説明

被膜特性と磁気特性に優れた方向性けい素鋼板の製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、変圧器その他の電気機器の鉄心等の用途に用いて好適な方向性けい素鋼板の製造方法に関し、特に優れた被膜特性と磁気特性の両者を併せて得ようとするものである。
【0002】
【従来の技術】方向性けい素鋼板は、主として変圧器または回転機器等の鉄心材料として使用され、磁気特性として磁束密度が高く、鉄損および磁気歪が小さいことが要求される。特に最近では、省エネルギー、省資源の観点から磁気特性に優れた方向性けい素鋼板に対する要求がますます高まっている。
【0003】磁気特性に優れた方向性けい素鋼板を得るには、(110)[001]方位、いわゆるゴス方位に高度に集積した2次再結晶組織を得ることが肝要である。かかる方向性けい素鋼板は、二次再結晶に必要なインヒビター、例えばMnS,MnSe, AlN, BN等を含む方向性けい素鋼スラブを、加熱後、熱間圧延を行ったのち、必要に応じて熱延板焼鈍を施し、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によって最終板厚とし、ついで脱炭焼鈍を行ったのち、鋼板にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を行うことによって製造される。そして、このような方向性けい素鋼板の表面には、特殊な場合を除いて、フォルステライト(Mg2SiO4) を主体とする絶縁被膜(以下、単にフォルステライト被膜という)が形成されているのが一般的である。この被膜は、表面の電気的絶縁だけでなく、その低熱膨張性に起因した引張応力を鋼板に付与することにより、鉄損さらには磁気歪も効果的に改善する。
【0004】また、一般に方向性けい素鋼板は、フォルステライト被膜の上にガラス質の絶縁コーティングが施されるが、このコーティングは非常に薄く透明であるため、フォルステライト被膜が製品の最終的な外観を決定する。従って、その外観の良否は製品価値を大きく左右し、例えば地鉄が一部露出したような被膜が形成された場合には製品として不適当とされるなど、被膜性状が製品歩留りに及ぼす影響は極めて大きい。従って、形成されたフォルステライト被膜は、外観が均一で欠陥のないこと、またせん断、打ち抜きおよび曲げ加工等において被膜がはく離しないように、密着性に優れることが要求される。さらに、その表面が平滑で、鉄心として積層した場合に、高い占積率を有することが必要とされる。
【0005】このようなフォルステライト被膜は最終仕上げ焼鈍において形成されるが、その被膜形成挙動は鋼中のMnS, MnSe, AIN等のインヒビターの挙動にも影響するため、優れた磁気特性を得るための必須の過程である二次再結晶そのものにも影響を及ぼす。また、形成されたフォルステライト被膜は、二次再結晶が完了したあとには不要となるインヒビター成分を被膜中に吸い上げて鋼を純化することによっても鋼板の磁気特性の向上に貢献する。従って、かかるフォルステライト被膜形成過程を制御して均一な被膜を形成することは、優れた磁気特性を有する方向性けい素鋼板を得る上で非常に重要である。
【0006】上記したように製品品質に多大な影響を及ぼすフォルステライト絶縁被膜は、一般に以下のような工程で形成される。まず、所望の最終板厚に冷間圧延された方向性けい素鋼板用の最終冷延板を、湿水素中で 700〜900 ℃の温度で焼鈍する。この焼鈍(脱炭焼鈍)により(1) 冷間圧延後の組織を、最終仕上げ焼鈍において適正な二次再結晶が起こるように一次再結晶させると共に、(2) 製品の磁気特性の時効劣化を防止するために、鋼中に0.01〜0.10wt%程度含まれている炭素を 0.003wt%程度以下までに脱炭し、さらに(3) 鋼中Siの酸化によってSiO2を含むサブスケールを鋼板表層に生成させる。
【0007】その後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を鋼板上に塗布してから、コイル状に巻き取り、還元性または非酸化性雰囲気中にて二次再結晶と純化を兼ねた最終仕上げ焼鈍を最高1200℃程度の温度で行うことにより、主として以下の反応式で示される固相反応によってフォルステライト被膜が形成される。2MgO + SiO2 → Mg2SiO4
【0008】このようなフォルステライト被膜は、1μm 前後の微細結晶粒が緻密に集積したセラミックス被膜であり、上述したように、脱炭焼鈍時に鋼板表層に生成したSiO2を含有するサブスケールを一方の原料として、その鋼板上に生成させるものであるから、このサブスケールの種類、量、分布等はフォルステライトの核生成や粒成長挙動に深く関与するだけでなく、被膜結晶粒の粒界や粒そのものの強度にも強く影響し、ひいては仕上げ焼鈍後の被膜品質に多大な影響を及ぼす。特にインヒビター成分としてAlNを含む方向性けい素鋼板においては、このサブスケールの物性が仕上げ焼鈍中の脱窒挙動あるいは焼鈍雰囲気からの浸窒挙動に大きく影響し、従って磁気特性にも大きな影響を与える。
【0009】以上述べたように、脱炭焼鈍において鋼板表層に形成されるサブスケールの物性を制御することは、優れたフォルステライト被膜を均一に形成させる上で、また二次再結晶を適切に発現させる上で欠かせない技術であり、方向性けい素鋼板の製造技術の重要な項目の一つである。
【0010】これまで方向性けい素鋼板の脱炭焼鈍に関しては、例えば、脱炭焼鈍後の鋼板の酸素含有量を制御する方法(特開昭59−185725号公報)、雰囲気の酸化度を脱炭焼鈍の前部領域では0.15以上とし、引き続く後部領域では0.75以下でかつ前部領域よりも低くする方法(特公昭57−1575号公報)、脱炭焼鈍後に非酸化性雰囲気中にて 850〜1050℃の熱処理を行う方法(特開平2−240215号公報や特公昭54−24686 号公報)、脱炭焼鈍後の冷却を 750℃以下の温度域では酸化度を 0.008以下として行う方法(特公平3−57167 号公報)、均熱過程における水素分圧に対する水蒸気分圧の比を0.70未満に、かつ昇温過程における水素分圧に対する水蒸気分圧の比を均熱過程よりも低い値にする方法(特開平6−336616号公報)、昇温速度と焼鈍雰囲気を規定する方法(特開平7−278668号公報)など種々の方法が提案されている。
【0011】また、フォルステライト被膜の外観に大きな影響を与えるものとして、部分的に地鉄が露出する点状欠陥があるがこのような点状欠陥の発生を抑制する方法としては、例えば特開昭59−226115号公報に、素材中にMoを 0.003〜0.1 wt%の範用で含有させると共に、脱炭焼鈍を、雰囲気温度:820 〜860 ℃、P(H2O)/P(H2)で表される雰囲気酸化度:0.30〜0.50の条件下に行い、鋼板表面に形成されるサブスケール中のファイヤライト(Fe2SiO4) とシリカ(SiO2)の比 Fe2SiO4/SiO2を0.05〜0.45の範囲に調整する技術が開示されている。
【0012】しかしながら、上述した方法はいずれも、一定の効果は認められるとはいえ、必ずしも充分なものではなく、ストリップの幅方向または長手方向で磁気特性やフォルステライト被膜の密着性、厚みあるいは均一性などが劣化する場合があり、優れた品質を有する製品を安定して生産し、より一層の歩留り向上を図るためには、未だ改善の余地を残していた。
【0013】一方、方向性けい素鋼板の磁気特性の改善技術も多種多様にわたっているが、その一つとしてMnS, MnSe, AlN, BN等の主インヒビターの働きを補う補助インヒビターの使用が挙げられる。補助インヒビターとして働く元素としては、Sb, Cu, Sn, Ge, Ni, P, Nb, V, Mo, Cr, Bi, AsおよびPbなどが知られているが、その中でもBiの利用により、従来レベルを大きく上回る高磁束密度が得られることが報告されている(例えば特昭公54−32412 号公報、特公昭56−38652 号公報、特再平2−814445号公報、特開平6−88173 号公報および特開平8−253816号公報等)。
【0014】しかしながら、鋼中にBiを添加した場合には、仕上げ焼鈍時に良好なフォルステライト被膜が得られにくく、被膜形成不良により製品にならない場合が多いという問題があった。この点を改善するものとして、脱炭焼鈍後の酸化膜の酸素量を 600〜900 ppmとし、MgO:100 重量部に対し塩素化合物を塩素分で0.01〜0.10重量部および/またはSb, B, Sr, Baの化合物の1種または2種類以上を0.05〜2.0 重量部添加した焼鈍分離剤を塗布する技術(特開平8−232019号公報)や、MgOを主成分とする焼鈍分離剤の塗布量を鋼板片面当たり5g/m2以上とする技術(特開平8−258319号公報)、仕上げ焼鈍における雰囲気ガス流量について、雰囲気ガス流量/鋼帯総表面積≧ 0.002(Nm3/h・m2)とする技術(特開平9−111346号公報)、焼鈍分離剤中のマグネシアのIg-loss値を 0.4〜1.5 %にする技術(特開平10−25516 号公報)および脱炭焼鈍後の鋼板表面の酸素目付量を 550〜850 ppm にする技術(特開平10−152725号公報)等が提案されている。
【0015】その他、素材中に、CrおよびSbあるいはCr,SnおよびSbを同時に添加し酸化層量の変動を小さくして、仕上げ焼鈍における被膜形成を安定化する技術(特開平4−329829号公報、特開平4−329830号公報)や、Cr添加と脱炭焼鈍条件の組み合わせにより、板厚方向への酸素の拡散を促進することにより、フォルステライト被膜形成に必要なファイヤライト(Fe2SiO4) とシリカ(SiO2)を厚くする技術(特開平1−46297 号公報)などが提案されており、これらは脱炭焼鈍板におけるサブスケール量に着目した技術である。
【0016】しかしながら、これらの従来技術はいずれも充分なものではなく、コイルの全幅および全長にわたって欠陥のない均一で密着性に優れた良好なフォルステライト被膜を安定して形成させることはできなかった。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、上記の問題を有利に解決するもので、その第1の目的は、コイルの全幅および全長にわたって欠陥のない均一で密着性に優れたフォルステライト被膜を有し、かつ磁気特性にも優れた方向性けい素鋼板を安定して得ることである。また、この発明の第2の目的は、磁束密度の改善を目的として、鋼中に補助インヒビターとしてBiを含有させた場合であっても、被膜欠陥がなく均一で密着性に優れたフォルステライト被膜を有する方向性けい素鋼板を得ることである。
【0018】
【課題を解決するための手段】さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく、特にサブスケールの性状と脱炭焼鈍条件について綿密な検討を行った結果、脱炭焼鈍工程において形成させる酸化膜(サブスケール)中に、スピネル型のCr酸化物、とくに FeCr2O4または(Fe,Mn)Cr2O4 主体のCr酸化物を生成させることが、優れた被膜特性を得る上で極めて有効であることの知見を得た。また、脱炭焼鈍工程において、サブスケールの性状を上記のように調整しておけば、補助インヒビターとしてBiを含有させた場合であっても、従来とは違って密着性に優れたフォルステライト被膜が得られることも併せて見出した。この発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0019】すなわち、この発明の要旨構成は次のとおりである。
1.C:0.03〜0.12wt%, Si:2.0 〜4.5 wt%, 酸可溶性Al:0.01〜0.05wt%,N:0.003 〜0.012 wt%およびMn:0.02〜0.5 wt%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になるけい素鋼スラブを、熱間圧延し、ついで1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を行ったのち、脱炭焼鈍し、ついで鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布してから、二次再結晶焼鈍および純化焼鈍からなる最終仕上げ焼鈍を施す一連の工程からなる方向性けい素鋼板の製造方法において、鋼スラブ中に 0.1〜1.0 wt%のCrを含有させ、脱炭焼鈍の際に、鋼板表層に形成される酸化膜(サブスケール)中にスピネル型のCr酸化物を生成させることを特徴とする被膜特性と磁気特性に優れた方向性けい素鋼板の製造方法。
【0020】2.上記1において、鋼スラブ中に、さらに 0.005〜0.20wt%のBiを含有させることを特徴とする被膜特性と磁気特性に優れた方向性けい素鋼板の製造方法。
3.上記1または2において、鋼スラブ中に、さらにSeおよび/またはS:0.010 〜0.040 wt%を含有させることを特徴とする被膜特性と磁気特性に優れた方向性けい素鋼板の製造方法。4.上記1,2または3において、鋼スラブ中に、さらにSb:0.005 〜0.20wt%、Cu:0.01〜0.20wt%、Sn:0.02〜0.30wt%、Ge:0.02〜0.30wt%、Ni:0.01〜0.50wt%、P:0.002 〜0.30wt%、Nb:0.003 〜0.10wt%、V:0.003 〜0.10wt%およびMo:0.005 〜0.10wt%のうちから選んだ1種または2種以上を含有させることを特徴とする被膜特性と磁気特性に優れた方向性けい素鋼板の製造方法。
【0021】5.上記1〜4のいずれかにおいて、酸化膜(サブスケール)中のスピネル型のCr酸化物の主体が、FeCr2O4 または(Fe, Mn)Cr2O4 であることを特徴とする被膜特性と磁気特性に優れた方向性けい素鋼板の製造方法。
【0022】6.上記1〜4のいずれかにおいて、脱炭焼鈍後の鋼板表層の酸素目付量が片面当たリ0.35〜0.95 g/m2 で、しかも脱炭焼鈍板表面の薄膜X線回折によるFeCr2O4 または(Fe, Mn)Cr2O4 の(202)ピークI1 とファイヤライト質酸化物の(130)ピークI0 との強度比(I1/I0)が 0.2以上 1.5以下であることを特徴とする被膜特性と磁気特性に優れた方向性けい素鋼板の製造方法。
【0023】7.上記1〜4のいずれかにおいて、脱炭焼鈍に際し、均熱温度を 800℃以上 900℃以下とし、少なくとも 700℃までは平均昇温速度:10〜50℃/sで昇温すると共に、(均熱温度−50℃)以下から均熱温度までは平均昇温速度:1〜9℃/sで昇温し、さらに均熱時における雰囲気酸化度(P(H2O)/P(H2))を0.30〜0.50にすると共に、加熱帯の雰囲気酸化度と均熱帯の雰囲気酸化度の差(均熱帯の雰囲気酸化度−加熱帯の雰囲気酸化度)を0.05〜0.20に設定することを特徴とする被膜特性と磁気特性に優れた方向性けい素鋼板の製造方法。
【0024】
【0025】
【発明の実施の形態】以下、この発明を由来するに至った実験結果について説明する。
実験1表1に示す成分組成になる種々のけい素鋼スラブを用意し、1430℃で20分間加熱後、熱間圧延により 2.3mm厚の熱延板とした。ついで1000℃, 1分間の熱延板焼鈍後、1回目の冷間圧延により 1.5mm厚とし、1100℃, 1分間の中間焼鈍後、2回目の冷間圧延により最終板厚:0.23mmに仕上げた。ついで、得られた冷延板を脱脂して表面を清浄化した後、H2−H2O −N2雰囲気中にて 850℃の温度で片面当たりの酸素目付量が0.25〜1.10 g/m2 になるように脱炭焼鈍を施した。その際、室温からT1 ℃(T1 =600, 650,700, 750, 800,850)までの昇温速度と、T1 ℃から 850℃までの昇温速度をそれぞれ独立に、前者は5〜70℃/s,後者は 0.5〜20℃/sの範囲で変化させた。また、加熱時と均熱時のP(H2O)/P(H2)で表される雰囲気の酸化度を、それぞれ独立に 0.1〜0.7の範囲に制御した。ついで、マグネシア:100 重量部に対しTiO2:10重量部を配合したMgOを主成分とする焼鈍分離剤をスラリー状にして、それぞれの脱炭焼鈍板コイルに塗布し、乾操後、窒素雰囲気中にて 850℃, 20時間の保定処理に引き続き、窒素:25%,水素:75%の雰囲気中にて10℃/hr の速度で1150℃まで昇温する二次再結晶焼鈍を施したのち、水素雰囲気中で1200℃, 5時間の仕上げ焼鈍を行った。
【0026】
【表1】


【0027】かくして得られたコイルのフォルステライト被膜の外観と曲げ密着性および磁気特性を評価したところ、鋼中にCrを 0.1〜1.0 wt%の範囲で含有させた時に、非常に優れた被膜特性と磁気特性が得られる場合があることが判明した。それらの場合は全て、常温から少なくとも 700℃までの昇温速度が10℃/s以上50℃/s以下、また 700℃以上 800℃以下の温度域から 850℃までの昇温速度が1℃/s以上9℃/s以下で、しかも均熱時の雰囲気酸化度が0.30〜0.50で、かつ(均熱帯の雰囲気酸化度−加熱帯の雰囲気酸化度)が0.05〜0.20の条件で脱炭焼鈍が施され、しかも脱炭焼鈍後の鋼板表層の酸素目付量が0.35〜0.95 g/m2 の範囲を満足する場合であった。
【0028】一例として、鋼中Cr量が 0.1〜1.0 wt%の素材について、加熱帯の雰囲気酸化度が0.35,均熱帯の雰囲気酸化度が0.45で、脱炭焼鈍後の鋼板表層の酸素目付量が0.35〜0.95 g/m2 の範囲の場合に、常温から 700℃までおよび 800℃から 850℃までの昇温速度が製品板の被膜特性および磁気特性に及ぼす影響について調べた結果を図1に示す。なお、各特性の評価基準は次のとおりである。
○--- 被膜特性:外観良好で、曲げ密着性は25mm以下、かつ磁気特性:B8 ≧1.95(T),W17/50 ≦0.82(W/kg)。
△--- 被膜特性:所々に地鉄が露出する点状欠陥があって外観はやや劣り、曲げ密着性は35mm以下、あるいは磁気特性:1.95>B8 ≧1.92(T),0.82<W17/50 ≦0.90(W/kg)。
×--- 被膜特性:被膜欠陥が目立って多いか、曲げ密着性が40mm以上、あるいは磁気特性:B8 <1.92(T),W17/50 >0.90(W/kg)。
【0029】同図に示したとおり、優れた被膜特性と磁気特性が同時に得られる場合は、常温から 700℃までの昇温速度が10〜50℃/sで、かつ 800℃から 850℃までの昇温速度が1〜9℃/sを満足する場合であった。
【0030】そこで、次に、これらのサブスケールの性状について詳細な検討を行った。その結果、優れた被膜特性と磁気特性が得られた条件では、脱炭焼鈍後の鋼板表層の酸素目付量が0.35〜0.95 g/m2 の範囲にあって、かつサブスケール中に従来から報告されているファイヤライト質酸化物(Fe2SiO4 や(Fe, Mn)2SiO4 が主体)やシリカ以外に、スピネル型のCr酸化物が生成していることが判明した。また、このスピネル型Cr酸化物の主体は FeCr2O4あるいは(Fe, Mn)Cr2O4 等であることも判明した。
【0031】図2は、脱炭焼鈍板の表面を薄膜X線回折により調査した結果で、(a) はスピネル型のCr酸化物が生成していない場合、(b) はスピネル型のCr酸化物が生成している場合の例である。また、図3は、薄膜X線回折によリスピネル型のCr酸化物の存在が判明した脱炭焼鈍板サブスケールを、表面からグロー放電分光(GDS)により分析した結果を示したものであるが、同図によれば、表層直下にCrが濃化しているのが分かり、これはスピネル型のCr酸化物と考えられる。なお、鋼中にCrを 0.1〜1.0 wt%含有した素材でも、被膜特性や磁気特性が劣るものもあったが、これらはいずれも、サブスケール中にCr酸化物が生成していないか、あるいはCr酸化物が生成していてもコランダム型のみの場合であり、さらには表面にファイヤライト質酸化物が生成していない場合もあった。
【0032】次に、サブスケール中の FeCr2O4または(Fe, Mn)Cr2O4 量と被膜・磁気特性との関係を求めるために、脱炭焼鈍後の鋼板表層における酸素目付量が0.35〜0.95g/m2の範囲で、脱炭焼鈍板表面の薄膜X線回折による FeCr2O4または(Fe, Mn)Cr2O4 の(202)ピークI1 とファイヤライト質酸化物の(130)ピークI0との強度比(I1/I0 )と製品板の磁気特性および被膜特性との関係について調査した。その結果を図4に示す。
【0033】同図に示したとおり、 I1/I0 が 0.2以上 1.5以下の範囲で良好な被膜特性と磁気特性が併せて得られることが判明した。なお、I1/I0 <0.2 の場合は、ファイヤライト質酸化物の生成量が多すぎるか、あるいはスピネル型のCr酸化物の生成量が不足するためにやや特性が劣ったものと考えられる。一方、I1/I0 >1.5 の場合は、ファイヤライト質酸化物が少なすぎるか、あるいはコランダム型のCr酸化物が多いために特性が劣ったものと考えられる。
【0034】次に、従来、フォルステライト被膜が生成しにくかった、鋼中にBiを含有する素材についても、サブスケール中に FeCr2O4または(Fe, Mn)Cr2O4 を主体とするスピネル型のCr酸化物を生成させることによって、優れた被膜特性と磁気特性の両立が図れるかどうかの検討を行った。
【0035】実験2表2に示す種々の成分組成になるけい素綱スラブを、1420℃で20分間加熱後、熱間圧延により 2.5mm厚の熱延板とした。ついで1000℃, 1分間の熱延板焼鈍後、1回目の冷間圧延により板厚:1.6 mmとし、1050℃, 1分間の中間焼鈍後、2回目の冷間圧延により最終板厚:0.23mmに仕上げた。その際、圧延ロール出側直後の鋼板温度が 200℃となる圧延を少なくとも2パス行った。ついで、得られた冷延板を脱脂して表面を清浄化したのち、H2−H2O −N2雰囲気中にて 830℃の温度で、片面当たりの酸素目付量が0.25〜1.10 g/m2 になるように脱炭焼鈍を施した。その際、室温からT1 ℃(T1 =600, 650, 700, 740,780, 820) までの昇温速度と、T1 ℃から 830℃までの昇温速度をそれぞれ独立に、前者は5〜70℃/s,後者は 0.5〜20℃/sの範囲で変化させた。また、均熱時のP(H2O)/P(H2)で表される雰囲気の酸化度を0.30〜0.50の範囲にすると共に、加熱帯の雰囲気酸化度は、(均熱帯の雰囲気酸化度−加熱帯の雰囲気酸化度)が0.05〜0.20になるように調整した。ついで、マグネシア:100 重量部に対しTiO2:8重量部, Sr化合物(Sr換算):1重量部を配合した、MgOを主成分とする焼鈍分離剤をスラリー状にして、それぞれの脱炭焼鈍板コイルに塗布し、乾燥後、窒素雰囲気中にて 800℃まで焼鈍し、ついで窒素:25%、水素:75%の雰囲気中にて15℃/hrの速度で1150℃まで昇温する二次再結晶焼鈍を施したのち、水素雰囲気中で1200℃, 5時間の仕上げ焼鈍を行った。
【0036】
【表2】


【0037】かくして得られたコイルのフォルステライト被膜の外観と曲げ密着性および磁気特性を評価したところ、鋼中Cr量が 0.1〜1.0 wt%の素材の場合に、常温から少なくとも 700℃までの昇温速度が10℃/s以上50℃/s以下で、 700℃以上 780℃以下の温度域から 830℃までの昇温速度が1℃/s以上9℃/s以下の条件で脱炭焼鈍が行われ、かつ脱炭焼鈍後鋼板表層の酸素目付量が0.35〜0.95 g/m2 の範囲を満足する場合に優れた被膜特性と磁気特性が併せて得られることが判明した。
【0038】鋼中Cr量が 0.1〜1.0 wt%の素材で、脱炭焼鈍後鋼板表層の酸素目付量が0.35〜0.95 g/m2 の範囲の時に、常温から 700℃までおよび 780℃から 830℃までの昇温速度が製品板の被膜特性および磁気特性に及ぼす影響について調べた結果を図5に示す。なお、各特性の評価基準は次のとおりである。
○--- 被膜特性:外観良好で、曲げ密着性は25mm以下、かつ磁気特性:B8 ≧1.96(T),W17/50 ≦0.80(W/kg)。
△--- 被膜特性:所々に地鉄が露出する点状欠陥があり、白っぽい被膜で外観はやや劣り、曲げ密着性は35mm以下、あるいは磁気特性:1.96>B8 ≧1.92(T),0.80<W17/50 ≦0.90(W/kg)。
×--- 被膜特性:被膜欠陥が目立って多いか、曲げ密着性が40mm以上、あるいは磁気特性:B8 <1.92(T),W17/50 >0.90(W/kg)。
【0039】同図に示したとおり、優れた被膜特性と磁気特性が同時に得られる場合は、常温から 700℃までの昇温速度が10〜50℃/sで、かつ 780℃から 830℃までの昇温速度が1〜9℃/sを満足する場合であった。
【0040】次に、これらのサブスケール性状を詳細に調査したところ、優れた被膜特性と磁気特性が得られた条件では、実験1の場合と同様に、サブスケール中に従来から報告されているファイヤライト質酸化物(Fe2SiO4 や(Fe, Mn)2SiO4 が主体)やシリカ以外に、 FeCr204または(Fe, Mn)Cr2O4 を主体とするスピネル型のCr酸化物が生成していることが判明した。
【0041】そこで、次に、実験1の場合と同様に、脱炭焼鈍板表面の薄膜X線回折によるFeCr2O4または(Fe, Mn)Cr2O4 の(202)ピークI1 とファイヤライト質酸化物の(130)ピークI0 との強度比(I1/I0 )と製品板の磁気特性および被膜特性との関係について調査した。得られた結果を図6に示すが、実験1の場合と同様、I1/I0 が 0.2以上 1.5以下の範囲で良好な被膜特性と磁気特性が得られている。
【0042】次に、サブスケール中にスピネル型のCr化合物が生成していない場合としている場合の脱炭焼鈍板試料について、グロー放電分光(GDS)により表層部の成分分析を行った結果を図7に示す。同図に示したとおり、スピネル型のCr化合物が生成している試料では、表層直下にCrが濃化しているばかりか、Siプロファイルの形状もスピネル型のCr化合物が生成していない場合に比べて異なっているのが分かる。スピネル型のCr酸化物の存在だけでなく、この変化も被膜特性の向上に寄与していると考えられる。
【0043】この発明に従い、サブスケール中に FeCr2O4または(Fe, Mn)Cr2O4 を適量存在させることによって、良好な被膜特性および磁気特性が得られる理由は、次のように考えられる。FeCr2O4 は仕上げ焼鈍中は次式に従ってMgOと反応する。
FeCr2O4 + MgO → (Mgx Fe1-x )O + Fex Mg1-x Cr2O4この時生成する (Mgx Fe1-x )OはMgOとSiO2の固相反応によるフォルステライト生成を促進する。重要なのは、 (Mgx Fe1-x )Oの生成位置が鋼板表面ではなく、鋼板の表面からやや内部にあることであり、この位置でフォルステライト生成が促進されることにより、被膜が剥離し難くなるすなわち被膜密着性が向上するものと考えられる。また、仕上げ焼鈍の初期に被膜形成反応が促進されることで、二次再結晶に大きな影響を及ぼす仕上げ焼鈍中の窒化・脱窒反応の変動が小さくなり、磁性の向上と安定化に寄与するものと考えられる。
【0044】脱炭焼鈍を、常温から少なくとも 700℃までの昇温速度が10〜50℃/s、(均熱温度−50℃)以下の温度域から均熱温度までの昇温速度が1〜9℃/sで、しかも均熱時の雰囲気酸化度が0.30〜0.50で、かつ(均熱帯の雰囲気酸化度−加熱帯の雰囲気酸化度)が0.05〜0.20の条件下で行うことによって、被膜組成を制御できる理由について、発明者らは次のように考えている。すなわち、発明者らは、脱炭焼鈍板を、5%HCl・60℃・60秒間の条件下で酸洗したときの酸洗減量を調べたところ、脱炭焼鈍条件によって酸洗減量値は大きく変化し、酸洗減量が少ないほど磁気特性だけでなく被膜特性も向上する傾向にあることが分かった。この酸洗減量値は、サブスケール最表面の性質を反映すると考えられ、従って何らかの形で被膜形成初期の反応に影響されていると考えられる。
【0045】そこで、脱炭焼鈍条件と酸洗減量との関係を調べたところ、昇温速度と雰囲気酸化度を上述の範囲に制御した場合には、そうでない場合に比べて酸洗減量値が格段に減少することが判明した。酸洗減量値が低下する理由については、特に(均熱温度−50℃)以下の温度域から均熱温度到達までの昇温速度を遅くすると共に、雰囲気酸化度を所定の範囲に調整することによって、酸化初期に緻密な酸化膜が形成されるためと考えられ、従って、これらの条件がその後に形成されるサブスケール性状の大きな支配因子になっていると考えられる。
【0046】また、先に述べたように、Crは脱炭焼鈍時の酸化を促進するので、その添加量が多いと不均一な酸化を促し、かえって被膜欠陥を生じ易くするけれども、酸化初期に相当する(均熱温度−50℃)以下の温度域から均熱温度までの昇温速度を1〜9℃/sと遅くすることによって、比較的均一に酸化を進行させる効果もあると考えられる。
【0047】なお、前述したように、Cr添加は鋼板の比抵抗を増加させるので、添加量が多い方が渦電流損の低減には有利に働くが、Cr添加により飽和磁束密度は低下するので、一概に添加量が多い方が鉄損低減につながるとはいえないこともあって、インヒビターとしてAlNを用いる場合のCr添加量の上限は、主に二次再結晶不良による磁性劣化や被膜特性の劣化の観点から従来約 0.3wt%に止まっていた。しかしながら、この発明によれば、Cr量が約 0.4〜1.0 wt%と多い場合であっても、良好に二次再結晶させ得るだけでなく、優れたフォルステライト被膜を得ることができ、その結果、飛躍的に低い鉄損の製品を安定して製造することが可能になったのである。
【0048】次に、この発明の製造方法において、素材の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。
C:0.03〜0.12wt%Cは、熱間圧延時のα−γ変態を利用して結晶組織の改善を行うために重要な成分であるが、含有量が0.03wt%に満たないと良好な一次再結晶組織が得られず、一方0.12%を超えると脱炭が難しくなって脱炭不良となり磁気特性の劣化を招くので、Cは0.03〜0.12wt%の範囲に限定した。
【0049】Si:2.0 〜4.5 wt%Siは、製品の電気抵抗を高め、渦電流損を低減させる上で重要な成分である。しかしながら、含有量が 2.0wt%に満たないと最終仕上げ焼鈍中にα−γ変態によって結晶方位が損なわれ、一方 4.5wt%を超えると冷延性に問題があるため、2.0 〜4.5 wt%の範囲に限定した。
【0050】酸可溶性Al:0.01〜0.05wt%, N:0.003 〜0.012 wt%酸可溶AlおよびNは、AlNインヒビターを形成させるために必要な元素であり、良好な二次再結晶を行うためには、酸可溶Al:0.01〜0.05wt%、N:0.003 〜0.012 wt%の範囲が不可欠である。いずれも、上限を超える量ではAlNの粗大化を招いて抑制力を失い、一方下限に満たないAlNの量が不足する。
【0051】Mn:0.02〜0.5 wt%Mnは、Siと同様に電気抵抗を高め、また製造時の熱間加工性を向上させる重要な元素である。この目的のためには0.02wt%以上含有させる必要があるが、0.5wt%を超えて含有させると、γ変態を誘起して磁気特性の劣化を招くので、Mn量は0.02〜0.5 wt%の範囲に限定した。
【0052】Cr:0.1 〜1.0 wt%Crは、この発明において特に重要な元素であり、このCrを鋼中に適量添加することによって脱炭焼鈍工程において生成させる酸化膜(サブスケール)中にスピネル型のCr化合物を生成させることができる。しかしながら、含有量が 0.1wt%に満たないとスピネル型のCr化合物を生成させることができず、一方 1.0wt%を超えると脱炭が難しくなって脱炭不良となり磁気特性が劣化するので、Cr含有量は 0.1〜1.0 wt%の範囲に限定した。
【0053】Bi:0.005 〜0.20wt%また、この発明では、さらにBiを含有させることもできる。このBiは、磁気特性を大きく向上させ高磁束密度の素材を得るのに有効な元素であるが、含有量が0.005 wt%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.20wt%を超えると良好な−次再結晶組織が得られず、磁束密度の向上がみられなくので、Biは 0.005〜0.20wt%の範囲で含有させるものとした。
【0054】さらに、この発明では、必要に応じ、インヒビター形成元素としてSおよび/またはSeを、また磁束密度改善成分としてSb,Cu,Sn,Ge,Ni,P,NbおよびVのうちから選んだ1種または2種以上を、さらに表面性状改善成分としてMoを適宜含有させることができる。これらの好適含有量は次のとおりである。
【0055】Seおよび/またはS:0.010 〜0.040 wt%SeおよびSは、Mnと結合し、インヒビターMnSe,MnSとして機能するものであるが、単独または併用いずれの場合においても含有量が 0.010wt%に満たないとインヒビター機能が十分ではなく、一方 0.040wt%を超えるとスラブ加熱の際に必要とする温度が高くなりすぎて実用的でないので、SeまたはSは単独または併用いずれの場合においても含有量は 0.010〜0.040 wt%程度が好ましい。
【0056】Sb:0.005 〜0.20wt%Sbは、含有量が 0.005wt%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.20wt%を超えると脱炭性が悪くなるので、Sb量は 0.005〜0.20wt%程度とするのが好ましい。
Cu:0.01〜0.20wt%Cuは、含有量が0.01wt%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.20wt%を超えると酸洗性が悪化するので、Cu量は0.01〜0.20wt%程度とするのが好ましい。
Sn:0.02〜0.30wt%,Ge:0.02〜0.30wt%Sn,Geはそれぞれ、含有量が0.02wt%に満たないとその添加効果がなく、一方0.30wt%を超えると良好な一次再結晶組織が得られないので、Sn,Ge量はそれぞれ0.02〜0.30wt%程度とするのが好ましい。
Ni:0.01〜0.50wt%Niは、含有量が0.01wt%未満ではその添加効果に乏しく、一方0.50wt%を超えると熱間強度の低下を招くので、その含有量は0.01〜0.50wt%程度とするのが好ましい。
P:0.002 〜0.30wt%Pは、含有量 0.002wt%未満ではその添加効果に乏しく、一方0.30wt%を超えると良好な一次再結晶組織が得られないので、P量は0.002 〜0.30wt%程度とするのが好ましい。
Nb:0.003 〜0.10wt%,V:0.003 〜0.10wt%Nb, Vはそれぞれ、含有量が 0.003wt%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.10wt%を超えると脱炭性の劣化を招くので、Nb,V量はそれぞれ 0.003〜0.10wt%程度とするのが好ましい。
【0057】Mo:0.005 〜0.10wt%Moは、表面性状の改善に有効に寄与する元素であるが、含有量が 0.005wt%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.10wt%を超えると脱炭性が悪くなるので、Mo量は 0.005〜0.10wt%程度とするのが好ましい。
【0058】次に、この発明法における好適製造条件について説明する。通常の製鋼法で上記の好適成分組成に調整した溶鋼を、連続鋳造法または造塊法で鋳造し、必要に応じて分塊工程を挟んでスラブとしたのち、1100〜1450℃の温度範囲でスラブ加熱を行い、その後熱間圧延を行う。ついで、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によって最終板厚の冷延板とする。なお、最終冷延工程において、圧延ロール出側直後の鋼板温度が 150〜300 ℃となる圧延を少なくとも1パス行うことは有利である。
【0059】ついで、脱炭焼鈍を行うが、この発明では、この脱炭焼鈍工程が最も重要であり、この脱炭焼鈍によってサブスケール中にスピネル型のCr酸化物を生成させるのである。この時、サブスケール量については、鋼板表層の酸素目付量(片面当たり)で0.35〜0.95 g/m2 程度とするのが好ましい。また、生成するスピネル型のCr酸化物量については、脱炭焼鈍板表面の薄膜X線回折による FeCr2O4または(Fe, Mn)Cr2O4 の(202)ピークI1 とファイヤライト質酸化物の(130)ピークI0 との強度比(I1/I0)が 0.2〜1.5 の範囲を満足する程度とするのが好適である。
【0060】ここに、上記したような適量のスピネル型Cr酸化物を含有するサブスケールを形成するには、均熱温度を 800〜900 ℃とし、少なくとも 700℃までは平均昇温速度:10〜50℃/sで昇温すると共に、(均熱温度−50℃)以下から均熱温度までは平均昇温速度:1〜9℃/sで昇温し、さらに均熱時における雰囲気酸化度(P(H2O)/P(H2))を0.30〜0.50にすると共に、加熱帯の雰囲気酸化度と均熱帯の雰囲気酸化度の差(均熱帯の雰囲気酸化−加熱帯の雰囲気酸化度)を0.05〜0.20に設定した条件で脱炭焼鈍を行えば良い。なお、このような脱炭焼鈍に引き続いて30〜200ppm程度鋼板を窒化させる処理を行ってもよい。
【0061】ついで、脱炭焼鈍板の表面に、MgOを主成分とする焼鈍分離剤をスラリー状にして塗布したのち、乾燥する。ここで、焼鈍分離剤として用いるMgOは、水和量(20℃,6分間にて水和後、1000℃,1時間の強熱による減量)が1〜5%の範囲のものを用いるのが良い。というのは、MgOの水和量が1%未満ではフォルステライト被膜の生成が不充分となり、一方5%を超えるとコイル層間への持ち込み水分量が多くなりすぎ、鋼板の追加酸化量が多くなるため、良好なフォルステライト被膜が得難いからである。
【0062】また、30℃でのクエン酸活性度(CAA 40)は30秒から 160秒のものを用いるのが良い。というのは、30秒未満では反応性が強すぎてフォルステライトが急激に生成するため剥落し易く、一方 180秒を超えると反応性が弱すぎてフォルステライト生成が進行しないからである。また、BET (比表面積)は、10〜40 m2/g 程度のものを用いるのが良い。というのは、10 m2/g 未満では反応性が弱すぎてフォルステライト生成が進行せず、一方 40 m2/gを超えると反応性が強すぎてフォルステライトが急激に生成し、剥落し易くなるからである。
【0063】さらに、焼鈍分離剤の塗布量は、鋼板片面当たリ4〜10 g/m2 程度とするのが好ましい。というのは、塗布量が4 g/m2 より少ないとフォルステライトの生成が不充分となり、一方10 g/m2 を超えるとフォルステライト被膜が過剰に生成し厚くなるため、占積率の低下を来すからである。また、この焼鈍分離剤中には、被膜特性および磁気特性の一層の均一性向上を目的として、TiO2, SnO2, Fe2O3, CaOのような酸化物、 MgSO4やSnSO4 のような硫化物、Na2B4O7 のようなB系化合物、Sb2O3 やSb2(SO4)3 のようなSb系化合物ならびにSrSO4, Sr(OH)2・8H2OのようなSr化合物のうちから選んだ1種または2種以上を含有させることもできる。
【0064】ついで、二次再結晶および純化焼鈍(最終仕上げ焼鈍)を施したのち、りん酸塩系の絶縁コーティング好ましくは張力を有する絶縁コーティングを施して製品とする。ここに、二次再結晶焼鈍は、 700〜1000℃程度の温度で10〜70時間程度保定焼鈍を行ったのち、昇温する方法、あるいは保定を行わずに昇温する方法のいずれでもよい。また、最終冷延後、最終仕上げ焼鈍後または絶縁コーティング後に、既知の磁区細分化処理を行うこともでき、この場合にはより一層の鉄損低減効果が期待できる。
【0065】上記の方法により、被膜特性に極めて優れた方向性けい素鋼板を得ることができるが、特にこの発明では、前述したような、従来は密着性の良い被膜が得難いとされた、鋼中に補助インヒビターとしてBiを含有する素材についても、被膜欠陥がなく均一で密着性に優れたフォルステライト被膜を得ることができ、従ってこの鋼板は、従来に比べて一段と優れた磁気特性と良好な被膜特性とを併せ持つことになる。ここに、上記したBi含有鋼板は、その製造過程とくに脱炭焼鈍工程および純化焼鈍工程において成分組成が変化するが、製品板における好適成分組成範囲は次のとおりである。
C≦30 ppm、 Si:2.0 〜4.5 wt%、Al:0.005 〜0.03wt%、 N:0.0015〜0.006 wt%、Mn:0.02〜0.5 wt%、 Cr:0.1 〜1.0 wt%およびBi:0.001 〜0.15wt%
【0066】
【実施例】実施例1C:0.068 wt%,Si:3.45wt%,Mn:0.071 wt%,酸可溶性Al:0.025 wt%,N:0.0082wt%,Se:0.020 wt%,Cu:0.10wt%、Sb:0.043 wt%およびCr:0.20wt%を含有するけい素鋼スラブを、1430℃で30分間加熱後、熱間圧延を施して2.2 mm厚の熱延板とした。ついで1000℃, 1分間の熱延板焼鈍後、2回目の冷間圧延により板厚:1.5 mmとし、1100℃, 1分間の中間焼鈍後、2回目の冷間圧延により最終板厚:0.23mmに仕上げた。ついで、得られた冷延板に、H2−H2O −N2雰囲気中にて 840℃の脱炭焼鈍を施した。その際、昇温速度と雰囲気酸化度P(H2O)/P(H2)を表3に示すように種々に変更した。また、均熱時間や最終冷延後(脱炭焼鈍前)の電解脱脂条件(有無を含めて)等を適宜変更して、酸素目付量(片面当たり)を0.25〜1.10 g/m2 の範囲に調整した。ついで、マグネシア:100 重量部に対しTiO2:7重量部およびSr化合物(Sr換算):1重量部およびSnO2:3重量部を配合した、MgOを主成分とする焼鈍分離剤をスラリー状にして、それぞれの脱炭焼鈍板コイルに塗布し、乾燥させてから、窒素雰囲気中にて 850℃, 20時間の保定処理に引き続き、窒素:30%、水素:70%の雰囲気中にて15℃/hr の速度で1150℃まで昇温する二次再結晶焼鈍を施したのち、1200℃の水素雰囲気中で5時間の純化焼鈍を行った。しかるのち、りん酸マグネシウムとコロイダルシリカを主成分とするコーティングを施した。
【0067】かくして得られた各製品板の磁気特性(磁束密度B8 、鉄損W17/50)および被膜特性(曲げ密着性、被膜外観)について調査した結果を表3に併記する。なお、被膜の曲げ密着性は5mm間隔の種々の径を有する丸棒に試験片を巻き付け、被膜が剥離しない最少径で評価した。
【0068】
【表3】


【0069】同表から明らかなように、この発明法に従い製造した適合例はいずれも、良好な被膜特性および磁気特性を示している。また、これらの適合例では、脱炭焼鈍板表面の薄膜X線回折による FeCr2O4または(Fe, Mn)Cr2O4 の(202)ピークI1 とファイヤライト質酸化物の(130)ピークI0 との強度比(I1/I0 )は全て 0.2以上 1.5以下であった。
【0070】実施例2C:0.073 wt%,Si:3.43wt%,Mn:0.069 wt%,酸可溶性Al:0.026 wt%,N:0.0091wt%,Se:0.018 wt%,Cu:0.10wt%,Sb:0.044 wt%,Cr:0.30wt%およびBi:0.040 wt%を含むけい素鋼スラブを、1430℃で30分間加熱後、熱間圧延により 2.7mm厚の熱延板とした。ついで1000℃, 1分間の熱延板焼鈍後、1回目の冷間圧延により板厚:1.8 mmとし、1050℃, 1分間の中間焼鈍後、2回目の冷間圧延により最終板厚:0.23mmに仕上げた。ついで、得られた冷延板に、H2−H2O −N2雰囲気中にて 850℃の脱炭焼鈍を施した。その際、昇温速度と雰囲気酸化度P(H2O)/P(H2)を表4に示すように種々に変更した。また、均熱時間や最終冷延後(脱炭焼鈍前)の電解脱脂条件(有無を含めて)等を適宜変更して、酸素目付量(片面当たり)を0.25〜1.10 g/m2 の範囲に調整した。ついで、マグネシア: 100重量部に対しTiO2:10重量部およびSr化合物(Sr換算):2重量部を配合した、MgOを主成分とする焼鈍分離剤をスラリー状にして、それぞれの脱炭焼鈍板コイルに塗布し、乾燥させた後、窒素雰囲気中にて 800℃まで焼鈍してから、窒素:20%,水素:80%の雰囲気中にて20℃/hr の速度で1150℃まで昇温する二次再結晶焼鈍を施したのち、1200℃の水素雰囲気中で5時間の純化焼鈍を行った。しかるのち、りん酸マグネシウムとコロイダルシリカを主成分とするコーティングを施した。かくして得られた各製品板の磁気特性(磁束密度B8 、鉄損W17/50)および被膜特性(曲げ密着性、被膜外観)について調査した結果を表4に併記する。
【0071】
【表4】


【0072】同表から明らかなように、この発明法ににれば、従来、密着性の良い被膜が得難いとされた含Bi材についても、良好な被膜特性を得ることができた。また、これらの適合例はいずれも、脱炭焼鈍板表面の薄膜X線回折による FeCr2O4または(Fe, Mn)Cr2O4 の(202)ピークI1 とファイヤライト質酸化物の(130)ピークI0 との強度比(I1/I0 )は全て 0.2以上 1.5以下であった。
【0073】実施例3C:0.050 wt%,Si:3.26wt%,Mn:0.085 wt%,酸可溶性Al:0.012 wt%,N:0.0045wt%,Cu:0.12wt%、Sb:0.013 wt%およびCr:0.15wt%を含むけい素鋼スラブを、1200℃で30分間加熱後、熱間圧延により 2.2mm厚の熱延板とした。ついで1000℃, 1分間の熱延板焼鈍後、冷間圧延により最終板厚:0.30mmの冷延板に仕上げた。ついで、得られた冷延板に、H2−H2O −N2雰囲気中にて 830℃の脱炭焼鈍を施した。その際、昇温速度と雰囲気酸化度P(H2O)/P(H2)を表5に示すように種々に変更した。また、均熱時間や最終冷延後(脱炭焼鈍前)の電解脱脂条件(有無を含めて)等を適宜変更して、酸素目付量(片面当たり)を0.25〜1.10 g/m2 の範囲に調整した。ついで、マグネシア: 100重量部に対しTiO2:1.5 重量部およびSr化合物(Sr換算):1.5 重量部を配合した、MgOを主成分とする焼鈍分離剤をスラリー状にして、それぞれの脱炭焼鈍板コイルに塗布し、乾燥させた後、窒素雰囲気中にて780 ℃まで焼鈍してから、窒素:25%,水素:75%の雰囲気中にて25℃/hr の速度で1150℃まで昇温する二次再結晶焼鈍を施したのち、1200℃の水素雰囲気中で5時間の純化焼鈍を行った。しかるのち、りん酸マグネシウムとコロイダルシリカを主成分とするコーティングを施した。かくして得られた各製品板の磁気特性(磁束密度B8 、鉄損W17/50)および被膜特性(曲げ密着性、被膜外観)について調査した結果を表5に併記する。
【0074】
【表5】


【0075】同表に示したとおり、この発明法に従い製造した適合例はいずれも、良好な被膜特性および磁気特性を有している。また、これらの適合例では、脱炭焼鈍板表面の薄膜X線回折による FeCr2O4または(Fe, Mn)Cr2O4 の(202)ピークI1とファイヤライト質酸化物の(130)ピークI0 との強度比(I1/I0 )は全て 0.2以上 1.5以下であった。
【0076】実施例4表6に示すA〜Dの成分組成になるけい素鋼スラブを用意した。これらのけい素鋼スラブを、1430℃で30分間加熱後、熱間圧延を施して 2.5mm厚の熱延板とした。ついで1000℃, 1分間の熱延板焼鈍後、1回目の冷間圧延により板厚:1.7mmとし、1100℃, 1分間の中間焼鈍後、2回目の冷間圧延により最終板厚:0.23mmの冷延板に仕上げた。ついで、得られた冷延板に、H2−H2O −N2雰囲気中にて 840℃の脱炭焼鈍を施した。その際、昇温速度と雰囲気酸化度P(H2O)/P(H2)を表7に示すように種々に変更した。また、均熱時間や最終冷延後(脱炭焼鈍前)の電解脱脂条件(有無を含めて)等を適宜変更して、酸素目付量(片面当たり)を0.35〜0.95 g/m2 の範囲に調整した。ついで、MgOを主成分とする焼鈍分離剤をスラリー状にして、それぞれの脱炭焼鈍板コイルに塗布し、乾燥させた後、窒素雰囲気中にて 850℃, 20時間の保定処理に引き続き、窒素:25%、水素:75%の雰囲気中にて15℃/hr の速度で1150℃まで昇温する二次再結晶焼鈍を施したのち、1200℃の水素雰囲気中で5時間の純化焼鈍を行った。しかるのち、りん酸マグネシウムとコロイダルシリカを主成分とするコーティングを施した。かくして得られた各製品板の磁気特性(磁束密度B8 、鉄損W17/50)および被膜特性(曲げ密着性、被膜外観)について調査した結果を表7に併記する。
【0077】
【表6】


【0078】同表から明らかなように、この発明法に従い製造した適合例はいずれも、良好な被膜特性および磁気特性を示している。また、これらの適合例では、脱炭焼鈍板表面の薄膜X線回折による FeCr2O4または(Fe, Mn)Cr2O4 の(202)ピークI1 とファイヤライト質酸化物の(130)ピークI0 との強度比(I1/I0 )は全て 0.2以上 1.5以下であった。
【0079】実施例5表6に示したE,Fの成分組成になるからなるけい素鋼スラブを用意した。これらのけい素鋼スラブを、1200℃で30分間加熱後、熱間圧延を施して 2.5mm厚の熱延板とした。ついで1000℃, 1分間の熱延板焼鈍後、1回目の冷間圧延により板厚:1.7 mmとし、1100℃, 1分間の中間焼鈍後、2回目の冷間圧延により最終板厚:0.23mmの冷延板に仕上げた。ついで、得られた冷延板に、H2−H2O −N2雰囲気中にて 840℃の脱炭焼鈍を施した。その際、昇温速度と雰囲気酸化度P(H2O)/P(H2)を表7に示すように種々に変更した。また、均熱時間や最終冷延後(脱炭焼鈍前)の電解脱脂条件(有無を含めて)等を適宜変更して、酸素目付量(片面当たり)を0.35〜0.95 g/m2 の範囲に調整した。また、脱炭焼鈍に引き続いて、アンモニア雰囲気ガス中で鋼板を約 100 ppm窒化させる処理を行った。ついで、MgOを主成分とする焼鈍分離剤をスラリー状にして、それぞれの脱炭焼鈍板コイルに塗布し、乾燥させた後、窒素雰囲気中にて 800℃まで焼鈍してから、窒素:25%、水素:75%の雰囲気中にて15℃/hr の速度で1150℃まで昇温する二次再結晶焼鈍を施したのち、1200℃の水素雰囲気中で5時間の純化焼鈍を行った。しかるのち、りん酸マグネシウムとコロイダルシリカを主成分とするコーティングを施した。かくして得られた各製品板の磁気特性(磁束密度B8 、鉄損W17/50)および被膜特性(曲げ密着性、被膜外観)について調査した結果を表7に併記する。
【0080】
【表7】


【0081】同表から明らかなように、この発明法に従い製造した適合例はいずれも、良好な被膜特性および磁気特性を示している。また、これらの適合例では、脱炭焼鈍板表面の薄膜X線回折による FeCr2O4または(Fe, Mn)Cr2O4 の(202)ピークI1 とファイヤライト質酸化物の(130)ピークI0 との強度比(I1/I0 )は全て 0.2以上 1.5以下であった。
【0082】
【発明の効果】かくして、この発明に従い、脱炭焼鈍工程において生成する酸化膜(サブスケール)中に、FeCr2O4 または(Fe, Mn)Cr2O4 を主体とするスピネル型のCr酸化物を生成させることにより、被膜特性を格段に向上させて、被膜特性および磁気特性に優れた方向性けい素鋼板を得ることができる。また、この発明によれば、従来、良好なフォルステライト被膜を得ることが難しいとされた含Bi鋼板についても、良好な被膜特性を優れた磁気特性と共に兼備させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 脱炭焼鈍時、常温から 700℃までおよび 800℃から 850℃までの昇温速度が製品板の被膜特性および磁気特性に及ぼす影響を示した図である。
【図2】 (a) スピネル型のCr酸化物が生成していない場合および(b) スピネル型のCr酸化物が生成している場合における、脱炭焼鈍板表面を薄膜X線回折結果を比較して示したグラフである。
【図3】 スピネル型のCr酸化物が存在する脱炭焼鈍板のサブスケールを、表面からグロー放電分光(GDS)により分析した結果を示した図である。
【図4】 脱炭焼鈍板表面の薄膜X線回折による FeCr2O4または(Fe, Mn)Cr2O4の(202)ピークI1 とファイヤライト質酸化物の(130)ピークI0 との強度比(I1/I0 )と製品板の磁気特性および被膜特性との関係を示したグラフである。
【図5】 脱炭焼鈍時、常温から 700℃までおよび 780℃から 830℃までの昇温速度が製品板の被膜特性および磁気特性に及ぼす影響を示した図である。
【図6】 脱炭焼鈍板表面の薄膜X線回折による FeCr2O4または(Fe, Mn)Cr2O4の(202)ピークI1 とファイヤライト質酸化物の(130)ピークI0 との強度比(I1/I0 )と製品板の磁気特性および被膜特性との関係を示したグラフである。
【図7】 スピネル型のCr酸化物が存在する脱炭焼鈍板のサブスケールを、表面からグロー放電分光(GDS)により分析した結果を示した図である。サブスケール中にスピネル型のCr化合物が生成していない場合(a) と、している場合(b) の脱炭焼鈍板試料について、グロー放電分光(GDS)により表層部の成分分析を行った結果を比較して示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 C:0.03〜0.12wt%, Si:2.0 〜4.5 wt%, 酸可溶性Al:0.01〜0.05wt%, N:0.003 〜0.012 wt%およびMn:0.02〜0.5 wt%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になるけい素鋼スラブを、熱間圧延し、ついで1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を行ったのち、脱炭焼鈍し、ついで鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布してから、二次再結晶焼鈍および純化焼鈍からなる最終仕上げ焼鈍を施す一連の工程からなる方向性けい素鋼板の製造方法において、鋼スラブ中に 0.1〜1.0 wt%のCrを含有させ、脱炭焼鈍の際に、鋼板表層に形成される酸化膜(サブスケール)中にスピネル型のCr酸化物を生成させることを特徴とする被膜特性と磁気特性に優れた方向性けい素鋼板の製造方法。
【請求項2】 請求項1において、鋼スラブ中に、さらに 0.005〜0.20wt%のBiを含有させることを特徴とする被膜特性と磁気特性に優れた方向性けい素鋼板の製造方法。
【請求項3】 請求項1または2において、鋼スラブ中に、さらにSeおよび/またはS:0.010 〜0.040 wt%を含有させることを特徴とする被膜特性と磁気特性に優れた方向性けい素鋼板の製造方法。
【請求項4】 請求項1,2または3において、鋼スラブ中に、さらにSb:0.005 〜0.20wt%、Cu:0.01〜0.20wt%、Sn:0.02〜0.30wt%、Ge:0.02〜0.30wt%、Ni:0.01〜0.50wt%、P:0.002 〜0.30wt%、Nb:0.003 〜0.10wt%、V:0.003 〜0.10wt%およびMo:0.005 〜0.10wt%のうちから選んだ1種または2種以上を含有させることを特徴とする被膜特性と磁気特性に優れた方向性けい素鋼板の製造方法。
【請求項5】 請求項1〜4のいずれかにおいて、酸化膜(サブスケール)中のスピネル型のCr酸化物の主体が、FeCr2O4 または(Fe, Mn)Cr2O4 であることを特徴とする被膜特性と磁気特性に優れた方向性けい素鋼板の製造方法。
【請求項6】 請求項1〜4のいずれかにおいて、脱炭焼鈍後の鋼板表層の酸素目付量が片面当たリ0.35〜0.95 g/m2 で、しかも脱炭焼鈍板表面の薄膜X線回折によるFeCr2O4 または(Fe, Mn)Cr2O4 の(202)ピークI1 とファイヤライト質酸化物の(130)ピークI0 との強度比(I1/I0)が 0.2以上 1.5以下であることを特徴とする被膜特性と磁気特性に優れた方向性けい素鋼板の製造方法。
【請求項7】 請求項1〜4のいずれかにおいて、脱炭焼鈍に際し、均熱温度を800℃以上 900℃以下とし、少なくとも 700℃までは平均昇温速度:10〜50℃/sで昇温すると共に、(均熱温度−50℃)以下から均熱温度までは平均昇温速度:1〜9℃/sで昇温し、さらに均熱時における雰囲気酸化度(P(H2O)/P(H2))を0.30〜0.50にすると共に、加熱帯の雰囲気酸化度と均熱帯の雰囲気酸化度の差(均熱帯の雰囲気酸化度−加熱帯の雰囲気酸化度)を0.05〜0.20に設定することを特徴とする被膜特性と磁気特性に優れた方向性けい素鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【特許番号】特許第3386751号(P3386751)
【登録日】平成15年1月10日(2003.1.10)
【発行日】平成15年3月17日(2003.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−168317
【出願日】平成11年6月15日(1999.6.15)
【公開番号】特開2000−355717(P2000−355717A)
【公開日】平成12年12月26日(2000.12.26)
【審査請求日】平成12年5月24日(2000.5.24)
【前置審査】 前置審査
【出願人】(000001258)川崎製鉄株式会社 (8,589)
【参考文献】
【文献】特開 平7−331333(JP,A)