説明

被検物質検出方法および被検物質検出装置

【課題】微小な流路を備えた検出チップを用いた被検物質検出方法において、前処理を必要とせず、容易かつ迅速に上記の流路の目詰まりや免疫反応の阻害を防止できるとともに、検査間で溶血率のばらつきのない検査を可能とする。
【解決手段】流路11を有する流路基材12、および、流路11の所定領域に形成された検出部15を備えた検出チップC1を用い、被検物質Aを含有する可能性があり細胞性の非被検物質を含有する液体試料Sを流路11に流入させ、検出部15よりも上流側に設けられた超音波照射部20によって、流路11の長さ方向に垂直な方向から流路11内の液体試料Sに対して、流路11内に定在波Uを生じせしめるように超音波を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小な流路を備えた検出チップを用いた被検物質検出方法および被検物質検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、微細加工技術を応用して形成されたマイクロレベルの微小な流路を備えた検出チップを用い、免疫反応を利用した生化学検査(免疫検査)が盛んに研究されている。流路を微細化することで、生体から採取する試料の必要量を微量にすることができるとともに、検出チップを含む装置全体を小型化することができる。さらに、検出チップを含む装置全体を小型化することで、診療所や家庭などで診断を行うPOCT(Point Of Care Testing:その場診断)を実現することが可能となる。免疫検査は、各種の診断や観察に広く利用され、臨床検査として重要な検査法となっており、現在では各種の免疫検査装置が開発され、多数の検査項目を同時に検査する等、高度の分析が可能となっている。
【0003】
免疫検査では、通常、検査試料として血液が用いられる。血液は、血球成分(または細胞性成分ともいう。赤血球、白血球および血小板などを指す。)と血漿成分(または液性成分ともいう。血漿、または血漿から凝固因子を除去した血清を指す。)とから構成されるが、検査試料としては血漿成分が用いられることが多い。
【0004】
血漿成分を検査試料とし、上記のような検出チップを用いて検査を行う場合には、通常、採血した血液を遠心分離して、血漿成分に比べて大きな比重を有する血球成分を除去(血球分離)する前処理が行われる。これは、人の血液中の血球成分を構成する赤血球(血球成分中の構成比:96%)、白血球(3%)および血小板(1%)の大きさが、それぞれ約8μm、約6〜22μmおよび約1〜4μmと上記流路に対し大きいため、上記のような検出チップを用いて血液診断を行う場合には、このような血球成分(特に赤血球)によって流路が目詰まりを起こしたり免疫反応が阻害されたりするといった問題が生じるためである。しかし、このような前処理を行う場合には、遠心分離装置を要する、血球成分と血漿成分の比重差がほとんどないため長時間の遠心分離作業を要する、および作業工程数が増える等の別の問題が生じる。
【0005】
一方、上記のような前処理を必要とせず、血球分離を行う他の方法としては、血球分離膜を流路の上流側に設けて血液を点着するだけで血球成分を分離する方法(特許文献1)が挙げられる。しかしながら、このような血球分離膜を用いた方法でも、流路の目詰まりは解決できるものの、血球分離膜の目詰まりが起きる可能性は排除できず、必要な量の検査試料が流路を流下しないといった問題や、迅速な測定が阻害されるといった問題が生じる場合がある。ポンプ等によって正圧または負圧を印加することにより血球分離膜を用いても血球分離を迅速に行うことは可能であるが、結局余計な作業が増加することとなる。
【0006】
そこで、上記のような前処理を必要とせず、容易かつ迅速に上記の流路の目詰まりや免疫反応の阻害という問題を解決することが可能な方法が提案されている。例えばこのような方法として、検査試料に界面活性剤を添加して血球成分の細胞膜を化学的に破壊することにより血液を溶血する方法(特許文献2)や、流路中の検査試料に超音波を照射して血球成分の細胞膜を物理的に破壊することにより血液を溶血する方法(特許文献3)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2002−508698号公報
【特許文献2】特開2007−163182号公報
【特許文献3】特開2009−207459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2のように界面活性剤を用いた場合、この界面活性剤の添加により、検査試料全体としての流体力学物性(粘性および表面張力等)が変動してしまって、流路内での流速等の流動状態も変動してしまうため、拡散律速等を引き起こし免疫反応速度の制御が困難になるという問題が生じうる。
【0009】
また、特許文献3のように単に超音波を照射しただけでは、超音波による音響放射圧分布が流路内の場所や時間によって不規則に変動し、音響場を通過した血球の溶血率(血球成分のうち細胞膜が破壊され溶血した血球成分の割合)が検査間で一定しないという問題がある。一方、溶血率を検査間で一定にするためには超音波を長時間照射する必要があるという問題もある。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、微小な流路を備えた検出チップを用いた被検物質検出方法において、前処理を必要とせず、容易かつ迅速に上記の流路の目詰まりや免疫反応の阻害を防止できるとともに、検査間で溶血率のばらつきのない検査を可能とする被検物質検出方法および被検物質検出装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る被検物質検出方法は、流路と、流路に接続された、流路に液体試料を流入させるための流入口と、流路に接続された、流入口から流入した液体試料を流路に流入させるための空気口とを有する流路基材、および、流路の所定領域に形成された検出部を備えた検出チップを用い、
被検物質を含有する可能性があり細胞性の非被検物質を含有する液体試料を流路に流入させ、
検出部よりも上流側に設けられた超音波照射部によって、流路の長さ方向に垂直な方向から流路内の液体試料に対して、流路内に定在波を生じせしめるように超音波を照射し、
被検物質を、検出部に固定された、被検物質と特異的に結合する固定化結合物質で検出することを特徴とするものである。
【0012】
本明細書において、「検出部」とは、被検物質を検出するための領域を意味する。例えば、被検物質(例えば抗原)と特異的に結合する固定化結合物質(例えば抗体)が流路壁面上に固定されているような場合には、この固定化結合物質が固定されている流路壁面上の領域が検出部となる。また、この検出部には、流路壁面上に表面プラズモンを発生させるための金属膜等が含まれていてもよい。
【0013】
「流路の長さ方向に垂直な方向」とは、流路の高さ方向または流路の幅方向を意味する。
【0014】
「固定化結合物質」とは、特異的に結合する対の物質の一方である被検物質に対する他方の物質であって、検出部に固定されたものを意味する。なお、「特異的に結合する対の物質」とは、抗原および抗体、もしくはタンパク質および補因子等のように、一方の物質と他方の物質とが特異的に認識し合って結合する関係にある対の物質を意味する。
【0015】
さらに、本発明に係る被検物質検出方法において、超音波照射部によって、流路内に時間的および/または空間的に分離された2つ以上の定在波をそれぞれ生じせしめるように、異なる周波数の2つ以上の超音波を時間的および/または空間的に分離して照射することが好ましい。
【0016】
本明細書において、「時間的および/または空間的に分離された2つ以上の定在波」とは、異なる時間帯および/または異なる場所に形成された、周波数の異なる2つ以上の定在波を意味する。なお、周波数を連続的に変調しながら定在波を形成した場合には、その瞬間々々の定在波それぞれが別個の定在波であるとする。
【0017】
異なる周波数の2つ以上の超音波を「時間的および/または空間的に分離して照射する」とは、異なる時間帯および/または異なる場所で周波数の異なる超音波を照射することを意味する。なお、周波数を連続的に変調しながら超音波を照射した場合には、その瞬間々々の超音波それぞれが別個の超音波であるとする。
【0018】
さらに、本発明に係る被検物質検出方法において、1つの超音波照射素子のみからなる上記超音波照射部を用い、超音波照射素子によって、周波数を時間的に変調しながら超音波を照射することにより、上記異なる周波数の2つ以上の超音波を時間的に分離して照射することができる。この場合、上記異なる周波数の2つ以上の超音波のうち1つの超音波に起因して生じせしめられた定在波の腹の位置が、他の超音波に起因して生じせしめられた定在波の節の位置となるように、周波数を変調することが好ましい。
【0019】
本明細書において、「1つの超音波に起因して生じせしめられた定在波の腹の位置が、他の超音波に起因して生じせしめられた定在波の節の位置となる」とは、ある定在波の節と他の定在波の腹とが、同時に存在することはないが実質的に同一の場所に形成される状態を意味する。実質的に同一の場所に形成される状態とは、被検物質の液体試料中の拡散等を考慮し、ある定在波の節と他の定在波の節とが重ならないように、これらの定在波が形成される状態を意味する。少なくとも1対の定在波の1対の腹および節が実質的に同一の場所に形成されていればよい。
【0020】
さらに、本発明に係る被検物質検出方法において、流路の長さ方向に沿って設けられた2つ以上の超音波照射素子からなる上記超音波照射部を用い、この2つ以上の超音波素子によって、それぞれ異なる周波数の超音波を照射することにより上記異なる周波数の2つ以上の超音波を空間的に分離して照射することができる。この場合、上記異なる周波数の2つ以上の超音波のうち1つの超音波に起因して生じせしめられた定在波の腹の位置が、他の超音波に起因して生じせしめられた定在波の節の位置に、流路の長さ方向に沿って対応するように、周波数を異ならせることが好ましい。また、上記異なる周波数の2つ以上の超音波のうち少なくとも1つの超音波の周波数を変調することが好ましい。
【0021】
本明細書において、「1つの超音波に起因して生じせしめられた定在波の腹の位置が、他の超音波に起因して生じせしめられた定在波の節の位置に、流路の長さ方向に沿って対応する」とは、ある定在波の節の位置と他の定在波の腹の位置とが実質的に同一の流線上に存在する状態を意味する。実質的に同一の流線上に存在する状態とは、被検物質の液体試料中の拡散等を考慮し、ある定在波の節と他の定在波の節とが同一の流線上に存在しないように、これらの定在波が形成される状態を意味する。これは、例えば流路幅が一定で物質および分子等の液体試料中の拡散が無視できる範囲において言い換えれば、流路の長さ方向からこれらの定在波が生じている流路断面を眺めた場合に、1つの定在波の節と他の定在波の腹が重なるような状態ということもできる。少なくとも1対の定在波の1対の腹および節が重なっていればよい。
【0022】
さらに、検出チップとして、定在波が生じうる領域の流路の壁面に音響整合層が設けられた検出チップを用いることが好ましい。
【0023】
一方、本発明に係る被検物質検出装置は、
流路と、流路に接続された、流路に液体試料を流入させるための流入口と、流路に接続された、流入口から流入した液体試料を流路に流入させるための空気口とを有する流路基材、および、流路の所定領域に形成された検出部を備えた検出チップと、
検出部よりも上流側に設けられた、流路の長さ方向に垂直な方向から流路内の液体試料に対して超音波を照射する超音波照射部と、
流路内に定在波を生じせしめるように超音波照射部を制御する超音波制御部とを備えることを特徴とするものである。
【0024】
さらに、本発明に係る被検物質検出装置において、超音波照射部が、1つの超音波照射素子のみからなるものであり、超音波制御部が、周波数を時間的に変調することにより、異なる周波数の2つ以上の超音波を時間的に分離して照射するように、超音波照射素子を制御するものであることが好ましく、或いは、超音波照射部が、流路の長さ方向に沿って設けられた2つ以上の超音波照射素子からなるものであり、超音波制御部が、それぞれ異なる周波数の超音波を照射することにより、異なる周波数の2つ以上の超音波を空間的に分離して照射するように、超音波照射素子を制御するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る被検物質検出方法は、微小な流路を備えた検出チップを用いた被検物質検出方法において、被検物質を含有する可能性があり細胞性の非被検物質を含有する液体試料を流路に供給し、検出部よりも上流側に設けられた超音波照射部によって、流路の長さ方向に垂直な方向から流路内の液体試料に対して、流路内に定在波を生じせしめるように超音波を照射するものである。したがって、超音波によって物理的に細胞性の非被検物質を破壊することができるため、前処理を必要とせず、容易かつ迅速に上記の流路の目詰まりや免疫反応の阻害を防止することができる。一方、流路内に定在波を生じせしめているから、腹および節の位置が固定され音響放射圧分布が一定となり、検査間で溶血率のばらつきのない検査が可能となる。この結果、前処理を必要とせず、容易かつ迅速に上記の流路の目詰まりや免疫反応の阻害を防止できるとともに、検査間で溶血率のばらつきのない検査が可能となる。
【0026】
さらに、本発明に係る被検物質検出装置は、流路と、流路に接続された、流路に液体試料を流入させるための流入口と、流路に接続された、流入口から流入した液体試料を流路に流入させるための空気口とを有する流路基材、および、流路の所定領域に形成された検出部を備えた検出チップと、検出部よりも上流側に設けられた、流路の長さ方向に垂直な方向から流路内の液体試料に対して超音波を照射する超音波照射部と、流路内に定在波を生じせしめるように超音波照射部を制御する超音波制御部とを備え、超音波照射部によって、流路の長さ方向に垂直な方向から流路内の液体試料に対して、流路内に定在波を生じせしめるようにしている。この結果、上記被検物質検出方法と同様に、前処理を必要とせず、容易かつ迅速に上記の流路の目詰まりや免疫反応の阻害を防止できるとともに、検査間で溶血率のばらつきのない検査が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1A】本発明の第1の実施形態の被検物質検出方法に用いる検出装置を示す概略断面図である。
【図1B】本発明の第1の実施形態の被検物質検出方法に用いる検出チップを示す概略上面図である。
【図1C】本発明の第1の実施形態の被検物質検出方法に用いる検出チップを示す概略断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の被検物質検出方法によってサンドイッチ法による免疫検査を行う工程を示す概略断面図である。
【図3】(a)(b)第1の実施形態において、それぞれ異なる時間帯に異なる周波数の超音波によって定在波を生じせしめた様子を示す概略断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態の被検物質検出方法に用いる検出チップを示す概略断面図である。
【図5】第2の実施形態において、異なる場所で異なる周波数の超音波によって定在波を生じせしめた様子を示す概略断面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態の被検物質検出方法に用いる検出チップを示す概略断面図である。
【図7】第3の実施形態において、異なる場所で異なる周波数の超音波によって定在波を生じせしめた様子を示す概略断面図である。
【図8】第3の実施形態において、異なる場所で同一の周波数の超音波によって定在波を生じせしめた様子を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0029】
「第1の実施形態の被検物質検出方法」
まず、被検物質検出方法の第1の実施形態について説明する。図1Aは、本実施形態の被検物質検出方法に用いる検出装置を示す概略断面図である。また、図1Bおよび図1Cはそれぞれ、本実施形態の被検物質検出方法に用いる検出チップC1を示す概略上面図、本実施形態の被検物質検出方法に用いる検出チップC1を示す概略断面図である。なお、本実施形態においては、特異的に結合する対の物質の具体例として抗原および抗体を用いて、被検物質を抗原、この被検物質と特異的に結合する物質を抗体として、蛍光標識を用いたサンドイッチ法によって分析する場合を例として説明する。
【0030】
本実施形態の被検物質検出方法は、図2に示すように、流路11と、流路11に接続された、流路11に液体試料を流入させるための流入口14aと、流路11に接続された、流入口14aから流入した液体試料を流路11に流入させるための空気口14bとを有する流路基材12、流路11の所定領域に形成された検出部15、および、検出部15よりも上流側に乾燥配置された蛍光標識抗体BFを備えた検出チップC1を用い、抗原Aを含有する可能性がある全血試料Sを流路11に流入させ、蛍光標識抗体BFが乾燥配置された領域よりも上流側に設けられた超音波照射部20によって、流路11の長さ方向に垂直な方向から流路11内の全血試料Sに対して、流路11内に周波数の異なる定在波Uを周期的に生じせしめるように、周波数を周期的に変調しながら超音波を照射し、この定在波Uの腹の音響放射圧で全血試料S中の血球成分の細胞膜を破壊することで、流路11の目詰まりなく全血試料Sを流路11に流下せしめ、全血試料Sを蛍光標識抗体BFと接触せしめるとともに抗原Aを蛍光標識抗体BFによって標識し、この抗原Aおよび蛍光標識抗体BFの複合体を検出部15上の固定化抗体B1に固定し、図1Aに示すように、測定光Leを照射して検出部15上の上記複合体中の蛍光標識Fからの蛍光信号Lfを光検出器23で検出して、全血試料S中の抗原Aの有無および/または量を検出することを特徴とするものである。
【0031】
また、本発明の被検物質検出装置は、図1Aに示すように、上記検出チップC1と、検出部よりも上流側に設けられた、流路の長さ方向に垂直な方向から流路内の液体試料に対して超音波を照射する超音波照射部20と、流路内に定在波を生じせしめるように超音波照射部を制御する超音波制御部21と、光源22と、光検出器23とを備えるものである。
【0032】
上記の被検物質検出方法および装置に用いられる検出チップC1は、主として流路11を有する流路基材12および流路11内の検出部15から構成される。
【0033】
流路基材12は、コ文字型の溝が形成された流路部材13とこの溝に蓋をする蓋部材14とからなるものであり、樹脂から形成されたものが好ましく、この場合は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンを含む非晶性ポリオレフィン(APO)、ポリスチレン、およびゼオネックス(登録商標)等の樹脂を用いることがより好ましい。
【0034】
流路11は、流路部材13上に形成されたコ文字型の溝に蓋をするように、蓋部材14が流路部材13に装着されることにより形成される。本明細書において、流路11の幅および高さ(いずれも試料の進行方向と垂直な方向の長さ)は、特に限定されないが、幅10mm以下、厚み2mm以下である場合、特に幅3mm以下、厚み500μm以下である場合に流路11の目詰まりが顕著に表れるため、このような範囲にある幅および厚みを有する流路を用いた検査に対して本発明は特に効果的である。本実施形態においては、具体的には幅2mmおよび厚み314μmの流路11である。さらに、流路11の両端には流入用或いは廃液用の液溜め11aおよび11bが形成されている。
【0035】
また、流路11の所定領域には、検出部となる金属膜が形成されている。これにより、金属膜に生じるプラズモンによる増強場Ewを利用した高感度の分析方法と組み合わせることができる。例えば、金属膜が金属材料のベタ膜である場合には、表面プラズモン共鳴法、表面プラズモン増強蛍光法やSPCE(surface plasmon-coupled emission)法と組み合わせることができ、金属膜が配列された金属微粒子からなる層である場合には、局在表面プラズモン共鳴法と組み合わせることができる。金属膜の材料としては、特に制限されるものではなく、例えばプラズモンを効率よく誘起する観点から、Au,Ag,Cu,Pt,Ni,Ti等が挙げられ、電場増強効果の高いAu,Ag等が特に好ましい。金属膜の厚みは、金属膜の材料と、測定光Leの波長により表面プラズモンが強く励起されるように適宜定めることが望ましい。例えば、測定光Leとして780nmに中心波長を有するレーザ光を用い、金属膜として金(Au)膜を用いる場合、金属膜の厚みは50nm±5nmが好適である。
【0036】
さらに、流路11には超音波を効率よく反射させるための反射板17が設けられている。反射板17は、超音波をより効率的に反射させる(つまり、定在波Uをより効率的に生じせしめる)ため、後述する超音波照射部20に対向するように設けられている層である。反射板17は、超音波の反射率を上げるため、反射板17および液体試料Sの音響インピーダンスの差が大きくなるような材料を用いることが好ましい。その材料としては、ガラス等の誘電材料、アルミニウム等の金属材料を挙げることができる。反射板17は、図1Cに示すように流路11の内壁(図では蓋部材14)の一部となるように埋め込まれるように形成されてもよいし、流路11の内壁面上に形成されてもよい。また、反射板17は、液体試料と音響インピーダンスが異なっているという点では流路基材12そのものでもよい、つまり流路基材12が反射板としての機能を兼ねてもよい。しかしながら、音響インピーダンスの大小に基づく材料選択という観点から、流路基材12とは異なる材料で反射板17を別途設けることが好ましい。
【0037】
蓋部材14は、流路部材13に装着することにより流路11の上面を形成するためのものである。また、蓋部材14は、流入用の液溜め11aに接続する試料等を流入するための流入口14a、および廃液用の液溜め11bに接続する空気等を抜くための空気口14bを有している。蓋部材14は、上記金属膜16が形成されたあとに、超音波融着等により流路部材13に装着される。
【0038】
本実施形態における液体試料Sは、人から採決したままの全血試料であり、細胞性の非被検物質は全血中の血球成分となる。しかしながら、これに限られず希釈剤等によって希釈された血液でもよい。また、血液の他にも、液体試料として、例えば尿を採用することもできる。つまり、尿中の8−OHdG(酸化ストレスマーカー)を検出するときに、尿中に混じった赤血球などの細胞成分を除去する場合に本発明が適用できる。
【0039】
また、流路11の上流側には、蛍光標識抗体BFが乾燥配置されている。蛍光標識抗体BFは、抗体B2が修飾された蛍光標識Fである。本実施形態の場合には、具体的には、この蛍光標識抗体BFは、抗原A(被検物質)と特異的に結合する修飾化抗体B2(修飾化結合物質)と、この修飾化抗体B2(修飾化結合物質)が修飾された蛍光標識F(標識物質)とからなる。これにより、抗体B2が抗原Aと特異的に結合することにより抗原Aおよび蛍光標識抗体BFの複合体が形成される。このように蛍光標識抗体BFを流路11内に乾燥配置することにより、別途抗原Aを標識する作業を行う必要がない。蛍光標識F(標識物質)は特に制限されず蛍光色素、量子ドット等を用いることができる。特に蛍光標識F(標識物質)としては、蛍光検出の感度を稼ぐために、例えばポリスチレン粒子の内部に複数の蛍光色素、量子ドット等が包含された蛍光粒子(標識粒子)を用いることが好ましい。標識粒子の大きさは、後述する定在波の捕捉力が物質の体積に比例することや拡散速度の観点から、0.05μm〜10mm程度が好ましく、0.1μm〜1mmがさらに好ましい。また、本実施形態では、試料を流路11に供給したあとに流路11内で標識を行っているが、抗原Aを標識するタイミングは、特に制限されず、流路11に供給する前に抗原Aと標識とを反応させてもよい。
【0040】
検出部15は、抗原Aを検出するための固定化抗体B1が固定されている金属膜16を含む領域である。検出部15は、1つであっても複数であっても構わない。異なる種類の固定化抗体B1が固定された検出部15が複数ある場合には、複数の抗原を検出することができるため、いわゆる多項目アレイ分析測定が可能となる。固定化抗体B1は、抗原Aに対して特異的に結合する抗体である。このような抗体は、特に制限されるものではなく、検出条件(特に抗原A)に応じて適宜選択することができる。例えば、抗原AがhCG抗原(分子量38000 Da)の場合、この抗原Aと特異的に結合するモノクロナール抗体等を用いることができる。固定化方法としては、金属膜16に対して物理的に吸着させる方法、金属膜16に表面修飾を施すことによってカルボキシル基、アミノ基、チオール基、などの官能基を導入し、そこに静電的にまたは化学結合を介して固定化する方法などが挙げられる。
【0041】
超音波照射部20は、検出部15よりも上流側に設けられ、流路11の長さ方向に垂直な方向(本実施形態では図1A中の紙面内下方)から流路11内の全血試料に対して、流路11内に定在波を生じせしめるように、超音波を照射するものである。これにより、図1中の流路11の上下の壁面間で定在波Uが生じる。超音波照射部20は、例えば超音波振動子である。超音波振動子は、圧電セラミクス、またはフッ化ポリビニルピロリドンのような高分子フィルムのような圧電素子であり、例えばPZT−Pb(Zr・Ti)O3 系 ・ソフト材C−82(商品名、株式会社富士セラミックス)を用いることが好ましい。超音波照射部20は、本実施形態では1つの超音波照射素子(例えば超音波振動子)によって構成されているが、後述するように2以上の超音波照射素子によって構成されてもよい。つまり、本実施形態では、1つの超音波照射素子を用いかつ周波数を変調することにより、時間的に分離された異なる周波数の超音波を照射している。超音波照射部20は、流路11内の液体試料Sに直接接するように流路11の壁面を構成していても良いが、装置を繰り返し使う場合を考慮すると、超音波照射部20は流路基材12を介して流路11に超音波を照射することが好ましい。超音波の周波数は、超音波を照射する方向に沿った流路11の長さに応じて適宜設定できるが、100kHz〜100MHzが好ましく、特に3MHz程度が好ましい。超音波の周波数は、経時的に一定でもよいが、効率的に血球成分(細胞性の非被検物質)を破壊するために、経時的および/または周期的に変調すること、例えば連続的に掃引したり断続的に変化させたりすることが好ましい。
【0042】
超音波制御部21は、流路11内に定在波Uが生じるように、超音波照射部20を制御するものである。超音波制御部21は、電源、超音波用の発振回路、変調回路および出力回路等を有する個別のユニットとすることもできる。また、超音波制御部21は、必要に応じて超音波の波形を自由に加工し得る回路等、付加的な回路を設けることもできる。例えば、超音波制御部21は、マルチファンクションジェネレータWF1974(株式会社エヌエフ回路設計ブロック製)を用いることができる。駆動電圧の波形は正弦波、方形波、三角波、ランプ波など任意の波形を用いることができる。
【0043】
光源22は、例えばレーザ光源等でもよく、特に制限はないが、検出条件に応じて適宜選択することができる。また、光源22は、前述のように、検出チップC1の流路基材12と金属膜16との界面で、測定光Leが全反射すると共に金属膜16で表面プラズモン共鳴する共鳴角で入射するように配置されている。なお、測定光Leは、一般的には表面プラズモンを誘起するようにP偏向で界面に対して入射させることが好ましい。
【0044】
光検出器23は、蛍光標識Fからの蛍光Lfを検出するものである。光検出器23としては、CCD、PD(フォトダイオード)、フォトマルチプライア、c−MOS等を適宜用いることができる。特に検出感度の観点から、冷却CCDを用いることが好ましい。
【0045】
以下、上記検出チップC1を用いた本実施形態の被検物質検出方法によって、被検物質である抗原Aを含む全血試料Sについて、サンドイッチ法によるアッセイを行う手順について図2を参照して詳細に説明する。
Step1:まず、上記検査チップC1の流入口14aから検査対象である試料Sを流入する。
Step2:試料Sを流入した後、超音波照射部20によって流路11の厚み方向に、周波数を周期的に変調しながら超音波を照射して、流路11内に定在波Uを生じせしめる。
Step3:試料Sが毛細管現象で流路11に染み出す。この際、試料Sは定在波Uが生じている領域(定在波領域)を通過するが、この定在波Uの音響放射圧の力学的作用によって血球成分が破壊される一方で、抗原Aは、血球成分に比して小さいので音響放射圧の影響をそれほど受けず、定在波領域をそのまま通過する。反応を早め、検出時間を短縮するために、空気口14bにポンプを接続し、試料Sをポンプの吸引、押し出し操作によって流下させてもよい。
Step4:定在波領域を通過した試料Sと蛍光標識抗体BF(修飾化抗体B2が付与された蛍光粒子F)とが混ぜ合わされ、試料S中の抗原Aが蛍光標識抗体BFと結合しながら、流路11をさらに流下していく。
Step5:試料Sは流路11に沿って空気口14b側へと徐々に流れ、蛍光標識抗体BFと結合した抗原Aが、検出部15上に固定されている固定化抗体B1と結合し、抗原Aが固定化抗体B1と蛍光標識抗体BFで挟み込まれたいわゆるサンドイッチ構造が形成される。
Step6:検出部15に固定されなかった蛍光標識抗体BFの一部が検出部15上に残っている場合があっても、後続の試料Sが洗浄の役割を担い、流路11中に浮遊或いは検出部15上に非特異吸着している蛍光標識抗体BFを洗い流す。検出部15上を通過した試料Sは廃液溜め11bに溜められる。
【0046】
これらの工程の後、検出部15に測定光Leを照射し、蛍光標識Fからの蛍光信号Lfを検出することで、抗原Aを検出することができる。
【0047】
以下、本実施形態において、本発明の効果について詳細に説明する。
前述したように、微小な流路11を備えた検出チップC1を用いて、被検物質および細胞性の非被検物質を含有する液体試料S(例えば全血)の検査を行う被検物質検出方法において、前処理を必要とせず、容易かつ迅速に上記の流路11の目詰まりや免疫反応の阻害を防止できるとともに、検査間で溶血率のばらつきのない検査を可能とするために、本発明では超音波照射部20によって流路11内に定在波を生じせしめることを特徴とする。
【0048】
例えば、流路11の厚みが約314μmである上記検出チップC1の流路11に、超音波照射部20によって2.5MHzと5.0MHzの周波数の超音波を周期的に照射した場合を考える。流路11内は全血試料Sにより満たされているため、流路11内の音速は1570m/sである。この場合、それぞれ図3aおよび図3bのような定在波U1およびU2が生じる。2.5MHzの周波数の超音波に起因して生じせしめられた定在波U1は、図3aに示すように流路壁面上に腹および流路11内に節を1つ有するものとなり、5.0MHzの周波数の超音波に起因して生じせしめられた定在波U2は、図3bに示すように流路壁面上に腹および流路11内に節を2つ有するものとなる。つまり、定在波U1の腹から腹までの距離は314μmであり、定在波U2の腹から腹までの距離は157μmとなる。全血試料Sを流路11の上流から流下させると血球成分はこの定在波領域を通過することになるが、定在波Uの場合には音響放射圧分布が空間的に固定されるため、腹の位置か節の位置かで破壊されやすさの違いはあるが、安定した溶血率を得ることができる。さらに、上記のように周波数を変調して腹の位置と節の位置を周期的に切り替えることにより、ある定在波の節の位置に濃縮させた血球成分を他の定在波の腹の音響放射圧で破壊でき効率的に溶血を行うことができる。これは、定在波の節近傍に位置する物質に節方向に働く捕捉力が働くためである。
【0049】
この捕捉力は、直近の節の方向に働く力であり、その大きさFは、下記式(1)に示すように物質Mの体積Vおよび音波周波数f等に比例する。
式(1):
【数1】

ここで、Fは捕捉力の大きさ、zは定在波U端部からの距離、ρは媒質の密度、cは媒質における音速、Vは物質Mの体積、Pは音圧、fは音波周波数、λは音波の波長を表す。或いは、捕捉力の大きさは、音響放射圧ポテンシャルの勾配に比例するともいえる。したがって、定在波Uの腹の位置に近い物質Mほど捕捉力Fは大きくなり、節の位置ではほとんど働かない。ここで、音響放射圧ポテンシャルとは、定在波音響場中の力学的なポテンシャルを意味する。
【0050】
溶血されなかった血球成分は、免疫反応の阻害、或いは光学的測定における信号光の散乱および検出部への吸収等によって信号ノイズに大きな影響を与えて、検査の信頼性を低下させる。しかしながら、本実施形態のように、例えば周期的に周波数を切り替えながら定在波を生じせしめ、異なる周波数の定在波の節および腹を利用することにより、分布が一定かつ進行波の音響放射圧よりも高い音響放射圧(定在波の腹の振幅は進行波の2倍となる。)によって、従来の進行波を照射する場合よりも、検査間で溶血率が均一となりかつ高い溶血率を実現することが可能となる。
【0051】
以上のように、本発明に係る被検物質検出方法は、微小な流路を備えた検出チップC1を用いた被検物質検出方法において、被検物質を含有する可能性があり細胞性の非被検物質を含有する液体試料を流路に供給し、検出部よりも上流側に設けられた超音波照射部によって、流路の長さ方向に垂直な方向から流路内の液体試料に対して、流路内に定在波を生じせしめるように超音波を照射するものである。したがって、超音波によって物理的に細胞性の非被検物質を破壊することができるため、前処理を必要とせず、容易かつ迅速に流路の目詰まりや免疫反応の阻害を防止することができる。一方、流路内に定在波を生じせしめているから、腹および節の位置が空間的に固定され音響放射圧分布が一定となり、検査間で溶血率のばらつきのない検査が可能となる。この結果、前処理を必要とせず、容易かつ迅速に上記の流路の目詰まりや免疫反応の阻害を防止できるとともに、検査間で溶血率のばらつきのない検査が可能となる。
【0052】
さらに、本発明に係る被検物質検出方法は、通常の進行波よりも高い音響放射圧を有する定在波を利用しているため、細胞性の非被検物質の破壊を進行波によって実施するよりも容易に実施することが可能となる。
【0053】
さらに、本実施形態では周期的に周波数を切り替えながら定在波を生じせしめるというように、超音波照射部によって、流路内に時間的に分離された2つ以上の定在波をそれぞれ生じせしめるように、異なる周波数の2つ以上の超音波を時間的に分離して照射しているから、ある定在波の節の位置に濃縮させた血球成分を他の定在波の腹の音響放射圧で破壊でき効率的に細胞性の非被検物質の破壊を実施することが可能となる。
(第1の実施形態の設計変更)
上記実施形態においては、抗原の標識として蛍光標識を用いたが、標識としてはその他の光応答性標識(例えば、燐光、散乱光などの標識)を用いてもよい。また、放射性同位体を用いた放射免疫測定(RIA)、酵素を用いた酵素免疫測定(EIA)、化学発光酵素免疫測定(CLEIA)などの種々の免疫測定法と組み合わせても良い。
【0054】
また、上記ではサンドイッチ法について説明したが、競合法を用いても構わない。この場合、蛍光標識抗体として、抗原(被検物質)と競合して固定化抗体(固定化結合物質)に特異的に結合する修飾化抗体(修飾化結合物質)と、この修飾化抗体(修飾化結合物質)が修飾された蛍光粒子とからなるものを用いることになる。
【0055】
なお、本発明では、基本的には流路の設計厚みに基づいて超音波の周波数が決定されるが、実際には流路の厚みの設計からのずれや、超音波照射部と流路基材との接着のずれに起因して、共振周波数ずれが生じるので、超音波照射部へ印加する電圧の周波数を掃引して、最も効率的に血球を濃縮、溶血できるように調整する必要がある。
【0056】
「第2の実施形態の被検物質検出方法」
次に、被検物質検出方法の第2の実施形態について説明する。図4は、本実施形態の被検物質検出方法に用いる検出チップC2を示す概略断面図である。なお、本実施形態においても、特異的に結合する対の物質の具体例として抗原および抗体を用いて、被検物質を抗原、この被検物質と特異的に結合する物質を抗体として、蛍光標識を用いたサンドイッチ法によって分析する場合を例として説明する。
【0057】
本実施形態の被検物質検出方法は、超音波照射部として、2つの超音波照射素子20aおよび20bを流路11に沿って設け、これらから異なる周波数の超音波を照射して流路11内に定在波U1およびU2を生じせしめる点で第1の実施形態と異なる。したがって、その他の同様の要素についての詳細な説明は特に必要のない限り省略する。
【0058】
本実施形態の被検物質検出方法は、流路11と、流路11に接続された、流路11に液体試料を流入させるための流入口14aと、流路11に接続された、流入口14aから流入した液体試料を流路11に流入させるための空気口14bとを有する流路基材12、流路11の所定領域に形成された検出部15、および検出部15よりも上流側に乾燥配置された蛍光標識抗体BFを備えた検出チップC2を用い、抗原Aを含有する可能性がある全血試料Sを流路11に流入させ、蛍光標識抗体BFが乾燥配置された領域よりも上流側に設けられた超音波照射部を構成する2つの超音波照射素子20aおよび20bによって、流路11の長さ方向に垂直な方向から流路11内の全血試料Sに対して、流路11内に異なる周波数の定在波U3およびU4をそれぞれ生じせしめるように、異なる周波数の超音波をそれぞれ照射し、これらの定在波U3およびU4の腹の音響放射圧で全血試料S中の血球成分の細胞膜を破壊することで、流路11の目詰まりなく全血試料Sを流路11に流下せしめ、全血試料Sを蛍光標識抗体BFと接触せしめるとともに抗原Aを蛍光標識抗体BFによって標識し、この抗原Aおよび蛍光標識抗体BFの複合体を検出部15上の固定化抗体B1に固定し、測定光Leを照射して検出部15上の上記複合体中の蛍光標識Fからの蛍光信号Lfを光検出器23で検出して、全血試料S中の抗原Aの有無および/または量を検出することを特徴とするものである。
【0059】
本実施形態の超音波照射部は、流路11の長さ方向に沿って設けられた2つの超音波照射素子20aおよび20bから構成される。つまり、本実施形態では、別個の超音波照射素子を用いることにより、空間的に分離された異なる周波数の超音波を照射している。本実施形態においては、周波数を変調しなくてもそれぞれの超音波照射素子から異なる周波数の超音波を生じせしめることはできるが、より効率よく溶血を行う観点から周波数を変調してもよい。
【0060】
図5は、上記検出チップC2と上記超音波照射部を用いて定在波を生じせしめた様子を示す概略図である。図5に示すように、異なる周波数の超音波に起因して生じる定在波を、一方の定在波U4の腹の位置が、他の定在波U3の節の位置に流路11の長さ方向に沿って対応させることにより、上流側の定在波U3の節に濃縮させた血球成分を下流側の定在波U4の腹の音響放射圧で破壊でき効率的に細胞性の非被検物質の破壊を実施することが可能となる。このような場合には、下流側の超音波照射素子に関して、溶血率を上げるために、例えばバイポーラ電源HSA4101(株式会社エヌエフ回路設計ブロック製)を用いて、電圧を増幅してから印加してもよい。
【0061】
本実施形態において、全血試料を流路11の上流から流下させると血球成分はそれぞれの定在波領域を通過することになるが、第1の実施形態と同様に、定在波の場合には音響放射圧分布が空間的に固定されるため、安定した溶血率を得ることができる。さらに、上記のように2つの超音波照射素子20aおよび20bを設け、腹の位置と節の位置を流路11の長さ方向に沿って対応させることにより、上流側の定在波U3の節の位置に濃縮させた血球成分を下流側の定在波U4の腹の音響放射圧で破壊でき効率的に溶血を行うことができる。
【0062】
以上のように、本発明に係る被検物質検出方法は、第1の実施形態と同様に、微小な流路を備えた検出チップを用いた被検物質検出方法において、被検物質を含有する可能性があり細胞性の非被検物質を含有する液体試料を流路に供給し、検出部よりも上流側に設けられた超音波照射部によって、流路の長さ方向に垂直な方向から流路内の液体試料に対して、流路内に定在波を生じせしめるように超音波を照射するものである。したがって、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0063】
さらに、本発明に係る被検物質検出方法は、第1の実施形態と同様に、通常の進行波よりも高い音響放射圧を有する定在波を利用しているため、したがって、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0064】
さらに、本実施形態では2以上の超音波照射素子を用いて定在波を生じせしめるというように、超音波照射部によって、流路内に時間的および/または空間的に分離された2つ以上の定在波をそれぞれ生じせしめるように、異なる周波数の2つ以上の超音波を時間的および/または空間的に分離して照射しているから、ある定在波の節の位置に濃縮させた血球成分を他の定在波の腹の音響放射圧で破壊でき効率的に細胞性の非被検物質の破壊を実施することが可能となる。
【0065】
「第3の実施形態の被検物質検出方法」
次に、被検物質検出方法の第3の実施形態について説明する。図6は、本実施形態の被検物質検出方法に用いる検出チップC3を示す概略断面図である。なお、本実施形態においても、特異的に結合する対の物質の具体例として抗原および抗体を用いて、被検物質を抗原、この被検物質と特異的に結合する物質を抗体として、蛍光標識を用いたサンドイッチ法によって分析する場合を例として説明する。
【0066】
本実施形態の被検物質検出方法は、超音波照射素子20aに対向するように流路の反対側に第1の音響整合層18aおよび第1の反射板17aが配置され、さらに超音波照射素子20bに接するように流路部材13に第2の音響整合層18bが配置されかつこの第2の音響整合層18bに対向するように流路の反対側の蓋部材14に第2の反射板17bが配置された点で第2の実施形態と異なる。したがって、その他の同様の要素についての詳細な説明は特に必要のない限り省略する。
【0067】
本実施形態の被検物質検出方法は、流路11と、流路11に接続された、流路11に液体試料を流入させるための流入口14aと、流路11に接続された、流入口14aから流入した液体試料を流路11に流入させるための空気口14bとを有する流路基材12、流路11の所定領域に形成された検出部15、検出部15よりも上流側に乾燥配置された蛍光標識抗体BF、反射板17aおよび17b、並びに音響整合層18aおよび18bを備えた検出チップC3を用い、抗原Aを含有する可能性がある全血試料Sを流路11に流入させ、蛍光標識抗体BFが乾燥配置された領域よりも上流側に設けられた超音波照射部を構成する2つの超音波照射素子20aおよび20bによって、流路11の長さ方向に垂直な方向から流路11内の全血試料Sに対して、流路11内に異なる周波数の定在波U5およびU6をそれぞれ生じせしめるように、異なる周波数の超音波をそれぞれ照射し、これらの定在波U5およびU6の腹の音響放射圧で全血試料S中の血球成分の細胞膜を破壊することで、流路11の目詰まりなく全血試料Sを流路11に流下せしめ、全血試料Sを蛍光標識抗体BFと接触せしめるとともに抗原Aを蛍光標識抗体BFによって標識し、この抗原Aおよび蛍光標識抗体BFの複合体を検出部15上の固定化抗体B1に固定し、測定光Leを照射して検出部15上の上記複合体中の蛍光標識Fからの蛍光信号Lfを光検出器23で検出して、全血試料S中の抗原Aの有無および/または量を検出することを特徴とするものである。
【0068】
本実施形態の超音波照射部は、第2の実施形態と同様に、流路11の長さ方向に沿って設けられた2つの超音波照射素子20aおよび20bから構成される。つまり、本実施形態では、別個の超音波照射素子を用いることにより、空間的に分離された異なる周波数の超音波を照射している。
【0069】
本実施形態の検出チップC3は、超音波照射素子20aと接触する流路基材12の部分に対向するように流路を挟んだ反対側の流路基材12の部分に、第1の音響整合層18aおよび第1の反射板17aを備え、さらに、超音波照射素子20bと接触する流路基材12の部分に埋め込まれた第2の音響整合層18b、およびこの第2の音響整合層18bに対向するように流路を挟んだ反対側に設けられた第2の反射板17bを備えている。より具体的には、第1の音響整合層18aは、超音波照射素子20aが接触する流路部材13の部分に対向するように流路を挟んだ反対側の蓋部材14の部分に埋め込まれるように形成されており、第1の反射板17aは、この第1の音響整合層18aの流路と反対側の面に接するように形成されている。また、第2の音響整合層18bは、超音波照射素子20bが接触する流路部材13の部分に埋め込まれるように形成されており、第2の反射板17bは、この第2の音響整合層18bに対向するように流路を挟んだ反対側の蓋部材14の部分に埋め込まれるように形成されている。反射板17aおよび17bについての詳細は第1の実施形態と同様である。
【0070】
音響整合層18aおよび18bは、流路11に供給された液体試料Sとの音響インピーダンス(Z:Z=c(物質中の音速)×ρ(物質の密度))の整合を取る役割(音響整合機能)を担うための層であるため、供給される液体試料Sと同等の音響インピーダンスを有する材料からなる層である。音響整合層18aおよび18bの材料としては特に限定されないが、一般的に生体物質の分析を行う場合の液体試料Sは水(Z=1.48×10 N・s・m−3(室温))を溶媒とするため、ポリマー等の誘電体材料が挙げられ、軟質のポリエチレン(Z=1.75×10 N・s・m−3(室温))やゴム材料が好ましく、PDMS(Polydimethylsiloxane)等のシリコーンゴム、天然ゴム(Z=1.50×10 N・s・m−3(室温))、スチレン−ブタジエン−ゴム(Z=1.76×10 N・s・m−3(室温))がより好ましく、特に形状の加工性や厚みの制御性の容易さの観点からPDMS(Z=1.06×10 N・s・m−3(室温))が好ましい。音響整合層を設けた場合、周波数を調整することにより、定在波の節が音響整合層と流路(もしくは液体試料)との界面(整合界面)に位置することが可能となる。音響整合層18aおよび18bは、図6に示すように流路基材12の内壁の一部となるように埋め込まれるように形成されてもよいし、流路基材12の内壁面上に形成されてもよい。
【0071】
本実施形態では上記のような音響整合層18aおよび18bを設けているから、図7に示すように、定在波の節が整合界面上に位置することができる。したがって、上流側の超音波照射素子20aで形成した定在波U5の整合界面上の節と、下流側の超音波照射素子20bで形成した定在波U6の整合界面上の腹が、流路の長さ方向に沿って対応するため、上流側の定在波U5の節の位置に濃縮させた血球成分を下流側の定在波U6の腹の音響放射圧で破壊でき効率的に溶血を行うことができる。
【0072】
また、本実施形態では、下流側の超音波照射素子20bで形成した定在波領域の流路壁面上であって流路長さ方向に沿って検出部15に対応する位置(検出部15と同一の流線上の壁面)に第2の音響整合層18bを設けているから、検出部15近傍へ続く流線上に、前述の捕捉力によって抗原を捕捉した蛍光標識抗体BFを濃縮させることができるため、感度の高い検出を行うことができる。
【0073】
以上のように、本発明に係る被検物質検出方法は、第1の実施形態と同様に、微小な流路を備えた検出チップを用いた被検物質検出方法において、被検物質を含有する可能性があり細胞性の非被検物質を含有する液体試料を流路に供給し、検出部よりも上流側に設けられた超音波照射部によって、流路の長さ方向に垂直な方向から流路内の液体試料に対して、流路内に定在波を生じせしめるように超音波を照射するものである。したがって、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0074】
さらに、本発明に係る被検物質検出方法は、第1の実施形態と同様に、通常の進行波よりも高い音響放射圧を有する定在波を利用しているため、したがって、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0075】
さらに、本実施形態では、2以上の超音波照射素子を用いて定在波を生じせしめるというように、超音波照射部によって、流路内に時間的および/または空間的に分離された2つ以上の定在波をそれぞれ生じせしめるように、異なる周波数の2つ以上の超音波を時間的および/または空間的に分離して照射しているから、第2の実施形態と同様の効果を奏する。
【0076】
さらに、本実施形態では、流路長さ方向に沿って検出部に対応するように、定在波が生じうる領域の流路の壁面に音響整合層を設けているから、検出部近傍へ続く流線上に被検物質を濃縮させることができるため、感度の高い検出を行うことができる。
【0077】
<第3の実施形態の設計変更>
上記の第3の実施形態では、異なる周波数の2つ以上の超音波を時間的および/または空間的に分離して照射するように、2つの超音波照射素子を駆動させた場合について説明したが、必ずしもこの実施形態に限られず、本実施形態の検査チップの構成では、常に同一の周波数を照射するようにしてもよい。例えば、音響整合層18aおよび18bの厚みが等しい場合には、定在波U5およびU6は、図8に示すように上下反転した形状となり、同一の周波数を照射しても、1つの超音波に起因して生じせしめられた定在波の腹の位置が、他の超音波に起因して生じせしめられた定在波の節の位置に、流路の長さ方向に沿って対応するためである。
【符号の説明】
【0078】
1 検出装置
11 流路
12 流路基材
13 流路部材
14 蓋部材
14a 流入口
14b 空気口
15 検出部
16 金属膜
17、17a、17b 反射板
18a、18b 音響整合層
20 超音波照射部
21 超音波制御部
22 光源
23 光検出器
A 被検物質
C1、C2、C3 検査チップ
Le 測定光
Lf 蛍光信号
S 液体試料
U、U1〜6 定在波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路と、該流路に接続された、前記流路に液体試料を流入させるための流入口と、前記流路に接続された、前記流入口から流入した液体試料を前記流路に流入させるための空気口とを有する流路基材、および、前記流路の所定領域に形成された検出部を備えた検出チップを用い、
被検物質を含有する可能性があり細胞性の非被検物質を含有する液体試料を前記流路に流入させ、
前記検出部よりも上流側に設けられた超音波照射部によって、前記流路の長さ方向に垂直な方向から該流路内の前記液体試料に対して、該流路内に定在波を生じせしめるように超音波を照射し、
前記被検物質を、前記検出部に固定された、前記被検物質と特異的に結合する固定化結合物質で検出することを特徴とする被検物質検出方法。
【請求項2】
前記超音波照射部によって、前記流路内に時間的および/または空間的に分離された2つ以上の定在波をそれぞれ生じせしめるように、異なる周波数の2つ以上の超音波を時間的および/または空間的に分離して照射することを特徴とする請求項1に記載の被検物質検出方法。
【請求項3】
1つの超音波照射素子のみからなる前記超音波照射部を用い、
前記超音波照射素子によって、周波数を時間的に変調しながら超音波を照射することにより、前記異なる周波数の2つ以上の超音波を時間的に分離して照射することを特徴とする請求項2に記載の被検物質検出方法。
【請求項4】
前記異なる周波数の2つ以上の超音波のうち1つの前記超音波に起因して生じせしめられた定在波の腹の位置が、他の前記超音波に起因して生じせしめられた定在波の節の位置となるように、前記周波数を変調することを特徴とする請求項3に記載の被検物質検出方法。
【請求項5】
前記流路の長さ方向に沿って設けられた2つ以上の超音波照射素子からなる前記超音波照射部を用い、
前記2つ以上の超音波素子によって、それぞれ異なる周波数の超音波を照射することにより前記異なる周波数の2つ以上の超音波を空間的に分離して照射することを特徴とする請求項2に記載の被検物質検出方法。
【請求項6】
前記異なる周波数の2つ以上の超音波のうち1つの前記超音波に起因して生じせしめられた定在波の腹の位置が、他の前記超音波に起因して生じせしめられた定在波の節の位置に、前記流路の長さ方向に沿って対応するように、前記周波数を異ならせることを特徴とする請求項5に記載の被検物質検出方法。
【請求項7】
前記異なる周波数の2つ以上の超音波のうち少なくとも1つの超音波の周波数を変調することを特徴とする請求項5または6に記載の被検物質検出方法。
【請求項8】
前記検出チップとして、前記定在波が生じうる領域の前記流路の壁面に音響整合層が設けられた検出チップを用いることを特徴とする請求項1から7いずれかに記載の被検物質検出方法。
【請求項9】
流路と、該流路に接続された、前記流路に液体試料を流入させるための流入口と、前記流路に接続された、前記流入口から流入した液体試料を前記流路に流入させるための空気口とを有する流路基材、および、前記流路の所定領域に形成された検出部を備えた検出チップと、
前記検出部よりも上流側に設けられた、前記流路の長さ方向に垂直な方向から該流路内の前記液体試料に対して超音波を照射する超音波照射部と、
前記流路内に定在波を生じせしめるように前記超音波照射部を制御する超音波制御部とを備えることを特徴とする被検物質検出装置。
【請求項10】
前記超音波照射部が、1つの超音波照射素子のみからなるものであり、
前記超音波制御部が、周波数を時間的に変調することにより、前記異なる周波数の2つ以上の超音波を時間的に分離して照射するように、前記超音波照射素子を制御するものであることを特徴とする請求項9に記載の被検物質検出装置。
【請求項11】
前記超音波照射部が、前記流路の長さ方向に沿って設けられた2つ以上の超音波照射素子からなるものであり、
前記超音波制御部が、それぞれ異なる周波数の超音波を照射することにより、前記異なる周波数の2つ以上の超音波を空間的に分離して照射するように、前記超音波照射素子を制御するものであることを特徴とする請求項9に記載の被検物質検出装置。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−214999(P2011−214999A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83358(P2010−83358)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】