説明

被洗浄体の洗浄方法、洗浄装置、これらの洗浄方法又は洗浄装置に用いられる1対のブラシローラ

【課題】被洗浄体を表裏両側から同時にスクラブ洗浄する洗浄工程において、被洗浄体に与えるダメージを低減させる。
【課題手段】1対のブラシローラ1A,1Bがそれぞれ挿着された2つの回転軸の回転方向と略直交してこれら2つの回転軸の軸心を含む断面において、第1の被洗浄面11Aと接触する複数の第1の突起5Aの各基端部分を第1の被洗浄面11Aの略垂直方向から被洗浄体10に投影した複数の第1領域Laと、第2の被洗浄面11Bと接触する複数の第2の突起5Bの各基端部分を第2の被洗浄面11Bの略垂直方向から被洗浄体10に投影した複数の第2領域Lbとが重なる複数の重複範囲Lpは、2つのブラシローラ1A,1Bの回転位置に関わらず、当該重複範囲Lpを含む第1領域La及び第2領域Lbの何れに対しても80%以下の範囲に制限される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体電子デバイスウェハ、シリコンウェハ、ハードディスク等のエレクトロニクス部品の製造工程のうち、主に洗浄工程のスクラブ洗浄で用いられる被洗浄体の洗浄方法、洗浄装置及び1対のブラシローラに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクス工業では、各種部品の精密度が飛躍的に進み、それに伴って製造環境の清浄性に関する要求も高まっている。特に部品表面の化学的汚染や付着粒子は、製品の歩留まりや動作の信頼性に大きな影響を与えるため、製造工程における洗浄工程の重要性は非常に大きく、様々な洗浄方法が開発、実施されている。
【0003】
例えば、半導体電子デバイスウェハ、シリコンウェハ、ハードディスク等の被洗浄体の表面(被洗浄面)を洗浄する方法として、例えば、ポリビニルアセタール系多孔質素材によって構成され、回転軸の外周に固着された弾性を有する略円筒状のロール体と、ロール体の外周面上に一体形成された複数の突起と、を有するスポンジローラ(ブラシローラ)によるスクラブ洗浄が知られている。スクラブ洗浄とは、ロール体の外周部分の複数の突起を被洗浄面に接触させて、両者の接触部分に水その他の洗浄液を供給しながら回転軸を介してスポンジローラを回転させることにより、擦り洗いするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3378015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記スクラブ洗浄の洗浄対象となる薄肉平板状の被洗浄体が第1の被洗浄面と第2の被洗浄面とを表裏に有する場合、1対のブラシローラ(第1のブラシローラと第2のブラシローラ)を用いたスクラブ洗浄が広く行われている。第1のブラシローラと第2のブラシローラとは、互いに略平行に配置した状態で相反する方向に回転する第1の回転軸と第2の回転軸とにそれぞれ固着される。被洗浄体は、2つの回転軸と略平行な姿勢で1対のブラシローラの間に配置され、第1の被洗浄面には第1の突起を回転接触させ、第2の被洗浄面には第2の突起を回転接触させることによって、被洗浄体を表裏両側から同時にスクラブ洗浄することが可能となる。
【0006】
しかし、被洗浄体を表裏両側から同時にスクラブ洗浄すると、被洗浄体の同じ部分が表裏両側から突起によって同時に押圧される可能性があり、第1又は第2の突起によって押圧される被洗浄体の領域のうち表裏両側から同時に押圧される部分の割合が過大になると、被洗浄体が受けるダメージが大きくなるおそれがあり、品質上好ましくない。
【0007】
そこで、本発明は、被洗浄体を表裏両側から同時にスクラブ洗浄する洗浄工程において、被洗浄体に与えるダメージを低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の洗浄方法及び洗浄装置では、対となる第1のブラシローラと第2のブラシローラとが湿潤状態で弾性を有する多孔質素材によってそれぞれ形成される。第1のブラシローラは、略円筒形状の第1のロール体と、第1のロール体の外周面から略均一な密度で一体的に突出する複数の第1の突起とを有する。第1のブラシローラは、第1のロール体の内径部に第1の回転軸を挿通した状態で、第1の回転軸に固定的に支持される。第2のブラシローラは、略円筒形状の第2のロール体と、第2のロール体の外周面から略均一な密度で一体的に突出する複数の第2の突起とを有する。第2のブラシローラは、第2のロール体の内径部に第2の回転軸を挿通した状態で、第2の回転軸に固定的に支持される。2つの回転軸を、互いに略平行に配置した状態で相反する方向に回転させる。第1の被洗浄面と第2の被洗浄面とを表裏に有する薄肉平板状の被洗浄体を、2つの回転軸と略平行な姿勢で前記1対のブラシローラの間に配置する。第1の被洗浄面に第1の突起を回転接触させ、第2の被洗浄面に第2の突起を回転接触させることによって、被洗浄体を表裏両側から同時に洗浄する。
【0009】
上記2つの回転軸の回転方向と略直交してこれら2つの回転軸の軸心を含む断面において、第1の被洗浄面と接触する複数の第1の突起の各基端部分を第1の被洗浄面の略垂直方向から被洗浄体に投影した複数の第1領域と、第2の被洗浄面と接触する複数の第2の突起の各基端部分を第2の被洗浄面の略垂直方向から被洗浄体に投影した複数の第2領域とが重なる複数の重複範囲は、2つのブラシローラの回転位置に関わらず、当該重複範囲を含む第1領域及び第2領域の何れに対しても80%以下の範囲に制限される。すなわち、第1領域に対する重複範囲の割合(以下、第1重複割合と称する)と、第2領域に対する重複範囲の割合(以下、第2重複割合と称する)とは、何れも80%以下である。このため、第1又は第2の突起によって押圧される被洗浄体の領域のうち表裏両側から同時に押圧される部分の割合が過大になることがなく、被洗浄体を表裏両側から同時にスクラブ洗浄する洗浄工程において、被洗浄体に与えるダメージを低減させることができる。
【0010】
なお、第1及び第2の回転軸は、同期するように回転させてもよく、独立に(非同期で)回転させてもよい。
【0011】
第1及び第2の回転軸を非同期で回転させる場合、各被洗浄面に対する所望の洗浄効果を確保するためには、回転軸の回転中(ブラシローラの回転中)における第1重複割合及び第2重複割合の最大値(以下、突起重複割合最大値と称する)は、50%以上が好適である。
【0012】
上記ブラシローラは、ポリビニルアセタール系樹脂多孔質素材によって形成されてもよい。この場合、多孔質素材の気孔径は50μm以上200μm以下が好適であり、多孔質素材の30%圧縮応力は、4kPa以上15kPa以下が好適である。
【0013】
また、本発明の1対のブラシローラは、上記洗浄方法又は上記洗浄装置において第1及び第2のブラシローラとして用いられる。第1のロール体と第2のロール体とは、略同一形状であり、第1の突起と第2の突起とは、略同一形状である。複数の第1の突起と複数の第2の突起とは、共通の基本パターンに従ってロール体の外周面に配置され、且つ第1の突起の配置パターンと第2の突起の配置パターンとは、第1のロール体と第2のロール体とを両者の端面位置を一致させて並べた対比状態でロール体の内径部の軸方向に互いにずれている。
【0014】
上記1対のブラシローラは、2つの回転軸の軸心と略直交する同一面内に2つのロール体の端面が配置されるように、各回転軸にそれぞれ固定的に支持される。これにより、2つの回転軸を非同期で回転させた場合であっても、ブラシローラの回転中において、上記第1領域と上記第2領域とが被洗浄体の表裏でほぼ一致してしまう状態が発生せず、上記突起重複割合最大値を80%以下に抑えることができる。
【0015】
各被洗浄面に対する所望の洗浄効果を確保するため、各ブラシローラにおいて、ロール本体の外周面の回転方向の同一円周上に配置される突起の数は、4個以上40個以下が好適であり、ロール本体の外周面の軸方向に沿った同一直線上に配置される突起の数は、2個以上60個以下が好適である。また、突起の形状は、ほぼ円柱状が好適であり、突起の頂部の面積は、1πcm以下が好適である。さらに、突起重複割合最大値は、50%以上が好適である。
【0016】
上記基本パターンは、ロール体の外周面の周方向に沿った突起配置列を内径部の軸方向に沿って第1の所定間隔毎に複数設定し、隣接する2つの突起配置列において、一方の突起配置列上の突起と他方の突起配置列上の突起とが第2の所定間隔の略1/2だけ周方向にずれるように、上記設定した各突起配置列上に第2の所定間隔毎に複数の突起を配置する配置パターンであってもよい。この場合、第1の突起の配置パターンと第2の突起の配置パターンとは、上記対比状態で第1の所定間隔の略1/2だけ軸方向にずれていることが好適である。このように2つの配置パターンをずらして設定することにより、非同期でのブラシローラの回転中における突起重複割合最大値を最小に抑えることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、被洗浄体を表裏両側から同時にスクラブ洗浄する洗浄工程において、被洗浄体に与えるダメージを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る1対のブラシローラによって被洗浄体を洗浄する状態を示す斜視図である。
【図2】図1のブラシローラの側面図である。
【図3】スクラブ洗浄時の突起の変形状態を回転軸の軸方向から視た正面図である。
【図4】第1領域と第2領域との重複範囲を示す断面図である。
【図5】第1の突起の配置パターンと第2の突起の配置パターンとを、各ロール体の外周面を平面状に展開して示す図である。
【図6】図2のブラシローラを成形するための型を示す斜視図である。
【図7】図2のブラシローラの製造方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図1では突起の図示を省略している。
【0020】
図1〜図4に示すように、スクラブ洗浄の対象となる被洗浄体10は、薄肉円盤状のウェハであり、第1の被洗浄面11Aと第2の被洗浄面11Bとを表裏に有する。
【0021】
スクラブ洗浄を行う左右1対のブラシローラ1(第1のブラシローラ1Aと第2のブラシローラ1B)は、略円筒形状のロール体3(第1のロール体3Aと第2のロール体3B)と、ロール体3(3A,3B)の外周面12(12A,12B)から略均一な密度で一体的に突出する複数の突起5(第1の突起5Aと第2の突起5B)とを有する。各突起5は、円柱形状であり、各ロール体3には、金属やプラスチックなどの硬質な材料によって形成された略円柱状の回転軸2(第1の回転軸2Aと第2の回転軸2B)がそれぞれ装着される。なお、突起5の形状は、円柱形状に限定されるものではない。
【0022】
スクラブ洗浄は、左右の回転軸2を所定距離だけ離間させて略平行に配置し、被洗浄体10(被洗浄面11)を回転軸2と略平行に配置した状態で左右のロール体3(第1のロール体3Aの突起5Aと第2のロール体3Bの突起5B)の間に被洗浄体10を挟み、被洗浄面11(第1の被洗浄面11Aと第2の被洗浄面11B)に洗浄液を供給し、左右の回転軸2を相反する方向へそれぞれ回転させる(回転方向を矢印7で示す)とともに、回転軸2と略直交する回転軸6を中心に被洗浄体10(被洗浄面11)を回転させる(回転方向を矢印8で示す)ことにより行われる。回転する第1の被洗浄面11Aに第1のロール体3Aの突起5Aが回転接触することにより、第1の被洗浄面11Aがスクラブ洗浄され、回転する第2の被洗浄面11Bに第2のロール体3Bの突起5Bが回転接触することにより、第2の被洗浄面11Bがスクラブ洗浄される。
【0023】
なお、1対のブラシローラ1の配置は、上述のような起立した左右の配置に限定されるものではなく、例えば、1対のブラシローラ1を上下に配置したり、斜め方向に配置するなど、様々な態様で配置することが可能である。また、被洗浄体10の回転軸6は、ブラシローラ1の回転軸2と略直交するように設定すればよく、例えば、1対のブラシローラ1及びその回転軸2を略水平方向に配置した場合には、被洗浄体10の回転軸6を略鉛直方向に設定すればよい。また、第1及び第2の回転軸2A、2Bは、同期するように回転させてもよく、独立に(非同期で)回転させてもよい。
【0024】
ブラシローラ1(ロール体3及び突起5)は、含水状態で弾性を有するポリビニルアセタール系多孔質素材(PVAt系多孔質素材)から成る。PVAt系多孔質素材は、乾燥状態で硬化し、湿潤状態で軟化する。また、PVAt系多孔質素材は、吸水性及び保水性に優れ、湿潤時に好ましい柔軟性と適度な反発弾性を示し、耐磨耗性にも優れている。回転軸2はロール体3の内径部に挿通され、ロール体3を固定的に支持する。例えば、回転軸2の外周面とロール体3の内周面とを接着剤によって固着してもよく、また、回転軸2の外径をロール体3の内径よりも大きく形成し、回転軸2をロール体3の内径部に圧入することにより、ロール体3の弾性力によってロール体3を回転軸2に固定的に支持させてもよい。さらには、ロール体3を製造する際に、図6に示す芯棒29の代わりに回転軸2を使用することによって、ロール体3を回転軸2に固着または支持させてもよい。この場合、反応後のブラシローラ1(ロール体3)は、回転軸2を伴った状態のまま型21から取り出され水洗される。このような固定的な支持により、ロール体3は、回転軸2と共に回転する。
【0025】
図3に示すように、スクラブ洗浄中において、第1及び第2の突起5A,5Bは、第1及び第2の被洗浄面11A,11Bにそれぞれ当接して回転方向7の後方へ弾性変形する。このとき、第1の突起5Aは第1の被洗浄面11Aを押圧し、第2の突起5Bは第2の被洗浄面11Bを押圧する。このため、被洗浄体10の同じ部分が表裏両側から突起5によって同時に押圧される可能性が生じ、第1又は第2の突起5A,5Bによって押圧される被洗浄体10の領域のうち表裏両側から同時に押圧される部分の割合が過大になると、被洗浄体10が受けるダメージが大きくなるおそれがあり、品質上好ましくない。従って、被洗浄体10の品質低下を防止するためには、第1又は第2の突起5A,5Bによって押圧される被洗浄体10の領域のうち表裏両側から同時に押圧される部分の割合が過大になることを抑制する必要がある。
【0026】
しかし、スクラブ洗浄中の突起5は、回転方向7の後方へ弾性変形しながら被洗浄面11を押圧するため、第1又は第2の突起5A,5Bによって押圧される被洗浄体10の領域を実測することは極めて困難である。
【0027】
そこで、本発明では、スクラブ洗浄中の突起5がその突出方向(被洗浄面11の略直交方向)にのみ圧縮変形して被洗浄面11に当接したと仮定し、2つの回転軸2A,2Bの回転方向と略直交してこれら2つの回転軸2A,2Bの軸心を含む断面(図1及び図3のIV-IV矢視断面)において、図4に示すように、第1の被洗浄面11Aと接触する複数の第1の突起5Aの各基端部分を第1の被洗浄面11Aの略垂直方向から被洗浄体10(第1の被洗浄面11A)に投影した複数の第1領域(距離)Laと、第2の被洗浄面11Bと接触する複数の第2の突起5Bの各基端部分を第2の被洗浄面11Bの略垂直方向から被洗浄体10(第2の被洗浄面11B)に投影した複数の第2領域(距離)Lbと、これら第1領域Laと第2領域Lbとが重なる複数の重複範囲(距離)Lpとを判定パラメータとして規定する。そして、2つのブラシローラ1A,1Bの回転位置に関わらず、複数の重複範囲Lpのそれぞれが、当該重複領域Lpを含む第1領域La及び第2領域Lbの何れに対しても80%以下の範囲となる(Lp/La≦0.8、Lp/Lb≦0.8)ように制限する。重複範囲が80%を超えると、被洗浄体10が受けるダメージが大きくなり、品質上好ましくないためである。なお、図4では、互いに重なる1対の突起5のみを図示し、他の突起5の図示を省略しているが、他の重なる突起5についても、その重複範囲は80%以下に制限される。
【0028】
2つの回転軸2A,2Bを同期して回転させる場合、ブラシローラ1A,1Bの相対的な回転位置は経時的に変動しない。従って、回転軸2A,2Bが1回転する間において、第1領域La及び第2領域Lbに対する重複範囲Lpの割合が80%を超えないように、ブラシローラ1A,1B(回転軸2A,2B)の相対的な回転位置を設定すればよい。
【0029】
一方、第1及び第2の回転軸2A,2Bを非同期で回転させる場合、ブラシローラ1A,1Bの相対的な回転位置は経時的に変動し、上記重複範囲Lpも経時的に変動し、第1領域Laに対する重複範囲Lpの割合(第1重複割合)及び第2領域Lbに対する重複範囲Lpの割合(第2重複割合)も変動する。従って、経時的に変動する第1重複割合及び第2重複割合の最大値(突起重複割合最大値)が80%を超えないように、第1の突起5A及び第2の突起5Bの形状や数や位置等を設定する必要がある。
【0030】
また、突起重複割合最大値は、50%以上が好適である。突起重複割合最大値が50%未満であると、外周面12A,12Bの一方又は双方において突起5の密度が低下して所望の洗浄効果が得られない可能性が生じるためである。
【0031】
本実施形態の2つのブラシローラ1A,1Bは、ほぼ同じ形状を有している。すなわち、第1のロール体3Aと第2のロール体3Bとは略同一形状であり、第1の突起5Aと第2の突起5Bとは略同一の円柱形状である。
【0032】
また、図5に示すように、複数の第1の突起5Aと複数の第2の突起5Bとは、共通の基本パターンに従ってロール体3A、3Bの外周面11A、11Bにそれぞれ配置されている。基本パターンは、ロール体3の外周面11の周方向に沿った突起配置列を内径部の軸方向に沿って第1の所定間隔D1毎に複数設定し、隣接する2つの突起配置列において、一方の突起配置列上の突起5と他方の突起配置列上の突起5とが第2の所定間隔D2の略1/2だけ周方向にずれるように、上記設定した各突起配置列上に第2の所定間隔D2毎に複数の突起5を配置する配置パターンである。突起配列のこのような基本パターンを採用することによって、被洗浄面11を効率良く洗浄することができる。なお、図5には突起配置列の中心線15を図示している。
【0033】
但し、第1の突起5Aの配置パターンと第2の突起5Bの配置パターンとは、完全に同一ではなく、2つのロール体3A,3Bを両者の端面13A,13Bの位置を一致させて並べた対比状態でロール体3A,3Bの内径部の軸方向に互いにずれている。本実施形態では、第1の突起の配置パターンと第2の突起の配置パターンとは、上記対比状態で第1の所定間隔D1の略1/2だけ軸方向にずれている。
【0034】
被洗浄面11に対する所望の洗浄効果を確保するため、ロール本体3の外周面12の回転方向の同一円周上(同一の突起配置列上)に配置される突起5の数は、4個以上40個以下が好適であり、ロール本体3の外周面12の軸方向に沿った同一直線上に配置される突起5の数は、2個以上60個以下が好適である。また、突起5の頂部の面積は、1πcm以下が好適である。
【0035】
1対のブラシローラ1A,1Bは、2つの回転軸2A,2Bの軸心と略直交する同一面内に2つのロール体3A,3Bの端面13A,13Bが配置されるように、各回転軸2A,2Bにそれぞれ固定的に支持される。このローラ挿着状態では、第1の突起5Aの配置パターンと第2の突起5Bの配置パターンとが回転軸2A,2Bの軸方向に互いにずれているので、2つの回転軸2A,2Bを非同期で回転させた場合であっても、ブラシローラ1A,1Bの回転中において、第1領域Laと第2領域Lbとが被洗浄体10の表裏でほぼ一致してしまう状態が発生せず、上記突起重複割合最大値を80%以下に抑えることができる。
【0036】
特に、ローラ挿着状態における配置パターン間のずれが第1の所定間隔D1の略1/2であるので、非同期でのブラシローラの回転中における突起重複割合最大値を最小に抑えることができる。
【0037】
PVAt系多孔質素材から成るブラシローラ1は、例えば平均重合度500〜3000でケン化度80%以上のポリビニルアルコール(原料)を一種又はそれ以上混合して水溶液とし、この水溶液に架橋剤としてアルデヒド類、触媒として鉱酸類、及び気孔形成剤として澱粉等を加え、これらの混合液を、図6及び図7に示すような所定の型21内に注入し、40〜80℃で反応させて型21から取り出した後、水洗により気孔形成剤等を除去することによって得られる。
【0038】
型21は、外型23と内型25と底板27と芯棒29とキャップ31とを有する。外型23及び内型25は、共に円筒状に形成されている。内型25は、外型23の内径と同一か又はそれよりも僅かに小さい外径を有し、外型23内に挿入される。芯棒29は、内型25のほぼ中心に挿入される。底板27は、外型23及び内型25の下端を塞ぐと共に、芯棒29の下端を支持する。キャップ31は、外型23の上端の内周面に嵌合される。芯棒29は、底板27とキャップ31とによって位置決めされる。
【0039】
内型25の内周面と芯棒29の外周面との間には、ロール体3を形成するための略円筒状の空間33が区画される。内型25には、突起5を形成するための貫通孔35が複数形成され、各貫通孔35は空間33と連通する。混合液は、外型23とキャップ31との間に挿入された注型ノズル43から空間33へ注入され、空間33から各貫通孔35へ流入する。同時に、貫通孔35内の空気は、空間33へ移動し、空間33の上端から大気へ放出される。これにより、混合液が貫通孔35の末端まで確実に充填される。
【0040】
また、適正含水状態におけるブラシローラ1の有する30%圧縮応力(物性値)は、4kPa以上15kPa以下のものが好適である。適正含水状態とは、PVAt系多孔質素材が適正な弾力を発揮し得る含水状態をいい、含水率(乾燥状態に対する含水状態の重量%)が、およそ100%〜1500%の範囲で得られる。また、30%圧縮応力とは、適正含水状態のPVAt系多孔質素材を、両端面間の距離(長手方向の高さ)が30mmとなるように切断し、端面全体に荷重がかかるようにデジタル式荷重測定器にセットし、長手方向に30%(9mm)押し潰した時の荷重を計測し、該荷重を端面の面積で割った値として得られる。
【0041】
また、PVAt系多孔質素材としては、その内部組織の気孔率が80%以上95%以下、平均気孔径が50μm以上200μm以下のものが好適である。
【0042】
気孔率が80%より小さいと、湿潤時の柔軟性が不十分となり、また、気孔率が95%より大きいと、実用的強度に乏しく、何れも洗浄用途には適さないためである。また、平均気孔径が50μmよりも小さいと、湿潤時の弾性が不足して十分なブラッシング効果が得られず、200μmを超えると、目が粗すぎて精密洗浄には不適当なためである。
【0043】
上記気孔率とは、乾燥機で十分に乾燥された乾燥状態の直方体のPVAt系多孔質素材を乾式自動密時計にて測定し、直方体の見掛け体積と真体積とから、次式(1)にて算出される値である。
【0044】
気孔率(%)=(見掛け体積−真体積)/見掛け体積×100…(1)
【0045】
また、上記平均気孔径は、PVAt系多孔質素材の内部組織に存在する複数の気孔の径の平均値である。本実施形態では、複数の気孔から所定の基準で抽出した所定数の気孔の長径(各気孔の長手方向の距離)の平均値を平均気孔径と定義し、例えば、以下の測定方法によって求めることができる。
【0046】
ブラシローラ1を所定位置で切断し、その切断面に露出した内部組織を電子顕微鏡で撮影する。次に、撮影写真に所定の測定範囲を設定し、その測定範囲内に存在する複数の気孔の中から長径が大きい順に20個の気孔を抽出する。次に、抽出した20個の気孔の各長径を測定する。最後に、20個の測定値のうち大きい方から数えて11番目から20番目までの測定値の平均を、平均気孔径として算出する。
【0047】
さらに、PVAt系多孔質素材としては、見掛け密度が0.06g/cm以上であり、保水率が600%以上のものが好適である。
【0048】
上記見掛け密度は、所定形状(例えば矩形)のPVAt系多孔質素材の乾燥状態での重量(ドライ重量)と適正含水状態での外形寸法とを測定し、外形寸法から体積(ウエット体積)を算出し、ドライ重量をウエット体積で割った値として得られる。
【0049】
また、保水率は、PVAt系多孔質素材の乾燥状態での重量(乾燥重量)と充分に含水した状態での重量(ウエット重量)とを測定し、次式(2)によって算出される値である。
【0050】
保水率(%)=(ウエット重量−ドライ重量)/ドライ重量×100…(2)
【0051】
以上説明したように、本実施形態によれば、被洗浄体10を表裏両側から同時にスクラブ洗浄する洗浄工程において、被洗浄体10に与えるダメージを低減させることができる。
【0052】
なお、本発明は、一例として説明した上述の実施形態、及びその変形例に限定されることはなく、上述の実施形態等以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0053】
例えば、突起5の形状や基本パターンは上記に限定されず任意である。また、2つのブラシローラ1A,1Bに異なる基本パターンで突起5を配置してもよく、第1の突起5Aと第2の突起5Bとを異なる形状や大きさに設定してもよい。また、第1のロール体2Aと第2のロール体2Bとを異なる大きさに設定してもよい。
【符号の説明】
【0054】
1,1A,1B…ブラシローラ、2,2A,2B…回転軸、3,3A,3B…ロール体、5,5A,5B…突起、10…被洗浄体、11,11A,11B…被洗浄面、12,12A,12B…外周面、La…第1領域、Lb…第2領域、Lp…重複領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対となる第1のブラシローラと第2のブラシローラとが湿潤状態で弾性を有する多孔質素材によってそれぞれ形成され、前記第1のブラシローラは、略円筒形状の第1のロール体と該第1のロール体の外周面から略均一な密度で一体的に突出する複数の第1の突起とを有するとともに、前記第1のロール体の内径部に第1の回転軸を挿通した状態で該第1の回転軸に固定的に支持され、前記第2のブラシローラは、略円筒形状の第2のロール体と該第2のロール体の外周面から略均一な密度で一体的に突出する複数の第2の突起とを有するとともに、前記第2のロール体の内径部に第2の回転軸を挿通した状態で該第2の回転軸に固定的に支持され、前記2つの回転軸を、互いに略平行に配置した状態で相反する方向に回転させ、第1の被洗浄面と第2の被洗浄面とを表裏に有する薄肉平板状の被洗浄体を、前記2つの回転軸と略平行な姿勢で前記1対のブラシローラの間に配置し、前記第1の被洗浄面に前記第1の突起を回転接触させ、前記第2の被洗浄面に前記第2の突起を回転接触させることによって、前記被洗浄体を表裏両側から同時に洗浄する被洗浄体の洗浄方法であって、
前記2つの回転軸の回転方向と略直交して該2つの回転軸の軸心を含む断面において、前記第1の被洗浄面と接触する前記複数の第1の突起の各基端部分を該第1の被洗浄面の略垂直方向から前記被洗浄体に投影した複数の第1領域と、前記第2の被洗浄面と接触する前記複数の第2の突起の各基端部分を該第2の被洗浄面の略垂直方向から前記被洗浄体に投影した複数の第2領域とが重なる複数の重複範囲のそれぞれは、前記2つのブラシローラの回転位置に関わらず、当該重複範囲を含む第1領域及び第2領域の何れに対しても80%以下の範囲に制限される
ことを特徴とする被洗浄体の洗浄方法。
【請求項2】
対となる第1のブラシローラと第2のブラシローラとを備え、これら1対のブラシローラは、湿潤状態で弾性を有する多孔質素材によってそれぞれ形成され、前記第1のブラシローラは、略円筒形状の第1のロール体と該第1のロール体の外周面から略均一な密度で一体的に突出する複数の第1の突起とを有するとともに、前記第1のロール体の内径部に第1の回転軸を挿通した状態で該第1の回転軸に固定的に支持され、前記第2のブラシローラは、略円筒形状の第2のロール体と該第2のロール体の外周面から略均一な密度で一体的に突出する複数の第2の突起とを有するとともに、前記第2のロール体の内径部に第2の回転軸を挿通した状態で該第2の回転軸に固定的に支持され、前記2つの回転軸は、互いに略平行に配置された状態で相反する方向に回転し、第1の被洗浄面と第2の被洗浄面とを表裏に有する薄肉平板状の被洗浄体は、前記2つの回転軸と略平行な姿勢で前記1対のブラシローラの間に配置され、前記第1の被洗浄面に前記第1の突起が回転接触し、前記第2の被洗浄面に前記第2の突起が回転接触することによって、前記被洗浄体を表裏両側から同時に洗浄する被洗浄体の洗浄装置であって、
前記2つの回転軸の回転方向と略直交して該2つの回転軸の軸心を含む断面において、前記第1の被洗浄面と接触する前記複数の第1の突起の各基端部分を該第1の被洗浄面の略垂直方向から前記被洗浄体に投影した複数の第1領域と、前記第2の被洗浄面と接触する前記複数の第2の突起の各基端部分を該第2の被洗浄面の略垂直方向から前記被洗浄体に投影した複数の第2領域とが重なる複数の重複範囲のそれぞれは、前記2つのブラシローラの回転位置に関わらず、当該重複範囲を含む第1領域及び第2領域の何れに対しても80%以下の範囲に制限される
ことを特徴とする被洗浄体の洗浄装置。
【請求項3】
請求項1に記載された洗浄方法又は請求項2に記載された洗浄装置において第1及び第2のブラシローラとして用いられる1対のブラシローラであって、
前記第1のロール体と前記第2のロール体とは、略同一形状であり、
前記第1の突起と前記第2の突起とは、略同一形状であり、
前記複数の第1の突起と前記複数の第2の突起とは、共通の基本パターンに従って前記ロール体の外周面に配置され、且つ前記第1の突起の配置パターンと前記第2の突起の配置パターンとは、前記第1のロール体と前記第2のロール体とを両者の端面位置を一致させて並べた対比状態で前記ロール体の内径部の軸方向に互いにずれている
ことを特徴とする1対のブラシローラ。
【請求項4】
請求項3に記載の1対のブラシローラであって、
前記基本パターンは、前記ロール体の外周面の周方向に沿った突起配置列を前記内径部の軸方向に沿って第1の所定間隔毎に複数設定し、隣接する2つの突起配置列において、一方の突起配置列上の突起と他方の突起配置列上の突起とが第2の所定間隔の略1/2だけ前記周方向にずれるように、前記設定した各突起配置列上に前記第2の所定間隔毎に複数の突起を配置する配置パターンであり、
前記第1の突起の配置パターンと前記第2の突起の配置パターンとは、前記対比状態で前記第1の所定間隔の略1/2だけ前記軸方向にずれている
ことを特徴とする1対のブラシローラ。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の1対のブラシローラであって、
前記1対のブラシローラは、前記2つの回転軸の軸心と略直交する同一面内に前記2つのロール体の端面が配置されるように前記2つの回転軸にそれぞれ固定的に支持され、
前記2つの回転軸の回転中において、前記第1領域に対する前記重複範囲の割合の最大値と前記第2領域に対する前記重複範囲の割合の最大値とは、ともに50%以上である
ことを特徴とする1対のブラシローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−52368(P2013−52368A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193518(P2011−193518)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(500004069)アイオン株式会社 (12)
【Fターム(参考)】