していることによって、常に全体加熱と部分加熱を同時に行うことができ、部分加熱電極が全体加熱を妨げることがないので、急速解凍が可能となる。そして、前記全体加熱電極には、複数の部分加熱電極を設けることによって、被加熱物の複雑な形状に対応してより効果的に加熱ムラなく全体の均一加熱が可能となる。さらに、対向に配置された他方の電極が前記被加熱物の形状に追従可能な電極にすることによって、厚みが一様でない不定形の被加熱物でもより良好に均一加熱ができる。また、前記全体加熱電極に結合されたエアチャンバーを有することによって、簡単に部分加熱電極の被加熱物に対するエアギャップ量を調整することができる。前記被加熱物を載置台に配置させて、載置台側に前記被加熱物との距離の調整を行う手段を設けることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高周波誘電加熱方法及び高周波誘電加熱装置によれば、被加熱物の投影面積より小さい部分加熱電極または被加熱物の投影面積よりも大きい全体加熱電極の少なくとも一方の電極と、被加熱物とのエアギャップ量調整により、被加熱物表面と内部への電界強度をコントロールしながら全体加熱と部分加熱を同時に行うことが可能であり、被加熱表面への電界集中を抑制した急速加熱が可能である。従って、本発明を冷凍食品の解凍に適用することによって、従来と比べて不定形な冷凍食品であっても解凍ムラを生じないで急速解凍が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る高周波誘導加熱装置の実施形態の概略模式図であり、誘導加熱開始前の状態を示す。
【図2】図1に示す装置における部分加熱電極のエアギャップを小さくした加熱初期の状態を示す。
【図3】図1に示す装置における部分加熱電極のエアギャップを大きくした加熱終了前の状態を示す。
【図4】本発明に係る高周波誘導加熱装置の他の実施形態の概略模式図であり、誘電加熱開始前の状態を示す。
【図5】本発明に係る高周波誘導加熱装置の上部電極の実施形態の要部断面図である。
【図6】本発明に係る高周波誘導加熱装置のさらに他の実施形態の概略模式図であり、誘電加熱時の状態を示す。
【図7】図6に示す実施形態における全体加熱電極における部分加熱電極の配置状態を示す平面図である。
【図8】実施例1及び比較例1の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面を基に詳細に説明する。
図1は、本発明に係る高周波誘電加熱装置の一実施形態の概略説明図であり、被加熱物を載置台に載せた状態で上部電極がまだ下降してなくて、加熱前の状態を示している。
本発明の高周波誘電加熱装置は、対向配置された下部電極と上部電極のうち一方の電極は少なくとも片方が全体加熱用電極で、片方が全体加熱用電極と部分加熱電極との組合せから構成されている。本実施形態の高周波誘電加熱装置1では、被加熱物が載置される下方側に配置される下部電極2が全体加熱電極10と部分加熱電極11の組み合わせからなり、上部電極3が全体加熱ピン電極となっている。なお、図1において、4は高周波発信機であり、図示していないが、高周波電源及び高周波発振制御回路に接続され、且つ上部電極、及び下部電極を構成する全体加熱電極と部分加熱電極を駆動するそれぞれの駆動手段及びそれを制御する制御回路が設けられている。
【0012】
下部電極2は、被加熱物Mが載置される載置台15を構成するチャンバー体12内に配置され、載置台と所定のエアギャプを有するように設定された全体加熱電極10と該全体加熱電極に対して上下動可能に配置された単一又は複数の部分加熱電極11とから構成されている。全体加熱電極10は、少なくとも被加熱物Mの投影面積よりも大きく、部分加熱電極11は被加熱物の投影面積よりも小さい面積を有し、本実施形態では全体加熱電極10は板状電極板からなり、部分加熱電極11はロッド状の電極ピンから構成されている。全体加熱電極10および部分加熱電極11とも導電率および熱伝導率に優れた導電性材料で形成され、載置台を含むチャンバー体12は非導電性材料で形成されている。
【0013】
部分加熱電極11は、全体加熱電極に形成された摺動穴13に対して電気的に全体加熱電極10と導通した状態で上下動調節可能に形成されている。部分加熱電極11の上下駆動手段として、チャンバー体12を板状の全体加熱電極10で上下に仕切って、上下に加圧チャンバー14a、14bを形成して、各チャンバーにエアを給排気口16a、16bを形成してチャンバー内の圧力を制御できるようにすることによって、全体加熱電極10の摺動穴13に貫通している部分加熱電極11の軸方向位置を制御することができる。例えば図1、図2に示す状態では加圧チャンバー14bの圧力Pbを加圧チャンバー14aの圧力Paよりも高くすることによって、部分加熱電極11が上昇し載置台に対するエアギャップ量L(図3参照)を小さくすることができ、一方加圧チャンバー14bを排気して圧力Pbを弱くすることによって、部分加熱電極11は自重及び圧力差によって下降し、エアギャップ量を大きくすることができる。このように、加圧チャンバー14a、14bの圧力差をコントロールすることによって、部分加熱電極11の軸方向位置を制御でき、載置台とのエアギャップ量を任意に調整することができる。
【0014】
部分加熱電極11は全体加熱電極10と常に導通状態にあるので、部分加熱と全体加熱が常に同時に行われることになり、部分加熱により被加熱物の厚みの厚い部分に強い高周波電界を印加させて高エネルギーで加熱を行うと共に、その他の部分はエアギャップ量が大きい全体加熱電極によりそれよりも弱いエネルギーで加熱され、それにより加熱ムラのない高速加熱を実現できる。そして、部分加熱電極11は、全体加熱電極の一部をも構成し、部分加熱電極11が下降してその頂面が全体加熱電極10と略等しい面に達すると、全体加熱電極と合体して上部電極3との間に略同じレベルの高周波電界を形成し、全体を均一な強度の高周波電界で加熱することができる。従来装置によれば、部分加熱電極と全体加熱電極による高周波電界が別々に形成され、部分加熱電極を停止すると、部分加熱電極が占める投影面積分だけ全体加熱電極が遮蔽され、全体加熱電極に部分的に遮蔽部が生じるが、本発明によれば、そのような不都合は生じず、高周波電界強度が部分的に調整可能でありながら常に被加熱物全体に高周波電界を印加することができる。
【0015】
上部電極3は、本実施形態では、加熱ピン電極の集合体30で形成している。
この加熱ピン電極集合体30は、その詳細を図5に示すように、例えば本出願人が先に提供したWO2009/008421号公報に記載されているものを採用でき、被加熱物に当接し電気的または熱的作用を及ぼす複数のピン電極31と、各ピン電極31を摺動可能に支持すると共にピン電極31に対する電源または熱源となる導電性基盤としてのピン支持台32と、ピン電極31をピン支持台32に対し相対変位させる圧力可変ガスチャンバー体33とを具備して構成されている。
【0016】
ピン電極31は、被加熱物に直に当接するピンヘッド35と、ピンヘッド35に結合しピン支持台32との電気的または熱的接点となりピン電極31のピン支持台32に対する移動量(ストローク)を規定するロッド36と、ピンヘッド35の端位置を規定すると共にストッパーとして機能するピンキャップ37とから成る。ピンヘッド35は、例えば半球部と円筒部が組み合わされた形状を成し、ロッド36は例えば細長円筒形状を成し一方の端部をピンヘッド35と反対側の端部をピンキャップ37とネジ結合している。また、ロッド36は、後述の貫通穴38に挿通されピン支持台32との電気的または熱的接点となる。なお、ピンヘッド35とロッド36の結合については、被加熱物の形状に応じてピンヘッドの交換をすることが可能なネジ結合が好ましいが、切削や溶接などにより一体に形成してあっても良い。また、ピンヘッド35、ロッド36およびピンキャップ37の材質としては、アルミ、銅、カーボン、チタン、白金等の導電材である。ピン支持台32には、ピン電極31が摺動しながら相対変位する貫通穴38がピン電極31ごとに別個独立に設けられている。この貫通穴38の内径は、ピン電極31のロッド36の外径より僅かに大きい程度である。これにより、各ピン電極31はピン支持台32と通電または伝熱しながらピン支持台32に対し軸方向に別個独立に相対変位し、被加熱物の形状に好適に追従することが可能となる。
【0017】
なお、ピン電極31の駆動は、圧力可変ガスチャンバー以外に、バネやゴムなどの弾性工具を用いることでも容易に実現できる。また、ピン支持台32はピン電極31に対する電源または熱源となるため、その材質としては、ピン電極31と同等か若しくはそれ以上の導電率および熱伝導率を有する材質が好ましい。ピン支持台32の形状は平板の他、曲面を有する複合形でもあっても良い。なお、図中39はピン支持台32と圧力可変ガスチャンバー体33間に設けられた電気絶縁・断熱材である。
【0018】
圧力可変ガスチャンバー体33は、ガスを貯める圧力可変ガスチャンバー34と、ガスの流路となるチャンネル29と、外部の高圧ガス源(圧縮機)または(真空)ポンプと連結するガスポート28とから成る。圧力可変ガスチャンバー34の圧力調整は、チャンネル29を介してガスを供給し又は排気することにより行われる。ここで、圧力可変ガスチャンバー34の圧力Pinが外気Poutよりも高い場合は、貫通穴38の入口と出口において圧力勾配が生じピン電極31が圧力可変ガスチャンバー34のガス圧により押し下げられ下方に相対変位することとなる。一方、圧力可変ガスチャンバー34の圧力Pinが外気Poutよりも低い場合は、それとは逆向きの圧力勾配が生じピン電極31が外気によって押し上げられ上方に相対変位することとなる。このように、圧力可変ガスチャンバー34の圧力を調整することにより、ピン電極31をピン支持台32に対し相対変位させることが可能となる。また、ピン電極31が被加熱物に当接した状態で圧力可変ガスチャンバー34の圧力を調整することにより、ピン電極31が被加熱物に当接する押圧を変えることが可能となる。従って、ピン電極31が被加熱物に当接した状態で圧力可変ガスチャンバー34の圧力を調整することにより、複数のピン電極31により被加熱物を加熱・保持することが可能となり、被加熱物とのエアギャップもなくなる。
【0019】
本実施形態の誘電加熱装置は以上のように構成され、該装置によって例えば被加熱物が厚みが不均一な冷凍食品であっても、次のようにして高速解凍で解凍ムラなく均一に解凍できる。
冷凍食品の高周波誘電加熱装置による解凍はインピーダンスが小さい食品表面に電界が集中するため、高エネルギーでの急速解凍を行うと表面に褐変が生じるため、殺菌加熱の場合と比べて長時間を要する。その上、冷凍食品が均一高さでなく厚みにバラツキがある不定形の場合、高周波誘電加熱による平板加熱電極間での解凍は、電極板と被加熱物表面とのエアギャップ量の差異によって加熱ムラが生じるため、解凍むらムラをなくすためには、より長時間をかけて解凍しなければならず、後述する比較例に示すように急速解凍は困難であった。
【0020】
本実施形態では、図1に示すように、冷凍食品である被加熱物Mのもっとも厚みのある箇所が部分加熱電極11の上方に位置するように載置台15に載置し、ピン電極集合体30の多数のピン電極31が被加熱物表面の変化に追従して接触するように圧力可変ガスチャンバー内の圧力を調整した上部電極3をこの状態で下降させることによって、図2に示すように多数のピン電極が被加熱物の形状に追従してその表面に接触し、上部電極と被加熱物との間のエアギャップが略ない状態となる。一方、下部電極は全体加熱電極と部分加熱電極で構成されているが、高周波電力は常に単一源から同時に与えられる。しかしながら、全体加熱電極10は載置台15との間に予め決められた所定のエアギャップを有し、部分加熱電極11は載置台15とのエアギャップ量が任意に調節可能に構成されているので、加熱初期は、例えば部分加熱電極11を載置台に当接させて冷凍食品とのエアギャップ量を極力少なくすることによって、部分加熱電極上方部に位置している厚みの厚い部分が他の箇所よりも強い高周波エネルギーが与えられ、且つ全体加熱電極が対向する部分はエアギャップ量が大きく高周波電界が小さく被加熱部分に与えるエネルギーが小さい状態で同時に加熱される。
【0021】
そして、部分加熱電極を一箇所に長く載置台に当接した状態で加熱すると、冷凍食品が例えば食肉であるとその部分にドリップが出て品質劣化になる恐れがあるので、本実施形態では所定時間経過後に加圧チャンバー14bのエアをオフにすることによって、部分加熱電極を図3に示すように下方位置に下げて、エアギャップ量を大きくする。部分加熱電極がその状態となると、略全体が全体加熱電極と同じ強さの高周波エネルギーが付加される。あるいは必要に応じて加圧チャンバー14bのエアのオンオフを繰り替えして部分加熱電界強度を間欠的に変更することも可能である。また、前記の場合は部分電極を2位置に切り替え制御するものであるが、加圧チャンバー14a、14bの圧力を調整することによって、部分加熱電極11のエアギャップ量を段階的に大きくすることも可能であり、その場合部分加熱電極11による加熱エネルギーを段階的に減少させ、電界集中による過熱をより効果的に防止し全体をより均一に解凍することが可能となる。このように、本実施形態では全体加熱電極と部分加熱電極が常に同時に作用して被加熱物全体を加熱し、しかも、全体加熱電極と部分加熱電極のそれぞれのエアギャップ量を相対的に制御できるので、ムラなく均一に加熱できる。
【0022】
図4は、本発明に係る高周波誘電加熱装置の他の実施形態の概略模式図であり、前記実施形態の図1に示す状態に対応している。
本実施形態は、下部電極を構成する全体加熱電極と部分加熱電極が共にエアギャップ量が調整可能に構成されている点で、前記実施形態と相違している。前記実施形態と共通する部分は前記実施形態と同様な符号を付し、相違点のみについて詳細に説明する。
【0023】
本実施形態では、下部電極の全体加熱電極40は、通常の板状の電極板から構成され、チャンバー内の図示しない適宜の駆動手段により載置面15との間のエアギャップを調整できるように、上下調節可能に設置されている。全体加熱電極40の上下動調節手段として、例えば全体加熱電極が密封状態のチャンバー体12に上下に仕切るように適宜のガイド機構により摺動可能に設けて、上側の加圧チャンバー41aと下側の加圧チャンバー41bを形成して、各チャンバーに加圧空気の供給排出口42a、42bを設け、該供給排出口42a、42bを介して加圧空気を給排出することによって、全体加熱電極40を上下動して、被加熱物とのエアギャップを自由に調整できるように構成されている。全体加熱電極の上下駆動手段は、該全体加熱電極が載置面15とのエアギャップ量が所定の値を選択できればよく、その駆動手段は特に限定されないが、例えば他の駆動手段として、全体加熱電極を上下駆動量を制御できるシリンダ装置で支持して、制御手段からの制御信号により、載置面15とのエアギャップ量が所定値になるようにシリンダ装置を駆動するようにしてもよい。
【0024】
一方、部分加熱電極45は、全体加熱電極40に形成された摺動穴に対して電気的に全体加熱電極と導通した状態で上下動調節可能に形成されている。部分加熱電極45の上下駆動手段として、例えばシリンダ装置46等任意の手段が採用できる。
以上のように本実施形態では、全体加熱電極と部分加熱電極を別々にエアギャップを調整でき、それぞれの電極による高周波電界強度を別々に調整しながら、全体加熱と部分加熱を同時にできる。例えば、被加熱物の大きさや種類に応じて、予め全体加熱電極と部分加熱電極のエアギャップ量を調整した状態で加熱を開始し、理想的にはその後も予め設定した制御プログラムに応じて全体加熱電極40および部分加熱電極45のエアギャップ量を制御しながら同時に加熱することによって、より理想的な状態で加熱ムラがなく短時間に効率よく解凍ができる。
【0025】
図6は、本発明に係る高周波誘電加熱装置のさらに他の実施形態を示し、前記実施形態と同様な箇所には同じ引出符号を付し、相違点のみについて説明する。本実施形態における高周波誘電加熱装置50の前記実施形態との主な相違点は、部分加熱電極が複数の加熱ピン電極から構成され、それぞれのピン電極が独立して被加熱物とのエアギャップ量を調整可能に駆動されることである。
本実施形態の下部電極51は、板状の全体加熱電極52に、図7に示すように複数(本実施形態では7本)の部分加熱電極53が上下動可能に保持されている。該部分加熱電極はピン電極で構成され、全体加熱電極52に形成された部分加熱電極の嵌合穴54がピン電極を上下駆動するシリンダを構成し、該嵌合穴54にそれぞれ個別の配管55を介して加圧空気源に連結され、該嵌合穴54に加圧空気を給排気することによって、ピン電極上端が載置台15と接する位置(即ち、エアギャップ量がゼロ)と全体加熱電極52の上面と一致する位置(エアギャップ量最大)とに変位可能となっている。したがって、被加熱物の形状等に応じて、複数のピン電極の位置を任意に制御することによって、より良好に解凍することが可能となる。ピン電極のエアギャップの調整は、例えば、実施形態7本のピン電極のうち常に1本のピン電極のみがエアギャップ量が最小となるように、一定時間ごとにピン電極を順に上下動させることによって、部分加熱の位置を順に変えることができる。それにより、部分電極により特定部位を断続的に加熱することが可能となる。なお、本実施形態においても、図4に示す実施形態のように、部分加熱電極のみならず、全体加熱電極のエアギャップ量を調節可能とすることもできる。
【0026】
以上、本発明の高周波誘電加熱装置及びその方法の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限るものでなく、その技術的思想の範囲内で種々の設計変更が可能である。
例えば、上記各実施形態では、部分加熱電極は1個しか示されていないが、複数個の部分加熱電極を設けて被加熱物の形状や大きさに応じてそれぞれ選択的にエアギャップ量を調整するようにすると、より加熱ムラなく良好に全体を均一に解凍できるので望ましい。また、全体加熱電極及び部分加熱電極のエアギャップ量を調整するための機構は、空気による加圧機構やシリンダ機構に限らず、スプリング等との併用や、サーボモータによる上下動機構等任意の手段を採用できる。また、前記実施形態では、下部電極を全体加熱電極と部分加熱電極で形成したが、逆に上部電極を全体加熱電極と部分加熱電極で形成し、下部電極を全体加熱電極で構成することも可能である。また、上記実施形態では、冷凍食品の解凍に適用した場合について説明したが、本発明の高周波誘電加熱方法および装置は、冷凍食品の解凍ばかりでなく、被加熱物の通常の加熱処理や、殺菌のための加熱等にも好適に適用できる。
【実施例】
【0027】
実施例1
被加熱物:冷凍豚ブロック肉約400g(サイズ140×100×60mm)、
但し厚さは不均一で最高厚さが60mm
被加熱物の解凍開始前の中心温度:−21.8℃、表面温度:−8.6℃
上記被加熱物を図1に示す実施形態の高周波誘電加熱装置で次の条件で解凍をおこなった。
下部電極サイズ:全体加熱電極215×215mm、部分加熱電極 φ15mm
解凍時の電源周波数:13.56MHz
解凍時の電源出力:200W
全体加熱電極と載置台間のエアギャップ量:21mm
部分加熱電極と載置台間のエアギャップ量:0mm(開始後120秒間)、その後 21mm
上記解凍中、中心温度を光ファイバー温度計を用いて計測し−5℃に達すると解凍完了とした。解凍終了時の冷凍豚ブロック肉の上側表面温度5箇所と下側表面温度5カ所の任意の点を測定した。それぞれの平均表面温度は、上側2.9℃、下側5.7℃であった。本実施例によれば、解凍時間3分半で中心温度は−5℃に達し、極めて短時間に解凍でき、しかも部分加熱電極によるエアギャップ調整により、豚肉表面で発熱集中による褐変もなく、ドリップの発生も殆どなく良好に解凍できた。
【0028】
比較例1:
被加熱物:実施例1と同様な大きさで同質の冷凍豚ブロック肉400g
解凍開始前の中心温度:−21.8℃、表面温度:−8.6℃
上記被加熱物を下部電極が全体加熱電極のみで構成され、その他上部電極は図1に示すピン電極で構成されている高周波誘電加熱装置で次の条件で解凍をおこなった。
電極サイズ:全体加熱電極215×215mm、
解凍時の電源周波数:13.56MHz
解凍時の電源出力:200W
全体加熱電源と載置台間のエアギャップ量:21mm
上記解凍中、中心温度が―5℃に達すると解凍完了とした。その結果を実施例1と共に図8に示す。本比較例では、解凍時間12分で中心温度は5℃に達し、実施例1の場合と比べて解凍時間が4倍弱の長時間を要した。
【0029】
実施例2
被加熱物:冷凍豚ブロック肉約400g(サイズ130×90×58mm)
但し厚さは不均一で最高厚さが58mm
被加熱物の解凍開始前の中心温度:−22℃、表面温度:−10℃
上記被加熱物を図6に示す実施形態の高周波誘電加熱装置で次の条件で解凍をおこなった。
下部電極サイズ:全体加熱電極215×215mm、部分加熱電極φ15mm7本
各部分電極下部からエアーの流入排出によって、それぞれ上下切り替え駆動可能であり、切り替えタイミングは8秒毎とした。全体加熱電極と載置台間のエアギャップ距離は21mmであり、部分加熱電極と載置台間のエアギャップは、エアー流入時0mm、エアー排出時21mmとした。
解凍時の電源周波数:13.56MHz
解凍時の電源出力:35W
上記解凍中、中心温度を計測し−3℃に達すると解凍完了とした。解凍後、冷凍豚ブロック肉の表面温度をサーモグラフィーによって測定し表面平均温度を算出した。上側平均温度7.2℃、下側平均温度8.0℃であった。本実施例によれば、豚肉表面で発熱集中による褐変やドリップを発生させることなく、中心温度は−3℃に達し、極めて短時間に解凍可能であった。この場合、表面温度が単一部分電極の場合と比べて、上側平均温度と下側平均温度との差が小さく、解凍時の電源出力は35Wで表面全体を略均一に解凍することができた。
【0030】
比較例2:
上記実施例2において、下部電極を全体加熱電極のみで構成し、下記の条件で解凍をおこなった。
載置台間のエアギャップ量:21mm
解凍時の電源周波数:13.56MHz
解凍時の電源出力:35W
上記解凍中、中心温度を計測し−3℃に達すると解凍完了とした。解凍後、冷凍豚ブロック肉の表面温度をサーモグラフィーによって測定し表面平均温度を算出した。上側平均温度9.6℃、下側平均温度9.8℃であった。本比較例によれば、実施例2に比べて解凍後の豚肉表面温度は高く、また、中心温度−3℃までの解凍時間は長く要した。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の高周波誘電加熱装置及び誘電加熱装置は、被加熱物表面と内面部への電界強度をコントロールしながら全体加熱と部分加熱を同時に行うことが可能であり、被加熱物表面への電界集中を抑制しながら、急速解凍ができ、飲食店や家庭等における冷凍食品の解凍やその他の工業用の加熱に広く適用でき、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0032】
1、50 高周波誘電加熱装置
2、51 下部電極
3 上部電極
10、40、52 全体加熱電極
11、45、53 部分加熱電極
12 チャンバー体
13、43 摺動穴
14a、14b、41a、41b 加圧チャンバー
15 載置台
16a、16b、42a、42b 加圧空気給排口
17 シリンダ装置
30 ピン電極集合体
31 ピン電極
32 ピン支持台
33、34 圧力可変ガスチャンバー
35 ピンヘッド
36 ロッド
37 ピンキャップ
38 貫通孔
54 嵌合穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向に配置された電極にて被加熱物を加熱する高周波誘電加熱方法であって、少なくとも片方の電極が全体加熱用電極と部分加熱用電極とからなり、被加熱物と前記全体加熱用電極と前記部分加熱用電極の少なくとも一方の電極との距離を調整しながら、全体加熱と部分加熱を同時に行うことを特徴とする高周波誘電加熱方法。
【請求項2】
前記被加熱物と前記電極との距離が、エアーギャップにより調整して行う請求項1に記載の高周波誘電加熱方法。
【請求項3】
前記被加熱物を載置台に配置して行う請求項1又は2に記載の高周波誘電加熱方法。
【請求項4】
前記被加熱物が食品である請求項1〜3の何れかに記載の高周波誘電加熱。
【請求項5】
対向配置された電極で被加熱物を高周波誘電加熱する加熱装置であって、少なくとも一方の電極が、全体加熱電極と該全体加熱電極に設けられた貫通孔に上下に摺動可能である部分加熱電極からなり、前記全体加熱電極は被加熱物の投影面積よりも大きくかつ前記部分加熱電極は被加熱物の投影面積よりも小さく形成され、前記全体加熱電極と前記部分加熱電極の少なくとも一方の電極が被加熱物との距離の調整を行う手段を設けていることを特徴とする高周波誘電加熱装置。
【請求項6】
前記全体加熱電極と前記部分加熱電極が電気的に導通している請求項5に記載の高周波誘電加熱装置。
【請求項7】
前記全体加熱電極には、複数の部分加熱電極を設けている請求項5又は6に記載の高周波誘電加熱装置。
【請求項8】
対向に配置された他方の電極が前記被加熱物の形状に追従可能な電極である請求項5〜7の何れかに記載の高周波誘電加熱装置。
【請求項9】
前記全体加熱電極に結合されたエアチャンバーを有する請求項5〜8の何れかに記載の高周波誘電加熱装置。
【請求項10】
前記被加熱物を載置台に配置させて、載置台側に前記被加熱物との距離の調整を行う手段を設ける請求項5〜9の何れかに記載の高周波誘電加熱装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−99263(P2012−99263A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244099(P2010−244099)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】