説明

被測定物回収装置及び被測定物回収方法

本発明の被測定物回収装置は、被測定物が溶解した試料液が含浸された試料保持材が充填されるリザーバと、被測定物を吸着させる吸着カラムと、を直通管によって連通し、当該直通管を分岐して回収管を介して回収容器に連通する。この構成において、リザーバの流入側に設けられた第1の弁と、吸着カラムの流出側に設けられた第2の弁と、更に、回収容器の大気への通気孔に設けられた第3の弁の開閉あるいは切替えを操作することによって、被測定物を弁に付着させないで回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料液に含まれる被測定物を回収する被測定物回収装置、及び被測定物の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物焼却施設、金属精練施設等から発生する排気ガスには、ダイオキシン等の有害物質が含まれている。近年、排気ガスに含まれるダイオキシンの量を容易且つ正確に測定することができる手法の確立が急がれている。
【0003】
排気ガスに含まれるダイオキシンの量を測定する方法として、日本工業規格で定められた「JIS K 0311」を利用することができる。「JIS K 0311」が提示する方法では、ダイオキシンは、排気ガスに含まれた様々な物質と共に溶解させる溶剤と吸着材を用いて採取され、排気ガスに含まれた様々な物質と共に抽出される。そのため、ダイオキシンの量を測定するためには、溶剤に溶解している他の物質からダイオキシンのみを回収し測定する必要がある。
【0004】
図16は従来の回収治具を示すものである。
【0005】
この治具は、リザーバ601と当該リザーバ601の下側に連通して設けられた吸着カラム603とで構成されている。リザーバ601は、上記溶剤に溶解したダイオキシン以外の物質を捕捉するシリカゲル等のフィルタ材S2、上記排気ガスの含有物質を溶解した溶液を含浸させる試料保持材が下から順に充填される。吸着カラム603には、ダイオキシンのみを吸着させる活性炭やアルミナ等の吸着材S3が充填されている。
【0006】
この治具を利用してダイオキシンの回収を行う場合、まず、使用者は、上記リザーバ601の試料保持材S1に上記のようにして抽出された試料液を所定量含浸させた状態で、当該リザーバ601の上面から溶剤(ここではヘキサン)を流し込む。流し込まれた溶剤は、リザーバ601からダイオキシンを含むいくつかの物質をフィルタ材S2を通じて溶出し、吸着カラム603に流入する。吸着カラム603には吸着材S3が充填されており、当該吸着材S3でダイオキシンのみが吸着されて、吸着カラム603の下面から外部へ流れ出る。
【0007】
溶剤を流し終えると、使用者は、図17に示すようにリザーバ601から吸着カラム603を取り外し、当該吸着カラム603の上下を逆にし、上面からダイオキシンの溶離剤を流し込み、回収容器607で受け取るようになっている。吸着カラム603に流し込まれた溶離剤は、吸着材S3に吸着されたダイオキシンを溶解しながら吸着カラム603の下面から流れ出る。
【0008】
このように流れ出た溶離剤を回収容器に回収することで、ダイオキシンのみが溶解した溶離剤を回収することができる。
【0009】
また、吸着カラム603の上下を逆にしたり、溶剤を流し込んだりする等の使用者の手間を必要とせずにダイオキシンのみが溶解した溶剤を回収することができる被測定物回収装置が提案されている。この装置は、図18に示すように、上記の図16に示したリザーバ601と吸着カラム603を3方弁606の2つの端子を介してチューブ602で連結し、当該3方弁の他の端子に回収管605が接続されている。この3方弁の開閉は以下のように制御手段で制御されるようになっている。
【0010】
本装置のスタートキーが押下されると、制御手段は、上記3方弁606を制御してリザーバ601と吸着カラム603を連通させる。次いで制御手段は、リザーバ601の上面から溶剤を流し込む。流し込まれた溶剤は、上記16図に示した治具に流し込まれた時と同様に、リザーバ601からダイオキシンを含む複数種類の物質をフィルタ材S2を通じて溶出し、吸着カラム603を通過する際に、吸着カラム603に充填された吸着材S3にダイオキシンを吸着させて、外部に流れ出る。
【0011】
次いで制御手段は、3方弁606を切り替えて、吸着カラム603と回収管605を連通し、吸着カラム603の下面から溶離剤を流し込む。溶離剤は、吸着カラム603に回収されたダイオキシンを溶解し、チューブ602、回収管605を通って、回収管605の先端に設けられた回収容器607に流れ込む。
【0012】
よって、使用者は、スタートキーを押下するだけで、ダイオキシンのみが溶解した溶離剤を回収することができる。
【0013】
しかし、図18に示す装置を用いてダイオキシンの回収処理をすると、ダイオキシンが溶解した溶剤や溶離剤が3方弁606を通過する際に、溶剤や溶離剤に溶解したダイオキシンが3方弁606に付着するので、ダイオキシンで3方弁606が汚染されてしまう。そのために、回収処理を行う度に3方弁606の洗浄が必要となる。
【0014】
また、3方弁606に試料が付着し残留するために、試料保持材S1に含まれるダイオキシンの回収率が低くなり、また洗浄不足等によるコンタミネーションにより次測定に悪影響を与えることになる。
【0015】
そこで、本発明は、弁の洗浄を必要とせず、ダイオキシン等の被測定物の回収率の高い被測定物回収装置を提供することを目的とする。
【発明の開示】
【0016】
本発明は、リザーバに保持された被測定物を溶剤に溶解して吸着カラムに吸着させ、吸着した被測定物を溶離剤で溶離して回収容器に回収する被測定物回収装置を前提とする。
【0017】
上記装置において、上記リザーバの排出側と上記吸着カラムを中間部に分岐部を設けた直通管で連通し、該分岐部に回収容器に連通する回収管を接続可能な構成とする。
【0018】
さらに、上記リザーバへの溶剤の流入側に設けた第1の弁でリザーバへの溶剤の流入路を開閉する構成と、吸着カラムの排出側に設けた第2の弁で、上記溶剤の排出と、上記吸着カラムに吸着した被測定物を回収するための溶離剤の供給とを切り替える構成とし、さらに、回収容器を上記回収管に接続し、当該回収容器を第3の弁を介して外部に開放する通気孔を備えた構成とする。
【0019】
この構成で、溶剤供給工程、回収工程に対応してそれぞれの弁の切り替え状態を操作することによって上記、溶剤や溶離剤を弁に付着させないで被測定物を回収することができる。
【0020】
すなわち、溶剤供給制御手段は、上記リザーバに上記溶剤を流し込む際に、上記第1の弁を開とし、第2の弁を溶剤の排出側に切り替え、第3の弁で通気孔を閉とする。また、回収制御手段は、吸着カラムに吸着した被測定物を溶離する際に、上記第1の弁を閉、第2の弁を溶剤供給側に切り替え、第3の弁で通気孔を開とする。
【0021】
上記第2の弁を3方以上の弁とし、上記吸着カラム側の端子に他の端子を選択的に接続できるようにする構成とし、吸着カラムに吸着された複数種の被測定物質に対応した溶離剤を流すことによって、目的とする被測定物質を回収することができる。
【0022】
上記複数の溶離剤に対応して、分岐部40を複数設ける構成としてもよい。
【0023】
上記溶剤供給制御手段と回収供給制御手段に加えて、乾燥制御手段を設ける構成とすることができる。すなわち、上記吸着カラムを乾燥させるガスが充填されたガス容器と、上記吸着カラムに上記ガスを供給するガス供給管とを備える。上記乾燥制御手段は、第3の弁を制御して上記ガス供給管と上記回収容器を連通させ、乾燥用のガスを吸着カラムに供給して、上記溶剤が供給された後に、吸着カラムや回収管を乾燥させるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
[図1]は、本発明の被測定物回収装置の外観図である。
[図2]は、リザーバの詳細の外観図である。
[図3]は、排気管、ガス供給管、通気管を2つの弁で接続した構成を示す図である。
[図4]は、制御部の機能ブロック図である。
[図5]は、被測定物の回収処理の手順を示すフローチャートである。
[図6]は、吸着工程の弁の状態を示す図である。
[図7]は、乾燥工程と、排出工程弁の状態を示す図である。
[図8]は、被測定物を回収する際の弁の状態を示す図である。
[図9]は、本発明の装置と従来の治具を用いて回収処理を行った時の回収された被測定物の濃度を示す図である。
[図10]は、本発明の装置と従来の治具を用いて回収処理を行った時の回収率の変動係数を示す図である。
[図11]は、本発明の装置を用いて行った回収処理の回収率を示す図である。
[図12]は、バッファの断面図である。
[図13]は、シリンジが設けられた回収容器を示す図である。
[図14]は、分岐部の構成を示す断面図である。
[図15]は、本発明の他の構成を示す概念図である。
[図16]は、従来の被測定物回収治具の概念図である。
[図17]は、従来の被測定物回収治具の概念図である。
[図18]は、従来の被測定物回収装置の概念図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態の被測定物回収装置の外観図を示す。本発明の装置は、ガラス製のリザーバ10を備える。リザーバ10の内部には、図2に示すように、下部に複数層のシリカ層よりなるフィルタ材S2が充填され、上部に、シリカゲル等の試料保持材S1が充填されている。一方、当該リザーバの外部の上部の試料保持材S1に対応して、ヒータH10で覆われ、下部は、上記ヒータの熱をフィルタ材S2にまで伝達するヒータジャケットGで覆われている。
【0026】
リザーバ10の上端は、溶剤供給管101の一端と連通されており、この溶剤供給管101は、2方弁110(第1の弁)とポンプP100を介して、溶剤容器100と接続されている。また、リザーバ10の下端は、直通管20を介してガラス製の吸着カラム30の上端と連通されている。
【0027】
吸着カラム30の外部は、ヒータH30で覆われており、吸着カラム30の内部は、被測定物を吸着することのできるアルミナや活性炭等の吸着材S3が充填されている。
【0028】
また、吸着カラム30の下部は、共通管109の一端が連通されている。この共通管109の他端は、3方弁(第2の弁)を介して溶離剤供給管104と溶剤排出管105が接続され、この3方弁120を切り替えることで、2つの管104、105の一方を共通管109を介して吸着カラム30に連通させることができる。
【0029】
上記直通管20は、中途に分岐部40を備えこの分岐部40を介して回収管102が連通され、この回収管102の末端は、回収容器50と連通されている。
【0030】
さらに、回収容器50には、排出管103の一端が連通され、排出管103の他端は、3方弁130(第3の弁)を介してガス供給管106と、通気管108に接続されている。上記ガス供給管106は窒素ガスの充填されたガス容器60に連通されており、また、上記通気管108は通気孔Exに連通する構成となっている。上記の3方弁130を作動させることで、2つの管106、108と排出管103とを遮断したり、2つの管106、108のうち一方を排出管103と連通させることができる。排出管103と通気管108を連通させることで、上記回収容器50と通気孔Exが連通され、回収容器50は外部に開放される。
【0031】
なお、図1では、排気管103、ガス供給管106、通気管108は、3方弁で接続されているが、図3に示すように異なる2つの弁1301、1302で接続されていてもよい。
【0032】
また、後述するようにガス供給管106とガス容器60が必要ない場合は、上記第3の弁として、3方弁130の代りに2方弁を用いてもよい。
【0033】
さらに、本発明の装置は、図4に示す制御部300を備え、当該制御手段300によって、上記3つの弁110、120、130や、ヒータが制御される。
【0034】
以上のように構成された装置を用いて廃棄物焼却施設や金属精練施設等から発生する排気ガスに含まれるダイオキシンを回収する手順について以下に説明する。
【0035】
まず、使用者は「JIS K 0311」に規定された方法に基づいて、排気ガスを溶剤と吸着材を用いて採取する。具体的には、使用者は、水、ジエチレングリコール等の溶剤内に排気ガスを送り込んで排気ガス成分を溶剤に溶解させて採取すると共に、吸着材Sであるジビニルベンゼン樹脂等も使用して排気ガス成分を採取する。続いて使用者は、排気ガス成分が溶解した溶剤に対しては液液転溶操作を、吸着材Sからはソックスレー抽出を行って、排気ガスに含まれた物質が溶解した所定量のトルエンからなる粗抽出液を生成する。使用者は、生成した粗抽出液の所定量をナス型フラスコ等の容器に分取して、分取した粗抽出液をエバポレータ等で蒸発させて濃縮する。使用者は、濃縮した粗抽出液に所定量のヘキサンを加えて試料液を生成する。
【0036】
試料液を生成すると、使用者は、作成した試料液をリザーバ10に充填された試料保持材に所定量含浸させる(図5、S401)。
【0037】
ここで、使用者は、制御手段300を操作するためのキーボードが備えるスタートキー(図示しない)を押下する。スタートキーが押下されると、まず、以下の溶剤供給制御手段310(第1の弁制御手段311、第1の過熱制御手段312、送液制御手段313)が起動し以下のように溶剤(ここではヘキサン)を供給する。
【0038】
すなわち、スタートキーが押された旨は、図4に示す第1の弁制御手段311と第1の加熱制御手段312に通知される。この通知を受けて、図6に示すように、第1の弁制御手段311は、2方弁110を開き、3方弁120で共通管109と溶剤排出管105を連通させ、3方弁130で排出管103をガス供給管106と通気管108から遮断する。尚、図6及び後述する図7、図8は、先端が他の管101〜109と連通されている先端を白三角で表し、他の管101〜109と遮断されている管101〜109の先端を黒三角で表している。
【0039】
第1の弁制御手段311は、弁110、120、130を作動させると、その旨を第1の送液制御手段313に通知する。
【0040】
一方、上記スタートキーの押下の通知を受けると、上記第1の加熱制御手段312は、ヒータH10でリザーバ10を加熱して、その温度が60℃になると、その旨を第1の送液制御手段313に通知するとともに、それ以後リザーバ10を60℃に保持する(図5、S402)。
【0041】
第1の弁制御手段311と、第1の加熱制御手段312からの上記の通知があると、第1の送液制御手段313は、ポンプP100を駆動して溶剤供給管101から所定量V1の溶剤を所定の速度V2/m(例えば60mlのヘキサンを毎分2.5ml)でリザーバ10に流し込む(図5、S403)。上記所定量V1および所定の速度V2/mは、はリザーバ10の内径と試料保持剤材の量、および、フィルタ材の量との関係で決定される。
【0042】
リザーバ10に送られた溶剤は、上記試料保持材S1を通過する際に、当該試料保持材S1に含浸されたダイオキシン及びその他の物質を溶出しながらフィルタ材S2で予備精製されて、リザーバ10の下方から直通管20に流れ出す。この予備精製にて、溶剤に溶解したダイオキシン以外の物質のうち所定の物質が、フィルタ材S2に捕獲される。
【0043】
溶剤を流し込む際には、図6に示すように3方弁130で排出管103がガス供給管106及び通気管108と遮断されているために、溶剤が直通管20から回収管102に流れることはない。そのため、リザーバ10を通過した溶剤は、吸着カラム30を通過して、溶剤排出管105に排出される。吸着カラム30には、ダイオキシンのみが吸着する吸着材S3が充填されているので、溶剤が吸着カラム30を通過する際に、ダイオキシンが吸着材S3に吸着される。
【0044】
溶剤の流し込みが終了すると、乾燥制御手段330(第3の弁制御手段331、第1のガス供給制御手段332、第3の加熱手段333)が起動し、以下のように吸着カラムが乾燥される。
【0045】
すなわち、上記第1の送液制御手段313は、上記溶剤の流し込みが終了すると、その旨を第3の弁制御手段331に通知する。この旨が通知されると、第3の弁制御手段331は、図7に示すように、2方弁110を閉じ、3方弁120を動かさずに、3方弁130で排出管103とガス供給管106を連通させる(図5、S404)。第3の弁制御手段331は、弁110、120、130を作動させると、その旨を第1のガス供給制御手段332に通知し、当該ガス供給制御手段332はガス容器60に充填されている窒素をコンプレッサーなどでガス供給管106に送風する(図5、S405)。
【0046】
窒素が送風される際には、図7に示すように2方弁110が閉じられているので、窒素は、排出管103、回収容器50、回収管102、直通管20、吸着カラム30、共通管109を通って溶剤排出管105に流れる。これによって、吸着カラム30は乾燥することになるが、ここでは上記窒素ガスだけでなく、第3の加熱制御手段333を使用することもできる。すなわち、第3の加熱制御手段230でヒータH30を加熱して、吸着カラム30の温度を上げた状態で窒素ガスを流すことによって、乾燥の促進をすることができる。
【0047】
上記第1のガス供給制御手段332は、吸着カラム30の吸着材S3が乾燥する程度の時間窒素を送風すると、第2の弁制御手段321と第2の加熱制御手段322に吸着カラム30が乾燥した旨を通知する。
【0048】
次いで、以下の回収制御手段320(第2の弁制御手段321、第2の加熱制御手段322、第2の送液制御手段323)が起動し以下のように被測定物の回収が行われる。
【0049】
すなわち、吸着カラム30が乾燥した旨が通知されると、第2の弁制御手段321は、図8に示すように、2方弁110を閉じたままにし、3方弁120で共通管109と溶離剤供給管104を連通させ、3方弁130で排出管103と通気管108を連通させる。上記第2の弁制御手段321は、弁110、120、130を作動させると、その旨を第2の送液制御手段323に通知する。
【0050】
また、第2の加熱制御手段322は、吸着カラム30が乾燥した旨が通知されると、ヒータH30を用いて吸着カラム30を加熱し、その温度が60℃になると、その旨を第2の送液手段323に通知するとともに、それ以後吸着カラム30を60℃に保持する(図5、S406)。第2の送液制御手段323は、第2の弁制御手段321から弁を作動した旨が通知され、第2の加熱制御手段322から60℃になった旨の通知があると、溶離剤(トルエンやジメチルスルホキシドなど)を所定量V3、所定速度V4/m(例えば、2.5mlを毎分1.25ml)で溶離剤供給管104から吸着カラム30に流し込む(図5、S407)。本実施の形態では、溶離剤供給管104は、吸着カラム30の下部と接続されているので、上記第2の送液制御手段323は、ポンプP200を用いて溶離剤を吸着カラム30に流し込む。尚、上記の所定量およびV3所定速度V4/mは、吸着カラムの内径と吸着材の量によって決定される。
【0051】
溶離剤が流し込まれている時は、図8に示すように、2方弁110が閉じられており、排出管103と通気管108が連通しているので、溶離剤は、共通管109、吸着カラム30、直通管20、回収管102を通って、回収容器50に流れ込む。溶離剤は、吸着カラム30を通過する際に、吸着材S3に吸着したダイオキシンを溶解するので、回収容器50にダイオキシンが溶解した溶離剤が回収される。
【0052】
第2の送液制御手段323が、溶離剤を所定量流し終わると、排出制御手段340(第4の弁制御手段341、第2のガス供給制御手段342)が起動し、吸着カラム30や回収管102に溜まっている溶離剤を以下のように排出する。
【0053】
すなわち、第2の送液制御手段323は溶離剤を流し終わると、第4の弁制御手段341と、第2のガス供給制御手段342にその旨を通知する。
【0054】
溶離剤が流し終わった旨が通知されると、第4の弁制御手段341は、図7に示す状態に各弁110、120、130の状態を戻す(図5、S408)とともに、第2のガス供給制御手段342にその旨を通知する。この通知を受けた第2のガス供給制御手段342は、コンプレッサー等を用いて、ガス容器60から窒素を送風する。このとき、図7に示すように、2方弁110が閉じられ、3方弁120で共通管109と溶剤排出管105が連通され、3方弁130で窒素供給管106と排出管103が連通されているので、窒素は、排出管103、回収容器50、回収管102、直通管20、吸着カラム30、共通管109を通って、溶剤排出管105に排出される。
【0055】
なお、第4の弁制御手段341が行う弁の切り替え及び、第2のガス供給制御手段342が行う窒素の送風は、溶離剤が上記所定量V3(2.5ml)流し込まれた直後に行われる。そのため、窒素の送風が開始された時は、回収容器50に到達せずに回収管102や吸着カラム30や共通管109内を流れている溶離剤もある。窒素が回収管102及び吸着カラム30や共通管109を流れる方向は、溶離剤が回収管102、吸着カラム30及び共通管109を流れる方向と逆方向であるため、回収容器50に到達していない溶離剤は、全て窒素と共に溶剤排出管105に排出される。
【0056】
このように、溶離剤が所定量(V3)流し込まれた直後に窒素が送風されると、回収容器50に回収される溶離剤は、所定量(V3)より少ない量(V5)、となる。しかし、例えば、吸着材S3に吸着されたダイオキシン全部が、上記量(V5)の溶離剤で溶解する場合、最初に流れた量(V5)の溶離剤を回収容器50に回収すれば、吸着材S3に吸着したダイオキシンを回収することができるので、残りの量(V3−V5)の溶離剤を窒素と共に排出しても問題はない。
【0057】
したがって、溶離剤を流す量は、流し終えた時に、吸着材S3に吸着した全部のダイオキシンを溶解できる量の溶離剤が回収容器50に回収される量であればよい。溶離剤を溶離剤供給管104から流し込んだ量と回収容器50に回収される量の差は、溶離剤供給管104や共通管109の長さや、弁120から回収容器50までの距離等で決まる。よって、溶離剤を流す量は、これらの長さと距離等に基づいて決定するようにするのが好ましい。
【0058】
また、回収容器50に回収される溶離剤の量を調整する方法として、窒素を用いる方法に代えて、回収容器50に回収された溶離剤の量を計測するセンサを回収容器50に設け、このセンサが回収されるべき量の溶離剤が回収容器50に回収されたことを計測すると、第4の弁制御手段341は、第2の送液制御手段323からの通知を待たずに、弁110、120、130を切り替えて、また、第2のガス供給制御手段342は窒素の送風を行ってもよい。
【0059】
上記のように本発明では溶離剤を流し込む前に窒素で吸着カラム30を乾燥させている。このような乾燥工程が必要なのは、回収容器50に回収された溶離剤に含まれるダイオキシンの量を測定する装置が、溶離剤に溶剤(本実施の形態では、ヘキサン)が混ざっていると、ダイオキシンの量を測定することができない装置である場合のみである。したがって、ダイオキシンの量を測定する装置が、溶離剤に溶剤が混ざっていても、溶離剤のダイオキシンの量を測定することができる場合は、上記した乾燥工程は必要ない。乾燥工程が必要なく、且つ、計測センサを用いて回収容器50に回収される溶離剤の量を調整する場合、ガス容器60とガス供給管106を用いる必要はないので、この場合、弁130に2方弁を用いることができる。
【0060】
図9は、本発明の装置にて回収された各ダイオキシンの濃度とTEQ(Toxicity Equivalency Quantity)値、図16に示す従来の治具にて回収された各ダイオキシンの濃度とTEQ値を示す。尚、TEQ値とはダイオキシンの濃度に各ダイオキシンの毒性強度を掛けた値を示す。両者における試料保持材に含浸された試料液は同じ量であり、また同じ成分の排気ガスを同じ方法で採取したものである。
【0061】
図9から明らかなように、本発明の装置を用いた場合と、図16に示す治具を用いた場合の回収された各ダイオキシンの濃度と、TEQ値はほぼ等しくなっている。
【0062】
図10は、本発明の装置と図16に示す治具を用いてそれぞれ3回回収処理を行った場合のダイオキシンの回収量の変動係数を示す。本発明の装置を用いて3回回収処理を行った場合の方が変動係数が小さい。したがって、本発明を用いれば、安定した回収が行えることが理解できる。
【0063】
また、図11に本発明の装置を用いて被測定物の回収を行ったときの回収率を示す。この回収率は、試料保持材に含浸された試料液に含まれるダイオキシンの量で回収容器50に回収されたダイオキシンの量を割ったものである。図11に示すように、各物質とも回収率が非常に高い。
【0064】
よって、本発明の装置は、従来より使用されている治具に比べて安定した回収を行うことができる。
【0065】
(実施の形態2)
実施の形態1に使用する直通管20の内部は図14に示すようになっている。
【0066】
すなわち、吸着カラム30に連通する部分から分岐部40にいたる下部の内径を、リザーバ10に連通する部分から分岐部40に至る部分より大きくする。これによって、上記回収工程での溶離剤の送出において、上記溶離剤のリザーバ10方向への抵抗が大きくなる。従って、上記2方弁110が閉じていることにあいまって、リザーバ10方向に溶離剤が逆流することができにくくなっている。
【0067】
さらに、上記したように、吸着カラム30には吸着材S3が充填されている。そのため、上記溶剤供給工程(ステップS403)においてリザーバ10に流し込まれた溶剤の流れが吸着カラム30において悪くなる場合がある。そのため、溶剤が吸着カラム30を通って溶剤排出管105に流れずに、回収管102に流れてしまうおそれがある。
【0068】
そこで、図12に示すように、上記直通管20の回収管102が分岐されている部位よりも下方に径が太いバッファBuを設ける。バッファBuを設けることにより、溶剤供給工程において、吸着カラム30への溶剤の流れが悪くなっても、当該溶剤は、バッファBuにたまるので、溶剤が回収管102に流れてしまうことを防ぐことができる。
【0069】
また、吸着カラム30に吸着したダイオキシンを溶解した溶離剤を回収管102に流れ込み易くするために、回収管102の一端を図12に示すように構成してもよい。即ち、図12に示すように、回収管102の一端をバッファBuの底面に近い位置まで突出させて、吸着カラム30の方向に開口させるようにしてもよい。
【0070】
(実施の形態3)
溶剤供給工程(ステップS403)における溶剤供給工程際に、回収管102に溶剤が流れ込むことを確実に防止するために、排出管103と通気管108を3方弁130で遮断するだけでなく、図13Aに示すように、回収容器50内部にシリンジCyを設け、溶剤を流す際にシリンジCyで回収容器50の容積を0にするようにしてもよい。
【0071】
実施の形態1の装置の回収容器50にシリンジCyが設けられている場合、上記溶剤供給制御手段310は、溶剤を流し込む直前に図13Bに示すような状態にシリンジCyを上方に移動させて、シリンジCyで回収管102の端部を塞ぐようにする。
【0072】
乾燥制御手段330は、乾燥工程で窒素を吸着カラム30に送風できるように、窒素の送風(ステップS405)の直前に、図13Aに示すような状態にシリンジCyを戻して、回収管102、排出管103を回収容器50に対して開放する。
【0073】
また、窒素で吸着カラム30を乾燥させる工程がない場合、乾燥制御手段330に代えて回収制御手段320が溶離剤の流し込み(ステップS407)の直前に、図13Aに示すような状態にシリンジCyを戻して、回収管102、排出管103を回収容器50に対して開放する。
【0074】
(実施の形態4)
上記において、第1の弁を2方弁、第2の弁を3方弁、第3の弁を3方弁としたが、この発明はこれに限られるものではない。すなわち、吸着材として活性炭を使用した場合は、当該吸着材にダイオキシンとPCB(ポリ塩化ビフェニール)が吸着される。ここでPCBとダイオキシンを分離して回収するためには、まず、溶離剤としてジクロメタンとヘキサンの混合液を使用してPCBを回収し、次いで、トルエンを使用してダイオキシンを回収する。
【0075】
この手順を実行するには、図15に示すように、上記第2の弁を4方弁とし、その1方を上記同様、共通管109に接続し、また、他の1方を溶剤排出管105に更に、残りの2つのうちの1方をジクロメタンとヘキサンの混合液を供給するための溶離剤供給管104aとポンプP200aに接続し、他方をトルエンを供給するための溶離剤供給管104bとポンプP200bに接続する構成とすることで、より多種類の物質の回収を自動的に行うことができる。
【0076】
更に、上記の構成としたとき、PCBの回収時とダイオキシンの回収時には回収容器50を取り替える必要がある。しかしながら、直通管20の分岐部40を2あるいはそれ以上とすることによってその不便さを解消することができる。すなわち、分岐部40から下流の回収管102a(102b)、回収容器50a(50b)、第3の弁130a(130b)等の取り付け構造は各系統で同様の構成にし、回収対象の物質に対応する回収容器50a(50b)のみを通気管108aまたは108bを介して開放する構成とする。これによって、上記のように回収する物質がことなる毎に回収管を付け替える必要はなくなることになる。
【0077】
なお、上記の溶剤供給工程において、リザーバ10の加熱制御がなされているが、この制御は被測定物質によっては必ずしも必要ではない。また乾燥工程あるいは回収工程における加熱制御も同様である。また、上記各部材(供給管101〜109、直通管20、弁110、120、130)はポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る被測定物回収装置、及び被測定物の回収方法では、被測定物は、リザーバに充填された試料保持材へ試料液を含浸させてから回収容器に回収されるまで何れの弁も通過しないので、被測定物の高い回収率を実現することができると共に、回収作業を行う度に弁を洗浄する必要がなく2次汚染が無いので、被測定物回収装置、及び被測定物の回収方法として有用である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リザーバに保持された被測定物を溶剤に溶解して吸着カラムに吸着させ、吸着した被測定物を溶離剤で溶離して回収容器に回収する被測定物回収装置において、
上記リザーバの排出側と上記吸着カラムの流入側を連通する直通管と、
上記直通管の中間部で分岐され、回収容器に連通する回収管を接続可能な分岐部を備えたことを特徴とする被測定物回収装置。
【請求項2】
さらに、
上記被測定物の溶剤が流入する上記リザーバの流入側を開閉する第1の弁と、
上記溶剤の排出と、上記吸着カラムに吸着した被測定物を回収するための溶離剤の供給とを切り替える上記吸着カラムの排出側に設けられた第2の弁と、
上記回収管に設けられた回収容器と、
上記回収容器と連通した通気孔と、
当該通気孔を開閉する第3の弁を備えた
請求の範囲第1に記載の被測定物回収装置。
【請求項3】
上記リザーバは、上記試料液を予備精製するフィルタ材を充填した請求の範囲第1に記載の被測定物回収装置。
【請求項4】
上記直通管は、上記分岐部を含む下側が、それより上側より径が太い請求の範囲第2に記載の被測定物回収装置。
【請求項5】
上記直通管は、上記分岐部に他の部分に比べて径の太いバッファを備え、
上記回収管が上記直通管の内部に突出して、上記吸着カラムの方向に開口した請求の範囲第2に記載の被測定物回収装置。
【請求項6】
上記第2の弁が複数の溶離剤を選択的に切り替えることができる構成である請求の範囲第2に記載の被測定物回収装置。
【請求項7】
上記分岐部が上記複数設けられた請求の範囲第4に記載の被測定物回収装置。
【請求項8】
上記回収容器として、容積を可変するシリンジを備えた請求の範囲第2に記載の被測定物回収装置。
【請求項9】
上記吸着カラムを乾燥させるガスが充填されたガス容器と、
上記吸着カラムに上記ガスを供給するガス供給管と、
上記ガス供給管と上記回収容器を連通又は遮断する第3の弁を備えた請求の範囲第2に記載の被測定物回収装置。
【請求項10】
上記リザーバに上記溶剤を流し込む際に、上記第1の弁を開とし、第2の弁を溶剤の排出側に切り替え、第3の弁で通気孔を閉とする溶剤供給制御手段と、
吸着カラムに吸着した被測定物を溶離する際に、上記第1の弁を閉、第2の弁を溶離剤供給側に切り替え、第3の弁で通気孔を開とする回収制御手段と、
を備えた請求の範囲第2に記載の被測定物回収装置。
【請求項11】
上記溶剤供給制御手段によって溶剤を流し込んだ後、溶離剤供給経路を乾燥させる乾燥制御手段を備えた請求の範囲第2に記載の被測定物回収装置。
【請求項12】
上記溶離剤供給制御手段によって溶離剤を流し込んだ後、残存する溶離剤を排出させる排出制御手段を備えた請求の範囲第2に記載の被測定物回収装置。
【請求項13】
被測定物を含む試料液を保持するリザーバの流入側の開と、上記被測定物を吸着する吸着カラムの流出側と溶剤を排出する溶剤排出管の連通と、上記リザーバと上記吸着カラムを連通する直通管から分岐された回収管に設けられた回収容器と連通された通気孔を閉とする工程と、
上記リザーバの流入側から溶剤を流し込む工程と、
上記リザーバの流入側の閉と、上記吸着カラムの流出側と上記吸着カラムに吸着された上記被測定物を回収する溶離剤を供給する溶離剤供給管の連通と、上記通気孔を開とする工程と、
上記溶離剤供給管から上記吸着カラムに溶離剤を流し込む工程からなることを特徴とする被測定物回収方法。

【国際公開番号】WO2005/062016
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516494(P2005−516494)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019080
【国際出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(000161932)京都電子工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】