説明

被膜密着性に優れる方向性電磁鋼板およびその製造方法

【課題】被膜密着性、特に被膜額縁剥離性に優れる方向性電磁鋼板を提供する。
【解決手段】質量で、Si:1.8〜7%を含有し、表面にフォルステライトを主成分とする一次被膜を有する方向性電磁鋼板において、該一次被膜中のCe、La、Pr、Nd、Sc、Yの内1種または2種以上の目付量が片面あたり0.001〜1000mg/mであることを特徴とする被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板、また一次被膜中にTi目付量を片面あたり1〜800mg/m含有すること、更に、一次被膜中にSr、Ca、Baの内の1種または2種以上を目付量で片面あたり0.01〜100mg/m含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変圧器等の静止誘導器など(以下、これらを総称して単に変圧器という)に使用される方向性電磁鋼板に関する。特に、MgOを主体とする焼鈍分離剤中にCe、La、Pr、Nd、Sc、Yの内の1種または2種以上を含む化合物を添加することにより、被膜密着性、特に額縁剥離性と3倍周波数鉄損特性W17/150に優れ、これにより優れた加工特性と磁気特性を有する方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、主として変圧器に代表される静止誘導器に使用される。その満たすべき特性としては、(1)交流で励磁したときのエネルギー損失すなわち鉄損が小さいこと、(2)機器の使用励磁域での透磁率が高く容易に励磁できること、(3)騒音の原因となる磁歪が小さいこと等があげられる。
【0003】
鉄損に関しては、変圧器が据え付けられてから廃棄されるまでの長期間にわたって連続的に励磁されエネルギー損失を発生し続けることから、変圧器の価値を表わす指標であるT.O.C.(Total Owning Cost)を決定する主要なパラメータとなる。
【0004】
方向性電磁鋼板の鉄損を低減するために、今までに多くの開発がなされてきた。すなわち、(1)ゴス方位と呼ばれる{110}<001>方位への集積を高めること、(2)電気抵抗を高めるSi等固溶元素の含有量を高めること、(3)鋼板の板厚を薄くすること、(4)鋼板に面張力を与えるセラミック被膜や絶縁被膜を付与すること、(5)結晶粒の大きさを小さくすること、(6)線状に歪や溝を導入することにより磁区を細分化すること、等である。(6)に関しては、特許文献1には鋼板にレーザー処理を施す方法、特許文献2には鋼板に機械的な歪を導入する方法等、磁区を細分化する様々な方法や優れた鉄損特性を示す材料が開示されている。
【0005】
一方、透磁率と磁歪に関しては、ゴス方位への結晶粒の方位集積度を高めることが有効であり、励磁力800A/mにおける磁束密度であるB8がその指標として用いられる。磁束密度向上のための典型的な技術のひとつに、特許文献3に開示されている製造方法が挙げられる。これは、AlNとMnSを結晶粒成長を抑制するインヒビターとして機能させ、最終冷延工程における圧下率を80%を超える強圧下とする製造方法である。この方法により、{110}<001>方位への結晶粒の方位集積度が高まり、B8が1.870T以上の高磁束密度を有する方向性電磁鋼板が得られる。 更に磁束密度を向上させる技術として、例えば特許文献4では、AlNとMnSに加えて、溶鋼に100〜5000g/tonのBiを添加する方法が開示され、B8が1.95T以上の製品が得られている。しかし、これらのAl系インヒビターを用いて磁束密度を高める方法を用いた場合、フォルステライト被膜を主成分とする一次被膜(以下、本発明では単に被膜という場合もある)の密着性が特に劣化することが知られている。
【0006】
ところで、方向性電磁鋼板の仕上焼鈍の際には、通常MgOを主成分とする焼鈍分離材が使用されるが、これらに添加物を加えることにより、磁気特性、被膜密着性等、方向性電磁鋼板の種々の特性を改善することが提案されている。
【0007】
特許文献5には、MgOを主成分とする焼鈍分離剤として、La、La化合物、Ce、Ce化合物のうちから選ばれた1種または2種以上をLa、Ce化合物としての合計量でMgOに対し0.1〜3.0%添加し、かつ、SもしくはS化合物をSとしてMgOに対し0.01〜1.0%添加したものを用いる方向性珪素鋼板の製造方法が開示されている。これは、Sとの親和力が強いLa、Ceを共存させることで、1次再結晶の粒成長に対する抑制作用と表面層から成長する2次再結晶粒の方位を厳密に制御する作用により磁気特性が飛躍的に改善することを見出したものである。しかし、当該特許文献5に記載されている鋼スラブ成分は高磁束密度実現に有効なAlを含有しておらず、一次被膜の密着性に大きく影響を与えるAlの影響についての言及はなされていない。
【0008】
また、特許文献6には、酸化マグネシウムを基材とする粒配向形けい素鋼ストリップ用焼きなまし分離剤において、希土類酸化物を単独で、または、金属けい酸塩とともに含有せしめたことを特徴とする、焼きなまし分離剤が開示されている。また、これによりストリップの表皮の下に小さい不連続性(小さい孔のくぼみ部分)のない製品が得られ、低い磁気ひずみ率、良好な表面抵抗力および付着性が得られることが開示されている。しかし、当該特許文献6にはAl系インヒビターを用いた場合に特に見られる一次被膜の密着性の劣化の影響について、何も触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭57−2252号公報
【特許文献2】特公昭58−2569号公報
【特許文献3】特公昭40−15644号公報
【特許文献4】特開平6−88171号公報
【特許文献5】特開昭60−141830号公報
【特許文献6】特公昭61−15152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、特にAl系インヒビターを用いる方法により、鋼板自体としては優れた磁気特性を示すものが得られるようになってきたが、被膜の密着性が劣化するという課題が発生していた。特に、このような鋼板を用いて変圧器の鉄心を製造するために、スリット剪断、斜角剪断を施したときに、額縁剥離と呼ばれる切断部近傍の被膜の剥離が生じるという課題があり、解決が待たれていた。
【0011】
また、一般に、電磁鋼板の鉄損は、JIS C2550にあるようなエプスタイン測定枠を用いる方法、JIS C2556にあるような単板測定枠を用いて測定されるが、この測定値と方向性電磁鋼板を剪断、積層して作製した変圧器鉄心の測定値は異なり、一般に鉄心の損失の方が大きくなる(この度合いをビルディングファクターBFと称す)。このような、変圧器に組み上げた際に、鋼板自体の鉄損特性が十分に発揮できない、すなわちビルディングファクターが大きくなるという課題があり、これに対して市場より求められる高効率の変圧器を工業的に製造するための手段が待たれていた。
【0012】
本発明は上記課題を解決するものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
(1)質量%で、Si:1.8〜7%を含有し、表面にフォルステライトを主成分とする一次被膜を有する方向性電磁鋼板において、該一次被膜中にCe、La、Pr、Nd、Sc、Yの内の1種または2種以上を目付量で片面あたり0.001〜1000mg/m2含有することを特徴とする被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板。
(2)一次被膜中にTiを目付量で片面あたり1〜800mg/m2含有することを特徴とする前記(1)記載の方向性電磁鋼板。
(3)一次被膜中にSr、Ca、Baの内の1種または2種以上を目付量で片面あたり0.01〜100mg/m2含有することを特徴とする前記(1)または(2)記載の方向性電磁鋼板。
(4)質量%で、C:0.10%以下、Si:1.8〜7%、Mn:0.02〜0.30%と、SおよびSeのうちから選んだ1種または2種の合計:0.001〜0.040%、酸可溶性Al:0.010〜0.065%、N:0.0030〜0.0150%、残部Feおよび不可避的不純物よりなる方向性電磁鋼熱延板に、焼鈍を施し、1回あるいは2回以上または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚に仕上げ、次いで脱炭焼鈍を施し、その後、鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布、乾燥し仕上げ焼鈍を行う一連の工程を含む方法により方向性電磁鋼板を製造するにあたり、MgOを主成分とした焼鈍分離剤の中にCe化合物、La化合物、Pr化合物、Nd化合物、Sc化合物、Y化合物の内の1種または2種以上を金属換算でMgOに対して0.01〜14質量%の範囲で含有することを特徴とする被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
(5)焼鈍分離剤の中に、Ti化合物をTi換算でMgOに対して0.5〜10質量%の範囲で含有することを特徴とする前記(4)記載の被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
(6)焼鈍分離剤の中に、Sr、Ca、Baの化合物の内の1種または2種以上を金属換算でMgOに対して0.1〜10質量%の範囲で含有することを特徴とする前記(4)または(5)に記載の被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
(7)方向性電磁鋼熱延板に副インヒビターとしてBi:0.0005〜0.05質量%、および/またはSn、Cu、Sb、As、Mo、Cr、P、Ni、B、Te、Pb、V、Geの一種または二種以上を0.003〜0.5質量%含むことを特徴とする前記(4)または(5)に記載の被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
(8)方向性電磁鋼熱延板に副インヒビターとしてBi:0.0005〜0.05質量%、および/またはSn、Cu、Sb、As、Mo、Cr、P、Ni、B、Te、Pb、V、Geの1種または2種以上を0.003〜0.5質量%含むことを特徴とする(6)に記載の被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
上記のように、本発明は、MgO中へCe、La、Pr、Nd、Sc、Yの内1種または2種以上の化合物などを添加することにより、一次被膜中にそれらを目付量で一定量含有する方向性電磁鋼板が得られ、従来の製造方法では得られなかった良好な被膜密着性、特に後述の額縁剥離性及び3倍周波数鉄損W17/150に優れた方向性電磁鋼板が得られる。
【0014】
ここで、額縁剥離とは、電磁鋼板の剪断部近傍に発生する被膜の剥離である。方向性電磁鋼板は、変圧器に加工される際に、1m程度の幅の原コイルからスリッターで圧延方向に平行に所定の幅に剪断され、また大型の積鉄心変圧器では圧延方向と45°の角度で剪断される。これらの剪断加工は、一般的な被膜密着性の評価方法とされる数十mmφの曲げ密着性試験に較べて著しい強加工であるため、額縁剥離が発生する。額縁剥離性とは、剪断を行った際の剪断端部の被膜剥離した部分の平均幅を言う。額縁剥離性が1mm以下、好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.1mm以下がよい。本発明では、額縁剥離性がきわめて良好な方向性電磁鋼板が得られる。
【0015】
また、本発明者らは、1.7T、150Hzにおける鉄損である3倍周波数鉄損W17/150を小さくすれば、ビルディングファクターを低減できることを見出した。方向性電磁鋼板は、三相交流下での電力変圧に使用される事が多いが、電力の最終消費現場である一般家電においては単相使用が少なくない。従って、三相の各相をφ1、φ2、φ3として、それぞれの生成・消費電力が全く同等のときには、φ1―φ2、φ2―φ3、φ3―φ1は全て120°のずれとなるが、例えばφ1相の消費のみ優先的に多くなってしまう場合が少なからずあって、その場合はφ1→φ2、φ3の戻り電流がφ2、φ3各相の実電流と等しくなくなる事から、これをむりやり補殺するために各相間を渡る電流が流れざるをえない。基本周波数が50Hzの場合、この捕殺電流はその3倍の150Hzとなる。即ち、電力の大量生産、大量消費を最大効率で遂行するための三相交流運用の中にあって、細分化された消費現場においては、現場ごとでの位相相殺が避けられない局面が少なからず有り、これが論理的なエネルギー効率の達成を阻害する要因の一つとなっていると考えられる。
【0016】
本発明によれば、W17/150が低い方向性電磁鋼板が得られるため、本発明の電磁鋼板を用いれば、ビルディングファクターが小さい(1に近い)変圧器鉄心を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明の方向性電磁鋼板の成分組成とその製造方法について説明する。なお、成分組成の量は質量%である。
【0018】
Siは鋼の電気抵抗を高めて、鉄損の一部を構成する渦電流損失を低減するのに極めて有効な元素であるが、1.8%未満では製品の渦電流損失を抑制できない。また、7.0%を超えた場合では、加工性が著しく劣化するので好ましくない。また良好な鉄損およびW17/150を得るためには2%以上、さらには3%以上が望ましい。鋼中のSi濃度を3%以上のような高濃度にした場合、鋼板のヤング率が上昇し、せん断時の衝撃が大きくなるために、額縁剥離性が特に劣化するが、本発明により、この問題は克服できる。
【0019】
Cは0.10%を超えた場合では、冷延後の脱炭焼鈍において脱炭時間が長時間必要となり経済的でないばかりでなく、脱炭が不完全となりやすく、製品での磁気時効と呼ばれる磁性不良を起こすので好ましくない。下限値については、一次再結晶集合組織を適切に制御する見地から、好ましくは0.025%またはそれ以上である。
【0020】
Mnは二次再結晶を左右するインヒビターと呼ばれるMnS及び、またはMnSeを形成する重要な元素である。0.02%未満では、二次再結晶を生じさせるのに必要なMnS、MnSeの絶対量が不足するので好ましくない。また、0.3%を超えた場合は、スラブ加熱時の固溶が困難になるばかりでなく、熱延時の析出サイズが粗大化しやすくインヒビターとしての最適サイズ分布が損なわれて好ましくない。
【0021】
S及び、またはSeは上述したMnとMnSおよび、またはMnSeを形成する重要な元素である。上記範囲を逸脱すると充分なインヒビター効果が得られないので0.001〜0.040%が好ましい。
【0022】
酸可溶性Alは、高磁束密度方向性電磁鋼板のための主要インヒビター構成元素であり、0.010%未満では、量的に不足してインヒビター強度が不足するので好ましくない。一方0.065%を超えるとインヒビターとして析出させるAlNが粗大化し、結果としてインヒビター強度を低下させるので好ましくない。
【0023】
Nは上述した酸可溶性AlとAlNを形成する重要な元素である。上記範囲を逸脱すると充分なインヒビター効果が得られないので、0.0030〜0.0150%に限定する必要がある。なお、Nは脱炭焼鈍後の窒化工程により鋼中に添加することも可能である。
【0024】
Biは超高磁束密度の方向性電磁鋼板の安定製造において、きわめて有用な元素である。0.0005%未満ではその効果が充分に得られず、また0.05%を超えた場合は磁束密度向上効果が飽和するだけでなく、熱延コイルの端部に割れが発生するので好ましくない。
【0025】
この他、二次再結晶を安定化させる等の目的のための元素として、Sn、Cu、Sb、As、Mo、Cr、P、Ni、B、Te、Pb、V、Geの一種または二種以上を0.003〜0.5%含有させることも有用である。これら元素の添加量としては、0.003%未満では二次再結晶安定化の効果が充分でなく、また0.5%を超えると効果が飽和するためにコストの観点から0.5%に限定する。
【0026】
上記のごとく成分を調整した方向性電磁鋼板製造用溶鋼は、通常の方法で鋳造するが、特に鋳造方法に限定はなく、連続鋳造でも、分塊法でも構わない。スラブは、通常は初期の厚みが150mmから300mmの範囲であるが、30mmから70mm程度の薄スラブであってもよい。次いで通常の熱間圧延によって熱延コイルに圧延される。通常はMnS、AlNのインヒビター成分を充分に溶体化させるため1300℃を超える高温でのスラブ加熱を行うが、生産性、コストを優先させるために1250℃程度のスラブ加熱温度すること、鋼板状態での外部からの窒化過程を用いて後工程でインヒビターを増強させる場合には普通鋼並みのスラブ加熱を行うことも本発明の思想を損なうものではない。以上により方向性電磁鋼熱延板が得られる。
【0027】
引き続いて、熱延板焼鈍後仕上げ冷延、あるいは中間焼鈍を含む複数回の冷延、あるいは熱延板焼鈍後中間焼鈍を含む複数回の冷延によって製品板厚に仕上げるわけであるが、仕上げ冷延前の焼鈍では結晶組織の均質化と、AlNの析出制御を行う。
【0028】
以上最終製品厚まで圧延されたストリップに脱炭焼鈍を施す。脱炭焼鈍は通常行われるように、湿水素中での熱処理により鋼板中のCを製品板の磁気時効劣化がない領域まで下げ、同時に冷延したストリップを一次再結晶させ二次再結晶の準備をする。この脱炭焼鈍に先立ち、前段で特開平8−295937号公報、特開平9−118921号公報に開示されるように80℃/sec以上の加熱速度で700℃以上に再結晶させることも鉄損を向上させるために好ましい。また、窒化物系の後天的インヒビターを用いる場合は、この脱炭焼鈍の後に窒化を行う。
【0029】
さらに、一次被膜形成、二次再結晶、純化を目的として1100℃以上に昇温する仕上焼鈍を行う。この仕上焼鈍はストリップを巻取ったコイルの形態で行うが、鋼板表面にはストリップの焼付き防止と一次被膜形成の目的でMgO粉末が塗布される。MgO粉末は一般に水スラリーの状態で鋼板表面に塗布、乾燥されるが、静電塗布法を用いることもできる。
【0030】
このMgO粉末中にCe化合物、La化合物、Pr化合物、Nd化合物、Sc化合物、Y化合物の内の1種または2種以上をCe等の金属換算でMgOに対して0.01〜14質量%含有させることが本発明の実施形態のひとつである。この方法により、額縁剥離性とW17/150に優れた方向性電磁鋼板が得られる。金属換算の添加量が0.01質量%未満であると充分な額縁剥離性が得られず、また14質量%を超えると良好なW17/150が得られないのでこの範囲に限定した。Ce等の量は、金属換算として、0.02、0.03、0.04、0.05質量%またはそれを超える量、あるいは0.3、0.4、0.5、さらには3、3.5、4、4.5、5、5.5、6質量%またはそれを超える量であってもよい。一方、10、9、8、7、6、5、4質量%またはそれ未満の量とすることも可能である。
【0031】
Ce化合物としては、CeO2、Ce23、Ce23、Ce(SO42・nH2O(nは0以上の数)、Ce2(SO43・nH2O(nは0以上の数)、CeSi2、CePO4、Ce(OH)4、Ce2(CO33、CeB6、CeCl3、CeF4、CeBr3等がある。La化合物としては、La23、La2(SO43・nH2O(nは0以上の数)、La(NO33、La2(CO33、LaCl3等、Pr化合物としてはPr611、Pr(NO33、PrCl3等、Nd化合物としてはNd23、Nd(NO33、Nd2(CO33、NdCl3等、Sc化合物としてはSc23、Sc(NO33、Sc2(SO43等、Y化合物としてはY23、YCl3、Y2(CO3)3、Y(NO33、YF3、Y2(SO43等がある。これら化合物は、酸化物、硫化物、硫酸塩、ケイ化物、リン酸塩、水酸化物、炭酸塩、硼素化物、塩化物、フッ化物、臭化物等のいずれの形態であっても、また、これらを組み合わせて使用してもよいが、コスト、効果の点では酸化物や水酸化物が好ましい。
【0032】
Ce、La、Pr、Nd、Yは原子量が大きく、それらの化合物は密度が大きいために、水スラリー中で沈降する傾向にある。沈降をすると歩留まりの低下、焼鈍分離剤の組成ずれを起こしやすくなり、操業上課題となる。本課題を抑制するためには添加剤を水スラリー中で均一に分散させ、沈降を抑制させることが必要であることから、これらの化合物の粒径はなるべく小さいことが望ましく、メッシュ表記では少なくとも1000メッシュ以下が望ましい。但し、メッシュはふるい網の針金径の影響があり不正確であるため、平均粒径で表記すると0.1〜25μmの範囲であることが望ましい。さらに好適には0.1〜15μmの範囲である。ここで述べている平均粒径とは添加剤粉末の状態での粒径であるいわゆる二次粒径に相当する。本来の粒径である一次粒径は非常に小さい場合、お互いが凝集し、二次粒を形成しており、この二次粒の径が操業上重要となる。これらの平均粒径の測定方法は様々あるが、例えばレーザー回折散乱法により測定することができる。
【0033】
また高い反応性を保持するためには大きい表面積を有すること、つまり一次粒径が細かいことも必要であり、その指標であるBET比表面積で0.1〜500m2/gを有することが望ましい。より好適には1〜300m2/g、さらに好適には5〜200m2/gの範囲が望ましい。
【0034】
なお、これらの平均粒径のものに別な粒径のものを混合して用いることも可能である。
また焼鈍分離剤中にTi化合物をTi換算でMgOに対して0.5〜10質量%の範囲で添加すると被膜密着性がさらに改善する。Ti換算での添加量は0.5質量%未満であると額縁剥離性改善への寄与が少なく、10質量%を超えると製品板の鉄損特性が劣化するので、Ti化合物の添加量をこの範囲に限定する。Ti化合物の形態としては、TiO2、Ti35、Ti23、TiO、TiC、TiN、TiB2、TiSi2等があるが、コスト、効果の点では酸化物が好ましい。Ti換算として、好適には1〜8質量%、更に好ましくは2〜6質量%である。
【0035】
さらに焼鈍分離剤中にSr、Ca、Baの化合物を1種または2種以上含有させることも額縁剥離性改善に有効である。化合物の形態は酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩等何れの形態でもよい。ただし、焼鈍分離剤を水スラリーにして塗布する際の沈殿を避けるために比重を低くする、さらに水への溶解を抑制して損失なく塗布をする目的として、硫酸塩、硫化物の形態が好ましい。また、好ましい化合物の含有量としては、これら元素の合計がMgOに対して質量%換算で0.1%以下であると額縁剥離性改善への寄与が少なく、また10%を超えるとかえって被膜を劣化させるために0.1〜10%に限定する。また磁気特性を考慮すると好適には0.5〜10%、更に好ましくは1〜5%である。また、これらにハロゲン等の公知の添加物を加えることも可能である。
【0036】
仕上焼鈍においては、MgO中の水分除去を目的として二次再結晶焼鈍前に800℃以下の低温でH2濃度を20%以上とした還元雰囲気で保持する脱水工程を付与することが望ましい。
【0037】
上記製造方法はインヒビターを使用する場合について説明したが、インヒビターを使用しない製造方法の場合に用いる焼鈍分離材に上記Ce、La、Pr、Nd、Sc,Y等を適用して本発明の方向性電磁鋼板を得ることも可能である。
【0038】
なお、既述したように特開昭60−141830号公報には、La、CeにSもしくはS化合物をSとしてMgOに対し0.01〜1.0%添加したものを用いる方向性珪素鋼板の製造方法が開示されているが、本発明の額縁剥離性及びW17/150に関する効果はSもしくはS化合物に依存するものではない。実際、同特許公報には「S換算量がMgOに対し0.01%未満あるいは1%を超える場合にはS添加による磁気特性向上効果が認められず」(同特許文献3頁左下欄7から10行)とあるが、本発明の効果はS換算量がMgOに対し0.01%未満あるいは1%を超える場合にも得られるものである。
多くの場合、仕上焼鈍後、一次被膜の上にさらに絶縁被膜を施す。特に燐酸塩とコロイダルシリカを主体とするコーティング液を鋼板面に塗布し、焼付けることによって得られる絶縁被膜は、鋼板に対する付与張力が大きく、更なる鉄損改善に有効である。
【0039】
さらに、必要に応じ、上記方向性電磁鋼板に、レーザー照射、プラズマ照射、歯型ロールやエッチングによる溝加工等のいわゆる磁区細分化処理を施すことが望ましい。
以上により、フォルステライトを主成分とする一次被膜を有する額縁剥離性および、またはW17/150に優れた方向性電磁鋼板が得られる。
【0040】
なお、従来の被膜密着性評価では、接着テープ剥離による等、静的な加工での剥離挙動に耐用できる被膜で十分であったが、本発明の様に額縁剥離性を評価することになると、剪断時の衝撃に耐えられる所謂、動的な加工での剥離挙動に耐用できる被膜が必要である。つまり、被膜と地鉄との界面の強固な密着性に加えて良好な被膜靭性の両立が必要となる。とくに鋼中にAlを含有している場合、仕上焼鈍中に鋼表面へAlが拡散していき、表層のフォルステライトと反応して一次被膜下部にMgAl24のようなAl複合酸化物が形成され、そのAl複合酸化物とフォルステライトとの界面近傍が剥離や破壊の起点になりやすく、一次被膜の密着性や額縁剥離性を著しく低下させる傾向にある。MgO中へのCe、La、Pr、Nd、Y、Scの化合物添加により額縁剥離性が改善される理由は定かではないが、一つには界面密着性への寄与が考えられる。
【0041】
すなわち、これらの化合物の添加により一次被膜の界面でのくさび構造が発達して被膜を剥がれにくくする機械的効果や添加元素の界面への入り込みによる強固な結合の形成により界面密着性を著しく向上させる化学的効果によると予測される。形成された一次被膜を電解抽出によって捕集してEPMA分析(electron probe X-ray microanalysis)を行ったところ、Ce等の添加金属とAlの共存物質が存在することが確認されており、Ce等がAlさらにはMgやSiと複合酸化物を形成することで被膜物性、界面物性を変化させている可能性が高い。
【0042】
もう一つには一次被膜の力学的物性への効果が考えられる。つまり、これらの化合物の金属成分がフォルステライトの結晶成長や燒結性を制御したり、あるいはフォルステライトに微量の金属成分が入り込み結合状態の変化をもたらすなどして被膜の靭性の向上効果を発現させて一次被膜が衝撃性に耐えられるものとなることが予測される。セラミックスの靭性は通常ビッカーズ圧子を一定荷重で押し込んだ際に形成される四角錘の圧痕の底辺の各頂点から進展するクラックの長さから評価されるが、膜厚の薄いセラミックス被膜での同様の評価は難しい。しかしながら一般に硬度が高いと脆性になる傾向が高くなることから、微小荷重で三角錘や四角錘の圧子を押し込んだ際の押し込み深さあるいは圧痕面積から得られる被膜の硬度の大小により、被膜の靭性の傾向を把握することは可能である。尚、その際に基材の影響を受けないように押し込み荷重を考慮する必要がある。また、Ce、La、Pr、Nd、Y、Scの化合物はこのような一次被膜の改善を発現する一方で、鋼中への拡散、鋼中への析出物の形成などの鉄損劣化の原因となる現象が生じないという長所も有している。
【0043】
Ti化合物の添加による効果はCe、La、Pr、Nd、Y、Scの化合物と共存することにより、これらの化合物の還元を促進することで、前記のメカニズムを加速する効果があると予測される。
【0044】
また、Sr、Ca、Baの化合物の添加による共存の効果は、これらの金属が仕上焼鈍中に脱炭酸化膜の内層へ拡散することで、Sr、Ca、Baを含有する低酸素ポテンシャルで安定なSi酸化物を形成することにより界面くさび構造形成をより安定なものにすることや、Ti化合物と同様にCe等の化合物の還元の促進することや、Ce等と複合酸化物を形成し、一次被膜の物性を良好に変質させることなどの可能性が考えられる。
【0045】
本発明のように、Siを1.8〜7%含有する方向性電磁鋼板のフォルステライト系の一次被膜に一定量のCe、La、Pr、Nd、Sc、Yの1種または2種以上を含有させることにより、上記の額縁剥離性のみならず、W17/150も改善できることが判った。Ce等の添加によりW17/150の値が小さくなる理由については必ずしも明らかではないが、焼鈍分離剤中に本発明で規定している添加物を加えることにより、一次被膜の形態/物性が変化し、磁化過程における磁壁移動挙動が影響を受けることであると推定される。
【0046】
ここで、一次被膜中の元素の目付量とは、鋼板単位面積当たりの片面の一次被膜中の元素量である。Ce、La、Pr、Nd、Sc、Yの測定方法についてはいくつかあるが、基本的な2種類の測定方法を説明する。一つは蛍光X線分析法である。
【0047】
一次被膜中のCe、La、Pr、Nd、Sc、Yの測定は、絶縁被膜コーティングまで施した材料の絶縁被膜をNaOH等のアルカリ水溶液に浸漬して除去した後あるいは絶縁被膜を施す前の材料について蛍光X線分析法を利用して行う。例えば、リガク製蛍光X線分析装置ZSX−100eを用いて、60kV、60mAの条件でX線を照射し、金属元素の特性X線であるLα線等のピーク強度を測定する。もう一つは化学分析法である。
【0048】
これは被膜を含んだ状態で電磁鋼を、例えば王水で溶解後に未分解残渣をフッ酸と硫酸の混合液で溶解し合わせるなどして完全溶解させ、その溶解液をICP(Inductively-Coupled Plasma)発光分析法あるいはICP−MSにより測定を行う。Ceなどの測定についてはICPの感度は必ずしも高くなく、蛍光X線分析を使用する法がより好ましい。
【0049】
次にCeを例にして定量方法について説明する。蛍光X線分析の場合は、前述の方法で、CeのLα線の強度を測定する際に、例えば40秒等の一定時間積分した後に、バックグラウンド補正を行い、積分ピーク強度を求める。量が少なくピーク強度が小さい場合は適宜積分時間を増加させることも可能である。このピーク強度値を予め求めた検量線との対比から目付量を求める。検量線は、例えば硫酸セリウム、硝酸アンモニウムセリウムのような水可溶性化合物を用いて種々の濃度の標準水溶液を作製し、Ceを含まない一次被膜を有した電磁鋼板を基材として一定量滴下・浸漬したサンプルの蛍光X線分析を行うことによって作成される。ここで一次被膜を用いるのは、蛍光X線分析におけるマトリックス効果を緩和することを目的としているが、Si基板に滴下した場合、ろ紙に滲みこました場合で大きな差異は見られてはいない。あるいは以下に述べる化学分析によって予め目付量を算出した試料を用いて検量線を作成することも可能である。化学分析の場合は、まず一次被膜付の電磁鋼板の一定面積あるいは一定質量を溶解してICP等を用いて測定元素の存在質量を求めた後に、一次被膜を機械研磨や酸洗等で除去した電磁鋼板を同様に溶解して測定元素の存在質量を求め、その差から一次被膜としての単位面積あたりの目付量を計算して得られる。
【0050】
この一次被膜中のCe、La、Pr、Nd、Sc、Yの目付量が0.001mg/m2未満であると額縁剥離性の改善効果が充分でなく、あるいはまたW17/150の改善効果が見られない。一方、1000mg/m2を越えると、W17/150が劣化し被膜形成が却って阻害される。Ce、La、Pr、Nd、Sc、Y目付量の範囲としてはさらに好ましくは0.005〜100mg/m2であり、さらに好ましくは0.01〜50mg/m2である。さらに好ましくは0.1〜50mg/m2である。最も好ましくは0.1〜10mg/m2である。
【0051】
これらの元素の目付量をこの範囲に制御するためには、上述したように焼鈍分離剤中にこれらの元素の化合物を含有させる方法があるが、焼鈍分離剤中に対するこれらの元素の含有率に加えて絶対塗布量やコイル状で焼鈍する場合には鋼板直上の雰囲気に差が生じるコイル内での位置などの影響も受けることもある。そこで、鋼成分にあらかじめこれらの元素を含有させておく方法も有効である。
【0052】
額縁剥離性とW17/150を改善させるためには、一次被膜中のTi目付量を1〜800mg/m2とするとさらに良好である。Ti目付量の測定法は上述したCe目付量の測定法と同様である。Ti目付量を1mg/m2未満とすると顕著な耐額縁剥離性が得られず、800mg/m2を超えると鉄損が劣化する。Ti目付量の範囲としては好ましくは3〜500mg/m2であり、より好ましくは10〜500mg/m2であり、さらに好ましくは30〜200mg/m2である。
【0053】
一次被膜中のSr,Ca,Baの目付量を制御することも額縁剥離性とW17/150の改善には有効である。これら元素の目付量を1種または2種以上の合計で0.01〜100mg/m2とすることで額縁剥離性が改善される。0.01mg/m2未満とすると顕著な改善は得られず、100mg/m2を越えると被膜の性状が悪くなる。目付量の範囲としては好ましくは0.1〜100mg/m2であり、さらに好ましくは1〜50mg/m2である。
【0054】
鉄損およびW17/150を良好にするためには鋼板の厚さは0.30mm未満、より望ましくは0.27mm未満、さらに望ましくは0.23mm未満である。また鋼板の厚さをTs(mm)、一次被膜の平均的な膜厚をTf(μm)とした際に、Tf/Tsは0.1〜20の範囲が望ましい。0.1より小さいと被膜張力が小さいために鉄損および3倍周波数鉄損が悪くなる。20を超えると非磁性層の比率が高くなるためにトランスを製造した際の占積率が低下したり、額縁剥離性が低下したりする。より好ましくは0.2〜10、さらに好ましくは0.5〜10、さらに好ましくは2〜10、またさらに好ましくは2〜5の範囲である。
【0055】
<実施例1>
質量%で、C:0.077%、Si:3.2%、Mn:0.075%、S:0.025%、酸可溶性Al:0.025%、N:0.008%、Sn:0.1%、Cu:0.1%、Bi:0.0030%、残部Feよりなる鋼スラブを、1350℃で加熱後、2.5mm厚まで熱間圧延した熱延板を1120℃で1分間焼鈍した。この後、冷間圧延により最終板厚0.27mmに圧延し、湿水素中で840℃で2分間の脱炭焼鈍を施した。その後、MgOに、表1の各添加剤を各添加量(MgO質量に対する各添加剤中の金属成分の質量%)を加えた焼鈍分離剤を塗布して、最高到達温度1200℃で20時間、水素ガス雰囲気中で高温焼鈍を施した。得られた製品板の特性を表2に示す。尚、表1および2に示すXはMgO、Ce、Ti以外の添加物質の金属種のことを意味する。
【0056】
以上により、フォルステライトを主成分とする一次被膜を有する被膜密着性、特に額縁剥離性およびW17/150に優れた方向性電磁鋼板が得られる。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
<実施例2>
表3に示す化学成分系を含み2.3mm厚にまで熱間圧延させて熱延板に1100℃で1分間焼鈍を施した。この後、冷間圧延により最終板厚0.23mmにまで圧延した。
【0060】
さらに、得られたストリップを850℃まで300℃/sの通電加熱法により昇温したのち、820℃の均一温度、湿潤水素中で脱炭焼鈍し、MgOを主成分として、TiO2をTi換算で3%および平均粒径3μm(SHIMADZU製SALD−3000Sで測定)、BET比表面積190m2/g(SHIMADZU製micrometrics FlowSorbII 2300で測定)のCe(OH)4をMgOに対して表4に示すCe換算添加量となるように配合した焼鈍分離剤を塗布した後、700℃×20hのMgO中水分除去処理を行ったのち、1200℃に20時間、水素ガス雰囲気中で高温焼鈍を行った。得られた鋼板の余剰MgOを除去し、形成されたフォルステライト被膜上にコロイダルシリカと燐酸塩を主体とする絶縁被膜を形成させ製品とした。得られた製品特性を表4に示す。
【0061】
本発明条件を満足するコイルは、被膜密着性、額縁剥離性と磁気特性に優れた方向性電磁鋼板となっている。
【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
<実施例3>
表3に示す化学成分系を含み2.0mm厚にまで熱間圧延させて熱延板に1120℃で1分間焼鈍を施した。この後、冷間圧延により最終板厚0.23mmにまで圧延した。
さらに、得られたストリップを、835℃の均一温度、湿潤水素中で脱炭焼鈍し、MgOを主成分として、表5に示すCe、Ti換算量になるように平均粒径14μm、BET比表面積8m2/gのCeO2およびTiO2を添加した焼鈍分離剤を塗布した後、700℃×20hのMgO中水分除去処理を行ったのち、1200℃に20時間、水素ガス雰囲気中で高温焼鈍を行った。得られた鋼板の余剰MgOを除去し、形成されたフォルステライト被膜上にコロイダルシリカと燐酸塩を主体とする絶縁被膜を形成させ製品とした。得られた製品特性を表5に示す。
【0065】
本発明条件を満足する鋼板は、被膜密着性、額縁剥離性と磁気特性に優れた方向性電磁鋼板となっている。
【0066】
【表5】

【0067】
<実施例4>
表6、表7に示す成分の鋼を200ton転炉で溶製し、10tonサイズのインゴット鋳造した後、1200℃に加熱して分塊圧延して厚さ200mm、幅800mm、長さ800mmのスラブ様熱延素材とし、1350℃で1時間加熱した後にタンデム熱延機によって板厚2.2mmとし、1095℃で2分間焼鈍した後気水冷却して硝塩酸浴中で酸化スケールを除去し、ゼンジミア冷延機にて5パスで約1時間かけて板厚0.27mmまで冷延し、湿潤水素−窒素混合雰囲気で835℃で2.5分間焼鈍し鋼板表面に酸化膜を形成させた。
【0068】
その後平均粒径0.2μmの酸化マグネシウムに表8中のイおよびロの組成で示す添加物を混合した粉末を工業用純水で溶いたスラリーをロールコーターで鋼板に塗布して400℃で乾燥させて酸化マグネシウム粉末が付着された状態でタイトなコイルに巻き取った後、水素と窒素の混合雰囲気中にてガス加熱によって1200℃まで加熱し、1日保持した後加熱を停止して室温まで冷却した。
【0069】
表9および表10に、冷却後鋼板表面に付着した酸化マグネシウム及び若干鋼成分と反応した化合物を水洗いし乾燥した後の鋼板をエプスタイン法によって磁性評価および額縁剥離性を評価した結果を、鋼板中Ce目付量と共に示す。なお、素材符号のMからAFまでは、符号A、E、Fの素材に追加添加した時の、コイル全長全幅での特性均一性を評価した。即ちストリップ鋼板内においては本来得られるべき磁気特性が得られない部分が歩留まり落ちとして存在する事があり、その量を、得られた鋼板におけるB8≧1.93T以上部分の面積率で評価した。
【0070】
いずれの場合においても、本発明の鋼成分条件を満たさない場合は磁気特性が劣化する事、あるいはB8≧1.93T以上の面積率が高いものが得られないことが明らかである。
【0071】
【表6】

【0072】
【表7】

【0073】
【表8】

【0074】
【表9】

【0075】
【表10】

【0076】
<実施例5>
質量%で、C:0.08%、Si:3.3%、Mn:0.075%、S:0.024%、酸可溶性Al:0.024%、N:0.008%、Sn:0.1%、Cu:0.1%、Bi:0.0055%、残部Feよりなる鋼スラブを、1350℃で加熱後、2.3mm厚まで熱間圧延した熱延板を1120℃で1分間焼鈍した。この後、冷間圧延により最終板厚0.23mmに圧延し、得られたストリップを850℃まで300℃/sの通電加熱法により昇温したのち、湿水素中で830℃で2分間の脱炭焼鈍を施した。その後、MgOの質量に対して、表10の添加剤(質量%)を加えた焼鈍分離剤を塗布して、最高到達温度1200℃で20時間、水素ガス雰囲気中で高温焼鈍を施した。これを水洗した後、リン酸アルミニウムとコロイダルシリカを主成分とした絶縁膜を塗布、焼付した後に、レーザーを照射して磁区細分化処理を施した。得られた製品板の特性と額縁剥離性を表11に示す。また絶縁被膜塗布前に松沢精機製微小硬度計(Model:DMH−2LS)により荷重2g負荷時の圧痕面積より得られたマイクロビッカーズ硬度(Hv)もあわせて表12に示す。
【0077】
本発明条件を満たすコイルは、被膜密着性、特に額縁剥離性および磁気特性に優れた方向性電磁鋼板となっている。
【0078】
【表11】

【0079】
【表12】

【0080】
<実施例6>
質量%で、C:0.08%、Si:3.2%、Mn:0.075%、S:0.024%、酸可溶性Al:0.023%、N:0.008%、Sn:0.1%、残部Feよりなる鋼スラブを、1340℃で加熱後、2.3mm厚まで熱間圧延した熱延板を1110℃で1分間焼鈍した。この後、冷間圧延により最終板厚0.23mmに圧延し、得られたストリップを850℃まで300℃/sの通電加熱法により昇温したのち、湿水素中で830℃で2分間の脱炭焼鈍を施した。これに、MgOの質量に対して、表13の添加剤(質量%)を加えた焼鈍分離剤を塗布して、最高到達温度1180℃で15時間、水素ガス雰囲気中で高温焼鈍を施した。これを水洗した後、リン酸マグネシウムとコロイダルシリカを主成分とした絶縁膜を塗布、焼付した後に、歯車で溝を形成し磁区細分化処理を施した後、窒素中800℃で4時間の歪取焼鈍を行った。得られた製品板の特性と額縁剥離性を表14に示す。
【0081】
本発明条件を満たすことによりコイルは、額縁剥離性および磁気特性に優れた方向性電磁鋼板となっている。
【0082】
【表13】

【0083】
【表14】

【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明により、変圧器を製造するためのスリット剪断、斜角剪断を施したときに表面被膜の剥離が生じる課題、変圧器に組み上げた際に素材の鉄損特性が十分に発揮できないという課題が解決され、市場より求められる高効率の変圧器を工業的、安定的に製造することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Si:1.8〜7%を含有し、表面にフォルステライトを主成分とする一次被膜を有する方向性電磁鋼板において、該一次被膜中にCe、La、Pr、Nd、Sc、Yの内の1種または2種以上を目付量で片面あたり0.001〜1000mg/m含有することを特徴とする被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板。
【請求項2】
一次被膜中にTiを目付量で片面あたり1〜800mg/m含有することを特徴とする請求項1記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
一次被膜中にSr、Ca、Baの内の1種または2種以上を目付量で片面あたり0.01〜100mg/m含有することを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
質量%で、C:0.10%以下、Si:1.8〜7%、Mn:0.02〜0.30%と、SおよびSeのうちから選んだ1種または2種の合計:0.001〜0.040%、酸可溶性Al:0.010〜0.065%、N:0.0030〜0.0150%、残部Feおよび不可避的不純物よりなる方向性電磁鋼熱延板に、焼鈍を施し、1回あるいは2回以上または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚に仕上げ、次いで脱炭焼鈍を施し、その後、鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布、乾燥し仕上げ焼鈍を行う一連の工程を含む方法により方向性電磁鋼板を製造するにあたり、MgOを主成分とした焼鈍分離剤の中にCe化合物、La化合物、Pr化合物、Nd化合物、Sc化合物、Y化合物の内の1種または2種以上を金属換算でMgOに対して0.01〜14質量%の範囲で含有することを特徴とする被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
焼鈍分離剤の中に、Ti化合物をTi換算でMgOに対して0.5〜10質量%の範囲で含有することを特徴とする請求項4記載の被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
焼鈍分離剤の中に、Sr、Ca、Baの化合物の内の1種または2種以上を金属換算でMgOに対して0.1〜10質量%の範囲で含有することを特徴とする請求項4または5に記載の被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
方向性電磁鋼熱延板に副インヒビターとしてBi:0.0005〜0.05質量%、および/またはSn、Cu、Sb、As、Mo、Cr、P、Ni、B、Te、Pb、V、Geの1種または2種以上を0.003〜0.5質量%含むことを特徴とする請求項4または5に記載の被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
方向性電磁鋼熱延板に副インヒビターとしてBi:0.0005〜0.05質量%、および/またはSn、Cu、Sb、As、Mo、Cr、P、Ni、B、Te、Pb、V、Geの1種または2種以上を0.003〜0.5質量%含むことを特徴とする請求項6に記載の被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2012−214902(P2012−214902A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−134001(P2012−134001)
【出願日】平成24年6月13日(2012.6.13)
【分割の表示】特願2007−517906(P2007−517906)の分割
【原出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】