説明

被水検出素子及び被水検出センサ

【課題】本発明は、使用環境等の変化に応じて被測定ガス中の水滴を検出可能な、水滴検出素子とこれを用いた水滴検出センサ及び水滴検出方法を提供する。
【解決手段】被測定ガス中に載置され、少なくとも、特定のイオンに対して伝導性を有する固体電解質材料からなる固体電解質体100と、固体電解質体100の対向する表面に設けた一対の電極110、120とを具備し、該一対の電極間のインピーダンス変化を測定して被測定ガスに含まれる水滴の付着を検出する被水検出素子であって、通電により発熱し、固体電解質体100の一対の電極110、120が形成された部分を加熱する発熱体150を有すると共に、高い電気絶縁性と高い熱伝導性とを有する絶縁性セラミック材料からなる緻密な絶縁体130によって、一対の電極110、120の内、少なくとも、被測定ガスに対向する側の電極110の表面を覆い、該電極110と被測定ガスとの接触を回避せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定ガス中に載置され、被測定ガス中に含まれる水滴を検出する被水検出素子及び被水検出センサに関する。
【背景技術】
【0002】
酸素イオンに対して伝導性を有するイットリア添加ジルコニアや、プロトンに対して伝導性を有する酸化ストロンチウム添加セリア等の特定イオンに対して伝導性を有する固体電解質材料を略平板状、又は、有底筒状に形成した固体電解質体と、その固体電解質体の対向する表面に設けた一対の電極とを具備し、一方を被測定ガスに対向せしめて測定電極とし、他方を基準ガスとして大気に対向せしめて基準電極として、被測定ガス中に含まれる特定ガス成分の濃度と基準ガス中に含まれる特定ガス成分の濃度との差によって生じる両電極間の起電力や、両電極間に電圧を印加したときに流れる電流等を検出して被測定ガス中の特定ガス成分の濃度を検出するガスセンサ素子を具備するガスセンサが広く用いられ、例えば、自動車エンジンの燃焼排気を被測定ガスとして、被測定ガス中の酸素濃度を検出して、空燃比制御に利用したり、NOxや煤等の排気エミッションの低減等に利用したりしている。
このようなガスセンサでは、通電により発熱する発熱体を具備し、固体電解質体を加熱することにより特定のイオンに対して活性化を発揮させている。
【0003】
ところが、内燃機関の燃焼排気を被測定ガスとした場合等においては、被測定ガス中に水分が存在しており、低温始動時等において、その水分が凝縮して水滴となったり、氷となったりして、発熱体によって高温に加熱されたガスセンサ素子に付着すると、その温度差が大きいため、ガスセンサ素子に大きな熱ストレスがかかり、ガスセンサ素子に亀裂を生じたり、破壊に至ったりする、いわゆる被水割れを起こす虞がある。
このため、このようなガスセンサ素子の被水割れを防止する手段について種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、被測定ガス中の特定ガス成分の濃度を検出する濃度検出素子の被測定ガスに晒される部分を包囲する有底円筒状のカバー体を同心円状に配した二重筒構造とし、カバー体の所定の位置に特定の方向に向かって開口する開口部を設けて、カバー体内に導入される被測定ガスの流れを制御して、濃度検出素子が被水しないようにすることによって、ガスセンサ素子の被水割れの防止を図る技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ガスセンサ素子の被測定ガスに晒される表面に、水との接触角が異なる親水性耐熱粒子層と疎水性耐熱粒子層とからなる多孔質保護層を設けて、水滴が素子に付着した場合に、速やかに多孔質保護層内を拡散させて被水時の熱ストレスを発散させたりして、ガスセンサ素子が被水したときでも、被水割れが起こり難くなるようにしている。
【0006】
特許文献3には、基板上に電気抵抗を計測するための抵抗検出構造体と温度測定手段とを設けて、被測定ガス中の湿度を測定する湿度検出装置が開示されており、特許文献3の湿度検出装置では、抵抗検出構造体として設けた電極対を覆う煤層の粒界に水が含浸して抵抗値が低下することとを利用して被測定ガス中の湿度を検出する手段が開示されている。
【0007】
特許文献4には、ガスセンサ素子の表面に被水確認用粉末を付着させ、被測定ガスの流通路に配置し、ガスセンサ素子の表面おいて被水確認用粉末が除去された部分を観察することにより被水の仕方を確認する被水確認試験方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献3にあるような従来の湿度センサでは、被測定ガス中に含まれる煤が抵抗検出構造体に堆積して変化する抵抗値と、被水によって変化する抵抗値とが重畳的に検出されるため、センサ出力結果の変化が、被測定ガス中の煤量の変化によるものなのか、被水によるものなのかを明確に区別して検出するのが困難となる虞がある。
また、被測定ガス中に含まれる被毒成分の堆積や被水によって煤層や電極対等の抵抗検出構造体の劣化を招き、検出結果が不安定となる虞もある。
一方、特許文献4にあるように、被水検出のための粉末を塗布して被水を検出する方法は、比較的安価に行うことができるが、測定の度に検出素子を取り出し、被水の有無を確認し、被水検出用粉末を毎回付着させる必要があり、手間がかかる。
さらに、このような方法は、カバー体の被水保護性能についての評価試験や、多孔質保護層の撥水性能についての評価試験等を行う際には、簡単に被水位置を確認でき、それなりの効果が期待できるものの、内燃機関の燃焼排気流路にセンサを載置したまま、刻々と変化する被測定ガス中に含まれる水滴が付着した瞬間に検出したり、OBD(オンボードダイアグノーシス)に利用したりすることはできない。
【0009】
そこで、本発明は、かかる実情に鑑み、使用する環境や運転条件等の使用状況に応じて、温度や流速等が刻々と変化する被測定ガス中に存在する虞のある水滴を、その場で同時に、精度良く、しかも定量的に検出することが可能な、水滴検出素子とこれを用いた水滴検出センサ及び水滴検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明では、被測定ガス中に載置され、少なくとも、特定のイオンに対して伝導性を有する固体電解質材料からなる固体電解質体と、該固体電解質体の対向する表面に設けた所定の面積を有する一対の電極とを具備し、該一対の電極間のインピーダンス変化を測定して被測定ガスに含まれる水滴の付着を検出する被水検出素子であって、通電により発熱し、上記固体電解質体の上記一対の電極が形成された部分を加熱する発熱体を有すると共に、高い電気絶縁性と高い熱伝導性とを有する絶縁性セラミック材料からなる緻密な絶縁体によって、上記一対の電極の内、少なくとも、被測定ガスに対向する側の電極の表面を覆い、該電極と被測定ガスとの接触を排除せしめたことを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明では、上記固体電解質体を略平板状に形成し、該固体電解質体の被測定ガス中に載置される部分の表面に該固体電解質体の外周縁から所定の絶縁距離だけ内側に引き込ませて所定の面積を確保した上記一対の電極の一方を形成し、上記固体電解質体の対向する表面に上記一方の電極と略等しい面積を確保した他方の電極を形成し、上記一方の電極が形成された側の上記固体電解質体の表面を上記絶縁性セラミック材料からなり略平板状に形成した上記絶縁体で覆うと共に、上記他方の電極が形成された側に積層して、略平板状に形成した絶縁体の内部に埋設した上記発熱体を配設せしめる。
【0012】
請求項3の発明では、上記固体電解質体を略筒状に形成し、該固体電解質体の外周表面に上記一対の電極の一方を形成し、上記固体電解質体の内周表面に他方の電極を形成し、上記固体電解質体の内側に略軸状に形成した絶縁体の内部に埋設した上記発熱体を配設し、上記固体電解質体の外周表面に形成した電極の外表面を全面的に覆うように上記絶縁体を配設する。
【0013】
請求項4の発明では、被測定ガス中に含まれる水滴が検出素子に付着したか否かを検出する被水検出センサであって、検出請求項1ないし3のいずれかに記載の被水検出素子と、上記発熱体への通電を制御する発熱体通電制御装置と、上記一対の電極間に交流を印加する交流電源と、上記一対の電極間に形成されるインピーダンスの変化を計測するインピーダンス計測手段と、該インピーダンス計測手段の出力と所定の閾値と比較して被水の有無を判定する被水判定手段とを具備する。
【0014】
より具体的には、請求項5の発明のように、上記被水判定手段が、上記発熱体への通電により上記被水検出素子を所定の温度に維持した状態で上記一対の電極間に、所定の周波数の交流電流を印加したときに検出される単位時間当たりのインピーダンス変化量が所定の変化量閾値を超え、かつ、最大値に達した後、所定のインピーダンス閾値より小さくなる迄の時間が所定の復帰時間閾値より短い場合に、被水と判定する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、上記被水検出素子の被測定ガス中に晒される部分に被測定ガス中に含まれる水分が水滴となって付着したときに検出される素子のインピーダンス変化と被測定ガスの温度変化や流速変化によって検出される素子のインピーダンス変化との違いによって被水の有無を検出する際に、上記一対の電極の内、被測定ガスに対向する側に設けられた電極と被測定ガスとの接触が上記絶縁体によって遮断されているので、被測定ガス中の成分によって電極が腐食したり、電気化学的な反応を起こして劣化したりする虞がなく、安定した出力を維持できる。
加えて、被水した瞬間に被水量に応じたインピーダンス変化を定量的に検出できる。
したがって、被測定ガス中の特定成分を有するガスセンサの被水割れを回避するための温度制御方法や、カバー体の構造などについて定量的な評価を極めて簡単に行うことができ、耐被水性を向上したガスセンサの開発に役立てることができる。
さらに、電気信号によって、被水の有無をその場で検出できるので、検出結果をガスセンサや温度センサ等、他のセンサの制御にフィードバックすることができ、検出精度の向上を図ったり、被水し易い状況下で、他のセンサへの通電を停止し、被水割れの回避を図ったりすることも可能となる。
【0016】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果に加え、上記一対の電極と上記発熱体との全てが、被測定ガスの接触から免れるため、被測定ガス中に含まれる成分との電気化学的な反応や熱化学的な反応を起こす虞がなく、極めて耐久性に優れた被水検出素子が実現できる。
さらに、本発明の被水検出素子は、少なくとも。略平板状に形成した固体電解質体の両面に一対の検出電極を設けた検出部と、発熱体を含むヒータ部とを積層した、いわゆる積層型ガスセンサ素子の被水モデルとして利用でき、より耐被水性に優れた積層型ガスセンサ素子の開発を図ることができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、請求項1の発明の効果に加え、上記一対の電極と上記発熱体との全てが、被測定ガスの接触から免れるため、被測定ガス中に含まれる成分との電気化学的な反応や熱化学的な反応を起こす虞がなく、極めて耐久性に優れた被水検出素子が実現できる。
さらに、本発明の被水検出素子は、固体電解質体を略底筒状に形成し、その内周面と外周面とに互いに対向する一対の電極を設けた、いわゆるコップ型ガスセンサ素子の被水モデルとして利用でき、より耐被水性に優れたコップ型ガスセンサ素子の開発を図ることができる。
【0018】
請求項4、及び5の発明によれば、耐久性に優れ、しかも、被水と同時に被水の有無を定量的に検出可能で、その出力結果を電気信号として取り出し利用することが可能な優れた被水検出センサを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態における被水検出素子の概要を示し、(a)は、展開斜視図、(b)は、要部断面図及びセンサ全体の構成図。
【図2】図1に示した被水検出素子を有する被水検出センサの概要を示し、(a)は、縦断面図、(b)は、要部拡大断面図。
【図3】本発明の被水検出素子の効果を説明するための図であって、(a)は、検出素子の温度条件を示し、(b)は、そのときに検出されるインピーダンス応答を示し、(c)は、本発明の被水検出素子のインピーダンス特性の一例を示し、(d)は、本発明の被水検出素子の等価回路図。
【図4】(a)は、被水検出時の出力特性図、(b)は、被水と同程度のインピーダンス変動が起こるように被測定ガスを吹きかけたときの出力特性図。
【図5】本発明の被水検出条件の最適化のために行った試験結果を示し、(a)は、600℃における被水検出特性、(b)は、650℃における被水検出特性、(c)は、730℃における被水検出特性、(d)は、800℃における被水検出特性、(e)は、850℃における被水検出特性。
【図6】本発明の被水検出素子に適用し得る制御方法を示し、(a)は、インピーダンス閾値の設定方法を示すフローチャート、(b)は、被水判定方法を示すフローチャート。
【図7】本発明の第1の実施形態における被水検出素子の変形例を示し、(a)は、展開斜視図、(b)は、要部断面図、(c)は、全体斜視図。
【図8】本発明の第2の実施形態における被水検出素子を示し、(a)は、展開斜視図、(b)は、要部断面図、(c)は、全体斜視図。
【図9】本発明の第2の実施形態における被水検出素子変形例を用いた被水検出センサの概要を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1、図2を参照して本発明の第1の被水検出素子10及びこれを有する被水検出センサ1の概要について説明する。なお、以下の説明において、素子の長手方向に対して被測定ガス晒される側を先端側、後述する検出回路部20及び発熱体通電制御部30に接続される側を基端側と称する。
本発明の被水検出素子10は、例えば、内燃機関の燃焼排気を被測定ガスとして、被測定ガス中に含まれる水分が凝縮し、ガスセンサや温度センサ等に付着して、熱衝撃によりセンサの破損を引き起こす、いわゆる被水割れの防止を図るべく、被水割れを引き起こす被測定ガス中の水滴の存在をインピーダンス ZACの測定によって検出するものである。
本発明の被水検出素子10によってオンタイムで、しかも定量的に水滴の検出が可能となり、被水割れを引き起こす蓋然性の高い時期に、ガスセンサ等への通電を停止して被水割れの防止を図ったり、より耐被水性の高いガスセンサ素子の保護層やカバー体の開発を図るべく、被水の起こり易い条件を特定したりすることが可能となる。
【0021】
本実施形態における被水検出素子10は、いわゆる積層型ガスセンサの被水モデルとしても利用可能な形状に形成されており、図1(a)に示すように、固体電解質体100を所定の膜厚dを有する略平板状に形成し、固体電解質体100の被測定ガス中に載置される部分の表面に固体電解質体100の外周縁から所定の絶縁距離Wだけ内側に引き込ませて所定の面積Sを確保した一対の被水検出電極110、120の一方の被水検出電極110を形成し、固体電解質体100の対向する表面に一方の被水検出電極110と等しい面積Sを確保した他方の被水検出電極120を形成し、一方の被水検出電極110が形成された側の固体電解質体100の表面を絶縁性セラミック材料からなり略平板状に形成した絶縁体130で覆うと共に、他方の電極120が形成された側に積層して、略平板状に形成した絶縁体140、160の内部に埋設した発熱体150を配設せしめてある。
さらに、一対の被水検出電極110、120には、それぞれ、被水検出電極リード部111、121が接続され、被水検出電極リード部111、121には、それぞれ、被水検出電極端子部112、123が接続され、さらに、一対の接続金具113、124及び一対の信号線114、125を介して外部に設けた検出回路20と接続されている。
なお、被水検出電極リード部121と被水検出電極端子部123とは、固体電解質体100に穿設したスルーホール101内を設けたビア導体122を介して接続されている。
検出回路20は、図1(b)に示すように、ガスセンサ素子10の被水検出電極110、120間に交流を印加する交流電源200と、被水検出電極110、120間のインピーダンスZACを計測するインピーダンス計測手段201と、インピーダンス計測手段201の検出結果から、被水の有無を判定する被水判定手段202とによって構成されている。具体的な被水検出方法については後述する。
【0022】
発熱体150は、一対の発熱体リード部151、152、及び、一対の発熱体端子部153、154が接続され、さらに、外部に設けた発熱体通電制御装置30と、発熱体通電端子金具155、156発熱体通電線157、158を介して接続されている。
発熱体通電制御装置30は、図1(b)に示すように、直流電源300と、発熱体150への通電を開閉する開閉素子301と、開閉素子301を開閉制御するドライバ302とによって構成されている。
開閉素子301には、パワーMOSFET、IGBT、サイリスタ等の半導体素子を用いることができる。
【0023】
ドライバ302は、発熱体150を一定温度に保持すべく、例えば、PWM制御やPFM制御等によって開閉素子301を開閉駆動する。
発熱体150は、発熱体通電制御装置30からの通電により一定温度に発熱し、被水検出素子10を一定温度に維持し、検出条件を安定化することができる。
また、本発明の被水検出素子10は、熱伝導率が高く緻密な絶縁体130、160によって覆われた素子表面に水滴が付着したときの吸熱による急激なインピーダンス変化を検出して被水の有無を検出するものであるため、基本的に素子表面に被測定ガス中に含まれる煤等の可燃性物質が堆積しても検出結果に与える影響が少ない。
しかし、長期の使用によって堆積量が増えると、絶縁体130、160の熱伝導率の均一性が損なわれ、検出結果への影響が無視できなくなる虞がある。 そこで、発熱体150の温度を高くして、被水検出素子10の表面に堆積した煤等の被測定ガス中に存在する可燃物質を加熱燃焼除去することによって、被水検出素子10の信頼性を長期に亘って維持することもできる。
【0024】
固体電解質体100は、イットリアを添加して部分安定化ジルコニアを用いて、ドクターブレード法等の公知の方法により、一定の膜厚dを有する略平板状に形成されている。
被水検出電極110、120は、Pt等の公知の電極材料が用いられ、固体電解質体100の両面に厚膜印刷等の公知の方法によって形成されている。
このとき、被水検出電極110、120は、被水検出範囲をできるだけ広くするため、固体電解質体100の被測定ガス中に載置される部分のできるだけ広い範囲を覆いつつ、固体電解質体100の外周縁から一定の絶縁距離Wを確保するように、固体電解質体100の幅よりも一回り狭く形成されている。
被水検出電極110、120の面積をS、固体電解質体100の膜厚をd、誘電率をεとしたとき、被水検出電極110、120間に形成される静電容量Cは、ε・S/dとなる。
なお、本実施形態においては、酸素センサ等のいわゆる積層型ガスセンサの被水モデルとして用いることを前提に、被水検出電極110、120を固体電解質材料からなる固体電解質体100に形成して被水検出素子を形成した例を示したが、数百〜1000℃程度の高温環境下での使用に対して耐久性があり、しかも、僅かな温度変化で、電気信号として計測可能なレベルのインピーダンス変化を起こす材料であれば、固体電解質材料に限らず、誘電材料や絶縁材料を適宜用いることができる。
【0025】
一方の被水検出電極110は、略平板状の絶縁体130によって覆われ、被測定ガスとの接触が完全に遮断されている。
他方の被水検出電極120は、略平板状の絶縁体140によって覆われ、発熱体150との電気絶縁が確保されている上に、被測定ガスとの接触が完全に遮断されている。
発熱体150は、略平板状の絶縁体140と絶縁体160とによって覆われ、被測定ガスとの接触が完全に遮断されている。
絶縁体130、140、150には、アルミナ等の熱伝導性が高く、電気絶縁性に優れた公知の絶縁性セラミック材料が用いられ、ドクターブレード法等の公知の方法により略平板状に形成されている。
【0026】
発熱体150は、白金、金、酸化ルテニウム、珪化モリブデン、タングステン等の公知の抵抗材料を用いられて、厚膜印刷等の公知の方法により、被水検出電極110、120を全面的に加熱するように広い範囲に亘ってパターン形成されている。
被水検出電極リード部111、121、発熱体リード部151、152は、白金等の公知の導電性材料を用いて、厚膜印刷等の公知の方法により形成されている。
ビア導体122は、白金等の公知の導電性材料を用いて、スルーホール印刷等の公知の方法により形成されている。
検出電極端子部112、123、発熱体端子部153、154は、白金等の公知の導体ペーストを用いて、厚膜印刷等の公知の方法により形成されている。
各電極端子部には、耐久性向上のために、導体ペーストに少量のアルミナやジルコニアを含有させて密着強度や耐摩耗性を向上させたものを用いても良い。
【0027】
本実施形態における被水検出素子10は、被測定ガス中に載置され、少なくとも、例えば、酸素イオン等の特定のイオンに対して伝導性を有する、イットリア添加により部分安定化したジルコニア等の公知の固体電解質材料からなる固体電解質体100と、一定の膜厚dを有する固体電解質体100の対向する表面に設けた所定の面積Sを有する一対の電極110、120とを具備し、その電極間のインピーダンスZACの変化を測定して被測定ガスに含まれる水滴の付着を検出する被水検出素子であって、通電により発熱し、固体電解質体100の一対の電極110、120が形成された部分を加熱する発熱体150を有すると共に、高い電気絶縁性と高い熱伝導性とを有する絶縁性セラミック材料からなる緻密な絶縁体130によって、一対の電極110、120の内、少なくとも、被測定ガスに対向する側の電極110の表面を覆い、電極110と被測定ガスとの接触を回避せしめている。
【0028】
本実施形態において被水検出センサ1は、被水検出素子10と、被水検出素子10をアルミナ等の絶縁性材料からなるインシュレータ40を介して、被水検出素子10の先端側を被測定ガス800中に保持、固定するハウジング50と、ハウジング50の先端側に設けられ、被水検出素子10の先端側を保護する略有底筒状のカバー体60、61と、ハウジング50の基端側に設けられ、内側に被水検出素子10に接続する一対の信号線114、125と、一対の信号端子金具113、124と、一対の通電線157、158と、一対の発熱体通電端子金具155、156とをアルミナ等の電気絶縁性セラミックス材料を略筒状に形成したインシュレータ41を介して保持すると共に、封止部材43によって基端側を気密に封止する略筒状のケーシング70と、信号線114、125に接続して設けられる検出回路20と、発熱体通電線157、158に接続して設けられる発熱体通電制御装置30とによって構成されている。
【0029】
被水検出素子10は、インシュレータ40の貫通孔401内に挿通保持され、セラミックセメント、耐熱ガラス、又は、耐熱性接着剤等の封止部材420によって固定され、略筒状のハウジング50内に保持収容され、先端側の検出部が被測定ガスに晒される位置に配設されるようになっている。
インシュレータ40の外周には、テーパ状に縮径する径変部402が形成されており、略筒状に形成したハウジング50の内径の一部が縮径する係止部505に例えば、メタルシール等の封止部材421を介して係止保持されている。
【0030】
ハウジング50の先端側には、ガスセンサ素子10の先端側の被測定ガスに晒される部分を覆い、ガスセンサ素子10を保護する有底筒状のカバー体60、61が配設され、カバー体60、61の基端側に設けたフランジ部604、614を加締め部503によって加締め固定している。
ハウジング50の先端側外周には、ネジ部502が形成され、被測定ガス流路80に螺結され、被水検出素子10の先端側が被測定ガス800に晒されるよう保持固定している。
【0031】
カバー体60、61は、有底筒状に形成され、被水検出素子10と同心に配設された二重筒構造となっており、それぞれの側面600、610及び底面602、612に穿設された複数の開孔601、603、611、613によって、被測定ガスの流速を制御しつつ、被水検出素子10の先端に導入、導出している。
カバー体60、61は、被測定ガスの導入を許容しつつ、被測定ガス流路80内に侵入した異物の衝突から被水検出素子10を保護している。
【0032】
ケーシング70は、ステンレスなどの金属材料からなり、略筒状に形成され、ハウジング50の基端側に設けたボス部506に挿入固定され、ハウジングの基端側を覆っている。
ケーシング70の内側には、被水検出素子10の基端側に引き出した一対の検出電極端子部112、123、及び、発熱体端子部153、154に接続する接続端子金具113、124、155、156と、これらを介して接続され、外部に出力を伝達する一対の信号線114、125及び、外部から発熱体150に通電するための一対の通電線157、158と、これらを絶縁保持するインシュレータ41とが収容・保持されている。
ケージング70の基端側は、信号線114、125、及び、通電線157、158が外部に引き出されると共に、耐熱性ゴム、シリコン等の弾性部材からなる封止部材43を用いて気密に封止されている。
【0033】
本発明の被水検出素子10を用いた被水検出センサ1では、酸素センサ等のガスセンサとことなり、センサ内に基準ガスとして大気を導入する必要がないので、ケーシング70には、大気を導入するための大気導入孔を設けたり、大気導入孔から水滴の侵入を阻止するための撥水フィルタ等を設ける必要がなく、完全に気密状態で基端側を封止することができる。
但し、周囲環境の温度変化や、被水検出素子10に設けた発熱体150の発熱等によりケーシング70の内側に存在する空気の膨張、収縮による体積変化を吸収するために、ケーシング70に、極小さい貫通孔を設けたり、弾性的に伸縮可能な伸縮部を設けたりしても良い。
【0034】
図2(a)、(b)に示すように、被水検出素子10の被測定ガスに晒される部分の広い範囲に亘って被水検出電極110、120及び発熱体150が形成されている。
このため、本図(a)に一点鎖線で囲んだ被水検出素子10の先端側の広い範囲を検出部として利用でき、検出部のいずれの場所に被水したときでも、インピーダンス変化によって速やかに被水の有無を検出できる。
また、検出されるインピーダンス変化から、被水量を定量的に検出することも可能となる。
なお、本発明の被水検出素子10を用いる限りにおいて、インシュレータ40、41、ハウジング50、ケーシング70、カバー体60、61等を上記実施形態に限定するものではなく、公知の形態を適宜採用し得るものである。
【0035】
図3、図4を参照して、本発明の被水検出素子10の作動原理について説明する。
発熱体150への通電を制御して、被水検出素子10の温度を、図3(a)に示すように、例えば、450℃〜950℃の範囲で変化させ、被水検出素子10に、交流電源200から所定の周波数の交流電流を印加したときに検出回路20で検出されるインピーダンスZACは、図3(b)に示すように、検出素子10の温度が高いほどインピーダンスZACは低く、検出素子10の温度が低いほどインピーダンスZACは高くなっている。
【0036】
本実施形態における被水検出素子10のインピーダンスZACの温度特性は、図3(c)に示すように、指数関数的に変化する。
本発明の被水検出素子10を等価回路で示すと、図3(d)に示すように、検出電極リード部111、121、ビア導体122、検出電極端子部112、123、接続端子金具113、124、信号線114、124の配線抵抗Rと、それらの寄生インダクタンスLと、被水検出電極110、120、固体電解質体100によって構成される検出部のキャパシタンスCとが直列に接続されたものとみなすことができ、これらの合成インピーダンス|ZAC|は、√{(R^2+(ωL−1/ωC)^2}で表すことができる。
このとき、配線抵抗Rは、温度が高いほど低く、温度が低い程高くなり、寄生インダクタンスLは、温度変化の影響が少なく、検出部のキャパシタンスCは、固体電解質体100の誘電率εと、被水検出電極110、120間の距離、即ち、固体電解質体100の厚さdと、被水検出電極110、120の面積Sとによって決まり、C=ε・S/dの関係が成り立つ。
さらに、固体電解質体100の誘電率εは、温度依存性があり、一定の温度範囲においては、温度が高いほど高く、温度が低い程低くなる。
その結果、図3(c)に示したように、被水検出素子10のインピーダンスZACは、A・exp(−B・T)(Tは温度(℃)、A、Bは、被水検出素子10の大きさ、配線距離、固体電解質体100の誘電率ε等により変化する任意の係数)で表すことができ、温度が高いほど低く、温度が低いほど高い値となることが分かる。
なお、本実施例においては、ZAC=21892exp(−0.0079T)で近似される関係が成り立っている。
【0037】
したがって、発熱体150の温度を一定に維持することにより、検出回路20で検出されるインピーダンスZACは、素子温度に応じた一定の値となる。
被水検出素子10の表面に水滴が付着すると大きな蒸発潜熱によって素子が局所的に冷却されインピーダンスZACに変化を生じることとなる。
そこで、被測定ガス中に本発明の被水検出素子10を載置し、発熱体150を所定の温度に昇温して検出されるインピーダンスZACの変化を検出することによって被水の有無を検出できるようになるのである。
【0038】
図4を参照して、被測定ガスの温度の流速や温度変化によって検出される出力と被水によって検出される出力の違いについて説明する。
本図(a)に示すように、検出温度を同じく730℃に設定し、測定されるインピーダンスZACが約65Ωであるときに、被測定ガス中の水滴を模して、0.1μlの水滴を被水検出素子10に滴下すると、瞬間的にインピーダンスZACが6Ω程度上昇し、その後、2s程度の短い時間に元の値に復帰する。
これは、水滴が本発明の被水検出素子10の高温に加熱された表面に付着すると大きな蒸発潜熱によって局所的に素子温度を低下させ、その部分のインピーダンスが局所的に大きくなり、素子全体としては、高いインピーダンスが直列に接続されたような状態となる。したがって、被水によって速やかに検出されるインピーダンスZACが高くなる。
しかし、少量の水滴は直ちに蒸発し、それ以上素子温度を下げることがないので比較的短い時間に素子温度は元に戻り、本図(a)に示すように、短い時間にインピーダンスZACが大きく変動するものと推察される。
【0039】
一方、被測定ガスの流速変動や温度変化が生じた場合にも、被測定ガスと被水検出素子10との温度差に応じて、素子温度も変化するが、気体の密度は液体に比べて遙かに小さく、必然的に吸熱量も小さくなるため被水したときに比べて緩慢な温度変化となる。
本図(b)に示すように、例えば、検出温度を730℃に設定し、測定されるインピーダンスZACが約65Ωであるときに、被水と同程度のインピーダンスの変化を生じるように、被測定ガスの流速変動や温度変動を模して、被水検出素子10に強い流速のエア又は低い温度のエアを吹きかけて、被水検出素子10を冷却し、インピーダンスZACを4Ω程度上昇させた場合、時間の経過と共に、インピーダンスZACが徐々に低下し、14s程度で元の値に戻る。
被測定ガスの流速変動や温度変動によってこのようなインピーダンスの変化を生じた場合には、気体の吸熱量が少ないのでインピーダンスの上昇速度が被水の場合に比べて緩やかな反面、同程度のインピーダンス変化をもたらすような場合には、素子全体が冷却されているので、元のインピーダンスに復帰するには、却って被水の場合よりも時間がかかる。
そこで、本発明においては、検出回路部20において、被水判定手段202が、発熱体150への通電により被水検出素子10を所定の温度Tに維持した状態で一対の電極110、120間に、所定の周波数の交流電流を印加したときに検出される単位時間当たりのインピーダンス変化量(dZAC/dt)が所定の変化量閾値ΔZREFを超え、かつ、最大値Zに達した後、所定のインピーダンス閾値ZREF以下となる迄の時間ΔT(=TJDG―T)が、所定の復帰時間閾値TREFより短い場合に、被水と判定する。
【0040】
より具体的には、例えば、ある測定温度T(℃) におけるインピーダンスZACが一定の値であるときに、一定以上のインピーダンス変化が検出されたときに、その値が最も高くなったピーク時Tを基準として所定の時間TJDGを経過した判定時期におけるインピーダンスZJDGと所定の閾値ZREFとを比較することによって、本図(a)に示すように、判定時期TJDGにおけるインピーダンスZJDGが所定の閾値ZREFよりも小さい場合には被水と判定し、本図(b)に示すように、判定時期TJDGにおけるインピーダンスZJDGが所定の閾値ZREFより大きい場合には、被測定ガスの流速変動、又は、被測定ガスの温度変化によるものと判定することができ、正確に被水の有無を検出することができる。
本実施形態においては、被水時には2s程度の時間で6Ω程度のインピーダンスの上昇と低下が検出されており、被測定ガスの吹きつけによって素子に温度変化を生じさせた場合には、2秒程度の時間で4Ωのインピーダンス上昇が検出され、元のインピーダンスに戻るまでに12s程度の時間を要している。
そこで、判定時期を、例えば、ピーク時Tから5s後とし、閾値ZREFを730℃におけるインピーダンスの平均値ZAVよりも1Ωだけ高い値とすると、被水の場合には、ZJDG<ZREFとなり、被測定ガスの変動の場合にはZJDG>ZREFとなり、両者を明確に区別できることが分かる。
【0041】
ここで、図5を参照して、本発明の被水検出素子10を用いた被水検出方法において、最適条件を見極めるために行った試験結果について説明する。
本図(a)、(b)、(c)、(d)、(e)は、それぞれ、素子温度を600℃、650℃、730℃、800℃、850℃に設定し、複数回水滴を連続的に滴下したときに検出されたインピーダンスZACを示す。
本図(a)に示すように、600℃においては、検出信号がノイズに埋もれてしまい、本図(b)に示すように、650℃においてインピーダンス変化が14Ωと最も大きく、本図(c)、(d)、(e)に示すように、素子温度の上昇と共に、検出されるインピーダンスZACの平均値は小さくなり、変化量も小さくなる。
素子温度を650℃から800℃とした場合には、本図(b)、(c)、(d)に示すように、被水時のインピーダンスZACにピーク値がはっきりと表れ、バックグラウンドノイズと明確に区別できる。
【0042】
素子温度を650℃より低く設定した場合には、ノイズに対して、検出信号が小さくなり、S/N比が小さくなるので検出が困難となる。
一方、素子温度を850℃に加熱したときには、検出されるインピーダンスZACが自体が小さく、被水時のインピーダンスZACのピークとバックグラウンドノイズとの区別が分かりにくくなっており、被水の検出が困難となっている。
これは、素子温度が低いほど、素子のインピーダンスが高くなるのに加え、素子温度を維持するのに供給されているエネルギに対する被水時に水滴の蒸発に奪われるエネルギの割合が高くなるため、それだけ素子の局所的な温度変化が大きくなっており、素子温度が高くなると素子のインピーダンスが低くなるのに加え、より一層水滴が蒸発し易くなり、素子温度を維持するのに供給されているエネルギに対する被水時に水滴の蒸発に奪われるエネルギの割合が低くなるのでインピーダンスの変化も小さくなり、温度が高いほど被水の検出が困難となるものと推察される。
【0043】
また、素子が高温となると、被水したときに、水滴が素子表面ではじかれるライデンフロスト現象を起こし易くなるため、より一層被水の検出が困難となり易い。
したがって、安定して素子の被水を検出するためには、素子温度を650℃以上、800℃以下に設定するのが望ましいことが判明した。
さらに、本発明者らの鋭意試験により、被水検出素子10の表面にアルミナやスピネル等の耐熱性粒子からなる多孔質絶縁層(トラップ層)を、ディッピングや、プラズマ溶射等の方法によって形成することでライデンフロスト現象の発生を抑制し、より確実な被水の検出が可能となることが判明した。
【0044】
図6に、本発明の被水検出素子10を用いた被水検出方法の一例をフローチャートで示す。
先ず、本図(a)を参照して、ステップS100〜S160のインピーダンス閾値設定行程について説明する。
ステップS110の検出下限水滴量規定行程で検出下限水滴量を規定する。
次いでステップS120の検出下限インピーダンス計測行程で、検出下限水滴量QminにおけるインピーダンスZACを計測し、その結果をZp1として記憶する。
次いでステップS130のエアブローインピーダンス計測行程では、Zpに等しい変化をするよう被測定ガスを吹きかけ、この時のインピーダンス変化をZp2として記憶する。次いでステップS140に判定時期決定行程では、Zp1とZp2とのインピーダンス差が判別可能な時間内で判定時期TJDGを決定する。
次いで、判定時期TJDG経過後のインピーダンスZACを比較し、インピーダンス閾値ZREFを決定する。
ステップS160のインピーダンス設定行程で、得られたインピーダンス閾値ZREFの設定を行いインピーダンス閾値設定行程を完了する。
このようにして、検出下限水滴量Qminに応じたインピーダンス閾値ZREFを設定しておき、被水の有無を判定する被水判定行程に移る。
本図(b)を参照して、ステップS200〜S270の被水判定行程について説明する。ステップS200で被水判定行程を開始する。
ステップS210のインピーダンス安定化行程では、予め、被水検出素子10の発熱体150にプレ通電を行い、被測定ガスの導入前に、インピーダンスZACが、測定温度における平均インピーダンスZAVとなるように安定化させる。
次いでS220のインピーダンス変化検出行程では、被測定ガスの導入を開始し、インピーダンスZACの変化を計測する。
インピーダンスZACに一定以上の変化が検出されたら、ステップS230の判定時期インピーダンス計測行程に進み、ピーク値の検出から所定の判定時期TJDGにおけるインピーダンスZJDGを計測する。
次いで、ステップS240の被水判定行程では、判定時期TJDGにおけるインピーダンスZJDGとインピーダンス閾値ZREFとの比較を行う。
判定時期インピーダンスZJDGがインピーダンス閾値ZREF以下の場合には、判定Yesとなり、ステップS250に進み被水と判定し、警告信号の出力等被水であることを知らせる処置をする。
判定時期インピーダンスZJDGがインピーダンス閾値ZREFよりも大きい場合には、判定Noとなり、ステップS260に進み、ガス冷却によるものと判定する。
ステップS270の被水判定行程終了行程に進み、被水判定を終了する。
必要に応じて、ステップS200〜S270を繰り返す。
なお、ステップS220のインピーダンス変化検出行程では、ステップS1110において、予めノイズを加味した上で、検出下限水滴量に相当するインピーダンスを規定しており、ノイズが検出下限インピーダンス値を超えることはなく、一定以上の変化が検出される場合には、ノイズによるものではなく、実際にインピーダンスZACが変化を生じている状態である。
したがって、ステップS110の前にノイズレベルを規定するステップを入れたり、インピーダンスZACが検出下限水滴相当の変化を起こしたときに判別モードに切り替わるようにしたりして、より一層信頼性の高い被水検出を行うようにすることもできる。
【0045】
図7を参照して本発明の第2の実施形態における被水検出素子10aについて説明する。本図(a)は、展開斜視図、(b)は、本図(a)中A-Aに沿った要部断面図、(c)は、素子全体を示す斜視図である。
なお、上記実施形態と同一の構成については、同じ符号を付し、対応する部分で相違する点がある構成については、枝番としてaの符号を付してある。
したがって、上記実施形態と一致する点については説明を省略し、相違を中心に説明する。
【0046】
上記実施形態においては固体電解質体100を素子全体に亘って延びる長尺の平板状に形成した例を示したが、本実施例においては、被測定ガス中に載置され、両面に被水検出電極110、120が形成される範囲のみを、固体電解質材料を用いた固体電解質体100aとし、固体電解質体100aの先端側、両側面側及び基端側を取り囲むように絶縁性材料からなる絶縁体102を設け、固体電解質体100aが被測定ガスに接しないように形成し、絶縁体101にスルーホール101aを設けた点が相違する。
本実施形態においても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
加えて、このような構成とすることによって、検出電極リード部111、121、検出電極端子部112、123、ビア導体122が導電性を有する固体電解質体100aではなく、絶縁体102に形成されているため、インピーダンスZACの計測時に検出電極リード間に漏れ電流が流れる虞がなく、より一層安定した出力が得られると期待できる。
さらに、固体電解質体100aの外周面が全周に亘って絶縁体102によって覆われているので固体電解質対100aと被測定ガスとの接触が完全に遮断される。
このため、被測定ガス中の酸素イオン等が固体電解質体100a内を移動し、検出されるインピーダンスZACに影響する虞がない。
【0047】
図8を参照して、本発明の第3の実施形態における被水検出素子10bについて説明する。
上記実施形態においては、いずれも、いわゆる積層型のガスセンサの被水モデルとして利用可能な形態を示したが、本実施形態においては、素子全体を略円柱状に形成し、いわゆるコップ型のガスセンサの被水モデルとして利用可能な形態とした点が相違する。なお、本実施形態においても第2の実施形態に示した固体電解質体100aのように、一対の検出電極110b、120bの形成される部分のみを固体電解質材料によって形成しても良い。
本実施形態においては、上記実施形態とほぼ同様の製造工程にしたがって、略平板状の絶縁体130b、検出電極110b、検出電極リード部11、検出電極端子部112b、略平板状の固体電解質体100b、検出電極120b、検出電極リード部121、検出電極端子部122b、略平板状の絶縁体140b、発熱体150b、一対の発熱体リード部151,152、一対の発熱体端子部153、154、略平板状の絶縁体160b、を順次積層し、素子の中心に配設され、アルミナ等の絶縁材料からなり、軸状に形成した中心絶縁体161に巻きつけて、これを、焼成し、一体の被水検出素子10bを得る。
【0048】
当然のことながら、本図(b)に示すように、外周側の層になるほど、直径が大きくなるので、外周側の層ほど幅広の平板となるように形成して、中心絶縁体161に巻き付ける必要がある。
また、基端側において、検出電極端子部112b、122b、発熱体端子部153b、154bが露出するように、絶縁体140b、固体電解質体100b、絶縁体130bは、先端側の位置が揃えられ、基端部までの長さが外周側の層程徐々に短くなるように形成されている。
【0049】
なお、上記実施形態においては、一対の検出電極110、120が固体電解質体100を介して平行に対向する平行平板状のコンデンサを形成していたが、本実施形態においては、検出電極110b、120bが略筒状の固体電解質体100bを介して同心に並んだ、二重筒状のコンデンサを形成している。
したがって、当然のことながら、検出されるインピーダンスZACは、上記実施形態と異なる値を示すが、素子温度が高いほど低く、素子温度が低いほど高くなり、一定温度に維持した状態で、被水によって、短時間に局所的な温度変化が起こった場合に、検出されるインピーダンス変化は、上記実施形態と同様、短時間に大きなインピーダンス変化を生じ、短時間で元のインピーダンスに戻り、被測定ガスの温度変化や流速変化によってインピーダンス変化を生じた場合には、被水の場合に比べゆっくりとインピーダンス変化を生じ、ゆっくりと元のインピーダンスに戻るため、容易に被水を検出できるものと思料する。
なお、本実施形態における被水検出素子10bを用いた被水検出センサは、端子金具の形状に違いがあるものの、図2に示した被水検出センサ1とほぼ同様の構造をとることができる。
【0050】
次いで、図9を参照して、本発明の第4の実施形態における被水検出素子10c、及び、被水検出センサ1cについて説明する。
第3の実施形態における被水検出素子10bは、いわゆるコップ型のガスセンサの被水モデルとして利用できるものであるが、製造上の利便性を考慮して、中心に配した略軸状に形成した軸状絶縁体161に積層型の被水検出素子10、10aとほぼ同様の構造の積層体を巻き付けて形成したが、本実施形態における被水検出素子10cは、より、コップ型のガスセンサに近い形状に形成した点が相違する。
【0051】
本実施形態においては、固体電解質体100cを略筒状に形成し、固体電解質体100cの外周表面に一対の電極110c、120cの一方110cを形成し、固体電解質体100cの内周表面に他方の電極120cを形成し、固体電解質体100cの内側に略軸状に形成した絶縁体140cの内部に埋設した発熱体150cを配設し、固体電解質体100cの外周表面に形成した電極110cの外表面を全面的に覆うように絶縁体130cを配設せしめてある。
本実施形態のような構成とすることにより、上記実施形態と同様の効果に加え、コップ型のガスセンサ素子の被水モデルとして利用した場合、より一層正確にコップ型のガスセンサ素子が被水する条件を把握することが可能となり、被水割れ防止のための多孔質保護層やカバー体の開発を進めることができる。
さらに、コップ型のガスセンサ素子を用いている場合に、本実施形態における被水検出素子10cを備えた被水検出センサ1cによって被水が検出されたときに、その結果をガスセンサの発熱体への通電制御やガスセンサからの検出結果の補正等にフィードバックして、より一層、ガスセンサの耐久性の向上や検出性の向上を図ることも可能となる。
【0052】
本実施形態において、被水検出素子10cは、イットリア安定化ジルコニア等の特定のイオンに対して伝導性を有する固体電解質材料からなり、内側に発熱体挿通孔170を区画すべく略有底筒状に形成した固体電解質体100cと、その内周表面と外周表面とに形成した白金等からなる検出電極110、120と、絶縁体140c内に埋設された状態で発熱体挿通穴170内に挿入された発熱体150cと、外周側に形成された検出電極110の表面を覆うように形成された絶縁体130cとによって構成されている。
【0053】
さらに、固体電解質体100cの中腹には、径大となる拡径部101cが形成されている。
拡径部101cは、ハウジング50cの内側に形成された被水検出素子挿通孔501cを内径方向に縮径した係止部505cに係止され、例えば、タルク等の耐熱性セラミック粉末や金属性のシールリング等の封止部材42c等を介して、ハウジング50cの基端側に形成された加締め部507によって加締め固定された、いわゆるコップ型と呼ばれる公知のガスセンサ素子と類似の方法によってハウジング50cに気密に固定され、被水検出素子10cの先端側の絶縁体130cに覆われた部分が被測定ガス800内に配設せしめると共に被測定ガス800の外部への漏れを風情でいる。
また、固体電解質体100cの基端側に設けられた、検出電極端子部112c、122cは、それぞれ、金属製の端子金具113c、124cと弾性的に接触し、一対の信号線114、125を介して外部の検出回路20に接続されている。
【0054】
発熱体150c及び発熱体リード部151c、152cを内蔵し、略長軸状に形成された絶縁体140cは、基端側表面に発熱体端子部153c、154cが形成され、弾性的に接続する端子金具155c、156c及び一対の通電線157、158を介して外部の発熱体通電生後装置30に接続されている。
また、いわゆるコップ型のガスセンサにおいては、有底筒状に形成した固体電解質体の内側に基準ガスとして大気が導入されるため、信号線等をケーシング内に封止固定する際に大気をケーシング内に導入するための開孔を設けて固体電解質体の内側に導入する必要があるが、本発明の被水検出センサ1cにおいては、被水検出素子10cを構成する固体電解質体100cの内側に大気を導入する必要がないので、ケーシング70cに大気導入孔を設ける必要はない。
さらに、発熱体150cを内蔵する絶縁体140cと固体電解質体100cの内側に区画した発熱体挿通孔170との間に間隙が生じる場合には、その間隙を、例えば、アルミナ粉末や窒化アルミニウム粉末等の電気絶縁性と高熱伝導性とを有するフィラーを充填して、発熱体150cの熱を効率よく固体電解質体100cに伝達するようにしても良い。
【符号の説明】
【0055】
1 被水検出センサ
10 被水検出素子
100 固体電解質体
101 スルーホール
110、120 被水検出電極
111、121 電極リード部
122 ビア導体
112、123 検出電極端子部
113、124 信号端子金具
114、125 信号線
130、140、160 絶縁層
150 発熱体
151、152 発熱体リード部
153、154 発熱体端子部
155、156 発熱体通電端子金具
157、158 発熱体通電線
20 検出回路部
200 交流電源
201 インピーダンス計測手段
30 発熱体通電制御部
300 直流電源
301 開閉素子
302 駆動制御回路
40、41 インシュレータ
401 素子挿通孔
402 インシュレータ係止部
420、421、43 封止部材
50 ハウジング
500 ハウジング基体
501 ハウジング内周壁
502 ハウジングネジ部
503 加締め部
504 ハウジング六角部
505 係止部
506 ボス部
60 カバー体外筒
600 外筒周壁部
601 外筒側面開孔
602 外筒底部
603 外筒底部開孔
61 カバー体内筒
610 内筒周壁部
611 内筒側面開孔
612 内筒底部
613 内筒底部開孔
70 ケーシング
【先行技術文献】
【特許文献】
【0056】
【特許文献1】特開2008−076211号公報
【特許文献2】特開2010−169655号公報
【特許文献3】独国特開DE−A1−1014933号公報
【特許文献4】特開2007−225592号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中に載置され、少なくとも、特定のイオンに対して伝導性を有する固体電解質材料からなる固体電解質体と、該固体電解質体の対向する表面に設けた所定の面積を有する一対の電極とを具備し、該一対の電極間のインピーダンス変化を測定して被測定ガスに含まれる水滴の付着を検出する被水検出素子であって、
通電により発熱し、上記固体電解質体の上記一対の電極が形成された部分を加熱する発熱体を有すると共に、
高い電気絶縁性と高い熱伝導性とを有する絶縁性セラミック材料からなる緻密な絶縁体によって、上記一対の電極の内、少なくとも、被測定ガスに対向する側の電極の表面を覆い、該電極と被測定ガスとの接触を回避せしめたことを特徴とする被水検出素子。
【請求項2】
上記固体電解質体を略平板状に形成し、
該固体電解質体の被測定ガス中に載置される部分の表面に該固体電解質体の外周縁から所定の絶縁距離だけ内側に引き込ませて所定の面積を確保した上記一対の電極の一方を形成し、
上記固体電解質体の対向する表面に上記一方の電極と略等しい面積を確保した他方の電極を形成し、
上記一方の電極が形成された側の上記固体電解質体の表面を上記絶縁性セラミック材料からなり略平板状に形成した上記絶縁体で覆うと共に、
上記他方の電極が形成された側に積層して、略平板状に形成した絶縁体の内部に埋設した上記発熱体を配設せしめた請求項1に記載の被水検出素子。
【請求項3】
上記固体電解質体を略筒状に形成し、
該固体電解質体の外周表面に上記一対の電極の一方を形成し、
上記固体電解質体の内周表面に他方の電極を形成し、
上記固体電解質体の内側に略軸状に形成した絶縁体の内部に埋設した上記発熱体を配設し、
上記固体電解質体の外周表面に形成した電極の外表面を全面的に覆うように上記絶縁体を配設せしめた請求項1に記載の被水検出素子。
【請求項4】
被測定ガス中に含まれる水滴が検出素子に付着したか否かを検出する被水検出センサであって、
検出請求項1ないし3のいずれかに記載の被水検出素子と、
上記発熱体への通電を制御する発熱体通電制御装置と、
上記一対の電極間に交流を印加する交流電源と、
上記一対の電極間に形成されるインピーダンスの変化を計測するインピーダンス計測手段と、
該インピーダンス計測手段の出力と所定の閾値と比較して被水の有無を判定する被水判定手段とを具備する被水検出センサ。
【請求項5】
上記被水判定手段が、上記発熱体への通電により上記被水検出素子を所定の温度に維持した状態で上記一対の電極間に、所定の周波数の交流電流を印加したときに検出される単位時間当たりのインピーダンス変化量が所定の変化量閾値を超え、
かつ、
最大値に達した後、所定のインピーダンス閾値より小さくなる迄の時間が所定の復帰時間閾値より短い場合に、
被水と判定する請求項4に記載の被水検出センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−104801(P2013−104801A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249344(P2011−249344)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】