説明

被覆塩基性ペプチド粉末およびその利用

【課題】従来の塩基性ペプチド粉末が有する吸湿性および飛散性の課題を解決し、取扱いや作業性を改善し得る被覆塩基性ペプチド粉末を提供すると共に、被覆塩基性ペプチド粉末を含有する食品保存剤および食品の保存方法を提供する。
【解決手段】塩基性ペプチド粉末を、融点が40〜65℃の硬化油50〜99重量%およびミツロウ1〜50重量%を含有する被覆材で被覆してなる被覆塩基性ペプチド粉末、前記被覆塩基性ペプチド粉末を含有する食品保存剤、及び前記被覆塩基性ペプチド粉末を食品に添加した後、被覆材に含まれる硬化油の融点以上の温度で加熱する食品の保存方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆塩基性ペプチド粉末、該粉末を含有する食品保存剤および食品の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から食品分野では、食品の保存性を改善するために様々な対策が採られている。食品の保存性を改善する一般的な手段としては加熱による殺菌が挙げられるが、枯草菌(Bacillus subtilis)などの芽胞形成菌は、耐熱性を有するため、加熱によって殺菌することが困難であった。そのため、特許文献1に記載されるように芽胞形成菌に対しては薬剤の添加による手段が採られており、芽胞形成菌の増殖を抑制する薬剤としてプロタミンやポリリジンなどの抗菌性を有する塩基性ペプチドが知られている。
【0003】
プロタミンやポリリジンなどの抗菌性を有する塩基性ペプチドは、非特許文献1に記載されるように粉末の状態で流通しているが、抗菌性を有する塩基性ペプチド粉末(以下、塩基性ペプチド粉末と称する)は吸湿性が非常に高く、流動性が悪化し易いため、その取扱いや保管には注意を要するものであった。また、吸湿する前の塩基性ペプチド粉末は、食品に添加する際や、各種の食品保存成分と混合して食品保存剤を調製する際に空気中に飛散し易く、作業性を悪化させる要因となっていた。従って、吸湿性および飛散性が改善され、取り扱い易く作業性を改善し得る塩基性ペプチド粉末が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−219363
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】天然物便覧 第15版(食品と科学社)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の塩基性ペプチド粉末が有する吸湿性および飛散性の課題を解決し、取扱いや作業性を改善し得る被覆塩基性ペプチド粉末を提供すると共に、被覆塩基性ペプチド粉末を含有する食品保存剤および食品の保存方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、塩基性ペプチド粉末を特定の被覆材で被覆することにより、吸湿性を著しく改善し、同時に飛散性も抑制し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、塩基性ペプチド粉末を、融点が40〜65℃の硬化油50〜99重量%およびミツロウ1〜50重量%を含有する被覆材で被覆してなる被覆塩基性ペプチド粉末に関する。また、本発明は、前記被覆塩基性ペプチド粉末を含有する食品保存剤、及び前記被覆塩基性ペプチド粉末を食品に添加した後、被覆材に含まれる硬化油の融点以上の温度で加熱する食品の保存方法も併せて提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の被覆プロタミン粉末(実施例1)の飛散性試験の結果を示す。
【図2】図2は、被覆前のプロタミン粉末(比較例1)の飛散性試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、塩基性ペプチドとは、塩基性アミノ酸を多く含み、等電点が7より大きいペプチドをいう。本発明の被覆塩基性ペプチド粉末に用いる塩基性ペプチド粉末は、食品に使用可能なもので、抗菌効果を有するものであればよく、プロタミン、ポリリジン、ナイシン、リゾチーム等が例示される。その中でも、プロタミン、ポリリジンが抗菌効果の点で好ましく、さらに比較的強いアルカリ条件下でも抗菌効果が低下せず、幅広い食品に使用可能であることや、体内で分解され、吸収される点でプロタミンがより好ましい。
【0011】
一般的に、塩基性ペプチドの分子量は、例えばプロタミンであれば3000〜10000程度、ポリリジンであれば3000〜4500程度であるが、本明細書においてはかかる範囲に限定されるものではない。
【0012】
塩基性ペプチド粉末は2種以上を併用してもよい。また、塩基性ペプチド粉末は、その抗菌効果に影響を与えない範囲でデキストリン、デンプン、糖類等を添加したものであってもよい。
【0013】
本発明の被覆塩基性ペプチド粉末に用いる被覆材は、融点が40〜65℃の硬化油を被覆材中に50〜99重量%含有するものであり、70〜95重量%含有するものが好ましく、80〜90重量%含有するものがより好ましい。また、本発明の被覆塩基性ペプチド粉末に用いる被覆材は、前記硬化油に加え、ミツロウを1〜50重量%含有するものであり、5〜30重量%含有するものが好ましく、10〜20重量%含有するものがより好ましい。被覆材に含まれる硬化油の割合が50重量%未満の場合、被覆が不完全となる傾向にある。また、ミツロウの割合が50重量%を超える場合、被覆が困難となる傾向にある。
【0014】
被覆材に含まれる硬化油は、融点が45〜62.5℃のものが好ましく、50〜60℃のものがより好ましい。硬化油の融点が40℃未満の場合、食品に添加した際に、加熱処理前に被覆材が溶解し、食品中に含まれる未変性の蛋白質の影響を受けて塩基性ペプチドの抗菌効果が低下する傾向にある。また、硬化油の融点が65℃を超える場合、加熱処理の条件によっては(例えば肉製品における、中心温度65℃で1分等)硬化油が食品中で溶解せず、被覆塩基性ペプチド粉末の抗菌効果が発揮されない傾向がある。
【0015】
被覆材に含まれる硬化油の種類としては、食品に使用可能な硬化油であれば特に限定されるものでなく、パーム油、ナタネ油、ダイズ油、魚油等の各種硬化油が使用できるが、塩基性ペプチド粉末の溶出率が低く抑えられる点、及び食品の味質に与える影響が少ない点でパーム油硬化油が好ましい。
【0016】
被覆材に含まれるミツロウは、食品に使用可能なミツロウであれば特に限定されない。例えば、融点が60〜70℃のものが市販されているが、いずれも好適に用いることができる。
【0017】
また、本発明の被覆塩基性ペプチド粉末に用いる被覆材には、前記硬化油およびミツロウ以外に他の油性成分を含有してもよい。その他の油性成分としては、カルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス等のワックス類が挙げられる。
【0018】
本発明の被覆塩基性ペプチド粉末に用いる被覆材の割合は、塩基性ペプチド粉末1重量部に対し、0.25〜4重量部であるものが好ましく、0.7〜3重量部であるものがより好ましく、1〜2.3重量部であるものがさらに好ましい。被覆材の割合が0.25重量部未満の場合、被覆が不十分となる、あるいは被覆層の強度が不足する傾向にあり、4重量部を超える場合には、塩基性ペプチド粉末に対する油脂の含量が多くなるため、食品の味質に影響をおよぼす傾向にある。
【0019】
また、本発明の被覆塩基性ペプチド粉末に用いる被覆材には、硬化油および他の油性成分以外に食品に使用可能な他の成分を目的に応じて添加することができる。このような副成分としては、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル等の界面活性剤、デキストリンなどの賦形剤、他の食品添加物等が例示されるが、抗菌性を有する塩基性ペプチドの溶出率を低く抑えられる点で大豆レシチンが好ましい。また、これら副成分は2種以上を用いてもよい。被覆材における副成分の割合としては、20重量%未満が好ましく、0.5〜10重量%がより好ましく、1〜5重量%がさらに好ましい。
【0020】
本発明の被覆塩基性ペプチド粉末の平均粒子径は、使用する塩基性ペプチド粉末の平均粒子径にもよるが、上限が350μmのものが好ましく、上限が300μmのものがより好ましく、上限が250μmのものがさらに好ましい。平均粒子径が350μmを超える場合、被覆粉末の粒子が食品製造過程における撹拌等により壊れやすい傾向がある他、食品中での分散性が悪化し、十分な保存効果が得られない傾向がある。一方、被覆塩基性ペプチド粉末の平均粒子径の下限は特に限定的ではないが、50μm以上のものが好ましく、75μm以上のものがより好ましく、100μm以上のものがさらに好ましい。なお、本発明において平均粒子径は、目開きが1000μm、710μm、500μm、355μm、250μm、150μm、106μm、75μm、53μm、38μmのJISふるいを用い、ロータップふるい振盪機R−2型(株式会社タナカテック製)により所定量の粉末を10分間振盪させ、ふるい分け法により粒度分布を測定し、重量の累積%をふるい目開きに対してロジンラムラー線図にプロットした際に累積50%となる値を指すものである。
【0021】
本発明の被覆塩基性ペプチド粉末は下記の計算式で表される圧縮度が5〜9.5%のものが好ましく、5.5〜9%のものがより好ましく、6〜8%のものがさらに好ましい。圧縮度が5%未満の場合、粉末が飛散し易い傾向がある。また、圧縮度が9.5%を超える場合、流動性が低下する傾向がある。

圧縮度(%)=(固め見掛け比重−ゆるみ見掛け比重)/固め見掛け比重×100
【0022】
本発明の被覆塩基性ペプチド粉末は安息角が20〜33度のものが好ましく、22〜32度のものがより好ましく、25〜30度のものがさらに好ましい。安息角が20度未満の場合、粉末が飛散し易い傾向がある。また、安息角が33度を超える場合、付着凝集性が強くなる傾向がある。
【0023】
本発明において圧縮度および安息角は、ホソカワミクロン社製のパウダーテスター(PT−N型)によって測定された値である。
【0024】
本発明の被覆塩基性ペプチド粉末の調製には、スプレードライなどの噴霧装置を用いた調製法や各種造粒装置を用いた調製法等の被覆製剤を調製するための一般的な方法によって調製すればよい。例えば、スプレードライ法によって調製するには、加熱溶融した硬化油に、必要によりその他の油性成分や副成分を添加して被覆材を調製した後、塩基性ペプチド粉末を添加し、十分に混合して均一に懸濁させた後、空気中に噴霧して冷却固化することによって調製される。
【0025】
例えば、塩基性ペプチド粉末1重量部と、融点が40〜65℃の硬化油50〜99重量%およびミツロウ1〜50重量%を含有する被覆材2重量部とを混合した後、噴霧して固化することによって、被覆前と比べて平均粒子径が約80%程度増大した被覆塩基性ペプチド粉末を得ることができる。
【0026】
また、本発明は上記被覆塩基性ペプチド粉末を含有する食品保存剤も提供する。本発明の食品保存剤には、上記被覆塩基性ペプチド粉末に加えて他の食品添加物や賦形剤を含有させることができる。
【0027】
本発明の食品保存剤に使用し得る食品添加物としては、被覆塩基性ペプチド粉末に使用されている硬化油の溶解性に影響を与えないものであればよく、有機酸およびその塩、アミノ酸、脂肪酸、脂肪酸エステル、チアミンラウリル硫酸塩、カンゾウ油性抽出物等の成分が例示される。有機酸としては酢酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸等が挙げられる。また、有機酸塩としては、前記有機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が挙げられる。アミノ酸としてはグリシン、アラニン等が挙げられる。脂肪酸としてはカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸等の炭素原子数6〜18の脂肪酸が挙げられる。脂肪酸エステルとしてはグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。また、賦形剤としては、デンプン、デキストリン、糖類等が挙げられる。これらの成分は2種以上を併用してもよい。
【0028】
さらに、本発明は、被覆塩基性ペプチド粉末を用いた食品の保存方法も提供する。
【0029】
本発明の食品の保存方法は、上記被覆塩基性ペプチド粉末を食品へ添加した後、被覆材に使用した硬化油の融点以上の温度で加熱し、内部の塩基性ペプチド粉末を露出させることにより食品の保存性を改善する方法である。
【0030】
本発明の保存方法においては、被覆塩基性ペプチド粉末の割合が、食品全量に対し、0.03〜0.5重量%となるように添加するのが好ましく、0.04〜0.4重量%となるように添加するのがより好ましく、0.05〜0.33重量%となるように添加するのがさらに好ましい。食品中の被覆塩基性ペプチド粉末の割合が0.03重量%未満の場合、食品の種類によっては保存効果が十分に発揮されない傾向にあり、被覆塩基性ペプチド粉末の割合が0.5重量%を超える場合、食品の種類と被覆塩基性ペプチド粉末に使用した硬化油の種類によっては、食品の風味に影響を与える傾向にある。
【0031】
本発明が適用可能な食品としては、加熱後に市場に供給される食品であれば特に限定されず、かまぼこ、ちくわ、はんぺん、魚肉ソーセージなどの水産製品、コロッケ、ハンバーグ、肉団子、餃子、シュウマイ、ソーセージ、卵焼き、オムレツなどの惣菜類、カステラ、スポンジケーキ、饅頭等の和・洋菓子、ホイップクリーム、カスタードクリームなどのクリーム類等に幅広く使用可能である。その中でも、卵焼き、オムレツ、カステラ、カスタードクリーム等の卵を用いた加工食品に特に適する。
【0032】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0033】
実施例1
(被覆塩基性ペプチド粉末の製造)
パーム油硬化油(融点:57.3℃、植田製油株式会社製)168gとサラシミツロウ(融点:66.3℃、三木化学工業株式会社製)30gを加熱溶解し、約90℃に達した時点で撹拌しつつ大豆レシチン(和光純薬工業株式会社製)2.4gとプロタミン粉末(上野製薬株式会社製)99.6gを徐々に添加した。この混合物をホモミキサー(プライミクス株式会社製)により5000rpmで5分間混合した後、約85℃に加温した滴下ロート(ロート内径:3mm)に充填した。次いで滴下ロートから5000rpmで回転しているアトマイザーに混合物を滴下し、大気中に噴霧することにより被覆プロタミン粉末を得た。
【0034】
(被覆塩基性ペプチド粉末の吸湿性試験)
上記製造試験により得られた被覆塩基性ペプチド粉末約2gを恒量測定済みのガラス瓶に入れ、正確な重量を測定した(初発重量)。次いでガラス瓶の蓋を開けた状態で、25℃、相対湿度45%の恒温器内に静置し、経時的に重量を測定し(所定時間経過後重量)、下記計算式により重量増加率を求めた。

重量増加率(%)=(所定時間経過後重量−初発重量)/初発重量×100
【0035】
実施例2
プロタミン粉末をポリリジン粉末(アサマ化成株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして被覆ポリリジン粉末を得、吸湿性試験を行った。
【0036】
実施例3
大豆レシチンを使用せず、パーム油硬化油を170g、サラシミツロウを30g、プロタミン粉末を100gとした以外は実施例1と同様にして被覆プロタミン粉末を得、吸湿性試験を行った。
【0037】
比較例1〜3
比較例として被覆前のプロタミン粉末(比較例1)、被覆前のポリリジン粉末(比較例2)、及びプロタミン粉末100gをパーム油硬化油200gで被覆した被覆プロタミン粉末(比較例3)を用い、実施例と同様にして吸湿性試験を行った。
【0038】
実施例1〜3の被覆塩基性ペプチド粉末は、被覆前の粉末(比較例1及び2)及び硬化油のみで被覆した粉末(比較例3)に比べ、吸湿による重量増加が大幅に抑制されており、吸湿性が改善されていた。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例4〜8および比較例4〜6
(被覆プロタミン粉末の製造)
表2に示す割合の被覆プロタミン粉末を実施例1と同様にして製造した。本発明品(実施例1および3〜8)については、良好な被覆プロタミン粉末が得られたが、硬化油を用いずカルナバワックスのみを用いた比較例5およびミツロウのみを用いた比較例6は、アトマイザーへの滴下直後に固化し、噴霧することができず、被覆粉末が得られなかった。
【0041】
【表2】

【0042】
(粉体物性の測定)
上記製造試験において得られた被覆プロタミン粉末(実施例1および3〜8、比較例3〜4)および被覆前のプロタミン粉末(比較例1)の安息角、圧縮度および平均粒子径を測定した。実施例1及び3〜8の被覆プロタミン粉末は、被覆前のプロタミン粉末に比べ、安息角および圧縮度が小さく、流動性が改善されていた。比較例3〜4の被覆プロタミン粉末も被覆前のプロタミン粉末に比べ安息角および圧縮度は減少していたが、流動性の改善が不十分であった。結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
尚、安息角、圧縮度および平均粒子径は下記の方法によって測定した。
【0045】
安息角:パウダーテスターPT−N(ホソカワミクロン株式会社製)により、目開き710μmの篩を用い、振動時間180秒間の条件で測定した。
【0046】
圧縮度:パウダーテスターPT−N(ホソカワミクロン株式会社製)を用い、取扱説明書に記載される標準の条件において測定したゆるみ見掛け比重および固め見掛け比重の測定値から下記計算式によって算出した。固め見掛け比重は、ストローク幅18mmで180回タッピングした後の比重である。

圧縮度(%)=(固め見掛け比重−ゆるみ見掛け比重)/固め見掛け比重×100
【0047】
平均粒子径:ロータップふるい振盪機R−2型(株式会社タナカテック製)を用い、ふるい分け法により粒度分布を測定し、ロジンラムラー式に基づいて平均粒子径を求めた。
【0048】
(被覆プロタミン粉末の飛散性試験)
実施例1および比較例1で得られたサンプル10.0gを、口径5mmの漏斗の出口から実験台までの高さを30cmに設置し、漏斗の真下にある直径8cm、高さ5mmのアルミ箔の皿に向けて自然落下させた。この時の粉末飛散性を下記計算式によって算出した。

粉末飛散性(%)=皿の中にあるサンプルの重量/10.0×100
【0049】
実施例1の被覆プロタミン粉末は、被覆前のプロタミン粉末(比較例1)に比べて落下中に飛散する割合が少なく、飛散性が抑制されていた。結果を表4、図1及び図2に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
(溶出率の測定)
実施例1および3〜8、ならびに比較例3〜4で得られた被覆プロタミン粉末1gを各々25℃の水500mLに加え、6枚羽根を取り付けた攪拌機にて320rpmで5分間撹拌した後、撹拌終了後の溶液約10mLをろ紙でろ過し、ろ液を得た。次いで、得られたろ液50μLに含まれるタンパク質量をBCAタンパク質定量キット(Thermo Fisher Scientific社製)にて測定し、溶出率を下記計算式により算出した。

溶出率(%)=ろ液50μLに含まれるプロタミン量×10000/被覆プロタミン粉末1gに含まれるプロタミン量
【0052】
実施例1および3〜8の被覆プロタミン粉末は、比較例3〜4のものに比べ、プロタミンの水中への溶出が抑制されていた。結果を表5に示す。
【0053】
【表5】

【0054】
実施例9
(食品の保存試験)
割りほぐした全卵100gに上記実施例1で得られた被覆プロタミン粉末を0.075%(プロタミン濃度250ppm)および0.15%(プロタミン濃度500ppm)添加し、スパチュラにて1分間撹拌し、耐熱性ポリエチレン袋に入れ、90℃の湯浴中で30分間加熱した後、流水で冷却した。冷却後の全卵をポリエチレン袋内で潰し、潰した全卵6gをストマッカー袋に入れ、B. subtilisの菌液を2.2個/全卵gとなるように接種した後、密封し、25℃の恒温器内で保存し、食品添加物公定書第8版に微生物限度試験法として記載されるメンブランフィルター法に従い、3日間にわたって一般生菌数を確認した。
【0055】
本発明の被覆プロタミン粉末を添加した全卵は、3日間保存後も菌の増殖が抑制されていた。結果を表6に示す。
【0056】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性を有する塩基性ペプチド粉末を、融点が40〜65℃の硬化油50〜99重量%およびミツロウ1〜50重量%を含有する被覆材で被覆してなる被覆塩基性ペプチド粉末。
【請求項2】
被覆材が大豆レシチンをさらに含む請求項1記載の被覆塩基性ペプチド粉末。
【請求項3】
抗菌性を有する塩基性ペプチドがプロタミンおよび/またはポリリジンである請求項1記載の被覆塩基性ペプチド粉末。
【請求項4】
抗菌性を有する塩基性ペプチド粉末1重量部に対する被覆材の割合が0.25〜4重量部である請求項1記載の被覆塩基性ペプチド粉末。
【請求項5】
平均粒子径が50〜350μmである請求項1記載の被覆塩基性ペプチド粉末。
【請求項6】
下記の計算式で表わされる圧縮度が5〜9.5%である請求項1記載の被覆塩基性ペプチド粉末:
圧縮度(%)=(固め見掛け比重−ゆるみ見掛け比重)/固め見掛け比重×100。
【請求項7】
安息角が20〜33度である請求項1記載の被覆塩基性ペプチド粉末。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載の被覆塩基性ペプチド粉末を含有する食品保存剤。
【請求項9】
請求項1〜7いずれかに記載の被覆塩基性ペプチド粉末を食品に添加した後、被覆材に含まれる硬化油の融点以上の温度で加熱することを特徴とする食品の保存方法。

【図1】
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【図2】
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