説明

被曳航体の振れ回り防止装置

【課題】被曳航体の曳航中の振れ回りを低減し、被曳航体接続部の破損を防止する。
【解決手段】曳船により曳航索を介して被曳航体を曳航する際、被曳航体の曳航進路に対する左右の振れ回りを防止する防止装置において、曳船と被曳航体との間に曳航時の張力下に接続される曳航索と、前記曳航索に沿って垂直方向に取付けられ、左右両側面に水圧受容面を形成された水圧差発生部材とを有し、前記水圧差発生部材を前記曳航索の被曳航体側の接続端部又はその近傍の位置に設けたことを特徴とする被曳航体の振れ回り防止装置。
【効果】曳航索に板状の水圧差発生部材を介在させる簡単な構成により、被曳航体の振れ回りを効果的に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曳船により曳航される被曳航体の左右の振れ回りを防止する防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
曳航索を介して被曳航体を曳航する場合、潮流や波などの影響を受けて、被曳航体が曳航方向に対して左右に振れ回ることが知られている。図8に示すように曳船100により曳航索300を介して被曳航体200を矢印方向に曳航する際、被曳航体200はたとえば(a)〜(g)の順で経時的に振れ回る。
【0003】
(a)に示すように被曳航体200の前部がたとえば右側に振れた場合、次に(b)のように被曳航体200の後部側が前部側の振れ回りに追従するかたちで振れ、これに慣性力等が作用することで(c)、(d)のように曳航索300が曳航針路に対して大きく傾斜するまで被曳航体200が右側に振れる。次いで(e)、(f)、(g)に示すように曳航体200が曳航針路側に引き戻される。ここで(c)、(d)等においては、曳船100を横方向に大きく引っ張る力が生ずるので、曳船100の曳航針路が不安定となりやすくかつ振れを生じた被曳航体を引戻しながら曳航するための余分な曳航力を必要とする。さらに振れが生じもしくはこれから引戻される際には被曳航体の曳航索との接続部が大きな応力が集中する。たとえば、水等の流体を収容して運搬するために用いられる可撓性の軟質プラスチック等からなるコンテナバッグ等の場合では、この部分に局所的に作用する前記応力によりバッグに破壊を生じることがある。
【0004】
このような不具合を解消するために、曳航船に曳航索の振れ角度を検出する装置とここからの検出信号によって操舵手段を駆動制御する装置とを設けて曳航船の針路を自動的に修正する進路横振れ防止装置が提案されている(特許文献1:特開2000−95184号)。しかしこの装置は舵の進路の自動修正には有効であるが、被曳航体の振れまわり自体を防止するものではない。
【0005】
また、曳船と被曳航体を並列させ、曳船の船首側と被曳航体の後部側とを第1の曳航索により連結し、曳船の船尾側と被曳航体の前部側とを第2の曳航索により連結し、曳航索をたすき掛け状にして曳船と被曳航体とを連結することで、被曳航体の振れ回りを防止する技術が提案されている(特許文献2:特開2000−108989号)。
【0006】
しかし、この場合には被曳航体の前部と後部の両方に横方向の力が作用するため、被曳航体としては専らその外郭形状が常に一定であるものに限られ、例えば、形状が変化しやすい軟質のコンテナバッグからなる被曳航体には適さない。また、曳船と被曳航体とを併走させることになるので、狭い航路幅の場合には適用が困難となる。
【0007】
この形状が変化しやすい軟質のコンテナバッグからなる被曳航体の振れ回り現象を防止するためには、たとえば図9に示すように被曳航体200の後部側に、針路前方側に向けて開口する袋体400を取り付け、袋体400を水流に対する大きな抵抗体として作用させることで、被曳航体200の後部側の振れ回りを阻止することも考えられる。しかし、この方法では、袋体400が大きな抵抗体として作用するため、曳航に要するエネルギが増大し、特に前記コンテナバッグでは曳航索との接続点に大きな力が作用して破断を生じるおそれが高くなる。
【特許文献1】特開2000−95184号公報
【特許文献2】特開2000−108989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような課題を解消するためになされたものであり、被曳航体、特に水等の流体運搬用のフレキシブルコンテナバッグ等にも適用可能なように、簡易な構造で被曳航体の振れ回りを効果的に防止し、被曳航体の破断等のおそれを低下させる振れ回り防止装置を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者は被曳航体の振れまわりを防止するためには、被曳航体に対する外力の作用時に振れのきっかけが生じる被曳航体の前部付近にこれを防止する手段を設けることが効果的な作用をもたらすものと考え、実験、研究の結果、極めて簡単な構成によってこの目的が達成されることを発見し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は曳船により曳航索を介して被曳航体を曳航する際の被曳航体の曳航進路に対する左右の振れ回りを防止する防止装置において、
曳船と被曳航体との間に曳航時の張力下に接続される曳航索と、
前記曳航索に沿って垂直方向に取付けられ、左右両側面に水圧受容面を形成された水圧差発生部材とを有し、
前記水圧差発生部材を前記曳航索の被曳航体側の接続端部又はその近傍の位置に設けたことを特徴とする被曳航体の振れ回り防止装置を提供する。
【0011】
本発明の振れ回り防止装置の詳細については後述するが、その基本的な構成及び作用効果は図1〜図3に示す通りである。すなわち図1に示すように、曳航中には曳船10と被曳航体20との間が曳航索30によって張力下に接続され、この曳航索30の被曳航体20寄りの位置に左右両側面に水圧受容面40R、40Lを形成された水圧差発生部材40が曳航索30の前記被曳航体20の前方端部21に対する接続部寄りの位置において取付けられている。
【0012】
ここで被曳航体20が何等かの外力によって図1中右側に振れ始めると、曳航索30に曳航方向に対する振れ角が生じ、水圧差発生部材40の両側の水圧受容面40Rおよび40L間に水流の速度差による水圧差が生じ(P>P)水圧差発生部材40に左向きの力が発生し、これが曳航索30の前端部分(距離L)を介して被曳航体20の前端に伝達され、曳航方向の延長線上に引戻すと同時に、同じ力が回転モーメントとして作用し、被曳航体20を本来の曳航進路方向に引戻す(図1および図2(a)、(b))。また被曳航体20が左方向に振れはじめたときには水圧差発生部材40の同様な作用によって被曳航体20が本来の曳航方向に引戻される(図2(c)、(d))。この場合曳航索30は曳航中には常時張力下に置かれるので剛体として機能し、したがってこれに取付けられる水圧発生部材40も剛体のように作用するのでその両側面40R、40Lに及ぼされる水圧差によって効果的に揚力を発生する。このような水圧差発生部材40を設けていない前記従来技術を示す図8の場合と比較すると、被曳航体20の振れ回りが大幅に減少される(尚、図2では図面の煩雑さを避けて水圧差発生部材40は図示されていない)。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明によれば曳航索の一部に水圧差発生部材を取付けただけの簡単な構成によって曳航中の被曳航体の振れ回りを効果的に防止することができ、その構造も被曳航体自体には係りなく曳航索の一部に水圧差発生部材(具体的には板状もしくは膜状の部材)を取付けただけの簡単な構成で済み、また被曳航体前端接続部には前方の水圧差発生部材からの復元回動力の他には何等過大な負荷が作用しないので、脆弱な接続部に破断を生じる懸念のある水運搬用のフレキシブルコンテナバッグの曳航には特に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明においては前記図1又は図3に示すように、水圧差発生部材40を曳航体20の前方部21から所定距離Lの位置において曳航索30に取付けることが好ましい(請求項2)。
【0015】
水圧差発生部材40の両側面の水圧受容面40L、40Rの間に曳航索30の振れ角度に対応する水圧差を生じさせるためには、水圧受け面40L、40Rの表面に沿う水流を極力円滑な状態に保っておくことが好ましい。水圧差発生部材40を被曳航体20の前部に一体に設けた場合には、水圧差発生部材40の左右の水流が、被曳航体20の前端部に衝突した際に円滑な水流に乱れが生じて、水圧差発生部材40それ自体について発生する前記の水圧差による回動作用力が効果的に得られ難くなる。
【0016】
水圧差発生部材40を被曳航体20の前方端部から離間させることで、水圧差発生部材40の左右領域において前記乱流の影響を低減させることができ、水圧差発生部材40の左右両面に生じる適正な水圧差を得ることができる。水圧差発生部材40と被曳航体20の前部との離間距離Lは、曳航索30の長さや被曳航体20の前部周りの形状等を勘案して適宜に決定される。離間距離Lが大きくなると、水圧差発生部材40で生じた回動力が、この間の曳航索30によって吸収され被曳航体20への伝達に損失を生じる。したがって、水圧差発生部材40で生じた力を効率的に前端連結部21に伝達させるには、水圧差発生部材40を適宜な距離Lをあけて被曳航体の前端部寄りに取り付けることが好ましい。
【0017】
また本発明の好ましい具体例によれば、図3に示すように前記水圧差発生部材44は曳航索30の上下一対に分岐した分岐部30A、30B間に垂直に張設される。前記曳航索30は上下一対30A、30Bに分岐して被曳航体20の前端部21寄りの位置に夫々取付けられ、曳航中は常に張力が及ぼされているので、それらの間に垂直に張設して取付けられる水圧差発生部材40も材質によらず剛体のように作用し、それらの両側面の水圧受容面40L、40Rに水圧差が作用したときそれに応答して確実に作動し、被曳航体20の前端部21に復元回動モーメントを伝達する。
【0018】
本発明の好ましい具体例においては前記水圧差発生部材を可撓性の膜状部材から形成し(請求項4)、かつ前記可撓性の膜状部材が樹脂フィルム、織布、不織布又はそれらの複合部材からなる群より選ばれる(請求項5)。
樹脂フィルムは製造加工が容易で耐水性のある緻密な膜材として有用であるが、強度を増加させるために厚膜のものを用いると材質によっては取扱いが困難になり、使用中の亀裂、傷等が周辺に拡大しやすい難点がある。布製部材や可撓性や強度の点で優れているが、表面や布目が水中での使用中に劣化しやすいおそれがある。したがってたとえばこれら布部材を芯材としてその表面に熱可塑性樹脂等の保護フィルムを押出しもしくはコーティングによって設けた複合部材を用いることが好ましい。
【0019】
本発明の振れ回り防止装置の好ましい別の具体例においては、図4に示すように前記曳船と前記被曳航体を少なくとも二本の曳航索によって接続し、夫々の曳航索の上下分岐部の間に前記水圧差発生部材を垂直に取付ける。
図4に示すように、曳船10と被曳航体20とが2本の曳航索30a、30bで接続されており、各曳航索30a、30bに対して水圧差発生部材40a、40bが取付けられている。これら水圧差発生部材40a、40bの夫々の構成、材質及び各曳航索30a、30bに対する取付態様は前記図3に示す水圧差発生部材40のそれらと実質的に同一である。曳航索30aが曳航方向となす角度と曳航索30bが曳航方向となす角度とが同一になるように接続する。この場合被曳航体に対して振れ回り時に伝達される回動作用力は各水圧差発生部材によって夫々分担されるので個々の水圧差発生部材の面積を減少させ小型化することができる。
【実施例】
【0020】
以下前記図3、図4に示した本発明の振れ回り防止装置の具体的態様を実施例として用い、これを実際の実験水域で水運搬用のフレキシブルコンテナの曳航に用いた場合の振り回り防止効果について説明する。
【0021】
被曳航体20は水を収容した450(L)×100(W)×12.5(H)cmの合成樹脂製のフレキシブルコンテナであり、これを曳航速度0.4m/secの曳航速度で静水中において曳航した。曳航索としては全長約570cmの曳航索30を、曳船10から500cmのところで2本の曳航索30a、30bに分岐したものをフレキシブルコンテナ20の前端部の左右(幅方向150cm)の両端に取付け、夫々の分岐索に対して水圧差発生部材40a、40bを前記端部から所定の間隔L(L=15cm)の位置で固定した。
【0022】
各水圧差発生部材40a、40bは基本的には図2に示すよう水圧差発生部材40とほぼ同一の形状を有する12(L)×12.5(H)cmの板状膜材とし、織布の両面に熱可塑性樹脂層を押出し加工して複合層を用いて曳航索30の上下分岐索30A、30Bの間に垂直となるように取付けた。
【0023】
前記コンテナバッグを0.4m/secの速度で静水プール中で曳航すると、種々の外的条件によりコンテナバッグが振れ回り、その際の挙動を曳航索に本発明の振れ回り防止装置を設けた場合と設けなかった場合とについて比較検討した。
【0024】
図5は、縦軸に曳航索の長手方向に対する被曳航体の振れ角度をとり、横軸を時間として示すグラフである。このグラフから、水圧差発生部材を取り付けた場合、前記振れ角度が大幅に低減されることが判る。実験では、振れ角度の標準偏差が88パーセント程度低減されていることが確認された。
【0025】
図6は、縦軸に曳航進路に対する曳航索のなす角度をとり、横軸を時間として示すグラフである。このグラフから、水圧差発生部材を取り付けた場合、前記角度が大幅に低減されることが判る。実験では、前記角度の標準偏差が76パーセント程度低減されていることが確認された。
【0026】
図7は、縦軸に被曳航体を曳航するに必要とされる曳船の曳航力をとり、横軸を時間として示すグラフである。このグラフから、水圧差発生部材を取り付けた場合、曳航力及びその変化が大幅に低減されることが判る。実験では、水圧差発生部材を取付けない場合に比較して曳航力の最大値が57パーセント程度低減されていることが確認された。
【0027】
以上のように本発明によれば被曳航体を曳航索によって曳航する際の振れ回りを示す、曳航索の振れ角および振れ回りに伴う曳航索の振れ角が大幅に減少し、かつ振れ回りに伴う曳航力の増加(変化)が著しく抑止される。これによって振れ回りに伴ってフレキシブルバッグの前方端の接続部に集中して加わる応力が減少するものと考えられる。従来この種のコンテナバッグに使用中に頻発していた接続部の破断や裂断を大幅に減少させることが見込まれる。
【0028】
尚前記本発明の実施例においては水運搬用のコンテナバッグを被曳航体とする場合について説明したが、本発明の振れ回り防止装置はその他の種々の形式の被曳航体の曳航の場合にも同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の振れ回り防止装置の外用を示す平面図である。
【図2】被曳航体の振れ回りを水圧差発生部材によって抑止する状態を示す説明図である。
【図3】本発明の振れ回り防止装置の概要を示す側面図である。
【図4】本発明の振れ回り防止装置の実施例の概要を示す平面図である。
【図5】縦軸に曳航索の長手方向に対する被曳航体の振れ角度をとり、横軸に時間を示すグラフである。
【図6】縦軸に曳航進路に対する曳航索の振れ角度をとり、横軸に時間を示すグラフである。
【図7】縦軸に被曳航体を曳航するに必要とされる曳船の曳航力をとり、横軸に時間を示すグラフである。
【図8】被曳航体の曳船中の振れ回り現象を示す平面図である。
【図9】従来の振れ回り防止装置の概要を示す平面図である。
【符号の説明】
【0030】
10 曳船
20 被曳航体(フレキシブルコンテナバッグ)
21 前端部
30 曳航索
30A、30B 上下一対の曳航索
30a、30b 曳航索
40 水圧差発生部材
40R、40L 水圧受容面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曳船により曳航索を介して被曳航体を曳航する際、被曳航体の曳航進路に対する左右の振れ回りを防止する振れ回り防止装置において、
曳船と被曳航体との間に曳航時の張力下に接続される曳航索と、
前記曳航索に沿って垂直方向に取付けられ、左右両側面に水圧受容面を形成された水圧差発生部材とを有し、
前記水圧差発生部材を前記曳航索の被曳航体側の接続端部又はその近傍の位置に設けたことを特徴とする被曳航体の振れ回り防止装置。
【請求項2】
前記水圧差発生部材を、被曳航体の前方接続端部に対して曳航方向における所定の間隔で設けたことを特徴とする請求項1に記載の被曳航体の振れ回り防止装置。
【請求項3】
前記曳航索を前記被曳航体側の端部で上下方向に分岐させ、それらの間に水圧差発生部材を垂直に取付けたことを特徴とする請求項1に記載の被曳航体の振れ回り防止装置。
【請求項4】
前記水圧差発生部材を可撓性の膜状部材から形成したことを特徴とする請求項3に記載の被曳航体の振れ回り防止装置。
【請求項5】
前記可撓性の膜状部材が樹脂フィルム、織布、不織布又はそれらの複合部材からなる群より選ばれる請求項4記載の被曳航体の振れ回り防止装置。
【請求項6】
前記水圧差発生部材が曳航索に対して取外し可能に取りつけられている請求項1記載の被曳航体の振れ回り防止装置。
【請求項7】
前記曳船と前記被曳航体を少なくとも二本の曳航索によって接続し夫々の曳航索の上下分岐部の間に前記水圧差発生部材を垂直に取付けた請求項3記載の被曳航体の振れ回り防止装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−149869(P2008−149869A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339374(P2006−339374)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(000232818)日本郵船株式会社 (61)
【出願人】(304035975)株式会社MTI (46)