説明

被膜形成用塗布液及びその被膜並びに被膜形成方法

【課題】
70°C以下の加熱処理で充分に硬化し、その硬化被膜が耐擦傷性に優れ、且つ保存安定性に優れる被膜形成用塗布液、該被膜形成用塗布液から得られる被膜及び該被膜を形成する方法を提供する。
【解決手段】
式(1)で表される硅素化合物を必須成分として縮重合して得られるポリシロキサン(A)と、式(2)で表される化合物(B)を含有することを特徴とする被膜形成用塗布液により達成される。
【化1】


(Rは炭素数1〜5の有機基を表す。)
【化2】


(R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜12の有機基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシ基含有珪素化合物を縮重合して得られるポリシロキサンを主として含有する被膜、例えば、撥水性被膜を形成可能な被膜形成用塗布液、及びその塗布液から形成される被膜、並びにその被膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリル、ポリエステルやポリカーボネート等のプラスチック基材に耐擦傷性を付与する方法として、基材表面に保護膜を形成することがなされている。
この保護膜を形成するための塗布液として、テトラアルコキシシラン等の珪素化合物を加水分解縮重合させたポリシロキサンを主成分とする熱硬化型塗布液の開発がなされてきている。しかしながら、このような熱硬化型の塗布液は、被膜形成時の熱処理温度が基材の耐熱温度等によって制約されるため、被膜が充分に硬化せず、充分な耐擦傷性を得ることができない場合があり、熱処理温度の低温化が課題となっていた。
【0003】
この課題を解決する方法として、例えば、有機酸金属塩、アルキルスズエステル化合物、ハロゲン化スズ化合物、スズオルソエステル化合物、金属アルコレート、チタンキレート化合物、含窒素塩基性有機化合物等の硬化触媒を添加することで、触媒反応を利用して被膜形成温度を低下する方法(特許文献1参照)や、(A)ビスフェノールAジグリシジルエーテル重合体のアクリル酸エステル、(B)ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、(C)光重合開始剤、(D)無機粒子および(E)末端反応性のポリジメチルシロキサン、からなる光硬化性樹脂組成物(特許文献2参照)を用い、熱処理を必要としない光硬化型塗布液の提案がなされている。
【0004】
近年、プラスチック基材、特にプラスチックフィルムは、軽量化や高透明化等の目的からフィルム厚を薄くする傾向にあり、熱によって受けるダメージが大きくなることが問題となっている。光硬化型塗布液が開発されているが、まだ不十分な点があり、そのため、プラスチックフィルムがダメージを受けない程度の低温処理で、充分に硬化可能な熱硬化型の被膜形成用塗布液への要望が以前にも増して望まれていた。
【0005】
一方、従来、基材の屈折率よりも低い屈折率を示す被膜を当該基材の表面に形成させると、当該被膜の表面から反射する光の反射率が低下することが知られている。そしてこのような低下した光反射率を示す被膜は、光反射防止膜として利用され、種々の基材表面に適用されている。
【0006】
Mg源としてのマグネシウム塩、アルコキシマグネシウム化合物などと、F源としてのフッ化物塩とを反応させることにより生成させたMgF2微粒子のアルコール分散液、又はこれに膜強度向上のためにテトラアルコキシシランなどを加えた液を塗布液とし、これをブラウン管等ガラス基材上に塗布し、そして100〜500℃で熱処理することにより、当該基材上に低屈折率を示す反射防止膜を形成させる方法が開示されている(特許文献3参照)。
【0007】
テトラアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン、エチルトリアルコキシシランなどの加水分解縮重合物であって、平均分子量の異なる2種以上とアルコール等溶剤とを混合することによりコーティング液となし、当該コーティング液から被膜を形成するに当たって上記混合の際の混合割合、相対湿度のコントロールなどの手段を加えて被膜をつくり、そしてこれを加熱することにより、1.21〜1.40の屈折率を示し、50〜200nmの径を有するマイクロピット又は凹凸を有する厚さ60〜160nmの薄膜をガラス基板上に形成させた低反射ガラスが開示されている(特許文献4参照。)。
【0008】
ガラスと、その表面に形成させた高屈折率を有する下層膜と、更にその表面に形成させた低屈折率を有する上層膜とからなる低反射率ガラスが開示され(特許文献5参照)。この文献には、その上層膜の形成方法の詳細として、CF3(CF2224Si(OCH33等ポリフルオロカーボン鎖を有する含フッ素シリコーン化合物と、これに対し5〜90重量%のSi(OCH34等シランカップリング剤とを、アルコール溶媒中、酢酸等触媒の存在下に室温で加水分解させた後、濾過することにより共縮合体の液を調製し、次いでこの液を上記下層膜上に塗布し、120〜250℃で加熱することからなる方法が記載されている。
【0009】
Si(OR)4で示される珪素化合物と、CF3(CF2nCH2CH2Si(OR13で示される珪素化合物と、R2CH2OHで示されるアルコールと、蓚酸とを特定比率に含有する反応混合物を水の不存在下に40〜180℃で加熱することによりポリシロキサンの溶液を生成させ、当該溶液を含有する塗布液を基材表面に塗布し、そしてその塗膜を80〜450℃で熱硬化させることにより当該基材表面に密着して形成させ、1.28〜1.38の屈折率と90〜115度の水接触角を有する皮膜が記載されている(特許文献6参照)。
【0010】
近年、表示装置の軽量化や薄型化が進む中、これに搭載される反射防止基材、特に反射防止フィルムは、軽量化や高透明化等の目的からフィルム厚を薄くする傾向にあり、熱によって受けるダメージが大きくなることが問題となっている。そのため、フィルムがダメージを受けない程度の低温処理で反射防止基材を得ることができる、熱硬化型の被膜形成用塗布液への要望が以前にも増して望まれていた。
【0011】
【特許文献1】特開平07−082486号公報
【特許文献2】特開平11−124514号公報
【特許文献3】特開平05−105424号公報
【特許文献4】特開平06−157076号公報
【特許文献5】特開昭61−010043号公報
【特許文献6】特開平09−208898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、70°C以下の加熱処理で充分に硬化し、その硬化被膜が耐擦傷性に優れ、且つ保存安定性に優れる被膜形成用塗布液、例えば、上記硬化被膜が低屈折率で耐擦傷性に優れた撥水性被膜を形成できる被膜形成用塗布液、かかる被膜形成用塗布液から得られる被膜、例えば、撥水性被膜、これらの被膜を形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の状況に鑑み鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の要旨を有する。
(1)式(1)で表される硅素化合物を必須成分として縮重合して得られるポリシロキサン(A)と、式(2)で表される化合物(B)と、を含有することを特徴とする被膜形成用塗布液。
【0014】
【化1】

(Rは炭素数1〜5の炭化水素基を表す。)
【0015】
【化2】

(R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜12の有機基を表す。)
(2)ポリシロキサン(A)が、式(1)で表される硅素化合物のうちの少なくとも1種と、式(3)で表される硅素化合物のうちの少なくとも1種とを縮重合して得られるポリシロキサンである上記(1)に記載の被膜形成用塗布液。
【0016】
【化3】

(Rは水素原子又は炭素数1〜20の有機基であり、Rはそれぞれ炭素数1〜5の炭化水素基であり、nは1〜3の整数を表す。)
(3)ポリシロキサン(A)が、式(1)の硅素化合物の1モルに対し式(3)の硅素化合物を0.02〜0.80モルの割合で縮重合して得られるポリシロキサンである上記(2)に記載の被膜形成用塗布液。
(4)ポリシロキサン(A)が、式(1)で表される硅素化合物のうちの少なくとも1種と、式(4)で表される硅素化合物のうちの少なくとも1種とを縮重合して得られるポリシロキサンである上記(1)に記載の被膜形成用塗布液。
【0017】
【化4】

(R2´はフッ素を有する炭素数1〜15の有機基を表し、R3´は炭素数1〜5の炭化水素基を表す。)
(5)ポリシロキサン(A)が、式(1)で表される硅素化合物のうちの少なくとも1種と、式(4)で表される硅素化合物のうちの少なくとも1種と、式(5)で表される硅素化合物のうちの少なくとも1種とを縮重合して得られるポリシロキサンである上記(4)に記載の被膜形成用塗布液。
【0018】
【化5】

(Rは水素原子又はフッ素を有しない炭素数1〜20の有機基であり、Rはそれぞれ炭素数1〜5の炭化水素基であり、nは1〜3の整数を表す。)
(6)ポリシロキサン(A)の硅素原子の1モルに対し化合物(B)を0.06〜0.20モル含有する上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の被膜形成用塗布液。
(7)ポリシロキサン(A)が、式(1)で表される硅素化合物を必須成分として加水分解縮重合して得られるポリシロキサンである上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の被膜形成用塗布液。
(8)ポリシロキサン(A)が、式(1)で表される硅素化合物を必須成分とする硅素化合物、溶媒及び蓚酸の混合物を加熱して得られるポリシロキサンである上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の被膜形成用塗布液。
(9)上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の被膜形成用塗布液を用いて得られる被膜。
(10)上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の被膜形成用塗布液を基材に塗布し、温度40°〜70°Cで硬化して得られる硬化被膜。
(11)上記(4)又は(5)に記載の被膜形成用塗布液を基材に塗布し、温度40°〜70°Cで硬化して得られる撥水性被膜。
(12)上記(11)に記載の撥水性被膜を有する反射防止基材。
(13)上記(11)に記載の撥水性被膜を有する反射防止フィルム。
(14)上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の被膜形成用塗布液を基材に塗布し、温度40°〜70°Cで硬化することを特徴とする被膜形成方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の被膜形成用塗布液は、保存安定性に優れ、温度40°C〜70°Cという低温の熱処理で充分に硬化し且つ耐擦傷性に優れる被膜を提供できる。そして、本発明の被膜形成用塗布液から得られる被膜は、プラスチックフィルム等の保護膜として優れた耐擦性を有する。また、本発明の被膜形成方法により、温度40°C〜70°Cという低温で、前記のような優れた耐擦傷性を有する被膜を形成することができる。
【0020】
さらに、本発明の被膜形成用塗布液において特定のポリシロキサンを用いた撥水性被膜形成用塗布液は、保存安定性に優れ、温度40°C〜70°Cという低温の熱処理で充分に硬化し且つ低屈折率で耐擦傷性に優れる撥水性被膜を提供できる。そして、本発明の撥水性被膜形成用塗布液から得られる撥水性被膜は、反射防止フィルム等の反射防止基材に好適に用いることができる。また、本発明の撥水性被膜形成方法により、温度40°C〜70°Cという低温で、前記のような低屈折率で優れた耐擦傷性を有する撥水性被膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明について詳細に説明する。
<ポリシロキサン(A)>
本発明に用いるポリシロキサン(A)は、式(1)で表される硅素化合物を必須成分として、縮重合して得られる。
【0022】
【化6】

(Rは炭化水素基を表す。)
【0023】
即ち、テトラアルコキシシランを必須成分として、縮重合させて得られるポリシロキサンである。
式(1)のRは、炭化水素基を表し、炭素数が少ない方が反応性が高いので、炭素数1〜5の飽和炭化水素基が好ましい。より好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基である。
このようなテトラアルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられ、市販品として容易に入手可能である。
本発明においては、式(1)で表される硅素化合物のうちの少なくとも1種を用いればよいが、必要に応じて複数種を用いてもよい。
また、ポリシロキサン(A)は、式(1)で表される硅素化合物と式(3)で表される硅素化合物とを縮重合させたものでもよい。
【0024】
【化7】

(Rは水素原子又は炭素数1〜20の有機基であり、Rはそれぞれ炭化水素基であり、nは1〜3の整数を表す。)
式(3)の硅素化合物は、アルコキシ基を1、2又は3個有するアルコキシシランであり、Rはそれぞれ炭化水素基である。即ち、nが1又は2の場合、一般的にはRが同一の場合が多いが、本発明においては、Rは同一でも、それぞれ異なっていてもよい。
このような、式(3)で表される硅素化合物の具体例を以下に示す。
【0025】
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン、及びジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン、及びトリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のトリアルキルアルコキシシラン等が挙げられる。
【0026】
これらの硅素化合物においては、Rの炭素数が少ない方が反応性が高いので、炭素数1〜5が好ましい。より好ましくは、炭素数が1〜3である。
本発明においては、式(3)で表される硅素化合物のうちの少なくとも1種を用いればよいが、必要に応じて複数種を用いてもよい。
なお、本発明においては、式(1)で表される硅素化合物と併用する式(3)で表される硅素化合物の量は特に限定されないが、式(1)で表される硅素化合物の1モルに対して0.02〜0.80モルが好ましい。
【0027】
また、ポリシロキサン(A)は、式(1)で表される硅素化合物と式(4)で表される硅素化合物とを縮重合させたものでもよい。(以下、かかるポリシロキサン(A)を含有する被膜形成用塗布液を、「撥水性被膜形成用塗布液」ともいう。)
【0028】
【化8】

(R2´はフッ素を有する炭素数1〜15の有機基を表し、R3´は炭素数1〜5の炭化水素基を表す。)
【0029】
式(4)で表される硅素化合物は、被膜に撥水性を付与するものである。ここで、式(4)のR2´は、フッ素を有する炭素数1〜15の有機基を表すが、この有機基が有するフッ素原子の数は特に限定されない。また、式(4)のR3´は炭素数1〜5の炭化水素基を表し、好ましくは、炭素数1〜5の飽和炭化水素基であり、より好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基である。
このような式(4)で表される硅素化合物の中でも、式(4´)で表される硅素化合物が好ましい。
【0030】
【化9】

(mは0〜12の整数を表し、R10は炭素数1〜5の炭化水素基を表す。)
【0031】
式(4´)のR10は炭素数1〜5の炭化水素基を表し、上記R3´と同様に、好ましくは、炭素数1〜5の飽和炭化水素基であり、より好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基である。
このような式(4´)で表される硅素化合物の具体例として、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
本発明の撥水性被膜形成用塗布液においては、式(4)で表される硅素化合物のうちの少なくとも1種を用いればよいが、必要に応じて複数種を用いてもよい。
【0032】
本発明の撥水性被膜形成用塗布液に用いるポリシロキサン(A)は、式(1)及び式(4)で表される硅素化合物を縮重合して得られるが、溶媒中で均質な溶液状態であれば、式(1)及び式(4)で表される硅素化合物の縮重合する比率は特に限定されない。式(4)で表される硅素化合物の比率が、式(1)で表される硅素化合物の1モルに対して、0.05モル以上の場合、水の接触角が90°以上の撥水性被膜が得られやすいので好ましく、0.43モル以下の場合、均質なポリシロキサン(A)の溶液を得られやすいので好ましい。
また、ポリシロキサン(A)は、式(1)及び式(4)で表される硅素化合物と式(5)で表される硅素化合物とを縮重合させたものでもよい。
【0033】
【化10】

(Rは水素原子又はフッ素を有しない炭素数1〜20の有機基であり、Rはそれぞれ炭素数1〜5の炭化水素基であり、nは1〜3の整数を表す。)
【0034】
式(5)の硅素化合物は、水素原子又はフッ素を有しない炭素数1〜20の有機基と、アルコキシ基を1、2又は3個有するアルコキシシランである。式(5)のRは、それぞれ炭化水素基である。即ち、nが1又は2の場合、一般的にはRが同一の場合が多いが、本発明においては、Rは同一でも、それぞれ異なっていてもよい。
このような、式(5)で表される硅素化合物の具体例を以下に示す。
【0035】
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン、及びジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン、及びトリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のトリアルキルアルコキシシラン等が挙げられる。
【0036】
これらの硅素化合物において、Rは炭素数1〜5の炭化水素基を表し、好ましくは、炭素数1〜5の飽和炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜3の飽和炭化水素基である。
本発明においては、式(5)で表される硅素化合物を必要に応じて複数種用いることもできる。
なお、本発明においては、式(1)及び式(4)で表される硅素化合物と併用する式(5)で表される硅素化合物の量は特に限定されないが、式(1)及び式(2)で表される硅素化合物中の硅素原子の合計量の1モルに対して0.02〜0.80モルが好ましい。
【0037】
本発明に用いるポリシロキサン(A)は、式(1)で表される硅素化合物、又は式(1)及び式(3)で表される硅素化合物、又は式(1)及び式(4)で表される硅素化合物、又は式(1)、式(4)及び式(5)で表される硅素化合物の縮重合体であれば特に限定されない。
本発明に用いるポリシロキサン(A)は、一般的には、公知の方法で、加水分解・縮重合して得ることができる。最も広く知られている方法としては、硅素化合物が溶媒に溶解した溶液に、純水又は純水と溶媒の混合溶液を滴下等の方法で加え、温度40℃以上で数時間以上加熱・撹拌する、加水分解法である。この方法において、用いる純水の量は、完全加水分解及び部分加水分解の目的に応じて任意に適宜選択される。通常は、硅素化合物の全アルコキシ基に対して、0.4〜4倍モルの量である。本発明においては、完全加水分解及び部分加水分解のいずれを用いてもよい。そして、この加水分解法においては、加水分解・縮重合の反応を促進するために、酸又はアルカリを触媒として添加することが一般的である。この酸触媒としては、塩酸、硫酸や硝酸等の無機酸や酢酸、蓚酸や蟻酸等の有機酸が挙げられる。アルカリ触媒としては、ナトリウム、カリウム、アンモニア等の無機アルカリや、各種アミン類が用いられる。加熱温度及び加熱時間は、適宜必要に応じて選択できる。例えば、50℃で24時間加熱・撹拌したり、還流下で8時間加熱・撹拌する等の方法が挙げられる。なお、硅素化合物が加水分解・縮重合する限りにおいては、加熱せずに、室温下で撹拌する方法も使用可能である。
【0038】
また、ポリシロキサン(A)を得る別の方法として、例えば、珪素化合物、溶媒及び蓚酸の混合物を加熱する方法が挙げられる。具体的には、あらかじめアルコールに蓚酸を加えて蓚酸のアルコール溶液とした後、当該溶液と珪素化合物を混合し、加熱する方法である。その際、蓚酸の量は、珪素化合物が有する全アルコキシ基の1モルに対して0.2〜2モルとすることが一般的である。この方法における加熱は、液温50〜180℃で行うことができ、例えば、還流下で数十分から十数時間行われる。
【0039】
上記したいずれの方法においても、硅素化合物を縮重合する際には、仕込んだ硅素化合物のSiO固形分換算濃度が、20質量%以下で加熱されることが一般的である。このような濃度範囲で任意の濃度を選択することにより、ゲルの生成を抑え、均質なポリシロキサン含有溶液を得ることができる。
上記の方法に用いられる溶媒は、式(1)及び式(3)、又は式(1)及び式(4)、又は式(1)、式(4)及び式(5)で表される硅素化合物を溶解するものであれば特に限定されない。一般的には、硅素化合物の縮重合反応によりアルコールが生成するため、アルコール類やアルコール類と相溶性の良好な有機溶媒が用いられる。
このような有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
本発明においては、上記の有機溶媒を複数種混合して用いてもよい。
【0040】
<化合物(B)>
本発明に用いる化合物(B)は、式(2)で表される尿素及びその誘導体である。
【0041】
【化11】

(R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜12の有機基を表す。)
【0042】
化合物(B)は、雰囲気中の水分による加水分解や加熱により分解し、塗膜中に残存したアルコキシ基の縮合を促進して、塗膜の硬化を進行させると考えられるため、低温で分解し易い化合物が好ましい。
従って、式(2)のR、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜12の有機基であり、好ましくは、R、R、R及びRがそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜5の有機基である。
このような尿素及びその誘導体の具体例として、尿素、1,1−ジメチル尿素、1,1−ジエチル尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、ヒドロキシエチル尿素、ヒドロキシプロピル尿素、エチル尿素、プロピル尿素等が挙げられる。
このような化合物(B)の含有量は、ポリシロキサン(A)中の硅素原子の1モルに対して0.06モル以上の場合、低温で硬化し易いので好ましい。また、化合物(B)の含有量が0.20モル以下の場合、撥水性被膜が透明で、ムラがなく、高い被膜硬度を得易いので好ましい。
【0043】
<その他の成分>
本発明においては、本発明の効果を損なわない限りにおいて、ポリシロキサン溶液(A)及び化合物(B)以外のその他の成分、例えば、無機微粒子、レベリング剤、更に界面活性剤等の成分が含まれていてもよい。
【0044】
無機微粒子としては、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、チタニア微粒子及びフッ化マグネシウム微粒子等の微粒子が好ましく、コロイド溶液のものが特に好ましい。このコロイド溶液は、無機微粒子粉を分散媒に分散したものでもよいし、市販品のコロイド溶液であってもよい。本発明においては、無機微粒子を含有させることにより、形成される硬化被膜の表面形状やその他の機能を付与することが可能となる。無機微粒子としては、その平均粒子径が0.001〜0.2μmであることが好ましく、更に好ましくは0.001〜0.1μmとされる。無機微粒子の平均粒子径が0.2μmを超える場合には、調製される塗布液によって形成される硬化被膜の透明性が低下する場合がある。
無機微粒子の分散媒としては、水及び有機溶剤を挙げることができる。コロイド溶液としては、被膜形成用塗布液の安定性の観点から、pH又はpKaが2〜10に調整されていることが好ましい。より好ましくは3〜7である。
【0045】
コロイド溶液の分散媒に用いる有機溶剤としては、メタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ブタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエ−テル類を挙げることができる。これらの中で、アルコール類及びケトン類が好ましい。これら有機溶剤は、単独でまたは2種以上を混合して分散媒として使用することができる。
また、レベリング剤及び界面活性剤等は、公知のものを用いることができ、特に市販品は入手が容易なので好ましい。
【0046】
<被膜形成用塗布液>
本発明の被膜形成用塗布液を調整する方法は特に限定されない。ポリシロキサン(A)と化合物(B)が均一に混合した状態であればよい。通常、ポリシロキサン(A)は、硅素化合物を溶媒中で縮重合し、溶液の状態で得られる。そのため、硅素化合物を縮重合して得られるポリシロキサン(A)の溶液(以下、ポリシロキサン(A)の溶液と称す。)をそのまま用いて、化合物(B)と混合する方法が簡便である。また、必要に応じて、ポリシロキサン(A)の溶液を、濃縮したり、溶媒を加えて希釈したり又は他の溶媒に置換してから、化合物(B)と混合してもよい。更に、ポリシロキサン(A)の溶液と化合物(B)を混合した後に、溶媒を加えることもできる。
この時の被膜形成用塗布液中のSiO固形分換算濃度は、0.5〜15質量%が好ましく、SiO濃度が0.5質量%より低いと、一回の塗布で所望の膜厚を得ることが難しく、15質量%より高いと、溶液のポットライフが不足し易い。
希釈や置換等に用いる溶媒は、硅素化合物の縮重合に用いたと同じ溶媒でもよいし、別の溶媒でもよい。この溶媒は、ポリシロキサン(A)及び化合物(B)との相溶性を損なわなければ特に限定されず、一種でも複数種でも任意に選択して用いることができる。
【0047】
このような溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、エチレングリコール、プロピレングリコール、へキシレングリコール等のグリコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル、酢酸メチルエステル、酢酸エチルエステル、乳酸エチルエステル等のエステル類等が挙げられる。
【0048】
上記した、その他の成分を混合する方法は、ポリシロキサン(A)及び化合物(B)と同時でも、ポリシロキサン(A)及び化合物(B)の混合後であっても良く、特に限定されない。
本発明において、被膜形成用塗布液の具体例を以下に挙げる。
[1]ポリシロキサン(A)と化合物(B)を含有する被膜形成用塗布液。
[2]上記[1]と無機微粒子を含有する被膜形成用塗布液。
[3]上記[1]又は[2]とレベリング剤及び界面活性剤の群から選ばれる少なくとも一種を含有する被膜形成用塗布液。
【0049】
<被膜の形成>
本発明の被膜形成用塗布液は、基材に塗布し、熱硬化することで所望の被膜を得ることができる。塗布方法は、公知又は周知の方法を採用できる。例えば、ディップ法、フローコート法、スプレー法、バーコート法、グラビアコート法、ロールコート法、ブレードコート法、エアーナイフコート法等の方法を採用できる。その際、用いる基材は、プラスチック、ガラス、セラミックス等からなる基材を挙げることができ、プラスチックとしては、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、トリメチルペンテン、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、(メタ)アクリロニトリル、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース等の板及びフィルム等が挙げられる。
【0050】
基材に形成された塗膜は、そのまま温度40〜70℃で熱硬化させてもよいが、これに先立ち、室温〜100℃の温度で乾燥させた後、熱硬化してもよい。その際、乾燥に要する時間は、10秒間〜6分間が好ましい。
熱硬化に要する時間は、所望の被膜特性に応じて適宜選択することができるが、通常、1時間から7日間である。低い硬化温度を選択する場合は、硬化時間を長くすることで充分な耐擦傷性を有する被膜を得られやすい。
また、本発明の被膜形成用塗布液は、70℃を超える硬化温度であっても耐擦傷性に優れた被膜を得ることができる。
【0051】
撥水性被膜形成用塗布液を使用し、上記の方法により得られた本発明の撥水性被膜は、水の接触角が90度以上であり、屈折率が1.4以下の低屈折率で且つ耐擦傷性に優れるという特徴を有しているため、特に、反射防止用途に好適に用いることができる。
【0052】
本発明の撥水性被膜を反射防止用途に使用する場合、本発明の撥水性被膜の屈折率より高い屈折率を有する基材、例えば、通常のガラスの表面に、本発明の撥水性被膜を形成することで、この基材を容易に光反射防止能を有する基材に変換させることができる。本発明の撥水性被膜は、基材表面に単一の被膜として使用しても有効であるが、高屈折率を有する下層被膜の上に被膜を形成した、反射防止積層体としての使用も有効である。
【0053】
被膜の厚さと光の波長の関係について述べると、屈折率aを有する被膜の厚さd(nm)と、この被膜による反射率の低下を望む光の波長λ(nm)との間には、d=(2b−1)λ/4a(式中、bは1以上の整数を表す。)の関係式が成立することが知られている。従って、この式を利用して被膜の厚さを定めることにより、容易に所望の波長の光の反射を防止することができる。具体例を挙げると、波長550nmの光について、1.32の屈折率を有する被膜を形成し、ガラス表面からの反射光を防止するには、上記式のλとaにこれらの数値を代入することで最適な膜厚を算出することができる。その際、bは任意の正の整数を代入すればよい。例えば、bに1を代入することによって得られる膜厚は104nmであり、bに2を代入することによって得られる膜厚は312nmである。このようにして算出された被膜厚さを採用することによって、容易に反射防止能を付与することができる。
【0054】
基材に形成する被膜の厚さは、塗布時の膜厚によっても調節することができるが、塗布液のSiO2換算濃度を調節することによっても容易に調節することができる。
【0055】
本発明の撥水性被膜は、ガラス製のブラウン管、コンピューターのディスプレイ、ガラス表面を有する鏡、ガラス製ショウケース等の光の反射防止が望まれる分野に好適に用いることができる。更に、本発明の撥水性被膜は、指紋や油性インキが拭き取りやすいという防汚性の点で、充分な実用性を有しており、温度40〜70℃という低温処理で充分に硬化できるため、液晶テレビやディスプレイモニター用の反射防止フィルムに特に有用である。
【実施例】
【0056】
以下、合成例、及び実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
本実施例における略語の説明。
TEOS:テトラエトキシシラン
MTES:メチルトリエトキシシラン
HTES:ヘキシルトリエトキシシラン
MPS:γ―メルカプトプロピルトリメトキシシラン
MAPS:γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
GPS:γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
FS−03:3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン
FS−13:トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン
FS−17:ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン
1,1−DMU:1,1−ジメチル尿素
1,3−DMU:1,3−ジメチル尿素
TMU:テトラメチル尿素
HEU:ヒドロキシエチル尿素
BCS:ブチルセロソルブ
【0057】
下記合成例における測定法を以下に示す。
[残存アルコキシシランモノマー測定法]
ポリシロキサン(A)の溶液中の残存アルコキシシランモノマーをガスクロマトグラフィー(以下、GCと称す。)で測定した。
GC測定は、島津製作所(株)製 Shimadzu GC−14Bを用い、下記の条件で測定した。
カラム:キャピラリーカラム CBP1−W25−100(25mm×0.53mmφ×1μm)
カラム温度:開始温度50℃から15℃/分で昇温して到達温度290℃(3分)とした。
サンプル注入量:1μL、インジェクション温度:240℃、検出器温度:290℃、キャリヤーガス:窒素(流量30mL/min)、検出方法:FID法。
【0058】
[合成例1]
還流管を備えつけた4つ口反応フラスコにエタノール61.16gを投入し、攪拌下に蓚酸18.01gを少量づつ添加して、蓚酸のエタノール溶液を調製した。次いでこの溶液を加熱し、還流下にTEOS20.83gを滴下した。滴下後、5時間還流し、室温まで放冷してポリシロキサン(A)の溶液(P1)を調製した。このポリシロキサン(A)の溶液(P1)をGCで測定したところ、アルコキシシランモノマーは検出されなかった。
【0059】
[合成例2〜4]
表I−1に示す組成で、合成例1と同様方法でポリシロキサン(A)の溶液(P2〜P4)を得た。その際、合成例1におけるTEOSの代わりに、あらかじめ複数種の硅素化合物(以下、モノマーと称す。)を混合した、モノマー混合物を用いた。
得られたポリシロキサン(A)の溶液(P2〜P4)をそれぞれGCで測定したところ、アルコキシシランモノマーは検出されなかった。
【0060】
【表1】

【0061】
[合成例5]
還流管を備え付けた4つ口反応フラスコにエタノール50.11gを投入し、攪拌下にTEOS34.73gを加え、次いで、蓚酸0.15gを水15.01gに溶解した溶液を少量ずつ滴下した。その後、加熱して、1時間還流し、室温まで法令してポリシロキサン(A)の溶液(P5)を調製した。このポリシロキサン(A)の溶液(P5)をGCで測定したところ、アルコキシシランモノマーは検出されなかった。
【0062】
[合成例6]
還流管を備え付けた4つ口反応フラスコにエタノール50.31gを投入し、攪拌下にTEOS31.26gとMPS3.27gとを加え、次いで、蓚酸0.15gを水15.01gに溶解した溶液を少量ずつ滴下した。その後、加熱して、1時間還流し、室温まで法令してポリシロキサン(A)の溶液(P6)を調製した。このポリシロキサン(A)の溶液(P6)をGCで測定したところ、アルコキシシランモノマーは検出されなかった。
【0063】
[合成例7]
300mlナスフラスコにエタノール48.59gを投入し、攪拌下にTEOS34.68gを加え、次いで、60%硝酸水溶液1.74gを水14.99gに加えた希釈溶液を少しずつ滴下した。その後、室温で1時間撹拌してポリシロキサン(A)の溶液(P7)を調製した。このポリシロキサン(A)の溶液(P7)をGCで測定したところ、アルコキシシランモノマーは検出されなかった。
【0064】
[実施例1〜11、比較例1〜3]
表I−2に示す組成で、ポリシロキサン(A)の溶液、化合物(B)、BCS及びエタノールを混合して、塗布液(Q1〜Q11)を調製した。
また、比較例においては、表I−2に示す組成で、ポリシロキサン(A)の溶液、BCS及びエタノールを混合して、塗布液(T1〜T3)を調製した。
【0065】
【表2】

【0066】
調整した塗布液(Q1〜Q11及びT1〜T3)の保存安定性を下記の方法で評価した。その結果を表I−3に示す。
【0067】
[保存安定性]
塗布液を室温で1ヶ月間静置した後に、孔径0.45μm、Φ×L:18×22mmの非水系ポリテトラフルオロエチレンフィルター(倉敷紡績(株)製クロマトディスク13N)で100cc濾過し、濾過できるものを○、目詰まりが生じたものを×とした。
また、調整した塗布液(Q1〜Q11及びT1〜T3)を、シリカ被膜付ガラス基板上にバーコーター(No.9)を用いて塗布し、塗膜を形成した。室温で30秒間放置した後、クリーンオーブン中、100℃で5分間乾燥させ、表I−3に示す条件で硬化被膜を形成した。得られた硬化被膜について、下記方法により密着性及び耐擦傷性を評価した。これらの評価方法は下記の通りであり、評価結果は表I−3に示す。
【0068】
[密着性]
基材上の硬化被膜に1mm間隔で碁盤の目状に100点カットし、セロテープ(登録商標:ニチバン(株)製 24mm幅)を硬化被膜と強く貼り付けた後、セロテープを急激に剥がして硬化被膜の剥離の有無を目視により確認した。剥離がないものを○、剥離があるものを×とした。
【0069】
[耐擦傷性]
硬化被膜を、日本スチールウール(株)製スチールウール#0000を用いて、300g/cm2の荷重で10往復擦り、硬化膜表面の傷の付き方を目視で判定した。
判定基準は以下のとおり。
A:傷無し〜5本、B:傷6〜10本、C:傷11〜20本、D:傷21本以上
【0070】
【表3】

【0071】
実施例1〜11は、保存安定性、密着性に優れ、耐擦傷性がB以上の優れた特性をしました。
化合物(B)を含有しない比較例1〜3は、耐擦傷性がDであり、膜表面に多くの傷が観察された。
【0072】
[参考例1]
調整した塗布液Q1を、シリカ被膜付ガラス基板上にバーコーター(No.9)を用いて塗布し、塗膜を形成した。室温で30秒間放置した後、クリーンオーブン中、100℃で5分間乾燥させ、その後は、硬化のための熱処理を行わなかった。この被膜について、上記した実施例と同様の方法のより、密着性及び耐擦傷性を評価したところ、密着性は○、耐擦傷性はDであった。
【0073】
以下に、撥水性被膜形成用塗布液に関する例を示す。
[合成例21]
還流管を備えつけた4つ口反応フラスコにメタノール58.56gを投入し、攪拌下に蓚酸18.01gを少量づつ添加して、蓚酸のエタノール溶液を調製した。次いでこの溶液を加熱し、還流下にTEOS(18.75g)とFS−13(4.68g)の混合物を滴下した。滴下後、5時間還流し、室温まで放冷してポリシロキサン(A)の溶液(P21)を調製した。このポリシロキサン(A)の溶液(P21)をGCで測定したところ、アルコキシシランモノマーは検出されなかった。
【0074】
[合成例22〜27]
表II−1に示す組成で、合成例21と同様方法でポリシロキサン(A)の溶液(P2〜P7)を得た。その際、合成例21と同様に、あらかじめ複数種の硅素化合物(以下、モノマーと称す。)を混合して用いた。
得られたポリシロキサン(A)の溶液(P22〜P27)をそれぞれGCで測定したところ、アルコキシシランモノマーは検出されなかった。
【0075】
【表4】

【0076】
[実施例21〜31、比較例21〜27]
表II−2に示す組成で、ポリシロキサン(A)の溶液、化合物(B)、BCS及びメタノールを混合して、塗布液(Q21〜Q31)を調製した。
また、比較例においては、表II−2に示す組成で、ポリシロキサン(A)の溶液、BCS及びメタノールを混合して、塗布液(T21〜T27)を調製した。
【0077】
【表5】

【0078】
調整した塗布液(Q21〜Q31及びT21〜T27)の保存安定性を下記の方法で評価した。その結果を表II−3に示す。
【0079】
[保存安定性]
塗布液を室温で1ヶ月間静置した後に、孔径0.45μm、Φ×L:18×22mmの非水系ポリテトラフルオロエチレンフィルター(倉敷紡績(株)製クロマトディスク13N)で100cc濾過し、濾過できるものを○、目詰まりが生じたものを×とした。
【0080】
調整した塗布液(Q21〜Q31及びT21〜T27)を、下記に示す処理を施したトリアセチルセルロース(以下、TACと称す。)フィルム(フィルム厚80μm、波長550nmにおける反射率が4.5%)にバーコーター(No.3)を用いて塗布し、塗膜を形成した。室温で30秒間放置した後、クリーンオーブン中、100℃で5分間乾燥させ、次いで温度40℃で3日間硬化させた。得られた硬化被膜について、水接触角、油性ペン拭き取り性、指紋拭き取り性、密着性、反射率及び耐擦傷性を評価した。これらの評価方法は下記の通りであり、評価結果は表II−3及び表II−4に示す。
【0081】
[TACフィルム表面処理方法]
日本製紙株式会社製ハードコート付きTACフィルム(フィルム厚80μm)を40℃に加熱した5質量%水酸化カリウム(KOH)水溶液に3分浸漬してアルカリ処理を行った後、水洗し、次いで、0.5質量%の硫酸(H2SO4)水溶液に室温で30秒間浸漬して中和させ、水洗、乾燥した。
【0082】
[水接触角]
協和界面科学(株)製の自動接触角計CA−Z型を使用して、純水3マイクロリットルを滴下したときの接触角を測定した。
【0083】
[油性ペン拭き取り性]
硬化被膜表面に、ぺんてる(株)製油性ペンを用いて施されたインクを、旭化成(株)製ベンコットM−3を用いて拭き取り、その取り易さを目視で判定した。インクが完全に拭き取れたものを○、それ以外を×とした。
【0084】
[指紋拭き取り性]
硬化被膜表面に指紋を付着させ、旭化成(株)社製ベンコットM−3を用いて拭き取り、その取り易さを目視で判定した。指紋が完全に拭き取れたものを○、それ以外を×とした。
【0085】
[密着性]
基材上の硬化被膜に1mm間隔で碁盤の目状に100点カットし、セロテープ(登録商標、ニチバン(株)製 24mm幅)を硬化被膜と強く貼り付けた後、セロテープを急激に剥がして硬化被膜の剥離の有無を目視により確認した。剥離がないものを○、剥離があるものを×とした。
【0086】
[反射率の測定法]
(株)島津製作所製の分光光度計UV3100PCを使用して、波長550nmの光を入射角5度で硬化被膜に入射させて、反射率を測定した。
【0087】
[耐擦傷性]
硬化被膜を、日本スチールウール(株)製スチールウール#0000を用いて、200g/cm2の荷重で10往復擦り、硬化被膜表面の傷の付き方を目視で判定した。
判定基準は以下のとおり。
A:傷無し〜5本、B:傷6〜10本、C:傷11〜20本、D:傷21本以上
【0088】
また、調整した塗布液(Q21〜Q31及びT21〜T27)を、シリコンウエハー上にスピンコートして塗膜を形成した後、室温で30秒間放置してから、クリーンオーブン中、100℃で5分間乾燥させ、次いで温度40℃で3日間硬化させ、膜厚が100nmの硬化被膜を得た。得られた硬化被膜について、下記の方法で屈折率を評価した。評価結果は表II−4に示す。
【0089】
[屈折率の測定法]
溝尻光学(株)製のエリプソメターDVA−36Lを使用して、波長633nmの光における屈折率を測定した。
【0090】
【表6】

【0091】
【表7】

【0092】
表II−3及び表II−4に示されたように、実施例21〜31では、40℃の硬化温度で、耐擦傷性がAの優れた特性と、水接触角が90度以上の優れた特性が示された。
そして、塗布液(Q21〜Q31)の保存安定性も良好であり、室温で6ヶ月間保存後も安定であった。
更に、実施例21〜31では、1.4以下の低い屈折率と低い反射率という特性が示された。
一方、化合物(B)を有しない塗布液(T21〜T27)を用いた比較例21〜27は、40℃の硬化温度では、耐擦傷性がC又はDという不十分なものであった。
また、表II−3及び表II−4に示されたように、実施例21〜31は、指紋拭き取り性及び油性ペン拭き取り性という防汚特性に優れ、且つ基材との密着性が高いものであった。
【0093】
[参考例21]
調整した塗布液Q21を、上記に示す処理を施したTACフィルム(フィルム厚80μm、波長550nmにおける反射率が4.5%)にバーコーター(No.3)を用いて塗布し、塗膜を形成した。室温で30秒間放置した後、クリーンオーブン中、100℃で5分間乾燥させ、その後は、硬化のための熱処理を行わなかった。この被膜について、実施例21〜31と同様の方法で、水接触角、油性ペン拭き取り性、指紋拭き取り性、密着性、反射率及び耐擦傷性を評価した。その結果、水接触角は100°より大きく(>100°)、油性ペン拭き取り性は○、指紋拭き取り性は○、密着性は○、反射率は1.5%、耐擦傷性はDであった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の被膜形成用塗布液は、保存安定性に優れ、温度40°C〜70°Cという低温の熱処理で充分に硬化し且つ耐擦傷性に優れる被膜を提供できる。そのため、プラスチック、ガラス、セラミックス等の保護被膜等に好適に用いることができる。
また、本発明の撥水性被膜形成用塗布液は、保存安定性に優れ、温度40°C〜70°Cという低温の熱処理で充分に硬化し且つ低屈折率で耐擦傷性に優れる撥水性被膜を提供できる。そのため、特に、反射防止基材に好適に用いることができ、とりわけ、表示素子用の反射防止フィルムに好適に用いることができる。
さらに、前記のような被膜を形成する方法は、本発明の被膜形成用塗布液の優れた保存安定性と共に、工業的に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される硅素化合物を必須成分として縮重合して得られるポリシロキサン(A)と、式(2)で表される化合物(B)と、を含有することを特徴とする被膜形成用塗布液。
【化1】

(Rは炭素数1〜5の炭化水素基を表す。)
【化2】

(R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜12の有機基を表す。)
【請求項2】
ポリシロキサン(A)が、式(1)で表される硅素化合物のうちの少なくとも1種と、式(3)で表される硅素化合物のうちの少なくとも1種とを縮重合して得られるポリシロキサンである請求項1に記載の被膜形成用塗布液。
【化3】

(Rは水素原子又は炭素数1〜20の有機基であり、Rはそれぞれ炭素数1〜5の炭化水素基であり、nは1〜3の整数を表す。)
【請求項3】
ポリシロキサン(A)が、式(1)の硅素化合物の1モルに対し式(3)の硅素化合物を0.02〜0.80モルの割合で縮重合して得られるポリシロキサンである請求項2に記載の被膜形成用塗布液。
【請求項4】
ポリシロキサン(A)が、式(1)で表される硅素化合物のうちの少なくとも1種と、式(4)で表される硅素化合物のうちの少なくとも1種とを縮重合して得られるポリシロキサンである請求項1に記載の被膜形成用塗布液。
【化4】

(R2´はフッ素を有する炭素数1〜15の有機基を表し、R3´は炭素数1〜5の炭化水素基を表す。)
【請求項5】
ポリシロキサン(A)が、式(1)で表される硅素化合物のうちの少なくとも1種と、式(4)で表される硅素化合物のうちの少なくとも1種と、式(5)で表される硅素化合物のうちの少なくとも1種とを縮重合して得られるポリシロキサンである請求項4に記載の被膜形成用塗布液。
【化5】

(Rは水素原子又はフッ素を有しない炭素数1〜20の有機基であり、Rはそれぞれ炭素数1〜5の炭化水素基であり、nは1〜3の整数を表す。)
【請求項6】
ポリシロキサン(A)の硅素原子の1モルに対し化合物(B)を0.06〜0.20モル含有する請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の被膜形成用塗布液。
【請求項7】
ポリシロキサン(A)が、式(1)で表される硅素化合物を必須成分として加水分解縮重合して得られるポリシロキサンである請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の被膜形成用塗布液。
【請求項8】
ポリシロキサン(A)が、式(1)で表される硅素化合物を必須成分とする硅素化合物、溶媒及び蓚酸の混合物を加熱して得られるポリシロキサンである請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の被膜形成用塗布液。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の被膜形成用塗布液を用いて得られる被膜。
【請求項10】
請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の被膜形成用塗布液を基材に塗布し、温度40°〜70°Cで硬化して得られる硬化被膜。
【請求項11】
請求項4又は請求項5に記載の被膜形成用塗布液を基材に塗布し、温度40°〜70°Cで硬化して得られる撥水性被膜。
【請求項12】
請求項11に記載の撥水性被膜を有する反射防止基材。
【請求項13】
請求項11に記載の撥水性被膜を有する反射防止フィルム。
【請求項14】
請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の被膜形成用塗布液を基材に塗布し、温度40°〜70°Cで硬化することを特徴とする被膜形成方法。

【公開番号】特開2007−23261(P2007−23261A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140562(P2006−140562)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】