説明

被捕集物質捕集器

【課題】被捕集物質を捕集する面を常に重力方向に対し一定に維持する被捕集物質補集器を提供する。
【解決手段】被捕集物質を捕集可能な捕集基質12を曝した状態で装着することが可能である被捕集物質捕集器本体14と、該被捕集物質捕集器本体14の外縁よりも大きな内縁を有する第1リング部材16と、該第1リング部材16の外縁よりも大きな内縁を有する第2リング部材18と、を備え、前記被捕集物質捕集器本体14は、その垂直方向に延びる中心軸a−aと直交する第1軸b−bを中心に、前記第1リング部材16に対して傾動可能に取り付けられているとともに、前記第1軸b−bよりも下方に重心14Bを有し、前記第1リング部材16は、前記中心軸a−a及び前記第1軸b−bに直交する第2軸c−cを中心に、前記第2リング部材18に対して傾動可能に取り付けられていることを特徴とする被捕集物質捕集器10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被捕集物質を捕集可能な捕集基質を装着可能である被捕集物質捕集器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、日本人の約4000〜5000万人が何らかのアレルギー症状を抱えており、その数も年々増加傾向にある。例えば、日本国における喘息医療費は、労働損失など間接費を含めると、年間約6400億円にものぼることが報告されている。花粉症患者は、全国で約1300万人、経済損失は年間約2900億円と推定され、問題の早期解決が望まれる。また、欧米においても最近の10年間で、アレルギー性疾患の罹患率が20〜50%の率で増加していると報告されており、対策が急務とされている。
【0003】
気管支喘息やアレルギー性鼻炎など呼吸器系アレルギー疾患においては、吸入性アレルゲン(ダニ、カビ、スギ花粉など)による曝露の寄与が大きいと言われているものの、呼吸器系アレルギー疾患の発症機構の詳細については未解明な部分も多く、広範かつ体系的な曝露評価調査や疫学調査を行うことによって、その発症機構の詳細を解明する必要がある。
【0004】
呼吸器系アレルギー疾患の発症機構の詳細の解明は、ポンプなどの動力を利用したアクティブ型捕集器によって、吸入性アレルゲンを含む浮遊粒子状物質を捕集することによって行なうことができる。例えば、複数のアクティブ型捕集器を室内外の様々な場所に設置して、これら複数のアクティブ型捕集器によって捕集された吸入性アレルゲンに基づいて、個人曝露量を推定することが行われている。しかしながら、このような方法は、あくまでも推定の域を脱しておらず、吸入性のアレルゲンの個人曝露評価について、被験者を取り囲む極めて局域的な空気中濃度についてまで考慮されているものではない。また、このようなアクティブ型捕集器を各被験者に取り付けて運搬させることによって、極めて曲域的な空気濃度測定するということが考えられるが、そのポンプが重いなどの理由から、持ち運びには適していない(特許文献1)。
【0005】
一方、このようなアクティブ型捕集器の他に吸入性のアレルゲンを捕集するものとして、ポンプを用いないパッシブ型捕集器が用いられている(特許文献2)。パッシブ型捕集器は、通常、気体透過性の捕集基質(拡散フィルタ)を張った容器、又は気体透過性材質により作成された捕集基質(拡散フィルタ)中に、吸着剤をコーティングした充填剤を満たしたサンプラーからなり、これらフィルタに被捕集物を捕集するように構成されている。窒素酸化物(NOx)や揮発性有機化合物(VOCs)など、ガス相の物質に対しては、物質固有の拡散係数を用いることにより、パッシブ型捕集器を用いて捕集した物質量から比較的容易に空気中濃度を算出することができる。一方、固体である浮遊粒子状物質(吸入性アレルゲンを含む)は、粒子の大きさにより、空気中における慣性運動、沈降速度、ブラウン拡散の寄与割合が著しく異なることから、パッシブ捕集した粒子全体量から空気中濃度を換算することは、理論的に不可能である。しかし、例外的に、粗大なアレルゲン粒子のみを対象とすれば、ブラウン拡散の影響を十分に無視することができる。したがって、重力沈降のみを考慮した比較的単純化された計算式を用いることにより、浮遊粒子状物質の空気中濃度の計算が可能となる。このような粒径10μm以上の粗大アレルゲン粒子としては、ダニ、カビ、スギ花粉が含まれており、重要な粒径域の粒子種であるといえる。このため、パッシブ型捕集器により粗大なアレルゲン粒子を捕集して、空気中濃度を計算することができる。
【0006】
パッシブ捕集した粒子より導かれる空気中の粒子個数濃度の算出方法は、以下の通りである。
【0007】
アレルゲン粒子の捕集メカニズムとして、重力沈降を想定すると、粒径d(m)を有する粒子の重力沈降速度VTS(m・s−1)は数1により表される。
【0008】
【数1】

【0009】
ここで、ρp(kg・m−3):粒子密度、g(m・s−2):重力加速度、η(kg・m−1・s−1):空気の粘性である。また、重力方向に対し垂直方向に配される表面積A(m)の捕集基質表面にN個の粒子が重力沈降捕集された場合、重力沈降による粒子フラックスJ(m−2・s−1)は、数2により表される。
【0010】
【数2】

【0011】
ここで、t(s):捕集時間である。また、当該空間における粒子の個数濃度C(m
−3)は、フラックスJおよび重力沈降速度VTSの情報より、数3により表される。
【0012】
【数3】

【0013】
したがって、粒子個数濃度Cは、数1〜数3より、数4によって表される。
【0014】
【数4】

【0015】
ここで、測定条件および測定粒子を数えることによって、N、η、A、tおよびgを得ることができる。一方、ρおよびdは、各アレルゲン粒子で異なる未知数をとることから、粒子密度ρに関しては文献値(例:花粉850kg・m−3)より情報を得て、粒子径dに関しては重力沈降捕集した粒子を顕微鏡観察することにより情報を得ることが可能である。
【0016】
このようなパッシブ型捕集器は、ポンプを必要としないので、軽量である。このため、被験者に持ち運ばせることにより、個人曝露捕集器として利用することが考えられる。
【0017】
【特許文献1】特開2004−37230
【特許文献2】特開2004−191120
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、パッシブ型被捕集物質捕集器を被験者に装着させる場合、被験者の動きにより、粒子を捕集する捕集基質面が傾く場合があり、算出される空気中の粒子個数濃度にその傾きによる誤差が生じるという問題がある。すなわち、上述のように捕集基質上に重力沈降捕集した粒子から空気中の濃度を計算することは可能であるが、計算精度をより上げるためには、測定時の捕集基質面の重力方向に対する傾きを一定の角度に維持する必要がある。また、重力沈降する浮遊粒子以外の被捕集物質、例えばアルデヒドやケトンなどのガスを捕集する場合であっても、測定時の捕集基質面の重力方向に対する傾きを一定の角度に維持する必要がある。
【0019】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、被験者が携帯可能な程度に軽量であり、その被験者の動きによる誤差を可及的に防止することができるパッシブ型被捕集物質捕集器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
以上の目的を達成するため、本発明に係る被捕集物質捕集器は、被捕集物質を捕集可能な捕集基質を曝した状態で装着することが可能である被捕集物質捕集器本体と、該被捕集物質捕集器本体の外縁よりも大きな内縁を有する第1リング部材と、該第1リング部材の外縁よりも大きな内縁を有する第2リング部材と、を備え、前記被捕集物質捕集器本体は、その垂直方向に延びる中心軸と直交する第1軸を中心に、前記第1リング部材に対して傾動可能に取り付けられているとともに、前記第1軸よりも下方に重心を有し、前記第1リング部材は、前記中心軸及び前記第1軸に直交する第2軸を中心に、前記第2リング部材に対して傾動可能に取り付けられていることを特徴とする。
【0021】
以上のように本発明に係る被捕集物質捕集器によれば、被捕集物質捕集器本体が下方に重心を有し、第1リング部材と傾動可能であって、この第1リング部材は、第2リング部材と傾動可能であるので、被捕集物質捕集器本体は、重力方向に対して常に一定の方向に維持し、これにより、装着された捕集基質の面を重力方向に対して一定の角度に維持することができる。
【0022】
本発明に係る被捕集物質捕集器において、前記被捕集物質捕集器本体は、前記捕集基質を上方に向けて曝した状態で装着可能であることが好ましく、このように捕集基質を上方に向けて曝した状態で装着する場合、被捕集物質として重力沈降する浮遊粒子を捕集することができる。すなわち、上記数2及び数4のAの値を定置することにより、パッシブ捕集した粒子量から空気中濃度への換算を経験又は統計的にではなく、物質移動論などに基づき解析的に行なうことができる。
また、前記捕集基質の面の角度は、様々な角度になるように捕集基質を装着しても良く、例えば捕集基質の面が垂直な状態になるように捕集基質を装着した場合、ガスなどの捕集に用いることができる。
【0023】
また、本発明に係る被捕集物質捕集器は、前記第2リング部材を他の部材に取り付けることを可能とする取付部材を少なくとも1以上備えることが好ましく、このように取付部材を設けることにより、被験者に取り付けることができる。さらに、本発明に係る捕集物質捕集基は、被験者に携帯させて利用する他、静置して用いても良い。この場合、上述のように捕集基質の面を一定の角度に維持することができるので、傾斜面に設置した場合であっても、重力方向に垂直な角度など所望の角度を保つことができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、被験者が携帯可能な程度に軽量であり、その被験者の動きによる誤差を可及的に防止することができるパッシブ型被捕集物質捕集器を提供することができる。
【0025】
このように、このパッシブ型捕集器を持ち運び可能な携帯型にすることにより、被験者に常時携帯してもらうことが可能となり、これにより被験者を取り囲む極めて局域的な空気中濃度について常時測定することができ、より現実に即した形で対象物質への個人暴露を評価することが可能となる。そして、これにより、アレルギー患者に関するより精緻な曝露評価調査および疫学調査が促進され、これまで未解決な部分も多かったアレルギー疾患の発症機構の詳細について、新たな知見を得ることが可能となる。また、乳幼児が携帯可能な数センチ大のパッシブ型捕集器を開発すれば、アレルギー疾患の発症において重要な乳幼児期におけるデータ収集が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、本発明に係る被捕集物質捕集器の第1実施例について、図面に基づいて説明する。第1実施例に係る被捕集物質捕集器は、重力沈降する浮遊粒子を捕集するものである。図1は、第1実施例に係る被捕集物質捕集器の正面図であり、図2は、その平面図であり、図3は、その側面図であり、図4は、図2のA−A線に沿った断面図であり、図5は、図2のB−B線に沿った断面図である。
【0027】
第1実施例に係る被捕集物質捕集器10は、捕集基質12を装着することが可能な被捕集物質捕集器本体14と、被捕集物質捕集器本体14の外縁よりも大きな内縁を有する第1リング部材16と、第1リング部材16の外縁よりも大きな径の内周面からなる開口部18Aを上方に有するハウジング部材18と、を備えている。
【0028】
被捕集物質捕集器本体14は、上方に円状の開口14Aを有する有底円筒状に形成されており、その開口14Aには、その全域を覆うように円盤状の捕集基質12を装着することができる。すなわち、開口14Aの内周面の上端には、開口14Aよりも大きな径を有する段差15が形成されており、その段差15の上面に捕集基質12の外縁が載置される。したがって、捕集基質12の径は、段差15の内径と同じであることが好ましく、少なくとも段差15の内径よりも小さく、開口12Aの内径よりも大きい必要がある。この捕集基質12の上方には、リング状のゴムパッキン20を介して、捕集基質12とほぼ同径な円盤状の網目部材22が載置される。さらに、リング状の蓋部材24を被捕集物質捕集器本体14に螺着することによって、網目部材22及びゴムパッキン20を段差15の方向に押圧し、これにより、捕集基質12を被捕集物質捕集器本体14に固定することができる。網目部材22は、捕集の目的とするダニ、カビ、スギ花粉などの浮遊粒子が透過可能に構成されている。
【0029】
被捕集物質捕集器本体14は、垂直方向下方に突出する突出部14Bを有する。また、被捕集物質捕集器本体14は、その垂直方向の軸線a−aに垂直な位置の軸線b−bを中心に、第1リング部材16に対して傾動可能に取り付けられている。すなわち、被捕集物質捕集器本体14の軸線b−b上には、外周面から中心に向かって一対のねじ穴26、26が形成されており、このねじ穴26、26に後述する取付ねじ28、28が螺合されることにより、被捕集物質捕集器本体14を第1リング部材16に対して傾動可能に取り付けている。そして、被捕集物質捕集器本体14の突出部14Bは、垂直方向下方に突出することによって、被捕集物質捕集器本体14の重心を軸線b−bよりも下方に形成することができ、これにより例え第1リング部材16が傾いたとしても、被捕集物質捕集器本体14は、第1リング部材16に対してその傾いた方向と反対方向に相対的に傾動し、その上下方向の軸を軸線a−aと一致させることができるので、捕集基質12は、重力方向に対して垂直な位置を維持することができる。
【0030】
第1リング部材16は、上述のように被捕集物質捕集器本体14のねじ穴26、26に螺合可能な取付ねじ28、28によって被捕集物質捕集器本体14を傾動可能に取り付けている。第1リング部材16と被捕集物質捕集器本体14の間の取付ねじ28、28の外周には、テフロン(登録商標)など摩擦係数の少ない素材で構成された円筒状のスペーサ30、30が介在しており、このスペーサ30、30によって、第1リング部材16に対する被捕集物質捕集器本体12の傾動を可能としている。また、第1リング部材16は、上述した軸線a−a及び軸線b−bに対して垂直な軸線c−cを中心に、ハウジング部材18の開口部18Aに対して傾動可能に取り付けられている。すなわち、第1リング部材16の軸線c−c上には、外周面から中心に向かって一対のねじ穴32、32が形成されており、このねじ穴32、32に後述する取付ねじ34、34が螺合されることにより、第1リング部材16をハウジング部材18の開口部18Aに対して傾動可能に取り付けている。
【0031】
ハウジング部材18は、上述のように第1リング部材16のねじ穴32、32に螺合可能な取付ねじ34、34によって、開口部18Aに第1リング部材16を傾動可能に取り付けている。ハウジング部材18と第1リング部材16の間の取付ねじ34、34の外周には、テフロン(登録商標)など摩擦係数の少ない素材で構成された円筒状のスペーサ36、36が介在しており、このスペーサ36、36によって、ハウジング部材18に対する第1リング部材16の傾動を可能としている。したがって、このハウジング部材18の開口部18Aは、第2リング部材として機能している。
【0032】
また、ハウジング部材18は、断面U字状に形成されており、取付ねじ34、34の上方に突出して延在する一対の突出部18B、18Bを有する。この突出部18B、18Bの一方には、取付鎖38の一端がねじ40によって傾動可能に取り付けられており、他方には、取付鎖38の他端がねじ40によって傾動可能に取り付けられている。この取付鎖38は、被験者の首に掛けるのに十分な長さを有する。また、このような取付鎖38を取り付ける代わりに被験者のベルトなどに引っ掛けるためのフック42を設けても良い。このフック42は、例えばL字状に形成して、ハウジング部材18の底面にねじ44によって固定しても良い。
【0033】
次に、第1実施例に係る被捕集物質捕集器において、捕集基質12の面を重力方向に直交した状態に維持可能であることについて説明する。先ず、被捕集物質捕集器本体14は、突出部14Bによって中心下部に重心を有する。したがって、図1に示すように、被捕集物質捕集器10が軸線b−bを中心に方向Mbに傾く場合、第1リング部材16は、ハウジング部材18と一体に方向Mbに傾くが、粒子捕集器本体12は、突出部12Bによる中心下部への重心により、軸線b−bを中心に第1リング部材16に対して、第1リング部材16とハウジング部材18が傾いた方向と反対方向に相対的に傾動され、捕集基質12の面の重力方向に垂直な位置が維持される。また、図3に示すように、被捕集物質捕集器10が軸線c−cを中心に方向Mcに傾く場合、ハウジング部材18は、方向Mcに傾くが、被捕集物質捕集器本体14は、突出部14Bによる中心下部への重心により、第1リング部材16と一体となって、軸線c−cを中心にハウジング部材18に対して、ハウジング部材18が傾いた方向と反対方向に相対的に傾動され、捕集基質12の面の重力方向に垂直な位置が維持される。さらに、被捕集物質捕集器10が軸線b−bと軸線c−cの間の軸を中心に傾く場合、ハウジング部材18は、その傾いた方向に傾くが、粒子捕集器本体14は、突出部14Bによる中心下部への重心により、第1リング部材16は、軸線c−cを中心にハウジング部材18に対して、ハウジング部材18が傾いたベクトルを軸線b−b方向と軸線c−c方向に分解した二つのベクトルのうち軸線b−b方向のベクトルの反対方向に相対的に傾動されるとともに、粒子捕集器本体14は、軸線b−bを中心に第1リング部材16に対して、上述のように分解した二つのベクトルのうち軸線c−c方向のベクトルの反対方向に相対的に傾動され、捕集基質12の面の重力方向に対して垂直な位置を維持することができる。
【0034】
次に、実施例1に係る被捕集物質捕集器10を用いたアレルゲン粒子の採取方法及びアレルゲン粒子の測定方法について説明する。
【0035】
第1実施例に係る被捕集物質捕集器10をスギ花粉の採取に使用する場合、ワセリンなどを塗布したスライドガラスを捕集基質12として使用する。スライドガラス上に付着したスギ花粉はゲンチアナバイオレットなどの染色液で染色し、光学顕微鏡により、捕集基質12上に付着した花粉を観察することによって1cmあたりの花粉の量を計算することができる。
【0036】
第1実施例に係る被捕集物質捕集器10を真菌や細菌の採取に使用する場合、ペトリ皿に寒天培地を固化させたものを捕集基質12として使用する。寒天培地上に落下した真菌や細菌は、目視できるまで培養するのではなく、より短時間に成長した微小なコロニーを染色することにより判別し易くし、10〜20倍の顕微鏡観察によって、コロニーを計数することができる。
【0037】
上記に加えて、スギ花粉、真菌及び細菌などのアレルゲン粒子を識別する方法であるELISA染色法を使用してもよい。この染色法は、生体内にアレルゲンなどの異物(原体)が入り、生体内の免疫システムにより、その抗原にのみ特異的に作用、捕捉するタンパク(抗体)が生産されることを応用したものである。すなわち、アレルゲン粒子に付着した抗体に、発色基質(もしくは蛍光基質)を作用させることにより、アレルゲン粒子のみを選択的に発色染色(もしくは蛍光染色)するものである。これら染色されたアレルゲン粒子は、光学顕微鏡や蛍光顕微鏡を用いることで観測し、定量が行われる。
【0038】
また、顕微鏡により取得した画像を、電子端末に取り込み画像解析ソフトを用いることにより、染色された粒子の色彩、粒径、形状、個数などについて解析を迅速に実効することも可能である。
【0039】
例えば、文献値より密度ρ=850kgmを得て、球形アレルゲン粒子であると仮定した場合、顕微鏡観察によりアレルゲン粒径が30μmであると確定すれば、一つあたりのアレルゲン粒子の質量は4.5×10−16kg(0.45pg)となる。したがって、顕微鏡観察を用いる本手法は、pgレベルでのアレルゲン検出が可能な測定手段であるといえる。そして、その検出感度の高さから、より短時間で個人曝露測定が可能となる。また、従来法である吸光度測定方法はアレルゲンをバルクとして分析することから、粒子の粒径分布や形状などの情報を取得不可能である一方、本手法であれば、試料を顕微鏡観察することから、アレルゲン粒子の粒径分布や形状などの付加情報を得ることが可能になる。
【0040】
また、浮遊粒子状物質の粒径及び形状は、呼吸器官における沈着部位、すなわち呼吸器官における炎症部位を決定する因子であるので、この付加情報が重要な役割を果たすこととなる。
【0041】
また、実施例1に係る被捕集物質捕集器10を用いてアクティブ捕集する場合、捕集時における捕集基質の空気表面速度Uは、以下に示す数5により計算される。
【0042】
【数5】

【0043】
ここで、Q:流量、D:捕集基質直径である。捕集基質直径、空気流量、及び粒子直径にもよるが、数1により算出されるパッシブ型における浮遊粒子の重力沈降速度VTSは、粒子が粗大になるほど、アクティブ型における空気表面速度Uを十分に上回ることが分かる。上記のようなスギ花粉、真菌及び細菌などのアレルゲン粒子は、捕集基質における空気表面速度と比較し、同程度の重力沈降速度である。したがって、これらのアレルゲン粒子を捕集対象物質として第1実施例の示す被捕集物質捕集器10により採取することで、ポンプで空気を吸引するアクティブ型の被捕集物質捕集器と比較し同程度のアレルゲン量を、煩雑な機器類を用いることなく重力沈降のみを用い容易に捕集することが可能になる。
【0044】
なお、第1実施例に係る被捕集物質捕集器10は、被験者が持ち運んで使用する他に、静置させて用いることもできる。例えば、図6に示すように、三脚46をハウジング部材18の底面にねじによって取り付けることができる。この場合、第1実施例に係る被捕集物質捕集器10を傾斜面48上に置いたとしても、上述した構成から捕集基質12の面を重力方向に垂直な位置に維持することができる。
【0045】
次に、本発明に係る被捕集物質捕集器の第2実施例について説明する。第2実施例に係る被捕集物質捕集器は、ホルムアルデヒドなどのガスを捕集するものである。図7は、第2実施例に係る被捕集物質捕集器の正面図であり、図8は、図7に対応する被捕集物質捕集器の側面図である。第2実施例に係る被捕集物質捕集器10’は、第1実施例と被捕集物質捕集器本体14’の形状が異なる。この第2実施例に係る被捕集物質捕集器本体14’は、捕集基質12を垂直な状態、すなわち重力方向に平行な状態で装着可能に構成されている。このように捕集基質12を垂直な状態で装着することにより、例えばホルムアルデヒドやケトンなどガスを捕集する場合であっても、一定の角度を保つことができるので、測定誤差が生じるのを可及的に防止することができる。
【0046】
以上、発明の実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、第1実施例においては、捕集基質としてカバーガラス及び寒天培地等を説明したが、この他、ろ紙を使っても良い。また、捕集器基質の重力方向に対する角度は0°及び90°に限られず、所定の角度に維持することが可能であれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施例にかかる被捕集物質捕集器の正面図である。
【図2】本発明の第1実施例にかかる被捕集物質捕集器の平面図である。
【図3】本発明の第1実施例にかかる被捕集物質捕集器の側面図である。
【図4】本発明の第1実施例にかかる被捕集物質捕集器のA−A断面図である。
【図5】本発明の第1実施例にかかる被捕集物質捕集器のB−B断面図である。
【図6】本発明の第1実施例にかかる被捕集物質捕集器の設置例を示す図である。
【図7】本発明の第2実施例にかかる被捕集物質捕集器の正面図である、
【図8】本発明の第2実施例にかかる被捕集物質捕集器の側面図である。
【符号の説明】
【0048】
10,10’・・・被捕集物質捕集器
12・・・捕集基質
14,14’・・・被捕集物質捕集器本体
14A・・・開口
14B・・・突出部
15・・・段差
16・・・第1リング部材
18・・・ハウジング部材
18A・・・開口部
18B・・・突出部
20・・・ゴムパッキン
22・・・網目部材
24・・・蓋部材
26・・・ねじ穴
28・・・取付ねじ
30・・・スペーサ
32・・・ねじ穴
34・・・取付ねじ
36・・・スペーサ
38・・・取付鎖
40・・・ねじ
42・・・フック
44・・・ねじ
46・・・三脚
48・・・傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被捕集物質を捕集可能な捕集基質を曝した状態で装着することが可能である被捕集物質捕集器本体と、
該被捕集物質捕集器本体の外縁よりも大きな内縁を有する第1リング部材と、
該第1リング部材の外縁よりも大きな内縁を有する第2リング部材と、を備え、
前記被捕集物質捕集器本体は、その垂直方向に延びる中心軸と直交する第1軸を中心に、前記第1リング部材に対して傾動可能に取り付けられているとともに、前記第1軸よりも下方に重心を有し、
前記第1リング部材は、前記中心軸及び前記第1軸に直交する第2軸を中心に、前記第2リング部材に対して傾動可能に取り付けられていることを特徴とする被捕集物質捕集器。
【請求項2】
前記被捕集物質捕集器本体は、前記捕集基質を上方に向けて曝した状態で装着可能であることを特徴とする請求項1記載の被捕集物質捕集器。
【請求項3】
前記第2リング部材を他の部材に取り付けることを可能とする取付部材を少なくとも1以上備えることを特徴とする請求項1または2記載の被捕集物質捕集器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−10555(P2007−10555A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193740(P2005−193740)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(000181767)柴田科学株式会社 (32)
【Fターム(参考)】