説明

被検体情報取得装置、X線撮像装置、被検体情報取得方法及びプログラム

【課題】 少なくとも1回の撮像から、被検体の微分位相像または位相像を取得することができるX線撮像装置およびX線撮像方法を提供すること。
【解決手段】 本発明に係るX線撮像装置は、位相格子130と吸収格子150と検出器170と演算装置180を有する。演算装置180は、検出器で取得したモアレの強度分布をフーリエ変換することにより、空間周波数スペクトルを取得するフーリエ変換工程を実行する。また、フーリエ変換工程により得られた空間周波数スペクトルから、キャリア周波数に対応したスペクトルを分離し、逆フーリエ変換を用いて微分位相像を取得する位相回復工程を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線撮像装置およびX線撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線は高い物質透過性を持ち、かつ高空間分解能イメージングが可能であることから、工業的用途として物体の非破壊検査、医療用途としてレントゲン撮影、等に用いられている。これらは、物体や生体内の構成元素や密度差によりX線透過時の吸収の違いを利用してコントラスト画像を形成するものであり、X線吸収コントラスト法と言われる。しかし、軽元素ではX線吸収が非常に小さいため、生体の構成元素である炭素、水素、酸素などからなる生体軟組織、あるいはソフトマテリアルをX線吸収コントラスト法により画像化することは困難である。
【0003】
これに対して、軽元素で構成される組織でも明瞭な画像化を可能とする方法として、X線の位相差を用いたX線位相コントラスト法の研究が、1990年代より行なわれている。
【0004】
数多く開発されたX線位相コントラスト法のなかでも、通常のX線管を用いることが可能な方法として、タルボ干渉を利用したX線位相コントラスト法がある(特許文献1)。
【0005】
特許文献1に記載のタルボ干渉を利用した方式は、X線を発生するX線管、X線の位相を変調し干渉強度分布を発生させるための位相格子、および前記干渉強度分布をモアレの強度分布に変換する吸収格子、前記干渉強度分布を検出するX線検出器から構成される。
【0006】
特許文献1に記載の方式では、吸収格子を格子周期方向に走査することにより撮像を行なう。この走査により、検出されるモアレは移動し、走査量が吸収格子の1周期に達すると、モアレ画像は元の状態へ戻る。前記走査中の少なくとも3枚以上の撮像データを用いて演算処理することにより、微分位相像を取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許7180979号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載の方法は、少なくとも3枚以上の撮像を行なうことにより微分位相像を取得し、その微分位相像から位相像を演算する方法である。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は3枚以上の撮像が必要になることから、撮像中に被検体が移動すると、画質が低下するという問題がある。
【0010】
また、撮像時間の長時間化は被検体へのX線線量の増加を招き、医療用の用途を考慮すると好ましくない。
【0011】
そこで、本発明は、少なくとも1回の撮像から、被検体の微分位相像または位相像を取得することができるX線撮像装置およびX線撮像方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るX線撮像装置は、X線源と、前記X線源からのX線を透過させることにより、タルボ効果による干渉強度分布を形成する位相格子と、前記位相格子により形成された干渉強度分布の一部を遮光することによりモアレを生じさせる吸収格子と、前記吸収格子により生じたモアレの強度分布を検出する検出器と、前記検出器により検出されたモアレの強度分布から被検体の情報を画像化し、出力する演算装置を有し、前記演算装置は、前記検出器で取得したモアレの強度分布をフーリエ変換することにより、空間周波数スペクトルを取得するフーリエ変換工程と、前記フーリエ変換工程により得られた空間周波数スペクトルから、キャリア周波数に対応したスペクトルを分離し、逆フーリエ変換を用いて微分位相像を取得する位相回復工程と、を実行するように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、少なくとも1回の撮像から、被検体の微分位相像または位相像を取得することができるX線撮像装置およびX線撮像方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態1に係るX線撮像装置を説明する図である。
【図2】本発明の実施形態2、および3に係る2次元位相格子を説明する図である。
【図3】本発明の実施形態1、および2に係る2次元吸収格子を説明する図である。
【図4】干渉強度分布のスペクトルパターンを表している図である。
【図5】2次元位相格子を用いた場合のモアレの強度分布およびスペクトルパターンを表している図である。
【図6】本発明の演算装置で実施する解析方法のフローチャートを説明する図である。
【図7】本発明の実施形態2に係るモアレの強度分布および空間周波数スペクトルを説明する図である。
【図8】本発明の実施形態3に係るモアレの強度分布および空間周波数スペクトルを説明する図である。
【図9】本発明の実施形態4に係るズーム機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
タルボ干渉を用いたX線撮像装置の構成の一例を図1に示す。X線撮像装置を用いて位相像を得るまでの工程を具体的に説明する。
【0016】
(X線源)
X線源110から発生したX線111が被検体120を透過する。X線111は、被検体120を透過する際に、被検体120の組成や形状等に応じた位相の変化及び吸収を生じる。
【0017】
X線としては、連続X線を用いても特性X線を用いても良い。また、波長としては、0.1Åから5Å程度から適宜選択される。また、X線源110の後に、波長選択フィルタや線源用の格子を適宜設けても良い。
【0018】
(位相格子)
前記被検体120を透過したX線111は、位相格子130を透過すると、タルボ効果により干渉強度分布140を形成する。
【0019】
位相格子130は、被検体120よりも上流側または下流側に配置される。
【0020】
位相格子130は、X線透過部材の厚みを周期的に変化させることにより構成された位相進行部分131と位相遅延部132からなる。位相進行部131と位相遅延部132は、透過したX線に対して位相差がつくように形成されていればよい。たとえば、位相進行部131を透過したX線の位相が位相遅延部132を透過したX線の位相に対してπだけ進行するように構成されている。厚みの変化量は、用いるX線の波長および部材により決定される。
【0021】
位相格子130は、位相遅延部132を透過したX線の位相に対して、位相進行部131を透過したX線の位相がπ、またはπ/2変調するものが一般的である。前者をπ位相格子、後者をπ/2位相格子と称する場合もある。ただし、位相の変調量は周期的であればよく、例えばπ/3変調するものであっても良い。
【0022】
位相格子130は、1次元の線状形状でもいいし、図2(A)に示すような2次元の市松模様で構成されていてもよい。また、図2(B)に示すような網戸状の模様で構成されていてもよい。図2において、dは周期であり、201は2次元位相格子、210は位相進行部、220は位相遅延部を表している。
【0023】
なお、位相進行部210または位相遅延部220の形状は図2(A)および図2(B)では正方形であるが、作製上、外縁が円形状に変形することもある。このように円形状に変形した場合においても、位相格子として利用することが可能である。
【0024】
位相格子130が1次元の周期を有する場合には、被検体120の1次元方向の位相勾配情報しか取得できない。しかし、位相格子130が2次元の周期を有する場合には、2次元方向の位相勾配情報を取得することができる点で有利である。
【0025】
なお、位相格子130を構成する材料はX線を透過する物質が好ましく、例えば、シリコン等を用いることができる。
【0026】
位相格子130の透過後に形成された干渉強度分布は、X線源と位相格子130との距離Z0とすると、吸収格子150からの距離Z1が下記の式(1)を満たしている位置に最も明瞭に現れる。ここで「干渉強度分布」とは、前記位相格子130の格子周期を反映した周期的強度分布のことである。
【0027】
式(1)において、λはX線の波長、dは位相格子130の格子周期である。
【0028】
【数1】

【0029】
Nは位相格子の形態により異なる値であり、以下のように表現できる実数である。なお、nは自然数である。
1次元配列のπ位相格子:N=n/4−1/8
1次元配列のπ/2位相格子:N=n−1/2
2次元配列の市松模様π位相格子:N=n/4−1/8
2次元で市松模様π/2位相格子:N=n/2−1/4
(吸収格子)
干渉強度分布の周期は、一般にX線検出器170の画素サイズより小さいため、そのままでは干渉強度分布を検出できない。そこで、吸収格子150を用いることによって、X線検出器170の画素サイズより大きな周期のモアレを発生させ、モアレの強度分布をX線検出器170で検出する。吸収格子150は、位相格子130から距離Z1だけ離れた位置に設けることが好ましい。
【0030】
吸収格子150は、周期的に配列した透過部151と遮光部152を有し、位相格子130で形成された干渉強度分布140の明部の一部を遮光するように配置される。なお、透過部151はX線の一部が透過可能に構成されていればよく、開口が貫通している必要はない。吸収格子150を構成する材料はX線をよく吸収する物質であればよく、例えば、金を用いることができる。
【0031】
ここで、吸収格子150の周期は、干渉強度分布と同一、または僅かに異なる。
【0032】
干渉強度分布と同一周期を持つ吸収格子を用いた場合、吸収格子の面内回転によってモアレが発生する。干渉強度分布の周期をD、干渉強度分布の明暗の方位と吸収格子の方位のなす角をθ(ただし、θ<<1)とすれば、モアレの周期Dmは、D/θとなる。
【0033】
一方、干渉強度分布と僅かに異なる周期を持つ吸収格子を用いた場合、吸収格子の面内回転を行なうことなくモアレが発生する。吸収格子の周期をDa=D+δ(ただしδ<<D)とすれば、モアレの周期Dmは、D2/δとなる。
【0034】
吸収格子150において、透過部151は、1次元的に配列されていてもよいし、また2次元的に配列されていてもよい。
【0035】
例えば、図2(A)に示した市松状の位相格子であって、π位相格子を用いた場合には、図3(A)のように透過部351と遮光部352が2次元的に配列されている網戸状の吸収格子300を用いる。また、図2(A)に示した市松状のπ/2位相格子を用いた場合には、図3(B)のように透過部351と遮光部352が2次元的に配列されている市松状の吸収格子300を用いる。
【0036】
なお、上記の組合せは一例であり、位相格子と吸収格子は種々の組合せが可能である。
【0037】
(検出器)
前記吸収格子140を透過したX線の干渉強度分布の情報はモアレの強度分布として、X線検出器170によって検出される。X線検出器170は、X線の干渉強度分布の情報を検出することのできる素子である。例えば、デジタル信号への変換が可能な、FPD(Flat Panel Detector)等を用いることができる。
【0038】
(演算装置)
前記X線検出器170で検出されたモアレの強度分布の情報は、後述の解析方法による演算装置180によって解析され、微分位相像や位相像を画像化する。取得された微分位相像や位相像は、表示部190に表示するための出力画像である。演算装置180は例えばCPU(Central Processing Unit)を有する。
【0039】
以下、検出器で取得されるモアレの強度分布情報から位相像を取得する解析方法について説明し、その後に演算装置で行なう処理工程について説明する。
【0040】
(解析方法)
干渉強度分布が形成される際には多数の回折光が重なって干渉するため、基本周波数(以後キャリア周波数と呼ぶ)と数多くのその高調波成分を含んでいる。しかし、モアレは干渉強度分布のキャリア周波数成分を空間的に拡大した形状を持つので、刻線がx軸に直交する1次元の位相格子を使用した場合にモアレは(2)式で表すことができる。
【0041】
【数2】

【0042】
また、2次元の位相格子を使用した場合には、(2)式にy方向のキャリア周波数成分が重畳した形状となる。
【0043】
(2)式は、モアレが、バックグラウンドの第一項と、周期性を持った第二項との和で表されることを示している。ここで、a(x,y)はバックグラウンドを表し、b(x,y)はキャリア周波数成分の振幅を表す。また、f0は干渉縞のキャリア周波数を表し、φ(x,y)はキャリア周波数成分の位相を表している。
【0044】
キャリア周波数成分は、位相格子130として市松状のπ/2位相格子を用いた場合は、0次回折光と+1次回折光の干渉、および0次回折光と−1次回折光の干渉によって生じる。また、位相格子130として市松状のπ位相格子を用いた場合は+1次回折光と−1次回折光の干渉によってキャリア周波数成分が生じる。
【0045】
0次回折光と1次回折光は位相格子130で互いにNdだけ離れた位置にある光線が重なり、+1次回折光と−1次回折光は位相格子130で互いに2Ndだけ離れた位置にある光線が重なる。すなわち、これらの干渉はπ/2位相格子の場合はシア量sがNd、π位相格子の場合はシア量sが2Ndのシアリング干渉である。
【0046】
したがって、位相格子130の位置における被検体120の位相像をW(x,y)とすると、位相φ(x,y)と位相像W(x,y)は次式の関係がある。
【0047】
【数3】

【0048】
一般にsは微小なので、
【0049】
【数4】

【0050】
となる。
【0051】
ここで、(3)式より位相φ(x,y)は被検体120の位相像W(x,y)を微分した情報となっていることがわかる。したがって、被検体120の位相像W(x,y)はφ(x,y)を積分することで求めることができる。
【0052】
ところで、位相φ(x,y)は、(2)式からフーリエ変換法で求めることができる。すなわち、(2)式は
【0053】
【数5】

【0054】
と書き表すことができる。ここで
【0055】
【数6】

【0056】
である。
【0057】
したがって、干渉縞からc(x,y)の成分またはc*(x,y)の成分を取り出すことにより、位相φ(x,y)の情報を得ることが可能となる。
【0058】
ここで、フーリエ変換によって(4)式は
【0059】
【数7】

【0060】
となる。
【0061】
ここでG(fx,fy)、A(fx,fy)、C(fx,fy)はそれぞれg(x,y)、a(x,y)、c(x,y)に対する二次元のフーリエ変換である。
【0062】
図4は、1次元格子を使用した場合の干渉強度分布のスペクトルパターンである。通常、図4のように3つのピークが生じる。中央のピークは主としてA(fx,fy)に由来するピークである。一方、その両脇のピークはそれぞれC(fx,fy)とC*(fx,fy)に由来するキャリア周波数ピークであり、これらのピークは±f0の位置に生じる。
【0063】
次に、C(fx,fy)あるいはC*(fx,fy)に由来するピークのある領域を切り出す。例えば、A(fx,fy)に由来するピークと、C(fx,fy)あるいはC*(fx,fy)に由来するピークの周囲を切り出すことにより、C(fx,fy)あるいはC*(fx,fy)に由来するピークを分離する。
【0064】
次に、分離したC(fx,fy)あるいはC*(fx,fy)に由来するピークを周波数空間の原点に移動させ、逆フーリエ変換を行なう。そして逆フーリエ変換により得られた複素数情報から位相φ(x,y)、すなわち微分位相情報を得る。
【0065】
また、図5(A)は、市松模様のπ/2位相格子(図2(A))と、網戸模様の吸収格子(図3(A))、または、市松模様の吸収格子(図3(B))を用いた場合のモアレの強度分布の例であり、510はモアレの明部、520はモアレの暗部である。なお、市松模様のπ位相格子(図2(A))と、市松模様の吸収格子(図3(B))を用いた場合にも、このような斜め方向にモアレの強度分布が生じる。
【0066】
また、図5(B)は、市松模様のπ位相格子(図2(A))と、網戸模様の吸収格子(図3(A))を用いた場合のモアレの強度分布であり、530はモアレの明部、540はモアレの暗部である。この場合、縦横方向にモアレの強度分布が生じる。
【0067】
なお、網戸模様の位相格子(図2(B))を用いて、上記のようなモアレの強度分布を得ることもできる。
【0068】
図5(C)、(D)はそれぞれ、図5(A)、(B)で示したモアレの強度分布をフーリエ変換の一種であるFFT(Fast Fourier Transform)処理することによって得られた空間周波数スペクトルである。FFTで算出可能な最大空間周波数は、X線検出器170の画素周期をPとすれば1/(2P)である。
【0069】
それぞれ、直交する位置にある2つのピ−ク570と571および580と581の周囲を、上述の1次元の場合と同様に切り出して、それぞれ原点に移動させ逆フーリエ変換を行なう。破線は切り出し領域を示している。そして逆フーリエ変換により得られた複素数情報から、直交する2方向の微分位相情報を得る。
【0070】
ここで、図5(C)場合は±45度方向の微分位相情報となり、図5(D)場合はXおよびY方向の微分位相情報となる。
【0071】
このようにして得られた微分位相情報は、2πの領域の間に畳み込まれている(ラップされている)ことが多い。すなわち、ある画面上の任意の点における真の位相をφ(x,y)とし畳み込まれた位相をφwrap(x,y)とすると
【0072】
【数8】

【0073】
の関係となる。ここでnは整数であり、φwrap(x,y)がある2πの幅を持った領域、例えば0から2πや−πから+πの間に入るように決定される。
【0074】
これらの情報を元にして、φ(x,y)wrapの位相接続(アンラップ)を行ない元のφ(x,y)に復元する。
【0075】
被検体の位相像W(x,y)は式(8)により復元したφ(x,y)を積分して求めることができる。
【0076】
【数9】

【0077】
1次元格子を使用した場合は積分方向が格子刻線方向と直交する方向にしかできない。そのため、位相像W(x,y)を正しく計測するには、X線検出器170の前記刻線方向と平行な1辺に被検体120を通過しないX線が照射されるようにして位相像W(x,y)が既知の部分を設ける必要がある。
【0078】
一方、2次元格子を使用した場合は2方向の積分ができるのでX線検出器170全面に被検体120を通過したX線が照射されても正しく位相像W(x,y)を計測できる。
【0079】
(演算装置で行なう処理工程)
上記を踏まえて、前記演算装置180において実行する処理フローの一例
を図6に示す。
【0080】
まず、前記X線検出器170からモアレの強度分布の情報を取得する(S610)。
【0081】
次に、S610で得られたモアレの強度分布の情報をフーリエ変換し、空間周波数スペクトルを取得するフーリエ変換工程を行なう(S620)。
【0082】
次に、S620で得られた周波数空間において、キャリア周波数に対応したスペクトル(位相情報を担っているスペクトル)を切り出すピーク分離工程を行なう(S631)。なお、キャリア周波数に対応したスペクトル自体を切り出すのが難しい場合には、スペクトルの周辺領域の情報を切り出す。
【0083】
次に、S631で切り出されたスペクトルを周波数空間の原点に移動させ、逆フーリエ変換を行う(S632)。これにより、位相情報を有した複素数情報を得ることができる。
【0084】
次に、S632で得られた複素数情報から微分位相像である位相φ(x,y)を得る(S633)。なお、S631、S632、S633を位相回復工程ということもある(S630)。
【0085】
次に、φ(x,y)がラップされている場合には、アンラップ処理を行ない、真のφ(x,y)を得る(S640)。このことを位相接続工程ということもある。なお、φ(x,y)がラップされていない場合にはこのS640を省略することも可能である。ここで、φ(x,y)は微分位相情報(微分位相像)である。
【0086】
次に、φ(x,y)を積分することにより、位相像W(x,y)を取得する(S650)。
【0087】
以上のような構成によれば、少なくとも1枚の撮像から、被検体の位相像を取得することができるX線撮像装置およびX線撮像方法を提供することが可能となる。また、上記の工程をコンピュータに実行させるプログラムを提供することも可能となる。
【0088】
(実施形態2)
本発明によるX線撮像装置の第2の実施形態を図7を用いて説明する。本実施形態では、実施形態1で説明した図5(C)の空間周波数スペクトルよりも空間分解能を向上させる工夫がなされている。
【0089】
図7(B)は、本実施形態で説明する空間周波数スペクトルを示したものである。このような周波数スペクトルを得るためには干渉強度分布と吸収格子で生じる2次元のモアレの基本周期をX線線検出器の画素周期の
【0090】
【数10】

【0091】
とし、モアレの方位を画素配列に対し45度傾けるように調整する。
【0092】
図7(A)は、このような状態におけるX線検出器上のモアレの強度分布を示している図である。710はX線検出器の受光面、720はモアレの明部、dはモアレの周期、PはX線検出器の画素周期である。なお、本実施形態では、市松模様のπ/2位相格子(図2(A))と、市松模様の吸収格子(図3(B))を用いている。ただし、発生するモアレの強度分布が同一ならば、他の位相格子および吸収格子を用いてもよい。
【0093】
図7(B)は図7(A)のモアレの強度分布をFFT処理することによって得られた空間周波数スペクトルである。画素配列数を縦横ともにnとすれば、FFTにより得られるスペクトル空間もn×nの離散的なデータとなる。また、表現できる最大の周波数は、X線検出器170の画素周期をPとして1/(2P)である。
【0094】
本実施形態ではモアレの基本周期は
【0095】
【数11】

【0096】
であるからその周波数であるキャリア周波数の絶対値は
【0097】
【数12】

【0098】
となる。またモアレの方位が45度傾いているので、スペクトル空間上で
【0099】
【数13】

【0100】
の位置にモアレの強度分布のキャリア周波数に対応するピークであるキャリ
アピーク711が生じる。
【0101】
4個のキャリアピーク711のうち隣り合う2個のピークについて、1辺が
【0102】
【数14】

【0103】
である45度傾いた正方形領域を切り出して実施形態1に記載の処理をすれば被検体の位相像を復元することができる。
【0104】
この際、スペクトル領域をなるべく広く切り出すことで空間分解能を大きくすることができる。しかしながら、スペクトル空間にはキャリア周波数のピークの他に、キャリア周波数成分のピーク座標の和または差の位置に高周波成分とDC成分のピークである不要ピーク721が存在する。
【0105】
切り出し領域を広げすぎることにより、これらの不要ピーク721付近の領域まで含めてしまうと、不要ピーク721の影響で正確な位相像が得られなくなる。従って、切り出すスペクトル領域は、キャリア周波数のピークと不要ピーク721の中間線より内側の切り出し領域731としている。
【0106】
本実施形態で復元できる位相像の空間周波数は、切り出し領域731の大きさの1/2である。従って、図7(B)を見てわかるように画素配列方向の最大周波数は1/(4P)、45度方向の最大周波数は
【0107】
【数15】

【0108】
である。これを分解能として復元できる最小周期を画素単位で表現すれば、最大周波数の逆数になるので画素配列方向で4画素、45度方向で
【0109】
【数16】

【0110】
である。図5(C)の切り出し領域と比較すると、図7(B)の切り出し領域の方が、図5(C)の切り出し領域よりも広いため、復元できる空間周波数が大きい。したがって、本実施形態によれば、上記実施形態と比較して空間分解能を向上させることが可能となる。
【0111】
(実施形態3)
本発明によるX線撮像装置の第3の実施形態を図8を用いて説明する。本実施形態も、実施形態1で説明した図5(D)の空間周波数スペクトルよりも空間分解能を向上させる工夫がなされている。
【0112】
図8(B)は、本実施形態で説明する空間周波数スペクトルを示したものである。このような周波数スペクトルを得るためには干渉強度分布と吸収格子で生じる2次元のモアレの基本周期をX線検出器の画素周期の3倍とし、モアレの方位を画素配列に一致させる。
【0113】
図8(A)は、このような状態におけるX線検出器上のモアレの強度分布を示している図である。810はX線検出器の受光面、820はモアレの明部、dはモアレの周期、PはX線検出器の画素周期である。なお、本実施形態では、市松模様のπ位相格子(図2(A))と、網戸模様の吸収格子(図3(A))を用いている。ただし、発生するモアレの強度分布が同一ならば他の位相格子および吸収格子を用いてもよい。
【0114】
図8(A)は図8(B)に示したモアレの強度分布をFFT処理することによって得られた空間周波数スペクトルである。本実施形態ではモアレの基本周期は3Pであるから、そのキャリア周波数の絶対値は1/(3P)となる。従って、スペクトル空間上で
【0115】
【数17】

【0116】
のモアレの強度分布のキャリア周波数に対応するピークであるキャリアピーク811が生じる。実施形態2と同様に4個のキャリアピーク811のうち隣り合う2個のピークのうち、1辺が1/(3P)の正立した正方形領域を切り出して実施形態1に記載の処理をすれば被検体の位相像を復元することができる。
【0117】
本実施形態でも、スペクトル空間にはキャリア周波数のピークの他に、キャリア周波数成分のピーク座標の和または差の位置に高周波成分とDC成分のピークである不要ピーク821が存在する。そのため、切り出すスペクトル領域は、キャリア周波数のピークと不要ピーク821の中間線より内側の切り出し領域831としている。
【0118】
本実施形態で復元できる位相像の空間周波数は、切り出し領域831の大きさの1/2である。従って、図8(B)より、画素配列方向の最大周波数は1/(6P)、45度方向の最大周波数は
【0119】
【数18】

【0120】
である。これを分解能として復元できる最小周期を画素単位で表現すれば、最大周波数の逆数になるので画素配列方向で6画素、45度方向で
【0121】
【数19】

【0122】
である。したがって、画素配列に対して45度方向の空間分解能において、本実施形態は実施形態2よりも優れている。
【0123】
(実施形態4)
本発明によるX線撮像装置の第3の実施形態を図9を用いて説明する。本実施形態のX線撮像装置は、実施形態1から3記載のX線撮像装置に検査物移動装置900を装備したものである。検査物移動装置900によって被検体920をX線の光軸方向に移動させることができる。
【0124】
X線検出器における被検体920の撮像倍率は、X線源910と吸収格子940の距離をL1、X線源910と吸収格子940の距離をL2とすればL1/L2となる。
【0125】
そのため、被検体920を位相格子930に近づければL2が大きくなるため低倍率で撮像することができる。一方、X線源910に近づければL2が小さくなるので高倍率で撮像することができる。
【符号の説明】
【0126】
110 X線源
111 X線
120 被検体
130 位相格子
150 吸収格子
151 透過部
152 遮光部
170 X線検出器
180 演算装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源と、
前記X線源からのX線を透過させることにより、タルボ効果による干渉強度分布を形成する位相格子と、
前記位相格子により形成された干渉強度分布の一部を遮光することによりモアレを生じさせる吸収格子と、
前記吸収格子により生じたモアレの強度分布を検出する検出器と、
前記検出器により検出されたモアレの強度分布から被検体の情報を画像化し、出力する演算装置を有し、
前記演算装置は、
前記検出器で取得したモアレの強度分布をフーリエ変換することにより、空間周波数スペクトルを取得するフーリエ変換工程と、
前記フーリエ変換工程により得られた空間周波数スペクトルから、キャリア周波数に対応したスペクトルを分離し、逆フーリエ変換を用いて微分位相像を取得する位相回復工程と、を実行するように構成されていることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項2】
前記演算装置は、前記位相回復工程により得られた微分位相像を積分することにより位相像を取得する工程を実行するように構成されている請求項1に記載のX線撮像装置。
【請求項3】
前記演算装置は、前記位相回復工程により得られた微分位相像に対してアンラップ処理を行なう位相接続工程を実行するように構成されている請求項1に記載のX線撮像装置。
【請求項4】
前記位相格子は、位相進行部と位相遅延部とが2次元的に周期的に配されている請求項1に記載のX線撮像装置。
【請求項5】
前記位相格子は、前記位相進行部と前記位相遅延部とが市松状に配されている請求項4に記載のX線撮像装置。
【請求項6】
前記位相格子は、前記位相進行部を透過したX線と、前記位相遅延部を透過したX線との位相差がπ/2またはπとなるように構成されている請求項4に記載のX線撮像装置。
【請求項7】
前記フーリエ変換工程で得られたスペクトル空間上において、前記検出器の画素周期をPとしたときに、
【数1】


の位置に前記キャリア周波数に対応したスペクトルが生じるように、前記位相格子、前記吸収格子、前記検出器が調整されていることを特徴とする請求項1に記載のX線撮像装置。
【請求項8】
前記吸収格子は、前記モアレの周期が
【数2】


でモアレの方位が前記検出器の画素配列に対し45度となるように配置され、
前記演算装置は、前記キャリア周波数に対応したスペクトルを分離するために、検出器で得られたモアレ画像の周波数空間から1辺が
【数3】


で、画素配列方向に対し45度傾いた2つの正方形領域を切り出す工程を実行する請求項7に記載のX線撮像装置。
【請求項9】
前記フーリエ変換工程で得られたスペクトル空間上において、前記検出器の画素周期をPとしたときに、
【数4】


の位置に前記キャリア周波数に対応したスペクトルが生じるように、前記位相格子、前記吸収格子、前記検出器が調整されていることを特徴とする請求項1に記載のX線撮像装置。
【請求項10】
前記吸収格子は、前記モアレの周期が3Pでモアレの方位が検出器の画素配列に一致するように配置され、
前記演算装置は、前記キャリア周波数に対応したスペクトルを分離するために、検出器で得られたモアレ画像の周波数空間から1辺が1/(3P)で、画素配列方向に対し正立した2つの正方形領域を切り出す工程を実行する請求項9に記載のX線撮像装置。
【請求項11】
前記被検体をX線の光軸方向に移動させることが可能な検査物移動装置を有する請求項1に記載のX線撮像装置。
【請求項12】
X線撮像装置において用いるX線撮像方法であって、
X線を透過させることにより、タルボ効果による干渉強度分布を形成する工程と、
前記干渉強度分布の一部を遮光することによりモアレを生じさせる工程と、
前記モアレの強度分布を検出する工程と、
前記モアレの強度分布をフーリエ変換することにより、空間周波数スペクトルを取得する工程と、
前記空間周波数スペクトルから、キャリア周波数に対応したスペクトルを分離し、逆フーリエ変換を用いて微分位相像を取得する工程と、
前記微分位相像を積分することにより、位相像を得る工程とを有することを特徴とするX線撮像方法。
【請求項13】
コンピュータに、
X線を透過させることにより、タルボ効果による干渉強度分布を形成する工程と、
前記干渉強度分布の一部を遮光することによりモアレを生じさせる工程と、
前記モアレの強度分布を検出する工程と、
前記モアレの強度分布をフーリエ変換することにより、空間周波数スペクトルを取得する工程と、
前記空間周波数スペクトルから、キャリア周波数に対応したスペクトルを分離し、逆フーリエ変換を用いて微分位相像を得る工程と、
前記微分位相像を積分することにより、位相像を得る工程と、
を実行させることを特徴とするプログラム。


【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−106962(P2013−106962A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−284424(P2012−284424)
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2010−535804(P2010−535804)の分割
【原出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】