説明

被熱転写シート

【課題】高感度で耐光性に優れ、かつ、にじみも発生しにくく、耐ブロッキング性に優れる画像が得られる被熱転写シートを、簡易な工程により低コストで製造する。
【解決手段】基材シート110と、前記基材シート上に設けられ、スチレン及びアクリロニトリルをモノマーとする共重合体Aと2−フェノキシエチルメタクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートをモノマーとする共重合体Bとの混合物を含有する染料受容層120と、を有する、被熱転写シート100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、染料が熱転写される被熱転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
昇華染料を用いた熱転写方式は、極めて短時間の加熱によって多数の色ドットを被転写材に転写させ、多色の色ドットによりフルカラー画像を再現するものである。この熱転写方式では、熱転写シートの染料層を被熱転写シートに密着させ、画像信号に応じて、サーマルヘッド等の加熱手段により熱転写シートを染料層の裏面側から加熱し、染料層に含まれる染料を被熱転写シートに転写させて画像や文字を形成する。このとき、被熱転写シートとしては、シート状の基材の表面に、熱転写シートから移行される染料を受容する染料受容層が設けられたシートを用いる。このような昇華染料を用いた熱転写方式によれば、高画質、高濃度の記録物が得られる。
【0003】
近年では、デジタルカメラの普及に伴い、こうした高画質、高濃度の記録物が得られる熱転写方式の需要が高まってきているとともに、さらに高感度で耐光性に優れる画像を得たいというニーズもある。
【0004】
こうしたニーズに応える技術として、例えば、特許文献1には、染料受容層に、アクリル系モノマー、メタクリル系モノマーのうち1種類以上のモノマーと、ポリエステルとのグラフト重合体が含有されている被熱転写シートが開示されている。この染料受容層の特徴としては、高感度かつ耐光性に優れることが挙げられる。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、耐熱性(耐ブロッキング性)を担保する観点から、染料受容層にイソシアネート系硬化剤を更に含有させる必要がある。そのため、被熱転写シートの製造過程において、樹脂と硬化剤などを溶剤に溶解した溶液を印画紙等の基材シート上に染料受容層として塗布した後に、塗布した溶液を乾燥させて染料受容層を形成することとなる。この場合、蒸発した溶剤の回収や保安のための設備を別途設ける必要がある。また、染料受容層の膜強度の強化のために添加する硬化剤としては、一般に、湿度硬化型のポリイソシアネートが用いられる。湿度硬化型の硬化剤を用いた場合、染料受容層形成用の溶液を塗布・乾燥後、均一な温度、湿度環境下において、樹脂を硬化させることとなるため、エージング工程やそのための設備も別途必要になる。以上の理由から、上記特許文献1のように、染料受容層の形成に硬化剤を使用すると、製造工程が複雑になるとともに、製造設備が大掛かりで特殊なものにならざるを得ないため、生産性に劣り、結果的にコストも上昇する。
【0006】
これに対して、例えば、特許文献2には、樹脂コーティング層を紙支持体上に押し出した方法により得られた熱染料転写受容素子が開示されている。この方法では、上述のように染料転写受容層用の溶液を基材上に塗布するのではなく、熱可塑性樹脂を熱で軟化させ、ニップローラ等で延伸したものを印画紙等の基材シート上に染料受容層として積層する。そのため、特許文献2の方法は、塗布方式と比べて、製造工程が簡易なものとなり、大掛かりで特殊な製造設備が少なくて済むため、低コストとなる。
【0007】
また、特許文献3には、特許文献2で開示された技術にも適用可能な材料として、アクリロニトリル及びスチレンを必須成分として形成された共重合体樹脂(以下、「AS樹脂」と称する場合もある。)を使用した昇華型感熱転写記録用受像体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2006/057192号
【特許文献2】特開平4−101891号公報
【特許文献3】特開昭63−319188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2で用いられている熱可塑性樹脂や、特許文献3で用いられているAS樹脂を使用した場合、感度が低く画像の色再現性に劣るだけでなく、画像の耐光(保存)性が低く、にじみも発生しやすくなってしまう。
【0010】
このように、これまでは、高感度、耐光性及び耐にじみ性といった性能と、生産性、低コスト及び耐ブロッキング性といった性能と、を両立できる被熱転写シートは得られていなかった。
【0011】
そこで、高感度で耐光性に優れ、かつ、にじみも発生しにくく、耐ブロッキング性に優れる画像が得られる被熱転写シートを、簡易な工程により低コストで製造できることが希求されていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示によれば、基材シートと、前記基材シート上に設けられ、スチレン及びアクリロニトリルをモノマーとする共重合体Aと2−フェノキシエチルメタクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートをモノマーとする共重合体Bとの混合物を含有する染料受容層と、を有する被熱転写シートが提供される。
【0013】
本開示によれば、耐ブロッキング性に優れる共重合体A(AS樹脂)を使用した染料受容層に、共重合体B(特定のモノマーからなるアクリル樹脂)を含有させることにより、樹脂のガラス転移点を下げ、軟化させることができる。これにより、染料受容層の感度が向上し、染料受容層への染料の拡散が十分に行われるため、画像の耐光性が向上する。また、本開示によれば、共重合体Aを含むことで硬化剤が不要となるため、被熱転写シートを簡易な工程により低コストで製造できる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本開示によれば、高感度で耐光性に優れ、かつ、にじみも発生しにくく、耐ブロッキング性に優れる画像が得られる被熱転写シートを、簡易な工程により低コストで製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本開示の好適な実施形態に係る被熱転写シートの構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
1.被熱転写シートの構成
1.1.全体構成
1.2.基材シート
1.3.染料受容層
2.被熱転写シートの製造方法
1.1.AS樹脂の準備
1.2.アクリル樹脂の合成
1.3.混合溶液の調製
1.4.混合溶液の塗布・乾燥
【0018】
[1.被熱転写シートの構成]
[1.1.全体構成]
まず、図1を参照しながら、本開示の好適な実施形態に係る被熱転写シートの全体構成について説明する。図1は、本開示の好適な実施形態に係る被熱転写シートの構成を模式的に示す断面図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る熱転写シート100は、基材シート110と、基材シート110上に設けられた染料受容層120とを有する。
【0020】
一般に、染料受容層は、高分子樹脂を主体として形成されている。染料受容層には、耐熱性を向上させるため、ポリイソシアネート等の硬化剤を添加する場合がある。このような硬化剤が添加された染料受容層を有する被熱転写シートでは、光に対する保存性、すなわち耐光性が必ずしも十分ではなく、時間の経過とともに画像の鮮明度が低下したり、変色したりするなどの不具合が生じる場合がある。このような不具合が生じる原因としては、熱転写シートから被熱転写シートに移行した染料の大部分が染料受容層の表面近傍に留まってしまい、表面に留まった染料が光の影響を受けることによるものと考えられる。また、熱転写方式を用いた記録装置では、記録の高速化のために染料受容層に対する染料の拡散が抑制される傾向にあるため、染料が染料受容層の表面近傍に留まり、耐光性を悪化させる可能性が大きくなる。したがって、このような被熱転写シートでは、耐光性が低く、光によって画像の鮮明度が低下したり、変色が生じたりして、画像が劣化する場合がある。
【0021】
そこで、以下に詳述する被熱転写シート100では、熱転写染料層120に、高分子樹脂として、スチレン及びアクリロニトリルをモノマーとする共重合体A(以下、「AS樹脂」)と2−フェノキシエチルメタクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートをモノマーとする共重合体B(以下、「アクリル樹脂」)との混合物を含有させている。
【0022】
[1.2.基材シート110]
基材シート110は、染料受容層120を支持するものである。具体的には、基材シート110としては、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のプラスチックフィルムや、合成紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、上質紙等の紙などで形成されている。また、基材シート110として、上記のプラスチックフィルム若しくは紙を単独で用いてもよいし、又は、プラスチックフィルムと紙とを貼合された形態で用いてもよい。この基材シート110は、染料が染料受容層120に転写される際のサーマルヘッドの熱に耐える耐熱性を有し、また、取り扱う際に破断することのない剛性を有するものである。
【0023】
また、基材シート110には、染料受容層120が積層されている側とは反対側の面に図示しないバック層が設けられていてもよい。このバック層は、熱転写方式の記録装置内を被熱転写シート100が安定して搬送されるように、被熱転写シート100と記録装置の搬送機構との間の摩擦係数を制御するための層である。
【0024】
[1.3.染料受容層120]
染料受容層120は、熱転写シート(図示せず。)に設けられた、例えばイエロー、マゼンタ、シアン等の昇華性染料を含有する染料層から、所望の染料が選択的に転写され、転写された染料を受容する層である。また、染料受容層120は、熱転写シートから受容した染料によって形成される画像を長時間にわたり維持する。以上のような機能を実現するため、染料受容層120は、転写された染料によって染着する樹脂、本実施形態では、AS樹脂とアクリル樹脂との混合物で形成されている。
【0025】
ここで、本実施形態において、染料受容層120を形成する樹脂として、AS樹脂とアクリル樹脂との混合物を使用している理由についてさらに詳細に説明する。上述したように、AS樹脂を染料受容層120に使用した場合、硬化剤を添加することなく染料受容層120を製造できるため、コストが抑えられるというメリットがあるが、感度や耐光性が良好でない。そこで、被熱転写シート100では、AS樹脂を使用した染料受容層120に、2−フェノキシエチルメタクリレート(以下、「PEMA」と称する。)及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、「HEMA」と称する。)をモノマーとするアクリル樹脂を混合して使用している。これにより、染料受容層120に使用される樹脂のガラス転移点を低下させ、樹脂を軟化させることができる。従って、染料受容層120の感度が向上し、染料受容層120への染料の拡散が十分に行われるため、画像の耐光性を向上させることができる。
【0026】
また、AS樹脂のモノマーとして使用されるアクリロニトリルは、重合して樹脂化すれば毒性を有しないが、モノマーの状態では毒性が非常に高く、被熱転写シート100の製造時にアクリロニトリルモノマーを取り扱うためには、専用の設備が必要となる。そのため、本実施形態においても、染料受容層120を形成する際に、アクリロニトリルモノマー、スチレンモノマー、PEMAモノマー、HEMAモノマーからなる共重合体を合成する場合には、同様に危険を伴う。これに対して、本実施形態では、樹脂化された状態のAS樹脂を使用し、これとアクリル樹脂とを混合するため、安全性が高い、というメリットもある。
【0027】
なお、染料受容層120の厚みは、好ましくは1μm〜10μmであり、より好ましくは2μm〜8μmである。染料受容層120の厚みが1μmよりも薄い場合には、厚みが安定しないため、基材の影響を受けやすく、画質が不安定になるおそれがある。一方、染料受容層120の厚みが10μmより厚い場合には、転写感度が低下してしまい、この場合も印画濃度が低下してしまうおそれがある。
【0028】
(AS樹脂)
染料受容層120に使用されるAS樹脂は、耐熱性(耐ブロッキング性)に優れることから、硬化剤を不要とするために必須となる樹脂である。すなわち、染料受容層120を形成するのにAS樹脂を使用することにより、染料受容層120を形成する際に、別途硬化剤を加えて樹脂を硬化させる工程が不要となる。従って、被熱転写シート100の製造工程が簡易なものとなり、さらには、大掛かりで特殊な製造設備が少なくて済むため、低コストとなる。
【0029】
このAS樹脂のモノマーとなるスチレンとアクリロニトリルとのモル比は、70:30〜80:20であることが好ましい。アクリロニトリルのモル比が30を上回ると、樹脂が黒ずむ場合があることから、被熱転写シート100の商品として美観を損ねるおそれがある。一方、アクリロニトリルのモル比が20を下回ると、染料受容層120の感度が低下するおそれがある。
【0030】
(アクリル樹脂)
染料受容層120に使用されるアクリル樹脂は、染料に対する感度や耐光性に優れることから、AS樹脂と混合することで、感度及び耐光性を改善するために必須となる樹脂である。すなわち、AS樹脂が使用された染料受容層120にアクリル樹脂を混合して使用することで、耐ブロッキング性を保持して硬化剤を不要としたまま、さらに、感度や耐光性を向上させることが可能となる。
【0031】
このアクリル樹脂の混合による感度や耐光性の向上効果は、アクリル樹脂のモノマーとして用いるPEMAとHEMAとの比率に影響を受ける。従って、染料受容層120に用いるアクリル樹脂中のPEMAとHEMAとのモル比は、80:20〜95:5であることが好ましく、85:15〜95:5であることがより好ましい。HEMAのモル比が20を上回ると、染料受容層120の感度及び耐光性が低下するおそれがある。一方、HEMAのモル比が5を下回ると、染料受容層120の感度が低下するおそれがある。
【0032】
(AS樹脂とアクリル樹脂との混合比)
上述したように、AS樹脂にアクリル樹脂を混合するのは、AS樹脂の耐ブロッキング性を保持して硬化剤を不要としたまま、さらに、感度や耐光性を向上させることを可能とするためである。従って、アクリル樹脂は、AS樹脂の耐ブロッキング性を損なわない範囲で含有させることが好ましい。具体的には、AS樹脂とアクリル樹脂との混合比は、質量比で、50:50〜90:10であることが好ましく、50:50〜80:20であることがより好ましい。アクリル樹脂の混合比が50を上回ると、染料受容層120中の樹脂が軟化しすぎてしまい、耐熱性が低下し、ブロッキングを起こしてしまう場合や、画像がにじみやすくなる場合がある。一方、アクリル樹脂の混合比が10を下回ると、染料受容層120が十分な感度を得られない場合や、画像の耐光性が低下する場合がある。
【0033】
(ポリエステルポリオール)
また、染料受容層120は、染料に対する感度をさらに向上させるために、ポリエステルポリオールをさらに含有することが好ましい。ポリエステルポリオールは、脂肪族もしくは芳香族ジオールと脂肪族もしくは芳香族ジカルボン酸との脱水縮合物であり、両末端に水酸基を含有する樹脂である。
【0034】
上記脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレンジオール、プロピレンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等が挙げられる。上記芳香族ジオールとしては、例えば、ビスフェノールA等のビスフェノール類が挙げられる。
【0035】
また、上記脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸等が挙げられる。上記芳香族カルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。
【0036】
これらのポリエステルポリオールのうち、感度の向上効果をより高めるという観点からは、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸との脱水縮合物であることが好ましく、ヘキサンジオールとアジピン酸との脱水縮合物であることが更に好ましい。
【0037】
また、上記ポリエステルポリオールの含有量は、AS樹脂とアクリル樹脂との混合物100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であることが好ましく、10質量部以上20質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上15質量部以下であることがさらに好ましい。ポリエステルポリオールの含有量が20質量部を超えると、画像がにじみやすくなってしまうおそれがある。一方、ポリエステルポリオールの含有量が5質量部未満であると、樹脂を十分に可塑化することができないため、感度向上の効果が十分に得られないおそれがある。
【0038】
(他の添加剤)
上述した染料受容層120には、白色度を向上させるため、更に酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化亜鉛等の無機顔料や蛍光増白剤が含有されていてもよい。
【0039】
また、染料受容層120には、更に離型剤が含有されていてもよい。離型剤としては、例えば、メチルスチレン変性シリコーンオイル、オレフィン変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイルのようなシリコ−ンオイルや、フッ素系離型剤等を使用できる。
【0040】
さらに、染料受容層120には、熱転写方式の記録装置内での搬送時に静電気が発生することを防止するために帯電防止剤を含有させたり、染料受容層120の表面をコーティングしたりしてもよい。帯電防止剤としては、例えば、陽イオン型界面活性剤(第4級アンモニウム塩、ポリアミン誘導体等)、陰イオン型界面活性剤(アルキルベンゼンスルホネ−ト、アルキル硫酸エステルナトリウム塩等)、両性イオン型界面活性剤又は非イオン型界面活性剤等の各種の界面活性剤を使用することができる。
【0041】
また、染料受容層120には、必要に応じて可塑剤が含有されていてもよい。可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステル、多価フェノールエステル等を使用することができる。この他、染料受容層120には、保存性を向上させるために、紫外線吸収剤や酸化防止剤等を適宜含有させることができる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系、ジフェニルアクリレート系、ベンゾトリアゾール系等を使用することができる。酸化防止剤としては、例えば、フェノ−ル系、有機硫黄系ホスファイト系、リン酸系等を使用することができる。
【0042】
[2.被熱転写シートの製造方法]
以上、本実施形態に係る被熱転写シート100の構成について詳細に説明したが、続いて、上述した構成を有する被熱転写シート100の製造方法について詳細に説明する。
【0043】
[2.1.AS樹脂の準備]
AS樹脂としては、上述したように、既に重合されたアクリロニトリルとスチレンの共重合体として市販されているものを用いることができる。AS樹脂の市販品としては、新日鐵化学社製の「AS−30」、「AS−41」、「AS−61」、「AS−70」等がある。
【0044】
[2.2.アクリル樹脂の合成]
アクリル樹脂としては、PEMAとHEMAを所定の比率(好ましくは上述した比率)で用いて重合反応させて得られる、PEMAとHEMAの共重合体を用いることができる。このときのPEMAとHEMAの重合方法については、例えば、懸濁重合法、溶液重合法、乳化重合法、塊状重合法等、特に限定されるものではなく、公知の任意の重合方法を用いることができる。なお、上記の重合方法の中でも、重合をより円滑に行うことができることから、溶液重合法を用いて重合反応を行うことが好ましい。
【0045】
また、PEMA及びHEMAとしては、市販されているものを用いることができる。
【0046】
[2.3.混合溶液の調製]
次に、上述したように準備または合成したAS樹脂とアクリル樹脂とを有機溶剤中で混合して、染料受容層120形成用の混合溶液を調製する。この際、混合溶液中に、必要に応じて、上述したポリエステルポリオールや、その他の添加剤を添加してもよい。
【0047】
ポリエステルポリオールは、ジオールとジカルボン酸との脱水縮合反応により合成することができるが、ポリエステルポリオールとして市販されているものを用いてもよい。このような市販品としては、例えば、豊国製油社製の「HS2H−201A」、「HS2H−451A」、「HS2F−431A」、「HS2E−581A」、「HS2H−350S」等がある。
【0048】
また、混合溶液の固形分濃度は、塗布時に取り扱い易い粘度となるように、20質量%〜30質量%であることが好ましい。また、混合溶液の溶媒として用いる有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、2−ブタノン、2−ブタノンとトルエンの混合溶液、2−ブタノンと酢酸エチルの混合溶液等を用いることができる。
【0049】
[2.4.混合溶液の塗布・乾燥]
上述したようにして調製した混合溶液を基材シート110上に塗布した後に、乾燥させることで、樹脂の硬化工程を経ることなく、基材シート110上に染料受容層120が形成された被熱転写シート100を得ることができる。
【0050】
混合溶液の塗布方法としては特に限定されず、例えば、グラビアコーター等の公知の方法を用いることができる。
【0051】
また、染料受容層120の乾燥後の膜厚が、好ましくは1μm〜10μm、より好ましくは2μm〜8μmとなるように、乾燥条件を決めることが好ましい。具体的な乾燥条件としては、例えば、90℃〜120℃程度で乾燥させることが好ましい。
【実施例】
【0052】
次に、実施例を用いて本開示をさらに具体的に説明するが、本開示の範囲が下記の実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
[被熱転写シートの作製方法]
まず、実施例及び比較例で用いた被熱転写シートの作製方法について説明する。
【0054】
(実施例1)
下記表1に示す割合で、AS樹脂として新日鐵化学社製のAS−61(スチレンモノマー/アクリロニトリルモノマー=24/76の共重合体)を用い、アクリル樹脂としてPEMA/HEMAの共重合体を用い、これらを混合した。次いで、この混合物の固形分が20質量%になるように2−ブタノン/トルエン=1/1の混合溶媒で希釈した染料受容層形成用の混合溶液を150μmの合成紙(王子油化製 商品名「YUPO FPG−150」)上に、乾燥後の厚みが3μmとなるように塗布し、120℃にて1分間乾燥させて溶剤を除去することにより、実施例1の被熱転写シートを作製した。
【0055】
(実施例2〜6、比較例1〜5)
表1に示すように、AS樹脂の含有量、アクリル樹脂の含有量、PEMAとHEMAとの混合比、アクリル樹脂のモノマーの種類、ポリエステルポリオールの含有量を変更した以外は、実施例1と同様の方法により、実施例2〜12及び比較例1〜5の被熱転写シートを作製した。
【0056】
[被熱転写シートへの印画方法]
以上のように作製した実施例1〜実施例12および比較例1〜比較例6の被熱転写シートに対して、熱転写プリンタ(ソニー株式会社製、UP−DR200プリンタ)を使用し、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の各染料及びラミネートフィルム(L)が設けられたインクリボン(ソニー株式会社製、UPC−204)を用いて印画した。
【0057】
[被熱転写シートの評価方法]
上記印画後の各被熱転写シートについて、感度、耐光性、高温条件下における保存時のにじみ、及び、被熱転写シートの染料受容層側の面とバック層側の面を重ね合わせ、高温条件下に保存した際の耐ブロッキング性を評価した。具体的な評価方法は、以下の通りである。
【0058】
(感度評価)
感度の指標としては、最高印画濃度を用いた。具体的には、各被熱転写シートに対し、上記熱転写プリンタ及びインクリボンを用い、階調印画を行い、最高印画濃度をマクベス反射濃度計(TR−924)にて測定し、以下のように感度を評価した。
A:最高印画濃度が2.20以上
B:最高印画濃度が2.10以上2.20未満
C:最高印画濃度が2.00以上2.10未満
D:最高印画濃度が1.80以上2.00未満
E:最高印画濃度が1.80未満
【0059】
最高印画濃度が1.80以上であり、A〜Dと評価された被熱転写シートは、染料が所定の濃度で発色し、染着性が良好であるものと判断した。一方、最高印画濃度が1.80未満であり、Eと評価された被熱転写シートは、染料が所定の濃度で発色せず、染着性が悪いものと判断した。
【0060】
(耐光性評価)
耐光性の評価については、各被熱転写シートに対して、先と同様の熱転写プリンタ及びインクリボンを用い、階調印画を行い、マクベス反射濃度計(TR−924)を使用して濃度の測定を行った。この濃度の測定結果をOD0とする。そして、画像にキセノンロングライフウェザーメーター(スガ試験株式会社製)でキセノン光を照射し、再びマクベス濃度計にて濃度を測定した。このキセノン照射後の濃度の測定結果をOD1とする。キセノンを照射前の濃度(OD0)と照射後の濃度(OD1)とから、次の計算式により退色率を算出し、以下のように耐光性を評価した。計算式は、退色率(%)={(OD0−OD1)/OD0}×100である。
A:退色率が5%以下
B:退色率が7.5%以下で5%よりも大
C:退色率が10%以下で7.5%よりも大
D:退色率が10%よりも大
【0061】
退色率が10%以下で、A〜Cと評価された被熱転写シートは、退色が抑えられたものと判断した。一方、退色率が10%よりも大きく、Dと評価された被熱転写シートは、退色を抑えることができなったものと判断した。
【0062】
(にじみ評価)
にじみの評価については、各被熱転写シートに対して、先と同様の熱転写プリンタ及びインクリボンを用い、幅が約1mmの線の印画行い、画像の幅の測定を行った。この測定結果をL0とする。そして、画像を60℃,85%の環境下にて1ヶ月保存した。保存後の画像の幅を測定し、この測定結果をL1として、次の計算式によりにじみ率(%)を算出し、以下のようににじみを評価した。計算式は、にじみ率(%)={(L1−L0)/L0}×100である。
A:にじみ率が5%以下
B:にじみ率が10%以下で5%よりも大
C:にじみ率が15%以下で10%よりも大
D:にじみ率が25%以下で15%よりも大
E:にじみ率が25%よりも大
【0063】
にじみ率が15%以下で、A〜Cと評価された被熱転写シートは、高温高湿環境下におけるにじみが抑えられたものと判断した。一方、にじみ率が15%よりも大きく、D及びEと評価された被熱転写シートは、高温高湿環境下においてにじみを抑えることができなったものと判断した。
【0064】
(耐ブロッキング性評価)
耐ブロッキング性については、各被熱転写シートに対して、各被熱転写シートの染料受容層側の面と被熱転写シート(ソニー株式会社製、UPC−204)のバック層側の面を合わせ、0.06KG/cmの加重をかけて、45℃で2日間保存し、染料受容層面の荒れ具合を観察し、以下のように耐ブロッキング性を評価した。
A:全く面が荒れていない
B:若干、面が荒れているが、ライトグレーを印画しても色抜けがない
C:面の荒れが酷く、色抜けがある
【0065】
色抜けがなく、A及びBと評価された被熱転写シートは、ブロッキングが抑えられたものと判断した。一方、色抜けがあり、Cと評価された被熱転写シートは、ブロッキングが抑えられなかったものと判断した。
【0066】
[被熱転写シートの評価結果]
以上の評価結果、及び、評価に用いた被熱転写シートの組成について下記の表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示すように、染料受容層中にAS樹脂とアクリル樹脂(PEMAとHEMAの共重合体)との混合物が含有されている実施例1〜12の被熱転写シートはいずれも、感度、耐光性、にじみ、耐ブロッキング性の全ての評価結果が良好であった。特に、染料受容層中にポリエステルポリオールが含有された実施例5〜8の被熱転写シートは、感度が非常に優れている結果となった。なお、PEMAとHEMAとのモノマー比が80:20〜95:5の範囲を外れる実施例9については、感度がやや劣る傾向にあった。
【0069】
一方、アクリル樹脂を含まない比較例1の被熱転写シートは、感度及び耐光性に劣っていた。また、AS樹脂を含まない比較例2〜4は、感度、耐光性、にじみ、耐ブロッキング性のいずれか1つ以上が劣っていた。また、AS樹脂とアクリル樹脂の両方を含まない比較例5は全ての評価が悪かった。さらに、アクリル樹脂としてPEMAのホモポリマーを用いた比較例6は、感度の評価が劣っていた。
【0070】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示の技術的範囲はかかる例に限定されない。本開示の技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0071】
なお、上述した本開示の好適な実施形態では、被熱転写シート100は、基材シート110上に染料受容層120を設けた2層構造としているが、このような構造には限定されない。例えば、基材シート110と染料受容層120との間に下地層を設けてもよい。また、熱転写方式の記録装置内を安定に搬送されるように、搬送機構との間の摩擦係数を制御するため、基材シート110の染料受容層120が設けられていない反対側の面にバックコート層を設けるようにしてもよい。さらに、被熱転写シート100の両面に画像を形成することができるように、基材シート110の両面に染料受容層120を設けるようにしてもよい。
【0072】
なお、以下のような構成も本開示の技術的範囲に属する。
(1)基材シートと、前記基材シート上に設けられ、スチレン及びアクリロニトリルをモノマーとする共重合体Aと2−フェノキシエチルメタクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートをモノマーとする共重合体Bとの混合物を含有する染料受容層と、を有する、被熱転写シート。
(2)前記共重合体Aと前記共重合体Bとが、50:50〜90:10の質量比で混合されている、(1)に記載の被熱転写シート。
(3)前記共重合体Aにおける前記スチレンと前記アクリロニトリルとのモル比が、70:30〜80:20である、(1)又は(2)に記載の被熱転写シート。
(4)前記共重合体Bにおける前記2−フェノキシエチルメタクリレートと2−ヒドロキシエチルメタクリレートとのモル比が、80:20〜95:5である、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の被熱転写シート。
(5)前記染料受容層が、ポリエステルポリオールをさらに含有する、(1)〜(4)のいずれかに記載の被熱転写シート。
(6)前記ポリエステルポリオールの含有量が、前記共重合体Aと前記共重合体Bとの混合物100質量部に対して5質量部以上20質量部以下である、(5)に記載の被熱転写シート。
【符号の説明】
【0073】
100 被熱転写シート
110 基材シート
120 染料受容層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートと、
前記基材シート上に設けられ、スチレン及びアクリロニトリルをモノマーとする共重合体Aと2−フェノキシエチルメタクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートをモノマーとする共重合体Bとの混合物を含有する染料受容層と、
を有する、被熱転写シート。
【請求項2】
前記共重合体Aと前記共重合体Bとが、50:50〜90:10の質量比で混合されている、請求項1に記載の被熱転写シート。
【請求項3】
前記共重合体Aにおける前記スチレンと前記アクリロニトリルとのモル比が、70:30〜80:20である、請求項1に記載の被熱転写シート。
【請求項4】
前記共重合体Bにおける前記2−フェノキシエチルメタクリレートと2−ヒドロキシエチルメタクリレートとのモル比が、80:20〜95:5である、請求項1に記載の被熱転写シート。
【請求項5】
前記染料受容層が、ポリエステルポリオールをさらに含有する、請求項1に記載の被熱転写シート。
【請求項6】
前記ポリエステルポリオールの含有量が、前記共重合体Aと前記共重合体Bとの混合物100質量部に対して5質量部以上20質量部以下である、請求項5に記載の被熱転写シート。



【図1】
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