説明

被研磨物保持材、被研磨物保持材の製造方法、および研磨方法

【課題】耐摩耗性を有する被研磨物保持材を提供すること。また、化学的機械研磨加工に使用されて使用済みとなった被研磨物保持材を使用前の形態に復元してリサイクルすることが可能な被研磨物保持材を提供すること。
【解決手段】上記課題は、本発明の繊維強化樹脂層と、前記繊維強化樹脂層の少なくとも一方の面に熱硬化性樹脂組成物から構成される熱硬化性樹脂層とを有する被研磨物保持材であって、前記熱硬化性樹脂層が、以下の(A)〜(F)の条件における研磨速度が35μm/h以下であることを特徴とする被研磨物保持材により達成される。
(A)面圧:700gf/cm2(B)テーブル回転数:40rpm(C)チャック回転数:40rpm(D)研磨液:粒径70nm以上、pH12、固形分濃度:5%のコロイダルシリカ(E)研磨液流量:150ml/min(F)研磨時間:60min。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被研磨物を保持するための被研磨物保持材、被研磨物保持材の製造方法、および研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
研磨液の化学的な溶去作用と研磨液中の砥粒による機械的な除去作用を複合させた研磨である化学的機械研磨による加工を行う際に、半導体ウエハ、ハードディスク用アルミディスクやガラスディスク、液晶表示用ガラス基板等の被研磨物を保持するために被研磨物保持材が使用される。この被研磨物保持材は、被研磨物を保持するための保持穴を有し、装着する研磨機に合わせた形状に加工されたものであり、例えば、両面研磨加工機に装着する被研磨物保持材の場合、被研磨物を保持するための保持穴の他に、サンギアおよびインターナルギアと噛み合わせるギアが外周に備えられた形状に加工されていることが多い。
【0003】
従来、被研磨物保持材としてガラス繊維織布基材エポキシ樹脂積層板が使用されているが、被研磨物に要求される平坦性等の品質は時代とともに非常に高精度になってきているものの、被研磨物保持材の耐摩耗性が十分でないため、被研磨物保持材としての使用寿命が短くなってきている。使用済みとなった被研磨物保持材は、研磨分を復元することが困難であるために被研磨物保持材としてリサイクルすることは難しく、廃棄物として多く排出されており、省資源化に有用なものが求められている。
【0004】
耐摩耗性の向上により使用寿命を長くする被研磨物保持材として、有機繊維基材を用いたものが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)が、繊維基材の材質、構成等を変更して耐摩耗性を向上させるには限界があり、またガラス繊維織布基材エポキシ樹脂積層板と同様に、研磨分を復元することが困難であるため、使用済みとなったものは廃棄物として排出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−114208
【特許文献2】特開2009−61531
【特許文献3】特許4429936
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐摩耗性を有する被研磨物保持材を提供することにある。また、もう一つの目的として、化学的機械研磨加工に使用されて使用済みとなった被研磨物保持材を使用前の形態に復元してリサイクルすることが可能な被研磨物保持材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、以下の(1)〜(16)に記載される本発明により達成される。
(1) 繊維強化樹脂層と、前記繊維強化樹脂層の少なくとも一方の面に熱硬化性樹脂組成物から構成される熱硬化性樹脂層とを有する被研磨物保持材であって、前記熱硬化性樹脂層が、以下の(A)〜(F)の条件における研磨速度が35μm/h以下であることを特徴とする被研磨物保持材。
(A)面圧:700gf/cm2
(B)テーブル回転数:40rpm
(C)チャック回転数:40rpm
(D)研磨液:粒径70nm以上、pH12、固形分濃度:5%のコロイダルシリカ
(E)研磨液流量:150ml/min
(F)研磨時間:60min
(2)前記熱硬化性樹脂組成物が熱硬化性樹脂を含む(1)に記載の被研磨物保持材。
(3)前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂の少なくとも1つを含むものである(1)または(2)に記載の被研磨物保持材。
(4)前記エポキシ樹脂が、ノボラック型のエポキシ樹脂および/またはビスフェノール型のエポキシ樹脂である(3)に記載の被研磨物保持材。
(5)前記熱硬化性樹脂が、さらに硬化剤を含むものである(1)〜(4)のいずれかに記載の被研磨物保持材。
(6)前記硬化剤が、フェノール類である(5)に記載の被研磨物保持材。
(7)前記熱硬化性樹脂組成物における硬化剤の含有量が、熱硬化性樹脂および硬化剤の合計重量を100重量部としたとき、10重量部以上、70重量部以下である(5)または(6)に記載の被研磨物保持材。
(8)前記熱硬化性樹脂組成物が繊維基材を含む(1)〜(7)のいずれかに記載の被研磨物保持材。
(9)前記熱硬化性樹脂層の厚みが10μm以上100μm以下である(1)〜(8)のいずれかに記載の被研磨物保持材。
(10)前記熱硬化性樹脂層が粘着層を介して前記繊維強化樹脂層上に構成されている(1)〜(9)のいずれかに記載の被研磨物保持材。
(11)前記繊維強化樹脂層が抄造体からなる(1)〜(10)のいずれかに記載の被研磨物保持材。
(12)前記繊維強化樹脂層が、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の少なくとも一方と、繊維状充填材とを含むものである(1)〜(11)のいずれかに記載の被研磨物保持材。
(13)前記繊維強化樹脂層が、繊維状充填材と、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の少なくとも一方とを含むシート状抄造体を一枚以上積層したものである(1)〜(12)のいずれかに記載の被研磨物保持材。
(14)前記繊維強化樹脂層が、前記シート状抄造材を、少なくとも一枚以上積層し、さらに熱処理して得られたものである(1)〜(13)のいずれかに記載の被研磨物保持材。
(15)前記繊維強化樹脂層の少なくとも一方の面に、熱硬化性樹脂層を積層する工程を含む、(1)〜(14)のいずれかに記載された被研磨物保持材の製造方法。
(16)(1)〜(15)に記載の被研磨物保持材により被研磨物を保持し、被研磨物を研磨する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐摩耗性を有する被研磨物保持材を提供することができる。その上、化学的機械研磨加工に使用されて使用済みとなった被研磨物保持材を使用前の形態に復元してリサイクルすることが可能であり、省資源化が求められる被研磨物保持材に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の被研磨物保持材の第一実施形態の模式図である。
【図2】本発明の被研磨物保持材の第二実施形態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の被研磨物保持材、被研磨物保持材の製造方法、および研磨方法について、具体的な実施形態に基いて詳細に説明する。
【0011】
本発明の被研磨物保持材は、繊維強化樹脂層と、前記繊維強化樹脂層の少なくとも一方の面に熱硬化性樹脂組成物から構成される熱硬化性樹脂層とを有する被研磨物保持材であって、
前記熱硬化性樹脂層が、以下の(A)〜(F)の条件における研磨速度が35μm/h以下であることを特徴とする被研磨物保持材。
(A)面圧:700gf/cm2
(B)テーブル回転数:40rpm
(C)チャック回転数:40rpm
(D)研磨液:粒径70nm以上、pH12、固形分濃度:5%のコロイダルシリカ
(E)研磨液流量:150ml/min
(F)研磨時間:60min
【0012】
本発明の被研磨物保持材の製造方法は、前記繊維強化樹脂層の少なくとも一方の面に、樹脂を積層する工程を含む、被研磨物保持材の製造方法である。
【0013】
本発明の研磨方法は、前記被研磨物保持材により被研磨物を保持し、被研磨物を研磨する方法である。
【0014】
<第1実施形態>
まず、本発明の被研磨物保持材の第1実施形態について説明する。
【0015】
図1は、第1実施形態に係る被研磨物保持材を説明するための図(縦断面図)である。第1実施形態における被研磨物保持材10は、熱硬化性樹脂層1と、繊維強化樹脂層2と、熱硬化性樹脂層3とがこの順に積層されている被研磨物保持材10である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、図1の上側を「上」、下側を「下」という。
【0016】
被研磨物保持材10は、以下の(A)〜(F)の条件における熱硬化性樹脂層1の研磨速度が35μm/h以下であることを特徴とする被研磨物保持材である。
(A)面圧:700gf/cm2
(B)テーブル回転数:40rpm
(C)チャック回転数:40rpm
(D)研磨液:粒径70nm以上、pH12、固形分濃度:5%のコロイダルシリカ
(E)研磨液流量:150ml/min
(F)研磨時間:60min
【0017】
ここで、前記研磨速度は、例えばModel 6EC、STRASBAUGH社製片面研磨装置等を用いて求めることができる。また、片面研磨装置に限定されず、例えば、DSM9B−V、スピードファム社製両面研磨装置等の両面研磨装置を用いて求めることもでき、前記(A)〜(F)の条件で行われれば特に装置を限定するものではない。また、前記研磨速度は、35μm/h以下であれば特に限定されないが、好ましくは30μm/h以下であり、より好ましくは25μm/h以下である。前記好ましい範囲であることにより、耐摩耗性がさらに良好となる。
【0018】
ここで、前記面圧とは、被研磨物の保持圧力であり、前記テーブル回転数とは、研磨パッドの回転数であり、前記チャック回転数とは、被研磨物及び被研磨物保持材10の回転数である。前記研磨液は、粒径が70nm以上、pH12、固形分濃度:5%のコロイダルシリカであればよく、例えば市販のNALCO2371等を使用することができる。また、前記研磨液に含まれるシリカ粒径は70nm以上であれば特に限定されないが、70nm以上、100nm以下の粒径のシリカを揃えたものでもよい。このようなシリカとして、例えば市販のNALCO2398等を使用することができる。これにより、研磨速度のバラつきを抑えることができる。また、前記研磨液流量は、前記研磨液を装置内に送液する時間あたりの量であって、研磨時間は、被研磨物保持材10の研磨開始より、研磨終了までの時間である。
【0019】
熱硬化性樹脂層1は、熱硬化性樹脂組成物から構成されるものであり、熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含んでいれば特に限定されず、光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の樹脂を含んでもよい。熱硬化性樹脂を含むことで、被研磨物保持材の耐摩耗性が上昇する。
【0020】
前記熱硬化性樹脂としては、被研磨物保持材としての使用寿命が長くなるよう研磨液に対する耐摩耗性が良好な樹脂が好ましく、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられ、これらを2つ以上含んでもよい。これらの中でも、研磨液に対する耐薬品性および剛性の点からエポキシ樹脂、ウレタン樹脂が好ましい。
【0021】
前記熱硬化性樹脂組成物に用いるエポキシ樹脂としては、分子内にエポキシ基を1つ以上有する化合物が含まれ、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂などのビスフェノール型のエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型のエポキシ樹脂、フェニレン骨格、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型のエポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するビフェニル型のエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート骨格を有するエポキシ樹脂、カルド骨格を有するエポキシ樹脂、ポリシロキサン構造を有するエポキシ樹脂、脂環式多官能のエポキシ樹脂、水添ビフェニル骨格を有する脂環式のエポキシ樹脂、水添ビスフェノールA骨格を有する脂環式のエポキシ樹脂などが挙げられ、これらを単独または2種類以上を混合した物を含むものであるが、耐摩耗性の観点から、ノボラック型のエポキシ樹脂が、成型性、加工性の観点からビスフェノール型エポキシ樹脂を含むことが好ましい。
【0022】
前記熱硬化性樹脂組成物に用いるウレタン樹脂としては、ジイソシアネートおよびポリオールを反応させて鎖延長させた熱硬化性タイプのウレタン樹脂が好ましい。
【0023】
前記熱硬化性樹脂組成物は、さらに硬化剤を含むことができる。硬化剤を含むことにより、被研磨物保持材の耐摩耗性がさらに上昇する。
前記硬化剤としては特に限定されないが、例えば、フェノール類、アミン類、チオール類等が挙げられる。このような硬化剤は、熱硬化性樹脂の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合には、フェノール樹脂を用いることが好ましく、フェノール樹脂を用いることで、エポキシ樹脂との反応が十分に進行し、耐研磨性が向上する。
【0024】
前記フェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールA、ジアリルビスフェノールA、ビフェノール、ビスフェノールF、ジアリルビスフェノールF、トリスフェノール、テトラキスフェノール、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、フェノールノボラック樹脂が好ましく、耐摩耗性がさらに向上する。
【0025】
また、前記熱硬化性樹脂組成物における硬化剤の含有量は、使用する熱硬化性樹脂や硬化剤の種類にもよるが、熱硬化性樹脂および硬化剤の合計重量を100重量部としたとき、10重量部以上、70重量部以下であることが好ましく、12重量部以上、60重量部以下であることがさらに好ましい。前記好ましい範囲内であることにより、熱硬化性樹脂と硬化剤の反応が十分に進行し、耐摩耗性が向上する。
【0026】
また、前記熱硬化性樹脂組成物は繊維状充填材を含んでいてもよい。前記繊維状充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、スチール繊維、アルミナ繊維等の無機繊維からなる繊維状充填材、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリアリレート繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、セルロース繊維等の有機繊維からなる繊維状充填材が挙げられる。これらを2種以上含んでいてもよい。これらの中でも、熱硬化性樹脂層に必要な剛性が得られやすいことから、ガラス繊維からなる繊維状充填材が主に含まれることが好ましい。
【0027】
また、前記熱硬化性樹脂組成物は繊維基材を含んでいてもよい。前記繊維基材としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、スチール繊維、アルミナ繊維等の無機繊維からなる織布、不織布等の繊維基材、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリアリレート繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、セルロース繊維等の有機繊維からなる織布、不織布等の繊維基材が挙げられる。これらを2種以上含んでいてもよい。これらの中でも、熱硬化性樹脂層に必要な剛性が得られやすいことから、ガラス繊維からなる繊維基材が主に含まれることが好ましく、例えば、ガラス織布、ガラス不繊布等が挙げられる。
【0028】
前記熱硬化性樹脂層1の厚みは、化学的機械研磨加工において被研磨物の研磨分以上の厚さがあれば特に限定されるものではないが、10μm以上、100μm以下であることが好ましく、さらに25μm以上、85μm以下であることが好ましい。前記範囲内にあることで、樹脂層の厚み精度良く積層しやすいの点で優れたものとなる。
【0029】
繊維強化樹脂層2は、特に限定されないが、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の少なくとも一方と、繊維状充填材とを含むものが好ましく、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の少なくとも一方と、繊維状充填材とを含む複合材の層で構成されるものでもよい。これにより化学的機械研磨加工において、安定した被研磨物の保持を可能とする剛性を有する。
【0030】
繊維強化樹脂層2に用いられる熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの中でも、研磨液に対する耐薬品性および剛性の点からエポキシ樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂が好ましい。
【0031】
繊維強化樹脂層2に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、超高分子量ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、ポリオキシメチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド等のポリエーテル系樹脂、ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリプロピレン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリフェニレンサルファイド等が挙げられる。これらの中でも、研磨液に対する耐薬品性および剛性の点から、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリオキシメチレンが好ましい。
【0032】
繊維強化樹脂層2に用いられる繊維状充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、スチール繊維、アルミナ繊維等の無機繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリアリレート繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、セルロース繊維等の有機繊維が挙げられる。これらの中でも、繊維強化樹脂層に必要な剛性が得られやすいことから、ガラス繊維が主に含まれることが好ましい。
【0033】
繊維強化樹脂層2は、前記繊維状充填材を含む熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の両方、またはいずれか一方を含むシート状複合材を一枚以上積層したものでもよい。また、繊維強化樹脂層2は、研磨機に装着する被研磨物保持材10の厚さとなるよう前記シート状複合材を一枚以上積層し、加熱加圧成形することにより得ることもできる。このとき、加熱加圧成形の条件は特に限定されないが、例えば熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合、加熱条件を130℃以上、200℃以下とすることが好ましく、前記範囲内で成形することで、繊維強化樹脂層に必要な剛性が得られる。また、加圧条件は3MPa以上、30MPa以下とすることが好ましく、前記範囲内で成形することで、十分な厚み精度を得ることができる。
【0034】
前記シート状複合材の製造方法としては、例えば、繊維状充填材と、前記熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の少なくとも一方とを含むスラリーを漉き込む方法や、繊維基材に前記熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の少なくとも一方とを含むスラリーを含浸させる方法等が用いられるが、これに限定されるわけではない。スラリーで漉き込む方法を用いることで、被研磨物保持材10として使用する部分以外の端材をリサイクルすることができるため、歩留まりを上げる効果を得ることができる。
【0035】
前記スラリーは、さらに熱硬化性樹脂を硬化させるための硬化剤、硬化促進剤、充填材、シランカップリング剤、着色剤、難燃剤および離型剤などの添加剤を特性が損なわれない範囲で含むことができる。
【0036】
熱硬化性樹脂層3は、熱硬化性樹脂層1と同じ樹脂構成のものを使用しても別の樹脂構成のものを使用してもよい。研磨精度の観点から、同じ樹脂構成のものを使用するのが好ましい。
【0037】
繊維強化樹脂層2の表層に熱硬化性樹脂層1を積層する方法としては、熱硬化性樹脂組成物を溶剤に溶解した溶液を繊維強化樹脂層2に塗布し、溶剤を乾燥させて、さらに熱硬化性樹脂組成物を硬化させて樹脂を積層させる方法や、繊維基材に熱硬化性樹脂組成物を溶剤に溶解した溶液を含浸させて樹脂フィルムを作製して繊維強化樹脂層2に粘着剤層を介して貼り合わせる方法等、特に限定されないが、熱硬化性樹脂層1に用いる熱硬化性樹脂組成物の樹脂フィルムを繊維強化樹脂層2へ粘着剤層を介して貼り合わせることで樹脂を積層させる方法を用いることが好ましい。このとき、予め熱硬化されたフィルムを積層させても、積層後にフィルムを硬化させてもよい。粘着剤層を介して貼り合わせる方法により、より簡便に被研磨物保持材10を使用前の形態に復元してリサイクルすることができる。
【0038】
前記粘着剤層には、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤等の両面テープを使用することができ、不織布、発砲体、樹脂フィルム等の芯材の両面に粘着剤が積層された両面テープ、フィルム基材がなく粘着剤のみの両面テープであってもよい。ここで、研磨液に対する耐薬品性、再剥離性に優れた粘着性能を有する両面テープを用いることが好ましい。
【0039】
繊維強化樹脂層2の表層に熱硬化性樹脂層3を積層する方法としては、熱硬化性樹脂層1と同様の方法で積層することができる。
【0040】
被研磨物保持材10の厚みは被研磨物の研磨目標厚みの厚みであれば特に限定されないが、500μm以上、1200μm以下が好ましく、特に好ましくは600μm以上、1000μm以下である。前記範囲内であることで、被研磨物を安定的に保持することができ、精度の良い被研磨物を得ることができる。
【0041】
被研磨物保持材10における熱硬化性樹脂層1と、繊維強化樹脂層2と、熱硬化樹脂層3の厚み比率は、熱硬化性樹脂層1の厚みをA、繊維強化樹脂層2の厚みをB、熱硬化性樹脂層3の厚みをCとすると、0.8<A/C<1.2、0.01<(A+C)/B<2.0の範囲であることが好ましく、0.9<A/C<1.1、0.015<(A+C)/B<1.0であることがさらに好ましい。前記範囲内であることで、被研磨物保持材10の剛性が十分なものとなり、被研磨物保持材10のライフが十分なものとなる。
【0042】
繊維強化樹脂層2の表層に熱硬化性樹脂層1および熱硬化性樹脂層3が設けられた被研磨物保持材10は、NC加工機等を用い、被研磨物を保持するための保持穴の穴空けをし、装着する研磨機に合わせた形状に合わせた加工をすることより得られる。
【0043】
さらに、化学的機械研磨加工に使用されて使用済みとなった被研磨物保持材10を使用前の形態に復元させる方法として、熱硬化性樹脂層1および/または熱硬化性樹脂層3の研磨分を積層して復元させる方法、または、繊維強化樹脂層2を取り出して再利用し、熱硬化性樹脂層1および/または熱硬化性樹脂層3を新たに構成する方法とがある。
【0044】
熱硬化性樹脂層1の研磨分を積層して復元させる方法としては、熱硬化性樹脂層1の熱硬化性樹脂組成物を溶剤に溶解した溶液を、使用された熱硬化性樹脂層1の表面、または取り出した繊維強化樹脂層2の上面に塗布し、溶剤を乾燥させて、さらに熱硬化性樹脂組成物を硬化させて樹脂を積層する方法がある。また、取り出した繊維強化樹脂層2の上面に熱硬化性樹脂層1を新たに構成する方法として、熱硬化性樹脂層1に用いる熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂フィルムを繊維強化樹脂層2の形状に加工し、繊維強化樹脂層2の上面に粘着剤層を介して貼り合わせることで樹脂を積層させる方法を用いることができる。熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂フィルムは、予め熱硬化したフィルムを積層させても、積層後にフィルムを熱硬化させてもよい。樹脂の積層後、不要な熱硬化性樹脂層1の樹脂が残る場合は、不要な樹脂を取り除くための仕上げ加工を行い、使用前の形態に復元する。これにより、本発明の被研磨物保持材をリサイクルすることができる。
【0045】
熱硬化性樹脂層3の研磨分を積層して復元させる方法としては、熱硬化性樹脂層1と同様の方法を用いることができる。つまり、熱硬化性樹脂層3の熱硬化性樹脂組成物を溶剤に溶解した溶液を、使用された熱硬化性樹脂層3の表面、または取り出した繊維強化樹脂層2の下面に塗布し、溶剤を乾燥させて、さらに熱硬化性樹脂組成物を硬化させて樹脂を積層する方法がある。また、取り出した繊維強化樹脂層2の下面に熱硬化性樹脂層3を新たに構成する方法として、熱硬化性樹脂層3に用いる熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂フィルムを繊維強化樹脂層2の形状に加工し、繊維強化樹脂層2の下面に粘着剤層を介して貼り合わせることで樹脂を積層させる方法を用いることができる。熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂フィルムは、予め熱硬化したフィルムを積層させても、積層後にフィルムを熱硬化させてもよい。樹脂の積層後、不要な熱硬化性樹脂層3の樹脂が残る場合は、不要な樹脂を取り除くための仕上げ加工を行い、使用前の形態に復元する。これにより、本発明の被研磨物保持材をリサイクルすることができる。
【0046】
このようにして得られた被研磨物保持材10は、半導体ウエハ、ハードディスク用アルミディスクやガラスディスク、液晶表示用ガラス基板等の被研磨物を保持するための保持穴に被研磨物を保持し、市販の研磨装置に装着し、化学的機械研磨加工を行うことができる。このとき、研磨装置は片面研磨のものであっても、両面研磨のものであってもよい。
【0047】
<第2実施形態>
次に、本発明の被研磨物保持材の第2実施形態について説明する。
【0048】
図2は、本発明の第2実施形態に係る被研磨物保持材を説明するための図(縦断面図)であって、本発明の被研磨物保持材の第2実施形態は、繊維強化樹脂層4と、繊維強化樹脂層4の一方の面に熱硬化性樹脂層5とを有する被研磨物保持材である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、図2の上側を「上」、下側を「下」という。
【0049】
以下、第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。なお、図2において、第1実施形態と同様の構成部分については、先に説明した図1と同様の符号を付している。
【0050】
被研磨物保持材20は、以下の(A)〜(F)の条件における熱硬化性樹脂層5の研磨速度が35μm/h以下であることを特徴とする被研磨物保持材である。
(A)面圧:700gf/cm2
(B)テーブル回転数:40rpm
(C)チャック回転数:40rpm
(D)研磨液:粒径70nm以上、pH12、固形分濃度:5%のコロイダルシリカ
(E)研磨液流量:150ml/min
(F)研磨時間:60min
【0051】
ここで、前記研磨速度は、例えば、Model 6EC、STRASBAUGH社製片面研磨装置等の片面研磨装置等を用いて求めることができる。前記(A)〜(F)の条件で行われれば特に装置を限定するものではない。また、前記研磨速度は、35μm/h以下であれば特に限定されないが、好ましくは30μm/h以下であり、より好ましくは25μm/h以下である。前記好ましい範囲であることにより、耐摩耗性がさらに良好となる。
【0052】
ここで、前記面圧とは、被研磨物の保持圧力であり、前記テーブル回転数とは、研磨パッドの回転数であり、前記チャック回転数とは、被研磨物及び被研磨物保持材の回転数である。前記研磨液は、粒径が70nm以上、pH12、固形分濃度:5%のコロイダルシリカであればよく、例えば市販のNALCO2371等を使用することができる。また、前記研磨液に含まれるシリカ粒径は70nm以上であれば特に限定されないが、70nm以上、100nm以下の粒径のシリカを揃えたものでもよい。このようなシリカとして、例えば市販のNALCO2398等を使用することができる。これにより、研磨速度のバラつきを抑えることができる。また、前記研磨液流量は、前記研磨液を装置内に送液する時間あたりの量であって、研磨時間は、被研磨物保持材の研磨開始より、研磨終了までの時間である。
【0053】
本実施形態における、繊維強化樹脂層4は、第1実施形態の繊維強化樹脂層2と同様のものを使用することができ、樹脂層5は第1実施形態の熱硬化性樹脂層1および3と同様のものである。
【0054】
被研磨物保持材20の厚みは被研磨物の研磨目標厚みの厚みであれば特に限定されないが、500μm以上、1200μm以下が好ましく、特に好ましくは600μm以上、1000μm以下である。前記範囲内であることで、被研磨物を安定的に保持することができ、精度の良い被研磨物を得ることができる。
【0055】
被研磨物保持材20における繊維強化樹脂層4と、熱硬化性樹脂層5との厚み比率は、繊維強化樹脂層4の厚みをD、熱硬化性樹脂層5の厚みをEとすると、0.005<E/D<1.0の範囲であることが好ましく、0.01<E/D<0.5であることがさらに好ましい。前記範囲内であることで、被研磨物保持材20の剛性が十分なものとなり、被研磨物保持材20のライフが十分なものとなる。
【0056】
本実施形態の被研磨物保持材は、半導体ウエハ、ハードディスク用アルミディスクやガラスディスク、液晶表示用ガラス基板等の被研磨物を保持するための保持穴に被研磨物を保持し、市販の研磨装置に装着し、化学的機械研磨加工を行うことができる。このとき、研磨装置は片面研磨装置であることが好ましい。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制約されるものではない。
【0058】
(実施例1)
1)繊維強化樹脂層の製造
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER1001、三菱化学製)100重量部、ノボラック型フェノール樹脂(PR−50731、住友ベークライト製)185重量部、2−フェニルイミダゾール(キュアゾール2PZ−PW、四国化成製)1重量部、ジシアンジアミド(日本カーバイド工業製)3.6重量部および、繊維状充填剤としてケブラーパルプ(1F303、東レ・デュポン製)165重量部、ガラス繊維(CS3J−888、10μm径、3mm長、日東紡製)を270重量部加え、さらに固形分の濃度が0.5質量%になるよう水に分散させてエポキシ樹脂含有スラリーを調製した。
上記スラリーに、800ppmのポリエチレンオキシド水溶液を添加し、これを抄造、脱水、80℃で2時間乾燥した後に、105℃で30分熱処理して、厚さ5mmのシート状エポキシ樹脂複合材を作製した。
上記シート状エポキシ樹脂複合材を、最上面および最下面に厚さ35μmの離型紙を重ねて、圧力10MPa、設定温度160℃で30分間加熱加圧成形を行い、厚さ620μmのガラス繊維基材エポキシ樹脂板を得た。
【0059】
2)熱硬化性樹脂層の形成
ノボラック型のエポキシ樹脂(N690−75M、固形分75%、DIC製)60重量部と、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂(jER1001B80、固形分80%、三菱化学製)40重量部と、ノボラック型フェノール樹脂(A−1082、住友ベークライト製)30重量部、2−メチルイミダゾール(キュアゾール2MZ、四国化成製)0.1重量部に、メチルエチルケトンを加え、不揮発分濃度55重量%となるようにエポキシ樹脂ワニスを調製した。
上記樹脂ワニスを、ガラス繊布(WEA−3313、平織、厚さ70μm、日東紡製)100重量部に対して、固形分で80重量部含浸させて、150℃の乾燥炉で5分間乾燥させ、樹脂含有量44重量%のシート状エポキシ樹脂複合材を作製した。
上記シート状エポキシ樹脂複合材1枚を、最上面および最下面に厚さ35μmの離型紙を重ねて、圧力4MPa、設定温度200℃で120分間加熱加圧成形を行い、離型紙を剥がして厚さ75μmの熱硬化樹脂層を得た。
作製した熱硬化性樹脂層を、上記ガラス繊維基材エポキシ樹脂板の両表面に、両面粘着テープ(DF8365K、厚さ115μm、芯材25μmPET、アクリル系粘着剤、東洋インキ工業製)で貼付し、両面を2.5μmずつ研磨して、厚さ995μmの被研磨物保持材用板を得た。
【0060】
3)研磨加工
上記被研磨物保持材用板から、被研磨物の保持穴(50mm径)7つを有する外径200mmの円形に加工した被研磨物保持材を5枚作製した。この被研磨物保持材1枚あたり1.0mm厚のアルミニウムディスク7枚を保持させ、片面研磨装置(Model 6EC、STRASBAUGH社製)を用い、以下の研磨条件で化学的機械研磨加工を施した。
(研磨加工条件)
面圧:700gf/cm2
テーブル回転数:40rpm
チャック回転数:40rpm
研磨液:粒径70nm以上、pH12、固形分濃度:5%のコロイダルシリカ(NALCO2371)
研磨液流量:150ml/min
研磨時間:15min
上記研磨加工を5枚の被研磨保持材について実施し、計35枚のアルミニウムディスクを研磨加工した。
研磨加工後の被研磨物保持材から取り出したアルミニウムディスクについて、表面状態を観察し、アルミニウムディスクの傷発生率を評価した。また、併せて上記条件で被研磨物保持材を研磨し、被研磨物保持材の研磨速度を確認した。
【0061】
4)被研磨物保持材リサイクル
研磨加工使用後の被研磨物保持材から、研磨された熱硬化性樹脂層と両面粘着テープを剥離した後、前記と同様に作製された75μm厚熱硬化性樹脂組成物を予め被研磨物の保持穴(50mm径)等を有する形状に加工して、前記と同様に両面粘着テープ(DF8365K、厚さ115μm、芯材25μmPET、アクリル系粘着剤、東洋インキ工業製)で貼付し、研磨加工使用前の状態に復元されるよう加工した。
使用前の状態に復元した被研磨物保持材を用いて、上記と同様に、35枚のアルミニウムディスクを研磨加工、傷発生率を評価した。さらに、被研磨物保持材の復元、35枚のアルミニウムディスクを研磨加工、傷発生率の評価を4回繰り返し、計5回の被研磨物保持材の復元、アルミニウムディスク35枚の傷発生率を評価した。また、併せて被研磨物保持材の研磨速度を確認した。
【0062】
(実施例2)
1)繊維強化樹脂層の製造
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピクロン850、DIC製)100重量部、ジシアンジアミド(日本カーバイド工業製)3.6重量部および2−メチルイミダゾール(キュアゾール2MZ、四国化成製)0.1重量部にジメチルホルムアミドを加え、不揮発分濃度55重量%となるようにエポキシ樹脂ワニスを調製した。
上記樹脂ワニスを、ガラス繊布(WEA−116E、平織、厚さ95μm、日東紡製)100重量部に対して、固形分で80重量部含浸させて、150℃の乾燥炉で5分間乾燥させ、樹脂含有量44重量%のシート状エポキシ樹脂複合材を作製した。
上記シート状エポキシ樹脂複合材を6枚重ね、最上面および最下面に厚さ35μmの離型紙を重ねて、圧力4MPa、設定温度200℃で120分間加熱加圧成形を行い、離型紙を剥がして厚さ620μmのガラス織布基材エポキシ樹脂積層板を得た。
【0063】
2)熱硬化性樹脂層の形成
上記ガラス織布基材エポキシ樹脂積層板の両表面に、実施例1と同様に作製された75μm厚熱硬化性樹脂組成物を両面粘着テープで貼付し、両面を2.5μmずつ研磨して、厚さ995μmの被研磨物保持材を得た。
【0064】
3)研磨加工
上記被研磨物保持材用積層板を実施例1と同様に外形および被研磨物の保持穴を加工して得られた被研磨物保持材を用いて、実施例1と同様にアルミディスクの研磨加工、傷発生率、及び被研磨物保持材の研磨速度を評価した。
【0065】
4)被研磨物保持材リサイクル
実施例1と同様に研磨加工使用後の被研磨物保持材を、研磨加工使用前の状態に復元されるよう加工した。使用前の状態に復元した被研磨物保持材を用いて、上記と同様に、35枚のアルミニウムディスクを研磨加工、傷発生率を評価した。さらに、被研磨物保持材の復元、35枚のアルミニウムディスクを研磨加工、傷発生率の評価を4回繰り返し、計5回の被研磨物保持材の復元、アルミニウムディスク35枚の傷発生率を評価した。また、併せて被研磨物保持材の研磨速度を確認した。
【0066】
(実施例3)
1)繊維強化樹脂層の製造
実施例1のエポキシ樹脂複合材の厚みを変更し、厚さ720μmのガラス繊維基材エポキシ樹脂板を得た。
【0067】
2)熱硬化性樹脂層の形成
ポリオール(ニッポラン5033、日本ポリウレタン工業製)100重量部(固形分)と、イソシアネート(コロネートL、日本ポリウレタン工業製)14重量部(固形分)を、固形分濃度30重量%となるようメチルエチルケトン100重量部に溶解し、熱硬化性樹脂ワニスを調製した。調整した熱硬化性樹脂ワニスを、ガラス板上に塗工し、140℃で40分加熱処理した。さらに塗工した樹脂を、ガラス板から剥がして、25μmの熱硬化性樹脂層を作製した。作製した熱硬化性樹脂層を、上記ガラス繊維基材エポキシ樹脂板の両表面に、両面粘着テープ(DF8365K、厚さ115μm、芯材25μmPET、アクリル系粘着剤、東洋インキ工業製)で貼付し、両面を2.5μmずつ研磨して、厚さ995μmの被研磨物保持材用板を得た。
【0068】
3)研磨加工
上記被研磨物保持材用板を実施例1と同様に外形および被研磨物の保持穴を加工して得られた被研磨物保持材を用いて、実施例1と同様にアルミディスクの研磨加工、傷発生率、及び被研磨物保持材の研磨速度を評価した。
【0069】
4)被研磨物保持材リサイクル
実施例1と同様に研磨加工使用後の被研磨物保持材を、研磨加工使用前の状態に復元されるよう加工した。使用前の状態に復元した被研磨物保持材を用いて、上記と同様に、35枚のアルミニウムディスクを研磨加工、傷発生率を評価した。さらに、被研磨物保持材の復元、35枚のアルミニウムディスクを研磨加工、傷発生率の評価を4回繰り返し、計5回の被研磨物保持材の復元、アルミニウムディスク35枚の傷発生率を評価した。また、併せて被研磨物保持材の研磨速度を確認した。
【0070】
(実施例4)
1)繊維強化樹脂層の製造
実施例1と同様に、厚さ620μmのガラス繊維基材エポキシ樹脂板を得た。
【0071】
2)熱硬化性樹脂層の形成
ノボラック型のエポキシ樹脂(N690−75M、固形分75%、DIC製)38重量部と、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂(jER1001B80、固形分80%、三菱化学製)18重量部と、ノボラック型フェノール樹脂(A−1082、住友ベークライト製)72重量部、2−メチルイミダゾール(キュアゾール2MZ、四国化成製)0.1重量部に、メチルエチルケトンを加え、不揮発分濃度55重量%となるようにエポキシ樹脂ワニスを調製した。
上記樹脂ワニスを、ガラス繊布(WEA−3313、平織、厚さ70μm、日東紡製)100重量部に対して、固形分で80重量部含浸させて、150℃の乾燥炉で5分間乾燥させ、樹脂含有量44重量%のシート状エポキシ樹脂複合材を作製した。
上記シート状エポキシ樹脂複合材1枚を、最上面および最下面に厚さ35μmの離型紙を重ねて、圧力4MPa、設定温度200℃で120分間加熱加圧成形を行い、離型紙を剥がして厚さ75μmの熱硬化樹脂層を得た。
作製した熱硬化性樹脂層を、上記ガラス繊維基材エポキシ樹脂板の両表面に、両面粘着テープ(DF8365K、厚さ115μm、芯材25μmPET、アクリル系粘着剤、東洋インキ工業製)で貼付し、両面を2.5μmずつ研磨して、厚さ995μmの被研磨物保持材用板を得た。
【0072】
3)研磨加工
上記被研磨物保持材用板を実施例1と同様に外形および被研磨物の保持穴を加工して得られた被研磨物保持材を用いて、実施例1と同様にアルミディスクの研磨加工、傷発生率、及び被研磨物保持材の研磨速度を評価した。
【0073】
4)被研磨物保持材リサイクル
実施例1と同様に研磨加工使用後の被研磨物保持材を、研磨加工使用前の状態に復元されるよう加工した。使用前の状態に復元した被研磨物保持材を用いて、上記と同様に、35枚のアルミニウムディスクを研磨加工、傷発生率を評価した。さらに、被研磨物保持材の復元、35枚のアルミニウムディスクを研磨加工、傷発生率の評価を4回繰り返し、計5回の被研磨物保持材の復元、アルミニウムディスク35枚の傷発生率を評価した。また、併せて被研磨物保持材の研磨速度を確認した。
【0074】
(比較例1)
実施例1と同様に作製したシート状エポキシ樹脂複合材を10枚重ね、最上面および最下面に厚さ35μmの離型紙を重ねて、圧力4MPa、設定温度200℃で120分間加熱加圧成形を行い、厚さ1029μmのガラス織布基材エポキシ樹脂積層板を得た。
上記ガラス織布基材エポキシ樹脂積層板の両面を17μmずつ研磨して、厚さ995μmの被研磨物保持材用積層板を得た。
上記被研磨物保持材用積層板は、研磨加工により研磨された分を復元することが困難なため、被研磨物保持材の復元、復元した被研磨物保持材による研磨加工、アルミニウムディスクの傷発生率の評価を除き、外形および被研磨物の保持穴を加工して得られた被研磨物保持材を用いて、実施例1と同様にアルミディスクの研磨加工、傷発生率、被研磨物保持材の研磨速度を評価した。
【0075】
アルミディスクの表面観察による傷発生率は、目視により評価し、以下の評価基準で評価した。評価結果を研磨速度と併せて表1に記載する。
◎:傷発生率が5%未満
○:傷発生率が5%以上、15%未満
△:傷発生率が15%以上、25%未満
×:傷発生率が25%以上
【0076】
【表1】

【0077】
表1の結果から明らかなように、本発明の被研磨物保持材は、化学的機械研磨加工に使用され、耐摩耗性を有することができる。また、使用済みとなった被研磨物保持材を復元してリサイクルすることが可能であり、復元後も被研磨物のスクラッチ傷の発生を防止できる結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の被研磨物保持材は、被研磨物のスクラッチ傷の発生を防止し、化学的機械研磨加工に使用されて使用済みとなった被研磨物保持材を復元してリサイクルすることが可能であり、省資源化が求められている被研磨物保持材として好適である。
【符号の説明】
【0079】
1 熱硬化性樹脂層
2 繊維強化樹脂層
3 熱硬化性樹脂層
4 繊維強化樹脂層
5 熱硬化性樹脂層
10 被研磨物保持材
20 被研磨物保持材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂層と、前記繊維強化樹脂層の少なくとも一方の面に熱硬化性樹脂組成物から構成される熱硬化性樹脂層とを有する被研磨物保持材であって、
前記熱硬化性樹脂層が、以下の(A)〜(F)の条件における研磨速度が35μm/h以下であることを特徴とする被研磨物保持材。
(A)面圧:700gf/cm2
(B)テーブル回転数:40rpm
(C)チャック回転数:40rpm
(D)研磨液:粒径70nm以上、pH12、固形分濃度:5%のコロイダルシリカ
(E)研磨液流量:150ml/min
(F)研磨時間:60min
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂組成物が熱硬化性樹脂を含む請求項1に記載の被研磨物保持材。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂の少なくとも1つを含むものである請求項1または2に記載の被研磨物保持材。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂が、ノボラック型のエポキシ樹脂および/またはビスフェノール型のエポキシ樹脂である請求項3に記載の被研磨物保持材。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂が、さらに硬化剤を含むものである請求項1〜4のいずれかに記載の被研磨物保持材。
【請求項6】
前記硬化剤が、フェノール類である請求項5に記載の被研磨物保持材。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂組成物における硬化剤の含有量が、熱硬化性樹脂および硬化剤の合計重量を100重量部としたとき、10重量部以上、70重量部以下である請求項5または6に記載の被研磨物保持材。
【請求項8】
前記熱硬化性樹脂組成物が繊維基材を含む請求項1〜7のいずれかに記載の被研磨物保持材。
【請求項9】
前記熱硬化性樹脂層の厚みが10μm以上100μm以下である請求項1〜8のいずれかに記載の被研磨物保持材。
【請求項10】
前記熱硬化性樹脂層が粘着層を介して前記繊維強化樹脂層上に構成されている請求項1〜9のいずれかに記載の被研磨物保持材。
【請求項11】
前記繊維強化樹脂層が抄造体からなる請求項1〜10のいずれかに記載の被研磨物保持材。
【請求項12】
前記繊維強化樹脂層が、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の少なくとも一方と、繊維状充填材とを含むものである請求項1〜11のいずれかに記載の被研磨物保持材。
【請求項13】
前記繊維強化樹脂層が、繊維状充填材と、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の少なくとも一方とを含むシート状抄造体を一枚以上積層したものである請求項1〜12のいずれかに記載の被研磨物保持材。
【請求項14】
前記繊維強化樹脂層が、前記シート状抄造材を、少なくとも一枚以上積層し、さらに熱処理して得られたものである請求項1〜13のいずれかに記載の被研磨物保持材。
【請求項15】
前記繊維強化樹脂層の少なくとも一方の面に、熱硬化性樹脂層を積層する工程を含む、請求項1〜14のいずれかに記載された被研磨物保持材の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜15に記載の被研磨物保持材により被研磨物を保持し、被研磨物を研磨する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−94884(P2013−94884A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239010(P2011−239010)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】