説明

被膜付きステンレス箔及びその製造方法

【課題】皮膜として300℃〜600℃における耐熱性を有し、3〜10μmの膜厚を有し、かつ、1×10Ωcm以上の抵抗を有するステンレス箔ならびにその製造方法を提供する。
【解決手段】シロキサンポリマー、金属アルコキシド、水及び化学改質剤を混合した液体をステンレス皮膜上に塗布し、乾燥後に、260℃〜340℃の温度を有する酸素存在雰囲気内に0.5時間〜2.5時間置き更に、360℃〜500℃の温度を有するアルゴンあるいは窒素の少なくとも一方を含む雰囲気内に0.5時間〜2.5時間置く工程、あるいは、乾燥後に360℃〜500℃の温度を有するアルゴンあるいは窒素の少なくとも一方を含む雰囲気内に0.5時間〜2.5時間置く工程を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜付きステンレス箔に関する。本発明の被膜付きステンレス箔は、例えば、IC基板、センサー基板、太陽電池基板、電極基板等に好適に使用可能である。
【背景技術】
【0002】
電気絶縁性基板材料は、IC基板、センサー基板、太陽電池基板、電極基板等に使用され、電子・電気産業に欠かせない材料である。近年、最終製品の小型化・軽量化に伴って、薄く、軽く、加工性の良い電気絶縁性基板材料が求められるようになっている。
【0003】
本発明の被膜付きステンレス箔は、各種の電気絶縁性基板材料として特に制限なく適用可能であるが、説明の便宜上、以下では、「太陽電池のセル」に使用する態様を例にとって説明する。
【0004】
太陽電池のセルを集積して各ユニットセルを直列接続するには、一般的に、ステンレス箔上に平滑なあるいは凹凸のある絶縁膜を形成し、その上に下部電極を成膜して、Cu−In−Ga−Se系等の半導体膜を積層することが、行われている。
【0005】
上記製造プロセスに関連する要請から、シリコン系の可撓性のある薄膜太陽電池では、耐熱性が高く、しかも熱膨張係数が小さい絶縁材料で被覆した皮膜を有するステンレス箔が望まれている。
【0006】
ここで求められる絶縁膜の特性に関しては、半導体膜の作製時には600℃程度迄に基板温度を上げて蒸着をしたり、スパッタ後に600℃程度で熱処理を行ったりする必要があるので、これらに適した高耐熱性が必要である。
【0007】
有機修飾シリカ膜は、シリカに有機基を導入したものであり、無機の耐熱性と有機の柔軟性を兼ね備えた材料である。このような特徴に基づき、有機修飾シリカ膜は、上記したようなステンレス箔上に絶縁性を有する皮膜を製膜する材料として、近年、注目されている。
【0008】
有機修飾シリカ膜をステンレス箔上に製膜したものの例としては、例えば、特開2004−291453号公報には、SiOの皮膜が形成されたステンレス箔が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−291453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来技術におけるSiOの皮膜が形成されたステンレス箔には以下のような問題がある。
【0011】
例えば、基材たるステンレス箔表面には、通常、疵や介在物による突起などがあるため、0.2〜0.3μmの膜厚のSiOでは絶縁性を確保することが極めて困難であり、他方、ステンレス箔を電子ペーパーや有機EL基板に用いるためには、通常、膜厚3〜10μm程度の絶縁膜が必要とされている。SiOの皮膜が形成されたステンレス箔は300℃〜600℃の温度に耐えることができるが、0.2〜0.3μm程度の膜厚しか実現できず、3〜10μmの厚みを要求する電子ペーパーや有機ELディスプレイ向けフレキシブル基盤には不向きである。
【0012】
ポリジメチルシロキサンは有名なシリコーン材料であり、これをもちいて様々な用途の皮膜をつくる研究がおこなわれてきた。しかしながら、ポリジメチルシロキサンを如何なる条件で用いれば(例えば、どの程度の分子量を有するポリジメチルシロキサンに、どのような架橋剤を用いるか)、好適な物性(例えば、300℃〜600℃における耐熱性を有し、3〜10μmの膜厚を有し、かつ、1×10Ωcm以上の抵抗)を有する皮膜を、ステンレス箔の上に構築できるのかについては、先行技術文献には何ら開示されていない。
【0013】
本発明の目的は、電気絶縁性基板材料として好適な物性を有する皮膜付きステンレス箔を提供することにある。
【0014】
本発明の更に具体的な目的は、有機系皮膜を膜厚として3〜10μm有し、300℃〜600℃の耐熱性を有し、かつ、1×10Ωcm以上の抵抗を有する皮膜付きステンレス箔を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は鋭意研究の結果、特定の厚さのステンレス箔上に、特定種類の金属と、特定のアルコキシ基から構成される金属アルコキシドにより架橋されたシロキサンポリマー皮膜を特定の膜厚で設けることが、上記目的の達成に極めて効果的であることを見出した。
【0016】
本発明の皮膜付きステンレス箔は上記知見に基づくものであり、より詳しくは、厚さ20〜200μmのステンレス箔と、該ステンレス箔上に配置された、厚さ3〜10μmのシロキサンポリマー皮膜とを含む皮膜付きステンレス箔であって;且つ、前記シロキサンポリマー皮膜が、Mg、Ca、Y、Al、Si、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、Wの中から選ばれた1つの金属と、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基の中から重複を許して選ばれた4つの基から構成される金属アルコキシドにより架橋された、シロキサンポリマー皮膜であり;**(皮膜付きステンレス箔「全体」の物性として)**300℃〜600℃の耐熱性を有し、かつ、1×10Ωcm以上の抵抗を有することを特徴とするものである。
【0017】
本発明において、上述した効果が得られる理由は、本発明者の知見によれば、以下のように推定される。
【0018】
すなわち、ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリジメチルジフェニルシロキサンに代表されるシロキサンポリマーは、水溶液中においては直鎖状の構造をとり、その両端にはOH基を有している(図6)。
【0019】
一方、金属アルコキシドは、配位する金属Mとアルコキシ基ORとから構成され、M(OR)nと記載される物質である。水溶液中において、金属アルコキシドのアルコキシ基ORは加水分解されヒドロキシル基OHとなる。
【0020】
本発明者らは鋭意研究開発の結果、以下のような知見を得た。
【0021】
例えば、空気雰囲気の場合には、その温度が200℃〜340℃の場合には、ポリジメチルシロキサンのOH基と金属アルコキシドのOH基とが脱水縮合反応を起こし、ポリジメチルシロキサンは金属アルコキシドにより架橋(以下、「ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドとの架橋反応」という。)されるが、空気雰囲気の温度が340℃超ではポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドとの架橋反応以外に、ポリジメチルシロキサンが分解してシロキサンオリゴマーを発生するという反応(以下、「シロキサンオリゴマー発生反応」という。)が生じ、更に、ポリジメチルシロキサンの側鎖である、メチル基の分解に伴うポリジメチルシロキサン鎖同士の架橋反応を起こし、これが被膜の硬化を引き起こす。
【0022】
温度が高くなるにつれてシロキサンオリゴマー発生反応が支配的になること、及び、ステンレス箔に構築された皮膜が架橋により硬化してクラックを生じることを、本発明者は発見した。
【0023】
また、アルゴン等の不活性雰囲気の場合には、その温度が200℃〜360℃の場合には、ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドとの架橋反応が発生するが、不活性雰囲気の温度が360℃超ではポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドとの架橋反応以外に、シロキサンオリゴマー発生反応が生じ、温度が高くなるにつれてシロキサンオリゴマー発生反応が支配的になること、及び、ステンレス箔に構築された被膜中のポリジメチルシロキサン鎖同士の架橋による硬化は生じず、結果としてクラックを生じないことを、本発明者は発見した。
【0024】
本発明者らは、上記知見に基づき更に研究を進めた結果、不活性雰囲気内のみを利用して、あるいは、空気雰囲気と不活性雰囲気を併用することでポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドとの架橋反応により、3〜10μmの膜厚を構成できることを発見した。
【0025】
更に、本発明者らは、金属アルコキシドで架橋されたポリジメチルシロキサンの皮膜から皮膜構成に使用されなかったポリジメチルシロキサンをシロキサンオリゴマーとして離脱させることで、回路に対する悪影響を取り除き、かつ、ポリジメチルシロキサンの鎖を短くすることができ、皮膜の耐熱性が向上することを発見した。
【0026】
上述した知見に基づき、本発明者は、ステンレス上に金属アルコキシドで架橋されたポリジメチルシロキサンの3〜10μmの膜厚を実現するとともに、皮膜構成に使用されなかったポリジメチルシロキサンを皮膜から除去することに成功して、300℃〜600℃耐熱性に優れた皮膜付きステンレス箔とその製造方法を見出した。
【0027】
本発明において、「耐熱性」とは、300℃〜600℃でシロキサンオリゴマーを発生しないことをいう。このように300℃〜600℃でシロキサンオリゴマーを発生しないことを確認するにあたっては、Ar,N等の不活性雰囲気中300〜600℃における「熱重量変化が5%以下」であることを基準としている。
【0028】
また、本発明者らは、ポリジメチルシロキサンのみならず、ポリジフェニルシロキサン、等のシロキサンポリマーであって、水等に溶解した場合にOH基をその両端に持つものであれば、更に、その分子量が3×10〜3×10Mw(望ましくは、8×10〜1×10Mwの分子量)を有するものは、同様の性質を有することを見出した。以下、本明細書においては、その分子量が3×10〜3×10Mw(望ましくは、8×10〜1×10Mw)の分子量を有するシロキサンポリマーを、「シロキサンポリマー」と称することとする。なお、分子量分布は日本ウォーターズ製Alliance HPLCシステムを使用し、示差屈折計を用いてゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定し、スチレン換算の分子量を算出する。
【0029】
本発明において、シロキサンポリマーが、水等に溶解した場合にOH基をその両端に持つものをいうものに限られる理由は、該シロキサンポリマーに金属アルコキシドのヒドロキシ基と縮合反応を生じさせるためである(すなわち、水等に溶解した場合にOH基をその両端に持たない場合には、シロキサンポリマーの縮合反応が生じない)。
【0030】
更に本発明者らは、金属アルコキシドの金属Mとしては、Mg、Ca、Y、Al、Si、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、W等が、アルコキシ基ORとしては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が使用できる。加えて、金属がSiの場合には、アルコキシ基のうちの1つが有機基R’に置換したSi(OR)R’を金属アルコキシドの代わりに使うことも可能であることを発見した。
【0031】
加えて、金属がSiの場合には、アルコキシ基のうちの1つが有機基R’に置換したSi(OR)R’を金属アルコキシドの代わりに使うことも可能であることを発見した。
【0032】
なお、金属アルコキシドは反応性が高いため、化学改質剤として、3−オキソブタン酸エチルを加えることが必要である。3−オキソサンブタンサンエチルを加えないと均一に反応が進まず塗布液が合成出来ないためである。
【0033】
本発明の第1の態様は、厚さ20〜200μmステンレス箔に、金属アルコキシドM(OR)nにより架橋されたシロキサンポリマー皮膜を膜厚として3〜10μmを有し、300℃〜600℃の耐熱性を有し、かつ、1×10Ωcm以上の抵抗を有することを特徴とする皮膜付きステンレス箔である。
【0034】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に記載されるシロキサンポリマーがポリジメチルシロキサンであることを特徴とする皮膜付きステンレス箔である。
【0035】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様に記載されるシロキサンポリマーがポリジフェニルシロキサンであることを特徴とする皮膜付きステンレス箔である。
【0036】
本発明の第4の態様は、Mg、Ca、Y、Al、Si、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、Wの中から選んだ1つの金属とメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基の中から重複を許して選んだ4つの基から構成される金属アルコキシドのモル数をM、分子量が3×10〜3×10Mwであるシロキサンポリマーのモル数をS、水のモル数をW、β−ジケトン(RCOCHCOR)ないしβ−ケトエステル(RCOCHCOOR)の化学改質剤(R、Rはアルキル基を示す)のモル数をXとし、/は除算を表すときに、
S/M=0.05〜1.5 …(式1)
W/(S+M)=0.1〜10.0 …(式2)
X/M=1.5〜2.5 …(式3)
を満足するように混合して生成した塗布液を、以下の「Aプロセス」および「プロセス」を、
(1)Aプロセス実施後にBプロセスを1回以上実施する;あるいは、
(2)Aプロセスを実施せずに、Bプロセスを1回以上実施する、ことを特徴とする皮膜付きステンレス箔の製造方法である;
「Aプロセス」:
厚さ20〜200μmステンレス箔に塗布した後に200℃の大気中で20分間乾燥させ、
260℃〜340℃(望ましくは280℃〜320℃)の温度を有する酸素存在雰囲気内に0.5時間〜2.5時間置く工程を実施するプロセス;
「Bプロセス」:
360℃〜500℃(望ましくは380℃〜450℃)の温度を有するアルゴンあるいは窒素の少なくとも一方を含む雰囲気内に0.5時間〜2.5時間置く工程を実施するプロセス。
【0037】
本発明の第5の態様は、本発明の第4の態様に記載される化学改質剤が3−オキソブタン酸エチルであることを特徴とする皮膜付きステンレス箔の製造方法である。
【0038】
本発明の第6の態様は、本発明の第4の態様に記載されるシロキサンポリマーがポリジメチルシロキサンであることを特徴とする皮膜付きステンレス箔の製造方法である。
【0039】
本発明の第7の態様は、本発明の第4の態様に記載されるシロキサンポリマーがポリジフェニルシロキサンであることを特徴とする皮膜付きステンレス箔の製造方法である。
【発明の効果】
【0040】
本発明の第1ないし第3の態様である「皮膜付きステンレス箔」は、膜厚が3〜10μmであり、300〜600℃の高温で処理した場合に、回路に有害なシロキサンオリゴマーを発生しないという顕著な効果を有し、かつ、1×10Ωcm以上の抵抗を有する皮膜付きステンレス箔である。したがって、製造された皮膜付きステンレス箔は、太陽電池のセル等に好適に使用可能であるという顕著な効果を奏する。なお、膜の絶縁抵抗は、絶縁膜上に1mmφのPt電極をイオンスパッタで形成し、基板とPt電極間に電圧10〜100Vで印加したときの電流値から求める。
【0041】
本発明の第4ないし第7の態様である皮膜付きステンレス箔の製造方法は、膜厚が3〜10μmであり、300〜600℃の高温で処理した場合に、回路に有害なシロキサンオリゴマーを発生せず、かつ、1×10Ωcm以上の抵抗を有する皮膜付きステンレス箔を製造できるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1の実施形態に従う被覆付きステンレス箔の一例を示す模式斜視図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に沿った温度処理パターンの一例を示すグラフである。
【図3】本発明の第3の実施形態に沿った温度処理パターンの一例を示すグラフである。
【図4】本発明の第4の実施形態に沿った温度処理パターンの一例を示すグラフである。
【図5】本発明における処理温度と皮膜の絶縁抵抗との関係の一例を示すグラフである。
【図6】本発明におけるシロキサンポリマーと金属アルコキシドの関係の一例を示す模式図である。
【図7】本発明におけるポロジメチルシロキサンとTiアルコキシドの関係の一例を示す模式図である。
【図8】本発明における金属アルコキシドにポリジメチルシロキサンが架橋される(推定)メカニズムの一例を示す模式図である。
【図9】本発明におけるポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドとの(推定)反応メカニズムの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
(第1の実施形態)
厚さ20〜200μm、望ましくは厚さ50〜100μmを有するステンレス箔の上に、金属アルコキシドM(OR)由来のM−O−により架橋されたシロキサンポリマーの皮膜を膜厚として3〜10μmを有し、300〜600℃においてシロキサンのオリゴマーを発生せず、かつ、1×10Ωcm以上の抵抗を有する皮膜付きステンレス箔である。
【0044】
シロキサンポリマーの具体例として、ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサンが使用可能である。
【0045】
第1の実施形態の例を具体的に図示したものが、図1の模式断面図である。
【0046】
(第2の実施形態)
【0047】
第2の実施形態においては、Mg、Ca、Y、Al、Si、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、Wの中から選んだ1つの金属とメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基の中から重複を許して選んだ4つの基から構成される金属アルコキシドのモル数をM、分子量が3×10〜3×10Mwであるシロキサンポリマーのモル数をS、水のモル数をW、化学改質剤のモル数をXで表示し、/は除算を意味する。
【0048】
このような第2の実施形態において、第1処理として、好ましくは、20℃〜25℃において金属アルコキシド、分子量が3×10〜3×10Mwであるシロキサンポリマー、水及び化学改質剤を、下記の(式1)〜(式3)を満足するように混合して塗布液を作製する。
S/M=0.05〜1.5 …(式1)
W/(S+M)=0.1〜10.0 …(式2)
X/M=1.5〜2.5 …(式3)
【0049】
その後、前記塗布液を塗布液を20〜200μmの厚さを有するステンレス箔の上に塗布したもの(以下、「塗布処理後のステンレス箔」という。)を200℃の大気中に20分置くことで塗布液を乾燥させる。この後、20℃程度になるまで冷却する。
【0050】
第1処理により、シロキサンポリマーと金属アルコキシドが加水分解反応を起こしてOH基を備えるために必須であった水と、加水分解により生成したアルコールを塗布後に取り除く。
【0051】
(式1)にて、S/M=0.05〜1.5としたのは、0.05未満では2μm以上の膜厚を実現することがやや困難であり、1.5超では膜厚が不均一となる傾向があるからである。
【0052】
(式2)にて、W/(S+M)=0.1〜10.0としたのは、0.1未満では加水分解が十分におこない可能性があり、金属アルコキシド由来のM−O−によりによりシロキサンポリマーが十分に架橋されず、10.0超では膜厚の均一性が保ちにくい傾向があるからである。
【0053】
(式3)にて、X/M=1.5〜2.5としたのは、金属アルコキシドは反応性が高いため、β−ジケトン(RCOCHCOR)ないしβ−ケトエステル(RCOCHCOOR)の化学改質剤(R、Rはアルキル基を示す)として、例えば、3−オキソブタン酸エチルを加えることが好ましい。X/Mが1.5未満の場合、及び2.5超の場合は、金属アルコキシドの反応性を十分に改質することができない可能性があるからである。
【0054】
X/Mの範囲は、望ましくは1.8〜2.2、更に望ましくは1.9〜2.1である。
【0055】
第2処理として、好ましくは、第1処理で得られた塗布処理後のステンレス箔をアルゴンあるいは窒素のうち少なくとも一つ以上からなる不活性雰囲気内に置き、当該雰囲気を1〜5℃/分の速度で上昇させ、360℃〜500℃(望ましくは、380℃〜450℃)の範囲内の温度に至ったところで加熱をやめて360℃〜500℃(望ましくは、380℃〜450℃)の範囲の一定の温度を0.5時間から2.5時間保った後、当該雰囲気を360℃〜500℃(望ましくは、380℃〜450℃)の温度から1〜5℃/分の速度で下降させて、常温とする。
【0056】
360℃〜500℃(望ましくは380℃〜450℃)の範囲内の温度では、金属アルコキシドにより架橋されたシロキサンポリマー皮膜が生成する反応と皮膜構成に使用されなかったシロキサンポリマーが分解して、シロキサンのオリゴマーが雰囲気中に揮発する反応と皮膜中のポリジメチルシロキサン鎖同士の架橋が並行して起こっていると推定される。
【0057】
(温度の上下限)
本発明の第1および第2の実施形態における、温度の上下限について説明する。
【0058】
まず、温度の下限値について述べる。
【0059】
温度が360℃未満だと皮膜構成に使用されなかったシロキサンポリマーの分解反応が起こらないので、当該皮膜付きステンレス箔を後に300℃〜600℃にまで昇温したときに、皮膜構成に使用されなかったシロキサンポリマーが分解してシロキサンのオリゴマーが雰囲気中に揮発し回路等に悪影響を与える可能性があるため、300℃〜600℃の耐熱性を満足しない恐れがある。
【0060】
このことを考慮すると、温度の下限値望ましくはシロキサンの分解反応が促進されるは360℃である。皮膜構成に使用されなかったシロキサンの分解反応が十分におこることを考慮するならば、望ましくは、下限は380℃である。
【0061】
次に、温度の上限値について述べる。
【0062】
図5のグラフに示すように、温度が500℃以上だと、抵抗値が1×10Ωcmに到達せず皮膜付きステンレス箔が使用に適さない可能性があるので、好ましい上限は、500℃である。
【0063】
しかし、余裕をみるならば、450℃が望ましい上限値である。
【0064】
具体的なグラフとして、図2には、第2の実施態様の第2処理の温度の推移の一例を具体的に描いた。
【0065】
第2処理として、好ましくは、第1処理で得られた塗布処理後のステンレス箔を20℃の酸素存在雰囲気内に置き、当該雰囲気を3℃/分の速度で2.0時間上昇させ、380℃に至ったところで加熱をやめて380℃で0.5時間保った後、当該雰囲気を380℃の温度から3℃/分の速度で2.0時間下降させて20℃とする。
【0066】
(第3の実施形態)
【0067】
第3の実施形態においては、Mg、Ca、Y、Al、Si、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、Wの中から選んだ1つの金属とメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基の中から重複を許して選んだ4つの基から構成される金属アルコキシドのモル数をM、分子量が3×10〜3×10Mwであるシロキサンポリマーのモル数をS、水のモル数をW、化学改質剤のモル数をXで表示し、記号「/」は除算を意味する。
【0068】
第1処理として、好ましくは、20℃〜25℃において金属アルコキシド、分子量が3×10〜3×10Mwであるシロキサンポリマー、水及び化学改質剤を、下記(式1)〜(式3)を満足するように混合して塗布液を合成する。
S/M=0.05〜1.5 …
W/(S+M)=0.1〜10.0 …(式2)
X/M=1.5〜2.5 …(式3)
【0069】
その後、前記塗布液を塗布液を20〜200μmの厚さを有するステンレス箔の上に塗布したもの(以下、「塗布処理後のステンレス箔」という。)を200℃の大気中に20分置くことで塗布液を乾燥させる。この後、20℃程度になるまで冷却する。
【0070】
第1処理により、シロキサンポリマーと金属アルコキシドが加水分解反応を起こしてOH基を備えるために必須あった水と加水分解により生成したアルコールを塗布後に取り除く。
【0071】
(式1)にて、S/M=0.05〜1.5としたのは、0.05未満では2μm以上の膜厚が実現できない可能性があり、1.5超では膜厚が不均一となる可能性があるからである。
【0072】
(式2)にて、W/(S+M)=0.1〜10.0としたのは、0.1未満では加水分解が十分におこらない可能性があり、金属アルコキシド由来のM−O−によりによりシロキサンポリマーが十分に架橋されない可能性があり、10.0超では膜厚の均一性が保ちにくい傾向があるからである。
【0073】
(式3)にて、X/M=1.5〜2.5としたのは、金属アルコキシドは反応性が高いため、β−ジケトン(RCOCHCOR)ないしβ−ケトエステル(RCOCHCOOR)の化学改質剤(R、Rはアルキル基を示す)として例えば、3−オキソブタン酸エチルを加えることが好ましい。「X/M」が1.5未満の場合は金属アルコキシドの化学改質が十分でない可能性があり、2.5超の場合は、皮膜が均一に製造できなくなる可能性があるからである。X/Mの範囲は、望ましくは1.8〜2.2、更に望ましくは1.9〜2.1である。
【0074】
第2処理として、好ましくは、第1処理で得られた塗布処理後のステンレス箔を酸素存在雰囲気内に置き、当該雰囲気を1〜5℃/分の速度で上昇させ、260℃〜340℃(望ましくは、280℃〜320℃)の範囲内の温度に至ったところで加熱をやめて260℃〜340℃(望ましくは、280℃〜320℃)の範囲の一定の温度を50分〜70分程度保った後、当該雰囲気を260℃〜340℃の温度から1〜5℃/分の速度で下降させて、常温とする。
【0075】
260℃〜340℃(望ましくは、280℃〜320℃)の範囲内の温度でシロキサンポリマーが金属アルコキシド由来のM−O−によりにより架橋される反応を起こさせるためである。
【0076】
(温度の上下限値)
本発明の第3の実施形態における、酸素雰囲気内の温度の上下限値について説明する。
【0077】
まず、温度の下限値について説明する。
【0078】
260℃未満であるとシロキサンポリマーが金属アルコキシド由来のM−O−によりにより十分に架橋されないことから下限値を260℃とした。余裕をみるならば、280℃が望ましい下限値である。
【0079】
次に、温度の上限値について説明する。
【0080】
酸素雰囲気が340℃超の場合、被膜中のポリジメチルシロキサン鎖同士の架橋による皮膜の硬化が進んで、皮膜にクラックが入ってしまう可能性がある。そこで、340℃を上限値とした。余裕をみるならば、望ましくは、320℃が上限値である。
【0081】
第3処理として、好ましくは、第2処理で得られた塗布処理後のステンレス箔をアルゴンあるいは窒素の少なくとも一方を含む不活性雰囲気内に置き、当該雰囲気を1〜5℃/分の速度で上昇させ、360℃〜500℃(望ましくは380℃〜450℃)の範囲内の温度に至ってから当該温度を20〜40分保ち、360℃〜500℃(望ましくは380℃〜450℃)の範囲内の温度から当該雰囲気を1〜5℃/秒の速度で下降させて、常温とする。
【0082】
不活性雰囲気の温度の上下限について説明する。
【0083】
まず、下限値について説明する。
【0084】
360℃〜500℃(望ましくは380℃〜450℃)の範囲内の温度では、皮膜構成に使用されなかったシロキサンポリマーが分解して、シロキサンのオリゴマーが雰囲気中に揮発する。温度が360℃未満だと皮膜構成に使用されなかったシロキサンポリマーの分解が不十分なため、後で昇温したときに、皮膜構成に使用されなかったポリジメチルシロキサンが分解してシロキサンのオリゴマーが雰囲気中に揮発し回路等に悪影響を与える。
【0085】
余裕をみるならば、望ましくは380℃が下限温度である。
【0086】
次に、上限値について説明する。
【0087】
しかしながら、皮膜構成に使用されなかったシロキサンポリマーの分解が適切に起こり得る温度を考慮すると、500℃が適切であり、余裕をみるならば、450℃が望ましい。したがって、500℃が上限であり、望ましくは450℃である。
【0088】
図3に、第3の実施態様の第2処理、第3処理の温度の推移の一例を具体的に描いたグラフを示す。
【0089】
第2処理として、好ましくは、第1処理で得られた塗布処理後のステンレス箔を20℃の酸素存在雰囲気内に置き、当該雰囲気を3℃/分の速度で1.5時間上昇させ、290℃に至ったところで加熱をやめて290℃温度で60分保った後、当該雰囲気を290℃の温度から3℃/分の速度で1.5時間下降させて20℃とする。
【0090】
第3処理として、好ましくは、第2処理で得られた塗布処理後のステンレス箔をArあるいはNの少なくとも一方を含む20℃の不活性雰囲気内に置き、当該雰囲気を3℃/分の速度で2時間上昇させ、380℃に至ってから当該温度を30分保ち、380℃の温度から当該雰囲気を3℃/秒の速度で2時間下降させて20℃とする。
【0091】
本発明者らの知見によれば、第3の実施形態の方法が、もっとも厚膜化が可能である。
【0092】
これは、第3の実施形態においては、酸素存在雰囲気内で処理されたのちに、ArあるいはNの少なくとも一方を含む不活性雰囲気内において処理されているためである。
【0093】
(第4の実施形態)
【0094】
第4の実施形態においては、Mg、Ca、Y、Al、Si、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、Wの中から選んだ1つの金属とメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基の中から重複を許して選んだ4つの基から構成される金属アルコキシドのモル数をM、分子量が3×10〜3×10Mwであるシロキサンポリマーのモル数をS、水のモル数をW、化学改質剤のモル数をXで表示し、記号「/」は除算を意味する。
【0095】
第1処理として、好ましくは、20℃〜25℃において金属アルコキシド、分子量が3×10〜3×10Mwであるシロキサンポリマー、水及び化学改質剤を、下記の(式1)〜(式3)を満足するように混合して塗布液を作製する。
S/M=0.05〜1.5 …(式1)
W/(S+M)=0.1〜10.0 …(式2)
X/M=1.5〜2.5 …(式3)
【0096】
その後、前記塗布液を塗布液を20〜200μmの厚さを有するステンレス箔の上に塗布したもの(以下、「塗布処理後のステンレス箔」という。)を200℃の大気中に20分置くことで塗布液を乾燥させる。この後、20℃程度になるまで冷却する。
【0097】
第1処理により、シロキサンポリマーと金属アルコキシドが加水分解反応を起こしてOH基を備えるために必須あった水と、加水分解により生成したアルコールを塗布後に取り除く。
【0098】
(式1)にて、S/M=0.05〜1.5としたのは、0.05未満では2μm以上の膜厚が実現できない可能性があり、1.5超では膜厚が不均一となる可能性があるからである。
【0099】
(式2)にて、W/(S+M)=0.1〜10.0としたのは、0.1未満では加水分解が十分におこらない可能性があり、金属アルコキシド由来のM−O−によりによりシロキサンポリマーが十分に架橋されない可能性があり、10.0超では膜厚の均一性が保ちにくい傾向があるからである。
【0100】
(式3)にて、X/M=1.5〜2.5としたのは、金属アルコキシドは反応性が高いため、β−ジケトン(RCOCHCOR)ないしβ−ケトエステル(RCOCHCOOR)の化学改質剤(R、Rはアルキル基を示す)として例えば、3−オキソブタン酸エチルを加えることが好ましい。「X/M」が1.5未満の場合及び2.5超の場合は、金属アルコキシドの反応性を十分に改質することができない傾向があるからである。
【0101】
X/Mの範囲は、望ましくは1.8〜2.2、更に望ましくは1.9〜2.1である。
【0102】
第2処理として、好ましくは、第1処理で得られた塗布処理後のステンレス箔をアルゴンあるいは窒素の少なくとも一方からなる不活性雰囲気内に置き、当該雰囲気を1〜5℃/秒の速度で上昇させ、260℃〜360℃(望ましくは、280℃〜340℃)の範囲内の温度に至ったところで加熱をやめて50〜70分当該温度を保つ。
【0103】
260℃〜360℃(望ましくは、280℃〜340℃)の範囲内の温度では、ポリジメチルシロキサンが金属アルコキシド由来のM−O−により架橋される反応がおこっている。
【0104】
第3処理として、好ましくは、260℃〜320℃(望ましくは、280℃〜300℃)の温度から当該雰囲気を1〜5℃/秒の速度で上昇させ360℃〜500℃の範囲内の温度に至ってから当該温度を20〜40分保つ。
【0105】
360℃〜500℃(望ましくは、380℃〜450℃)の範囲内の温度では、皮膜構成に使用されなかったポリジメチルシロキサンが分解してジメチルシロキサンのオリゴマーが雰囲気中に揮発する。度が380℃未満だと皮膜構成に使用されなかったポリジメチルシロキサンの分解が不十分な可能性があるため、後で昇温したときに、皮膜構成に使用されなかったポリジメチルシロキサンが分解してジメチルシロキサンのオリゴマーが雰囲気中に揮発し回路等に悪影響を与える傾向があるからである。
【0106】
また、360℃〜500℃(望ましくは、380℃〜450℃)の範囲内の温度では、ポリジメチルシロキサンが金属アルコキシドにより架橋される反応もArあるいはNの少なくとも一方を含む不活性雰囲気内では並行しておこっている。
【0107】
第4処理として、好ましくは、360℃〜500℃(望ましくは、380℃〜450℃)の範囲内の温度から1〜5℃/秒の速度で雰囲気温度を降下させる。
【0108】
図4は、第2の実施態様の第2処理〜第4処理の温度の推移を具体的に描いた一例を示すグラフである。
【0109】
第2処理として、好ましくは、第1処理で得られた塗布処理後のステンレス箔をArあるいはNの少なくとも一方を含む20℃の不活性雰囲気内に置き当該雰囲気を3℃/分の速度で1.5時間上昇させ、290℃に至ったところで加熱をやめて290℃温度で60分保つ。
【0110】
第3処理として、好ましくは、更に当該雰囲気を3℃/分の速度で0.5時間上昇させ、380℃に至ってから当該温度を30分保つ。
【0111】
第4処理として、好ましくは、380℃の温度から当該雰囲気を3℃/秒の速度で2時間下降させて20℃とする。
【実施例】
【0112】
第2の実施形態によりステンレス箔に皮膜を付した実施例について、後述する表1に記す。
【0113】
第2の実施形態においては、Mg、Ca、Y、Al、Si、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、Wの中から選んだ1つの金属とトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基中等のアルコキシ基から重複を許して選んだ4つの基から構成される金属アルコキシドとしては、Tiを金属として、アルコキシ基4つから構成されるTiアルコキシドであるチタニウムテトライソプロポキシド使用する。
【0114】
シロキサンポリマーとしては、分子量が3×10〜3×10Mwであるポリジメチルシロキサンを使用する。
【0115】
チタニウムテトライソプロポキシドのモル数をM、分子量が3×10〜3×10Mwであるポリジメチルシロキサンのモル数をS、水のモル数をW、3−オキソブタン酸エチルのモル数をXで表示し、記号「/」は除算を意味する。
【0116】
第1処理として、20℃においてチタニウムテトライソプロポキシド、分子量が3×10〜3×10Mwであるポリジメチルシロキサン、水及び3−オキソブタン酸エチルを、下記の(式4)〜(式6)を満足するように混合して製造された塗布液を100μmの厚さを有するステンレス箔の上に塗布したもの(以下、「塗布処理後のステンレス箔」という。)を200℃の大気中に20分置くことで塗布液を乾燥させる。この後、20℃程度になるまで冷却する。
【0117】
S/M=1.0 …(式4)
W/(S+M)=5.0 …(式5)
X/M=2.0 …(式6)
【0118】
第2処理として、第1処理で得られた塗布処理後のステンレス箔をアルゴンあるいは窒素のうち少なくとも一つ以上からなる不活性雰囲気内に置き、当該雰囲気を3℃/分の速度で上昇させ、360℃〜500℃の範囲内の温度に至ったところで加熱をやめて360℃〜500℃の範囲の一定の温度を0.5時間保った後、当該雰囲気を360℃〜500℃の温度から3℃/分の速度で下降させて、常温とする。
【0119】
比較例については、温度のみ340℃、510℃の場合を検討する。
【表1】

【0120】
耐熱試験結果の表記における記号「○」、「×」の意味は、以下の通りである。
なお、膜の耐熱性については、基板から被膜を剥がして回収した粉末をTG−DTA(理学電気(株)Thermo plus TG8120)により、N雰囲気中で600℃まで昇温速度10℃/minで熱したときの重量変化により評価する。
【0121】
○: 300〜600℃においてクラックの発生がなく、Ar、N等の不活性雰囲気中300〜600℃における熱重量変化が5%以下である。
×: 300〜600℃においてクラックが発生するか、Ar、N等の不活性雰囲気中300〜600℃における熱重量変化が5%以下である。
【0122】
抵抗値試験件の表記における記号「○」、「×」の意味は、以下の通りである。
【0123】
○: 1×10Ωcm以上である。
×: 1×10Ωcm未満である。
【0124】
第3の実施形態によりステンレス箔を皮膜に付した実施例について表2に記す。
【0125】
第3の実施形態においては、Mg、Ca、Y、Al、Si、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、Wの中から選んだ1つの金属とトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基中等のアルコキシ基から重複を許して選んだ4つの基から構成される金属アルコキシドとしては、Tiを金属として、アルコキシ基4つから構成されるTiアルコキシドであるチタニウムテトライソプロポキシド使用する。
【0126】
シロキサンポリマーとしては、分子量が3×10〜3×10Mwであるポリジメチルシロキサンを使用する。
【0127】
チタニウムテトライソプロポキシドのモル数をM、分子量が3×10〜3×10Mwであるポリジメチルシロキサンのモル数をS、水のモル数をW、3−オキソブタン酸エチルのモル数をXで表示し、記号「/」は除算を意味する。
【0128】
第1処理として、好ましくは、20℃においてチタニウムテトライソプロポキシド、分子量が3×10〜3×10Mwであるポリジメチルシロキサン、水及び3−オキソブタン酸エチルを、下記の(式4)〜(式6)を満足するように混合して製造された塗布液を100μmの厚さを有するステンレス箔の上に塗布したもの(以下、「塗布処理後のステンレス箔」という。)を200℃の大気中に20分置くことで塗布液を乾燥させる。この後、20℃程度になるまで冷却する。
【0129】
S/M=1.0 …(式4)
W/(S+M)=5.0 …(式5)
X/M=2.0 …(式6)
【0130】
第2処理として、第1処理で得られた塗布処理後のステンレス箔を酸素存在雰囲気内に置き、当該雰囲気を1〜5℃/分の速度で上昇させ、260℃〜340℃の範囲内の温度に至ったところで加熱をやめて260℃〜340℃の範囲の一定の温度を0.5時間保った後、当該雰囲気を260℃〜340℃の温度から3℃/分の速度で下降させて、常温とする。
【0131】
比較例については、温度のみ320℃、330℃としてものを検討する。
【0132】
第3処理として、第2処理で得られた塗布処理後のステンレス箔をアルゴンあるいは窒素の少なくとも一方を含む不活性雰囲気内に置き、当該雰囲気を3℃/分の速度で上昇させ、360℃〜500℃の範囲内の温度に至ってから当該温度を0.5時間保ち、360℃〜500℃の範囲内の温度から当該雰囲気を3℃/秒の速度で下降させて、常温とする。
【表2】

【0133】
表2中、耐熱試験結果の表記における記号「○」、「×」の基準は、以下の通りである。
【0134】
○: 300〜600℃においてクラックの発生がなく、かつAr、N等の不活性雰囲気中300〜600℃における熱重量変化が5%以下である。
×: 300〜600℃においてクラックが発生するか、Ar、N等の不活性雰囲気中300〜600℃における熱重量変化が5%以上である。
【0135】
表2の抵抗値試験結果の表記における記号「○」、「×」の基準は、以下の通りである。
【0136】
○: 1×10Ωcm以上である。
×: 1×10Ωcm未満である。
【0137】
実施例23〜28、31〜36、39〜44、47〜52に記載されるように、本発明の方法によりステンレス箔に付した皮膜は4〜5μmの厚みを有する堅牢なものであった。
【0138】
比較例22、30、38、46のように不活性雰囲気において350℃で処理された場合には、シロキサンオリゴマーの離脱が十分でなく、300℃〜600℃に再度加熱された場合には、シロキサンオリゴマーを発生してしまう。
【0139】
比較例29、37、45、52のように、500℃を超えた510℃の不活性雰囲気に置かれた場合には抵抗値が1×10Ωcm以下となってしまう。
【0140】
比較例54のように、ドライエアー温度が350℃のように高い場合には、第2処理の段階で皮膜にクラックが入ってしまう。
【0141】
第4の実施形態によりステンレス箔に皮膜を付したものについて表3に記す。
【0142】
第4の実施形態においては、Mg、Ca、Y、Al、Si、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、Wの中から選んだ1つの金属とメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基の中から重複を許して選んだ4つの基から構成される金属アルコキシドのモル数をM、分子量が3×10〜3×10Mwであるシロキサンポリマーのモル数をS、水のモル数をWで表示し、記号「/」は除算を意味する。
【0143】
第1処理として、好ましくは、20℃〜25℃において金属アルコキシド、分子量が3×10〜3×10Mwであるシロキサンポリマー、水及び3−オキソブタン酸エチルを、下記の(式4)〜(式6)を満足するように混合した液体を100μmの厚さを有するステンレス箔の上に塗布したもの(以下、「塗布処理後のステンレス箔」という。)を200℃の大気中に20分置くことで塗布液を乾燥させる。この後、20℃程度になるまで冷却する。
【0144】
S/M=1.0 …(式4)
W/(S+M)=5.0 …(式5)
X/M=2.0 …(式6)
【0145】
第2処理として、第1処理で得られた塗布処理後のステンレス箔をアルゴンあるいは窒素の少なくとも一方からなる不活性雰囲気内に置き、当該雰囲気を3℃/秒の速度で上昇させ、260℃〜320℃の範囲内の温度に至ったところで加熱をやめて50〜70分当該温度を保つ。
【0146】
第3処理として、260℃〜320℃の温度から当該雰囲気を1〜5℃/秒の速度で上昇させ360℃〜420℃の範囲内の温度に至ってから当該温度を20〜40分保つ。
【0147】
第4処理として、360℃〜500℃の範囲内の温度から1〜5℃/秒の速度で雰囲気温度を降下させる。
【0148】
図4は、第2の実施態様の第2処理〜第4処理の温度の推移を具体的に描いた一例を示すグラフである。
【0149】
第2処理として、第1処理で得られた塗布処理後のステンレス箔をArあるいはNの少なくとも一方を含む20℃の不活性雰囲気内に置き当該雰囲気を3℃/分の速度で1.5時間上昇させ、290℃に至ったところで加熱をやめて290℃温度で60分保つ。
【0150】
第3処理として、更に当該雰囲気を3℃/分の速度で0.5時間上昇させ、380℃に至ってから当該温度を30分保つ。
【0151】
第4処理として、380℃の温度から当該雰囲気を3℃/秒の速度で2時間下降させて20℃とする。
【0152】
【表3】

【0153】
表3中、耐熱試験結果の表記における記号「○」、「×」の基準は、以下の通りである。
【0154】
○: 300〜600℃においてクラックの発生がなく、Ar、N等の不活性雰囲気中300〜600℃における熱重量変化が5%以下である。
×: 300〜600℃においてクラックが発生するか、Ar、N等の不活性雰囲気中300〜600℃における熱重量変化が5%以下である。
【0155】
表3中、抵抗値試験結果の表記における記号「○」、「×」の基準は、以下の通りであるる。
【0156】
○: 1×10Ωcm以上である。
×: 1×10Ωcm未満である。
【0157】
実施例56〜61、64〜69、72〜77、80〜85に記載されるように、本発明の方法によりステンレス箔に付した皮膜は4〜5μmの厚みを有する堅牢なものであった。
【0158】
比較例55、63、71、79のように不活性雰囲気において350℃で処理された場合には、シロキサンオリゴマーの離脱が十分でなく、300℃〜600℃に再度加熱された場合には、シロキサンオリゴマーを発生してしまう。
【0159】
比較例62、70、78、86のように、500℃を超えた510℃の不活性雰囲気に置かれた場合には抵抗値が1×10Ωcm以下となってしまう。
【符号の説明】
【0160】
1 皮膜
2 ステンレス箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ20〜200μmのステンレス箔と、該ステンレス箔上に配置された、厚さ3〜10μmのシロキサンポリマー皮膜とを含む皮膜付きステンレス箔であって;且つ、
前記シロキサンポリマー皮膜が、Mg、Ca、Y、Al、Si、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、Wの中から選ばれた1つの金属と、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基の中から重複を許して選ばれた4つの基から構成される金属アルコキシドにより架橋された、シロキサンポリマー皮膜であり;
300℃〜600℃の耐熱性を有し、かつ、1×10Ωcm以上の抵抗を有することを特徴とする皮膜付きステンレス箔。
【請求項2】
前記シロキサンポリマーが、ポリジメチルシロキサンであることを特徴とする皮膜付きステンレス箔。
【請求項3】
前記シロキサンポリマーが、ポリジフェニルシロキサンであることを特徴とする皮膜付きステンレス箔。
【請求項4】
Mg、Ca、Y、Al、Si、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、Wの中から選んだ1つの金属とメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基の中から重複を許して選んだ4つの基から構成される金属アルコキシドのモル数をM、分子量が3×10〜3×10Mwであるシロキサンポリマーのモル数をS、水のモル数をW、β−ジケトン(RCOCHCOR)ないしβ−ケトエステル(RCOCHCOOR)の化学改質剤(R、Rはアルキル基を示す)のモル数をXとし、/は除算を表すときに、
S/M=0.05〜1.5 …(式1)
W/(S+M)=0.1〜10.0 …(式2)
X/M=1.5〜2.5 …(式3)
を満足するように混合して生成した塗布液を、以下の「Aプロセス」および「プロセス」を、
(1)Aプロセス実施後にBプロセスを1回以上実施する;あるいは、
(2)Aプロセスを実施せずに、Bプロセスを1回以上実施する、ことを特徴とする皮膜付きステンレス箔の製造方法;
「Aプロセス」:
厚さ20〜200μmステンレス箔に塗布した後に200℃の大気中で20分間乾燥させ、260℃〜340℃(望ましくは280℃〜320℃)の温度を有する酸素存在雰囲気内に0.5時間〜2.5時間置く工程を実施するプロセス;
「Bプロセス」:
360℃〜500℃(望ましくは380℃〜450℃)の温度を有するアルゴンあるいは窒素の少なくとも一方を含む雰囲気内に0.5時間〜2.5時間置く工程を実施するプロセス。
【請求項5】
前記化学改質剤が3−オキソブタン酸エチルであることを特徴とする請求項4に記載の皮膜付きステンレス箔の製造方法。
【請求項6】
前記シロキサンポリマーがポリジメチルシロキサンであることを特徴とする請求項4または5に記載の皮膜付きステンレス箔の製造方法。
【請求項7】
前記シロキサンポリマーがポリジフェニルシロキサンであることを特徴とする請求項4または5に記載の皮膜付きステンレス箔の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−228858(P2012−228858A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100060(P2011−100060)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】