説明

被覆された微小突起を有する経皮ワクチン送達装置

免疫学的有効成分の経皮の(percutaneous)経皮(transdermal)送達のための装置および方法が提供される。剤を適切な界面活性剤と混合しかつ水に溶解して、極めて小型の皮膚貫通要素を被覆するための適切な濃度を有する水性コーティング溶液を形成する。コーティング溶液は既知の被覆技術を使用して皮膚貫通要素に塗布しかつその後乾燥する。該装置を生存している動物の皮膚に適用して微小突起に角質層を貫通させかつ免疫学的有効用量の免疫学的有効成分を動物に送達させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚を横断するワクチンの投与およびその経皮送達を高めることに関する。より具体的には、本発明は、免疫学的有効成分の乾燥コーティングを有する皮膚を貫通する微小突起を使用して角質層を通って免疫学的有効成分を投与するための経皮ワクチン送達系に関する。該乾燥コーティングは、微小突起に塗布された免疫学的有効成分および界面活性剤を含有する溶液から形成される。該剤の送達は、該微小突起が患者の皮膚を貫通しかつ患者の間質液が免疫学的剤と接触かつこれを溶解する場合に助長される。
【背景技術】
【0002】
薬物は最も慣習的には経口で若しくは注入によりのいずれかで投与される。不幸なことに、多くの医薬は吸収されないか若しくは血流に進入する前に悪影響を及ぼされるかのいずれかでありそして従って所望の活性を有しないため、それらは、経口で投与される場合に完全に無効であるか若しくは本質的に低下された有効性を有する。他方、血流中への医薬の直接注入は投与の間に該医薬の改変を想定しない一方で困難、不便、苦痛のかつ不快な処置であり、ときに乏しい患者コンプライアンスをもたらす。
【0003】
典型的には細胞若しくはウイルスの膜若しくは外側被膜の部分を形成するタンパク質分子であるワクチンは、生物体若しくはウイルスに対する抗体の産生を誘導するために生物体に導入される。ワクチンは、典型的には、身体に導入される弱化若しくは殺されたウイルスである。これはヒトおよび動物において疾患の予防を可能にする。
【0004】
ワクチンは伝統的に筋肉内 経口若しくは皮下注入により投与される。ワクチンのIV注入は有効でないか若しくは実用的でないかのいずれかである。ワクチンの経皮送達は皮膚の免疫学的応答性のため一代替である。
【0005】
皮膚は身体を外的危険から遮る物理的障壁であるのみならず、しかしまた免疫系の不可欠の一部分でもある。皮膚の免疫機能は、集合的に皮膚免疫系として知られる先天的および後天的双方の免疫機能をもつ生存可能な表皮および真皮に居住する(residential)細胞性および体液性の構成要素の集合体から生じる。
【0006】
皮膚免疫系の最も重要な成分の1つは生存可能な表皮で見出される特殊な抗原提示細胞であるランゲルハンス細胞(LC)である。LCは、周囲の細胞間のそれらの樹状突起の広範囲の分枝により生存可能な表皮中で半連続的ネットワークを形成する。LCの通常の機能は抗原を検出、捕捉かつ提示して侵襲する病原体に対する免疫応答を惹起することである。LCは、皮膚上の抗原をインターナリゼーションし、領域の皮膚から排出するリンパ節にトラフィッキングし、かつプロセシングした抗原をT細胞に提示することによりその機能を実施する。
【0007】
皮膚免疫系の有効性は皮膚を標的としたワクチン接種戦略の成功および安全性の原因である。皮膚乱刺法による生存弱毒性痘瘡ワクチンを用いるワクチン接種は致命的な痘瘡疾患の世界的な根絶に成功裏に至った。多様なワクチンの標準的IM用量の1/5ないし1/10を使用する皮内注入は多数のワクチンを用いての免疫応答の誘導において有効であった一方、低用量の狂犬病ワクチンは皮内適用のため商業的に認可されている。
【0008】
一代替として、経皮送達は、そうでなければ皮下注入若しくは静脈内注入を介して送達される必要があるとみられるワクチンの投与方法を提供する。経皮ワクチン送達はこれらの領域の双方において改善を提供する。経皮送達は、経口送達と比較した場合に、消化管の苛烈な環境を回避し、胃腸の薬物代謝を迂回し、初回通過効果を低下させかつ消化酵素および肝酵素による可能な不活性化を回避する。逆に、消化管は経皮投与の間にワクチンにさらされない。しかしながら、多くの例において、受動的経皮経路を介する多くのワクチンの送達すなわち流動の速度は、免疫学的に有効であるにはあまりにも制限されている。
【0009】
「経皮」という語は皮膚層を横断する剤の通過を指す包括的な用語として本明細書で使用する。「経皮」という語は、外科的ナイフで切断すること若しくは皮下針で皮膚を貫通することのような皮膚の実質的な切断若しくは貫通を伴わない、局所組織若しくは全身の循環系への皮膚を通る剤(例えばワクチン若しくは薬物のような治療薬)の送達を指す。経皮剤送達は、受動拡散を介する送達ならびに電気(例えばイオントフェレーシス)および超音波(例えばフォノフォレーシス)を包含する外的エネルギー源に基づく送達を包含する。薬物は角質層および表皮双方を横断して拡散する一方、角質層を通る拡散の速度はしばしば、とりわけより大きなタンパク質、ペプチド、オリゴヌクレオチドおよびワクチンについて制限段階となる。多くの化合物は、免疫学的有効用量を達成するために、単純な受動的経皮拡散により達成し得るより高い送達速度を必要とする。注入に比較した場合、経皮剤送達は関連する疼痛を排除しかつ感染の可能性を低下させる。
【0010】
経皮薬物送達系は一般に受動拡散に頼って薬物を送達する一方、能動的経皮薬物送達系は外的エネルギー源(例えば電気)に頼って薬物を送達する。受動的経皮薬物送達系がより一般的である。受動的経皮系は、薬物が患者の皮膚を通りかつ身体組織若しくは血流中に拡散する皮膚と接触するよう適合された高濃度の薬物を含有する薬物貯留槽を有する。経皮薬物流動は皮膚の状態、薬物分子の大きさおよび物理的/化学的特性ならびに皮膚を横断する濃度勾配に依存する。多くの薬物に対する皮膚の低い浸透性のため、経皮送達は制限された応用を有していた。この低浸透性は主として角質層(脂質二重層により取り囲まれたケラチン線維で満たされた平坦な死んだ細胞(ケラチノサイト)よりなる最外皮膚層)に帰される。脂質二重層のこの高度に整った構造は、角質層に比較的不浸透性の特徴を賦与する。
【0011】
受動的経皮拡散性の薬物流動の一般的な一増大方法は、皮膚浸透増強剤で皮膚を前処理すること若しくは薬物とともに共送達することを必要とする。浸透増強剤は、薬物が送達される身体表面に適用される場合にそれを通る薬物の流動を高める。しかしながら、経皮的タンパク質流動を高めることにおけるこれらの方法の有効性は、少なくともより大きなタンパク質については、それらの大きさにより制限されている。
【0012】
能動輸送系は外的エネルギー源を使用して角質層を通る薬物の流動を補助する。経皮薬物送達のための1つのこうした増強は「電気輸送(electrotransport)」と称される。この機構は電位を使用し、それは皮膚のような身体表面を通る剤の輸送において補助するための電流の適用をもたらす。他の能動輸送系は外的エネルギー源として超音波(フォノフォレーシス)および熱を使用する。
【0013】
経皮的に送達される剤の量を高めるために最外皮膚層を機械的に浸透若しくは破壊してそれにより皮膚中に経路を創製する多くの試みもまた存在する。乱切器(scarifier)として知られる早期のワクチン接種装置は、一般に、皮膚に適用して適用の領域を引っ掻く若しくはそれ中に小さな切創を作成する複数の尖叉若しくは針を有した。ワクチンは、特許文献1のように皮膚上に、または、特許文献2若しくは特許文献3若しくは特許文献4のような乱切器の尖叉に適用された湿らされた液体としてのいずれかで局所に適用された。乱切器は、部分的に、患者の免疫において有効であるためには非常に少量のワクチンのみが皮膚中に送達される必要があるために皮内ワクチン送達のため示唆されている。さらに、過剰量は満足すべき免疫感作もまた達成するため、送達されるワクチンの量はとりわけ決定的に重要というわけではない。しかしながら、ワクチンを送達するための乱切器の使用における重大な一欠点は、送達される経皮投薬量の決定における困難である。また、穿刺を反らしかつそれに抵抗する皮膚の弾性(elastic)、変形性かつ弾性(resillient)の性質により、小さな貫通要素はしばしば均一に皮膚に浸透せずかつ/若しくは皮膚浸透に際して剤の液体コーティングを離れて拭われる。加えて、皮膚の自己治癒過程により、皮膚に作成された穿刺若しくは細隙は角質層からの貫通要素の除去後に閉鎖する傾向がある。従って、皮膚の弾性の性質は、皮膚中への小型貫通要素の浸透に際してこれらの要素に塗布されている有効成分のコーティングを除去するよう作用する。さらに、貫通要素により形成された小型の細隙は装置の除去後に迅速に治癒し、従って貫通要素により創製された通路を通る剤の通過を制限し、そして順にこうした装置の経皮流動を制限する。
【0014】
経皮薬物送達を高めるために小型の皮膚貫通要素を使用する他の装置は、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11ならびに特許文献12、特許文献13、特許文献14、特許文献15、特許文献16、特許文献17、特許文献18、特許文献19、特許文献20、特許文献17、特許文献21、特許文献22、特許文献23および特許文献24(全部はそっくりそのまま引用することにより組込まれる)に開示されている。これらの装置は皮膚の最外層(すなわち角質層)を貫通するために多様な形状および大きさの貫通要素を使用する。これらの参考文献に開示される貫通要素は、一般にパッド若しくはシートのような薄い平坦な部材から垂直に伸長する。これらの装置のいくつか中の貫通要素は極めて小さく、いくつかは長さわずか約25〜400μmの寸法およびわずか約5〜50μmの厚さを有する。これらの小型の貫通/切断要素は、角質層を通る高められた経皮剤送達のため角質層中に相応して小さな微小細隙/微小切創を作成する。
【0015】
一般に、これらの系は薬物を保持するための貯留槽およびまた装置それ自身の中空尖叉によるような該貯留槽から角質層を通って薬物を移動させるための送達系も包含する。こうした装置の一例は特許文献25に開示され、液体薬物貯留槽を有する。該貯留槽は小型の管状要素を通りかつ皮膚中に液体薬物を押し込むために加圧されなければならない。これらのような装置の欠点は、加圧可能な液体貯留槽を付加するための追加される複雑化および費用、ならびに圧に駆動される送達系の存在による複雑化を包含する。
【0016】
物理的貯留槽の代わりに、送達されるべきである薬物を微小突起上に被覆させることが可能である。これは、貯留槽およびとりわけ該貯留槽のための薬物製剤若しくは組成物を開発する必要性を排除する。
【0017】
剤溶液が微小突起に塗布される場合、形成されるコーティングが均質でありかつ好ましくは微小突起それら自身に制限されて均一に塗布されることが重要である。これは、該装置が一旦皮膚に適用されかつ角質層が貫通されれば、アレイ全体に分配されたコーティングに比較して間質液中の該剤のより大きな溶解を可能にする。
【0018】
加えて、均質なコーティングは保存の間および皮膚中への挿入の間の双方でより大きな機械的安定性を提供する。弱くかつ不連続的なコーティングは、製造および保存の間に剥離しかつ該微小突起の皮膚中への適用の間に皮膚により拭い落とされることがよりありそうである。
【特許文献1】Rabenauに交付された米国特許第5,487,726号明細書
【特許文献2】Galyに交付された米国特許第4,453,926号明細書
【特許文献3】Chacornacに交付された米国特許第4,109,655号明細書
【特許文献4】Kravitzに交付された米国特許第3,136,314号明細書
【特許文献5】欧州特許第EP 0 407063A1号明細書
【特許文献6】Godshallらに交付された米国特許第5,879,326号明細書
【特許文献7】Gandertonらに交付された米国特許第3,814,097号明細書
【特許文献8】Grossらに交付された米国特許第5,279,544号明細書
【特許文献9】Leeらに交付された米国特許第5,250,023号明細書
【特許文献10】Gerstelらに交付された米国特許第3,964,482号明細書
【特許文献11】Kravitzらに交付された再交付第25,637号
【特許文献12】PCT公開第WO 96/37155号明細書
【特許文献13】PCT公開第WO 96/37256号明細書
【特許文献14】PCT公開第WO 96/17648号明細書
【特許文献15】PCT公開第WO 97/03718号明細書
【特許文献16】PCT公開第WO 98/11937号明細書
【特許文献17】PCT公開第WO 98/00193号明細書
【特許文献18】PCT公開第WO 97/48440号明細書
【特許文献19】PCT公開第WO 97/48441号明細書
【特許文献20】PCT公開第WO 97/48442号明細書
【特許文献21】PCT公開第WO 99/64580号明細書
【特許文献22】PCT公開第WO 98/28037号明細書
【特許文献23】PCT公開第WO 98/29298号明細書
【特許文献24】PCT公開第WO 98/29365号明細書
【特許文献25】PCT公開第WO 93/17754号明細書
【発明の開示】
【0019】
[発明の要約]
本発明の装置および方法は、水分を含まない均質なコーティングで被覆されている微小突起を有する微小突起装置を使用して免疫学的有効成分を経皮送達することによりこれらの制限を克服する。本コーティングは、有効量のワクチンを含有するコーティングを提供しかつ皮膚中に導入される場合に該コーティングの溶解を促進する十分な量の界面活性剤を含有する。本発明は、複数の角質層を貫通する微小突起上に均質なコーティングを有することによる、好ましくは哺乳動物および最も好ましくはヒトの角質層を通って免疫学的有効成分を送達するための装置および方法に向けられる。
【0020】
これらの界面活性剤はいくつかの分類に属する。SDSなどのような負に荷電しているものが存在する。それらはまた塩化セチルピリジニウム(CPC)、TMAC、塩化ベンザルコニウムのような正にも荷電し得るか、またはトゥイーン、ソルビタン若しくはラウレスのような中性でもあり得る。
【0021】
界面活性剤は微小突起を被覆するのに使用される薬物製剤中に組込み得る。本発明の好ましい一態様は、後で乾燥されてコーティングを形成する免疫学的有効成分および界面活性剤の溶液を微小突起に塗布することにより複数の微小突起上に被覆されている有益な剤を角質層を通って送達するための装置よりなる。本コーティング溶液は、好ましくは約1wt%から約30wt%までの界面活性剤を含有する。場合によっては、微小突起は該微小突起上に形成されるコーティングの均一性を高めるよう表面処理される。該装置は複数の、および好ましくは多数の角質層を貫通する微小突起を有する部材を含んでなる。該微小突起のそれぞれは600μm未満の長さを有するか、若しくは、600μmより長い場合には、該微小突起が600μmを超えない深さまで皮膚を貫通することを確実にする手段が提供される。これらの微小突起はその上に水分を含まないコーティングを有する。該コーティングは乾燥する前に免疫学的有効成分および界面活性剤の水性溶液を含んでなる。免疫学的有効成分は、免疫学的有効用量を微小突起上に塗布し得るように十分に濃縮されている溶液として微小突起に塗布される。該量は好ましくは約1マイクログラムないし約500マイクログラムの範囲にある。該溶液は、微小突起の表面上に一旦被覆されれば、免疫学的有効量の免疫学的有効成分を提供する。該コーティングは当該技術分野で既知の乾燥方法を使用して微小突起上でさらに乾燥される。
【0022】
本発明の別の好ましい態様は、免疫学的有効成分を経皮送達するための装置の作成方法よりなる。該方法は、複数の角質層を貫通する微小突起を有する部材を提供することを含んでなる。免疫学的有効成分および界面活性剤の水性溶液を微小突起に塗布し、そしてその後乾燥してその上に水分を含まない剤を含有するコーティングを形成する。免疫学的有効成分は、コーティング内に免疫学的有効用量を含有し得るように水性溶液中で十分に濃縮されている。該組成物は、免疫学的有効成分が条件により不活性にされない限りはいかなる温度でも製造し得る。該溶液は、微小突起の表面上に一旦被覆されれば、免疫学的有効量の免疫学的有効成分を提供する。
【0023】
コーティングの厚さは好ましくは微小突起の厚さ未満であり、より好ましくは該厚さは50μm未満かつ最も好ましくは25μm未満である。一般に、コーティングの厚さは微小突起全体で測定される平均厚さである。
【0024】
最も好ましい剤は、慣習的ワクチン、組換えタンパク質ワクチンおよび治療的癌ワクチンより成る群から選択される。
【0025】
コーティングは既知のコーティング方法を使用して微小突起に塗布し得る。例えば、微小突起は、2002年3月15日出願の係属中の米国特許出願第10/099604号明細書に記述されたとおり剤の水性コーティング溶液中に微小突起を浸積若しくは部分的に浸積し得る。あるいはコーティング溶液を微小突起上に噴霧し得る。好ましくは噴霧液は約10〜200ピコリットルの液滴大きさを有する。より好ましくは、該液滴大きさおよび配置は、コーティング溶液が微小突起上に直接付着されかつ微小突起を有する部材の他の「非貫通」部分上にされないように印刷技術を使用して正確に制御される。
【0026】
本発明の別の局面において、角質層を貫通する微小突起はシートから成形され、ここで、微小突起はシートを蝕刻若しくは打抜きすることにより形成し、そしてその後微小突起をシートの面から折り畳み若しくは曲げる。薬理学的有効成分のコーティングを微小突起の成形前にシートに塗布し得る一方、好ましくは、コーティングは微小突起が切断若しくは蝕刻された後しかしシートの面から折り畳まれる前に塗布する。微小突起がシートの面から折り畳まれ若しくは曲げられた後に被覆することがより好ましい。
[発明の詳細な記述]
定義:
別の方法で述べられない限り、本明細書で使用される以下の用語は以下の目的の範囲を有する。
【0027】
「経皮」という用語は局所若しくは全身治療のための皮膚中へかつ/若しくはそれを通る剤の送達を意味する。
【0028】
「経皮流動」という用語は経皮送達の速度を意味する。
【0029】
本明細書で使用されるところの「共送達すること」という用語は、補助的な剤(1種若しくは複数)が、該剤が送達される前、該剤の経皮流動の前および間、該剤の経皮流動の間、該剤の経皮流動の間および後、ならびに/若しくは該剤の経皮流動の後のいずれかに経皮投与されることを意味する。加えて、2種若しくはそれ以上の有益な剤を微小突起上に被覆して有益な剤の共送達をもたらしてよい。
【0030】
本明細書で使用されるところの「免疫学的有効成分」という用語は、ワクチン若しくは免疫学的有効量で投与される場合に免疫学的に有効である他の免疫学的有効成分を含有する組成物若しくは混合物を指す。
【0031】
「免疫学的有効量」若しくは「免疫学的有効速度」という用語は、所望の免疫学的なしばしば有益な結果を刺激若しくは開始させるのに必要とされる免疫学的有効成分の量若しくは速度を指す。コーティング中で使用される剤の量は、所望の免疫学的結果を達成するのに必要とされる剤の量を送達するのに必要な量であることができる。実務において、これは、送達されている特定の免疫学的有効成分、送達の部位、ならびにコーティングから皮膚組織中への剤の送達に関する溶解および放出のキネティクスに依存して広範に変動することができる。
【0032】
「微小突起(microprotrusion)」若しくは「微小突起(microprojection)」という用語は、生存している動物、とりわけ哺乳動物およびより具体的にはヒトの皮膚の角質層を通って下にある表皮層すなわち表皮および真皮層中に貫通若しくは切断するよう適合されている貫通要素を指す。貫通要素は大きな出血を引き起こす深さまで皮膚を貫通すべきでない。典型的には、貫通要素は500ミクロン未満、および好ましくは250ミクロン未満の長さを有する。微小突起は、典型的には約5ないし50ミクロンの幅および厚さを有する。微小突起は針、中空針、刃、ピン、パンチおよびそれらの組合せのような多様な形状で成形してよい。
【0033】
本明細書で使用されるところの「微小突起アレイ」若しくは「微小突起部材」という用語は、角質層を貫通するため一列に配置された複数の微小突起を指す。微小突起アレイは、薄いシートから複数の微小突起を蝕刻若しくは打抜きすること、および該微小突起をシートの面から折り畳み若しくは曲げて図1に示されるもののような形状を形成することにより成形してよい。微小突起アレイはまた、Zuck、米国特許第6,050,988号明細書に開示されるところの細片(1個若しくは複数)のそれぞれの縁に反って微小突起を有する1個若しくはそれ以上の細片を成形することによるような他の既知の様式で成形してもよい。微小突起アレイは、水分を含まない薬理学的有効成分を保持する中空針を包含してよい。
【0034】
シート若しくは部材の領域への言及およびシート若しくは部材の領域に関するなんらかの特性に関する言及は、シートの外周すなわち境界により境界を定められる領域を指している。
【0035】
「パターンコーティング」という用語は微小突起の選択された領域上に剤を被覆することを指す。1種以上の免疫学的有効成分を単一の微小突起アレイ上にパターンコーティングしてよい。パターンコーティングは、マイクロピペッティングおよびインクジェットコーティングのような既知の微小液体分配技術を使用して微小突起に塗布し得る。微小突起のごく端部にコーティングを塗布することを指す先端コーティングが好ましい型のパターンコーティングである。
【0036】
「溶液」という用語は、完全に溶解された成分の組成物のみならず、しかしまたタンパク質ウイルス粒子、不活性ウイルスおよび分割ビリオン(split−virion)の懸濁液も包含する。
詳細な説明
本発明は免疫学的有効成分の必要な患者にそれを経皮送達するための装置を提供する。該装置はそれから伸長する複数の角質層を貫通する微小突起を有する。微小突起は、角質層を通って下にある表皮層若しくは真皮層中に貫通するように適合されるが、しかし毛細血管床に達しかつ大きな出血を引き起こすように深く浸透しない。微小突起は免疫学的有効成分を含有するその上の水分を含まないコーティングを有する。皮膚の角質層の貫通に際して剤を含有するコーティングが体液(細胞内液および間質液のような細胞外液)により溶解されかつ皮膚中に放出される。
【0037】
剤を含有するコーティングの溶解および放出のキネティクスは、免疫学的有効成分の性質、コーティング方法、コーティングの厚さおよびコーティングの組成(例えばコーティング製剤添加物の存在)を包含する多くの因子に依存することができる。放出のキネティクスのプロファイルに依存して、延長された時間(例えば約8時間まで)被覆された微小突起を皮膚と貫通する関係に維持することが必要であるかもしれない。これは、接着剤を使用して微小突起部材を皮膚に固定すること、若しくは第WO 97/48440号明細書(そっくりそのまま引用することにより組込まれる)に記述されるような固定された微小突起を使用することにより達成し得る。
【0038】
図1は、本発明での使用のための角質層を貫通する微小突起部材5の一態様を具体的に説明する。図1は複数の微小突起10を有する部材5部材の一部分を示す。微小突起10は実質的に90°の角度で開口部14を有するシート12から伸長する。シート12は、シート12の裏打ちを包含する送達貼付剤に組込まれてよく、また、付加的に、皮膚に外貼付剤を接着させるための接着剤を包含してもよい。本態様において、微小突起は、薄い金属シート12から複数の微小突起10を蝕刻若しくは打抜きすること、および微小突起10を該シートの面から曲げることにより成形される。ステンレス鋼およびチタンのような金属が好ましい。金属製微小突起部材は、Trautmanら、米国特許第6,083,196号;Zuck 米国特許第6,050,988号明細書;およびDaddonaら、米国特許第6,091,975号明細書(それらの開示は引用することにより本明細書に組込まれる)に開示されている。本発明で使用し得る他の微小突起部材は、シリコンチップ蝕刻技術を使用してシリコンを蝕刻することにより、若しくは蝕刻された微小金型を使用してプラスチックを成形することにより成形される。シリコンおよびプラスチックの微小突起部材はGodshallら、米国特許第5,879,326号明細書(その開示は引用することにより本明細書に組込まれる)に開示されている。
【0039】
図2は複数の微小突起10(そのいくつかは免疫学的有効成分を含有するコーティング16若しくは20を有する)を有する微小突起部材5を具体的に説明する。これらのコーティングは微小突起10を部分的に(コーティング19)若しくは完全に(コーティング20)覆ってよい。コーティングは、典型的には微小突起を成形した後に塗布される。
【0040】
微小突起上のコーティングは多様な既知の方法により形成してよい。1つのこうした方法は浸積被覆である。浸積被覆は、薬物を含有するコーティング溶液中に微小突起を部分的に若しくは完全に浸積することにより微小突起を被覆する手段として記述し得る。あるいは、装置全体をコーティング溶液中に浸積し得る。皮膚を貫通する微小突起部材の部分のみを被覆することが好ましい。
【0041】
上述された部分浸積技術の使用により、コーティングを微小突起の先端のみに制限することが可能である。微小突起の先端にコーティングを制限するローラーコーティング機構もまた存在する。この技術は米国特許(2002年3月16日出願の第10/099604号;引用することにより本明細書に完全に組込まれる)に記述されている。
【0042】
他のコーティング方法は微小突起上にコーティング溶液を噴霧することを包含する。噴霧することは、コーティング組成物のエアゾル懸濁液の形成を包含し得る。好ましい一態様において、約10ないし200ピコリットルの液滴大きさを形成するエアゾル懸濁液を微小突起上に噴霧しかつその後乾燥させる。別の態様において、非常に少量のコーティング溶液を、パターンコーティング18として図3に示されるように微小突起10上に付着させ得る。パターンコーティング18は、付着される液体を微小突起表面上に配置するための分配系を使用して塗布し得る。付着される液体の量は、好ましくは微小突起あたり0.5ないし20ナノリットルの範囲にある。適する精密計量液体分配装置の例は、米国特許第5,916,524号;同第5,743,960号;同第5,741,554号;および同第5,738,728号明細書(それらの開示は引用することにより本明細書に組込まれる)に開示されている。微小突起コーティング溶液はまた、既知のソレノイド弁分配装置、任意の液体駆動手段、および電場の使用により全般として制御される配置手段を使用するインクジェット技術を使用しても塗布し得る。印刷業界からの他の液体分配技術、若しくは当該技術分野で既知の類似の液体分配技術を、本発明のパターンコーティングを塗布するために使用し得る。
【0043】
所望のコーティング厚さは、シートの単位面積あたりの微小突起の密度ならびにコーティング組成物の粘度および濃度、ならびに選ばれた被覆方法に依存する。より厚いコーティングは角質層の貫通に際して微小突起を捨てる傾向を有するため、一般にコーティング厚さは50ミクロン未満であるべきである。好ましいコーティング厚さは、微小突起表面から測定される際に25ミクロン未満である。一般に、コーティング厚さは、被覆された微小突起上で測定される平均のコーティング厚さと称される。
【0044】
本発明で使用される免疫学的有効成分は約1マイクログラムないし約500マイクログラムの用量を必要とする。この範囲内の量は図1に示される型の微小突起アレイ上に被覆し得、ここで、シート12は10cmまでの面積および1cmあたり1000個までの微小突起の微小突起密度を有する。
【0045】
全部の場合において、コーティングが塗布された後に、コーティング溶液を多様な手段により微小突起上で乾燥させる。好ましい一態様において、被覆された装置は周囲室条件で乾燥させる。しかしながら、微小突起上のコーティング溶液を乾燥させるために多様な温度および湿度レベルを使用し得る。加えて、該装置はコーティングから水を除去するために加熱、凍結乾燥、真空乾燥若しくは類似の技術が使用され得る。
【0046】
他の既知の製剤補助物質は、それらがコーティング溶液の必要な溶解性および粘度の特徴ならびに乾燥されたコーティングの物理的完全性に悪影響を及ぼさない限りはコーティング溶液に添加し得る。加えて、いかなる付加的な製剤補助物質も免疫学的有効成分の免疫原性の刺激抗力を有意に低下させるべきでない。
【0047】
以下の実施例は、当業者が本発明をより明瞭に理解かつ実施することを可能にするために示される。それらは本発明の範囲を制限するとみなされるべきでなく、しかし単にその代表的なものとして具体的に説明されているとみなされるべきである。
【実施例】
【0048】
タンパク質の可溶化における界面活性剤の有効性を示すため予備研究を実施した。第一の一連の研究で使用された3種のタンパク質/ペプチドは卵アルブミン(45Kd)、リゾチーム(14Kd)およびシクロスポリンA(1.2Kd)であった。
【0049】
最初の2種のタンパク質のそれぞれの10wt%水性溶液は、該溶液を95℃の温度に15分間曝露させることにより熱変性させた。変性の結果として、2種の変性させたタンパク質は非常に低い水溶解性を示した。シクロスポリンAは低い水溶解性を固有に表す。
【0050】
3種のタンパク質/ペプチドサンプルのそれぞれを、変動する濃度のSDSを有する溶液の製剤で使用した。wt%に関して表されるところの各サンプルの溶解性を測定し、そしてそのサンプルのSDSの濃度に対しプロットした。本データを図4に示す。
【0051】
3種の試験タンパク質について、溶解性は、10wt%であった試験したSDSの最高濃度までSDS濃度を増大させるとともに増大したことが明らかである。
【0052】
他の界面活性剤および濃度を溶液0.5wt%卵アルブミンに対し試験した。データを下の表1に示す。卵アルブミン溶液の完全な可溶化において有効であった製剤は「+」で示し、完全な可溶化を遂げなかったものは「−」で印をつける。
【0053】
【表1】

【0054】
多様な界面活性剤がインフルエンザワクチン製剤で微小突起アレイを介する送達について評価されている。一価の「分割ビリオン」インフルエンザワクチン(A/Panama/2007/99、H3N2)を使用して多様な界面活性剤を評価した。このワクチンを製造するため、卵胚由来であるインフルエンザウイルス粒子を分割させかつ標準的プロトコルに従い界面活性剤および有機溶媒で抽出した。精製後、ワクチン溶液は有意の量の凝集したタンパク質および水不溶性の脂質を含有するためにそれは懸濁液のままである。
【0055】
微小突起アレイコーティングのための液体製剤は、十分な固形分含量(ワクチン含量)、液体粘度、液体製剤と通常チタンである微小突起表面との間の好都合な表面エネルギーを包含するいくつかの液体特性基準を満足しなければならない。「分割ビリオン」流感ワクチン製剤は界面活性剤の評価で使用するのに良好な素材である。濃縮されたワクチンは高度に濁っており(乳白色)これはおそらく分割されたウイルス粒子および多様な大きさの凝集したタンパク質の懸濁の結果であるからである。高濁度の出発原料を使用することは、ウイルス粒子を可溶化する多様な界面活性剤製剤の能力を評価することをより容易にする。
【0056】
微小突起上の良好なコーティングを助長するために可溶化過程を制御することが重要である。懸濁液中の微粒子、とりわけ大型粒子(>10μm)は被覆過程を妨害若しくは混乱しさえするかもしれない。第二の問題は、とりわけ凝集したヘマグルチニン(HA)粒子が間質液の存在下で免疫学的に活性の形態に戻ることが不可能である場合に皮膚中の表皮層中への送達に際して凝集した抗原タンパク質HA若しくは他の免疫学的に刺激性のエピトープの抗原性/免疫原性を低下させる可能性である。
【0057】
本実施例で使用した界面活性剤は:
1.Triton X100(図5中の第1行の構造を参照されたい)。
2.Zwittergent(図5中の第2行の構造を参照されたい)。
3.ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、CH(CH11SONa
4.Tween 20若しくは80、ポリソルベート20若しくは80(図5中の第3行の構造を参照されたい)。
5.Pluronic F68、プロピレンオキシド(PO)およびエチレンオキシド(EO)のブロックコポリマー。プロピレンオキシドブロック[PO]が2個のエチレンオキシドブロック[EO]の間に挟まれている(図5中の第4行の構造を参照されたい。)
である。
【0058】
界面活性剤1〜3は、タンパク質分子を活発に結合させてタンパク質のコンホメーション変化を引き起こすことによりタンパク質を変性させることが既知である強力な界面活性剤である。従って、それらの可溶化能力にもかかわらず、タンパク質を変性させるそれらの傾向がHAの減少された抗原性および免疫原性についての懸念を生じさせる。TweenおよびPluronicはSDS、TritonおよびZwittergentに比較してより穏やかであり、従ってそれらは抗原に対しより良好な長期安定性を提供するとみられる。
多様な界面活性剤の可溶化能力
出発ワクチン原料の濁度をUV/可視分光測光法を使用して340nmでの吸光度を測定することにより測定した。80μg/mLのHA濃度を有する出発原料は極めて乳白光を放った(より高レベルの吸光度がより高程度の濁度を暗示する表2を参照されたい)。溶液を0.1%の界面活性剤濃度にするようにそれらを調節した後、ワクチン溶液は多様なレベルに澄明化し、これらの界面活性剤の可溶化力が:
SDS≒Zwittergent 3−14>Triton X100>Tween 20≒Pluronic F68
の順序に従うことを示唆した。
【0059】
【表2】

【0060】
Zwittergentもまた評価した。Zwittergentは分子中のメチレン基の数に基づく異なる疎水性で利用可能である界面活性剤の一族である(図5)。表3は、1wt%の示されたZwittergentを含有する数種の異なる製剤の可溶化力を要約する。Zwittergentは、疎水性を増大させるとともに、340ナノメートルでの濁度の測定値により測定されるとおり増大された可溶化力を示した。
【0061】
【表3】

【0062】
前処方方法の評価
商業的ワクチン製剤は、典型的に最低3種の異なるインフルエンザ株からのHAを含有する。本明細書に記述される出発ワクチン原料は単一の型および株(A/Panama)のみを含有する。本原料は0.4mg/mLのHA濃度を有する。
【0063】
インフルエンザウイルスは鶏卵で増殖されるため、出発原料製剤はHAのみならずしかし除去されていない卵からのタンパク質および脂質のような他の物質を含有する。多くの患者が卵に対しアレルギー性であるため、また、他のおそらく感作する物質への患者の曝露を低下させるために、出発原料中にある非HA物質を可能な限り多く除去することが必要である。
【0064】
上を考慮して、出発ワクチン原料を緩衝剤交換しかつ高度に濃縮することができる。以下の手順を、コーティング製剤を製造するための前提条件として出発ワクチン原料に対し実施した:
平行流(tangential flow)濾過(TFF)による限外濾過/濃縮
限外濾過を注射用水(WFI)に対し実施した。TFF系中で、500mLの出発ワクチン原料をTFF装置中で50mLに濃縮し、それをその後2×500mLの限外濾過溶液を用いて限外濾過し、そしてその後およそ10mg/mLのHA濃度を有する最終容量まで濃縮した。
凍結乾燥
上の溶液を糖(ショ糖若しくはトレハロース二水和物のいずれか)の存在下で凍結乾燥した。凍結乾燥した物質の化学組成を表4に要約する:
【0065】
【表4】

【0066】
界面活性剤を含有する液体製剤での再構成
表5(下)に示される4種の溶液の凍結乾燥した物質を再構成する能力を、50mg/mlのHA濃度をもつ製剤を提供するために必要とされる適正な再構成溶液の全体的な測定の一部として評価した。
【0067】
【表5】

【0068】
表5に示される多様な再構成製剤の評価に基づき、さらなる研究を実施し、そして、以下の製剤が、50mg/mlのHA濃度までの凍結乾燥したHA溶液の再構成において有効であった。
【0069】
【表6】

【0070】
乾燥した後、上の製剤の3種の各成分の組成を下の表6に示されるとおり推定し得た。
【0071】
【表7】

【0072】
界面活性剤は各製剤の主要成分であり、全固形物のおよそ50%を構成する。
液体の特性(粘度、接触角、固形分含量)
微小突起コーティングに決定的に重要な液体製剤パラメータをコーティング前の多様な製剤について測定した。粘度、湿潤性および固形分含量を包含するこれらのパラメータを表7に示す。
【0073】
接触角は、既知容量の製剤を1cmのチタン円板に対する表面上に置くことにより測定する。接触角は、支持体(substrate)の支持体(support)表面と、該支持体(substrate)との液滴の接触点での接線との間の角と定義し得る。
【0074】
73°の接触角を有する純水、若しくは界面活性剤なしの製剤に比較して、製剤中の界面活性剤の存在は、接触角の減少により明示されるとおりチタン表面上への液体製剤の湿潤性を改善する。微小突起コーティングを、これらの界面活性剤がコーティングの性能にどのように影響を及ぼすかを理解するために実施した。
【0075】
【表8】

【0076】
コーティングの実施可能性
250μL塗布機を全部の被覆実験に使用した。本塗布機は、被覆する間の水の喪失/蒸発を補償するためにシリンジポンプによる新鮮な水の添加を可能にする水入力ラインを装備されている。水添加の速度は3μL/分である。直線被覆速度は1.15cm/sである。アレイは2cmの表面積を有する。われわれは全部の製剤/設計で12回の塗膜を塗布した。
【0077】
全部のコーティングは、SEMによる検査に基づき許容できるコーティングの形態学を示す。これらの界面活性剤は先端コーティング(すなわちコーティングの位置が微小突起の先端に近い)を促進するようである。浸透がコーティングの部分を間質液により溶解されるために皮膚中に十分遠く運搬しない場合、先端から遠すぎるコーティングは送達不可能であるかもしれないため、こうしたコーティング位置は好ましいと思われる。この先端コーティングは、界面活性剤を欠く、若しくは不十分な量のこれらの界面活性剤の存在下のいずれかの製剤では制御するのが困難である。
送達の結果
多様なHA製剤で乾燥被覆した微小突起からのHAの皮膚中への送達の効率を測定するためにさらなる研究を実施した。送達研究は無毛モルモットで実施した。一連の微小突起アレイを下の表8に示される製剤で被覆した。製剤はフルオレセイン(蛍光マーカー)もまた含有した。
【0078】
被覆された微小突起アレイの皮膚への予め決められた時間の適用後に、3個の起源から収集したサンプルからフルオレセイン測定を行った。第一のものは微小突起アレイ適用部位から採取した皮膚生検中のフルオレセインの測定であった。適用期間は、皮膚に送達されたフルオレセインが生検した皮膚の領域を超えて移動するための時間を有しないように十分短かった。第二の起源は微小突起アレイ上で見出された溶解されない残渣からであった。第三のものは微小突起アレイの除去直後に皮膚適用部位で見出された表面物質を洗い落とすのに使用した溶液からであった。
【0079】
送達効率は、回収された総量に関しての皮膚中のフルオレセインのパーセンテージと定義する。送達試験を実施し、そして結果を表8に要約する。
【0080】
【表9】

【0081】
全部の製剤/送達条件は>45%の良好な送達効率を示した。このレベルの送達効率は、コーティングの大部分が皮膚中に良好に浸透されることを可能にする好ましいコーティングの配置(先端コーティング)に帰されるかもしれない。これらの結果は、流感ワクチンの可溶化のみならずしかしまたコーティング製剤の液体特性を改変して有効な先端コーティングを促進する能力も助長するこれらの界面活性剤の重要な属性を確認する。有効な浸透の範囲内で、先端コーティングは送達効率を改善する。十分な量の免疫学的有効成分をなお提供するとみられる最小送達効率は10%であると考えられる。
HA効力アッセイ
HAの送達の許容できるレベルに加え、送達されるHAが多様な界面活性剤での処理にもかかわらずなお抗原性であることもまた示されなければならない。2種の試験を使用して、多様な界面活性剤製剤での処理後のHA製剤の抗原性を測定する。これらの試験は特許のELISA測定およびウエスタンブロットである。
ELISA
HA製剤は上述されたとおり製造し、液体および乾燥双方の状態の数種の界面活性剤製剤をもたらした。ELISA測定をこれらのサンプルで実施した。結果を表9に要約する。HA含量はビシンコニン酸(BCA)全タンパク質アッセイにより測定した。BCAアッセイからの結果は目標HA濃度(0.4mg/mL)と矛盾しない。有意の変動がSDS含有製剤にて数回の反復したアッセイ間でみられた。ELISAアッセイは試験するサンプル中の抗原に結合する添加された抗体の能力に大部分依存するため、全体として、ELISAの結果は、これらの界面活性剤製剤中のHAが抗原性のままであることを示す。
【0082】
サンプル1は上述されたとおり処理した元のHA原料である。サンプル2−液体から5−液体までは、第二列に示された4種の製剤の1種中で再構成したサンプル1の反復実験である。サンプル2−固体から5−固体は1cmのチタン円板上で風乾しかつその後水中で再構成したサンプル2−液体から5−液体の複製物である。サンプル2−固体から5−固体はチタン製微小突起上のコーティングの条件をシミュレートすることを意味している。サンプル2−固体から5−固体の全タンパク質はBCAアッセイの検出可能性の閾値より下であった。
【0083】
【表10】

【0084】
ウエスタンブロット
ヒツジ抗HA抗体をHAの5種の製剤(上の表9に示される最初の5サンプル)に対して試験した。サンプルをSDS−PAGEゲル上で泳動しかつクマシーブルーで染色した。分子量マーカーおよび出発ワクチン原料を5種の製剤と一緒に泳動した。5サンプルのそれぞれのバンド形成パターンは出発ワクチン原料のものに非常に類似であり、界面活性剤製剤に曝露された結果としてサンプル中に有意な変化が存在しなかったことを示した。
【0085】
ウエスタンブロットをPAGEゲル上で実施した後、異なる製剤のあいだで差異は気づかれなかった。タンパク質とヒツジ抗HA抗体との間の結合を反映する一連のバンドは主として高分子量で存在した。およそ75kD、150kDおよび225kDの推定分子量を有する3バンドが存在し、それらはHA単量体、二量体および三量体であると推定される。従って、一致したバンドおよびバンドの強度(出発ワクチンに関して)に基づき、われわれは、凍結乾燥されかつ高濃度の強力な界面活性剤に曝露されていた製剤中の抗原HAはその抗原性を維持していると結論することができよう。
【0086】
ELISAおよびウエスタンブロット分析双方は、HAがこれらの界面活性剤の存在下でその抗原性を維持することを示す。しかしながら免疫原性の保存は立証される必要がある。
in vivo免疫感作研究
最後の試験は、目的の多様な界面活性剤を含有するHAの製剤のin vivo免疫原性を測定することである。製剤は下の表10に示す。
【0087】
試験した各群は5動物よりなり、そしてそれぞれに第0日に初回ワクチン接種および第28日に追加免疫ワクチン接種を投与した。各場合の抗原用量はBCAアッセイにより測定されたとおり5μgであり、そしてIM注入により送達した。血清を第28、35および42日に収集した。
【0088】
【表11】

【0089】
HAを一旦濃縮しかつ界面活性剤の存在下で、5μL(すなわち200〜260μgのHA)の溶液を滅菌チューブに等分した(すなわち「液体」)。別の5μLを1cmチタン円板上に等分しかつ風乾した(すなわち「乾燥被覆」)。「液体」および「乾燥被覆」双方の調製物を−80℃で保存した。ELISAによりHA含量を測定するためにサンプルを融解しかつ1mL滅菌生理的食塩水中で再構成した。0.5mLのこの物質をELISAアッセイに使用した。残存する0.5mLの溶液を−80℃で保存した。計画した免疫感作の日付の日に、残存する0.5mlのサンプルを融解しかつ0.05mg HA/mLの濃度まで滅菌生理的食塩水中で再構成した。
【0090】
BCAアッセイから生成されるデータに基づけば、0.5mLの溶液は各製剤から調製した100〜130μgのHAを含有するはずである。全製剤(初回[d0]および追加免疫[d28]調製物)についてELISAにより測定したHA含量を表11に見ることができる。見ることができる(最後の2列)とおり、ELISAにより測定したHA活性はBCAアッセイに基づく推定値より一般により低い(d0の群8を除く)。もちろん、BCAアッセイは全タンパク質含量を測定し;従ってHAの間接的測定値である。ELISAはHA定量のためのアッセイとして完全に検証されてはいないため、われわれは、BCAのデータを使用してHAを50μg/mLに希釈するのに必要とされる生理的食塩水の容量を決定することを選択した。製剤を一旦希釈したら、各調製物の5μgのHA(0.1mL)を各HGP(表10)に筋肉内に注入した。
【0091】
【表12】

【0092】
各処置群からの平均抗HA力価を計算しかつ図6に示す(d42;追加免疫注入14日後)。
【0093】
液体から再構成した物質を黒棒として示し、また、チタン円板上に乾燥被覆しかつその後再構成した物質を白棒として示す。
【0094】
若干の予備的統計学的解析を実施した(個々の力価値は対数変換した)。ANOVAは出発原料の4種の「液体」製剤の間で有意性を示さなかった。しかしながらANOVAは「乾燥被覆」製剤の間で有意性を示した。最小有意差検定は、10%SDS「乾燥被覆」製剤が:
出発原料 (p<0.01);
10%Zwittergent (p<0.01);
5%Zwittergent、pH10 (p<0.05);および
10%Triton X−100 (p<0.05)
から統計学的に有意であったことを示した。
【0095】
最小有意差検定はまた、10%Zwittergent SDS「乾燥被覆」製剤(群3)が10%Triton X−100から統計学的に有意であった(p<0.05)ことも示した。t−検定(群化)解析は、10%SDSを含有する「液体」対「乾燥被覆」製剤間で有意性を示した(群8対群9、p<0.05)。
【0096】
全体として、全部の界面活性剤含有製剤(液体若しくは乾燥)は、多様な界面活性剤への曝露にもかかわらず免疫原性のままであった。加えて、これらの製剤は、SDS含有製剤を除き、出発ワクチンによるものに匹敵する免疫応答を導き出した。SDS製剤により示されるより低い免疫応答は、ELISAアッセイにより測定されたとおり示されたより低いHA用量によるかもしれない(表10)。
【0097】
引用された実施例は1種の界面活性剤を含有する製剤を有するとは言え、本発明は2種若しくはそれ以上の界面活性剤を組合せで含有する製剤もまた包含すると解釈されるべきである。
【0098】
本発明は特定の実施例に言及して記述したとは言え、多様な改変および変形が本発明の技術思想および範囲から離れることなく当業者により容易になされ得ることが理解されるべきである。従って、前述の開示は具体的説明としてのみ解釈されるべきでありかつ制限する意味で解釈されるべきでない。本発明は以下の請求の範囲の範囲によってのみ制限される。
【図面の簡単な説明】
【0099】
本発明は今や、付随する図面および図に具体的に説明される好ましい態様に言及して非常に詳細に記述されることができる。ここで:
【図1】微小突起アレイの一例の一部分の透視図である。
【図2】微小突起上に付着されたいくつかの型のコーティングを伴う図1の微小突起アレイの透視図である。
【図3】微小突起上に付着されたパターンコーティングを示す図1の微小突起アレイの透視図である。
【図4】タンパク質およびペプチドの溶解性に対する界面活性剤濃度の影響を示すグラフである。
【図5】多数の界面活性剤の化学構造を示す。
【図6】被覆した微小突起アレイによって試験被験体に送達されたHAに対するモルモットによるin vivo免疫学的応答を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の角質層を貫通する微小突起を有する部材、ならびに
前記部材上の乾燥コーティング(前記コーティングは、乾燥前に、一定量の免疫学的有効成分および界面活性剤の水性溶液を含んでなる)
を含んでなり;
前記界面活性剤が前記水性溶液中に約1ないし約30wt%の範囲で存在する、
免疫学的有効成分を経皮送達するための装置。
【請求項2】
前記免疫学的有効成分が最低約1wt%の濃度で前記水性溶液中に存在する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記コーティングが1個若しくはそれ以上の前記微小突起にのみ塗布されている、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
微小突起の長さが約600マイクロメートルに等しいか若しくはそれ未満である、請求項2に記載の装置。
【請求項5】
前記部材上に被覆された前記免疫学的有効成分の総量が約1マイクログラムと約500マイクログラムとの間である、請求項2に記載の装置。
【請求項6】
前記コーティングの厚さが約50マイクロメートルに等しいか若しくはそれ未満である、請求項2に記載の装置。
【請求項7】
前記コーティングの厚さが約25マイクロメートルに等しいか若しくはそれ未満である、請求項2に記載の装置。
【請求項8】
前記免疫学的有効成分が、従来的なワクチン、組換えタンパク質ワクチンおよび治療的癌ワクチンより成る群から選択される、請求項2に記載の装置。
【請求項9】
前記水性溶液が、タンパク質ウイルス粒子、不活性ウイルスおよび分割ビリオンより成る群から選択される1種若しくはそれ以上の成分の懸濁液をさらに含んでなる、請求項2に記載の装置。
【請求項10】
前記部材が約10cm未満若しくはそれに等しい面積を有する、請求項2に記載の装置。
【請求項11】
前記部材が、1cmあたり約1000個未満若しくはそれに等しい微小突起の微小突起密度を有する、請求項2に記載の装置。
【請求項12】
前記免疫学的有効成分がインフルエンザウイルスの最低1種の株からのヘマグルチニンを含んでなる、請求項2に記載の装置。
【請求項13】
前記界面活性剤が、デシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、塩化セチルピリジニウム、Zwittergent3−10、Zwittergent3−12、Zwittergent3−14、Triton x−100、ポリソルベート20、ポリソルベート80およびPluronic F68より成る群から選択される、請求項2に記載の装置。
【請求項14】
微小突起アレイは複数の微小突起を有し;前記微小突起は、前記微小突起アレイが身体表面に適用される場合に角質層を貫通するよう設計されている、
を含んでなり;
前記微小突起の1個若しくはそれ以上は、最低1種のワクチンおよび最低1種の界面活性剤を含有する本質的に乾燥されたコーティングで少なくとも部分的に覆われており;
前記コーティングは予め決められた量の前記ワクチンを含有し;
前記予め決められた量は約1マイクログラムから約500マイクログラムまでの前記ワクチンの範囲にあり;
前記コーティングは約1wt%ないし約30wt%の前記界面活性剤を含有する溶液から形成されており;
前記ワクチンの前記予め決められた量は、前記ワクチンが経皮送達される場合に免疫学的応答を引き起こすのに十分であり;ならびに
前記免疫学的有効成分の送達効率が約10%より大きいか若しくはそれに等しい、
経皮薬物送達装置。
【請求項15】
前記ワクチンが最低約1wt%の濃度で前記水性溶液中に存在する、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記コーティングが、1個若しくはそれ以上の前記微小突起にのみ塗布されている、請求項14に記載の装置。
【請求項17】
微小突起の長さが600マイクロメートルに等しいか若しくはそれ未満である、請求項14に記載の装置。
【請求項18】
前記コーティングの厚さが約50マイクロメートルに等しいか若しくはそれ未満である、請求項14に記載の装置。
【請求項19】
前記コーティングの厚さが約25マイクロメートルに等しいか若しくはそれ未満である、請求項14に記載の装置。
【請求項20】
前記ワクチンが、従来的なワクチン、組換えタンパク質ワクチンおよび治療的癌ワクチンより成る群から選択される、請求項14に記載の装置。
【請求項21】
前記水性溶液が、タンパク質ウイルス粒子、不活性ウイルスおよび分割ビリオンより成る群から選択される1種若しくはそれ以上の成分の懸濁液をさらに含んでなる、請求項14に記載の装置。
【請求項22】
前記部材が約10cm未満若しくはそれに等しい面積を有する、請求項14に記載の装置。
【請求項23】
前記部材が、1cmあたり約1000個未満若しくはそれに等しい微小突起の微小突起密度を有する、請求項14に記載の装置。
【請求項24】
前記ワクチンがインフルエンザウイルスの最低1種の株からのヘマグルチニンを含んでなる、請求項14に記載の装置。
【請求項25】
前記界面活性剤が、デシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、塩化セチルピリジニウム、Zwittergent3−10、Zwittergent3−12、Zwittergent3−14、Triton x−100、ポリソルベート20、ポリソルベート80およびPluronic F68より成る群から選択される、請求項14に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−516205(P2006−516205A)
【公表日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−500441(P2005−500441)
【出願日】平成15年8月8日(2003.8.8)
【国際出願番号】PCT/US2003/024998
【国際公開番号】WO2004/105729
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】