説明

被影響体のインビボ環境から放射性セシウム(*Cs)、放射性ストロンチウム(*Sr)、および放射性ヨウ素(*I)を同時除染する予防混合物

何らかの原子力事故により放射性同位元素の外界への偶発的放出が発生した場合、被影響体から*Cs、*Sr、*Iを有効に除染する新規な予防混合物が調製される。
1)フェロシアン化カルシウムカリウム[CaK2Fe(CN)6]と、
2)ヨウ素酸カルシウムと、
3)炭酸カルシウムと
を含有する本予防混合物は、非常事態または放射能フォールアウトの場合に、放射線による被影響体に容易に投与されるように、単一の錠剤、カプセル、または懸濁液の形態で製剤可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核放射線被爆による影響を受けた個体のインビボ環境から放射性セシウム(*Cs)、放射性ストロンチウム(*Sr)、および放射性ヨウ素を同時除染する予防混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
実験用、同位元素製造用、またはエネルギー供給用原子炉、および核兵器副産物における核分裂には、相当な量の放射性副産物の形成が伴う。これら放射性原子の大多数は、ヨウ素−131、ストロンチウム−89−90、セシウム−134およびセシウム−137、ならびにセリウム−141およびセリウム−144等の極めて危険な放射性同位元素を含む核分裂生成物および活性元素である。これらは、外界に放射されると放射能汚染を引き起こす場合がある。
【0003】
これらの同位元素が人体に入るには、呼吸器管(空気とともに吸気される)、消化管(飲食物とともに摂取される)、および皮膚の表皮層(傷のある、または傷のない皮膚に接触する)という3つの経路がある。
【0004】
このような放射線被爆による健康障害を低減または防止さえする数多くの方法が周知である。しかしながら、いくつかの同位元素、本質的には放射性ストロンチウムからは、適切な吸着剤(*Srの吸収を阻害、または*Srと対抗することによりその吸収を妨害する阻害薬/同族体(congener))を経口投与して消化管吸収を妨害/防止することによってのみ保護可能となる。汚染後数時間経過してからようやく医療行為が開始される場合、医療分野の現状では、血流およびリンパ流で搬送される放射性同位元素の吸収分が骨に蓄積する影響によるヒスティック結合(histic binding)を防止し、その除染を促進する、効率的な放射性同位元素の吸収分の阻害方法はない。
【0005】
何らかの原子力事故が発生した場合のこのような放射線による影響の多くは、「近隣」地域の住民に即時の放射能危険が起こることに加えて、大気を介して「遠隔地」へと効果的に搬送され得るその他の放射性核種、主として放射性セシウム(*Cs)および放射性ヨウ素(*I)に被爆することが原因となる。植物−動物−人間の食物連鎖を介した再循環に加えて、広範囲の分散、30年間の半減期、ベータ/ガンマ線量ポテンシャル、(カリウム同族体であるための)組織全体での偏在的な分散のために、*Csは大きな放射線生物学的脅威となる。
【0006】
放射性ストロンチウム(*Sr)は、注意が必要なもう1つの放射性核種である。なぜならば、インビボ環境に入ると被影響体の骨髄を損傷し得る骨への特定的局在性を有することに加えて、半減期が28.5年間(90Sr)と長いためである。基本的には土壌に固着し、チェルノブイリ原子力事故後、人間への顕著な転移が見られなかった239Puを除いて、原子力事故後の早い段階で甲状腺の損傷を誘発する放射性ヨウ素に加えて137Csおよび90Srのみが地面に堆積し、生体サイクルに入る。
【0007】
セシウム(Cs)の種々の放射性同位元素のうち、137Csは最も重要かつ一般的な核分裂による副産物の物質であることに加えて、産業/医療に用いられる密封線源においてしばしば有効成分として用いられている。これは、特に放射線腫瘍学において重要な放射性核種であり、固形腫瘍に対する婦人科近接照射療法または腸管治療を行っている病院で見かけられる。これら全てにより、種々の実験、診断、および治療目的のために*Csを用いる機会が着実に増加する結果となる。世界中に多数の原子炉が存在することにより、偶発的放出の機会はさらに増加し、原子炉の労働者および近隣の人間のみならず、空気により運ばれる*Csまたは汚染された食品/水に曝される場合、遠方の個体群にもより大きな放射能危険となる。この危険性は、チェルノブイリ原子炉およびゴイアニアの放射能事故により明らかに実証済みである。
【0008】
放射性セシウム(*Cs)、特に137Csは、以下の理由により人間の健康に大きく影響する。
1.異なる経路(経口摂取、吸息、および/または皮膚浸透)により身体に吸収されやすい。
2.人間の場合、約100〜110日間という比較的長い生物的半減期を有する。
3.物理的半減期が30年間である。
4.高エネルギーのベータ線および浸透型ガンマ線を放射する。
5.カリウムおよびナトリウム元素に近似しているために、ほぼ全身に均一に分散される。
【0009】
金属中毒に対する最も一般的な治療は、「キレート療法」である。従来のキレート療法では、キレート剤を患者に静脈注射してきた。EDTA(エチレンジアミン四酢酸)およびDTPA(ジエチレントリアミンペンタ酢酸)等の広く公知である従来のキレート剤がしばしば用いられる。従来のキレート療法は患者に非常な痛みを与え、その効果は限定的にすぎない。
【0010】
さらに、この種の療法に用いられるキレート剤の大半は、概して親水性であり、迅速に排出され、対象となる金属を除去するために細胞に浸透する能力が限られている。従って、例えば、鉛流毒の治療におけるEDTAの使用は、血液中の鉛を除去するには有効であるが、細胞(生体組織/器官)に浸透(堆積)した鉛を除去するのには有効ではない。
【0011】
また、従来のキレート療法では、特定の器官を対象とすることができない。ある種の金属は、ある器官に他の器官よりもより著しく堆積する。例えば、骨に著しく堆積する金属がある。従って、有効な治療を提供するためには、骨表面に並ぶ細胞バリアに浸透可能な物質が必要となる。従来のキレート剤では、この能力はすぐには得られない。
【0012】
組成物が、金属の再分散ではなく金属の除染を促進することも重要である。公知のキレート剤に関するいくつかの研究では、金属がある組織から単に追い出され、別の組織に再び堆積することが示唆されている。これとは異なり、本発明の組成物は、哺乳動物の身体から金属を実際に除去するものである。
【0013】
米国特許第5494935号および米国特許第5403862号は、被影響体のインビボシステムから重金属イオンを除染する、部分的に脂肪好性のポリアミノカルボン酸(PACA)等のいくつかの新規なキレート剤を教示している。非脂肪好性のキレート剤であるEDTAやDTPAとは異なり、これらのキレート剤は腸からのかなりの吸収を示すため、経口投与が可能である。しかし、このようなキレート剤が有する問題点として、それらが主としてある特定の器官のみに向けられることが挙げられる。さらに、キレート剤は、いくつかの特定の吸収された金属を対象とし、それらの放射性の金属を特には対象としない。
【0014】
米国特許第5288718号は、放射性ストロンチウム、時として他の放射性金属同位元素を生命体から除去するのに適した単環クリプテート配位子およびその誘導体が開示されている。1,4,10,13−テトラオキサ−7,16−ジアザシクロオクタデカン−N,N'−ジマロン酸テトラナトリウム塩系活性剤は、動物の身体における種々の部位(腹腔、皮下間質、肺)に与えられた放射性ストロンチウムおよび放射性セシウムの排出を促進可能であることが示された。
【0015】
米国特許第4780238号は、新規の自然に製造されるキレート剤の調製剤、ならびに、シュードモナス属または他の微生物を含む生物学的に利用可能な形態の培養菌を脱着する方法および結果として生じるキレートに関する。好適な微生物は、分子量100〜1,000のトリウムと多数のキレートを形成し、分子量100〜1,000、分子量1,000〜2,000のウランとキレートを形成する緑膿菌である。
【0016】
従来、プルシアンブルー(ラジオガルダーゼ(Radiogardase)−Cs、ベルリンのハイル化学薬品社(Heyl, Chem.-Pharm, Fabrik)により販売)は、インビボ環境から*Csを排除するために用いられてきた。化学的に、プルシアンブルーは、実験式Fe4[Fe(CN)63、分子量859.3ダルトンの不溶性ヘキサシアノ鉄酸第二鉄(II)(ferric hexa-cyanoferrate (II))であり、0.5gゼラチンカプセル内の青色粉体として提供される。
【0017】
3つの化合物、すなわちプルシアンブルー、アルギン酸カルシウム(CaA)、およびヨウ化カリウム(KI)の従来報告されている混合物を、放射性核種に被爆する前の3日間、動物に食餌に混ぜて与えることにより、インビボ環境から放射性核種を排除することが提案されている。
【0018】
従来公知のプロセスに関して、以下のようないくつかの問題点があり、本発明はそれらを解決しようとするものである。
1)プルシアンブルー、アルギン酸カルシウム、およびKIは、放射性核種に被爆する前に、食餌に混ぜて与える必要があるが、これは常に実行可能とは限らない。
2)プルシアンブルーは、実験動物のインビボシステムから*Csを除去する速度が遅い。本発明の混合物における構成成分の1つであるフェロシアン化カルシウムカリウム(Calcium Potassium Ferrocyanide)[CaK2Fe(CN)6]は、実験動物のインビボシステムから*Csを除染する速度が、プルシアンブルーよりもかなり速い。
3)プルシアンブルーは、実験動物において胃腸および心臓毒性を誘発する。本発明の混合物は、これらの器官においてこのような病理組織学的変化を起こさない。また、プルシアンブルーは、プルシアンブルーと同一の用量レベルで、約6ヶ月間食餌に混ぜて与えられるか経口投与された場合のフェロシアン化カルシウムカリウムと比較して、肝臓および腎臓をより著しく損傷する。
4)プルシアンブルーは、おそらくは胃腸毒性のために、個体に便秘を誘発する場合があることが観察されている。
5)従来報告されている解毒薬の混合物で治療した後、動物におけるヘモグロビンレベルが緩やかに低減することが分かっている。
6)プルシアンブルーは、胃領域に通常存在する酸性媒体(pH2〜3)において安定/放射性セシウムとの錯体形成/その抽出に、本発明の混合物の構成成分であるフェロシアン化カルシウムカリウム[CaK2Fe(CN)6]と同一の用量レベルで、その25〜50%程度しか有効でない。
7)従来公知の混合物の成分であるアルギン酸カルシウムは、本混合物に用いられる一般的なカルシウム塩の1つと比較して、非常に粘性が高く味の悪い化合物である。本発明の混合物に用いられるカルシウム系塩には、*Srの全身残留率を低減することにおいて、アルギン酸カルシウムと同程度の効力がある。
8)従来公知の混合物に用いられるKIは、非常に吸湿性の薬品として知られており、混合物の保存寿命を低減する。従って、保存の問題が生じる。
9)救済方策が特定の放射性核種に特定的であり、他には向けられていない。従って、1つ以上の放射性核種に被爆した場合、各放射性同位元素に対して個別の治療が必要となる。
【0019】
よって、従来技術に関するこのような問題点を取り除く、適切な放射性物質除染剤が長年必要とされていた。このような予防薬には、以下のような特定の必要条件が確立されている。
(a)錯体形成は、大量に存在する共イオン(Ca2+、Na+、K+等)および配位子の存在下ではあるにしても、生体システム内で行われなくてはならない。
(b)毒性(広範囲な有効性)が製薬上許容可能なレベルでなくてはならない。
(c)容易に投与可能でなくてはならない。
【0020】
本発明者らは、
(a)フェロシアン化カルシウムカリウム[CaK2Fe(CN)6]−新規の化合物、
(b)ヨウ素酸カルシウム、および
(c)炭酸カルシウム
の混合物を経口投与することにより、3つの最も重要な核分裂による放射性核種である*Cs、*Sr、および*Iの残留率を同時に低減し、これらの放射性核種に偶発的に被爆した個体から除染を行うことを見出した。
【0021】
以下に、本混合物の詳細な製剤について説明する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的は、被影響体のインビボシステムから同時に3つの放射性核種*Cs、*Sr、および*I全てを効率的に除去することにより、これらを個別に除染する必要性をなくす予防混合物を提供することにある。
【0023】
本発明の他の目的は、影響を受けた人間および動物のインビボ環境から*Cs、*Sr、および*Iを同時除染するのに、従来報告されているプルシアンブルー、アルギン酸カルシウム、およびKIの混合物よりも有効かつ簡便な混合物を提供することにある。
【0024】
本発明の他の目的は、現状において用いられているプルシアンブルー、アルギン酸カルシウム、およびヨウ化カリウムと比較して、新規かつ比較的無毒であり、より安定的かつより味の良い*Cs、*Sr、および*Iを排除する除染剤を提供することにある。
【0025】
本発明の他の目的は、予防混合物に甘みをつけることを可能とし、放射線または原子力に関する非常事態に続く混乱した状況において、影響を受けた個体群(人間および動物)に非常に容易に投与可能な単一のチュアブル剤として調製可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、危険な放射性物質に被爆した個体から核分裂による放射性核種*Cs、*Sr、および*Iを効率的に除去する予防混合物に関し、本混合物は以下を含有する。
1)フェロシアン化カルシウムカリウム−[CaK2Fe(CN)6]、
2)ヨウ素酸カルシウム[Ca(IO32
3)炭酸カルシウム(CaCO3
本発明による製剤は、錠剤、カプセル、キット、または懸濁液等の形態をとる。構成成分は、成人向け用量の50%という少ない用量で、小児向けに適切に製剤可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、公知の放射性核種が外界に放出された場合に、それらを除染するために用いられる予防混合物の製剤に関する。本混合物は、緩やかに溶け、長い保存寿命を有し、インドのような熱帯国の高温多湿の気候にも影響を受けない。本混合物は、水懸濁液として保存可能であるが、錠剤/カプセルの形態で保存することが好ましい。本発明による混合物は、以下を含有する。
(a)1000〜1500mg、より好ましくは1100〜1400mg、最も好ましくは、カルシウム元素480〜520mgに相当する1200〜1300mgの炭酸カルシウム(CaCO3
(b)45〜65mg、より好ましくは50〜60mg、最も好ましくは、安定ヨウ素約33mgに相当する52〜56mgのヨウ素酸カルシウム[Ca(IO32
(c)900〜1100mg、より好ましくは950〜1050mg、最も好ましくは980〜1020mgのフェロシアン化カルシウムカリウム[CaK2Fe(CN)6
上記の混合物(最も好ましくは、重量2.2〜2.4g)は、15mlの飲料水、ソーダ水、清涼飲料水、もしくは果汁で懸濁液とすること、チュアブル剤として甘みをつけること、または水で嚥下する錠剤/カプセルとして製剤することが可能である。この用量は、放射線に関する非常事態が発生した場合の放射能汚染の深刻さに応じて、成人が1日2〜3回摂取する量(予防混合物の懸濁液全体量約30〜45mlに相当する、または錠剤/カプセル4〜6錠に相当する)である必要がある。
【0028】
炭酸カルシウム(CaCO3)は、放射性ストロンチウム(*Sr)の除染に用いられる。ヨウ素酸カルシウムは、甲状腺に吸収された放射性ヨウ素(*I)を阻害するのに、KI/KIO3と同程度に有効である。[CaK2Fe(CN)6]は、インビボシステムからの放射性セシウム(*Cs)の排除を高めるために用いられる。
【0029】
[CaK2Fe(CN)6]の分析により、この物質は、本発明で示すような使用および効果について従来何ら知られていなかった不溶性化合物であることが分かった。本化合物は、一般的に用いられる2つの化合物であるフェロシアン化カリウム[K4Fe(CN)6]および塩化カルシウムCaCl2から合成可能である。これは、プルシアンブルーには存在しない2つの元素であるカルシウムおよびカリウムと組み合わせられている。その中核となるこれら2つの追加元素(特にカルシウム)は、インビボシステムから*Csを排除するのに、プルシアンブルーよりも効力がある。その構造は、以下の構造式Iにより示される。
【0030】
【化1】

【0031】
本混合物における他の2つの成分、すなわち炭酸カルシウムおよびヨウ素酸カルシウムは市販されている。
【0032】
さらに、本発明は、フェロシアン化カルシウムカリウムを調製する容易かつ効率的なプロセスに関し、本プロセスは以下の工程を含む。
(a)2リットルフラスコに、250mlのフェロシアン化カリウム0.5モル水溶液K4Fe(CN)6・6H2Oを入れる。
(b)(a)の溶液に、250mlの塩化カルシウム二水和物1モル水溶液CaCl2・2H2Oを継続的に激しく攪拌しながら滴下して加える。
(c)形成された析出物を、一晩沈下させる。
(d)デカンテーション、および緩やかな真空をかけることによる緩やかな吸気により、析出物と上清液とを分離する。
(e)析出物を温水で洗浄して、溶性不純物の痕跡を除去する。
(f)続いて、アセトンで洗浄して、水の痕跡を除去する。
(g)このようにして得られた黄色析出物を、8時間90℃で乾燥させる。
【0033】
本生成物により得られた最終化合物の収率は、約80%である。
【0034】
上記の混合物は、小児に投与するために、より少ない用量(成人向け用量の約50%)で以下のように製剤可能である。
(a)500〜750mg、より好ましくは550〜700mg、最も好ましくは、カルシウム元素240〜260mgに相当する600〜650mgの炭酸カルシウム(CaCO3
(b)20〜35mg、より好ましくは25〜30mg、最も好ましくは、安定ヨウ素約16mgに相当する26〜28mgのヨウ素酸カルシウム[Ca(IO32
(c)450〜550mg、より好ましくは475〜525mg、最も好ましくは490〜510mgのフェロシアン化カルシウムカリウム[CaK2Fe(CN)6
上記の予防混合物(最も好ましくは、重量1.1〜1.2g)は、7.5mlの飲料水、ソーダ水、清涼飲料水、もしくは果汁で懸濁液とすること、チュアブル剤として製剤すること、または水で嚥下する2つのより小さい錠剤/カプセルとして製剤することが可能である。この用量は、放射線に関する非常事態が発生した場合の放射能汚染の深刻さに応じて、小児が1日2〜3回摂取する量(予防混合物の懸濁液全体量約15〜22.5mlに相当する、または錠剤/カプセル4〜6錠に相当する)である必要がある。
【0035】
本混合物は、懸濁液の形態、または好ましくは錠剤もしくはカプセルの形態で製剤可能である。錠剤またはカプセルは、原子炉における非常事態による影響を受けた人間に容易に投薬可能であり、影響を受けた人間全てに簡便に投薬/分配可能である。
【0036】
本混合物のおよその用量は、汚染の深刻さだけではなく、被影響体の年齢や体重等にも左右される。このような非常事態が起きた際に被影響体が経口的に服薬可能な状態にない場合、成人向け剤形および小児向け剤形の両方において、懸濁液は胃管(胃洗浄)を介して投与可能である。
【0037】
予防混合物は、胃腸系に遊離/余分のカルシウムを放出し、そのことにより、以下のような利点が提供されることが分かった。
1.胃腸管腔のカルシウムは、相当な量の望ましくない/有毒な物質と錯体形成して、インビボ環境からこれらを排除するのに非常に有用である。
2.さらに、カルシウムは、カルシウムおよび他のいくつかの元素の迅速な吸収を促す(活性)ホルモン形態のビタミンDの合成を鈍化/停止させることにより、腸内の活性搬送機構を阻害する。
3.カルシウムは、受動拡散によるストロンチウム等の元素の吸収において、これら元素と対抗する。
4.さらに、カルシウムは、細胞膜の損傷を遅らせるのに役に立つ。
5.さらに、カルシウムは、放射性物質の影響により増加することが通常知られているフリーラジカルを取り除く際に主たる役割を担うことが知られているビタミンE、グルタチオン、および蛋白質チオール類を安定化させることにより、酸化防止剤防御機構の調節に重要な役割を果たす。
【0038】
なお、本混合物に用いられるカルシウム塩は、かなり有毒であり数多くの産業および生物医学用途に用いられているタリウムおよび安定ストロンチウムだけではなく安定セシウムを除染するのにも役に立つ。
【0039】
本錠剤およびカプセルは、当業者に公知の方法のいずれかにより調製可能である。
【0040】
ここで、表1を参照する。下記表1は、(*Cs+*Sr+*I)混合物の投与後に本発明の混合物を食餌に混ぜて与えられた場合および経口投与された場合について、本発明の混合物の効果を、プルシアンブルー、KIO3、およびアルギン酸カルシウムの混合物と比較して示す。実験動物に、3つの放射性核種(*I、*Cs、および*Sr)の混合物を経口投与した2時間後、この新規な除染剤の予防混合物を経口投与した。24時間〜14日間の後、各放射性核種の全身残留率を測定した。これを、食餌でのみ与えられたプルシアンブルー(PB)+KIO3+アルギン酸カルシウムの混合物と比較した。
【0041】
【表1】

【0042】
下記表2は、*Cs+*Sr+*I混合物の投与後に経口投与された本発明の混合物の効果を、PB、KIO3、およびグルコン酸カルシウムの混合物と比較して示す。実験動物に、上記3つの放射性核種の混合物を投与した2時間後、この新規な混合物を経口投与した。24時間〜14日間の後、各放射性核種の全身残留率を測定した。これを、経口投与したプルシアンブルー+KIO3+グルコン酸カルシウムの混合物と比較した。
【0043】
【表2】

【0044】
ここで、表3を参照する。下記表3は、[CaK2Fe(CN)6]を用いた場合の*Csの全身残留率カウントを、プルシアンブルーと比較して示す。表に示すように、CKFは、被影響体のインビボシステムからの*Csの排除を高めるのに、4〜5日目以降、PBの2倍有効であった。
【0045】
【表3】

【0046】
表4は、KIO3およびCa(IO32の形態の安定ヨウ素がi.p.(腹腔内).投与された24時間後の131Iの百分率を示す。
【0047】
【表4】

【0048】
表5は、KIO3およびCa(IO32の形態の安定ヨウ素が経口投与された24時間後の131Iの百分率を示す。結果は、投与された用量に対する百分率として、平均±SD(ラット5〜6匹/群)で示す。
【0049】
【表5】

【0050】
表6は、放射性ヨウ素の全身残留率についての、Ca(IO32とKIO3との比較を示す。KIO3およびCa(IO32の形態の安定ヨウ素(100mg/成人70Kg/日に相当する)は、食餌と混合する。
【0051】
【表6】

【0052】
表7は、KIO3およびCa(IO32の形態の安定ヨウ素(100mg/成人70Kg/日に相当する)が経口投与される場合の放射性ヨウ素の全身残留率についての、Ca(IO32とKIO3との比較を示す。
【0053】
【表7】

【0054】
表8は、異なるpH範囲(2〜7)における、*Cs結合能の百分率を示す。このデータから、プルシアンブルーは、酸性媒体内の安定/放射性セシウムとの錯体形成/その抽出に、[CaK2Fe(CN)6]と同一の用量レベルで、その25〜50%程度しか有効でないことが分かる。
【0055】
【表8】

【0056】
図1は、[CaK2Fe(CN)6]を用いた場合の*Csの全身残留率を、プルシアンブルーと比較してグラフで示す。グラフから明らかなように、*Cs除染目的のみの用途では、[CaK2Fe(CN)6]はプルシアンブルーの2倍有効であった。図2は、ラット骨髄赤血球における小核形成についての、プルシアンブルーおよび[CaK2Fe(CN)6]の効果を示す遺伝毒性データである。小核(すなわち、細胞分裂の際に染色体の損傷により、娘核として細胞質に残される親核の一部)の形成についての、[CaK2Fe(CN)6]およびプルシアンブルーの遺伝毒性評価を行った。図から、用量5mg/100gBW(3.5g/日/成人70Kgに相当する)の試験化合物において、[CaK2Fe(CN)6]およびプルシアンブルーはいずれも毒性を誘発せず、全く無毒であることが分かる。この用量の5〜10倍では、小核形成に僅かな増加が誘発されることが観察された。しかしながら、試験用量の全てにおいて、平均±SEは対照と著しくは異なっていない。図3は、アルカリコメットアッセイの結果を示す。この結果においても、PBおよびCKFのいずれもが、対照と著しくは異ならず、明らかなDNA損傷を誘発しないことが明示されている。さらに、図4は、中性pHにおいても、より弱い結合を示すPBと比較して、CKFの*Csとの強固な結合を明示している。
【0057】
本明細書における「非常事態」という語は、以下を含むと解釈されるべきである。
(a)何らかの原子力事故による、放射性同位元素の外界への偶発的放出
(b)危険な核種の外界への何らかの偶発的放出
(c)実験、診断、または治療目的の通常の過程において発生するものも含む、放射能フォールアウト
(d)人間または動物個体による、放射性核種の何らかの種類の偶発的吸収および残留
(e)揮発性放射性核種への他の種類の被爆
(f)何らかの種類の放射能事故
本文ならびに添付の表および図における頭字語CKFは、フェロシアン化カルシウムカリウムという化合物を意味する。
【0058】
上記の実施例および製剤は、説明の目的で提示されるものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。当業者にとって自明な変形および変更は、添付のクレームに定義される本発明の範囲および本質に含まれるものとされる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、[CaK2Fe(CN)6]を用いた場合の*Csの全身残留率を、プルシアンブルーと比較してグラフで示す。
【図2】図2は、ラット骨髄赤血球における小核形成についての、プルシアンブルーおよび[CaK2Fe(CN)6]の効果を示す遺伝毒性データである。
【図3】図3は、アルカリコメットアッセイの結果を示す。
【図4】図4は、中性pHにおいても、より弱い結合を示すPBと比較して、CKFの*Csとの強固な結合を明示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1】

を有するフェロシアン化カルシウムカリウム[CaK2Fe(CN)6]。
【請求項2】
(a)炭酸カルシウムと、
(b)ヨウ素酸カルシウムと、
(c)請求項1に記載の化合物であるフェロシアン化カルシウムカリウム[CaK2Fe(CN)6]とを含有する予防混合物。
【請求項3】
前記混合物の前記成分は、
(a)炭酸カルシウムが1000〜1500mg、
(b)ヨウ素酸カルシウムが45〜65mg、
(c)フェロシアン化カルシウムカリウム[CaK2Fe(CN)6]が900〜1100mgの量で存在する請求項2に記載の予防混合物。
【請求項4】
前記混合物の前記成分は、
(a)炭酸カルシウムが1100〜1400mg、
(b)ヨウ素酸カルシウムが50〜60mg、
(c)フェロシアン化カルシウムカリウム[CaK2Fe(CN)6]が950〜1050mgの量で存在する請求項3に記載の予防混合物。
【請求項5】
前記混合物の前記成分は、
(a)炭酸カルシウムが1200〜1300mg、
(b)ヨウ素酸カルシウムが52〜56mg、
(c)フェロシアン化カルシウムカリウム[CaK2Fe(CN)6]が980〜1020mgの量で存在する請求項4に記載の予防混合物。
【請求項6】
前記混合物は、懸濁液、錠剤、またはカプセルの形態をとる請求項2〜5のいずれかに記載の予防混合物。
【請求項7】
前記混合物は、12〜15mlの水で懸濁液の形態で製剤される請求項6に記載の予防混合物。
【請求項8】
前記混合物は、錠剤の形態をとる請求項6に記載の予防混合物。
【請求項9】
前記混合物は、カプセルの形態をとる請求項6に記載の予防混合物。
【請求項10】
成人に対しては、1日1回2〜4つの錠剤またはカプセルまたはチュアブル剤が推奨される請求項2〜5のいずれかに記載の予防混合物。
【請求項11】
前記混合物は、その構成成分のそれぞれを50重量%含有するより少ない用量で、小児向けに適切に製剤される請求項2〜5のいずれかに記載の予防混合物。
【請求項12】
前記混合物の前記成分は、
(a)炭酸カルシウム(CaCO3)が500〜750mg、
(b)ヨウ素酸カルシウム[Ca(IO32]が20〜35mg、
(c)フェロシアン化カルシウムカリウム[CaK2Fe(CN)6]が450〜550mgの量で存在する請求項11に記載の予防混合物。
【請求項13】
前記混合物の前記成分は、
(a)炭酸カルシウムが550〜700mg、
(b)ヨウ素酸カルシウムが25〜30mg、
(c)フェロシアン化カルシウムカリウム[CaK2Fe(CN)6]が475〜525mgの量で存在する請求項12に記載の予防混合物。
【請求項14】
前記混合物の前記成分は、
(a)炭酸カルシウムが600〜650mg(240〜260mgのカルシウム元素に相当する)、
(b)ヨウ素酸カルシウムが26〜28mg、
(c)フェロシアン化カルシウムカリウム[CaK2Fe(CN)6]が490〜510mgの量で存在する請求項13に記載の混合物。
【請求項15】
小児に対しては、1日1回2〜4つの錠剤またはカプセルまたはチュアブル剤が推奨される請求項11〜14のいずれかに記載の予防混合物。
【請求項16】
(a)2リットルフラスコに、250mlのフェロシアン化カリウム0.5モル水溶液K4Fe(CN)6・6H2Oを入れる工程と、
(b)前記(a)の溶液に、250mlの塩化カルシウム二水和物1モル水溶液CaCl2・2H2Oを継続的に激しく攪拌しながら滴下して加え、形成された析出物を一晩沈下させる工程と、
(c)デカンテーション、および緩やかな真空をかけることによる緩やかな吸気により、前記析出物と上清液とを分離する工程と、
(d)前記析出物を温水で洗浄して、溶性不純物の痕跡を除去する工程と、
(e)続いて、アセトンで洗浄して、水の痕跡を除去する工程と、
(f)このようにして得られた黄色析出物を、8時間90℃で乾燥させる工程とを含む請求項1に記載の構造式1の化合物の製造プロセス。
【請求項17】
核放射線による影響を受けた個体において*Csを除染する、構造式1を有するフェロシアン化カルシウムカリウム[CaK2Fe(CN)6]の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−526833(P2008−526833A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550020(P2007−550020)
【出願日】平成17年1月10日(2005.1.10)
【国際出願番号】PCT/IN2005/000012
【国際公開番号】WO2006/072962
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(504439034)
【氏名又は名称原語表記】SECRETARY, DEPARTMENT OF ATOMIC ENERGY
【Fターム(参考)】