説明

被締結部材及び被締結部材の締結構造

【課題】締結用の貫通孔が形成される樹脂製の被締結部材において貫通孔の周囲に補強部材が配置される場合に、被締結部材の最終形状が補強部材の長さにより規定されることなく、貫通孔の周囲のクリープ変形を抑制することができる。
【解決手段】第1補強部材4及び第2補強部材5は被締結部材1の貫通孔3周囲の応力作用領域に配置されている。第1補強部材4及び第2補強部材5は貫通孔3の軸3a方向を向いて配置されている。第1補強部材4の根元部4bは上側表面1aに露出され、先端部4aが上側表面1aとは反対側の下側表面1bよりも内側に埋没している。第2補強部材5は第1補強部材4と隣接して配置され、第2補強部材5の根元部5bが下側表面1bに露出されるとともに先端部5aが第1補強部材4の先端部4aよりも上側表面1a側でかつ上側表面1aよりも内側に埋没している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被締結部材及び被締結部材の締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形体は軽量の構造材であり、ボルト及びナット等の締結部材により他の部品に取り付けて使用される場合がある。しかし、他の部材に直接取り付けられた樹脂成形体は軸力によりクリープ変形を生じ、締結部材の軸力が低下する。そのために、樹脂成形体と他の部材とを締結した場合、緩みが生じるという問題がある。このような樹脂成形体の取り付け上の問題を解消するため、一般的には、例えば特許文献1に開示されているような金属パイプを用いた取り付け方法が多く用いられている。
【0003】
特許文献1には、回転検出装置を備えたハウジングを車載エンジンに取り付けた構造が開示されている。ハウジングは車載エンジンへ取り付けるためのフランジとともに樹脂成形されている。フランジに形成された貫通孔には、金属パイプがインサート成形により挿入され、一体化されている。ハウジングは金属パイプに通したボルトを車載エンジンの雌ネジに締結することにより取り付けられている。
【0004】
特許文献2には、板状の繊維強化複合材の内部に強化繊維である繊維挿入物が配置された構造が開示されている。繊維挿入物の圧縮弾性率は繊維強化複合材の樹脂よりも高くなっている。繊維強化複合材にはボルトが挿入される貫通孔が形成されており、貫通孔の周囲には繊維挿入物が繊維強化複合材の板厚方向に向いて配置されている。繊維挿入物の長さは貫通孔の長さに等しく、繊維挿入物の上端及び下端はいずれも繊維強化複合材の表面に露出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−275270号公報
【特許文献2】特表2008−521657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、ボルトの軸力は金属パイプにのみ作用し、樹脂材料で成形されたフランジにかからないため、樹脂のクリープによる緩みの問題を解消することができる。しかし、ボルトが挿入される貫通孔に金属パイプを一体化する方法は金属パイプの高い取り付け精度を必要とする。例えば、金属パイプを前記フランジにインサート成形する場合は、特許文献1の発明のように、金属パイプの端面とボルトの頭部及び車載エンジンとの間に樹脂が介在されないように精度の高い成形技術が必要となる。また、金属パイプを貫通孔に圧入する方法では、貫通孔の精度や金属パイプの圧入精度を高める必要があるため、加工工数が増加し、加工作業も煩雑になる。
【0007】
特許文献2では、繊維挿入物の長さは繊維強化複合材に形成された貫通孔の長さと等しい。強化繊維からなる繊維構造体を成形型内に配置した後に成形型に樹脂を流し入れて繊維強化複合材を圧縮成形する場合、樹脂が含浸される前の強化繊維の構造体である基材の寸法は圧縮方向に縮むため、基材は最終的な繊維強化複合材の寸法よりも圧縮方向に大きく形成される。基材に対して圧縮方向に繊維挿入物を挿入した場合、繊維挿入物の長さを成形後の繊維強化複合材の厚さに一致するように設計したとしても、繊維挿入物に正の製造誤差が出た場合は繊維挿入物の長さ以下に繊維強化複合材を圧縮することができず、複合材を所望の寸法に成形できなくなる。また、繊維挿入物に負の製造誤差が出た場合は、成形後の複合材には貫通孔の軸方向に繊維挿入物の存在しない部分が存在するため、繊維挿入物のみでは複合材のクリープ変形を抑制することができなくなる。
【0008】
本発明は、締結用の貫通孔が形成される樹脂製の被締結部材において貫通孔の周囲に補強部材が配置される場合に、被締結部材の最終形状が補強部材の長さにより規定されることなく、貫通孔の周囲のクリープ変形を抑制することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の本発明は、締結用の貫通孔が形成される樹脂製の被締結部材であり、 前記貫通孔の周囲における応力作用領域には前記樹脂よりも圧縮弾性率の高い補強部材が前記貫通孔の軸方向を向いて配置され、前記補強部材は、一方の端部が前記被締結部材の第1表面に露出されるとともに他方の端部が前記第1表面とは反対側の第2表面よりも内側に埋没している第1補強部材と、前記第1補強部材に隣接して配置され一方の端部が前記第2表面に露出されるとともに他方の端部が前記第1補強部材の他方の端部よりも前記第1表面側でかつ前記第1表面よりも内側に埋没している第2補強部材とからなることを特徴とする。
【0010】
請求項1に記載の本発明によれば、補強部材は成形後の被締結部材における貫通孔の長さよりも短いため、被締結部材を成形する際に、被締結部材に挿入される補強部材に正の製造誤差が出た場合であっても、成形型の寸法に合わせて樹脂を圧縮することができ、被締結部材の最終形状が補強部材の長さにより規定されない。さらに、圧縮弾性率が樹脂よりも高い領域を、被締結部材における第1表面から第2表面にわたって貫通孔の軸方向に連続的に形成することができるため、前記貫通孔の周囲における応力作用領域におけるクリープ変形を抑制することができる。
【0011】
なお、補強部材が貫通孔の軸方向を向いて配置されるとは、補強部材が貫通孔の軸と平行に配向される場合に加え、補強部材の向きが貫通孔の軸(応力軸)に対して少しずれた方向を向いている場合を含む。
【0012】
なお、露出されるとは、補強部材の端部である補強部材の端面あるいは端点が、被締結部材の締結後には、被締結部材の表面と同一平面上に配置されることを指し、例えば、被締結部材の締結前には、補強部材の端部が被締結部材の表面上に突出しており、該突出した端部に締結部材を圧接することで補強部材の端部が被締結部材に当接状態を保ったままで埋没される場合を含む。
【0013】
また、隣接して配置されるとは、貫通孔の径方向あるいは周方向に第1補強部材及び第2補強部材が隣接して配置される場合に加え、ある第1補強部材の近傍に第2補強部材が配置される場合を指す。
【0014】
また、補強部材が貫通孔の長さよりも短いとは、補強部材の一方の端部が被締結部材の第1表面あるいは第2表面に露出された場合、補強部材の他方の端部が被締結部材の第1表面あるいは第2表面に露出されない長さ(被締結部材の第1表面あるいは第2表面に、補強部材における両方の端部のいずれもが露出されない長さ)であれば、補強部材が貫通孔の長さよりわずかに短いものを含む。
【0015】
第2補強部材は、第1補強部材に隣接して配置され一方の端部が第2表面に露出されるとともに他方の端部が第1補強部材の他方の端部よりも第1表面側でかつ第1表面よりも内側に埋没しているとは、互いに隣接する第1補強部材と第2補強部材の一部が対向して配置されることを指す。
【0016】
また、応力作用領域とは、被締結部材に形成された締結用の貫通孔あるいは貫通孔の近傍に締結部材が配置された場合、被締結部材において締結部材の応力(軸力)が作用する領域を指す。
【0017】
請求項2に記載の本発明は、前記被締結部材は繊維強化複合材であることを特徴とする。前記補強部材が配置される被締結部材は強化繊維を含有するため、被締結部材においてクリープの原因である樹脂の量が減少する。そのため、被締結部材が強化繊維を含有しない場合と比べて被締結部材のクリープ抑制効果を高めることができる。
【0018】
請求項3に記載の本発明は、前記補強部材は繊維強化複合材であることを特徴とする。そのため、金属製の補強部材に比べて補強部材を軽量化できる。また、補強部材が配置された被締結部材をリサイクルする際に、被締結部材と補強部材を分離する必要がない。
【0019】
請求項4に記載の本発明は、前記補強部材は少なくとも一方の端部が尖った針状であることを特徴とする。そのため、被締結部材に補強部材を挿入しやすい。
【0020】
請求項5に記載の本発明は、締結用の貫通孔が形成される樹脂製の被締結部材と、前記貫通孔の周囲における応力作用領域に前記貫通孔の軸方向を向いて配置される前記樹脂よりも圧縮弾性率の高い補強部材と、前記被締結部材と当接される締結部材と、前記被締結部材と締結される他の部材とからなり、前記補強部材は、一方の端部が前記被締結部材の第1表面に露出されるとともに他方の端部が前記第1表面とは反対側の第2表面よりも内側に埋没している第1補強部材と、前記第1補強部材に隣接して配置され一方の端部が前記第2表面に露出されるとともに他方の端部が前記第1補強部材の他方の端部よりも前記第1表面側でかつ前記第1表面よりも内側に埋没している第2補強部材とからなることを特徴とする。そのため、被締結部材を他の部材と締結する際の、締結部材の緩みを抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、締結用の貫通孔が形成される樹脂製の被締結部材において貫通孔の周囲に補強部材が配置される場合に、被締結部材の最終形状が補強部材の長さにより規定されることなく、貫通孔の周囲のクリープ変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る貫通孔3周囲の被締結部材1、第1補強部材4及び第2補強部材5を説明する断面模式図である。
【図2】(a)本発明の実施形態に係る第1補強部材4の形状を示す模式図、(b)本発明の実施形態に係る第1補強部材4の根元部4bを示す模式図である。
【図3】本発明の実施形態に係る第1補強部材4及び第2補強部材5の配列を説明する模式図である。
【図4】本発明の実施形態に係る被締結部材1の締結構造を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施形態)
実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。なお、図示の都合上、一部の寸法を誇張して分かり易くしてある。
【0024】
図1に示すように、被締結部材1は熱硬化性樹脂をマトリックスとして束状の強化繊維である炭素繊維2を含有し、板状に形成されている。被締結部材1において炭素繊維2は、一方向(X軸方向)に配向されている。なお、図1は後述する図3における断面線A−Aによる断面模式図である。
被締結部材1には締結部材であるボルト7が挿入される貫通孔3が形成されている。貫通孔3の断面はボルト7が挿入可能な径である円形に形成されている。
【0025】
図2(a)に示すように、被締結部材1に配置される第1補強部材4は熱硬化性樹脂をマトリックスとして炭素繊維6を含有する繊維強化複合材であり、円錐形状をしている。第1補強部材4のマトリックスとしての熱硬化性樹脂は、被締結部材1のマトリックスとしての熱硬化性樹脂と同種である。第1補強部材4の長さ(円錐の高さ)は被締結部材1の貫通孔3の長さよりも短く形成されている。補強部材4において一方の端部である先端部4aは尖った針状に形成されており、図2(b)に示すように、第1補強部材4において他方の端部である根元部4bは断面が円形に形成されている。なお、後述する第2補強部材5も第1補強部材4と同様の形状をしている。第1補強部材4及び第2補強部材5において炭素繊維6は補強部材4の中心軸線(補強部材の中心を通るZ軸方向の軸線)を向いて配向している。
【0026】
図3は貫通孔3の軸3a方向から見た、貫通孔3周囲における第1補強部材4及び第2補強部材5の配列を示している。図3に示す平面は、貫通孔3の軸3a方向の中心を通りかつ被締結部材1の上側表面1aあるいは下側表面1bに平行である平面に対応している。図3に示すように、第1補強部材4及び第2補強部材5は被締結部材1の貫通孔3の周囲に配列されている。図1に示すように、第1補強部材4において、断面が円形に形成された根元部4bは被締結部材1の上側表面1aに露出しており、第1補強部材4において尖った針状に形成された先端部4aは、被締結部材1の内部に埋設されている。また、第2補強部材5において、断面が円形に形成された根元部5bは被締結部材1の下側表面1bに露出しており、第2補強部材5において尖った針状に形成された先端部5aは、被締結部材1の内部に埋設されている。つまり、第1補強部材4及び第2補強部材5は被締結部材1の板厚方向(Z軸方向)に貫通していない。なお、上側表面1aは被締結部材1においてボルト7の頭部7aと当接される側の表面であり、下側表面1bは被締結部材1において上側表面1aと反対側の表面である。
【0027】
第1補強部材4及び第2補強部材5は、貫通孔3の周方向に隣接して配置されている。第1補強部材4の根元部4bは上側表面1aに露出され、先端部4aが上側表面1aとは反対側の下側表面1bよりも内側に埋没している。第2補強部材5は第1補強部材4と隣接して配置され、第2補強部材5の根元部5bが下側表面1bに露出されるとともに先端部5aが第1補強部材4の先端部4aよりも上側表面1a側でかつ上側表面1aよりも内側に埋没している。つまり、隣接して配置される第1補強部材4及び第2補強部材5の一部は対向して配置されている。図1において第1補強部材4及び第2補強部材5が対向して配置された領域の、第1補強部材4及び第2補強部材5における貫通孔3の軸3a方向の長さをLで示す。被締結部材1に配置された第1補強部材4及び第2補強部材5において、図1に示した炭素繊維6は貫通孔3の軸3a方向に配向している。被締結部材1において貫通孔3の近傍の、ボルト7の頭部7aと当接された領域に、第1補強部材4の根元部4bが露出されており、根元部4bはボルト7の頭部7aと当接されている。
【0028】
図3に示すように、第1補強部材4及び第2補強部材5は、貫通孔の周方向に隣接しかつ貫通孔3の軸3aを中心とする同心円状に配列されている。図3において、被締結部材1のボルト7と当接される側の表面(上側表面1a)に根元部4bが配置された補強部材である第1補強部材4を黒丸(●)で示す。図3において、被締結部材1が後述する金属材8と当接する側の表面(下側表面1b)に根元部5bが配置された補強部材である第2補強部材5を白丸(○)で示す。第1補強部材4及び第2補強部材5は貫通孔3の周方向に隣接しかつ貫通孔3の軸3aを中心とする同心円状に配列されており、根元部4b及び根元部5bは、被締結部材1の異なる表面(根元部4bは上側表面1a、根元部5bは下側表面1b)に露出されている。第1補強部材4及び第2補強部材5は、貫通孔3の内周面に露出されず、貫通孔3の内周面から間隔を置いて配置されている。また、第1補強部材4及び第2補強部材5は被締結部材1を構成する炭素繊維2の配向方向であるX軸方向の同一直線上に並ばないように配列されている。
【0029】
図4に従って被締結部材1の締結構造を説明する。
被締結部材1は次のように他の部材である金属材8と締結されている。金属材8は締結用の貫通孔9を有している。被締結部材1の下側表面1bと金属材8の上側表面とは当接されており、被締結部材1に形成された締結用の貫通孔3の軸3aと、金属材8に形成された締結用の貫通孔9の軸9aとが一致して一組の貫通孔を形成している。締結部材であるボルト7は被締結部材1に形成された貫通孔3に挿入され、ボルト7の頭部7aは被締結部材1に当接されている。
【0030】
第1補強部材4及び第2補強部材5の中心軸線は貫通孔3の軸3aを向いて配置されている。第1補強部材4及び第2補強部材5は、被締結部材1の板厚よりも短く形成されている。第1補強部材4の根元部4bは被締結部材1の上側表面1a(ボルト7と当接される側の面)に露出されており、ボルト7の頭部7aと被締結部材1が当接される領域に露出された根元部4bはボルト7の頭部7aと当接している。また、第2補強部材5において、根元部5bは被締結部材1の下側表面1b(被締結部材1における金属材8側の面)に露出しており、金属材8の上側表面と当接している。図4において、ボルト7の応力が被締結部材1に作用する領域(応力作用領域)をSで示す。ボルト7の頭部7aと当接される第1補強部材4に隣接する第2補強部材5は領域S内に配置されている。隣接する第1補強部材4及び第2補強部材5の間隔は被締結部材1を構成する炭素繊維6を損傷しない程度に広くかつ隣接する第1補強部材4及び第2補強部材5が領域S内に配置される程度に狭くなっている。第1補強部材第2補強部材ボルト7の先端は金属材8に形成された貫通孔9を通って金属材8の下方に突出しており、ナット10により締め付けられている。
【0031】
次に、第1補強部材4及び第2補強部材5が配置された被締結部材1の製造方法を説明する。
平板状の支持体の上に、炭素繊維2が一方向(X方向)に配列された一方向材(UD材)を配置する。繊維強化複合材が針状に形成された第1補強部材4及び第2補強部材5をUD材の所定の位置に挿入する。この際、第1補強部材4及び第2補強部材5の中心軸線は、UD材における炭素繊維2の配列方向及び支持体の成す平面に対して垂直な方向(Z方向)を向いている。
【0032】
第1補強部材4及び第2補強部材5が配置されたUD材は圧縮成形用の成形型を用いて成形体に圧縮成形される。成形型は上型と下型からなり、型締め状態において型内を減圧にする減圧通路と、型内に樹脂を注入する樹脂注入通路とを備えている。上型が開かれた状態で、第1補強部材4及び第2補強部材5が配置されたUD材を下型に配置する。次に上型を閉じて型内を真空に近い状態まで減圧した状態で、マトリックスとしての熱硬化性樹脂を型内に注入し、第1補強部材4及び第2補強部材5が配置されたUD材に含浸する。
【0033】
次に成形型を図示しない加熱手段によって熱硬化性樹脂の熱硬化温度以上に加熱し、含浸した熱硬化性樹脂を硬化する。成形型の温度が低下した後に成形型を開き、熱硬化性樹脂が硬化した成形体を下型から取り出す。なお、成形体は第1補強部材4、第2補強部材5、UD材及びマトリックスとしての熱硬化性樹脂からなる繊維強化複合材であり、被締結部材1、第1補強部材4及び第2補強部材5が一体に形成されたものである。成形体の所定の位置に、ドリルにより貫通孔3が形成される。
【0034】
実施形態における被締結部材1の作用を説明する。
被締結部材1における貫通孔3の周囲に繊維強化複合材である第1補強部材4及び第2補強部材5が配置されている。第1補強部材4及び第2補強部材5は貫通孔3の軸3a方向を向いて配置されており、第1補強部材4及び第2補強部材5において炭素繊維6は貫通孔3の軸3a方向(被締結部材1の板厚方向)を向いて配向されている。そのため、第1補強部材4及び第2補強部材5の圧縮弾性率は被締結部材1のマトリックスである熱硬化性樹脂の圧縮弾性率に比べ40倍程度大きい。
【0035】
繊維強化複合材を圧縮成形する場合、熱硬化性樹脂が含浸される前の強化繊維の構造体である基材の寸法は、成形される繊維強化複合材である成形体の寸法よりも圧縮方向に縮む。成形体を所望の寸法に成形する際に、補強部材が成形体の所望の寸法よりも長い場合には樹脂が含浸された基材の圧縮は補強部材により制限される。すなわち、成形体の圧縮方向の寸法は補強部材の長さにより規定されることになる。第1補強部材4及び第2補強部材5は成形後の被締結部材1における貫通孔3の長さよりも短く形成されているため、第1補強部材4における先端部4aと根元部4b及び第2補強部材5における先端部5aと根元部5bの両端部を共に基材の表面に露出させることなく配置することができる。被締結部材1を成形する際に、成形型の寸法に合わせて圧縮成形することができるため、例えば被締結部材に挿入される補強部材に正の製造誤差が出た場合であっても、成形型の寸法に合わせて樹脂を圧縮することができ、第1補強部材4及び第2補強部材5が配置されたUD材に樹脂を含浸した後に圧縮して成形体を形成する場合、成形体の最終形状が第1補強部材4及び第2補強部材5の長さにより規定されない。
【0036】
隣接して配置される第1補強部材4及び第2補強部材5の先端部4a,5a及び根元部4b,5bは被締結部材1の異なる表面である上側表面1a及び下側表面1bに露出されている。そのため、被締結部材1にかかる応力は被締結部材1の上側表面1a(被締結部材1においてボルト7と当接される側の表面)に露出された第1補強部材4及び被締結部材1の下側表面1b(被締結部材1において金属材8と当接される側の表面)に露出された第2補強部材5により分担される。
【0037】
第1補強部材4は貫通孔3の長さよりも短く形成されている。第1補強部材4の先端部4aは被締結部材1の下側表面1bに達しておらず、第2補強部材が存在しない場合には第1補強部材4の先端部4aと被締結部材1の下側表面1bとの間の熱硬化性樹脂がクリープ変形する。 第1補強部材4及び第2補強部材5が貫通孔3の長さよりも短く形成されていても、第2補強部材5の先端部5aが第1補強部材4の先端部4aよりも上側表面1a側でかつ上側表面1aよりも内側に埋没されている、すなわち、第1補強部材4及び第2補強部材5の一部(Lに相当する一部)が対向して配置される場合には、ボルト7の軸力は第1補強部材4と第2補強部材5の間の熱硬化性樹脂層を介して第2補強部材5に伝達される。従って、被締結部材1の貫通孔3の周囲において、圧縮弾性率が被締結部材1に含有される熱硬化性樹脂よりも高い領域を、被締結部材1における上側表面1aから下側表面1bにわたって貫通孔3の軸3a方向に連続的に形成できるため、第1補強部材4の先端部4aと下側表面1bとの間、及び第2補強部材5の先端部5aと上側表面1aとの間に存在する熱硬化性樹脂のクリープが抑制される。
ただし、互いに隣接して配置される第1補強部材4及び第2補強部材5の間隔が広い場合には、第1補強部材4と第2補強部材5の間の熱硬化性樹脂がせん断変形されやすい。
【0038】
被締結部材1はマトリックスとしての熱硬化性樹脂に加え、炭素繊維2を含有する。被締結部材1は炭素繊維2を含有しない場合に比べてクリープの原因である熱硬化性樹脂の量が減少する。そのため、第1補強部材4及び第2補強部材5が配置される被締結部材1として繊維強化複合材を用いることで、クリープを抑制する効果を高められる。
【0039】
さらに、被締結部材1において炭素繊維2は貫通孔3の軸3a方向とは垂直である方向(X方向)に配向している。そのため、炭素繊維2は隣接する第1補強部材4及び第2補強部材5において対向して配置された領域と共に、被締結部材1における上側表面1aから下側表面1bにわたって貫通孔3の軸3a方向に連続的に形成できると共に、被締結部材1の左側側面から右側側面にわたって貫通孔3の軸3aに対して垂直な方向に連続して圧縮弾性率の高い領域を形成することができる。従って、被締結部材1において締結による応力を圧縮弾性率の高い領域で受承させることができ、被締結部材1のクリープ変形が抑制される。
【0040】
第1補強部材4及び第2補強部材5はマトリックスとしての熱硬化性樹脂と炭素繊維6とからなり、金属製の部材ではない。そのため、特許文献1のように金属パイプを取り付ける場合に生じる、締結構造における重量の増加を防ぐことができる。
また、第1補強部材4及び第2補強部材5が固定された被締結部材1においては、被締結部材1を廃棄する際に被締結部材1と繊維強化複合材である第1補強部材4及び第2補強部材5を分離する必要がないため、リサイクル時にかかるコストを低減できる。
【0041】
さらに、被締結部材1のマトリックスである熱硬化性樹脂と第1補強部材4及び第2補強部材5との熱膨張係数の差が大きい場合、第1補強部材4及び第2補強部材5が配置された被締結部材1を高温で使用する場合は、被締結部材1と第1補強部材4及び第2補強部材5との間に亀裂が入る等の不具合が生じる恐れがある。そのため、被締結部材1を構成する熱硬化性樹脂と第1補強部材4及び第2補強部材5の熱膨張係数との差が小さい方が望ましい。第1補強部材4及び第2補強部材5に含有される熱硬化性樹脂は被締結部材1に含有される熱硬化性樹脂と同種である場合には、被締結部材1を構成する熱硬化性樹脂と第1補強部材4及び第2補強部材5を構成する熱硬化性樹脂の熱膨張係数との差をなくすことができる。また、第1補強部材4及び第2補強部材5に含有される熱硬化性樹脂は被締結部材1に含有される熱硬化性樹脂と同種であるため、第1補強部材4及び第2補強部材5と被締結部材1との接着性がよい。
【0042】
第1補強部材4の先端部4a及び第2補強部材5の先端部5aは端部が尖った針状である。そのため、被締結部材1に第1補強部材4及び第2補強部材5を挿入しやすい。
【0043】
被締結部材1の貫通孔3の周囲に第1補強部材4及び第2補強部材5が配置されており、貫通孔3に挿入されたボルト7により被締結部材1が金属材8と締結されている。そのため、被締結部材1と金属材8をボルト7により締結する場合において、ボルト7の緩みを抑制することができる。
【0044】
被締結部材1において炭素繊維2は一方向に配向されたUD材に形成されている。そのため、第1補強部材4及び第2補強部材5がUD材の配向方向と方向を揃えて配列された場合、第1補強部材4及び第2補強部材5が配置された箇所に沿って被締結部材1の熱硬化性樹脂に亀裂が生じる恐れがある。第1補強部材4及び第2補強部材5は貫通孔3の周方向に隣接しかつ貫通孔3の軸3aを中心とする同心円状に配列されており、被締結部材1を構成する炭素繊維2の配向方向であるX軸方向の同一直線上に並ばないように配列されている。よって、第1補強部材4及び第2補強部材5が配置された箇所において亀裂が生じにくい。
【0045】
隣接する第1補強部材4及び第2補強部材5の間隔が狭い場合、被締結部材1を構成する炭素繊維2が第1補強部材4あるいは第2補強部材5と接触されると、炭素繊維2は隣接する第1補強部材4及び第2補強部材5に挟まれるあるいは炭素繊維2同士が接触する等によって、損傷される恐れがある。隣接する第1補強部材4及び第2補強部材5の間隔は、第1補強部材4及び第2補強部材5と接触された炭素繊維2が被締結部材において樹脂により構成される領域に逃げることが可能な程度に広いため、被締結部材1を構成する炭素繊維2を損傷する恐れがない。
【0046】
また、ボルト7の頭部7aと当接される第1補強部材4に隣接する第2補強部材5は領域Sの内部に含まれている。そのため、ボルト7の締結による応力は、被締結部材1の異なる面に露出された第1補強部材4及び第2補強部材5により担われ、被締結部材1におけるボルト7の応力が緩和される。
【0047】
第1補強部材4及び第2補強部材5は、特許文献1の金属パイプのように被締結部材1の貫通孔3に圧入する必要がない。また、被締結部材1に形成される貫通孔3の加工精度や第1補強部材4及び第2補強部材5の圧入精度を高めなくてもよく加工が容易になる。
【0048】
前記した実施形態は以下の作用効果を有する。
(1)被締結部材1は締結用の貫通孔3を有し熱硬化性樹脂を含有する。貫通孔3にボルト7が挿通されており、貫通孔3の周囲の応力作用領域には第1補強部材4及び第2補強部材5が貫通孔3の軸方向を向いて配置されている。第1補強部材4及び第2補強部材5の圧縮弾性率は被締結部材1の熱硬化性樹脂よりも高く、第1補強部材4及び第2補強部材5の長さは成形後の被締結部材1における貫通孔3の長さよりも短く形成されている。第1補強部材4の根元部4bは上側表面1aに露出され、先端部4aが上側表面1aとは反対側の下側表面1bよりも内側に埋没している。第2補強部材5は第1補強部材4と隣接して配置され、第2補強部材5の根元部5bが下側表面1bに露出されるとともに先端部5aが第1補強部材4の先端部4aよりも上側表面1a側でかつ上側表面1aよりも内側に埋没している。そのため、被締結部材1を成形する際に、成形型の寸法に合わせて熱硬化性樹脂を圧縮することができ、第1補強部材4あるいは第2補強部材5の長さにより規定されることなく、被締結部材1を所望の寸法に成形することができる。また、貫通孔3の周囲において、被締結部材1の熱硬化性樹脂よりも圧縮弾性率が高い領域を上側表面1aから下側表面1bにわたって連続して形成することができるため、貫通孔3の周囲の応力作用領域における被締結部材1の熱硬化性樹脂のクリープ変形を抑制することができる。
【0049】
(2)被締結部材1はマトリックスとしての熱硬化性樹脂に加え、炭素繊維2を含有する。被締結部材1は炭素繊維2を含有しない場合に比べてクリープの原因である熱硬化性樹脂の量が減少するため、第1補強部材4及び第2補強部材5が締結される被締結部材1として繊維強化複合材を用いることで、クリープを抑制する効果を高められる。
【0050】
(3)被締結部材1において炭素繊維2は貫通孔3の軸3a方向とは垂直である方向(X方向)に配向している。そのため、炭素繊維2は隣接する第1補強部材4及び第2補強部材5において対向して配置された領域と共に、貫通孔3の軸3a方向及び貫通孔3の軸3aに対して垂直な方向に連続して圧縮弾性率の高い領域を形成することができ、被締結部材1において締結による応力を圧縮弾性率の高い領域で受承させることができる。
【0051】
(4)第1補強部材4及び第2補強部材5はマトリックスとしての熱硬化性樹脂と炭素繊維6とからなるため、第1補強部材4及び第2補強部材5を金属で形成する場合に比べて、締結構造における重量の増加を防ぐことができる。
【0052】
(5)第1補強部材4及び第2補強部材5が固定された被締結部材1においては、被締結部材1を廃棄する際に被締結部材1とインサートされた金属製の別部材とを分離する必要がないため、リサイクル時にかかるコストを低減できる。
【0053】
(6)第1補強部材4及び第2補強部材5が繊維強化複合材であり、第1補強部材4及び第2補強部材5に含有される樹脂が被締結部材1に含有される樹脂と同種であるため、第1補強部材4及び第2補強部材5と被締結部材1に含有される樹脂との熱膨張係数の差を小さくすることができる。また、第1補強部材4及び第2補強部材5と被締結部材1との接着がよい。
【0054】
(7)第1補強部材4の先端部4a及び第2補強部材5の先端部5aは端部が尖った針状である。そのため、被締結部材1に第1補強部材4及び第2補強部材5を配置する際に、被締結部材1に挿入しやすい。
【0055】
(8)被締結部材1の貫通孔3の周囲に第1補強部材4及び第2補強部材5が配置されており、貫通孔3に挿入されたボルト7により被締結部材1が金属材8と締結されているため、被締結部材1と金属材8をボルト7により締結する場合において、ボルト7の緩みを抑制することができる。
【0056】
(9)隣接する第1補強部材4及び第2補強部材5の間隔が広く、第1補強部材4及び第2補強部材5と接触された炭素繊維2が、被締結部材1において樹脂により構成される領域に逃げることが可能であるため、被締結部材1を構成する炭素繊維2を損傷する恐れがない。
【0057】
(10)ボルト7の頭部7aと当接される第1補強部材4に隣接する第2補強部材5は領域Sの内部に含まれている。そのため、ボルト7の締結による応力は、被締結部材1の上側表面1aに露出された第1補強部材4及び被締結部材1の下側表面1bに露出された第2補強部材5により担われ、被締結部材1におけるボルト7の応力が緩和される。
【0058】
(11)特許文献1における金属パイプのように、第1補強部材4及び第2補強部材5を被締結部材1の貫通孔3に圧入する必要がない。また、被締結部材1に形成される貫通孔3の加工精度や第1補強部材4及び第2補強部材5の圧入精度を高めなくてもよく加工が容易になる。
【0059】
本発明は、前記した実施形態の構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、次のように実施することができる。
【0060】
○実施形態において、被締結部材1及び第1補強部材4及び第2補強部材5を構成する強化繊維は炭素繊維でなくてもよい。例えばガラス繊維であってもよい。
【0061】
○実施形態において、第1補強部材4及び第2補強部材5の形状は、一方の端部が尖った針状に形成されていなくてもよい。例えば、細長い円柱状であってもよく、細長い円柱状である補強部材において、一方の端部が面取りされた形状であってもよい。
【0062】
○実施形態において、第1補強部材4及び第2補強部材5を構成する炭素繊維6は第1補強部材4及び第2補強部材5の中心軸線(貫通孔3の軸3a)からわずかにずれた方向を向いて配向されていてもよい。炭素繊維6の配向方向(繊維軸)と貫通孔の軸a(応力軸)のなす角度が0°である場合、炭素繊維6が含有された繊維強化複合材の圧縮弾性率は最大になる。繊維軸と応力軸のなす角度が小さければ、繊維強化複合材の圧縮弾性率は最大に近い。例えば、繊維軸と応力軸のなす角度が0°の場合における繊維強化複合材の圧縮弾性率を100%としたとき、繊維軸と応力軸のなす角度が10°の場合における繊維強化複合材の圧縮弾性率は80%である。そのため、好ましくは炭素繊維6の配向方向と貫通孔3の軸3aとのなす角度は10°以内である。
【0063】
○実施形態において、第1補強部材4及び第2補強部材5は繊維強化複合材でなくてもよい。例えば、金属であってもよい。その場合、金属の種類としては、例えばステンレスのように、被締結部材1の樹脂との熱膨張係数の差が小さいものが望ましい。第1補強部材4及び第2補強部材5が金属製である場合、第1補強部材4及び第2補強部材5が繊維強化複合材で形成される場合に比べ、部品のコストを低減することができる。
【0064】
○実施形態において、第1補強部材4の根元部4bと当接される締結部材はボルト7でなくてもよい。例えば、貫通孔3の近傍に配置されたナットあるいはワッシャー等であってもよい。
【0065】
○実施形態において、貫通孔3は成形後の被締結部材1にドリルにより形成されなくてもよい。例えば、貫通孔3が挿入可能な径のパイプを備えた成形型を用いて被締結部材1が成形されることで、パイプに相当する領域に成形の段階で貫通孔3が形成されてもよい。その場合、成形後の被締結部材1に締結用の貫通孔3を形成する必要がなく、被締結部材1に工具で貫通孔3を形成する場合に、ドリル等の工具の刃具が痛む恐れがない。
【0066】
○実施形態において、被締結部材1の製造方法は実施形態に記載した方法以外の、従来から用いられている適宜の繊維強化複合材の製造方法により製造されてもよい。
【0067】
○実施形態において、第1補強部材4及び第2補強部材5が配置される被締結部材1には炭素繊維2が含有されていなくてもよい。例えば樹脂成形体であってもよい。
【0068】
○実施形態において、被締結部材1を構成する炭素繊維2は一方向材(UD材)に形成されていなくてもよい。例えば、被締結部材1を構成する炭素繊維2が二次元に配向されていてもよく、三次元に配向された三次元織物構造に形成されていてもよい。
【0069】
○実施形態において、被締結部材1と締結される他の部材は金属材8でなくてもよい。例えば、繊維強化複合材あるいは樹脂成形体であってもよく、壁、床や大地を構成する岩石等であってもよい。また、被締結部材1と締結される他の部材は板状である代わりに、棒状、柱状等別の形状であってもよい。
【0070】
○実施形態において、第1補強部材4及び第2補強部材5は被締結部材1の表面に平行な面において貫通孔3を中心とする同心円状に配列されていなくてもよい。炭素繊維2の配向方向と同一直線上に並ばないように配列されていなければよく、例えば、被締結部材1を構成する炭素繊維2の配向方向と異なる方向を向いた直線上に並んで配列されてもよい。また、第1補強部材4及び第2補強部材5は、ボルト7の頭部7aと当接される領域以外の領域に配置されていてもよい。
【0071】
○実施形態において、被締結部材1に含有される樹脂は熱硬化性樹脂でなくてもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。その場合、被締結部材1における所定の位置の樹脂が例えば超音波等により溶融させた後、該溶融した樹脂に第1補強部材4及び第2補強部材5が挿入されてもよい。
【0072】
○実施形態において、第1補強部材4及び第2補強部材5は被締結部材1を形成する炭素繊維からなる繊維構造体に挿入された後、被締結部材1と一体に成形されなくてもよい。被締結部材1に針等によって第1補強部材4及び第2補強部材5が挿入される穴が形成された後、穴に第1補強部材4及び第2補強部材5が挿入されてもよい。
【0073】
○実施形態において、貫通孔3の軸3a方向を向いて配置された第1補強部材4及び第2補強部材5に加えて、隣接して配置された第1補強部材4及び第2補強部材5の両中心軸線を含む平面に対して平行でありかつ、貫通孔3の軸3aに対して斜めである方向を向いて第3補強部材が配置されてもよい。第3補強部材は第1補強部材4と第2補強部材5の間の熱硬化性樹脂に配置されるため、該熱硬化性樹脂層がせん断変形しにくくなる。そのため、第3補強部材が配置された場合には、隣接する第1補強部材4及び第2補強部材5の間隔が実施形態の構成よりも広くてもよい。また、第3補強部材が配置された場合であっても、隣接する第1補強部材4及び第2補強部材5の間隔の上限は第1補強部材4及び隣接する第2補強部材が応力作用領域である領域Sの内部に配置される程度までである。
【0074】
○実施形態において、隣接する第1補強部材4及び第2補強部材5の間隔は、ボルト7の頭部7aと当接された第1補強部材4に隣接する第2補強部材5が少なくとも領域Sに含まれていれば、実施形態に記載した間隔に限らない。また、被締結部材1が樹脂成形体である場合には、隣接する第1補強部材4及び第2補強部材5の間隔は、隣接する第1補強部材4及び第2補強部材5の間に樹脂が存在可能な程度に狭くてもよい。
【0075】
○実施形態において、隣接する第1補強部材4及び第2補強部材5が対向して配置された領域(L)は被締結部材1における貫通孔3の長さの半分より長く形成されなくてもよい。貫通孔3の長さ>L>0を満たせばよい。さらに、(L/貫通孔3の長さ)は、100%より小さい範囲で大きい方が好ましい。(L/貫通孔3の長さ)が大きい方が、圧縮弾性率の高い領域を大きく形成することができるため、被締結部材1のクリープ変形を抑制する効果が高くなる。
【符号の説明】
【0076】
1 被締結部材
1a 上側表面
1b 下側表面
3 貫通孔
3a 軸
4 第1補強部材
4b 根元部
5 第2補強部材
5b 根元部
7 ボルト
7a 頭部
8 金属材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結用の貫通孔が形成される樹脂製の被締結部材であり、
前記貫通孔の周囲における応力作用領域には前記樹脂よりも圧縮弾性率の高い補強部材が前記貫通孔の軸方向を向いて配置され、
前記補強部材は、一方の端部が前記被締結部材の第1表面に露出されるとともに他方の端部が前記第1表面とは反対側の第2表面よりも内側に埋没している第1補強部材と、前記第1補強部材に隣接して配置され、一方の端部が前記第2表面に露出されるとともに他方の端部が前記第1補強部材の他方の端部よりも前記第1表面側でかつ前記第1表面よりも内側に埋没している第2補強部材とからなることを特徴とする被締結部材。
【請求項2】
前記被締結部材は繊維強化複合材であることを特徴とする、請求項1に記載の被締結部材。
【請求項3】
前記補強部材は繊維強化複合材であることを特徴とする、請求項1あるいは2に記載の被締結部材。
【請求項4】
前記補強部材は少なくとも一方の端部が尖った針状であることを特徴とする、請求項1〜3に記載の被締結部材。
【請求項5】
締結用の貫通孔が形成される樹脂製の被締結部材と、
前記貫通孔の周囲における応力作用領域に前記貫通孔の軸方向を向いて配置される前記樹脂よりも圧縮弾性率の高い補強部材と、
前記被締結部材と当接される締結部材と、
前記被締結部材と締結される他の部材とからなり、
前記補強部材は、一方の端部が前記被締結部材の第1表面に露出されるとともに他方の端部が前記第1表面とは反対側の第2表面よりも内側に埋没している第1補強部材と、前記第1補強部材に隣接して配置され、一方の端部が前記第2表面に露出されるとともに他方の端部が前記第1補強部材の他方の端部よりも前記第1表面側でかつ前記第1表面よりも内側に埋没している第2補強部材とからなることを特徴とする被締結部材の締結構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−17400(P2011−17400A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163277(P2009−163277)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】