説明

被覆工法、及び被覆構造体

【課題】構造物の表面に被覆材を、耐久性に富み、かつ、簡単に取り付けることが出来る技術を提供することである。
【解決手段】鋲打機を用いて金属製またはコンクリート製の構造物に鋲を打つ打鋲工程と、網状、棒状、線状、メッシュ状又はシート状の固定材を、前記構造物との間に空隙を持たせて、鋲で取り付ける固定材配設工程と、前記構造物との間に空隙が有るように鋲で取り付けられた固定材の少なくとも一部が内在するよう被覆材を該構造物表面に配設する被覆材配設工程とを具備する被覆工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被覆構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属(鋼鉄とか鋳鉄など)やコンクリートが用いられて構成されたビルその他の構造物が火災に遭うと、著しい強度低下、場合によっては変形すら起きる恐れが有る。そこで、このような懸念を払拭することを目的として、或は、景観(美観)向上を目的として、セメント系耐火被覆材、セメント系断面修復材、或いは耐火パネルや化粧パネルと言った類のセメント系被覆材が、前記構造物の表面に被覆されることが提案されている。
【0003】
前記セメント系被覆材を前記構造物表面に取り付ける為、インサートナット、あと施工アンカ、係止具等を構造物に設置し、ボルトや被係止具等で被覆材を固定する方法が提案(特許文献1,2,3参照)されている。又、被覆材がセメント系被覆材の場合、セメント系被覆材を保持・固定する目的や、ひび割れ発生を抑制する目的で、金網を構造物表面に取り付け、この金網がセメント系被覆材に内在するように、構造物表面にセメント系被覆材を配置する方法も提案(特許文献3,4参照)されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−271597号公報
【特許文献2】特開2001−311395号公報
【特許文献3】特開2009−235890号公報
【特許文献4】特開2003−239693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インサートナット、あと施工アンカ、係止具等を構造物に設置する為、従来では、構造物を構成する部材の製造時に、これらインサートナット等を埋設や溶接等により構造物に予め設置して組み立てて構造物とした後、被覆材を取り付けることが多かった。或は、別な方法として、組み立てた構造物の表面に、ドリルで孔を設け、この孔にあと施工アンカや係止具等を設置するケースも有った。
【0006】
しかしながら、構造物を構成する部材は1種類であることは極稀であり、インサートナット等を計画通り設置することは極めて困難であった。又、組み立てた構造物の表面に、ドリルで孔を設けることは、大変な労力が掛かっていた。更には、ドリルによる穿孔時の騒音は近隣に迷惑を長時間に亘って引き起こしていた。
【0007】
従って、本発明が解決しようとする課題は、前記問題点を解決することである。特に、構造物の表面に被覆材を、耐久性に富み、かつ、簡単に取り付けることが出来る技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題は、
鋲打機を用いて金属製またはコンクリート製の構造物に鋲を打つ打鋲工程と、
網状、棒状、線状、メッシュ状又はシート状の固定材を、前記構造物との間に空隙を持たせて、鋲で取り付ける固定材配設工程と、
前記構造物との間に空隙が有るように鋲で取り付けられた固定材の少なくとも一部が内在するよう被覆材を該構造物表面に配設する被覆材配設工程
とを具備することを特徴とする被覆工法によって解決される。
【0009】
前記の課題は、
鋲打機を用いて金属製またはコンクリート製の構造物に鋲を打つ打鋲工程と、
打鋲工程によって構造物に打たれた鋲を耐水性塗料で被覆する耐水性塗料被覆工程と、
網状、棒状、線状、メッシュ状又はシート状の固定材を、前記構造物との間に空隙を持たせて、鋲で取り付ける固定材配設工程と、
前記構造物との間に空隙が有るように鋲で取り付けられた固定材の少なくとも一部が内在するよう被覆材を該構造物表面に配設する被覆材配設工程
とを具備することを特徴とする被覆工法によって解決される。
【0010】
好ましくは、前記の被覆工法であって、前記構造物と鋲との間に衝撃緩和材が配置されて鋲が打たれることを特徴とする被覆工法によって解決される。
【0011】
前記の課題は、
上記被覆工法が実施されてなる被覆構造体によって解決される。
【発明の効果】
【0012】
構造物の表面に被覆材を取り付けることが極めて簡単・容易になる。更には、取付時に発生する騒音時間は短く、騒音被害が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の被覆工法の第1実施形態になる工程図
【図2】本発明の被覆工法の第2実施形態になる工程図
【図3】本発明の被覆工法の第3実施形態になる工程図
【図4】固定材の一例の平面図
【図5】固定材の一例の平面図
【図6】固定材の一例の平面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は被覆工法である。本被覆工法は、鋲打機を用いて、金属製またはコンクリート製の構造物に鋲を打つ打鋲工程を具備する。これにより、構造物を構成する部材の製造時に、インサートナット等を溶接などにより構造物に予め設置して組み立てて構造物としたり、又、構造物の表面にドリルで穴を設け、この穴にあと施工アンカや係止具等を設置すると言った手間を省くことが出来る。本被覆工法は、網状、棒状、線状、メッシュ状又はシート状の固定材を、構造物との間に空隙(間隙:隙間)を持たせて、鋲で取り付ける固定材配設工程を具備する。本固定材配設工程は、前記打鋲工程後に行われる場合と、前記打鋲工程によって打たれた鋲により固定材が取り付けられる場合(打鋲工程と固定材配設工程がほぼ同時に終了)とが有る。本被覆工法は、構造物との間に空隙が有るように鋲で取り付けられた固定材の少なくとも一部が内在するよう被覆材を該構造物表面に配設する被覆材配設工程を具備する。前記固定材を、該固定材と前記構造物表面との間に空隙を持たせて鋲で取付け、該固定材(固定材の少なくとも一部)が被覆材に内在するように構造物の表面に被覆材を配置(上記空隙に被覆材を充填の場合も含まれる)すると、広い面積の構造物表面を短期間に被覆することが容易である。そして、被覆材が構造物表面に固定し続けることになるから、好ましい。
【0015】
本被覆工法は、好ましくは、前記打鋲工程において、前記構造物と鋲との間に衝撃緩和材が配置されて鋲が打たれる。例えば、板体とか、前記鋲の軸径よりも小さな径の孔が開いた板体が配置され、この板体の上から鋲打機で鋲が打たれる。勿論、平板では無く、ブロック構造のものでも良い。要するに、打鋲時に構造物に作用する衝撃力が緩和されるようなものであれば良い。衝撃緩和材が配置されると好ましい理由は次の通りである。市販の鋲打機が用いられて打鋲が行われた場合、打鋲力(打撃力)が大きく、構造物の厚さが比較的薄い場合には、鋲が貫通したり、或いは、貫通しなくても構造物の背面側に膨れと言った現象が認められた。鋲が貫通してしまった場合には、貫通によって形成された隙間から水分が侵入し、腐食の恐れが生じる。膨れが起きた場合でも、問題が起き易い。従って、前記貫通や膨れの現象が出来るだけ起きないようにしておくことは好ましい。このようにする為には、鋲打機の打鋲力(打撃力)が調整できれば良いものの、市販の鋲打機ではそのような調整は出来なかった。更に、衝撃緩和材が配置されて鋲が打たれた場合、打鋲箇所のみでも構造物が補強された(構造物+衝撃緩和材(疑似構造物)となって、恰も、厚さが厚い構造物となった)かの如くになる。すなわち、補強効果も期待できる。つまり、耐性の向上が期待される。前記衝撃緩和材の厚さは、好ましくは、打ち込まれた鋲が構造物の内部に約3.5mm程度は入り込むことが可能となる厚さである。かつ、打ち込まれた鋲の先端が構造物の厚さの2/3程度よりも浅い位置にしか到達しないようにする厚さである。このような要件は、鋲の長さ、構造物の厚さ又は衝撃緩和材の材質によっても左右される。従って、衝撃緩和材の厚さを一義的に決めることは困難である。衝撃緩和材の素材は金属や樹脂の群の中から適宜選択できる。但し、金属製のものが好ましい。中でも、鋲や構造物と同系列の金属材で構成させていると、電位差が小さいので、腐食が起き難くなる。鋲や構造物がステンレス製の場合には、衝撃緩和材もステンレス製であることが好ましい。
【0016】
本被覆工法は、好ましくは、打鋲工程によって構造物に打たれた鋲を耐水性塗料で被覆する耐水性塗料被覆工程を具備する。これにより、耐久性が高まる。すなわち、構造物に打鋲後の鋲を耐水性塗料で被覆すると、鋲が長期間に亘って腐食し難くなる。例えば、構造物が金属製で、かつ、鋲と電位差が有る場合、局部的に電池が形成され、鋲または構造物に腐食が起こる虞が有る。ところが、ここで、塗膜が設けられていると、斯かる懸念が払拭される。ここで、耐水性塗料が耐アルカリ性の耐水性塗料の場合、被覆材としてセメント系被覆材が用いられた場合でも、鋲が特に腐食し難い。従って、耐アルカリ性・耐水性塗料が好ましい。更に、防錆性をも有した塗料の場合、鋲自体の腐食も防止されるから、一層、好ましい。
【0017】
鋲打機には各種の鋲打機が有る。例えば、空気圧式、火薬式、ガス燃焼式と言った鋲打機が知られている。本被覆工法で好ましく用いられる鋲打機はガス燃焼式のものである。これは、空気圧式の鋲打機では、打鋲力が弱く、金属製あるいはコンクリート製の構造物に鋲を打ち込むことが困難であるからによる。打鋲力の観点からすると、火薬式の鋲打機は十分な能力を有するものの、警察署への所持許可証や火薬申請が必要となり、取り扱いが煩瑣となる。更には、場合によっては、能力が大き過ぎて、構造物を傷める場合も認められたからである。そして、打鋲力および取扱性の観点から鑑みた場合、ガス燃焼式の鋲打機は、共に、好ましいものであった。ガス燃焼式の鋲打機は数多く市販されており、利用し易い。例えば、ヒルティ社製「GX120−ME 鋲打機」「GX120 鋲打機」、マキタ社製「マキタ ガス式鋲打機 TF-1100JQ」、日本パワーファスニング社製「トラックファーストPro ガス式鋲打機 TF−1100JQ」等がある。
【0018】
本被覆工法で好ましく用いられる鋲は、その一部分が螺子状の鋲である。これは、被覆材や固定材を固定し易かったからである。螺子状となっている部分は、雌螺子、雄螺子どちらでも良い。本発明で用いられる被覆材は、例えばセメント系耐火被覆材やセメント系断面修復材等のセメント系被覆材、耐火パネル、化粧パネル、防音パネル等の板状被覆材、或いは耐火マットや防音マット等のマット状被覆材である。但し、本被覆工法で好ましく用いられる被覆材はセメント系耐火被覆材である。これは、セメント系耐火被覆材の場合、広い面積を短期間に被覆することが容易であるからによる。被覆材は、作業性の観点から、セメント系被覆材の如く、被覆時に不定形で、後に硬化するものが好ましい。本発明で用いられる固定材は、例えば金属、セラミック、樹脂、ガラス、炭素、木材、竹を主体とする固定材が挙げられる。長期間に亘って被覆材を固定する為には、ステンレス鋼、防錆処理した金属、樹脂、耐アルカリガラス、炭素、防腐処理した木材や竹と言った腐食や発錆が起こり難い材質のものが好ましい。耐火性の観点から、不燃又は難燃性のものが好ましい。被覆材がセメント系被覆材の場合、固定材は、ステンレス鋼、防錆処理した金属、セラミック、耐アルカリ性ガラス等が好ましい。固定材の形状は、網状、棒状、線状、メッシュ状又はシート状から選ばれる何れでも良い。但し、吹付工法により構造物表面にセメント系被覆材が配置される場合を鑑みた場合、セメント系被覆材が構造物表面に付き易いことから、固定材の形状は網状、棒状又は線状のものが好ましい。固定材を鋲に取付ける方法としては、締結、溶接、圧着、螺合、溶着、接着、係止、嵌合等の方法が適宜用いられる。本被覆工法が実施される構造物は、例えばNATM工法によるトンネルやシールドトンネル等の人工的に構築したトンネル、高速道路や鉄道等の高架橋、コンクリートや鋼材等で構築した建物等が挙げられる。勿論、その他の構造物にも適用される。
【0019】
他の本発明は、上記被覆工法が実施されてなる被覆構造体である。
【0020】
以下、更に詳しく説明する。勿論、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。上記説明を逸脱しない範囲において本発明は有効である。
【0021】
図1(a)(b)(c)(d)は本発明の被覆工法の第1実施形態になる工程図である。
【0022】
先ず、図1(a)に示される如く、金属製あるいはコンクリート製の構造物1に、燃焼ガス式鋲打機を用いて、鋲2が打ち込まれた。
【0023】
打鋲後、図1(b)に示される如く、構造物1に打ち込まれた鋲2に対して、固定材3が配置された。
【0024】
固定材3の配置後、図1(c)に示される如く、鋲2の頭部の螺子部にナット4が螺着された。これにより、図1(c)に示される通り構造物1表面から所定の間隙を開けて固定材3が取り付けられた。
【0025】
この後、図1(d)に示される如く、セメント系被覆材が吹き付けられた。この吹き付けられるセメント系被覆材の量は、吹き付けられたセメント系被覆材5中に固定材3が埋設されるものとなる量である。
【0026】
図2(a)(b)(c)(d)は本発明の被覆工法の第2実施形態になる工程図である。
【0027】
先ず、図2(a)に示される如く、固定材3が、金属製あるいはコンクリート製の構造物1に対して配置された。この段階では、固定材3は構造物1に対して仮止状態に過ぎない。
【0028】
この後、図2(b)(c)に示される如く、燃焼ガス式鋲打機を用いて、鋲2が打ち込まれた。尚、図2(c)に示される如く、打鋲後の固定材3と構造物1表面との間には所定の間隙が有る。
【0029】
固定材3の取付後、図2(d)に示される如く、セメント系被覆材が吹き付けられた。この吹き付けられるセメント系被覆材の量は、吹き付けられたセメント系被覆材5中に固定材3が埋設されるものとなる量である。
【0030】
図3(a)(b)(c)(d)は本発明の被覆工法の第3実施形態になる工程図である。
【0031】
先ず、図3(a)に示される如く、固定材3が、厚さ9mmの鋼製の構造物1に対して配置された。この段階では、固定材3は構造物1に対して仮止状態に過ぎない。
【0032】
この後、図3(b)(c)に示される如く、打鋲箇所の構造物1(固定材3)の表面に、厚さ3mmのステンレス製の平板(円板)6が配置され、燃焼ガス式鋲打機を用いて、プラスチック製のワッシャ7を挟んで、鋲2が打ち込まれた。この時、鋲2の先端は、構造物1の表面から約6mmの位置まで打ち込まれていた。そして、この深さは構造物1の厚さの約2/3であった。尚、図3(c)に示される如く、打鋲後の固定材3と構造物1表面との間には所定の間隙が有る。
【0033】
固定材3が鋲2によって取り付けられた後、図3(d)に示される如く、セメント系被覆材が吹き付けられた。この吹き付けられるセメント系被覆材の量は、吹き付けられたセメント系被覆材5中に固定材3が埋設されるものとなる量である。
【0034】
そして、上記実施形態になる本発明の被覆工法は、極めて、簡単、かつ、スムーズに実施された。
【0035】
図4,5,6は、固定材3の一例の平面図である。但し、この種の固定材は周知であるので、詳細な説明は省略される。
【符号の説明】
【0036】
1 金属製あるいはコンクリート製の構造物
2 鋲
3 固定材
4 ナット
5 セメント系被覆材
6 平板
7 ワッシャ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋲打機を用いて金属製またはコンクリート製の構造物に鋲を打つ打鋲工程と、
網状、棒状、線状、メッシュ状又はシート状の固定材を、前記構造物との間に空隙を持たせて、鋲で取り付ける固定材配設工程と、
前記構造物との間に空隙が有るように鋲で取り付けられた固定材の少なくとも一部が内在するよう被覆材を該構造物表面に配設する被覆材配設工程
とを具備することを特徴とする被覆工法。
【請求項2】
打鋲工程によって構造物に打たれた鋲を耐水性塗料で被覆する耐水性塗料被覆工程を更に具備する
ことを特徴とする請求項1の被覆工法。
【請求項3】
構造物と鋲との間に衝撃緩和材が配置されて鋲が打たれる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2の被覆工法。
【請求項4】
鋲は、その一部分が螺子状である
ことを特徴とする請求項1〜請求項3何れかの被覆工法。
【請求項5】
構造物表面に配設される被覆材がセメント系耐火被覆材である
ことを特徴とする請求項1〜請求項4何れかの被覆工法。
【請求項6】
構造物が高架橋である
ことを特徴とする請求項1〜請求項5何れかの被覆工法。
【請求項7】
構造物がトンネルである
ことを特徴とする請求項1〜請求項5何れかの被覆工法。
【請求項8】
請求項1〜請求項7いずれかの被覆工法が実施されてなる被覆構造体。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−220098(P2011−220098A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284444(P2010−284444)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【出願人】(595002661)ナイガイ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】