説明

被検体情報取得装置、被検体情報取得方法、及びプログラム

【課題】 FDI法ならびに適応型信号処理を用いて処理した場合、走査線の隣接間で連続性が乏しい部分が生じる可能性がある。
【解決手段】 本発明の被検体情報取得装置は、被検体内から伝播した弾性波を受信して複数の電気信号に変換する複数の変換素子と、前記複数の電気信号を用いて周波数領域干渉計法と適応型信号処理とを行い、複数の走査線上の各位置での電力強度を算出し、電力強度分布を取得するFDI適応処理手段と、前記走査線と交差する方向において、隣接する前記走査線間の電力強度の変動が小さくなる補正処理を行う補正手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体情報取得装置、被検体情報取得方法、及びプログラムに関する。特に、被検体に弾性波を送信し、被検体内で反射する反射波を受信して被検体情報を取得する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体情報取得装置である超音波診断装置において、パルスエコー法によって画像データを形成する場合の深さ方向の空間分解能は、弾性波である超音波の波長をλ、送信波数をnとすると、(nλ)/2で一般的に表すことが可能である。例えば、12MHzの中心周波数の超音波を2波長分送信した場合は約0.13mm程度となる。
【0003】
パルスエコー法について説明する。まず超音波パルスを被検体に送信すると、被検体内での音響インピーダンス差に応じて超音波が反射されて戻ってくる。次に、この反射波を受信し、この反射波の受信信号を用いて画像データを生成する。代表的には、受信信号の波形の包絡線を取得し、この包絡線を輝度値に変換して画像データを生成する。得られた画像を表示することによって、超音波を送受信した方向の走査線上の輝度情報が得られる。この走査線上の輝度情報を複数取得する、つまり被検体内の複数の方向もしくは位置において超音波の送受信を繰り返すことで、被検体内の画像化が可能となる。
【0004】
上記のように、パルスエコー法を用いることで約0.13mm程度の深さ方向の空間分解能は実現できるが、より高い空間分解能が要求されている。例えば頚動脈の血管壁の層構造をさらに詳細に観察することができれば、動脈硬化などの早期発見への寄与が考えられる。
【0005】
このような深さ方向の空間分解能を向上する技術として、非特許文献1では周波数領域干渉計法(FDI法:Frequency Domain Interferometry)ならびに適応型信号処理であるCapon法を適用し、血管壁の層構造を画像化した結果が示されている。受信信号にFDI法及びCapon法を適用することで、さらに深さ方向(走査線方向)の空間分解能を向上させることができる。しかしながら、FDIの処理を行うために切り出した深さ方向の信号の範囲(処理レンジ内)には、複数の反射層が存在することが想定される。また、近接した反射層からの複数の反射波は、高い相関性を有している可能性が高い。このような高い相関性を有する複数の反射波の受信信号に対してCapon法などの適応型信号処理をそのまま適用すると、所望の信号を打ち消すなどの予期しない動作を行うことが知られている。周波数平均法(frequency averaging technique)を用いることで、このような相関性を有する波(相関性干渉波)による影響を低減(抑圧)し、反射波の受信信号に対してFDI法ならびにCapon法が適用可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hirofumi Taki,Kousuke Taki,Takuya Sakamoto,Makoto Yamakawa,Tsuyoshi Shiina and Toru Sato: Conf Proc IEEE Eng Med Biol Soc.2010;1:5298−5301.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、反射波の受信信号にFDI法及び適応型信号処理を適用する場合、1走査線ごとに処理を実施するため、隣接する走査線同士で相関性干渉波の抑圧の程度が一致しない。この結果、得られた画像データにおいて走査線と交差する方向の連続性が乏しくなる部分が生じる可能性があることが分かった。
【0008】
一方で、走査線と交差する方向の空間分解能は、弾性波の送信及び受信の際の収束条件によって変化する。被検体内の観察領域に存在する微小な反射体などを見落とすことなく画像化するために、一般的なパルスエコー法では、走査線間の距離(走査線間隔)は、走査線と交差する方向の空間分解能よりも短く設定される。そのため、FDI法及び適応型信号処理を用いない場合、隣接する走査線間の連続性が乏しくなることはないと考えられる。
【0009】
つまり、FDI法及び適応型信号処理を用いることによって、走査線と交差する方向の連続性が、一般的な画像(受信信号の包絡線を取得して生成した画像)よりも低くなる可能性が生じる。そして、連続性が低くなると視認性が低下するという特有の課題が生じる。本発明は、上記の課題に鑑み、FDI法及び適応型信号処理を適用する場合において、走査線ごとの相関性干渉波の抑圧の程度の差による画像の視認性低下の影響を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の被検体情報取得装置は、被検体内から伝播した弾性波を受信して被検体内の情報を取得する被検体情報取得装置であって、前記弾性波を受信して複数の電気信号に変換する複数の変換素子と、前記複数の電気信号を用いて周波数領域干渉計法と適応型信号処理とを行い、複数の走査線上の各位置での電力強度を算出し、電力強度分布を取得するFDI適応処理手段と、前記走査線と交差する方向において、隣接する前記走査線間の電力強度の変動が小さくなる補正処理を行う補正手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の被検体情報取得方法は、被検体内から伝播した弾性波を受信して被検体内の情報を取得する被検体情報取得方法であって、前記弾性波を受信した複数の変換素子から出力される複数の電気信号を用いて周波数領域干渉計法と適応型信号処理とを行い、複数の走査線上の各位置での電力強度を算出し、電力強度分布を取得するFDI適応処理ステップと、前記走査線と交差する方向において、隣接する前記走査線間の電力強度の変動が小さくなる補正処理を行う補正ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、走査線ごとの相関性干渉波の抑圧の程度の差による画像の視認性低下の影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による被検体情報取得装置のシステム概要を示す模式図である。
【図2】FDI適応処理手段内部での処理を説明するフローチャートである。
【図3】複数の走査線の位置を模式的に示した図である。
【図4】第1の実施形態の補正処理の効果を示す図である。
【図5】第1の実施形態による電力強度分布のプロットである。
【図6】第2の実施形態の補正処理の効果を示す図である。
【図7】第3の実施形態の補正処理の効果を示す図である。
【図8】第5の実施形態のシステム概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。本発明において、弾性波とは、典型的には超音波であり、音波、超音波、音響波、と呼ばれる弾性波を含む。本発明の被検体情報取得装置とは、被検体に弾性波を送信し、被検体内部で反射した反射波(反射した弾性波)を受信して、被検体情報を画像データとして取得する装置を含む。取得される被検体情報とは、被検体内部の組織の音響インピーダンスの違いを反映した情報である。
【0015】
(本発明の被検体情報取得装置の構成)
本発明の被検体情報取得装置の構成と、FDI法及び適応型信号処理を用いた際の処理内容について図1と図2とを用いて説明する。図1は本発明の適用できる被検体情報取得装置のシステム概要を示す模式図である。本実施形態の被検体情報取得装置は、複数の変換素子002を有する探触子001、受信回路005、送信回路003、整相加算手段006、FDI適応処理手段007、走査線データメモリ008、補正手段009、画像処理手段010、システム制御部004を備える。
【0016】
送信回路003は、システム制御部004からの制御信号に従って、注目位置や注目方向に応じた遅延時間や振幅を有する送信信号を生成する。この送信信号は複数の変換素子002によって弾性波に変換され、弾性波が被検体内部へと送信される。被検体000内部で反射された弾性波(反射波)は被検体内を伝播し、複数の変換素子002によって受信され、複数の受信信号(電気信号)に変換される。受信信号は受信回路005に入力される。受信回路005では、複数の受信信号を増幅し、複数のデジタル信号(デジタル化された電気信号)に変換する。受信回路005から出力されたデジタル信号は整相加算手段006に入力される。整相加算手段006では、弾性波を送信した方向や位置に応じて、複数のデジタル信号に対する遅延処理を行いさらに加算する、つまり整相加算処理を実行する。このように整相加算処理された信号がFDI適応処理手段007に入力される。
【0017】
周波数領域干渉計法(FDI法)は、受信信号を周波数ごとに分解し、分解された信号の位相を注目位置に応じて変化させることで、注目位置における受信電力を推定する方法である。なお、位相の変化量はある基準位置から注目位置までの距離と周波数に対応した波数の積とからあらかじめ決定できる。
【0018】
また、適応型信号処理は、受信信号に応じて、その処理パラメータを適応的に変化させる。適応型信号処理の一つであるCapon法は、複数の入力信号に対して、注目位置に関する感度を固定した状態で電力を最小化するように処理する方法である。つまり、FDI法と適応型信号処理とを組み合わせることは、各周波数成分に分解された受信信号に対して、あらかじめ決定された位相変化量・重みではなく、適応型信号処理によって信号に応じて算出された位相変化量・重みを用いて、注目位置における受信電力を推定することになる。
【0019】
以下、図2を用いて、FDI適応処理手段007の内部での処理を説明する。FDI適応処理手段007は、整相加算された信号を入力信号として受け取る(S200)。その信号から1回で処理する時間分、つまり処理レンジ分の信号を抽出する(S201)。その抽出した信号をフーリエ変換し、周波数ごとの成分Xsk(Xs1、Xs2、Xs3、・・・、XsN)に分割する(S202)。
【0020】
一方で、システム制御部004から参照信号が入力される(S203)。この参照信号のフーリエ変換を行い、周波数ごとの成分Xrk(Xr1、Xr2、Xr3、・・・、XrN)に分割する(S204)。参照信号とは、被検体内に存在する界面(例えば血管壁等)から返ってくると仮定される反射波の信号波形であり、システム制御部004に記憶されている。そして、入力信号、参照信号それぞれの各周波数成分同士で除算し、ホワイトニング処理を行う(S205)。
【0021】
【数1】

【0022】
ここでXwk(k=1,2,・・・,N)はホワイトニング処理後の周波数ごとの成分、ηは安定化のための微小量、*は複素共役を意味する。次に、ホワイトニング処理された各周波数成分からなるベクトルXを用いて、相関行列Rを算出する(S206)。
X=[XW1,XW2,・・・,XWN
R=XXT*
なおTは転置を意味する。ここで相関行列RはN×Nのサイズを有する行列となる。
次に相関行列Rから部分行列を抽出し、それらを平均化する周波数平均法を適用する(S207)。
【0023】
【数2】

【0024】
mij=XW(i+m−1)W(j+m−1)*
R’は周波数平均相関行列、RmはRmijを要素に持つ相関行列Rの部分行列である。
このようにして周波数平均相関行列R’が算出される(S208)。
【0025】
次に拘束ベクトルCが入力される(S209)。拘束ベクトルCは、処理レンジ内での位置rに応じて変化するベクトルであり、以下の式で定義される。
C=[exp(jkr),exp(jkr),・・・,exp(jk(N−M+1)r)]
これらの周波数平均相関行列R’ならびに拘束ベクトルCを用いて、処理レンジ内の電力強度分布P(r)を算出する(S210)。
【0026】
【数3】

【0027】
η’Eは逆行列算出を安定させるために加算した対角行列である。
【0028】
このように、FDI適応処理手段007では、整相加算された信号を入力信号としてFDI法及び適応型信号処理(ここではCapon法を用いた)を行い、電力強度分布を出力する。本発明において、取得される電力強度分布は、被検体内部の組織の音響インピーダンスの違いを反映した被検体情報を示す。
【0029】
出力された電力強度分布は走査線データメモリ008で保存される。このようにして、1回の弾性波送信に対する受信信号の処理を行い、1走査線に関する電力強度分布を算出し、保存する。この動作を繰り返すことで複数の走査線の電力強度分布を走査線データメモリ008に保存してゆく。
【0030】
走査線データメモリ008から出力された複数の走査線の電力強度分布を入力として、補正手段009では走査線と交差する方向(典型的には走査線と垂直な方向)の電力強度分布の連続性が増加するように補正を行う。つまり、補正手段009は、走査線と交差する方向において、隣接する走査線間の電力強度の変動が小さくなる補正処理を行う。このような補正を行った複数の走査線の電力強度分布を入力とし、画像処理手段010はシステム制御部004からの指示に従って、エッジ強調やコントラスト調整などの各種画像処理を行い、輝度データ(画像データ)を出力する。画像表示手段011では入力された輝度データを画像として表示する。なお、画像表示手段011は、本発明の被検体情報取得装置とは別に提供されていても良い。
【0031】
補正手段009における動作の概念について図3を用いて説明する。図3は走査線301A〜301F上の電力強度分布を模式的に示した図である。走査線上にある白丸がそれぞれの位置での電力強度を示す。先述したように一般的には走査線と交差する方向(図3中の横方向)の空間分解能は走査線間距離よりも大きい(長い)。つまり走査線と交差する方向の電力強度(例えば302)の分布はなだらかな変化となる。しかしFDI法及び適応型信号処理を用いた場合、相関性干渉波の抑圧の程度が走査線ごとに異なるため、走査線と交差する方向の電力強度の連続性が低くなる可能性がある。補正手段009では走査線と交差する方向に並んだ電力強度に対して、隣接する走査線間の電力強度の変動が小さくなる補正を行い、連続性を向上させる。
【0032】
このように、走査線と交差する方向の連続性を増加させることで、FDI法及び適応型信号処理を用いた際に、走査線方向の空間分解能が向上するだけでなく、画像の視認性低下を低減し、より安定した視認性の高い画像を得ることが出来る。
【0033】
また、補正を行う走査線の本数(つまり、補正を行う電力強度の数)は、弾性波の送信及び受信の際の集束条件によって変更することが好ましい。本発明の補正を行うことにより、走査線と交差する方向の分解能は低下するため、補正を行う走査線の本数は多ければ多いほど良いというものではない。
【0034】
ここで、走査線と交差する方向の空間分解能は、弾性波の集束条件により変わる。弾性波の波長をλ、複数の変換素子の開口幅をD、深さ方向(走査線方向)の距離をzとすると、収束幅は、1.22(λ/D)zで表せる。つまり、走査線と交差する方向の空間分解能は、波長λ、開口幅D、深さ方向の距離zによって決まる。
【0035】
そこで、本発明では、この集束条件(波長λ、開口幅D、深さ方向の距離zの設定条件)によって決まる空間分解能を変えた際は、補正を行う電力強度の数を変えることが好ましい。具体的には、補正を行う電力強度の数は、走査線と交差する方向の空間分解能の2倍以下の範囲の数とすることが好ましい。より好ましくは、補正を行う電力強度の数は、走査線と交差する方向の空間分解能以下の範囲の数である。
【0036】
なお、ここではCapon法の処理について述べたが、相関性干渉波の影響を抑制するために周波数平均法が必要となる他の適応型信号処理、MUSIC法やESPRIT法などにおいても本発明は適用できる。
以下、図面を用いて本発明による被検体情報取得装置の各実施形態を詳細に説明する。
【0037】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態では、図1に示したシステムを用いて処理を行う形態について述べる。システムの動作は先ほど説明した通りであるため省略し、補正手段009における動作を説明する。
【0038】
本実施形態における補正手段009は、入力された複数の走査線の電力強度分布に対して補正処理を行う。補正手段009に入力される、それぞれK点の電力強度情報を有するL本の走査線を示す信号を以下のように表す。
Y1[s]、Y2[s]、・・・、YL[s](s=1,2,・・・,K)
それぞれの電力強度は被検体内では図3に示したような位置関係となる。
【0039】
補正手段009は、走査線と交差する方向における隣接走査線間の電力強度分布の変動を小さくする補正処理を行うため、まず、走査線と交差する方向の電力強度(例えばY1[5]、Y2[5]、Y3[5]・・・)を抽出する。本実施形態では下式で示される補正処理を行い、新たな電力強度Yk’を求める。なお、hiは、別途設定される係数である。
【0040】
【数4】

【0041】
図4は本実施形態の補正手段による補正処理の効果を示す図である。縦軸は深さ方向(走査線方向)の距離を示し、横軸は、走査線と交差する方向の距離を示す。図4(A)〜(C)は全て、豚大腿動脈からの反射波を受信して大腿動脈の血管壁を画像化した結果である。図4(C)は受信信号を包絡線検波することにより豚大腿動脈を画像化した結果(所謂Bモード像)である。図4中の401、402で示した位置がそれぞれ大腿動脈の血管壁である。図4(A)は受信信号にFDI法及びCapon法を適用した結果である。走査線方向(画像の上下方向)の空間分解能が向上しているが、走査線ごとに相関性の抑圧の程度が異なるため、走査線と交差する方向(画像の左右方向)に連続性が乏しい部分が存在することが分かる。
【0042】
図4(B)は本実施形態の補正手段においてh0=h1=h2=h3=h4=1、w=5の係数を用いて補正処理した結果である。走査線方向(画像の上下方向)の空間分解能は図4(C)よりも高く、走査線と交差する方向(画像の左右方向)の連続性が図4(A)よりも高まり、視認性が向上していることが分かる。
【0043】
図5は図4の画像中の一つの走査線(画像の上下方向)の電力強度分布をプロットしたものである。それぞれのプロットは、包絡線検波により得られたBモード画像(501)、FDI法ならびにCapon法を適用した結果(502)、本実施形態による処理結果(503)を示している。この図5から分かるように本発明を適用した結果においても、走査線方向の解像度が一般的なBモード画像と比較して高いことが分かる。
【0044】
以上のように、本実施形態によれば、FDI法ならびにCapon法を適用し、走査線方向の空間分解能を向上させ、さらに走査線と交差する方向の連続性高い、安定した画像データを提供することができる。
【0045】
なお、本実施形態における補正手段の補正処理は、走査線と交差する方向の電力強度分布に対する平滑化を行うFIRフィルタとして動作している。係数は平滑化フィルタとしての性能を有していれば、一様なもの(矩形状)であっても、三角形状、台形状、ガウシアン形状などのその他の係数であっても同様の効果を得ることが出来る。
【0046】
(第2の実施形態)
本発明にかかる第2の実施形態においても、図1に示したシステムを用いて処理を行う具体的な形態について述べる。システムの動作は先ほど説明した通りであるため省略し、補正手段009における動作を説明する。本実施形態における補正手段009は、入力された複数の走査線の電力強度分布に対して下式で示される補正処理を行う。
【0047】
【数5】

【0048】
図6は本実施形態の一例として、本実施形態の補正手段において[a1,a2,a3,a4,a5,a6]=[1,0,0.6334,0,0.0557,0],[b0,b1,b2,b3,b4,b5]=[0.0528,0.2639,0.5279,0.2639,0.0528]の係数を用いて処理した結果である。図6より、走査線方向(画像の上下方向)の空間分解能は一般的なBモード画像(図4(C))よりも高く、走査線と交差する方向(画像の左右方向)の連続性が図4(A)よりも高まり、視認性が向上していることが分かる。
【0049】
以上のように、本実施形態によれば、FDI法ならびにCapon法を適用し、走査線方向の空間分解能を向上させ、さらに走査線と交差する方向の連続性が高い、安定した画像データを提供することができる。なお、本実施形態の補正手段009における補正処理は、走査線と交差する方向の電力強度分布に対する平滑化を行うIIRフィルタとして動作しており、その係数は平滑化フィルタとしての性能を有していれば、その他の係数であっても同様の効果を得ることが出来る。このように補正処理においてIIRフィルタを用いることで、少ない計算負荷(計算に用いる係数の数が少ない)であっても、より好適なフィルタ特性を実現し補正処理を行うことが可能となる。
【0050】
(第3の実施形態)
本発明にかかる第3の実施形態においても、図1に示したシステムを用いて処理を行う形態について述べる。システムの動作は先ほど説明した通りであるため省略し、補正手段009における動作を説明する。
【0051】
本実施形態における補正手段009は、複数の走査線の電力強度分布を入力された後、走査線と交差する方向の電力強度(例えばY1[5]、Y2[5]、Y3[5]・・・)をNX個抽出する。このNX個の電力強度を強度順に並べ替え、NXが偶数の場合、NX/2+1番目の電力強度、NXが奇数の場合は、(NX+1)/2番目の電力強度を出力とする補正処理を行う。
【0052】
図7は、本実施形態の補正手段においてNX=3として補正処理を行った結果である。走査線方向(画像の上下方向)の空間分解能は一般的なBモード画像(図4(C))よりも高く、走査線と交差する方向(画像の左右方向)の連続性が図4(A)よりも高まり、視認性が向上していることが分かる。
【0053】
以上のように、本実施形態によれば、FDI法ならびにCapon法を適用し、走査線方向の空間分解能を向上させ、さらに走査線と交差する方向の連続性が高い、安定した画像を提供することができる。なお、本実施形態における補正手段における補正処理は、走査線と交差する方向の電力分布に対するメディアンフィルタとして動作しており、平滑化を行う補正効果が得られている。
【0054】
(第4の実施形態)
本発明にかかる第4の実施形態においても、図1に示したシステムを用いて処理を行う形態について述べる。システムの動作は先ほど説明した通りであるため省略し、補正手段009における動作を説明する。
【0055】
本実施形態における補正手段009は、複数の走査線の電力強度分布が入力された後、走査線と交差する方向の電力強度(例えばY1[5]、Y2[5]、Y3[5]・・・)をNX個抽出する。このNX個の電力強度分布に対してフーリエ変換し、所定の周波数より高い周波数帯域を通さないローパスフィルタを適用する。
【0056】
このローパスフィルタを適用することにより、走査線と交差する方向において、高周波成分をカットすることができる。つまり、走査線と交差する方向において、隣接する走査線間の電力強度の変動を小さくすることができる。
【0057】
以上のように、本実施形態によれば、実施形態1〜3と同様に、FDI法ならびにCapon法を適用し、走査線方向の空間分解能を向上させ、さらに走査線と交差する方向の連続性が高い、安定した画像を提供することができる。
【0058】
(第5の実施形態)
本実施形態は、整相加算された信号の入力先を切り替える切替え手段を有することを特徴とする。図8は本発明の第5の実施形態にかかるシステム概略図である。実施形態1〜4とは異なる部分に絞って説明を行う。
【0059】
本実施形態の被検体情報取得装置は、図1で説明した各構成に加えて、更に切替え手段701と包絡線取得手段702とを有する。弾性波の送受信を行い、整相加算処理を行うところまでは前述した実施形態1〜4と同様である。本実施形態では、整相加算手段006において整相加算処理された信号が、切替え手段701に入力される。切替え手段701はシステム制御部004からの指示に従って、入力された信号を包絡線取得手段702もしくはFDI適応処理手段007に出力する。
【0060】
まず、切替え手段701が包絡線取得手段702にのみ整相加算処理された信号を出力した場合の動作について述べる。包絡線取得手段702では入力された信号の包絡線を取得し、走査線データメモリ008に包絡線データとして出力する。走査線データメモリ008ならびに補正手段009はいずれも包絡線データをそのまま次の手段に渡し、最終的に画像処理手段010に包絡線データを入力する。画像処理手段010はシステム制御部004からの指示に従って、エッジ強調やコントラスト調整などの各種画像処理を行い、輝度データ(画像データ)を出力する。画像表示手段011では入力された輝度データを画像として表示する。
【0061】
次に、切替え手段701がFDI適応処理手段007にのみ整相加算処理された信号を出力した場合の動作について述べる。この場合は、FDI適応処理手段007ならびに走査線データメモリ008、補正手段009は実施形態1〜4と同様に走査線が隣接する方向の連続性を向上させる補正処理を行う。
【0062】
このように、包絡線データに対しては補正手段009を動作させず、FDI適応処理手段007で処理された電力強度分布に対しては補正手段009を動作させ、電力強度分布が連続的になるように補正するように制御を行う。ただし、本実施形態は、包絡線取得手段702と画像処理手段010とが接続されていてもよく、その場合は、包絡線データがそのまま画像処理手段に入力される。
【0063】
本実施形態のシステムは、例えば装置操作者からの明示的な指示や操作者が選択した撮像モードなどによって、システム制御部004が、切替え手段701に指示を出すように設定すると良い。このような設定により、深さ方向の空間分解能を重視する場合(例えば頸動脈の血管壁の厚みを測定する場合)やこれまでの一般的なBモード画像(包絡線検波を用いて取得された画像)と比較したい場合に対応可能である。
【0064】
また、システム制御部004からの指示により、すでに連続性を有しているBモード画像に対して必要以上の補正処理を実施せず、連続性が乏しい部分が存在するFDI法と適応型信号処理とを適用した画像データに対しては補正処理を行うことが出来る。
【0065】
(第6の実施形態)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した各実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。
【符号の説明】
【0066】
000 被検体
001 探触子
002 変換素子
003 送信回路
004 システム制御部
005 受信回路
006 整相加算手段
007 FDI適応処理手段
008 走査線データメモリ
009 補正手段
010 画像処理手段
011 画像表示系
301A〜301F 走査線
701 切替え手段
702 包絡線取得手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内から伝播した弾性波を受信して被検体内の情報を取得する被検体情報取得装置であって、
前記弾性波を受信して複数の電気信号に変換する複数の変換素子と、
前記複数の電気信号を用いて周波数領域干渉計法と適応型信号処理とを行い、複数の走査線上の各位置での電力強度を算出し、電力強度分布を取得するFDI適応処理手段と、
前記走査線と交差する方向において、隣接する前記走査線間の電力強度の変動が小さくなる補正処理を行う補正手段と、
を有することを特徴とする被検体情報取得装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記補正処理として、前記走査線と交差する方向の電力強度分布に対して平滑化フィルタを適用することを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項3】
前記補正手段は、前記補正処理として、前記走査線と交差する方向の電力強度分布に対してメディアンフィルタを適用することを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項4】
前記補正手段は、前記補正処理として、前記走査線と交差する方向の電力強度分布に対してローパスフィルタを適用することを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項5】
前記補正手段は、前記補正処理を行う電力強度の数を、弾性波の送受信の集束条件により変更することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項6】
前記複数の電気信号を整相加算する整相加算手段を有し、
前記FDI適応処理手段は、前記整相加算された信号を用いて周波数領域干渉計法と適応型信号処理とを行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項7】
前記複数の電気信号を整相加算する整相加算手段と、
前記整相加算された信号を用いて包絡線を取得する包絡線取得手段と、
前記整相加算された信号の入力先を、前記FDI適応処理手段と前記包絡線取得手段のうちどちらか一方に切替える切替え手段と、を有することを特徴とする請求項6に記載の被検体情報取得装置。
【請求項8】
前記補正手段は、前記切替え手段により前記整相加算された信号が前記FDI適応処理手段に入力された時のみ前記補正処理を行うことを特徴とする請求項7に記載の被検体情報取得装置。
【請求項9】
被検体内から伝播した弾性波を受信して被検体内の情報を取得する被検体情報取得方法であって、
前記弾性波を受信した複数の変換素子から出力される複数の電気信号を用いて周波数領域干渉計法と適応型信号処理とを行い、複数の走査線上の各位置での電力強度を算出し、電力強度分布を取得するFDI適応処理ステップと、
前記走査線と交差する方向において、隣接する前記走査線間の電力強度の変動が小さくなる補正処理を行う補正ステップと、
を有することを特徴とする被検体情報取得方法。
【請求項10】
前記補正ステップでは、前記補正処理として、前記走査線と交差する方向の電力強度分布に対して平滑化フィルタを適用することを特徴とする請求項9に記載の被検体情報取得方法。
【請求項11】
前記補正ステップでは、前記補正処理として、前記走査線と交差する方向の電力強度分布に対してメディアンフィルタを適用することを特徴とする請求項9に記載の被検体情報取得方法。
【請求項12】
前記補正ステップでは、前記補正処理として、前記走査線と交差する方向の電力強度分布に対してローパスフィルタを適用することを特徴とする請求項9に記載の被検体情報取得方法。
【請求項13】
前記補正ステップでは、前記補正処理を行う電力強度の数を、弾性波の送受信の集束条件により変更することを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項に記載の被検体情報取得方法。
【請求項14】
前記複数の電気信号を整相加算する整相加算ステップを有し、
前記FDI適応処理ステップでは、前記整相加算された信号を用いて周波数領域干渉計法と適応型信号処理とを行うことを特徴とする請求項9乃至13のいずれか1項に記載の被検体情報取得方法。
【請求項15】
請求項9乃至14のいずれか1項に記載の被検体情報取得方法の各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−217624(P2012−217624A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86511(P2011−86511)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成(高次生体イメージング先端テクノハブ)」に係わる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】