説明

被覆材、およびこれを用いた通信ケーブル

【課題】通信伝送時の減衰率の増大を十分に抑制でき、かつ柔軟性を有する通信ケーブルを得るための金属通信線用の被覆材、および通信伝送時の減衰率の増大を十分に抑制でき、かつ柔軟性を有する通信ケーブルを提供する。
【解決手段】エチレン含有量が10〜15質量%、メルトフローレートが2〜8g/10分、25℃における誘電率が2.50以下、25℃、1GHzおける誘電正接が0.00024以下であるエチレン・プロピレンコポリマー樹脂を含む被覆材20で、導体11a,11bと該導体11a,11bを被覆する絶縁体12a,12bからなる複数の金属通信線10を被覆した通信ケーブル1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆材、およびこれを用いた通信ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、工場などでネットワーク(LAN)を構築する際に用いられる工業用のLANケーブルなどの通信ケーブルは、家庭用のLANケーブルと異なり、配線が長くなる場合が多い。そのため、特に高周波による高密度の情報を送信する場合、LANケーブル内に配されている複数の金属通信線(電線)による相互干渉によって、通信伝送時の減衰率が増大する。その結果、伝送効率が妨げられ、通信性能が低下しやすかった。
【0003】
そこで、金属通信線同士の相互干渉を減らすために、金属通信線を金属で個々にシールドした通信ケーブルや、熱可塑性樹脂で金属通信線を被覆した通信ケーブルが提案されている。
金属通信線を被覆するのに適した熱可塑性樹脂としては、60質量%以上のプロピレン由来単位と、0.1質量%以上のエチレン由来単位を含むプロピレン/エチレンコポリマー(特許文献1)や、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)とポリプロピレン(PP)とスチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)とを含む熱可塑性エラストマー組成物(特許文献2)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−508415号公報
【特許文献2】特開2009−13428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、金属通信線を金属で個々にシールドした通信ケーブルは、柔軟性が低下しやすく、その結果、曲げにくくなり、配線しにくかった。
また、特許文献1、2に記載のような熱可塑性樹脂で金属通信線を被覆した通信ケーブルでは、減衰率の増大を抑制することは必ずしも十分ではなかった。
【0006】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、通信伝送時の減衰率の増大を十分に抑制でき、かつ柔軟性を有する通信ケーブルを得るための金属通信線用の被覆材、および通信伝送時の減衰率の増大を十分に抑制でき、かつ柔軟性を有する通信ケーブルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の被覆材は、複数の金属通信線を被覆する被覆材であって、エチレン含有量が10〜15質量%、メルトフローレートが2〜8g/10分、25℃における誘電率が2.50以下、25℃、1GHzおける誘電正接が0.00024以下であるエチレン・プロピレンコポリマー樹脂を含むことを特徴とする。
また、本発明の通信ケーブルは、導体と該導体を被覆する絶縁体からなる複数の金属通信線と、複数の金属通信線を被覆する前記被覆材とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の被覆材は金属通信線用であり、通信伝送時の減衰率の増大を十分に抑制でき、かつ柔軟性を有する通信ケーブルが得られる。
本発明の通信ケーブルは、通信伝送時の減衰率の増大を十分に抑制でき、かつ柔軟性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の通信ケーブルの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の通信ケーブルの他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[被覆材]
本発明の被覆材は、複数の金属通信線を有する通信ケーブルの、金属通信線を被覆するものであり、エチレン・プロピレンコポリマー樹脂を含む。
以下、エチレン・プロピレンコポリマー樹脂について説明する。
【0011】
エチレン・プロピレンコポリマー樹脂のエチレン含有量(エチレン単位)は10〜15質量%である。エチレン含有量は、エチレン・プロピレンコポリマー樹脂の電気特性(特に誘電率)に影響を与えやすく、エチレン含有量が多くなるほど誘電率は低下しやすくなる傾向にある。エチレン含有量が上記範囲内であれば、エチレン・プロピレンコポリマー樹脂の電気特性を良好に維持できる。
【0012】
エチレン・プロピレンコポリマー樹脂のメルトフローレート(MFR)は2〜8g/10分である。MFRが上記範囲内であれば、金属通信線を被覆する際の加工性に優れた被覆材が得られる。ここでいう「加工性」とは、金属通信線を均一に被覆することに加え、例えば複数の金属通信線と被覆材とを同時に共押出しするなどして金属通信線を被覆する際に、金属通信線同士が等距離に配置されるように被覆することである。金属通信線が均一に被覆されれば、金属通信線同士の相互干渉が軽減されるので、通信伝送時の減衰率の増大を抑制できる。また、金属通信線同士が等距離に配置されるように被覆されれば、ノイズの影響を受けにくく、かつ減衰率の増大を抑制できる。
なお、MFRは、JIS K 7210に規定される方法により、温度190℃、荷重21.2Nの条件で測定される値である。
【0013】
エチレン・プロピレンコポリマー樹脂の誘電率は2.50以下であり、2.35以下が好ましい。誘電率が2.50以下であれば、本発明の被覆材で被覆した金属通信線同士の相互干渉が軽減されるため、通信伝送時の減衰率の増大を十分に抑制できる通信ケーブルが得られる。誘電率の下限値については特に制限されないが、通常、2.00以上である。
なお、誘電率は、JIS C 2565に規定される「空洞共振法」により、温度25℃の条件で測定される値である。
【0014】
エチレン・プロピレンコポリマー樹脂の誘電正接は0.00024以下である。誘電正接が0.00024以下であれば、本発明の被覆材で被覆した金属通信線同士の相互干渉が軽減されるため、通信伝送時の減衰率の増大を十分に抑制できる通信ケーブルが得られる。誘電正接の下限値については特に制限されないが、通常、0.00010以上である。
なお、誘電正接は、JIS C 2565に規定される「空洞共振法」により、温度25℃、周波数1GHzの条件で測定される値である。
【0015】
エチレン・プロピレンコポリマー樹脂は、密度が0.860〜0.870g/cmであることが好ましい。密度はエチレン・プロピレンコポリマー樹脂の電気特性(特に誘電正接)に影響を与えやすく、密度の値が大きくなるほど誘電正接は低下しやすくなる傾向にある。密度が0.860g/cm以上であれば、エチレン・プロピレンコポリマー樹脂の誘電正接を良好に維持できる。ただし、密度の値が大きくなりすぎると金属通信線を被覆する際の加工性が低下することがある。よって、密度は0.870g/cm以下が好ましい。
なお、密度は、JIS K 7112に規定される「水中置換法」により、温度25℃の条件で測定される値である。
【0016】
また、エチレン・プロピレンコポリマー樹脂は、結晶化度が10.0〜20.0%であることが好ましい。結晶化度はエチレン・プロピレンコポリマー樹脂の密度に由来する。従って、密度と同様に電気特性(特に誘電正接)に影響を与えやすく、結晶化度の値が大きくなるほど誘電正接は低下しやすくなる傾向にある。結晶化度が10.0%以上であれば、エチレン・プロピレンコポリマー樹脂の誘電正接を良好に維持できる。ただし、結晶化度の値が大きくなりすぎると金属通信線を被覆する際の加工性が低下することがある。よって、結晶化度は20.0%以下が好ましい。
なお、結晶化度は、X線回折法により測定される値である。
【0017】
また、エチレン・プロピレンコポリマー樹脂は、硬度が70〜90であることが好ましく、弾性率が10〜50MPaであることが好ましい。硬度や弾性率が上記範囲内であれば、エチレン・プロピレンコポリマー樹脂の誘電正接を良好に維持できる。
なお、硬度は、JIS K 6253に規定される方法により測定される値である。
一方、弾性率は、JIS K 7203−1982に規定される方法により測定される値である。
【0018】
また、エチレン・プロピレンコポリマー樹脂は、数平均分子量(Mw)が150000〜300000であることが好ましく、質量平均分子量(Mn)が50000〜100000であることがより好ましい。MwやMnが上記範囲内であれば、より良好な加工性が得られる。
なお、MwおよびMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用い、スチレン換算した値である。
【0019】
また、エチレン・プロピレンコポリマー樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が−25.0〜−35.0℃であることが好ましく、融点(Tm)が5〜80℃であることが好ましい。TgおよびTmが上記範囲内であれば、より良好な加工性が得られる。
なお、TgおよびTmは、JIS K7121に規定される方法により、加熱速度10℃/分の条件で示差走査熱量測定により測定される値である。
【0020】
また、エチレン・プロピレンコポリマー樹脂は、結晶化熱量(ΔHc)が10.0J/g以下であることが好ましい。ΔHcが10.0J/g以下であれば、より良好な加工性が得られる。
なお、ΔHcは、JIS K7122に規定される方法により、加熱速度10℃/分の条件で示差走査熱量測定により測定される値である。
【0021】
エチレン・プロピレンコポリマー樹脂としては、エチレン含有量、MFR、誘電率、および誘電正接が上記範囲内のものであり、少なくともエチレン単位とプロピレン単位を有するものであれば特に制限されないが、プロピレン含有量(プロピレン単位)が70〜90質量%であることが好ましい。プロピレン含有量が上記範囲内であれば、エチレン・プロピレンコポリマー樹脂の電気特性を良好に維持できる。
【0022】
また、エチレン・プロピレンコポリマー樹脂は、エチレンとプロピレンとの共重合体であってもよいし、エチレンとプロピレンと他の単量体との共重合体であってもよい。
他の単量体としては、エチレンおよびプロピレンと共重合可能な単量体であれば特に制限されないが、例えば1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキサン等のα−オレフィン;5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、1,6−オクタジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,4−シクロヘキサジエン、テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、ジシクロペンタジエン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−ノルボルネン、ジシクロオクタジエン、メチレンノルボルネン等の非共役ジエンなどが挙げられる。
【0023】
エチレン・プロピレンコポリマー樹脂の含有量は、被覆材100質量%中、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。エチレン・プロピレンコポリマー樹脂の含有量が50質量%以上であれば、通信伝送時の減衰率の増大を十分に抑制でき、かつ柔軟性を有する通信ケーブルが得られる。
【0024】
本発明の被覆材は、エチレン・プロピレンコポリマー樹脂からなることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、他の樹脂や添加剤などを含有してもよい。
他の樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−αオレフィンコポリマー、エチレン−シクロオレフィンコポリマーなどが挙げられる。
他の樹脂を含有する場合、その含有量は被覆材100質量%中、50質量%以下であることが好ましい。
【0025】
添加剤としては、例えば酸化防止剤、光安定剤、重金属不活性剤等の安定剤、滑剤、ワックス等の加工助剤、顔料などが挙げられる。
添加剤を含有する場合、その含有量は被覆材100質量%中、50質量%以下であることが好ましい。
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、被覆材に含まれるエチレン・プロピレンコポリマー樹脂のエチレン含有量、MFR、誘電率および誘電正接を規定することにより、本発明の被覆材で被覆した金属通信線同士の相互干渉を軽減できる。従って、通信伝送時の減衰率の増大を十分に抑制できる通信ケーブルが得られる。
【0027】
また、本発明の被覆材は加工性にも優れるので、金属通信線を均一に被覆しやすい。特に、複数の金属通信線が撚り合わされている状態で被覆する場合、撚りの状態を維持しつつ各金属通信線を被覆できるので、金属通信線同士を等距離に配置できる。従って、ノイズの影響を受けにくく、かつ減衰率の増大を抑制できる通信ケーブルが得られる。
本発明の被覆材は、複数の金属通信線を備えた各種タイプの通信ケーブルに使用できる。
【0028】
[通信ケーブル]
以下、図1を用いて本発明の通信ケーブルについて説明する。
図1は、本発明の通信ケーブルの一例を示す断面図である。この例の通信ケーブル1は、4本の金属通信線10と、これら金属通信線10を被覆する被覆材20とを有し、さらに被覆材20で被覆された4本の金属通信線10を外装するシールド層30と、該シールド層30上に形成されたシース層40とを具備して構成されている。
【0029】
図1の金属通信線10は、導体11a,11bと該導体11a,11bを被覆する絶縁体12a,12bとからなる2本の線心A,Bで構成される。
導体11a,11bとしては、銅線、アルミ合金、鋼心アルミ、硬銅などが挙げられる。
絶縁体12a,12bとしては、ポリエチレン(特に発泡ポリエチレン)、エチレンプロピレンゴム、架橋ポリエチレン、エチレン−αオレフィンコポリマー等のポリオレフィン、ビニル系樹脂などが挙げられる。
【0030】
線心A,Bは、撚り合わされて撚り対線を形成しており、撚り対線の表面(すなわち、金属通信線10の表面)が本発明の被覆材20(20a)で被覆されている。
また、被覆材20aで各々被覆された4本の金属通信線10は撚り合わされ、さらにその表面が本発明の被覆材20(20b)で被覆されている。
以下、本明細書において、被覆材で被覆された金属通信線を「被覆線」という場合がある。
【0031】
シールド層30は、被覆材20bの外周に設けられている。
シールド層30としては、ノイズを遮蔽できるものであればよく、例えばアルミテープ、アルミ編み組、アルミニウム等の金属箔などが挙げられる。
シールド層30の厚さは、0.001〜0.100mmが好ましい。
【0032】
シース層40は、シールド層30の外周に設けられている。
シース層40の材質としては、ポリエチレン、塩化ビニル、スチレン系エラストマー(スチレンブタジエンゴム(SBR)や、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)など)、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂などが挙げられる。
シース層40の厚さは、0.010〜0.100mmが好ましい。
【0033】
図1の通信ケーブル1は、例えば以下のようにして製造できる。
まず、線心A,Bを所定のピッチで撚り合わせ、金属通信線(撚り対線)10を作製する。
ついで、共押出し法により金属通信線10と被覆材20aとを共押出しし、金属通信線10の表面を被覆材20aで被覆する。同様にして、被覆線を合計4本作製する。
4本の被覆線を所定のピッチで撚り合わせ、共押出し法により被覆材20bと共に共押出しし、撚り合わされた4本の被覆線の表面をさらに被覆材20bで被覆する。
ついで、被覆材20bの表面をシールド層30にて外装し、さらにシールド層30上にシース層40を形成して、通信ケーブル1を得る。
【0034】
このようにして得られる通信ケーブル1は、金属通信線10の表面が本発明の被覆材20で被覆されているので、金属通信線同士の相互干渉が軽減され、通信伝送時の減衰率の増大を十分に抑制できる。
また、金属通信線10は樹脂によって被覆されているので、金属通信線を金属で被覆した通信ケーブルに比べて柔軟性に優れる。従って、本発明の通信ケーブル1は曲げやすく、配線しやすい。
【0035】
加えて、通信ケーブル1は、加工性に優れた本発明の被覆材20を用いるので、線心A,Bの撚りの状態を良好に維持しつつ金属通信線10の表面を被覆できる。また、4本の被覆線の撚りの状態も良好に維持しつつ被覆線の表面を被覆できる。従って、本発明の通信ケーブル1は、ノイズの影響を受けにくく、かつ通信伝送時の減衰率の増大を十分に抑制できる。
【0036】
なお、本発明の通信ケーブルは、図示例の通信ケーブル1に限定されない。
例えば、図1の通信ケーブル1では、金属通信線として2本の線心A,Bからなる金属通信線10を例示したが、金属通信線は1本の線心からなっていてもよいし、3本以上の線心からなっていてもよい。また、金属通信線が複数の線心からなる場合、金属通信線を構成する線心同士は撚り合わされていてもよいし、撚り合わされていなくてもよい。
【0037】
また、図1の通信ケーブル1では、4本の金属通信線10を備えているが、金属通信線の数は特に制限されず、例えば2本、6本、8本など、任意の数でもよい。さらに、金属通信線同士は撚り合わされていなくてもよい。
【0038】
なお、図1に示すように4本の被覆線が撚り合わされている場合、これら被覆線は被覆材20bでさらに被覆されていなくてもよいし、本発明の被覆材以外の被覆材で被覆されていてもよいが、本発明の被覆材で被覆されていることが好ましい。
【0039】
また、複数の金属通信線同士が撚り合わされていない通信ケーブルを製造する場合は、本発明の被覆材で被覆した複数の金属通信線を撚り合わすことなく一まとめにしてシールド層で外装してもよいし、本発明の被覆材もしくは他の被覆材で被覆した複数の金属通信線を管状に等間隔で押出すと同時に、本発明の被覆材を共押出しして複数の金属通信線を本発明の被覆材で被覆した後、シールド層で外装してもよい。
また、例えば図2に示す通信ケーブル2のように、被覆前の複数の金属通信線10を管状に等間隔で押出すと同時に、本発明の被覆材20を共押出しして複数の金属通信線10を本発明の被覆材20で被覆した後、シールド層30で外装してもよい。なお、図2に示す金属通信線10は、1本の線心Aから構成されている。また、図2において、図1と同じ構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0040】
また、図1の通信ケーブル1はカテゴリ5、5e(CAT5、CAT5e)タイプであるが、例えばカテゴリ6、6e、6a(CAT6、CAT6e、CAT6a)タイプのように、本発明の被覆材で被覆した複数の金属通信線をスペーサで仕切ってもよい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。
各種測定・評価方法、および各例で用いたエチレン・プロピレンコポリマー樹脂は以下の通りである。
【0042】
[測定・評価方法]
(MFRの測定)
エチレン・プロピレンコポリマー樹脂のMFRは、JIS K 7210に規定される方法により、温度190℃、荷重21.2Nの条件で測定した。
【0043】
(誘電率の測定)
エチレン・プロピレンコポリマー樹脂の誘電率は、JIS C 2565に規定される「空洞共振法」により、温度25℃の条件で測定した。
【0044】
(誘電正接の測定)
エチレン・プロピレンコポリマー樹脂の誘電正接は、JIS C 2565に規定される「空洞共振法」により、温度25℃、周波数1GHzの条件で測定した。
【0045】
(密度の測定)
エチレン・プロピレンコポリマー樹脂の密度は、JIS K 7112に規定される「水中置換法」により、温度25℃の条件で測定した。
【0046】
(結晶化度の測定)
エチレン・プロピレンコポリマー樹脂の結晶化度は、X線回折法により測定した。
【0047】
(硬度および弾性率の測定)
エチレン・プロピレンコポリマー樹脂の硬度はJIS K 6253に規定される方法で、弾性率はJIS K 7203−1982に規定される方法で、それぞれ測定した。
【0048】
(MwおよびMnの測定)
エチレン・プロピレンコポリマー樹脂のMwおよびMnは、GPCを用い、スチレン換算により求めた。
【0049】
(TgおよびTmの測定)
エチレン・プロピレンコポリマー樹脂のTgおよびTmは、JIS K7121に規定される方法により、加熱速度10℃/分の条件で示差走査熱量測定により測定した。
【0050】
(ΔHcの測定)
エチレン・プロピレンコポリマー樹脂のΔHcは、JIS K7122に規定される方法により、加熱速度10℃/分の条件で示差走査熱量測定により測定した。
【0051】
(加工性の評価1)
2本の線心を所定のピッチで撚り合わせてなる金属通信線と被覆材とを共押出しして、金属通信線を被覆材で被覆した際の金属通信線の状態について目視観察し、以下の評価基準にて評価した。
○:撚りの状態を維持しつつ、金属通信線を被覆材で均一に被覆できた。
×:撚りの状態を維持できない、または金属通信線を被覆材で均一に被覆できない。
【0052】
(加工性の評価2)
所定のピッチで撚り合わされた4本の被覆線と被覆材とを共押出しして、4本の被覆線を被覆材で被覆した際の被覆線の状態について目視観察し、以下の評価基準にて評価した。
○:撚りの状態を維持でき、各被覆線が等間隔に配置されている。
△:撚りの状態はほぼ維持できるが、各被覆線が等間隔配置からズレることがある。
×:撚りの状態を維持できず、各被覆線が等間隔に配置されていない。
【0053】
(減衰量の評価)
TIA/EIA568B2に規定される方法により、ネットワークアナライザー(アジレント・テクノロジー株式会社製、「E5071B」)を用い、温度20℃、周波数100.00MHzの条件で、通信ケーブルの減衰量を測定した。
【0054】
[エチレン・プロピレンコポリマー樹脂]
表1に示す物性および電気特性のコポリマー樹脂A〜Fを用いた。なお、コポリマー樹脂A〜Fは、エチレンとプロピレンの共重合体である。
【0055】
【表1】

【0056】
[実施例1]
TIA/EIA568B2規格に基づき、以下のようにして通信ケーブルを作製した。
まず、銅線よりなる導体(断面積0.34mm)を発泡ポリエチレンで被覆した2本の線心を撚り合わせた金属通信線と、被覆材としてコポリマー樹脂Aとを共押出し機により共押出しして、金属通信線がコポリマー樹脂Aで被覆された被覆線を得た。同様にして4本の被覆線を作製した。
ついで、4本の被覆線を撚り合わせ、コポリマー樹脂Aと共に共押出し機により共押出しして、撚り合わされた4本の被覆線をコポリマー樹脂Aで被覆し、被覆体を得た。
得られた被覆体の外周面をアルミニウム箔で外装し、シールド層(厚さ0.05mm)を形成した。さらにシールド層上にポリエチレンからなるシース層(厚さ0.2mm)を形成し、図1に示すような通信ケーブルを得た。
得られた通信ケーブルを切断し、金属通信線および被覆線の状態を確認し、加工性を評価した。結果を表2に示す。
また、得られた通信ケーブルについて、減衰量を測定した。結果を表2に示す。
【0057】
[実施例2〜3、比較例1〜3]
表2に示す被覆材を用いた以外は、実施例1と同様にして通信ケーブルを作製し、各評価を行った。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2から明らかなように、実施例1〜3の場合、加工性の評価に優れていた。従って、各実施例で用いた被覆材は、線心および被覆線の撚りの状態を維持しつつその表面を被覆できることが示され、各実施例で得られた通信ケーブルは、ノイズの影響を受けにくい。また、これら通信ケーブルは減衰量の値が小さく、100.00MHzの高周波による通信伝送時の減衰率の増大を抑制することができた。また、金属通信線を樹脂で被覆しているので、柔軟性も有する。
【0060】
一方、被覆材として、誘電正接が0.00024を超えるコポリマー樹脂D,Eをそれぞれ用いた比較例1,2より得られた通信ケーブルは、減衰量の値が大きく、100.00MHzの周波数における減衰が大きかった。すなわち、これら通信ケーブルは伝送される信号の減衰率が大きい。特に、エチレン含有量が5質量%と少ないコポリマー樹脂Eを用いた比較例2の通信ケーブルは、減衰量の値が大きく、減衰率の増大を抑制することができなかった。
エチレン含有量が9質量%と少なく、かつMFRが25.0g/10分と大きいコポリマー樹脂Fを用いた比較例3の場合、加工性の評価結果が悪く、通信ケーブルとしての機能を果たすことが困難であることは明らかであったので、減衰量は測定しなかった。
【0061】
[実施例4]
実施例1と同様にして通信ケーブルを得た。得られた通信ケーブルについて、表3に示す各周波数における減衰量を測定した。結果を表3に示す。
【0062】
[参考例1]
銅線よりなる導体を発泡ポリエチレンで被覆した2本の線心を撚り合わせた金属通信線が、エチレン含有量が10〜15質量%、MFRが2〜8g/10分、誘電率が2.50以下、誘電正接が0.00024以下を満たしていないコポリマー樹脂Gで被覆された被覆線の4本が撚り合わされ、コポリマー樹脂Gで被覆された被覆体を備えた市販の通信ケーブルについて、表3に示す各周波数における減衰量を測定した。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
表3から明らかなように、実施例4で得られた通信ケーブルは、1.00〜100.MHzの周波数において、参考例1で用いた現行製品の通信ケーブルよりも減衰量の値が小さかった。このような傾向は、実施例2〜3で得られた通信ケーブルにも当てはまると推測できる。
従って、本発明であれば、より高品質の通信ケーブルを製造できる。
【符号の説明】
【0065】
1,2:通信ケーブル、
10:金属通信線、
11a,11b:導体、
12a,12b:絶縁体、
20,20a,20b:被覆材、
30:シールド層、
40:シース層、
A,B:線心。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属通信線を被覆する被覆材であって、
エチレン含有量が10〜15質量%、メルトフローレートが2〜8g/10分、25℃における誘電率が2.50以下、25℃、1GHzおける誘電正接が0.00024以下であるエチレン・プロピレンコポリマー樹脂を含むことを特徴とする被覆材。
【請求項2】
導体と該導体を被覆する絶縁体からなる複数の金属通信線と、複数の金属通信線を被覆する請求項1に記載の被覆材とを有することを特徴とする通信ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−113888(P2012−113888A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260516(P2010−260516)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】