説明

被覆極板の製造法及び被覆極板製造用扁平ノズル

【課題】 ハイブリッド自動車などに用いる鉛蓄電池の極板の表面に剥離のないカーボン合剤の被覆層を確実に形成し得る被覆極板の製造法を提供する。
【解決手段】 導電性を有する第1カーボン材料とキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を有する第2カーボン材料とから成る2種類のカーボン材料と結着剤を混合して成るペースト状のカーボン合剤bを扁平ノズル3の先端に幅方向に配設した多数の小径吐出口33Aより線状に吐出させ、その下方の搬送体5により搬送される極板aの表面に多数条平行する線状のカーボン合剤b,b,…を付着せしめ、次いでその先方のスキージ6を通し、所定の厚さに圧縮調整することを特徴とする被覆極板の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車や風車などのエネルギー産業に用いられる鉛蓄電池の負極として用いられる極板の表面にカーボン合剤を被覆して成る被覆極板の製造法及び被覆極板製造用扁平ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
上記の産業分野に用いられる鉛蓄電池の負極として、導電性を確保する第1カーボン材料とキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を確保する第2カーボン材料から成る2種類のカーボン材料と結着剤とを混合して成るカーボン合剤を負極板の表面に塗布、乾燥してポーラスなカーボン合剤被覆を形成された被覆負極板については、特表2007-506230号公報に開示されている。
カーボン合剤で負極板の表面を被覆する方法としては、モーノポンプでペースト状のカーボン合剤を扁平ノズルの広幅の矩形状の吐出口より吐出させ、負極板の表面にシート状に付着させ、これを前方のスキージを通して、所定の厚さに調整されたカーボン合剤被覆層を有する被覆負極板を製造することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007-506230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし乍ら、上記の被覆負極板の製造法を実施したところ、扁平ノズルからシート状に吐出されたカーボン合剤の厚さが薄い場合は、吐出されたシートがカールしてしまい、負極板の表面に付着することができなかった。反面、シート状に吐出されたカーボン合剤の厚さが厚い場合は、負極板の表面に付着するが、得られた被覆負極板を次の乾燥工程で該カーボン合剤を乾燥したときに、該カーボン合剤被覆層は、負極板の表面から部分的に剥離した状態となり、これを鉛蓄電池の負極として用いたときは、例えば、ハイブリッド自動車のPSOCでの急速充放電を繰り返した場合に、そのサイクル寿命を低下せしめる不都合を生じた。
本発明は、かかる課題を解消し、カーボン合剤被覆層が極板の表面に強固に密着した剥離のないカーボン合剤被覆極板を確実に製造し得られ、鉛蓄電池の負極として使用し、電池寿命を延長できる被覆極板の製造法とその製造法に用いる扁平ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、請求項1に記載の通り、導電性を有する第1カーボン材料とキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を有する第2カーボン材料とから成る2種類のカーボン材料と結着剤を混合して成るペースト状のカーボン合剤を扁平ノズルの先端に幅方向に配設した多数の小径吐出口より線状に吐出させ、その下方の搬送体により搬送される極板の表面に多数条平行する線状のカーボン合剤を付着せしめ、次いでその先方のスキージを通し、所定の厚さに圧縮調整することを特徴とする被覆極板の製造法に存する。
更に本発明は、2枚の成形板をその裏面で合掌させ一体に結着して構成され、各成形板の裏面に、その上端壁面の中央部で開口し、下方に至るに従い広幅となる台形の凹面と、該凹面の下方に、その下端壁面の幅方向に所望の間隔を存し、該下端壁面に開口する所望の深さと幅を有する多数の吐出用凹溝を形成して成ることを特徴とする被覆極板製造用扁平ノズルに存する。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に係る発明によれば、扁平ノズルの先端に多数の小径吐出口を設けたので、各吐出口より、従来の扁平吐出口よりシート状のカーボン合剤の肉厚さより肉厚の線状のカーボン合剤を吐出することができるので、スキージを通すことにより、夫々の線状カーボン合剤を極板表面に所定の厚さに圧縮密着できるので、爾後の乾燥後におけるカーボン被覆層は、極板の表面に強固に結着した剥離のない被覆極板を確実にロスなく製造できる。
請求項2に係る発明によれば、成形板の下端面に開口する多数の吐出用凹溝の幅の深さ、凹溝間の間隔の寸法などを変えた各種の成形板を夫々一対合掌一体化することにより、所望の各種の被覆極板製造用扁平ノズルを作製し、選択し、上記の製造法に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の被覆極板の製造法を実施する製造装置の斜視図。
【図2】図1に示す製造装置の要部である扁平ノズルの広方向に対し直交する中央縦断面拡大図。
【図3】該扁平ノズルの底面図。
【図4】図2のA-A線で裁断した該扁平ノズルの半部の裏面図。
【図5】変形例の扁平ノズルの半部の裏面図。
【図6】比較例の扁平ノズルの半部の裏面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の実施形態例を添付図面に基づいて詳述する。
図1は、本発明の被覆極板の製造法を実施するための製造装置の形態例の斜視図を示す。図面で、符号1は、原料であるペースト状のカーボン合剤を収容したタンク1、2は該タンクから導出し扁平ノズル3の上端に接続されたパイプやホースなどの供給管を示す。4はポンプを示し、該タンク1内のペースト状のカーボン合剤を該扁平ノズル3内へ圧送供給する。5は該扁平ノズル3の下方に位置するベルトコンベアから成る搬送体を示し、これにより極板aを次々と連続的に搬送せしめるようにした。6は該扁平ノズル3の前方にその上面に該搬送体5との間に所望の間隔を存して配置したスキージを示す。
【0009】
該扁平ノズル3は、図2乃至図4に示すように、成形板31の一対をその裏面で合掌させ、溶接、熱融着、接着剤などで一体に結着して構成したもので、所望の厚さと面寸法を有する合金製又は硬質合成樹脂製の方形の板の裏面に、図4に明示のように、その上端壁面の中央部に半円形やコ字状の切欠き開口32aし、該切欠き開口32aから下方に至るに従い広幅となり、且つ深さが浅くなる台形の凹面32が形成され、更に、該凹面32の下方にその下端壁面の幅方向に所望の間隔を存し、該下端壁面に開口し且つ所望の深さを有する多数の吐出用凹溝33,33,…の夫々の間には、前記の所望の間隔に対応する幅を有する突起34,34,…として残存形成される。
図示の例では、上記の台形状の凹面32の下方には、該凹面32と連通すると共に該下端壁面に開口し且つ一定の深さを有する矩形状凹面35を形成し、該矩形状の凹面35内に、該凹面35と同じ深さの該吐出用凹溝33と該凹溝33の深さに相当する厚さの突起34とが交互に配設されるように構成した。
【0010】
このように加工された成形板31の2枚を前記のように合掌し、一体に結着して扁平ノズル3としたときは、図2及び図3に示すように、その合掌部に対面する台形の凹面32,32により形成されるテーパー状の通路32Aと、対面する該矩形状凹面35,35により形成される矩形状空間35Aと、対面する各吐出用凹溝33,33により形成される四方形状の吐出口33A(図3参照)と対面する各突起34,34の当接により形成される各小径吐出口33A,33A間を仕切る隔壁34Aを有するものに構成される。
【0011】
図面で7は、カーボン合剤導入部材を示し、図示の例では、該扁平ノズル3の両成形板31,31の上端壁面に跨る幅と適当な長さを有する立方体から成り、その中央部に内周面に螺条を施された貫通孔7aを形成したもので、図2,図4に明示のように、該扁平ノズル3の上端面に、その螺孔7aを該扁平ノズル3の上端壁面にその開口32a,32aと連通せしめた状態で載置し、溶接等により固設する。該カーボン合剤導入部材7に、ワンタッチ継手8の操作で該供給管2を連結する。該ワンタッチ継手8の操作は、その開放リング8bを押し下げてロック爪8cを外方へ広げた状態で該供給管2の先端を挿入し、その後開放リング8bを離し、押し下げを開放するとロック爪8cが内方へ復帰し、該供給管2に係合することにより抜けが防止された状態で連結される。8dは弾性体スリーブを示し、該供給管2の周面を気液密に保つ。
【0012】
このように構成した被覆極板製造装置を用い、被覆極板の製造法を以下に詳述する。
タンク1内には、ペースト状カーボン合剤を収容し用意する。カーボン合剤は、導電性を確保するアセチレンブラックやファーネスブラックなどのカーボンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛などから選択された少なくとも1種の第1カーボン材料と、キャパシタ及び/又は擬似キャパシタとしての容量を確保する活性炭、カーボンブラック、黒鉛などから選択された少なくとも1種の第2カーボン材料との2種類のカーボン材料と少なくとも結着剤を水と共に混練して成る所定の粘度のペースト状のカーボン合剤を調整したものである。
カーボン合剤を被覆される極板aとしては負極板、正極板のいずれでもよいが、例えば、負極板を、熟成板又は即用板などの多孔集電基板に充填したものを常法により熟成したもの、或いは化成し、乾燥処理したものを多数枚用意し、該ベルトコンベア5により次々と連続的に搬送せしめ、該扁平ノズル3の直下を搬送せしめるようにする。
一方、該ポンプ4を始動させ、該タンク1内のカーボン合剤を該供給管2から該扁平ノズル3内に圧送供給し、その下端の多数の小径吐出口33A,33A,…より図1に示すように線状に吐出させ、吐出された多数条の平行する線状カーボン合剤b,b,…を次々と搬送されてくる各極板aの表面に付着させ、次いで、その前方のスキージ6を通過させ、これら線状カーボン合剤b,b,…を所定の厚さに圧縮調整する。
かくして、所定量のカーボン合剤bが該負極板aの表面全面に所定の厚さの被覆層b′に形成された被覆極板が得られ、その後の乾燥工程で乾燥したときは、後記実施例で明らかにするように、該極板の表面全面に強固に密着した剥離のないポーラスなカーボン合剤の被覆極板が得られる。
【0013】
尚、該扁平ノズルの多数の小径吐出口の厚さや幅又は/及び該スキージの高低を調整し変更することにより、所定量のカーボン合剤が極板aの表面に所定の厚さで縞状に被覆され、且つ剥離のないポーラスな被覆極板が得られる。
【0014】
次に、本発明の更に詳細な実施例につき詳述する。
実施例1
下記表1に示すペースト状のカーボン合剤を調製したものを図1に示す製造装置の該タンク1内に用意した。扁平ノズル3としては、図2に示す成形板31を合体したものを使用した。その縦100mm×横130mm×厚さ20mmである。該成形板31の等間隔に配設された各小径の吐出用凹溝33の幅は4mm、深さは1.5mmとした。従って、この成形板3a,3aを合掌させ一体化した該扁平ノズル3の夫々の小径の吐出口33Aは、4mm×3mmの角形の吐出口に形成されている。
而して、該ポンプ2を始動させ、該タンク1内のペースト状カーボン合剤を該扁平ノズルに圧押流入させ、その下端の10個の小径吐出口33A,33A,…から図示のように線状に吐出させ、その下方のコンベアベルト5で次々と連続的に搬送される各負極板a(耳部を除く、縦144mm×横137mm×厚さ1.4mm)の表面にその幅方向に一定の間隔を存し平行に付着し、次いで多数条の線状のカーボン合剤は、その前方のウレタンゴム製のスキージ5を通過させ所定の厚さに圧縮され図1に示すように、負極板aの表面全面に被覆されたカーボン被覆層bが形成される。次いで、各カーボン被覆負極板は、図示しない乾燥室において乾燥処理し、ポーラスなカーボン合剤被覆負極板を製造した。
【0015】
【表1】

【0016】
実施例2
実施例1で使用した扁平ノズルに代え、図5に示す成形板31′の2枚を合体して構成した扁平ノズルを使用した以外は、実施例1と同様にしてポーラスなカーボン合剤被覆負極板を製造した。図5に示す成形板31′は、10個の小径吐出用凹溝のうち、その両端に位置する小径吐出用凹溝33′,33′の夫々の幅を6mmとし、その両端から1つ内側の小径吐出用凹溝33″,33″の夫々の幅を5mmとした以外は、実施例1で用いた成形板31の小径吐出用凹溝33を6個形成されたもの。10個の全ての凹溝の深さは同じ1.5mmである。
【0017】
比較例1
実施例1で使用した扁平ノズルに代え、成形板として図6に示す成形板31″を2枚合掌一体化した扁平ノズル(図示しない)ものを使用した以外は、実施例1と同様にしてポーラスなカーボン被覆負極板を製造した。
該成形板31″は、該矩形状凹面35′内に突起34,34,…を欠き且つその深さを0.7mmとしたものである。
【0018】
比較例2
比較例1に使用した成形板31″の該矩形状凹面35″内の深さを1.5mmとした成形板(図示しない)を合掌一体化した扁平ノズルを使用した以外は、実施例1と同様にしてポーラスなカーボン被覆負極板を製造した。
【0019】
上記の実施例1,2及び比較例1,2で夫々用いた扁平ノズルを使用した場合のペースト状カーボン合剤の極板の表面への付着状況、乾燥後のカーボン合剤被覆層の極板に対する剥離の有無、及び極板の表面被覆層の厚さについて比較検討した結果を下記表2に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
表2から明らかなように、比較例1は扁平ノズルから吐出したシート状のカーボン合剤は、カールし、極板の表面に殆ど付着しなかった。比較例2は乾燥後のポーラスなカーボン合剤被覆層は極板の表面の一部で剥離している状態が観察された。
これに対し、実施例1及び実施例2は、両者とも、付着状況は充分に密着状態で付着し、乾燥後のポーラスなカーボン合剤被覆層は、極板全面に強固に密着し、剥離が全く認められなかった。カーボン合剤被覆層の厚さについては、全面に亘りバラツキは許容範囲で、均一な厚さで得られることが確認された。
該被覆層のバラツキは、ペースト状カーボン合剤を該扁平ノズルの多数の小径吐出口より吐出する際の圧力は、中央部で高く、両端部では低くなる傾向があるため、実施例1のように、小径吐出口が全て等しい幅寸法を有する扁平ノズルを用いる場合は、製造された被覆極板の被覆層は、中央部が厚く両端部が薄くなるものと考えられる。従って、実施例2のように、両端側の小径吐出口の幅を中央部の小径吐出口の幅より広幅とした扁平ノズルを使用した場合は、製造された被覆極板の被覆層の厚さのバラツキは表2に示すように、実施例1の場合より小さくなることが認められる。
比較例2のように、ペースト状カーボン合剤をシート状で吐出させる扁平ノズルを用いる場合は、同様に製造された被覆極板の被覆層の厚さのバラツキが実施例1及び2に比し大きくなり好ましくないと共に、線状で吐出する場合のような中央部と両端部とのバラツキを調節することができない欠点を有する。
【0022】
上記の実施例では、カーボン合剤の被覆負極板の製造法について説明したが、正極板についても、上記と同様に実施し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0023】
1 原料供給タンク
2 供給管
3 扁平ノズル
4 ポンプ
5 搬送体
6 スキージ
a 負極板
b カーボン合剤
b′ 被覆層
31 成形板
33 小径吐出用凹溝
33A 小径吐出口
31′ 変形例の成形板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する第1カーボン材料とキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を有する第2カーボン材料とから成る2種類のカーボン材料と結着剤を混合して成るペースト状のカーボン合剤を扁平ノズルの先端に幅方向に配設した多数の小径吐出口より線状に吐出させ、その下方の搬送体により搬送される極板の表面に多数条平行する線状のカーボン合剤を付着せしめ、次いでその先方のスキージを通し、所定の厚さに圧縮調整することを特徴とする被覆極板の製造法。
【請求項2】
2枚の成形板をその裏面で合掌させ一体に結着して構成され、各成形板の裏面に、その上端壁面の中央部で開口し、下方に至るに従い広幅となる台形の凹面と、該凹面の下方に、その下端壁面の幅方向に所望の間隔を存し、該下端壁面に開口する所望の深さと幅を有する多数の吐出用凹溝を形成して成ることを特徴とする被覆極板製造用扁平ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−257674(P2010−257674A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104827(P2009−104827)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【出願人】(305039998)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガニゼイション (92)
【Fターム(参考)】