説明

被包された細胞ベースの送達系におけるPEDFの使用

本発明は、被包されたPEDF分泌細胞を利用して色素上皮由来因子(PEDF)を眼に送達するためのデバイス、ならびに眼科疾患および眼科障害を処置するためおよび防止するための関連する方法に関する。本発明は、PEDFを分泌するように遺伝的に操作された1つ以上のARPE−19細胞を含むコア、およびそのコアを取り囲む半透膜(ここで、その膜は、膜を通るPEDFの拡散を許容する)を備える埋め込み可能な細胞培養物のデバイスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2009年10月8日に出願されたUSSN61/249,787への優先権を主張し、上記USSN61/249,787の全容は、参考として本明細書に援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、色素上皮由来因子(PEDF)を分泌するように操作され、被包された細胞を利用する送達系におけるPEDFおよびその生物学的に活性な改変体の使用、ならびに被包されたPEDF分泌細胞を使用して眼科疾患および眼科障害を処置するための関連する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
色素上皮由来因子(PEDF)は、培養されたヒト胎児網膜色素上皮細胞の馴化培地中において、神経栄養活性を有する50kDaタンパク質として初めて同定された(非特許文献1;非特許文献2)。PEDFは、網膜芽細胞腫細胞において幅広い神経分化を誘導する(非特許文献3)。PEDFはまた、血管新生および新生血管形成の強力なインヒビターでもあり(非特許文献4,非特許文献5;特許文献1)、VEGF誘導性の血管透過性のインヒビターであるとも報告されている(特許文献2を参照のこと)。PEDFはまた、様々な網膜変性疾患の処置にも有用である(非特許文献6を参照のこと)。
【0004】
PEDFは、その多くのメンバーがセリンプロテアーゼインヒビターであるセルピン遺伝子ファミリーと広範な配列相同性を有する。しかしながら、PEDFは、セリンプロテアーゼ活性を有しない。したがって、PEDFは、神経保護作用と抗血管新生作用との両方を有する非阻害性セルピンである(非特許文献6を参照のこと)。PEDFの抗血管新生活性のおかげで、PEDFは、異常な新生血管形成を特徴とするいくつかの疾患および障害を治療するための有望な候補である。例えば、PEDFは、3つのマウス疾患モデル、すなわち、レーザー誘発脈絡膜新生血管形成モデル、VEGFトランスジェニックモデル、および未熟児網膜症モデルにおいて新生血管形成の阻害を示した(最大85%)(非特許文献7における考察を参照のこと)。さらに、PEDFは、加齢性黄斑変性症(age−related macular degeneration)の処置に対するヒトでの第I相臨床試験において有効性を示した(非特許文献8)。
【0005】
眼科疾患および眼科障害の処置の成功は、所望の生物学的活性をもたらすのに十分な量の所望の治療薬を眼または眼の特定領域に送達することができるかに左右される。タンパク質またはペプチドに基づいた治療薬は、特に、眼に投与しにくいことが判明している。代表的には、経口投与は眼への望ましい投薬に有効でない。容易に局所送達用に製剤化されずかつ角膜を越えることができない可能性があるタンパク質またはペプチドに基づいた治療薬にとって、液体、ゲルまたは軟膏の局所投与は効果的でない傾向がある。さらに、局所用製剤は、眼の強膜、硝子体または後側の区域への送達に有効でない傾向がある。例えば硝子体への、直接の眼内注射は、望ましくない副作用(例えば、網膜マクロファージおよび白内障の発生率の上昇)をもたらした(La Vailら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1992,89:11249を参照のこと)。
【0006】
治療薬を眼に送達するための別の選択肢は、眼内挿入物の使用である。例えば、米国特許第3,828,777号;同第4,343,787号;同第4,730,013号;同第4,164,559号;同第5,395,618号;同第5,466,233号;およびAnand,R.ら、Arch.Ophthalmol.1993 111:223を参照のこと。しかしながら、そのようなデバイス(または他の侵食可能または侵食不可能なポリマー)からのタンパク質の放出は、タンパク質の不安定性に起因して、短時間だけしか持続しないことがあることから、それらは、すべてではないがほとんどのタンパク質分子の送達にとって不適当である。
【0007】
治療薬を産生するように操作され、被包された細胞の埋め込みは、そのような薬剤の眼への送達(特に、その有効性が局所投与では容易に到達可能でない眼の到達領域に依存する送達)にとって魅力的な代替手段である。
【0008】
被包された細胞を用いた所望の成長因子の送達は、前臨床試験および臨床研究において有効性が示された。例えば、毛様体神経栄養因子(CNTF)がげっ歯類モデルにおいて治療効果有りの状態で継続的に送達され(Emerichら、J.Neurosci.(1996)16:5168−5181)、ポリマーで被包された細胞によるヒト中枢神経系(CNS)への長期間のCNTF送達の安全性が証明された(Aebischerら、Hum.Gene Ther.(1996)7:851−860;Aebischerら、Nature Med.(1996)2:696−699)。さらに、被包された細胞を用いてCNTFをヒトの眼に送達することに成功している(Sievingら、Proc Natl Acad Sci(USA)(2006)103(10):3896−901)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7,105,496号明細書
【特許文献2】国際公開第2005/041887号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Tombran−Tinkら、Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.,(1989)30:1700−1707
【非特許文献2】Tombran−Tinkら、Exp.Eye Res.,(1991)53:411−414
【非特許文献3】Chader,Cell Different.,(1987)20:209−216
【非特許文献4】Dawsonら、Science(1999),285(5425):245−8
【非特許文献5】Maik−Rachlineら、Blood(2005)105:670−678
【非特許文献6】Tombran−Tink,Frontiers in Bioscience (2005)10:2131−2149
【非特許文献7】Rasmussenら、Hum Gene Ther.(2001)12:2029−2032
【非特許文献8】Campochiaroら、Hum Gene Ther.(2006)17:167−176
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の要旨
本発明は、色素上皮由来因子(PEDF)を分泌するように操作され、被包された細胞を利用する送達系におけるPEDFおよびその生物学的に活性な改変体の使用、ならびに眼科疾患および眼科障害を処置するための使用方法に関する。
【0012】
本発明は、PEDFを分泌するように遺伝的に操作された1つ以上のARPE−19細胞を含むコアおよびそのコアを取り囲む半透膜(ここで、その膜は、それを通るPEDFの拡散を許容している)を備える埋め込み可能な細胞培養物のデバイスを提供する。当業者は、その細胞が、PEDF改変体、例えば、配列番号1のアミノ酸配列を有するPEDF改変体またはPEDFの生物学的に活性なフラグメントを分泌し得ることを認識するだろう。
【0013】
本発明のデバイスはまた、半透膜の内側に配置されたマトリックス(例えば、ヒドロゲルマトリックスまたは細胞外マトリックスも含み得る。いくつかの実施形態において、そのヒドロゲルは、多価イオンで架橋されたアルギネートである。他の実施形態において、そのマトリックスは、複数のモノフィラメントであり、ここで、前記モノフィラメントは、ヤーン(yarn)に撚り合わされているかもしくはメッシュに織り込まれているか、または不織ストランド(non−woven strands)であるヤーンに撚り合わされており、ここで、それらの上に細胞または組織が分布する。例えば、繊維状の細胞支持マトリックスは、アクリル、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンポリアセトニトリル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアミド類、ポリウレタン類、ポリブテステル、絹、綿、キチン、炭素および/または生体適合性金属から選択される生体適合性材料を含む。
【0014】
本発明のデバイスはまた、テザーアンカー(tether anchor)も備える。例えば、そのテザーアンカーは、本デバイスを眼構造に繋留するために適合されたアンカーループを備え得る。
【0015】
さらに、当業者は、本発明のデバイスが、眼への埋め込みに適していることを認識するだろう。例えば、本デバイスは、眼の硝子体、房水、テノン嚢下の空間(Subtenon’s space)、眼周囲の空間、後眼房または前眼房において、埋め込まれ得るか、挿入され得るか、または使用され得る。
【0016】
様々な実施形態において、本発明のデバイスの包被は、選択透過性の免疫隔離(immunoisolatory)膜である。非限定的な例として、その包被は、限外濾過膜または精密濾過膜(microfiltration membrane)であり得る。さらに、その包被は、ヒドロゲルまたはポリウレタンなどの無孔の膜材料から形成され得る。半透膜に適した材料としては、ポリアクリレート類(アクリル共重合体を含む)、ポリビニリデン類、ポリ塩化ビニル共重合体、ポリウレタン類、ポリスチレン類、ポリアミド類、酢酸セルロース類、硝酸セルロース類、ポリスルホン類(ポリエーテルスルホン類を含む)、ポリホスファゼン類、ポリアクリロニトリル類、ポリ(アクリロニトリル/コ塩化ビニル(covinyl chloride))、ならびに/またはそれらの誘導体、共重合体および混合物が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、半透膜は、1〜1500キロダルトンの分子量カットオフを有する。
【0017】
当業者は、本発明のデバイスが、中空繊維または平らなシートとして形づくられ得ることを認識するだろう。例えば、本デバイスは、200〜350μmの外径および0.4mm〜6mmの長さを有する中空繊維(例えば、ポリスルホン中空繊維)であり得る。
【0018】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの追加の生物学的に活性な分子(すなわち、細胞性供給源または非細胞性供給源に由来するもの)が、本明細書中に記載されるデバイスから送達される。例えば、その少なくとも1つの追加の生物学的に活性な分子は、コア内の1つ以上の遺伝的に操作されたARPE−19細胞によって産生される。
【0019】
本発明のデバイスは、1〜3μlのコア容量を有し得る。あるいは、本発明に係る微粒子化されたデバイスは、0.05〜0.1μlのコア容量を有し得る。非限定的な例として、そのカプセルは、約10〜10個の細胞を含み得る。
【0020】
網膜変性、新生血管形成、眼における流体蓄積、またはそれらの任意の組み合わせを特徴とする眼科疾患または眼科障害の処置を必要とする被験体(例えば、ヒト)の眼に(例えば、眼内にまたは眼周囲に)本発明の埋め込み可能な細胞培養物のデバイスのいずれかを埋め込み、そしてPEDFがそのデバイスから眼に拡散するのを可能にし、それにより、その疾患または障害を処置することによって、その被験体におけるそのような眼科疾患または眼科障害を処置するための方法もまた提供される。同様に、本明細書中に開示されるデバイスのいずれかが、そのような眼科疾患または眼科障害の処置または管理において使用され得る。非限定的な例として、その眼科疾患または眼科障害は、加齢性黄斑変性症、網膜色素変性症、糖尿病性黄斑浮腫または糖尿病性網膜症である。例えば、そのような方法において、0.1pg〜1000μg/眼/患者/日のPEDFが、眼に拡散する。
【0021】
本発明はまた、宿主における神経または網膜の退化(degradation)または変性を阻害するための方法も提供し、その方法は、本発明の細胞培養物のデバイスのいずれかを宿主の眼に(例えば、眼内にまたは眼周囲に)埋め込む工程を包含し、ここで、そのデバイスは、治療有効量のPEDFを眼に分泌することよって、PEDFが神経栄養物質または神経保護薬として機能するのを可能にする。
【0022】
他の実施形態において、本発明は、本発明の埋め込み可能な細胞培養物のデバイスをレシピエント宿主の標的領域に埋め込むことによってPEDFをレシピエント宿主に送達する方法を提供し、ここで、被包された1つ以上のARPE−19細胞が、その標的領域においてPEDFを分泌する。非限定的な例として、適当な標的領域としては、中枢神経系(脳、脳室、脊髄を含む)ならびに眼の房水および硝子体液が挙げられるが、これらに限定されない。そのような方法において、0.1pg〜1000μg/患者/日のPEDFが、標的領域に拡散する。
【0023】
本発明はまた、宿主における血管新生に関連する血管透過性、網膜の疾患またはそれらの組み合わせを阻害するための方法も提供し、その方法は、本発明の細胞培養物のデバイスを宿主の眼に埋め込む工程を包含し、ここで、そのデバイスは、治療有効量のPEDFを眼に分泌することによって、PEDFが血管透過性を阻害するのを可能する(Liuら、Proc Natl Acad Sci(USA 101(17):6605−10(2004)(本明細書中で参考として援用される)を参照のこと)。
【0024】
本発明はさらに、配列番号2または配列番号4の核酸配列によってコードされるPEDFポリペプチドを分泌するように少なくとも1つのARPE−19細胞を遺伝的に操作し、そしてその遺伝的に改変されたARPE−19細胞を半透膜内に被包することによって、本発明の埋め込み可能な細胞培養物のデバイスを作製するため方法を提供し、ここで、前記膜は、それを通るPEDFの拡散を可能にする。あるいは、本発明の埋め込み可能な細胞培養物のデバイスは、配列番号1のアミノ酸配列を含むPEDFポリペプチドを分泌するように少なくとも1つのARPE−19細胞を遺伝的に操作し、そしてその遺伝的に改変されたARPE−19細胞を半透膜内に被包することによって作製され得、ここで、前記膜は、それを通るPEDFの拡散を可能する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、pKan2発現ベクターの配列を示している。
【図2】図2は、安定的にトランスフェクトされたARPE−19細胞から分泌された組換えヒトPEDFのウエスタンブロットである。組換えヒトPEDFを発現している安定的にトランスフェクトされたARPE−19からの馴化培地をLDS−PAGEに供し、PVDF膜に移し、次いでそれをPEDFに対するプローブで処理した。1次抗体は、1:500希釈されたマウス抗ヒトPEDFモノクローナル(Millipore/Chemicon,Billerica,MA)だった。2次抗体は、1:2000希釈されたロバ抗マウスHRP結合体化ポリクローナル抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories,Westgrove,PA)だった。TMB比色基質(KPL Inc.,Gaitherburgh,MD)を用いてバンドを可視化した。可溶性PEDFは、およそ50kDのダブレットとして移動した(矢印)。省略形:CM−PEDF安定細胞株からの馴化培地;rPEDF−組換えヒトPEDF(BioProducts Maryland,Middletown,MD);MW−レインボー高分子量タンパク質マーカー(GE Healthcare Life Sciences,Piscataway,NJ)。
【図3】図3は、ベースライン、埋め込みの1ヶ月後、3ヶ月後、4ヶ月後および6ヶ月後における最高矯正視力(BCVA)の変化を示している図表である。この図において、Tは、NT−502で処置された患者を表し;Cは、コントロール(焦点レーザー(Focal Laser))を表し;そしてΔは、ベースラインからの変化を表す。
【図4】図4は、NT−502で処置された患者およびレーザーで処置された患者に対するベースライン、1ヶ月後、3ヶ月後、4ヶ月後および6ヶ月後におけるBCVAの変化の平均を示しているグラフである。
【図5】図5は、NT−502およびレーザーで処置された患者に対するBCVAの変化を示しているグラフである。
【図6】図6は、1人の患者に対するベースラインおよび埋め込みの6ヶ月後における律動様小波(OP)の結果を示している。
【図7−1】図7Aおよび7Bは、2人の患者(症例002および症例003)に対するベースライン、1ヶ月後、3ヶ月後および6ヶ月後における一連の眼底写真である。ベースラインの写真に示されるように、両方の患者が、眼にかなりの量の硬性白斑を示した。NT−502処置後、時間が経つにつれて、その硬性白斑は分解し始め、そして吸収された。
【図7−2】図7Aおよび7Bは、2人の患者(症例002および症例003)に対するベースライン、1ヶ月後、3ヶ月後および6ヶ月後における一連の眼底写真である。ベースラインの写真に示されるように、両方の患者が、眼にかなりの量の硬性白斑を示した。NT−502処置後、時間が経つにつれて、その硬性白斑は分解し始め、そして吸収された。
【図7−3】図7Aおよび7Bは、2人の患者(症例002および症例003)に対するベースライン、1ヶ月後、3ヶ月後および6ヶ月後における一連の眼底写真である。ベースラインの写真に示されるように、両方の患者が、眼にかなりの量の硬性白斑を示した。NT−502処置後、時間が経つにつれて、その硬性白斑は分解し始め、そして吸収された。
【図7−4】図7Aおよび7Bは、2人の患者(症例002および症例003)に対するベースライン、1ヶ月後、3ヶ月後および6ヶ月後における一連の眼底写真である。ベースラインの写真に示されるように、両方の患者が、眼にかなりの量の硬性白斑を示した。NT−502処置後、時間が経つにつれて、その硬性白斑は分解し始め、そして吸収された。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の詳細な説明
本発明は、被包された細胞を利用して、眼内に(例えば、眼の前眼房、後眼房または硝子体内に)もしくは眼周囲に(例えば、テノン嚢の中または下に)、またはその両方に、PEDFを送達する。本発明はまた、眼科疾患および眼科障害の処置および防止を必要とする被験体に、被包された細胞を利用して有効量のPEDFを送達することによる、そのような処置および防止のための方法を提供する。
【0027】
PEDFを分泌する細胞は、細胞への栄養分の拡散を可能にし、また、分泌された細胞生成物および細胞廃棄物をその細胞から外に拡散することを可能にする、半透膜に被包され得る。いくつかの場合では、その膜は、免疫拒絶の細胞性エフェクターおよび分子エフェクターを遮ることによって、その細胞を免疫隔離するようにも働くことがある。免疫隔離膜を使用することにより、免疫抑制を用いずに同種および異種の細胞を個体に埋め込むことが可能になる。例えば、米国特許第6,299,895号を参照のこと。被包された細胞は、治療薬を必要とする眼の領域に直接埋め込まれ得、そして所望の治療薬の長期間にわたる低レベルの継続的な送達を提供し得る。この方法は、治療薬を産生するように操作された裸の細胞またはウイルスを埋め込むことによる腫瘍形成のリスクも排除し、また、継続的な送達のために標的部位へのたった1回の穿通が必要なだけであるので、感染症のリスクも低下させる。
【0028】
被包された細胞を含むデバイスは、細胞の生存能を高めるためのヒドロゲルマトリックスまたは他の適当な3次元の足場、およびそのデバイスの回収に役立つ繋ぎ部材(tether)(WO92/19195を参照のこと)も備え得る。その細胞含有膜は、細胞を含む複数の管状の膜(WO91/00119を参照のこと)をつなぐための外部支持体も有し得る。そのデバイスは、剛体または半剛体の支持構造を有し得る(WO93/21902を参照のこと)。そのデバイスはまた、半透膜を含むカプセルの形態を取り得る(米国特許第6,299,895号を参照のこと)。
【0029】
被包された細胞を使用することによって、他の送達経路よりも数多くの利点が提供される。例えば、それほど標的化されていない送達方法からの副作用を減少させつつ、治療薬を眼の眼内または眼周囲の領域に直接送達することができる。さらに、局所的なより高用量に関連する副作用を減少させつつ、局所適用と比べて、比較的低用量(ミリグラムではなく、ナノグラムまたは低マイクログラムの量)を送達することができる。被包された細胞のさらなる利点は、その細胞が、注射による送達の特徴をなす用量の高下を回避しつつ、治療薬を継続的に産生する点である。最後に、被包された細胞を使用することにより、多くの網膜剥離をもたらす多くの従来技術デバイスおよび外科的手法よりも低侵襲性の送達方法が提供される。
【0030】
本発明は、カプセル内に含められたPEDF分泌細胞を含む被包された細胞の送達系を提供する。その被包された細胞は、PEDFをコードするポリヌクレオチドを発現し、治療有効量のPEDFを細胞外の環境に分泌する。好ましくは、その量は、眼への、1カプセルあたり約1ng〜約1000ng(例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、25、50、75、100、250、500、750または1000ng)のPEDFである。そのPEDFは、418アミノ酸の完全長ポリペプチドまたはその生物学的に活性なフラグメントもしくは改変体であり得る。さらに、PEDFをコードするポリヌクレオチドもまた使用され得る。
【0031】
適当な細胞型には、治療有効量のPEDFを眼に提供するのに十分な量のPEDFを産生する任意の細胞が含まれる。好ましくは、その細胞は、ARPE−19細胞である。しかしながら、当業者は、本明細書中に記載される方法およびデバイスに従って他の任意の適当な細胞型も使用され得ることを認識するだろう。
【0032】
いくつかの実施形態において、上記カプセルまたはデバイスは、液体媒質中に懸濁されているかまたは固定化マトリックスもしくは固定化足場の中に固定化されている上記細胞を含むコアを有し、そのカプセルは、細胞を含まない半透性マトリックスまたは膜「包被」によって囲い込まれる。好ましくは、その包被は、分子量に基づいてカプセル中およびカプセル外への分子の拡散を制御するように選択的に透過性である。その包被の分子量カットオフは、カプセルの中からのおよびそのカプセルが埋め込まれる周囲の組織へのPEDFの容易な拡散を可能にするように選択される。その包被はまた、被包された細胞と宿主免疫系の細胞との接触を防ぐ障壁も形成する。
【0033】
本発明の被包されたPEDF分泌細胞を用いて処置され得るかまたは防止され得る眼科疾患および眼科障害には、眼の層および硝子体眼房(vitreal cavity)の内側の新生血管形成および/または流体の蓄積を特徴とするものが含まれる。当業者は、新生血管形成には血管新生が必要であることを認識するだろう。したがって、新生血管形成を特徴とする任意の疾患または障害が、血管新生のインヒビターであるPEDFで処置され得る。
【0034】
さらに、血管漏出は、網膜剥離、眼の感覚細胞の変性、眼内圧上昇および炎症を引き起こし得、これらのすべてが、視力および眼の全般的な健康状態に悪影響を与える。血管透過性の制御において鍵となる因子は、血管内皮成長因子(VEGF)である。VEGF誘導性の血管透過性のインヒビターとして、PEDFは、眼内の流体の蓄積を特徴とする眼の状態の処置にとって有用である。したがって、当業者は、ある特定の眼科疾患および眼科障害は、眼内の流体の蓄積に至る新生血管形成と血管漏出との両方を特徴とすることを認識するだろう。本発明の方法に従って処置され得るかまたは防止され得る特定の眼科疾患および眼科障害としては、網膜芽細胞腫などの眼球の腫瘍、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、増殖網膜症、未熟児網膜症、網膜血管疾患(retinal vascular diseases)、血管形成異常、脈絡膜障害、脈絡膜新生血管形成、血管新生緑内障、緑内障、黄斑浮腫(例えば、糖尿病性黄斑浮腫)、網膜浮腫(例えば、糖尿病性網膜浮腫)、中心性漿液性網脈絡膜症、黄斑変性症および網膜剥離が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
本明細書中で使用されるとき、用語「個体」または「レシピエント」または「宿主」は、ヒトまたは動物被験体のことを指すために交換可能に使用される。
【0036】
「生物学的に活性な分子」(「BAM」)は、本発明のデバイスが埋め込まれた個体の身体に対して生物学的に有用な効果を発揮することができる物質である。例えば、PEDFは、適当なBAMの例である。
【0037】
用語「カプセル」および「デバイス」および「ビヒクル」は、本発明のECTデバイスのことを指すために本明細書中で交換可能に使用される。
【0038】
別段特定されない限り、用語「細胞」とは、任意の形態の細胞のことを意味し、それらには、組織内に保持されている細胞、細胞クラスターおよび個別に隔離された細胞が含まれるがこれらに限定されない。
【0039】
本明細書中で使用されるとき、「生体適合性カプセル」または「生体適合性デバイス」または「生体適合性ビヒクル」とは、そのカプセルまたはデバイスまたはビヒクルが、個体に埋め込まれたときに、カプセルの拒絶をもたらすのに十分かまたは例えば分解によってそれを手術不能にさせるのに十分な不利益な宿主応答を誘発しないことを意味する。
【0040】
本明細書中で使用されるとき、「免疫隔離カプセル」または「免疫隔離デバイス」または「免疫隔離ビヒクル」とは、そのカプセルが個体に埋め込まれたときに、そのコア内の細胞に対する宿主の免疫系の有害作用を最小にすることを意味する。
【0041】
本明細書中で使用されるとき、「生物学的に活性な分子の長期間の安定な発現」とは、1ヶ月より長い、好ましくは、3ヶ月より長い、最も好ましくは、6ヶ月より長い期間にわたる、有用な生物学的活性を維持するのに十分なレベルでの生物学的に活性な分子の継続した産生のことを意味する。本デバイスおよびその内容物の埋め込みは、3ヶ月超にわたってインビボにおいて、および多くの場合は1年超にわたって、機能性を保持することができる。
【0042】
コアを取り囲む包被膜の「半透過性」の性質は、細胞によって産生される分子(例えば、代謝産物、栄養分および/または治療物質)がそのデバイスから宿主の周囲の眼組織に拡散するのを許容するが、宿主による不利益な免疫学的攻撃からコア内の細胞を保護するのに十分に不透過性である。さらに、当業者は、包被の「半透過性」の性質が、ポアの制限のおかげで、被包された細胞の漏出が防がれることを認識するだろう。
【0043】
免疫隔離カプセルに対しては、1000kDまでの包被の名目上の分子量カットオフ(MWCO)値が企図される。しかしながら、当業者は、いくつかの場合では、MWCOが1000kDより大きいことがあることを認識するだろう。いくつかの実施形態において、MWCOは、50〜700kD、例えば、70〜300kDである。例えば、WO92/19195を参照のこと。
【0044】
本明細書中で使用される用語「処置」とは、処置される眼科疾患または眼科障害に関連する少なくとも1つの臨床症状の減少、部分的な改善、回復または緩和のことを指す。本明細書中で使用されるとき、用語「防止」または「予防」とは、防がれる眼科疾患または眼科障害に関連する少なくとも1つの臨床症状の発生または進行の阻害または遅延のことを指す。
【0045】
さらに、本明細書中で使用される用語「有効量」とは、いくらかの改善または利益を被験体に提供する量のことを指す。ある特定の実施形態において、有効量は、処置される眼科疾患または眼科障害の少なくとも1つの臨床症状のいくらかの軽減、緩和および/または減少を提供する量である。他の実施形態において、有効量は、防がれる眼科疾患または眼科障害に関連する少なくとも1つの臨床症状の発生または進行のいくらかの阻害または遅延を提供する量である。いくらかの利益が被験体に提供される限り、治療効果は、完全または治癒である必要はない。
【0046】
同様に、本明細書中で使用されるとき、用語「被験体」とは、好ましくは、ヒト被験体のことを指すが、非ヒト霊長類、または好ましくは、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマもしくはブタの中から選択される他の哺乳動物のことも指し得る。
【0047】
当業者は、PEDFが、神経保護作用と抗血管新生作用との両方を有する非阻害性セルピンであることを認識するだろう。特に、PEDFは、多くのCNS領域のニューロンを種々の神経変性の傷害から保護する強力かつ広く作用する神経栄養因子である。そのうえ、PEDFは、血管新生の天然のインヒビターとしても機能する(全体が本明細書中で参考として援用されるTombran−Tink,Frontiers in Bioscience 10:2131−2149(2005)を参照のこと)。
【0048】
本発明において使用するためのPEDFポリペプチドには、418アミノ酸の完全長ポリペプチドならびにその生物学的に活性なフラグメントおよび改変体が含まれる。完全長ポリペプチドの例示的な配列としては、GenBankアクセッション番号P36955の配列(Steeleら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1993)90:1526−1530)および当該分野で公知の他の配列(例えば、米国特許第6,319,687号ならびにPCT国際出願公開番号WO95/33480およびWO93/24529を参照のこと;WO99/04806もまた参照のこと)が挙げられるがこれらに限定されない。1つの実施形態において、PEDFの生物学的に活性なフラグメントは、参照配列のアミノ酸78〜121、アミノ酸44〜77、アミノ酸44〜121またはアミノ酸78〜121からなるフラグメントから選択される(PCT国際出願公開番号WO2005041887および米国特許出願公開番号US20070087967を参照のこと)。本明細書中で使用されるとき、「参照配列」とは、GenBankアクセッション番号P36955の配列のことを指す。
【0049】
PEDFの天然に存在する対立遺伝子改変体もまた使用され得る。PEDFの例示的な対立遺伝子改変体としては、以下:M72TおよびP132Rから選択される単一のアミノ酸置換を有する改変体が挙げられるがこれらに限定されない(Koenekoopら、Μol.Vis.(1999)5:10;Gerhardら、Genome Res.(2004)14:2121−2127)。したがって、1つの実施形態において、PEDFの対立遺伝子改変体は、トレオニンによる参照配列の72位におけるメチオニンの置換を有する。別の実施形態において、PEDFの対立遺伝子改変体は、アルギニンによる参照配列の132位におけるプロリンの置換を有する。
【0050】
本発明における使用に適したPEDFポリペプチドには、神経栄養活性、神経保護活性、抗血管新生活性、抗新生血管形成活性および抗血管透過性活性から選択される1つ以上の生物学的活性を保持する、参照配列に対して高い配列同一性を有する改変体PEDFポリペプチドも含まれる。例えば、適当なPEDFポリペプチドは、前述の生物学的活性のうちの1つ以上を保持し、参照配列に対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%の配列同一性を有する。好ましくは、その改変体PEDFポリペプチドは、参照配列と少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。そのような改変体は、参照配列における1つ以上のアミノ酸の挿入、欠失または置換によって形成され得る。好ましくは、置換(天然に存在する対立遺伝子変異以外)は、所与のアミノ酸が類似の化学特性を有するアミノ酸で置換されていることを意味する保存的置換を含む。例えば、正に帯電した残基(H、KおよびR)は、好ましくは、正に帯電した残基で置換され;負に帯電した残基(DおよびE)は、好ましくは、負に帯電した残基で置換され;中性で極性の残基(C、G、N、Q、S、TおよびY)は、好ましくは、中性で極性の残基で置換され;そして中性で非極性の残基(A、F、I、L、M、P、VおよびW)は、好ましくは、中性で非極性の残基で置換される。
【0051】
例えば、本発明において使用するためのPEDFポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を含むか、またはその配列からなる。
【0052】
【化1】

本発明の被包された細胞は、PEDFをコードするポリヌクレオチドを発現し、PEDFを細胞外の環境に分泌する。PEDFは、上に記載されたような418アミノ酸の完全長ポリペプチド、またはその生物学的に活性なフラグメントもしくは改変体であり得る。PEDFをコードするポリヌクレオチド配列は、任意の起源から得ることができ、例えば、天然から単離され得るか、合成的に生成され得るか、または遺伝的に操作された生物から単離され得る。好ましくは、PEDFをコードするポリヌクレオチド配列は、米国特許第5,840,686号、同第6,319,687号および同第6,451,763号;または国際特許出願WO93/24529およびWO95/33480に記載されているものである。当業者は、遺伝暗号の縮重に起因して、1つより多いポリヌクレオチド配列が、所与のPEDFアミノ酸配列をコードし得ることを認識するだろう。
【0053】
例えば、PEDFポリヌクレオチドは、配列番号2のcDNA配列を含むか、またはその配列からなる。
【0054】
【化2】

別の実施形態において、PEDFポリヌクレオチドは、配列番号4のcDNA配列を含むか、またはその配列からなる。
【0055】
【化3】

あるいは、上記核酸分子は、そのような核酸分子の相補鎖(complement)であり得る。本明細書中で使用されるとき、用語「核酸分子」は、DNA分子(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)、RNA分子(例えば、mRNA)、ヌクレオチドアナログを用いて生成されるDNAまたはRNAのアナログ、ならびにそれらの誘導体、フラグメントおよびホモログを含むと意図される。その核酸分子は、一本鎖または二本鎖であり得るが、好ましくは、二本鎖DNAである。
【0056】
「単離された」核酸分子は、その核酸の天然の起源に存在する他の核酸分子から分離された核酸分子である。好ましくは、「単離された」核酸は、その核酸が由来する生物のゲノムDNAにおいて、その核酸と天然に隣接する配列(すなわち、その核酸の5’および3’末端に位置する配列)を含まない。例えば、様々な実施形態において、その核酸分子は、その核酸が由来する細胞のゲノムDNAにおいてその核酸分子と天然に隣接する約5kb、4kb、3kb、2kb、1kb、0.5kbまたは0.1kb未満のヌクレオチド配列を含み得る。さらに、cDNA分子などの「単離された」核酸分子は、他の細胞材料もしくは培養液(組換え手法によって生成されるとき)、または化学前駆体もしくは他の化学物質(化学的に合成されるとき)を実質的に含まないことがある。
【0057】
配列番号1の配列を有するポリペプチドをコードするPEDF核酸分子(例えば、配列番号2または配列番号4のヌクレオチド配列を有する核酸分子)またはその相補鎖は、標準的な分子生物学手法および本明細書中に提供される配列情報を用いて単離され得る。これらの核酸配列の全部または一部であるハイブリダイゼーションプローブを使用し、標準的なハイブリダイゼーション法およびクローニング法(例えば、Sambrookら(eds.),Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,1989;およびAusubelら(eds.),Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,New York,NY,1993に記載されているような手法)を用いて、PEDF分子が単離され得る。
【0058】
任意のPEDF核酸が、標準的なPCR増幅法に従って、鋳型としてcDNA、mRNAあるいはゲノムDNA、および適切なオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、増幅され得る。そのように増幅された核酸は、適切なベクターにクローニングされ得、DNA配列解析によって特徴づけられ得る。さらに、PEDFヌクレオチド配列に対応するオリゴヌクレオチドは、標準的な合成手法によって、例えば、自動化されたDNA合成装置を用いて、調製され得る。
【0059】
本明細書中で使用されるとき、用語「オリゴヌクレオチド」とは、連結された一連のヌクレオチド残基のことを指し、そのオリゴヌクレオチドは、PCR反応において使用される十分な数のヌクレオチド塩基を有する。短いオリゴヌクレオチド配列は、ゲノム配列もしくはcDNA配列に基づき得るか、またはそれらから設計され得、特定の細胞または組織における同一の、類似のまたは相補的なDNAまたはRNAを増幅するため、確認するため、またはその存在を明らかにするために、使用される。オリゴヌクレオチドは、約10nt長、50nt長または100nt長、好ましくは、約15nt〜30nt長を有する核酸配列の一部を含む。1つの実施形態において、100nt長未満の核酸分子を含むオリゴヌクレオチドは、配列番号2もしくは配列番号4またはその相補鎖の少なくとも6つ連続したヌクレオチドをさらに含み得る。オリゴヌクレオチドは、化学的に合成され得、プローブとして使用され得る。
【0060】
他の実施形態において、単離された核酸分子は、PEDFヌクレオチド配列の相補鎖である核酸分子を含む。これらのヌクレオチド配列と相補的な核酸分子は、それがほとんどまたは全くミスマッチなく水素結合することによって安定な二重鎖を形成し得るヌクレオチド配列と十分に相補的である核酸分子である。
【0061】
本明細書中で使用されるとき、用語「相補的」とは、核酸分子のヌクレオチド単位間のワトソン−クリック塩基対形成またはフーグスティーン塩基対形成のことを指し、用語「結合(binding)」とは、2つのポリペプチド間もしくは化合物間または関連するポリペプチド間もしくは化合物間あるいはそれらの組み合わせの物理的または化学的な相互作用のことを意味する。結合には、イオン性相互作用、非イオン性相互作用、ファンデルワールス相互作用、疎水性相互作用などが含まれる。物理的な相互作用は、直接的または間接的であり得る。間接的な相互作用は、別のポリペプチドもしくは化合物の作用を通じたもの、またはその作用に起因するものであり得る。直接的な結合とは、別のポリペプチドもしくは化合物の作用を通じて起こらないかまたはその作用に起因せず、その代わりの他の実質的な化学中間体もない相互作用のことを指す。
【0062】
さらに、上記核酸分子は、PEDF核酸配列の一部のみ、例えば、プローブもしくはプライマーとして使用され得るフラグメント、またはPEDFの生物学的に活性な部分をコードするフラグメントを含み得る。本明細書中に提供されるフラグメントは、核酸の場合は特異的なハイブリダイゼーションまたはアミノ酸の場合はエピトープの特異的な認識を可能にするのに十分な長さである、それぞれ少なくとも6つの(連続した)核酸または少なくとも4つの(連続した)アミノ酸の配列として定義され、完全長配列よりも短いせいぜい一部である。フラグメントは、最適な核酸配列またはアミノ酸配列の任意の連続した一部に由来し得る。誘導体は、直接、または改変もしくは部分的な置換によって自然の化合物から形成される核酸配列またはアミノ酸配列である。アナログは、自然の化合物と類似であるが同一ではなく、ある特定の構成要素または側鎖に関してその自然の化合物と異なる構造を有する核酸配列またはアミノ酸配列である。アナログは、合成であり得るか、または異なる進化的起源由来であり得、野生型と類似または逆の代謝活性を有し得る。ホモログは、異なる種に由来する特定の遺伝子の核酸配列またはアミノ酸配列である。
【0063】
誘導体およびアナログが、改変された核酸またはアミノ酸を含む場合、その誘導体またはアナログは、完全長であってもよいし、完全長以外であってもよい。誘導体またはアナログとしては、様々な実施形態においては、同一サイズの核酸配列もしくはアミノ酸配列に対して、または当該分野で公知のコンピュータ相同性プログラムによってアラインメントが行われるアラインメントされた配列と比較されるときの核酸配列もしくはアミノ酸配列に対して、少なくとも約30%、50%、70%、80%または95%同一である(好ましい同一性は80〜95%)か、またはコードする核酸が、ストリンジェント、中程度にストリンジェントまたは低ストリンジェントな条件下において上述のタンパク質をコードする配列の相補鎖とハイブリダイズすることができる、PEDF核酸またはPEDFタンパク質と実質的に相同な領域を含む分子が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,New York,NY,1993および下記を参照のこと。
【0064】
本発明はさらに、遺伝暗号の縮重に起因して配列番号2または配列番号4に示されるPEDFヌクレオチド配列とは異なるが、配列番号2または配列番号4に示されるヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質と同じPEDFタンパク質をコードする核酸分子を包含する。
【0065】
別の実施形態において、単離されたPEDF核酸分子は、少なくとも6ヌクレオチド長であり、ストリンジェントな条件下においてPEDF核酸分子(すなわち、配列番号2または配列番号4のヌクレオチド配列)とハイブリダイズする。別の実施形態において、その核酸は、少なくとも10、25、50、100、250、500、1000、1500、2000ヌクレオチド長またはそれ以上である。別の実施形態において、単離された核酸分子は、コード領域、例えば、配列番号2または配列番号4とハイブリダイズする。
【0066】
本明細書中で使用されるとき、用語「ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする」は、互いと少なくとも60%相同なヌクレオチド配列が代表的に互いとハイブリダイズした状態を保持するハイブリダイゼーションおよび洗浄に対する条件のことを記載すると意図される。さらに、本明細書中で使用されるとき、句「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」とは、プローブ、プライマーまたはオリゴヌクレオチドがその標的配列とハイブリダイズするが、他の配列とはハイブリダイズしない条件のことを指す。ストリンジェントな条件は、配列に依存し、種々の状況において異なる。より長い配列は、より短い配列よりも、より高い温度において特異的にハイブリダイズする。一般に、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度およびpHにおいて、特定の配列に対する熱融点(Tm)よりも約5℃低いように選択される。そのTmは、標的配列と相補的なプローブの50%が、その標的配列と平衡状態でハイブリダイズする温度(規定のイオン強度、pHおよび核酸濃度において)である。標的配列は、通常、過剰に存在するので、Tmにおいて、プローブの50%が、平衡状態で占有される。代表的には、ストリンジェントな条件は、塩濃度が、約1.0M未満のナトリウムイオン、代表的には、pH7.0〜8.3において約0.01〜1.0Mのナトリウムイオン(または他の塩)であり、温度が、短いプローブ、プライマーまたはオリゴヌクレオチド(例えば、10nt〜50nt)の場合は少なくとも約30℃であり、より長いプローブ、プライマーおよびオリゴヌクレオチドの場合は少なくとも約60℃である条件であり得る。ストリンジェントな条件は、ホルムアミドなどの不安定化剤を加えることによっても達成され得る。
【0067】
ストリンジェントな条件は、当業者に公知であり、Ausubelら、(eds.),Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,N.Y.(1989),6.3.1−6.3.6に見られ得る。好ましくは、その条件は、互いと少なくとも約65%、70%、75%、85%、90%、95%、98%または99%相同な配列が、代表的には、互いとハイブリダイズされた状態を保持するような条件である。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の非限定的な例は、65℃の6×SSC、50mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM EDTA、0.02%PVP、0.02%フィコール、0.02%BSAおよび500mg/ml変性サケ精子DNAを含む高塩緩衝液中でのハイブリダイゼーション、それに続く、50℃の0.2×SSC、0.01%BSA中での1回以上の洗浄である。中程度のストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件の非限定的な例は、55℃の6×SSC、5×Denhardt溶液、0.5%SDSおよび100mg/ml変性サケ精子DNA中でのハイブリダイゼーション、それに続く、37℃の1×SSC、0.1%SDS中での1回以上の洗浄である。使用され得る他の中程度のストリンジェンシーの条件は、当該分野で周知である。例えば、Ausubelら(eds.),1993,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,NYおよびKriegler,1990,Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual,Stockton Press,NYを参照のこと。低ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件の非限定的な例は、40℃の35%ホルムアミド、5×SSC、50mM Tris−HCl(pH7.5)、5mM EDTA、0.02%PVP、0.02%フィコール、0.2%BSA、100mg/ml変性サケ精子DNA、10%(wt/vol)デキストラン硫酸中でのハイブリダイゼーション、それに続く、50℃の2×SSC、25mM Tris−HCl(pH7.4)、5mM EDTAおよび0.1%SDS中での1回以上の洗浄である。使用され得る他の低ストリンジェンシーの条件は、当該分野で周知である(例えば、種間ハイブリダイゼーションに対して使用されるもの)。例えば、Ausubelら(eds.),1993,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,NYおよびKriegler,1990,Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual,Stockton Press,NY;Shilo and Weinberg,1981,Proc Natl Acad Sci USA 78:6789−6792を参照のこと。
【0068】
本明細書中に記載される核酸分子のいずれかによってコードされるPEDFポリペプチドもまた提供される。本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドと少なくとも80%同一である単離されたポリペプチドも含む。あるいは、単離されたポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドのフラグメント(すなわち、少なくとも6つ連続したアミノ酸)と少なくとも80%相同である。さらに、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドの誘導体、アナログまたはホモログと少なくとも80%相同である単離されたポリペプチドも含む。同様に、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドの天然に存在する対立遺伝子改変体と少なくとも80%同一である単離されたポリペプチドも提供する。当業者は、そのようなポリペプチドが、ストリンジェントな条件下において配列番号2または配列番号4の核酸分子とハイブリダイズすることができる核酸分子によってコードされるべきであることを認識するだろう。
【0069】
本明細書中で使用されるとき、用語「タンパク質」および「ポリペプチド」などは、相互交換可能であると意図されている。そのポリペプチドには、配列が配列番号1に提供されるPEDFポリペプチドが含まれる。本発明はまた、なおもPEDF活性および生理学的機能を維持するポリペプチドまたはその機能的フラグメントをコードしつつ、その残基のいずれかが配列番号1に示される対応する残基から変更され得る変異ポリペプチドまたは改変体ポリペプチドも含む。その変異タンパク質または改変体タンパク質において、20%までのまたはそれ以上の残基が、そのように変更され得る。
【0070】
通常、PEDF様の機能を保つPEDF改変体には、その配列内の特定の位置における残基が他のアミノ酸によって置換されていて、さらに、親タンパク質の2残基の間に追加の残基が挿入されている可能性ならびに親配列から1つ以上の残基が欠失されている可能性を含む、任意の改変体が含まれる。任意のアミノ酸の置換、挿入または欠失が、本発明によって包含される。好ましい状況において、その置換は、保存的置換である。
【0071】
当業者は、本発明が、単離されたPEDFポリペプチドおよびその生物学的に活性な一部、またはそれらの誘導体、フラグメント、アナログもしくはホモログにも関することを認識するだろう。本明細書中に記載されるPEDF構築物は、標準的なタンパク質精製法を用いた適切な精製スキームによって細胞または組織起源から単離され得る。別の実施形態において、PEDFポリペプチドは、組換えDNA手法によって生成される。組換え発現に対する代替手段として標準的なペプチド合成法を用いて、PEDFタンパク質またはPEDFポリペプチドが化学的に合成され得る。
【0072】
「単離された」または「精製された」ポリペプチドまたはその生物学的に活性な一部は、PEDFポリペプチドが由来する細胞起源または組織起源からの細胞材料または他の混入タンパク質もしくは混入ポリペプチドを実質的に含まないか、あるいは化学的に合成されるときは化学前駆体または他の化学物質を実質的に含まない。「細胞性材料を実質的に含まない」という言い回しには、PEDFポリペプチドが単離されるかまたは組換え的に生成される細胞の細胞性の成分からそのポリペプチドが分離されているPEDFポリペプチドの調製物が含まれる。例えば、「細胞性材料を実質的に含まない」という言い回しには、約30%(乾燥重量で)未満の非PEDFタンパク質(本明細書中で「混入タンパク質」とも呼ばれる)、より好ましくは、約20%未満の非PEDFタンパク質、なおもより好ましくは、約10%未満の非PEDFタンパク質、最も好ましくは、約5%未満の非PEDFタンパク質を有するPEDFポリペプチドの調製物が含まれる。PEDFポリペプチドまたはその生物学的に活性な一部が、組換え的に生成されるとき、それは、好ましくは、培養液も実質的に含まず、すなわち、培養液は、タンパク質調製物の体積の約20%未満、より好ましくは、約10%未満、最も好ましくは、約5%未満である。
【0073】
同様に、「化学前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」という言い回しには、PEDFポリペプチドが、そのポリペプチドの合成に関わる化学前駆体または他の化学物質から分離されている、PEDFポリペプチドの調製物が含まれる。例えば、「化学前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」という言い回しには、約30%(乾燥重量で)未満の化学前駆体または非PEDF化学物質、より好ましくは、約20%未満の化学前駆体または非PEDF化学物質、なおもより好ましくは、約10%未満の化学前駆体または非PEDF化学物質、最も好ましくは、約5%未満の化学前駆体または非PEDF化学物質を有するPEDFポリペプチドの調製物が含まれる。
【0074】
PEDFポリペプチド構築物の生物学的に活性な一部には、本明細書中に記載される完全長PEDF構築物よりも少ないアミノ酸を含み、かつPEDFポリペプチドの少なくとも1つの活性を示す、PEDFポリペプチドのアミノ酸配列、例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列と十分に相同であるかまたはそのアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を含むペプチドが含まれる。代表的には、生物学的に活性な一部は、PEDFポリペプチドの少なくとも1つの活性を有するドメインまたはモチーフを含む。
【0075】
2つのアミノ酸配列または2つの核酸のパーセント相同性を決定するために、それらの配列は、最適な比較の目的のためにアラインメントされる(例えば、第2のアミノ酸配列または核酸配列との最適なアラインメントのために第1のアミノ酸配列または核酸配列の配列内にギャップが導入され得る)。次いで、対応するアミノ酸の位置またはヌクレオチドの位置におけるアミノ酸残基またはヌクレオチドが、比較される。第1の配列内の位置が、第2の配列内の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドによって占有されているとき、それらの分子は、その位置において相同である(すなわち、本明細書中で使用されるとき、アミノ酸または核酸の「相同性」は、アミノ酸または核酸の「同一性」と等価である)。核酸配列の相同性は、2つの配列間の同一性の程度として決定され得る。この相同性は、GCGプログラムパッケージにおいて提供されるGAPソフトウェアなどの当該分野で公知のコンピュータプログラムを用いて決定されてもよい。Needleman and Wunsch 1970 J Mol Biol 48:443−453を参照のこと。用語「配列同一性」とは、2つのポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列が、比較される特定の領域にわたって、残基ごとに基づいて同一である程度のことを指す。用語「配列同一性のパーセンテージ」は、最適にアラインメントされた2つの配列を、比較される領域にわたって比較し、同一の核酸塩基(例えば、核酸の場合、A、T、C、G、UまたはI)が両方の配列に存在する位置の数を測定することにより、マッチした位置の数を得て、マッチした位置の数を、比較される領域内の位置の総数(すなわち、ウィンドウサイズ)で除して、その結果に100を乗じることにより、配列同一性のパーセンテージを得ることによって計算される。本明細書中で使用される用語「実質的な同一性」は、ポリヌクレオチド配列の特徴のことを表し、ここで、そのポリヌクレオチドは、比較領域にわたって参照配列と比べて少なくとも80パーセントの配列同一性、好ましくは、少なくとも85パーセントの同一性、およびしばしば90〜95パーセントの配列同一性、より一般的には少なくとも99パーセントの配列同一性を有する配列を含む。
【0076】
本発明はさらに、任意のPEDF核酸分子を含むベクターを提供する。詳細には、本発明は、PEDFポリペプチドまたはその誘導体、フラグメント、アナログもしくはホモログをコードする核酸を含むベクター、好ましくは、発現ベクターに関する。本明細書中で使用されるとき、用語「ベクター」とは、それに連結された別の核酸を運搬することができる核酸分子のことを指す。ベクターの1つのタイプが、「プラスミド」であり、それは、追加のDNAセグメントがライゲートされ得る環状の二本鎖DNAループのことを指す。別のタイプのベクターは、ウイルスベクターであり、追加のDNAセグメントがそのウイルスゲノムにライゲートされ得る。ある特定のベクターは、それが導入される宿主細胞内で自己複製が可能である(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞に導入されると宿主細胞のゲノムにインテグレートされ、それによって、宿主ゲノムとともに複製される。さらに、ある特定のベクターは、作動可能に連結された遺伝子の発現を指示することができる。そのようなベクターは、本明細書中で「発現ベクター」と呼ばれる。一般に、組換えDNA法において有用な発現ベクターは、しばしば、プラスミドの形態である。プラスミドが、最も一般的に使用されるベクターの形態であるので、本明細書において、「プラスミド」および「ベクター」は交換可能に使用され得る。しかしながら、本発明は、等価な機能をもたらすそのような他の形態の発現ベクター(例えば、ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス))も含むと意図される。
【0077】
1つの実施形態において、PEDFをコードするポリヌクレオチドは、調節エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、分泌シグナル、終止シグナルなど)の作動制御下にあるプラスミド発現ベクターなどの組換え構築物である。適当な発現ベクターを構築するための方法は、当該分野で公知であり、例えば、Sambrookら、1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd Ed.),Cold Spring Harbor Press,N.Yおよび類似のテキストに記載されている。また、発現ベクターは、商業的に入手可能でもある。1つの好ましい発現ベクターは、pKan2ベクター(Neurotech)である(図1を参照のこと)。pKanXベクター(すなわち、pKan2または他のバージョン,ここで、X=バージョン)を作製するために、CNTFの送達のために以前に使用されたpNUT発現ベクターを大規模に改変した。組換え手法を用いることにより、pNUTに対して以下の改変を行った:1)アンピシリン耐性遺伝子(AmpR)の欠失;2)DHFRおよびHSV1チミジンキナーゼカセットの欠失;3)原核生物においてカナマイシン耐性遺伝子を発現するネオマイシン/カナマイシン耐性遺伝子(NeoR/KanR)の上流へのAmpRプロモーターの配置。
【0078】
上記組換え発現ベクターは、宿主細胞における核酸の発現に適した形態の(これは、その組換え発現ベクターが、発現のために使用される宿主細胞に基づいて選択された、発現される核酸配列に作動可能に連結される1つ以上の制御配列を含むことを意味する)任意のPEDF核酸を含む。組換え発現ベクター内において、「作動可能に連結される」は、目的のヌクレオチド配列が、そのヌクレオチド配列の発現を可能にする様式で(例えば、インビトロ転写/翻訳系において、またはそのベクターが宿主細胞に導入されるときは宿主細胞において)制御配列に連結されることを意味すると意図される。
【0079】
用語「制御配列」は、プロモーター、エンハンサーおよび他の発現調節領域(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含むと意図される。そのような制御配列は、例えば、Goeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)に記載されている。制御配列には、多くのタイプの宿主細胞においてヌクレオチド配列の構成的な発現を指示する制御配列、およびある特定の宿主細胞だけでヌクレオチド配列の発現を指示する制御配列(例えば、組織特異的制御配列)が含まれる。発現ベクターの設計は、形質転換される宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現のレベルなどのような因子に依存し得ることが、当業者によって認識されるだろう。上記発現ベクターは、宿主細胞に導入されることにより、本明細書中に記載されるような核酸によってコードされるタンパク質またはペプチド(融合タンパク質または融合ペプチドを含む)(例えば、PEDFポリペプチド、PEDFポリペプチドの変異体の形態、融合タンパク質など)を生成し得る。
【0080】
上記組換え発現ベクターは、原核細胞または真核細胞においてPEDF構築物を発現させるために設計され得る。原核細胞と真核細胞との両方に対する他の適当な発現系は、当該分野で公知である(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual.2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989のChapter 16および17を参照のこと)。成長因子または他の目的の生物学的に活性な分子をコードする遺伝子を発現するために、多種多様の宿主/発現ベクターの組み合わせを用いてもよい。PEDFをコードする遺伝子は、哺乳動物宿主においてインビボで埋め込まれたときにダウンレギュレーションに供されないプロモーターに作動可能に連結された発現ベクター(すなわち、組換えDNA分子)を用いて、長期間にわたる安定なインビボ発現が達成される。適当なプロモーターとしては、例えば、強力な構成的哺乳動物プロモーター(例えば、ベータ−アクチン、eIF4A1、GAPDHなど)が挙げられる。ストレス誘導性プロモーター(例えば、メタロチオネイン1(MT−1)またはVEGFプロモーター)もまた適当であり得る。また、コアプロモーターおよびカスタム5’UTRまたはエンハンサーエレメントを含むバイブリッドプロモーターを使用してもよい。遺伝子発現を調節することができる他の公知の非レトロウイルスプロモーター(例えば、CMVもしくはSV40の初期および後期プロモーター、またはアデノウイルス)も適当である。
【0081】
次いで、目的の遺伝子を含む発現ベクターを用いることにより、所望の細胞株がトランスフェクトされ得る。標準的なトランスフェクション法(例えば、リポソーマル、リン酸カルシウム共沈、DEAE−デキストラントランスフェクションまたはエレクトロポレーション)が利用され得る。Fugene6(Roche Applied Sciences)などの商業的に入手可能な哺乳動物トランスフェクションキットを購入してもよい。ヒト哺乳動物細胞が使用され得る。すべての場合において、本デバイスに含められる細胞または組織が汚染されていないかまたは粗悪化されていないことが重要である。
【0082】
開示される構築物において使用される好ましいプロモーターとしては、SV40プロモーター、Ampプロモーターおよび/またはMT1プロモーターが挙げられる。
【0083】
他の有用な発現ベクターは、例えば、染色体、非染色体および合成のDNA配列のセグメント(例えば、SV40の様々な公知の誘導体および公知の細菌プラスミド、例えば、大腸菌由来のpUC、pBlueScriptTMプラスミド(pBR322、pCR1、pMB9およびそれらの誘導体を含む))からなり得る。ジェネテシン(G418)またはハイグロマイシン薬物選択遺伝子を含む発現ベクター(Southern,P.J.,In vitro,18:315(1981)およびSouthern,P.J.ら、Mol.Appl.Genet.,1:327(1982)を参照のこと)もまた有用である。これらのベクターは、目的の生物学的な遺伝子および/またはG418もしくはハイグロマイシンBなどのトキシンでの選択に対する耐性を付与する遺伝子の両方の発現を駆動するために異なる種々のエンハンサー/プロモーター領域を使用し得る。異なる種々の哺乳動物プロモーターは、G418およびハイグロマイシンBに対する遺伝子ならびに/または目的の生物学的な遺伝子の発現を指示するために使用され得る。G418耐性遺伝子は、培養液に加えられるG418(100〜1000μg/μl)を酵素的に不活性化するアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)をコードする。通常、第2の生物学的な遺伝子の発現も同様にもたらす、APH遺伝子を発現している細胞だけが、薬物選択から生き延びる。ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(HPH)遺伝子は、ハイグロマイシントキシンを特異的に改変し、それを不活性化する酵素をコードする。ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子と同じプラスミドとともに同時にトランスフェクトされる遺伝子、またはその同じプラスミド上に含められる遺伝子は、50〜200μg/ml濃度のハイグロマイシンBの存在下において優先的に発現され得る。
【0084】
使用され得る発現ベクターの例としては、商業的に入手可能なpRC/CMV、pRC/RSVおよびpCDNA1NEO(InVitrogen)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
1つの実施形態において、変異体DHFRのcDNA、およびポリリンカーを含むpUC18配列全体を含むpNUT発現ベクターが使用され得る。例えば、Aebischer,P.ら、Transplantation,58,pp.1275−1277(1994);Baetgeら、PNAS,83,pp.5454−58(1986)を参照のこと。そのpNUT発現ベクターは、DHFRコード配列が、G418またはハイグロマイシン薬物耐性に対するコード配列によって置き換えられるように改変され得る。pNUT発現ベクター内のSV40プロモーターもまた、任意の適当な構成的に発現される哺乳動物プロモーター(例えば、上で述べられた哺乳動物プロモーター)で置き換えられ得る。PEDFをコードする遺伝子は、クローニングされており、それらのヌクレオチド配列は公開されている(GenBankアクセッションP36955を参照のこと)。公的に入手可能でない本発明において有用な生物学的に活性な分子をコードする他の遺伝子は、標準的な組換えDNA法(例えば、PCR増幅、オリゴヌクレオチドプローブを用いたゲノムおよびcDNAライブラリースクリーニング)を用いて得てもよい。生物学的に活性な分子をコードする任意の公知の遺伝子が、本発明の方法およびデバイスにおいて使用され得る。
【0086】
さらに、本発明は、そのようなベクター(または本明細書中に記載される核酸分子のいずれか)を含む宿主細胞または細胞株も提供する。本明細書中で使用されるとき、用語「宿主細胞」および「組換え宿主細胞」は、本明細書中で交換可能に使用される。そのような用語は、特定の主題細胞のことだけを指すのではなく、そのような細胞の子孫または潜在的な子孫のことも指すことが理解される。変異または環境の影響に起因して、ある特定の改変が後世において起き得るので、そのような子孫は、実際には親細胞と同一でない可能性があるが、本明細書中で使用されるとき、なおもこの用語の範囲内に含められる。
【0087】
宿主細胞は、任意の原核細胞または真核細胞であり得る。非限定的な例として、宿主細胞は、ARPE−19細胞であり得る。しかしながら、他の適当な宿主細胞が、当業者に公知である。
【0088】
ベクターDNAは、従来の形質転換法またはトランスフェクション法によって原核細胞または真核細胞に導入され得る。本明細書中で使用されるとき、用語「形質転換」および「トランスフェクション」は、外来核酸(例えば、DNA)を宿主細胞に導入するための当該分野において認められた種々の手法のことを指すと意図され、その手法としては、リン酸カルシウムまたは塩化カルシウム共沈、DEAE−デキストラン媒介性トランスフェクション、リポフェクションまたはエレクトロポレーションが挙げられる。宿主細胞の形質転換またはトランスフェクトに適した方法は、Sambrookら(Molecular Cloning:A Laboratory Manual.2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989)および他の研究室のマニュアルに見られ得る。
【0089】
哺乳動物細胞を安定的にトランスフェクションする場合、使用される発現ベクターおよびトランスフェクション法に応じて、少量の細胞だけが、外来DNAをそれらのゲノム内にインテグレートし得ることが知られている。これらの組み込み体を同定するためおよび選択するために、通常、選択可能なマーカー(例えば、抗生物質に対する耐性)をコードする遺伝子が、目的の遺伝子とともに宿主細胞に導入される。様々な選択可能なマーカーには、薬物(例えば、G418、ハイグロマイシンおよびメトトレキサート)に対する耐性を付与するマーカーが含まれる。選択可能なマーカーをコードする核酸は、PEDF構築物をコードするベクターと同じベクターにおいて宿主細胞内に導入され得るか、または別個のベクターにおいて導入され得る。導入される核酸で安定的にトランスフェクトされた細胞は、薬物選択によって同定され得る(例えば、その選択可能なマーカー遺伝子が組み込まれた細胞は生き延びるが、他の細胞は死滅する)。
【0090】
培養中の宿主細胞(例えば、原核生物または真核生物の宿主細胞)が、PEDF構築物を生成するために(すなわち、発現するために)使用され得る。したがって、本発明はさらに、宿主細胞を使用してPEDFポリペプチドを生成するための方法を提供する。1つの実施形態において、その方法は、PEDFポリペプチドが生成されるように適当な培地中で本発明の宿主細胞を培養する工程を包含する(その宿主細胞内には、PEDFをコードする組換え発現ベクターが導入されている)。別の実施形態において、その方法はさらに、その培地または宿主細胞からPEDFを単離する工程を包含する。
【0091】
同様に、本発明は、PEDFを産生するように遺伝的に操作されたARPE−19細胞の細胞株も提供し、ここで、例えば、そのPEDFは、配列番号2または配列番号4の核酸配列によってコードされる。同様に、本発明は、配列番号1の選択されたアミノ酸配列を含むPEDFを産生するように遺伝的に操作されたARPE−19細胞の細胞株も提供する。
【0092】
被包された細胞ベースの送達系のためのプラットホーム細胞株であるために、その細胞株は、以下の特徴をできるだけ多く有するべきである:(1)それらの細胞は、ストリンジェントな条件下において頑丈であるべきである(被包された細胞は、無血管の組織腔(例えば、中枢神経系または眼、特に、眼球内の環境)において機能性であるべきである);(2)それらの細胞は、遺伝的に改変されることが可能であるべきである(所望の治療的な因子が、細胞内で操作される必要がある);(3)それらの細胞は、比較的長い寿命を有するべきである(それらの細胞は、保存される、特徴付けられる、操作される、安全性が試験される、および臨床用にロット製造される(clinical lot manufactured)のに十分な子孫を生成するべきである);(4)それらの細胞は、好ましくは、ヒト起源であるべきである(これにより、被包された細胞と宿主との間の適合性が高まる);(5)それらの細胞は、デバイス内で1ヶ月を超える期間にわたってインビボにおいて80%より高い生存能を示すべきである(これにより長期間の送達が保証される);(6)被包された細胞は、効果的な量の有用な生物学的生成物を送達するべきである(これにより処置の有効性が保証される);(7)それらの細胞は、低レベルの宿主免疫反応をもたらすべきである(これにより、移植片の長命が保証される);そして(8)それらの細胞は、非腫瘍形成性(nontumorgenic)であるべきである(これにより、デバイスが漏れた場合の宿主に対する追加の安全性が提供される)。
【0093】
好ましくは、本発明に従って使用するための細胞は、正常な網膜色素上皮細胞である。特定の実施形態において、それらの細胞は、被包された細胞ベースの送達系に対して好結果のプラットホーム細胞の特徴のすべてを示すARPE−19細胞である(Dunnら、Exp.Eye Res.(1996)62:155−169;Dunnら、Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.(1998)39:2744−9;Finnemannら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1997)94:12932−12937;Handaら、Exp.Eye(1998)66:411−419;Holtkampら、Clin.Exp.Immunol.(1998)112:34−43;およびMaidjiら、J.Virol.(1996)70:8402−8410)。被包された細胞ベースの治療薬の送達のためにARPE−19細胞を使用することは、米国特許第6,361,771号に記載されている。ARPE−19細胞は、American Type Culture Collectionから入手可能である(ATCC Number CRL−2302)。ARPE−19細胞は、正常な網膜色素上皮(RPE)細胞であり、網膜色素上皮細胞特異的マーカーであるCRALBPおよびRPE−65を発現する。ARPE−19細胞は、安定な単層を形成し、それは、形態学的および機能的に極性を示す。
【0094】
本発明のデバイスが使用されるとき、好ましくは、10〜10個の操作されたARPE−19細胞、最も好ましくは、PEDFを分泌するように遺伝的に操作された5×10〜5×10個のARPE−19細胞が、各デバイス内に被包される。投与量は、より少ないまたはより多い数のカプセル、好ましくは、患者1人あたり1〜50個のカプセルを埋め込むことによって調節され得る。本明細書中に記載されるデバイスは、約1.0ng〜1000ng/眼/患者/日のPEDFを送達することができる。
【0095】
選択される生成物を産生する細胞または組織を単離するための手法および手順は、当業者に公知であるか、またはせいぜい通例の実験法を用いて公知の手順から適合され得る。
【0096】
単離される細胞が、インビトロにおける成長に適合された複製細胞または複製細胞株である場合、これらの細胞の細胞バンクを生成することが特に有益である。細胞バンクの特定の利点は、それが、細胞の同じ培養物またはバッチから調製された細胞の起源である点である。換言すれば、すべての細胞が同じ細胞の起源を起源とし、同じ条件およびストレスに曝露されている。ゆえに、そのバイアルは、同質の培養物として処理され得る。これにより、移植の状況において、同一デバイスまたは置換デバイスの作製が非常に容易になる。それはまた、埋め込まれる細胞がレトロウイルスなどを含まないことを保証する試験プロトコルの単純化を可能にする。それはまた、インビボおよびインビトロにおけるビヒクルの平行したモニタリングも可能にし得、したがって、インビボにおける滞留に特有の作用または因子の調査も可能にし得る。
【0097】
本発明はまた、PEDFを眼に送達するための、生体適合性で必要に応じて免疫隔離性のデバイスにも関する。そのようなデバイスは、PEDFを産生するかまたは分泌する生細胞を含むコア、およびそのコアを取り囲む生体適合性の包被を備え、ここで、その包被は、眼および中枢神経系(脳、脳室、脊髄を含む)へのPEDFの拡散を可能にする分子量カットオフ(「MWCO」)を有する。
【0098】
種々の生体適合性カプセルが、本発明に係る分子の送達に適している。有用な生体適合性ポリマーカプセルは、(a)液体媒質中に懸濁された細胞または生体適合性マトリックス内に固定化された細胞を含むコア、および(b)単離された細胞を含まず、生体適合性であり、かつ細胞が産生した生物学的に活性な分子の眼への拡散を許容する膜を含む取り囲む包被を備える。
【0099】
多くの形質転換された細胞または細胞株が、例えば栄養培地を含み、必要に応じて、細胞の生存能および機能を持続させるための追加の因子の起源を含む、液体のコアを有するカプセル内に都合良く隔離される。本発明のデバイスのコアは、成長因子(例えば、プロラクチンまたはインスリン様成長因子2)、成長調節物質(例えば、トランスフォーミング成長因子β(TGF−β)または網膜芽細胞腫遺伝子タンパク質)または栄養素輸送促進物質(例えば、そのコア内における溶存酸素濃度を高め得るパーフルオロカーボン)に対するレザバーとして機能し得る。これらの物質のある特定のものは、液体媒質中に含めるためにも適切である。
【0100】
さらに、本デバイスは、必要とされる薬物または生物学的薬物(biotherapeutics)の調節された送達に対するレザバーとしても使用され得る。そのよう場合、そのコアは、高濃度の選択された薬物または生物学的薬物を含む(単独で、または細胞もしくは組織とともに)。さらに、本発明に係るデバイスが埋め込まれる身体の領域において快適な環境を調製するかまたはもたらす物質を含むサテライトビヒクルもまた、レシピエントに埋め込まれ得る。そのような場合、例えば、レシピエントからの炎症反応を下方調節するかまたは阻害する物質(例えば、抗炎症性ステロイド)、または毛細血管床の内殖を刺激する物質(例えば、血管新生因子)の調節された量を放出するサテライトビヒクルとともに、免疫隔離された細胞を含むデバイスがその領域に埋め込まれる。
【0101】
あるいは、そのコアは、ヒドロゲルの生体適合性マトリックス、または細胞の位置を安定化する他の生体適合性3次元材料(例えば、細胞外マトリックス成分)を含み得る。本明細書中の用語「ヒドロゲル」とは、架橋された親水性ポリマーの3次元ネットワークのことを指す。そのネットワークは、水から実質的に構成されるゲル、好ましくは、水が90%を超えるゲルの形態である。ヒドロゲルを形成する組成物は、3つのクラスに分けられる。第1のクラスは、正味の負電荷を有する(例えば、アルギネート)。第2のクラスは、正味の正電荷を有する(例えば、コラーゲンおよびラミニン)。商業的に入手可能な細胞外マトリックス成分の例としては、MatrigelTMおよびVitrogenTMが挙げられる。第3のクラスは、正味の中性の電荷である(例えば、高度に架橋されたポリエチレンオキシド、またはポリビニルアルコール)。
【0102】
任意の適当なマトリックスまたはスペーサーが、コア内において使用され得、それらとしては、被包される細胞の成長特性に応じて、沈降キトサン、合成ポリマーおよびポリマー混和物、マイクロキャリアなどが挙げられる。
【0103】
あるいは、上記カプセルは、内部の足場を有し得る。その足場は、細胞の凝集を防ぎ得、そのデバイス内での細胞の分布を改善し得る(PCT公開番号WO96/02646を参照のこと)。その足場は、被包された細胞に対する微小環境を規定し、細胞がコア内に十分に分布された状態を維持する。特定のデバイスに対する最適な内部の足場は、使用される細胞型に高度に依存する。そのような足場の非存在下では、接着性細胞は、凝集してクラスターを形成する。
【0104】
例えば、その内部の足場は、ヤーンまたはメッシュであり得る。ヤーンまたはメッシュの内部の足場を形成するために使用されるフィラメントは、任意の適当な生体適合性で実質的に非分解性の材料から形成される(本明細書中で参考として援用される米国特許第6,303,136号および同第6,627,422号を参照のこと)。好ましくは、本発明のカプセルは、参考として援用されるPCT国際特許出願WO92/19195もしくはWO95/05452;または参考として援用される米国特許第5,639,275号;同第5,653,975号;同第4,892,538号;同第5,156,844号;同第5,283,187号;もしくは同第5,550,050号によって記載されたものに類似し得る。ヤーンまたは織り込まれたメッシュを形成する際に有用な材料としては、繊維に形成されることができる任意の生体適合性ポリマー(例えば、アクリル、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアミド類、ポリウレタン類、ポリブテステルまたは天然繊維(例えば、綿、絹、キチンまたは炭素))が挙げられる。任意の適当な熱可塑性ポリマー、熱可塑性エラストマー、または繊維形成特性を有する他の合成もしくは天然の材料が、予め製作された中空繊維膜、または平らな膜シートから形成された中空の円筒の中に挿入され得る。例えば、縫合糸材料のために使用されるかまたは血管移植片の製造において使用される絹、PETまたはナイロンフィラメントは、このタイプの適用に非常に貢献する。他の実施形態において、金属リボンまたは金属ワイヤーが使用され得、織り込まれ得る。これらのフィラメント材料の各々は、十分に調節された表面および幾何的特性を有し、大量生産され得、埋め込みでの使用の長い歴史を有する。ある特定の実施形態において、それらのフィラメントは、粗面、および細胞突起が付着し得る「取っ手(hand−holds)」を提供するように「テクスチャライズ(texturized)」され得る。それらのフィラメントは、それらのフィラメントへの細胞の接着を高めるように、細胞外マトリックス分子でコーティングされ得るか、または表面処理(例えば、プラズマ照射)され得る。
【0105】
いくつかの実施形態において、好ましくは、非ランダムな一方向の向きで配列されたフィラメントが、束に撚り合わされることにより、様々な厚さおよび空隙容量のヤーンが形成される。空隙容量は、フィラメント間に存在する空間と定義される。そのヤーンにおける空隙容量は、20〜95%で変動するべきであるが、好ましくは、50〜95%である。フィラメント間の好ましい空隙空間は、足場がヤーンに沿って細胞が播かれることを可能にするのに十分であり、細胞がフィラメントに付着することを可能にするのに十分である、20〜200μmである。ヤーンを構成するフィラメントの好ましい直径は、5〜100μmである。これらのフィラメントは、ヤーンを構成する束に撚り合わされることを可能にするのに十分な機械的強度を有するべきである。フィラメントの断面の形状は、様々であり得、円形、長方形、楕円形、三角形および星形の断面が好ましい。
【0106】
あるいは、そのフィラメントまたはヤーンは、メッシュに織り込まれ得る。そのメッシュは、織っている間にヤーンまたはフィラメントをそのメッシュに供給するように働く、モノフィラメントまたはマルチフィラメントを含む糸巻きに似たキャリア(carrier)を用いて、ブレーダー(braider)において生成され得る。キャリアの数は、調節可能であり、同じフィラメントで、または異なる組成物および構造物とフィラメントとの組み合わせで織り込まれ得る。ピック数によって規定されるブレード(braid)の角度は、キャリアの回転速度および生産速度によって調節される。1つの実施形態において、マンドレルを用いることにより、メッシュの中空管が作られる。ある特定の実施形態において、そのブレードは、単層として構築され、他の実施形態において、そのブレードは、多層構造である。ブレードの引張り強さは、個別のフィラメントの引張り強さの線形和(linear summation)である。
【0107】
他の実施形態において、管状のブレードが構築される。そのブレードは、細胞が播かれる中空繊維膜の中に挿入され得る。あるいは、細胞接着のために利用可能な表面積を最大にするために、細胞は、メッシュ管の壁への侵入を可能にされ得る。そのような細胞の侵入が起きるとき、そのブレードは、細胞の足場マトリックスと本デバイスに対する内部支持体との両方として働く。ブレードによって支持されるデバイスに対する引張り強さの増加は、代替のアプローチにおけるものよりも有意に高い。
【0108】
述べられるように、免疫学的特権部位でない埋め込み部位(例えば、眼周囲の部位、ならびに前眼房(房水)および後眼房(硝子体)の外側の他の領域)に対しては、本カプセルは、好ましくは、免疫隔離性である。生体適合性材料の成分には、取り囲んでいる半透膜、および細胞を支持している内部の足場材料が含まれ得る。形質転換された細胞は、好ましくは、足場材料上に播かれ、それが、上で記載された選択透過性の膜によって被包される。また、固着された繊維構造も、細胞の埋め込みのために使用され得る(参考として援用される米国特許第5,512,600号を参照のこと)。生分解性ポリマーとしては、ポリ(乳酸)PLA、ポリ(乳酸−コグリコール酸)PLGAおよびポリ(グリコール酸)PGAならびにそれらの等価物から構成される生分解性ポリマーが挙げられる。移植される細胞が接着し得る表面を提供するために泡沫状の足場が使用されている(参考として援用されるPCT国際特許出願番号98/05304)。織り込まれたメッシュ管が、血管移植片として使用されている(参考として援用されるPCT国際特許出願WO99/52573)。また、コアは、細胞の位置を安定化する、ヒドロゲルまたは他の生体適合性の3次元マトリックスから形成された固定化マトリックスから構成され得る。ヒドロゲルは、実質的に水から構成されたゲルの形態の架橋された親水性ポリマーの3次元ネットワークである。
【0109】
様々なポリマーおよびポリマー混和物が、取り囲む半透膜を製造するために使用され得、それらとしては、ポリアクリレート類(アクリル共重合体を含む)、ポリビニリデン類、ポリ塩化ビニル共重合体、ポリウレタン類、ポリスチレン類、ポリアミド類、酢酸セルロース類、硝酸セルロース類、ポリスルホン類(ポリエーテルスルホン類を含む)、ポリホスファゼン類、ポリアクリロニトリル類、ポリ(アクリロニトリル/コ塩化ビニル)、ならびにそれらの誘導体、共重合体および混合物が挙げられる。好ましくは、取り囲む半透膜は、生体適合性で半透性の中空繊維膜である。そのような膜、およびそれらを作製する方法は、参考として援用される米国特許第5,284,761号および同第5,158,881号によって開示されている。取り囲む半透膜は、参考として援用される米国特許第4,976,859号または米国特許第4,968,733号によって記載されているようなポリエーテルスルホン中空繊維から形成される。取り囲む代替の半透膜材料は、ポリスルホンである。
【0110】
本カプセルは、生物学的活性を維持するため、および生成物または機能を送達するために接近するために適切な任意の形(configuration)(例えば、円筒形、長方形、円盤形、パッチ形、卵形、星形または球形が挙げられる)であり得る。さらに、本カプセルは、輪状にされ得るか、またはメッシュ様の構造もしくは入れ子状態の構造に包まれ得る。本カプセルが、埋め込まれた後に回収される予定である場合、埋め込み部位からのカプセルの移動をもたらす傾向がある形(例えば、レシピエント宿主の血管に移行するのに十分小さい球形のカプセル)は、好ましくない。ある特定の形状(例えば、長方形、パッチ、円盤、円筒および平らなシート)は、より高い構造的完全性を提供し、回収が望まれる場合、好ましい。
【0111】
好ましくは、本デバイスは、埋め込み中のデバイス留置の維持に役立ち、かつ回収に役立つ繋ぎ部材を有する。そのような繋ぎ部材は、所定の位置に本カプセルを固定するように適合された任意の適当な形状を有し得る。例えば、縫合材は、ループ、円盤または縫合糸であり得る。いくつかの実施形態では、縫合糸を用いることにより繋ぎ部材(ひいては本デバイス)を強膜または他の適当な眼構造に固定し得るように、その繋ぎ部材は、アイレット(eyelet)のような形をとる。別の実施形態において、繋ぎ部材は、その一方の端が本カプセルに接続され、他方の端が予め糸が通された縫合針を形成する。1つの好ましい実施形態において、繋ぎ部材は、本カプセルを眼構造に繋留するために適合されたアンカーループである。その繋ぎ部材は、形状記憶金属および/または当該分野で公知の他の任意の適当な医療グレードの材料から構築され得る。
【0112】
中空繊維の形において、その繊維は、1000ミクロン未満、好ましくは、750ミクロン未満の内径を有し得る。300〜600ミクロン未満の外径を有するデバイスもまた企図される。眼に埋め込む場合、中空繊維の形において、本カプセルは、好ましくは、0.4cm〜1.5cmの長さ、最も好ましくは、0.4〜1.0cmの長さであり得る。それより長いデバイスも、眼に適応され得るが、しかしながら、湾曲した形状または弓形の形状が、安全かつ適切な留置のために求められることがある。中空繊維の形は、眼内留置にとって好ましい。
【0113】
眼周囲への留置の場合、中空繊維の形(実質的に上記のような寸法を有するもの)または平らなシートの形が企図される。平らなシートに対して企図される上限は、正方形と仮定すれば、およそ5mm×5mmである。ほぼ同じ表面積を有する他の形状も企図される。
【0114】
水力学的透過率は、代表的には、1〜100mls/分/m/mmHg、例えば、0.5〜100mls/分/m/mmHgの範囲、好ましくは、1〜70mls/分/m/mmHgの範囲であり得る。本カプセルのグルコース物質移動係数は、Dionneら、ASAIO,Abstracts,p.99(1993)およびColtonら、The Kidney,eds.Brenner BM and Rector FC,pp.2425−89(1981)(この両方の全体が本明細書中で参考として援用される)によって記載されているように、定義され、測定され、そして計算され得る。
【0115】
本デバイスのコアを取り囲む周囲のまたは周辺の領域(包被)は、選択透過性、生体適合性および/または免疫隔離性であり得る。それは、単離された細胞を含まず、かつコアを完全に取り囲み(すなわち隔離し)、それにより、コア内の任意の細胞とレシピエントの身体の細胞との間の接触を防ぐような様式で作製される。生体適合性で半透性の中空繊維膜、およびそれらを作製する方法は、米国特許第5,284,761号および同第5,158,881号(WO95/05452もまた参照のこと)(これらの各々はその全体が本明細書中で参考として援用される)に開示されている。例えば、カプセル包被は、ポリエーテルスルホン中空繊維(例えば、米国特許第4,976,859号および4,968,733号および同第5,762,798号(各々が本明細書中で参考として援用される)に記載されているもの)から形成され得る。
【0116】
選択透過性であるために、その包被は、本デバイスが埋め込まれた後に遭遇すると予測される免疫学的反応のタイプおよび程度と、本デバイスへの通過および本デバイスから眼への通過が望ましい最も大きい物質の分子サイズとの両方にとって適切な分子量カットオフ(「MWCO」)範囲を有するような様式で形成される。本デバイスの埋め込み後にレシピエントによって開始され得る免疫学的攻撃のタイプおよび程度は、その中に隔離された部分のタイプおよびレシピエントの独自性(すなわち、レシピエントがBAMの起源にどれくらい遺伝的に近く関係するか)に一部依存する。埋め込まれる組織または細胞が、レシピエントに対して同種であるとき、免疫拒絶は、主として、埋め込まれた細胞に対するレシピエントの免疫細胞による細胞媒介性の攻撃を通じて進み得る。その組織または細胞が、レシピエントに対して異種であるとき、レシピエントの細胞溶解性補体攻撃複合体の集合による分子攻撃が、補体と抗体の相互作用と同様に、優勢であり得る。
【0117】
その包被は、所定のサイズまでの物質を眼の中に通過させるが、それより大きい物質の通過を妨げる。より詳細には、所定のサイズ範囲のポアまたは空隙を有するような様式で周囲または周辺の領域がもたらされ、結果として、本デバイスは、選択透過性である。取り囲んでいる包被のMWCOは、免疫学的攻撃を行うのに必要な物質がコアに接近するのを防ぐのに十分小さいが、レシピエントの眼にPEDFを送達するのを可能にするのに十分大きくなくてはならない。好ましくは、PEDFが使用されるとき、本発明のデバイスの生体適合性包被のMWCOは、約1kD〜約1500kD(例えば、約50〜約1500kD)である。しかしながら、200kDより大きいMWCOを有する開孔膜(open membrane)も使用され得る。
【0118】
デバイスの包被に関して本明細書中で使用されるとき、用語「生体適合性」とは、集合的に、デバイスとその内容物との両方のことを指す。詳細には、生体適合性とは、埋め込まれる本デバイスおよびその内容物が、身体の様々な防御系の有害な作用を回避する能力およびかなりの期間にわたって機能を保持する能力のことを指す。本明細書中で使用されるとき、用語「防御系」とは、本ビヒクルが埋め込まれる個体の免疫系によって開始され得る免疫学的攻撃のタイプ、および他の拒絶機構(例えば、線維形成反応(fibrotic response)、異物反応、および個体の身体内の異物の存在によって誘導され得る他のタイプの炎症反応)のことを指す。免疫系による防御反応または異物線維形成反応の回避に加えて、本明細書中で使用される用語「生体適合性」は、特定の望ましくない細胞傷害性または全身性の作用(例えば、ビヒクルまたはその内容物の所望の機能を妨げ得る作用)が、そのビヒクルおよびその内容物によって引き起こされないことも含意する。
【0119】
本デバイスの外面は、選択された部位における埋め込みに本デバイスが特に適するような様式で選択され得るかまたは設計され得る。例えば、その外面は、周囲の組織の細胞による付着が望ましいか否かに応じて、滑面であり得るか、斑点で覆われ得るか、または粗面であり得る。その形状または形もまた、選択される埋め込み部位に対して特に適切であるように選択され得るか、または設計され得る。
【0120】
本デバイスの周囲または周辺の領域(包被)の生体適合性は、ある因子の組み合わせによってもたらされる。生体適合性および継続した機能性にとって重要なのは、デバイスの形態、疎水性、およびデバイス自体の表面上に望ましくない物質が存在しないことまたはデバイス自体から望ましくない物質が浸出可能でないことである。例えば、正に帯電した分子の通過を増加させる電荷の改変が膜に対して行われる場合、改変された膜は、おそらく疎水性であり得る。したがって、ブラシのような表面、ひだ、中間層、または異物反応を誘発する他の形状もしくは構造は回避される。さらに、デバイスを形成する材料は、望まれない物質がデバイス材料自体から浸出しないことを保証するのに十分純粋である。また、デバイス調製後に、本デバイスに接着し得るかまたは本デバイスによって吸収され得、その後、デバイスの生体適合性を損なう、流体または材料(例えば、血清)による本デバイスの外面の処理が回避される。
【0121】
第1に、デバイス包被を形成するために使用される材料は、埋め込まれるデバイスがレシピエントの組織と適合性である能力およびその組織に認容される能力に基づいて選択される物質である。レシピエントまたは単離された細胞にとって有害でない物質が使用される。好ましい物質としては、ポリマー材料、すなわち、熱可塑性ポリマーが挙げられる。特に好ましい熱可塑性ポリマー物質は、適度に疎水性である熱可塑性ポリマー物質、すなわち、Brandrup J.ら、Polymer Handbook 3rd Ed.,John Wiley & Sons,NY(1989)において定義されているような、8〜15、またはより好ましくは、9〜14(ジュール/m1/2の溶解性パラメータを有するポリマー物質である。そのポリマー物質は、それが有機溶媒に可溶性であるのに十分低い溶解性パラメータ、かつなおも適切な膜を形成するように分割するのに十分高い溶解性パラメータを有するように選択される。そのようなポリマー物質は、不安定な求核部分を実質的に含むべきでなく、安定化剤の非存在下でさえも、酸化体および酵素に対して高度に耐性であるべきである。特定のビヒクルに対して企図されるインビボでの滞留時間もまた、考慮されなければならない:生理学的条件および生理学的ストレスに曝露されたときに十分に安定である物質が選択されなければならない。1または2年を越える期間などのインビボでの長い滞留時間にわたっても十分に安定である多くの熱可塑性物質が公知である。
【0122】
本デバイスを構築するために使用される材料の選択は、本明細書中で参考として援用されるDionneのWO92/19195に詳細に記載されているようないくつかの因子によって決定される。簡潔には、様々なポリマーおよびポリマー混和物が、本カプセル包被を製造するために使用され得る。本デバイスを形成するポリマー膜およびその中の成長表面は、ポリアクリレート類(アクリル共重合体を含む)、ポリビニリデン類、ポリ塩化ビニル共重合体、ポリウレタン類、ポリスチレン類、ポリアミド類、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルジフルオリド、ポリオレフィン類、酢酸セルロース類、硝酸セルロース類、ポリスルホン類、ポリホスファゼン類、ポリアクリロニトリル類、ポリ(アクリロニトリル/コ塩化ビニル)、ならびにそれらの誘導体、共重合体および混合物を含み得る。
【0123】
好ましい膜キャスト液(membrane casting solution)は、水混和性溶媒のジメチルアセトアミド(DMACSO)に溶解されたポリスルホン、または水混和性溶媒のブチロラクトンに溶解されたポリエーテルスルホンを含む。このキャスト液は、必要に応じて、完成した膜の透過性特性に影響する親水性または疎水性の添加物を含み得る。ポリスルホンまたはポリエーテルスルホンに対する好ましい親水性添加物は、ポリビニルピロリドン(PVP)である。他の適当なポリマーとしては、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルジフルオリド(PVDF)、ポリエチレンオキシド、ポリオレフィン類(例えば、ポリイソブチレンまたはポリプロピレン)、ポリアクリロニトリル/ポリ塩化ビニル(PAN/PVC)および/またはセルロース誘導体(例えば、酢酸セルロースまたは酪酸セルロース)が挙げられる。これらおよび他の適当なポリマーおよび共重合体に対して適合性の水混和性溶媒は、米国特許第3,615,024号の教示に見られる。
【0124】
第2に、本デバイスの生体適合性包被を調製する際に使用される物質は、浸出可能な発熱性の物質または別途有害な、刺激性のもしくは免疫原性の物質を含まないか、あるいはそのような有害物質を除去するために徹底的に精製される。その後、ならびに埋め込み前の本デバイスの製造および維持の間ずっと、その生体適合性に悪影響を与え得る物質による本デバイスまたは包被の粗悪化または汚染が防がれるように高度の注意が払われる。
【0125】
第3に、そのテクスチャーを含む本デバイスの外側の形は、それが埋め込まれた後にレシピエントの眼に最適な界面を提供するような様式で形成される。ある特定のデバイスの幾何図形的外形は、異物線維形成反応を特異的に誘発すると見出されており、それは回避されるべきである。したがって、デバイスは、ブラシのような表面またはひだなどの中間層を有する構造を含むべきでない。一般に、同じまたは隣接したビヒクルと反対側のビヒクルの表面または縁は、少なくとも1mm、好ましくは、2mm超、最も好ましくは、5mm超離れているべきである。好ましい実施形態は、約200〜350μmの外径および約0.4〜6mmの長さを有する円筒を含む。好ましくは、本発明のデバイスのコアは、およそ2.5μlの容量を有する。しかしながら、当業者は、0.5μl未満のコア容量(例えば、約0.3μl)を有する「微粒子化された」デバイスを使用こともできることを認識するだろう。
【0126】
生体適合性デバイスの取り囲んでいる包被は、必要に応じて、埋め込まれるビヒクルに対する局所的な炎症反応を減少させるかもしくは阻止する物質、および/または埋め込まれる細胞もしくは組織にとって適した局所環境をもたらすかもしくは促す物質を含み得る。例えば、免疫応答の1つ以上のメディエーターに対する抗体が含められ得る。潜在的に有用な利用可能な抗体(例えば、リンフォカイン、腫瘍壊死因子(TNF)およびインターフェロン(IFN)に対する抗体)が、マトリックス前駆体溶液中に含められ得る。同様に、抗炎症性ステロイドも含められ得る。本明細書中で参考として援用されるChristenson,L.ら、J.Biomed.Mat.Res.,23,pp.705−718(1989);Christenson,L.,Ph.D.学位論文,Brown University,1989を参照のこと。あるいは、血管新生(毛細血管床の内殖)を刺激する物質が含められ得る。
【0127】
いくつかの実施形態において、本デバイスの包被は、免疫隔離性である。換言すれば、本デバイスの包被は、デバイスのコア内の細胞を、デバイスが埋め込まれる個体の免疫系から保護する。本デバイスの包被は、(1)その個体の身体の有害物質がコアに入り込むのを防ぐこと、(2)その個体と、コア内に存在し得る炎症性、抗原性または別途有害な材料との接触を最小限にすること、および(3)隔離された部分と、個体の免疫系の有害な部分との免疫学的接触を防ぐのに十分な空間的および物理的な障壁を提供することによって、上記のように保護する。
【0128】
例えば、外側の包被は、限外濾過膜または微多孔膜であり得る。当業者は、限外濾過膜が、約1〜約100ナノメートルの範囲のポアサイズを有する膜であり、微多孔膜が、約0.05〜約10ミクロンの範囲を有することを認識するだろう。
【0129】
この物理的障壁の厚さは、変動し得るが、その厚さは常に、その障壁の両側における細胞および/または物質の直接的な接触を防ぐのに十分厚い。この領域の厚さは、一般に、5〜200ミクロンの範囲であり;10〜100ミクロンの厚さが好ましく、20〜50または20〜75ミクロンの厚さが特に好ましい。本デバイスの使用によって防ぐことができるかまたは最小限にすることができる免疫学的攻撃のタイプとしては、マクロファージ、好中球、細胞性免疫応答(例えば、ナチュラルキラー細胞および抗体依存性T細胞媒介性細胞傷害(ADCC))および液性反応(例えば、抗体依存性補体媒介性細胞溶解)による攻撃が挙げられる。
【0130】
本カプセル包被は、ポリアクリレート類(アクリル共重合体を含む)、ポリビニリデン類、ポリ塩化ビニル共重合体、ポリウレタン類、ポリスチレン類、ポリアミド類、酢酸セルロース類、硝酸セルロース類、ポリスルホン類(ポリエーテルスルホン類を含む)、ポリホスファゼン類、ポリアクリロニトリル類、ポリ(アクリロニトリル/コ塩化ビニル)、ならびにそれらの誘導体、共重合体および混合物を含む様々なポリマーおよびポリマー混和物から製造され得る。そのような材料から製造されるカプセルは、例えば、本明細書中で参考として援用される米国特許第5,284,761号および同第5,158,881号に記載されている。本明細書中で参考として援用される米国特許第4,976,859号および同第4,968,733号に記載されているものなどの、ポリエーテルスルホン(PES)繊維から形成されるカプセルもまた使用され得る。
【0131】
外表面の形態に応じて、カプセルは、タイプ1(T1)、タイプ2(T2)、タイプ1/2(T1/2)またはタイプ4(T4)に分類されている。そのような膜は、例えば、Lacyら、“Maintenance Of Normoglycemia In Diabetic Mice By Subcutaneous Xenografts Of Encapsulated Islets”,Science,254,pp.1782−84(1991)、Dionneら、WO92/19195およびBaetge,WO95/05452に記載されている。滑面の外表面の形態が、好ましい。
【0132】
当業者は、選択透過性の免疫隔離膜を有するカプセル包被が、免疫学的特権部位でない部位にとって好ましいことを認識するだろう。対照的に、微多孔膜または選択透過性膜が、免疫学的特権部位に適していることがある。免疫学的特権部位への埋め込みの場合、PES膜またはPS膜でできているカプセルが好ましい。
【0133】
ポリマー接着剤の使用ならびに/またはクリンピング(crimping)、ノッティング(knotting)およびヒートシーリングをはじめとした、当該分野で公知の(know)カプセルを密封する任意の適当な方法が使用され得る。さらに、任意の適当な「ドライ」シーリング法も使用され得る。そのような方法では、実質的に無孔の付属部材(fitting)が提供され、それを通って細胞含有溶液が導入される。充填に続いて、カプセルは密封される。そのような方法は、例えば、本明細書中で参考として援用される米国特許第5,653,688号;同第5,713,887号;同第5,738,673号;同第6,653,687号;同第5,932,460号;および同第6,123,700号に記載されている。
【0134】
本発明の方法によれば、PEDFに加えて、他の分子が共に送達(co−deliver)され得る。例えば、抗血管新生因子および/または神経保護因子もしくは神経栄養因子(例えば、PEDF)とともに栄養因子が送達されることが好ましい場合がある。
【0135】
共送達は、いくつかの方法で達成され得る。第1に、細胞が、記載される分子をコードする遺伝子を含む別個の構築物でトランスフェクトされ得る。第2に、細胞が、2つ以上の遺伝子ならびに必要な調節領域を含む単一の構築物でトランスフェクトされ得る。第3に、2つ以上の別々に操作された細胞株が、同時に被包され得るか、または1つより多いデバイスが、目的の部位に埋め込まれ得る。
【0136】
単一の転写物からの複数の遺伝子発現は、複数の転写単位からの発現よりも好ましい。例えば、Macejak,Nature,353,pp.90−94(1991);WO94/24870;Mountford and Smith,Trends Genet.,11,pp.179−84(1995);Dirksら、Gene,128,pp.247−49(1993);Martinez−Salasら、J.Virology,67,pp.3748−55(1993)およびMountfordら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91,pp.4303−07(1994)を参照のこと。
【0137】
いくつかの適応症に対しては、眼の中の2つの異なる部位に同時にBAMを送達することが好ましい場合がある。例えば、神経栄養因子を硝子体に送達することにより神経網膜(RPEへの神経節細胞)に供給すること、およびテノン嚢下の空間を介して抗血管新生因子を送達することにより脈絡膜の脈管構造に供給することが望ましい場合がある。当業者は、PEDFが神経栄養因子と抗血管新生因子との両方であることを認識するだろう。したがって、眼の中の2つ以上の異なる部位に本発明のカプセルを同時に埋め込むことによって、PEDFは、両方の目的にかない得る。
【0138】
本発明はまた、処置レジメン中における異なる細胞型の使用も企図する。例えば、患者は、第1の細胞型(例えば、BHK細胞)を含むカプセルデバイスを埋め込まれ得る。将来、その患者がその細胞型に対して免疫応答を起こしたら、そのカプセルは、回収され得るかまたは外植され得、第2の細胞型(例えば、CHO細胞)を含む第2のカプセルが埋め込まれ得る。この様式では、その患者が、被包された細胞型の1つに対して免疫応答を起こしたとしても、その治療的な分子の継続的な提供が可能である。
【0139】
本発明の方法およびデバイスは、霊長類、好ましくは、ヒト宿主、レシピエント、患者、被験体または個体における使用を意図されている。本発明のデバイスおよび方法に対して、いくつかの異なる埋め込み部位が企図される。適当な埋め込み部位としては、眼の房水および硝子体液、眼周囲の空間、前眼房ならびに/またはテノン嚢下(Subtenon’s capsule)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0140】
埋め込まれたデバイスに対するレシピエントによる免疫学的応答のタイプおよび程度は、レシピエントとコア内に隔離された細胞との関係性に影響され得る。例えば、コアが同系の細胞を含む場合、そのレシピエントが、そのデバイス内の特定の細胞タイプまたは組織タイプに対する自己免疫に悩まされていない限り、これらは活発な免疫学的反応を引き起こさないだろう。同系の細胞または組織は、めったに入手可能でない。多くの場合、同種または異種の(すなわち、予定されるレシピエントと同じ種のドナー由来、または予定されるレシピエントとは異なる種由来の)細胞または組織が、入手可能であり得る。免疫隔離デバイスを使用することにより、同時にレシピエントの免疫反応を抑制する必要なく、同種または異種の細胞または組織の埋め込みが可能になる。免疫隔離カプセルを使用することにより、マッチしない細胞(同種移植片(allographs))の使用も可能になる。それゆえ、本デバイスは、従来の移植技術によって処置され得る個体よりも多くの個体を処置することが可能である。
【0141】
異種移植組織に対する免疫応答のタイプおよび強さは、同系組織または同種組織がレシピエントに埋め込まれたときに遭遇する応答と異なると予想される。この拒絶は、主に、細胞媒介性または補体媒介性の攻撃によって進み得る。ほとんどの場合、標的細胞または標的組織の細胞溶解をもたらすのにIgGだけでは不十分であるので、ビヒクルのコアからIgGを排除することは、免疫保護の試金石ではない。免疫隔離デバイスを用いることにより、免疫学的攻撃の媒介に必要な決定的な物質が免疫隔離カプセルから排除されるならば、必要とされる高分子量産物を送達すること、または高分子量物質に関連する代謝機能を提供することが可能である。これらの物質は、補体の攻撃複合体成分C1qを含み得るか、または食作用性もしくは細胞傷害性の細胞を含み得る。免疫隔離カプセルの使用により、これらの有害物質と隔離された細胞との間に保護的な障壁が提供される。
【0142】
本発明のデバイスは、マクロカプセル(macrocapsules)であるが、当業者は、マイクロカプセル(例えば、Rha、LimおよびSunに記載されているもの)も使用され得ることを認識するだろう(Rha,C.K.ら、米国特許第4,744,933号;Methods in Enzymology 137,pp.575−579(1988);米国特許第4,652,833号;米国特許第4,409,331号を参照のこと)。一般に、マイクロカプセルは、マクロカプセルと、(1)デバイスの外層から細胞が完全に排除されていること、および(2)デバイスの外層の厚さが異なる。代表的には、マイクロカプセルは、ほぼ1μlの容量を有し、10個より少ない細胞を含む。より詳細には、マイクロカプセル化は、一般に、カプセル1つあたりおよそ1〜10個の生存可能な小島(islets)または500個の細胞を被包する。
【0143】
より小さいMWCOを有するカプセルが、患者の免疫系の分子と、被包された細胞との相互作用をさらに防ぐために使用され得る。
【0144】
本明細書中に記載される方法に従って使用されるデバイスのいずれもが、隔離された細胞の生存能および機能を維持するために、少なくとも1つの寸法において、コア内の任意の隔離された細胞と、レシピエントの周囲の眼組織とを十分に接近させなければならない。しかしながら、本デバイスを形成するために使用される材料の拡散限界は、すべての場合において、単独でその形の限界を規定しない。基礎的なビヒクルの拡散特性または栄養分もしくは酸素の輸送特性を変更するかまたは向上するある特定の添加物が、使用され得る。例えば、コアの内部媒質には、酸素飽和パーフルオロカーボンが補充され得、それにより、血液由来の酸素と直接接触させる必要が減少し得る。これにより、隔離された細胞または組織が生存可能のままであることが可能になり、その一方で、例えば、アンギオテンシンの勾配が、ビヒクルから周囲の組織に放出されて、毛細管の内殖が刺激される。パーフルオロカーボンの使用についての参考文献および方法は、本明細書中で参考として援用されるFaithful,N.S.Anaesthesia,42,pp.234−242(1987)およびNASA Tech Briefs MSC−21480,U.S.Govt.Printing Office,Washington,D.C.20402によって与えられる。あるいは、PC12細胞などのクローン細胞株に対しては、遺伝的に操作されたヘモグロビン配列が、その細胞株に導入されることにより、優れた酸素貯蔵がもたらされ得る。NPO−17517 NASA Tech Briefs,15,p.54を参照のこと。
【0145】
本デバイス包被の厚さは、デバイスの存在に対する患者による免疫応答を防ぐのに十分であるべきである。その目的のために、それらのデバイスは、好ましくは、1μmまたはそれ以上という最低の厚さを有し、上記細胞を含まない。
【0146】
また、強化性の構造要素も本デバイスに組み込まれ得る。例えば、これらの構造要素は、それらが不透過性であるような形式、かつレシピエントの眼組織に本デバイスを繋ぎ止めることまたは縫合することが可能であるように適切に形づくられるような形式で作製され得る。ある特定の状況において、これらのエレメントは、その包被を(例えば、円筒の末端において)確実に密封するように作用し得、それにより、コア材料(例えば、成形された熱可塑性クリップ)の隔離が完了し得る。多くの実施形態において、これらの構造要素は、選択透過性の包被のかなりの面積を塞ぐべきでないことが望ましい。
【0147】
本発明のデバイスは、埋め込み後に完全に回収するために十分なサイズおよび耐久性である。本発明の1つの好ましいデバイスは、およそ1〜3μLの容量のコアを有する。微粒子化されたデバイスの内部の幾何図形的外形は、およそ0.05〜0.1μLの容量を有する。
【0148】
PEDFとともに、少なくとも1つの追加のBAMが、本デバイスから眼に送達され得る。例えば、その少なくとも1つの追加のBAMは、細胞性または非細胞性の起源から提供され得る。その少なくとも1つの追加のBAMが、非細胞性供給源から提供されるとき、その追加のBAMは、細胞系内に被包され得るか、細胞系内に分散され得るか、または細胞系の1つ以上の構成要素((a)シーラント;(b)足場;(c)包被膜;(d)テザーアンカー;および/または(e)コア媒質が挙げられるがこれらに限定されない)に付着され得る。そのような実施形態において、非細胞性供給源からのBAMの共送達は、細胞性供給源からのBAMと同じデバイスから生じ得る。
【0149】
あるいは、2つ以上の被包された細胞系が使用され得る。例えば、少なくとも1つの追加の生物学的に活性な分子は、核酸、核酸フラグメント、ペプチド、ポリペプチド、ペプチド模倣物、炭水化物、脂質、有機分子、無機分子、治療薬またはそれらの任意の組み合わせであり得る。詳細には、治療薬は、抗血管新生薬、ステロイド系および非ステロイド系抗炎症薬、有糸分裂阻害薬、抗腫瘍薬、抗寄生虫薬、IOP低下剤、ペプチド薬、ならびに/または眼科学的な使用に対して承認された他の任意の生物学的に活性な分子薬物であり得る。
【0150】
適当な賦形剤としては、任意の非分解性もしくは生分解性のポリマー、ヒドロゲル、溶解性促進剤(solubility enhancers)、疎水性分子、タンパク質、塩、または製剤化のために承認された他の錯化剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0151】
非細胞性の投与量は、当該分野で公知の任意の適当な方法(例えば、治療薬の濃度および/もしくは片眼あたりのデバイスの数を変更すること、ならびに/または被包賦形剤の組成を改変すること)によって変更され得る。細胞性の投与量は、(1)デバイス1つあたりの細胞の数、(2)片眼あたりのデバイスの数、および/または(3)細胞1つあたりのBAM産生のレベルを変化させることによって、変更され得る。細胞の産生は、例えば、形質導入された細胞におけるBAMに対する遺伝子のコピー数、またはBAMの発現を駆動するプロモーターの効率を変化させることによって、変更され得る。非細胞性供給源からの適当な投与量は、約1pg〜約1000ng/日の範囲であり得る。
【0152】
本発明はまた、本明細書中に記載されるマクロカプセルデバイスを作製するための方法にも関する。デバイスは、当該分野で公知の任意の適当な方法によって形成され得る(例えば、米国特許第6,361,771号;同第5,639,275号;同第5,653,975号;同第4,892,538号;同第5,156,844号;同第5,283,138号;および同第5,550,050号(これらの各々が本明細書中で参考として援用される)を参照のこと)。
【0153】
使用される膜は、分子量に基づいてPEDFなどの分子の拡散を調節するように適応させることができる(Lysaghtら、56 J.Cell Biochem.196(1996),Colton,14 Trends Biotechnol.158(1996)を参照のこと)。被包技術を用いることにより、細胞は、免疫抑制薬を使用して、または使用せずに、免疫拒絶なく宿主に移植され得る。本カプセルは、宿主に埋め込んだ後に、そのカプセルの拒絶をもたらすのに十分か、または例えば分解によって、それを手術不能にするのに十分な有害な宿主応答を誘発しない生体適合性材料から作製することができる。その生体適合性材料は、宿主の免疫系の成分などの大分子に対しては比較的不透過性であるが、小分子(例えば、インスリン、成長因子および栄養分)に対しては透過性であり、代謝廃棄物が除去されることが可能である。種々の生体適合性材料が、本発明の組成物による成長因子の送達にとって適している。様々な外表面の形態ならびに他の機械的特性および構造的特性を有する数多くの生体適合性材料が知られている。
【0154】
熱可塑性の膜またはポリマー膜の包被を有するデバイスが望ましい場合、そのポアサイズの範囲および分布は、米国特許第3,615,024号によって教示されるように、前駆体材料の溶液(キャスト液)の固体含有量、水混和性溶媒の化学組成を変更することによって、または必要に応じてキャスト液に親水性もしくは疎水性の添加物を含めることによって、決定され得る。ポアサイズは、凝固剤および/または浴(bath)の疎水性を変更することによっても調整され得る。
【0155】
代表的には、キャスト液は、溶解された不水溶性のポリマーまたは共重合体を含む極性有機溶媒を含み得る。このポリマーまたは共重合体は、溶媒混和性の水相と接触すると沈殿し、界面の部位において選択透過性の膜を形成する。その膜におけるポアのサイズは、溶媒相への水相の拡散の速度に依存し;親水性または疎水性の添加物は、この拡散速度を変化させることによってポアサイズに影響する。その水相が、溶媒中のより遠くに拡散するとき、残りのポリマーまたは共重合体は、沈殿することにより、完成したデバイスに機械的強度を付与する小柱状の支持体を形成する。
【0156】
本デバイスの外面は、同様に、溶解されたポリマーまたは共重合体が沈殿する条件(すなわち、開孔性、小柱状またはスポンジ様の外皮をもたらす、空気に曝露される条件、滑面の選択透過性膜二重層をもたらす、水性沈殿浴に浸漬される条件、または中間体構造をもたらす、水蒸気で飽和した空気に曝露される条件)によって決定される。
【0157】
本デバイスの表面のテクスチャーは、押出ノズルがその浴の上方に位置されているかまたはその浴内に浸漬されているかに一部依存する:そのノズルが、その浴の表面より上に配置されている場合、粗い外皮が形成され得るのに対し、そのノズルがその浴内に浸漬されている場合、滑面の外面が形成される。
【0158】
周囲または周辺のマトリックスまたは膜は、前もって形成され得、コアを形成する材料で満たされ得(例えば、注射器を用いて)、続いて、そのコア材料を完全に封入するような様式で密封され得る。次いで、そのデバイスは、マトリックス前駆体材料がそのコアに存在する場合、コアマトリックスを形成する条件に曝露され得る。
【0159】
本発明のデバイスは、十分に分化した、足場依存性の、胎仔もしくは新生仔の、または形質転換された、足場非依存性の、細胞または組織をはじめとした多種多様な細胞タイプまたは組織タイプの埋め込みを提供し得る。隔離される細胞は、ドナー(すなわち、成体、新生仔および胎仔の細胞または組織を含む初代細胞または組織)から調製されるか、またはインビトロで複製する細胞(すなわち、遺伝的に改変された細胞を含む不死化細胞または不死化細胞株)から調製される。すべての場合において、隔離の前に、有効なレベルの必要とされる生成物を産生するのに十分な量または有効なレベルの必要とされる代謝機能を供給するのに十分な量の細胞が、一般に無菌条件下で調製され、適切に(例えば、ハンクス塩などの平衡塩類溶液中またはHam’s F12などの栄養培地中に)維持される。
【0160】
本発明のECTデバイスは、細胞内に患者からの栄養分が容易に接近できるようにする目的、または上記細胞が作用して代謝機能を提供する患者のタンパク質をその細胞内に進入させる目的のために、デバイスの中心と包被の最も近い部分との距離を短くする傾向がある形状である。その点において、円筒などの非球形の形状が、好ましい。
【0161】
本発明のデバイスのコア内に入れられる細胞の数または組織の量(すなわち、充填密度)に影響する4つの重要な因子は:(1)デバイスのサイズおよび幾何図形的外形;(2)デバイス内での有糸分裂活性;(3)コアの調製およびまたは充填に対する粘度の要件;ならびに(4)埋め込み前のアッセイおよび認定(qualification)の要件。
【0162】
これらの因子の第1の因子(デバイスのサイズおよび幾何図形的外形)に関して、細胞内への不可欠な栄養分の拡散および代謝の要件、ならびに細胞から外に向かった代謝産物の拡散が、細胞の継続した生存能にとって不可欠である。ARPE−19細胞などのRPE細胞の場合、近くの細胞が、瀕死の細胞を貪食することができ、その残骸をエネルギー源として使用することができる。
【0163】
デバイス内への物質の拡散によって満たされる代謝の要件の中には、酸素に対する要件がある。特定の細胞の酸素に対する要件は、最適な細胞に対して決定されるべきである。酸素代謝の測定についての方法および参考文献は、Wilson D.F.ら、J.Biol.Chem.,263,pp.2712−2718,(1988)に与えられている。
【0164】
第2の因子(細胞分裂)に関して、選択された細胞が、活発に分裂すると予想される場合、それらの細胞は、利用可能な空間を満たすまでまたは接触阻止などの現象がさらなる分裂を制限するまで、デバイス内で分裂し続け得る。複製細胞の場合、デバイスの幾何図形的外形およびサイズは、デバイスのコアの完全な充填によって、拡散の限界に起因する不可欠な栄養分の欠乏がもたらされないように選択され得る。
【0165】
第3の因子(コア材料の粘度)に関して、デバイス体積の最大70%を占める密度の細胞が生存可能であり得るが、この濃度範囲内の細胞溶液は、かなりの粘度を有し得る。非常に粘稠性の溶液中の細胞をデバイス内に導入することは、極めて困難であり得る。一般に、2工程ストラテジーと共押出し成形ストラテジーとの両方にとって、30%より高い細胞充填密度は、めったに有用でなく、一般に、最適な充填密度は、20%およびそれ以下であり得る。例えば、組織断片に対しては、内部の細胞の生存能を保つために、上記と同じ一般的なガイドラインを遵守することが重要であり、組織断片は、直径が250ミクロンを越えるべきでなく、内部の細胞は、それらと最も近い拡散表面との間に15個未満、好ましくは、10個未満の細胞を有するべきである。
【0166】
最後に、第4の因子(埋め込み前およびアッセイの要件)に関して、多くの場合、デバイスの調製と埋め込みとの間には、ある特定の時間が必要とされ得る。例えば、その生物学的活性に関してデバイスを認定する(qualify)ことが重要であり得る。したがって、有糸分裂的に活発な細胞の場合、好ましい充填密度は、認定アッセイを行うために存在しなければならない細胞数も考慮し得る。
【0167】
ほとんどの場合、インビボでの埋め込みの前に、インビトロアッセイを使用して、そのデバイス内のBAM(例えば、PEDF)の有効性を立証することが重要であり得る。細胞1個あたりまたは単位体積あたりでのビヒクルの有効性の判定を可能にするために、デバイスは、モデル系を用いて構築され得、解析され得る。
【0168】
埋め込み用の実際のデバイスのサイズは、デバイスの充填およびデバイスの有効性の判定に対するこれらのガイドラインに従って、特定の適用にとって必要な生物学的活性の量によって決定され得る。デバイスの数およびデバイスのサイズは、埋め込まれたときに治療効果をもたらすのに十分であるべきであり、特定の適用にとって必要な生物学的活性の量によって決定される。治療物質を放出する分泌細胞の場合、当該分野にとって公知の標準的な投与量に関して考慮すべき事柄および基準が、必要な分泌物質の量を決定するために使用され得る。考慮される因子としては、レシピエントのサイズおよび体重;細胞の産生力または機能レベル;ならびに、必要に応じて、機能が置き換えられるかまたは増強される器官または組織の通常の産生力または代謝活性が挙げられる。それらの細胞のわずかしか、免疫隔離および埋め込み手順を生き延びないかもしれないことを考慮することもまた重要である。さらに、レシピエントが、埋め込みの有効性を干渉し得る既存の状態を有するか否かもまた、考慮されなければならない。
【0169】
何千もの細胞を含む本発明のデバイスは、容易に製造され得る。例えば、臨床用の本デバイスは、200,000〜400,000個の細胞を含むのに対し、微粒子化されたデバイスは、10,000〜100,000個の細胞を含み得る。
【0170】
被包された細胞による治療は、宿主内への埋め込みの前に、半透性の生体適合性材料で細胞を取り囲むことによってレシピエント宿主の免疫系から細胞を隔離するというコンセプトに基づく。例えば、本発明は、遺伝的に操作されたARPE−19細胞が免疫隔離カプセル内に被包されたデバイスを包含し、そのデバイスは、レシピエント宿主に埋め込まれたとき、そのデバイスのコア内のARPE−19細胞に対する宿主の免疫系の有害作用を最小にする。ARPE−19細胞を、微多孔膜によって形成された埋め込み可能なポリマーカプセル内に封入することにより、その細胞が、宿主から免疫隔離される。このアプローチは、宿主と埋め込まれる組織との間における細胞間の接触を防止し、それにより、直接的な提示を介した抗原認識が排除される。
【0171】
PEDFは、眼内に(例えば、前眼房内および硝子体腔内に)もしくは眼周囲に(例えば、テノン嚢の中または下に)、またはその両方に送達され得る。本発明のデバイスは、様々な眼科障害、眼科疾患および/または眼球への影響を有する疾患を処置するためにPEDFの制御された放出および徐放を提供するためにも使用され得る。
【0172】
本発明は、本明細書中に記載される被包されたPEDF分泌細胞を眼に埋め込むことによる眼科疾患および眼科障害の処置または防止のための方法を提供する。本方法によれば、被包された細胞は、眼内にまたは眼周囲に埋め込まれる。1つの実施形態において、その細胞は、硝子体内に眼内に(intraoculalry)埋め込まれる。別の実施形態において、その細胞は、眼のテノン嚢下の領域に眼周囲に埋め込まれる。
【0173】
本発明の被包されたPEDF分泌細胞を用いて処置され得るかまたは防止され得る眼科疾患および眼科障害には、新生血管形成、ならびに/または眼の層の内部および硝子体腔の内部への流体の蓄積を特徴とする疾患および障害が含まれる。眼球の新生血管形成は、失明の最も一般的な原因の1つであり、いくつかの眼科疾患の病理の根底にある。網膜虚血に関連する眼球の新生血管形成は、糖尿病および他の疾患における失明の主な原因である。例えば、糖尿病では、網膜に形成される新しい毛細血管が、硝子体液に侵入し、出血および失明を引き起こす。このように、糖尿病性網膜症は、異常な血管新生を特徴とする。
【0174】
1つの実施形態において、本発明の被包されたPEDF分泌細胞は、糖尿病性網膜症の処置のために使用される。この実施形態によれば、その細胞は、眼内に、好ましくは硝子体内に、または眼周囲に、好ましくはテノン嚢下の領域に、埋め込まれる。好ましい実施形態において、その細胞は、糖尿病性網膜症を処置するために硝子体内に埋め込まれる。1つの実施形態において、被包されたPEDF分泌細胞は、1つ以上の追加の治療薬の投与を包含する処置レジメンの一部を形成する。好ましくは、その1つ以上の追加の治療薬は、神経栄養因子である。
【0175】
本発明の被包されたPEDF分泌細胞で処置され得る新生血管形成を特徴とする他の眼球関連疾患としては、角膜新生血管形成、脈絡膜新生血管形成、血管新生緑内障、毛様体炎、ヒッペル・リンダウ病、未熟児網膜症、翼状片、ヒストプラスマ症、虹彩新生血管形成、黄斑浮腫および緑内障関連新生血管形成が挙げられるがこれらに限定されない。新生血管形成は、網膜中心静脈閉塞症、および時折、加齢性黄斑変性症にも関連する。角膜新生血管形成は、視力を害し、患者の角膜移植片を機能不全に陥りやすくするので、大きな問題である。重度の視力喪失の大部分は、眼球の新生血管形成をもたらす障害に関連する。
【0176】
血管漏出は、網膜剥離、眼の感覚細胞の変性、眼内圧上昇および炎症を引き起こし得、それらのすべてが、視力および眼の全般的な健康状態に悪影響を与える。本発明の被包されたPEDF分泌細胞で処置され得る流体の蓄積または血管漏出を特徴とする例示的な疾患および障害としては、非増殖性糖尿病性網膜症、増殖網膜症、未熟児網膜症、網膜血管疾患、血管形成異常、脈絡膜障害、脈絡膜新生血管形成、血管新生緑内障、緑内障、黄斑浮腫(例えば、糖尿病性黄斑浮腫)、網膜浮腫(例えば、糖尿病性網膜浮腫)、中心性漿液性網脈絡膜症、および眼の層の内部への脈管液(vascular fluid)の蓄積によって引き起こされる網膜剥離が挙げられるがこれらに限定されない。
【0177】
当業者は、本発明の様々な実施形態によって処置され得る他の眼科障害としては、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、増殖網膜症、網膜血管疾患、血管形成異常、加齢性黄斑変性症および他の後天性の障害、眼内炎、感染症、炎症性であるが感染性でない疾患、AIDS関連障害、眼虚血症候群(ocular ischemia syndrome)、妊娠関連障害、周辺網膜変性、網膜変性、毒素性網膜症、網膜腫瘍、脈絡膜腫瘍、脈絡膜障害、硝子体障害、網膜剥離および増殖性硝子体網膜症、非穿通性外傷、穿通性外傷、白内障後合併症、ならびに炎症性視神経症が挙げられるがこれらに限定されないことを認識するだろう。さらに、当業者は、網膜の変性障害(網膜色素変性症、緑内障、加齢性黄斑変性症、糖尿病性黄斑浮腫および糖尿病性網膜症が挙げられるがこれらに限定されない)もまた本発明のカプセルを用いて処置され得ることを認識するだろう。
【0178】
加齢性黄斑変性症(AMD)は、米国の成人における視力喪失の最も一般的な原因の1つである。この疾患の失明に進行することが最も多い形態は、網膜色素上皮の剥離および脈絡膜新生血管形成(CNV)を特徴とする。漏出および線維血管性瘢痕(fibrovascular scarring)によって引き起こされる損傷は、中心視の深刻な喪失および視力の重度の喪失をもたらす。加齢性黄斑変性症には、乾燥型加齢性黄斑変性症、滲出型加齢性黄斑変性症および近視性変性が含まれるがこれらに限定されない。
【0179】
いくつかの好ましい実施形態において、処置される障害は、湿潤型の加齢性黄斑変性症または糖尿病性網膜症である。本発明はまた、多くの眼球の疾患および障害に関連する状態である眼球の新生血管形成の処置に対しても有用であり得る。例えば、網膜の虚血に関連する眼球の新生血管形成は、糖尿病および他の多くの疾患における失明の主な原因である。
【0180】
本発明のデバイスは、眼球の症状と非眼球の症状との両方を有する疾患または状態に起因する眼球の症状を処置するためにも使用され得る。いくつかの例としては、AIDSにおけるサイトメガロウイルス網膜炎、ならびに他の状態および硝子体の障害;妊娠の結果としての網膜の高血圧性変化;および様々な感染症(例えば、結核、梅毒、ライム病、寄生虫病、イヌ回虫、眼ハエウジ病(ophthalmonyiasis)、嚢虫症(cyst cercosis)および真菌感染症)の眼球への作用が挙げられる。
【0181】
本発明は、細胞増殖性障害(例えば、血液障害)、アテローム性動脈硬化症、炎症、血管透過性の増大および悪性疾患を処置するための方法およびPEDFの送達にも関する。
【0182】
さらに、当業者は、本発明が、神経保護因子としてのPEDFの方法およびPEDFの送達にも関することも認識するだろう。特に、PEDFは、細胞周期における静止期(quiescent phase)への細胞の移動を促進し、分化に役立ち、そして損傷からニューロンを保護するので(Tombran−Tink,Frontiers in Bioscience 10:2131−2149(2005)を参照のこと)、本明細書中に記載されるカプセルおよび方法は、神経または網膜の損傷および/または分解を特徴とする疾患および障害の処置においても使用され得る。
【0183】
本明細書中に記載されるデバイスおよび手法の使用は、他の送達経路に対していくつかの利点を提供する。詳細には、PEDFは、眼に直接送達され得、これにより、望まれない周辺の副作用が減少するかまたは最小になり、局所適用と比べて非常に少量の生物学的に活性な分子(すなわち、ミリグラムではなくナノグラムまたは低マイクログラムの量)を送達することにより、強力に副作用を和らげることができる。さらに、生細胞は、新しく合成される生物学的に活性な分子を継続して産生するので、これらの手法は、PEDFの注射による送達(注射と注射との間に用量が大きく上下し、生物学的に活性な分子は、継続的に分解されるのに継続的に補充されない)よりも優れているはずである。
【0184】
PEDFを分泌するように遺伝的に操作された生細胞および生細胞株は、本発明のデバイス内に被包され得、そして眼の任意の適切な解剖学的構造内に外科的に(球後麻酔下において)挿入され得る。例えば、本デバイスは、眼の硝子体内に外科的に挿入され得、ここで、それらは、好ましくは、除去を助けるために強膜に繋ぎ止められる。所望の予防または治療を達成する必要がある限り、デバイスは硝子体内に留まることができる。例えば、所望の治療としては、ニューロンもしくは光受容体の生存もしくは修復の促進、または網膜もしくは脈絡膜の新生血管形成の阻害および/もしくは逆転、ならびにブドウ膜、網膜および視神経の炎症の阻害が挙げられ得る。硝子体に留置されると、PEDFは、網膜または網膜色素上皮(RPE)に送達され得る。
【0185】
他の実施形態において、細胞が充填されたデバイスは、眼周囲に、テノン嚢として知られる空間内に、またはその空間の下に埋め込まれ、これは、硝子体内への埋め込みよりも侵襲性でない。それゆえ、硝子体の出血および/または網膜剥離などの合併症が、潜在的に排除される。この投与経路は、RPEまたは網膜へのPEDFの送達も可能にする。眼周囲への埋め込みは、脈絡膜新生血管形成ならびに視神経および眼球血管膜の炎症を処置するために特に好ましい。通常、眼周囲の埋め込み部位からの送達は、脈絡膜の脈管構造、網膜の脈管構造および視神経へのPEDFの循環を可能にし得る。
【0186】
本明細書中に記載されるデバイスおよび方法を用いた、脈絡膜の脈管構造(眼周囲)または硝子体(眼内)への本発明のPEDFなどの抗血管新生因子の直接的な送達は、従来技術の処置方法およびデバイスに関連する問題を減少させ得るかまたは緩和し得、十分に定義されていないかまたは不顕性の脈絡膜新生血管形成の処置を可能にし得、ならびに補助療法または維持療法を介して再発性の脈絡膜新生血管形成を減少させる方法または防止する方法を提供し得る。
【0187】
被包された細胞デバイスは、公知の手法に従って、好ましくは、眼の房水中および硝子体液中に埋め込まれる(WO97/34586を参照のこと)。本発明の生体適合性デバイスの埋め込みは、無菌条件下で行われる。本デバイスは、注射器または当業者に公知の他の任意の方法を用いて、埋め込まれ得る。一般に、本デバイスは、分泌される産物または機能をレシピエントに適切に送達すること、および埋め込まれた細胞または組織に栄養分を適切に送達することを可能にし得、かつ回収および/または再留置のためにデバイスに接近することも可能にし得る、レシピエントの体内の部位に埋め込まれる。いくつかの異なる埋め込み部位が企図される。これらとしては、例えば、房水、硝子体液、テノン嚢下、眼周囲の空間および前眼房が挙げられる。好ましくは、眼周囲の部位などの免疫学的特権部位でない埋め込み部位、ならびに前眼房(房水)および後眼房(硝子体)の外側の他の領域に対しては、本カプセルは、免疫隔離性である。
【0188】
デバイス内に固定化された細胞が、埋め込みの前と後の両方において適切に機能することを確認することが好ましい。これらの目的のために、当該分野で周知の任意のアッセイまたは診断試験が使用され得る。例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、クロマトグラフ的もしくは酵素的なアッセイ、または分泌された産物に対して特異的なバイオアッセイが使用され得る。所望であれば、レシピエントから適切なサンプル(例えば、血清)を収集し、それをアッセイすることによって、埋め込み物の分泌機能が経時的にモニターされ得る。
【0189】
従来技術のデバイスおよび外科的手法の多くの使用は、多数の網膜剥離をもたらした。本発明のデバイスおよび方法は、他のいくつかの治療法よりも侵襲性でないので、この合併症の発生は減少する。
【0190】
改変型、切断型および/またはムテイン型のPEDFもまた、本発明に従って使用され得る。さらに、PEDFの活性なフラグメント(すなわち、治療効果を達成するのに十分な生物学的活性を有するフラグメント)の使用も企図される。1つ以上のポリエチレングリコール(PEG)または他の繰り返しポリマー部分の付着によって改変されたPEDF、ならびにこれらのタンパク質およびそのポリシストロニックなバージョンの組み合わせの使用も企図される。
【0191】
本発明の方法のある特定の実施形態によれば、被包された細胞は、眼の硝子体内に外科的に埋め込まれる。好ましくは、その細胞を含むカプセルの全体が、硝子体に埋め込まれるが、しかしながら、そのカプセルの一部が、例えば、強膜中に、または強膜を通過して、突出し得る。好ましくは、本デバイスは、強膜または他の適当な眼構造に繋ぎ止められる。特定の実施形態において、その繋ぎ部材は、縫合材料のアイレットまたは円盤を備える。
【0192】
他の実施形態において、被包された細胞は、眼周囲に、テノン嚢として知られる空間内に、またはその空間の下に埋め込まれる。この実施形態は、硝子体への埋め込みよりも侵襲性でなく、ゆえに一般に好ましい。この投与経路は、RPEまたは網膜へのPEDFの送達も可能にする。この実施形態は、脈絡膜新生血管形成ならびに視神経および眼球血管膜の炎症を処置するために特に好ましい。通常、この埋め込み部位からの送達は、脈絡膜の脈管構造、網膜の脈管構造および視神経へのPEDFの循環を可能にし得る。
【0193】
本明細書中に記載される方法に従った多くの状態の処置には、適切な治療用量を供給するために、片眼あたりただ1つまたは多くて50個未満のデバイスが埋め込まれることが必要である。治療的な投与量は、約0.1pg〜1000ng/眼/患者/日(例えば、0.1pg〜500ng/眼/患者/日;0.1pg〜250ng、0.1pg〜100ng、0.1pg〜50ng、0.1pg〜25ng、0.1pg〜10ngまたは0.1pg〜5ng/眼/患者/日)であり得る。本発明のデバイスの各々は、PEDFを分泌するように遺伝的に操作された約10〜10個の細胞、最も好ましくは、5×10〜5×10個の細胞(例えば、ARPE−19細胞)を貯蔵することができる。
【0194】
1つの実施形態において、本発明の被包されたPEDF分泌細胞は、加齢性黄斑変性症の処置のために、眼内、好ましくは硝子体に、または眼周囲、好ましくはテノン嚢下の領域に、PEDFを送達するために使用される。さらなる実施形態において、被包されたPEDF分泌細胞は、1つ以上の追加の治療薬の投与を含む処置レジメンの一部を形成する。好ましくは、その1つ以上の追加の治療薬は、神経栄養因子である。
【0195】
ある特定の実施形態において、本発明の被包されたPEDF分泌細胞は、1つ以上の追加の治療薬の投与を含む治療レジメンの一部として投与される。ある特定の実施形態において、その1つ以上の追加の治療薬は、抗炎症性因子または神経栄養因子である。本明細書中で使用されるとき、神経栄養因子(neurotophic factor)は、細胞の変性を遅らせるか、細胞の節約を促進するか、または新しい細胞の成長を促進する因子である。
【0196】
好ましくは、その1つ以上の追加の治療薬は、眼内にまたは眼周囲に、好ましくは、眼内に、最も好ましくは、硝子体内に投与される。ある特定の実施形態において、その1つ以上の追加の治療薬は、被包されたPEDF分泌細胞が埋め込まれるのと同時に、または実質的に同時に、投与される。
【0197】
1つの実施形態において、1つ以上の追加の治療薬は、PEDFと実質的に同時に投与される。特定の実施形態において、上記細胞は、PEDFおよびその治療薬をコードする別個の構築物でトランスフェクトされるか、または上記細胞は、PEDFとその治療薬との両方をコードする単一の構築物でトランスフェクトされる。単一の転写物からの複数の遺伝子発現のための技術は、当該分野で公知であり、複数の転写単位からの発現よりも好ましい。例えば、Macejak,Nature(1991)353:90−94;Mountford and Smith,(1995)Trends Genet.,11:179−184;Dirksら、Gene,(1993)128:24−49;Martinez−Salasら、J.Virology,(1993)67:3748−3755;Mountfordら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,(1994)91:4303−4307;およびPCT国際出願公開番号WO94/24870を参照のこと。
【0198】
別の実施形態において、2つ以上の別個に操作された細胞株が、同時に被包される。別の実施形態において、PEDFおよび1つ以上の追加の治療薬を送達するために、1つより多いデバイスが眼の中の同じ部位または異なる部位に同時に埋め込まれる。特定の実施形態において、神経網膜(RPEへの神経節細胞)に供給するために神経栄養因子が眼の硝子体に送達され、脈絡膜の脈管構造に供給するためにテノン嚢下の空間にPEDFが送達される。ある特定の実施形態において、被包されたPEDF分泌細胞および/または1つ以上の追加の治療薬を含むデバイスが、片眼あたり1、2、3、4または5個埋め込まれる。好ましくは、片眼あたり1〜3個のデバイスが埋め込まれる。
【0199】
1つの実施形態において、1つ以上の追加の治療薬は、アンチフラミン(antiflammin)(例えば、米国特許第5,266,562号を参照のこと)、ベータ−インターフェロン(IFN−β)、アルファ−インターフェロン(IFN−α)、TGF−ベータ、インターロイキン−10(IL−10)、糖質コルチコイドまたは鉱質コルチコイドから選択される抗炎症性因子である。
【0200】
1つの実施形態において、1つ以上の追加の治療薬は、ニューロトロフィン4/5(NT−4/5)、カルジオトロピン−1(CT−1)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、神経成長因子(NGF)、インスリン様成長因子−1(IGF−1)、ニューロトロフィン3(NT−3)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、PDGF、ニューチュリン(neurturin)、酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(FGF)、EGF、ニューレグリン、ヘレグリン、TGF−アルファ、骨形態形成タンパク質(BMP−1、BMP−2、BMP−7など)、ヘッジホッグファミリー(ソニックヘッジホッグ、インディアンヘッジホッグおよびデザートヘッジホッグなど)、トランスフォーミング成長因子のファミリー(例えば、TGFβ−1、TGFβ−2およびTGFβ−3を含む)、インターロイキン1−B(IL1−β)、ならびにインターロイキン−6(IL−6)、IL−10、CDF/LIFおよびベータ−インターフェロン(IFN−β)のようなサイトカインから選択される神経栄養因子である。好ましくは、上記神経栄養因子は、GDNF、BDNF、NT−4/5、ニューチュリン、CNTFおよびCT−1から選択される。
【0201】
眼内に、好ましくは、硝子体に投与されるPEDFの用量は、50ピコグラム〜500ナノグラム、好ましくは、100ピコグラム〜100ナノグラム、最も好ましくは、1ナノグラム〜50ナノグラム/眼/患者/日の範囲である。眼周囲への送達、好ましくは、テノン嚢下の空間または領域における送達の場合、最大1マイクログラム/患者/日という、わずかに多い投与量の範囲が企図される。例えば、臨床用の本デバイスは、1〜500ng(埋め込み前またはインビトロ)という硝子体のレベルをもたらす。外植されたデバイス(インビボ後)は、10〜500ng/デバイス/日を放出すると示されている。
【0202】
投与量は、例えば、(1)デバイス1つあたりの細胞数、(2)片眼あたりのデバイス数、または(3)細胞1つあたりのPEDF産生レベルを変化させることによって変更され得る。細胞の産生は、例えば、細胞におけるPEDFに対する遺伝子のコピー数、またはPEDFの発現を駆動するプロモーターの効率を変化させることによって変更され得る。好ましくは、デバイス1つあたり約10〜10個の細胞、より好ましくは、デバイス1つあたり約5×10〜5×10個の細胞が被包される。
【0203】
本発明は、請求項に記載される本発明の範囲を限定しない以下の実施例においてさらに説明される。
【実施例】
【0204】
実施例1:サブクローニング
ヒトPEDFをコードするcDNA(GenBankアクセッション番号NM_002615)をNeurotech哺乳動物発現ベクターpKAN2(概略図が図1に示されている)にサブクローニングした。そのpKAN2のバックボーンは、ARPE−19−hCNTF細胞株を作製するために使用されたpNUT−IgSP−hCNTF発現プラスミドに基づく。
【0205】
pKAN2のヌクレオチド配列を下記の配列番号3に示す:
【0206】
【化4】

【0207】
【化5】

形質転換された組換えクローンをカナマイシンで選択し、ミニプレップ精製されたプラスミドDNAを、制限消化およびアガロースゲル電気泳動解析によって解析した。適切なインサートを含む推定上のプラスミドクローンを、自動化されたジデオキシ塩基配列決定に続く、Vector NTI v7.0配列解析ソフトウェア(Invitrogen Corp,Carlsbad,CA)を用いるアラインメント解析によって確認した。
【0208】
実施例2:細胞株およびデバイスの構築
確認されたプラスミドクローンを用いて、NTC−200細胞をトランスフェクトすることにより、安定なポリクローナル細胞株を得た。簡潔には、事前に18時間にわたってプレーティングされた200〜300K細胞を、6.0μlのFugene 6トランスフェクション試薬(Roche Applied Science,Indianapolis IN)を製造者の推奨に従って使用して3.0μgのプラスミドDNAでトランスフェクトした。10%FBS、内皮SFMまたはOptimem培地(Invitrogen Corp,Carlsbad,CA)を含む3.0mlのDMEM/F12中において、トランスフェクションを行った。24〜48時間後、細胞に1.0μg/μlのG418を含む新鮮培地を供給するか、または細胞を、G418を含むT−25組織培養フラスコに継代した。正常な成長が再開されるまで14〜21日間にわたって選択下で細胞株を継代し、その後は、薬物を除去し、回復させた(約1週間)後、細胞を特徴づけた。
【0209】
これらの細胞株からの組換えタンパク質の発現の安定性を、Human PEDF Sandwich ELISA Antigen Detection Kit(BioProducts MD,Middletown,MD)を用いて数週間にわたって測定した。簡潔には、10%FBSを含むDMEM/F12の入った12ウェル組織培養プレートに事前にプレーティングされた50K細胞を、HBSS(Invitrogen Corp,Carlsbad,CA)中で2回洗浄し、次いで、1.0mlの内皮SFM(Invitrogen Corp,Carlsbad,CA)で2時間パルスした。パルス培地を−20℃で保管し、製造者のプロトコルに従って、回収の1週間以内にアッセイした。
【0210】
このようにして、PEDFを分泌する安定な細胞株の作製に成功した。
【0211】
被包する前に、操作された候補株を目的のタンパク質の発現レベルについてスクリーニングした。通常、50k細胞を37℃で2時間パルスし、得られた馴化培地を、通常ELISAによってアッセイする。タンパク質の発現は、ng/1万個の細胞/24時間として報告される。PEDFの場合、高産生株は、1000〜10000ng/1万個の細胞/日を発現する。
【0212】
これらの細胞株を、本発明に従って、被包される細胞治療デバイス内に詰める。このデバイスからのPEDFの分泌をモニターした。治療的なレベルのPEDFを分泌しているデバイスを、さらなる研究のために使用した。
【0213】
実施例3:タンパク質の特徴づけ
安定的にトランスフェクトされた細胞株からのPEDFの発現を、商業的に入手可能なELISAキット(BioProducts Maryland,Middletown,MD)を用いて、細胞単層からの馴化培地を解析することによって定量した。安定的にトランスフェクトされた細胞からの馴化培地を、タンパク質の完全性を測定する比色法のウエスタンブロットアッセイによって解析した。
【0214】
実施例4:真性糖尿病(1型または2型)に続発する臨床的に有意な黄斑浮腫(CSME)を有する患者における、PEDF分泌ECTデバイス(NT−502)の硝子体腔埋め込みの安全性および実行可能性の研究
糖尿病性黄斑浮腫(DME)は、失明の主な原因である。それは、進行性の視力喪失をもたらす糖尿病性網膜症の合併症である。DMEでは、VEGFのアップレギュレーションによって、新しい血管の成長、血管の機能不全、および黄斑における流体の漏出がもたらされる。
【0215】
主目的
本研究の主目的は、NT−502の硝子体腔埋め込みの安全性および耐用性の評価、ならびにNT−502の硝子体腔埋め込みの有効性(最高矯正視力(BCVA)において≧15文字を達成した被験体の、ベースラインに対するパーセンテージによって測定される)の評価を含んだ。
【0216】
追加の目的
追加の目的は、有害事象および重篤な有害事象の収集、そして眼球の査定、ならびにCSMEを有する被験体における12ヶ月間にわたるBCVAの結果、解剖的な結果および患者が報告する視覚機能の結果に関するNT−502の硝子体腔埋め込みの有効性の有効性の評価による、NT−502の硝子体腔埋め込みの安全性および耐用性の評価を含んだ。
【0217】
研究デザイン
本研究は、真性糖尿病(1型または2型)に続発するCSMEを有する患者におけるNT−502の硝子体腔への埋め込みの安全性を評価するための第I相単回投与非盲検前向き非無作為化単一施設パイロット研究だった。Mexicoの1つの試験施設における9人の被験体を含んだ。本研究は、7週間前からのスクリーニング期間(−7週目から−1日目までの日)および処置日(埋め込み0日目)からなるものだった。本研究の期間は、スクリーニング期間を除く12ヶ月だった。
【0218】
同意した被験体が、適格性を判定するスクリーニング期間に入った。スクリーニングプロセスの一部として、研究者が、黄斑の光干渉断層撮影(OCT)像を評価して、被験体の適格性を判定した。適格の被験体を、NT−502硝子体腔埋め込みで処置した。
【0219】
被験体は、スクリーニング期間中と0日目との両方において、BCVAおよび網膜の厚さの適格性要件を満たした。0日目における被験体の適格性の判定は、評価医によって行われた。片方の眼だけを研究対象の眼として選択した。両眼が適格だった場合、その研究者が、医学的根拠に基づいて他方の眼が処置および研究に対してより適切であると考えない限り、スクリーニングにおいて査定されたときにより不良なVAを有した眼を研究の処置のために選択した。研究対象の眼だけを処置した。研究対象でない眼には、治療の基準に一致する、CSMEに対するレーザー光凝固術を施した場合がある。
【0220】
被験体は、安全性および有効性の評価のために、12ヶ月間の研究中、10回予定来院した。被験体は、0日目において硝子体腔にNT−502を外科的に埋め込まれ、評価医による安全性および眼球の査定を受けた。
【0221】
3ヶ月目の来院時および必要に応じてその後に開始する黄斑のレーザー処置(標準的な治療)に対する必要性について、プロトコルに規定された基準に基づいて、各被験体の研究対象の眼を評価した。両側にDMEを有する被験体は、研究対象の眼における黄斑のレーザー処置および/または研究の処置(埋め込み)の1日以上前または後に、もう片方の(研究対象でない)眼において治療の基準であるレーザー治療を受けた可能性がある。
【0222】
結果
主要評価項目
主要評価項目は、NT−502デバイスの埋め込みの安全性だった。NT−502デバイスの安全性は、以下の結果によって査定され、これらの結果の発生は、必ずしも説明を必要としなかった。
1.局所有害事象
2.白内障の進行
3.重度のIOPの変化
4.感染性の眼内炎
5.重篤な眼球の炎症
6.網膜剥離
7.重度のVA喪失(>3列のETDRS)
8.糖尿病性網膜症の進行
9.硝子体の出血
10.埋め込みに関係すること(突出、侵食など)
11.全身性の有害事象
12.血清化学、血液学および尿検査/尿化学からの異常な所見(範囲外の所見の異常な示唆、またはグレードIIもしくはそれ以上の臨床化学毒性の異常な示唆)
13.免疫障害またはアレルギーの症状。
【0223】
副次評価
生成物の潜在的な性能に関する副次評価項目は、以下だった:
1.処置の6および12ヶ月後に、BCVAにおいて少なくとも15文字を達成した被験体の、ベースラインに対する割合
2.6および12ヶ月における、BCVAスコアのベースラインからの経時的な変化の平均
3.OCTにおいて査定される、6および12ヶ月における中心窩厚(CFT)のベースラインからの経時的な変化の平均
4.フルオレセイン血管造影法(FA)を用いたときの6および12ヶ月における漏出が解決した被験体の割合
5.12ヶ月までの黄斑のレーザー処置の平均回数
6.6および12ヶ月におけるベースラインからのNational Eye Institute Visual Functioning Questionnaire−25(NEI VFQ−25)近似活性サブスケールスコア(near activityies subscale score)の経時的な変化の平均
7.6および12ヶ月におけるベースラインからの早期処置糖尿病性網膜症研究(Early Treatment Diabetic Retinopathy Study)(ETDRS)スケールの3段階変化を有する被験体の割合
8.6および12ヶ月におけるベースラインからのコントラスト感度の変化の平均。
【0224】
被験体の選択
真性糖尿病(1型または2型)に続発するCSMEを有する被験体を本研究において登録した。任意の研究手順を開始する前に、書面によるインフォームドコンセントを得た。0日目(埋め込み当日)より前の7週間以内の任意の時点において、スクリーニング評価を行った。
【0225】
選択規準
本研究に参加するために適格である被験体は、以下の基準を満たしていなければならなかった:
1.書面によるインフォームドコンセントを提供する意志
2.18歳以上であること
3.真性糖尿病(1型または2型)
4.以下のいずれかを、糖尿病である十分な証明として考えた:
a.その時点で、糖尿病の処置のためにインスリンを常用していること
b.その時点で、糖尿病の処置のために経口血糖降下剤を常用していること
c.糖尿病と確認されていること
5.スクリーニングのための来院時のみのOCT、および0日目におけるOCTについて評価医によって査定される、中心の部分領域における>275μmの黄斑中央の厚さを有する中心窩の中心を含む、真性糖尿病(DME)に続発する網膜の肥厚
6.20/40〜20/320の近似スネレン等価視力(approximate Snellen equivalent)という研究対象の眼におけるBCVAスコア
7.主にDMEの結果であって、他の原因でないと判定された視力の低下
8.出産可能な性的に活発な女性に対しては、研究期間中の適切な形態の避妊の実施(または禁欲)
9.すべての計画された来院および査定について、再訪できること(研究者の意見において)および再訪する意志。
【0226】
除外規準
以下の基準のいずれかを満たす被験体は、本研究の参加から除外された:
眼球の状態
処置前および処置中
1.研究対象の眼の硝子体網膜の手術歴
2.スクリーニングの6ヶ月以内における研究対象の眼の汎網膜光凝固術(PRP)または黄斑レーザー光凝固術
3.研究対象の眼またはもう片方の眼において任意の眼内薬物(ペガプタニブ(pegaptanib)ナトリウム、酢酸アネコルタブ、ベバシズマブ、ラニビズマブ(ranibizumab)など)を以前に使用していたこと
糖尿病性網膜症の特徴
4.不活性な消失したPDRを除く、研究対象の眼におけるPDR
5.研究対象の眼における、虹彩の新生血管形成、硝子体の出血、牽引性網膜剥離、または黄斑に関与する網膜前線維症
併発する眼球の状態
6.中心視覚に有意に影響すると研究者によって考えられる、生体顕微鏡的にまたはOCTにおいて明らかな、研究対象の眼における硝子体黄斑牽引または網膜上膜
7.研究対象の眼における眼球の炎症
8.いずれかの眼における特発性ブドウ膜炎または自己免疫性ブドウ膜炎の履歴
9.RPEの萎縮、網膜下線維症または器質性の硬性白斑を含む、黄斑浮腫の回復後にVAの改善を妨げる可能性がある研究対象の眼における黄斑の中心に対する構造的な損傷
10.網膜血管閉塞、網膜剥離、黄斑円孔または任意の原因のCNV(例えば、レーザーに続発する、AMD、眼ヒストプラスマ症または病的近視)を含む、研究結果の解釈を混乱させ得る研究対象の眼における眼球の障害
11.研究期間中にVAを損ない得るかまたは医学的介入もしくは外科的介入を必要とし得る、研究対象の眼における併発疾患
12.3ヶ月以内の研究対象の眼の白内障手術、過去2ヶ月以内のイットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG)レーザー嚢切開術、または0日目より前の90日以内の他の任意の眼内手術
13.研究対象の眼における、制御されていない緑内障(抗緑内障剤での処置にもかかわらずIOP>30mmHgと定義される)または以前の濾過手術
14.6ジオプトリーを超える近視の研究対象の眼における屈折異常の等価球面度数(6ジオプトリーを超える近視の手術前の等価球面度数屈折異常である研究対象の眼において屈折矯正手術または白内障手術を受けたことがある被験体の場合)
15.Aスキャン超音波による>26mmの眼軸長
16.片眼における感染性の眼瞼炎、角膜炎、強膜炎もしくは結膜炎の検査におけるエビデンスまたは重篤な全身感染症に対するその時点での処置
全身の状態または処置
17.制御されていない血圧(被験体の座位での収縮期>180mmHgおよび拡張期110mmHgと定義される)
18.脳血管の偶発症候または心筋梗塞の履歴
19.12%というHbAlc値によって証明される制御されていない真性糖尿病
20.透析または腎移植が必要な腎不全
21.任意の薬物(ビタミン類およびミネラル類を除く)またはデバイスによる処置を伴う治験への参加の履歴
22.治験薬の使用に対して禁忌を示すか、本研究の結果の解釈に影響し得るか、または処置の合併症に対して被験体を高リスクにする、疾患または状態の合理的な疑いを与える、他の疾患、代謝機能不全、理学的検査の所見または臨床検査室の所見の履歴
23.妊娠または泌乳
24.フルオレセインに対するアレルギーの履歴
25.中央の解読センター(central reading center)によって解析されるおよび等級付けされる十分な品質の眼底写真またはフルオレセイン血管造影図を得ることができないこと
26.研究または追跡の手順に応じることができないこと。
【0227】
図3は、埋め込みの1ヶ月後、3ヶ月後、4ヶ月後および6ヶ月後におけるBCVAの結果の変化を示している。NT−502およびレーザーで処置された患者に対する1、3、4および6ヶ月後におけるBCVAの変化の平均が、図4に示されている。図5は、NT−502とレーザーとの両方で処置された患者の6ヶ月後におけるBCVAの変化も示している。
【0228】
律動様小波(OP)反応は、内側のニューロンの機能および内側の網膜の血液の供給を反映する。糖尿病性網膜症では、OP反応は低下する。OP反応の増加は、微小循環の改善および内側のニューロンの機能の改善を示唆する。1人の患者に対する埋め込みの6ヶ月後におけるOPの結果が図6に示されている。
【0229】
処置の前に、一部のDME患者は、眼にかなりの量の硬性白斑を示した。これらの硬性白斑は、網膜内に蓄積し、網膜の外層に定着している脂質およびタンパク性材料から構成される(Codenottiら、Retina Today,Rizzoら、eds.,39−40頁(2010)(本明細書中で参考として援用される)を参照のこと)。さらに、これらの斑は、中心窩の領域に沈着すると、しばしばかなりの視力喪失を引き起こす(同文献を参照のこと)。図7Aおよび7Bに示されるように、本研究における2人の患者(症例002および症例003)は、眼にかなりの量の硬性白斑を示した。時間が経つにつれて(NT−502処置後)、硬性白斑は崩壊し始め、吸収された。そのような硬性白斑の目覚ましいクリアランスは、以前には報告されていない。
【0230】
本研究の結果から、NT−502デバイスが埋め込まれた眼における視力改善の最初の傾向(少なくとも同じかまたは本研究よりも良い傾向)が有望であることが示唆される。軽度から中程度の硝子体の炎症が、一過性の局所ステロイドに対して十分に応答する一部の患者において観察された。このように、他の有意な有害事象が観察されなかったので、NT−502デバイスは、優秀な安全性プロファイルを有した。
【0231】
等価物
本発明の1つ以上の実施形態の詳細は、上記の添付の説明に示されている。本明細書中に記載される方法および材料に類似または等価な任意の方法および材料が、本発明の実施または試験において使用され得るが、好ましい方法および材料がここに記載されている。その記載および請求項から、本発明の他の特徴、目的および利点が、明らかになるだろう。本明細書および添付の請求項において、文脈が明らかに他のことを指示しない限り、単数形には、複数の指示対象が含まれる。
【0232】
別段定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。本明細書において引用されたすべての特許および刊行物が、参考として援用される。前述の記載は、例示の目的のためだけに提示されたものであって、本明細書に添付された請求項によるものを除いて、開示された正確な形態に本発明を限定することを目的としていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋め込み可能な細胞培養物のデバイスであって、該デバイスは:
a)PEDFを分泌するように遺伝的に操作された1つ以上のARPE−19細胞を含むコア;および
b)該コアを取り囲む半透膜であって、該膜は、該膜を通るPEDFの拡散を許容する、半透膜
を備える、デバイス。
【請求項2】
前記細胞が、PEDF改変体を分泌する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記PEDF改変体が、配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記PEDF改変体が、PEDFの生物学的に活性なフラグメントである、請求項2に記載のデバイス。
【請求項5】
前記コアが、前記半透膜の内側に配置されたマトリックスをさらに含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記マトリックスが、ヒドロゲルまたは細胞外マトリックス成分を含む、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記ヒドロゲルが、多価イオンで架橋されたアルギネートを含む、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記マトリックスが、複数のモノフィラメントを含み、ここで、該モノフィラメントは、
a)ヤーンに撚り合わされているかもしくはメッシュに織り込まれているか、または
b)不織ストランドにおけるヤーンに撚り合わされており、
ここで、該モノフィラメントの上に前記細胞または組織が分布している、
請求項5に記載のデバイス。
【請求項9】
前記繊維状の細胞支持マトリックスが、アクリル、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンポリアセトニトリル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアミド類、ポリウレタン類、ポリブテステル、絹、綿、キチン、炭素および生体適合性金属からなる群より選択される生体適合性材料を含む、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
テザーアンカーをさらに備えるものである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記テザーアンカーが、アンカーループを備える、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記アンカーループが、前記デバイスを眼構造に繋留するために適合されている、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
眼に埋め込まれるものである、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
眼の硝子体、房水、テノン嚢下の空間、眼周囲の空間、後眼房または前眼房に埋め込まれるものである、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
包被が、選択透過性の免疫隔離膜を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項16】
前記包被が、限外濾過膜または精密濾過膜を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項17】
前記包被が、無孔の膜材料を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項18】
前記無孔の膜材料が、ヒドロゲルまたはポリウレタンである、請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
中空繊維または平らなシートとして形づくられているものである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項20】
請求項1に記載のデバイスであって、少なくとも1つの追加の生物学的に活性な分子が、該デバイスから共に送達される、デバイス。
【請求項21】
前記少なくとも1つの追加の生物学的に活性な分子が、非細胞性供給源由来である、請求項20に記載のデバイス。
【請求項22】
前記少なくとも1つの追加の生物学的に活性な分子が、細胞性供給源由来である、請求項20に記載のデバイス。
【請求項23】
前記少なくとも1つの追加の生物学的に活性な分子が、前記コア内の1つ以上の遺伝的に操作されたARPE−19細胞によって産生される、請求項22に記載のデバイス。
【請求項24】
前記半透膜が、1から1500キロダルトンの分子量カットオフを有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項25】
200から350μmの外径および0.4mmから6mmの長さを有する中空繊維である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項26】
前記中空繊維が、ポリエーテルスルホン中空繊維である、請求項25に記載のデバイス。
【請求項27】
1から3μlのコア容量を有するものである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項28】
0.05から0.1μlのコア容量を有するものである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項29】
カプセルが、10から10個の細胞を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項30】
前記半透膜が、ポリアクリレート類(アクリル共重合体を含む)、ポリビニリデン類、ポリ塩化ビニル共重合体、ポリウレタン類、ポリスチレン類、ポリアミド類、酢酸セルロース類、硝酸セルロース類、ポリスルホン類(ポリエーテルスルホン類を含む)、ポリホスファゼン類、ポリアクリロニトリル類、ポリ(アクリロニトリル/コ塩化ビニル)、ならびにそれらの誘導体、共重合体および混合物からなる群より選択される材料から形成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項31】
網膜変性、新生血管形成、眼における流体蓄積、またはそれらの任意の組み合わせを特徴とする眼科疾患または眼科障害の処置を必要とする被験体において、該眼科疾患または該眼科障害を処置するための方法であって、該方法は、請求項1に記載の埋め込み可能な細胞培養物のデバイスを該被験体の眼に埋め込む工程、およびPEDFが該デバイスから該眼に拡散するのを可能にすることによって該疾患または該障害を処置する工程を包含する、方法。
【請求項32】
前記被験体が、ヒトである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記眼科疾患または前記眼科障害が、加齢性黄斑変性症、網膜色素変性症、糖尿病性黄斑浮腫または糖尿病性網膜症である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記デバイスが、眼内にまたは眼周囲に埋め込まれる、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
0.1pgから1000μg/眼/患者/日のPEDFが、前記眼に拡散する、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
宿主における神経または網膜の退化または変性を阻害するための方法であって、該方法は、請求項1に記載の細胞培養物のデバイスを宿主の眼に埋め込む工程を包含し、ここで、該デバイスは、治療有効量のPEDFを該眼に分泌することによって、PEDFが神経栄養物質または神経保護薬として機能するのを可能にする、方法。
【請求項37】
前記デバイスが、眼内にまたは眼周囲に埋め込まれる、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
レシピエント宿主にPEDFを送達する方法であって、該方法は、請求項1に記載の埋め込み可能な細胞培養物のデバイスを該レシピエント宿主の標的領域に埋め込む工程を包含し、ここで、被包された1つ以上のARPE−19細胞は、該標的領域においてPEDFを分泌する、方法。
【請求項39】
前記標的領域が、脳、脳室、脊髄を含む中枢神経系、ならびに眼の房水および硝子体液からなる群より選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
0.1pgから1000μg/患者/日のPEDFが、前記標的領域に拡散する、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
宿主における血管新生、網膜の疾患またはそれらの組み合わせに関連する血管透過性を阻害するための方法であって、該方法は、請求項1に記載の細胞培養物のデバイスを宿主の眼に埋め込む工程を包含し、ここで、該デバイスは、治療有効量のPEDFを該眼に分泌することによって、PEDFが血管透過性を阻害するのを可能にする、方法。
【請求項42】
請求項1に記載の埋め込み可能な細胞培養物のデバイスを作製するための方法であって、該方法は、
a)配列番号2または配列番号4の核酸配列によってコードされるPEDFポリペプチドを分泌するように少なくとも1つのARPE−19細胞を遺伝的に操作する工程、および
b)該遺伝的に改変されたARPE−19細胞を半透膜内に被包する工程であって、ここで、該膜は、該膜を通るPEDFの拡散を許容する、工程
を包含する、方法。
【請求項43】
請求項1に記載の埋め込み可能な細胞培養物のデバイスを作製するための方法であって、該方法は、
a)配列番号1のアミノ酸配列を含むPEDFポリペプチドを分泌するように少なくとも1つのARPE−19細胞を遺伝的に操作する工程、および
b)該遺伝的に改変されたARPE−19細胞を半透膜内に被包する工程であって、ここで、該膜は、該膜を通るPEDFの拡散を許容する、工程
を包含する、方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図7−4】
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【公表番号】特表2013−507373(P2013−507373A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533274(P2012−533274)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【国際出願番号】PCT/US2010/051602
【国際公開番号】WO2011/044216
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(508323698)ニューロテック ユーエスエー, インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】Neurotech USA, Inc.
【住所又は居所原語表記】701 George Washington Highway Lincoln RHODE ISLAND 02865
【Fターム(参考)】