説明

被覆剤の評価方法及び金型内被覆成形方法。

【課題】 金型内被覆成形の際における型内硬化時間の最適条件を迅速に把握して、品質の高い金型内被覆成形品を効率的に成形する。
【解決手段】 予め金型内被覆成形に用いる被覆剤のイオン粘度対数値の時間微分値と、被覆剤による塗膜品質の相関を把握することにより、該イオン粘度対数値の時間微分値を良品判定のしきい値として、該しきい値に基づいて該被覆剤の型内硬化時間を測定又は算出する。金型内被覆成形時においては、該測定又は算出した型内硬化時間の間、該金型内で被覆剤を硬化させることによって、品質の高い金型内被覆成形品を効率的に成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂成形品を金型内で成形するとともに、得られた熱可塑性樹脂成形品の表面を該金型内で被覆する金型内被覆成形方法と、その金型内被覆成形方法に用いる被覆剤の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金型内被覆成形方法は、成形品表面の品質向上及び塗装工程の短縮を目的として利用されている。このような金型内被覆成形方法としては、例えば、特許文献1〜特許文献9等において開示されている。これら特許公報に記載されている方法では、金型内で樹脂を成形後、金型内の内表面(キャビティ表面と称することもある)と、得られた成形品表面との間に、被覆剤を注入する。
【0003】
【特許文献1】USP4,076,788号公報
【特許文献2】USP4,081,578号公報
【特許文献3】USP4,331,735号公報
【特許文献4】USP4,366,109号公報
【特許文献5】USP4,668,460号公報
【特許文献6】特開平5−301251号公報
【特許文献7】特開平5−318527号公報
【特許文献8】特開平8−142119号公報
【特許文献9】特開2001−096573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、従来から開示されている技術の多くは、被覆剤注入圧力、被覆剤注入の際の型締め圧力、又金型離間の規定であり、成形品を被覆剤でコーティングした後、被覆剤で被覆した成形品(被覆成形品と称することもある)を取出すための金型の型開タイミングについては、ほとんど注意が払われていない。
ところで、従来の金型内被覆成形方法は、熱可塑性樹脂を金型内で成形した後に、その成形した金型内で成形品(樹脂基材と称することもある)の表面に被覆剤をコーティングする成形方法であって、一般的に使用されている被覆剤は熱硬化タイプであり、該成形品の持つ熱量と該金型の温度によって金型内で硬化するものである。
そのため、金型内被覆成形方法は、成形品に被覆剤をコーティングしてから硬化するまでに必要な一定時間の間、金型内で被覆成形品を保持する必要があった。
【0005】
仮に、従来の金型内被覆成形方法において、被覆剤の注入から被覆成形品を取り出すための金型型開までの時間が短いと、被覆剤の型内硬化が不十分となり、被覆剤と樹脂基材との接着性不良が生じるだけでなく、表面外観不良、表面光沢度低下、耐薬品性の悪化、表面硬度不足をまねく恐れがあった。
【0006】
しかし、被覆剤の硬化に余分な時間をかけすぎて、逆に被覆剤の注入から被覆成形品を取り出すための金型型開までの時間が長くなりすぎると、成形時間が長くなりコストアップとなる。
従って、従来、成形機のオペレータは、被覆剤の注入から被覆成形品を取り出すための金型型開までの時間を色々変更して、前記硬化不良による問題を生じない最短の時間をトライアンドエラーで選定して型内硬化時間とし、最適成形条件としていた。
【0007】
ただ、前述した従来のトライアンドエラーによる条件決めで、外観不良などといった問題は、成形後すぐに目視判定できるので、次成形にフィードバックすることができる。
しかし、表面光沢度低下、耐薬品性の悪化、表面硬度不足等の品質は目視判定できず、成形後において金型内被覆成形品の表面光沢度、耐薬品性、表面硬度等のテストを行なってから、良品か不良品かの判別を行なった上で、成形条件を再度設定しなおす必要があった。
【0008】
そのため、測定に時間を要する評価方法の結果をフィードバックする前述の方法は、前記硬化不良による問題を生じない最短の時間を条件決めするのに多大な労力と時間を要していた。
【0009】
本発明は、金型内被覆成形において、被覆剤の硬化不良によるさまざまな不良の発生を防止し、高い品質の被覆された成形品を確保できる金型内被覆成形方法と、金型内被覆成形に用いる被覆材の効果特性評価方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明による被覆剤の硬化特性の評価方法は、
(1) 金型内被覆成形方法に用いる被覆剤の硬化特性を評価する方法であって、該被覆剤のイオン粘度対数値の時間微分値をしきい値として、該しきい値に基づいて金型内被覆成形の際における該被覆剤の型内硬化時間を決定した。
【0011】
(2) (1)記載の被覆剤評価方法において、前記イオン粘度対数値の時間微分値が最大値を示した後に0.35より小さくなる点をしきい値とし、被覆剤の硬化を開始させた時点から該イオン粘度対数値の時間微分値が該しきい値に達するまでの時間を計測又は算出して、前記型内硬化時間とした。
【0012】
また、本発明による金型内被覆成形方法は、
(3) 金型内で熱可塑性樹脂の成形品を成形した後、該金型を所定の間隔に開いて該成形品の表面と該金型のキャビティ表面との間に隙間を形成するとともに、該隙間に所定量の被覆剤を注入して該金型を再度型締めすることによって、該成形品の表面に塗膜が形成された被覆成形品を成形する熱可塑製樹脂の金型内被覆成形方法であって、
該被覆剤のイオン粘度対数値の時間微分値をしきい値として、該しきい値に基づいて該被覆剤の型内硬化時間を測定又は算出し、該測定又は算出した型内硬化時間の間、該金型内で被覆剤を硬化させた。
【0013】
(4) (3)記載の金型内被覆成形方法において、前記型内硬化時間を、被覆剤が硬化開始してから該被覆剤のイオン粘度対数値の時間微分値が最大値を示した後に0.35より小さくなるまでの時間として測定又は算出した。
【0014】
(5) (3)又は(4)記載の金型内被覆成形方法において、前記金型として、イオン粘度を測定するセンサーを設置した金型を用いた。
【発明の効果】
【0015】
被覆剤の注入完了後から、金型内で成形した被覆成形品を金型から取り出すため金型を開き始めるまでの間の時間を被覆剤の型内硬化時間と定義した場合に、該型内硬化時間を被覆剤のイオン粘度対数値の時間微分値を用いて判断することにより、金型内被覆成形の際における型内硬化時間の最適条件が迅速に把握できるので、試作回数を減らして効率的な条件決めをおこなうことができ、成形の効率化につながる。
【0016】
また、イオン粘度対数の時間微分値が0.35より小さくなる時間に取り出した試料の塗膜品質は、JISに規定される性能を満足でき、硬化不良の発生を防止し、高い品質の被覆された成形品を経済的に製造できる。
【0017】
さらに、金型内にイオン粘度を測定するセンサーを設置すれば、成形中に変化する金型温度や、成形品の温度に対応して、常に最適な硬化時間を選定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明による金型内被覆成形方法の好ましい1例を説明する。
なお、以下に説明する金型内被覆成形方法は、図2の射出成形装置100を使用して、図3に示すフローチャートの工程で成形を実施したものであるが、本発明に適応できる射出成形装置と金型内被覆成形方法のフローチャートは図に記載されたものに限定されるものでないことは勿論である。
【0019】
本実施形態においては、まず、第1の工程として、図2に1例を例示するような射出成形装置100の型締装置20によって金型装置10(金型10と称することもある)を型締めした後、熱可塑性樹脂を金型10内に射出して、被覆成形品の基材となる成形品を成形する。
【0020】
そして、該成形品をある程度(金型を開いても成形品が変形しない程度)まで冷却させた後、金型10を所定間隔に開いて、わずかに開いた微小型開状態して、金型キャビティ内で成形した樹脂の成形品と可動金型14の金型キャビティ表面との間に被覆のための被覆剤を注入するための隙間を生じさせる。
なお、この際の隙間は、後述する被覆剤による塗膜厚みより大きめにしておくことが好ましく、通常は1〜5mm程度である。
【0021】
前記被覆剤を注入するための隙間を生じさせた後、前記隙間に塗料注入機50を介し被覆剤(塗料と称することもある)を注入した後、可動金型14を固定金型12の方向に移動させ金型10を再度閉じて型締めすることによって、隙間の中の被覆剤を押し広げながら流動させ、金型キャビティ内の隅々まで行き渡らせると同時に圧力をかけたままの状態とする。
【0022】
そして、後述する評価方法にて求めた型内硬化時間の間、該金型10を型締したまま保持し、該硬化時間の経過後に金型10を開いて、被覆剤がコーティングがされた成形品を被覆成形品として金型10から取り出す。
【0023】
ここで、本発明においては塗料注入完了後から、被覆成形品を取り出すために金型10を開き始めるまでの間の時間を、型内硬化時間と定義する。
そして、金型内被覆成形時において型内硬化時間の最適な値は、前述した硬化不良による問題を生じない最短の時間であるが、本発明においては、その時間をイオン粘度の変化を指標として評価することにより決定する。
【0024】
以下、本発明の評価方法について説明する。
本発明の評価方法では、被覆剤が硬化して合格品質になるまでのイオン粘度を測定することにより、該イオン粘度の対数値の時間微分値の変化を算出するとともに、該被覆剤が成形の際に受ける温度を予測する。そして、該予測された温度条件下において、該被覆剤がそのイオン粘度の変化状態になるまでの時間を測定又は算出し、該測定又は算出した時間を、金型内被覆成形における型内硬化時間とする。
【0025】
以下、理由を説明する。
まず、本願発明者らは鋭意研究の結果、被覆剤による塗膜品質とイオン粘度の関係に着目し、被覆剤を硬化させる際の硬化温度の影響によって、被覆剤の硬化時間が変化すること、さらに硬化物のゲル分率の上昇とともにガラス転移温度が上昇すること、また該硬化温度や硬化時間が異なった試料においてゲル分率が同じであれば試料のガラス転移温度が同一であることをつきとめた結果、該品質と該イオン粘度の対数値の時間微分値の変化の間に一定の相関関係があることを見出した。
そして、被覆剤のイオン粘度を測定し、被覆剤のイオン粘度の対数値の時間微分値の時間変化を測定することで、型内硬化時間の最適値を評価し、得られた型内硬化時間の最適に基づいて金型内被覆成形の際における型内硬化時間を設定することで、極めて効率的に金型内被覆成形方法を実施することができた。
【0026】
なお、後述する実験の結果、硬化開始からイオン粘度対数の時間微分値が0.35より小さくなるまでの時間を型内硬化時間とすることが好ましいがわかっている。
【0027】
また、前述した本発明の実施形態では、予め試料テストを実施することにより最適な型内硬化時間を評価決定したが、本発明に適応できる方法はこれに限らず、例えば、金型内にイオン粘度を測定するセンサーを配して該被覆剤のイオン粘度を測定し、イオン粘度対数の時間微分値が0.35より小さくなる時間を型内硬化時間とすることは好ましい形態である。金型内にイオン粘度を測定するセンサーを配した実施形態は、該被覆剤が成形の際に受ける温度を予測する必要がなく、正確に被覆剤のイオン粘度を測定できるので、最適な型内硬化時間を精度良く得られるという点で特に好ましい形態である。
【実施例】
【0028】
次に、本発明による型内硬化時間の評価方法について、詳細な実施例を説明する。
まず、被覆剤のイオン粘度は、マイクロメット社製のユーメトリックシステム▲3▼マイクロディエレクトロメータを用いて測定した。
測定は、同社製のポリイミドフィルム上に櫛形電極を配したIDEXセンサーを用いて、周波数100Hzにおいて、イオン粘度の時間変化を80〜110℃に設定したオーブン中で行なわれた。被覆剤は大日本塗料株式会社製のプラグラス#8000を用いた。
イオン粘度測定に用いたセンサーを、予め射出成形した耐熱ABS樹脂(UMG−ABS社製商品名「サイコラックMX40」)の350mm角、厚さ2mmの平板から切り出した幅50mm、長さ65mmの試験片にニチバン株式会社製の両面テープ(商品名「ナイスタック」)を用いて貼り付けた。このセンサー付の試験片を測定前に試験温度に設定したオーブンに入れ、予熱を行った。試験片がオーブン設定温度と同一になった後、被覆剤をセンサー上にのせ、予熱しておいた厚さ1mmのガラス板で押さえて、測定に供した。なお、その際に被覆剤厚さが100μmとなるようなスペーサーを用いた。
【0029】
図1に100℃における被覆剤のイオン粘度およびイオン粘度の対数値の時間微分値の時間変化を示した。なお、イオン粘度の単位はΩ・cmであり、横軸は時間であって単位は分である。
【0030】
塗膜品質評価用の試料は、イオン粘度測定と同様に80〜110℃に予熱しておいた耐熱ABS樹脂製試験片に被覆剤をのせ、予熱しておいた厚さ1mmのガラス板で押さえて作成した。なお、その際に被覆剤厚さが100μmとなるようなスペーサーを用いた。オーブン中で所定の時間、反応させた試料は氷水中に投入して、反応を停止させた。
【0031】
塗膜試料のゲル分率は、室温におけるアセトンに不溶な成分割合量として評価した。塗膜試料をアセトンに1週間浸漬し、途中でアセトンを少なくとも3回以上交換した。
アセトンから取り出した試料を、80℃で12時間減圧乾燥を行って、アセトン不溶分の重量を測定した。
【0032】
各種塗膜品質試験はJIS K5600に準じて行った。
【0033】
各種塗膜品の外観評価は目視で行った。評価は、光沢感があれば○とし、光沢感がなければ×とした。
【0034】
実施例1〜16、比較例1〜8
90℃、100℃、110℃において測定した被覆剤のイオン粘度対数の時間微分値と塗膜のゲル分率および塗膜品質を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
本実施例においては、実施の形態の項で前述したように、被覆剤が硬化して合格品質になるまでのイオン粘度を測定し、該イオン粘度の対数値の時間微分値の変化を算出するとともに、該被覆剤が成形の際に受ける温度を予測して、該予測された温度条件下において、該被覆剤がそのイオン粘度の変化状態になるまでの時間を測定又は算出し、該測定又は算出した時間を、型内硬化時間として金型内被覆成形を実施する。
【0037】
実験の結果から、被覆成形品の品質と該イオン粘度の対数値の時間微分値の変化の間に一定の相関関係があることが明らかであり、該イオン粘度対数値の時間微分値をしきい値として、該しきい値に基づいて該被覆剤の型内硬化時間を評価し、決定することが有効なことは明白である。
また、実施例から見れば、イオン粘度対数の時間微分値が0.35より小さくなる時間を型内硬化時間とすることが好ましいことが明らかである。
【0038】
そして、表1に記載した実施例1〜10の評価結果に基づき得られた型内硬化時間にて、前述した金型内被覆成形を実施した結果、良品が得られた。
そして、それぞれ予測した金型温度に基づいて、イオン粘度対数の時間微分値が0.35を下回る実施例1、実施例5、又は実施例8の硬化時間を選択し、最短の型内硬化時間により金型内被覆成形方法を行なうことが、効率的な成形をできるといった点で好ましい実施例である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る被覆剤のイオン粘度およびイオン粘度の対数値の時間微分値の時間変化を示した図である。
【図2】本発明の実施形態に用いた射出成形機を説明するための概略図である。
【図3】本発明の実施形態に係る金型内被覆成形方法の概念的なフローチャートである。
【符号の説明】
【0040】
10 金型装置
15 金型キャビティ
20 型締装置
30 射出装置
50 塗料注入機
60 制御装置
100 射出成形装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内被覆成形方法に用いる被覆剤の硬化特性を評価する方法であって、該被覆剤のイオン粘度対数値の時間微分値をしきい値として、該しきい値に基づいて金型内被覆成形の際における該被覆剤の型内硬化時間を決定する被覆剤の評価方法。
【請求項2】
前記イオン粘度対数値の時間微分値が最大値を示した後に0.35より小さくなる点をしきい値とし、被覆剤の硬化を開始させた時点から該イオン粘度対数値の時間微分値が該しきい値に達するまでの時間を計測又は算出して、前記型内硬化時間とする請求項1に記載の被覆剤の評価方法。
【請求項3】
金型内で熱可塑性樹脂の成形品を成形した後、該金型を所定の間隔に開いて該成形品の表面と該金型のキャビティ表面との間に隙間を形成するとともに、該隙間に所定量の被覆剤を注入して該金型を再度型締めすることによって、該成形品の表面に塗膜が形成された被覆成形品を成形する熱可塑製樹脂の金型内被覆成形方法であって、
該被覆剤のイオン粘度対数値の時間微分値をしきい値として、該しきい値に基づいて該被覆剤の型内硬化時間を測定又は算出し、該測定又は算出した型内硬化時間の間、該金型内で被覆剤を硬化させることを特徴とする金型内被覆成形方法。
【請求項4】
前記型内硬化時間を、被覆剤が硬化開始してから該被覆剤のイオン粘度対数値の時間微分値が最大値を示した後に0.35より小さくなるまでの時間として測定又は算出する請求項3記載の金型内被覆成形方法。
【請求項5】
前記金型として、イオン粘度を測定するセンサーを設置した金型を用いる請求項3又は請求項4記載の金型内被覆成形方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−103240(P2006−103240A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−295381(P2004−295381)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【Fターム(参考)】