説明

被覆マグネタイト粒子

【課題】耐熱性、疎水性、有機溶媒への分散性がバランスした被覆マグネタイト粒子を提供すること。
【解決手段】本発明の被覆マグネタイト粒子は、疎水基を有するアルコキシシラン及び疎水基を有さない多価金属アルコキシドを原料として用いて生成したシラン化合物層によって、マグネタイトのコア粒子の表面が被覆されてなることを特徴とする。疎水基を有するアルコキシシランは、アルキルアルコキシシラン、フルオロアルキルアルコキシシラン、アルケニルアルコキシシラン又はフルオロアルケニルアルコキシシランであることが好適である。疎水基を有さない多価金属アルコキシドは、Al、Si、Ti又はZrのアルコキシドであることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン化合物層で被覆されたマグネタイト粒子及びその製造方法に関する。本発明の被覆マグネタイト粒子は、例えばプリンターや電子複写機のトナー用材料として特に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
表面を疎水性にしたマグネタイト粒子を、プリンターや電子複写機のトナー用材料として用いる技術が種々提案されている。例えば、マグネタイト粒子の表面をSi及びTiを含む化合物で被覆し、更にその上をシラン化合物で処理する技術(特許文献1参照)、アルミニウム化合物及びコロイダルシリカで処理したマグネタイト粒子を更にシラン化合物で処理する技術(特許文献2参照)などが知られている。
【0003】
また特許文献3には、磁性酸化鉄を基体粒子とし、その表面にシラン化合物を被覆した疎水性磁性酸化鉄粒子が提案されている。同文献には、疎水性磁性酸化鉄粒子におけるシラン化合物のトルエン中への溶出率を30%以下とすることによって、磁性酸化鉄の疎水性が十分となり、磁性酸化鉄粒子同士の合一が少なくなって粒度分布が狭くなると記載されている。同文献によれば、シラン化合物は、pHが4〜6に設定された磁性酸化鉄粒子のスラリー中に添加され、該シラン化合物の被覆が進行するにつれてpHを高くすることが好ましいとされている。同文献に記載の技術では、磁性酸化鉄とシラン化合物との結合強度は高いものの、単位面積当たりのシラン化合物の被覆量を高めた場合には、シラン化合物の溶出率を低く抑えることができない。また、処理中のpHの調整に水酸化ナトリウムなどのアルカリを用いており、それが粒子の表面に残存し、粒子の疎水性に影響を及ぼす可能性がある。
【0004】
【特許文献1】特開平6−230603号公報
【特許文献2】特開平11−31919号公報
【特許文献3】特開2005−263619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の目的は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る被覆マグネタイト粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、疎水基を有するアルコキシシラン及び疎水基を有さない多価金属アルコキシドを原料として用いて生成したシラン化合物層によって、マグネタイトのコア粒子の表面が被覆されてなることを特徴とする被覆マグネタイト粒子を提供するものである。
【0007】
また本発明は、前記の被覆マグネタイト粒子の好適な製造方法として、
乾式法によって、マグネタイトのコア粒子と、疎水基を有するアルコキシシラン及び疎水基を有さない多価金属アルコキシドとを混合し、該粒子の表面にこれらの化合物の層を形成し、
前記層が形成された前記粒子を、大気雰囲気下に100〜250℃で熱処理することを特徴とする被覆マグネタイト粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製造時におけるシラン化合物の歩留りが高く、またシラン化合物を多量に被覆した場合であっても有機溶媒中でのシラン化合物の溶出の程度が低く、疎水性が高く、更に耐熱性に優れた被覆マグネタイト粒子及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の被覆マグネタイト粒子においては、マグネタイトのコア粒子の表面がシラン化合物層によって被覆されている。そして、このシラン化合物層が、(イ)疎水基を有するアルコキシシラン(以下、単にアルコキシシランともいう)及び(ロ)疎水基を有さない多価金属アルコキシド(以下、単に多価金属アルコキシドともいう)の組み合わせを原料として用いて生成したものであることを特徴の一つとしている。
【0010】
前記の(イ)及び(ロ)の化合物を原料として用いることで、製造過程におけるアルコキシシランの歩留りを高くすることができる。また、前記の(イ)及び(ロ)の化合物を原料として用いて生成したシラン化合物層によってコア粒子を被覆することで、コア粒子表面の単位面積当たりのシラン化合物の被覆量を高めることができ、被覆マグネタイト粒子の疎水性を高めることができ、有機溶媒への分散性を良好にすることができるのはもちろん、被覆マグネタイト粒子は、以下に述べる特徴をも兼ね備えることとなる。
【0011】
通常、シラン化合物の被覆量が多い場合、被覆マグネタイト粒子の疎水性も高まることが期待されるものの、処理状態にムラがあることも多い。したがって、理想的にはシラン化合物の被覆量が少なく、有機溶媒への溶出性(溶出率)が低く、かつ疎水性が高いことが望ましい。
【0012】
一方、シラン化合物の被覆量が少ない場合、有機溶媒への溶出率を低くすることにはさほど困難性は認められないが、溶出率を低くすることに加えて疎水性を高めることには限界がある。また、シラン化合物の被覆量が少ない場合には耐熱性向上の改善はままならない。これに対し本発明によれば、シラン化合物の被覆量を多くすると溶出率が高くなり易くなるという弊害を抑えつつ、疎水性の更なる改善に加え、耐熱性の向上をも図ることができる。
【0013】
具体的には、後述の実施例と比較例7及び8との比較から明らかなように、本発明は、シラン化合物の有機溶媒への溶出防止性(低溶出率)に優れるのみならず、疎水性(水蒸気吸着量)及び耐熱性(FeO維持率)いずれの面でも優れている。
【0014】
このように、本発明においては、コア粒子表面の単位面積当たりのシラン化合物の被覆量を多くするにもかかわらず、前記(ロ)による被覆の存在によって、該シラン化合物がコア粒子表面に確実に結合し、シラン化合物の有機溶媒への溶出を抑制しつつ、疎水性、耐熱性が向上するものである。
【0015】
耐熱性の向上は、マグネタイトの黒色発現のもととなるFeOの減少防止に寄与する。その結果、被覆マグネタイト粒子を加熱して例えばプリンターや電子複写機のトナーを製造するときに、色味の変化が起こりにくくなるという利点が生じる。シラン化合物の有機溶媒への溶出が防止される理由は、前記の(ロ)の化合物である多価金属アルコキシドに由来して生成したネットワーク構造中に、(イ)の化合物であるアルコキシシランに由来して生成したシラン化合物が取り込まれて、いわゆるアンカー効果によってシラン化合物層内に強固に保持されるからであると、本発明者らは考えている。したがって、後述する比較例6の結果に示されているように、アルコキシシラン及び多価金属アルコキシドをそれぞれ単独で用い、これらからそれぞれ生成する化合物からなる2層構造の被覆をコア粒子の表面に設けても、所望の効果は奏されない。
【0016】
前記の(イ)の化合物であるアルコキシシランは疎水基を有するものである。このアルコキシシランは、被覆マグネタイト粒子の表面に疎水性を付与するために用いられる。このアルコキシシランを原料としてシラン化合物(有機シラン化合物)が生成する。このアルコキシシランは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このアルコキシシランは一般式R1xSi(OR24-xで表される。式中、R1は疎水基を表し、R2はアルコキシ基を表す。xは1〜3の整数を表す。xが2又は3である場合、複数のR1は同一でもよく、あるいは異なっていてもよい。同様に、xが1又は2である場合、複数のR2は同一でもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0017】
1で表される疎水基の例としては、アルキル基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基などが挙げられる。アルキル基における炭素数は、1〜18、特に3〜10であることが好ましく、アルケニル基における炭素数は、2〜18、特に3〜10であることが、被覆マグネタイト粒子に十分な疎水性を付与する観点から好ましい。アルキル基及びアルケニル基は直鎖のものでもよく、あるいは分岐鎖のものでもよい。一般には、直鎖よりも分岐鎖タイプのものの方が、疎水基による疎水性結合が起こりにくく、シラン化合物の活性基の部分であるアルコキシ基が外側に向きにくくなるので、疎水性の向上の観点から好ましい。R1がアルケニル基である場合、アルケニル鎖中のC=C結合の位置に特に制限はないが、疎水性を高める観点から、末端側よりも、むしろSi原子寄りの位置にC=C結合が存在していることが好ましい。R1がフルオロアルキル基又はフルオロアルケニル基である場合、アルキル基又はアルケニル基におけるフッ素の結合数に特に制限はなく、1個以上のフッ素が結合していればよい。一般にフッ素の結合数が増えるほど疎水性が高まる。また、アルキル基又はアルケニル基におけるフッ素の結合位置に特に制限はなく、疎水性が一層高くなる位置にフッ素が結合していればよい。
【0018】
OR2で表されるアルコキシ基におけるアルキル基は、例えば炭素数が1〜6、特に1〜3であることが好ましい。このアルキル基は直鎖でもよく、あるいは分岐鎖でもよい。また、R2におけるアルキル基は、R1として用いられるアルキル基又はアルケニル基の炭素数よりも少ない炭素数のものであることが好ましい。
【0019】
前記の(イ)の化合物であるアルコキシシランの具体例としては、R1がアルキル基である場合、すなわちアルキルアルコキシシランである場合、n−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、iso−ブチルトリメトキシシラン、tert−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、iso−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、iso−オクチルトリメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、iso−デシルトリメトキシシラン、tert−デシルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、iso−ブチルトリエトキシシラン、tert−ブチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、iso−ヘキシルトリエトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、iso−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、iso−デシルトリエトキシシラン等が挙げられる。R1がアルコキシ基である場合には、上述したアルキルアルコキシシランにおけるアルキル基をアルケニル基で置換した化合物が挙げられる。R1がフルオロアルキル基及びフルオロアルケニル基である場合には、上述したアルキルアルコキシシラン及びアルケニルアルコキシシランにおけるアルキル基及びアルコキシ基中の水素が1又は2以上のフッ素で置換された化合物が挙げられる。
【0020】
前記の(ロ)の化合物である多価金属アルコキシドは、被覆マグネタイト粒子の表面において三次元のネットワーク構造を形成し、上述したアルコキシシランから生成するシラン化合物を該ネットワーク構造内にアンカー効果によって強固に保持するために用いられる。この多価金属アルコキシドは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。この多価金属アルコキシドは、一般式(R3O)y4zM又はその2以上の縮合体で表される。式中、R3はアルキル基を表し、R4は疎水基ではない一価の基を表し、Mは金属を表す。yは1以上の整数、zは0以上の整数であり、かつy+zは金属Mの価数と同じで、2以上の整数である。特に多価金属アルコキシドは、一般式(R3O)yM又はその2以上の縮合体で表されることが好ましい。式中、R3はアルキル基を表し、Mは金属を表す。yは金属Mの価数と同じで、2以上の整数である。多価金属アルコキシドにおける金属としては、複数のアルコキシ基と結合可能な金属が用いられる。そのような金属としては、例えばAl(結合数3)、Si(結合数4)、Ti(結合数4)及びZr(結合数4)、Cr(結合数3)、Sb(結合数3)等が挙げられる。また、金属ではないが、ホウ素のアルコキシドを用いることも可能である。
【0021】
多価金属アルコキシドのR3におけるアルキル基は、同一でもよく、あるいは異なっていてもよい。アルキル基の炭素数は1〜8、特に1〜4であることが、三次元ネットワーク構造の形成のしやすさの点から好ましい。アルキル基は直鎖のものでもよく、あるいは分岐鎖のものでもよい。
【0022】
多価金属アルコキシドにおけるR4で表される一価の基としては、例えばアセチルアセトアセテート基、ビニル基、エポキシ基、カルボキシル基、アミノ基などが挙げられる。
【0023】
多価金属アルコキシドの具体例としては、金属がアルミニウムである場合、例えばアルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムブトキシド、アルミニウムジブトキシアセチルアセトアセテート、アルミニウムジイソプロポキシエチルアセトアセテート等が挙げられる。金属がケイ素である場合、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、ポリメトキシシロキサン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラキス(2−エチルブトキシシラン)、テトラキス(2−エチルヘキサキシシラン)、ハイドロ−T8−シルセスキオキサン等が挙げられる。金属がジルコニウムである場合、例えばジルコニウムエトキシド、ジルコニウムn−プロポキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムブトキシド等が挙げられる。金属がチタンである場合、例えばチタニウムメトキシド、チタニウムエトキシド、チタニウムn−プロポキシド、チタニウムイソプロポキシド、チタニウムブトキシド等が挙げられる。
【0024】
本発明の被覆マグネタイト粒子においては、前記の(イ)及び(ロ)の化合物を原料としてシラン化合物層を形成する。このシラン化合物層の構造は複雑であり、その正確な構造については未だ不明な点があるものの、本発明者らは、(i)(イ)の化合物どうし、(ii)(ロ)の化合物どうし、及び/又は(iii)(イ)の化合物と(ロ)の化合物とが反応して生成した三次元ネットワーク構造から構成されていると考えている。そのような三次元ネットワーク構造には、(イ)及び/又は(ロ)の化合物の加水分解生成物や脱水縮合生成物等が包含されると、本発明者らは考えている。
【0025】
被覆マグネタイト粒子のシラン化合物層中に含まれる(イ)の化合物に由来する成分の量は、Si換算で、被覆マグネタイト粒子の重量に対して0.1〜0.5重量%、特に0.15〜0.5重量%であることが好ましい。この値を、コア粒子の表面積に対する(イ)の化合物の量に換算して表すと、0.7〜4.5mg/m2、特に1.2〜4.5mg/m2であることが好ましい。一方、シラン化合物層中に含まれる(ロ)の化合物に由来する成分の量は、金属M換算で、被覆マグネタイト粒子の重量に対して0.02〜1重量%、特に0.05〜0.5重量%であることが好ましい。(イ)及び(ロ)の化合物にそれぞれ由来する成分の量がこの範囲内であることによって、被覆マグネタイトを製造する際のアルコキシシランの歩留りを高くすることができる。また、得られた被覆マグネタイト粒子において、シラン化合物層からのアルコキシシランの有機溶媒への溶出量を一層低減させることができ、表面の疎水性が高く、かつ耐熱性も高い被覆マグネタイト粒子となすことができる。
【0026】
シラン化合物層中に含まれる(イ)及び(ロ)の各化合物に由来する成分の量(重量%)は、例えば株式会社リガク製の走査型蛍光X線分析装置ZSX PrimusIIを用いて測定される。また、コア粒子の単位表面積当たりの(イ)の化合物の被覆量は以下のように算出できる。
(イ)の化合物の被覆量(mg/m2)=(イ)の化合物の使用量(mg)/(コア粒子の重量(g)×コア粒子のBET比表面積(g/m2))
【0027】
シラン化合物層によって被覆されるマグネタイトのコア粒子としては、XRD測定したときに主ピークがマグネタイトのピークと一致するものが用いられる。この場合、マグネタイトのピークのみが観察されてもよく、あるいはマグネタイトの主ピークの他に、マグヘマイト等のピークが観察されてもよい。コア粒子は、被覆マグネタイト粒子の具体的な用途に応じ、例えばSi、Ti、Al、Zr、Mn、Zn、Mg等の1種又は2種以上の元素を、例えばその酸化物やFeとの複合酸化物等の状態で、粒子内に含んでいてもよい。尤も、コア粒子はその表面に、ケイ素、アルミニウムから選ばれる1種又は複合の酸化物、水酸化物、含水酸化物、又はこれらの混合物のいずれをも有していないことが被覆マグネタイト粒子の疎水性を向上させる観点から好ましい。
【0028】
コア粒子はその形状が球状、多面体状(例えば六面体状、八面体状)等であり得る。コア粒子の形状について本発明者らが検討したところ、コア粒子が球状であると、上述のシラン化合物層による被覆が極めて良好に行えることが判明した。したがってコア粒子として、多面体状のものよりも、球状のものを用いることが好ましい。
【0029】
コア粒子はその平均粒径が0.1〜0.3μm、特に0.15〜0.25μmであることが、被覆マグネタイト粒子を、プリンターや電子複写機のトナー用材料として用いる場合に好ましい。コア粒子の平均粒径がこの範囲内であれば、トナー中での着色力や色味が良好となるからである。コア粒子の平均粒径は、次の方法で測定される。
【0030】
〔コア粒子の平均粒径の測定方法〕
コア粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して撮影された像から測定する。具体的には、SEM写真(倍率40,000倍)を用い、写真上の粒径を同軸方向に200個以上計測し、その個数平均から求める。
【0031】
被覆マグネタイト粒子においては、上述のシラン化合物層は、コア粒子の表面を薄く被覆している。したがって、被覆マグネタイト粒子の形状はコア粒子の形状を引き継いだものとなる。上述したとおり、コア粒子は球状であることが好ましいので、被覆マグネタイト粒子も球状であることが好ましい。また、上述のシラン化合物による被覆が薄いことに起因して、被覆マグネタイト粒子の平均粒径は、コア粒子の平均粒径と実質的に大差はない。したがって、被覆マグネタイト粒子の平均粒径については、コア粒子の平均粒径に関して詳述した説明が適宜適用される。被覆マグネタイト粒子の平均粒径の測定方法についても同様である。
【0032】
上述のシラン化合物層で被覆されている被覆マグネタイト粒子は、該シラン化合物層の作用によって、有機溶媒中における該シラン化合物層からのシラン化合物の溶出が抑制されている。具体的には、以下の方法で測定されるシラン化合物の溶出率が、粒子全体の重量に対して好ましくは15%以下、更に好ましくは12%以下となっている。
【0033】
〔シラン化合物の溶出率の測定方法〕
被覆マグタイト粒子3gを30ccのガラス容器に取り、ここにテトラヒドロフラン(THF)を20cc投入する。超音波ホモジナイザー(BRANSON社製SONIFIER450)を用いて30秒間超音波を照射して洗浄を行う。次いで、磁石でマグネタイト粒子を沈降させ、上澄み液を除去する。その後50℃で3時間乾燥してから、被覆マグネタイト粒子中に含まれるカーボンの量を、炭素分析装置(堀場製作所製、EMIA−110)を用いて測定する。シラン化合物の溶出率は、次式で求める。
溶出率(%)=((A−B)/A)×100
式中、AはTHF洗浄前の被覆マグネタイト粒子に含まれるカーボンの量であり、BはTHF洗浄前の被覆マグネタイト粒子に含まれるカーボンの量である。
【0034】
また、シラン化合物層で被覆されている被覆マグネタイト粒子は、該シラン化合物層の作用によって耐熱性が高められている。そして、耐熱性が高いことに起因して、加熱された後においてもFeO含有率の高いものとなる。具体的には、大気雰囲気中、160℃で1時間加熱した後のFeO含有率が、加熱前のFeO含有率に対して好ましくは90%以上となっている(以下、この値はFeO維持率という)。また、大気雰囲気中、160℃で1時間加熱した後のFeO含有率そのものは好ましくは19〜27重量%、更に好ましくは20〜26重量%になっている。FeO含有率は以下の方法で測定される。
【0035】
〔FeO含有率の測定方法〕
被覆マグネタイト粒子10gを時計皿に載せ、熱風乾燥機(エスペック社製PH−201)中で、160℃の環境下、1時間曝露する。暴露後の被覆マグネタイト粒子1.0gとノニオン系分散剤TritonX100を1.0g秤量し、10重量%の硫酸水溶液100ccによって加熱溶解し、過マンガン酸カリウム標準液を用いた酸化還元滴定によって滴定量を求める。そして滴定量からFe(II)(mg/l)濃度を計算する。また、別途、被覆マグネタイト粒子中の全Fe濃度を計算する。Fe(II)濃度を全Fe濃度で除し、100を乗じてFeO含有率を算出する。加熱前についても同様の方法でFeO含有率を測定する。
【0036】
シラン化合物層の被覆を有する本発明の被覆マグネタイトにおいては、該シラン化合物層の作用によって表面が疎水化されている。それによって、被覆マグネタイト粒子は、その表面における水分の吸着量が低減したものとなっている。具体的には、以下の方法で測定される水蒸気吸着量が、0.01〜1.0mg/g、特に0.05〜0.8mg/gであることが好ましい。
【0037】
〔水蒸気吸着量の測定方法〕
水蒸気吸着量測定装置BELSORP18(日本ベル株式会社製)を用いて、25℃、相対圧0.9における被覆マグネタイト粒子1g当たりの水蒸気吸着量を測定する。
【0038】
また、本発明の被覆マグネタイト粒子は、凝集が抑制されて、有機溶媒中での分散性が高いものでもある。具体的には、以下の方法で測定されるスチレン中での沈降速度が0.1mm/min以下であることが好ましい。スチレン中での沈降速度は、被覆マグネタイト粒子の凝集状態を反映しており、沈降速度が遅いほど疎水性が高く良く分散されていることを意味する。
【0039】
〔スチレン中での被覆マグネタイト粒子の沈降速度〕
被覆マグネタイト粒子0.2gとスチレン(関東化学社製)10ccを試験管に入れ、超音波ホモジナイザー(BRANSON社製SONIFIER450)を用いて60秒間超音波を照射する。次いで溶液安定性評価装置(フォーマルアクション社製タービスキャンMA2000)を用いて沈降速度を測定する。
【0040】
被覆マグネタイト粒子は、そのBET比表面積が4〜12m2/g、特に4〜10m2/gに設定されていることが好ましい。被覆マグネタイト粒子のBET比表面積は、該粒子の分散性に影響を及ぼすものであるところ、BET比表面積を上述の範囲に設定することで、有機溶媒中での分散性が良好となるので好ましい。BET比表面積を、上述の範囲に設定するためには、例えばコア粒子の形状や大きさ、及びシラン化合物層の生成の程度等を調整すればよい。BET比表面積は、例えば島津−マイクロメリティックス製2200型を用いて測定される。
【0041】
次に、本発明の被覆マグネタイト粒子の好適な製造方法について説明する。本製造方法は、(1)マグネタイトのコア粒子の製造工程、(2)シラン化合物層によるコア粒子の表面の被覆工程の2つに大別される。以下、それぞれの工程について説明する。
【0042】
まず(1)の工程について説明する。マグネタイトのコア粒子は、当該技術分野で公知の方法に従い製造することができる。例えば、第一鉄塩の中和反応によって生じた水酸化第一鉄コロイド溶液に酸化性ガスを吹き込む湿式酸化法によってマグネタイトのコア粒子を製造できる。この場合、必要に応じ、Si、Ti、Al、Zr、Mn、Zn、Mg等の1種又は2種以上を含む水溶性化合物を、反応用溶液に投入してもよく(反応前、反応開始時、又は反応途中のいずれでも可)、あるいはコア粒子の生成完了後に投入してもよい。
【0043】
(1)の工程においては、湿式酸化法を行うときの液のpHを適切に調節することが重要である。具体的には液のpHを7以下、好ましくは5.5〜7.0、更に好ましくは5.5〜6.0に保ちつつ、該液に空気等の酸化性ガスを吹き込み、湿式酸化を行う。このpHの調節によって、得られるコア粒子を球状のものとすることができる。液のpHがアルカリ側、例えばpHを9以上にして湿式酸化を行うと、球状ではなく、多面体状のコア粒子が生成してしまう。
【0044】
なお、湿式酸化における空気等の酸化性ガスの吹き込み条件は、本製造方法において特に臨界的でなく、公知の条件を適宜採用することができる。
【0045】
このようにして得られたコア粒子は、次いで(2)の工程において、その表面にシラン化合物層が形成される。この形成のために、本工程においては、上述したアルコキシシラン及び多価金属アルコキシドを用い、これらの化合物からシラン化合物層を生成させる。
【0046】
具体的には、上述したアルコキシシラン及び多価金属アルコキシドをコア粒子の表面で加水分解させて、その加水分解物や脱水縮合物等からなる種々の有機シラン化合物を生成させ、これによってコア粒子の表面を被覆する。あるいはアルコキシシラン及び多価金属アルコキシドを予め加水分解させ、生成した有機シラン化合物をコア粒子の表面に被覆してもよい。アルコキシシラン及び多価金属アルコキシドをコア粒子の表面に被覆する方法には、湿式法と乾式法がある。湿式法では、水を媒体とし、コア粒子を含み、pHが所定の範囲に設定されたスラリーにアルコキシシラン及び多価金属アルコキシドを添加してコア粒子の表面を被覆する。乾式法では、コア粒子とアルコキシシラン及び多価金属アルコキシドとを、液媒体の実質的な非存在下に混合して該コア粒子の表面を被覆する。これら2つの方法のうち、乾式法を用いることが、シラン化合物層によるコア粒子の表面の被覆を首尾良く行い得る点から好ましい。
【0047】
乾式法においては、マグネタイトのコア粒子と、疎水基を有するアルコキシシラン及び疎水基を有さない多価金属アルコキシドとを、(イ)逐次に又は(ロ)同時に混合する。(イ)の場合には、コア粒子と多価金属アルコキシドとを混合した後に、アルコキシシランを混合する方法を採用することができる。また、(イ)の場合には、コア粒子と多価金属アルコキシドとを混合し、コア粒子の表面に多価金属アルコキシドが十分に行き渡った後に、アルコキシシランを混合することができる。(イ)及び(ロ)の方法のうち、特に(イ)の方法を採用すると、アルコキシシランにおける疎水基が外方を向きやすくなるので、得られる被覆マグネタイト粒子の疎水性を一層高めやすいという利点がある。
【0048】
(イ)及び(ロ)のいずれの方法を採用する場合であっても、混合には、公知の混合攪拌装置を用いることができる。例えば、ヘンシェルミキサ、ハイスピードミキサ、エッジランナー、リボンブレンダー等を用いることができる。これらの装置の運転条件としては、混合攪拌時の温度を10〜50℃、特に10〜40℃に設定することが好ましい。これによって、混合が十分に行われる前に、アルコキシシラン及び/又は多価金属アルコキシドが意図せず縮合反応してしまうことや、揮発してしまうことを効果的に防止できる。コア粒子とアルコキシシランとの配合の割合は、コア粒子100重量部に対して、アルコキシシランを0.5〜10重量部、特に0.8〜5重量部とすることが、得られる被覆マグネタイト粒子に含まれるシラン化合物の量が適切になり、被覆マグネタイト粒子の疎水性が十分に高くなる点から好ましい。一方、コア粒子と多価金属アルコキシドとの配合の割合は、コア粒子100重量部に対して、金属アルコキシドを0.1〜5重量部、特に0.2〜3重量部とすることが、シラン化合物層からのシラン化合物の溶出を効果的に防止し得る点から好ましい。更に、シラン化合物層は、多価金属アルコキシド1モルに対してアルコキシシランを0.5〜4モル、特に0.8〜3モル用いて形成することが耐熱性、疎水性、有機溶媒への分散性がバランスした被覆マグネタイト粒子を首尾良く得られる点から好ましい。
【0049】
乾式混合が完了したら、アルコキシシラン及び多価金属アルコキシドの脱水縮合が生じる温度にまで混合物を加熱してアルコキシシラン及び多価金属アルコキシドの脱水縮合を生じさせる。アルコキシシラン及び多価金属アルコキシドの種類にもよるが、加熱温度は100〜250℃、特に105〜240℃とすることが好ましい。加熱をこの温度範囲で行うことで、コア粒子の過度の凝集を防止しつつ、アルコキシシラン及び多価金属アルコキシドの脱水縮合を行うことができる。加熱時の雰囲気に特に制限はない。一般的には大気下で加熱を行えばよい。
【0050】
以上の方法によれば、アルコキシシランの歩留りを高くすることが可能である。具体的には、以下の式から算出される歩留りが87%以上、特に89%以上となる。
【0051】
〔アルコキシシランの歩留り〕
歩留り=C/(D×E×12.01/F)×100
式中、Cは被覆マグネタイト粒子中のカーボン含有量を表し、Dは添加したアルコキシシランの含有量を表し、Eは添加したアルコキシシラン中のアルキル鎖のカーボン数を表し、Fは添加したアルコキシシランの分子量を表す。またカーボン含有量は、炭素分析装置(堀場製作所製、EMIA−110)を用いて測定される。
【0052】
以上の方法においては、アルコキシシラン及び多価金属アルコキシドを原料として用い、両者を同時に熱処理して生成したシラン化合物層によってコア粒子の表面を被覆したが、これに代えて、まず多価金属アルコキシドでコア粒子の表面を被覆して熱処理を行い、次いでその上をアルコキシシランで被覆して2回目の熱処理を行うという2段階の逐次熱処理法を採用することで、目的とする被覆マグネタイト粒子を得てもよい。同時熱処理法と逐次熱処理法とを比べると、多価金属アルコキシドに起因するアンカー効果は、同時熱処理法の方が一層高いと言える。
【0053】
このようにして、目的とする被覆マグネタイト粒子が得られる。この粒子においては、その表面が上述のシラン化合物層で被覆されているので、耐熱性や疎水性が高く、また有機溶媒中へのアルコキシシランの溶出が防止されたものになっている。得られた被覆マグネタイト粒子は、重合法トナーの原料として特に有用である。例えば懸濁重合法を行う場合、本発明の被覆マグネタイト粒子を、バインダのモノマー成分や電荷制御剤とともに混合し、次いで水を添加し、更に懸濁安定化剤を加えて懸濁させ、懸濁液をモノマーの重合工程に付して重合することでトナーが得られる。この方法によれば粒径のそろったトナーを一段階で得ることができる。また、本発明の被覆マグネタイト粒子を、粉砕法トナーの原料として用いても何ら差し支えない。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「重量%」を意味する。
【0055】
〔コア粒子の製造例1〕
Fe2+を2.0mol/L含有する硫酸第一鉄水溶液50リットルと4.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液55リットルとを混合撹拌し、水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液を得た。この液の温度を85℃に保ちながら20L/minで空気を通気し、水酸化第一鉄の湿式酸化を行った。これによってマグネタイトのコア粒子を生成させた。得られたコア粒子を通常の洗浄、濾過、乾燥、粉砕工程により処理した。このコア粒子は球状であり、BET比表面積は7.5m2/gであった。
【0056】
〔コア粒子の製造例2〕
製造例1と同様の操作でマグネタイト粒子を製造した後、反応液に硫酸アルミニウムを添加した。添加量は、1kgのマグネタイト粒子に対して0.05molとした。反応液のpHをNaOH水溶液(濃度100g/L)によって7.0に調整し、マグネタイト粒子の表面をアルミニウム化合物で被覆してコア粒子を得た。その後、通常の洗浄、濾過、乾燥、粉砕工程により処理した。このコア粒子は球状であり、BET比表面積は7.6m2/gであった。
【0057】
〔コア粒子の製造例3〕
製造例1と同様の操作でマグネタイト粒子を製造した後、反応液にケイ酸ソーダを添加した。添加量は、1kgのマグネタイト粒子に対して0.05molとした。反応液のpHを5%の硫酸によって7.0に調整し、マグネタイト粒子の表面をケイ素化合物で被覆してコア粒子を得た。その後、通常の洗浄、濾過、乾燥、粉砕工程により処理した。このコア粒子は球状であり、BET比表面積は、8.0m2/gであった。
【0058】
〔実施例1〕
製造例1で得たコア粒子1kgをハイスピードミキサ(深江パウテック社製LFS−2型)に投入し、回転数2000rpmで撹拌しながら、アルミニウムイソプロポキシド10.2g(0.05mol)を2分間にわたって滴下し、その後3分間攪拌した。次にn−ブチルトリメトキシシラン17.8g(0.1mol)を2分間にわたって滴下し、その後3分間撹拌した。最後に120℃で1時間大気下にて熱処理を行い、目的とする被覆マグネタイト粒子を得た。
【0059】
〔実施例2〕
実施例1で用いたn−ブチルトリメトキシシランに代えて、iso−ブチルトリメトキシシラン17.8g(0.1mol)を用いた以外は実施例1と同様にして被覆マグネタイト粒子を得た。
【0060】
〔実施例3〕
実施例1で用いたn−ブチルトリメトキシシランに代えて、n−ヘキシルトリメトキシシラン15.5g(0.075mol)を用いた以外は実施例1と同様にして被覆マグネタイト粒子を得た。
【0061】
〔実施例4〕
実施例1で用いたn−ブチルトリメトキシシランに代えて、n−ヘキシルトリメトキシシラン20.6g(0.1mol)を用いた以外は実施例1と同様にして被覆マグネタイト粒子を得た。
【0062】
〔実施例5〕
実施例1で用いたn−ブチルトリメトキシシランに代えて、n−ヘキシルトリメトキシシラン25.8g(0.125mol)を用いた以外は実施例1と同様にして被覆マグネタイト粒子を得た。
【0063】
〔実施例6〕
実施例1で用いたn−ブチルトリメトキシシランに代えて、n−オクチルトリエトキシシラン27.7g(0.1mol)を用いた以外は実施例1と同様にして被覆マグネタイト粒子を得た。
【0064】
〔実施例7〕
実施例4で用いたアルミニウムイソプロポキシドに代えて、テトラエトキシシラン10.4g(0.05mol)を用いた以外は実施例4と同様にして被覆マグネタイト粒子を得た。
【0065】
〔実施例8〕
実施例4で用いたアルミニウムイソプロポキシドに代えて、チタニウムイソプロポキシド14.2g(0.05mol)を用いた以外は実施例4と同様にして被覆マグネタイト粒子を得た。
【0066】
〔実施例9〕
実施例4で用いたアルミニウムイソプロポキシドに代えて、ジルコニウムイソプロポキシド16.4g(0.05mol)を用いた以外は実施例4と同様にして被覆マグネタイト粒子を得た。
【0067】
〔比較例1〕
アルミニウムイソプロポキシドを添加しなかった以外は、実施例4と同様にして被覆マグネタイト粒子を得た。
【0068】
〔比較例2〕
コア粒子として製造例2で得られた粒子を用いた以外は、比較例1と同様にして被覆マグネタイト粒子を得た。
【0069】
〔比較例3〕
コア粒子として製造例3で得られた粒子を用いた以外は、比較例1と同様にして被覆マグネタイト粒子を得た。
【0070】
〔比較例4〕
アルミニウムイソプロポキシドに代えて、アルミナゾル(川研ファインケミカル社製アルミナゾル−10)をAl換算で(原子換算で)0.05mol用いた以外は、実施例4と同様にして被覆マグネタイト粒子を得た。
【0071】
〔比較例5〕
アルミニウムイソプロポキシドに代えて、コロイダルシリカ(日産化学社製スノーテックス−O)をSi換算で(原子換算で)0.05mol用いた以外は、実施例4と同様にして被覆マグネタイト粒子を得た。
【0072】
〔比較例6〕
特許文献3(特開2005−263619号公報)の実施例6を追試した。
【0073】
〔比較例7〕
特許文献3(特開2005−263619号公報)の実施例12を追試した。
【0074】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた被覆マグネタイト粒子について、上述した方法で製造時のシラン化合物の歩留り、THF中での被覆マグネタイト粒子からのシラン化合物の溶出率、被覆マグネタイト粒子の水蒸気吸着量、被覆マグネタイト粒子のスチレン中での沈降速度、被覆マグネタイト粒子中のFeO含有量の維持率を測定した。それらの結果を以下の表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた被覆マグネタイト粒子(本発明品)は、製造時のシラン化合物の歩留りが高く、またTHF中でのシラン化合物の溶出率が低いことが判る。また、疎水性が高いことが判る。更に、耐熱性に優れていることも判る。
【0077】
一方、コア粒子をアルコキシシランで被覆する際に多価金属アルコキシドを使用しない比較例1、無機化合物で被覆を行った比較例2及び比較例3、無機化合物を直接加えた比較例4及び比較例5の被覆マグネタイト粒子は、おしなべて有機溶媒への溶出防止性(低溶出率)に劣り、その他の特性においても満足な結果が得られなかった。
【0078】
また、コア粒子をアルコキシシランで被覆する際に多価金属アルコキシドを使用せず、かつ湿式法でアルコキシシランを被覆した比較例6及び比較例7の被覆マグネタイト粒子は、溶出防止性は実施例と同等又はそれ以下であり、同等の比較例7であっても、疎水性(水蒸気吸着量)と耐熱性(FeO維持率)の面で実施例よりも劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水基を有するアルコキシシラン及び疎水基を有さない多価金属アルコキシドを原料として用いて生成したシラン化合物層によって、マグネタイトのコア粒子の表面が被覆されてなることを特徴とする被覆マグネタイト粒子。
【請求項2】
疎水基を有するアルコキシシランが、アルキルアルコキシシラン、フルオロアルキルアルコキシシラン、アルケニルアルコキシシラン又はフルオロアルケニルアルコキシシランである請求項1記載の被覆マグネタイト粒子。
【請求項3】
疎水基を有さない多価金属アルコキシドが、Al、Si、Ti又はZrのアルコキシドである請求項1又は2記載の被覆マグネタイト粒子。
【請求項4】
シラン化合物層は、疎水基を有さない多価金属アルコキシド1モルに対して、疎水基を有するアルコキシシランを0.5〜4モル用いて形成されたものである請求項1ないし3のいずれかに記載の被覆マグネタイト粒子。
【請求項5】
大気雰囲気中、160℃で1時間加熱した後のFeO含有率が、加熱前のFeO含有率に対して90%以上である請求項1ないし4のいずれかに記載の被覆マグネタイト粒子。
【請求項6】
テトラヒドロフラン中に分散した状態において、シラン化合物の溶出率が15%以下である請求項1ないし5のいずれかに記載の被覆マグネタイト粒子。
【請求項7】
請求項1記載の被覆マグネタイト粒子の製造方法であって、
乾式法によって、マグネタイトのコア粒子と、疎水基を有するアルコキシシラン及び疎水基を有さない多価金属アルコキシドとを逐次又は同時に混合し、該粒子の表面にこれらの化合物の層を形成し、
前記層が形成された前記粒子を、大気雰囲気下に100〜250℃で熱処理することを特徴とする被覆マグネタイト粒子の製造方法。
【請求項8】
マグネタイトのコア粒子と疎水基を有さない多価金属アルコキシドとを混合した後に、疎水基を有するアルコキシシランを混合し、次いで熱処理を行う請求項7記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−20909(P2011−20909A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169755(P2009−169755)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】