説明

被移植者における免疫寛容に伴うB細胞の特性

本発明は、免疫寛容を示さない対照者もしくは被移植者ではない健常な対照者と比較して、免疫寛容を示す被移植者において異なる発現パターンを有する分子マーカーを用いて、腎臓等の移植片に対する免疫寛容の発生を予測するための方法を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年5月29日出願の米国仮出願第61,182,545号に優先権を主張し、その開示は参照により、その全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦支援の研究もしくは開発の下でなされた発明に対する権利に関する陳述
本発明は、国立衛生研究所により授与された助成金番号第NO1-AI-15416号の下での政府支援によってなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
免疫抑制における20年間の進歩は、腎移植における急性拒絶反応の制御および短期間の移植片生着の両方において大幅な改善を引き起こしてきた。しかしながら、長期転帰における類似した改善は未だ達成されておらず、免疫抑制剤の生涯にわたる投与計画の病的状態に対する懸念が残されている(Nankivell et al., N Engl J Med 2003; 349(24):2326-2333(非特許文献1);Opelz, Transplantation 1995; 60(11):1220-1224(非特許文献2))。したがって、連続的な免疫抑制を必要としない長期間にわたる同種移植片の許容、すなわち移植免疫寛容として知られる状態を確立することは、腎移植における非常に望ましい治療目標である(Lechler et al., Nat Rev Immunol 2003; 3(2):147-158(非特許文献3))。
【0004】
最高で20%の被移植者がすべての免疫抑制から離脱するかもしれないと見積もられている肝移植とは異なり(Devlin et al., Hepatology 1998; 27(4):926-933(非特許文献4);Mazariegos et al., Transplantation 1997; 63(2):243-249(非特許文献5);Ramos et al., 1995; 59(2):212-217(非特許文献6);Koshiba et al., Transpl Immunol 2007; 17(2):94-97(非特許文献7))、腎同種移植片に対する免疫寛容はずっと少ないようである(Koshiba et al., 2007(非特許文献7);Brouard et al., Am J Transplant 2005; 5(2):330-340(非特許文献8);Roussey-Kesler et al., Am J Transplant 2006; 6(4):736-746(非特許文献9);Brouard et al., Proc Natl Acad Sci USA 2007; 104(39):15448-15453(非特許文献10))。腎移植の多数の動物モデルにおいて免疫寛容が達成されてきたが、ヒトにおいて長期間にわたる移植免疫寛容を誘導する試みはほとんど成功しておらず、免疫抑制の最小化もしくは離脱の間の移植腎の潜在的な損失によって複雑化されているのかもしれない(Koshiba et al. 2007(非特許文献7);Brouard et al., 2007(非特許文献10);Kingsley et al., Transpl Int 2007; 20(10):828-841(非特許文献11))。
【0005】
いくつかの最近の研究において、肝および腎移植における免疫寛容のバイオマーカーの同定が試みられてきた(Brouard et al., 2007(非特許文献10);Seyfert-Margolis V, Turka LA. Marking a path to transplant tolerance. J Clin Invest 2008; 118(8):2684-2686(非特許文献12))。肝移植では、免疫抑制中の安定な者と比較して免疫寛容を示す肝移植の被移植者では、γδT細胞(特にTCRδ1細胞)の割合および形質細胞様樹状細胞の骨髄樹状細胞に対する比率が増大していることが示された(Mazariegos et al., Am J Transplant 2003; 3(6):689-696(非特許文献13);Martinez -Llordella et al., Am J Transplant 2007; 7(2):309-319(非特許文献14))。加えて、免疫抑制中の安定な者および健常な対照者と比較して、免疫寛容を示す参加者は発現遺伝子の特定のパターンを伴っていることが示された(Martinez-Llordella et al., J Clin Invest 2008; 118(8):2845-2857(非特許文献15))。同様に、免疫寛容を示す腎移植の被移植者は、発現遺伝子およびT細胞受容体遺伝子の使用について独特のパターンを有することが、2つの研究によって示されてきた(Brouard et al. 2005(非特許文献8);Brouard et al. 2007(非特許文献10))。
【0006】
免疫寛容のバイオマーカーは、免疫抑制剤を離脱もしくは最小化するための良い候補者である腎被移植者等の被移植者の選択の予測を促し、これにより長期間にわたる免疫抑制療法の使用に伴う毒性を最小化する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nankivell et al., N Engl J Med 2003; 349(24):2326-2333
【非特許文献2】Opelz, Transplantation 1995; 60(11):1220-1224
【非特許文献3】Lechler et al., Nat Rev Immunol 2003; 3(2):147-158
【非特許文献4】Devlin et al., Hepatology 1998; 27(4):926-933
【非特許文献5】Mazariegos et al., Transplantation 1997; 63(2):243-249
【非特許文献6】Ramos et al., 1995; 59(2):212-217
【非特許文献7】Koshiba et al., Transpl Immunol 2007; 17(2):94-97
【非特許文献8】Brouard et al., Am J Transplant 2005; 5(2):330-340
【非特許文献9】Roussey-Kesler et al., Am J Transplant 2006; 6(4):736-746
【非特許文献10】Brouard et al., Proc Natl Acad Sci USA 2007; 104(39):15448-15453
【非特許文献11】Kingsley et al., Transpl Int 2007; 20(10):828-841
【非特許文献12】Seyfert-Margolis V, Turka LA. Marking a path to transplant tolerance. J Clin Invest 2008; 118(8):2684-2686
【非特許文献13】Mazariegos et al., Am J Transplant 2003; 3(6):689-696
【非特許文献14】Martinez -Llordella et al., Am J Transplant 2007; 7(2):309-319
【非特許文献15】Martinez-Llordella et al., J Clin Invest 2008; 118(8):2845-2857
【発明の概要】
【0008】
本発明は、同種移植腎被移植者において長期間にわたって免疫抑制を管理するための重要な示唆を伴った所見に基づく。本発明は、腎、肝、および心の被移植者を含む被移植者における免疫寛容の特性を提供する。免疫抑制されている参加者の一部における増大したB細胞、および本明細書に記載された特定のマーカー遺伝子の増大の兆候は、安定した臨床経過とともに、免疫抑制の最小化を開始するための指標として有用である。免疫抑制療法が最小化されるにつれて、これらの同じマーカーは安全性を観察し、免疫寛容の状態を発生できた個人を潜在的に同定するために使用できる。明らかにされたB細胞を中心とする特性は、移植免疫寛容の機構に関する新しい見識を提供する。
【0009】
したがって、ある態様において、本発明は表Xおよび表Zに開示されたバイオマーカーからなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーを含むバイオマーカーアレイを提供する。ある態様において、アレイは表Xおよび表Zに開示されたバイオマーカーの少なくとも2、3、4、5、10、15、20、もしくはより多くを含む。ある態様において、アレイは表Zに開示されたバイオマーカーの少なくとも2、3、4、5、10、15、20、もしくはより多くを含む。ある態様において、バイオマーカーアレイはIgκV1D-13を含む。ある態様において、バイオマーカーアレイはIgκV4-1およびIgκV1D-13を含む。ある態様において、バイオマーカーアレイはIgκV4-1、IgλL1、およびIgκV1D-13を含む。ある態様において、バイオマーカーアレイはMS4A1を含まない。
【0010】
ある態様において、本発明は被移植者における移植に対する免疫寛容を予測するための方法を提供する。ある態様において、本方法は次の工程を含む:(i)被移植者からの生物学的試料において、表Xおよび表Zに開示されたバイオマーカーからなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを検出する工程;および(ii)その少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを、バイオマーカー対照からの少なくとも1つの同じバイオマーカーの発現レベルと比較する工程、これにより移植に対する被移植者の免疫寛容を予測する。ある態様において、検出の工程はPCRに基づく方法(例えばRT-PCR、qPCR)を含む。ある態様において、検出の工程はバイオマーカーアレイの使用を含む。
【0011】
ある態様において、バイオマーカーIgκV1D-13の発現が検出および比較される。ある態様において、バイオマーカーIgκV4-1およびIgκV1D-13の発現が検出および比較される。ある態様において、バイオマーカーIgκV4-1、IgλL1、およびIgκV1D-13の発現が検出および比較される。ある態様において、バイオマーカー対照は免疫寛容を示さない被移植者の個人もしくは集団であって、少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルは対照に比べて少なくとも2倍増大している。
【0012】
ある態様において、本方法は被移植者が移植に免疫寛容を示すと予測されるかどうかに応じて、被移植者のための免疫抑制療法の過程を調整することを含む。例えば、被移植者が免疫寛容を示すと予測される場合には、免疫抑制療法は減少(最小化)させるか、もしくは中止することすらできる。しかしながら、被移植者が免疫不寛容のバイオマーカーの特性を示す場合には、免疫抑制療法は標準的なレベルに戻すか、もしくは標準的なレベルで継続することができる。被移植者がまだ免疫抑制療法を開始していない場合には、もし被移植者が免疫寛容を示すと予測されたら、療法を回避することができる。被移植者がまだ移植を受けていない場合には、被移植者は移植後に免疫抑制療法の最小限の過程を受けるか、もしくは全く免疫抑制療法を受けずに開始することができる。ある態様において、本方法は被移植者を観察し、さらに必要であれば免疫抑制療法の過程を調整するために、移植後に定期的に繰り返される。
【0013】
ある態様において、本発明は被移植者のための免疫抑制療法の過程を決定するための方法を提供する。ある態様において、本方法は次の工程を含む:(i)被移植者からの生物学的試料において、表Xおよび表Zに開示されたバイオマーカーからなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを検出する工程;(ii)その少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを、バイオマーカー対照からの少なくとも1つの同じバイオマーカーの発現レベルと比較する工程;(iii)工程(ii)における比較に基づいて、被移植者が移植に免疫寛容を示すかどうかを予測する工程;および(iv)被移植者が移植に免疫寛容を示すと予測されるかどうかに応じて、被移植者のための免疫抑制療法の過程を調整する工程。
【0014】
ある態様において、バイオマーカーIgκV1D-13の発現が検出および比較される。ある態様において、バイオマーカーIgκV4-1およびIgκV1D-13の発現が検出および比較される。ある態様において、バイオマーカーIgκV4-1、IgλL1、およびIgκV1D-13の発現が検出および比較される。ある態様において、バイオマーカー対照は免疫寛容を示さない被移植者の個人もしくは集団であって、少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルは対照に比べて少なくとも2倍増大している。
【0015】
ある態様において、本方法は免疫抑制療法が開始されると直ちに実行される。ある態様において、例えば時間をかけて被移植者を観察するために、およびもし該当する場合には異なる免疫抑制療法の投与計画において、本方法は1回よりも多く実行される。ある態様において、被移植者が移植に免疫寛容を示すと予測される場合には、免疫抑制療法は減少させられる。ある態様において、被移植者が移植に免疫寛容を示すと予測される場合には、免疫抑制療法は処方されず、例えば免疫抑制療法は中止される。被移植者が免疫不寛容のバイオマーカーの特性を示す場合には、免疫抑制療法は標準的なレベルに戻すか、もしくは標準的なレベルで継続することができる。
【0016】
ある態様において、本発明は被移植者における免疫寛容を予測するための方法であって、次の工程を含む方法を提供する:(i)被移植者からの生物学的試料において、CD20、FOXP3、パーフォリン、およびCD3からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを検出する工程;および(ii)その少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを、バイオマーカー対照からの少なくとも1つの同じバイオマーカーの発現レベルと比較する工程;これにより被移植者の免疫寛容を予測する。ある態様において、生物学的試料は尿沈渣細胞を含む。ある態様において、検出の工程はPCRに基づく方法(例えばRT-PCR、qPCR)を含む。ある態様において、検出の工程はアレイの使用を含む。ある態様において、検出の工程はタンパク質の検出方法(例えばフローサイトメトリーもしくは他の免疫測定法)を含む。バイオマーカーの任意の1つ、2つ、3つ、もしくは4つを単独または任意の組合せ、例えばCD20およびFOXP3、もしくはFOXP3およびパーフォリン、もしくはCD20、CD3、およびFOXP3等で検出できる。
【0017】
ある態様において、この尿沈渣細胞法は被移植者のための免疫抑制療法の過程を決定するために、単独でもしくは本明細書に記載された他の予測方法と組み合わせて使用できる。例えば、CD20、FOXP3、パーフォリン、およびCD3より選択される少なくとも1つのバイオマーカーは、移植の前および後、および/または移植後の様々な時期に検出できる。被移植者が免疫寛容を示すと予測される場合には、免疫抑制療法は最小化もしくは中止できる。しかしながら、被移植者が免疫不寛容のバイオマーカーの特性を示す場合には、免疫抑制療法はより高いレベルもしくは標準的なレベルに戻すことができる。
【0018】
ある態様において、本発明は移植に対する被移植者の免疫寛容を予測するための方法であって、次の工程を含む方法を提供する:(i)被移植者からの生物学的試料において、試料中の少なくとも1つのB細胞集団の量を検出する工程;および(ii)その少なくとも1つのB細胞集団の量を、B細胞対照からの生物学的試料中の少なくとも1つの同じB細胞集団の量と比較する工程であって、ここでその少なくとも1つのB細胞集団が全B細胞、ナイーブB細胞、記憶B細胞、移行性B細胞、およびCD86+B細胞より選択される方法。ある態様において、検出の工程は蛍光標識細胞分取(FACS)を含む。ある態様において、生物学的試料は全血試料もしくは赤血球の除去されている血液試料である。B細胞集団の任意の1つ、2つ、3つ、4つ、もしくは5つを単独または任意の組合せで検出できる。例えば、ナイーブB細胞および移行性B細胞、もしくは全B細胞、ナイーブB細胞および移行性B細胞、もしくは全B細胞、移行性B細胞、および記憶B細胞等。
【0019】
ある態様において、B細胞はCD19の発現に基づいて検出される。ある態様において、ナイーブB細胞はCD19、IgM、およびIgDの発現、ならびにCD27の低いもしくは検出不可能な発現に基づいて検出される。ある態様において、記憶B細胞はCD19、IgM、IgD、およびCD27の発現に基づいて検出される。ある態様において、CD86+B細胞はCD19およびCD86の発現に基づいて検出される。ある態様において、移行性B細胞はCD19、CD38、CD24、およびIgDの発現に基づいて検出される。ある態様において、移行性B細胞はIL-10、TGF-β、および/または他の免疫調節性サイトカインの発現をさらに試験される。ある態様において、B細胞のより小さい亜集団が検出および比較される(例えば、T1およびT2移行性B細胞(CD38CD24)、スイッチ記憶(switched memory)(CD27IgD)、CD27記憶(CD27IgD)、ナイーブおよびT3移行性(CD27IgD)、アンスイッチ記憶(unswitched memory)(CD27IgD)、および形質芽細胞(CD27CD38IgD))。
【0020】
ある態様において、このB細胞検出方法は被移植者のための免疫抑制療法の過程を決定し、および/または移植後に患者を観察するために、単独でもしくは本明細書に記載された他の予測方法と組み合わせて使用できる。例えば、少なくとも1つのB細胞集団は、移植の前および後、および/または移植後の様々な時期に検出できる。被移植者が免疫寛容を示すと予測される場合には、免疫抑制療法は最小化もしくは中止できる。しかしながら、被移植者が免疫不寛容のバイオマーカーの特性を示す場合には、免疫抑制療法はより高いレベルもしくは標準的なレベルに戻すことができる。
【0021】
ある態様において、本明細書に記載された予測方法は、例えば最小化された免疫抑制療法を用いるか、もしくは免疫抑制療法を用いずに、被移植者が移植細胞に免疫寛容を示すかどうかを予測するために、単独もしくは任意の組合せで使用できる。ある態様において、予測は表XおよびZからの少なくとも1つのバイオマーカーの検出および比較、ならびに少なくとも1つのB細胞集団の量の検出および比較に基づいて行うことができる。ある態様において、予測は表XおよびZより選択される少なくとも1つのバイオマーカーの検出および比較、ならびにCD20、FOXP3、CD3、およびパーフォリンより選択される少なくとも1つのバイオマーカーの検出および比較に基づいて行うことができる。ある態様において、予測はCD20、FOXP3、CD3、およびパーフォリンより選択される少なくとも1つのバイオマーカーの検出および比較と組み合わせた、少なくとも1つのB細胞集団の量の検出および比較に基づいて行うことができる。ある態様において、3つの方法のすべてが実行される。
【0022】
ある態様において、予測は免疫抑制療法の過程を決定し、および/または時間をかけて被移植者を観察するために、単独もしくは任意の組合せで使用できる。ある態様において、1つよりも多い予測方法が1回よりも多く使用される。ある態様において、例えば免疫抑制療法の最初の過程を決定するために1つよりも多い予測方法が1回使用されるが、被移植者を観察し、免疫抑制療法を調整すべきかどうかを決定するために、より少ない方法、例えば1つの方法のみが使用される。
【0023】
本明細書に記載された方法のために、バイオマーカーもしくはB細胞の対照は、次からなる群より選択できる:(i)免疫寛容を示さない個人の被移植者;(ii)免疫寛容を示さない被移植者の集団;(iii)被移植者ではない個人の健常者;(iv)被移植者ではない健常者の集団;および(v)その被移植者からの異なる時期に採取された試料。異なる試験のための対照は、異なる供給源(例えば1つのバイオマーカー対照については被移植者ではない健常者で、別のバイオマーカー対照については免疫寛容を示さない被移植者)から、もしくは同じ供給源(例えばバイオマーカーおよびB細胞の対照の両方について免疫寛容を示さない被移植者)から得ることができる。本明細書に記載された任意の方法について、1つよりも多い対照を使用できる。
【0024】
上記した方法は、コンピュータおよび自動システムの助けを借りて実施できる。ある態様において、検出の工程(例えばバイオマーカーの発現レベル、細胞表面マーカーのレベル等の検出)は、コンピュータの助けを借りて自動的に実行される。ある態様において、コンピュータは前の工程で検出されたデータを記録する。ある態様において、比較の工程はコンピュータによって実行される。ある態様において、コンピュータは被移植者からの試料に、例えば免疫寛容を示す、免疫寛容を示さない、免疫抑制療法に応答する等の予測もしくは診断を割り当てる。ある態様において、コンピュータは適当な対照、例えば免疫寛容を示さない被移植者もしくは被移植者ではない健常者についてのデータを含む。このようにして、コンピュータに保存されたデータは対照の役割を果たすことができ、新規の被移植者の各試料とともに使用される対照試料を得る必要性、もしくは対照試料の貯蔵を維持する必要性を軽減する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】TOL参加者は、SI参加者と比較して独特の発現パターンを呈する。TOL対SIの間で差次的に発現する(TOL群において>2.0の倍率変化で過剰発現する)30遺伝子の階層的クラスタリング。TUBB2Aは示されていない。B細胞特異的遺伝子を「+」で示した。
【図2】尿沈渣細胞のリアルタイムPCR遺伝子発現解析。(A)TOLにおいて、SIおよびHC参加者よりも高いCD20発現。(B)TOLにおいて、HC参加者よりも増大したFOXP3発現。(C)TOLにおいて、HC参加者よりも高いCD3発現。(D)TOLにおいて、HC参加者よりも高いパーフォリン発現。箱はIQRを表す;髭は1.5×IQRを表す;この範囲を超える値は異常値と考え、丸で示す。統計的に有意な相違についてはP値を示す。
【図3】末梢血の多重RT-PCRによって、TOL-TRNおよびSI-TRN群の間でmRNAのコピー数が有意に異なる31遺伝子が同定された。転写産物の相対的な発現レベルをヒートマップ上に示す。
【図4】TOLをSIから最もよく識別する転写産物。log2で正規化された分子数で表された、19個のTOL-TRNおよび24個のSI-TRN試料ならびに6個のTOL-TSTおよび6個のSI-TST試料のIGKV1D-13、IGKV4-1、およびIGLL1の多重RT-PCR遺伝子発現レベル。
【図5】差次的に発現するとして同定された31個の中で最良の分類子であることが見出された3遺伝子についての、log2で正規化されたmRNAコピー数の箱髭図。(A)IGKV1D-13。(B)IGKV4-1。(C)IGLL1。遺伝子は、それらがTOLについて最良の予測値を有することが見出されたLDAに由来する(表6および7)。箱はIQRを表す;髭は1.5×IQRを表す;この範囲を超える値は異常値として示す。統計的に有意な相違についてはP値を示す。
【図6】全血試料の5色フローサイトメトリーによって、B細胞サブセットの異なる数が示される。(A)CD19細胞として定義される全B細胞。TOL、SI、およびHCコホートの全B細胞のカウントは、それぞれ287、120、および176細胞/μlであった。(B)CD19CD27IgMIgD細胞として定義されるナイーブB細胞。TOL、SI、およびHCコホートのナイーブB細胞のカウントは、それぞれ190、61、および90細胞/μlであった。(C)CD27IgMIgDとして定義される記憶B細胞。TOLおよびHCの記憶B細胞サブセットの平均数は、それぞれ54.2および20.8細胞/μlであった。(D)CD86CD19として定義されるCD86B細胞。TOLおよびHCコホートのCD86CD19B細胞の平均数は、それぞれ22および4.5細胞/μlであった。すべての値はリンパ球ゲートのパーセントに、同じ試料についてコールターカウンターで得た全wbcカウントを乗じて算出したlog2絶対数で示した。箱はIQRを表す;髭は1.5×IQRを表す;この範囲を超える値は異常値として示す。統計的に有意な相違についてはP値を示す。
【図7】ITNおよび欧州IOTの試料の両方からの凍結PBMCの9色フローサイトメトリー。(A)リンパ球ゲートにおけるCD19細胞のパーセントとして表される全B細胞。(B)全CD19ゲートのパーセントとして示されるCD19CD27IgDで定義されるナイーブB細胞。(C)全CD19ゲートのパーセントとして示されるCD19CD38CD24IgDで定義される移行性B細胞。箱はIQRを表す;髭は1.5×IQRを表す;この範囲を超える値は異常値として示す。統計的に有意な相違についてはP値を示す。
【図8】分取されたB細胞の細胞内サイトカイン染色。(A)未刺激の移行性B細胞ならびにPMAおよびイオノマイシンで刺激されたB細胞におけるIL-10の細胞内サイトカインフローサイトメトリー測定によって、未刺激ならびにPMAおよびイオノマイシン刺激群の両方において、SI参加者ではIL-10を発現する移行性B細胞がほとんどか全く存在せず、TOLおよびHC参加者ではIL-10発現移行性B細胞がより多いことが判明した。(B)未刺激の移行性B細胞ならびにPMAおよびイオノマイシンで刺激された移行性B細胞におけるTGF-βの細胞内フローサイトメトリーサイトカイン測定によって、未刺激ならびにPMAおよびイオノマイシン刺激群において、TGF-β発現細胞の数に相違がないことが判明した。横線は中央値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の詳細な説明
I.序論
連続的な免疫抑制を必要としない長期間にわたる同種移植片の許容、すなわち移植免疫寛容として知られる状態を確立することは、固形臓器移植における非常に望ましい治療目標である。どの被移植者が免疫抑制の離脱もしくは最小化によって恩恵を受けるかを決定することは、免疫寛容を予測するバイオマーカーによって大いに促されるであろう。
【0027】
本発明者らは、免疫寛容を示す腎移植の被移植者の最も大きい公知のコホート(N=25)であって、そのうちの20名が服薬不履行のために免疫抑制を受けることを中止しているコホートを採用した。選択された免疫パラメーターを、(1)免疫寛容を示す腎移植の被移植者(TOL)、(2)免疫抑制中であると同時に同種移植片機能が安定している腎移植の被移植者(SI)、および(3)健常な(移植を受けていない)対照者(HC)の中で比較した。
【0028】
免疫寛容を示すコホートは、臓器提供者とHLA分子がよく一致しており、免疫抑制を受けている被験者に比べて、全B細胞数ならびにB細胞の分化および活性化遺伝子の発現が増大していた。このB細胞の特性は、免疫寛容を示す参加者において、免疫抑制を受けている者に比べて尿沈渣細胞におけるCD20 mRNAの上方制御ならびに末梢血のナイーブおよび移行性B細胞数の亢進を伴っていた。免疫寛容を非常によく予測する差次的に発現しているB細胞の遺伝子を、IGKV1D-13を含む2つもしくは3つの組に絞ることができた。B細胞関連バイオマーカーは、患者の新規の試験セットにおいて免疫寛容を非常によく予測することが示される。これらのマーカーは、どの腎移植の被移植者が免疫抑制の離脱もしくは最小化によって恩恵を受けるかを予測する手段として臨床試験のための、そして免疫抑制から離脱している間の状態を観察するための有力な候補である。
【0029】
本発明は、移植に対する個人の免疫寛容を予測する免疫寛容(TOL)バイオマーカーも提供する。表XおよびZに開示されたバイオマーカーは、SI腎移植の被移植者と比較してTOL腎移植の被移植者においてより高いレベルで発現しており、例えば発現はSI被移植者に比べて、TOL被移植者では少なくとも1.5、2、3、5、7、もしくは10倍高い。バイオマーカーは、SI腎移植の被移植者と比較してTOL腎移植の被移植者においてより低いレベルで発現している、例えば少なくとも1.5、2、3、5、7、もしくは10倍低い発現のマーカーも含む。さらに、マーカーはTOL腎移植の被移植者もしくはSI腎移植の被移植者において差次的に修飾または合成されている分子、例えば正常細胞で発現している分子と比較して欠失、付加もしくは変異を含む分子であり得る。
【0030】
II.定義
以下の略語が全体にわたって使用される:
TOL:免疫寛容を示す腎移植の被移植者
SI:標準的な免疫抑制療法を受けている腎移植の被移植者
CAN:慢性移植腎症
HC:健常な、被移植者ではない対照者
TRN:トレーニング
TST:試験
HLA:ヒト白血球抗原
Cr:血清クレアチン
FACS:蛍光標識細胞分取
ITN:Immune Tolerance Network
IOT:Indices of Tolerance
【0031】
「マーカー」もしくは「バイオマーカー」という用語は、細胞内で発現し、細胞の表面上で発現し、もしくは細胞によって分泌される分子であって、特定の状態を予測または診断するのに有用な分子を指す。バイオマーカーは、通常はタンパク質、核酸、炭水化物、もしくは脂質である。マーカーは、これらの分子のリン酸化、メチル化、グリコシル化、および別の方法で修飾された形態を含む。本発明の目的では、バイオマーカーは腎移植に対する個人の免疫寛容を予測し、腎移植に対する個人の免疫寛容を診断し、腎移植に対する個人の免疫寛容の予後を提供し、および腎移植に対する個人の免疫寛容の誘導における薬剤の選択的な標的化に有用である。
【0032】
当業者には当然のことながら、各マーカーは単独でもしくは組み合わせて使用できる。現在開示されているマーカーは、本明細書に記載された任意の用途、例えば免疫寛容の予測、診断、もしくは予後のために、他の遺伝子発現の特性からの他のマーカーと併せても使用できる。
【0033】
「免疫寛容を示す」という用語は、特定の抗原もしくは抗原群に対する免疫応答が減少または消失した個人を指す。本発明との関連では、個人は彼もしくは彼女が移植細胞を拒絶(すなわち、移植細胞に対して有意な免疫応答を開始)しない場合に免疫寛容を示すと考えられる。ある場合において、免疫寛容を示す個人は免疫抑制療法がない場合ですら移植細胞を拒絶しない。本発明との関連では、個人が移植細胞を拒絶する場合に個人は「免疫寛容を示さない」と考えられる。免疫寛容を示さない個人は、免疫抑制療法(例えば標準的な免疫抑制)によって拒絶反応が制御されている者、および移植細胞に対する活発な免疫応答を体験している者を含む。
【0034】
通常は、関心対象のポリヌクレオチドもしくはポリペプチドのレベルは「生物学的試料」において検出される。「生物学的試料」とは、動物からの細胞もしくは細胞集団または一定量の組織もしくは体液を指す。ほとんどの場合、試料は動物、例えばヒトから取り出されている。「生物学的試料」は生検および剖検の試料等の組織切片および組織学の目的で採取された凍結切片を含む。生物学的試料は、血液および血液画分もしくは血液製剤(例えば、血清、血漿、血小板、赤血球等)、痰、リンパ組織、培養細胞、例えば初代培養物、外植片、および形質転換細胞、または便、尿等からの画分も含む。生物学的試料は通常、真核生物、最も好ましくは霊長類、例えばチンパンジーもしくはヒト;ウシ;イヌ;ネコ;齧歯類、例えばモルモット、ラット、マウス;ウサギ等の哺乳類;鳥類;爬虫類;または魚類から得られる。通常は、「生物学的試料」は動物からの細胞を含むが、この用語は免疫寛容に伴うポリヌクレオチドもしくはポリペプチドのレベルの測定に使用できる血液、唾液、もしくは尿の非細胞画分等の非細胞性の生物学的材料も指すことができる。
【0035】
「拒絶反応」という用語は、移植された臓器もしくは組織が被移植者の体に許容されない状態を指す。拒絶反応は、移植された臓器もしくは組織を攻撃する被移植者の免疫系によってもたらされる。拒絶反応は、移植の数日後から数週間後(急性)もしくは移植の数カ月後から数年後(慢性)に起こり得る。急性拒絶反応は、ある程度までは(一卵性双生児の間のものを除く)すべての移植において起こり得る。非常に血管新生した(血管に富んだ)腎臓もしくは肝臓等の組織は、しばしば急性拒絶反応による最も早い犠牲となる。急性拒絶反応の症状の発現は、最初の腎移植の約60〜75%で生じる。慢性拒絶反応は、ほとんど理解されていない慢性炎症および移植組織に対する免疫応答による拒絶反応である移植片拒絶の場合を指す。
【0036】
「免疫抑制療法」は、免疫系の賦活化もしくは効能を減少させる行為を指す。移植生物学においては、ほとんどの場合、免疫機能を抑制する化学療法剤もしくは生物学的薬剤の使用を伴う。そのような薬剤の例示的な一覧表は次のものを含む:カルシニューリン阻害剤(例えば、シクロスポリン、タクロリムス)、哺乳動物のラパマイシン標的(mTOR)の阻害剤(例えば、シロリムス、エベロリムス)、抗増殖剤(例えば、アザチオプリン、ミコフェノール酸)、コルチコステロイド(例えば、プレドニゾン、プレドニゾロン、ハイドロコルチゾン)、および抗体(例えば、バシリキシマブ、ダクリズマブ)。コルチコステロイド、カルシニューリン阻害剤、および抗増殖剤の併用は、三剤併用と呼ばれる。
【0037】
免疫抑制療法の「最小化された」もしくは「最小限の」過程とは、免疫応答を回避できる免疫抑制治療法の最低投与量を提供するものである。例えば、患者に与えられる免疫抑制剤の投与量もしくは数が、類似した健康プロファイルを有する似たような患者に通常与えられるよりも少ない場合に、療法の過程は最小化されたと考えられる。一つの例として、最小化された療法の投与計画とは、標準的な多剤投与計画とは逆に、ラパマイシンもしくはプレドニゾン等の免疫抑制剤を1つだけ用いる治療を指すことができる。最小化された療法は、選択された免疫抑制剤の減少させた投与量も指すことができる。免疫抑制剤の投与量は、拒絶反応の兆候について患者を注意深く観察しながら、時間をかけて次第に減少させることができる。標準的な観察手段は本明細書に記載されており、クレアチニンクリアランスおよび糸球体濾過率を含む。
【0038】
「生検」は、診断もしくは予後の評価のために組織試料を取り出す過程、および組織標本それ自体を指す。本発明の診断および予後の方法には、当技術分野において公知の任意の生検技術を適用できる。適用される生検技術は、他の因子の中でも、評価される組織の種類(例えば、皮膚、大腸、前立腺、腎臓、膀胱、リンパ節、肝臓、骨髄、血液細胞等)に応じて決まる。代表的な生検技術は、切除生検、切開生検、針生検、外科生検、および骨髄生検を含むが、それらに限定されない。内視鏡検査もしくは蛍光透視法によって行われる診断または予後では、通常、標的組織内からの細胞懸濁液を得る「コア針生検」もしくは「穿刺吸引生検」が必要となり得る。生検技術は、例えばHarrison's Principles of Internal Medicine, Kasper, et al, eds., 16th ed., 2005の第70章および第V部の全体を通して論じられている。
【0039】
「過剰発現する」、「過剰発現」もしくは「過剰発現した」または「上方制御された」という用語は、対照と比較して検出可能な程度に、より高いレベルで転写もしくは翻訳されるタンパク質もしくは核酸(RNA)を互換的に指す。この用語は、対照と比較した転写、転写後プロセシング、翻訳、翻訳後プロセシング、細胞局在(例えば細胞小器官、細胞質、核、細胞表面)、ならびにRNAおよびタンパク質の安定性による過剰発現を含む。過剰発現はmRNA(すなわちRT-PCR、PCR、ハイブリダイゼーション)もしくはタンパク質(すなわちELISA、免疫組織化学的技術)を検出するための従来型の技術を用いて検出できる。過剰発現は、正常細胞と比較して10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくはより多くなり得る。特定の場合において、過剰発現は対照と比較して転写または翻訳が1倍、2倍、3倍、4倍、もしくはそれを超えてより高いレベルである。
【0040】
「過小発現する」、「過小発現」もしくは「過小発現した」または「下方制御された」という用語は、対照と比較して検出可能な程度に、より低いレベルで転写もしくは翻訳されるタンパク質もしくは核酸を互換的に指す。この用語は、対照と比較した転写、転写後プロセシング、翻訳、翻訳後プロセシング、細胞局在(例えば細胞小器官、細胞質、核、細胞表面)、ならびにRNAおよびタンパク質の安定性による過小発現を含む。過小発現はmRNA(すなわちRT-PCR、PCR、ハイブリダイゼーション)もしくはタンパク質(すなわちELISA、免疫組織化学的技術)を検出するための従来型の技術を用いて検出できる。過小発現は、対照と比較して10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくはより少なくなり得る。特定の場合において、過小発現は対照と比較して転写または翻訳が1倍、2倍、3倍、4倍、もしくはそれを超えてより低いレベルである。
【0041】
「差次的に発現した」もしくは「差次的に制御された」という用語は、通常、本発明との関連では、少なくとも1つの他の試料と比べて、ある試料において過剰発現した(上方制御された)もしくは過小発現した(下方制御された)タンパク質または核酸を指す。
【0042】
「対照」試料もしくは値は、試験試料との比較のために基準、たいていは既知の基準として機能する試料を指す。例えば、試験試料は免疫寛容の状態が不明な患者から採取でき、既知の免疫寛容を示す患者、既知のSI患者、および既知の正常な(被移植者ではない)個人からの対照試料と比較できる。対照は類似した個人の集団、例えば類似した医学的背景を有する免疫寛容を示す患者、もしくは同じ年齢、体重等の被移植者ではない者から集められた平均値を表すこともできる。対照値は同じ個人から、例えばより早期に得られた試料、疾患前、もしくは移植前から得ることもできる。ある場合において、開示されたバイオマーカーの発現を、試験される組織試料(例えば、末梢血、IgM+/IgD+ B細胞等)において比較的安定であり続けるハウスキーピング遺伝子のものと比べることによって、一個人の中でもしくは個人の間で対照を比較できる。
【0043】
当業者は、与えられた状況においてどの対照が役立つかを理解し、対照値との比較に基づいてデータを解析することができる。対照はデータの重要性を決定するためにも役立つ。例えば、与えられたパラメーターのための値が対照において大きく異なる場合には、試験試料における変動は重要とは考えられない。
【0044】
「被移植者」とは、医学的に管理された治療計画の一部として移植細胞もしくは組織を受け取ったか、受け取るであろう個人である。「臓器提供者」とは、その細胞もしくは組織を提供する個人である。「被移植者ではない者」とは、移植材料を受け取っていない個人である。
【0045】
本明細書で使用される「移植片」とは、個人に導入される細胞、組織、もしくは臓器を指す。移植材料の供給源は、培養細胞、別の個人からの細胞、もしくは同じ個人からの細胞(例えば、細胞がインビトロで培養された後)であり得る。例示的な臓器移植片は腎臓、肝臓、心臓、肺、および膵臓である。
【0046】
B細胞集団は本明細書に記載されている。これらの集団は一般に、フローサイトメトリー(例えばFACS)および、より伝統的な遺伝子発現検出法(例えばRT-PCRもしくは免疫測定法)を用いて検出できる特定の細胞表面マーカーの発現によって定義される。B細胞はCD19の発現(CD19+)によって同定できる。ナイーブB細胞はCD19+/CD27−/IgM+/IgD+として同定される。移行性B細胞はCD19+/CD38+/CD24+/IgD+として同定される。記憶B細胞はCD19+/CD27+/IgM+/IgD+として同定される。
【0047】
当業者には理解されるように、与えられたB細胞集団の量は多くの方法で表示できる。例えば、集団の量は(例えば全B細胞もしくは全白血球に対する)比較パーセント、絶対数、もしくは濃度(例えば、細胞/ml)として表示できる。B細胞は移植組織、リンパ液、リンパ節、もしくは他の免疫臓器、尿等から得ることができるが、B細胞試料は通常、全血もしくは血液細胞画分から得られる。
【0048】
「同一の」もしくはパーセント「同一性」という用語は、2以上の核酸もしくはポリペプチド配列との関連では、同じかまたはBLASTもしくはBLAST 2.0配列比較アルゴリズムを用いて以下に記載された規定値のパラメーターで測定するか、または手動の整列および目視検査で測定すると、特定のパーセントの同じアミノ酸残基もしくはヌクレオチド(すなわち、比較ウィンドウもしくは指定された領域にわたって最大に一致するように比較および整列させた場合に、特定の領域にわたって約60%の同一性、好ましくは65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくはより高い同一性)を有する2以上の配列もしくは部分配列を指す(例えばncbi.nlm.nih.gov/BLAST/にあるNCBIウェブサイト等を参照)。このとき、そのような配列は「実質的に同一」と言われる。この定義は試験配列の相補も指すか、もしくは適用されてよい。この定義は欠失および/または付加を有する配列、ならびに置換を有するものも含む。以下に記載されるように、好ましいアルゴリズムはギャップ等を説明できる。好ましくは、同一性は長さが少なくとも約25アミノ酸もしくはヌクレオチド、またはより好ましくは、長さが50〜100アミノ酸もしくはヌクレオチドの領域にわたって存在する。
【0049】
配列比較のためには、一般的に1つの配列が参照配列として機能し、それに対して試験配列が比較される。配列比較アルゴリズムを使用する場合は、試験および参照配列がコンピュータに入力され、必要であれば部分配列の座標が指定され、そして配列アルゴリズムプログラムパラメーターが指定される。好ましくは、規定値のプログラムパラメーターを使用でき、もしくは代わりのパラメーターを指定できる。その後、配列比較アルゴリズムがプログラムパラメーターに基づいて参照配列と比較した試験配列のパーセント配列同一性を計算する。
【0050】
本明細書で使用される「比較ウィンドウ」は、ある配列が同じ数の連続した位置の参照配列と2つの配列が最適に整列された後に比較されてもよい、20から600まで、たいていは約50から約200、よりたいていは約100から約150からなる群より選択される、いずれか1つの数の連続した位置の断片への参照を含む。比較のための配列の整列方法は、当技術分野において周知である。比較のための配列の最適な整列は、例えば、Smith & Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482 (1981)の局所的相同性アルゴリズムによって、Needleman & Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443 (1970)の相同性整列アルゴリズムによって、Pearson & Lipman, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85:2444 (1988)の類似性検索法によって、これらのアルゴリズムをコンピュータで実行することによって(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WIにおけるGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)、もしくは手動の整列および目視検査によって(例えば、Current Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds. 1987-2005, Wiley Interscience)を参照)、行うことができる。
【0051】
パーセント配列同一性および配列類似性を決定するのに適したアルゴリズムの好ましい例はBLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムであって、それぞれAltschul et al., Nuc. Acids Res. 25:3389-3402 (1977)およびAltschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990)に記載されている。BLASTおよびBLAST 2.0は、本明細書に記載されたパラメーターとともに、本発明の核酸およびタンパク質のパーセント配列同一性を決定するのに使用される。BLAST解析を実行するためのソフトウェアは国立バイオテクノロジー情報センターを通して公的に入手可能である。このアルゴリズムは、問い合わせ配列における長さWの短い単語であって、データベース配列中の同じ長さの単語と整列させたときに、ある正の数の閾値の点数Tと一致するかもしくは満たすかのいずれかである単語を同定することによって、最初に得点の高い配列対(HSPs)を同定することを含む。Tは、隣接単語の点数の閾値(neighborhood word score threshold)と呼ばれる(Altschul et al.、前出)。これらの最初の隣接単語のヒットが、それらを含むより長いHSPsを見つける検索を開始するための種として機能する。単語のヒットは、累積的な整列の点数が増大し得る限りまで各配列に沿って両方向に伸長される。累積的な点数は、ヌクレオチドの配列の場合はパラメーターM(一致した残基対に対する報酬点数;常に>0)およびN(不一致の残基に対する罰則点数;常に<0)を用いて計算される。アミノ酸配列の場合は、累積的な点数を計算するために得点行列を使用する。各方向への単語のヒットの伸長は:累積的な整列の点数が、その最大限に達成した値から量X減少した場合;1以上の負に得点する残基の整列の累積によって、累積的な点数がゼロ以下になった場合;もしくはいずれかの配列の末端に達した場合に停止される。BLASTアルゴリズムパラメーターW、T、およびXが整列の感度および速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は規定値として、単語長(W)が11、期待値(E)が10、M=5、N=−4、および両鎖の比較を使用する。アミノ酸配列については、BLASTPプログラムは規定値として単語長が3、期待値(E)が10、およびBLOSUM62得点行列(Henikoff & Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915 (1989)を参照)整列(B)が50、期待値(E)が10、M=5、N=−4、ならびに両鎖の比較を使用する。
【0052】
「核酸」は、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチド、および一本鎖もしくは二本鎖のいずれかの形態におけるそれらのポリマー、ならびにそれらの相補を指す。この用語は、合成、天然、および非天然であって、参照核酸と類似した結合特性を有し、参照ヌクレオチドと類似した形で代謝される公知のヌクレオチド類似体または修飾骨格残基もしくは連結を含む核酸を包含する。そのような類似体の例は、ホスホロチオエート、ホスホロアミド酸、メチルホスホン酸、キラルメチルホスホン酸、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNAs)を含むが、それらに限定されない。
【0053】
他に示されない限り、特定の核酸配列は明示的に示された配列の他に、それらの保存的に修飾された変異体(例えば縮重コドン置換物)および相補配列も暗示的に包含する。具体的には、縮重コドン置換物は1つ以上の選択された(もしくはすべての)コドンの第三位を混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換した配列を生成することによって達成されてもよい(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991);Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985);Rossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。核酸という用語は、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換的に使用される。
【0054】
特定の核酸配列は、「スプライス変異体」およびタンパク質の切断型をコードする核酸配列も暗示的に包含する。同様に、核酸によってコードされる特定のタンパク質は、その核酸のスプライス変異体もしくは切断型によってコードされる任意のタンパク質を暗示的に包含する。「スプライス変異体」は、その名前が示唆するように、遺伝子の選択的スプライシングの産物である。転写後に、異なる(代わりの)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするように、最初の核酸転写産物がスプライスされてもよい。スプライス変異体が産生される機構は相違するが、エキソンの選択的スプライシングが含まれる。読み過ごし転写によって同じ核酸に由来する代わりのポリペプチドもこの定義に包含される。スプライス産物の組換え型を含む、スプライシング反応の任意の産物がこの定義に含まれる。核酸は5'末端もしくは3'末端で切断され得る。ポリペプチドは、N末端もしくはC末端で切断され得る。核酸もしくはポリペプチド配列の切断バージョンは天然に存在するか、もしくは組換えによって製造され得る。
【0055】
「標識」もしくは「検出可能部分」とは、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、化学的、もしくは他の物理的な手段によって検出可能な組成物である。例えば、有用な標識は32P、蛍光色素、高電子密度試薬、(例えば一般にELISAで用いられるような)酵素、ビオチン、ジゴキシゲニン、または例えばペプチドに放射性標識を組み入れることにより検出可能にできるか、もしくはペプチドと特異的に反応する抗体の検出に使用できるハプテンおよびタンパク質を含む。
【0056】
本発明の差次的に発現する遺伝子の核酸もしくはそれらのコードしたポリペプチドは、(核酸もしくはタンパク質に適用可能なように):(1)少なくとも約25、50、100、200、500、1000、もしくはより多くのヌクレオチドまたはアミノ酸の領域にわたって、本明細書に記載された配列に対して約60%より高い同一性、65%、70%、75%、80%、85%、90%、好ましくは91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%、またはより高い同一性を有する配列を有する;(2)抗体、例えば参照アミノ酸配列、その免疫原性断片、およびその保存的に修飾された変異体を含む免疫原に対して惹起されたポリクローナル抗体と特異的に結合する;(3)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で核酸と特異的にハイブリダイズする;(4)好ましくは、少なくとも約25、50、100、200、500、1000、もしくはより多くのヌクレオチドの領域にわたって、参照核酸配列に対して約95%より高い、好ましくは約96%より高い、97%、98%、99%、またはより高いヌクレオチド配列同一性を有する核酸配列を有する、すべての形態の核酸(例えば、遺伝子、mRNA前駆体、mRNA)、またはタンパク質、それらの多型変異体、対立遺伝子、突然変異体、および種間ホモログを指す。ポリヌクレオチドもしくはポリペプチド配列は、一般的に霊長類、例えばヒト;齧歯類、例えばラット、マウス、ハムスター;ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、もしくは任意の哺乳動物を含むが、それらに限定されない哺乳動物に由来する。本発明の核酸およびタンパク質は、天然もしくは組換え分子の両方を含む。これらの抗原の切断型および選択的スプライス型は定義に含まれる。
【0057】
III.移植患者のための療法
免疫抑制を伴う移植患者の治療管理は、2つの段階で生じる:しばしば「誘導段階」と呼ばれる第一段階、および「維持段階」と呼ばれる第二段階である。誘導段階は、移植手術に続く4カ月の間持続してもよい。免疫抑制の維持が、移植片の寿命の間ずっと急性および慢性拒絶反応を予防する鍵である。
【0058】
早期急性拒絶反応を回避するために、しばしば2種類の誘導戦略が使用される:抗体に基づく療法および積極的な早期免疫抑制である。抗体に基づく療法は、モノクローナル抗体(例えば、ムロモナブ-CD3)もしくはポリクローナル抗体または抗CD25抗体(例えば、バシリキシマブ、ダクリズマブ)を使用し、早期の移植後の期間(8週間以内)に投与される。抗体に基づく療法は、カルシニューリン阻害剤の回避もしくは投与量の減量を可能にし、恐らく腎毒性の危険性を減少させる。抗CD25抗体はカルシニューリン阻害剤の同時投与を必要とするかもしれないが、これらの作用物質は急性拒絶反応を予防するのに効果的である。何人かの患者においては、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体の有害作用プロファイルがそれらの使用を制限する。拒絶反応の危険性が最も高い患者は、ウサギ抗胸腺細胞グロブリン(サイモグロブリン)を与えられてもよい。
【0059】
積極的な早期免疫抑制は、移植の直後に最も強い免疫抑制効果を達成するために、より高い投与量で維持薬剤を使用する。患者の約50%は、移植時に抗体療法を受けない。カルシニューリン阻害剤の最も高い投与量によって、患者は増大した腎毒性の危険性にさらされ、拒絶反応の危険性が最も高い患者に対する最良の戦略ではないかもしれない。
【0060】
移植片機能が安定している患者に対しては、治療計画の個々の成分は徐々に減らすか、もしくは完全に中止することができる。多くの患者では、移植臓器の寿命の間ずっとある程度の免疫抑制を継続する。急性細胞性拒絶反応の症状の発現は、移植の20年後ですら、投薬療法の中止後に生じている。本発明は、免疫抑制療法の投与計画から安全に除外できる個人を検出する手段を提供する。
【0061】
IV.腎移植患者の拒絶反応の観察
クレアチニンの急激な上昇は、特に移植に続く最初の年には急性拒絶反応を示しているかもしれない。より長い期間にわたる緩やかな上昇は、慢性拒絶反応(例えば、慢性移植腎症(CAN))の兆候である。慢性拒絶反応はタンパク尿も伴う。通常、持続もしくは増大するすべての高レベルのクレアチニンは、生検を必要とする。上昇は、拒絶反応もしくは原発性腎疾患の兆候であり得る。
【0062】
急性拒絶反応の診断は、患者の兆候および症候を含む臨床データ、臨床検査、そして最終的には組織生検に依存している。通常は、病理学者は3つの主要な組織学的特徴を探す。第一に、移植された組織に浸潤しているT細胞の存在;これらは好酸球、血漿細胞および好中球を含む他の細胞の種類の異種採集物を伴っているかもしれない。これらの細胞の種類の割合を決定することは、拒絶反応の正確な型を診断するのに有用かもしれない。第二に、移植された組織に対する構造的傷害の兆候;この傷害の特徴は移植されている組織の種類による。最後に、移植された組織中の血管に対する傷害。
【0063】
いくつかの移植プログラムでは、正常なクレアチニンレベルを有する腎移植の被移植者が生検される。クレアチニンレベルが上昇しなくても拒絶反応は生じ得る。最初の生検において異常を認めた場合には、引き続く生検が3カ月置きに実行される。これらの異常は、免疫抑制の投薬療法において適当な変更を行うことで制御できることが多い。
【0064】
V.予測、診断、および予後の方法
本発明は、移植に免疫寛容を示す被移植者において、免疫抑制中の被移植者もしくは健常な対照者もしくは慢性同種移植片拒絶/損傷を有する被移植者と比較して、過剰発現しているマーカーの発現を検出することによって、免疫寛容を予測し、診断し、もしくは予後を提供するための方法を提供する。予測および診断は、患者もしくは患者試料において1つ以上の免疫寛容バイオマーカーポリヌクレオチドもしくは対応するポリペプチドのレベルを決定し、その後レベルをベースラインもしくは範囲と比較することを含む。一般に、ベースライン値は、生物学的試料を用いて測定した免疫抑制中の被移植者および/またはその臓器において既知の疾患/機能不全の履歴がない健常者および/または慢性移植腎症を有する腎移植の被移植者におけるポリヌクレオチドもしくは核酸のレベルの代表である。本発明のポリヌクレオチドもしくは対応するポリペプチドのレベルがベースラインの範囲から変動(上昇もしくは下降のいずれか)していることは、患者が移植された組織に免疫寛容を示す可能性が高いことを示す。
【0065】
本明細書で使用される用語「予測」は、患者が移植された腎臓もしくは組織に免疫寛容を示すか、または免疫寛容を示すかもしれない可能性の相対的評価を提供することを指す。本明細書で使用される用語「予後を提供する」とは、免疫寛容の推定可能性の予測を提供することを指す。方法は、移植された腎臓に対する免疫寛容を誘導もしくは維持、または免疫抑制療法の全部もしくは一部を中止するのに適切な療法を考案するためにも使用できる。
【0066】
本明細書で使用される用語「診断」は、提供された腎臓に対する免疫寛容の発生の傾向を検出することを指す。すべての診断方法は偽陽性および偽陰性を返す危険性をいくらか有する。診断のどの方法も、一般に100%の正確さを提供しない。
【0067】
核酸マーカーの解析は、マイクロアレイ、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づく解析、配列解析、および電気泳動解析を含むが、それらに限定されない、当技術分野において公知の技術を用いて実行できる。PCRに基づく解析の非限定的な例は、Applied Biosystemsから入手可能なTaqman(登録商標)を含む。電気泳動解析の非限定的な例は、アガロースもしくはポリアクリルアミドゲル電気泳動等のスラブゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、および変性剤濃度勾配ゲル電気泳動を含む。
【0068】
マイクロアレイ法は、Hardiman, "Microarrays Methods and Applications: Nuts & Bolts," DNA Press, 2003;およびBaldi et al., "DNA Microarrays and Gene Expression: From Experiments to Data Analysis and Modeling," Cambridge University Press, 2002に概ね記載されている。
【0069】
態様の一組において、ハイブリダイゼーションは固体支持体上で実行される。例えば、特定のバイオマーカー転写産物に選択的にハイブリダイズするプローブを表面上にスポットすることができる。便宜上、スポットは規則正しいパターンもしくはアレイで配置され、後で結果の相関付けを促すためにアレイ上のプローブの配置が記録される。核酸試料はその後、アレイにハイブリダイズされる。1つの形態において、多様な核酸(もしくは他の部分)は単一の連続表面もしくは互いに並置された多数の表面に付着させられる。
【0070】
アレイ形式では、多数の異なるハイブリダイゼーション反応を本質的に「並行して」実行できる。このことで、単一の試験実行において、速く、本質的に同時に多数のハイブリダイゼーションの評価が提供される。アレイに基づく形式でハイブリダイゼーション反応を実行する方法は、当業者には周知である(例えば、米国特許第6,040,138号;Pastinen (1997) Genome Res. 7:606-614;Jackson (1996) Nature Biotechnology 14:1685;Chee (1995) Science 274:610;WO 96/17958を参照)。
【0071】
スポットするための単純な手段は、高密度スポットアレイを産生するために自動化されてきた(例えば、米国特許第5,807,522号を参照)。この特許は、少量の生物学的試料を正確に置くために、表面に対してマイクロキャピラリーを軽く打ち付ける自動化システムの使用を記載している。高密度アレイを生成するために、この過程が繰り返される。アレイはオリゴヌクレオチド合成技術を用いて生産することもできる。したがって、例えば米国特許第5,143,854号ならびにPCT特許出願公開WO 90/15070およびWO 92/10092には、高密度オリゴヌクレオチドアレイの光指向性コンビナトリアル合成の使用が記載されている。
【0072】
様々な固体表面上に核酸を固定するための多数の方法が当技術分野において公知である。天然および合成の両方の、広く多岐にわたる有機および無機ポリマーならびに他の材料を固体表面のための材料として利用できる。例示的な固体表面は、例えばニトロセルロース、ナイロン、ガラス、石英、ジアゾ化膜(紙もしくはナイロン)、シリコーン、ポリホルムアルデヒド、セルロース、および酢酸セルロースを含む。加えて、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のプラスチックを使用できる。利用してもよい他の材料は、紙、セラミック、金属、メタロイド、半導体材料、サーメット等を含む。加えて、ゲルを形成する物質を使用することができる。そのような材料は、例えば、タンパク質(例えばゼラチン)、リポ多糖、ケイ酸塩、アガロースおよびポリアクリルアミドを含む。固体表面が多孔質の場合は、システムの性質に応じて様々な孔の大きさを利用してよい。
【0073】
直径1mmから下は1μmまでにわたる様々な大きさの標的要素を使用できる。各標的要素への結合に使用できる試料の全量は限られているため、高複雑度の比較ハイブリダイゼーションのためには、濃縮された固定プローブDNAを少量含んだより小さい標的要素が使用される。したがって、得られる信号が非常に局在し、かつ明るくなるように、少量の濃縮されたプローブDNAを含む小さいアレイ標的要素を有することが有利である。そのような小さいアレイ標的要素は、一般に104/cm2より高い密度のアレイにおいて使用される。1cm2の面積の定量的な蛍光造影ができ、単一像において多数の標的要素からのデータ獲得を可能にする比較的単純な手段が記載されている(例えばWittrup, Cytometry 16: 206-213, 1994を参照)。
【0074】
ガラス、石英、もしくは小さいビーズ等の、膜よりもかなり低い蛍光を有する固体表面物質上のアレイは、かなりより良い感度を達成できる。ガラスもしくは溶融石英等の物質は、とても低い蛍光物質および非常に効率的なハイブリダイゼーション環境を提供するという点で有利である。ガラスもしくは合成溶融石英に対する標的核酸の共有結合は、市販されている試薬を用いて、多くの公知の技術に従って達成できる。例えば、多くの官能基を有するシラン処理ガラスを調製するための材料は市販されているか、もしくは標準的な技術を用いて調製できる(例えばGait (1984) Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press, Wash., D.C.を参照)。ガラスよりも少なくとも10倍低い自己蛍光を有する石英のカバーガラスもシラン処理できる。
【0075】
あるいは、試料を別々のウェルもしくは室に配置し、それらのそれぞれのウェルもしくは室の中でハイブリダイズさせることができる。当技術分野では、別々の反応室への試薬の自動送達を可能にし、反応ごとに使用される試薬の量を大幅に減少させることのできる「チップ」およびマイクロ流体技術を含むロボット設備が開発されてきた。チップおよびマイクロ流体技術は、例えば米国特許第5,800,690号、Orchid, "Running on Parallel Lines" New Scientist, Oct 25, 1997、McCormick, et al., Anal. Chem. 69:2626-30 (1997)、およびTurgeon, "The Lab of the Future on CD-ROM?" Medical Laboratory Management Report. Dec. 1997, p.1に記載されている。チップ上もしくはマイクロ流体環境における自動ハイブリダイゼーションは、本発明を実施するための予期された方法である。
【0076】
本発明のバイオマーカーの解析は、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)等のルーチン的な技術を用いても達成でき、またはマーカーコード配列の一部に相補的な核酸配列へのハイブリダイゼーションに基づく任意の他の方法(例えば、スロットブロットハイブリダイゼーション)も本発明の範囲内である。一般的な核酸ハイブリダイゼーション法はAnderson, "Nucleic Acid Hybridization," BIOS Scientific Publishers, 1999に記載されている。
【0077】
定量的増幅の方法は、当業者には周知である。定量的PCRの詳細なプロトコールは、例えばInnis et al. (1990) PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications, Academic Press, Inc. N.Y.に提供されている。本明細書に挙げられた遺伝子の公知の核酸配列は、遺伝子の任意の部分を増幅するためのプライマーを当業者がルーチン的に選択できるようにするのに十分である。
【0078】
ハイブリダイズした核酸は、一般に試料もしくはプローブ核酸に付着した1つ以上の標識を検出することによって検出される。標識は、当業者に周知の多くの手段のいずれかによって組み入れられてよい。核酸に標識を付着させる手段は、例えばニックトランスレーションもしくは核酸の(例えばキナーゼを用いた)リン酸化による(例えば標識RNAを用いた)末端標識化、および試料核酸を標識(例えばフルオロフォア)と結び付ける核酸リンカーの引き続く付着(連結)を含む。標識を核酸に付着させるための広く多岐にわたるリンカーも公知である。加えて、挿入色素および蛍光ヌクレオチドも使用できる。
【0079】
本発明において使用するのに適した検出可能な標識は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的もしくは化学的な手段によって検出可能な任意の組成物を含む。
【0080】
蛍光標識はバックグラウンドが低く、とても強い信号を提供するので有用である。迅速な走査手続きを通して、高解像度および高感度で光学的に検出することも可能である。核酸試料は、すべて単一の標識、例えば単一の蛍光標識で標識することができる。あるいは、各核酸試料が異なる標識を有する異なる核酸試料を同時にハイブリダイズさせることができる。例えば、1つの標的は緑色蛍光標識を有し、第二の標的は赤色蛍光標識を有することもあり得る。走査の工程は、赤色標識の結合部位を緑色蛍光標識に結合している部位と識別する。各核酸試料(標的核酸)は互いに独立して解析することができる。
【0081】
核酸もしくはタンパク質のいずれかを解析することによってマーカーを検出するのに、ガスクロマトグラフィーもしくは質量分析法を使用できる。バイオマーカーを検出するには、関心対象のタンパク質の発現レベルを決定するための抗体に基づく任意の技術を使用できる。例えば、患者試料中のタンパク質を検出するのに、ELISA、ウェスタンブロッティング、フローサイトメトリー、免疫蛍光法、および免疫組織化学等の免疫測定法を使用できる。
【0082】
本発明の方法に従って、開示された免疫寛容バイオマーカーのタンパク質の発現を解析できる。本明細書に記載された遺伝子によってコードされるポリペプチドは、当業者に公知の任意の方法によって検出および/または定量することができる。試料は、例えば組織生検および血液等を含む任意の生物学的供給源に由来し得る。本明細書に挙げられた遺伝子産物に対する抗体は、商業的にもしくは標準的な方法を用いて得ることができる。
【0083】
そのような方法は、例えば細胞の種類を決定するために、細胞表面タンパク質を検出するのにも使用できる。遺伝子の発現(例えばバイオマーカーの発現)が適当な細胞のサブセットにおいてのみ決定されるためには、細胞の種類が重要であり得る。細胞の種類は、公知の方法、例えば形態学、大きさ、免疫測定法、フローサイトメトリー(FACS)、ELISA、蛍光顕微法を用いて、もしくは核酸に基づく方法によって決定できる。本発明の方法では、移植拒絶反応に関連する免疫細胞の検出が重要であり得る。この目的を達成するために、当技術分野において公知の、および本明細書に記載されたマーカーを用いてB細胞、T細胞、および他の免疫細胞集団を決定できる。例えば、B細胞は細胞表面上のCD19を検出することによって検出できる。ナイーブB細胞はIgDも発現するが、CD27は発現しない。移行性B細胞はCD38、CD24、およびIgDを発現する。記憶B細胞はCD27、IgM、およびIgDを発現する。
【0084】
免疫測定法は、抗体および抗原によって形成される複合体に特異的に結合および標識するために、しばしば標識剤も使用する。標識剤はそれ自体、抗体/抗原複合体を含む部分の1つであってよい。したがって、標識剤は関心対象のタンパク質と結合する標識されたポリペプチドもしくは標識された抗体であってよい。あるいは、標識剤は抗体/抗原複合体に特異的に結合する二次抗体等の第三の部分であってよい(二次抗体は一般的に、一次抗体の由来する種の抗体に特異的である)。プロテインAもしくはプロテインG等の免疫グロブリンの定常領域に特異的に結合できる他のタンパク質も標識剤として使用されてよい。これらのタンパク質は、多岐にわたる種からの免疫グロブリンの定常領域と強い非免疫原性の反応性を呈する(例えば、Kronval et al., J. Immunol. 111:1401-1406 (1973);Akerstrom et al., J. Immunol. 135:2589-2542 (1985)を参照)。標識剤は、ストレプトアビジン等の別の分子が特異的に結合できる、ビオチン等の検出可能な部分で修飾できる。多岐にわたる検出可能な部分が当業者に周知である。
【0085】
一般に使用される測定法は、非競合的測定法、例えばサンドイッチ測定法、および競合的測定法を含む。競合的測定法では、試料中に存在する未知のポリペプチドによって結合する抗体から外された(競合排除された)既知の添加された(外来の)関心対象のポリペプチドの量を測定することで、試料中に存在するポリペプチドの量を間接的に測定する。一般に使用される測定法の形式は、試料中のタンパク質の存在を検出および定量するのに使用される免疫ブロットを含む。他の測定法の形式は、核酸について上記したものと同様にマイクロアレイを含む。
【0086】
ある態様において、開示された方法のための対照は、既知の免疫寛容を示す個人、健常な対照者、もしくは標準的な免疫抑制中の患者のうちの患者において試験されたものと同じバイオマーカー遺伝子の発現レベルを含む。ある態様において、対照は異なる時期、例えば腎不全もしくは移植の前に得た同じ患者からのバイオマーカー遺伝子の発現レベルを含み得る。ある場合において、対照は適当な細胞もしくは組織の種類のハウスキーピング遺伝子等の異なる遺伝子の発現であり得る。これらの遺伝子の発現レベルは相対的に安定し続けると期待され、個人内および個人間のバイオマーカーの発現レベルの相対的な比較を可能にする。
【0087】
ある場合において、免疫寛容バイオマーカー遺伝子のコピー数の参照範囲は、参照対照試料の使用および測定法の再現性の研究を通して確立できる。リアルタイムPCRの前にインビトロ転写の速度における変動を制御するために、各実験において対照参照試料を実行できる。これらの参照試料は、数人の患者からのRNAの大きいプールより製造することができる。検証の目的のために1回もしくは数回の比較を実行でき、測定法の実行、特にコピー数を主に決定するインビトロ転写効率の間の相違を較正するための参照RNA標準を作製できる。加えて、参照標準を用いてPCR反応自体の効率を較正できる。
【0088】
絶対コピー数は測定法ごとに変動し得るが、方法論自体において変動を決定できるようにする参照標準に基づいて免疫寛容の範囲内に調整できるように、参照標準で較正した後に「免疫寛容」で上昇していると考えられる、開示されたバイオマーカー遺伝子の絶対コピー数を決定するために測定法を標準化できる。例えば、データが集められた元の試料は、測定法の浮動および変動を評価するために単一のRNA参照試料とともに何度も再実行できる。いったん確立されれば、参照範囲を較正するために分割および重複させた方法で同じ試料および/または追加の試料を盲検評価できる。そのような検証によって、陽性もしくは陰性のより正確な評価が可能になる。
【0089】
VI.データベースおよびデータ解析のコンピュータ化された方法
ある態様において、本明細書に記載された方法は適切にプログラムされたコンピュータによって実行される。本明細書にさらに記載されるように、本明細書に記載された方法に使用するためのコンピュータシステムはデータを受領および処理するように設定され、単一プロセッサもしくは多重プロセッサコンピュータシステムであってよい。適切なコンピュータシステムの例は、メインフレームコンピュータ、ミニコンピュータ、パーソナルコンピュータ、ラップトップコンピュータ、ノートブックコンピュータ、ハンドヘルドコンピュータ、携帯情報端末(personal digital assistant)、携帯電話、セットトップボックス、マイクロプロセッサを用いる大衆消費電子製品(microprocessor-based consumer electronics)、プログラム制御できる大衆消費電子製品(programmable consumer electronics)等の様々な組み合わせのいずれか1つを含むが、それらに限定されない。加えて、本発明の方法は、ネットワークコンピュータ、CPUクラスタ、ワークステーション、およびいわゆるメインフレームコンピュータ上で実施されてもよい。コンピュータシステムは、ローカルにアクセスされるコンピュータ、リモートでアクセスされるコンピュータシステム(例えばサーバ)、もしくは両方の組合せであってよい。アプリケーションおよび目的に応じて、コンピュータシステムはインターネットにアクセスしているか、もしくはアクセスできてよい。当然のことながら、コンピュータシステムはスタンドアロンシステムもしくはネットワークを通して互いに交信する多数の装置を含む分散システムであってよい。当業者は、本発明の任意の局面を実施するための適切なコンピュータシステムを選択、取得および利用するために必要な知識および技能を有している。
【0090】
本明細書にも記載されるように、コンピュータプログラム命令の形式で様々な方法および式を実行でき、コンピュータ上で遂行できる。プログラム命令を表現するのに適切なプログラム言語は、C、C++、FORTRAN77もしくはFORTRAN90等のFORTRANの一態様、Java、Visual Basic、Perl、Tcl/Tk、JavaScript、およびADAからなる群より選択される1つ以上の言語を含むが、それらに限定されない。そのような言語が特定のアプリケーションに望ましい場合には、方法の様々な局面を互いに異なるコンピュータ言語で記すことができ、様々な局面は与えられたコンピュータ上で利用可能な適当なシステムレベルツールによって、互いに交信させられる。コンピュータプログラム命令は、遂行の間はコンピュータメモリに格納され、CD-ROM、CD-R、CD-RW5フラッシュメモリ、メモリカード、メモリスティック、DVD-ROM、USBスティック、光ディスク、もしくは大容量ネットワークストレージドライブ等であるがそれらに限定されない、当技術分野において公知のコンピュータで読み込み可能な媒体の様々な形式のいずれかに、さらに格納され得る。したがって、コンピュータプログラム命令をCD-ROM等の伝達可能な媒体上でユーザーに送達することができ、ウェブインターフェイス経由でインターネットを通じてダウンロードする等、コンピュータネットワークを通じても送達できることは、本発明の通常の実施と整合している。
【0091】
本明細書に記載された方法で生成されたデータベースおよび上記の解析は、腎移植の被移植者が免疫寛容を示すかどうかを決定するためのコンピュータシステムに含まれ得るか、もしくは付随し得る。データベースは複数のデジタルコード化された「参照」(もしくは「対照」)プロファイルを含み得る。複数の参照プロファイルの各々は、各値が腎移植の被移植者において検出された特定のバイオマーカーのレベルを表示する、複数の値を有することができる。あるいは、参照プロファイルは正常な一個人に由来することができる。これらのプロファイルは、被験者のプロファイルと連続的もしくは同時に比較するためにデータベース中に含まれ得る。コンピュータシステムは、被験者のプロファイルを受領し、被験者のプロファイルと診断上の関連性がある適合した参照プロファイルをデータベースから同定するための、コンピュータが遂行可能なコードを含むサーバを含み得る。同定されたプロファイルは、診断もしくはさらなる解析のために医療提供者に供給され得る。
【0092】
標準的なプログラムを用いて、バイオマーカーデータと免疫寛容を決定するのに有用な追加情報を組み合わせるデータベースを提供するために電子カルテ(EMR)を蓄積できる。匿名性を維持するために、患者の情報には数字の識別子を無作為に割り当てることができる。すべてのデータは、様々な地理的位置からの多数のユーザーにアクセスを提供するネットワーク上に格納できる。
【0093】
ある態様において、コンピュータを用いて診断もしくは予後の全過程を達成できる。例えば、患者からの生物学的試料はコンピュータに機能的に付属した遺伝子発現検出装置(例えば、マイクロアレイリーダー)に取り込むことができる。その後、コンピュータによって結果を検出および記録できる。ある態様において、その後、結果は対照値、例えば、与えられた遺伝子もしくは遺伝子の組の平均発現値と比較される。
【0094】
VII.キット
本発明のバイオマーカーを使用するためのキットは、例えば上記されたような診断および研究適用で使用するために利用できる。本発明のキットは、本明細書に記載された方法を実行するための任意のもしくはすべての試薬を含んでよい。診断および研究適用において、そのようなキットは以下のいずれかもしくはすべてを含んでもよい:測定法の試薬、緩衝液、本明細書に記載されたゲノム領域もしくは遺伝子の少なくとも1つに結合する核酸、ハイブリダイゼーションプローブおよび/またはプライマー、本明細書に記載された遺伝子によってコードされるポリペプチドの少なくとも1つと特異的に結合する抗体もしくは他の部分等。
【0095】
ある態様において、キットは以下の表XおよびZで同定される複数のバイオマーカーを含むバイオマーカーアレイを含み得る。ある態様において、キットはCD20、CD3、FOXP3、およびパーフォリンより選択されるバイオマーカーの少なくとも1つを含むバイオマーカーアレイを含み得る。ある態様において、キットはアレイ形式、例えばチップ上のパターン状で同定可能な位置にマーカーがあるバイオマーカーパネルを含む。そのようなキットは通常、以下の成分の少なくともいくつかを含む:(例えば、含まれるバイオマーカーについて陽性の)対照試料、検出可能な標識、および緩衝液。
【0096】
キットは、例えばRT-PCRを用いてRNA標識を検出するための成分も含み得る。そのような場合において、キットは表XおよびZに挙げられた複数のバイオマーカーを増幅するためのプライマーおよび/またはプローブ配列を含み得る。ある態様において、キットはCD20、CD3、FOXP3、およびパーフォリンより選択されるバイオマーカーの少なくとも1つを増幅するためのプライマー配列および/またはプローブを含み得る。キットはRTおよびPCR反応を実行するための酵素および試薬も含み得る。
【0097】
ある態様において、キットは例えばフローサイトメトリー(FACS)もしくは蛍光顕微法等の免疫測定法を用いて細胞の種類を決定するための試薬を含む。細胞の種類は、細胞の種類に特異的な遺伝子の検出に基づいた、核酸もしくはタンパク質に基づく測定法を用いて決定することもできる。免疫測定法のキットは、様々な免疫細胞の表面上に発現するマーカーを検出するための標識された抗体を含み得る。キットは染色緩衝液、洗浄試薬、および対照試料も含み得る。FACSによりB細胞集団を検出するために設計された例示的なキットは、以下の1つ以上を含み得る:CD19、CD24、CD27、CD38、IgM、IgD、およびCD86に対する標識された抗体;細胞を染色、洗浄、および/または固定するための緩衝液の混合物;対照試料;FACS機で使用するための実験器具;染色および推奨されるFACS設定の指示等。
【0098】
当業者は、キットの成分を個々にもしくは単一包装中に包装および入手可能とできることを理解する。
【0099】
加えて、キットは本発明の方法を実施するための指示(すなわち、プロトコール)を含む取扱説明資料を含み得る。一般に、取扱説明資料は筆記もしくは印刷された資料を含むが、そのようなものに限定されない。そのような取扱説明を格納でき、最終利用者に伝達できる任意の媒体は本発明で予期されている。そのような媒体は電子記憶媒体(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学式媒体(例えばCD ROM)等を含むが、それらに限定されない。そのような媒体は、そのような取扱説明資料を提供するインターネットサイトのアドレスを含んでいてもよい。キットは、測定法の結果を検出および解析するための適当なハードウェアおよび/またはソフトウェアも含み得る。
【実施例】
【0100】
VIII.実施例
A.要約
25名の免疫寛容を示す腎移植の被移植者からの末梢血単核球(PBMCs)および全血の全RNAが研究された。免疫寛容は、安定した移植片機能が維持され、少なくとも1年間にわたってすべての免疫抑制が中止されていることによって定義された。遺伝子発現プロファイルおよび末梢血サブセットは、免疫抑制中で移植片機能が安定している腎移植の被移植者、および正常で健常な対照参加者のものと比較された。
【0101】
B.材料および方法
遺伝子発現プロファイリングの一次データは、ワールドワイドウェブ上のncbi.nlm.nih.gov/geoにおいて、国立バイオテクノロジー情報センターの遺伝子発現情報データベース(Gene Expression Ominbus)から入手可能である。
【0102】
参加者の採用および研究プロトコール:2004年および2007年の間に、5つの参加施設:エモリー大学(Atlanta, GA)、国立衛生研究所(Bethesda, DC)、スウェディッシュメディカルセンター(Seattle, WA)、およびウィスコンシン大学(Madison, WI)において100名の成人の腎移植の被移植者および健常なボランティアを全国的に採用した。プロトコールは、各参加施設のIRBおよび国立アレルギー感染症研究所によって召集されたDSMBに認可された。血液試料は、標準的な静脈切開(全量200ml)もしくは白血球除去のいずれかによって採集された。
【0103】
同種移植腎被移植者は3つの群に登録された:(1)登録前の少なくとも1年間にわたって免疫抑制の投薬療法を受けておらず、安定した腎機能、(3名の経験を積んだ移植医によって評価されるところの)ベースラインの25%以内の血清クレアチニン(Cr)を有する個人として定義される、免疫寛容を示す参加者(TOL;N=25);(2)推定される免疫介在性同種移植片拒絶反応による腎機能障害(最初の移植後のベースラインと比較して、登録時にベースラインCrが50%の増大)を有する者として定義される、CAN(慢性移植腎症)の参加者;(3)(カルシニューリンもしくはmTOR阻害剤、抗増殖剤、およびコルチコステロイドを含む)三剤の免疫抑制剤の投与計画が維持されている一方で、TOLと同じ基準により臨床的に安定した腎機能を有するSI被験者(N=34)。既知の腎疾患/機能不全の履歴もしくは急性の医学的疾病の兆候がない正常で健常な対照(HC)参加者の追加の群が登録された。各測定法において使用された試料の明細を表1に示す。
【0104】
(表1)測定法によって解析された試料

【0105】
我々の最初の所見の予測モデリングおよび検証のために、我々は免疫寛容を示す参加者を基準日よりも前もしくは後の登録に基づいて、それぞれ19参加者のトレーニングセット(TOL-TRN)および6参加者の試験セット(TOL-TST)に分割した。SI群もモデリングおよび検証のために、(同様に登録時期に基づいて)27名のトレーニングセット(SI-TRN)および6名の試験セット(SI-TST)に分割した。
【0106】
我々はSIの集団が最も臨床的に関連性を有するという概念に基づいて、比較群をCAN患者の代わりにSI(経過が順調な安定した患者)に限定した。SIの個人が免疫抑制の最小化の候補と考えられる一方で、CANを有する個人はそうではない可能性が高い。
【0107】
最後に、我々の患者コホート(ITN)および欧州における腎移植の被移植者の独立したセット(IOT)から凍結PBMCを採集し、フローサイトメトリー解析に使用した。それと同時に独立した研究所において、ITN患者および欧州コホートの3つ(TOL、HC、およびSI(カルシニューリン阻害剤))からの凍結PBMCをフローサイトメトリーで研究した(下記参照)。
【0108】
HLA分類:被移植者および(試料が入手可能な場合は)臓器提供者からの全血を採集し、クライオチューブ中で凍結させ、その後、特定の対立遺伝子の各遺伝子座からの標的エクソンの選択的増幅(PCR)によってゲノムDNAから実行される自動ヌクレオチド配列決定のために中央研究所(UCSF Immunogenetics and Transplantation Laboratory, San Francisco, CA)に輸送した。配列決定された遺伝子座はクラスI HLA(HLA-A、-Bおよび-C)ならびにクラスII HLA(HLA-DRB1/3/4/5、-DQA1および-DQB1)を含んでいた。ヌクレオチド配列決定は、以前に記載されたように(Baxter-Lowe ASHI Laboratory Manual, 4th Edition, H Noreen (ed). 4 ed. American Society of Histocompatibility and Immunogenetics, 2002)実行された。臓器提供者の試料が入手できない場合には、全米臓器配分ネットワーク(UNOS, Richmond, VA)のデータベースから臓器提供者のHLA型(血清型)を得た。
【0109】
HLA抗臓器提供者交差試験:中央研究所(Emory University Histocompatibility Laboratory, Atlanta, GA)において、FlowPRA Screening(商標)ビーズ(One Lambda, Inc., Canoga Park, CA)を用いたフローサイトメトリーにより、盲検試料におけるHLA抗体の最初のスクリーニングを実行した。LabScreen Single Antigen(商標)測定法(One Lambda, Inc., Canoga Park, CA)(Gebel and Bray, Transplantation 2000; 69(7):1370-1374;Pei et al., Hum Immunol 1999; 60(12):1293-1302)を用いて、陽性試料の抗体特異性を決定した。
【0110】
尿の定量的RT-PCR:全RNAを抽出するために、尿試料(50〜100ml)からの尿細胞ペレットにRNAlater(商標)(Ambion, Austin, TX)を添加し、室温(2000×g)で30分間遠心した。以前に記載されたように(Muthukumar et al., N Engl J Med 2005; 353(22):2342-2351)、18の選択遺伝子(グランザイムB、パーフォリン、PI9、IL-4、Il-2、IL-10、インターフェロン-γ、CD3、CD20、CD25、CD103、FoxP3、CTLA4、TGF-β、CTGF、IP10、MIG、およびCXCR3)ならびに対照として使用される18S RNAおよびBKウイルスの定量的RT-PCRの前に試料は盲検化され、−80℃で保存された。
【0111】
フローサイトメトリー:10mLガラスナトリウムヘパリンチューブ(Becton Dickinson Vacutainer, Franklin Lakes, NJ)に全血を採集し、周辺のITN Flow Cytometry Core(Roswell Park Cancer Institute, Buffalo, NY)に一晩で輸送した。ステインライズ(stain-lyse)法を用いて、盲検化された試料からの細胞をFITC、PE、PERCP、PECY7、もしくはAPCと共役した5色モノクローナル抗体パネル(Becton Dickinson, San Jose, CA)(Steward, Immunophenotyping. 1 ed. John Wiley and Sons, 2000)で染色した。使用されたマーカー/フルオロフォアの組合せを表2に記載する。
【0112】
(表2)フローサイトメトリーパネル

【0113】
凍結細胞のフローサイトメトリーのために、PBMCsをPBS/2mM EDTA/0.5% BSA/5% 正常マウス血清/5% 正常ラット血清中で氷上において30分間にわたり、表2に示したような蛍光色素共役マウス抗ヒトモノクローナル抗体で染色した。PBS/2mM EDTA/0.5% BSAで洗浄した後、細胞をPBS中のLIVE/DEAD aqua-fluorescent reactive dye(Invitrogen)で氷上において30分間にわたり染色し、その後0.5% ホルムアルデヒドで固定した。試料は盲検化され、ロチェスター大学においてLSRIIフローサイトメーター(BD Biosciences)で実行された。
【0114】
細胞内サイトカイン(IL-10およびTGFβ)を評価するために、細胞を2試料に分割し、刺激(500ng/ml PMAおよび500ng/ml イオノマイシン)の存在下もしくは非存在下で5時間にわたってブレフェルジン(1μl/ml)およびモネンシン(2μM)とともに完全培地(20% BSA添加RPMI)で培養した。培養後、細胞をFACS緩衝液(0.5% BSA添加PBS)で2回洗浄し、その後、細胞外抗体カクテルで4℃において30分間にわたり表面を染色した。その後、細胞をPBSで2回洗浄し、LIVE/DEAD Fixable Aqua Dead Cell Stain Kit(カタログ番号L34957;Invitrogen)を用いてPBS中に1:1,000で4℃において30分間にわたり染色した。その後、細胞をFACS緩衝液で2回洗浄し、その後、4% パラホルムアルデヒド(Sigma-Aldrich)を含んだPBSで4℃において30分間にわたり固定した。続いて、細胞をPerm/Wash Buffer(カタログ番号554723;BD)で4℃において30分間にわたり透過処理した。その後、ICS抗体カクテルを含んだPerm/Wash緩衝液中で細胞を4℃において1時間にわたり細胞内染色した。最後に、細胞をPerm/Wash緩衝液で2回洗浄し、LSR IIフローサイトメーター(BD)でFlow Jo Software(Tree Star Inc.)を用いて解析するまで4% パラホルムアルデヒドを含んだPBSに再懸濁した。
【0115】
マイクロアレイ:ABI Tempus(商標)whole blood collection system(Applied Biosystem, CA)を用いて全RNAを得て、さらなる処理のために凍結させた。記載されたような方法(Asare et al., BMC Genomics 2008; 9:474)を用いて、全RNAを精製した。全RNAは、BioAnalyzer(Agilent, Santa Clara, CA)およびABI(著作権)の方法を用いて品質評価を行い、6100 ABI Prep-Station(Applied Biosystem, Foster City, CA)を用いても精製できる。盲検RNA試料からの標的を調製し、「GeneChip(登録商標) Expression Analysis Technical Manual」(Affymetrix, Santa Clara, CA)にExpression Analysis, Inc.(ワールドワイドウェブ上のexpressionanalysis.comにおけるGeneChip Expression Analysis Technical Manual (2007))のとおりの変更を行って、Affymetrix HG-U133 2.0 Plus GeneChip(登録商標)にハイブリダイズさせた。
【0116】
MassARRAY定量的遺伝子発現(QGE):測定される各転写産物について少なくとも1つのPCRプライマーがエクソンの境界をまたがるように、MassARRAY QGE Assay Design software v1.0(Sequenom, San Diego, CA)を用いて、ランダムヘキサマープライミングのための多重プライマーおよび競合鋳型のデザインを製造した。試験された遺伝子は、盲検試料からのRNAについて一連の10の20乗の反応において測定され、表3に示されている。コピー遺伝子数の決定は、Asare et al., BMC Genomics 2008; 9:474に記載されたように行われた。
【0117】
(表3)QGEパネルに含まれる遺伝子





【0118】
データ解析および統計的考察:ロバストマルチチップ平均(RMA)法を用いて、マイクロアレイデータのバックグラウンド調整、正規化、および要約を実行した。マイクロアレイの品質保証は、標準的なハイブリダイゼーション後品質測定法(Asare et al., Bioinformatics 2009; 25(1):48-53)に基づく異常値アレイを検出することで実行した。潜在的な処理バッチ効果を補正し、臨床群の効果を見積もるために線形混合効果モデルを利用した。異なる臨床群の間で差次的に発現される遺伝子を同定するために、群レベルの多重比較用のTukey調整を用いて一対比較を実行した。遺伝子に関する多重試験調整のために、BenjaminiおよびHochbergの偽発見率(FDR)の制御のための手段を採用した(Benjamini et al., Journal of the Royal Statistical Society 57[1], 289-300. 1995)。差次的に発現する遺伝子を同定するための統計的基準は、FDRで調整されたp値<0.05および倍率変化>1.5であった。ある状況において、Ingenuity Pathway Analysis(Redwood City, CA)を用いて経路解析を実行した。
【0119】
ある場合において、特定の群の分類を検討するために近代的機械学習手段であるサポートベクターマシン(SVM)を使用した。Burges CJC. A Tutorial on Support Vector Machines for Pattern Recognition. Data Mining and Knowledge Discovery 2[2], 121-168. 1998. Ref Type: Journal (Full);Zhang et al. BMC Bioinformatics 2006; 7:197。ある場合において、データを均衡の取れたトレーニングおよび試験セットに配分するためのFurey et al.に記載された手続きを利用した。ある場合において、変動性を減少させるために、学習および試験セットに分割する過程を100回繰り返し、誤分類率を平均化した。Zhang et al.。特徴選択のために、Zhang et al.に記載された方法を使用した。Golub et al. Science 1999; 286(5439):531-537。誤分類率および経過観察の生物学的調査の限界の両方を考慮して、上位200の特徴を評価した。
【0120】
尿のRT-PCRデータは18S-rRNAに対して正規化した;末梢血MassARRAY QGEは5つの安定なハウスキーピング遺伝子の組に対して正規化した。尿のRT-PCR、末梢血MassARRAY QGE、およびフローサイトメトリーデータについては、データが正規分布した集団に由来するかどうかを確認するためにシャピロ-ウィルク検定を採用した。log2データ変換は偏差の程度を正規分布から実質的に減少させたが、相当数の遺伝子もしくは細胞集団の対数変換されたデータが、なお正規分布から逸脱していた。したがって、臨床群の間の一対比較のために、遺伝子単位でノンパラメトリックのウィルコクスン順位和検定を行った。遺伝子もしくは細胞集団に関する多重試験調整は、BenjaminiおよびHochbergのFDR法(Benjamini et al. 1995)を用いて実行した。差次的に発現される遺伝子もしくは細胞集団の同定のための統計的基準は、FDRで調整されたp値<0.05であった。マイクロアレイおよびMassARRAY QGEデータの階層的クラスタリング像は、GeneSpring GX 7.3.1(Agilent, Santa Clara)を用いてピアソン相関に基づいて生成した。箱髭図像は、S-Plus(TIBCO)を用いて生成した。
【0121】
log2変換データを用いて、凍結細胞に対するMassARRAY QGEおよびフローサイトメトリーに分類手段を適用した。すべての場合において、1刻みで1から10までの大きさにわたる変数の多数の群とともにTOL対SIを試験する一方向ANOVAを用いて変数選択を実行した。leave one-out交差検定(LOOCV)を用いた、等しい事前確率の線形判別分析(LDA)が、3つの候補遺伝子を用いたMassARRAY QGEに対する最も効果的な分類手段である(Pattern Classification and Scene Analysis. New York: John Wiley, 1973)。19個のTOLおよび24個のSI試料のトレーニングセットを用いてモデルを構築し、その後6個のTOLおよび6個のSI試料のITN試験セットに適用した。
【0122】
1〜3遺伝子特性(IGKV1D-13、IGKV4-1、およびIGLL1)についての、正規化され、log2変換された発現レベルを用いて、βiが表中の係数で、Giが各遺伝子の発現レベルである式1により、TOL群における各参加者のメンバーシップに対して0および1の間の確率スコアを生成した。

分類は、0.5のカットオフで事後確率に基づいた;このため、0.5以上のスコアを有する参加者がTOL群に割り当てられた。学習アルゴリズムがトレーニングされていないデータをどのぐらい正確に予測するかを決定するためにLOOCVを適用した。この手段を用いるに当たって、トレーニングセットのデータポイントの1点を除く全部を用いてLDAモデルを何回もトレーニングした。トレーニングの間に最良のPPVおよびNPVを生成するために、除去された試料を反復して再試験した。特徴選択は、LOOCVの過程内に組み込まれていた。
【0123】
サポートベクターマシンは、1つの集団が最良の陽性予測値(PPV)を有すると決定する上で、フローサイトメトリーデータに対して最も効果的であった。SVMモデルは、コストに基づく縮小を1から1001までの100ごと、および免疫寛容を0.001からに設定した。カーネルは、1/変数の数の放射基底関数(γ)セットおよびleave one out交差検定(LIBSVM:a library for support vector machines. 2001)を使用した。23個のITN TOLおよび31個のITN SI試料を用いてモデルを構築し、6個のTOLおよび12個のSI試料からなる欧州/INDICES OF TOLERANCE群の試料の試験セットに適用した。予測手段のためにPartek Genomics Suite V 6.4(Partek, St. Louis)を使用し、様々な特徴の組合せおよびSVM順列を用いて1000を超えるモデルを我々が試験することが可能になった。
【0124】
C.結果
実施例1:研究集団の臨床的特徴
TOLの参加者は少なくとも1年間にわたって免疫抑制の投薬療法を受けることを中止していたにもかかわらず、TOLおよびSI群の参加者は優れた腎機能を有していた。年齢、性別および腎不全を引き起こした原発性疾患は、2つの群の間で類似していた(表4)。
【0125】
(表4)

【0126】
TOL群の25名の参加者の中の12名は、検出可能な抗臓器提供者HLA抗体について試験が可能であった。臓器提供者のHLAの一次情報は、免疫寛容を示すコホートの残りについては入手できなかった。免疫寛容を示す参加者の1名のみが検出可能な抗臓器提供者抗体を有していたが、SI群では3名が臓器提供者に特異的な抗体を有していた。表1に示すように、TOL群の参加者はSI群よりもHLAについてより一致していた。我々のTOL群の大半のHLAが一致していたが、我々の参加者の中の5名はどのようなHLA抗原とも一致していなかった。移植から登録までの時間は免疫寛容を示す群において有意により長かったが、死体の臓器提供者からの患者数はSI群で有意により多かった。本研究における臨床的評価に基づいて、指摘した群の間で他に有意な相違はなかった。
【0127】
実施例2:B細胞遺伝子特性は、連続して免疫抑制中の安定な参加者から免疫寛容を示す参加者を識別する
TOLおよびSI群は、それぞれ2つのセットに分割された。免疫寛容を示す患者は、彼らの登録時期に基づいてトレーニングセット(TOL-TRN、N=19)および試験セット(TOL-TST、N=6)に分割された。同様に、SIコホートはトレーニングセット(SI-TRN、N=27)および試験セット(SI-TST、N=6)に分割された。マイクロアレイ解析のために、TOL-TRNおよびSI-TRNからの試料のみが使用された。TOLおよびSI群の被験者からの全血の全RNAの発現遺伝子プロファイルを検出するためにAffymetrix Genechips(登録商標)を使用した。これらの2群の間で差次的に発現する遺伝子の統計的解析が実行され、最も差次的に発現する遺伝子が、それらの平均倍率変化の相違に基づいて順番に並べられた。
【0128】
偽発見率(FDR)補正をデータに適用した後で、5つの独特の遺伝子(TUBB2A、TCL1A、BRDG1、HTPAPおよびPPAPDC1B)が統計的な有意性に達した。TCL1AおよびBRDG1の両方はB細胞特異的である。SI-TRN群に対してTOL-TRN群で発現に2倍の増大を有することが見出された30遺伝子の中で、22遺伝子がB細胞特異的であった(図1および表Xを参照)。これらの遺伝子の多くはB細胞の活性化および分化に関与しており、免疫グロブリン重鎖、軽鎖および結合鎖、ならびにHLAをコードする遺伝子を含む(Hoffmann et al., J Leukoc Biol 2003; 74(4):602-610;Matthias et al., Nat Rev Immunol 2005; 5(6):497-508)。対照的に、SI-TRN群においてより高く発現していることが観察された遺伝子は少なかった。それらの中の1つであるチューブリン2A(TUBB2A)は、非常に差次的に発現していた(7倍の相違)。この遺伝子の過剰発現は、チューブリンの発現を誘導することが示されている(Cui et al., Neuroscience 2007; 146(3):986-999)カルシニューリン阻害剤の長期にわたる使用によるものかもしれない。
【0129】
TOL-TRNおよびHC被験者からの全血の全RNAの比較によって、発現レベルに有意な相違はないことが明らかになった。TOL-TRNおよびHC群の間のプロファイルの類似性が、TOL-TRNおよびSI-TRNの間で差次的に発現した30遺伝子の階層的クラスタリングを用いて示されている(図1)。
【0130】
(表X)TOLにおいてSIよりも少なくとも2倍高い発現を有するマイクロアレイ遺伝子


【0131】
免疫寛容におけるB細胞関与のさらなる証拠は、尿細胞沈渣の遺伝子発現プロファイルによって裏付けられる。定量的リアルタイムPCRで試験された18遺伝子の中で、CD20転写産物のみがSI参加者に比べてTOLで有意により高かった(図2)。FOXP3およびCD20の発現は、TOL-TRNに比べてHCからの尿沈渣細胞において有意により低かった(図2AおよびB)。CD3およびパーフォリンの発現レベルも、TOL-TRNに比べてHCにおいて有意により低かった(図2CおよびD)。このことは、その尿中にリンパ球がほとんどか全く存在しない健常な被験者と一致している。25個のHC試料の中の7個からの尿では、尿沈渣細胞の数が少ないために十分なRNAが含まれておらず、それらは解析から除外された。これらの結果は、腎移植の被移植者における免疫寛容を予測するためのもう一つの独特な手段を提供する。
【0132】
実施例3:多重リアルタイムPCRはB細胞遺伝子の特性を確認し、免疫寛容を予測する3遺伝子を同定する
免疫寛容に特異的に発現される遺伝子のプロファイルを定義するためにより定量的な手段を開発し、我々のマイクロアレイの所見を裏付けるために、すべてのTOL、SIおよびHC参加者についてMassARRAY QGEを実行した。すべての参加者に対して実行されたMassARRAY QGEのために、228遺伝子についてプローブ−プライマーセットを作製した(表3)。MassARRAY QGEデータのクラスタリング(図3)によって、TOL-TRNおよびSI-TRN群の間で統計的に有意に異なる31の独特の遺伝子が明らかになった(図3および表5)。多重比較を説明するために、偽発見率(FDR)補正を用いてP値の調整(p値<0.05)を行った。FDR補正を使用すると、TOLおよびHCの間で有意に異なる遺伝子は存在しなかった。しかしながら、FDR補正がない場合に観察された相違を表5に開示する。
【0133】
(表5)p値によって順位付けされた差次的に発現する遺伝子

【0134】
SI-TRNに対してTOL-TRNで差次的に発現する31のバイオマーカーの中で、17がマイクロアレイによって当初検出された。Llordella-Martinezによって肝移植の免疫寛容に関与することが見出された遺伝子は、いずれも我々のTOLおよびSIコホートの間で差次的に発現していなかった。またもや、免疫寛容を示すコホートで過剰発現する遺伝子の大半はB細胞特異的であり(26/31)、多数が免疫グロブリンのκ/λ軽鎖をコードしていた。最後に、TOL-TRNおよびCAN群の間で23が差次的に発現していた(p<0.05)。31遺伝子を以下の表Zに示す。
【0135】
(表Z)TOL患者においてより高い発現を有するSequenom MassARRAY遺伝子

【0136】
228個のMassARRAY QGE遺伝子を用いて、我々は特徴選択を実行し、SVMおよび線形判別分析(LDA)予測手段を適用し、TOL-TRNおよびSI-TRN参加者に基づいて免疫寛容を非常によく予測する、より小さい遺伝子の組をLDAが定義することを見出した。SI参加者は標準的な三剤の免疫抑制を使用していた。このモデルにおいて、3遺伝子が83%の陽性予測値(PPV)および84%の陰性予測値(NPV)を与え、予測的であることが見出された(表6)。
【0137】
(表6)MassARRAY QGE−ITNトレーニングセット

変数名:IGKVID-13;IGKV4-1;IGLLI
【0138】
これら3遺伝子の予測値を直接的に試験するために、我々はTOL-TSTおよびSI-TSTと呼ばれる6名のTOLおよび6名のSI患者のコホートを使用した。6名のTOL-TST参加者の中の6名が免疫寛容を示すと正しく同定され、6名の中の5名がSIと正しく同定されて、PPV=86%およびNPV=100%をもたらした(表7)。
【0139】
(表7)MassARRAY QGE−ITN試験セット

変数名:IGKVID-13;IGKV4-1;IGLLI
【0140】
これらの遺伝子はIGKV4-1、IGLL1およびIGKV1D-13であり、各患者におけるそれらの発現レベルを図4および5に描いた。示されたように、これらの遺伝子はトレーニングセット中の参加者の大半について、および試験セット中のSI参加者の1名を除く全員について、TOLをSI患者から明らかに区別する。図5は、これらの遺伝子の各々についてのmRNAコピー数を示す。これらの遺伝子は3つとも、プレB細胞から成熟B細胞への移行の間ならびに抗原による成熟B細胞の刺激に続いて生じるクラススイッチおよびレセプター編集の間に上方制御されるκもしくはλ軽鎖をコードする。
【0141】
我々は3つのバイオマーカーの中の1つもしくは2つのみ:IGKV1D-13、もしくはIGKV1D-13およびIGKV4-1、を用いた予測値も決定した。
【0142】
結果は、単一のバイオマーカーIGKV1D-13の発現は免疫寛容を極めてよく予測することを示している。トレーニングおよび試験セットについてのLDAデータを表8および9に示す。トレーニングセットに対して、高いレベルのIGKV1D-13は24例の中の22例を予測し、低いレベルは19例の中の15例を予測して、86%の平均正解率をもたらした。
【0143】
(表8)IGKV1D-13発現に基づくトレーニングセット

【0144】
試験セットに対して、高いレベルのIGKV1D-13は6例の中の5例を予測し、低いレベルは6例の中の6例を予測して、91.5%の平均正解率を導いた。
【0145】
(表9)IGKV1D-13発現に基づく試験セット

【0146】
2遺伝子バイオマーカーセットのデータを以下の表10および11に示す。IGKV1D-13およびIGKV4-1をバイオマーカーとして用いた免疫寛容の陽性および陰性予測値も極めて高い。トレーニングセットに対する平均正解率は83.7%であり、試験セットに対しては91.5%であった。
【0147】
(表10)IGKV1D-13およびIGKV4-1発現に基づくトレーニングセット

【0148】
(表11)IGKV1D-13およびIGKV4-1発現に基づく試験セット

【0149】
実施例4:全血のフローサイトメトリーは、免疫寛容を示す参加者においてナイーブB細胞の数が増大することを明らかにした
全血のフローサイトメトリー研究は、全B細胞(CD19+)およびナイーブB細胞(CD19+/CD27−/IgM+/IgD+)の数においてTOLおよびSI群の間で有意な相違を明らかにした(図6AおよびB)。TOLコホートの平均B細胞数は、SI群よりも有意により多かったが(P<0.01)、HCコホートとの比較では有意性には達しなかった(P=0.10)。しかしながら、ナイーブB細胞数に関しては、TOLコホートならびにSIおよびHC群の両方の間で有意な相違が存在した(P≦0.05、図6B)。加えて、CD86CD19B細胞および記憶B細胞(CD19CD27IgMIgD)はTOLおよびHCコホートの間で有意に異なっていた(それぞれP<0.01およびP=0.03、図6CおよびD)。
【0150】
我々の解析では、多数のリンパ球亜集団が測定され(表2)、我々はTOLおよびSIもしくはTOLおよびHC群の間で有意に異なる他のリンパ球亜集団を、まさに発見した。これらには、中でもHLA-DRCD4T細胞およびNK細胞が含まれていた。有意に異なるものの中で、マイクロアレイおよびPCRを用いた我々の所見とその相違が相関するため、我々はここでB細胞およびB細胞サブセットに注目する。
【0151】
各群についての全白血球カウント平均の統計的解析によって、観察された群に特異的な相違が全白血球の数の全体的な変化によるものではないことが証明された。TOL、SI、およびHC群の平均WBCカウントは、それぞれ6.7、8.1、および5.8×1000細胞/μlであった。さらに、B細胞の選択された集団が免疫寛容を示す腎移植の被移植者を健常な対照者から識別するという観察は、免疫寛容に伴うB細胞の特性が単なる免疫抑制の結果ではないことを示唆する。
【0152】
最後に、我々は免疫寛容を示す腎移植の被移植者についてのIndices of Tolerance(IOT)の研究に登録された、腎移植の被移植者である患者の独立したセットにおいてB細胞の特性を評価した。これらの研究は、ナイーブ細胞および移行性細胞の間を識別し、移行性のサブセットを区別できるように、追加の表面マーカーを用いて実行した。我々(ITN)の患者ならびにIndices of Toleranceコホートの3つ(免疫寛容を示す免疫抑制剤を投与されていない被移植者、カルシニューリンに基づく免疫抑制の投与計画を受けており安定した機能を有する被移植者、および健常な対照被験者)からの凍結PBMCがフローサイトメトリーによって研究された。
【0153】
リンパ球ゲートにおける全B細胞(CD19+)およびナイーブB細胞(CD19+/CD27−/IgD+)のパーセントは、我々およびIOT試料の両方におけるそれぞれのSI群と比較すると、各TOL群においてより高かった(図7AおよびB)。ITN試料と比較して、IOT共同研究先によって提供されたすべての群の試料において、ナイーブB細胞の数はより少ないことが観察された。凍結方法における相違が、これらの変化を生み出したのかもしれない。重要なことに、IOTの免疫寛容を示すコホートの患者は、ITNの免疫寛容を示すコホートの者のようには、その臓器提供者とHLAが一致しておらず、このことはB細胞数の増大がHLA一致の直接的な結果ではないことを示唆している。
【0154】
これらの試料において、移行性B細胞(CD19+/CD38+/CD24+/IgD+)を検討した。我々の遺伝子の特性および類似した未成熟な表現型を有する細胞についてのマウスのモデルで提唱されている制御の役割(Evans et al., J Immunol., 178(12):7868-78 (2007))のために、これらの細胞は関心対象であった。IOTおよびITN試料の両方で、TOL対SI群の比較において移行性B細胞の数が増大していた(図7C)。我々の試料においてPPVが96%およびNPVが87%であり、試験セット(感度83%、特異性75%)として機能した欧州IOT試料においてPPVが63%およびNPVが90%である、これらの細胞が最も予測的であることが凍結フロー測定法の線形判別分析によっても示された(表12および13)。
【0155】
(表12)フローサイトメトリー−ITNトレーニングセット

変数名:移行性B細胞
【0156】
(表13)フローサイトメトリー−IOT試験セット

変数名:移行性B細胞
【0157】
実施例5:TOL患者における細胞内IL-10の亢進した発現
次に我々は、TOLおよびHC患者において増大したB細胞およびB細胞亜集団が、免疫寛容に関係しているかもしれないIL-10もしくはTGFβ等の免疫調節性サイトカインを産生するかどうかを決定しようと試みた(Fillatreau et al., Nat Rev Immunol., 8(5):391-397 (2008))。21名のTOL、32名のSI、および13名のHC患者からの凍結PBMCについて、細胞内サイトカイン染色を実行した。未刺激ならびにPMAおよびイオノマイシンの存在下で5時間にわたって培養された細胞の両方が研究された。全B細胞ならびにT1およびT2移行性B細胞(CD38CD24)、スイッチ記憶(CD27IgD)、CD27記憶(CD27IgD)、ナイーブおよびT3移行性(CD27IgD)、アンスイッチ記憶(CD27IgD)、および形質芽細胞(CD27CD38IgD))を含む6つのサブセットについてIL-10およびTGFβ細胞内染色が解析された。
【0158】
我々は、SIもしくはHC群と比較して、TOL群においてIL-10を発現するT1およびT2移行性B細胞が統計的に有意に増大したことを観察した(図8A)。全体的なパーセントが極めて低く、多数の試料がIL-10を産生しない細胞を含んでおり、群の範囲が大きく重複していたため、この結果は慎重に解釈しなければならない。細胞表面の表現型を維持し、それにより異なるB細胞亜集団内のIL-10産生を決定するために、刺激条件は長さおよび強度において限定されていた。TOLもしくは任意の他の群からの細胞の間でTGFβ発現B細胞もしくはサブセットの数に相違は見出されなかった(図8B)。
【0159】
実施例6:腎移植の被移植者の間でのB細胞の特性の頻度の評価
約300名の患者から末梢血を得て、B細胞の特性を評価した。これにより、我々は安定した腎移植の被移植者(すなわち、免疫抑制療法中で移植片機能が安定している者)の間での特性の頻度を見積もることができる。予備データに基づけば、B細胞の特性を発現する腎移植の被移植者の比率は約10名の中の1名もしくは10%のはずである。
【0160】
一般的な安定した腎移植集団において、いったん頻度が確立してしまえば、B細胞の免疫寛容の特性について予測値を評価するための、予期される最小化および離脱の研究を進める。早期のデータに基づいて、B細胞の特性は免疫抑制の最小化および/または離脱の影響を受けやすい、それらの患者を予測する。
【0161】
本明細書に記載された実施例および態様は単に例証を目的としており、それを踏まえた様々な修正もしくは変更が当業者に示唆され、本願の精神および範囲ならびに添付された特許請求の範囲の領域の中に含まれるべきであることが理解される。本明細書で引用されたすべての刊行物、特許、および特許出願は、その全体がすべての目的のために参照により本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表Xおよび表Zに開示されたバイオマーカーからなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーを含むバイオマーカーアレイ。
【請求項2】
IgκV1D-13を含む、請求項1記載のバイオマーカーアレイ。
【請求項3】
IgκV4-1およびIgκV1D-13を含む、請求項1記載のバイオマーカーアレイ。
【請求項4】
IgκV4-1、IgλL1、およびIgκV1D-13を含む、請求項1記載のバイオマーカーアレイ。
【請求項5】
表Xおよび表Zに開示されたバイオマーカーからなる群より選択される少なくとも10のバイオマーカーを含む、請求項1記載のバイオマーカーアレイ。
【請求項6】
表Zに開示されたバイオマーカーからなる群より選択される少なくとも10のバイオマーカーを含む、請求項1記載のバイオマーカーアレイ。
【請求項7】
MS4A1を含まない、請求項1記載のバイオマーカーアレイ。
【請求項8】
被移植者における移植に対する免疫寛容を予測するための方法であって、以下の工程を含み、
(i) 被移植者からの生物学的試料において、表Xおよび表Zに開示されたバイオマーカーからなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを検出する工程;および
(ii) その少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを、バイオマーカー対照からの少なくとも1つの同じバイオマーカーの発現レベルと比較する工程、
これにより移植に対する被移植者の免疫寛容を予測する方法。
【請求項9】
IgκVlD-13の発現が検出および比較される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
IgκV4-1およびIgκV1D-13の発現が検出および比較される、請求項8記載の方法。
【請求項11】
IgκV4-1、IgλL1、およびIgκV1D-13の発現が検出および比較される、請求項8記載の方法。
【請求項12】
バイオマーカー対照が以下からなる群より選択される、請求項8記載の方法:
免疫寛容を示さない個人の被移植者;
免疫寛容を示さない被移植者の集団;
被移植者ではない個人の健常者;
被移植者ではない健常者の集団;
その被移植者からの異なる時期に採取された試料。
【請求項13】
バイオマーカー対照が免疫寛容を示さない被移植者の個人もしくは集団であって、少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルが対照に比べて少なくとも2倍増大している、請求項12記載の方法。
【請求項14】
検出の工程が核酸マイクロアレイもしくはPCRに基づく方法の使用を含む、請求項8記載の方法。
【請求項15】
表Xおよび表Zに開示されたバイオマーカーからなる群より選択される少なくとも10のバイオマーカーの発現が検出および比較される、請求項8記載の方法。
【請求項16】
被移植者が移植に免疫寛容を示すと予測されるかどうかに応じて、被移植者のための免疫抑制療法の過程を調整する工程をさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項17】
被移植者のための免疫抑制療法の過程を決定するための方法であって、以下の工程を含む方法、
(i) 被移植者からの生物学的試料において、表Xおよび表Zに開示されたバイオマーカーからなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを検出する工程;
(ii) その少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを、バイオマーカー対照からの少なくとも1つの同じバイオマーカーの発現レベルと比較する工程;
(iii) 工程(ii)における比較に基づいて、被移植者が移植に免疫寛容を示すかどうかを予測する工程;および
(iv) 被移植者が移植に免疫寛容を示すと予測されるかどうかに応じて、被移植者のための免疫抑制療法の過程を調整する工程。
【請求項18】
IgκV1D-13の発現が検出および比較される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
IgκV4-1およびIgκV1D-13の発現が検出および比較される、請求項17記載の方法。
【請求項20】
IgκV4-1、IgλL1、およびIgκV1D-13の発現が検出および比較される、請求項17記載の方法。
【請求項21】
バイオマーカー対照が以下からなる群より選択される、請求項17記載の方法:
免疫寛容を示さない個人の被移植者;
免疫寛容を示さない被移植者の集団;
被移植者ではない個人の健常者;
被移植者ではない健常者の集団;
その被移植者からの異なる時期に採取された試料。
【請求項22】
バイオマーカー対照が、免疫寛容を示さない被移植者の個人もしくは集団であって、少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルが対照に比べて少なくとも2倍増大している、請求項21記載の方法。
【請求項23】
免疫抑制療法が開始されると直ちに実行される、請求項17記載の方法。
【請求項24】
1回よりも多く実行される、請求項17記載の方法。
【請求項25】
被移植者が移植に免疫寛容を示すと予測される場合には免疫抑制療法が減少される、請求項17記載の方法。
【請求項26】
被移植者が移植に免疫寛容を示すと予測される場合には免疫抑制療法が処方されない、請求項17記載の方法。
【請求項27】
移植に対する被移植者の免疫寛容を予測するための方法であって、以下の工程を含み、
被移植者からの生物学的試料において、試料中の少なくとも1つのB細胞集団の量を検出する工程;および
その少なくとも1つのB細胞集団の量を、B細胞対照からの生物学的試料中の少なくとも1つの同じB細胞集団の量と比較する工程であって、ここでその少なくとも1つのB細胞集団が全B細胞、ナイーブB細胞、記憶B細胞、移行性B細胞、およびCD86+B細胞より選択される工程、
これにより移植に対する被移植者の免疫寛容を予測する方法。
【請求項28】
検出の工程が蛍光標識細胞分取(FACS)を含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
B細胞対照が以下からなる群より選択される、請求項27記載の方法:
免疫寛容を示さない個人の被移植者;
免疫寛容を示さない被移植者の集団;
被移植者ではない個人の健常者;
被移植者ではない健常者の集団;
その被移植者からの異なる時期に採取された試料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−527895(P2012−527895A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513157(P2012−513157)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/035966
【国際公開番号】WO2010/138456
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.JAVA
2.JAVASCRIPT
【出願人】(506115514)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (87)
【出願人】(505027937)トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルベニア (1)
【氏名又は名称原語表記】TRUSTEES OF THE UNIVERSITY OF PENNSYLVANIA
【出願人】(503124447)エモリー ユニバーシティ (8)
【Fターム(参考)】