説明

被検化合物検出装置及び方法

【課題】殺虫剤やその他の被検化合物を検出するためのポータブルな携帯型の装置及び方法を提供すること。
【解決手段】検査されるサンプルがカセット上に取付けられ、実質的に光を通さない筐体内へと挿入され、サンプル上の被検化合物からの蛍光発光を誘起するために、筐体内の光源からの光がこのサンプルに向けられる。検出されるべき被検化合物に特有のスペクトル成分を有する発光を検出するため、筐体内の検出器によってサンプルからの蛍光発光がモニターされる。検出器からのデータは処理され、この処理されたデータに基づく情報が表示される。実施形態によっては、装置は濃度や密度が既知である参照サンプルからのデータによって較正される。検出器は、単位面積当たりの質量の単位で被検化合物を測定し、実施形態によっては、単位面積当たりの質量がサンプル中の被検化合物の濃度や密度の単位へと換算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺虫剤やその他の被検化合物の検出に関し、特に、農産物上の殺虫剤の検出に好適な、ポータブルな携帯型の装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機農業はアメリカの農業において近年最も急速に成長している分野の一つであり、その品質や味の良さから、多くの人々が有機栽培の農産物を好んでいる。有機栽培農家が合成殺虫剤や化学肥料を用いることは許されておらず、有機栽培された農産物はこれまでの栽培法による農産物よりも非常に低いレベルの残留殺虫剤しか含んでいない。このようなより厳格な栽培基準や、消費者の間での人気の高さ、入手が比較的困難であることから、有機農産物は一般に他の果物や野菜よりも高い価格で売れている。
【0003】
現在、農産物は収穫したばかりのサンプルを分析のために試験所へと送って農産物の残留殺虫剤の検査がなされており、結果を得るのに数日かかることもしばしばである。
【0004】
従来の試験所における試験では、サンプルの質量が測定され、サンプルが粉砕され、そしてサンプル質量のうちごく少量、百万分の一(PPM)単位で、被検化合物の質量が測定される。また、葉からの抽出残留量(dislodgeable foliar residue、DFR)測定として知られるもう一つのタイプの測定法では、サンプルから被検化合物が溶媒によって洗い流され、この溶媒中の被検化合物の質量が測定され、そしてその濃度がサンプルの単位面積当たりの質量の形で報告される。DFR測定は通常、人の消費の安全性よりも、労働者の安全性の検査に用いられている。
【0005】
従来から、キュベットに入れられ分光光度計で分析される水溶性サンプルを用いて、野外において蛍光分光法により、農産物の残留殺虫剤の存在を検査するポータブルな装置を提供しようとする試みがなされてきた。このような装置によるとサンプルを試験所に送る必要はなくなるが、それでも水溶性サンプルを用いることは時間がかかり、取り扱いも困難である。
【0006】
特許文献1及び特許文献2は、簡単にかつ農産物に接触することなく残留殺虫剤の存在を検出するという目標にむけた、ポータブルな自己充足型の装置を開示している。これらの装置は野外やその他の場所において、殺虫剤含有量を測定するために用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7304741号明細書
【特許文献2】米国特許第7400405号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は被検化合物を検出するための、新規の改善された装置及び方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明のもう一つの目的は、農産物上の殺虫剤を検出するのに特に適した、上述の特徴を有する装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明により、実質的に光を通さない筐体を有する装置を提供し、検査されるサンプルをカセットの上に取付け、前記カセットを前記筐体に挿入し、前記サンプル上の被検化合物からの蛍光発光を誘起するために、前記筐体内の光源からの光をサンプルの方へ向けることで、これらの、またその他の目的が達成される。前記サンプルからの蛍光発光は、検出される被検化合物に特有のスペクトル成分を有する発光を検出するために、前記筐体内の検出器でモニターされる。前記検出器からのデータは処理され、この処理されたデータに基づく情報が表示される。いくつかの実施形態においては、この装置は濃度や密度が既知である参照サンプルからのデータによって較正される。前記検出器は、単位面積当たりの質量の単位で被検化合物を測定し、いくつかの実施形態においては、単位面積当たりの質量データがサンプル中の被検化合物の濃度や密度の単位へと換算される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る被検化合物検出器の一実施形態の部分分解等角図である。
【図2】図1の実施形態における、検査対象サンプルを取付けたカセットを示す分解等角図である。
【図3】図2のカセットにサンプルを入れて閉じた状態を示す等角図である。
【図4】図1の実施形態のフロントパネルやベゼルとともにカセットを取り除いた状態の垂直断面図である。
【図5】図4中の線5−5に沿った断面図である。
【図6】図5中の線6−6に沿った断面図である。
【図7】図1の実施形態のカセットリーダーの光路図である。
【図8】図1の実施形態におけるシャーシや底面カバー、関連要素の分解等角図である。
【図9】図1の実施形態の概略ブロック図である。
【図10】較正基準参照サンプルと検査対象サンプルの両方を備えたカセットの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1の実施形態において、本装置は、リーダに挿入されるカセット又はカートリッジ18に取付けられた試料17上の殺虫剤やその他の被検化合物を検出するための検出器システム又はリーダ16を備えている。このリーダは、実質的に光を通さない囲い22内のシャーシ21に取付けられ、周囲の光が検出器の測定に影響を与えないようにしている。リーダの一側面に固定されるとともに囲いの前面パネル22aの開口部25から突き出した表面プレート又はベゼル24の開口部又はスロット23を通って、カセットはリーダ内へと挿入される。
【0013】
この囲いは略立方体の形状であり、正方形の側壁22bや、固定ネジ26のような固定具で囲いの本体に着脱可能に取り付けられた頂面及び底面のカバー22cと22dを有する。シャーシはスペーサ27によって底面カバーの上方に離間された状態で取付けられ、シャーシと底面カバーはネジ28又はその他の適当な固定具によってスペーサに固定されている。この装置は例えば持ち運びや、携帯といった可搬性のために設計されており、一実施形態においては、囲いの寸法は各辺が約6インチ程度である。装置が置かれた載置面を保護するとともに、載置面上で装置が滑るのを防ぐための脚部29が底面カバー22dの下面に取り付けられている。
【0014】
図2及び図3に示すように、カセットは上面パネル18aと下面パネル18bを有し、これらはヒンジ18cで一体接合されている。図示した実施形態において、この2枚のパネルとヒンジは、ポリプロピレンや、その他ポリカーボネートやポリスチレンといった熱可塑性高分子のシートを切り出すことにより、一体構造として形成されている。この材質は比較的剛性が高く、この一体構造は、上面パネルが下面パネルに重なる閉じた状態に熱成形される。この他にも必要に応じて射出成形やその他の適当な方法でカセットを成形することが可能である。
【0015】
これら2枚のパネルは長方形であり、パネルのうちヒンジと反対側の端部の方に設けられた、整列した孔32a、32bを貫通するリベット31により、閉位置に固定される。比較的大きな円形の視界窓又は開口部33a、33bがこれらのパネルの中央部に形成され、位置決め孔34a、34bがヒンジの近傍に形成されている。図示した実施形態において、パネルの長手方向の中心線又は中心軸36に開口部の中心が揃えられており、視界窓は横手方向の中心線又は中心軸37に接している。パネルを閉位置にすることで、2枚のパネルに設けられた対応する開口部が互いに整列する。
【0016】
試料17は視界窓33a、33bに整列させられたこれらの2枚のパネルの間に位置決めされ、2枚のパネルからの圧力により固定される。試料は、例えばホウレンソウやレタスのような農産物の葉、果物や野菜の薄切り片、その他にも殺虫剤やその他の被検化合物を検出及び/または測定すべきその他のサブストレート(substrate)である。カセットの開位置において、試料は窓33bの上方に下面パネルに置かれる。そして2枚のパネルが試料に当接するように閉じられ、リベットがパネルを閉位置にロックして試料を正しい位置に保持するために挿入される。パネルの縁からはみ出した試料は切除してよい。
【0017】
2枚のパネルは同一であるため、カセットのどちらの面を上にしてもリーダに挿入することができ、試料の片面、又は両面の被検化合物について測定することができる。両面を試験する能力は、試料の片面だけが被検化合物にさらされた場合や、試料の両面の被検化合物の全体量を決定する必要がある、といった状況において重要となる。また、試料の両面の被検化合物を同時に測定するための追加コンポーネントをリーダに設けても良い。
【0018】
リーダは、試料の分析のためにカセットを挿入するキャビティ40を有するボディ又はブロック39を備えている。このキャビティはベゼル24の開口部又はスロット23と整列しており、図示した実施形態では、ブロックの下側と、リーダが取付けられるシャーシ21の上面とを通して開いたスロット41が形成されている。カセットがこのキャビティへ容易に挿入・抜去され、完全に挿入されたときには周囲の光が囲いの中に入らず、測定に影響を与えないように開口部をふさぐよう、キャビティの高さと幅は、対応するカセットの寸法よりも若干大きくなっている。
【0019】
ネジ構造によりリーダブロックに取付けられ、下端が開いた軸状の穴43aを有するボディ43を備えた、解放可能なラッチまたは戻り止め組立体42によりカセットはリーダ内の正しい位置に保持される。カセットがリーダキャビティに挿入されたり、リーダキャビティから抜去されたりするときに、位置決め孔34a、34bで形成されたキャビティに出入りするように、戻り止めボール44がこの穴に取付けられている。穴の中でボールの上にある圧縮ばね45によって、このボールはカセットに向けて下方へと付勢される。
【0020】
カセットがリーダ内へと押し込まれると、カセットによってボールにかけられる力がボールを持ち上げ、カセットがボールの下を通過することができるようになり、カセットが正しい位置にロックされるところで、カセットの位置決め孔によって形成されたキャビティにボールが落ち込み、ばねがボールと孔の壁とが係合するように付勢する。カセットがリーダから引き抜かれるときは、孔の壁によってボールにかけられる力がばねに対抗してボールを持ち上げ、カセットがボールの下を通過できるようにする。
【0021】
光源及び検出器の筒46、47はリーダブロックの交差穴48、49に取付けられている。図示した実施形態では、検出器の筒と穴は上下方向に延び、光源の筒と穴は上下方向に対して45度の角度をなす方向に延び、それぞれの穴の中心線はカセットの試料窓の中心で交差するようになっている。
【0022】
リーダは、蛍光を発する物質に特有のスペクトル成分を有する蛍光発光を生成するために、筒46の外側端部に、試料上に向けた光を生じさせるための光源50を有している。好ましい実施形態の1つでは、光源は、フラッシュランプからの光を試料の方へと向けるためのリフレクタ(図示せず)とともに回路基板51上に取付けられたキセノンフラッシュランプである。紫外線LEDや水銀灯のような他のタイプの光源も必要に応じて使用することが可能である。
【0023】
UVフィルター52は筒46内で光源と試料との間に取付けられる。このフィルターは検出されるべき殺虫剤やその他の被検化合物からの最大の蛍光発光が得られるような波長の光を通過させるように選択される。レンズ53がフィルターを通過した光を試料上に合焦させるよう、筒内でUVフィルターと試料との間に取付けられている。第2のUVフィルター54と1組のレンズ55、56は筒47内で、試料と筒の端部外側にあるUV検出器57との間に取付けられる。このフィルターは検出される殺虫剤や被検化合物に特有のスペクトル成分を有する発光を選択的に通過させるように選ばれ、レンズはこれらの放出光を検出器上に合焦させる。
【0024】
例えば、カルバリル殺虫剤(1−ナフチル メチルカルバメート、1−naphthyl methylcarbamate)は、約270nmの最適な励起波長と、330nm付近に発光ピークを有しており、カルバリルを検出すべきときは、フィルター52と54はこれらの波長を中心とした通過帯域を有している。
【0025】
試料上に存在し得る他の殺虫剤又は被検化合物が若干異なる波長の光を発することもある。そのような被検化合物による誤測定を防ぐために、蛍光測定において複数のフィルターセットやスペクトル分離(spectral unmixing)のような技術を、特定の被検化合物に関する特定性を高め、より正確な結果を得るために用いることが可能である。このような技術はまた、異なる蛍光励起スペクトル及び/又は異なる発光スペクトルを有する他のカルバメート殺虫剤のような複数の被検化合物の測定を可能にする。
【0026】
複数のフィルターセットは、例えば、米国特許第7304741号明細書及び7400405号明細書に詳細が開示されているように、複数のフィルターを対にして、所望の被検化合物用のフィルターを光源及び検出器と位置合わせするように移動させられるホイールや他の適当なキャリアに取付けることで実装することができる。
【0027】
スペクトル分離は、複数の蛍光性の被検化合物が重なり合うような発光スペクトルを有し、各フィルターセットやチャンネルの測定信号が測定されている被検化合物のいくつか又は全てに由来する成分やクロストークを有するとき、特に有用である。スペクトル分離は良く知られた技術であり、測定すべき対象以外の被検化合物からのフィルターを通過した発光の量が、フィルターを通過した発光の全体量から減算され、最終結果は測定すべき被検化合物からの発光のみを含むようにするという技術である。
【0028】
放置すると時間とともに蓄積して誤測定を招くおそれのある、試料からのごみを取り除くため、ポート59が検出器組立体又はリーダの清掃用に設けられる。このポートはシャーシ21と囲いの底面カバー22dのうちカセットの窓領域の直下にあたる部分に開口部61、62を有し、ガスケット63が開口部を取り囲んで底面カバーとシャーシの間の隙間を橋渡ししている。アクセス板又は扉64は底面カバーの下側に、ブロック39にねじ止めされる、つまみねじ66、66によって取り外し可能に固定される。
【0029】
カセットとアクセス板を取り外し、ユニットの上下を保ったまま軽く揺すり、散らばったごみをふるい落とすことで、検出器組立体又はリーダを定期的に清掃するのがよい。その後、ユニットの上下をひっくり返して視認し、検出器組立体の内部やレンズ上に残ったごみを必要に応じてプラスチックのピンセットや、アルコールに浸した綿棒などで取り除くことができる。
【0030】
光源を制御し、検出器からの信号を処理するための電子回路は、シャーシ21に固定された直立支持部69の片面に取付けられた回路板68に配されており、装置に電源を供給するためのバッテリーは支持部のもう一方の面上のバッテリーパック71に取付けられている。電源スイッチ72と電源ランプ73はフロントパネル又はベゼル24に配され、囲いの外からアクセス可能となっている。
【0031】
図9に示すように、処理回路は、検出器57や他の供給源からのデータや指示を受信し、試料上の殺虫剤やその他の被検化合物に関する情報を提供するため、指示に応じてデータを処理するプロセッサ76を有している。検出器からの信号は増幅器及び変換段77によって、増幅されてプロセッサのためのデジタル形式へと変換され、プロセッサからの情報はディスプレイ78へと提供される。
【0032】
図1に示すように、ディスプレイは例えば、装置のフロントパネルに取付けられたタッチスクリーンでもよい。装置による測定結果のような情報を表示するのに加えて、タッチスクリーンはデータやコマンドを入力するインタフェースの役割も果たす。必要であれば、キーパッドや液晶ディスプレイなどを含む他の種類の入力装置やディスプレイを本装置に使用することも可能である。代わりに、本装置はノート型コンピュータや携帯電話、タブレット、その他の入力・処理・表示が可能な装置へと外部接続されてもよい。
【0033】
蛍光測定は本質的に相対測定であるため、装置の経年変化や周囲の環境条件により、動作中も変動するような、照射強度や検出器の感度に伴い、いかなる試料やサンプルからの絶対蛍光信号も変化する。そのような変化が測定精度に影響を及ぼさないように、装置は定期的に較正される。
【0034】
工場での較正(Factory calibration)は典型的には高濃度レベルから低濃度レベルまでの一連の基準参照被検化合物サンプルによって行われる。それぞれ既知の濃度について信号が測定され、一般的には標準曲線と呼ばれるものを提供するためにリーダのメモリに格納される。そして、未知のサンプルが測定されたときは、未知の被検化合物の濃度を決定するために、データが標準曲線に内挿される。工場での較正は一般的には装置が製造されたときに一度だけ行われる。
【0035】
これに加え、適切な動作のための装置のテストや、フラッシュランプの経年変化や光学系への埃の付着による光出力の減少といった装置の変化を較正するために、較正基準参照サンプル79が定期的に用いられる。較正サンプルは定期的に測定され、装置の標準曲線をメモリ中で調整することができ、必要であれば、較正サンプルの正しい濃度測定値を与えるために測定される。そのサンプルは実際の被検化合物を含んでもよく、また、所定量の被検化合物と同等の蛍光信号を与えるような他の物質であってもよい。
【0036】
図示した実施形態では、リーダの動作を確認し較正するために定期的にリーダ内に挿入される特別な較正カセットに、較正サンプルが取付けられている。これらのカセットは長寿命である必要はなく、定期的に交換することが可能である。
【0037】
もう一つの実施形態では、較正基準参照サンプルが、全てのカセットに分析される試料とともに取り付けられている。すなわち、例えば図2の破線で示すように、較正基準参照サンプル79と試料17が視界窓と整列し、カセット内で隣り合わせに配置される。カセット内の較正サンプルにより、測定が行われるたびに、単にカセットをひっくり返すだけで較正を実行することができる。
【0038】
必要があれば、カセットはカセットの同じ面からアクセス可能な較正サンプルと試験サンプルの両方を備えてもよい。すなわち、例えば図10に示すように、較正サンプル窓81と試験サンプル窓82がカセットの中心線に沿って間隔をあけて配置され、別々の戻り止め開口部83、84がそれぞれの窓について設けられている。使用時には、カセットはまず、戻り止めボール44が戻り止め開口部83と係合して較正サンプル79が読み取り位置に固定されるようにリーダの中に部分的に挿入される。較正測定がなされると、カセットは、戻り止めボールが第2の戻り止め開口部84と係合して試験サンプル17が測定場所に正確に位置するまで、更にリーダ内へと押し込まれる。
【0039】
他の実施形態では、交換可能な較正サンプルが、装置自体の恒久的部品として含まれている。すなわち、図8に示すように、例えば較正サンプル79が開口部61の上方、シャーシ21の上面に取付けられる。カセットが所定の位置につくと、カセットはこの較正サンプルを覆って、リーダからシールドするが、カセットが取り外されると、較正サンプルはあらわとなってリーダからアクセスされるようになる。
【0040】
試料上で検出された被検化合物の量と閾値レベルとを比較し、測定された量がこの閾値を上回っているかもしくは下回っているかを示すための手段もまた備えられている。この手段は、異なる被検化合物についての閾値データが格納されているメモリ86と、分析すべき試料のタイプを選択するタッチスクリーン78のようなユーザインタフェース87を有している。連邦規則は異なるタイプの農産物や他の食料品について殺虫剤の許容値を規定している。これらの規則によると、例えばホウレンソウのカルバリルに関する許容値は22ppmであり、レタスのカルバリルに関する許容値は10ppmである。異なるタイプの試料上の所定の被検化合物は異なる閾値レベルを有するため、格納データは、異なるタイプの農産物や試料上の各殺虫剤又は被検化合物に関する閾値データを含んでいる。
【0041】
本発明のリーダにより実行されるように、カルバリルやその他の被検化合物の直接蛍光検出は、検出された被検化合物の質量に比例する結果を与え、プロセッサは単位面積あたりの質量の測定値を百万分率の単位(ppm単位)で表されるサンプルの質量に対する被検化合物の質量の比へと換算するようにプログラムされている。このような換算を行うためには、サンプルの質量が決定されなければならない。
【0042】
一例として、平均的なホウレンソウの葉の厚さは約0.7mm又は0.07cmであり、密度は約0.9g/mlと求められている。すなわち、各辺が1cmの試料は以下の関係で与えられる質量と、体積を有している。
体積=1cm2×0.07cm=0.07cm3=0.07ml
質量=0.07ml×0.9g/ml=0.063g
直接蛍光測定値が5.0μg/cm2だったとすると、被検化合物と試料との質量比は、
【数1】


となる。すなわち、平均的なホウレンソウの葉に関するppmによる結果はμg/cm2による結果の大体16倍となり、単位面積当たりの質量を単に16倍するだけで、測定された単位面積当たりの質量が質量比へと換算される。
【0043】
ユーザが測定される被検化合物のタイプを選択したとき、プロセッサはメモリからその特定の被検化合物と試料のタイプに応じた閾値レベルを取得し、測定された量とこの閾値レベルとを比較し、測定された量が閾値レベルを上回っているのか、下回っているのかに関する視覚的な表示を提供するためにディスプレイを調整する。測定された量が閾値レベルを下回った場合、ディスプレイは、例えば試料が試験をパスして連邦の基準を満たすことを示す緑色のライトを表示してもよい。同様に、測定された量が閾値レベルを上回った場合、ディスプレイ上の赤いライトによって、試料が試験を通過せず、基準を満たさないことを示す。
【0044】
プロセッサはまた、全地球測位センサ(global positioning sensor、GPS)88からの、本装置の地理的位置に対応した入力を受け取る。測定が行われたとき、このGPS信号を確認することで、プロセッサは地理情報が付加されたデータをメモリ86に格納することができる。マッピングサービスや地理情報サービスを提供するソフトウェアやウェブサービスと組み合わせて用いると、このデータは多様な方法で、例えばある畑から別の畑への殺虫剤の漂流を検出する、といった付加価値を得られる。GPSシステムによって、本装置は畑の中の異なる位置において、例えば測定日時、作物のタイプ、測定結果、さらされた時間、散布の時間、散布のタイプ(例えば、空中散布、トラクター散布、手持ち散布器による散布)などを含んだ、別々の測定値を得ることができる。
【0045】
いくつかの実施形態においては、プロセッサはカセットに貼り付けられたバーコードラベル89からのデータも受信する。このバーコードは一意的なシリアル番号や、パスコード(passcode)、ロットごとの較正データ、といった情報を含んでいる。本装置はこのデータを、試料上の被検化合物のタイプと量、測定の日時や場所、測定実施者のID及び/または測定や試料に関するその他の情報といった情報を格納するために用いることができる。そして、この情報をもう1枚のバーコードラベルや検査済み農産物とともに出荷される書類に印刷することができる。
【0046】
試験結果及び/またはサンプルに関する情報を、農家、政府機関、梱包業者、運送業者、小売業者などの間で広く伝えるため、本装置を携帯電話機や、インターネットやその他のコンピュータネットワークに接続されたコンピュータと組み合わせることが可能であり、いくつかの応用例では、遠隔地のユーザが自身の携帯電話やコンピュータを介して本装置を用いて試験を行うことも可能である。
【0047】
本装置は、地域や州、連邦の検査官と同様に、農家、梱包業者、運送業者、卸売業者、小売業者なども使用することができ、サプライチェーン中で受け取る農作物に基準値を越えた殺虫剤が残留しているかチェックし、問題が生じる前に前の担当に送り返すための簡単な方法を提供するものである。必要であれば、そのサプライチェーン中の各担当者が例えば、梱包箱への貼り付け及び/又はインターネットへの掲示によって、自身の検査結果を記録することもできる。
【0048】
一意的なシリアル番号やパスコードによって、検査結果がどこに由来するのかを特定することができ、これは残留殺虫剤が多すぎるとして農産物の費用のかかる運送が拒否されたときに重要になる。試験結果やGPS座標、日付とリンクされ、これにより本装置を特定することができるパスコードは、本装置に特有の機能である。このパスコードがメタデータをたどってオンラインデータベースに至り、消費者が流行や従業員の仕事ぶりをモニターできるようになると、さらに価値あるものとなる。
【0049】
本発明は多くの重要な特徴や長所を有している。本発明は、残留殺虫剤やその他の被検化合物の存在を検出でき、非常に持ち運びやすく、自己充足した、バッテリーで動作する装置を提供することができる。この装置は畑やその他の場所で、有機栽培以外の方法で栽培された農産物と同様に有機栽培された農産物の殺虫剤成分を測定するために用いることができる。
【0050】
以上より、新規かつ改善された被検化合物検出器及び方法が提供されたことは明らかである。特定の好適な実施形態だけが詳細に説明されているが、当業者にとって明らかとなるように、特許請求の範囲で定められた本発明の範囲から外れることなく、種々の改変や修正が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブストレート上の被検化合物を検出するためのポータブル装置であって、
実質的に光を通さない筐体と、
前記サブストレートを運ぶカセットであって、前記筐体に着脱可能に挿入されるカセットと、
前記サブストレート上の被検化合物からの蛍光発光を誘起するために、前記サブストレートの方へ光を向けるための前記筐体内の光源と、
検出される前記被検化合物に特有のスペクトル成分を有する蛍光発光に反応する前記筐体内の検出器と、
前記検出器からのデータを処理する手段と、
前記処理されたデータに反応し、前記筐体外部から視認可能な、前記サブストレート上の前記被検化合物に関する情報を表示するためのディスプレイと、
を有する装置。
【請求項2】
前記装置は、前記サブストレート上の前記被検化合物の蛍光を励起する波長の光を選択的に通過させる、前記光源と前記サブストレートとの間に位置決めされたフィルターを有する、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記装置は、検出される前記被検化合物に特有のスペクトル成分を有する発光を選択的に通過させる、前記サブストレートと前記検出器との間に位置決めされたフィルターを有する、請求項1記載の装置。
【請求項4】
前記装置は、前記光源と前記データを処理する手段及び前記ディスプレイに、電源を供給するバッテリーを前記筐体内に有する、請求項1記載の装置。
【請求項5】
前記被検化合物は殺虫剤であり、前記サブストレートは レタスの葉、ホウレンソウの葉及びその他の農産物のサンプルからなる一群から選択される、請求項1記載の装置。
【請求項6】
前記装置は、前記サブストレート上の前記被検化合物の測定データの較正に用いる参照サンプルを有する、請求項1記載の装置。
【請求項7】
前記参照サンプルは前記筐体内に恒久的に組み込まれている、請求項6記載の装置。
【請求項8】
前記サブストレートを運ぶカセットの場所へと前記筐体内に挿入可能な較正カセットに前記参照サンプルが取付けられる、請求項6記載の装置。
【請求項9】
前記参照サンプルが前記サブストレートと共に前記カセットに取付けられる、請求項6記載の装置。
【請求項10】
前記検出器からのデータを処理する前記手段は、前記筐体内のデータ処理回路を有する、請求項1記載の装置。
【請求項11】
前記データを処理する前記手段は、検出された被検化合物の量と所定の閾値レベルとを比較する手段を有し、前記ディスプレイは、前記検出された量が前記閾値レベルを上回っているかもしくは下回っているかを示す手段を有する、請求項1記載の装置。
【請求項12】
前記装置は、複数の異なるサブストレート上の被検化合物の閾値レベルを格納する手段と、検出された被検化合物の量と前記サブストレートのうち選択された1つについての閾値レベルとを比較する手段を有する、請求項11記載の装置。
【請求項13】
前記検出器からのデータは前記サブストレートの単位面積当たりの検出された被検化合物の質量に対応し、前記データを処理する前記手段は、前記データを単位面積当たりの質量の単位から前記サブストレート上の前記被検化合物の濃度又は密度の単位へとデータを換算する手段を有している、請求項1記載の装置。
【請求項14】
単位面積当たりの質量から濃度又は密度へと換算する前記手段は、前記サブストレートの単位面積当たりの質量を決定するために、前記サブストレートの単位面積あたりの体積に前記サブストレートの密度を乗算する手段と、前記サブストレート上の被検化合物の濃度又は密度を決定するために、前記サブストレート上で検出された被検化合物の単位面積当たりの質量を前記サブストレートの単位面積あたりの質量で除算する手段を有する、請求項13記載の装置。
【請求項15】
前記装置は、測定が行われたときの前記装置の位置に対応するデータを提供するための全地球測位デバイスと、測定データに前記位置データを付加する手段を有する、請求項1記載の装置。
【請求項16】
前記筐体は、前記サブストレートが挿入される区域にアクセスできるように、取り外し可能な栓を備えた清掃ポートを有する、請求項1記載の装置。
【請求項17】
サブストレート上の被検化合物を検出する方法であって、
前記サブストレートを実質的に光を通さない筐体内へ挿入し、
前記サブストレート上の被検化合物からの蛍光発光を誘発するために、前記サブストレートの方へ、前記筐体内の光源からの光を向け、
検出される前記被検化合物に特有のスペクトル成分を有する発光を検出する、前記筐体内の検出器によって前記サブストレートの方向からの蛍光発光をモニターし、
前記検出器からのデータを処理し、
前記処理データに基づいた被検化合物に関する情報を表示する、
各ステップを有する方法。
【請求項18】
前記方法は、前記サブストレート上の前記被検化合物の蛍光を励起する波長の光を選択的に通過させるために、前記光源から前記サブストレートへと通過する光をフィルタリングするステップを有する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記方法は、検出されるべき前記殺虫剤に特有のスペクトル成分を有する発光を選択的に通過させるために、前記サブストレートと前記検出器との間で発光をフィルタリングするステップを有する請求項17記載の方法。
【請求項20】
前記方法は、前記光源や筐体内の処理回路及び前記ディスプレイに、筐体内のバッテリーから電源を供給するステップを有する請求項17記載の方法。
【請求項21】
前記被検化合物は殺虫剤であり、前記サブストレートは レタスの葉、ホウレンソウの葉及びその他の農産物のサンプルからなる一群から選択される、請求項17記載の方法。
【請求項22】
前記方法は、参照サンプルをモニターし、前記参照サンプルからのデータに応じて前記サブストレート上の前記被検化合物の測定データを較正するステップを有する、請求項17記載の方法。
【請求項23】
前記方法は、定期的に前記筐体から前記サブストレートと前記カセットを取り除き、前記サブストレートと前記カセットの場所へと前記筐体内に前記参照サンプルと較正カセットを挿入するステップを有する、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記参照サンプルは前記サブストレートと共に前記カセットに取付けられ、前記サブストレートと共に前記筐体へと挿入される、請求項22記載の方法。
【請求項25】
前記方法は、前記サブストレート上で検出された被検化合物の量と所定の閾値レベルとを比較するステップと、前記検出された量が前記閾値レベルを上回っているかもしくは下回っているかを示すステップを有する、請求項17記載の方法。
【請求項26】
前記方法は、複数の異なるサブストレート上の被検化合物の閾値レベルを格納するステップと、検出された被検化合物の量と前記サブストレートのうち選択された1つについての閾値レベルとを比較するステップを有する、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記方法は、前記検出器からのデータを、単位面積当たりの質量の単位から、前記サブストレート上の被検化合物の濃度又は密度の単位へと換算するステップを有する、請求項17記載の方法。
【請求項28】
前記サブストレートの単位面積当たりの質量を決定するために、前記サブストレートの単位面積当たりの体積に前記サブストレートの密度を乗算し、前記サブストレート上の被検化合物の濃度又は密度を決定するために、前記サブストレート上で検出された被検化合物の単位面積当たりの質量を前記サブストレートの単位面積あたりの質量で除算することにより、前記データが単位面積当たりの質量から濃度又は密度へと換算される、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記方法は、測定が行われたときの前記装置の位置に対応する全地球測位データを提供するステップと、測定データに前記位置データを付加するステップを有する、請求項17記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−181187(P2012−181187A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−13042(P2012−13042)
【出願日】平成24年1月25日(2012.1.25)
【出願人】(512020350)バイオ−チェック エルエルシー (1)
【出願人】(512020361)ゲイジ サイエンティフィック エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】