説明

被服芯材用ポリエステルモノフィラメントとその製造方法

【課題】被服用芯材として好適な高ヤング率、優れた屈曲耐久性、さらには熱収縮率が低く成型加工にも適した特性を持つ、被服芯材用ポリエステルモノフィラメントの提供。
【解決手段】ポリエチレンナフタレート5〜40重量%およびポリエチレンテレフタレート60〜95重量%からなるポリエステル樹脂組成物からなり、ヤング率、140℃における乾熱収縮率、およびMIT屈曲疲労試験における往復折り曲げ回数が特定の数値満たす被服芯材用モノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、これまでのポリエステルモノフィラメントに無い、高ヤング率で強直、かつ屈曲耐久性に優れ、さらには熱収縮率が低く成型加工にも適した特性を持つ被服芯材用ポリエステルモノフィラメントとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブラジャー、レオタード、コルセットなどの被服は、美容、または医療上の観点から体に密着する形態で使用することが前提でデザインされている。たとえばブラジャーの場合を例に挙げると、乳房を形良く、美しく見せるために、カップ部の下側を沿うようにステンレスなどの金属線を芯材(以下カップワイヤーという)として挿入してカップの剛性を持たせ、乳房を下から固定して形良く整えている。
【0003】
また、コルセットに代表される矯正被服は、上半身を非常に強い力で固定するために周囲に金属線で編んだ骨格芯材を複数挿入して形成される。
【0004】
金属製の芯材は剛性が高く固定力という点では申し分ないが、コルセットのように複数の金属製芯材を使用する被服では極めて重くなるばかりか、柔軟性に欠けるため、個人差による体型の違いに合わせて変形することは難しく、圧迫や締め付けなどの体への負担の原因となっていた。
【0005】
さらには、洗濯の繰り返しによる金属疲労時の破断が発生した場合に、縫製部分から突き出して体に刺さる危険や錆の発生など、安全、衛生面からも不安要素が多かった。
【0006】
現在、金属製芯材に代わる素材として、合成樹脂を採用した事例が多数提案されている。
【0007】
製造方法は樹脂を溶融して型に流し込んでプレス成型する成型加工品、または溶融紡糸によって得られる延伸配向した繊維状製品などが挙げられる。
【0008】
このような成型加工品は正確な寸法で製造することが可能でかつ、複雑な形状の実現度が高い。
【0009】
しかし、樹脂を固めた未配向樹脂組成物のため、曲げや引張に対しての応力が金属線と比較して著しく低く、例えばブラジャーのカップワイヤーとして使用した場合には、着用時の乳房カップの形状保持に必要な剛性が不足しているのが現状である(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
このような問題の解決手段としては、曲げ剛性率や弾性率の高い芳香族ポリエーテルエーテルケトン樹脂などを採用すること(例えば、特許文献2参照)が提案されているが、この場合には確かに樹脂として優れた性能を持っているものの、非常に高価でありコスト面では不利となる。
【0011】
さらには、成形品ではコルセットなど芯材自身を束状に織り込む場合もある複雑な構成の被服製品では対応が難しく、利用範囲も限られている。
【0012】
一方、溶融紡糸などから得られる繊維状製品は延伸や熱セットなどにより特性を変化させることが可能で、成形品と比較すると曲げや引っ張り応力の高い製品が実現できるが、まだ満足するレベルには至っていないのが現状である。
【0013】
例えば、ブラジャーのカップワイヤーに形状記憶性能を有するポリエステルモノフィラメントを採用する提案(例えば、特許文献3参照)がなされているが、この場合には、基準形状に戻すため洗濯時には乾燥熱が必要なこと、また個人別に基準形状を設定する必要があるため工業的に実現は難しい。
【0014】
このように、合成樹脂を使用した被服用芯材は軽量で腐食もなく安全な素材として多種提案されてきているが、金属に近似した剛性、弾性を得ることが難しく、採用例も少ないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2001−131806号公報
【特許文献2】特開2000−17506号公報
【特許文献3】特開平6−173102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、これまでのポリエステルモノフィラメントに無い、高ヤング率で強直、かつ屈曲耐久性に優れ、さらには熱収縮率が低く成型加工にも適した特性を持つ、被服芯材用ポリエステルモノフィラメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために本発明によれば、ポリエチレンナフタレート5〜40重量%およびポリエチレンテレフタレート60〜95重量%からなるポリエステル樹脂組成物からなるポリエステルモノフィラメントであって、以下(A)〜(C)の要件を満足することを特徴とする被服芯材用ポリエステルモノフィラメントが提供される。
(A)JIS L1013に準拠して測定したヤング率が12000N/mm以上、
(B)140℃における乾熱収縮率が5.0%以下、
(C)JIS P−8115に準じて測定したMIT屈曲疲労試験において、モノフィラメントが切断するまでの往復折り曲げ回数が200回以上。
【0018】
また、上記被服芯材用ポリエステルモノフィラメントの製造方法は、ポリエチレンナフタレート5〜40重量%およびポリエチレンテレフタレート60〜95重量%からなるポリエステル樹脂組成物を溶融紡糸・延伸するに際し、0℃の比熱が0.5cal/g・℃以上の液体を熱媒体とし140〜175℃の範囲の温度で5〜10倍の延伸を行い、次いで延伸後のモノフィラメントに220〜270℃の温度範囲の乾熱浴中で0.80〜0.98倍の弛緩熱処理を施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下に説明する通り、ブラジャーのカップワイヤーなど被服用芯材に要求される高い剛性、屈曲耐久性を持ち、単体としての芯材としての活用はもちろん、複数本使用して編み状体への加工も容易にできる特徴を持ち、さらには熱収縮率が低いため、熱加工安定性が極めてよく、プレス加工などによる変形も少なく、複雑な成型加工も可能とした被服芯材用ポリエステルモノフィラメントを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0021】
本発明の被服芯材用モノフィラメントは、ポリエチレンナフタレート5〜40重量%およびポリエチレンテレフタレート60〜95重量%からなるポリエステル混合樹脂組成物からなるポリエステルモノフィラメントである。
【0022】
ここで、ポリエチレンナフタレートとは、エチレン−2,6−ナフタレート単位を主たる繰返し単位とするポリエステルであり、前記ポリエチレンテレフタレートとは、エチレンテレフタレート単位を主たる繰返し単位とするポリエステルである。
【0023】
上記のポリエチレンナフタレートの2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の一部を、例えば、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、スルホン酸金属塩置換イソフタル酸などで置き換えたものであってもよい。また、上記のエチレングリコール成分の一部を、例えばプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリアルキレングリコールなどで置き換えたものであってもよい。さらに、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、トリメシン酸、硼酸などの鎖分岐剤を少量併用することもできる。
【0024】
一方、本発明のポリエステル樹脂組成物を構成するポリエチレンテレフタレートとは、ジカルボン酸成分の90モル%以上がテレフタル酸からなり、またグリコール成分の90モル%以上がエチレングリコールからなるものが好適である。
【0025】
また、ポリエチレンテレフタレートは上記のテレフタル酸成分の一部を例えば、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、スルホン酸金属塩置換イソフタル酸などで置き換えたものであってもよい。また、上記のエチレングリコール成分の一部を、例えばプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリアルキレングリコールなどで置き換えたものであってもよい。さらに、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、トリメシン酸、硼酸などの鎖分岐剤を少量併用することもできる。
【0026】
本発明においては、ポリエチレンナフタレート5〜40重量%およびポリエチレンテレフタレート60〜95重量%の範囲とし、かつ、ポリエステル樹脂組成物を溶融紡糸するに際し、前記ポリエステル樹脂組成物を溶融紡糸機に供給し、溶融混練後に口金から吐出される未延伸糸を0℃の比熱が0.5cal/g・℃以上の液体を熱媒体とし140〜175℃の範囲の温度で5〜10倍の延伸を行い、さらに220〜270℃の温度範囲の乾熱浴中で0.80〜0.98倍の弛緩熱処理を施した製造方法を採用することを特徴とする。
【0027】
ポリエチレンナフタレートが5重量%未満、すなわちポリエチレンテレフタレート95重量%を越える場合は、JIS L1013−1999に準拠して測定したヤング率が12000N/mm以上を得ることができず、被服用芯材としての剛性が不足したモノフィラメントとなり好ましくない。
【0028】
一方、ポリエチレンナフタレートの割合が40重量%を越え、ポリエチレンテレフタレートが60重量%未満となる場合は、モノフィラメントが剛直になりすぎて、曲げに対する耐久性が著しく低下し、脆くなるため被服用芯材としては適さない特性となる。
【0029】
剛直かつ弾性に富んだ特性が求められるブラジャーのカップワイヤー用途の場合は、ポリエチレンナフタレートの割合を10〜30重量%の範囲とするとさらに好ましい結果が得られる。
【0030】
本発明においては、上記樹脂組成物の混合率と特定の製造条件の採用により、高ヤング率で熱収縮率が極めて低いという特性を持つこれまでに無い被服芯材用モノフィラメントを得ることができる。以下、製造条件と品質特性との関係について説明する。
【0031】
未延伸糸の延伸のための熱源としては、水を加熱した温水または水蒸気、さらに高沸点熱媒であるポリエチレングリコール、グリセリン、シリコーンなどが代表例として挙げられる。本発明の被服芯材用ポリエステルモノフィラメントは、0℃の比熱が0.5cal/g・℃以上の液体を熱媒とし、140〜175℃の範囲の温度で5〜10倍の延伸することを前提とする。以上の熱延伸の条件を満たすためには高沸点熱媒が必須となり、ポリエチレングリコールが好適に使用される。液体以外の熱源、例えば熱風循環炉や遠赤外線ヒーター炉などを用いて延伸を行った場合は、モノフィラメントに対する熱量が不足して延伸点といわれるネッキング位置が不安定となり、安定した品質を得ることができないため好ましくない。
【0032】
また、0℃の比熱が0.5cal/g・℃以上の液体を熱媒とし、上記延伸倍率範囲内、すなわち5倍から10倍の範囲であっても、熱媒温度が140℃未満ではモノフィラメントの適正な延伸温度を逸脱しているため、モノフィラメントが破断するなどのトラブルが発生するなど工業的に好ましくない不具合が招かれることになる。
【0033】
一方、熱媒体が175℃を越える場合は、モノフィラメントの延伸特性が極めて活性化し、延伸点の位置が不安定で熱媒以外の場所に延伸点が発現して、安定した延伸状態を維持することが困難になるため工業的に好ましくない。
【0034】
延伸倍率が10倍を越える製造条件では、熱媒の温度に関係なく本発明のポリエステルモノフィラメントの延伸可能な変形領域を逸脱しており、モノフィラメントが破断するトラブルの発生、また、破断トラブルが無くても無理な延伸歪の残存により、繊維軸方向の品質が極めて不安定になるため好ましくない。さらに延伸倍率が5倍未満の場合は、ヤング率を十分に向上することが出来ず、被服用芯材として剛性が不足することになる。
【0035】
延伸工程に続いて通過する熱セット工程は、220〜270℃の温度範囲の乾熱浴中で0.80〜0.98倍の弛緩熱処理を施すことが必須となる。熱処理温度が220℃未満では弛緩処理に必要な熱量が不足し、収縮率が高くなるため、モノフィラメントの熱安定性が低下する。弛緩倍率が0.98倍を越えた場合も同様である。
【0036】
一方、熱処理温度が270℃を越えるとポリエステルの融点に近いため、モノフィラメントが溶断する可能性が高く、製造には適さない領域となる。
【0037】
さらに、弛緩倍率を0.80倍未満とすると、柔軟な傾向が強まり、高ヤング率のモノフィラメントを得ることが出来ない。
【0038】
一方、弛緩熱処理工程に乾熱浴以外の熱源、例えば延伸工程で使用するポリエチレングリコールなどの熱媒を使用した場合は、熱処理温度や倍率条件をいかに変更しても、本発明の特徴の一つである、高ヤング率と低収縮率の両立が達成できない。
【0039】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、MIT屈曲疲労試験機により測定した、切断までに要する往復折り曲げ回数が200回以上であることが好ましい。さらに、5000回以上であれば多種被服に使用できる非常に高性能な被服用芯材が得られる。
【0040】
一方、切断までに要する往復折り曲げ回数が200回を下回る場合は、被服用芯材として使用すると装着時の繰り返し変形によりモノフィラメントの剛性が著しく低下するため好ましくない。例えばコルセットなどの矯正被服の場合は、体型を矯正するという目的が達成できなくなる問題が発生する。
【0041】
また、本発明のポリエステルモノフィラメントは、JIS L1013に準じて測定したヤング率が12000N/mm以上であることが好ましく、より好ましくは15000N/mm以上、さらに好ましくは20000N/mm以上である。なお、ヤング率が上記の範囲未満では被服用芯材としては剛性不足であり、体型に沿ったサポート性能が不足する。
【0042】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、その用途や特性を満足させるため、繊維軸方向に垂直な断面の形状を円形、楕円形、扁平、正多角形および不定形な形状を含む多角形と、いかなる形状をも取り得るものである。なお、ここでいう扁平とは楕円もしくは長方形のことを意味するが、数学的に定義される正確な楕円、長方形以外に概ね楕円、長方形またはこれに類似した形状を含み、正多角形とは数学的に定義される正多角形以外に、概ねこれに類似した形状を含むものである。
【0043】
また、本発明のポリエステルモノフィラメントの直径は、その使用用途に合わせ適宜選択することができるが、被服用芯材としては通常、丸断面であれば0.8mm〜2mm程度の範囲、異型断面であれば最大部長さが1.5mm〜3mm程度の長方形や楕円形状のものが好適に使用されている。
【0044】
本発明の特長はポリエチレンナフタレートの含有量範囲と溶融紡糸における延伸、熱セット条件を規定することでこれまでに無い、剛直で折り曲げ耐久性に優れ、さらに熱加工などによる寸法変化が極めて低い被服芯材用として優れた性能を具備したポリエステルモノフィラメントを得ることが出来る。具体的には、樹脂組成をポリエチレンナフタレート5〜40重量%およびポリエチレンテレフタレート60〜95重量%の範囲とすること、かつ、ポリエステル樹脂組成物を溶融紡糸するに際し、前記ポリエステル樹脂組成物を溶融紡糸機に供給し、溶融混練後に口金から吐出される未延伸糸を0℃の比熱が0.5cal/g・℃以上の液体を熱媒体とし140〜175℃の範囲の温度で5〜10倍の延伸を行い、さらに220〜270℃の温度範囲の乾熱浴中で0.80〜0.98倍の弛緩熱処理を施した製造方法を採用する。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の被服芯材用ポリエステルモノフィラメントについて、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
また、上記および下記に記載の本発明のポリエステルモノフィラメントにおける、ポリエステルの、屈曲疲労特性試験、ヤング率、製糸性などの評価は以下の方法により測定、評価したものである。
【0047】
(1)屈曲疲労特性試験
JIS P−8115に準じ、東洋精機(株)製:MIT耐揉疲労試験機により、荷重2.2cN/dtex、折り曲げ回数175回/分、折り曲げ角度270度(左右に各約135度)で、同一試料につき10本のモノフィラメントについて切断するまでの往復折り曲げ回数を測定して平均値を求めた。
【0048】
(2)ヤング率(N/mm
JIS2008 L1013 8.10に準じて測定した初期引張抵抗度からヤング率を算出した。
【0049】
(3)乾熱収縮率
ポリエステルモノフィラメントを50cmの長さにカットし、140℃に温調されている熱風循環乾燥機中にフリーの状態で30分間熱処理した後に寸法を測定し、収縮した長さを収縮率としてパーセントで表した。
【0050】
(4)製糸性(操業性):24時間の連続紡糸を行ない、延伸、弛緩処理工程での安定性について以下の基準で判定した。
○(良好)…製糸中の糸切れや弛緩不良などが全くない。
×(不良)…製糸不能状態になる、または製糸中に糸切れが発生する。
【0051】
[実施例1〜3、比較例1〜2]
ポリエチレンナフタレート(以下、PENという)成分として、東洋紡績社製PN−640、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETいう)成分として、東レ社製T701Tの2種類の乾燥チップを用いて、最終的なポリエステル樹脂組成物の組成比が、PEN成分:PET成分=25:75の割合となるように混合したポリエステル樹脂組成物を準備した。
【0052】
次いで、上記ポリエステル樹脂組成物をエクストルダー紡糸機供給口へ供給し、紡糸機温度295℃にて混練溶融し、溶融ポリエステル樹脂組成物を紡糸ノズルから押し出した後、ただちに温度70℃の温水中で冷却固化させた未延伸糸を得た。
【0053】
引き続き、上記未延伸糸を150℃のポリエチレングリコール(以下、PEGという)液浴中にて、6.5倍に延伸した後に水洗工程にてモノフィラメント表面に付着しているPEGを洗い落とし、続いて245℃の熱風循環式乾熱炉内(以下、乾熱炉という)にて0.95倍で弛緩熱処理を行ない、厚み1.6mm、幅3.2mmの四角断面ポリエステルモノフィラメントを得た。
【0054】
得られた前記ポリエステルモノフィラメントは、ヤング率、乾熱収縮率、屈曲疲労試験破断回数において被服用芯材として優れた品質特性と工業的に安定した生産性を実現した。評価結果を表1に示す。
実施例2〜3および比較例1〜2は、最終的なポリエステル樹脂組成物の組成比を変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルモノフィラメントを得た。
【0055】
実施例2〜3は、PEN成分の増減により、ヤング率、屈曲疲労性が若干変化するが被服用芯材としての剛性および折り曲げ耐久性等の特性は被服用芯材として十分な性能を持っている。一方、比較例1はPEN成分量が十分ではなく、ヤング率が著しく低下するため剛性不足となり、被服用芯材としては適さない。
【0056】
また、比較例2では、PEN成分が逆に多すぎるため、モノフィラメントが剛直になりすぎて屈曲疲労特性が著しく低下し、折り曲げに対する耐久性が不足するため被服用芯材としては好適でない。
【0057】
[実施例4、比較例3〜4]
延伸温度を表2のように変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルモノフィラメントの製造を行った。比較例3〜4は熱媒温度が延伸のために適性ではなく、破断トラブルなどが発生しモノフィラメントを得ることが出来なかった。
【0058】
[実施例5、比較例5〜6]
延伸倍率を表2のように変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルモノフィラメントの製造を行った。比較例5では延伸倍率が不足するため目標とするヤング率が得られない。また、比較例6ではモノフィラメントの変形領域を越える延伸倍率条件であり、破断トラブルが発生し、モノフィラメントを得ることが出来なかった。
【0059】
[実施例6〜7、比較例7〜8]
弛緩熱処理温度を表2のように変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルモノフィラメントの製造を行った。比較例7では弛緩熱処理温度の不足により収縮率が高くなり、熱安定性能が不足するモノフィラメントとなった。比較例8では弛緩熱処理中にモノフィラメントが溶融破断するトラブルが発生し、モノフィラメントを得ることが出来なかった。
【0060】
[実施例8、比較例9〜10]
弛緩熱処理倍率を表2のように変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルモノフィラメントの製造を行った。比較例9では弛緩熱処理時のモノフィラメント張力が不足したため、たるんで破断するトラブルが発生し、モノフィラメントを得ることが出来なかった。比較例10では弛緩倍率が高すぎるため弛緩処理の不足により収縮率が高い、熱安定性能が不足するモノフィラメントとなった。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
表1、表2に示す結果から明らかのように、本発明の被服芯材用ポリエステルモノフィラメントは、想定される他の製造方法(比較例1〜10)に比べていずれも剛直性、屈曲耐久性、熱安定性さらには製造安定性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の被服芯材用ポリエステルモノフィラメントは、ブラジャーのカップワイヤーなど被服用芯材に要求される高い剛性、屈曲耐久性を持ち、単体としての芯材としての活用はもちろん、複数本使用して編み状体への加工も容易にできる特徴を持つ。さらには熱収縮率が低いため、熱加工安定性が極めてよく、プレス加工などによる変形も少なく、複雑な成型加工も可能とした被服芯材用としてこれまでにない、高い品質と加工安定性を両立したポリエステルモノフィラメントである。
【0065】
従来の被服用芯材として利用されてきた金属製芯材と比較して適度な剛性感と軽量化の実現、さらには錆などの心配もなく衛生的であり、産業上の利用価値は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンナフタレート5〜40重量%およびポリエチレンテレフタレート60〜95重量%からなるポリエステル樹脂組成物からなるポリエステルモノフィラメントであって、以下(A)〜(C)の要件を満足することを特徴とする被服芯材用ポリエステルモノフィラメント。
(A)JIS L1013に準拠して測定したヤング率が12000N/mm以上、
(B)140℃における乾熱収縮率が5.0%以下、
(C)JIS P−8115に準じて測定したMIT屈曲疲労試験において、モノフィラメントが切断するまでの往復折り曲げ回数が200回以上。
【請求項2】
ポリエチレンナフタレート5〜40重量%およびポリエチレンテレフタレート60〜95重量%からなるポリエステル樹脂組成物を溶融紡糸・延伸するに際し、0℃の比熱が0.5cal/g・℃以上の液体を熱媒体とし140〜175℃の範囲の温度で5〜10倍の延伸を行い、次いで延伸後のモノフィラメントに220〜270℃の温度範囲の乾熱浴中で0.80〜0.98倍の弛緩熱処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の被服芯材用ポリエステルモノフィラメントの製造方法。

【公開番号】特開2012−219398(P2012−219398A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85459(P2011−85459)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】