説明

被検物質の電気化学的検出方法

【課題】高い検出感度で被検物質を検出することができる被検物質の電気化学的検出方法を提供する。
【解決手段】作用電極上に捕捉された被検物質Sを検出する際に、標識物質93と被検物質Sを捕捉する第1結合物質92とがポリペプチドからなる支持体91に少なくとも保持された標識結合物質90を被検物質に接触させる。そして、作用電極上に存在する標識物質を電気化学的に検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検物質の電気化学的検出方法に関する。より詳しくは、核酸、タンパク質等の被検物質の検出や定量等や、これらを利用する疾病の臨床検査、診断等に有用な、被検物質の電気化学的検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
疾病の臨床検査や診断は、生体試料中に含まれる前記疾病に関連する遺伝子やタンパク質等を、遺伝子検出法や免疫学的検出法等の検出法によって検出することにより行なわれている。かかる臨床検査や診断を行なうための方法として、光化学的に活性な標識物質を光励起させることにより生じる光電流を、核酸、タンパク質等の被検物質の検出に利用する光化学的検出方法が提案されている。ここで、臨床検査や診断では、検体に含まれる微量な被検物質を検出する必要があるため、被検物質の検出感度の向上が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1の段落番号[0069]〜[0078]には、被検物質であるタンパク質を特異的に認識する捕捉物質である抗体が表面に固定化された電極と、電気化学的に活性な標識物質により結合物質である抗体が標識された標識抗体とを用いる光電流による被検物質の特異的検出法が開示されている。前記特許文献1に記載の方法では、まず、被検物質と電極上の抗体とを接触させ、前記抗体によって被検物質を電極上に捕捉する。その後、電極上に捕捉された被検物質と、標識抗体とを接触させて複合体を形成させる。そして、標識抗体中の標識物質に基づく光電流を測定することにより、被検物質が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/024446号、段落番号[0069]〜[0078]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のように、支持体を介さないで、標識物質で直接的に結合物質を標識した場合、結合物質に結合させることができる標識物質の数に限度がある。そのため、特許文献1に記載の方法では、1つの被検物質あたりの標識物質の数を限度以上に増やすことができず、高感度化するのは困難である。
【0006】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、高い検出感度で被検物質を検出することができる被検物質の電気化学的検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、被検物質を電気化学的に検出する方法において、被検物質の検出に用いられる標識物質を、ポリペプチドからなる支持体を介して前記結合物質に結合させることで、検出感度を著しく向上させることができ、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
〔1〕 被検物質を電気化学的に検出する方法であって、
(1) 被検物質を含む試料を、この被検物質を捕捉する捕捉物質が固定された作用電極に接触させ、前記捕捉物質によって被検物質を作用電極上に捕捉する工程、
(2) 前記工程(1)で作用電極上に捕捉された被検物質と、標識物質と前記被検物質を捕捉する結合物質とがポリペプチドからなる支持体に少なくとも保持された標識結合物質とを含む複合体を形成させる工程、及び
(3) 前記工程(2)で得られた作用電極上に存在する標識物質を電気化学的に検出する工程、
を含む被検物質の電気化学的検出方法、
〔2〕 前記工程(2)において、前記標識結合物質を、前記工程(1)で作用電極上捕捉された被検物質に接触させ、前記複合体を形成させる前記〔1〕に記載の方法、
〔3〕 前記工程(2)において、前記被検物質を捕捉する結合物質がポリペプチドからなる支持体に少なくとも保持され、かつ標識物質を結合する結合体を、前記工程(1)で作用電極上に捕捉された被検物質に接触させ、その後、被検物質に結合した前記結合体に、標識物質を結合させて、前記被検物質と、標識物質と前記被検物質を捕捉する結合物質とがポリペプチドからなる支持体に少なくとも保持された標識結合物質とを含む複合体を形成させる前記〔1〕に記載の方法、
〔4〕 前記ポリペプチドがアルブミン又はフェリチンである前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法、
〔5〕 前記標識結合物質中のポリペプチドからなる支持体と標識物質とがリンカーを介して連結されている前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法、並びに
〔6〕 前記標識物質が、光化学的又は電気化学的に活性な物質である前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の方法
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の被検物質の電気化学的検出方法によれば、高い検出感度で、被検物質を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法に用いる検出装置を示す斜視図である。
【図2】図1に示される検出装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法に用いる検出チップを示す斜視図である。
【図4】(A)は図3に示される検出チップのAA線での断面図である。(B)は図3に示される検出チップの上基板を下面側から見た斜視図である。(C)は図3に示される検出チップの下基板を上面側から見た斜視図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法に用いる検出チップ中の電極を含む部分の一例を模式的に表した断面説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法の処理手順を示す工程説明図である。
【図7】従来の被検物質の電気化学的検出方法における検出工程を示す概略説明図である。
【図8】本発明の他の実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法の処理手順を示す工程説明図である。
【図9】本発明のさらに他の実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法の処理手順を示す工程説明図である。
【図10】試験例1に用いられたDNAを示す概略説明図である。
【図11】試験例1における被検物質の電気化学的検出方法(実施例1)の操作手順を示す概略説明図である。
【図12】試験例1における被検物質の電気化学的検出方法(比較例1)の操作手順を示す概略説明図である。
【図13】試験例1において、検出方法の種類と光電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図14】試験例2に用いられたDNAを示す概略説明図である。
【図15】試験例2における被検物質の電気化学的検出方法(実施例2)の操作手順を示す概略説明図である。
【図16】試験例2における被検物質の電気化学的検出方法(比較例2)の操作手順を示す概略説明図である。
【図17】試験例2において、検出方法の種類と光電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図18】試験例3に用いられたDNAを示す概略説明図である。
【図19】試験例3における被検物質の電気化学的検出方法(実施例3)の操作手順を示す概略説明図である。
【図20】試験例3における被検物質の電気化学的検出方法(比較例3)の操作手順を示す概略説明図である。
【図21】試験例3において、検出方法の種類と光電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[検出装置の構成]
本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法に用いる検出装置の一例を添付図面により説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法に用いる検出装置を示す斜視図である。この検出装置1は、光化学的に活性な物質を標識物質として用いる検出方法に用いる検出装置である。
【0012】
検出装置1は、検出チップ20が挿入されるチップ受入部11と、検出結果を表示するディスプレイ12とを備えている。
【0013】
図2は、図1に示される検出装置の構成を示すブロック図である。検出装置1は、光源13と、電流計14と、電源15と、A/D変換部16と、制御部17と、ディスプレイ12とを備えている。
光源13は、検出チップ20の作用電極上に存在させた標識物質に光を照射して当該標識物質を励起させる。光源13は、励起光を発生する光源であればよい。かかる光源としては、例えば、蛍光灯、ブラックライト、殺菌ランプ、白熱電球、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀−キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色LED、青色LED、緑色LED、赤色LED等)、レーザー(炭酸ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザー)、太陽光等が挙げられる。前記光源のなかでは、蛍光灯、白熱電球、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED、レーザー又は太陽光が好ましい。前記光源のなかでは、レーザーがより好ましい。前記光源は、必要に応じて、分光器やバンドパスフィルタにより、特定波長領域の光のみが放出されるものであってもよい。
電流計14は、励起された標識物質から放出される電子に起因して検出チップ20内を流れる電流を測定する。
電源15は、検出チップ20に設けられた電極に対して所定の電位を印加する。
A/D変換部16は、電流計14によって測定された光電流値をデジタル変換する。
制御部17は、CPU、ROM、RAM等から構成されている。この制御部17は、ディスプレイ12、光源13、電流計14及び電源15の動作を制御する。また、制御部17は、A/D変換部16でデジタル変換された光電流値から、予め作成された光電流値と標識物質の量との関係を示す検量線に基づき、標識物質の量を概算し、被検物質の量を算出する。
ディスプレイ12は、制御部17で概算された被検物質の量等の情報を表示する。
【0014】
なお、前記標識物質を後述の酸化還元電流・電気化学発光検出法にしたがって検出する場合、検出装置は、光源13を備えていなくてもよい(図示せず)。
前記標識物質を電気化学発光により検出する場合、検出装置は、標識物質から生じる光などを検出するためのセンサをさらに備えていればよい。
【0015】
[検出チップの構成]
つぎに、本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法に用いる検出チップ20の構成を説明する。
【0016】
図3は、本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法に用いる検出チップを示す斜視図である。図4(A)は図3に示される検出チップのAA線での断面図、図4(B)は図3に示される検出チップの上基板を下面側から見た斜視図、図4(C)は図3に示される検出チップの下基板を上面側から見た斜視図である。
【0017】
検出チップ20は、上基板30と、上基板30の下方に設けられた下基板40と、上基板30と下基板40とに挟まれた間隔保持部材50とを備えている。検出チップ20では、上基板30と下基板40とは、一側部において重複して配置されている。そして、上基板30と下基板40とが重複する部分には、間隔保持部材50が介在している。
【0018】
上基板30は、図4(B)に示されるように、基板本体30aと、作用電極61とを備えている。この基板本体30aには、被検物質を含む試料等を内部に注入するための試料注入口30bが設けられている。また、基板本体30aの表面には、作用電極61と、この作用電極61に接続されている電極リード71とが形成されている。上基板30においては、作用電極61は、基板本体30aの一側部〔図4(B)の左側〕に配置されている。電極リード71は、作用電極61から基板本体30aの他側部〔図4(B)の右側〕に向けて延びている。試料注入口30bは、基板本体30aにおいて、間隔保持部材50が介装される部分よりも内側に設けられている。
【0019】
基板本体30aは、矩形状に形成されている。なお、かかる基板本体30aの形状は、特に限定されるものではなく、多角形形状、円盤状等であってもよい。基板の作製及び取り扱いの簡便性の観点から、好ましくは矩形状である。
【0020】
基板本体30aを構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド樹脂等のプラスチック類、金属等の無機材料等が挙げられる。これらのなかでは、光の透過性、十分な耐熱性、耐久性、平滑性等を確保し、かつ材料に要するコストを低減させる観点から、好ましくはガラスである。基板本体30aの厚さは、十分な耐久性を確保する観点から、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.1〜0.7mm、さらに好ましくは約0.5mmである。また、基板本体30aの大きさは、特に限定されないが、多種類の被検物質の検出(多項目)を前提とした場合には項目数によるが、通常、20mm×20mm程度の大きさである。
【0021】
下基板40は、図4(C)に示されるように、基板本体40aと、対極66と、参照電極69とを備えている。基板本体40aは、上基板30の基板本体30aと略同寸法の矩形状に形成されている。基板本体40a及び基板本体30aは、必ずしも、同寸法である必要はない。
【0022】
基板本体40aを構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド樹脂等のプラスチック類、金属等の無機材料等が挙げられる。これらのなかでは、十分な光の透過性、耐熱性、耐久性、平滑性等を確保し、かつ材料に要するコストを低減させる観点から、好ましくはガラスである。基板本体40aの厚さ及び大きさは、前記上基板30の基板本体30aを構成する材料、基板本体30aの厚さ及び大きさと同様である。
【0023】
基板本体40aの表面には、対極66と、この対極66に接続された電極リード72と、参照電極69と、この参照電極69に接続された電極リード73とが形成されている。下基板40においては、対極66は、基板本体40aの一側部〔図4(C)の右側〕に配置されている。対極66の電極リード72と参照電極69の電極リード73とは、それぞれ、基板本体40aの一側部〔図4(C)の右側〕から他側部〔図4(C)の左側〕へ向けて延びている。対極66及び参照電極69の各電極リード72,73は、基板本体40aの他側部〔図4(C)の左側〕において互いに並列するように配置されている。また、電極リード72,73は、上基板30と下基板40とが重複する部分からはみ出して外部に露出している〔図3及び図4(A)参照〕。なお、基板本体30a及び基板本体40aは、当該基板本体を透過させるようにして光を照射する場合には、透過性を有する材料から構成された基板本体であることが望ましい。この場合、基板本体30a及び基板本体40aのうち、光を照射する側の基板本体が、透過性を有する材料から構成されていればよい。
【0024】
つぎに、作用電極61、対極66及び参照電極69について、詳細に説明する。
図5は、本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法に用いる検出チップ中の電極を含む部分の一例を模式的に表した断面説明図である。作用電極61は、ほぼ四角形状に形成されている。作用電極61は、図5に示されるように、基板本体30a上に形成された作用電極61と、この作用電極61上に固定化された捕捉物質81とから構成されている。作用電極61には、電極リード71が接続されている。
【0025】
後述の光電気化学検出法に用いる検出チップにおいては、作用電極61は、励起光が照射されることにより被検物質から生じた電子を受容する半導体からなる。この半導体は、導電体及び電子受容体として機能する。前記半導体は、光励起により被検物質から生じた電子の注入が可能なエネルギー準位をとり得る物質であればよい。ここで、「光励起により被検物質から生じた電子の注入が可能なエネルギー準位」とは、伝導帯(コンダクションバンド)を意味する。すなわち、半導体は、後述の標識物質の最低非占有分子軌道(LUMO)のエネルギー準位よりも低いエネルギー順位を有すればよい。かかる半導体としては、特に限定されないが、例えば、シリコン、ゲルマニウム等の単体半導体;チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタル等の酸化物を含む酸化物半導体;チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バナジウム、ニオブ酸カリウム等のペロブスカイト型半導体;カドニウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン、ビスマス等の硫化物を含む硫化物半導体;ガリウム、チタン等の窒化物を含む半導体;カドミウム、鉛のセレン化物からなる半導体(例えば、カドミウムセレナイド等);カドミウムのテルル化物を含む半導体;亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化合物からなる半導体;ガリウム砒素、銅−インジウム−セレン化物、銅−インジウム−硫化物等の化合物を含む半導体;カーボン等の化合物半導体又は有機物半導体等が挙げられる。なお、前記半導体は、真性半導体及び不純物半導体のいずれであってもよい。これらのなかでは、酸化物半導体が好ましい。前記酸化物半導体のうち、真性半導体のなかでは、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化タングステン、酸化タンタル及びチタン酸ストロンチウムが好ましい。また、前記酸化物半導体のうち、不純物半導体のなかでは、スズをドーパントとして含む酸化インジウム(ITO)及びフッ素をドーパントとして含む酸化スズ(FTO)が好ましい。作用電極の厚さは、通常、0.1〜1μm、好ましくは0.1〜200nm、より好ましくは0.1〜10nmである。
【0026】
さらに、本発明においては、後述の光電気化学検出法に用いる検出チップにおける作用電極61は、半導体層と導電層とから構成されていてもよい。この場合、作用電極61の電極リード71は、導電層に接続される。
前記半導体層を構成する半導体は、前記と同様である。この場合の半導体層の厚さは、好ましくは0.1〜100nm、さらに好ましくは0.1〜10nmである。
前記導電層は、導電性材料からなる。前記導電性材料としては、例えば、金、銀、銅、カーボン、白金、パラジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル等の金属又はこれらの少なくとも1つを含む合金;酸化インジウム、スズをドーパントとして含む酸化インジウム(ITO)等の酸化インジウム系材料;酸化スズ、アンチモンをドーパントとして含む酸化スズ(ATO)、フッ素をドーパントとして含む酸化スズ(FTO)等の酸化スズ系材料;チタン、酸化チタン、窒化チタン等のチタン系材料;グラファイト、グラシーカーボン、パイロリティックグラファイト、カーボンペースト、カーボンファイバー等の炭素系材料等が挙げられる。導電層の厚さは、好ましくは1〜1000nm、さらに好ましくは1〜200nm、さらに好ましくは1〜100nmである。導電性が確保でき、かつ電極から生じる光電流(バックグランド電流)が最小となる膜厚が望ましい。なお、導電性材料は、ガラス、プラスチック等の非導電性物質からなる非導電性基材の表面に導電性を有する材料からなる導電材層が設けられた複合基材であってもよい。かかる導電材層の形状は、薄膜状及びスポット状のいずれであってもよい。導電材層を構成する材料としては、例えば、スズをドーパントとして含む酸化インジウム(ITO)、アンチモンをドーパントとして含む酸化スズ(ATO)、フッ素をドーパントとして含む酸化スズ(FTO)等が挙げられる。導電層は、例えば、当該導電層を構成する材料の種類に応じた膜形成方法により形成させることができる。
【0027】
一方、後述の酸化還元電流・電気化学発光検出方法に用いる検出チップにおいては、作用電極61は、導電性材料からなる。
前記導電性材料は、前記光電気化学検出法に用いる検出チップにおける作用電極61の導電層に用いられる導電性材料と同様である。
さらに、導電性材料は、ガラス、プラスチックなどの非導電性物質からなる非導電性基材の表面に導電性を有する材料からなる導電材層が設けられた複合基材であってもよい。かかる導電材層の形状は、薄膜状およびスポット状のいずれであってもよい。
この場合、作用電極61の厚さは、好ましくは1〜1000nm、さらに好ましくは10〜200nmである。
【0028】
作用電極61の表面には、捕捉物質81が固定化されている〔図5参照〕。かかる捕捉物質81は、被検物質を捕捉する物質である。これにより、被検物質を作用電極61の近傍に存在させることができるようになっている。捕捉物質81は、被検物質の種類に応じて、適宜選択することができる。前記捕捉物質81としては、例えば、核酸、タンパク質、ペプチド、糖鎖、抗体、特異的な認識能を持つナノ構造体等が挙げられる。
【0029】
対極66は、図5に示されるように、基板本体40a上に形成されている。この対極66は、導電性材料からなる薄膜からなる。前記導電性材料としては、例えば、金、銀、銅、カーボン、白金、パラジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル等の金属又はこれらの少なくとも1つを含む合金、ITO、酸化インジウム等の導電性セラミックス、ATO、FTO等の金属酸化物、チタン、酸化チタン、窒化チタン等のチタン化合物等が挙げられる。前記薄膜の厚さは、好ましくは1〜1000nm、より好ましくは10〜200nmである。
【0030】
参照電極69は、図5に示されるように、基板本体40a上に形成されている。この参照電極69は、導電性材料からなる薄膜からなる。前記導電性材料としては、例えば、金、銀、銅、カーボン、白金、パラジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル等の金属又はこれらの少なくとも1つを含む合金、ITO、酸化インジウム等の導電性セラミックス、ATO、FTO等の金属酸化物、チタン、酸化チタン、窒化チタン等のチタン化合物等が挙げられる。前記薄膜の厚さは、好ましくは1〜1000nm、より好ましくは10〜200nmである。なお、本実施の形態では、参照電極69を設けているが、本発明においては、参照電極69を設けなくてもよい。対極66に用いる電極の種類、膜厚にもよるが、電圧降下の影響が僅かな小さな電流(例えば、1μA以下)を測定する場合は、対極66が参照電極69を兼ねていてもよい。一方、大きな電流を測定する場合、電圧降下の影響を抑制し、作用電極61に印加する電圧を安定化させる観点から、参照電極69を設けることが好ましい。
【0031】
つぎに、間隔保持部材50について、説明する。間隔保持部材50は、矩形の環状体形状に形成され、絶縁体であるシリコーンゴムからなっている。この間隔保持部材50は、作用電極61、対極66及び参照電極69を取り囲むように配置されている〔図4(A)、図5参照〕。上基板30と下基板40との間には間隔保持部材50の厚さに相当する間隔が形成されている。これにより、各電極61,66,69の間には試料や電解液を収容するための空間20aが形成されている〔図4(A)及び図5参照〕。間隔保持部材50の厚さは、通常、0.2〜300μmである。本発明においては、間隔保持部材50を構成する材料として、シリコーンゴムの代わりに、例えば、ポリエステルフィルム等のプラスチック製両面テープ等を用いることもできる。
【0032】
また、本発明においては、作用電極61、対極66及び参照電極69は、各電極が他の電極と接触しないように間隔保持部材50の枠内に配置されていればよい。したがって、作用電極61、対極66及び参照電極69は、同一の基板本体上に形成されていてもよい。さらに、本発明においては、対極66及び参照電極69は、基板本体上に形成された薄膜状の電極でなくてもよい。この場合、対極66及び参照電極69の少なくともいずれかが間隔保持部材50の部材本体に設けられていてもよい。そして、上基板30及び下基板40のいずれかに、間隔保持部材50の部材本体に設けた電極以外の電極が設けられていればよい。
【0033】
[被検物質の電気化学的検出方法]
本発明の被検物質の電気化学的検出方法は、被検物質を電気化学的に検出する方法であって、
(1) 被検物質を含む試料を、この被検物質を捕捉する捕捉物質が固定された作用電極に接触させ、前記被検物質を作用電極上の捕捉物質で捕捉する工程、
(2) 前記工程(1)で得られた作用電極上の捕捉物質により捕捉された被検物質と、ポリペプチドからなる支持体を介して標識物質と前記被検物質を捕捉する結合物質とを少なくとも保持する標識結合物質とを含む複合体を形成させる工程、及び
(3) 前記工程(2)で得られた作用電極上に存在する標識物質を電気化学的に検出する工程、
を含むことを特徴とする。
【0034】
本発明の被検物質の電気化学的検出方法では、標識物質の支持体として、ポリペプチドが用いられている点に1つの大きな特徴がある。
【0035】
本発明の被検物質の電気化学的検出方法では、例えば、ナノサイズで比重が小さいポリペプチドからなるポリペプチド支持体を介して被検物質Sと結合する結合物質と多数の標識物質が結合した標識結合物質が用いられている。このようにポリペプチド支持体を用いた場合、従来のようにポリペプチド支持体を介さないで標識物質が結合物質に直接結合させる場合とは異なり、結合物質の結合活性を維持したまま、多数の標識物質を結合することができる。したがって、本発明の被検物質の電気化学的検出方法によれば、検出感度を著しく向上させることが可能である。また、ポリペプチドは、その種類毎に決まった構造及び配列を有しており、しかも、標識物質が結合可能な結合部位(アミノ基やスルフヒドリル基等のアミノ酸の側鎖)の数が決まっている。したがって、本発明の被検物質の電気化学的検出方法によれば、金属ナノ粒子等のポリペプチド以外の支持体を用いる場合よりも、高い再現性での被検物質の検出や定量が可能になる。さらに、ポリペプチドは、インビトロで合成することができ、遺伝子操作により、所望の場所に標識物質が結合可能なアミノ酸残基(アミノ基やチオール基等を有するアミノ酸残基)を導入することができ、標識結合物質中における標識物質数を制御性よく増加させることも可能である。
【0036】
本発明の方法では、前記標識物質として、光化学的又は電気化学的に活性な物質が用いられる。光化学的に活性な物質は、当該物質が光により励起されることにより放出される電子を用いて検出される。一方、電気化学的に活性な物質は、当該物質に基づく酸化還元電流及び/又は電気化学発光を用いて検出される。したがって、本発明の方法は、標識物質の検出技術の種類によって、光電気化学検出方法(図6及び図8参照)及び酸化還元電流・電気化学発光検出方法(図9参照)に大別することができる。
【0037】
1.光電気化学検出方法
まず、光電気化学検出方法について説明する。光電気化学検出方法には、上述した図1に示される検出装置及び図3に示される検出チップを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
以下、図1に示される検出装置及び図3に示される検出チップを用いる場合を例としてあげて説明する。
【0038】
図6は、本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法の処理手順を示す工程説明図である。
光電気化学検出方法では、ユーザーは、被検物質Sを含む試料を、検出チップ20の試料注入口30bより注入する〔図6(A)試料供給工程を参照〕。これにより、試料中の被検物質が検出チップ20を構成する上基板30の作用電極61上の捕捉物質81によって捕捉される〔図6(B)被検物質捕捉工程を参照〕。このとき、前記試料中の被検物質S以外の物質(夾雑物質F)は、捕捉物質81に捕捉されない。
捕捉物質81は、被検物質Sの種類に応じて適宜選択することができる。例えば、被検物質Sが核酸である場合、捕捉物質81として、かかる核酸にハイブリダイズする核酸プローブ、前記核酸に対する抗体、前記核酸と結合するタンパク質等を用いることができる。また、被検物質Sがタンパク質又はペプチドである場合、捕捉物質81として、かかるタンパク質又はペプチドに対する抗体等を用いることができる。
【0039】
捕捉物質81による被検物質の捕捉は、例えば、捕捉物質81と被検物質とが結合する条件下で行なうことができる。捕捉物質81と被検物質とが結合する条件は、被検物質の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、被検物質が核酸であり、捕捉物質81が前記核酸にハイブリダイズする核酸プローブである場合、被検物質の捕捉は、ハイブリダイゼーション用緩衝液存在下に行なうことができる。また。被検物質が核酸、タンパク質又はペプチドであり、捕捉物質81が前記核酸に対する抗体、前記タンパク質に対する抗体又は前記ペプチドに対する抗体である場合、被検物質の捕捉は、リン酸緩衝生理的食塩水、ヘペス(HEPES)緩衝液、ピペス(PIPES)緩衝液、トリス(Tris)緩衝液等の抗原抗体反応を行なうに適した溶液中で行なうことができる。さらに、被検物質がリガンドであり、捕捉物質81が前記リガンドに対するレセプターである場合や、被検物質がレセプターであり、捕捉物質81が前記レセプターに対するリガンドである場合、被検物質の捕捉は、リガンドとレセプターとの結合に適した溶液中で行なうことができる。
【0040】
つぎに、ユーザーは、試料注入口30bから当該検出チップ20内に標識結合物質90を注入して、標識結合物質90を作用電極61上に捕捉された被検物質Sに結合させる〔図6(C)標識工程を参照〕。標識工程では、作用電極61上に、捕捉物質81と被検物質Sと標識結合物質90とを含む複合体が形成される。
【0041】
標識結合物質90は、ポリペプチド支持体91と、被検物質Sに結合する第1結合物質92と、標識物質93と、第1リンカー94とから構成されている。標識結合物質90では、被検物質Sに結合する第1結合物質92と、第1リンカー94とがポリペプチド支持体91の表面に直接固定化されている。また、第1リンカー94を介して標識物質93が支持体91上に固定化されている。
【0042】
ポリペプチド支持体91は、ポリペプチドからなる。ポリペプチド支持体91の直径は、被検物質、標識物質等の種類に応じて適宜設定することができるが、通常、3nm〜100nmである。
【0043】
前記ポリペプチドは、天然由来の精製ポリペプチド、インビトロで合成したリコンビナントポリペプチド、遺伝子改変した人工ポリペプチド及び化学合成ペプチドのいずれであってもよい。
【0044】
また、前記ポリペプチドの分子量は、好ましくは1000Da〜1000000Da、より好ましくは10000Da〜700000Da、さらに好ましくは50000Da〜500000Daである。
【0045】
さらに、前記ポリペプチドの形状は、ポリペプチドが取りうる形状であればよい。前記形状としては、例えば、球状、直鎖状、紐状等が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0046】
前記ポリペプチドには、標識物質を結合させやすいアミノ酸残基が含まれていればよい。かかるアミノ酸残基としては、例えば、一級アミノ基を側鎖に有するアミノ酸残基(例えば、リジン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基等)、スルフヒドリル基を有するアミノ酸残基(システイン残基)等が挙げられる。なかでも、リジン残基を多く含むポリペプチド、すなわち、強い塩基性のタンパク質等は、多数の標識物質を結合させる目的では有効である。かかるポリペプチドの具体例としては、アルブミン(例えば、ウシ血清アルブミン等)、ポリリジン、ヒストンH1、ミエリンベーシックプロテイン(MBP)、卵白リゾチーム等が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0047】
ポリペプチド支持体91を構成するポリペプチドは、サブユニットが複数個会合した多量体からなるポリペプチドであってもよい。この場合、前記多量体は、各サブユニットが互いに同一であるホモ多量体であってもよく、各サブユニットが互いに異なるヘテロ多量体であってもよい。また、前記多量体は、各サブユニットが、互いに相同的である多量体であってもよい。このような多量体からなるポリペプチドとしては、例えば、フェリチン、ストレプトアビジン、リステリアDps等のホモ多量体構造を有するポリペプチド;HSV(単純ヘルペスウイルス)、ロタウイルス、レオウイルス、ポリオウイルス、ロスリバーウイルス、ポリオウイルス等のウイルス粒子の外殻を利用したポリペプチド等が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0048】
前記ポリペプチドのなかでは、安価に大量調製が容易なことから、好ましくはフェリチン及びアルブミンである。前記フェリチンは、標識物質が結合可能な結合部位がフェリチン分子の外側に位置するように改変されていることが好ましい。このような改変が施されたフェリチンとしては、例えば、馬フェリチン分子の外側に位置する86番目のセリン残基が、マレイミド修飾された標識物質が結合可能なシステイン残基(マレイミド基との反応性が高いシステイン残基)に改変された変異型フェリチンなどが挙げられる。
【0049】
第1結合物質92は、被検物質Sにおいて、捕捉物質81とは異なる位置や場所に結合する物質であればよい。かかる第1結合物質92は、被検物質Sの種類に応じて適宜選択される。例えば、被検物質Sが核酸である場合、第1結合物質92として、かかる核酸にハイブリダイズする核酸プローブ、前記核酸に対する抗体、前記核酸と結合するタンパク質等を用いることができる。また、被検物質Sがタンパク質又はペプチドである場合、第1結合物質92として、かかるタンパク質又はペプチドに対する抗体等を用いることができる。
【0050】
標識物質93は、光を照射することにより励起状態となり電子を放出する物質である。標識物質93として、金属錯体、有機蛍光体、量子ドット及び無機蛍光体からなる群より選択された少なくとも1つを用いることができる。
前記標識物質の具体例としては、金属フタロシアン、ルテニウム錯体、オスミウム錯体、鉄錯体、亜鉛錯体、9−フェニルキサンテン系色素、シアニン系色素、メタロシアニン色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、アクリジン系色素、オキサジン系色素、クマリン系色素、メロシアニン系色素、ロダシアニン系色素、ポリメチン系色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ローダミン系色素、キサンテン系色素、クロロフィル系色素、エオシン系色素、マーキュロクロム系色素、インジゴ系色素、BODIPY系色素、CALFluor系色素、オレゴングリーン系色素、ロードル(Rhodol)グリーン、テキサスレッド、カスケードブルー、核酸(DNA、RNA等)、セレン化カドミウム、テルル化カドミウム、Ln23:Re、Ln22S:Re、ZnO、CaWO4、MO・xAl23:Eu、Zn2SiO4:Mn、LaPO4:Ce、Tb、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、Cy7.5及びCy9(いずれも、アマシャムバイオサイエンス社製);Alexa Fluor 355、Alexa Fluor 405、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor546、Alexa Fluor 555、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、Alexa Fluor 700、Alexa Fluor 750及びAlexa Fluor 790(いずれも、モレキュラープローブ社製);DY−610、DY−615、DY−630、DY−631、DY−633、DY−635、DY−636、EVOblue10、EVOblue30、DY−647、DY−650、DY−651、DY―800、DYQ−660及びDYQ−661(いずれも、Dyomics社製);Atto425、Atto465、Atto488、Atto495、Atto520、Atto532、Atto550、Atto565、Atto590、Atto594、Atto610、Atto611X、Atto620、Atto633、Atto635、Atto637、Atto647、Atto655、Atto680、Atto700、Atto725及びAtto740(いずれも、Atto−TEC GmbH社製);VivoTagS680、VivoTag680及びVivoTagS750(いずれも、VisEnMedical社製)等が挙げられる。なお、前記LnはLa、Gd、Lu又はYを示し、Reはランタニド族元素を示し、Mはアルカリ土類金属元素を示し、xは0.5〜1.5の数を示す。標識物質の他の例については、例えば、特許第4086090号公報、特開平7−83927号公報等を参照することができる。
【0051】
第1リンカー94としては、例えば、炭素鎖、ポリエチレングリコール(PEG)鎖、核酸等が挙げられる。リンカーの長さは、標識物質及び官能基の種類等によって好適な範囲が異なるので、標識物質及び官能基の種類等に応じて適宜設定することが好ましい。
【0052】
なお、標識結合物質90は、標識物質93をポリペプチド支持体91に直接結合させることができるのであれば、第1リンカー94を有していなくてもよい。
【0053】
標識結合物質90におけるポリペプチド支持体91への標識物質93の結合方法としては、例えば、標識物質93をポリペプチド支持体91に共有結合により結合させる方法、標識物質93をポリペプチド支持体91に非共有結合により結合させる方法が挙げられる。
【0054】
標識物質93をポリペプチド支持体91に共有結合により結合させる方法は、標識物質93をポリペプチドに共有結合させることができる方法であればよく、特に限定されるものではない。
【0055】
ポリペプチド支持体91において、標識物質93を共有結合させる部位は、特に限定されないが、ポリペプチド支持体91と標識物質93との結合が容易であることから、ポリペプチド中のアミノ基(NH)及びスルフヒドリル(SH)基が好ましい。ポリペプチド中のアミノ基(NH基)に結合させることができる反応基としては、例えば、サクシンイミド基(NHS)、イソチオシアノ基(ITC)、クロロスルホニル基、クロロアシル基、オキシエチレン基、クロロアルキル基、アルデヒド基、カルボキシル基等が挙げられる。これらのなかでは、ポリペプチドのアミノ基を介して目的とする標識物質を共有結合的に付加させる場合には、水系での反応が必須で、反応溶液のpHが中性〜弱アルカリ性領域にあること、氷冷下から37℃程度の反応温度で短時間に反応が進むこと等のように反応化合物を使用できる条件が限られていることから、好ましくはNHS及びITCである。したがって、標識物質93として、NHS及び/又はITCを有する標識物質を用いることができる。
【0056】
ポリペプチド中のスルフヒドリル(SH)基に結合させることができる反応基としては、例えば、マレイミド基、ブロモアセトアミド基等があげられる。スルホヒドリル(SH)基は、通常、ポリペプチド中ではジスルフィド(S−S)結合を形成している。そのため、スルフヒドリル(SH)基を、標識物質を結合させる部位として用いる場合、ポリペプチド中のジスルフィド構造を還元し、スルホヒドリル(SH)基として用いることになる。ジスルフィド結合の還元には、ジチオスレイトール(DTT)、β−メルカプトエタノール(β−ME)、メルカプトエチルアミン(MEA)等を用いることができる。したがって、標識物質が、アミノ基やチオール基に対する反応性の高い官能基(例えば、サクシンイミド基、マレイミド基等)を有している場合には、ポリペプチドと標識物質とを混合するだけで、ポリペプチドのアミノ基やチオール基に標識物質を直接結合させることができる。このような標識物質としては、例えば、サクシンイミドエステル修飾されたAlexa Fluor750やAlexa Fluor790(インビトロジェン社製)等が挙げられる。
【0057】
標識物質93が、アミノ基、チオール基、アルデヒド基、カルボキシル基等を有している場合は、例えば、化学クロスリンカーを介して標識物質93とポリペプチド支持体91とを結合させること、標識物質93とポリペプチド支持体91と間にジチオール結合を形成させること、一般的な化学反応を行なうこと等により、標識物質93とポリペプチド支持体91とを容易に結合させることができる。
【0058】
前記クロスリンカーは、一般的に直鎖状の構造を有しており、両末端にアミノ基やチオール基と反応するサクシンイミド基、マレイミド基等を有するスペーサーからなる。かかるクロスリンカーを第1リンカー94として用いることにより、ポリペプチド支持体91と標識物質93とを連結させることが可能である。例えば、標識物質93がチオール基を有する場合、この標識物質93をポリペプチドのアミノ基に結合させる際に、一方の末端にサクシンイミド基を有し、かつ他方の末端にマレイミド基を有するクロスリンカーを用いることができる。この場合、まず、ポリペプチド中のアミノ基とクロスリンカー中のサクシンイミド基とを反応させ、クロスリンカーのマレイミド基をポリペプチドの表面に露出させる。そして、前記マレイミド基と標識物質中のチオール基とを反応させることにより結合させることができる。ここで、クロスリンカーのスペーサーの長さは、特に限定されるものではない。スペーサーとしては、例えば、PEG鎖、核酸等が挙げられる。前記クロスリンカーの具体例としては、N−[α−マレイミドアセトアセトキシ]スクシンイミドエステル(AMAS)、N−[β−マレイミドプロピルオキシ]スクシンイミドエステル(BMPS)、(マレイミドブチリルオキシ−スクシンイミドエステル(GMBS)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)、スクシンイミジル トランス−4−(N−マレイミジルメチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシラート(SMCC)、N−[ε−マレイミドカプロイルオキシ]スクシンイミドエステル(EMCS)、スクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)ブチラート(SMPB)、スクシンイミジル−6−[(β−マレイミドプロピオンアミド)ヘキサノエート](SMPH)、スクシンイミジル−4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボキシ−[6−アミドカプロエート](LC−SMCC)、NHS−PEGn−Maleimid等が挙げられる。前記クロスリンカーは、両末端の官能基がアミノ基との反応性を有するグルタルアルデヒド、アミン反応性のNHSエステル基と光反応性のジアジリン基の2つの官能基を末端に有するクロスリンカー等であってもよい。
【0059】
また、標識物質93がチオール基を有している場合、標識物質93のチオール基とポリペプチドのチオール基とを反応させることにより、ジチオール結合を形成することによっても結合可能である。標識物質93がカルボキシル基を有する場合、NHSを用いて活性化して、ポリペプチドのアミノ基と結合させることができる。標識物質93がアルデヒド基を有する場合、ポリペプチドのアミノ基とシッフ塩基を形成させた後、還元して安定な結合をつくることができる。
【0060】
標識物質93をポリペプチド支持体91に非共有結合により結合させる方法としては、標識物質93をポリペプチドに非共有結合により結合させる方法やポリペプチドに共有結合により結合させた物質を介して非共有結合により標識物質93を結合させる方法等が考えられる。
【0061】
標識物質93をポリペプチドに非共有結合により結合させる方法としては、例えば、ストレプトアビジンと、ビオチン標識した標識物質との結合を利用する方法等が挙げられる。また、ポリペプチドに共有結合により結合させた物質を介して非共有結合により標識物質を結合させる方法としては、例えば、まず、前述のように、末端にアミノ基等を有するDNAをポリペプチドに共有結合させ、つぎに、前記DNAに標識物質を結合させた相補的なDNAをハイブリダイゼーションにより非共有結合的に結合させる方法等が挙げられる。
【0062】
以上のように、ポリペプチド支持体91を標識物質93の支持体として用いた場合、無機材料からなる支持体を用いた場合に比べ、標識物質の和が正確に制御された標識物質結合物質を容易に作製することができる。
【0063】
ポリペプチド支持体91への第1結合物質92の結合についても、標識物質93をポリペプチド支持体91に結合させるのと同様の方法により行なうことができる。
【0064】
つぎに、検出工程が行なわれる〔図6(D)検出工程を参照〕。
【0065】
かかる検出工程では、まず、ユーザーは、電解液を、検出チップ20の試料注入口30bより注入する。その後、ユーザーは、図1に示される検出装置1のチップ受入部11に検出チップ20を挿入する。そして、ユーザーは、検出装置1に測定開始を指示する。ここでは、検出装置1に挿入された検出チップ20の電極リード71,72、73は電流計14や電源15に接続される。そして、検出装置1の電源15により、参照電極69を基準として任意の電位が作用電極61に印加される。電極に印加される電位は、被検物質に対する励起光が照射されていない場合の電流値(定常電流、暗電流)が小さく、被検物質から生じる光電流が最大となる電位が好ましい。電位は、対極に印加してもよく、作用電極に印加してもよい。
【0066】
その後、検出装置1の光源13により、作用電極61上の標識物質93に励起光が照射される。これにより、標識物質93が励起し、電子を発生する。そして、発生した電子は、作用電極61に移動する。その結果、作用電極61と対極66との間に電流が流れる。そして、検出装置1の電流計14により、作用電極61と対極66との間に流れる電流が測定される。電流計14で測定された電流値は、標識物質93の個数と相関している。したがって、測定された電流値に基づき、被検物質Sを定量することができる。なお、励起光は、必要に応じて、分光器やバンドパスフィルタを用いて特定波長領域の光のみであってもよい。
【0067】
その後、まず、A/D変換部16によってデジタル変換された電流値が制御部17に入力される。つぎに、予め作成された電流値と被検物質量との関係を示す検量線に基づき、制御部17により、デジタル変換後の電流値から、試料中の被検物質量が概算される。そして、概算された被検物質量の情報をディスプレイ12に表示するための検出結果画面が、制御部17によって作成される。その後、制御部17によって作成された検出結果画面がディスプレイ12に送信され、ディスプレイ12に表示される。
【0068】
前記電解液として、酸化された状態の標識物質93に電子を供給しうる塩からなる電解質と、非プロトン性極性溶媒、プロトン性極性溶媒又は非プロトン性極性溶媒とプロトン性極性溶媒との混合物とを含む溶液を用いることができる。この電解液は、所望により、他の成分をさらに含んでいてもよい。また、電解液は、ゲル状であってもよく、固体であってもよい。
【0069】
電解質としては、例えば、ヨウ化物、臭化物、金属錯体、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、これらの混合物等が挙げられる。前記電解質の具体例としては、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化カルシウム等の金属ヨウ化物;テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等の4級アンモニウム化合物のヨウ素塩;臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化セシウム、臭化カルシウム等の金属臭化物;テトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイド等の4級アンモニウム化合物の臭素塩;フェロシアン酸塩、フェリシニウムイオン等の金属錯体;チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸カルシウム等のチオ硫酸塩;亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸鉄、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カルシウム等の亜硫酸塩;及びこれらの混合物等が挙げられる。これらのなかでは、テトラプロピルアンモニウムヨーダイド及びヨウ化カルシウムが好ましい。
【0070】
電解液の電解質濃度は、好ましくは0.001〜15Mである。
【0071】
プロトン性極性溶媒として、水、水を主体に緩衝液成分を混合した極性溶媒等を用いることができる。
非プロトン性極性溶媒としては、アセトニトリル(CHCN)等のニトリル類;プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等のカーボネート類、1,3−ジメチルイミダゾリノン、3−メチルオキサゾリノン、ジアルキルイミダゾリウム塩等の複素環化合物;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒のなかでは、アセトニトリルが好ましい。プロトン性極性溶媒及び非プロトン性極性溶媒は、単独で、又は両者を混合して用いることができる。プロトン性極性溶媒と非プロトン性極性溶媒との混合物は、水とアセトニトリルとの混合物が好ましい。
【0072】
標識物質93への光の照射には、標識物質93を光励起することができる波長の光を照射できる光源を用いることができる。かかる光源は、標識物質93の種類等に応じて、適宜選択することができる。前記光源としては、例えば、蛍光灯、ブラックライト、殺菌ランプ、白熱電球、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀−キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色LED、青色LED、緑色LED、赤色LED等)、レーザー(炭酸ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザー)、太陽光等が挙げられる。前記光源のなかでは、蛍光灯、白熱電球、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED又は太陽光が好ましい。また、検出工程においては、必要に応じて、分光器やバンドパスフィルタを用いて特定波長領域の光のみを標識物質93に照射してもよい。
【0073】
標識物質93に由来する光電流の測定には、例えば、電流計、ポテンショスタット、レコーダ、計算機等を備える測定装置を用いることができる。
かかる検出工程では、光電流を定量することにより、被検物質の量を調べることができる。
【0074】
以上のように、本実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法では、標識物質の支持体として、ポリペプチド支持体91が用いられている。したがって、本実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法によれば、1つの被検物質Sあたりの標識物質に基づく光電流を大きくすることができる。これに対して、従来の被検物質の電気化学的検出方法では、ポリペプチド支持体91が用いられておらず、一般的に、図7に示されるように、被検物質Sの検出に際して、被検物質Sに結合する結合物質103に標識物質102が直接結合した標識結合物質等が用いられる。そのため、従来の被検物質の電気化学的検出方法では、1つの被検物質Sあたりの標識物質に基づく光電流は小さい。
【0075】
なお、本実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法では、夾雑物質に基づくノイズの発生を抑制する観点から、ユーザーは、被検物質捕捉工程後、検出チップ20の試料注入口30bより夾雑物質を含む残部の液体を排出し、検出チップ20内を洗浄してもよい。検出チップ20内の洗浄には、例えば、緩衝液(特に界面活性剤を含んだ緩衝液);精製水(特に界面活性剤を含んだ精製水);エタノール等の有機溶媒等を用いることができる。
【0076】
また、本実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法では、被検物質Sに結合していない遊離の標識結合物質90を除去して、検出精度を向上させる観点から、標識工程の後、検出チップ20内を洗浄し、遊離の標識結合物質90を除去する工程をさらに行なってもよい。かかる洗浄には、例えば、エタノール、精製水等を用いることができる。
【0077】
さらに、本発明においては、標識工程において、標識物質が予め結合されている標識結合物質を用いて被検物質Sを標識する代わりに、図8に示されるように、標識工程中において、標識結合物質が形成されるように操作を行なってもよい。図8は、本発明の他の実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法の処理手順を示す工程説明図である。図8に示される被検物質の電気化学的検出方法では、(A)試料供給工程、(B)被検物質捕捉工程及び(D)検出工程は、前述した図6に示される方法の(A)試料供給工程、(B)被検物質捕捉工程及び(D)検出工程と同様である。一方、図8に示される被検物質の電気化学的検出方法では、(C)標識工程において、まず、ポリペプチド支持体91を介して第1結合物質92及び第1リンカー94を保持する結合体90aを被検物質Sに結合させる〔図8中、(C−1)〕。その後、結合体90aに、標識体90bを結合させる〔図8中、(C−2)〕。この標識体90bは、標識物質93と、この標識物質93を保持するための第2リンカー96と、前記第2リンカー96を結合する第2結合物質95とからなる。標識体90bにおいては、標識物質93と第2リンカー96とを含む複数個の複合体が第2結合物質95上に結合している。
【0078】
2.酸化還元電流・電気化学発光検出方法
つぎに、酸化還元電流・電気化学発光検出方法について説明する。図9は、本発明のさらに他の実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法の処理手順を示す工程説明図である。
【0079】
かかる酸化還元電流・電気化学発光検出方法は、標識工程〔図9(C)参照〕において、標識物質193として、電圧を印加することにより酸化還元電流を生じる標識物質又は電圧を印加することにより発光する標識物質を用いる点及び検出工程〔図9(D)参照〕において、電圧を作用電極61に印加して標識物質193から生じた光を検出する点が光電気化学検出方法と大きく異なっている。したがって、試料供給工程〔図9(A)参照〕及び被検物質捕捉工程〔図9(B)参照〕は、光電気化学検出方法における試料供給工程及び被検物質捕捉工程と同様である。なお、本実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法に用いられる検出装置1は、光源13を備えず、標識物質から生じる光を検出するためのセンサをさらに備えている装置である。また、本実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法に用いられる検出チップ20は、作用電極61が導電性材料からなるものである。
【0080】
標識工程においては、ユーザーは、試料注入口30bから当該検出チップ20内に標識結合物質190を注入して、標識結合物質190を作用電極61上に捕捉された被検物質Sに結合させる〔図9(C)標識工程を参照〕。標識工程では、作用電極61上に、捕捉物質81と被検物質Sと標識結合物質190とを含む複合体が形成される。
【0081】
標識結合物質190は、ポリペプチド支持体91と、被検物質Sに結合する第1結合物質92と、標識物質193と、第1リンカー94とから構成されている。標識結合物質190では、被検物質Sに結合する第1結合物質92と、第1リンカー94とがポリペプチド支持体91の表面に直接固定化されている。また、第1リンカー94を介して標識物質193がポリペプチド支持体91上に固定化されている。
【0082】
標識物質193は、電圧を印加することにより発光する標識物質である。
電圧を印加することにより発光する標識物質としては、例えば、ルミノール、ルシゲニン、ピレン、ジフェニルアントラセン、ルブレン等が挙げられる。
これらの標識物質の発光は、例えば、ホタルルシフェリン、デヒドロルシフェリンのようなルシフェリン誘導体、フェニルフェノール、クロロフェノールのようなフェノ−ル類若しくはナフトール類のようなエンハンサ−を用いることにより増強することが可能である。
なお、本実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法では、標識物質193として、電圧を印加することにより発光する標識物質の代わりに、電圧を印加することにより酸化還元電流を生じる標識物質を用いてもよい。
電圧を印加することにより酸化還元電流を生じる標識物質としては、例えば、電気的に可逆的な酸化還元反応を起こす金属を中心金属として含む金属錯体等が挙げられる。このような金属錯体としては、例えば、トリス(フェナントロリン)亜鉛錯体、トリス(フェナントロリン)ルテニュウム錯体、トリス(フェナントロリン)コバルト錯体、ジ(フェナントロリン)亜鉛錯体、ジ(フェナントロリン)ルテニュウム錯体、ジ(フェナントロリン)コバルト錯体、ビピリジンプラチナ錯体、ターピリジンプラチナ錯体、フェナントロリンプラチナ錯体、トリス(ビピリジル)亜鉛錯体、トリス(ビピリジル)ルテニュウム錯体、トリス(ビピリジル)コバルト錯体、ジ(ビピリジル)亜鉛錯体、ジ(ビピリジル)ルテニュウム錯体、ジ(ビピリジル)コバルト錯体等が挙げられる。
【0083】
なお、ポリペプチド支持体91、第1結合物質92及び第1リンカー94は、光電気化学検出方法におけるポリペプチド支持体91、第1結合物質92及び第1リンカー94と同様である。
【0084】
つぎに、検出工程が行なわれる〔図9(D)検出工程を参照〕。
【0085】
かかる検出工程では、まず、ユーザーは、電解液を、検出チップ20の試料注入口30bより注入する。その後、ユーザーは、図1に示される検出装置1のチップ受入部11に検出チップ20を挿入する。そして、ユーザーは、検出装置1に測定開始を指示する。ここでは、検出装置1に挿入された検出チップ20の電極リード71,72、73は電流計14や電源15に接続される。そして、検出装置1の電源15により、作用電極61に電圧が印加される。これにより、標識物質193が励起され、光が生じる。標識物質193に基づく光の測定には、フォトンカウンタ等が用いられる。また、この場合、電極の代わりに、光ファイバーの先端に透明電極を形成することにより得られる光ファイバー電極を用いて間接的に検出することもできる(特許第2573443号公報を参照)。
【0086】
その後、まず、A/D変換部16によってデジタル変換された光量の値が制御部17に入力される。つぎに、予め作成された光量の値と被検物質量との関係を示す検量線に基づき、制御部17により、デジタル変換後の電流値から、試料中の被検物質量が概算される。そして、概算された被検物質量の情報をディスプレイ12に表示するための検出結果画面が、制御部17によって作成される。その後、制御部17によって作成された検出結果画面がディスプレイ12に送信され、ディスプレイ12に表示される。
【0087】
なお、本実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法においても、夾雑物質に基づくノイズの発生を抑制する観点から、ユーザーは、被検物質捕捉工程後、検出チップ20の試料注入口30bより夾雑物質を含む残部の液体を排出し、検出チップ20内を洗浄してもよい。検出チップ20内の洗浄には、例えば、緩衝液(特に界面活性剤を含んだ緩衝液);精製水(特に界面活性剤を含んだ精製水);エタノール等の有機溶媒等を用いることができる。
【0088】
また、本実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法では、被検物質Sに結合していない遊離の標識結合物質190を除去して、検出精度を向上させる観点から、標識工程の後、検出チップ20内を洗浄し、遊離の標識結合物質190を除去する工程をさらに行なってもよい。かかる洗浄には、例えば、エタノール、精製水等を用いることができる。
【0089】
さらに、本発明においては、標識工程において、標識物質193が予め結合されている標識結合物質190を用いて被検物質Sを標識する代わりに、図8に示されるように、標識工程中において、標識結合物質が形成されるように操作を行なってもよい。
【0090】
また、図9(D)では、光を測定する場合を例として挙げて示しているが、標識物質193が電圧を印加することにより酸化還元電流を生じる標識物質である場合には、標識物質193が励起され、電子が発生する。そして、発生した電子は、作用電極61に移動する。その結果、作用電極61と対極66との間に電流が流れる。そして、検出装置1の電流計14により、作用電極61と対極66との間に流れる電流が測定される。電流計14で測定された電流値は、標識物質の個数と相関している。したがって、測定された電流値に基づき、被検物質を定量することができる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例等により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0092】
(製造例1)
シランカップリング剤である3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を、その濃度が1体積%となるようにトルエンに添加し、溶液Aを得た。
【0093】
(製造例2)
アセトニトリルとエチレンカーボネートとを体積比で2:3となるように混合し、非プロトン性極性溶媒を得た。前記非プロトン性極性溶媒に、電解質塩として、テトラプロピルアンモニウムヨーダイドをその濃度が0.6Mとなるように溶解させた。得られた溶液に、さらに電解質として、ヨウ素をその濃度が0.06Mとなるように溶解させ、電解液を得た。
【0094】
(製造例3)
スパッタリング法により、二酸化ケイ素(SiO2)からなる基板本体上に、厚さ200nmの白金薄膜(導電層)からなる対極を形成し、対極基板を得た。前記対極部には電流計と接続するための対極リードを接続した。これにより、対極基板を得た。
【0095】
(試験例1)
(1−1)DNA結合フェリチンの作製
結合物質またはリンカーとして用いられるDNAをポリペプチドからなる支持体であるフェリチンの外側に結合させるために馬フェリチンサブユニットを変異導入用キット〔ストラタジーン製、商品名:QuikChange Site−Directed Mutagenesis kit〕を用いた遺伝子組み換え技術により外側に位置する86番目のセリン残基をマレイミド基と反応性の高いシステイン残基に改変し、リコンビナントフェリチンサブユニットを得た。
【0096】
つぎに、前記リコンビナントフェリチンサブユニットを自己会合させ、球殻状フェリチンを得た。得られた球殻状フェリチン〔図11(B)中において、111参照〕と、マレイミド化DNA〔(株)日本バイオサービス製、配列番号:1〕とを、1mMエチレンジアミン四酢酸含有20mMリン酸バッファー中、50℃で結合させた。なお、前記マレイミド化DNAは、3’末端をマレイミド修飾された41塩基のDNAである。また、前記マレイミド化DNAは、標的となる被検物質SであるCK19 DNA(配列番号:5)に相補的な配列〔図10(A)において、斜体字で示された配列〕と、後述の標識物質保持用DNAが結合する配列〔図10(A)において、太字で示された配列〕とを有している。
【0097】
得られた産物をゲルろ過クロマトグラフィーに供し、DNA結合フェリチンを精製した。DNA結合フェリチン(結合体)〔図11(B)において、110a〕は、SDS−PAGEにより、球殻状フェリチンに約12個のDNAが結合した構造を有していると推測された。なお、図11においては、説明をわかりやすくするため、DNA結合フェリチン110a(結合体)において、球殻状フェリチンに結合しているDNAの一部を省略している。
【0098】
(1−2)標識結合物質の作製
1×MESハイブリダイゼーション溶液(アフィメトリックス社製)において、100nM標識物質保持用DNA〔北海道システムサイエンス(株)製、配列番号:2、図10(B)、図11(C)において、115参照〕と、1μM AlexaFluor750標識DNA〔(株)日本バイオサービス製、配列番号:3、図11(C)において、117参照〕とを45℃で1時間インキュベーションし、標識体〔図11(C)において、110b参照〕を得た。
【0099】
なお、標識物質保持用DNA115は、AlexaFluor750標識DNA117にハイブリダイゼーションする配列〔図10(B)において、下線が付された配列〕を6つ有している。また、標識物質保持用DNA115は、3’末端に、DNA結合フェリチン中のマレイミド化DNAにハイブリダイゼーションする配列〔図10(B)において、斜体字で示された配列〕を1つ有している。AlexaFluor750標識DNA117は、前記標識物質保持用DNA115にハイブリダイゼーションする配列を有している〔図10(C)参照〕。また、AlexaFluor750標識DNA117に含まれるDNA(リンカー)〔図11(C)において、116参照〕の両末端は、AlexaFluor750(標識物質)〔図11(C)において、113参照〕で標識されている。
【0100】
(1−3)作用電極基板の作製
スパッタリング法により、二酸化ケイ素(SiO2)からなる基板本体30a上に、スズをドープした酸化インジウムの薄膜(厚さ200nm)からなる作用電極を形成した。前記薄膜は、導電層と電子受容層とを兼ねている。つぎに、前記作用電極に、電流計と接続するための作用電極リードを接続した。
【0101】
つぎに、作用電極の表面を製造例1で得られた溶液Aを接触させて作用電極の表面にアミノ基を付与した。
【0102】
10μM CK19 DNA捕捉用DNA(捕捉物質81)〔配列番号:4、図10(D)参照〕を含むDNA溶液と、クロスリンキング試薬〔GEヘルスケア社製、商品名:microarray crosslinking reagent D〕とを体積比で1:9となるように混合した。得られた混合物を前記作用電極上に滴下した。その後、前記作用電極に紫外線(160mJ)を照射してCK19 DNA捕捉用DNAを作用電極上に固定した。これにより、作用電極基板を得た。
【0103】
(1−4)被検物質の捕捉
作用電極基板の作用電極の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.1mm)を配置した。その後、この作用電極基板とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、ハイブリダイゼーションバッファー〔東洋紡績(株)製、商品名:Perfect Hyb〕と被検物質Sとして1nM CK19 DNA〔(株)北海道システムサイエンス製、150塩基、配列番号:5〕とを入れた。前記作用電極基板を58℃で2時間インキュベーションした。これにより、作用電極〔図11(A)において、61参照〕上の捕捉物質〔図11(A)において、81参照〕に、被検物質Sを捕捉させた〔図11(A)参照〕。
【0104】
作用電極61を、0.1質量%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(Tween−20)含有6×SSPE〔1×SSPEの組成:0.01Mリン酸緩衝液(pH7.4)、0.149M塩化ナトリウム、0.001M EDTA〕で洗浄した。その後、前記空間に、1×MESハイブリダイゼーション溶液(アフィメトリックス社)と50nM DNA結合フェリチン(結合体)とを入れた。そして、前記作用電極基板(上基板30)を45℃で1時間インキュベーションした。これにより、作用電極61上の捕捉物質81に捕捉された被検物質SとDNA結合フェリチン110a(結合体)中に含まれるDNA(結合物質)〔図11(B)において、112参照〕とをハイブリダイゼーションさせ、作用電極61上に被検物質Sを捕捉した〔図11(B)参照〕。ここで、被検物質Sは、DNA結合フェリチン110a(結合体)中に含まれるDNA112(結合物質)の破線部分〔図10(A)において、斜体字で示された配列〕とハイブリダイゼーションする。
【0105】
つぎに、作用電極61を0.1質量%Tween−20含有6×SSPEで洗浄した。その後、前記空間に、1×MESハイブリダイゼーション溶液(アフィメトリックス社製)と、標識体110bとを入れた。そして、前記作用電極基板(上基板30)を45℃で1時間インキュベーションした。これにより、作用電極基板(上基板30)の作用電極61上に捕捉物質81と被検物質SとDNA結合フェリチン110a(結合体)と標識体110bとを含む複合体が形成した〔図11(C)参照〕(実施例1)。
【0106】
(2)対照実験
実施例1において、DNA結合フェリチンの代わりに、1μM CK19認識配列−標識保持用DNA〔配列番号:6、図10(F)、図12中、120a参照〕を用いたことを除き、実施例1と同様の操作を行ない、作用電極基板(上基板30)の作用電極61上に捕捉物質81と被検物質SとCK19認識配列−標識保持用DNA120aと標識体110bとを含む複合体が形成した〔図12(C)参照〕(比較例1)。
【0107】
(3)光電流の測定
実施例1及び比較例1の各作用電極基板の周囲に、厚さ0.2mmの側壁となるようにシリコーンゴムを配置した。そして、作用電極基板(上基板30)とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、製造例2で得られた電解液を充填した。そして、電解液が充填された空間を、作用電極基板の上方から、製造例3で得られた対極基板で密封した。これにより、作用電極及び対極を電解液に接触させた。つぎに、作用電極基板及び対極からなる検出チップを電気化学計測装置に設置し、作用電極リード及び対極リードを電流計に接続した。
【0108】
作用電極基板側から対極基板に向けて、光源(波長781nm、出力13mWのレーザー光源)から光を照射した。光照射により、標識物質が励起され、電子を生じる。そして、前記電子が作用電極に輸送されることにより、作用電極と対極との間に電流が流れる。そこで、この電流を測定した。試験例1において、検出方法の種類と光電流との関係を調べた結果を図13に示す。
【0109】
図13に示された結果から、標識物質を保持する支持体として、ポリペプチドからなる支持体であるフェリチンを用いた実施例1においては、検出された電流は約137nAであることがわかる。これに対して、従来のように、標識物質を保持する支持体として、ポリペプチドからなる支持体を用いない比較例1では、約17nAであることがわかる。これらの結果から、標識物質を保持する支持体として、ポリペプチドからなる支持体を用いることにより、非常に大きな電流を検出することができることがわかる。
【0110】
(試験例2)
(1−1)DNA結合BSAの作製
ウシ血清アルブミン(BSA)(シグマ社製)をゲルろ過クロマトグラフィーで精製した。精製後のBSA〔図15(B)において、131〕とクロスリンカー〔(株)同仁化学研究所製、商品名:GMBS〕とを反応させ、BSAの表面にマレイミド基を結合させた。得られたマレイミド修飾BSA2.6nmolに対して、3’末端にチオール基を有するCK19認識用DNA〔配列番号:7、20塩基、図14(A)、図15(B)において、132参照〕2.7nmolと、3’末端にチオール基を有する標識保持用DNA結合DNA〔配列番号:8、図14(B)、図15(B)において、134参照〕6.4nmolとを混合し、0.15M塩化ナトリウム含有リン酸バッファー(pH7)100μL中、37℃で2時間反応させた。得られた反応産物を、遠心式フィルター〔ミリポア社製、商品名:アミコンウルトラ−0.5 30Kカット〕で限外ろ過して未反応のDNAを除去し、DNA結合BSA〔図15(B)において、130a参照〕を得た。
【0111】
なお、CK19認識用DNAは、被検物質SであるCK19 DNA〔配列番号:5、図14(F)〕に相補的な配列〔図14(A)において、太字で示された配列〕を有している。また、標識保持用DNA結合DNAは、標識物質保持用DNA〔配列番号:2、図14(C)参照〕の結合部位〔図14(C)において、斜体字で示された配列〕に相補的な配列〔図14(B)において、太字で示された配列〕を有している。
【0112】
(1−2)標識体の作製
ハイブリダイゼーション溶液〔東洋紡績(株)製、商品名:PerfectHyb〕中において、100nM標識物質保持用DNA(第2結合物質)〔北海道システムサイエンス(株)製、配列番号:2、図14(C)、図15(C)において、135参照〕と、1μM AlexaFluor750標識DNA〔(株)日本バイオサービス製、配列番号:3、図14(D)、図15(C)において、137参照〕とを60℃で1時間インキュベーションし、標識体〔図15(C)において、130b参照〕を得た。標識体130bは、標識物質133とDNA136とからなるAlexaFluor750標識DNA137と、標識物質保持用DNA135とからなる。
【0113】
(1−3)被検物質の捕捉
試験例1の(1−3)と同様にして得られた作用電極基板(上基板30)の作用電極61の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.1mm)を配置した。なお、かかる作用電極基板(上基板30)の作用電極61上には、CK19 DNA捕捉用DNA(捕捉物質81)〔図14(E)参照、配列番号:4〕が固定化されている。
【0114】
その後、この作用電極基板(上基板30)とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、ハイブリダイゼーションバッファー〔東洋紡績(株)製、商品名:Perfect Hyb〕と被検物質Sとして1nM CK19 DNA〔(株)北海道システムサイエンス製、配列番号:5、150塩基、図14(F)参照〕とを入れた。前記作用電極基板(上基板30)を60℃で2時間インキュベーションした。これにより、作用電極61上の捕捉物質81に、被検物質Sを捕捉させた〔図15(A)参照〕。
【0115】
前記反応溶液の排出後、前記空間に、ハイブリダイゼーションバッファー〔東洋紡績(株)製、商品名:Perfect Hyb〕と50nM DNA結合BSA(結合体)〔図15(B)において、130a参照〕とを入れた。そして、前記作用電極基板(上基板30)を60℃で1時間インキュベーションした。これにより、作用電極61上の捕捉物質81に捕捉された被検物質SとDNA結合BSA130a(結合体)中に含まれるCK19認識用DNA132(第1結合物質)とをハイブリダイゼーションさせ、作用電極61上に被検物質Sを捕捉した〔図15(B)参照〕。
【0116】
前記反応溶液の排出後、前記空間に、ハイブリダイゼーションバッファー〔東洋紡績(株)製、商品名:Perfect Hyb〕と、標識体130bとを入れた。そして、前記作用電極基板(上基板30)を60℃、1時間インキュベーションし、標識体130b中の標識物質保持用DNA135(第2結合物質)と、捕捉物質81及び被検物質Sを介して作用電極61上に固定化されたDNA結合BSA130a(結合体)中に含まれる標識保持用DNA結合DNA(第1リンカー)〔図15(B)において134参照〕とをハイブリダイゼーションさせた。これにより、作用電極基板(上基板30)の作用電極61上に捕捉物質81と被検物質SとDNA結合BSA130a(結合体)と標識体130bとを含む複合体が形成した〔図15(C)参照〕(実施例2)。なお、標識保持用DNA結合DNA134(第1リンカー)は、標識物質保持用DNA135(第2結合物質)の3’末端側の領域〔図14(C)において、斜体字で示された配列〕と結合する。
【0117】
(2)対照実験
実施例2において、DNA結合BSAの代わりに、1μM CK19認識配列−標識保持用DNA〔配列番号:6、図14(G)、図16において、140a参照〕を用いたことを除き、実施例1と同様の操作を行ない、作用電極基板(上基板30)の作用電極61上に捕捉物質81と被検物質SとCK19認識配列−標識保持用DNA140aと標識体130bとを含む複合体が形成した〔図16(C)参照〕(比較例2)。
【0118】
(3)光電流の測定
実施例2及び比較例2の各作用電極基板の周囲に、厚さ0.2mmの側壁となるようにシリコーンゴムを配置した。そして、作用電極基板(上基板30)とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、製造例2で得られた電解液を充填した。そして、電解液が充填された空間を、作用電極基板の上方から、製造例3で得られた対極基板で密封した。これにより、作用電極及び対極を電解液に接触させた。つぎに、作用電極基板及び対極からなる検出チップを電気化学計測装置に設置し、作用電極リード及び対極リードを電流計に接続した。
【0119】
作用電極基板側から対極基板に向けて、光源(波長781nm、出力13mWのレーザー光源)から光を照射した。光照射により、標識物質が励起され、電子を生じる。そして、前記電子が作用電極に輸送されることにより、作用電極と対極との間に電流が流れる。そこで、この電流を測定した。試験例2において、検出方法の種類と光電流との関係を調べた結果を図17に示す。
【0120】
図17に示された結果から、標識物質を保持する支持体として、ポリペプチドからなる支持体であるBSAを用いた実施例1においては、検出された電流は約218.2nAであることがわかる。これに対して、従来のように、標識物質を保持する支持体として、ポリペプチドからなる支持体を用いない比較例1では、約5.8nAであることがわかる。これらの結果から、標識物質を保持する支持体として、ポリペプチドからなる支持体を用いることにより、非常に大きな電流を検出することができることがわかる。
【0121】
(試験例3)
(1−1)DNA結合BSAの作製
BSA(シグマ社製)をゲルろ過クロマトグラフィーで精製した。精製後のBSA〔図19(B)において、151参照〕とAlexaFluor750誘導体(インビトロジェン社製、商品名:AlexaFluor750 carboxylic acid,succinimidyl ester)とを、0.1M 炭酸ナトリウム(pH8.5)中、室温で1時間反応させた。得られた反応産物を、脱塩カラム(ピアース社製、商品名:Zeba Spin Micro desalting Column)で濾過して未反応のAlexaFluor750誘導体を除去し、AlexaFluor750標識BSAを得た。AlexaFluor750標識BSAは、SDS−PAGEによるバンドシフトと吸収スペクトルとから、BSAに約10個のAlexaFluor750誘導体が結合した構造を有していると推測された。前記複合体とクロスリンカー〔(株)同仁化学研究所製、商品名:GMBS〕とを反応させ、AlexaFluor750標識BSAの表面にマレイミド基を結合させた。
【0122】
得られた反応産物を脱塩カラムで精製して未反応のクロスリンカーを除去した。その後、得られたマレイミド修飾AlexaFluor750標識BSA1nmolと、3’末端にチオール基を有するCK19認識用DNA〔配列番号:7、20塩基、図18(A)参照〕2nmolとを混合し、0.15M 塩化ナトリウム含有リン酸バッファー(pH7)50μL中、37℃で3時間反応させた。得られた反応産物を、遠心式フィルター〔ミリポア社製、商品名:アミコンウルトラ−0.5 30Kカット〕で限外ろ過して未反応のDNAを除去し、DNA結合AlexaFluor750標識BSAを得た。
【0123】
(1−2)被検物質の捕捉
試験例1の(1−3)と同様にして得られた作用電極基板(上基板30)の作用電極61の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.1mm)を配置した。なお、かかる作用電極基板(上基板30)の作用電極61上には、CK19 DNA捕捉用DNA(捕捉物質81)〔配列番号:4、図18(C)〕が固定化されている。
【0124】
その後、この作用電極基板(上基板30)とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、ハイブリダイゼーションバッファー〔東洋紡績(株)製、商品名:Perfect Hyb〕と被検物質Sとして1nM CK19 DNA〔(株)北海道システムサイエンス製、150塩基、配列番号:5、図18(D)参照〕とを入れた。前記作用電極基板(上基板30)を60℃で2時間インキュベーションした。これにより、作用電極61上の捕捉物質81に、被検物質Sを捕捉させた〔図19(A)参照〕。
【0125】
前記反応溶液の排出後、前記空間に、ハイブリダイゼーションバッファー〔東洋紡績(株)製、商品名:Perfect Hyb〕と100nM DNA結合AlexaFluor750標識BSA(標識結合物質)〔図19(B)において、150参照〕とを入れた。そして、前記作用電極基板(上基板30)を60℃、1時間インキュベーションした。これにより、作用電極61上の捕捉物質81に捕捉された被検物質SとDNA結合AlexaFluor750標識BSA150中に含まれるDNA152(結合物質)とをハイブリダイゼーションさせた〔図19(B)参照〕。その後、作用電極61を0.1質量%Tween−20含有6×SSPEで洗浄した(実施例3)。
【0126】
(2)対照実験
実施例3において、DNA結合AlexaFluor750標識BSA150の代わりに、100nM AlexaFluor750標識CK19認識DNA〔(株)日本バイオサービス製、配列番号:9、図18(B)、図20(B)において、160参照〕を用いたことを除き、実施例1と同様の操作を行ない、作用電極基板(上基板30)の作用電極61上に捕捉物質81と被検物質SとAlexaFluor750標識CK19認識DNA160とを含む複合体を形成した〔図20(B)参照〕(比較例3)。なお、AlexaFluor750標識CK19認識DNA160は、CK19認識DNA〔図20(B)において、162参照〕の両末端にAlexaFluor750〔図20(B)において、161参照〕を有している。
【0127】
(3)光電流の測定
実施例3及び比較例3の各作用電極基板の周囲に、厚さ0.2mmの側壁となるようにシリコーンゴムを配置した。そして、作用電極基板(上基板30)とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、製造例2で得られた電解液を充填した。そして、電解液が充填された空間を、作用電極基板の上方から、製造例3で得られた対極基板で密封した。これにより、作用電極及び対極を電解液に接触させた。つぎに、作用電極基板及び対極からなる検出チップを電気化学計測装置に設置し、作用電極リード及び対極リードを電流計に接続した。
【0128】
作用電極基板側から対極基板に向けて、光源(波長781nm、出力13mWのレーザー光源)から光を照射した。光照射により、標識物質が励起され、電子を生じる。そして、前記電子が作用電極に輸送されることにより、作用電極と対極との間に電流が流れる。そこで、この電流を測定した。試験例3において、検出方法の種類と光電流との関係を調べた結果を図21に示す。
【0129】
図21に示された結果から、標識物質を保持する支持体として、ポリペプチドからなる支持体であるBSAを用いた実施例3においては、検出された電流は約10nAであることがわかる。これに対して、従来のように、標識物質を保持する支持体として、ポリペプチドからなる支持体を用いない比較例3では、約2.0nAであることがわかる。これらの結果から、標識物質を保持する支持体として、ポリペプチドからなる支持体を用いた被検物質の電気化学的検出方法によれば、ポリペプチドからなる支持体を用いない被検物質の電気化学的検出方法と比べて、約5倍の非常に大きな電流を検出することができることがわかる。
【0130】
なお、前述したように、DNA結合AlexaFluor750標識BSA150において、BSAに付加されたAlexaFluor750の数は、約10個であるのに対して、AlexaFluor750標識CK19認識DNAにおいて、DNAに付加されたAlexaFluor750の数は2個である。したがって、検出される電流値は標識数に比例することから、ポリペプチドからなる支持体を用いた被検物質の電気化学的検出方法によれば、被検物質を定量することができることが示唆される。
【符号の説明】
【0131】
1 検出装置
11 チップ受入部
12 ディスプレイ
13 光源
14 電流計
15 電源
16 変換部
17 制御部
20 検出チップ
30 上基板
30a 基板本体
30b 試料注入口
40 下基板
40a 基板本体
50 間隔保持部材
61 作用電極
66 対極
69 参照電極
71 電極リード
72 電極リード
73 電極リード
81 捕捉物質
90 標識結合物質
90a 結合体
90b 標識体
91 ポリペプチド支持体
92 第1結合物質
93 標識物質
94 第1リンカー
95 第2結合物質
96 第2リンカー
102 標識物質
103 結合物質
110a DNA結合フェリチン
110b 標識体
111 球殻状フェリチン
112 DNA
113 AlexaFluor750
115 標識物質保持用DNA
116 DNA
117 AlexaFluor750標識DNA
120a CK19認識配列−標識保持用DNA
130a DNA結合BSA
130b 標識体
131 BSA
132 CK19認識用DNA
133 AlexaFluor750
134 標識保持用DNA結合DNA
135 標識物質保持用DNA
136 DNA
137 AlexaFluor750標識DNA
140a CK19認識配列−標識保持用DNA
150 DNA結合AlexaFluor750標識BSA
152 DNA
151 BSA
160 AlexaFluor750標識CK19認識DNA
161 AlexaFluor750
162 CK19認識DNA
S 被検物質
【配列表フリーテキスト】
【0132】
配列番号:1は、マレイミド化DNAの配列である。
配列番号:2は、標識物質保持用DNAの配列である。
配列番号:3は、AlexaFluor750標識DNAの配列である。
配列番号:4は、CK19 DNA捕捉用DNAの配列である。
配列番号:5は、CK19 DNAの配列である。
配列番号:6は、CK19認識配列−標識保持用DNAの配列である。
配列番号:7は、CK19認識用DNAの配列である。
配列番号:8は、標識保持用DNA結合DNAの配列である。
配列番号:9は、AlexaFluor750標識CK19認識DNAの配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質を電気化学的に検出する方法であって、
(1) 被検物質を含む試料を、この被検物質を捕捉する捕捉物質が固定された作用電極に接触させ、前記捕捉物質によって被検物質を作用電極上に捕捉する工程、
(2) 前記工程(1)で作用電極上に捕捉された被検物質と、標識物質と前記被検物質を捕捉する結合物質とがポリペプチドからなる支持体に少なくとも保持された標識結合物質とを含む複合体を形成させる工程、及び
(3) 前記工程(2)で得られた作用電極上に存在する標識物質を電気化学的に検出する工程、
を含む被検物質の電気化学的検出方法。
【請求項2】
前記工程(2)において、前記標識結合物質を、前記工程(1)で作用電極上捕捉された被検物質に接触させ、前記複合体を形成させる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(2)において、前記被検物質を捕捉する結合物質がポリペプチドからなる支持体に少なくとも保持され、かつ標識物質を結合する結合体を、前記工程(1)で作用電極上に捕捉された被検物質に接触させ、その後、被検物質に結合した前記結合体に、標識物質を結合させて、前記被検物質と、標識物質と前記被検物質を捕捉する結合物質とがポリペプチドからなる支持体に少なくとも保持された標識結合物質とを含む複合体を形成させる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリペプチドがアルブミン又はフェリチンである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記標識結合物質中のポリペプチドからなる支持体と標識物質とがリンカーを介して連結されている請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記標識物質が、光化学的又は電気化学的に活性な物質である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図10】
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【図14】
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【図18】
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