説明

被検出物質の検出方法

【課題】抗体を用いなくても、被検出物質を容易に検出することが可能な検出方法の提供。
【解決手段】検出方法は、ウイルスを検出する検出方法であって、第1ステップと、第2ステップと、を備えている。第1ステップでは、液体培地と、ウイルスを含むと推定される検体とを混合して、混合液を調整する。また、液体培地は、ウイルスが感染可能な細菌又は細胞を含有している。第2ステップでは、第1ステップで調整した混合液中の溶存酸素濃度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出物質を検出する検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特定の微生物等の被検出物質を効率よく検出するために、様々な検出方法が開発されている。例えば、特許文献1(特開平8−75742号公報)では、特定の細菌やウイルス等のタンパク質を検出するために、これらに対する特異的な抗体を用いた抗原抗体反応を利用した検出方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、抗体として動物から得られる抗血清が用いられる場合には、動物の個体差等によって感度や特異性を一定に保つことが難しいため、抗体を用いた検出方法は、性能の確保が困難な場合がある。このため、抗原抗体反応を利用した被検出物質の検出キットでは、検出キットの生産ロット毎に反応性が異なる可能性があり、被検出物質を精度よく検出できないおそれがある。
【0004】
そこで、本発明の課題は、抗体を用いなくても、被検出物質を容易に検出することが可能な検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1発明に係る検出方法は、被検出物質を検出する検出方法であって、第1ステップと、第2ステップと、を備える。第1ステップでは、被検出物質が感染可能な細菌又は細胞を含有する液体培地と、被検出物質を含むと推定される検体とを混合して、混合液を調整する。第2ステップでは、混合液中の溶存酸素濃度を測定する。
【0006】
従来より、細菌や細胞は、呼吸をすることにより、液体培地中の溶存酸素を消費することが知られている。このため、細菌数や細胞数が多いほど、液体培地中の溶存酸素の消費量が多くなるため、液体培地中の溶存酸素濃度は低くなる。また、細菌や細胞は、ウイルスの感染によって、ネクローシスを起こすことが知られている。
【0007】
そこで、第1発明に係る検出方法では、混合液の溶存酸素濃度が測定されている。このため、検体に被検出物質が含まれており、且つ、被検出物質がウイルスである場合には、ウイルスが細菌又は細胞に感染することで呼吸可能な細菌又は細胞の数が減少し、細菌又は細胞による混合液中の溶存酸素の消費量が減少する。これにより、ウイルスが含まれている検体と細菌又は細胞を含有する液体培地とを混合して調整された混合液は、ウイルスが含まれていない検体と細菌又は細胞を含有する液体培地とを混合して調整された混合液と比較して、混合液中の溶存酸素濃度が高くなる。したがって、混合液中の溶存酸素濃度を測定することで、検体に被検出物質が含まれるか否かを判定することができる。
【0008】
これによって、抗体を用いなくても、被検出物質を容易に検出することができる。
【0009】
第2発明に係る検出方法は、第1発明の検出方法であって、混合液中の溶存酸素濃度は、酸素電極を用いて測定される。このため、この検出方法では、溶存酸素濃度を容易に測定することができる。
【0010】
第3発明に係る検出方法は、第1発明又は第2発明の検出方法であって、第2ステップでは、培養された混合溶液中の溶存酸素濃度が測定される。このため、所定時間培養されることで液体培地中の溶存酸素濃度が低下するような細菌又は細胞を採用することができる。
【発明の効果】
【0011】
第1発明に係る検出方法では、抗体を用いなくても、被検出物質を容易に検出することができる。
【0012】
第2発明に係る検出方法では、溶存酸素濃度を容易に測定することができる。
【0013】
第3発明に係る検出方法では、所定時間培養されることで液体培地中の溶存酸素濃度が低下するような細菌又は細胞を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】細菌数が103cfu/mlの菌液を液体培地に添加して、培養時間の経過に伴う液体培地中の溶存酸素濃度の変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
従来より、細菌や細胞は、呼吸をすることにより、培地中の溶存酸素を消費することが知られている。例えば、図1では、細菌における、培地中の溶存酸素濃度と培養時間との関係を示している。図1に示す第1領域では、細菌数が小数(例えば、103cfu/ml)であるため、空気中から培地に溶解する酸素量が、細菌の呼吸によって失われる酸素量よりも多くなる。これにより、第1領域では、培養時間が経過しても溶存酸素濃度がほぼ一定の濃度で維持される。図1に示す第2領域では、細菌が増殖することで細菌数が増え(例えば、107〜108cfu/ml)、空気中から培地に溶解する酸素量よりも、細菌の呼吸によって失われる酸素量が多くなる。これにより、第2領域では、培養時間の経過に伴って溶存酸素濃度が著しく低下する。図1に示す第3領域では、細菌数が飽和する(例えば、108〜109cfu/ml)ことで、培養時間が経過しても溶存酸素濃度がほぼ一定の濃度で維持される。
【0016】
また、細菌数や細胞数が多いほど、培地中の溶存酸素の消費量が多くなるため、培地中の溶存酸素濃度は低くなる。さらに、細菌や細胞は、ウイルスの感染によってネクローシスを起こすことが知られている。
【0017】
そこで、本発明者は、これらの点に着目することで本発明に到達した。具体的には、本発明者は、細菌又は細胞を含有する培地にウイルスを添加することで、ウイルスが細菌又は細胞に感染し、呼吸可能な細菌又は細胞の数が減少すると考えた。このため、本発明者は、細菌又は細胞を含有し、且つ、ウイルスが添加された培地の溶存酸素濃度が、細菌又は細胞を含有し、かつ、ウイルスが添加されていない培地の溶存酸素濃度よりも高くなると考えた。これにより、本発明者は、培地中の溶存酸素濃度を測定することで、ウイルスを容易に検出することができると考えた。
【0018】
次に、本発明の実施形態に係る被検出物質の検出方法について説明する。
【0019】
<被検出物質の検出方法>
本発明の実施形態に係る被検出物質の検出方法は、細菌又は細胞を含有する液体培地と、被検出物質を含むと推定される検体とを混合して混合液を調整し、混合液の溶存酸素濃度を測定して得られた測定結果により、検体に被検出物質が含まれているか否かを判定するものである。ここで、被検出物質とは、ウイルス(例えば、インフルエンザウイルス又はバクテリオファージ)のことであり、細菌や細胞とは、被検出物質であるウイルスが感染可能な種類の細菌(例えば、大腸菌又は枯草菌)又は細胞のことである。また、説明の便宜上、細菌又は細胞を含有しない液体培地を非含有液体培地とすると、細菌又は細胞を含有する液体培地は、予め細菌又は細胞を非含有液体培地に混合して凍結したものを解凍することで生成されてもよく、また、細菌が固定化されたビーズを測定時に非含有液体培地に添加することで生成されてもよい。
【0020】
また、溶存酸素濃度を測定する方法としては、酸素電極法を用いることができる。酸素電極法は、特開2000−287699号公報では、被検食品を添加した液体培地中に含まれる溶存酸素濃度を酸素電極で測定することで、食品中の細菌数を測定する方法として採用されている。酸素電極法では、液体培地中に含まれる溶存酸素の濃度が高いほど、多くの電流が測定される。このため、細菌の呼吸(代謝活動)により液体培地中の溶存酸素濃度が低下することで、酸素電極である作用極と対極との間に流れる電流値が低下することになる。そこで、本発明の実施形態に係る被検出物質の検出方法では、酸素電極法を用いて、混合液中の溶存酸素濃度を測定する。
【0021】
次に、本発明の実施形態に係る被検出物質の検出工程について、具体的に説明する。
【0022】
<被検出物質の検出工程>
本発明の実施形態に係る被検出物質(ウイルス)の検出方法は、第1ステップと、第2ステップとを備えている。ここで、細菌又は細胞と液体培地との組み合わせとしては、液体培地中で細菌又は細胞を培養することで、液体培地中の溶存酸素濃度の著しい低下(図1の第2領域に相当)が所定時間後に現れるような組み合わせを用いる。また、本実施形態では、細菌又は細胞を、所定温度で第1所定時間培養した液体培地の溶存酸素濃度を酸素電極法によって予め測定している(図1参照)。なお、所定温度とは、細菌又は細胞の培養に適した温度とする。
【0023】
まず、第1ステップでは、ウイルスが含まれていると推定される検体を、細菌又は細胞を含有する液体培地に添加して、混合液を調整する。
【0024】
次に、第2ステップでは、第1ステップで調整した混合液を所定温度で第1所定時間培養し、培養後の混合液の溶存酸素濃度を、酸素電極法を用いて測定する。
【0025】
そして、予め測定した所定濃度(細菌又は細胞を所定温度で第1所定時間培養した液体培地の溶存酸素濃度)と、所定温度で第1所定時間培養した混合液中の溶存酸素濃度と、を比較して、検体にウイルスが含まれているか否かを判定する。具体的には、第1所定時間培養された混合液中の溶存酸素濃度が所定濃度よりも高ければ、検体にウイルスが含まれていると判定する。また、第1所定時間培養された混合液中の溶存酸素濃度が所定濃度以下であれば、検体にウイルスが含まれていないと判定する。なお、本実施形態では、予め測定した所定濃度(細菌又は細胞を所定温度で第1所定時間培養した液体培地の溶存酸素濃度)と、所定温度で第1所定時間培養した混合液中の溶存酸素濃度とを比較しているが、これに代えて、ウイルスが含まれていない検体を細菌又は細胞を含有する液体培地に添加したものを所定温度で第1所定時間培養した後の溶存酸素濃度と、所定温度で第1所定時間培養した混合液中の溶存酸素濃度とが比較されてもよい。このように、混合液中の溶存酸素濃度の比較対照を検体が添加された液体培地の溶存酸素濃度にすることで、検体が液体培地に添加されることで生じる化学反応による溶存酸素濃度の変化に基づいて比較対照の溶存酸素濃度を補正することができるため、より正確に判定することができる。
【0026】
<特徴>
(1)
上記実施形態では、ウイルスを含むと推定される検体と細菌又は細胞を含有する液体培地とが混合されて調整された混合液が第1所定時間培養された後に、混合液中の溶存酸素濃度が酸素電極法によって測定されている。このため、検体にウイルスが含まれている場合には、細菌又は細胞にウイルスが感染することで呼吸可能な細菌又は細胞の数が減少し、細菌又は細胞による混合液中の溶存酸素消費量が減少するため、所定濃度(細菌又は細胞を所定温度で第1所定時間培養した液体培地の溶存酸素濃度)よりも混合液中の溶存酸素濃度が高くなる。したがって、混合液中の溶存酸素濃度と所定濃度とを比較することで、検体にウイルスが含まれているか否かを判定することができる。
【0027】
これによって、性能の確保が困難な場合がある抗体を用いなくても、ウイルスを容易に検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、抗体を用いなくても被検出物質を容易に検出することが可能な検出方法であるため、ウイルスの検出方法への適用が有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特開平8−75742号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出物質を検出する検出方法であって、
前記被検出物質が感染可能な細菌または細胞を含有する液体培地と前記被検出物質を含むと推定される検体とを混合して、混合液を調整する第1ステップと、
前記混合液中の溶存酸素濃度を測定する第2ステップと、
を備える検出方法。
【請求項2】
前記混合液中の溶存酸素濃度は、酸素電極を用いて測定される、
請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記第2ステップでは、培養された前記混合溶液中の溶存酸素濃度が測定される、
請求項1又は2に記載の検出方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−193793(P2011−193793A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63765(P2010−63765)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】