説明

被検体情報取得装置

【課題】 可動保持部材の移動に伴い、撮像部の焦点がずれるため光学パターンが精度よく撮像できない。
【解決手段】 本発明の被検体情報取得装置は、被検体を狭持する方向に移動可能な可動保持部材を有する保持部材と、保持部材を介して光源からの光を前記被検体に照射する照射部材と、前記光により被検体内で発生する音響波を受信して電気信号に変換する音響波検出手段と、前記電気信号を用いて被検体内の情報を取得する処理部と、前記可動保持部材に配置された光拡散部材と、前記光が前記光拡散部材に照射された時に形成される光学パターンを撮像する撮像部と、を有し、前記撮像部は、前記可動保持部材の移動に伴って、焦点を調整可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体情報取得装置に関する。特に、光を被検体に照射することにより発生する音響波を取得する被検体情報取得装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザーなどの光源から生体等の被検体に光を照射し、入射した光に基づいて得られる生体内の情報を画像化するイメージング技術の一つとして、光音響イメージング(Photoacoustic Imaging)技術が提案されている。
【0003】
光音響イメージングとは、光源から発生したパルス光を生体に照射し、生体内を伝播・拡散した光が生体組織で吸収することにより発生する音響波を受信し、受信した音響波を解析処理することで、被検体である生体内部の情報を可視化する技術である。これにより、生体内の光学特性分布、特に光吸収係数分布や酸素飽和度分布を得ることができ、この光吸収係数分布等の画像を用いて被検体を診断する研究が行われている。
【0004】
光音響イメージングにおいて、被検体内における光吸収体から発生する音響波の初期音圧Pは次式で表すことができる(特許文献1参照)。
=Γ・μ・Φ・・・(式1)
ここで、Γはグリューナイゼン係数であり、体積膨張係数βと音速cの二乗の積を定圧比熱Cで割ったものである。Γは被検体が決まれば、ほぼ一定の値をとることが知られている。μは吸収体の光吸収係数、Φは局所的な領域での光束(fluence)である。被検体中を伝播してきた音響波の大きさである音圧Pの時間変化を測定し、その測定結果から初期音圧分布を算出する。算出された初期音圧分布をグリューナイゼン係数Γで除することにより、μとΦの積である光エネルギー吸収密度分布を得ることができる。式1で示されるように、初期音圧Pの分布から光吸収係数μの分布を得るためには、被検体内の光束Φの分布(光量分布)を求めることが必要である。
【0005】
光束Φの分布は、表面に照射される光の相対光照射密度分布(以下、「相対照度分布」ともいう)を用いて算出することができる。相対照度分布とは、被検体の表面の光照射領域における相対的な光強度分布のことである。相対照度分布は、光が照射されたときに被検体表面に生じる光学パターンを撮像することにより求められる。この相対照度分布を解析することにより被検体内の光量分布を算出でき、その光量分布を用いて式1より被検体内の光吸収分布を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−18153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光音響イメージング技術を用いた装置では、被検体として生体、具体的には人体や動物の乳房や指、手足などの診断の対象部位が想定され、これらの対象部位の光吸収分布等の画像データが生成される。測定の際は、固定された対象部位に光パルスを照射し、対象部位内からの音響波を取得すればよい。この時、表面に照射される光の相対照度分布を求めるために、例えば保持部材として2枚の保持板などで被検体を狭持し、この保持板を介して光パルスの照射と被検体内で発生する音響波の取得を行うことが考えられる。この2枚の保持板のうち少なくとも一方の保持板を、被検体を狭持する方向に移動可能とすることで、被検体の保持時の作業を円滑に行える。またこの保持板上での光パルスの光学パターンを撮像することで被検体の表面に照射される光の相対照度分布を求めることができる。
【0008】
しかしながら、被検体を狭持する方向に保持板を移動する場合、光の出射位置が固定されていると、被検体を保持する距離の変化に伴って光の出射位置から被検体までの距離が変化する。このとき、出射位置からの距離に応じて被検体に入射する光の総量が異なるため被検体表面に生じる相対照度分布が変化してしまう。そのため、正確な光吸収分布を得るためには、光の出射位置と保持されている被検体までの距離と、に応じて被検体表面に生じている相対照度分布を測定する必要がある。
【0009】
しかしながら、光学パターンを撮像するカメラ等の撮像部が固定されている場合には、撮像部と被検体までの距離も変化する。このため被検体を撮像している撮像部の焦点がずれてしまい、明瞭な光学パターンを撮像できない。よって、被検体に生じている相対光照射密度を精度よく測定することができず、結果的に、被検体内の光吸収係数分布等の光学特性分布を精度よく求めることができなくなってしまう。
【0010】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、被検体を保持する保持部材が移動しても、光学パターンを精度よく撮像し、被検体内の光学特性値分布を精度よく取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の被検体情報取得装置は、被検体を狭持する方向に移動可能な可動保持部材を有する保持部材と、保持部材を介して光源からの光を前記被検体に照射する照射部材と、前記光により被検体内で発生する音響波を受信して電気信号に変換する音響波検出手段と、前記電気信号を用いて被検体内の情報を取得する処理部と、前記可動保持部材に配置された光拡散部材と、前記光が前記光拡散部材に照射された時に形成される光学パターンを撮像する撮像部と、を有する被検体情報取得装置であって、前記撮像部は、前記可動保持部材の移動に伴って、焦点を調整可能に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被検体を保持する保持部材が移動しても、光学パターンを精度よく撮像することが可能となり、被検体内の光学特性値分布を精度よく取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第一の実施形態における光音響イメージング装置の一例を示す模式図である。
【図2】第一の実施形態における撮像部の焦点調節手段の一例を模式図である。
【図3】第一の実施形態における測定フローチャートを示した図である。
【図4】第二の実施形態における光音響イメージング装置の一例を示す模式図である。
【図5】第二の実施形態における撮像部と光拡散部材との関係を示した模式図である。
【図6】第二の実施形態における測定フローチャートを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。同一の構成要素には原則として同一の符号を付して、説明を省略する。本発明において、音響波とは、典型的には超音波であり、音波、超音波、光音響波、光超音波と呼ばれる弾性波を含む。また、本発明の被検体情報取得装置は、被検体に光(可視光線や赤外線を含む電磁波)を照射することにより被検体内で発生した音響波を受信して、被検体情報を画像データとして取得する光音響イメージング装置を含む。
【0015】
取得される被検体情報とは、光照射によって生じた音響波の初期音圧分布、あるいは初期音圧分布から導かれる光エネルギー吸収密度分布や、吸収係数分布、組織を構成する物質の濃度分布等を反映した特性情報を示す。物質の濃度分布とは、例えば、酸素飽和度分布や酸化あるいは還元ヘモグロビン濃度分布などである。
【0016】
被検体としては生体、具体的には人体や動物の乳房や指、手足などの診断の対象部位が想定される。被検体内部の光吸収体としては、被検体内で相対的に光吸収係数が高いものであり、例えば、血管、あるいは、新生血管を多く含む悪性腫瘍等が該当する。
【0017】
<第一の実施形態>
(基本的な構成)
以下、本発明が適用される第一の実施形態について図1乃至図3を用いて説明する。図1は本実施形態の被検体情報取得装置である光音響イメージング装置の構成の一例を示した模式図である。図1(a)は光音響イメージング装置により被検体を測定している様子を示す模式図である。被検体102は保持部材101の可動保持板101aと固定保持板101bとの間で保持され、可動保持板101aが被検体を狭持する方向に移動することで被検体102を狭持する。可動保持板101aは本発明の可動保持部材に対応する。
【0018】
そして光源103より光(パルス光)を発生させ、照射部材である光学部104を介して被検体102に光を照射する。被検体102では、光を照射されると被検体内の光吸収体(腫瘍等の検出対象)が光エネルギーを吸収することにより音響波を発生する。発生した音響波は被検体内を伝播し、固定保持板101bを介して音響波検出手段である音響波探触子106に到達する。音響波探触子106は音響波を受信して電気信号に変換し、処理部としての演算処理部110に出力する。演算処理部110は、入力された電気信号を用いて光吸収係数分布等の特性分布を光音響画像データとして取得する。
【0019】
図1(b)は本実施形態の光音響イメージング装置において、相対照度分布の測定する際の一例を示す模式図である。本発明では、光音響画像データの生成のために、被検体表面における相対照度分布を用いる。相対照度分布は、被検体102の表面102aの光照射領域における相対的な光強度分布のことであり、被検体102を保持する位置の光学パターンを撮像カメラ107で撮像することにより、被検体表面に生じている相対照度分布を推定する。具体的には、相対照度分布の測定の際、可動保持板101aの被検体102が接する表面側に光拡散部材105を配置する。そして、照射部材である光学部104より光を照射することにより光拡散部材105の表面で生じる光学パターン(拡散光パターン)を撮像部である撮像カメラ107で撮像する。撮像カメラはレンズ等の光学系108を有す。相対照度分布は、撮像された光学パターンを演算処理部110により解析処理され算出される。
【0020】
しかしながら、可動保持板101aを固定保持板101b側に移動する場合、本実施形態のように光学部104(つまり光の出射位置)が固定されていると、被検体を保持する距離の変化に伴って光の出射位置から可動保持板101aまでの距離が変化する。光拡散部材105は可動保持板101aに固定されているため、任意の位置の光学パターンを撮像する場合に撮像カメラ107の焦点が合わなくなる。そこで、本実施形態の光音響イメージング装置は、調整部である焦点調節機構109を有する。
【0021】
本実施形態の焦点調節機構109は、光拡散部材105の移動に伴って撮像カメラ107を機械的に動かす。この焦点調節機構により、撮像カメラ107は焦点を調整可能となる。そして、焦点を調整された撮像カメラ107により明瞭な光学パターンが撮像される。撮像された光学パターンは、演算処理部110に出力され、演算処理部110で相対照度分布が算出される。また、相対照度分布の測定時には、音響波探触子106は撮像の邪魔にならない位置に配置する。このために音響波探触子106は移動可能な構成であり、具体的に本実施形態では、固定保持板101bの面に沿って走査する走査機構(不図示)を備えている。また、本実施形態では、可動保持板が移動した距離を距離測定部111で測定し、その距離を演算処理部110に出力して、演算処理部110から焦点調節機構に指令を送信している。
【0022】
以下に、本実施形態に係る光音響イメージング装置の構成を具体的に説明する。
【0023】
(保持部材)
保持部材101は固定保持部材である固定保持板101bと可動保持部材である可動保持板101aで構成され、被検体の少なくとも一部の形状を一定に保つための保持手段である。図1に示すように被検体を両側から挟むようにすると、測定中において被検体の位置が固定されるので、体動等による位置変動を低減することができる。また、被検体102を狭持することで被検体102の距離(光の入射方向の厚み)を短く(薄く)することにより、被検体の深部まで光を効率よく到達させることができる。照射部材が設けられる側の保持部材は、光の透過率が高い部材であることが好ましい。音響波探触子106が設けられる側の保持部材は、被検体や音響波探触子106との音響整合性が高い部材を用いることが好ましい。音響整合性を高めることを目的として、保持部材と被検体との間にジェル等の音響適合材を介在させても良い。また、保持部材101の固定保持板101a側にも、照射部材を設け、被検体の両側から光を照射してもよい。また、保持部材は両方とも移動可能に構成してもよい。
【0024】
(光源)
光源103は、コヒーレント、または、インコヒーレントのパルス光源を少なくとも一つは備える。光音響効果を発生させるため、パルス幅は数100nsec以下が好ましく、5nsec〜50nsecの範囲がより好ましい。また、乳がん等を測定する場合には、生体を構成する成分のうち特定の成分(例えばヘモグロビン)に吸収される特定の波長の光を照射する。具体的に、光の波長は500nm以上1200nm以下の波長が好ましい。光源としては大きな出力が得られるレーザーが好ましいが、レーザーのかわりに発光ダイオードなどを用いることも可能である。レーザーとしては、固体レーザー、ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザーなど様々なレーザーを使用することができ、Nd:YAGレーザーやTi:サファイアレーザーを用いることができる。また、波長は可変であってもよい。
【0025】
(光学部)
光学部104は、光源103からの光を被検体に導くための照射部材であり、例えば、光ファイバーや、光を反射するミラー、参照光と照射光を分岐するためのハーフミラー、光を集光したり拡大したり形状を変化させるレンズなどである。このような光学部は、ミラーやレンズ以外の部材でもよく、光源から発せられる光を被検体に所望の形状で照射することができればどのようなものでもよい。なお、光はレンズで拡散させることにより、ある程度の面積に広げる方が好ましい。また、広範囲に光を照射するために、光を被検体に照射する領域は被検体上を移動可能であることが好ましい。光を被検体に照射する領域を移動させる方法としては、可動式ミラー等を用いる方法や、光ファイバーの出射端を移動させる方法などがある。
【0026】
(光拡散部材)
光拡散部材105は、光を拡散させて、局所的な照射エネルギー密度の高い領域を無くすことができる。光拡散部材105を用いる理由は、光学部から出射した光は強いため、出射した光をそのまま撮像カメラで撮像しても良好に光学パターンを撮像できないためである。よって、本発明では、光が光拡散部材105に照射されることにより、光拡散部材105の表面に形成される光学パターンを撮像部で撮像する。光拡散部材105は、すりガラスなどの拡散板や、酸化チタンなどが入った薄いウレタンシートなどの拡散シートが望ましい。また、等方円拡散で拡散角が面内均一であり、撮像部のレンズの画角よりも十分大きいことが望ましい。例えば画角が20度の場合、その±10度の角度の範囲内で拡散光の強度が変化しないように、拡散角60度以上の光拡散部材が望ましい。光拡散部材は、保持部材に設けられ、取り外し可能でもよいし、保持部材と一体になっていてもよい。また、その厚さは、0.1mm乃至1.0mm程度が好ましい。
【0027】
(音響波探触子)
音響波探触子106は、音響波検出手段であり、音響波を受信して電気信号に変換する1つ以上の素子を有する。例えば、圧電効果を用いたトランスデューサー、光の共振を用いたトランスデューサー、容量の変化を用いたトランスデューサーなど、音響波を受信して電気信号に変換できる素子であればどのような変換素子でも良い。このような素子は1次元又は2次元に複数配列することにより、同時に複数の場所で音響波を受信することができ、受信時間を短縮できる。なお、1つの素子を移動させることで、複数の素子を2次元あるいは1次元に配置したものと同様の信号を得ることも可能である。音響波探触子は、図1においては固定保持板側に設けられているが、可動保持板側に設けても良く、両方に設けても良い。
【0028】
(撮像カメラ)
撮像カメラ107は、撮像部であり、光を検出して電気信号に変換する1つ以上の素子を有し、フォトマル、フォトダイオードなどで構成される。光を検出して電気信号に変換できるものであればどのような素子を用いてもよい。光を検出する素子は1次元又は2次元に複数配列することにより、同時に複数の場所で光を検出することができる。また、照射される光の波長領域に感度のある素子である必要がある。なお、撮像カメラ107は、NDフィルターやレンズ等の光学系108が配置される。このレンズは、光拡散部材105上で拡散された照射光の光学パターン全体を撮像カメラ107で撮像できる程度の焦点距離を持つ。
【0029】
(焦点調節機構)
焦点調節機構109は、可動保持部材の移動に伴って撮像カメラの焦点を調整するための調整部であり、本実施形態においては、撮像カメラ107を光拡散部材105に追従して動かすためのリニアガイド、ボールネジなどの送り機構、直動機構などで構成される。焦点調節機構109は光拡散部材105の移動に伴って焦点を調整する(つまり光拡散部材105の移動に伴って焦点も追従して移動させる)ものであればどんなものを用いても良い。
【0030】
図3に撮像カメラ107と焦点調節機構109の例を示す。図3(a)では焦点調節機構はモータ302、リニアガイド301などで構成される例を示している。モータ302はDCモータ、ステッピングモータ、電磁モータなどのモータである。送り機構、直動機構などにより、可動保持板が移動した距離を距離測定部111(図1参照)で測定し、その距離を演算処理部110に出力して、演算処理部110からモータ302に指令を送信しても良い。また、図3(b)に示すように、光拡散部材105に追従するよう、ハンドル303を用いて手動で撮像カメラを動かしても良い。この場合、光拡散部材105の移動した距離を距離測定部111で測定してユーザに提示するとよい。また、ハンドルなどを使わず撮像カメラを直接ガイドに沿わせ動かしても良い。なお、焦点調節機構109は、送り機構、直動機構に限定されるものではなく、図3(c)に示すように、光拡散部材105と撮像カメラ107を軸304などで繋ぎ、光拡散部材105と撮像カメラ107との距離が常に一定となるよう機械的に固定しても良い。
【0031】
(演算処理部)
演算処理部110は、相対照射分布の算出、光吸収係数分布等の画像データの生成、焦点調節機構への指令送信、等を行う処理部であり、典型的にはワークステーションなどが用いられる。相対照度分布を算出し、その結果から照射光にフィードバックする処理などがあらかじめプログラミングされたソフトウェアにより行われる。また、処理部は、音響波探触子106から取り込まれた電気信号に対してノイズ低減処理などを行ってもよい。さらに、撮像カメラ107の移動制御だけでなく、音響波探触子106や光学部104等の走査機構の制御など光音響イメージング装置を動作させる処理全般を行ってもよい。
【0032】
(測定フロー)
次に、図2に示す測定のフローチャートを用いて本実施形態の光音響イメージング装置の測定フローを説明する。本フローでは、被検体内の特性情報として光吸収係数分布を取得する例を説明する。また、本実施形態の測定フローでは、光量分布は、被検体の特性情報を取得する前に事前に、保持板間の距離に応じて数パターン(例えば、数mm間隔で距離を変えて数パターン)取得しておき、テーブルを作成しておく。そして、被検体をある距離Lで保持して音圧分布を取得し、その後、事前に測定した距離Lの位置の光量分布のデータ(もしくは距離Lに一番近い時の光量分布のデータ)を読み込む。ただし、本発明はこのような測定フローに限定されない。例えば、被検体を保持部材で保持した後、光を照射して特性情報を取得する前に、光量分布を取得しても良い。この場合は、被検体を実際に保持している状態と同じ状態で光量分布を取得できるので、より正確な特性情報を取得可能となる。以下では前者の測定フローに従った例を説明する。まず、光量分布の取得までの流れについて説明する。 図1(a)で示すように、保持部材101内に被検体102が配置される代わりに、光拡散部材105を照射光が照射される方の可動保持板101a表面に配置する(S201)。そして所望の位置に可動保持板101aを動かすと同時に、撮像する撮像カメラ107も焦点調節機構109により可動保持板101aに追従させて同じ距離分だけ動かす(S202)。光源103が発した光は、光学部104を介して光拡散部材105に照射される(S203)。このとき、音響波探触子106は光拡散部材105の位置と撮像カメラ107の位置には干渉しない位置に避けておく。
【0033】
光拡散部材105に照射された照射光は光拡散部材105上で拡散され、形成された光学パターンを撮像カメラ107で撮像する。撮像カメラ内の光検出素子で検出した光は第1の電気信号(撮像信号)に変換される(S204)。第1の電気信号は演算処理部110に取り込まれ、第1の電気信号を用いて光拡散部材105の位置の相対照度分布が算出される(S205)。具体的には、撮像カメラ107で撮像された光学パターンと、予め測定した1ピクセルあたりの撮像対象(ここでは光拡散部材105)の大きさを基に、被検体表面での相対照度分布が算出される。これにより、光源103の照射光が被検体102に照射されたときに被検体表面での相対照度分布が推定される。次に、演算処理部110は算出された相対照度分布に基づいて、被検体102内の光量分布を算出する(S206)。具体的には、計算空間内の被検体の表面上に、上述した相対照度分布と同じ相対照度分布を持つ仮想の光源を配置して、光拡散方程式、輸送方程式またはモンテカルロ・光伝播シミュレーション等を用いることで光量分布が算出される。
【0034】
次に、被検体102に発生する音圧分布の算出までを説明する。図1(b)で示すように、保持部材101で被検体102を所望の位置で保持し、音響波探触子106を被検体102に光が照射される位置と対向する位置に配置する(S207)。光学部104から出射した光は、被検体102に可動保持板101aを介して照射される(S208)。そして、照射光の光エネルギーが被検体102内の光吸収体に吸収されることで発生する音響波を音響波探触子106が受信し、第2の電気信号(受信信号)に変換する(S209)。第2の電気信号は演算処理部110に取り込まれ、演算処理部110は、第2の電気信号を用いて初期音圧分布を算出する(S210)。
【0035】
次に、S210で算出された初期音圧分布とS206で算出された光量分布とを用いて、演算処理部110は光吸収係数分布を算出する(S211)。具体的には、式1に従い、初期音圧分布を光量分布で除することで光吸収係数分布を算出する。最後に、演算処理部110はS11で算出された光吸収係数分布を画像データとして生成する。
【0036】
このように光拡散部材105を使用して、本実施形態のように焦点を調整して光学パターンを撮像することで相対照度分布を精度よく推定でき、結果的に被検体内の特性情報を精度よく求めることが可能となる。
【0037】
<第二の実施形態>
第一の実施形態では、撮像カメラの焦点を、光拡散部材の移動に連動して撮像カメラを追従させることにより調節したが、本実施形態では、撮像カメラは動かさず、フォーカス機能によって焦点を調節する。
【0038】
図4は本実施形態の被検体情報取得装置である光音響イメージング装置の構成の一例を示した模式図である。本実施形態の光音響イメージング装置の構成は、撮像カメラ、焦点調節機構以外は第一の実施形態と同様であり、第一の実施形態と同様の部分に関しては説明を省略する。図4(a)は光音響イメージング装置により被検体を測定している様子を示す模式図であり、図4(b)は本実施形態の光音響イメージング装置において、相対照度分布の測定する際の一例を示す模式図である。
【0039】
本実施形態では、撮像部である撮像カメラ107が焦点調節機構201と光学系202を有する。撮像カメラ107は、レンズ等の光学系202を焦点調節機構201によって調節することによって、撮像カメラ107から任意の距離の拡散部材に生じている光学パターンを、撮像カメラ107の位置自体は動かさず焦点を合わせることができる。これより、明瞭な光学パターンを撮像できる。
【0040】
図5は、撮像カメラの画角と光拡散部材位置の関係を示している。破線は光拡散部材105と可動保持板101aが移動した位置を示している。撮像カメラ107のレンズ構成等によっては、光拡散部材105が移動することに伴い、撮像カメラ107で撮像できる画角も変化する。したがって、撮像カメラ107で撮像可能な光拡散部材105の面積も変化するため、光拡散部材105の位置に応じて得られる相対照度分布も異なる。そのため演算処理部110で、例えば、光拡散部材105全体が撮像できる画角を基準として、距離測定部111により取得した光拡散部材105の位置に応じ、画角の差を補正するように撮像信号の補正(画像補正を含む)を行って相対照度分布を得るとよい。
【0041】
次に、撮像カメラ107の構成について具体的に説明する。撮像カメラ107の光学系202はNDフィルターやレンズ等が配置される。このレンズは、主にズームレンズ、可変焦点レンズが望ましい。またNDフィルターは、撮像カメラ107が光拡散部材105上で拡散された照射光の光学パターン全体を撮像できるNDを有していれば良い。焦点調節機構201は主に焦点合わせは手動、自動に限定されないが、特に自動(オートフォーカス)で光学系202の調節を行うことが望ましい。オートフォーカスはアクティブ方式、パッシブ方式のどちらでも良い。オートフォーカスの駆動部には主に超音波モータ、ステッピングモータ、DCモータなど光学系202を前後に移動出来るものであれば同様の効果が得られる。手動では、一眼・二眼方式、レンジファインダー方式、あるいは目視でピントを合わせるなど焦点を合わせられればいずれの方法を用いても良い。例えば、レンジファインダー方式では、焦点調節機構201はレンズの繰り出し量などを測定する測定部と光学距離計を有し、これらを連動させてスプリットイメージや二重像の重ね合わせによりピント合わせを行う。
【0042】
次に本実施形態における測定フローを詳細に説明する。図6は本実施形態の光音響イメージング装置を用いた場合の測定のフローチャートである。本実施形態のフローは、焦点調節に関するステップ(S602)とそれにより画角補正が必要な点(S612)以外は、第一の実施形態の測定フロー(図2)と同様であるため説明を省略する。
【0043】
まず、所望の位置に光拡散部材105を有した可動保持板101aを動かす(S201)。距離測定部111より距離を測定し、演算処理部110より指令し焦点調節機構201を駆動させてレンズを動かし、撮像カメラ107の焦点を合わせる(S602)。このとき手動で焦点調節機構201を操作し、焦点の調節を行っても良い。光拡散部材105に照射された照射光は、光拡散部材105上で拡散され、その光学パターンが光学系202を介して撮像部107に受信され、第1の電気信号(撮像信号)に変換される。そして、第1の電気信号は演算処理部110に取り込まれる。演算処理部110によって、拡散部材の位置に応じた撮像部の画角情報を用いて画角を補正するように第1の電気信号の補正を行う(S612)。このとき光拡散部材のある位置を基準とし、画角を補正するように処理する。これにより拡散部材13上の相対照度分布が算出される(S205)。
【0044】
以上のように、焦点調節機構を撮像カメラ107に搭載することで、撮像カメラ107を機械的に動かすのに比較しコンパクトにすることが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
101 保持部材
101a 可動保持板
101b 固定保持板
102 被検体
103 光源
104 光学部
105 光拡散部材
106 音響波探触子
107 撮像カメラ
108 光学系
109 焦点調節機構
110 演算処理部
111 距離測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を狭持する方向に移動可能な可動保持部材を有する保持部材と、
保持部材を介して光源からの光を前記被検体に照射する照射部材と、
前記光により被検体内で発生する音響波を受信して電気信号に変換する音響波検出手段と、
前記電気信号を用いて被検体内の情報を取得する処理部と、
前記可動保持部材に配置された光拡散部材と、
前記光が前記光拡散部材に照射された時に形成される光学パターンを撮像する撮像部と、
を有する被検体情報取得装置であって、
前記撮像部は、前記可動保持部材の移動に伴って、焦点を調整可能に構成されていることを特徴とする被検体情報取得装置。
【請求項2】
前記撮像部を機械的に移動させる調整部を有し、
前記調整部は、前記可動保持部材の移動に伴って、焦点を調整するように前記撮像部を移動させることを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項3】
前記可動保持部材と前記撮像部の距離は一定となるよう機械的に固定されていることを特徴とする請求項2に記載の被検体情報取得装置。
【請求項4】
前記撮像部は、前記可動保持部材の移動に伴って、撮像部の有する光学系を動かすことで焦点が調整され、
前記処理部は、前記光拡散部材の位置に基づいて前記撮像部の画角の補正をするよう前記撮像部から出力される撮像信号を補正することを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記撮像部から出力される撮像信号を用いて前記被検体に照射される光の相対照度分布を取得することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−90836(P2013−90836A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235134(P2011−235134)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】