説明

被検物質の特異的検出方法

【課題】 色素増感の光電流検知を利用した生体分子等の被検物質の検出において、有機溶媒を必須としない電解質溶液を用いて光電流検知の工程を行う検出方法の提供。電解質媒体を、有機溶剤を含まない水系とすることで、その利用性を向上させることに加え、ばらつきの少ない測定値が得られる。
【解決手段】 色素増感の光電流検知を利用した生体分子等の被検物質の検出において、被検物質の反応工程乃至光電流検知までを一つの装置で行い、かつ光電流検知の工程を、非プロトン性溶媒を必須としない電解質溶液を用いて行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電流を用いて、核酸、外因性内分泌攪乱物質、抗原等の特異的結合性を有する被検物質を特異的に検出する方法において、測定条件が適切であるかを容易に知ることができる方法およびそれに用いられるセンサユニット及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料中のDNAを検出及び解析する遺伝子診断法が、各種病気の新たな予防および診断法として、有望視されている。このようなDNAの検出を簡便かつ正確に行う技術として、以下のものが提案されている。
【0003】
被検体DNAを、これと相補的な塩基配列を有し、かつ蛍光物質を標識されたDNAプローブとハイブリダイズさせ、その際の蛍光シグナルを検出する、DNAの分析方法が知られている(例えば、特開平7−107999号公報(特許文献1)および特開平11−315095号公報(特許文献2)参照)。この方法にあっては、ハイブリダイゼーションによる二本鎖DNAの形成を色素の蛍光により検出する。蛍光検出においては、プローブDNAを固定化した複数の検出スポットを同一の基板に形成させることができるため、複数のプローブDNAに対する特異性を一度の検出により解明することができるという長所がある。しかし、蛍光検出に必要な受光器などを含む検出装置は大型で高価で、また、二本鎖DNAの一本鎖化、ハイブリダイゼーション、洗浄、蛍光検出をそれぞれ別装置で行なわなければならず、DNAの検出を簡便に行なうことができない。
【0004】
ところで、増感色素を用いて光から電気エネルギーを発生させる太陽電池が知られている(例えば、特開平1−220380号公報(特許文献3)参照)。この太陽電池は、多結晶の金属酸化物半導体を有し、かつその表面積に広範囲にわたり増感色素の層が形成されてなるものである。
【0005】
そして、このような太陽電池の特性を生物化学的な分析に応用しようとする試みとして、色素の光励起により生じる光電流を被検物質(DNA、蛋白などの生体分子)の検出に利用する提案がなされている(例えば、中村他「光電変換による新しいDNA二本鎖検出法」(日本化学会講演予稿集 Vol.81ST NO.2(2002)第947頁(非特許文献1)。
【0006】
さらに、本発明者らの一部は、先に、光電流を用いて、核酸、外因性内分泌攪乱物質、抗原等の特異的結合性を有する被検物質を特異的に検出する方法、例えば、WO2007/037341号公報(特許文献4)を提案している。
【0007】
従来、太陽電池を含めて、色素増感の光電流検知にはアセトニトリル溶媒の電解質溶液が用いられてきた。色素増感の光電流検知を利用した生体分子等の被検物質の検出においても、被検物質の反応工程乃至光電流検知までを一つの装置で行う場合、被検物質の反応工程で水系溶媒や塩等を使用するが、光電流検知に従来のアセトニトリル溶媒等の非プロトン性の極性溶媒を含む電解質溶液が用いられてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−107999号公報
【特許文献2】特開平11−315095号公報
【特許文献3】特開平1−220380号公報
【特許文献4】WO2007/037341
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】表面科学Vol. 24, No. 11. Pp. 671-676, 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、今般、色素増感の光電流検知を利用した生体分子等の被検物質の検出において、被検物質の反応工程乃至光電流検知までを一つの装置で行う場合、光電流検知においてもプロトン性溶媒と増感色素に電子を供給できる電解質を含み、非プロトン性の極性溶媒、すなわち有機溶媒を含まない水系溶液を電解質溶液として用いることで、良好な被検物質の検出が行えるとの知見を得た。さらに、水系溶液を電解質溶液として用いることで、より安定した検出が可能になるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0011】
従って、本発明は、色素増感の光電流検知を利用した生体分子等の被検物質の検出において、被検物質の反応工程乃至光電流検知までを一つの装置で行い、かつ光電流検知の工程を、非プロトン性溶媒を必須としない電解質溶液を用いた検出方法の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そして、本発明による被検物質の特異的検出方法は、増感色素が結合した被検物質がプローブ物質を介して固定された作用電極を、対電極と共に電解質媒体に接触させ、前記作用電極に光を照射して前記増感色素を光励起させ、光励起された増感色素から作用電極への電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を検出することを含んでなる被検物質の特異的検出方法であって、
前記作用電極が、前記増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる電子受容層を有し、この電子受容層の表面に前記プローブ物質が担持されてなり、
前記作用電極を前記被検物質と反応溶液の存在下、接触させることを少なくとも含んでなる、前記増感色素が結合した被検物質がプローブ物質を介して固定された作用電極を得る結合反応工程と、
前記結合反応工程後に未結合の物質を洗浄溶液で洗浄する洗浄工程と、
前記電解質媒体を供給して、光を照射し、光電流を測定する測定工程を一つのセンサセル内で行い、
前記電解質媒体が、酸化された状態の増感色素に電子を供給しうる電解質と、水とを含み、実質的に非プロトン性溶媒を含まないものであることを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による検出方法を実施するための装置の一例を示す図である。
【図2】本発明による検出方法を実施するためのセンサセル構成を示す図である。
【図3】センサセルの電極部の構成を示す図である。
【図4】電解質媒体として、アセトニトリルを含むものと含まないものを用いた場合における、行ごとの光電流値を散布図で示す図である。
【図5】本発明による検出方法において、完全一致プローブ(PM)、一塩基変異鎖(SNP)プローブ、完全不一致(MM)プローブを用いた場合のそれぞれの光電流値の平均値を棒グラフで示す図である。
【図6】本発明による検出方法において、蛍光値より算出した増感色素量に対応するスポットの光電流値をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
光電流を用いた被検物質の特異的検出
本発明の方法にあっては、まず、被検物質を含む試料液と、作用電極と、対電極とを用意する。本発明に用いる作用電極は、被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を表面に備えた電極である。すなわち、プローブ物質は、被検物質と直接的に特異的に結合する物質のみならず、被検物質を受容体蛋白質分子等の媒介物質に特異的に結合させて得られる結合体と特異的に結合可能な物質であってよい。次いで、増感色素の共存下、試料液を作用電極に接触させて、プローブ物質に被検物質を直接または間接的に特異的に結合させ、この結合により増感色素を作用電極に固定させる。増感色素は、光励起に応じて作用電極に電子を放出可能な物質であり、被検物質あるいは媒介物質に予め標識させておくか、あるいは被検物質およびプローブ物質の結合体にインターカレーション可能な増感色素を用いる場合には試料液に単に添加すればよい。
【0015】
そして、作用電極と対電極とを電解質媒体に接触させた後、作用電極に光を照射して増感色素を光励起させると、光励起された増感色素から、作用電極表面に存在させた電子受容物質へ電子移動が起こる。この電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を検出することにより、被検物質を高い感度で検出することができる。すなわち、光照射に起因して作用電極上で励起した増感色素量と光電流量は相関すると考えられる。また、この検出された光電流は、一定の割合で増感色素が結合している試料液中の被検試料量とも高い相関関係を有していると考えられるので、測定された電流量または電気量に基づき被検試料の定量測定を行うことができる。
【0016】
上記基本原理に基づいた本発明による装置および検出方法は公知であり、また本発明者らの一部を含む者によって特許出願されている装置および方法も存在する。このような装置および検出方法としては、WO2007/037341号公報、特開2006−119111号公報、特開2006−119128号公報、特開2007−085941号公報、特開2008−020205号公報、特開2008−157915号公報、特開2008−157916号公報、特開2008−192770号公報、特開2008−202995号公報、特開2009−186453号公報、特開2009−186454号公報、特開2009−186462号公報、特開2010−038813号公報、特願2011−504882号などに記載の方法および装置に適用することができる。
【0017】
上記基本原理に基づいた本発明による装置および検出方法の基本的な特徴を、図面を用いて説明する。図1に示す、被検物質の特異的検出に、色素の光励起により生じる光電流を利用した測定装置10は、基本構成として、センサセル1と、センサセル1へ流体を供給するための流体供給手段2およびそれらの間におかれたスイッチングハブ3と、センサセル1内に設けた作用電極の電子受容層上に設けたプローブ物質を担持しているスポットへと光を照射するための光源レーザーヘッド4と、XY自動ステージ5、センサセル内に設けた反応および検出時の温度調整機能を制御する温度調整制御部6とを備えてなり、測定装置1からの信号を処理するパソコン7と接続されている。
【0018】
図2はセンサセル1の構造を示す図である。センサセル1は、前記作用電極を前記被検物質と反応溶液の存在下、接触させることを少なくとも含んでなる、前記増感色素が結合した被検物質がプローブ物質を介して固定された作用電極を得る結合反応工程と、前記結合反応工程後に未結合の物質を洗浄溶液で洗浄する洗浄工程と、前記電解質媒体を供給して、光を照射し、光電流を測定する測定工程とを一貫して行うことが可能で、作用電極等の構造部材により形成される一つの閉じた空間構造を有するものである。具体的には、センサセル1は、作用電極11と、対電極12と、それらに通電を可能にする作用電極導通部13および対電極導電部14とを有し、対電極12は、反応溶液、洗浄液および電解質媒体が送入され、そして排出される送入口15および排出口16が設けられてなる。作用電極11と対電極12とは対電極用ヒーター18とともに押え部材17により固定される。対電極11に対して、図2中のA方向から光が照射され、この光は、作用電極11上の複数スポットの位置それぞれに対応する場所に存在する複数の開口部19および作用電極用ヒーター23を有する押さえ部材20を通過して、作用電極11に至る。増感色素を光励起させると、光励起された増感色素から電子受容物質(図示せず)へ電子移動が起こる。この電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を検出することにより、被検物質を高い感度で検出することができる。
【0019】
図3は、作用電極11と対電極12との構造をさらに説明するための図である。作用電極11と対電極12との間には、両者を所定の距離に置くOリング21が、対電極凹部22に嵌め込まれながら置かれる。送入口15及び排出口16は、センサセル内での空気と溶液との置換が行われやすいよう、Oリング内の両端に設けている。
【0020】
光電流測定工程の電解質媒体
本発明による方法にあっては、上記したセンサセル内において、作用電極を前記被検物質と反応溶液の存在下、接触させることを少なくとも含んでなる、増感色素が結合した被検物質がプローブ物質を介して固定された作用電極を得る結合反応工程と、結合反応工程後に未結合の物質を洗浄溶液で洗浄する洗浄工程と、電解質媒体を供給して、光を照射し、光電流を測定する測定工程とが実施される。本発明においては、この測定工程において供給される電解質媒体が、酸化された状態の増感色素に電子を供給しうる電解質と、水とを含み、実質的に非プロトン性溶媒を含まないものであることを特徴とする。非プロトン性溶媒、すなわち有機溶媒を実質的に含まない結果、電解質媒体は利用しやすく、また廃棄による環境負荷の小さな水系溶媒となる。水系媒体は、本発明による方法が実際に利用されるであろう医療現場での利用性を向上させる。その利用性を向上させることに加え、電解質媒体を、非プロトン性溶媒を含まない水系とすることで、安定した測定値、すなわちばらつきの少ない測定値が得られることが見出された。これは水系溶媒を用いることの利点の一つとなる。ばらつきの少ない測定が可能となる理由は定かではないが、水系溶媒を電解質媒体として用いることで、むしろ前工程からの水や塩の混入の影響が小さくなるのではないかと考えられる。
【0021】
本発明の好ましい態様によれば、後述するハイブリダイゼーション反応溶液の塩濃度をAとし、また後述する洗浄液の塩濃度をBとしたとき、A/Bがモル比で、0.1≦A/B≦10、より好ましくは、0.1≦A/B≦7.0、さらに好ましくは0.1≦A/B<7.0の関係を満たすものとされる。また、ハイブリダイゼーション反応溶液の塩濃度(A)は、0.05〜1.2mol/Lが好ましく、より好ましくは0.08〜0.6mol/Lである。また、洗浄液の塩濃度(B)は、0.05〜1.2mol/Lが好ましく、より好ましくは0.08〜0.6mol/Lである。ここで塩濃度は、反応溶液または洗浄液それぞれにおいて、含まれる塩の総モル濃度である。この態様によれば、さらに安定した測定値、すなわちばらつきの少ない測定値が得られることが見出された。本発明者らの得た知見によれば、電解質媒体を水系媒体とすることで、ばらつきの少ない安定した測定値が得られるが、水系媒体とすることで、ときに作用電極からのプローブの脱離が生じることが観察された。プローブの脱離は、スポットごとの測定値のばらつきを生じさせるおそれがある。しかしながら、ハイブリダイゼーション反応溶液の塩濃度と、洗浄液の塩濃度を上記関係を満たす範囲に置くことで、このプローブの脱離が抑制されて、結果として、よりばらつきの少ない測定値が得られるものと考えられる。但し、この説明はあくまで仮定であり、本発明はこの説明により限定されるものではない。
【0022】
本発明において用いられる電解質媒体が含む電解質は、媒体中を自由に移動して増感色素、作用電極、および対電極との間で電子の授受に関与できるものであれば限定されないが、好ましい電解質は、光照射により励起された色素に電子を供与するための還元剤(電子供与剤)として機能できる物質であり、そのような物質の例としては、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化カルシウム(CaI)、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化アンモニウム(NHI)、テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPrI)、チオ硫酸ナトリウム(Na)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、ヒドロキノン、フェリシアン化カリウム、フェリシアン化アンモニウム等のフェリシアン化塩、フェロシアン化カリウム、K[Fe(CN)]・3HO(フェロシアン化カリウム三水和物)、フェロシアン化アンモニウム、フェロシアン化アンモニウム三水和物、フェロセン−1,1’−ジカルボン酸、フェロセンカルボン酸、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、トリエチルアミン、チオシアネートアンモニウム、ヒドラジン(N)、アセトアルデヒド(CHCHO)、N,N,N’,N’−テトラメチル−p−フェニレンジアミン二塩酸塩(TMPD)、L−アスコルビン酸、亜テルル酸ナトリウム(NaTeO)、塩化鉄(II)四水和物(FeCl・4HO)、EDTA、システイン、トリエタノールアミン、トリプロピルアミン、ヨウ素を含むヨウ化リチウム(I/LiI)、トリス(2−クロロエチル)リン酸塩(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、2−メルカプトエタノール、2−メルカプトエタノールアミン、二酸化チオ尿素、(COOH)、HCHO、およびこれらの組合せが挙げられ、より好ましくは、フェロシアン化カリウム、K[Fe(CN)]・3HO(フェロシアン化カリウム三水和物)、フェロシアン化アンモニウム、フェロシアン化アンモニウム三水和物、ヒドロキノン、L−アスコルビン酸、KI、およびこれらの混合物であり、さらに好ましくはフェロシアン化カリウムである。
【0023】
さらに、電解質媒体は、溶液抵抗を下げる支持電解質として機能できる物質を含んでもよく、そのような物質の例としては、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化リチウム(LiCl)、塩化ルビジウム(RbCl)、塩化セシウム(ScCl)、塩化カルシウム(CaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化アンモニウム(NHCl)等の塩化物塩、および硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸リチウム(LiSO)、硫酸ルビジウム(RbSO)、硫酸セシウム(CsSO)、硫酸カルシウム(CaSO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、硫酸アンモニウム((NHSO)等の硫酸塩、および硝酸ナトリウム(NaNO)、硝酸カリウム(KNO)、硝酸リチウム(LiNO)、硝酸ルビジウム(RbNO)、硝酸セシウム(ScNO)、硝酸カルシウム(Ca(NO)、硝酸マグネシウム(Mg(NO)、硝酸アンモニウム(NHNO)等の硝酸塩、および臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、臭化リチウム(LiBr)、臭化ルビジウム(RbBr)、臭化セシウム(CsBr)、臭化カルシウム(CaBr)、臭化マグネシウム(MgBr)、臭化アンモニウム(NHBr)等の臭化物塩、およびクエン酸一ナトリウム(NaH(C))、クエン酸二ナトリウム(NaH(C))、クエン酸三ナトリウム(Na(C))、クエン酸一カリウム(KH(C))、クエン酸二カリウム(KH(C))、クエン酸三カリウム(K(C))等のクエン酸塩、および硫酸(HSO)、塩酸(HCl)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等の酸・塩基、およびトリス緩衝液、リン酸緩衝液、グッドの緩衝液(ADA、PIPES、POPSO、ACES、MOPSO、BES、MOPS、TES、HEPES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、BicineおよびTAPS)等の生化学用緩衝液や、これらの組合せが挙げられ、より好ましくは、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、硝酸カリウム(KNO)、硝酸マグネシウム(Mg(NO)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、臭化マグネシウム(MgBr)、およびこれらの混合物であり、さらに好ましくは、塩化ナトリウム(NaCl)である。
【0024】
本発明の好ましい態様によれば、洗浄液の塩濃度をBとし、また電解質媒体の塩濃度をCとしたとき、B/Cがモル比で、0.01≦B/C≦200、より好ましくは0.5≦B/C≦100、さらに好ましくは0.5≦B/C≦58の関係を満たすものとされる。また、電解質媒体の塩濃度(C)は、0.01〜1.5mol/Lが好ましく、より好ましくは0.01〜0.9mol/Lである。塩濃度は、洗浄液または電解質媒体それぞれにおいて、含まれる塩の総モル濃度である。この態様によれば、さらに安定した測定値、すなわちばらつきの少ない測定値が得られることが見出された。本発明者らの得た知見によれば、電解質媒体を水系媒体とすることで、ばらつきの少ない安定した測定値が得られるが、水系媒体とすることで、ときに作用電極からのプローブの脱離が生じることが観察された。プローブの脱離は、スポットごとの測定値のばらつきを生じさせるおそれがある。しかしながら、洗浄液の塩濃度と電解質媒体の塩濃度を、上記関係を満たす範囲に置くことで、このプローブの脱離が抑制され、結果として、よりばらつきの少ない測定値が得られるものと考えられる。また、特異的に結合したターゲットDNAの脱離も抑制され、先述の様によい影響を及ぼすと考えられる。但し、この説明はあくまで仮定であり、本発明はこの説明により限定されるものではない。
【0025】
被検物質の特異的検出方法
本発明による被検物質の特異的検出方法は、上記のとおり、結合反応工程と、洗浄工程と、測定工程を一つのセル内で行い、測定工程において用いられる電解質媒体が、電解質と、水とを含み、実質的に非プロトン性溶媒を含まないものであること以外は、通常知られたまたは公知の被検物質の特異的検出方法と同様でよい。
【0026】
一般的な方法を説明すれば、例えば、まず、ハイブリダイゼーション反応溶液が、センサセル1内に供給される。次に、センサセル1に設けた送入口15から、ハイブリダイゼーション反応させるための被検物質を供給し、設定温度に温度調整されたセンサセル1内で、作用電極上に設けた被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質とハイブリダイゼーション反応を行う。その後、未結合の物質を洗浄するための洗浄溶液が供給される。
【0027】
このときの洗浄は、プローブ物質に結合した被検物質はなるべく結合したままで、未結合物質のみを取り除く必要がある。そこで、洗浄溶液には界面活性剤を配合させることが好ましい。ただし、センサセル内の作用電極上で反応、検出を行うために作用電極上に設けたプローブ上に洗浄流体の供給、排出に伴って発生する気泡が残存すると作用電極表面での反応ムラが発生する可能性があるため気泡の発生および残存には留意が必要である。
【0028】
洗浄後、センサセル内から排出口16より洗浄液を排出し、次に電解質媒体が供給され、センサセル1内に光源から光が照射され、光励起に伴う電流値の測定がなされる。電解質媒体の組成は上記の通りである。測定終了後、センサセル1内の電解質媒体はセンサセル外に排出される。
【0029】
本発明の好ましい態様によれば、前記作用電極と前記対電極との間隔は0.1〜3mmであることが好ましい。センサセル容量は、ハイブリダイゼーション反応を行う際には被検物質量が少量で行うことが好ましい。この構成によれば、同一センサセル内で、短時間でハイブリダイゼーション反応を完了させることができ、確実に光電流検出が可能となる。
【0030】
ハイブリダイゼーション反応:反応溶液
本発明による検出方法において、ハイブリダイゼーション反応を行う際の反応溶液は、被検物質およびプローブ物質の結合反応を進行させるもの、あるいはそれを妨げないものであれば限定されない。本発明の好ましい態様によれば、この反応溶液は塩を含有してなり、さらにその塩濃度が、洗浄溶液の塩濃度と上述の関係を満たすものであることが好ましい。反応溶液が含む塩の例としては、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化リチウム(LiCl)、塩化ルビジウム(RbCl)、塩化セシウム(ScCl)、塩化カルシウム(CaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化アンモニウム(NHCl)等の塩化物塩、および硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸リチウム(LiSO)、硫酸ルビジウム(RbSO)、硫酸セシウム(CsSO)、硫酸カルシウム(CaSO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、硫酸アンモニウム((NHSO)等の硫酸塩、および硝酸ナトリウム(NaNO)、硝酸カリウム(KNO)、硝酸リチウム(LiNO)、硝酸ルビジウム(RbNO)、硝酸セシウム(ScNO)、硝酸カルシウム(Ca(NO)、硝酸マグネシウム(Mg(NO)、硝酸アンモニウム(NHNO)等の硝酸塩、および臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、臭化リチウム(LiBr)、臭化ルビジウム(RbBr)、臭化セシウム(CsBr)、臭化カルシウム(CaBr)、臭化マグネシウム(MgBr)、臭化アンモニウム(NHBr)等の臭化物塩、およびクエン酸一ナトリウム(NaH(C))、クエン酸二ナトリウム(NaH(C))、クエン酸三ナトリウム(Na(C))、クエン酸一カリウム(KH(C))、クエン酸二カリウム(KH(C))、クエン酸三カリウム(K(C))等のクエン酸塩、および硫酸(HSO)、塩酸(HCl)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等の酸・塩基、およびトリス緩衝液、リン酸緩衝液、グッドの緩衝液(ADA、PIPES、POPSO、ACES、MOPSO、BES、MOPS、TES、HEPES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、BicineおよびTAPS)等の生化学用緩衝液や、これらの組合せが挙げられ、より好ましくは、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、硝酸カリウム(KNO)、硝酸マグネシウム(Mg(NO)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、臭化マグネシウム(MgBr)、クエン酸三ナトリウム(Na(C))、およびこれらの混合物であり、さらに好ましくは、塩化ナトリウム(NaCl)およびクエン酸三ナトリウム(Na(C))などが挙げられる。
【0031】
洗浄溶液
本発明の好ましい様態によれば、ハイブリダイゼーション工程後に、未結合の物質を洗浄するために洗浄溶液が複数回供給され、スポットを洗浄することが好ましい。これにより、未結合物質を取り除き、スポット上のプローブ物質に結合した被検物質のみを残存させることが可能となる。
【0032】
本発明の好ましい様態によれば、この洗浄溶液は塩を含有してなり、さらにその塩濃度が、反応溶液の塩濃度と上述の関係を満たすものであることが好ましい。洗浄溶液が含む塩の例としては、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化リチウム(LiCl)、塩化ルビジウム(RbCl)、塩化セシウム(ScCl)、塩化カルシウム(CaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化アンモニウム(NHCl)等の塩化物塩、および硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸リチウム(LiSO)、硫酸ルビジウム(RbSO)、硫酸セシウム(CsSO)、硫酸カルシウム(CaSO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、硫酸アンモニウム((NHSO)等の硫酸塩、および硝酸ナトリウム(NaNO)、硝酸カリウム(KNO)、硝酸リチウム(LiNO)、硝酸ルビジウム(RbNO)、硝酸セシウム(ScNO)、硝酸カルシウム(Ca(NO)、硝酸マグネシウム(Mg(NO)、硝酸アンモニウム(NHNO)等の硝酸塩、および臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、臭化リチウム(LiBr)、臭化ルビジウム(RbBr)、臭化セシウム(CsBr)、臭化カルシウム(CaBr)、臭化マグネシウム(MgBr)、臭化アンモニウム(NHBr)等の臭化物塩、およびクエン酸一ナトリウム(NaH(C))、クエン酸二ナトリウム(NaH(C))、クエン酸三ナトリウム(Na(C))、クエン酸一カリウム(KH(C))、クエン酸二カリウム(KH(C))、クエン酸三カリウム(K(C))等のクエン酸塩、および硫酸(HSO)、塩酸(HCl)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等の酸・塩基、およびトリス緩衝液、リン酸緩衝液、グッドの緩衝液(ADA、PIPES、POPSO、ACES、MOPSO、BES、MOPS、TES、HEPES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、BicineおよびTAPS)等の生化学用緩衝液や、これらの組合せが挙げられ、より好ましくは、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、硝酸カリウム(KNO)、硝酸マグネシウム(Mg(NO)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、臭化マグネシウム(MgBr)、クエン酸三ナトリウム(Na(C))、およびこれらの混合物であり、さらに好ましくは、塩化ナトリウム(NaCl)およびクエン酸三ナトリウム(Na(C))が挙げられる。
【0033】
本発明の好ましい様態によれば、この洗浄溶液には界面活性剤を配合させることが好ましく、より好ましくは界面活性剤を0.001%以上10%以下配合させる。界面活性剤を0.001%以上配合することにより、洗浄効率を上昇させることができるようになる。界面活性剤を10%以下とすることで、センサセル内の作用電極上で反応、検出を行うために作用電極上に設けたプローブ上に洗浄流体の供給、排出に伴って発生する気泡の残存を抑制でき、作用電極表面での反応ムラを抑制することができるようになる。
【0034】
本発明の好ましい様態によれば、光電流検出工程後にも、洗浄溶液が複数回供給され対電極表面を含めたセンサセル内を洗浄することが好ましい。測定終了後にセンサセル内を洗浄することができるため、対電極は交換せずに作用電極の交換のみで連続して次の反応と検出を行うことができる。
【0035】
光源
本発明において、用いられる光源としては、標識色素を光励起できる波長の光を照射できるものであれば限定されず、好ましい例としては、蛍光灯、ブラックライト、殺菌ランプ、白熱電球、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀−キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色、青、緑、赤)、レーザー(CO2レーザー、色素レーザー、半導体レーザー)、太陽光を用いることができ、より好ましくは、蛍光灯、白熱電球、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色、青、緑、赤)、太陽光等を挙げることができる。また、必要に応じて、分光器やバンドパスフィルタを用いて特定波長領域の光のみを照射してもよい。
【0036】
本発明の好ましい態様によれば、互いに異なる光波長で励起可能な二種以上の増感色素を用いて複数種類の被検物質を個別に検出する場合、光源から波長選択手段を介して特定波長の光を照射することにより、複数の色素を個別に励起することが可能である。波長選択手段の例としては、分光器、色ガラスフィルター、干渉フィルタ、バンドパスフィルタ等が挙げられる。また、増感色素の種類に応じて異なる波長の光を照射可能な複数の光源を用いてもよく、この場合の好ましい光源の例としては、特定波長の光が照射されるレーザー光やLEDを用いてもよい。また、作用極に光を効率よく照射するため、石英、ガラス、液体ライトガイドを用いて導光してもよい。
【0037】
被検物質およびプローブ物質
本発明における被検物質としては、特異的な結合性を有する物質であれば限定されず、種々の物質であってよい。このような被検物質であれば、被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を作用電極表面に担持させておくことにより、被検物質をプローブ物質に直接または間接的に特異的に結合させて検出することが可能となる。
【0038】
すなわち、本発明にあっては、被検物質およびプローブ物質として互いに特異的に結合可能なものを選択することができる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、特異的な結合性を有する物質を被検物質とし、被検物質と特異的に結合する物質をプローブ物質として作用電極に担持させるのが好ましい。これにより、作用電極上に被検物質を直接、特異的に結合させて検出することができる。この態様における、被検物質およびプローブ物質の組合せの好ましい例としては、一本鎖の核酸および核酸に対して相補性を有する一本鎖の核酸の組合せ、ならびに抗原および抗体の組合せが挙げられる。
【0039】
本発明のより好ましい態様によれば、被検物質を一本鎖の核酸とし、プローブ物質を核酸に対して相補性を有する一本鎖の核酸とするのが好ましい。
【0040】
一本鎖の核酸を被検物質とする場合、プローブ物質である核酸と相補性部分を有していればよく、被検物質を構成する塩基対の長さは限定されないが、プローブ物質が核酸に対して10bp以上の相補性部分を有するのが好ましい。本発明の方法によれば、200bp、500bp、1000bpの塩基対を有する比較的鎖長の長い核酸であっても、高感度にプローブ物質と被検物質の核酸同士の特異的結合形成を光電流として検出することができる。
【0041】
被検物質としての一本鎖の核酸を含む試料液は、末梢静脈血のような血液、白血球、血清、尿、糞便、精液、唾液、培養細胞、各種臓器細胞のような組織細胞等の、核酸を含有する各種検体試料から、公知の方法により核酸を抽出して作製することができる。このとき、検体試料中の細胞の破壊は、例えば、振とう、超音波等の物理的作用を外部から加えて担体を振動させることにより行なうことができる。また、核酸抽出溶液を用いて、細胞から核酸を遊離させることもできる。核酸溶出溶液の例としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、Triton−X、Tween−20のような界面活性剤、サポニン、EDTA、プロテア−ゼ等を含む溶液が挙げられる。これらの溶液を用いて核酸を溶出する場合、37℃以上の温度でインキュベ−トすることにより、反応を促進することができる。
【0042】
本発明のより好ましい態様によれば、被検物質とする遺伝子の含有量が微量である場合には、公知の方法により遺伝子を増幅した後検出を行なうのが好ましい。遺伝子を増幅する方法としては、ポリメラ−ゼチェインリアクション(PCR)等の酵素を用いる方法が代表的であろう。ここで、遺伝子増幅法に用いられる酵素の例としては、DNAポリメラ−ゼ、Taqポリメラ−ゼのようなDNA依存型DNAポリメラ−ゼ、RNAポリメラ−ゼIのようなDNA依存型RNAポリメラ−ゼ、Qβレプリカ−ゼのようなRNA依存型RNAポリメラ−ゼが挙げられ、好ましくは温度を調節するだけで連続して増幅を繰り返すことができる点で、Taqポリメラ−ゼを用いるPCR法である。
【0043】
本発明の好ましい態様によれば、上記増幅時に特異的に核酸を増感色素で標識することが出来る。一般的には、5’末端側を増感色素標識したPCRプライマーを用いて遺伝子増幅することで、増感色素が標識された被検物質が得られる。他に、増感色素で標識されたdUTPやアミノアリル修飾dUTPを取り込ませることにより、核酸を増感色素で標識することができる。アミノアリル修飾dUTPを取り込ませた場合、次のカップリング段階において、N−ヒドロキシサクシンイミドにより活性化された増感色素が修飾dUTPと特異的に反応し、均一に増感色素で標識された被検物質が得られる。
【0044】
本発明の好ましい態様によれば、上記のようにして得られた核酸の粗抽出液あるいは精製した核酸溶液をまず90〜98℃、好ましくは95℃以上の温度で熱変性を施し、一本鎖核酸を調製することができる。また、アルカリ変性を行わせて、一本鎖核酸を調整することができる。
【0045】
本発明にあっては、被検物質とプローブ物質が間接的に特異的に結合するものであってもよい。すなわち、本発明の別の好ましい態様によれば、特異的な結合性を有する物質を被検物質とし、この被検物質と特異的に結合する物質を媒介物質として共存させ、この媒介物質と特異的に結合可能な物質をプローブ物質として作用電極に担持させるのが好ましい。これにより、プローブ物質に特異的に結合できない物質であっても、媒介物質を介して作用電極上に間接的に特異的に結合させて検出することができる。この態様における、被検物質、媒介物質、およびプローブ物質の組合せの好ましい例としては、リガンド、このリガンドを受容可能な受容体蛋白質分子、およびこの受容体蛋白質分子と特異的に結合可能な二本鎖の核酸の組合せが挙げられる。リガンドの好ましい例としては、外因性内分泌攪乱物質(環境ホルモン)が挙げられる。外因性内分泌撹乱物質とは、受容体蛋白質分子を介してDNAに結合し、その遺伝子発現に影響して毒性を生じる物質であるが、本発明の方法によれば、被検物質によりもたらされる受容体等のタンパク質のDNAに対する結合性を簡便にモニタリングすることができる。
【0046】
本発明によれば、1つのプローブ物質に対し、異なる入手経路に由来する複数の同一被検物質を同時に反応させ、サンプルの由来による被検物質量の差異を判断することにより、目的とする入手経路に由来する被検物質を定量することも可能である。具体的な適用例としては、マイクロアレイ上での競合的ハイブリダイゼーションによる発現プロフィール解析が挙げられる。これは、細胞間での特定遺伝子の発現パターンの差異を解析するため、別々の蛍光色素で標識された被検物質を、同一プローブ物質に対して競合的にハイブリダイゼーションを行わせるものである。本発明においては、このような手法を用いることにより、細胞間での発現差異解析が電気化学的に行えるという、従来に無い利点が得られる。
【0047】
増感色素
本発明にあっては、被検物質の存在を光電流で検出するために、増感色素の共存下、プローブ物質に被検物質を直接または間接的に特異的に結合させて、該結合により増感色素を作用電極に固定させる。そのために、本発明にあっては、被検物質あるいは媒介物質を予め増感色素で標識しておくことができる。また、被検物質およびプローブ物質の結合体(例えばハイブリダイゼーション後の二本鎖核酸)にインターカレーション可能な増感色素を用いる場合には、試料液に増感色素を添加することにより、プローブ物質に増感色素を固定させることができる。
【0048】
本発明の好ましい態様によれば、被検物質が一本鎖の核酸の場合、被検物質1分子につき増感色素を一つ標識するのが好ましい。一本鎖の核酸における標識位置は、容易に被検物質とプローブ物質の特異的な結合を形成させる観点から、一本鎖の核酸の5’末端または3’末端のいずれかの位置とするのが好ましく、標識工程をさらに簡便にする観点から被検物質の5’末端とするのがさらに好ましい。
【0049】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、被検物質1分子あたりの増感色素担持量を高める為、被検物質1分子につき増感色素を2つ以上標識するのが好ましい。これにより、電子受容物質の形成された作用電極における単位比表面積あたりの色素担持量をより多くすることができ、より高感度に光電流応答を観測することができる。
【0050】
本発明に用いる増感色素は、光励起に応じて作用電極に電子を放出可能な物質であり、光源の照射による光励起状態への遷移が可能であり、かつ励起状態から作用電極に電子注入できる電子状態を採りうるものであればよい。したがって、用いる増感色素は、作用電極、特に電子受容層との間において上記電子状態をとることができるものであればよいことから、多種の増感色素が使用可能であり、高価な色素を使用する必要がない。
【0051】
複数の被検物質の個別検出を行う態様にあっては、各々の被検物質に標識する増感色素は、それぞれ異なる波長の光で励起できるものであればよく、例えば、照射光の波長を選択することにより各被検物質を個別に励起できればよい。例えば、複数の被検物質に対応する複数の増感色素を用い、各増感色素毎に異なる励起波長の光を照射すると、複数のプローブが同一スポット上であっても個別に信号を検出することが可能となる。本発明において、被検物質の数は限定されないが、光源から照射される光の波長と増感色素の吸収特性を考慮すると、1〜5種類が適当であろう。この態様において使用可能な増感色素は、照射光の波長領域内において光励起しさえすればよく、必ずしもその吸収極大が該波長領域にある必要はない。なお、特定波長における増感色素の光吸収反応の有無は、紫外可視スペクトロフォトメーター(例えば、島津製作所社製、UV−3150)を用いて測定することができる。
【0052】
増感色素の具体例としては、金属錯体や有機色素が挙げられる。金属錯体の好ましい例としては、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニン等の金属フタロシアニン;クロロフィルまたはその誘導体;ヘミン、特開平1−220380号公報や特表平5−504023号公報に記載のルテニウム、オスミウム、鉄及び亜鉛の錯体(例えばシス−ジシアネート−ビス(2、2’−ビピリジル−4、4’−ジカルボキシレート)ルテニウム(II))、ユーロピウム錯体があげられる。有機色素の好ましい例としては、メタルフリーフタロシアニン、9−フェニルキサンテン系色素、シアニン系色素、メタロシアニン系色素、カルボシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、アクリジン系色素、オキサジン系色素、クマリン系色素、メロシアニン系色素、ロダシアニン系色素、ポリメチン系色素、インジゴ系色素等が挙げられる。また、増感色素の別の好ましい例としては、GEヘルスケアライフサイエンス社製のCy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、Cy7.5、Cy9;モルキュラープローブ社製のAlexaFluor355、AlexaFluor405、AlexaFluor430、AlexaFluor488、AlexaFluor532、AlexaFluor546、AlexaFluor555、AlexaFluor568、AlexaFluor594、AlexaFluor633、AlexaFluor647、AlexaFluor660、AlexaFluor680、AlexaFluor700、AlexaFluor750;Dyomics社製のDY−610、DY−615、DY−630、DY−631、DY−633、DY−635、DY−636、EVOblue10、EVOblue30、DY−647、DY−650、DY−651、DYQ−660、DYQ−661が挙げられる。
【0053】
二本鎖核酸にインターカレーション可能な増感色素の好ましい例としては、アクリジンオレンジ、エチジウムブロマイドが挙げられる。このような増感色素を用いる場合、核酸のハイブリダイゼーション後に試料液に添加するだけで、増感色素で標識された二本鎖核酸が形成されるので、予め一本鎖の核酸を標識する必要が無い。
【0054】
作用電極およびその製造
本発明に用いられる作用電極は、上記プローブ物質を表面に備えた電極であり、プローブ物質を介して固定された増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電極である。したがって、作用電極の構成および材料は、使用される増感色素との間で上記電子移動が生じるものであれば限定されず、種々の構成および材料であってよい。
【0055】
本発明の好ましい態様によれば、作用電極が、増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる電子受容層を有し、この電子受容層の表面にプローブ物質が備えられてなるのが好ましい。また、本発明のより好ましい態様によれば、作用電極が導電性基材をさらに含んでなり、この導電性基材上に電子受容層が形成されてなるのが好ましい。
【0056】
本発明において電子受容層は、プローブ物質を介して固定された増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる。すなわち、電子受容物質は、光励起された標識色素からの電子注入が可能なエネルギー準位を取り得る物質であることができる。ここで、光励起された標識色素からの電子注入が可能なエネルギー準位(A)とは、例えば、電子受容性材料として半導体を用いる場合には、伝導帯(コンダクションバンド:CB)を意味する。すなわち、本発明に用いる電子受容物質は、このAの準位が、増感色素のLUMOのエネルギー準位よりも卑な準位、換言すれば、増感色素のLUMOのエネルギー準位よりも低いエネルギー準位を有するものであればよい。
【0057】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容物質は、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、酸化インジウム、インジウム-スズ複合酸化物(ITO)、フッ素がドープされた酸化スズ(FTO)からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。最も好ましくはTiO、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)またはフッ素がドープされた酸化スズ(FTO)をもちいることができる。ITOおよびFTOは電子受容層のみならず導電性基材としても機能する性質を有するため、これらの材料を使用することにより導電性基材を用いることなく電子受容層のみで作用電極として機能させることができる。
【0058】
電子受容物質として半導体を用いる場合、その半導体は単結晶および多結晶のいずれであってもよいが、多結晶体が好ましく、さらに緻密なものよりも多孔性を有するものが好ましい。これにより、比表面積が大きくなり、被検物質および増感色素を多く吸着させて、より高い感度で被検物質を検出することができる。したがって、本発明の好ましい態様によれば、電子受容層が多孔性を有しており、各孔の径が3〜1000nmであるのが好ましく、より好ましくは、10〜100nmである。
【0059】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容層を導電性基材上に形成した状態での表面積は、投影面積に対して10倍以上であることが好ましく、さらに100倍以上であることが好ましい。この表面積の上限には特に限定されないが、通常1000倍程度であろう。電子受容層を構成する電子受容物質の微粒子の粒径は、投影面積を円に換算したときの直径を用いた平均粒径で一次粒子として5〜200nmであることが好ましく、より好ましくは8〜100nmであり、さらに好ましくは20〜60nmである。また、分散物中の電子受容性物質の微粒子(二次粒子)の平均粒径としては0.01〜100μmであることが好ましい。また、入射光を散乱させて光捕獲率を向上させる目的で、粒子サイズの大きな、例えば300nm程度の電子受容物質の微粒子を併用して、電子受容層を形成してもよい。
【0060】
凹凸構造によって、電子受容層の表面積を大きくしてプローブ分子を多く固定化することで検出感度を上げることができる。生体分子の大きさが0.1〜20nm程度であるため、凹凸構造により形成される細孔径は20nm以上150nm以下が好ましい。凹凸構造により生じる空間の入口がそれ以下であれば、比表面積は増大するが生体分子とプローブとの結合ができず、検出信号は低下する。凹凸が粗ければ表面積もあまり増えないため信号強度もそれ程上がらない。生体分子のセンシングに好適な、より好ましい範囲は50nm以上150nm以下である。
【0061】
本発明の好ましい態様によれば、凸構造として、ナノスケールの柱(ピラー)を表面に規則正しく並べたピラー構造を採用するのが好ましい。その製法としては種々、知られているが、ナノメートルスケールの孔を有する陽極酸化アルミナを鋳型として用いる方法が一般的である。鋳型にセラミックのゾルを充填、熱処理した後に、エッチングによりアルミナの鋳型を除去する方法や、充填したセラミックのゾルを鋳型より離型した後に熱処理する方法がある。ピラー状のナノ構造体を製造する方法としては、特開2004−130171で示された透明基体、透明導電層上にナノ構造体を製造する方法が挙げられる。ここでは、陽極酸化アルミナの鋳型にチタニアゾルを充填し、300〜400℃の熱処理を行った後に鋳型をエッチングによって除去する方法が採られている。その結果、ナノ構造体としてチタニアのナノチューブやナノワイアが形成される。
【0062】
本発明の好ましい態様によれば、凹構造として、セラミック成分を含む無機‐有機ハイブリッド前駆体を焼成し、有機物の酸化分解により気相となるために生じる気孔を採用するのが好ましい。無機‐有機ハイブリッド前駆体は、有機金属化合物(金属アルコキシド)の酸化とそれに続く重縮合反応によって生じる金属‐酸素のネットワーク構造と有機ポリマーなどが共存するものである。また、市販の酸化チタン粒子(たとえばテイカ株式会社製アナターゼ型結晶、商品名AMT−600(平均粒径30nm)など)や酸化チタン分散液に有機ポリマーなどを添加する方法もある。これらの組成については種々の提案がなされており、たとえば特開平10‐212120号公報はグライム系溶剤(HO‐(‐CHCHO‐)n‐R、nは1〜10、Rはアルキル基あるいはアリール基)に酸化チタン粒子を分散させ、さらに分散助剤として有機ポリマーを加える組成が提案されている。この組成の分散液を適当な方法(ディップコーティング法、スプレーコーティング法、スピナーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、ワイパーバーコーティング法、リバースロールコーティング法)によって支持体上に塗布し、200〜800℃で焼成した場合、1cm2(厚さ1μm)あたり40〜50cm2の比表面積が達成されている。また、特開2001‐233615号公報は、テトラアルコキシチタンとエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイドブロックコポリマーと安定化剤と溶剤とからなるゾル溶液を基板上に滴下し、基板を高速回転させることで溶剤を蒸発させ、ゲル化させることで得られる三次元構造を有する有機無機複合チタニア薄膜を、高温焼結させてブロックコポリマーを除去することで微細な三次元凹構造を達成している。さらに、有機ポリマーとしてオリゴ糖(トレハロース)を用いる方法も開示されており(特開2004‐83376号公報)、気孔率が38〜56%のセラミック多孔質膜が得られている。
【0063】
このように、セラミックの微細な凹凸構造制御方法は種々提案されており、本発明に適したセラミック電極材料に応用することで、比表面積の大きい電極材料の創製が可能である。
【0064】
本発明の好ましい態様によれば、作用電極が導電性基材をさらに含んでなり、電子受容層が導電性基材上に形成されてなるのが好ましい。本発明に使用可能な導電性基材としては、チタン等の金属のように支持体そのものに導電性があるもののみならず、ガラスもしくはプラスチックの支持体の表面に導電材層を有するものであってよい。この導電材層を有する導電性基材を使用する場合、電子受容層はその導電材層上に形成される。導電材層を構成する導電材の例としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属;炭素、炭化物、窒化物等の導電性セラミックス;およびインジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの、酸化スズにアンチモンをドープしたもの、酸化亜鉛にガリウムをドープしたもの、または酸化亜鉛にアルミニウムをドープしたもの等の導電性の金属酸化物が挙げられ、より好ましくは、インジウム-スズ複合酸化物(ITO)、酸化スズにフッ素をドープした金属酸化物(FTO)である。ただし、前述した通り、電子受容層自体が導電性基材としても機能する場合にあっては導電性基材を省略可能である。また、本発明において、導電性基材は、導電性を確保できる材料であれば限定されず、それ自体では支持体としての強度を有しない薄膜状またはスポット状の導電材層も包含するものとする。
【0065】
本発明の好ましい態様によれば、導電性基材が実質的に透明、具体的には、光の透過率が10%以上であるのが好ましく、より好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。これにより、作用電極の裏側(すなわち導電性基材)から光を照射させて、作用電極(すなわち導電性基材および電子受容層)を透過した光が増感色素を励起するようにセルを構成することができる。また、本発明の好ましい態様によれば、導電材層の厚みは、0.02〜10μm程度であるのが好ましい。さらに、本発明の好ましい態様によれば、導電性基材の表面抵抗が100Ω/cm以下であり、さらに好ましくは40Ω/cm以下であるのが好ましい。導電性基材の表面抵抗の下限は特に限定されないが、通常0.1Ω/cm程度であろう。
【0066】
導電性基材上への電子受容層の好ましい形成方法の例としては、電子受容物質の分散液またはコロイド溶液を導電性支持体上に塗布する方法、半導体微粒子の前駆体を導電性支持体上に塗布し空気中の水分によって加水分解して微粒子膜を得る方法(ゾル−ゲル法)、スパッタリング法、CVD法、PVD法、蒸着法、めっき法などが挙げられる。電子受容物質としての半導体微粒子の分散液を作成する方法としては、前述のゾル−ゲル法の他、乳鉢ですり潰す方法、ミルを使って粉砕しながら分散する方法、あるいは半導体を合成する際に溶媒中で微粒子として析出させそのまま使用する方法等が挙げられる。このときの分散媒としては水または各種の有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジクロロメタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル等)が挙げられる。分散の際、必要に応じてポリマー、界面活性剤、酸、もしくはキレート剤などを分散助剤として使用してもよい。
【0067】
電子受容物質の分散液またはコロイド溶液の塗布方法の好ましい例としては、アプリケーション系としてローラ法、ディップ法、メータリング系としてエアーナイフ法、ブレード法等、またアプリケーションとメータリングを同一部分でできるものとして、特公昭58−4589号公報に開示されているワイヤーバー法、米国特許2681294号、同2761419号、同2761791号等に記載のスライドホッパ法、エクストルージョン法、カーテン法、スピン法、スプレー法が挙げられる。
【0068】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容層が半導体微粒子からなる場合、電子受容層の膜厚が0.1〜200μmであるのが好ましく、より好ましくは0.1〜100μmであり、さらに好ましくは1〜30μm、最も好ましくは2〜25μmである。これにより、単位投影面積当たりのプローブ物質および固定される増感色素量を増加して光電流量を多くするとともに、電荷再結合による生成した電子の損失をも低減することができる。また、導電性基材1m2当たりの半導体微粒子の塗布量は0.5〜400gであるのが好ましく、より好ましくは5〜100gである。
【0069】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容物質がインジウム-スズ複合酸化物(ITO)または酸化スズにフッ素をドープした金属酸化物(FTO)を含んでなる場合、電子受容層の膜厚が1nm以上であるのが好ましく、より好ましくは10nm〜1μmである。
【0070】
本発明の好ましい態様によれば、半導体微粒子を導電性基材上に塗布した後に加熱処理を施すのが好ましい。これにより、粒子同士を電気的に接触させ、また、塗膜強度の向上や支持体との密着性を向上させることができる。好ましい加熱処理温度は、40〜700℃であり、より好ましくは100〜600℃である。また、好ましい加熱処理時間は10分〜10時間程度である。
【0071】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、ポリマーフィルムなど融点や軟化点の低い導電性基材を用いる場合にあっては、熱による劣化を防止するため、高温処理を用いない方法により膜形成を行うのが好ましく、そのような膜形成方法の例として、プレス、低温加熱、電子線照射、マイクロ波照射、電気泳動、スパッタリング、CVD、PVD、蒸着等の方法が挙げられる。
【0072】
こうして得られた作用電極の電子受容層の表面にはプローブ物質が担持される。作用電極へのプローブ物質の担持は公知の方法に従い行うことができる。本発明の好ましい態様によれば、プローブ物質として一本鎖の核酸を用いる場合には、作用電極表面に酸化層を形成させておき、この酸化層を介して核酸プローブと作用電極とを結合させることにより行うことができる。このとき、核酸プローブの作用電極への固定化は、核酸の末端に官能基を導入することにより行うことができる。これにより、官能基が導入された核酸プローブはそのまま固定化反応により担体上に固定化されることができる。核酸末端への官能基の導入は、酵素反応もしくはDNA合成機を用いて行なうことができる。酵素反応において用いられる酵素としては、例えば、タ−ミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラ−ゼ、ポリAポリメラ−ゼ、ポリヌクレオチドカイネ−ス、DNAポリメラ−ゼ、ポリヌクレオチドアデニルトランスフェラ−ゼ、RNAリガ−ゼを挙げることができる。また、ポリメラ−ゼチェインリアクション(PCR法)、ニックトランスレ−ション、ランダムプライマ−法により官能基を導入することもできる。官能基は、核酸のどの部分に導入されてもよく、3'末端、5'末端もしくはランダムな位置に導入することができる。
【0073】
本発明の好ましい態様によれば、核酸プローブの作用電極への固定化のため官能基として、アミン、カルボン酸、スルホン酸、チオール、水酸基、リン酸等が好適に使用できる。また、本発明の好ましい態様によれば、核酸プローブを作用電極に強固に固定化するためには、作用電極と核酸プローブの間を架橋する材料を使用することも可能である。そのような架橋材料の好ましい例としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤や、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性ポリマーが挙げられる。
【0074】
本発明の好ましい態様によれば、核酸プロ−ブの固定化を物理吸着という、より簡単な操作で効率よく行うことも可能である。電極表面への核酸プロ−ブの物理吸着は、例えば、以下のように行なうことができる。まず、電極表面を、超音波洗浄器を用いて蒸留水およびアルコ−ルで洗浄する。その後、電極を核酸プロ−ブを含有する緩衝液に挿入して核酸プロ−ブを担体表面に吸着させる。
【0075】
また、核酸プローブの吸着後、ブロッキング剤を添加することにより、非特異的な吸着を抑制することができる。使用可能なブロッキング剤としては、核酸プローブが吸着していない電子受容層表面のサイトを埋めることができ、かつ電子受容物質に対して化学吸着あるいは物理吸着等により吸着可能な物質であれば限定されないが、好ましくは化学結合を介して吸着可能な官能基を有する物質である。例えば、酸化チタンを電子受容層として用いる場合における好ましいブロッキング剤の例としては、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基、水酸基、アミノ基、ピリジル基、アミド等の酸化チタンに吸着可能な官能基を有する物質が挙げられる。
【0076】
本発明の好ましい態様によれば、作用電極上にプローブ物質が互いに分離された複数の領域毎に区分されて担持されてなり、光源による光照射が各領域に対して個別に行われるのが好ましい。これにより、複数の試料を一枚の作用電極上で測定することができるので、DNAチップの集積化等が可能となる。本発明のより好ましい態様によれば、作用電極上にプローブ物質が担持された、互いに分離された複数の領域がパターニングされており、光源から照射される光でスキャニングしながら、各領域の試料について被検物質の検出または定量を一度の操作で連続的に行うことが好ましい。
【0077】
本発明のより好ましい態様によれば、作用電極上の互いに分離された複数の領域の各領域に複数種類のプローブ物質を担持させることができる。これにより、領域の個数に、各領域毎のプローブ物質の種類数を乗じた数の、多数のサンプルの測定を同時に行うことができる。
【0078】
本発明のより好ましい態様によれば、作用電極上の互いに分離された複数の領域の各領域毎に異なるプローブ物質を担持させることができる。これにより、区分された領域の数に相当する種類数のプローブ物質を担持させることができるので、多種類の被検物質の測定を同時に行うことができる。
【0079】
対電極
本発明に用いられる対電極は、電解質媒体に接触させた場合に作用電極との間に電流が流れることができるものであれば特に限定されず、ガラス、プラスチック、セラミックス、SUS等の支持体に、金属もしくは導電性の酸化物を蒸着したものが使用可能である。また、対電極としての金属薄膜を5μm以下、好ましくは3nm〜3μmの範囲の膜厚になるように、蒸着やスパッタリングなどの方法により形成して作成することもできる。対電極に使用可能な材料の好ましい例としては、白金、金、パラジウム、ニッケル、カーボン、ポリチオフェン等の導電性ポリマー、酸化物、炭化物、窒化物等の導電性セラミックス等が挙げられ、より好ましくは、白金、カーボンであり、最も好ましくは白金である。これらの材料は電子受容層の形成方法と同様の方法により薄膜形成が可能である。
【実施例】
【0080】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
実施例1:電解質媒体による比較
本発明による方法を用いて、p53遺伝子の検出と電解質媒体を変えた検出条件の比較を行った。
作用電極側にプローブDNAとして完全一致プローブDNAを固定化した。塩基配列は下記の通りとした。
完全一致プローブ:5’−TGTAGGAGCTGCTGGTGCA−3’(配列番号1)
このプローブDNAとハイブリダイゼーションさせる完全一致ターゲットDNAをPCR法によって増幅した。PCRによる完全一致ターゲットDNA増幅に用いたプライマーおよび鋳型DNAの塩基配列はそれぞれ下記の通りとした。
Forward Primer:5’−Cy5−GATATTGAACAATGGTTCACTGAAGAC−3’(配列番号2)
Reverse Primer:5’−GCCCCTCAGGGCAACTGAC−3’(配列番号3)
5’末端側がCy5標識してあるForward Primerを用いて増幅するため、ターゲットDNA1分子あたりCy5色素が1分子標識されている。
鋳型DNA:5’−GATATTGAACAATGGTTCACTGAAGACCCAGGTCCAGATGAAGCTCCCAGAATGCCAGAGGCTGCTCCCCGCGTGGCCCCTGCACCAGCAGCTCCTACACCGGCGGCCCCTGCACCAGCCCCCTCCTGGCCCCTGTCATCTTCTGTCCCTTCCCAGAAAACCTACCAGGGCAGCTACGGTTTCCGTCTGGGCTTCTTGCATTCTGGGACAGCCAAGTCTGTGACTTGCACGGTCAGTTGCCCTGAGGGGC−3’(配列番号4)
【0082】
作用電極用のガラス基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F−SnO2:FTO)コートガラス(AGCファブリテック株式会社製、U膜、シート抵抗:12Ω/□、形状:75mm×25mm)を用意した。このガラス基材をアセトン中で15分間、続いて超純水中で15分間超音波洗浄を施して、汚れおよび残存有機物の除去を行った。このガラス基材を0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で15分間振盪させた。その後、水酸化ナトリウムの除去のために超純水中での5分間の振盪洗浄を、水を入れ替えて3回行った。ガラス基材を取り出して空気を吹き付けて残水を飛散させた後、ガラス基材を無水メタノールに浸漬させて脱水した。95 vol%メタノール水溶液を溶媒として、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(Alfa Aesar製)を0.2 vol%となるように加え、室温下で5分間の攪拌を行って、カップリング処理用の溶液を調製した。このカップリング処理用溶液に上記ガラス基材を浸漬させ、ゆっくりと15分間振盪させた。
【0083】
次いで、ガラス基材を取り出し、メタノール中での3分間の振盪を、メタノールを入れ替えて3回行い、余剰なカップリング処理用溶液を除く操作を行った。その後、ガラス基材を110℃で30分間保持してカップリング剤をガラス基材に結合させた。ガラス基材を室温下で冷却した後、プローブDNAを10μMに調製し、95℃で10分間保持した後、直ちに氷上に移して10分間保持してDNAを変性させた。この変性後のプローブDNAを、マイクロアレイヤー(フィルジェン株式会社製LT−BA、スポットピン径=1.5mm)にて、作用電極の長尺方向に10行、短尺方向に2列の計20スポット、スポットの中心間隔が5mmとなるようスポットした。その後、95℃で3分保持して溶媒を蒸発させ、UVクロスリンカー(UVP社CL−1000型)で120mJの紫外光を照射して、プローブDNAをガラス基材に固定化した。それから、0.2 (w/v)%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS、和光純薬工業製)水溶液中で5分間振盪洗浄を3回繰り返し、さらに超純水で5分間振盪洗浄を3回繰り返した。このガラス基材を沸騰水に2分間浸漬させて取り出した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。続いて、ガラス基材を4℃の無水エタノールに1分間浸漬させて脱水し、空気を吹き付けて残留エタノールを飛散させた。こうして、プローブDNA固定化作用電極を得た。
【0084】
このプローブDNA固定化電極を作用電極として、図1に示す装置のセンサセル1内に設置した。設置方法として図2に示すように、作用電極11に0.5mm厚のスペーサー(図示せず)を取り付け、対電極12と対向させて設置した。対電極として電極を用いた。このセンサセルはスペーサーと両電極によって形成される流路を有するフローセル構造となっている。また、この流路に接続する対極に設けた流体供給口と流体排出口とが形成されている。流体供給口は、センサセル内へと流体を供給するためのポンプに接続された配管チューブが接続され、流体排出口にはセンサセル内へと供給された流体を排出するための配管チューブが接続されている。
【0085】
次に、200nMに調整した完全一致ターゲットDNA水溶液100μLと、アルカリ変性水溶液(2mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA、和光純薬工業製)、0.2M 水酸化ナトリウム(NaOH、和光純薬工業製))100μLとをそれぞれ混合して室温で5分間保持し、二本鎖DNAをアルカリ変性によって一本鎖DNAにした。これら溶液に、ハイブリダイゼーション設定温度で温度調整されたハイブリダイゼーション希釈水溶液(5×SSC、0.1%SDS)700μLと、中和水溶液(0.2M 塩酸(HCl、和光純薬工業製))100μLを添加して混合した。この混合後の溶液1mLをセンサセル内へと送液して、10分間、45℃でセンサセル内温度を保持して、作用電極上に固定化したプローブDNAとハイブリダイゼーションを行わせた。このとき、センサセル内にハイブリダイゼーション溶液を送液する前に、温度調整部材であるセラミックヒーター、温調器、測温抵抗体を用いてセンサセル内をハイブリダイゼーション設定温度で保持しておいた。10分間経過後、ハイブリダイゼーション溶液を、ポンプを用いて空気を供給することにより、センサセル内から完全に排出した。次に、ハイブリダイゼーションを行わなかった余剰のターゲットDNA等を洗浄するために、洗浄水溶液(3.5×SSC)を1500μLセンサセル内へ送液した。ここでSSCについて、20×SSCは20倍濃縮のSSC溶液を示し、20×SSCの組成は0.3Mクエン酸ナトリウム(和光純薬工業製)と3M塩化ナトリウム(和光純薬工業製)の混合水溶液であることを意味する(以下同様)。
【0086】
続いて、電解質媒体をセンサセル内へと送液してセンサセル内を満たしてから光電流を検出した。なお、電解質媒体1には、アセトニトリル溶液(0.4M テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPrI、和光純薬工業製))を使用した。またこれとは別に、同様に作製したプローブDNA固定化作用電極を用いて、まったく同様の手順でハイブリダイゼーションと洗浄を行い、電解質媒体2として、水溶液(0.3Mフェロシアン化カリウム(和光純薬工業製)、0.01Mフェリシアン化カリウム(和光純薬工業製)、0.525M塩化ナトリウム(和光純薬工業製))を用い、センサセル内へと送液してセンサセル内を満たしてから光電流を検出した。各スポット由来の光電流値とその直前のベース電流値との差分を行ごとに示した結果は図4に示されるとおりであった。結果から明らかなように、電解質媒体2を用いたときのほうが、電解質媒体1と比べて行間および列間のバラツキが小さく、精度よく良好に測定可能であることが確認された。
【0087】
実施例2:洗浄水溶液の塩濃度
実施例1と同様にして作用電極側にプローブDNAとして完全一致プローブDNAを固定化し、完全一致ターゲットDNAとハイブリダイゼーションを行わせた。次に、ハイブリダイゼーションを行わなかった余剰のターゲットDNA等を洗浄するために、洗浄水溶液1(3.5×SSC)を1500μLセンサセル内へ送液した。またこれとは別に、同様に作製したプローブDNA固定化作用電極を用いて、塩濃度の異なる洗浄水溶液2(1.5×SSC)、洗浄水溶液3(0.5×SSC)をそれぞれ用いてセンサセル内へ送液した。ハイブリダイゼーション反応時の結合反応溶液の塩濃度と洗浄溶液の塩濃度の比はそれぞれ洗浄水溶液1で7、洗浄水溶液Bで2.33、洗浄水溶液3で1であった。それぞれの作用電極を蛍光スキャナ装置(Typhoon Trio、GEヘルスケア)を用いて、励起波長633nm、蛍光波長670nmで蛍光強度を測定し、画像解析ソフト(ImageQuant TL、GEヘルスケア)を用いてハイブリダイゼーション由来の蛍光値の変動係数を算出した。その結果、洗浄水溶液1で11.3%、洗浄水溶液2で12.1%、洗浄水溶液3で19.6%であった。これらから、洗浄水溶液1〜3の値と変動係数は洗浄水溶液1を用いたときにもっとも小さく、影響の低い結果であった。
【0088】
実施例3:一塩基変異の検出
実施例1と同様の処理で、作用電極側に完全一致プローブ(PM)、一塩基変異鎖(SNP)プローブ、完全不一致(MM)プローブを6スポットずつ固定化し、実施例1と同様の装置及び検出方法により一塩基多型を検出した。それぞれの塩基配列は下記の通りとした(完全一致ターゲットDNAは実施例1と同様のものを使用)。各プローブは完全一致プローブが配列A、一塩基変異鎖プローブが配列B、完全不一致プローブを配列Cとする。
完全一致プローブ:5’−TGTAGGAGCTGCTGGTGCA−3’(配列番号1)
一塩基変異鎖(SNP)プローブ:5’−TGTAGGAGCAGCTGGTGCA−3’(配列番号5)
完全不一致(MM)プローブ:5’−TGAGCAAGTTCAGCCTGGT−3’(配列番号6)
【0089】
各スポット由来の光電流値とその直前のベース電流値との差分を各プローブDNAについてまとめた結果は図5に示されるとおりであった。得られた図5の電流値から明らかなように、一塩基の違い(PMとSNPで観察される電流値の差)および完全不一致(PMとMMで観察される電流値の差)を分別することができた。
実施例4:増感色素量と光電流値の関係
本発明による方法を用いて、増感色素量と光電流値の関係を確認した。作用電極側に増感色素を標識したプローブDNAとして完全一致プローブDNAを固定化した。塩基配列は下記の通りとした。
完全一致プローブ:5’−TGTAGGAGCTGCTGGTGCA−3’(配列番号1)
5’末端側にDNA1分子あたりCy5色素が1分子標識されている。また3’末端側にDNA1分子あたりアミノ基が1つ標識されている。
【0090】
作用電極用のガラス基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F−SnO:FTO)コートガラス(AGCファブリテック株式会社製、U膜、シート抵抗:12Ω/□、形状:75mm×25mm)を用意した。このガラス基材をアセトン中で15分間、続いて超純水中で15分間超音波洗浄を施して、汚れおよび残存有機物の除去を行った。このガラス基材を0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で15分間振盪させた。その後、水酸化ナトリウムの除去のために超純水中での5分間の振盪洗浄を、水を入れ替えて3回行った。ガラス基材を取り出して空気を吹き付けて残水を飛散させた後、ガラス基材を無水メタノールに浸漬させて脱水した。超純水を溶媒として、(3−グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(シグマアルドリッチ社製)を2 vol%となるように加え、室温下で5分間の攪拌を行って、カップリング処理用の溶液を調製した。このカップリング処理用溶液に上記ガラス基材を浸漬させ、ゆっくりと4時間振盪させた。
【0091】
次いで、ガラス基材を取り出し、超純水中での3分間の振盪を、水を入れ替えて3回行い、余剰なカップリング処理用溶液を除く操作を行った。その後、ガラス基材を110℃で30分間保持してカップリング剤をガラス基材に結合させた。ガラス基材を室温下で冷却した後、先述した増感色素を標識したプローブDNAを超純水で0.4、0.2、0.1、0.08、0.04、0.02、0.01、0.008、0.004、0μMにそれぞれ調製し、95℃で10分間保持した後、直ちに氷上に移して10分間保持してDNAを変性させた。この変性後のプローブDNAをそれぞれ、インクジェットスポッター(マイクロジェット社製 Picojet2000S、ノズルIJHBS−1000)にて、短尺方向へ各濃度(10種)毎に2つずつ計20個、1スポットあたりの溶液量600nL、スポットの中心間隔が5mmとなるようスポットした。その後、95℃で3分保持して乾燥させた。この作用電極を蛍光スキャナ装置(Typhoon Trio、GEヘルスケア)を用いて、励起波長633nm、蛍光波長670nmで蛍光強度を測定し、画像解析ソフト(ImageQuant TL、GEヘルスケア)にて増感色素を標識したプローブDNAの増感色素量に由来する蛍光値を算出して、スポットした増感色素量に対する検量線を作成した。
【0092】
次に、この作用電極を温度30℃湿度90%で24時間静置し、プローブDNAをガラス基材に固定化した。0.2%SDS溶液中で5分間振盪洗浄を3回繰り返し、さらに超純水で5分間振盪洗浄を3回繰り返した。このガラス基材を沸騰水に2分間浸漬させて取り出した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。続いて、ガラス基材を4℃の無水エタノールに1分間浸漬させて脱水し、空気を吹き付けて残留エタノールを飛散させた。こうして、増感色素を標識したプローブDNA固定化作用電極を得た。
【0093】
この増感色素を標識したプローブDNA固定化電極を作用電極として、実施例1と同様に図1に示す装置のセンサセル1内に設置した。続いて、電解質媒体として、水溶液(0.3M フェロシアン化カリウム(和光純薬工業)、0.01M フェリシアン化カリウム(和光純薬工業)、0.525M 塩化ナトリウム(和光純薬工業))を用い、センサセル内へと送液してセンサセル内を満たしてから光電流を検出した。また、この増感色素を標識したプローブDNA固定化電極を、蛍光スキャナ装置を用いて上述と同様に蛍光強度を測定し、先に算出した検量線より、増感色素を標識したプローブDNA固定化電極上に存在する増感色素量を算出した。算出した増感色素量に対して対応するスポットの光電流値をプロットした結果を図6に示す。図6から明らかなように増感色素量と光電流値はほぼ線形に推移し、相関係数は0.965で両者には相関性があることを確認した。
実施例5:各種電解質媒体における電解質の濃度
本発明による方法を用いて、p53遺伝子の検出と各種電解質媒体の濃度による検討を行った。作用電極側にプローブDNAとして完全一致プローブDNAを固定化した。塩基配列は下記の通りとした。
完全一致プローブ:5’− TGTAGGAGCTGCTGGTGCA −3’(配列番号1)
3’末端側にDNA1分子あたりアミノ基が1つ標識されている。
このプローブDNAとハイブリダイゼーションさせる完全一致ターゲットDNAをPCR法によって増幅した。PCRによる完全一致ターゲットDNA増幅に用いたプライマーおよび鋳型DNAの塩基配列はそれぞれ下記の通りとした。
Forward Primer:5’−Cy5−GATATTGAACAATGGTTCACTGAAGAC−3’(配列番号2)
Reverse Primer:5’−GCCCCTCAGGGCAACTGAC−3’ (配列番号3)
5’末端側がCy5標識してあるForward Primerを用いて増幅するため、ターゲットDNA1分子あたりCy5色素が1分子標識されている。
鋳型DNA:5’−GATATTGAACAATGGTTCACTGAAGACCCAGGTCCAGATGAAGCTCCCAGAATGCCAGAGGCTGCTCCCCGCGTGGCCCCTGCACCAGCAGCTCCTACACCGGCGGCCCCTGCACCAGCCCCCTCCTGGCCCCTGTCATCTTCTGTCCCTTCCCAGAAAACCTACCAGGGCAGCTACGGTTTCCGTCTGGGCTTCTTGCATTCTGGGACAGCCAAGTCTGTGACTTGCACGGTCAGTTGCCCTGAGGGGC−3’(配列番号4)
【0094】
作用電極用のガラス基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F−SnO:FTO)コートガラス(AGCファブリテック株式会社製、U膜、シート抵抗:12Ω/□、形状:75mm×25mm)を用意した。このガラス基材をアセトン中で15分間、続いて超純水中で15分間超音波洗浄を施して、汚れおよび残存有機物の除去を行った。このガラス基材を0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で15分間振盪させた。その後、水酸化ナトリウムの除去のために超純水中での5分間の振盪洗浄を、水を入れ替えて3回行った。ガラス基材を取り出して空気を吹き付けて残水を飛散させた後、ガラス基材を無水メタノールに浸漬させて脱水した。超純水を溶媒として、(3−グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(シグマアルドリッチ社製)を2 vol%となるように加え、室温下で5分間の攪拌を行って、カップリング処理用の溶液を調製した。このカップリング処理用溶液に上記ガラス基材を浸漬させ、ゆっくりと4時間振盪させた。
【0095】
次いで、ガラス基材を取り出し、超純水中での3分間の振盪を、水を入れ替えて3回行い、余剰なカップリング処理用溶液を除く操作を行った。その後、ガラス基材を110℃で30分間保持してカップリング剤をガラス基材に結合させた。ガラス基材を室温下で冷却した後、先述したプローブDNAを超純水で10μMに調製し、95℃で10分間保持した後、直ちに氷上に移して10分間保持してDNAを変性させた。この変性後のプローブDNAを、インクジェットスポッター(マイクロジェット社製 Picojet2000S、ノズルIJHBS−1000)にて、短尺方向へ4つずつ計40個、1スポットあたりの溶液量600nL、スポットの中心間隔が5mmとなるようスポットした。その後、95℃で3分保持して乾燥させた。
【0096】
次に、この作用電極を温度30℃湿度90%で24時間静置し、プローブDNAをガラス基材に固定化した。0.2%SDS溶液中で5分間振盪洗浄を3回繰り返し、さらに超純水で5分間振盪洗浄を3回繰り返した。このガラス基材を沸騰水に2分間浸漬させて取り出した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。続いて、ガラス基材を4℃の無水エタノールに1分間浸漬させて脱水し、空気を吹き付けて残留エタノールを飛散させた。こうして、プローブDNA固定化作用電極を得た。
【0097】
次に、200nMに調整した完全一致ターゲットDNA水溶液100μLと、アルカリ変性水溶液(2mM エチレンジアミン四酢酸(和光純薬工業製)、0.2M 水酸化ナトリウム(和光純薬工業製)100μLとをそれぞれ混合して室温で5分間保持し、二本鎖DNAをアルカリ変性によって一本鎖DNAにした。これら溶液に、ハイブリダイゼーション設定温度で温度調整されたハイブリダイゼーション希釈水溶液(5×SSC、0.1%SDS)700μLと、中和水溶液(0.28M 塩酸(和光純薬工業製))100μLを添加して混合した。この混合後の溶液1mLをセンサセル内へと送液して、10分間、55℃でセンサセル内温度を保持して、作用電極上に固定化したプローブDNAとハイブリダイゼーションを行わせた。このとき、センサセル内にハイブリダイゼーション溶液を送液する前に、温度調整部材であるセラミックヒーター、温調器、測温抵抗体を用いてセンサセル内をハイブリダイゼーション設定温度で保持しておいた。10分間経過後、ハイブリダイゼーション溶液を、ポンプを用いて空気を供給することにより、センサセル内から完全に排出した。次に、ハイブリダイゼーションを行わなかった余剰のターゲットDNA等を洗浄するために、洗浄水溶液(0.5×SSC)を1500μLセンサセル内へ送液した。
【0098】
続いて、電解質媒体3〜7として、電解質3(0.6、0.3、0.1、0.05、0.01Mの各フェロシアン化カリウム三水和物(和光純薬工業製)および0.01M フェリシアン化カリウム(和光純薬工業製)と0.525M 塩化ナトリウム(和光純薬工業製))、電解質4(0.6、0.3、0.1、0.05、0.01Mの各フェロシアン化アンモニウム三水和物(和光純薬工業製)および0.01M フェリシアン化カリウムと0.525M 塩化ナトリウム)、電解質5(0.3、0.1、0.05、0.01Mの各ヒドロキノン(和光純薬工業)および0.525M 塩化ナトリウム)、電解質6(0.1、0.05、0.01、0.005、0.001、0.0001Mの各L(+)アスコルビン酸(和光純薬工業製)および0.525M 塩化ナトリウム)、電解質7(0.9、0.6、0.3、0.1、0.05Mの各ヨウ化カリウム(和光純薬工業製)およびと0.01M ヨウ素(和光純薬工業製)と0.525M 塩化ナトリウム)、それぞれの電解質を超純水に溶解した水溶液を用い、それぞれセンサセル内へと送液してセンサセル内を満たしてから光電流を検出した結果を表1に示す。各種電解質媒体のそれぞれの濃度において、ハイブリダイゼーションしたターゲットDNA分子の増感色素由来と考えられる光電流を確認した。
【0099】
【表1】

【0100】
実施例6:各種電解質媒体における塩の濃度
実施例5と同様に、完全一致プローブを用いたプローブDNA固定化作用電極を作製し、200nMに調製した完全一致ターゲットDNAとのハイブリダイゼーションおよび洗浄を行った。
【0101】
続いて、電解質媒体8として、電解質8(0.3M ヒドロキノンおよび0.525、0.2、0.1、0.01Mの各塩化ナトリウム)を超純水に溶解した水溶液を用い、それぞれセンサセル内へと送液してセンサセル内を満たしてから光電流を検出した結果を表2に示す。電解質媒体のそれぞれの塩濃度において、ハイブリダイゼーションしたターゲットDNA分子の増感色素由来と考えられる光電流を確認した。
【0102】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
増感色素が結合した被検物質がプローブ物質を介して固定された作用電極を、対電極と共に電解質媒体に接触させ、前記作用電極に光を照射して前記増感色素を光励起させ、光励起された増感色素から作用電極への電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を検出することを含んでなる被検物質の特異的検出方法であって、
前記作用電極が、前記増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる電子受容層を有し、この電子受容層の表面に前記プローブ物質が担持されてなり、
前記作用電極を前記被検物質と反応溶液の存在下、接触させることを少なくとも含んでなる、前記増感色素が結合した被検物質がプローブ物質を介して固定された作用電極を得る結合反応工程と、
前記結合反応工程後に未結合の物質を洗浄溶液で洗浄する洗浄工程と、
前記電解質媒体を供給して、光を照射し、光電流を測定する測定工程を一つのセンサセル内で行い、
前記電解質媒体が、酸化された状態の増感色素に電子を供給しうる電解質と、水とを含み、実質的に非プロトン性溶媒を含まないものであることを特徴とする、被検物質の特異的検出方法。
【請求項2】
前記反応溶液が塩を含んでなり、該反応溶液の塩濃度をAとし、
前記洗浄溶液が塩を含んでなり、該洗浄液の塩濃度をBとしたとき、
A/Bがモル比で0.1≦A/B≦10の関係を満たす、請求項1に記載の被検物質の特異的検出方法。
【請求項3】
前記洗浄溶液が塩を含んでなり、該洗浄液の塩濃度をBとし、
前記電解質媒体が塩を含んでなり、該電解質媒体の塩濃度をCとしたとき、
B/Cがモル比で0.1≦B/C≦100の関係を満たす、請求項1または2に記載の被検物質の特異的検出方法。
【請求項4】
前記被験物質が生体分子である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の被検物質の特異的検出方法。
【請求項5】
前記プローブ物質が生体分子である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の被検物質の特異的検出方法。
【請求項6】
前記生体分子がDNAである、請求項4または5に記載の被検物質の特異的検出方法。
【請求項7】
前記塩が塩化ナトリウムを含んでなるものである、請求項2〜6のいずれか一項に記載の被検物質の特異的検出方法。
【請求項8】
前記電解質が、フェロシアン化塩を含んでなるものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の被検物質の特異的検出方法。
【請求項9】
前記フェロシアン化塩が、フェロシアン化カリウムを含んでなるものである、請求項8に記載の被検物質の特異的検出方法。
【請求項10】
前記フェロシアン化塩が、フェロシアン化アンモニウムを含んでなるものである、請求項8または9に記載の被検物質の特異的検出方法。
【請求項11】
前記電解質が、ヒドロキノンを含んでなるものである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の被検物質の特異的検出方法。
【請求項12】
前記電解質が、L−アスコルビン酸を含んでなるものである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の被検物質の特異的検出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−83639(P2013−83639A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−213217(P2012−213217)
【出願日】平成24年9月26日(2012.9.26)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)