説明

被覆層の異常検出方法

【課題】 建築物等の被覆層の欠陥の検出を簡単、正確、且つ効率的に得られる方法の開発が望まれていて、特に空港の滑走路、誘導路等の欠陥の検出が空港管理上と旅客運搬の安全のために望まれている。
【解決手段】 被覆層表面を赤外画像撮影装置で撮影する際に、覆装体を用いて前記被覆層表面上方の少なくとも一部を覆う被覆異常検出方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の建築物の表面層、例えば、建物の表面塗布層などの被覆層あるいは道路の舗装部分などの被覆層の異常検出方法、特に空港の滑走路あるいは誘導路などの舗装部分の異常検査方法に関するものであり、前記被覆層が長期的にあるいは急激に荷重、熱などの環境変化を受けた場合に、前記被覆層の層間に空気層が発生することがあり、結果的に前記被覆部分に破損が生じることがあるので、本発明は、この破損を防止するために事前に前記空気層を検知するのに最適な方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近来、種々の非破壊検査が提案され、前記建築物の欠陥の発生を防止し、あるいは早期に発見して、これを解消し前記建築物の強度を向上させるために、建築物等を破壊することなく、前記欠陥を検出するための工夫が多く提案されてきている。
【0003】
本発明は、かかる非破壊検査のひとつの方法に関するものであり、熱赤外画像を利用する方法の改良に関するものである。従来の熱赤外画像を利用する方法は、被覆層表面の熱赤外画像を撮影し、前記欠陥が異常画像として撮影されることを利用して、前記異常画像を検出して、前記欠陥を検出するものである。しかし、前記欠陥を表示する画像と類似の画像(ノイズ)が混在しがちで、前記ノイズが多いために前記欠陥の検出精度が満足できるものではなく、実用化が遅れていた。本発明は、前記ノイズを除去して、検出精度を著しく向上させ、且つ前記欠陥を容易に検出できる方法を見出したものである。
【0004】
本発明は、例えば、アスファルトコンクリート舗装、セメントコンクリート舗装等の舗装体が接着面から剥離する剥離現象が起こると、舗装面の破壊現象に結びつき、航空機、自動車等に重大な被害を与え、大きな人身事故が引き起こされる等の問題が生ずるので、それを事前に防止しようとするものである。
【0005】
従って、できるだけ早く、前記剥離現象を見つけ、大事故を未然に防ぐことが肝要である。特許文献1には、前記剥離の部分あるいは剥離直前の部分が熱伝導に影響を与えることに着目して、舗装表面温度分布を把握するために、熱赤外画像を用いて、前記剥離部分あるいは前記剥離懸念部分を抽出することが提案されている。特許文献1の熱赤外画像を利用する方法は、簡単で、安価なために、大きく期待されている方法である。しかしながら、欠陥部分の画像と類似であって、欠陥ではない部分の画像が混在するために、欠陥ではないのに、欠陥と判断する確率が高く、実用上問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−145648
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
即ち、特許文献1の方法は、航空機あるいは自動車のタイヤ跡が撮影画像の中で、ノイズとして撮影されるものが多く、例えば、路面標識なども前記ノイズとして撮影され、前記剥離部分を前記ノイズから分離することが困難である問題を抱えていた。本発明は、かかるノイズを除去することを主な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被覆層表面を赤外画像撮影装置で撮影する際に、覆装体を用いて前記被覆層表面上方の少なくとも一部を覆う被覆異常検出方法を請求項1としている。
【0009】
また、前記被覆層上方全体を前記覆装体が覆う請求項1の被覆異常検出方法を請求項2とし、前記覆装体が、前記被覆層表面と前記撮影装置とを含む空間全体あるいは略全体を覆う請求項2の被覆異常検出方法を請求項3として提案している。
【0010】
更に、前記覆装体の温度が前記被覆層の温度に等しいあるいは略等しい請求項3の被覆異常検出方法を請求項4とし、前記被覆層表面が空港の滑走路または誘導路の表面である請求項1乃至4のいずれかに記載の被覆異常検出方法を請求項5としている。
【0011】
本発明に使われる熱赤外画像が異常検出に用いられる原理および従来の前記熱赤外画像が異常検出に用いられる原理はいくつかの現象を利用していて、例えば、舗装体と被舗装体との接着部分が剥離すると、空気層ができ、これが熱伝導に影響して、剥離部分あるいは剥離直前部分の熱伝導を妨げることから、該剥離部分を他の部分(非剥離部分)と比較して熱しやすく、さめやすいという現象を起こす。従って、熱赤外画像を撮影すると、前記剥離部分が周囲と異なる温度の画像となって、検出できることとなる。
【0012】
一般的に、例えば、航空運営の関係上、あるいは、他の熱源による干渉を避けるため、あるいは日射量の変化の影響を避けるために、夜に検査・調査を行うことが多いが、放熱を考えると、前記剥離部分の温度が前記非剥離部分よりも低温になる。一方、もし、前記検査・調査を昼間に行うと、前記剥離部分が前記非剥離部分よりも熱伝導が悪く、蓄熱されるために高温になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、熱赤外画像を得たときに、昼間と夜で画像の様子は異なるが、いずれの場合も、前記剥離部分と前記非剥離部分との温度差があるために、前記剥離部分の画像を前記非剥離部分の画像から容易に識別できる。さらに、前記覆装体と前記被覆体との温度差が少なくなる状態にすると、レーンマーク、ゼブラマークなどの区画線、路面標識などと、タイヤ痕などが非剥離部分の画像に同化し、前記剥離部分の画像との混在状態がなくなり(ノイズがなくなり)、前記剥離部分を非常に識別しやすくなった。本発明は、その他種々の効果を有するが、それは以下の記載から明確にされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例を説明する断面概念図である。
【図2】本発明の第2の実施例を示す斜視概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施例は、基本的には、熱赤外画像撮影装置、例えば熱赤外画像撮影カメラとこれを固定する支持体があり、覆装体として、遮光カーテンとして知られている布素材が好ましく用いられ、例えば、厚手の密な布で覆装体を構成し、前記カメラの撮影対象の被覆層の撮影を邪魔しない位置関係で、少なくとも該被覆層の上方一部を該覆装体が覆う構成になっている。
【0016】
前記本発明にかかる撮影装置を、しばらく放置して前記覆装体と前記被写体の温度差が少なくなるのを待って、路面に向けられた撮影レンズで、前記被覆層の熱赤外画像を撮影すると、夜間の場合は、問題の剥離部分が存在するとそれが低温度部画像になって、容易に識別される。なお、画像は、黒白あるいは青白等のモノトーン画像でもよいし、濃度を色違いに表示させて、2色以上の色を利用して色コントラストを向上させて、異常検出を容易化することも可能である。
【0017】
本発明にかかる熱赤外画像撮影装置は、基本的には、レンズと赤外線の検出素子(例えば、CCDあるいはCMOSのような検出素子)を含む所謂カメラであり、場合により熱赤外線以外をカットする特殊フィルターを介して撮影され、前記検出素子の出力は、電気回路に接続され、画像処理回路等に結合された、所謂デジタル方式のカメラが好ましい。
【0018】
前記撮影装置は、一般的には、0.7μm〜0.1mmの波長の赤外線(含む電磁波)の少なくとも一部を利用して撮影するものであるが、1μ以上の波長の赤外線が熱線として好ましく用いられる。特に、透過率の高い大気の窓と呼ばれる約3〜5μmまたは約8〜14μmの波長を利用することが多く、前者は短波長タイプ、後者は長波長タイプと呼ばれ、環境の状態を考慮して、使い分けられる。その場合の、検出素子は、前者としては、InGaAs、InSbなどが好ましく用いられ、後者としては、マイクロボロメータ、QWIPなどがもちいられる。なお、前記検出素子として、望む波長によっては、シリコンCCDも好ましく用いられる。
【0019】
一般的には、前記カメラは、路面等に蓄熱された熱の状態を撮影することになるが、場合により、熱赤外線照射装置を有していて、これを前記覆装体に作用させ、強制的に前記覆装体の温度を調整して、前記被覆層との温度差をできる限り少なく調整して、撮影することもできる。好ましくは、加熱装置と冷却装置を前記覆装体に作用する構成にして、温度調節を微妙にすることも可能で、より好ましい画像を得ることが可能になる。
【0020】
前記覆装体は、前記被覆層上方から前記被覆層に熱の影響がでるのを防止するように前記熱を遮断する例えば遮光カーテンのような柔らかな素材が用いられ、前記被覆層上方の一部あるいは全体を覆うように構成できるが、場合により、不透明プラスチック版あるいは木製の板等の遮光(熱)板のような硬い素材で覆うことも可能である。夜間撮影を前提とした場合は、基本的に天空からの放射を遮るものを用い、前記被覆層と同様の温度となるように使用することが好ましい。例えば、これら覆装体素材は、場合により、蓄熱性のものが望ましく、あるいは、金属板のような、熱伝導性が良くて、蓄熱性が少ない素材が好ましいこともあり、温度調節機能のありなし、撮影環境の状態等の条件で、最も好ましいものが選択される。
【0021】
本発明にかかる前記覆装体として、例えば、直方体の各稜を硬質のプラスチックの筒で作成し、前記覆装体が板状のものの場合は、例えば、同質の不透明な硬質プラスチックの平板を上面に配設した直方体が用いられ、熱赤外画像撮影カメラを支持する支持体を前記直方体に一体的に結合させて、前記直方体の底の部分に位置する被覆体(被写体)の前記カメラによる撮影を邪魔しない位置関係(例えば、前記立方体の一側面あるいは該側面と前記底部分との両方を臨む好ましくは斜方中心線上に配設されるように)で、前記カメラを固定した撮影装置が用いられる。
【0022】
前記カメラは、前記側面上にあるいは前記側面と前記底面の間に配置させることもできる。重要な点は、前記カメラが撮影面に影響を与えないように、前記カメラの位置を考慮するあるいは影響のある画像の処理を適切にすることである。例えば、画面のサイズを好ましいサイズを選択することにより、前記カメラの影響がないように工夫する、あるいは、前記カメラの影響がある部分が存在してしまう場合は、該影響のある画像部分を画面から削除し、得られた画像を画像処理をして、隣の画像と結合させて、該影響を取り除いた一体的な画像を得ることが望ましい。
【0023】
前記覆装体は、例えば、前記直方体を利用し、前記直方体の上面を遮光カーテンのような素材で構成し、更に前記素材を延伸させて各側面も全体的に覆い、基本的に底面以外は前記素材で覆い、前記カメラをその内空間に配置させることも可能で、この場合は、前記のように前記カメラ配置に工夫するあるいは前記画像処理をすることによって、好ましい異常検出用の画面を得ることができる。この場合は、各面の前記素材の覆う面積を調整して、最も好ましい撮影条件を作り出すことが可能である。
【0024】
本発明にかかる方法は、大きな前記撮影装置を用いて、路面などの被覆体の異常検出を効率的に行うことができるが、小型の前記撮影装置では、建築物の壁面等の被覆体の異常検出に用いることができ、種々の応用が可能なものである。
【0025】
本発明にかかる方法は、昼間でも、夜間でも、時間は問わないで利用できるが好ましくは、結果的にノイズが少ない夜間の方が一般的には好ましく、そのときの熱エネルギーの流れは、主に3μ以上の長波に関して、被覆体からの熱赤外線放射があり、一方、雲、大気などからは、被覆体に向う大気放射と宇宙への熱赤外線放射がある状況が考えられる。なお、3μ以下の短波に関しては、その流れは、一般的な熱赤外画像撮影装置を用いたときに、本発明にかかる撮影条件下では、検出されにくいために、ほとんど無視できる状態と考えられている。
【0026】
このような状態で、前記被覆体の放射エネルギーの基本式は、下記で表される。
W=σT(γ)4=εσT(t)4 +(1−ε)σT(e)4
式において、
W :放射エネルギー
T(γ):前記被覆体の放射率が1の場合の絶対温度
ε :放射率
σ :ステファン・ボルツマン定数
5.67×10-8W/m24
T(t):前記被覆体の絶対温度
T(e):前記被覆体以外の周辺環境の絶対温度(背景輻射等の影響)
【0027】
従って、被覆体の放射率が1でない場合、被覆体周辺環境の温度T(e)の影響を受けることとなる。画像中に放射率の異なる同一温度の物質があった場合、放射率の異なる部分で、周辺絶対温度の4乗に比例した差異が生ずる。
【0028】
また、前記覆装体を設けたときに前記覆装体が雲、大気などの赤外放射、大気放射を前記被覆体に対して、保護する形となり、該放射の影響を遮断することになり、むしろ、前記覆装体からの赤外放射の影響を、前記被覆体が受けるようになる。従って、前記覆装体の温度を前記被覆体の温度と同等にすることが好ましいことになる。
【0029】
以下、本発明を図面により、実施例を挙げながら、更に具体的に詳しく説明する。図1は、本発明の一実施例の斜視概念図である。
【0030】
底面を構成する稜を除いて、その他の稜を硬質プラスチックで作成した直方体の側面6と底面を除いて遮光カーテン素材で作られた覆装体で面1を構成させた。3は、熱赤外画像撮影カメラで、カメラ支持体(例えば三脚)で、覆装体のない側面6を通して、撮影領域2を睨んでしっかりと適切な位置に固定される。
【0031】
4は、舗装部分で、撮影領域2の範囲内に剥離部分5が形成された例である。かかる構成で、夜間に適当な時間しばし放置し、覆装体の温度が舗装部分の被覆体温度と近くなったときに撮影開始とした。ひとつの撮影領域2の撮影終了後に装置全体の位置をずらせて、次の撮影領域へ位置させて、逐次該撮影を繰り返して、撮影を必要とする被覆体全体(舗装部分全体)の撮影を行った。
【0032】
前記撮影は、空港で行ったが、滑走路、誘導路等の舗装部分を撮影したところ、タイヤ、路面標識等のノイズがなく、剥離部分5の検出しやすい画像が得られた。一方、前記覆装体を取り外して、撮影したところ、タイヤ、路面標識等のノイズが明確に画像に共存し、剥離部分5の画像の検出が困難であった。
【0033】
図2は、別の実施例の斜視概念図である。10は、熱赤外画像撮影カメラで、13が該カメラの支持体である。撮影領域は、11であり、直方体の底面の稜を除いて、その他の稜は、硬質プラスチック管で直方体構造体が構成され、上面8に硬質遮光プラスチックの板が配置され覆装体を形成している。被覆体全体が12で、前記構造体と前記支持体とをともに該被覆体上の位置をずらせて、前記被覆体全体の撮影を行った。
【0034】
この実施例では、前記覆装体は、面8(前記被覆体の上面)に設けたもので、面9には設けていないけれど、タイヤ跡、路面標識等のノイズがなく、異常検出がしやすい画像が得られた。面8の覆装体を取り外したものを用いると、ノイズが結構画面に現れ、異常部分の検出が困難であった。
【符号の説明】
【0035】
1 覆装体面
2 撮影領域
3 熱赤外画像撮影カメラ
4 被覆体
5 剥離部分(空隙)
6 覆装体のない側面
7 カメラ支持体
8 覆装体面
9 覆装体のない面
10 熱赤外画像撮影カメラ
11 撮影中の領域
12 撮影対象全体の被覆体
13 カメラ支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆層表面を熱赤外画像撮影装置で撮影する際に、覆装体を用いて前記被覆層表面上方の少なくとも一部を覆うことを特徴とする被覆異常検出方法。
【請求項2】
前記被覆層上方全体を前記覆装体が覆うことを特徴とする請求項1の被覆異常検出方法。
【請求項3】
前記覆装体が、前記被覆層表面と前記撮影装置とを含む空間全体あるいは略全体を覆うことを特徴とする請求項2の被覆異常検出方法。
【請求項4】
前記覆装体の温度が前記被覆層の温度に等しいあるいは略等しいことを特徴とする請求項3の被覆異常検出方法。
【請求項5】
前記被覆層表面が空港の滑走路または誘導路の表面であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の被覆異常検出方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−185723(P2010−185723A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29040(P2009−29040)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (社)土木学会 第63回年次学術講演概要集CD
【出願人】(501198039)国土交通省国土技術政策総合研究所長 (23)
【出願人】(390023249)国際航業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】