説明

被検体情報取得装置および被検体情報取得方法

【課題】超音波画像再構成において、高解像度と高コントラストを実現する。
【解決手段】前記受信信号を用いて適応型信号処理を行い第1の画像データを出力する適応型信号処理部と、前記受信信号に予め定められた重み係数を重みづけして処理し第2の画像データを出力する固定型信号処理部と、前記第1の画像データにおいて、複数のピークのうち出力値が所定値より大きなピークの位置である対象ピーク位置を検出するピーク検出部と、前記第1の画像データと前記第2の画像データとを用いて被検体画像データを生成する合成処理部と、を有し、前記合成処理部は、前記第1の画像データにおける前記対象ピーク位置には前記第2の画像データの出力値を選択することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体を伝播した音響波を受信し、受信信号を用いて画像データを生成する被検体情報取得装置に関し、特に受信信号に適応型信号処理を適用する被検体情報取得装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体内の生体画像情報(例えば断層像もしくは3次元像)を取得する技術として、超音波エコーを用いた技術や光音響トモグラフィー技術などがある。超音波エコーを用いた技術は、被検体に対して超音波を送信し、被検体内で反射された超音波エコー(反射波)を基に生体画像情報を生成する方法である。光音響トモグラフィーは、光エネルギーを被検体に送信し、光エネルギーの吸収によって断熱膨張した結果生じた光音響波を受信して生体画像情報を生成する方法である。従来の画像再構成方法として、受信された超音波の受信信号に整相加算処理を行って、所望位置からの受信信号を抽出する方法が知られている。
【0003】
一方、無線・レーダーの分野において発達した技術として、複数のアレーアンテナを用いた適応型信号処理がある。適応型信号処理は各アンテナから受信される信号のうち、所望の方向からの信号を電力値として効率よく算出する方法である。この適応型信号処理は、その対応手法によって幾つかの処理方法が存在し、方位拘束付電力最小規範(DCMP)・線形予測法・最小ノルム法(MUSIC法・ESPRIT法)などがある。
【0004】
そして、適応型信号処理を超音波画像装置に応用した技術が近年提案されている。超音波エコーの受信信号に適応型信号処理を用いることで、従来の整相加算処理を用いることに比べ、方位分解能の優れた画像データが再構成出来ることが非特許文献1に記載されている。
【0005】
また、適応型信号処理をエコー信号に用いる時には空間平均化処理が重要となる。しかし、この空間平均化処理は、サイドローブレベルを上昇させてコントラスト低下を引き起こすことがある。この問題に対処するために、特許文献1では適応型信号処理による画像データ(適応型データ)と従来の整相加算処理による画像データ(固定型データ)をそれぞれ再構成し、各ボクセルにおいて出力値の低い画像データを優先的に採用している。こうすることでサイドローブの上昇を抑制でき、コントラストが改善されると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−200926号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】IEEE Trans Ultrason Ferroelectr Freq Control. 2007 Aug;54(8):1606-13.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、適応型データのコントラスト低下は、前記のようなサイドローブの上昇以外の要因でも起こる。本発明者らは適応型信号処理を用いて超音波画像を再構成する検討を行ううちに、超音波信号から再構成された適応型データの出力値が従来の固定型データにお
ける出力値よりも低出力になる現象を確認した。出力の低下は適応型データのコントラスト低下の要因となる。このようなコントラスト低下が確認された状況では、特許文献1の手法を用いてもコントラストを改善できない。
【0009】
詳細な検討により、この現象は走査ラインの間隔よりも微細な反射体からのエコー信号を再構成する際に生じることが確認され、この事がコントラスト低下の要因の一つであるとわかった。本課題を解決する為には走査ラインの密度を増やし、走査ラインの間隔を微細な反射体の大きさよりも狭める手法が考えられる。しかし、この手法では走査ラインの本数が増加に伴ってフレームレートが低下してしまう。また、フレームレートを低下させずに走査ラインの本数を増加させる方法として、適応型信号処理の回路規模を増やす手法も考えられる。しかしこの手法では回路規模が実用化には非現実的な大きさとなる。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、方位分解能が高く、且つ、コントラストも良好な被検体の画像データを、現実的な処理規模で生成できる被検体情報取得装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の態様は、被検体内を伝播した音響波を受信した複数の変換素子から出力される受信信号を用いて画像データを生成する被検体情報取得装置であって、前記受信信号を用いて適応型信号処理を行い第1の画像データを出力する適応型信号処理部と、前記受信信号に予め定められた重み係数を重みづけして処理し第2の画像データを出力する固定型信号処理部と、前記第1の画像データにおいて、複数のピークのうち出力値が所定値より大きなピークの位置である対象ピーク位置を検出するピーク検出部と、前記第1の画像データと前記第2の画像データとを用いて被検体画像データを生成する合成処理部と、を有し、前記合成処理部は、前記第1の画像データにおける前記対象ピーク位置には前記第2の画像データの出力値を選択することを特徴とする被検体情報取得装置である。
【0012】
本発明の第二の態様は、被検体内を伝播した音響波を受信した複数の変換素子から出力される受信信号を用いて画像データを生成する被検体情報取得方法であって、前記受信信号を用いて適応型信号処理を行い第1の画像データを出力する適応型信号処理工程と、前記受信信号に予め定められた重み係数を重み付けして処理して第2の画像データを出力する固定型信号処理工程と、前記第1の画像データにおいて、複数のピークのうち出力値が所定値より大きなピークの位置である対象ピーク位置を検出するピーク検出工程と、前記第1の画像データと前記第2の画像データとを用いて被検体画像データを生成する合成処理工程と、を含み、前記画像合成処理工程では、前記第1の画像データにおける前記対象ピーク位置には前記第2の画像データの出力値を選択する、ことを特徴とする被検体情報取得方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高分解能かつ高コントラストな被検体画像を現実的な処理規模で生成できる被検体情報取得装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1及び第2の実施形態の超音波画像装置のブロック図
【図2】整相加算処理を用いた固定型信号処理部のブロック図
【図3】適応型信号処理を用いた適応型信号処理部のブロック図
【図4】ピーク検出部と合成処理部の処理を示すフロー図
【図5】ピーク検出部での抽出データ形式を説明する図
【図6】対象ピーク位置選定の工程を説明する図
【図7】第1及び第2の実施形態の効果を説明する図
【図8】第3の実施形態の超音波画像装置のブロック図
【図9】第3の実施形態の効果を説明する図
【図10】第4の実施形態の光音響波画像装置のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の被検体情報取得装置は、被検体内を伝播した音響波を受信した複数の変換素子から出力される受信信号に基づいて画像データを生成する装置である。本発明の被検体情報取得装置は、超音波画像装置や光音響画像装置を含む。超音波画像装置は、被検体に音響波を送信し、被検体内部で反射・散乱した音響波(反射した超音波)を受信して、被検体情報を画像データとして取得する超音波エコー技術を利用した装置である。光音響画像装置は、被検体に光(電磁波)を照射することにより被検体内で発生した音響波を受信して、被検体情報を画像データとして取得する光音響効果を利用した装置である。前者の超音波エコー技術を利用した装置の場合、取得される被検体情報とは、被検体内部の組織の音響インピーダンスの違いを反映した情報である。後者の光音響効果を利用した装置の場合は、取得される被検体情報とは、光照射によって生じた音響波の発生源分布や、被検体内の初期圧力分布、あるいは初期圧力分布から導かれる光エネルギー吸収密度分布や、吸収係数分布、組織を構成する物質の濃度分布を示す。物質の濃度分布とは、例えば、酸素飽和度分布や酸化・還元ヘモグロビン濃度分布などである。
ここで音響波は典型的には超音波であるが、音波、超音波、光音響波、光超音波と呼ばれる音響波も含む。
【0016】
[第1の実施形態]
(超音波画像装置の構成)
以下、本発明の好適な実施形態について図1を用いて説明する。第1の実施形態にかかる超音波画像装置は、被検体に向けて送信した超音波の反射波を受信し、受信信号を処理することで、生体画像情報を取得する装置である。超音波画像装置は、受信信号から断層面を生成し提示しても良いし、3次元画像も生成し提示してもよい。
【0017】
超音波画像装置の前段の構成は、送信信号処理部001、受信処理部025、超音波プローブ004からなる。超音波プローブ004には、圧電効果などにより電圧(電気信号)と超音波とを相互に変換する変換素子008が複数個設けられている。また、受信処理部025は受信信号処理部002、適応型信号処理部014、固定型信号処理部015、画像処理部006より構成される。適応型信号処理部014は、受信された超音波の受信信号に基づいて、受信した信号ごとに処理パラメータを適応的に変化させる処理を行い、所望の方向からの信号を電力値として効率よく算出する。つまり適応型信号処理では、受信信号に対して、あらかじめ決定された固定の重み付け係数ではなく、適応型信号処理によって注目位置に応じて算出される重み付け係数を用いて、注目位置毎の受信電力が推定される。適応型信号処理としては、方位拘束付電力最小規範(DCMP)が採用できる。DCMPは、複数の素子で超音波を受信した際に、所望の方向(注目位置)に関する感度を固定した状態で信号電力を最小化するように受信信号を処理する方法である。本実施形態では、DCMP法の一種であるCAPON法を採用する。なお、適応型信号処理部014には、DCMP以外に線形予測法・最小ノルム法(MUSIC法・ESPRIT法)を採用してもかまわない。固定型信号処理部015は、あらかじめ定められた(固定の)重み付け係数を用いて重みづけし、複数の受信信号を合成(加算)する。固定型信号処理としては、重み付け係数を一様な大きさに設定する方法や、重み付け係数をハミング窓の係数に設定する方法などがある。なお重み付け係数の窓関数にはどのようなものを用いても良い。画像処理部006は、適応型信号処理部014および固定型信号処理部015から出力されるそれぞれのデータに対してlog圧縮や各種画像フィルタなどによる画像処理(エッジ強調、スムージングなど)を行う。
【0018】
超音波画像装置の後段の構成は、再構成された画像データを一時保存するデータ用メモリ016、017と、画像データ中において「対象ピーク」となるピーク位置を検出するピーク検出部018と、ピーク位置の情報を基に画像データを合成する合成処理部019と、合成画像を表示する画像表示部007を含む。対象ピークについての詳細は、図6等を用いて後述する。
【0019】
また、超音波画像装置は、送信信号処理部001、受信信号処理部002、画像処理部006、合成処理部017などを含むシステム全体を制御するシステム制御部003を有する。
【0020】
(超音波画像装置の動作)
超音波画像装置は、送信開口を形成する複数の変換素子008から超音波を送信する。この送信は送信開口の中央に位置し、深さ方向の走査ライン013にフォーカスをあわせて行われる。フォーカス位置が設定されると、システム制御部003から送信信号処理部001へ設定情報が送られる。送信信号処理部001はその設定情報を元に送信開口を形成する変換素子008群を駆動させる遅延時間を決定する。そして送信信号処理部001から変換素子008群に遅延時間を考慮した電気信号(送信信号)が送られる。これよりフォーカス位置に向かって超音波が伝播される。このように送信し伝播された超音波は被検体によって反射・散乱されて再び超音波(反射波)として変換素子008に戻ってくる。このうち受信開口を形成する複数の変換素子008群において、超音波が電気信号に変換され受信信号として取得される。受信開口は例えば32個の変換素子008群から形成される。この場合、走査ライン013上の画像データはこの32個の受信信号から再構成される。
【0021】
受信信号処理部002は深さ情報を元に受信信号の遅延時間を決定し、各受信信号に対して遅延処理を行う。なお、図2,図3では受信信号処理部002は整相遅延部009のみから構成されるように示しているが、雑音信号除去用のフィルタ処理部を導入することも有効である。その後、遅延処理された受信信号を適応型信号処理部014と固定型信号処理部015において、所望位置からの信号を抽出した適応型データ(第1の画像データ)と固定型データ(第2の画像データ)がそれぞれ再構成される。
【0022】
図2に固定型信号処理部015内の処理のブロック図を示す。固定型信号処理部015においては、前記遅延処理後の32個の受信信号を加算部010にて予め定められた固定の重み係数で合計し、ヒルベルト変換部011、直交検波部012とそれぞれの処理を経て固定型データが再構成される。再構成された固定型データは画像処理部006に出力される。
【0023】
図3に適応型信号処理部014内の処理のブロック図を示す。適応型信号処理部014においては遅延処理後の32個の受信信号を適応的に変化する重み係数をかけて合成する。詳細を説明すると、まずヒルベルト変換部011において複素数信号に変換後、相関行列部020において32×32の相関行列に変換する。その後、相関性雑音信号の影響を除去する為、空間平均化部021において16×16の部分行列17個に変換された相関行列を対角方向に平均化する。電力算出部022で平均化された16×16の行列をもとに注目位置毎の電力値を示す電力分布として適応型データが生成される。生成された適応型データは画像処理部006に出力される。
【0024】
両信号処理部にて再構成された画像データは画像処理部006においてそれぞれLOG圧縮される。この時、適応型データには10LOG10を、固定型データには20LOG10を施す。なお、LOG圧縮は画像処理部006で行わず、後段の合成処理部019で行うことも可能である。また、画像処理部006では雑音信号除去用のフィルタ処理部を
導入することも有効である。
【0025】
LOG圧縮された適応型データ(LOG圧縮された第1の画像データ)およびLOG圧縮された固定型データ(LOG圧縮された第2の画像データ)は各専用のデータ用メモリ016、017にて一時保管される。ピーク検出部018において、データ用メモリ016内に保存された適応型データを読み込み処理する事で、適応型データ内の各位置での電力の出力値をもとに、複数のピークのうち周囲と比較して出力値が所定値より大きくなるピーク(対象ピーク)位置を検出する。なお、詳細は後述するが、該所定値は、固定である必要はなく、各ピーク毎に、そのピークの周囲の値を用いて算出するとよい。その後合成処理部019にて、データ用メモリ016,017に保存された両画像データを合成する。その合成とは、対象ピーク位置の値には固定型データを選択し、対象ピーク位置以外の位置の値には適応型データを選択するものである。最後にその合成画像を画像表示部007にて表示する。画像表示部007は、LCDであっても良いし、CRT、PDP、FED、OLEDなどの他のものであっても良い。
【0026】
図4は、ピーク検出部018及び合成処理部019での処理過程をフローチャートで示したものである。このフローチャートに記載した処理過程の詳細を以下で説明する。
【0027】
ピーク検出部018は微細な反射体の存在が想定される位置を検出する為の処理部である。図5にデータ用メモリ016に格納される適応型データを示す。ピーク検出部018は、この適応型データを読込データ026として読み込む(S41)。その後走査ライン013に対し垂直の方向の画像データ(横ラインデータ027)を処理領域としてデータ列に並べて抽出する(S42)。この処理領域として横ラインデータ027の代わりに走査ライン013と平行な縦ラインデータ028を用いることも可能である。また、ラインデータのみではなく、画像データ全体を任意の大きさに分割した2次元画像データ029を用いる事もできる。ちなみに、図5の吹き出し内の折れ線は、各ラインデータのデータ列を表現したものである。
【0028】
なお、超音波画像は走査ライン013上の画像データの再構成と走査ライン013の移動とを繰り返す事で2次元の画像となる。その為、横ラインデータ027や2次元画像データ029を処理領域に選択する為には、該データ用メモリ016に処理領域が確保されるまで、縦ラインデータ028を蓄積する必要がある。
【0029】
図4のフローチャートで示したピーク・オフセット検出処理では、ピーク位置とそのピーク値の基準となるオフセット値とを設定する(S43)。抽出した横ラインデータ027から対象ピークが算出される過程を図6に示した。図6Aは、縦軸を出力値、横軸をライン上の座標位置として、横ラインデータ027を表したものである。ピーク検出部018は、まず、抽出データ列に対して微分処理及び2階微分処理を行い、その結果から上に凸のピーク(極大値)と下に凸の逆ピーク(極小値)の位置と出力値を確認する(図6B)。次に各ピークに対応するオフセット値として各ピークの前後に位置する逆ピーク2つの平均値を選択する(図6C)。なお、オフセット値は、ピークの出力値が周囲と比較してどれだけ大きいかを算出するためのものであるので、隣接する逆ピーク2つの平均に限られる必要はない。たとえば、ピークの前後に位置する逆ピーク位置付近の出力値を基に算出した基準値(平均値、中央値)や、横ラインデータ027のノイズレベルや、あらかじめ設定された基準値をオフセット値として用いることも可能である。また、このピーク及びオフセット値を算出する過程において、抽出データ列に対しローパスフィルタをはじめとするフィルタ処理を施したのち、最小二乗法を用いた近似曲線を算出して求める方法もある。これは近似曲線の式から上に凸のピークと下に凸の逆ピークの位置と出力値を算出し、あとは上記と同じ手法でピーク、オフセット値の選定を行う方法である。
【0030】
次に各ピークとそれに対応するオフセット値の出力差からピーク値を算出する(S44,図6C)。これらの手法で算出した各ピーク値が、所定の閾値αdBより大きい場合のみ、そのピークの位置を「対象ピーク位置」として決定する(S45,図6D)。ここでαdB以上という制限を設けた理由は、微細な反射体とは想定されない低出力のピーク値を処理から除外する為である。このα値は対象部位や超音波装置の駆動条件によって変更する事も可能である。また、操作者が表示される画像を確認しながらリアルタイムで値を変更することも有効である。このような手法により、適応型データ内において、複数のピークのうち出力値が所定値より大きな対象ピーク位置を検出する。なお、上述したように、該所定値は、固定である必要はなく、ピーク毎に、そのピークの周囲の値を用いて算出するとよい。上述した手法では、オフセット値をピーク毎に算出している。よって、ピーク値とそれに対応するオフセット値との差を、所定の閾値αdB(各ピーク間で同じ値)を比較することで、結果的に、ピーク毎に、ピーク値とそのピークの周囲の値を用いて算出された所定値(ピーク毎に決まる変動値)とを比較していることになる。
【0031】
以上がピーク検出部018における処理過程である。ピークの検出は、微分を用いる方法以外の方法によっても良い。たとえば、抽出領域を狭い範囲で設定し、ピーク(極大)を抽出領域の最大値の位置に設定し、オフセット値を該抽出領域の最小値、平均値、中央値、または予め設定された基準値に設定し、これらの差から対象ピーク位置を検出する事も可能である。この場合、前記最大値と前記オフセット値との差を求めることで、適応型データにおいて、ピークの値が所定値より大きな対象ピークを検出している。なお、この時の抽出領域はラインデータ、2次元データのどちらでも可能である。
【0032】
合成処理部019では、適応型データの対象ピーク位置の値を固定型データに置き換えた合成画像データを出力する(S46)。その合成画像を画像表示部007にて表示する(S47)。図6Eに対象ピークにおける合成処理を行った様子を示す。この合成データの様子から、方位分解能の優れた適応型データにおいて、対象ピーク位置の値を高出力な固定型データの値を選択する事で、方位分解能とコントラストの優れた画像を、走査ライン013の数を増やすことなく実現できることがわかる。なお、対象ピーク位置というのは、適応型データがピーク(極大)をとる1点のみを意味するだけでなく、その周囲を含んでもかまわない。すなわち、ピークをとる位置周辺のいくつかの点(位置)について、適応型データの値を固定型データの値に置き換えても良い。ピーク位置周辺の何点について値を置き換えるかは、予め定められていても良いし、適応型データの出力値とオフセット値の差に基づいて定められても良いし、適応型データと固定型データの比較に基づいて定められても良い。
【0033】
本実施形態に示した処理を用いて再構成した画像のシミュレーション結果を図7に示す。図7は適応型信号処理(CAPON法)と固定型信号処理(整相加算処理)を用いて再構成したワイヤファントム(φ0.1mm)の断面出力値を示したものである。なお、画像の
各走査ライン013の間隔をワイヤ径0.1mmよりも大きい0.3mmで設定した。図7から適応型データ(点線)は固定型データ(破線)と比較して、高解像度ではあるが低コントラストという、課題に挙げられた内容が確認できる。図7の細実線が、本実施形態の処理を用いた合成データである。本実施形態によって、解像度とコントラストに優れた画像が実現でき、走査ライン間隔よりも小さい反射体を適切に画像化できる。
【0034】
[第2の実施形態]
(超音波画像装置の構成)
本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態は第1の実施形態のピーク検出部018の処理において、抽出する処理領域データの形式が、走査ライン013と平行に並んだ縦ラインデータ028の場合に有効な手法である。図8は本実施形態の装置構成を示しており、第1の実施形態で示した図1のシステムから、データ用メモリ016、01
7を除去した構成となっている。なお本実施形態では、第1の実施形態で示した図1のシステムを用いることも可能である。
【0035】
(超音波装置の動作)
画像処理部006におけるLOG圧縮までの動作は第1の実施形態と同じである。ピーク検出部018での処理の為に抽出する画像データ形式が横ラインデータ027及び2次元画像データ029である場合は、その抽出領域が確保されるまではLOG圧縮以前の前処理を繰り返す。そして該データ用メモリ016,017に該前処理毎に再構成される縦ラインデータ028群を蓄積する必要がある。
【0036】
しかし、本実施形態のように、抽出領域が1ライン分の縦ラインデータ028の場合は各走査ライン013上の縦ラインデータ028が再構成され次第、該縦ラインデータ028をピーク検出部018に読み込み抽出する事が可能である。あとは第1の実施形態と同様に抽出領域に縦ラインデータ028を用いてピーク検出処理を行えばよい。本実施形態を用いても、出力画像データの断面出力値は図7と同様の結果を示す。ただし、閾値αの設定により効果の度合いが変化する。つまり、本実施形態を用いる事でデータ用メモリ016、017を用いなくとも第1の実施形態と同様の効果を実現できる。
【0037】
[第3の実施形態]
(超音波画像装置の構成)
本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態は被検体内に複数の近接する微細な反射体が存在した時に、高解像度かつ高コントラストの画像を再構成するのに有効な手法である。本実施形態のシステムは、第1の実施形態で示した図1のシステムと同じ構成であるが、合成処理部019での処理の形態が異なっている。なお、ピーク検出部018の処理での抽出する画像データ形式が縦ラインデータ028の時は、第2の実施形態で示した図9のシステムを用いる事も可能である。
【0038】
(超音波画像装置の動作)
本実施形態は、第1及び第2の実施形態でのピーク検出部018における対象ピーク位置設定までは、同じ処理を行っている。その後、本実施形態では合成処理部019において、対象ピーク位置は固定型データの値を選択し、対象ピーク位置以外は固定型データの出力値P1と適応型データの出力値P2の合成値を選択する。合成値Poutは下記式のβの値で表現される。なお、βは固定型データと適応型データの合成比を表し、P1とP2の大小関係に応じて決定される。
【数1】

【0039】
本実施形態の効果を確認するシミュレーション実験を行った。2つの近接する微細な反射体に対する超音波の送受信の状況をシミュレーションにて再現し、固定型信号処理、適応型信号処理と、本実施形態の合成処理にて画像再構成をそれぞれ行った。なお反射体の大きさをφ0.1mm、各走査ライン013の間隔を0.5mmに設定しており、反射体は各走査ライン013の間隔よりも小さい。また合成処理部019における対象ピーク位置以外における出力値Poutは、上記式においてP1<P2の場合はβ=1、P1≧P2の場合はβ=0に設定して
合成値Poutを算出した。結果の断面出力図を図9に示す。まず、この図よりピークの出力値に関しては、固定型データに比べて適応型データの出力値の方が低い。また、2つの微細な反射体の間の出力は適応型データの方が固定型データに比べて抑えられていない。それらに対し、本実施形態による合成画像の出力は、他の画像と比較して、高解像度且つ高コントラストである。
【0040】
なお、上記のβ値の設定は一例であり、必ずしも0又は1とする必要はない。たとえば
、固定型データの出力値P1の方が適応型データの出力値P2よりも小さい場合に、そうでない場合よりも大きなβ値を採用するようにしても良い。また、このようなβ値の設定を採用する場合には、上記のような重み付き平均のみではなく、下記のような重み付き相乗平均の式を用いる事も有効である。
【数2】

【0041】
このように、本実施形態では対象ピーク位置以外の位置で、単純に適応型データを採用するのではなく、適応型データと固定型データの合成値を採用している。こうすることで、複数の近接する微細な反射体が存在した場合でも、高解像度且つ高コントラストの画像が実現できる。
【0042】
[第4の実施形態]
(光音響画像装置の構成)
本発明の第4の実施形態は、被検体に光(電磁波)を照射することにより被検体内で発生した音響波を受信して、被検体情報を画像データとして取得する光音響効果を利用した光音響画像装置である。図10は本実施形態の装置構成を示しており、第1の実施形態で示した図1のシステムの送信信号処理部001の代わりに光源駆動部023、光源024からなる光照射部を備えたものである。
【0043】
(光音響画像装置の動作)
被検体内の目標位置が設定されると、図10に記載のシステム制御部003から光源駆動部023へ設定情報が送られる。光源駆動部023は光源024を駆動し、パルスレーザーなどのパルス状の電磁波を被検体に照射する。この照射によって被検体内で励起された音響波は変換素子008で受信される。その後は第1の実施形態と同様の処理を行うことで画像を再構成する。
【0044】
以上の方式を導入した結果、通常の超音波画像と同様に高解像度かつ高コントラストの画像を実現できる。
【0045】
[その他]
上記では、被検体情報取得装置が、超音波プローブ、送信信号処理部、受信信号処理部を有し、生成した被検体画像を画像表示部に表示するものとして説明した。しかし、本発明に係る被検体情報取得装置は別の装置が受信した超音波(音響波)を取得し、上記処理にしたがって被検体画像データを生成しても良い。また、生成した被検体画像データを、画像表示部に表示せずに、記憶装置に記憶したり、他の装置に出力・送信したりするようにしても良い。
【符号の説明】
【0046】
014…適応型信号処理部
015…固定型信号処理部
018…ピーク検出部
019…合成処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内を伝播した音響波を受信した複数の変換素子から出力される受信信号を用いて画像データを生成する被検体情報取得装置であって、
前記受信信号を用いて適応型信号処理を行い第1の画像データを出力する適応型信号処理部と、
前記受信信号に予め定められた重み係数を重みづけして処理し第2の画像データを出力する固定型信号処理部と、
前記第1の画像データにおいて、複数のピークのうち出力値が所定値より大きなピークの位置である対象ピーク位置を検出するピーク検出部と、
前記第1の画像データと前記第2の画像データとを用いて被検体画像データを生成する合成処理部と、
を有し、
前記合成処理部は、前記第1の画像データにおける前記対象ピーク位置には前記第2の画像データの出力値を選択する
ことを特徴とする被検体情報取得装置。
【請求項2】
前記合成処理部は、前記対象ピーク位置以外では第1の画像データの出力値を選択するか、もしくは第1および第2の画像データに基づいて定められる値を選択して、前記被検体画像データを生成する、
請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項3】
前記合成処理部は、対象ピーク位置以外では第1の画像データの出力値を被検体画像データとして選択する、
請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項4】
前記合成処理部は、対象ピーク位置以外では第1の画像データと第2の画像データの合成値を被検体画像データとして選択する、
請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項5】
前記合成処理部は、対象ピーク位置以外では第1の画像データと第2の画像データのうち低出力の値を被検体画像データとして選択する、
請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項6】
前記ピーク検出部は、前記受信信号が極大値をとる位置を求め、極大値とその周囲での値との差が所定の閾値よりも大きい場合に、当該極大値をとる位置を対象ピーク位置として検出する、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項7】
前記ピーク検出部は、前記受信信号から極小値をとる位置も求め、極大値と当該極大値に隣接する2つの極小値から求められる値との差が前記所定の閾値よりも大きい場合に、当該極大値をとる位置を対象ピーク位置として検出する、
請求項6に記載の被検体情報取得装置。
【請求項8】
前記第1の画像データおよび前記第2の画像データの形式が、被検体の深さ方向に垂直な方向のラインデータである、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項9】
前記第1の画像データおよび前記第2の画像データの形式が、被検体の深さ方向に平行な方向のラインデータである、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項10】
前記第1の画像データおよび前記第2の画像データの形式が、画像データ全体を任意の大きさに分割した2次元画像データである、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項11】
被検体に対して音響波を送信し、前記被検体から反射または散乱される音響波を受信する複数の変換素子を備える、
請求項1〜10のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項12】
被検体へ電磁波を照射する照射部と、
電磁波の照射によって前記被検体から生じる音響波を受信する複数の変換素子と、
を備える、請求項1〜10のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項13】
被検体内を伝播した音響波を受信した複数の変換素子から出力される受信信号を用いて画像データを生成する被検体情報取得方法であって、
前記受信信号を用いて適応型信号処理を行い第1の画像データを出力する適応型信号処理工程と、
前記受信信号に予め定められた重み係数を重み付けして処理して第2の画像データを出力する固定型信号処理工程と、
前記第1の画像データにおいて、複数のピークのうち出力値が所定値より大きなピークの位置である対象ピーク位置を検出するピーク検出工程と、
前記第1の画像データと前記第2の画像データとを用いて被検体画像データを生成する合成処理工程と、
を含み、
前記合成処理工程では、前記第1の画像データにおける前記対象ピーク位置には前記第2の画像データの出力値を選択する、
ことを特徴とする被検体情報取得方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−235884(P2012−235884A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106465(P2011−106465)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】