説明

被膜形成用組成物、反射防止被膜付き基板、および反射防止被膜付き太陽電池モジュール

【課題】屈折率が低く、基板に対しムラなく被膜形成が可能で、表面親水化による防汚性および、高い膜強度を有する被膜を形成することのできる反射防止被膜形成用組成物を提供する。
【解決手段】チタン酸化物、ケイ素酸化物および有機ケイ素系界面活性剤を含む被膜形成用組成物であって、Siのモル濃度/Tiのモル濃度が20〜5で、該被膜形成用組成物の表面張力が20mN/m〜35mN/mで、該被膜形成用組成物の25度における平均拡散定数が6.5×10−8cm/s〜8.0×10−8cm/sで、該被膜形成用組成物の電気泳動移動度−5.0×10−4cm/V・s〜−4.0×10−4cm/V・sとすることにより解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光電変換素子、CRT、LCD、PDP等の各種ディスプレイ、タッチパネル、カメラレンズ、光リソグラフィー等に用いられる反射防止膜を形成するための被膜形成用組成物およびそれを用いた反射防止被膜つき基板および反射防止被膜付き太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止膜は、表面反射を抑制する手段として種々の光デバイスに応用されている。特に、太陽電池の分野では出力向上のため太陽電池の光入射面に反射防止加工を施すことはこれまで種々の試みがある。その中でも、ゾルゲル法は、製造コストが低廉であり、生産適合性に優れた反射防止膜の形成方法である。例えば特許文献1にはゾルゲル法により基板上にチタニア・シリカ膜を形成し、反射防止機能を発現させることが開示されている。その出発原料としてアモルファス型過酸化チタンおよびシリコンアルコキシドを出発原料として、金属含有アナターゼ形酸化チタン、ケイ素化合物、および熱分解性化合物を含む被膜形成用組成物を作製し、その被膜形成用組成物を用いて低反射性基板を作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−212435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにこれまでからアモルファス型過酸化チタンおよびシリコンアルコキシドを出発原料として、チタニア・シリカを主成分とする被膜形成用組成物は知られていた。しかし、長期の期間にわたり屋外に暴露されるような太陽電池(光電変換素子)の反射防止膜などに適用するには、屈折率の低い膜であることおよび被膜の基体への長期密着性が求められる。実際、発明者らがこれらの公知の膜物性を評価したところ、従前知られている被膜形成用組成物により作製された被膜はこれらの要求を満たすには十分でなかった。まず第一に、反射防止性能に優れた膜であっても基板に被膜を形成する際、ムラの発生がしばしば見受けられる。次に、上記文献等に記載の被膜形成用組成物成分のひとつである過酸化チタン(ペルオキソチタン酸)は不安定な物質であるため、作製条件や作製後の保存条件、例えば温度などにより得られる被膜の物性が大きく異なる。
【0005】
本発明は係る事情を鑑み、被膜の耐久性にすぐれ、ムラの無い被膜形成が容易であり、反射防止性能の高い低屈折率膜を形成することのできる被膜形成用組成物を提供することを目的とする。さらには、本発明にかかる被膜形成用組成物は、表面を親水化することにより汚れ防止効果をも提供する。
【0006】
また、本発明の別の態様として、耐久性がすぐれ、ムラがなく、また反射防止性能の高い低屈折率膜が形成された基板を提供する。さらには耐久性がすぐれ、ムラがなく、また反射防止性能の高い低屈折率膜が光入射面に形成されることにより、光電変換性能が向上した太陽電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者はチタニア元として酸化チタン、シリカ元としてアルキルシリケート部分加水分解物、および有機ケイ素系界面活性剤を用いた被膜形成用組成物の組成および液物性の経時変化を鋭意検討し、本発明に至った。
【0008】
本発明の第1は、チタン酸化物と、ケイ素酸化物と、有機ケイ素系界面活性剤とを含む被膜形成用組成物であって、Siのモル濃度/Tiのモル濃度が5〜20であり、滴下法による空気に対する表面張力が20mN/m〜35mN/mであり、散乱角90度及び温度25度において動的散乱装置によって測定され得られた自己相関関数をキュムラント法により解析して計算される拡散定数を算術平均して求められる平均拡散定数が6.5×10−8cm/s〜8.0×10−8cm/sであり、動的散乱装置を使用した電気泳動レーザードップラー法により温度25度で測定される電気泳動移動度が−5.0×10−4cm/V・s〜−4.0×10−4cm/V・sである、被膜形成用組成物、である。
【0009】
本発明の第2は、前記チタン酸化物がアモルファス型である、前記の被膜形成用組成物、である。
【0010】
前記チタン酸化物がアモルファス型であることによって、結晶質型(アナターゼ形、ルチル形)と比較し、より密着性の高い膜が形成されるという利点が有り、好ましい。
【0011】
本発明の第3は、前記チタン酸化物が過酸化チタンである、前記の被膜形成用組成物、である。
【0012】
前記チタン酸化物が過酸化チタンであることによって、被膜形成時に過酸化チタンのペルオキソ基が基板表面と化学結合を形成し、より密着性の高い被膜が得られる。
【0013】
本発明の第4は、さらに、銅、ジルコニウム、スズ、亜鉛、アンチモン及び銀からなる群から選択される1以上の元素がドープされてなる、前記の被膜形成用組成物、である。これらの元素の添加により、防汚、防菌、帯電防止の機能が発現されるという効果・利点が有り、好ましい。
【0014】
本発明の第5は、前記の被膜形成用組成物を基板に塗布し加熱することにより得られる、反射防止被膜付き基板、である。加熱することによって、より強固な膜が形成できるという効果・利点が有り、好ましい。
【0015】
本発明の第6は、前記の被膜形成用組成物を太陽電池モジュールに塗布し加熱することにより得られる、反射防止被膜付き太陽電池モジュール、である。
【0016】
本発明の第7は、チタン酸化物と、ケイ素酸化物と、有機ケイ素系界面活性剤とを含む被膜形成用組成物を基板に塗布する工程を含む反射防止膜付き基板の製造方法であって、Siのモル濃度/Tiのモル濃度が5〜20であり、滴下法による空気に対する表面張力が20mN/m〜35mN/mであり、散乱角90度及び温度25度において動的散乱装置によって測定され得られた自己相関関数をキュムラント法により解析して計算される拡散定数を算術平均して求められる平均拡散定数が6.5×10−8cm/s〜8.0×10−8cm/sであり、電気泳動移動度が−5.0×10−4cm/V・s〜−4.0×10−4cm/V・sである被膜形成用組成物であることを確認する工程と、当該被膜形成用組成物を基板に塗布する工程と、加熱する工程とを備える、反射防止膜付き基板の製造方法、である。
【0017】
本発明の第8は、前記基板が、ガラス基板であるか、または、ガラス基板上に太陽電池素子が積層されてなる太陽電池モジュールである、前記の反射防止膜付き基板の製造方法、である。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる被膜形成用組成物を用いることにより、太陽電池セル等の光入射面にムラ無く、反射防止機能、膜強度とも高い性能を有する反射防止膜を形成することができる。さらに、表面が親水化することにより、降雨等により表面の汚れが効率的に流れ落とされる。これらの効果が相俟って、例えば、太陽電池セルの光入射面に対して本発明に係る被膜形成用組成物により反射防止膜を形成すると、長期間にわたり高い光透過率を維持し、太陽電池セルは高い発電効率を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の被膜形成用組成物は少なくともチタン酸化物、ケイ素酸化物および有機ケイ素系界面活性剤を含む。
【0020】
チタン酸化物は二酸化チタン、過酸化チタン、水酸化チタン、メタチタン酸、オルトチタン酸といわれるものも含む。この中でも過酸化チタンが特に好ましい。被膜形成時に過酸化チタンのペルオキソ基が基板表面と化学結合を形成し、より強靭な膜強度が得られるからである。
【0021】
市販の過酸化チタン水溶液としては、サステイナブル・テクノロジー株式会社製の(1)アモルファス型過酸化チタン水溶液(SP)、(2)光酸化型正電荷酸化金属ドープアモルファス型過酸化チタン水溶液(SPZ高機能タイプ)、(3)アモルファス型改質過酸化チタン+糖質複合化水溶液(DaSH)が挙げられ、また株式会社アサカ理研製の(4)凛光が挙げられ、鶴見曹達株式会社製の(5)ツルクリーン(登録商標)グレードA−TS−1、(6)ツルクリーン(登録商標)グレードA−TS−2が挙げられ、株式会社鯤コーポレーション製の(7)PTA水溶液、が挙げられる。
過酸化チタンの製造方法としては以下の方法がある。
【0022】
(製造方法1)
溶解性無機チタン化合水溶液に、塩基性水溶液を加える。生じる淡青味白色、無定形のオルトチタンを洗浄・分離後、酸化剤で処理すると、本発明のアモルファス型過酸化チタン液が得られる。
【0023】
溶解性無機チタン化合としてはチタンキレート、アセテートチタン;硫酸チタン、
四塩化チタン等が挙げられる。また塩基性水溶液として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、テトラアルキルアンモニウム水酸化物等が挙げられる。溶解性無機チタン化合水溶液に、塩基性水溶液を加える反応は中和反応であり、大きな発熱を伴う。高温で反応が進んだ場合、オルトチタン酸からメタチタン酸への反応が進むためである。
【0024】
酸化剤としては、二酸化チタンを過酸化チタンに酸化することが可能なものであれば良いが、特に過酸化水素水が好ましい。酸化剤として過酸化水素水を使用する場合は、過酸化水素の濃度は、30〜40%のものが反応促進のため好適である。ペルオキソ化前には水酸化チタンを冷却することが好ましい。なぜなら、ペルオキソ化反応は発熱反応であり、反応をマイルドに進行させる必要があるためである。その際の冷却温度は1〜5℃が好ましい。
【0025】
(製造方法2)
チタンアルコキシド、アルコール、水および触媒を適量混合し加水分解及び縮重合反応を行う。さらに、酸化剤を加えることによりアモルファス型過酸化チタン液が得られる。
【0026】
チタンアルコキシドとしてはテトラエトキシチタン、テトラメトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン等が上げられる。アルコールとしてはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等が上げられる。酸化剤としては、二酸化チタンを過酸化チタンに酸化することが可能なものであれば良いが、特に過酸化水素水が好ましい。酸化剤として過酸化水素水を使用する場合は、過酸化水素の濃度は、30〜40%のものが反応促進のため好適である。ペルオキソ化前には水酸化チタンを冷却することが好ましい。なぜなら、ペルオキソ化反応は発熱反応であり、反応をマイルドに進行させる必要があるためである。その際の冷却温度は1〜5℃が好ましい。
【0027】
酸化チタンの形状としては粒子状または粉末状、あるいはゾル状の形態で市販されているチタン酸化物を用いることができる。チタン酸化物の結晶系としてはアナターゼ形、ルチル型、アモルファス型(無定形型)があり、いずれも用いることができる。この中でもアモルファス型が好ましい。アナターゼ形、ルチル形と比較し、より密着性の高い膜が形成されるからである。
【0028】
Tiのモル濃度は所望の反射防止特性および耐久性に応じて適時変更することができる。0.0001〜0.01mol/Lが好ましく、0.002〜0.008mol/Lがさらに好ましい。Ti量が少ない場合、表面親水化効果を奏さないためである。Ti量が多い場合、膜の屈折率が高くなり、反射防止膜としての機能を奏さないためである。
【0029】
ケイ素酸化物は、一般式SiR(OR‘)4−n(R’およびRは炭素数が1〜5のアルキル基、nは0〜3の自然数)であらわされるシリコンアルコキシドの加水分解物および/または部分加水分解物である。さらには酸触媒または塩基触媒等を用いて、縮合重合反応を進めた液を用いることも可能である。また、さらにシリカ微粒子を部分的に添加してもよい。シリカ微粒子の添加により膜強度が増加するためである。
【0030】
Siのモル濃度は所望の反射防止特性および耐久性に応じて適時変更することができる。0.001〜0.1mol/Lが好ましく、0.02〜0.05mol/Lがさらに好ましい。Si量が少ない場合、相対的にTiの量が多くなることにより、膜の屈折率が高くなり、反射防止膜としての機能を奏さないためである。また、Si量が多い場合、相対的にTiの量が少なくなることにより、表面親水化効果を奏さないためである。また、溶液が高濃度になり被膜形成時のハンドリングが困難になり、ムラのない膜を形成するのが困難なためでもある。
【0031】
Siのモル濃度/Tiのモル濃度の値は1〜30が好ましく、さらには5〜20が好ましい。Siのモル濃度/Tiのモル濃度の値が大きすぎると酸化チタンによる表面親水化効果が十分でなく、小さすぎると、膜の屈折率が高くなり、反射防止膜としての機能を奏さないためである。
【0032】
有機ケイ素系界面活性剤としては、市販されている各種シリコーン系界面活性剤を適時用いることができる。具体的には、TSF4445、TSF4446(GE東芝シリコーン(株))、KPシリーズ(信越化学工業(株))、並びに、SH200、SH3746、DC3PA、ST869A(東レ・ダウコーニング(株))等を用いることができる。シリコーンとしては、分子中にアルキルシリケート構造若しくはポリエーテル構造を有するもの、又は、アルキルシリケート構造及びポリエーテル構造の両方を有するものが好ましい。ここで、アルキルシリケート構造とは、シロキサン骨格のケイ素原子にアルキル基が結合した構造をさす。一方、ポリエーテル構造とは、エーテル結合を有する構造をさし、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリテトラメチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド―ポリプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリエチレンポリテトラメチレングリコール共重合体、ポリテトラメチレングリコール―ポリプロピレンオキサイド共重合体等の分子構造が挙げられる。そのなかでも、ポリエチレンオキサイド―ポリプロピレンオキサイドブロック共重合体は、表面張力を制御できる観点から好適である。有機ケイ素化合物としては、分子中にアルキルシリケート構造及びポリエーテル構造の双方を有するシリコーンが特に好ましい。具体的には、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等のポリエーテル変性シリコーンが好適である。
【0033】
本発明の被膜形成用組成物は固形分濃度が1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が最適である。濃度が高すぎると、液の安定性が悪いためである。
【0034】
本発明の被膜形成用組成物はさらに銅、ジルコニウム、スズ、亜鉛、アンチモン、銀から選択される1または二以上の元素がドープされていることがさらに好ましい。これらの金属の添加により、防汚、防菌、帯電防止の機能が発現されるからである。
【0035】
これらの金属をドープする方法としては、上記のチタン酸化物およびケイ素酸化物の合成の際に金属酸化物または金属塩を添加することにより達成される。市販されている金属ドープのチタン酸化物としては光酸化型正電荷酸化金属ドープアモルファス型過酸化チタン水溶液(SPZ高機能タイプ、サステイナブル・テクノロジー株式会社)が挙げられる。
【0036】
金属酸化物または金属塩としては以下のものがあげられる。銅:水酸化銅、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銅、酸化銅。ジルコニウム:水酸化ジルコニウム、二塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム。スズ:水酸化スズ、塩化スズ、硫酸スズ、硝酸スズ、酢酸スズ、酸化スズ。亜鉛:水酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、酸化亜鉛。アンチモン:水酸化アンチモン、塩化アンチモン、硫酸アンチモン、硝酸アンチモン、酢酸アンチモン、酸化アンチモン。銀:水酸化銀、塩化銀、硫酸銀、硝酸銀、酢酸銀、酸化銀。
【0037】
金属のドープは被膜形成液の製造工程において適時行うことができるが、チタン酸化物の合成の際に行うことが好ましい。副生成物の除去が水洗浄により容易に行えるからである。
【0038】
金属をドープした具体的な製造方法の例としては以下のものがあげられる。
四塩化チタン化合水溶液に塩化銅、塩化ジルコニウム、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化アンチモン、塩化銀のうち1または2以上を添加する。この液に、塩基性水溶液、例えばアンモニア水溶液を加える。生じる淡青味白色、無定形の水酸化チタンを洗浄・分離後、過酸化水素水で処理すると、本発明の金属ドープのアモルファス型過酸化チタン液が得られる。塩基性水溶液でアンモニアを用いた場合、副生成物は塩化アンモニウムであり水溶性である。そのため、水酸化チタンを洗浄する工程において塩化アンモニウムが溶解するので不純物の少ない金属ドープのアモルファス型過酸化チタンが得られる。
【0039】
本発明にかかる被膜形成用組成物の溶媒としては、溶質成分を分散させる能力があれば特段の制限はないが、アルコール、水またはこれらの混合物を用いることが安全上望ましい。アルコールとしてはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、イソブタノール等があげられる。
【0040】
本発明にかかる被膜形成用組成物の表面張力は20mN/m〜35mN/m、さらに好ましくは30mN/m〜35mN/mである。表面張力がこれらの範囲より大きい場合、基板に対する濡れ性が悪化し、被膜形成時にムラとなるためである。とりわけ、本発明にかかる被膜形成用組成物はガラス基板に対して良好な濡れ性を示し、ムラの少ない被膜が形成される。その理由は不明であるが、ガラス成分の二酸化珪素と本発明にかかる被膜形成用組成物のチタニア・シリカ成分との特異的な分子間相互作用が濡れ性向上に寄与するためと考えられる。
【0041】
本発明にかかる被膜形成用組成物の表面張力の数値範囲は以下のような検討により決定された。
一般に基板にムラなく被膜を形成するためには被膜形成液の基板に対する濡れ性が高いことが求められ、その濡れ性は被膜形成液の表面張力が低いほど高い。一方発明者らは、有機ケイ素系界面活性剤は表面張力を下げる効果を有するが、有機ケイ素系界面活性剤濃度が高い場合、膜強度が著しく低下することを見出した。さらに、表面張力が有機ケイ素系界面活性剤の濃度および、その有機ケイ素系界面活性剤の失活度合いに強く依存することを見出した。すなわち、(1)有機ケイ素系界面活性剤の濃度が高いほど表面張力は減少し、ある濃度以上で飽和する、(2)表面張力は有機ケイ素系界面活性剤混合後、数日から1ヶ月かけて表面張力が上昇し、その後飽和する(3)有機ケイ素系界面活性剤の濃度が低いほど表面張力の上昇速度は遅くなる。発明者らは、基板に対する濡れ性および、膜強度の兼ね合いを鋭意検討し、上記の数値範囲に至った。
【0042】
また、被膜形成用組成物の表面張力は有機ケイ素系界面活性剤の量と、調合後の時間に依存する。すなわち、被膜形成液中の有機ケイ素系界面活性剤の量をX%、被膜形成液調合後の期間をY日とすると、Y≧2、X≧0.5、Y≧―3X+15、Y≦―X+18の4つの不等式で示される範囲において、表面張力は20mN/m〜35mN/mであり、かつ、25度における平均拡散定数が6.5×10−8cm/s〜8.0×10−8cm/sであり、かつ、電気泳動移動度が−5.0×10−4cm/V・s〜−4.0×10−4cm/V・sの範囲に含まれる。すなわち、前記の不等式で示されるような範囲に制御することによって、表面張力は20mN/m〜35mN/mであり、かつ、25度における平均拡散定数が6.5×10−8cm/s〜8.0×10−8cm/sであり、かつ、電気泳動移動度が−5.0×10−4cm/V・s〜−4.0×10−4cm/V・sの被膜形成用組成物を作ることができる。
【0043】
なお、本発明に係る表面張力は接触角計(PCA−1(協和界面科学製))を用いて10回測定し、その算術平均値を用いた。その際の温度は25度±1度である。
【0044】
本発明にかかる被膜形成用組成物の25度における平均拡散定数は6.5×10−8cm/s〜8.0×10−8cm/sである。拡散定数がこの範囲より大きい場合、構成するシリカ成分の重合が十分進んでおらず、被膜を形成した場合、屈折率の高い膜ができるためである。また、拡散定数がこの範囲より小さい場合、シリカ成分の重合が極めて進んでおり、強度の弱い膜ができるためである。また、被膜形成用組成物の粘度が高く、膜形成プロセスに制限が加わるためである。
【0045】
なお、本発明に係る拡散定数の測定には動的光散乱装置(SZ−100(堀場製作所製))を用いた。測定は25度にして実施した。測定は1cm石英セルを用いて行い、散乱角は90度で実施した。測定により得られた自己相関関数をキュムラント法により解析し、拡散定数を算出した。測定は3回連続して繰り返し、その算術平均を平均拡散定数とした。
【0046】
本発明にかかる被膜形成用組成物の電気泳動移動度は−5.0×10−4cm/V・s〜−4.0×10−4cm/V・sである。電気泳動移動度がこの範囲より大きい場合、チタン酸化物、ケイ素酸化物の微粒子の帯電状態が不十分であり、分散安定性が悪いためである。また、これらの値より小さい場合は、有機ケイ素系界面活性剤が失活しており、基板に対する濡れ性が悪化するためである。
【0047】
本発明の第二の実施形態、すなわち、反射防止被膜付き基板に用いられる基板については被膜形成用組成物を用いて被膜を形成することのできる基板であれば特に制限がない。とりわけ、太陽電池に代表される光電変換素子に用いられる基板は透光性が求められ、例えば、ガラス、透明高分子フィルム等が用いられる。基板に被膜形成用組成物を塗布する方法としては、スプレー法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スキージ塗布法等が挙げられる。
【0048】
基板を加熱する温度の下限としては40度以上が好ましく、60度以上がさらに好ましく、80度以上がもっとも好ましい。高温であるほどより強固な膜が形成できるからである。また、基板を加熱する温度の上限としては、250度以下が好ましく、200度以下がさらに好ましく、180度以下がもっとも好ましい。高温にすると、基板自身が熱変化を受けてしまい、変色する等の弊害が生ずるからである。加熱時間としては、5分以上が好ましく、10分以上がさらに好ましく、15分以上がもっとも好ましい。加熱時間が長いほどより強靭な膜が形成できるからである。
【0049】
本発明の第三の実施形態、すなわち、反射防止被膜付き太陽電池モジュールに用いられる太陽電池モジュールについては被膜形成用組成物を用いて被膜を形成することのできる太陽電池モジュールであれば特に制限がないが、ガラス、透明高分子フィルム等に光電変換素子が形成された太陽電池モジュールが最適に用いられる。太陽電池モジュールに被膜形成用組成物を塗布する方法としては、スプレー法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スキージ塗布法等が挙げられる。太陽電池モジュールを加熱する温度の下限としては40度以上が好ましく、60度以上がさらに好ましく、80度以上がもっとも好ましい。高温であるほどより強固な膜が形成できるからである。また、基板を加熱する温度の上限としては、250度以下が好ましく、200度以下がさらに好ましく、180度以下がもっとも好ましい。高温にすると、基板自身が熱変化を受けてしまい、変色する等の弊害が生ずるからである。また、高温にすると、太陽電池のセル部分が熱損傷を受けるためである。加熱時間としては、5分以上が好ましく、10分以上がさらに好ましく、15分以上がもっとも好ましい。加熱時間が長いほど、より強靭な膜が形成できるからである。
【実施例】
【0050】
(評価液1)
シリカゾル液(テトラエチルシリケートの部分縮合体、Sin-1(OC252(n+1)、n=4〜6;(多摩化学工業(株)))の部分加水分解物、銅ドープチタニア水分散液:Z18−1000SuperA(サスティナブル・テクノロジー(株))を混合し、さらに純水で希釈し、溶液のSi、Tiのモル濃度をそれぞれ、0.025mol/L, 0.0025molとした。この混合物に、有機ケイ素系界面活性剤:Z−B(サスティナブル・テクノロジー(株))を10wt%添加し、評価液1とした。評価液1の固形分濃度を赤外線水分計を用いて測定したところ、0.45wt%であった。
【0051】
(評価液2)
有機ケイ素系界面活性剤:Z−B(サスティナブル・テクノロジー(株))の添加量を3wt%とした以外は評価液1と同様の方法で被膜形成液(評価液2とする)を作成した。
【0052】
(評価液3)
有機ケイ素系界面活性剤:Z−B(サスティナブル・テクノロジー(株))の添加量を20wt%とした以外は評価液1と同様の方法で被膜形成液(評価液3とする)を作成した。
【0053】
(実施例1)
評価液1を作製後25度で48時間保持し、動的光散乱装置(SZ−100(堀場製作所製))を用いて、キュムラント法により評価液中粒子の拡散定数を測定したところ7.1×10−8cm/sであった。また、同装置を用いて電気泳動レーザードップラー法により電気泳動移動度を測定したところ−4.2×10−4cm/V・sであった。次に接触角計(PCA−1(協和界面科学製))を用いて、液の表面張力を測定したところ、32mN/mであった。
また、評価液1を作製後25度で48時間保持した液を表面洗浄した白板ガラス(10cm×10cm)に対して、48g/m2の塗布量となるようにスプレー法にて塗布した。塗布後、90度15分オーブン乾燥を行った。白板ガラスには被膜が形成されていた。
【0054】
塗布された白板ガラスは全面ムラ無く被膜形成されていた。また、分光エリプソメトリーを用いて、被膜の膜厚および波長600nmでの屈折率を測定したところ、それぞれ、110nm、1.43であった。また、400nm〜700nmにおける基板の平均透過率を測定したところ、被膜形成前と比較し3%透過率が高かった。
ここで平均透過率は、分光光度計(島津製作所製 UV−3100)を用いて、測定を行った。また、外観上ムラは観察されなかった。
【0055】
(比較例1)
評価液1を作製後1時間以内の液を用いて、実施例1と同様の方法で液の分析評価(拡散定数、電気泳動移動度、表面張力)を行った。拡散定数、電気泳動移動度、表面張力はそれぞれ7.5×10−8cm/s、−3.8×10−4cm/V・s、31mN/mであった。
【0056】
また、評価液1を作製後1時間以内の液を用いて、実施例1と同一の方法にて被膜を作製した。膜厚、屈折率はそれぞれ100nm、1.49であった。また、400nm〜700nmにおける基板の平均透過率を測定したところ、被膜形成前と比較したところ1%しか透過率が上昇しなかった。実施例1と比較し、より屈折率の高い被膜のため反射防止効果が充分発現されず、透過率の上昇量が少なかったと考えられる。
【0057】
(比較例2)
評価液1を作製後25度で14日間保持した液を用いて、実施例1と同様の方法で液の分析評価(拡散定数、電気泳動移動度、表面張力)を行った。拡散定数、電気泳動移動度、表面張力はそれぞれ5.5×10−8cm/s、−4.3×10−4cm/V・s、39mN/mであった。
【0058】
また、評価液1を作製後25度で14日間保持した液を用いて、実施例1と同一の方法にて被膜を作製した。スプレーにて塗布する際、白板ガラスに対する濡れ性が悪く、ムラが観察された。さらにオーブン乾燥の被膜を観察すると端部に均一な膜が形成されていなかった。
【0059】
十分被膜形成されている部分を分光エリプソメトリーでの測定を行った。膜厚、屈折率はそれぞれ110nm、1.39であった。また、400nm〜700nmにおける基板の平均透過率を測定したところ、被膜形成前と比較し2.8%透過率が高かった。
【0060】
(実施例2)
評価液2を作製後25度で7日保持した液を用いて、実施例1と同様の方法で液の分析評価(拡散定数、電気泳動移動度、表面張力)を行った。拡散定数、電気泳動移動度、表面張力はそれぞれ6.9×10−8cm/s、−4.8×10−4cm/V・s、32mN/mであった。
【0061】
また、評価液2を作製後25度で7日保持した液を用いて、実施例1と同一の方法にて被膜を作製した。膜厚、屈折率はそれぞれ110nm、1.42であった。また、400nm〜700nmにおける基板の平均透過率を測定したところ、被膜形成前と比較し3%透過率が高かった。また、外観上ムラは観察されなかった。
【0062】
(比較例3)
評価液2を作製後25度で30日保持した液を用いて、実施例1と同様の方法で液の分析評価(拡散定数、電気泳動移動度、表面張力)を行った。拡散定数、電気泳動移動度、表面張力はそれぞれ5.0×10−8cm/s、−4.9×10−4cm/V・s、40mN/mであった。スプレーにて塗布する際、白板ガラスに対する濡れ性が悪く、ムラが観察された。さらにオーブン乾燥の被膜を観察すると端部に均一な膜が形成されていなかった。また、評価液2を作製後25度で30日保持した液を用いて、実施例1と同一の方法にて被膜を作製した。膜厚、屈折率はそれぞれ110nm、1.40であった。また、400nm〜700nmにおける基板の平均透過率を測定したところ、被膜形成前と比較し3%透過率が高かった。
【0063】
(比較例4)
評価液3を作製後1時間以内の液を用いて、実施例1と同様の方法で液の分析評価(拡散定数、電気泳動移動度、表面張力)を行った。拡散定数、表面張力はそれぞれ3.0×10−8cm/s、31mN/mであった。また、評価液1を作製後1時間以内の液を用いて、実施例1と同一の方法にて被膜を作製した。膜厚、屈折率はそれぞれ100nm、1.45であった。スポンジにて、こすったところ直ちに膜が剥がれ、膜強度は弱かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸化物と、ケイ素酸化物と、有機ケイ素系界面活性剤とを含む被膜形成用組成物であって、Siのモル濃度/Tiのモル濃度が5〜20であり、滴下法による空気に対する表面張力が20mN/m〜35mN/mであり、散乱角90度及び温度25度において動的散乱装置によって測定され得られた自己相関関数をキュムラント法により解析して計算される拡散定数を算術平均して求められる平均拡散定数が6.5×10−8cm/s〜8.0×10−8cm/sであり、動的散乱装置を使用した電気泳動レーザードップラー法により温度25度で測定される電気泳動移動度が−5.0×10−4cm/V・s〜−4.0×10−4cm/V・sである、被膜形成用組成物。
【請求項2】
前記チタン酸化物がアモルファス型である、請求項1に記載の被膜形成用組成物。
【請求項3】
前記チタン酸化物が過酸化チタンである、請求項1または2に記載の被膜形成用組成物。
【請求項4】
さらに、銅、ジルコニウム、スズ、亜鉛、アンチモン及び銀からなる群から選択される1以上の元素がドープされてなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物を基板に塗布し加熱することにより得られる、反射防止被膜付き基板。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物を太陽電池モジュールに塗布し加熱することにより得られる、反射防止被膜付き太陽電池モジュール。
【請求項7】
チタン酸化物と、ケイ素酸化物と、有機ケイ素系界面活性剤とを含む被膜形成用組成物を基板に塗布する工程を含む反射防止膜付き基板の製造方法であって、Siのモル濃度/Tiのモル濃度が5〜20であり、滴下法による空気に対する表面張力が20mN/m〜35mN/mであり、散乱角90度及び温度25度において動的散乱装置によって測定され得られた自己相関関数をキュムラント法により解析して計算される拡散定数を算術平均して求められる平均拡散定数が6.5×10−8cm/s〜8.0×10−8cm/sであり、動的散乱装置を使用した電気泳動レーザードップラー法により温度25度で測定される電気泳動移動度が−5.0×10−4cm/V・s〜−4.0×10−4cm/V・sである被膜形成用組成物であることを確認する工程と、当該被膜形成用組成物を基板に塗布する工程と、加熱する工程とを備える、反射防止膜付き基板の製造方法。
【請求項8】
前記基板が、ガラス基板であるか、または、ガラス基板上に太陽電池素子が積層されてなる太陽電池モジュールである、請求項7に記載の反射防止膜付き基板の製造方法。

【公開番号】特開2012−242666(P2012−242666A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113687(P2011−113687)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】