被検体情報取得装置および被検体情報取得方法
【課題】光音響トモグラフィーにおいて、被検体と探触子の界面における反射損失を補正することで、再構成画像の解像度を改善する。
【解決手段】光を照射された被検体内部で発生して被検体表面に伝搬する音響波を受信して受信信号とする探触子と、受信信号の強度を用いて被検体内部の光学特性値に基づく情報である被検体情報を生成する処理部を有し、処理部は、探触子に音響波が入射する角度、ならびに、被検体および探触子の音響インピーダンスおよび音速を用いて計算された、探触子に音響波が入射するときの反射率を用いて、受信信号の強度を補正する被検体情報取得装置を用いる。
【解決手段】光を照射された被検体内部で発生して被検体表面に伝搬する音響波を受信して受信信号とする探触子と、受信信号の強度を用いて被検体内部の光学特性値に基づく情報である被検体情報を生成する処理部を有し、処理部は、探触子に音響波が入射する角度、ならびに、被検体および探触子の音響インピーダンスおよび音速を用いて計算された、探触子に音響波が入射するときの反射率を用いて、受信信号の強度を補正する被検体情報取得装置を用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体情報取得装置および被検体情報取得方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザーなどの光源から生体に光を照射し、生体内の情報を得る光イメージング技術の研究が医療分野で積極的に進められている。この光イメージング技術の一つとして、Photo Acoustic Tomography(PAT:光音響トモグラフィー)がある。光音響トモグラフィー装置は、光源から発生したパルス光を生体に照射し、生体内で伝搬、拡散した光エネルギーを吸収した生体組織が瞬間的に膨張する際に発生する音響波(典型的には超音波)を、探触子によって複数の位置で受信する。これにより例えば、腫瘍などの被検部位とそれ以外の組織との光エネルギーの吸収率の差を検出できる。
【0003】
続いて、画像再構成領域(生体内の情報をイメージングする領域)を、複数のボクセルまたはピクセルに分割する。そして、該ボクセルまたはピクセルから探触子の素子に音響波が到達する時間帯の受信信号を用いて画像再構成する。画像再構成の際にはFBP(Filtered Backprojection)や整相加算(DELAY−AND−SUM)などの既知の手法を利用できる。これにより、生体内の光学特性値分布、例えば初期音圧分布や吸収係数分布を得ることができる。様々な波長の光で光音響計測を行うことにより、被検体内の特定物質の定量的観測、例えば血液中に含まれるヘモグロビン濃度の計測や血液の酸素飽和度の計測を行うことができる。
【0004】
光音響トモグラフィーにおいて、音響波の受信には探触子が用いられる。同様に探触子を用いて音響波を受信する超音波診断装置の分野において、探触子の受信感度は、探触子への音響波の入射角度に依存することが知られている(非特許文献1)。すなわち、探触子への音響波の入射角度が大きくなるほど、探触子の受信感度が小さくなるため、良好な指向性のイメージングができないという課題が知られている。
【0005】
そこで特許文献1では、入射角度による受信感度の違いを補正する手法が開示されている。特許文献1では、探触子から音響波をある角度で送信し、被検体からの反射波を受信する。そして、探触子の素子ごとに増幅率を変えることで音響波の入射角度に応じて生じる感度差を補正し、各素子の感度を一定にして、良好な指向性のイメージングを行おうとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−021744号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】伊東正安、望月剛共著「超音波診断装置」コロナ社出版、2002年8月26日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光音響トモグラフィーの分野においても、探触子の受信感度が音響波の入射角度によって異なることが問題となる。同じ強度の音響波でも、探触子に斜めに入射した方が探触子に垂直に入射するよりも小さく検出されるため、任意のボクセルまたはピクセルから素子への見込み角(開口角)が見かけ上小さくなる。開口角が小さくなると再構成画像の解像
度が低下する。これは、光音響トモグラフィーの原理上、理想的には光吸収体の全周で音響波を受信して画像再構成することにより光吸収体のサイズを正確に知ることができる一方、音響波を受信する範囲が限られている場合は再構成画像がぼやけてしまうことによる。
【0009】
この問題に対して、超音波診断の分野では、特許文献1の手法で対応している。しかし光音響トモグラフィーでは、音響波を受信した時点でその音響波がどの角度から伝搬してきたのかを知ることはできないため、特許文献1の手法を用いることができない。仮に特許文献1の手法を光音響トモグラフィーに適用しても、画像再構成するボクセルまたはピクセルから受信されるべき時間帯以外の信号も増幅されてしまうため、不適切である。
【0010】
また、探触子の感度は開口と探触子表面での反射損失で決まる。ここで、探触子の開口と探触子表面での反射損失との関係について説明する。
まず、図12に、生体組織の音響インピーダンスの表を示す(出典:非特許文献1、p.13の表2.1)。ここから分かるように、生体組織の音響インピーダンスは伝搬媒質ごとに異なる。
【0011】
図10は、音響波の探触子への入射角度と探触子内部への透過率との関係を示したグラフ(実線)と、音響波の探触子への入射角度と探触子の受信感度との関係を探触子の素子サイズごとに示したグラフ(各点線)を合わせたものである。ここで、音響波の周波数は1MHzとした。また、被検体の音響インピーダンスZ1=1.5×106kg/m2s、被検体の音速c1=1500m/s、探触子(探触子表面の音響整合層)の音響インピーダンスZ2=1.8×106kg/m2s、探触子の音速c2=2100m/sとした。
【0012】
グラフを見ると、探触子の素子サイズが1mm以上の場合には、探触子表面での反射損失による感度の低下よりも探触子の開口による感度の低下の方が支配的である。ところが、探触子の素子サイズが0.5mm以下になると、探触子表面での反射損失による感度の低下の方が支配的である。従って、特に探触子の素子サイズが小さいときに、探触子表面での反射損失による探触子の感度の低下が課題となる。
【0013】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、光音響トモグラフィーにおいて、被検体と探触子の界面における反射損失を補正することで、再構成画像の解像度を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下の構成を採用する。すなわち、光を照射された被検体内部で発生して被検体表面に伝搬する音響波を受信して受信信号とする探触子と、前記受信信号の強度を用いて前記被検体内部の光学特性値に基づく情報である被検体情報を生成する処理部と、を有する被検体情報取得装置であって、前記処理部は、前記探触子に前記音響波が入射する際の角度に応じて求められる前記音響波の反射損失に対応した増幅を行って、前記受信信号の強度を補正することを特徴とする被検体情報取得装置である。
【0015】
本発明はまた、以下の構成を採用する。すなわち、探触子が、光を照射された被検体内部で発生して被検体表面に伝搬する音響波を受信して受信信号とする受信ステップと、処理部が、前記受信信号の強度を用いて前記被検体内部の光学特性値に基づく情報である被検体情報を生成する処理ステップと、を有する被検体情報取得方法であって、前記処理ステップでは、前記探触子に前記音響波が入射する際の角度に応じて求められる前記音響波の反射損失に対応した増幅が行われて、前記受信信号の強度が補正されることを特徴とする被検体情報取得方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光音響トモグラフィーにおいて、被検体と探触子の界面における反射損失を補正することで、再構成画像の解像度を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1の光音響信号取得装置の構成を説明する図。
【図2】光吸収体と探触子の各素子との位置関係を説明する図。
【図3】被検体と探触子との界面で音響波の反射を説明する図。
【図4】実施例1の補正処理のフロー図。
【図5A】実施例2の光音響信号取得装置の構成を説明する図。
【図5B】実施例2の補正処理のフロー図。
【図6】実施例3の補正処理のフロー図。
【図7】実施例4の光音響信号取得装置の構成を説明する図。
【図8】保持板内での音響波の伝搬を説明する図。
【図9】実施例6の光音響信号取得装置の構成を説明する図。
【図10】音響波の探触子への入射角度を説明する図。
【図11】光吸収体断面の強度分布を模式的に示した図。
【図12】生体組織の音響インピーダンスの表。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る被検体情報取得装置の例として、光音響信号取得装置について説明する。ただし、本発明の対象は以下の構成に限定されることはない。本発明は、以下の機能を実現するための被検体情報取得方法や、ネットワークや記憶媒体を介して情報処理装置(コンピュータ等)に供給されることにより、以下の機能を実現させる被検体情報取得プログラムとして捉えることもできる。
【0019】
(光音響信号取得装置)
本発明の光音響信号取得装置は、被検体内部の情報(被検体情報)を計算により生成する装置である。光音響信号取得装置は、基本的なハードウェア構成として、光源、音響波の受信器としての探触子、処理部を有する。光源から発せられたパルス光は生体などの被検体に照射される。被検体内部を伝搬した光のエネルギーの一部が血液などの光吸収体(音源)に吸収されると、その光吸収体の熱膨張により音響波(典型的には超音波であり、光音響波または光超音波とも呼ぶ)が発生する。音響波は探触子により受信されて電気信号となり、処理部に転送される。転送された電気信号は、処理部で被検体内の光学特性値分布情報などに変換されて被検体情報となる。光学特性値分布情報の形式は特に限定されることはなく、2次元とするか3次元とするか等、測定の目的や装置の構成等により任意に定めることが出来る。生成される被検体情報には、光学特性値分布や吸収係数分布の他、それに基づく初期音圧分布、物質濃度や酸素飽和度を含めることができる。さらにこれらの情報に基づいて画像を形成し表示するための画像データも含め得る。
【0020】
(光源)
被検体が生体の場合、光源からは生体を構成する成分のうち特定の成分に吸収される特定の波長の光を照射する。光源は、光音響信号取得装置と一体として設けられていても良いし、光源を分離して別体として設けられていても良い。光源のパルス幅としては、効率的に光音響波を発生させるため10ナノ秒程度のパルス幅が使われる。光源としては大出力が得られるためレーザーが好ましいが、レーザーの代わりに発光ダイオードやフラッシュランプ等を用いることも可能である。レーザーとしては、固体レーザー、ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザーなど様々なレーザーを使用することが出来る。照射のタイミング、波形、強度等は不図示の光源制御部によって制御される。なお、この光源制御
部は、光源と一体化されていても良い。本発明において、使用する光源の波長は、被検体内部まで光が伝搬する波長であることが望ましい。具体的には、被検体内が生体の場合、500nm以上1200nm以下である。
【0021】
(探触子)
探触子は、パルス光を照射された被検体表面及び被検体内部で発生し、伝搬する音響波を受信する受信器である。探触子は、受信した音響波を、アナログ信号である電気信号(受信信号)に変換する。圧電現象を用いた探触子、光の共振を用いた探触子、静電容量の変化を用いた探触子等、音響波を受信できるものであれば、どのような探触子を用いても構わない。探触子として、複数の受信素子が1次元、或いは2次元に配置された素子を用いれば、同時に複数の場所で音響波を受信することにより、測定時間を短縮できる。受信素子が1つの場合には、探触子を走査させることで複数の位置で音響波を受信しても良い。また、探触子は通常、音響整合層を備えるため、以下の補正で用いる探触子の音響インピーダンスや音速等は、探触子の最表面の音響整合層の値とする。
【0022】
(処理部)
処理部は、コンピュータ等の情報処理装置や回路により構成され、電気信号の処理や演算を行う。処理部は、探触子より得られた電気信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する変換部を有する。変換部は、同時に複数の信号を処理できることが望ましい。それにより、画像を形成するまでの時間を短縮できる。変換されたデジタル信号はメモリに格納される。
【0023】
処理部はまた、テーブルに格納されたデータ等を用いて、メモリに格納された信号に基づき、被検体と探触子との間の界面での反射損失を補正する、補正演算部を有する。そして処理部は、補正された信号に基づき、例えばタイムドメインでの逆投影などにより、光学特性値分布などの被検体情報を生成する。
【0024】
上記補正演算部は、任意のボクセルまたはピクセルの画像再構成において特徴的な信号補正処理、すなわち、音響波信号の強度を増幅する処理を行う。処理部は、該ボクセルまたはピクセルから探触子に垂直に入射する反射損失が小さい信号よりも、該ボクセルまたはピクセルに探触子に斜めに入射する反射損失が大きい信号を、より大きく増幅する。その結果、探触子表面での音響波の反射損失による感度差の角度分布が小さくなり、解像度の低下が改善する。
【0025】
図11は、本発明の反射損失補正の有無によって、被検体内にある光吸収体の強度分布がどのように変わるのかを模式的に示したものである。図11(a)、図11(b)は、それぞれ反射損失補正をする前と後の光吸収体断面の強度分布を模式的に示した図である。図中、横軸が被検体上での距離を、縦軸が信号強度を表す。このように、被検体内の情報を画像化する際に反射損失を補正することで解像度が改善することが分かる。
【0026】
以下に図面を参照して、本発明の各実施例について説明する。
【0027】
<実施例1>
図1は、本発明の実施例1に係る光音響信号取得装置の構成を示したものである。
光源101はYAGレーザーの2倍波で励起されたチタンサファイアレーザーであり、パルス光102を発生する。照射光学系103は、例えばレンズ、ミラー、光ファイバなどで構成される。光源101から発せられたパルス光102は、照射光学系103により導かれ、被検体104に照射される。被検体104の内部を伝搬した光のエネルギーの一部が血液などの光吸収体105に吸収されると、音響波106が発生し、被検体104内を伝搬する。探触子108の方向に伝搬した音響波の一部は反射波107となり、それ以
外は探触子により受信される。
【0028】
探触子108は、素子により音響波106を受信してアナログの電気信号に変換し、受信信号109として、処理部110に送る。処理部110は、変換部110a、メモリ110b、第1のテーブル110cおよび補正演算部110dで構成される。変換部110aは、受信信号109を増幅し、A/D変換する。変換後のデジタル信号は、メモリ110bに格納される。第1のテーブル110cには、被検体と探触子の、音響インピーダンス、密度、音速のうち少なくともいずれか2つが格納されている。ただし、これらのデータは入力手段を介して操作者により変更可能である。補正演算部110dは、第1のテーブルに入力されたデータに基づいて、メモリ110bに格納された信号の反射損失を補正し、画像再構成を行う。
【0029】
補正演算部110dで行う本発明の特徴である反射補正処理を説明するために、受信信号109について、図2を用いて説明する。図2(a)は、光吸収体105と探触子108の各素子108a〜108eとの位置関係を説明するための図である。素子108aと光吸収体105との間の距離に比べて、素子108cと光吸収体105との間の距離の方が短いため、音響波106が素子108aで受信される時間よりも素子108cで受信される時間の方が早くなる。従って、画像再構成するボクセルまたはピクセルから受信されるべき時間帯の信号は、探触子の中の素子の位置に応じて異なってくる事がわかる。
【0030】
図2(b)は、伝搬する信号の関係を説明するための図である。t=0は基準時間である。t=t1において、素子108cで信号109cが受信される。109a〜109eは素子108a〜108eに対応する音響波の信号である。探触子108からの受信信号は、変換部110aを介してメモリ110bに格納される。
【0031】
図3(a)は、被検体と探触子の界面で、音響波が反射または透過する様子を模式的に示した図である。図3(a)において、Z1は被検体104の音響インピーダンス、Z2は探触子108の音響インピーダンス(音響整合層のインピーダンス)である。また、θ1は音響波が探触子に入射する角度、θ2は音響波が探触子に入射した後の角度、c1は被検体の音速、c2は探触子の音速である。被検体を伝搬した音響波106は、一部が反射波107となり、残りが探触子に入射する。
【0032】
図3(b)は、音響波が探触子に入射する角度θ1と反射率Rとの関係を示すグラフである。ここで、被検体と探触子に関する値は、Z1=1.5×106kg/m2s、c1=1500m/s、Z2=1.8×106kg/m2s、c2=2100m/sとして計算した。図3(b)から分かるように、反射率Rは音響波が探触子に入射する角度θ1に依存する。一般に、音響波の入射角度θ1が大きいと反射率Rが大きくなるため、素子への音響波の入射角度が大きいほど音響波の受信強度が小さくなる。
【0033】
次に、本発明の特徴である補正演算部110dで行う反射補正処理のフローについて、図4を参照しつつ以下に説明する。前提として、被検体のうち画像再構成の対象となる領域について、光源から光が照射され、それによって発生した音響波が探触子の各素子により受信されているものとする。この状態から、処理部による画像再構成が開始される。
【0034】
(ステップS101)補正演算部110dは、画像再構成する領域から、任意のピクセルまたはボクセルを選択する。ここでは、ボクセルを選択して3次元の再構成をする例について説明する。
(ステップS102)補正演算部110dは、選択したボクセルを再構成するために利用できる信号を選択する。これは、ボクセルの位置に基づいて、再構成に利用可能な音響波が受信できる探触子の素子を選択することに相当する。
(ステップS103)補正演算部110dは、図2(b)のような位置関係に起因する音響波の到達時間に基づき、選択した信号のうち、ステップS101で選択したボクセル由来の音響波に基づく時間範囲を算出する。
【0035】
(ステップS104)補正演算部110dは、第1のテーブル110cに入力されたデータを取得する。ここでは、被験体および探触子の、音響インピーダンスと音速が入力されているものとする。
(ステップS105)補正演算部110dは、ボクセルと素子の位置関係から角度を求めた上で、探触子表面での音響波の反射率Rを計算する。反射率Rは、第1のテーブル110cに入力されたデータと、角度θを基に、式(1)、(2)により計算される。
R=|(Z1cosθ2−Z2cosθ1)/(Z1cosθ2+Z2cosθ1)|2
…(1)
θ2=sin−1(c2sinθ1/c1) …(2)
【0036】
なお、本実施例では被検体と探触子との音響インピーダンスおよび音速を用いたが、音響インピーダンスは密度と音速との積であるため、被検体の音響インピーダンスと密度と音速のうち少なくとも2つのデータが第1のテーブル110cに入力されていればよい。
【0037】
(ステップS106)補正演算部110dは、選択した信号に対して、音響波の入射角度θ1に応じた反射損失を補正する。補正は、該当する時間範囲の信号の強度を1−Rで除算することで行われる。ただし、除数は1−Rに限定されることはなく、例えば1−aR(aはa≒1の係数であり、操作者により調節可能)などとしても良い。音響波が探触子表面で全反射する場合、すなわち以下の式(3)を満たす場合にはR=1となるため、この場合の信号は画像再構成に用いない。
θ1≧sin−1(c2/c1) …(3)
【0038】
また、Rが1に近いときは1−Rが0に近くなり、信号のみでなくノイズ成分も増大してしまう。その場合は、1/(1−R)の上限値を定めておき上限を超えた場合は上限値を用いる。または、上限値を超えた場合の信号は画像再構成に用いないなどの対処をすればよい。
【0039】
(ステップS107)選択したボクセルの再構成に用いる信号を全て補正し終えていなければ、S102に戻って次の信号を補正する。補正し終えていれば次の処理に進む。
(ステップS108)補正演算部110dは、補正された信号を用いて、FBP(Filtered Backprojection)や整相加算(DELAY−AND−SUM)などの既知の手法により画像再構成する。
【0040】
なお、第1のテーブルからデータを取得するタイミング、再構成に用いる信号を選択し、界面での反射率を計算するタイミング、再構成を行うタイミングなどは、上記の説明に限られない。例えば処理開始直後に第1のテーブルからデータを取得してメモリ上で管理しておき、後の計算に用いるようにしても良い。
【0041】
(ステップS109)画像再構成したい領域の全ボクセルの再構成が終わっていなければ、S101に戻って次のボクセルを選択する。一方、所望の領域内の全てのボクセルの再構成が終わっていれば、処理を終了する。生成されたデータは被検体情報として保存される。さらに、画像表示に好適なように画像補正理や強調を施しても良い。
【0042】
なお、本実施例では数式(1)、(2)を用いたが、数式はこれに限定されず、近似式を適用しても良い。例えば数式(1)に対する近似式として、数式(1)の右辺にA(A
≒1であり、調節可能な係数)を乗じた式を用いることが可能である。
【0043】
また、本実施例では複数の探触子を被検体表面に配置させた例を示しているが、複数の場所で音響波を受信できれば同じ効果が得られるため、1素子からなる探触子を被検体表面上で1次元または2次元に走査してもよい。
【0044】
以上述べた本実施例の構成によれば、探触子表面での音響波の反射損失を補正することで、探触子の正面方向の受信感度と周辺方向の受信感度の差が小さくなるため、探触子の開口を実質的に広げることができる。この結果、画像再構成の際に様々な角度からの受信信号が寄与することになり、解像度が改善される。
【0045】
<実施例2>
実施例1では、第1のテーブル110cに格納された被検体の音響インピーダンスと音速から探触子表面での反射損失をボクセルまたはピクセルごとに補正する構成を述べた。本実施例では、画像再構成領域内の全てのボクセルまたはピクセルに対応した、受信位置ごとの増幅率を用いて補正する方法について説明する。
【0046】
図5Aは、本実施例の光音響信号取得装置の構成を模式的に示した図であり、処理部110以外は図1と同様の構成であるため説明を省略する。図5Aの第2のテーブル110eには、画像再構成領域内の全てのボクセルまたはピクセルを画像再構成する際に必要となる探触子ごとの増幅率が入力されている。すなわち、テーブル110eには、素子と、処理対象となるボクセルまたはピクセルとの位置関係(距離および角度)に応じた増幅率が、装置の構成から取り得る全ての角度ごとに格納されている。この増幅率は、被検体および探触子の音速およびインピーダンスと、音響波の入射角度を定めておけば、実施例1の式(1)を用いて計算しておくことができる。
【0047】
図5Bを参照しつつ、本実施例の補正フローについて説明する。このフローは、実施例1の図4のステップS104およびS105の代わりに、ステップS201が実行される点のみが異なる。したがって実施例1と異なる部分以外の説明は簡潔なものとする。
【0048】
(ステップS101〜S103)補正演算部110dは、任意のボクセルを選択し、当該ボクセルの再構成に用いる信号の時間範囲を算出する。
(ステップS201)補正演算部110dは、第2のテーブル110eから補正データを取得する。上述したように、補正データには、選択したボクセルと選択した素子の位置関係と、被検体と探触子の音速や音響インピーダンス等の特性とから求められる反射率に基づく、適切な増幅率が格納されている。よって選択した信号にこの増幅率をもって増幅処理を行うことにより、反射損失を補正できる。なお、増幅率に変えて、単に反射率を格納しておいても良い。
(ステップS106〜S109)補正演算部110dは、増幅処理が行われた信号を用いてボクセルの再構成を行い、対象領域に含まれる全ボクセルの再構成が完了した時点で処理が終了する。
【0049】
以上述べた本実施例の構成においても、探触子表面での反射損失を補正できるため、解像度が改善される。反射損失を補正するために必要な増幅率が各ボクセルまたはピクセルごとに予め分かっており、テーブル参照により容易に取得できるため、実施例1のように毎回数式を計算しなくて済み、さらに処理時間を短縮することができる。
【0050】
<実施例3>
本実施例では、探触子の開口による感度の低下を補正する構成について述べる。補正の方法は、探触子表面での反射損失を補正する方法と同様である。つまり、第1のテーブル
110cに探触子の情報を予め格納しておく。そして補正演算部110dは、任意のボクセルまたはピクセルから受信されるべき時間範囲の信号に対して、音響波の入射角度θ1に応じて増幅処理を行う。
【0051】
具体的には、探触子の素子が矩形である場合、指向性A(θ)は、以下の式(4)で与えられる。ここで、kは波数、aは探触子の素子サイズ、θは探触子に音響波が入射する角度である。この式により、音響波が素子に対して角度θだけ斜めに入射した場合の、垂直に入射した信号に対する係数を求めることができる。
A(θ)=|{sin(kasinθ)}/(kasinθ)| …(4)
【0052】
図6を参照しつつ、本実施例の補正フローについて説明する。なお、実施例1の図4と異なる部分以外の説明は簡潔なものとする。
【0053】
(ステップS101〜S103)補正演算部110dは、任意のボクセルを選択し、当該ボクセルの再構成に用いる信号の時間範囲を算出する。
(ステップS104)本実施例においては、補正演算部110dは、第1のテーブル110cから、反射率を求めるためのデータ(例えば音響インピーダンスと音速)に加えて、指向性の計算に用いるデータ(例えば波数や素子サイズ)を取得する。
(ステップS105)補正演算部110dは、ボクセルと素子の位置関係から角度を求めた上で、探触子表面での音響波の反射率Rを、式(1)、(2)から計算する。
(ステップS301)本実施例においては、補正演算部110dは、式(4)を用いて探触子の指向性A(θ)を計算する。
【0054】
(ステップS106)本実施例においては、補正演算部110dは、反射率Rに基づく増幅処理に加え、指向性A(θ)に基づく増幅処理を行うことにより、信号の補正を行う。求める時間範囲の信号に対して、まず、強度を1−Rで除算する補正を行い、さらに、A(θ)による除算を行う。
ただし、開口の補正に用いる値はA(θ)に限定されることはなく、例えばbA(θ)(bはb≒1の係数であり、操作者により任意に調節可能)としても良い。また、素子サイズが大きい場合にノイズの影響が大きくなることを避けるため、1/A(θ)に上限値を設けても良い。
【0055】
(ステップS107〜S109)補正演算部110dは、増幅処理が行われた信号を用いてボクセルの再構成を行い、対象領域に含まれる全ボクセルの再構成が完了した時点で処理が終了する。これにより、領域内の被検体の情報が画像化される。
【0056】
以上述べた本実施例の構成によれば、探触子表面での音響波の反射損失だけではなく、探触子の指向性も補正されるため、より正確な画像を得ることができる。
【0057】
なお、式(4)により毎回計算をするのではなく、探触子の指向性を予め実測して第1のテーブル110cに格納しておき、それを用いても良い。
【0058】
<実施例4>
被検体を固定して測定したい場合や被検体上で探触子を走査したい場合には、被検体を保持板で保持すると良い。この場合、被検体を圧迫した保持板を介して、探触子で音響波を受信することになる。すると、被検体と保持板との界面や、保持板と探触子との界面で音響波の反射損失が生じるため、正確な画像が得られなくなるという問題が新たに生じる。
【0059】
そこで、本実施例では、被検体を保持板で保持する場合に、被検体と保持板の界面およ
び保持板と探触子の界面における音響波の反射損失を補正し、正確な画像を得るための構成例について説明する。
【0060】
図7は、本発明の実施例3に係る光音響信号取得装置の構成を示したものである。光音響信号取得装置は、光源201、ミラーなどの照射光学系202、探触子208、処理部210を備える。これらは実施例1と同じものを使用できる。
【0061】
本実施例での光音響信号取得装置は、保持板211を備える。保持板211は固定されていてもよいし、可動でもよい。あるいは2枚の保持板がある場合、一方を固定し他方を可動にして、被検体を適度な薄さに圧迫保持しても良い。光源側の保持板は光を透過しやすいポリカーボネートやアクリル、探触子側の保持板は音響波を透過しやすいポリメチルペンテンが好適である。
【0062】
本実施例においては、被検体と保持板の界面および保持板と探触子の界面における反射損失を補正する。そのため、第1のテーブル210cには、被検体と保持板と探触子に関して、音響インピーダンス、密度、音速データのうち少なくとも2つが格納されている。
補正方法は、実施例1のような計算手法で反射率を求めた後、信号強度を反射率で除算して増幅する処理を、それぞれの界面ごとに適用すれば良い。
【0063】
また、実施例2と同様に、処理部210が、画像再構成領域内の全てのボクセルまたはピクセルに対応した探触子の各素子の増幅率を有する第2のテーブル210e(不図示)を有するようにしても良い。
【0064】
以上述べた本実施例の構成によれば、被検体が保持板で保持される場合においても被検体と保持板の界面および保持板と探触子の界面での音響波の反射損失が補正され、解像度が改善された画像を得ることができる。
【0065】
<実施例5>
実施例4では、被検体と保持板界面、保持板と探触子界面での音響波の反射損失を補正したが、保持板内での音響波の減衰率も求め、この減衰を補正すれば、より正確に被検体内の情報を画像化することができる。本実施例では、この方法について図8を用いて以下に説明する。
【0066】
図8において、204は被検体、211は保持板、208は探触子であり、音響波206は、被検体から保持板を介して探触子に入射する。保持板の厚さをd、吸収係数をμ、保持板から探触子へ音響波が入射する角度をθとすると、保持板に入射した直後の音響波の強度S0と保持板から出射する直前の音響波の強度S1との関係は、式(5)のようになる。
S1=S0exp(−μd/cosθ) …(5)
【0067】
従って、実施例4において、信号強度を反射率で除算する補正を行うときに、同時に信号強度をexp(−μd/cosθ)で除算すれば、保持板内での音響波の減衰を減衰率に応じて補正し、より正確な画像を取得することができる。
【0068】
以上述べた本実施例の構成によれば、保持板内での音響波の減衰が補正されるため、より正確な画像を得ることができる。なお、本実施例では数式(5)を用いたが、数式はこれに限定されず、近似式を適用しても良い。
【0069】
<実施例6>
実施例1〜5では被検体の音響インピーダンスとして推定値を用いたが、音響インピー
ダンスは被検体ごとに異なる場合がある。従って、より正確な画像を得るためには被検体ごとに音響インピーダンスを実測して、その結果を用いて音響波の反射損失を補正することが望ましい。本実施例では被検体の音響インピーダンスを実測し、その結果に基づいて反射損失を補正する構成例について説明する。
【0070】
図9(a)は、本実施例に係る光音響信号取得装置の構成を示したものである。光音響信号取得装置は、光源301、ミラーなどの照射光学系302、探触子308、処理部310、保持板311を備える。これらは上記実施例と同じものを使用できる。また、本実施例での光音響信号取得装置は、被検体304に探触子308から超音波を送信させるための送信回路312を備える。送信回路312から送信信号313が探触子308に送られることにより、探触子308から超音波が送信される。
【0071】
被検体の音響インピーダンスの測定方法について図9(b)を用いて以下に述べる。まず、保持板が被検体を保持せず、空気と接触している状態で、探触子から保持板と空気界面に向かって、ある強度のパルス送信波314を入射する。この超音波強度をS2とする。超音波は保持板と空気界面でほぼ全反射するため、入射した超音波強度S2とほぼ同じ強度の超音波(第1の反射波)が探触子で受信される。
【0072】
次に、保持板が被検体を保持している状態で超音波送信を行う。基準時間t=0に、探触子308から保持板311を介して被検体304に向けて、前と同じ強度S2のパルス送信波314を入射する。すると、入射されたパルス送信波314が被検体と保持板の界面で反射する(第2の反射波)。
【0073】
このとき、保持板内での音速cが既知であれば、超音波が厚さdの保持板311を往復する時間(t=2d/c)が算出できる。そこで、基準時間から時間tが経過したときに探触子に到達するパルス反射波315の強度S3を検出する。ここから、反射率R=S3/S2を算出できる。
【0074】
被検体の音響インピーダンスをZ1、保持板の音響インピーダンスをZ2とすれば、反射率RとZ1、Z2の関係は式(6)となる。
R=|(Z2−Z1)/(Z2+Z1)│2 …(6)
【0075】
従って、保持板の音響インピーダンスZ2が既知であれば、反射率Rを測定して、それから被検体304の音響インピーダンスZ1を算出することができる。算出された被検体
304の音響インピーダンスはテーブル310cに格納される。
【0076】
続いて、格納された被検体304の音響インピーダンスに基づいて、実施例1で述べた手法により画像再構成を行う。
【0077】
以上述べた本実施例の構成によれば、被検体の音響インピーダンスを実測できるため、より正確に反射損失が補正され、解像度が改善された画像を得ることができる。
【0078】
なお、補正の際は第1のテーブル310cに限定されず、画像再構成領域内の全てのボクセルまたはピクセルに対応した探触子の各素子の補正データを有する第2のテーブルを用いても良い。この場合、被検体304の音響インピーダンスを本実施例の方法で求めた後、ボクセルまたはピクセルと探触子の素子の位置関係に基づいて補正に用いるデータを計算しておく。そして補正データを第2のテーブル310eに保存しておき、画像再構成を行えばよい。
【符号の説明】
【0079】
108:探触子、110:処理部、110c:第1のテーブル、110d:補正演算部
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体情報取得装置および被検体情報取得方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザーなどの光源から生体に光を照射し、生体内の情報を得る光イメージング技術の研究が医療分野で積極的に進められている。この光イメージング技術の一つとして、Photo Acoustic Tomography(PAT:光音響トモグラフィー)がある。光音響トモグラフィー装置は、光源から発生したパルス光を生体に照射し、生体内で伝搬、拡散した光エネルギーを吸収した生体組織が瞬間的に膨張する際に発生する音響波(典型的には超音波)を、探触子によって複数の位置で受信する。これにより例えば、腫瘍などの被検部位とそれ以外の組織との光エネルギーの吸収率の差を検出できる。
【0003】
続いて、画像再構成領域(生体内の情報をイメージングする領域)を、複数のボクセルまたはピクセルに分割する。そして、該ボクセルまたはピクセルから探触子の素子に音響波が到達する時間帯の受信信号を用いて画像再構成する。画像再構成の際にはFBP(Filtered Backprojection)や整相加算(DELAY−AND−SUM)などの既知の手法を利用できる。これにより、生体内の光学特性値分布、例えば初期音圧分布や吸収係数分布を得ることができる。様々な波長の光で光音響計測を行うことにより、被検体内の特定物質の定量的観測、例えば血液中に含まれるヘモグロビン濃度の計測や血液の酸素飽和度の計測を行うことができる。
【0004】
光音響トモグラフィーにおいて、音響波の受信には探触子が用いられる。同様に探触子を用いて音響波を受信する超音波診断装置の分野において、探触子の受信感度は、探触子への音響波の入射角度に依存することが知られている(非特許文献1)。すなわち、探触子への音響波の入射角度が大きくなるほど、探触子の受信感度が小さくなるため、良好な指向性のイメージングができないという課題が知られている。
【0005】
そこで特許文献1では、入射角度による受信感度の違いを補正する手法が開示されている。特許文献1では、探触子から音響波をある角度で送信し、被検体からの反射波を受信する。そして、探触子の素子ごとに増幅率を変えることで音響波の入射角度に応じて生じる感度差を補正し、各素子の感度を一定にして、良好な指向性のイメージングを行おうとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−021744号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】伊東正安、望月剛共著「超音波診断装置」コロナ社出版、2002年8月26日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光音響トモグラフィーの分野においても、探触子の受信感度が音響波の入射角度によって異なることが問題となる。同じ強度の音響波でも、探触子に斜めに入射した方が探触子に垂直に入射するよりも小さく検出されるため、任意のボクセルまたはピクセルから素子への見込み角(開口角)が見かけ上小さくなる。開口角が小さくなると再構成画像の解像
度が低下する。これは、光音響トモグラフィーの原理上、理想的には光吸収体の全周で音響波を受信して画像再構成することにより光吸収体のサイズを正確に知ることができる一方、音響波を受信する範囲が限られている場合は再構成画像がぼやけてしまうことによる。
【0009】
この問題に対して、超音波診断の分野では、特許文献1の手法で対応している。しかし光音響トモグラフィーでは、音響波を受信した時点でその音響波がどの角度から伝搬してきたのかを知ることはできないため、特許文献1の手法を用いることができない。仮に特許文献1の手法を光音響トモグラフィーに適用しても、画像再構成するボクセルまたはピクセルから受信されるべき時間帯以外の信号も増幅されてしまうため、不適切である。
【0010】
また、探触子の感度は開口と探触子表面での反射損失で決まる。ここで、探触子の開口と探触子表面での反射損失との関係について説明する。
まず、図12に、生体組織の音響インピーダンスの表を示す(出典:非特許文献1、p.13の表2.1)。ここから分かるように、生体組織の音響インピーダンスは伝搬媒質ごとに異なる。
【0011】
図10は、音響波の探触子への入射角度と探触子内部への透過率との関係を示したグラフ(実線)と、音響波の探触子への入射角度と探触子の受信感度との関係を探触子の素子サイズごとに示したグラフ(各点線)を合わせたものである。ここで、音響波の周波数は1MHzとした。また、被検体の音響インピーダンスZ1=1.5×106kg/m2s、被検体の音速c1=1500m/s、探触子(探触子表面の音響整合層)の音響インピーダンスZ2=1.8×106kg/m2s、探触子の音速c2=2100m/sとした。
【0012】
グラフを見ると、探触子の素子サイズが1mm以上の場合には、探触子表面での反射損失による感度の低下よりも探触子の開口による感度の低下の方が支配的である。ところが、探触子の素子サイズが0.5mm以下になると、探触子表面での反射損失による感度の低下の方が支配的である。従って、特に探触子の素子サイズが小さいときに、探触子表面での反射損失による探触子の感度の低下が課題となる。
【0013】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、光音響トモグラフィーにおいて、被検体と探触子の界面における反射損失を補正することで、再構成画像の解像度を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下の構成を採用する。すなわち、光を照射された被検体内部で発生して被検体表面に伝搬する音響波を受信して受信信号とする探触子と、前記受信信号の強度を用いて前記被検体内部の光学特性値に基づく情報である被検体情報を生成する処理部と、を有する被検体情報取得装置であって、前記処理部は、前記探触子に前記音響波が入射する際の角度に応じて求められる前記音響波の反射損失に対応した増幅を行って、前記受信信号の強度を補正することを特徴とする被検体情報取得装置である。
【0015】
本発明はまた、以下の構成を採用する。すなわち、探触子が、光を照射された被検体内部で発生して被検体表面に伝搬する音響波を受信して受信信号とする受信ステップと、処理部が、前記受信信号の強度を用いて前記被検体内部の光学特性値に基づく情報である被検体情報を生成する処理ステップと、を有する被検体情報取得方法であって、前記処理ステップでは、前記探触子に前記音響波が入射する際の角度に応じて求められる前記音響波の反射損失に対応した増幅が行われて、前記受信信号の強度が補正されることを特徴とする被検体情報取得方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光音響トモグラフィーにおいて、被検体と探触子の界面における反射損失を補正することで、再構成画像の解像度を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1の光音響信号取得装置の構成を説明する図。
【図2】光吸収体と探触子の各素子との位置関係を説明する図。
【図3】被検体と探触子との界面で音響波の反射を説明する図。
【図4】実施例1の補正処理のフロー図。
【図5A】実施例2の光音響信号取得装置の構成を説明する図。
【図5B】実施例2の補正処理のフロー図。
【図6】実施例3の補正処理のフロー図。
【図7】実施例4の光音響信号取得装置の構成を説明する図。
【図8】保持板内での音響波の伝搬を説明する図。
【図9】実施例6の光音響信号取得装置の構成を説明する図。
【図10】音響波の探触子への入射角度を説明する図。
【図11】光吸収体断面の強度分布を模式的に示した図。
【図12】生体組織の音響インピーダンスの表。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る被検体情報取得装置の例として、光音響信号取得装置について説明する。ただし、本発明の対象は以下の構成に限定されることはない。本発明は、以下の機能を実現するための被検体情報取得方法や、ネットワークや記憶媒体を介して情報処理装置(コンピュータ等)に供給されることにより、以下の機能を実現させる被検体情報取得プログラムとして捉えることもできる。
【0019】
(光音響信号取得装置)
本発明の光音響信号取得装置は、被検体内部の情報(被検体情報)を計算により生成する装置である。光音響信号取得装置は、基本的なハードウェア構成として、光源、音響波の受信器としての探触子、処理部を有する。光源から発せられたパルス光は生体などの被検体に照射される。被検体内部を伝搬した光のエネルギーの一部が血液などの光吸収体(音源)に吸収されると、その光吸収体の熱膨張により音響波(典型的には超音波であり、光音響波または光超音波とも呼ぶ)が発生する。音響波は探触子により受信されて電気信号となり、処理部に転送される。転送された電気信号は、処理部で被検体内の光学特性値分布情報などに変換されて被検体情報となる。光学特性値分布情報の形式は特に限定されることはなく、2次元とするか3次元とするか等、測定の目的や装置の構成等により任意に定めることが出来る。生成される被検体情報には、光学特性値分布や吸収係数分布の他、それに基づく初期音圧分布、物質濃度や酸素飽和度を含めることができる。さらにこれらの情報に基づいて画像を形成し表示するための画像データも含め得る。
【0020】
(光源)
被検体が生体の場合、光源からは生体を構成する成分のうち特定の成分に吸収される特定の波長の光を照射する。光源は、光音響信号取得装置と一体として設けられていても良いし、光源を分離して別体として設けられていても良い。光源のパルス幅としては、効率的に光音響波を発生させるため10ナノ秒程度のパルス幅が使われる。光源としては大出力が得られるためレーザーが好ましいが、レーザーの代わりに発光ダイオードやフラッシュランプ等を用いることも可能である。レーザーとしては、固体レーザー、ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザーなど様々なレーザーを使用することが出来る。照射のタイミング、波形、強度等は不図示の光源制御部によって制御される。なお、この光源制御
部は、光源と一体化されていても良い。本発明において、使用する光源の波長は、被検体内部まで光が伝搬する波長であることが望ましい。具体的には、被検体内が生体の場合、500nm以上1200nm以下である。
【0021】
(探触子)
探触子は、パルス光を照射された被検体表面及び被検体内部で発生し、伝搬する音響波を受信する受信器である。探触子は、受信した音響波を、アナログ信号である電気信号(受信信号)に変換する。圧電現象を用いた探触子、光の共振を用いた探触子、静電容量の変化を用いた探触子等、音響波を受信できるものであれば、どのような探触子を用いても構わない。探触子として、複数の受信素子が1次元、或いは2次元に配置された素子を用いれば、同時に複数の場所で音響波を受信することにより、測定時間を短縮できる。受信素子が1つの場合には、探触子を走査させることで複数の位置で音響波を受信しても良い。また、探触子は通常、音響整合層を備えるため、以下の補正で用いる探触子の音響インピーダンスや音速等は、探触子の最表面の音響整合層の値とする。
【0022】
(処理部)
処理部は、コンピュータ等の情報処理装置や回路により構成され、電気信号の処理や演算を行う。処理部は、探触子より得られた電気信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する変換部を有する。変換部は、同時に複数の信号を処理できることが望ましい。それにより、画像を形成するまでの時間を短縮できる。変換されたデジタル信号はメモリに格納される。
【0023】
処理部はまた、テーブルに格納されたデータ等を用いて、メモリに格納された信号に基づき、被検体と探触子との間の界面での反射損失を補正する、補正演算部を有する。そして処理部は、補正された信号に基づき、例えばタイムドメインでの逆投影などにより、光学特性値分布などの被検体情報を生成する。
【0024】
上記補正演算部は、任意のボクセルまたはピクセルの画像再構成において特徴的な信号補正処理、すなわち、音響波信号の強度を増幅する処理を行う。処理部は、該ボクセルまたはピクセルから探触子に垂直に入射する反射損失が小さい信号よりも、該ボクセルまたはピクセルに探触子に斜めに入射する反射損失が大きい信号を、より大きく増幅する。その結果、探触子表面での音響波の反射損失による感度差の角度分布が小さくなり、解像度の低下が改善する。
【0025】
図11は、本発明の反射損失補正の有無によって、被検体内にある光吸収体の強度分布がどのように変わるのかを模式的に示したものである。図11(a)、図11(b)は、それぞれ反射損失補正をする前と後の光吸収体断面の強度分布を模式的に示した図である。図中、横軸が被検体上での距離を、縦軸が信号強度を表す。このように、被検体内の情報を画像化する際に反射損失を補正することで解像度が改善することが分かる。
【0026】
以下に図面を参照して、本発明の各実施例について説明する。
【0027】
<実施例1>
図1は、本発明の実施例1に係る光音響信号取得装置の構成を示したものである。
光源101はYAGレーザーの2倍波で励起されたチタンサファイアレーザーであり、パルス光102を発生する。照射光学系103は、例えばレンズ、ミラー、光ファイバなどで構成される。光源101から発せられたパルス光102は、照射光学系103により導かれ、被検体104に照射される。被検体104の内部を伝搬した光のエネルギーの一部が血液などの光吸収体105に吸収されると、音響波106が発生し、被検体104内を伝搬する。探触子108の方向に伝搬した音響波の一部は反射波107となり、それ以
外は探触子により受信される。
【0028】
探触子108は、素子により音響波106を受信してアナログの電気信号に変換し、受信信号109として、処理部110に送る。処理部110は、変換部110a、メモリ110b、第1のテーブル110cおよび補正演算部110dで構成される。変換部110aは、受信信号109を増幅し、A/D変換する。変換後のデジタル信号は、メモリ110bに格納される。第1のテーブル110cには、被検体と探触子の、音響インピーダンス、密度、音速のうち少なくともいずれか2つが格納されている。ただし、これらのデータは入力手段を介して操作者により変更可能である。補正演算部110dは、第1のテーブルに入力されたデータに基づいて、メモリ110bに格納された信号の反射損失を補正し、画像再構成を行う。
【0029】
補正演算部110dで行う本発明の特徴である反射補正処理を説明するために、受信信号109について、図2を用いて説明する。図2(a)は、光吸収体105と探触子108の各素子108a〜108eとの位置関係を説明するための図である。素子108aと光吸収体105との間の距離に比べて、素子108cと光吸収体105との間の距離の方が短いため、音響波106が素子108aで受信される時間よりも素子108cで受信される時間の方が早くなる。従って、画像再構成するボクセルまたはピクセルから受信されるべき時間帯の信号は、探触子の中の素子の位置に応じて異なってくる事がわかる。
【0030】
図2(b)は、伝搬する信号の関係を説明するための図である。t=0は基準時間である。t=t1において、素子108cで信号109cが受信される。109a〜109eは素子108a〜108eに対応する音響波の信号である。探触子108からの受信信号は、変換部110aを介してメモリ110bに格納される。
【0031】
図3(a)は、被検体と探触子の界面で、音響波が反射または透過する様子を模式的に示した図である。図3(a)において、Z1は被検体104の音響インピーダンス、Z2は探触子108の音響インピーダンス(音響整合層のインピーダンス)である。また、θ1は音響波が探触子に入射する角度、θ2は音響波が探触子に入射した後の角度、c1は被検体の音速、c2は探触子の音速である。被検体を伝搬した音響波106は、一部が反射波107となり、残りが探触子に入射する。
【0032】
図3(b)は、音響波が探触子に入射する角度θ1と反射率Rとの関係を示すグラフである。ここで、被検体と探触子に関する値は、Z1=1.5×106kg/m2s、c1=1500m/s、Z2=1.8×106kg/m2s、c2=2100m/sとして計算した。図3(b)から分かるように、反射率Rは音響波が探触子に入射する角度θ1に依存する。一般に、音響波の入射角度θ1が大きいと反射率Rが大きくなるため、素子への音響波の入射角度が大きいほど音響波の受信強度が小さくなる。
【0033】
次に、本発明の特徴である補正演算部110dで行う反射補正処理のフローについて、図4を参照しつつ以下に説明する。前提として、被検体のうち画像再構成の対象となる領域について、光源から光が照射され、それによって発生した音響波が探触子の各素子により受信されているものとする。この状態から、処理部による画像再構成が開始される。
【0034】
(ステップS101)補正演算部110dは、画像再構成する領域から、任意のピクセルまたはボクセルを選択する。ここでは、ボクセルを選択して3次元の再構成をする例について説明する。
(ステップS102)補正演算部110dは、選択したボクセルを再構成するために利用できる信号を選択する。これは、ボクセルの位置に基づいて、再構成に利用可能な音響波が受信できる探触子の素子を選択することに相当する。
(ステップS103)補正演算部110dは、図2(b)のような位置関係に起因する音響波の到達時間に基づき、選択した信号のうち、ステップS101で選択したボクセル由来の音響波に基づく時間範囲を算出する。
【0035】
(ステップS104)補正演算部110dは、第1のテーブル110cに入力されたデータを取得する。ここでは、被験体および探触子の、音響インピーダンスと音速が入力されているものとする。
(ステップS105)補正演算部110dは、ボクセルと素子の位置関係から角度を求めた上で、探触子表面での音響波の反射率Rを計算する。反射率Rは、第1のテーブル110cに入力されたデータと、角度θを基に、式(1)、(2)により計算される。
R=|(Z1cosθ2−Z2cosθ1)/(Z1cosθ2+Z2cosθ1)|2
…(1)
θ2=sin−1(c2sinθ1/c1) …(2)
【0036】
なお、本実施例では被検体と探触子との音響インピーダンスおよび音速を用いたが、音響インピーダンスは密度と音速との積であるため、被検体の音響インピーダンスと密度と音速のうち少なくとも2つのデータが第1のテーブル110cに入力されていればよい。
【0037】
(ステップS106)補正演算部110dは、選択した信号に対して、音響波の入射角度θ1に応じた反射損失を補正する。補正は、該当する時間範囲の信号の強度を1−Rで除算することで行われる。ただし、除数は1−Rに限定されることはなく、例えば1−aR(aはa≒1の係数であり、操作者により調節可能)などとしても良い。音響波が探触子表面で全反射する場合、すなわち以下の式(3)を満たす場合にはR=1となるため、この場合の信号は画像再構成に用いない。
θ1≧sin−1(c2/c1) …(3)
【0038】
また、Rが1に近いときは1−Rが0に近くなり、信号のみでなくノイズ成分も増大してしまう。その場合は、1/(1−R)の上限値を定めておき上限を超えた場合は上限値を用いる。または、上限値を超えた場合の信号は画像再構成に用いないなどの対処をすればよい。
【0039】
(ステップS107)選択したボクセルの再構成に用いる信号を全て補正し終えていなければ、S102に戻って次の信号を補正する。補正し終えていれば次の処理に進む。
(ステップS108)補正演算部110dは、補正された信号を用いて、FBP(Filtered Backprojection)や整相加算(DELAY−AND−SUM)などの既知の手法により画像再構成する。
【0040】
なお、第1のテーブルからデータを取得するタイミング、再構成に用いる信号を選択し、界面での反射率を計算するタイミング、再構成を行うタイミングなどは、上記の説明に限られない。例えば処理開始直後に第1のテーブルからデータを取得してメモリ上で管理しておき、後の計算に用いるようにしても良い。
【0041】
(ステップS109)画像再構成したい領域の全ボクセルの再構成が終わっていなければ、S101に戻って次のボクセルを選択する。一方、所望の領域内の全てのボクセルの再構成が終わっていれば、処理を終了する。生成されたデータは被検体情報として保存される。さらに、画像表示に好適なように画像補正理や強調を施しても良い。
【0042】
なお、本実施例では数式(1)、(2)を用いたが、数式はこれに限定されず、近似式を適用しても良い。例えば数式(1)に対する近似式として、数式(1)の右辺にA(A
≒1であり、調節可能な係数)を乗じた式を用いることが可能である。
【0043】
また、本実施例では複数の探触子を被検体表面に配置させた例を示しているが、複数の場所で音響波を受信できれば同じ効果が得られるため、1素子からなる探触子を被検体表面上で1次元または2次元に走査してもよい。
【0044】
以上述べた本実施例の構成によれば、探触子表面での音響波の反射損失を補正することで、探触子の正面方向の受信感度と周辺方向の受信感度の差が小さくなるため、探触子の開口を実質的に広げることができる。この結果、画像再構成の際に様々な角度からの受信信号が寄与することになり、解像度が改善される。
【0045】
<実施例2>
実施例1では、第1のテーブル110cに格納された被検体の音響インピーダンスと音速から探触子表面での反射損失をボクセルまたはピクセルごとに補正する構成を述べた。本実施例では、画像再構成領域内の全てのボクセルまたはピクセルに対応した、受信位置ごとの増幅率を用いて補正する方法について説明する。
【0046】
図5Aは、本実施例の光音響信号取得装置の構成を模式的に示した図であり、処理部110以外は図1と同様の構成であるため説明を省略する。図5Aの第2のテーブル110eには、画像再構成領域内の全てのボクセルまたはピクセルを画像再構成する際に必要となる探触子ごとの増幅率が入力されている。すなわち、テーブル110eには、素子と、処理対象となるボクセルまたはピクセルとの位置関係(距離および角度)に応じた増幅率が、装置の構成から取り得る全ての角度ごとに格納されている。この増幅率は、被検体および探触子の音速およびインピーダンスと、音響波の入射角度を定めておけば、実施例1の式(1)を用いて計算しておくことができる。
【0047】
図5Bを参照しつつ、本実施例の補正フローについて説明する。このフローは、実施例1の図4のステップS104およびS105の代わりに、ステップS201が実行される点のみが異なる。したがって実施例1と異なる部分以外の説明は簡潔なものとする。
【0048】
(ステップS101〜S103)補正演算部110dは、任意のボクセルを選択し、当該ボクセルの再構成に用いる信号の時間範囲を算出する。
(ステップS201)補正演算部110dは、第2のテーブル110eから補正データを取得する。上述したように、補正データには、選択したボクセルと選択した素子の位置関係と、被検体と探触子の音速や音響インピーダンス等の特性とから求められる反射率に基づく、適切な増幅率が格納されている。よって選択した信号にこの増幅率をもって増幅処理を行うことにより、反射損失を補正できる。なお、増幅率に変えて、単に反射率を格納しておいても良い。
(ステップS106〜S109)補正演算部110dは、増幅処理が行われた信号を用いてボクセルの再構成を行い、対象領域に含まれる全ボクセルの再構成が完了した時点で処理が終了する。
【0049】
以上述べた本実施例の構成においても、探触子表面での反射損失を補正できるため、解像度が改善される。反射損失を補正するために必要な増幅率が各ボクセルまたはピクセルごとに予め分かっており、テーブル参照により容易に取得できるため、実施例1のように毎回数式を計算しなくて済み、さらに処理時間を短縮することができる。
【0050】
<実施例3>
本実施例では、探触子の開口による感度の低下を補正する構成について述べる。補正の方法は、探触子表面での反射損失を補正する方法と同様である。つまり、第1のテーブル
110cに探触子の情報を予め格納しておく。そして補正演算部110dは、任意のボクセルまたはピクセルから受信されるべき時間範囲の信号に対して、音響波の入射角度θ1に応じて増幅処理を行う。
【0051】
具体的には、探触子の素子が矩形である場合、指向性A(θ)は、以下の式(4)で与えられる。ここで、kは波数、aは探触子の素子サイズ、θは探触子に音響波が入射する角度である。この式により、音響波が素子に対して角度θだけ斜めに入射した場合の、垂直に入射した信号に対する係数を求めることができる。
A(θ)=|{sin(kasinθ)}/(kasinθ)| …(4)
【0052】
図6を参照しつつ、本実施例の補正フローについて説明する。なお、実施例1の図4と異なる部分以外の説明は簡潔なものとする。
【0053】
(ステップS101〜S103)補正演算部110dは、任意のボクセルを選択し、当該ボクセルの再構成に用いる信号の時間範囲を算出する。
(ステップS104)本実施例においては、補正演算部110dは、第1のテーブル110cから、反射率を求めるためのデータ(例えば音響インピーダンスと音速)に加えて、指向性の計算に用いるデータ(例えば波数や素子サイズ)を取得する。
(ステップS105)補正演算部110dは、ボクセルと素子の位置関係から角度を求めた上で、探触子表面での音響波の反射率Rを、式(1)、(2)から計算する。
(ステップS301)本実施例においては、補正演算部110dは、式(4)を用いて探触子の指向性A(θ)を計算する。
【0054】
(ステップS106)本実施例においては、補正演算部110dは、反射率Rに基づく増幅処理に加え、指向性A(θ)に基づく増幅処理を行うことにより、信号の補正を行う。求める時間範囲の信号に対して、まず、強度を1−Rで除算する補正を行い、さらに、A(θ)による除算を行う。
ただし、開口の補正に用いる値はA(θ)に限定されることはなく、例えばbA(θ)(bはb≒1の係数であり、操作者により任意に調節可能)としても良い。また、素子サイズが大きい場合にノイズの影響が大きくなることを避けるため、1/A(θ)に上限値を設けても良い。
【0055】
(ステップS107〜S109)補正演算部110dは、増幅処理が行われた信号を用いてボクセルの再構成を行い、対象領域に含まれる全ボクセルの再構成が完了した時点で処理が終了する。これにより、領域内の被検体の情報が画像化される。
【0056】
以上述べた本実施例の構成によれば、探触子表面での音響波の反射損失だけではなく、探触子の指向性も補正されるため、より正確な画像を得ることができる。
【0057】
なお、式(4)により毎回計算をするのではなく、探触子の指向性を予め実測して第1のテーブル110cに格納しておき、それを用いても良い。
【0058】
<実施例4>
被検体を固定して測定したい場合や被検体上で探触子を走査したい場合には、被検体を保持板で保持すると良い。この場合、被検体を圧迫した保持板を介して、探触子で音響波を受信することになる。すると、被検体と保持板との界面や、保持板と探触子との界面で音響波の反射損失が生じるため、正確な画像が得られなくなるという問題が新たに生じる。
【0059】
そこで、本実施例では、被検体を保持板で保持する場合に、被検体と保持板の界面およ
び保持板と探触子の界面における音響波の反射損失を補正し、正確な画像を得るための構成例について説明する。
【0060】
図7は、本発明の実施例3に係る光音響信号取得装置の構成を示したものである。光音響信号取得装置は、光源201、ミラーなどの照射光学系202、探触子208、処理部210を備える。これらは実施例1と同じものを使用できる。
【0061】
本実施例での光音響信号取得装置は、保持板211を備える。保持板211は固定されていてもよいし、可動でもよい。あるいは2枚の保持板がある場合、一方を固定し他方を可動にして、被検体を適度な薄さに圧迫保持しても良い。光源側の保持板は光を透過しやすいポリカーボネートやアクリル、探触子側の保持板は音響波を透過しやすいポリメチルペンテンが好適である。
【0062】
本実施例においては、被検体と保持板の界面および保持板と探触子の界面における反射損失を補正する。そのため、第1のテーブル210cには、被検体と保持板と探触子に関して、音響インピーダンス、密度、音速データのうち少なくとも2つが格納されている。
補正方法は、実施例1のような計算手法で反射率を求めた後、信号強度を反射率で除算して増幅する処理を、それぞれの界面ごとに適用すれば良い。
【0063】
また、実施例2と同様に、処理部210が、画像再構成領域内の全てのボクセルまたはピクセルに対応した探触子の各素子の増幅率を有する第2のテーブル210e(不図示)を有するようにしても良い。
【0064】
以上述べた本実施例の構成によれば、被検体が保持板で保持される場合においても被検体と保持板の界面および保持板と探触子の界面での音響波の反射損失が補正され、解像度が改善された画像を得ることができる。
【0065】
<実施例5>
実施例4では、被検体と保持板界面、保持板と探触子界面での音響波の反射損失を補正したが、保持板内での音響波の減衰率も求め、この減衰を補正すれば、より正確に被検体内の情報を画像化することができる。本実施例では、この方法について図8を用いて以下に説明する。
【0066】
図8において、204は被検体、211は保持板、208は探触子であり、音響波206は、被検体から保持板を介して探触子に入射する。保持板の厚さをd、吸収係数をμ、保持板から探触子へ音響波が入射する角度をθとすると、保持板に入射した直後の音響波の強度S0と保持板から出射する直前の音響波の強度S1との関係は、式(5)のようになる。
S1=S0exp(−μd/cosθ) …(5)
【0067】
従って、実施例4において、信号強度を反射率で除算する補正を行うときに、同時に信号強度をexp(−μd/cosθ)で除算すれば、保持板内での音響波の減衰を減衰率に応じて補正し、より正確な画像を取得することができる。
【0068】
以上述べた本実施例の構成によれば、保持板内での音響波の減衰が補正されるため、より正確な画像を得ることができる。なお、本実施例では数式(5)を用いたが、数式はこれに限定されず、近似式を適用しても良い。
【0069】
<実施例6>
実施例1〜5では被検体の音響インピーダンスとして推定値を用いたが、音響インピー
ダンスは被検体ごとに異なる場合がある。従って、より正確な画像を得るためには被検体ごとに音響インピーダンスを実測して、その結果を用いて音響波の反射損失を補正することが望ましい。本実施例では被検体の音響インピーダンスを実測し、その結果に基づいて反射損失を補正する構成例について説明する。
【0070】
図9(a)は、本実施例に係る光音響信号取得装置の構成を示したものである。光音響信号取得装置は、光源301、ミラーなどの照射光学系302、探触子308、処理部310、保持板311を備える。これらは上記実施例と同じものを使用できる。また、本実施例での光音響信号取得装置は、被検体304に探触子308から超音波を送信させるための送信回路312を備える。送信回路312から送信信号313が探触子308に送られることにより、探触子308から超音波が送信される。
【0071】
被検体の音響インピーダンスの測定方法について図9(b)を用いて以下に述べる。まず、保持板が被検体を保持せず、空気と接触している状態で、探触子から保持板と空気界面に向かって、ある強度のパルス送信波314を入射する。この超音波強度をS2とする。超音波は保持板と空気界面でほぼ全反射するため、入射した超音波強度S2とほぼ同じ強度の超音波(第1の反射波)が探触子で受信される。
【0072】
次に、保持板が被検体を保持している状態で超音波送信を行う。基準時間t=0に、探触子308から保持板311を介して被検体304に向けて、前と同じ強度S2のパルス送信波314を入射する。すると、入射されたパルス送信波314が被検体と保持板の界面で反射する(第2の反射波)。
【0073】
このとき、保持板内での音速cが既知であれば、超音波が厚さdの保持板311を往復する時間(t=2d/c)が算出できる。そこで、基準時間から時間tが経過したときに探触子に到達するパルス反射波315の強度S3を検出する。ここから、反射率R=S3/S2を算出できる。
【0074】
被検体の音響インピーダンスをZ1、保持板の音響インピーダンスをZ2とすれば、反射率RとZ1、Z2の関係は式(6)となる。
R=|(Z2−Z1)/(Z2+Z1)│2 …(6)
【0075】
従って、保持板の音響インピーダンスZ2が既知であれば、反射率Rを測定して、それから被検体304の音響インピーダンスZ1を算出することができる。算出された被検体
304の音響インピーダンスはテーブル310cに格納される。
【0076】
続いて、格納された被検体304の音響インピーダンスに基づいて、実施例1で述べた手法により画像再構成を行う。
【0077】
以上述べた本実施例の構成によれば、被検体の音響インピーダンスを実測できるため、より正確に反射損失が補正され、解像度が改善された画像を得ることができる。
【0078】
なお、補正の際は第1のテーブル310cに限定されず、画像再構成領域内の全てのボクセルまたはピクセルに対応した探触子の各素子の補正データを有する第2のテーブルを用いても良い。この場合、被検体304の音響インピーダンスを本実施例の方法で求めた後、ボクセルまたはピクセルと探触子の素子の位置関係に基づいて補正に用いるデータを計算しておく。そして補正データを第2のテーブル310eに保存しておき、画像再構成を行えばよい。
【符号の説明】
【0079】
108:探触子、110:処理部、110c:第1のテーブル、110d:補正演算部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を照射された被検体内部で発生して被検体表面に伝搬する音響波を受信して受信信号とする探触子と、
前記受信信号の強度を用いて前記被検体内部の光学特性値に基づく情報である被検体情報を生成する処理部と、
を有する被検体情報取得装置であって、
前記処理部は、前記探触子に前記音響波が入射する際の角度に応じて求められる前記音響波の反射損失に対応した増幅を行って、前記受信信号の強度を補正する
ことを特徴とする被検体情報取得装置。
【請求項2】
前記探触子に前記音響波が入射する際の反射率をRとしたとき、前記処理部は、前記被検体情報の生成に用いる前記受信信号の強度を(1−R)で除算することにより、前記増幅を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項3】
前記被検体および前記探触子に関して、音響インピーダンス、密度および音速のうち少なくとも2つが格納されている第1のテーブルをさらに有し、
前記処理部は、前記第1のテーブルに格納されている情報に基づく計算により、前記反射率を求める
ことを特徴とする請求項2に記載の被検体情報取得装置。
【請求項4】
前記探触子に前記音響波が入射する角度ごとに、前記受信信号の強度の補正に用いる増幅率が格納されている第2のテーブルをさらに有し、
前記処理部は、前記被検体情報の生成に用いる前記受信信号の強度を前記増幅率で増幅する
ことを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記探触子に前記音響波が入射する角度に応じて低下する前記探触子の前記音響波に対する感度に基づいて、前記受信信号の強度を補正する
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項6】
前記被検体を保持する保持板をさらに有し、
前記探触子は、前記保持板を介して前記被検体からの音響波を受信するものであり、
前記処理部は、前記探触子に前記音響波が入射するときの反射損失に対応した増幅に加えて、前記保持板に前記音響波が入射するときの反射損失に対応した増幅を行って、前記受信信号の強度を補正する
ことを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項7】
前記処理部は、前記保持板における前記音響波の減衰率を前記保持板の厚さと吸収係数に基づいて計算し、当該減衰率に基づいて前記受信信号の強度の増幅を行う
ことを特徴とする請求項6に記載の被検体情報取得装置。
【請求項8】
前記探触子は、前記被検体を保持していない状態の前記保持板に音響波を送信して第1の反射波を受信した後、前記被検体を保持している状態の前記保持板に音響波を送信して第2の反射波を受信し、
前記処理部は当該第1および第2の反射波の強度ならびに前記保持板の音響インピーダンスから求められる前記被検体の音響インピーダンスを用いて、前記反射損失を求める
ことを特徴とする請求項6または7に記載の被検体情報取得装置。
【請求項9】
探触子が、光を照射された被検体内部で発生して被検体表面に伝搬する音響波を受信して受信信号とする受信ステップと、
処理部が、前記受信信号の強度を用いて前記被検体内部の光学特性値に基づく情報である被検体情報を生成する処理ステップと、
を有する被検体情報取得方法であって、
前記処理ステップでは、前記探触子に前記音響波が入射する際の角度に応じて求められる前記音響波の反射損失に対応した増幅が行われて、前記受信信号の強度が補正される
ことを特徴とする被検体情報取得方法。
【請求項1】
光を照射された被検体内部で発生して被検体表面に伝搬する音響波を受信して受信信号とする探触子と、
前記受信信号の強度を用いて前記被検体内部の光学特性値に基づく情報である被検体情報を生成する処理部と、
を有する被検体情報取得装置であって、
前記処理部は、前記探触子に前記音響波が入射する際の角度に応じて求められる前記音響波の反射損失に対応した増幅を行って、前記受信信号の強度を補正する
ことを特徴とする被検体情報取得装置。
【請求項2】
前記探触子に前記音響波が入射する際の反射率をRとしたとき、前記処理部は、前記被検体情報の生成に用いる前記受信信号の強度を(1−R)で除算することにより、前記増幅を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項3】
前記被検体および前記探触子に関して、音響インピーダンス、密度および音速のうち少なくとも2つが格納されている第1のテーブルをさらに有し、
前記処理部は、前記第1のテーブルに格納されている情報に基づく計算により、前記反射率を求める
ことを特徴とする請求項2に記載の被検体情報取得装置。
【請求項4】
前記探触子に前記音響波が入射する角度ごとに、前記受信信号の強度の補正に用いる増幅率が格納されている第2のテーブルをさらに有し、
前記処理部は、前記被検体情報の生成に用いる前記受信信号の強度を前記増幅率で増幅する
ことを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記探触子に前記音響波が入射する角度に応じて低下する前記探触子の前記音響波に対する感度に基づいて、前記受信信号の強度を補正する
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項6】
前記被検体を保持する保持板をさらに有し、
前記探触子は、前記保持板を介して前記被検体からの音響波を受信するものであり、
前記処理部は、前記探触子に前記音響波が入射するときの反射損失に対応した増幅に加えて、前記保持板に前記音響波が入射するときの反射損失に対応した増幅を行って、前記受信信号の強度を補正する
ことを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項7】
前記処理部は、前記保持板における前記音響波の減衰率を前記保持板の厚さと吸収係数に基づいて計算し、当該減衰率に基づいて前記受信信号の強度の増幅を行う
ことを特徴とする請求項6に記載の被検体情報取得装置。
【請求項8】
前記探触子は、前記被検体を保持していない状態の前記保持板に音響波を送信して第1の反射波を受信した後、前記被検体を保持している状態の前記保持板に音響波を送信して第2の反射波を受信し、
前記処理部は当該第1および第2の反射波の強度ならびに前記保持板の音響インピーダンスから求められる前記被検体の音響インピーダンスを用いて、前記反射損失を求める
ことを特徴とする請求項6または7に記載の被検体情報取得装置。
【請求項9】
探触子が、光を照射された被検体内部で発生して被検体表面に伝搬する音響波を受信して受信信号とする受信ステップと、
処理部が、前記受信信号の強度を用いて前記被検体内部の光学特性値に基づく情報である被検体情報を生成する処理ステップと、
を有する被検体情報取得方法であって、
前記処理ステップでは、前記探触子に前記音響波が入射する際の角度に応じて求められる前記音響波の反射損失に対応した増幅が行われて、前記受信信号の強度が補正される
ことを特徴とする被検体情報取得方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−56032(P2013−56032A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196049(P2011−196049)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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